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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】鉱山管理システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240704BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240704BHJP
【FI】
G08G1/00 X
G08G1/00 D
G08G1/00 J
G06Q50/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023539648
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2022017536
(87)【国際公開番号】W WO2023013181
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021128964
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】飯星 洋一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 健二
(72)【発明者】
【氏名】江尻 孝一郎
(72)【発明者】
【氏名】津久井 洋
(72)【発明者】
【氏名】尾谷幸二
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/029229(WO,A1)
【文献】特開2008-133798(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081912(WO,A1)
【文献】特表平06-510418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0309093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/00- 6/12、 7/00- 8/00、16/00
B60P 1/00- 9/00
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
G06Q 10/00-10/30、30/00-30/08、
50/00-50/20、50/26-99/00
G08G 1/00-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱山で稼働する鉱山ダンプを管理する鉱山管理システムにおいて、
鉱山ダンプの生産性指標を算出して集計する処理装置を備え、
前記処理装置は、
少なくとも前記鉱山ダンプの車速、路面勾配、および積載量に基づいて前記鉱山ダンプの消費エネルギを算出し、
前記鉱山ダンプの燃料噴射量、トロリ電力、およびバッテリ電力の少なくとも1つに基づいて前記鉱山ダンプの投入エネルギを算出し、
前記消費エネルギと前記投入エネルギとに基づいて前記鉱山ダンプの積載量センサおよびパワートレイン系の異常の有無を判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、
少なくとも前記鉱山ダンプの車速および積載量に基づいて前記鉱山ダンプの状態を判別し、
前記鉱山ダンプの状態毎に前記投入エネルギに対する前記消費エネルギの比である状態別効率を算出し、
前記状態別効率と所定値との比較結果に基づいて前記積載量センサおよび前記パワートレイン系の異常の有無を判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項3】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記鉱山ダンプがアイドリング状態にあるときの前記状態別効率が所定範囲内に収まるように、前記消費エネルギの算出に用いるパラメータを調整する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項4】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記鉱山ダンプが定常走行状態にあるときの前記状態別効率が所定範囲内に収まるように、前記消費エネルギの算出に用いるパラメータを調整する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項5】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、
前記鉱山ダンプの空荷運転時の前記状態別効率が第1所定値以上で、かつ前記鉱山ダンプの積荷運転時の前記状態別効率が所定範囲を外れた場合に、前記積載量センサを異常と判定し、
前記空荷運転時の前記状態別効率が第1所定値を下回り、かつ前記積荷運転時の前記状態別効率が第2所定値を下回る場合に、前記パワートレイン系を異常と判定し、
前記空荷運転時の前記状態別効率が第1所定値を下回り、かつ前記積荷運転時の前記状態別効率が第2所定値以上である場合に、前記積載量センサと前記パワートレイン系の両方を異常と判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項6】
