(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】放射線放出レーザダイオード、放射線放出レーザダイオードの導波路層列の屈折率を選択する方法、及び放射線放出レーザダイオードを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/20 20060101AFI20240704BHJP
H01S 5/32 20060101ALI20240704BHJP
H01S 5/042 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H01S5/20 610
H01S5/32
H01S5/042 612
(21)【出願番号】P 2023530872
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020084441
(87)【国際公開番号】W WO2022117188
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラウアー クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フリッチュ ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ケーニッヒ ハラルト
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-107145(JP,A)
【文献】特開平08-172243(JP,A)
【文献】特開平09-191157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線放出レーザダイオード(1)であって、
-導波路層列(2)であって、
-好ましい偏光方向の電磁放射線を生成するように構成された活性領域(3)、
-第1ドーピングタイプの第1導波路層(4)、及び、
-第2ドーピングタイプの第2導波路層(5)を備える、前記導波路層列(2)を有し、
-前記活性領域(3)は、前記第1導波路層(4)と前記第2導波路層(5)との間に配置され、
-前記導波路層列(2)の屈折率は、第1横方向(8)に振動する電界を有する横向きの電界TEモードの第1有効屈折率と、第2横方向(9)に振動する電界を有する横向きの磁界TMモードの第2有効屈折率とを形成し、
-前記第1有効屈折率と前記第2有効屈折率との有効屈折率の差は、少なくとも4・10
-4であ
り、
最大5・10
-3
である、放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項2】
-前記活性領域(3)、前記第1導波路層(4)、及び前記第2導波路層(5)の前記屈折率が互いに異なる、及び/または、
-前記活性領域(3)、前記第1導波路層(4)、及び前記第2導波路層(5)の
厚さが互いに異なる、請求項1に記載の放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項3】
前記導波路層列(2)の長さは、少なくとも500μmであり、最大で6mmである、請求項1または2に記載の放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項4】
-前記第1ドーピングタイプの第1クラッド層(6)は第1の主要な面の前記導波路層列(2)に配置され、
-前記第2ドーピングタイプの第2クラッド層(7)は第2の主要な面の前記導波路層列(2)に配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載の放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項5】
金属接触層(10)が、電気的及び熱的に伝導するように前記第2クラッド層(7)上に配置される、請求項4に記載の放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項6】
-基板(11)が、前記第1クラッド層(6)上に配置され、
-前記第1クラッド層(6)は、モードスポイラ(12)を含む、請求項4または5に記載の放射線放出レーザダイオード(1)。
【請求項7】
放射線放出レーザダイオード(1)の導波路層列(2)の屈折率を選択する方法であって、
-電磁放射線を生成するように構成された活性領域(3)、
-第1ドーピングタイプの第1導波路層(4)、及び、
-第2ドーピングタイプの第2導波路層(5)を含む導波路層列(2)の初期屈折率