請求項5に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記積載量センサを異常と判定した場合に、前記積載量センサのキャリブレーションが必要と判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項7】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記積載量センサを異常と判定した間に算出した前記生産性指標を集計処理から除外する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項8】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記鉱山ダンプが走行する経路毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値を下回る前記経路の路面に異常があると判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項9】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記鉱山ダンプを運転するドライバ毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値を下回る前記ドライバの運転に問題があると判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項10】
請求項2に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記鉱山ダンプ毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値を下回る前記鉱山ダンプに異常があると判定する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山で稼働する鉱山ダンプを管理する鉱山管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉱山機械のデータを収集・分析し、放土から次の放土までの経路中における特定区間の稼働状況に基づいて様々な管理指標を算出するシステムが開発されている。そのようなシステムを開示する先行技術文献として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1には、経路上の隣接するリンクが所定条件を満たす特定区間において、単位時間当たりの燃料消費量もしくは積載量といった鉱山機械の生産効率指標等を算出するシステムおよび方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/029229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では予め定められた区間に対して時間あたりの燃料消費量の増加や積載量の低下を検知することができるものの、定められた区間以外の生産性低下を監視することはできなかった。また生産性指標(燃料1リットルあたりの運搬量[T/L]や単位時間あたりの運搬量[T/h])の算出に用いられる積載量は、ダンプのタイヤ軸と車体の間に取り付けられたサスペンションの圧力から算出される場合が多い。この積載量を算出する装置(積載量算出装置)はサスペンションオイルやタイヤ圧変化の影響を受けるためキャリブレーションが必要であるが、これを適切なタイミングで行う方法について、従来技術では十分な考慮がなされていなかった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉱山ダンプのパワートレイン系(パワトレ系)および積載量センサのいずれか一方、あるいはその両方に異常が発生していることを検出することが可能な鉱山管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、鉱山で稼働する鉱山ダンプを管理する鉱山管理システムにおいて、鉱山ダンプの生産性指標を算出して集計する処理装置を備え、前記処理装置は、少なくとも前記鉱山ダンプの車速、路面勾配、および積載量に基づいて前記鉱山ダンプの消費エネルギを算出し、前記鉱山ダンプの燃料噴射量、トロリ電力、およびバッテリ電力の少なくとも1つに基づいて前記鉱山ダンプの投入エネルギを算出し、前記消費エネルギと前記投入エネルギとに基づいて前記鉱山ダンプの積載量センサおよびパワトレ系の異常の有無を判定するものとする。
【0007】
以上のように構成した本発明によれば、鉱山ダンプのパワートレイン系(パワトレ系)および積載量センサのいずれか一方、あるいはその両方に異常が発生していることを検出することが可能となる。その結果、鉱山ダンプのパワトレ系の異常が検出された場合に、パワトレ系の整備・交換を実施し、または当該鉱山ダンプの運行を減らすことにより、鉱山の生産性を維持・改善することができる。また、積載量センサの異常が検出された場合に、積載量センサのキャリブレーションを実施することにより、鉱山の生産性を正確に管理することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鉱山システムによれば、鉱山ダンプのパワトレ系および積載量センサのいずれか一方、あるいはその両方に異常が発生していることを検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】鉱山管理システムの全体像を示す図
図2A】鉱山ダンプのパワトレ系の構成例を示す図
図2B】鉱山ダンプのパワトレ系の構成例を示す図
図2C】鉱山ダンプのパワトレ系の構成例を示す図
図3】鉱山ダンプの状態変化を示す図
図4】鉱山ダンプの稼働データの集計例を示す図
図5】処理装置の機能ブロックの一例を示す図