を設けるステップと、
-前記導波路層列(2)における第1横方向(8)の横向きの電界TEモードと第2横方向(9)の横向きの磁界TMモードの結合を初期屈折率の関数として考えるステップと、
-前記結合の閾値の値に応じて前記初期屈折率を調整することにより、前記導波路層列(2)の前記屈折率を選択するステップと、を有
し、
-前記閾値の値は、前記TEモードの第1有効屈折率と前記TMモードの第2有効屈折率との有効屈折率の差に対応し、
-前記導波路層列(2)の前記屈折率は、前記有効屈折率の差が少なくとも4・10
-4
であり、最大5・10
-3
であるか判定され、そうでなければ前記結合が前記調整された屈折率の関数として再び判定される、方法。
【請求項8】
-前記結合は、
前記有効屈折率の差に依存し、
-前記有効屈折率は、前記初期屈折率、及び/または前記導波路層列(2)の前記屈折率に依存している、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
偏光強度比は前記有効屈折率の差に依存する、請求項
7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記TEモードと前記TMモードとの前記結合は、前記第2横方向(9)における前記TMモードの延長に依存する、請求項7から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記TEモードと前記TMモードとの前記結合は、前記導波路層列(2)の長さに依存する、請求項7から
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記TEモードと前記TMモードとの前記結合は、前記導波路層列(2)の前記層の各々の厚さに依存する、請求項7から
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項7から
12のいずれか一項に記載の方法によって選択された屈折率を有する導波路層列(2)を製造するステップを含む放射線放出レーザダイオード(1)を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
放射線放出レーザダイオードが提供される。さらに、放射線放出レーザダイオードの導波路層列の屈折率を選択する方法、及びそのような放射線放出レーザダイオードを製造する方法が提供される。
【発明の概要】
【0002】
改良された偏光純度を有する放射線放出レーザダイオードを提供することが目的である。さらに、そのような放射線放出レーザダイオードの導波路層列の屈折率を選択する方法、及びそのような放射線放出レーザダイオードを製造する方法が提供されるべきである。
【0003】
放射線放出レーザダイオードは、例えば、動作中に単色及びコヒーレントレーザ光などの電磁レーザ放射線を放出するように構成される。電磁レーザ放射線は、例えば、赤外線、IRの放射線から紫外線、UVの放射線までの周波数範囲にある。
【0004】
少なくとも1つの実施形態によれば、放射線放出レーザダイオードは導波路層列を含む。
【0005】
導波路層列は、例えば、III~V族化合物の半導体から形成される。III-V族化合物の半導体は、例えばヒ素化合物半導体、窒化物化合物半導体、またはリン化物化合物半導体である。
【0006】
導波路層列は、例えば主要な延長面を有する。垂直方向は主要な延長面に垂直に延び、横方向は主要な延長面に平行に延びる。さらに、導波路層列は、例えば、横方向の1つに平行に整列された主要な延長方向を有する。
【0007】
例えば、導波路層列は、エピタキシャル成長プロセスによって製造される。これは、導波路層列の層が垂直方向に互いの上にエピタキシャル成長されることを意味する。
【0008】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、導波層列は、好ましい偏光方向の電磁放射を生成するように構成された活性領域を備える。例えば、活性領域で生成された電磁放射線は、非常に長いコヒーレンス長、非常に狭い放射スペクトル、及び/または高度の偏光を有する電磁レーザ放射線として放射される。
【0009】
偏光方向は、電磁放射線の電場の空間振動方向として定義される。例えば、電磁放射を生成するために、活性領域は、二重ヘテロ構造、単一量子ウェル構造、または多重量子ウェル構造を含むことができる。事前に設定された材料組成による活性領域の固有の歪みに応じて、生成された電磁放射は、圧縮歪み活性領域では主に垂直方向に分極され、引張歪み活性領域では主に横方向の1つに分極される。