図6】車両モデルを用いた消費エネルギ算出方法の一例を示す図
図7】車両モデル校正部が路面係数を補正する際に実行する処理の一例を示すフローチャート
図8】車両モデル校正部が補機電力を補正する際に実行する処理の一例を示すフローチャート
図9】鉱山ダンプの稼働データからサイクル毎の効率を算出する方法の一例を示す図
図10】空荷運転時効率および積荷運転時効率とパワトレ系異常および積載量センサ異常との関係の一例を示す図
図11】異常判定部の処理の一例を示すフローチャート
図12】鉱山ダンプ別に集計した空荷運転時効率および積荷運転時効率の表示例を示す図
図13】空荷運転時およびトロリ運転時の効率とパワトレ系異常個所との関係の一例を示す図
図14】異常判定部がパワトレ系の異常箇所を特定する際に実行する処理の一例を示すフローチャート
図15】鉱山ダンプ別に集計した空荷運転時効率およびトロリ運転時効率の表示例を示す図
図16】処理装置が生産性低下要因を特定する際に実行する処理の一例を示すフローチャート
図17】経路別、ドライバ別、および鉱山ダンプ別に集計したサイクル効率の表示例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の第1の実施例に係る鉱山管理システムについて図1から図12を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施例に係る鉱山管理システムの全体像を示す図である。鉱山管理システム200は、まとめて管理される同一の鉱山エリア100を走行する複数の鉱山機械(鉱山ダンプ101、ショベル102、ドーザ103等)からそれぞれの位置情報および稼働情報を集約する記憶装置201(例えばデータベース)と、各鉱山機械101~103の位置情報および稼働情報を基に鉱山の生産性指標を算出するとともに、鉱山ダンプ101が備える積載量センサ101aのキャリブレーション情報や、鉱山ダンプ101のパワートレイン系(パワトレ系)の異常等の生産性低下要因を判別する処理装置202(例えばサーバ)と、生産性指標、生産性低下要因、キャリブレーション情報等をダッシュボード形式で表示する表示端末装置203(例えばノートパソコンや携帯端末)とを備えている。ここで、各鉱山機械101~103の稼働データは鉱山管理システム200に逐次送信されることが望ましいが、通信状況および通信コストを考えると必ずしも逐次送信できるとはかぎらない。そこで本実施例における処理装置202は、ある程度まとまった量の稼働データをバッファリングした後に処理を開始するものとする。ある程度まとまった量とは、例えば、積荷から次の積荷までの過去最長サイクルに相当する時間あるいは、最長サイクルに相当するデータ量によって決めることができる。
【0013】
鉱山管理システム200のユーザーは、表示端末装置203に表示される情報(ダッシュボード情報)を用いて鉱山の生産性低下を早期に検知し、生産性の低下要因に基づいた対策を実施することで鉱山の生産性を維持・管理できる。例えば、鉱山の運行計画者301は、ダッシュボード情報を用いて各鉱山ダンプ101の運行計画を修正できる。オペレータ指導者302は、ダッシュボード情報から運転を改善すべきオペレータを発見し、運転指導を行うことができる。路面保守員303は、ダッシュボード情報から生産性低下につながっている路面個所を早期に特定して修理を行うことができる。機器保守員304は、ダッシュボード情報から鉱山ダンプ101のパワトレ系異常を検知し、部品ディーラに必要な部品を予め準備するように伝えることができる。また、インターネット400を介して取得した天候情報(履歴・予測)や鉱物価格(履歴・予測)とダッシュボード情報とを組み合わせることにより、採掘責任者305に採掘・保守計画の修正指示を出したり、運行計画者301、オペレータ指導者302、路面保守員303、機器保守員304に生産性低下を防止するための改善指示を出すことができる。なお、表示端末装置203の表示形式はダッシュボード形式に限られず、レポート形式やメール形式であっても良い。
【0014】
図2A図2Cは、鉱山ダンプ101のパワトレ系の構成例を示す図である。図2Aの構成では、エンジンで駆動される発電機で発電した電力またはトロリから受電した電力がモータに供給される。図2Bの構成は、バッテリおよびCONV(コンバータ)を搭載したハイブリッド式であり、エンジンで駆動される発電機で発電した電力、またはバッテリの電力がモータに供給される。図2Cの構成は、エンジンの代わりにバッテリを搭載した電気駆動式であり、バッテリの電力またはトロリから受電した電力がモータに供給される。パワトレ系の構成機器(エンジン、発電機、INV(インバータ)、モータ)は、各構成機器の入出力値から算出される効率が予め設定した閾値を下回ったときに異常と判定できる。以下の説明では、図2Aの構成を対象とした異常検知方法について説明するが、図2Bまたは図2Cの構成についても同様の考え方で異常判定を行うことができる。
【0015】
図3は、鉱山ダンプ101の状態変化を示す図である。図3において、積載量算出装置で算出された運搬鉱石の積載重量(積載量)を上段に示し、車速センサ101bで検出された車速に基づいて走行中か停車中かを判定した結果(走行フラグ)を下段に示す。積算量算出装置は、鉱山ダンプ101のサスペンションに設けられた積載量センサ101aと、所定の車両状態において積載量センサ101aの検出値から積載量を算出する車載コントローラ(図示せず)とで構成される。
【0016】
図3に示すように、鉱山ダンプ101の走行サイクル(以下、サイクル)は、積荷を載せる状態(積荷)、積荷を載せて走行する状態(積荷走行)、積荷を下ろす状態(放土)、および空荷で走行する状態(空荷走行)の4つに大別される。状態判定方法の一例を説明する。所定値P1は積荷状態か否かを判定するためのしきい値であり、停車中に積載量が所定値P1を超えたタイミング(T1)で積荷状態と判定する。積荷状態と判定した後、走行フラグが停車中から走行中に変化したタイミング(T2)で積荷走行状態と判定し、停車中に積載量が所定値P2を下回ったタイミング(T3)で放土状態と判定する。その後、走行フラグが走行中に変化したタイミング(T4)で空荷走行状態と判定し、停車中に積載量が再び所定値P1を超えたタイミング(T5)で積荷状態と判定する。このような処理を繰り返すことで鉱山ダンプ101のサイクルおよび4状態(積荷、積荷走行、放土、空荷走行)を判定できる。本実施例では鉱山ダンプ101のサイクル毎に生産性指標(例えば燃料1リットルあたりの運搬量[T/L])を算出し、異常判定のため稼働データを状態別に集計する。また、本実施例では説明の便宜上、積荷から次の積荷までを1サイクルと定義するが、連続した4状態(積荷、積荷走行、放土、空荷走行)を含むのであれば、どの状態からサイクルを開始しても良い。
【0017】
図4は、鉱山ダンプ101の稼働データの集計例を示す図である。図4において、積載量算出装置で算出した積載量を上段に示し、エンジン噴射量をサイクル毎に積算したサイクル燃料を中段に示し、車速をサイクル毎に積算したサイクル走行距離を下段に示す。図4において、サイクル1の積載量はP1、サイクル2の積載量はP2、サイクル1の燃料量はL1、サイクル2の燃料量はL2、サイクル1の走行距離はD1、サイクル2の走行距離はD2、サイクル1の走行時間はT1、サイクル2の走行時間はT2である。サイクル1の生産性指標[T/L]はP1/L1、サイクル2の生産性指標はP2/L2で求められる。しかし、これらはサイクル走行距離D1,D2またはサイクル走行時間S1,S2が違うと比較が困難である。これに加えて、生産性指標[T/L]は走行経路(特に登坂路の長さ)が異なると同じ走行距離でも大きく異なり、同じ経路であってもショベル積込時間等、運転の仕方(加減速)や路面粗さ等によってサイクル毎に変動する。このため単に生産性指標[T/L]をサイクル毎に算出するだけでは、生産性を管理し、維持・改善につながる知見を得ることが困難である。そこで本実施例では生産性指標[T/L]に加えて、後述する状態別効率を算出することで、生産性を正確に管理・維持する。
【0018】
図5は、処理装置202の機能ブロック図の一例を示す図である。処理装置202は、状態判定部202aと、投入エネルギ算出部202bと、消費エネルギ算出部202cと、状態別効率算出部202dと、異常判定部202eと、車両モデル校正部202fとを有する。処理装置202は、演算処理機能を有するコントローラ、外部機器との間の信号入出力を行う入出力インタフェース等で構成され、ROM等の記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより各部の機能を実現する。
【0019】
状態判定部202aは、図3で説明した方法により、車速および積載量に基づいて鉱山ダンプ101の状態を判定する。なお、状態判定部202aの入力信号は、判定すべき鉱山ダンプ101の状態に応じて異なる。例えばトロリ運転状態を判別するためには、トロリ電圧等を入力する必要がある。
【0020】
投入エネルギ算出部202bは、パワトレ系へのエネルギ入力(燃料噴射量、トロリ電圧、トロリ電流等)から鉱山ダンプ101の投入エネルギ[kW/h]を算出する。投入エネルギは、例えばエンジン熱量(燃料噴射量*燃料発熱量)やトロリ電力(トロリ電圧*トロリ電流)の合計である。
【0021】
消費エネルギ算出部202cは、車速、高度、積載量から後述の方法で消費エネルギ[kW/h]を算出する。
【0022】
状態別効率算出部202dは、所定状態(サイクル、空荷運転、積荷運転等)における状態別効率を算出する。
【0023】
異常判定部202eは、状態別効率に基づいて後述する方法でパワトレ系と積載量センサ101aのいずれか一方、あるいはその両方に異常が発生していることを検知する。
【0024】
車両モデル校正部202fは、異常判定部202eが積載量センサ101aまたはパワトレ系を異常と判定していないときに、状態別効率が所定範囲内に収まるように路面係数や補機電力(消費エネルギの算出に用いられる車両モデルのパラメータ)を補正する。本構成により、鉱山の環境(天候等)に大きく左右される路面係数や補機電力の変化に対してロバストな異常判定を実現できるとともに、積載量センサ101aが異常と判定されたタイミングで積載量センサ101aの点検あるいはキャリブレーションを実施することで、サイクル毎の生産性指標を正確に算出できる。
【0025】
図6は、車両モデルを用いた消費エネルギ算出方法の一例を示す図である。車両走行時の消費エネルギは、空気抵抗、加速抵抗、勾配抵抗、転がり抵抗の合計に車速を乗算し、エンジンアイドル運転や空冷ファンやキャビン空調などの補機に必要なベース消費量を加算することにより得られる。ここで、車速、積載量、高度を車両稼働データから得ることで、実際の運転状況に応じた消費エネルギを算出できる。なお、空気抵抗は天候に応じて変化する空気密度にも依存するが、空気抵抗の影響は転がり抵抗やベース消費量と比較して小さいため、ここでは車速のみに応じて決まる値としている。また、勾配抵抗は、車体重量に積載量を加えた車体総重量と路面勾配から求められる。本実施例は路面勾配を高度の時間変化から求める構成としているが、車体に傾斜角センサが設けられている場合は車体の傾斜角から求めてもよい。
【0026】