【0010】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、導波路層列は、第1ドーピングタイプの第1導波路層と、第2ドーピングタイプの第2導波路層とを含む。
【0011】
例えば、第1ドーピングタイプは第2ドーピングタイプとは異なる。例えば、第1導波路層はnドープされている。さらに、第2導波路層は、例えばpドープされている。この場合、第1ドーピングタイプはn型であり、第2ドーピングタイプはp型である。
【0012】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、活性領域は、第1導波路層と第2導波路層との間に配置される。例えば、第1導波路層、活性領域、及び第2導波路層は、特に示された順序で垂直方向に互いの上に積み重ねられる。例えば、活性領域は、第1導波路層及び/または第2導波路層に直接隣接している。
【0013】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、導波路層列の屈折率は、第1横方向に振動する電界を有する横向きの電界TEモードの第1有効屈折率と、第2横方向に振動する電界を有する横向きの磁界TMモードの第2有効屈折率とを形成する。
【0014】
例えば、第1横方向及び第2横方向は、主要な延長方向に垂直な平面の内部で整列される。例示的に、主要な延長方向は、電磁レーザ光の伝播方向に平行である。さらに、第1横方向は、第2横方向に対して垂直に整列される。
【0015】
TEモード及びTMモードは、電磁放射線の伝播方向に垂直な平面の導波路層列内の電磁放射線の電磁場から形成される。例示的に、TEモード及びTMモードは、導波路層列内の電磁放射線の閉じ込めにより発生する。特に、TEモード及びTMモードは、導波路層列の隣接する層の間の異なる境界条件により発生する。
【0016】
例示的に、導波路層列は層状構造であり、TEモードの電場は第1横方向に沿って振動し、TMモードの電場は第2横方向に沿って振動するので、両方のモードは異なる有効屈折率を有する。
【0017】
さらに、導波路層列は層状構造であり、TEモードとTMモードは層間の界面で異なるフレネル反射係数を例として経験するため、それに応じた固有値の問題と結果として生じる有効屈折率は、TEモードとTMモードで異なる。例えば、TEモードは、導波路層列の第1有効屈折率を有し、TMモードは、導波路層列の第2有効屈折率を有する。
【0018】
例えば、第1導波路層及び/または第2導波路層は、単一の層または複数の副層からなる。
【0019】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、第1有効屈折率と第2有効屈折率との有効屈折率の差は、少なくとも4・10-4である。例えば、TEモードとTMモードの偏光強度比は有効屈折率の差に依存する。
【0020】
例えば、有効屈折率の差は、少なくとも5・10-4、特に少なくとも7・10-4、1・10-3または1・10-2である。
【0021】
偏光強度比は、式
【数1】
によってTEモードに対して定義され、式中
【数2】
はTEモード、特にTE基底モードの強度であり、
【数3】
はTMモード、特にTM基底モードの強度である。TMモードの偏光強度比は、式
【数4】
で定義される。
【0022】
例えば、有効屈折率の差が4・10-4の場合、偏光強度は90%以上になる。例えば、有効屈折率の差が5・10-4の場合、偏光強度は93%以上になる。例えば、有効屈折率の差が7・10-4以上の場合、偏光強度比は96%以上であり、有効屈折率の差が1・10-3以上の場合、偏光強度比は97%以上になる。ここに挙げた有効屈折率の差と関連する偏光強度比との関係は、例えば、放射線放出レーザダイオードを適切に動作させるために取り付けられる放射線放出レーザダイオードに対して示される。
【0023】
さらに、有効屈折率の差は、例えば少なくとも2、特に最大1・10-2、または最大5・10-3である。
【0024】
少なくとも1つの実施形態によれば、放射線放出レーザダイオードは、電磁放射線を生成するように構成された活性領域と、第1ドーピングタイプの第1導波路層と、第2ドーピングタイプの第2導波路層とを含む導波路層列を備える。活性領域は、第1導波路層と第2導波路層との間に配置され、導波路層列の屈折率は、第1横方向に振動する電界を有する横向きの電界モードの第1有効屈折率と、第2横方向に振動する電界を有する横向きの磁モードの第2有効屈折率とを形成する。第1有効屈折率と第2有効屈折率との有効屈折率の差は、少なくとも4・10-4である。