上記の演算に加え、消費エネルギ推定の精度をさらに改善するため、転がり抵抗の計算に用いるパラメータとしての路面係数やベース消費量の算出に用いるパラメータとしての補機電力を実際の稼働データを元に後述する方法で適時キャリブレーションする。このような車両モデルを用いることにより、鉱山ダンプ101の機種に関わらず消費エネルギを算出することができる。
【0027】
図7は、車両モデル校正部202fが路面係数を補正する際に実行する処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0028】
車両モデル校正部202fは、まず、積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がないか否かを判定する(ステップS701)。ステップS701でNO(積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がある)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0029】
ステップS701でYES(積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がない)と判定した場合は、パワトレ系の効率がほぼ一定となる運転領域での状態別効率(定常運転時効率)を算出する(ステップS702)。定常運転時効率は車両が一定速で走行している状態(加速抵抗がほぼない状態)で算出した状態別効率であり、本実施例では簡単のため、積荷登坂運転時、あるいはトロリ運転時の状態別効率を用いて鉱山全領域の路面係数を補正するが、GPS座標で所定経路あるいは所定区間を判別し、判別した経路、区間毎に路面係数を補正するようにしても良い。
【0030】
ステップS702に続き、定常運転時効率が所定値R1(定常運転時に想定される最低効率)よりも小さいか否かを判定する(ステップS703)。ステップS703でYES(定常運転時効率が所定値R1よりも小さい)と判定した場合は、路面係数を増加側に補正し(ステップS704)、当該フローを終了する。
【0031】
ステップS703でNO(定常運転時効率が所定値R1以上である)と判定した場合は、定常運転時効率が所定値R2(定常運転時に想定される最大効率)以上であるか否かを判定する(ステップS705)。ステップS705でNO(定常運転時効率が所定値R2よりも小さい)と判定した場合は、当該フローを終了する。ステップS705でYES(定常運転時効率が所定値R2以上である)と判定した場合は、路面係数を減少側に補正し、当該フローを終了する。
【0032】
このように、定常運転時の効率が予め想定した最低効率R1を下回った場合は、路面状況が悪化したと判断して路面係数を増大させ、定常運転時の効率が予め想定した最大効率R2以上である場合は、路面状況が回復したと判断して路面係数を減少させることにより、天候等による路面状態の変化に対してロバストな異常判定を実現できる。なお、路面係数に上限値および下限値を設けることにより、路面係数による消費エネルギが過剰に補正されることを防止しても良い。
【0033】
図8は、車両モデル校正部202fが補機電力を補正する際に実行する処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0034】
車両モデル校正部202fは、まず、積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がないか否かを判定する(ステップS801)。ステップS801でNO(積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がある)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0035】
ステップS801でYES(積載量センサ101aまたはパワトレ系に異常がない)と判定した場合は、補機の消費電力が支配的になるアイドル運転時の状態別効率(アイドル運転時効率)を算出する(ステップS802)。
【0036】
ステップS802に続き、アイドル運転時効率が所定値I1(アイドル運転時に想定される最低効率)よりも小さいか否かを判定する(ステップS803)。ステップS803でYES(アイドル運転時効率が所定値I1よりも小さい)と判定した場合は、補機電力を増加側に補正し(ステップS804)、当該フローを終了する。
【0037】
ステップS803でNO(アイドル運転時効率が所定値I1以上である)と判定した場合は、アイドル運転時効率が所定値I2(アイドル運転時に想定される最大効率)以上であるか否かを判定する(ステップS805)。ステップS805でNO(アイドル運転時効率が所定値I2よりも小さい)と判定した場合は、当該フローを終了する。ステップS805でYES(アイドル運転時効率が所定値I2以上である)と判定した場合は、補機電力を減少側に補正し(ステップS805)、当該フローを終了する。
【0038】
このように、アイドル運転時の効率が予め想定した最低効率I1を下回った場合は補機電力を増大させ、アイドル運転時の効率が予め想定した最大効率I2以上である場合は補機電力を減少させることにより、環境によって負荷が大きく変わる補機電力の変動に対してロバストな異常判定を実現できる。
【0039】