【0025】
本明細書で説明する放射線放出レーザダイオードの1つのアイデアは、とりわけ、TEモードに関連する第1有効屈折率とTMモードに関連する第2有効屈折率との不一致を4・10-4よりも大きくすることである。このような差により、放射線放出レーザダイオードによって放出される電磁放射線の比較的高い偏光純度を達成することができる。
【0026】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、活性領域、第1導波路層、及び第2導波路層の屈折率は、互いに異なる。例えば、活性領域の屈折率は、第1導波路層の屈折率及び第2導波路層の屈折率よりも大きい。さらに、第1導波路層の屈折率は、第2導波路層の屈折率よりも小さいか、またはその逆である。
【0027】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、活性領域、第1導波路層、及び第2導波路層の厚さは、互いに異なる。活性領域、第1導波路層、及び第2導波路層の厚さはそれぞれ、対応する層の垂直方向の範囲によって画定される。
【0028】
例えば、TEモードとTMモードは、導波路層列の層の間の界面で異なるフレネル反射係数を受けるので、TEモードとTMモードの有効屈折率は、導波路層列の厚さにも依存する。
【0029】
例えば、活性領域の厚さは、第1導波路層の厚さ及び第2導波路層の厚さよりも薄い。
【0030】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、導波路層列の長さは、少なくとも500μmであり、最大で6mmである。特に、導波路層列の長さは、少なくとも600μmであり、最大で5mmである。例えば、導波路層列の長さは、主要な延長方向における導波路層の広がりによって定義される。
【0031】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、第1ドーピングタイプの第1クラッド層は、第1の主要な面の導波路層列に配置される。例示的に、第1の主要な面は活性領域と反対方向を向く。特に、電磁放射線の導波特性もまた、第1クラッド層に依存する。
【0032】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、第2ドーピングタイプの第2クラッド層は、第2の主要な面の導波路層列に配置される。例示的に、第2の主要な面は活性領域と反対方向を向く。特に、電磁放射線の導波特性もまた、第2クラッド層に依存する。
【0033】
例えば、導波路層列の屈折率、第1クラッド層及び第2クラッド層の屈折率、ならびに層の対応する層厚は、TEモードとTMモードの第1有効屈折率及び第2有効屈折率を形成する。例として、TEモード及びTMモードとオーバーラップするすべての層は、第1有効屈折率及び第2有効屈折率について考慮されなければならない。
【0034】
第1クラッド層及び/または第2クラッド層は、例えば、複数のさらなる副層を含む。各副層は、異なるドーピング濃度及び/またはドーピングタイプを有することができる。
【0035】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、金属接触層が、電気的及び熱的に伝導するように第2クラッド層上に配置される。例えば、金属接触層は、第2クラッド層に直接接触している。例えば、金属接触層は、放射線放出レーザダイオードのヒートシンクとして形成される。さらに、金属接触層は、放射線放出レーザダイオードをキャリア上に取り付けるように構成される。
【0036】
金属接触層は、例えば、Ti、Pt、Pd、Cr、Al、Ni、Ge、Rh、Si、Cu、Ag、W、TiW、TiWN、とAuなどの金属または金属の組み合わせを含む、またはそれらからなる。
【0037】
放射線放出レーザダイオードが4・10-4未満の有効屈折率の差を有し、放射線放出レーザダイオードがキャリア上に放射線放出レーザダイオードを取り付けるための金属接触層を含む場合、偏光強度比は、金属接触層を持たない放射線放出レーザダイオードと比較して減少する。例えば、金属接触層は導波路層列に歪みを誘発する。特に、金属接触層を有する放射線放出レーザダイオードを、例えばキャリアに取り付ける際に、例えば剪断力によって引き起こされる歪みが、導波路層列に誘導される。誘起された歪みは、歪みの下での光弾性プロセスによって引き起こされる複屈折による偏光強度比の減少につながる。この場合、偏光強度比は、93%未満、特に88%未満であり得る。
【0038】