図9は、鉱山ダンプ101の稼働データからサイクル毎の効率を算出する方法の一例を示す図である。図9において、上段に積載量を示し、中段に投入エネルギを示し、下段に消費エネルギを示す。積載量の所定値P1,P2については図4で説明した通りである。投入エネルギは、鉱山ダンプ101のエンジン投入熱量(燃料噴射量*燃料発熱量)やトロリ電力(トロリ電圧*トロリ電流)をサイクル毎の積算した値である。消費エネルギは、図6で説明した車両モデルを用いて算出される。サイクル別効率は各サイクル終了時の消費エネルギ/投入エネルギで算出され、図中のサイクル1の効率はOE1/IE1となり、サイクル2の効率はOE2/IE2となる。このサイクル別効率は前述の車両モデルが運転状況や天候状況に対してロバストであるため、どの経路を誰がどのように走行したかに関わらず異常判定を実施できる。
【0040】
図10は、空荷運転時効率および積荷運転時効率とパワトレ系異常および積載量センサ異常との関係の一例を示す図である。本実施例では、空荷運転時の効率が所定値1(空荷運転時に想定される最小効率)よりも小さいときに空荷運転時の効率が低いと判定し、空荷運転時の効率が所定値1以上のときに空荷運転時の効率が標準であると判定する。また、積荷運転時効率が所定値2(積荷運転時に想定される最小効率)より小さいときに積荷運転時効率が低いと判定し、積荷運転時効率が所定値2以上でかつ所定値3より小さいときに積荷運転時効率が標準であると判定し、積荷運転時効率が所定値3以上のときに積荷運転時効率が高いと判定する。
【0041】
図10に示すように、空荷運転時の効率が低い場合は、パワトレ系に異常があると判断する。またこの状態で、積荷運転時効率が標準または高いときは、積載量センサ101aの異常により積載量が過大に検出されていると判断する。これは、パワトレ系異常によって空荷運転時の効率が低下する一方で、積載量が過大に検出されることで消費エネルギが実際よりも大きく算出され、積荷運転時の効率が大きくなる現象を捉えたものである。
【0042】
空荷運転時効率が標準である場合は、積荷運転時効率が低いときに積載量センサ101aの異常により積載量が過小に検知されていると判断し、積荷運転時効率が標準であるときにパワトレ系は正常であると判断し、積荷運転時効率が高いときに積載量センサ101aの異常により積載量が過大に検知されていると判断する。ここで所定値1と所定値2はほぼ同じ値(ただし空荷運転時より積荷運転時の方がパワトレ系の効率が高い分、所定値1よりも所定値2の方を若干大きくすること好ましい)となり、所定値3は所定値1または所定値2よりも大きな値(例えばパワトレ系の最大効率)に設定すれば良い。
【0043】
図11は、異常判定部202eの処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0044】
異常判定部202eは、まず、空荷運転時の状態別効率(空荷運転時効率)が所定値1よりも小さいか否かを判定する(ステップS1101)。
【0045】
ステップS1101でYES(空荷運転時効率が所定値1よりも小さい)と判定した場合は、パワトレ系に異常を機器保守員304に通知する(ステップS1102)。この時、運行計画者301に該当車両の利用を控えるように通知しても良い。
【0046】
ステップS1102に続き、積荷運転時の状態別効率(積荷運転時効率)が所定値2以上であるか否かを判定する(ステップS1103)。ステップS1103でNO(積荷運転時効率が所定値2よりも小さい)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0047】
ステップS1103でYES(積荷運転時効率が所定値2以上である)と判定した場合は、積載量センサ101aの異常により積載量が過大に検出されていると判断し、当該異常中に算出された生産性指標を集計処理から除外するとともに、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう機器保守員304に通知するか、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう遠隔から鉱山ダンプ101に指示する(ステップS1104)。
【0048】
ステップS1101でNO(空荷運転時効率が所定値1以上である)と判定した場合は、積荷運転時効率が所定値2よりも小さいか否かを判定する(ステップS1105)。
【0049】
ステップS1105でYES(積荷運転時効率が所定値2よりも小さい)と判定した場合は、積載量センサ101aの異常により積載量が過小に検知されていると判断し、当該異常中に算出された生産性指標を集計処理から除外するとともに、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう機器保守員304に通知するか、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう遠隔から鉱山ダンプ101に指示する(ステップS1106)。
【0050】
ステップS1105でNO(積荷運転時効率が所定値2以下である)と判定した場合は、積荷運転時効率が所定値3以上であるか否かを判定する(ステップS1107)。ステップS1107でNO(積荷運転時効率が所定値3よりも小さい)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0051】
ステップS1107でYES(積荷運転時効率が所定値3以上である)と判定した場合は、積載量センサ101aの異常により積載量が過大に検知されていると判断し、当該異常中に算出された生産性指標を集計処理から除外するとともに、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう機器保守員304に通知するか、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施するよう遠隔から鉱山ダンプ101に指示し(ステップS1108)、当該フローを終了する。