しかし、放射線放出レーザダイオードは、有利にも、4・10-4よりも高い、特に5・10-4よりも高い有効屈折率の差を有するので、放射線放出レーザが、せん断力などによって引き起こされる歪みを受けても、特に高い偏光純度を達成できる。したがって、放射線放出レーザダイオードが金属接触層を有し、歪みを誘発するように特別に取り付けられている場合でも、サンプル集団の中央偏光強度比は、有利にも90%より高く、特に93%より高くなる。
【0039】
放射線放出レーザダイオードの少なくとも1つの実施形態によれば、基板は、第1クラッド層に配置される。例えば、基板は第1クラッド層に直接接触している。
【0040】
放射線放出レーザダイオードによれば、第1クラッド層はモードスポイラを含む。例示的に、モードスポイラは、基板内側の高次モードの強度を高め、したがって、基板内側の高次モードの光損失を増加させる。同時に、例えば、基板内側の基底モードの強度は、モードスポイラがない場合と比較して大幅に少なく増加するか、または減少さえする。第1クラッド層内のモードスポイラにより、高次モードの振動が有利にも抑制され得る。
【0041】
例えば、第2クラッド層はさらなるモードスポイラを含む。モードスポイラ及び/または別のモードスポイラは、例えば、SiまたはGeを含む。
【0042】
さらに、放射線放出レーザダイオードの導波路層列の屈折率を選択する方法が提供される。特に、選択された屈折率は、本明細書にて前述の放射線放出レーザダイオードの導波路層列を製造するために使用される。したがって、放射線放出レーザダイオードに関連して開示されたすべての特徴は、方法にも関連して開示され、逆もまた同様である。
【0043】
この方法の少なくとも1つの実施形態によれば、導波路層列の初期屈折率が提供される。導波路層列は、電磁放射線を生成するように構成された活性領域と、第1ドーピングタイプの第1導波路層と、第2ドーピングタイプの第2導波路層とを備える。例えば、活性領域の初期屈折率は、第1導波路層の初期屈折率及び第2導波路層の初期屈折率よりも大きい。
【0044】
本方法の少なくとも1つの実施形態によれば、導波路層列における第1横方向の横向きの電気(TE)モードと、第2横方向の横向きの磁気(TM)モードとの結合は、初期屈折率の関数とみなされる。
【0045】
例えば、TEモードとTMモードの結合は、2つの微分方程式
【数5】
と
【数6】
で表される。TEモードのエネルギー成分は
【数7】
で示され、TMモードのエネルギー成分は
【数8】
で示され、
【数9】
は虚数である。また、パラメータ
【数10】
は、関与するTEモードとTMモードの重複積分を含む結合パラメータであり、光弾性効果を介して歪みによって引き起こされる誘電率テンソルの軸外要素である。パラメータ
【数11】
は、有効屈折率の差を含む伝搬不整合パラメータである。
【0046】
通常、
【数12】
及び
【数13】
は、それぞれ、対応する強度、特に対応する偏光強度
【数14】
及び
【数15】
に接続される。
【0047】
通常、最も重要な相互作用は、例えば、TE基底モードの初期の量子ウェルポンピングと、TE基底モード及びTM基底モードを除くすべてのTMモードの非常に小さなオーバーラップとに起因する、TE基底モードとTM基底モードの間である。したがって、本明細書で前述のTEモード及びTMモードは、TE基底モード及びTM基底モードから例示的に形成される。
【0048】
この方法の少なくとも1つの実施形態によれば、結合の閾値の値に応じて初期屈折率を調整することにより、導波路層列の屈折率が選択される。例えば、導波路層列の材料は、TEモードとTMモードの間、特にTE基底モードとTM基底モードの間の結合パラメータを閾値の値未満に減少させるように選択される。これは、例えば層中のAl含有量を個別に調整及び/または変更することによって行うことができる。特に、層は、AlGaAs、AlGaInNまたはAlGaInAsPを含む。これは、それぞれのTEモード及びTMモードの有効屈折率の差に比例する伝搬不整合パラメータΔを増加させるために、初期の導波路構造が調整されることを意味する。この方法の間は、構造の電気的特性も考慮して、導波路層列で十分に良好なキャリア輸送を確保する必要がある。
【0049】
TEモードとTMモードの結合を表す結合パラメータが閾値の値未満の場合、それぞれの屈折率を持つこれらの材料が、放射線放出レーザダイオードの導波路層列として選択される。この場合、導波路層列は、TEモードとTMモードとの間の低い結合強度に適合する。
【0050】
TEモードとTMモードの結合パラメータが閾値の値を超える場合、初期の層列が調整される。この場合、低い結合強度を確保するために、導波路層列を調整する必要がある。
【0051】
例えば、初期屈折率は、TEモードとTMモードの結合を最小化するために調整される。これは、第1有効屈折率と第2有効屈折率との有効屈折率の差が最大化される一方で、導波路層列の導波特性がわずかに変化するだけであることを意味する。
【0052】
方法の少なくとも1つの実施形態によれば、結合することは、TEモードの第1有効屈折率とTMモードの第2有効屈折率の有効屈折率の差に依存している。例えば、パラメータ
【数16】
は有効屈折率の差に比例する。したがって、2つの微分方程式は有効屈折率に依存する。微分方程式によれば、例えば有効屈折率の差が減少すると結合が増加し、逆もまた同様である。
【0053】
方法の少なくとも1つの実施形態によれば、有効屈折率の差は初期屈折率、及び/または導波路層列の屈折率に依存している。例えば、導波路層列の層の初期屈折率を調整することによって、有効屈折率の差、したがって結合が調整される。
【0054】
本方法の少なくとも1つの実施形態によれば、閾値の値は有効屈折率の差に対応し、有効屈折率の差が少なくとも4・10-4である場合、導波路層列の屈折率が選択され、そうでない場合、結合は、調整された屈折率の関数として再び考慮される。
【0055】
結合が調整された屈折率の関数として再び考慮される場合、導波路層列の屈折率は、少なくとも4・10-4の有効屈折率の差を超えるように選択される。屈折率を調整し、対応する結合を考慮するループは、屈折率の差が少なくとも4・10-4になるように、必要に応じて頻繁に実行される。
【0056】
この方法の少なくとも1つの実施形態によれば、偏光強度比は有効屈折率の差に依存する。
【0057】
この方法の少なくとも1つの実施形態によれば、TEモードとTMモードの結合は、第2横方向へのTMモードの延長に依存する。例えば、初期の導波路層列は、TMモードが第2横方向、すなわち垂直方向に可能な限り延びるように調整される。有利には、TEモードとTMモードとの間のオーバーラップが減少し、TEモードとTMモードとの結合が減少する。例示的に、第2横方向におけるTMモードの範囲が大きいため、第1有効屈折率と第2有効屈折率とのミスマッチは有利にも拡大される。また、TEモードとTMモードの重複が減少するため、モード結合式における結合定数kが、有利にも小さくなる。
【0058】
方法の少なくとも1つの実施形態によれば、TEモードとTMモードとの結合は、導波路層列の長さに依存する。例えば、導波路層列の長さが500μm未満である場合、第1有効屈折率と第2有効屈折率との不一致の影響は無視できる。より長い導波路では、有効屈折率の不一致が偏光純度にとって重要になる。
【0059】
方法の少なくとも1つの実施形態によれば、TEモードとTMモードとの結合は、導波路層列の各層の厚さに依存する。例えば、導波路層列の屈折率を選択する際に、結合の閾値の値に応じて、導波路層列の層の厚さも調整される。
【0060】
例えば、導波路層列の厚さと材料は、TEモードとTMモードの間、特にTE接地モードとTM接地モードの間の結合強度を減少させ、閾値の値を下回るように選択される。
【0061】
例示的に、初期屈折率の調整中に、副層を導波路層列に追加及び/または省略することができる。さらに、初期屈折率の調整中に、さらなる副層を第1クラッド層及び/または第2クラッド層に追加及び/または省略することができる。
【0062】
さらに、放射線放出レーザダイオードを製造する方法が提供される。
【0063】
放射線放出レーザダイオードを製造するための方法の少なくとも1つの実施形態によれば、本明細書で前述の放射線放出レーザダイオードのための導波路層列の屈折率を選択するための方法によって選択された屈折率を有する導波路層列が生成される。したがって、導波路層列の屈折率を選択する方法に関連して開示されたすべての特徴はまた、放射線放出レーザダイオードを製造する方法にも関連して開示され、逆もまた同様である。
【0064】
例えば、導波路層列は、エピタキシャルプロセスによって製造される。特に、活性領域、第1導波路層、及び第2導波路層は、本明細書で前述の導波路層列の屈折率を選択する方法によって選択される屈折率を有するように製造される。
【0065】
本明細書に記載の放射線放出レーザダイオード及び放射線放出レーザダイオードの導波路層列の屈折率を選択する方法を、例示的な実施形態及び関連する図面を参照して以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】例示的な実施形態による放射線放出レーザダイオードの概略図を示す。