【0052】
以上の処理により、積載量センサ101aに対して適切なタイミングでキャリブレーションを実施することができ、かつ積載量が過小/過大に検知されたサイクルの生産性指標を集計処理から除外することにより、不正確な積載量に基づいた生産性指標の集計・管理を防止できる。
【0053】
図12は、ダンプ別に集計した空荷運転時効率および積荷運転時効率の表示例を示す図である。図12の例では、所定期間(例えば最近一週間)の空荷運転時効率と積荷運転時効率を鉱山ダンプ毎にボックスチャートで表示している。空荷運転時効率および積荷運転時効率の中央値を用いて図10図11で説明した方法で異常判定を行うことにより、判定結果に対するドライバや走行経路の影響が抑えられるため、サイクル毎に行うよりもロバストな異常判定を実現できる。
【0054】
図12の例では、Tr5,Tr21,Tr1号機は、空荷運転時効率が所定値1より小さいため、パワトレ系異常と判定される。さらにTr1号機は、積荷運転時効率が所定値2以上であるため、積載量センサ101aの異常(過大検知)とも判定される。Tr6号機は、空荷運転時効率が所定値1以上でかつ積荷運転時効率が所定値2よりも小さいため、積載量センサ101aの異常(過小検知)と判定される。Tr3号機は、積荷運転時効率が所定値3以上であるため、積載量センサ101aの異常(過小検知)と判定される。図12に示すように状態別効率を鉱山ダンプ101の号機毎に並べて表示することにより、各鉱山ダンプ101の異常度合いの比較が可能となるため、複数の鉱山ダンプ101に異常が発生しているときに、どの鉱山ダンプ101からキャリブレーションまたはメンテナンスを行うかの判断が容易となる。
【0055】
(まとめ)
本実施例では、鉱山で稼働する鉱山ダンプ101を管理する鉱山管理システム200において、鉱山ダンプ101の生産性指標を算出して集計する処理装置202を備え、処理装置202は、少なくとも鉱山ダンプ101の車速、路面勾配、および積載量に基づいて鉱山ダンプ101の消費エネルギを算出し、鉱山ダンプ101の燃料噴射量、トロリ電力、およびバッテリ電力の少なくとも1つに基づいて鉱山ダンプ101の投入エネルギを算出し、前記消費エネルギと前記投入エネルギとに基づいて鉱山ダンプ101の積載量センサ101aまたはパワトレ系の異常の有無を判定する。
【0056】
以上のように構成した本実施例によれば、鉱山ダンプ101のパワートレイン系(パワトレ系)および積載量センサ101aのいずれか一方、あるいはその両方に異常が発生していることを検出することが可能となる。その結果、鉱山ダンプ101のパワトレ系の異常が検出された場合に、パワトレ系の整備・交換を実施し、または当該鉱山ダンプの運行を減らすことにより、鉱山の生産性を維持・改善することができる。また、積載量センサ101aの異常が検出された場合に、積載量センサ101aのキャリブレーションを実施することにより、鉱山の生産性を正確に管理することができる。
【0057】
また、本実施例における処理装置202は、少なくとも鉱山ダンプ101の車速および積載量に基づいて鉱山ダンプ101の状態を判別し、鉱山ダンプ101の状態毎に前記投入エネルギに対する前記消費エネルギの比である状態別効率を算出し、前記状態別効率と所定値との比較結果に基づいて積載量センサ101aまたは前記パワトレ系の異常の有無を判定する。これにより、運転や環境によらずに積載量センサ101aまたはパワトレ系の異常の有無を判定できる。
【0058】
また、本実施例における処理装置202は、鉱山ダンプ101がアイドリング状態にあるときの前記状態別効率が所定範囲(I1~I2)内に収まるように、前記消費エネルギの算出に用いるパラメータ(補機電力)を調整する。これにより、例えば補機電力の変化に対してロバストな異常判定を実現できる。
【0059】
また、本実施例における処理装置202は、鉱山ダンプ101が定常走行状態にあるときの前記状態別効率が所定範囲(R1~R2)内に収まるように、前記消費エネルギの算出に用いるパラメータ(路面係数)を調整する。これにより、例えば路面係数の変化に対してロバストな異常判定を実現できる。
【0060】
また、本実施例における処理装置202は、鉱山ダンプ101の空荷運転時の前記状態別効率が第1所定値(所定値1)を下回り、かつ鉱山ダンプ101の積荷運転時の前記状態別効率が第2所定値(所定値2)以上である場合、または、前記空荷運転時の前記状態別効率が第1所定値(第1所定値)以上で、かつ前記積荷運転時の前記状態別効率が所定範囲(所定値2~所定値3)を外れた場合に、積載量センサ101aを異常と判定する。これにより、鉱山ダンプ101の空荷運転時および積荷運転時の状態別効率に基づいて積載量センサ101aの異常を検出できる。
【0061】
また、本実施例における処理装置202は、積載量センサ101aを異常と判定した場合に、積載量センサ101aのキャリブレーションが必要と判定する。これにより、積載量センサ101aのキャリブレーションを適時に行うことができる。
【0062】
また、本実施例における処理装置202は、積載量センサ101aを異常と判定した間に算出した前記生産性指標を集計処理から除外する。これにより、不正確な積載量に基づいた生産性指標の集計・管理を防止できる。
【実施例2】
【0063】
本発明の第2の実施例に係る鉱山管理システムについて、図13から図15を用いて説明する。本実施例で想定しているパワトレ系の構成は第1の実施例と同様(図2Aに示す)である。なお、本実施例では、第1の実施例で説明した方法により積載量センサ101aの異常が検知されていない状況を前提とする。
【0064】