【
図2】例示的な実施形態による放射線放出レーザダイオードの層の屈折率の実部の空間プロファイルを例示的に示している。
【
図3】例示的な実施形態による放射線放出レーザダイオードの層の屈折率の実部の空間プロファイルを例示的に示している。
【
図4】異なる放射線放出レーザダイオードの偏光強度比及び計算された有効屈折率の差の測定を例示的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図において、同一、類似、または同一に作用する要素には、同じ参照符号が付されている。図面、及び図面に表される要素の相互のサイズ比は、一定の縮尺で描かれていない。むしろ、個々の要素、特に層の厚さは、より良好な図解及び/またはより優れた理解のために、誇張して大きく表現することがある。
【0068】
図1の例示的な実施形態による放射線放出レーザダイオード1は、導波路層列2を備える。導波路層列2は、電磁放射を生成するように構成された活性領域3を備える。さらに、導波路層列2は第1ドーピングタイプの第1導波路層4と、第2ドーピングタイプの第2導波路層5を備える。活性領域3は、第1導波路層4と第2導波路層5との間に配置される。
【0069】
第1ドーピングタイプの第1クラッド層6は第1の主要な面の導波路層列2に配置される。第1の主要な面は、第1導波路層4の活性領域とは反対側を向く外面によって形成される。さらに、第2ドーピングタイプの第2クラッド層7は第2の主要な面の導波路層列2に配置される。第2の主要な面は、第2導波路層5の活性領域とは反対側を向く外面によって形成される。第1クラッド層6は、第1導波路層4に直接接触し、第2クラッド層7は、第2導波路層5に直接接触する。
【0070】
さらに、金属接触層10が、電気的及び熱的に伝導するように第2クラッド層7上に配置される。金属接触層10は第2被覆に直接接触している。
【0071】
第1クラッド層6、第1導波路層4、活性領域3、第2導波路層5、第2クラッド層7及び金属接触層10は、示された順序で互いの上に配置される。
【0072】
第1ドーピングタイプは前記第2ドーピングタイプと異なる。例えば、第1ドーピングタイプはn型であり、したがって、第1クラッド層6及び第1導波路層4は、少なくとも部分的にnドープされる。導波路層4の一部がドープされていない、及び/またはp型ドーパントを含むことが可能である。ドーピングのタイプが異なるため、第2ドーピングのタイプはp型であり、したがって、第2クラッド層7及び第2導波路層5はpドープされる。
【0073】
導波路層列2、第1クラッド層6、及び第2クラッド層7の層は各々、主要な延長面に対して平行に延びているさらに、導波路層列2、第1クラッド層6、及び第2クラッド層7の層は各々、主要な延長方向に延びている。
【0074】
放射線放出レーザダイオード1の動作中、活性領域3で生成された電磁放射は、主に電磁放射として導波路層列2に放出される。
【0075】
導波路層列2の内部の境界条件が異なるため、電磁放射は2つの横向きのモード、すなわち横向きの電気(TE)モードと、横向きの磁気(TM)モードを含む。TEモードの電場は第1横方向8に沿って振動し、TMモードの電場は第2横方向9に沿って振動する。第1横方向8と第2横方向9は、主要な延長方向に垂直な平面において整列している。主要な延長方向は電磁放射線の伝播の方向と平行している。さらに、第1横方向8及び第2横方向9は、主要な延長方向に垂直な平面の内部で、互いに垂直に整列される。
【0076】
導波路層列2の隣接する層、第1クラッド層6及び第2クラッド層7の間の偏光依存境界条件により、TEモード及びTMモードは、異なる有効屈折率を特徴とする。また、TEモードは、TMモードとは異なる、導波路層列2、第1クラッド層6、及び第2クラッド層7を備えるオーバーラップを有する。
【0077】
境界条件が異なるため、TEモードは、第1横方向に沿った電場の振動のための第1有効屈折率を特徴とし、TMモードは、第2横方向に沿った電場の振動のための第2有効屈折率を特徴とする。
【0078】
導波路層列2、第1クラッド層6、及び第2クラッド層7の屈折率は、第1有効屈折率と第2有効屈折率との有効屈折率の差が少なくとも4・10-4、特に少なくとも5・10-4になるように構成される。このような有効屈折率の差を有することで、放射線放出レーザダイオード1から放出される電磁放射線の偏光強度比は、少なくとも90%、特に少なくとも93%である。
【0079】
図2及び3による図表は、左側のy軸上に、放射線放出レーザダイオード1の層の屈折率Re(n)の実部を示す。右側のy軸には、TEモードとTMモードの任意単位で正規化された強度Iが示されている。x軸上には、垂直方向、すなわち放射線放出レーザダイオード1の層の積層方向における位置z(μm単位)が示されている。
【0080】
図2によれば、
図2のこの例示的な実施形態内の放射線放出レーザダイオード1は、
図1の放射線放出レーザダイオード1に加えて、基板11を含む。基板11は、第1クラッド層6上に配置される。第1クラッド層6は、約2μmの厚さを有する。第1導波層4は約1.3μmの厚さを有し、第2導波層5は約500nmの厚さを有する。第1導波路層4と第2導波路層5との間に挟まれる活性領域3は、約100nmの厚さを有する。第2クラッド層7は、約1.2μmの厚さを有する。
【0081】
このような放射線放出レーザダイオード1の内部では、TEモードに対する第1有効屈折率、特に第1有効屈折率の実部は3.40258であり、TMモードに対する第2有効屈折率、特に第2有効屈折率の実部は3.40215である。したがって、有効屈折率の差は3.30・10-4である。
【0082】
図3によると、第1クラッド層6は、約2.1μmの厚さを有する。第1導波層4は約750nmの厚さを有し、第2導波層5は約250nmの厚さを有する。第1導波路層4と第2導波路層5との間に挟まれる活性領域3は、約100nmの厚さを有する。第2クラッド層7は、約1.1μmの厚さを有する。
【0083】
図3による放射線放出レーザダイオード1内では、TEモードに対する第1有効屈折率、特に第1有効屈折率の実部は3.35245であり、TEモードに対する第2有効屈折率、特に第2有効屈折率の実部は3.35149である。したがって、有効屈折率の差は9.6・10
-4である。
【0084】
図4による図表では、偏光強度比PRがy軸上にパーセントで示されている。x軸には、異なる放射線放出レーザダイオード1のTEモードの第1有効屈折率とTMモードの第2有効屈折率との有効屈折率の差
【数17】
が示されている。放射線放出レーザダイオード1は、金属接触層10を介してキャリアに取り付けられる。
【0085】
各放射線放出レーザダイオード1の偏光強度比は、光学的な実験によって測定される。
【0086】
TEモードとTMモードの結合は有効屈折率の差に依存する。特に、TEモードとTMモードの結合を低減することにより、偏光強度比を大きくすることができる。
【0087】
少なくとも96%の偏光強度比が所望の場合は、少なくとも6.7・10-4の有効屈折率の差を達成する必要がある。これは、TEモードとTMモードの結合の関数として、放射線放出レーザダイオード1の第1クラッド層6と第2クラッド層7を含む導波路層列2の屈折率を設計することによって達成することができる。
【0088】
最初、そのような屈折率を選ぶための方法の中で、初期屈折率が放射線放出レーザダイオード1の導波路層列2に与えられる。初期屈折率は、例えば、放射線放出レーザダイオード1の層の屈折率によって表される。
【0089】
次のステップでは、TEモードとTMモードの結合が考慮される。例えば、屈折率の差は、導波路層列の固有値方程式を解くなどのシミュレーションによって判定される。結合が閾値の値未満である場合、すなわち有効屈折率の差が4・10-4未満である場合、放射線放出レーザダイオード1の層の屈折率が調整される。
【0090】
続いて、調整された屈折率を備える放射線放出レーザダイオード1の結合が、それに応じて選択される。
【0091】
図に関連して説明された特徴及び例示的な例は、すべての組み合わせが明示的に説明されていなくても、さらなる例示的な例に従って互いに組み合わせることができる。さらに、図に関連して説明された例示的な例は、説明の一般的な部分で説明されたように、代替的または追加的にさらなる特徴を有することができる。
【0092】
本発明は、例示的な例に基づく説明により、例示的な例に限定されるものではない。むしろ、本発明は、この特徴またはこの組み合わせが特許請求の範囲または例示的な実施形態に明示的に指定されていなくても、特に特許請求の範囲の特徴の任意の組み合わせを含む、任意の新しい特徴及び特徴の任意の組み合わせを含む。
【符号の説明】
【0093】
1 放射線放出レーザダイオード
2 導波路層列
3 活性領域
4 第1導波路層
5 第2導波路層
6 第1クラッド層
7 第2クラッド層
8 第1横方向
9 第2横方向
10 金属接触層
11 基板
12 モードスポイラ
Re(n) 屈折率の実部
I 強度
PR 偏光強度比
【数18】
有効屈折率の差