図13は、空荷運転時およびトロリ運転時の効率とパワトレ系異常個所との関係の一例を示す図である。図2Aに示す構成からわかるように、トロリ電力を得ている状態での状態別効率はエンジンや発電機の影響をほとんど受けない。そのため、図13に示すように、トロリ運転時の状態別効率の判定を、空荷運転時の状態別効率の判定と組み合わせることにより、パワトレ系の異常個所をトロリ系、エンジン・発電機、およびモータ・インバータのいずれかに特定することができる。
【0065】
本実施例では、空荷運転時の効率が所定値1(空荷運転時に想定される最小効率)よりも小さいときに空荷運転時の効率が低いと判定し、空荷運転時の効率が所定値1以上のときに空荷運転時の効率が標準であると判定する。また、トロリ運転時効率が所定値4(トロリ運転時に想定される最小効率)より小さいときにトロリ運転時効率が低いと判定し、トロリ運転時効率が所定値4以上のときにトロリ運転時効率が標準であると判定する。空荷運転時の効率が低い場合は、トロリ運転時の効率が低いときにモータ・インバータの異常と判断し、トロリ運転時の効率が標準であるときにエンジン・発電系異常と判断する。空荷運転時の効率が標準である場合は、トロリ運転時の効率が低いときにトロリ系異常と判断し、トロリ運転時の効率が標準であるときにパワトレ系は正常であると判断する。この結果、異常判定された際の調査箇所の限定、事前部品の発注が容易となり、異常状態からの回復時間が短縮されるため、パワトレ異常による生産性低下を速やかに解消することができる。
【0066】
図14は、異常判定部202eがパワトレ系の異常箇所を特定する際に実行する処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0067】
異常判定部202eは、まず、空荷運転時の効率(空荷運転時効率)が所定値1よりも小さいか否かを判定する(ステップS1401)。
【0068】
ステップS1401でYES(空荷運転時効率が所定値1よりも小さい)と判定した場合は、トロリ運転時の効率(トロリ効率)が所定値4よりも小さいか否かを判定する(ステップS1402)。
【0069】
ステップS1402でYES(トロリ効率が所定値4よりも小さい)と判定した場合は、モータ/インバータの異常を機器保守員304に通知し(ステップS1403)、当該フローを終了する。本異常時は通常よりも燃料やトロリ電力を多く消費するため、例えば運行計画者301に当該車両の使用頻度を減らしたり走行距離を短くするような依頼情報を通知しても良い。
【0070】
ステップS1402でNO(トロリ効率が所定値4以上である)と判定した場合は、エンジン/発電機の異常を機器保守員304に通知し(ステップS1404)、当該フローを終了する。本異常時はトロリ系から電力を供給する場合の燃料ロスは僅かであるため、運行計画者301にトロリを多く使う経路に当該車両を割り当てるように促すことで、異常による生産性の低下を最小限におさえることが可能となる。
【0071】
ステップS1401でNO(空荷運転時効率が所定値1以上である)と判定した場合は、トロリ効率が所定値4よりも小さいか否かを判定する(ステップS1405)。ステップS1405でNO(トロリ効率が所定値4以上である)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0072】
ステップS1405でYES(トロリ効率が所定値4よりも小さい)と判定した場合は、トロリ系の異常を機器保守員304に通知し(ステップS1406)、当該フローを終了する。本異常時はトロリ系以外は正常であるため、運行計画者301にトロリを使わない経路に該当車両を割り当てることで生産性の低下を最小限に抑えることができる。
【0073】
図15は、所定期間で鉱山ダンプ別に集計した空荷運転時効率およびトロリ運転時効率の表示例を示す図である。図15の例では、所定期間(例えば最近一週間)の空荷運転時効率と積荷運転時効率を鉱山ダンプ毎にボックスチャートで表示している。空荷運転時効率および積荷運転時効率の中央値を用いて図13図14で説明した方法で異常判定が行われる。
【0074】
図15の例では、Tr5号機は、空荷運転時効率が所定値1より小さくかつトロリ運転時効率が所定値4より小さいため、モータ・インバータ異常と判定される。Tr21号機は、空荷運転時効率が所定値1より小さくかつトロリ運転時効率が所定値4以上であるため、エンジン・発電機異常と判定される。Tr6号機は、空荷運転時効率が所定値1以上でかつトロリ運転時効率が所定値4より小さいため、トロリ系異常と判定される。図15に示すようにすべての号機の状態別効率を示すことで、鉱山を走行するすべての鉱山ダンプ101の異常発生状況を把握することができ、機器保守員304は修理実施計画を、運行計画者301は配車計画を適切に調整することが可能となる。これにより異常発生時の生産効率低下を最小限に抑えることができる。
【0075】
以上のように構成した本実施例によれば、鉱山ダンプ101のパワトレ系の故障部位が特定されるため、当該故障部位に対して適切な対策を実施することにより、鉱山の生産性を維持することが可能となる。
【実施例3】
【0076】
本発明の第3の実施例に係る鉱山管理システムについて図16および図17を用いて説明する。なお、本実施例では、第1の実施例で説明した方法により積載量センサ101aの異常が検知されていない状況を前提とする。
【0077】
図16は、処理装置202が生産性低下要因を特定する際に実行する処理の一例を示すフローチャートである。以下、各ステップを順に説明する。
【0078】
処理装置202は、まず、サイクル毎に算出したサイクル効率を経路別に集計し、集計代表値(例えば中央値や平均値)が所定値Rよりも低いか否かを判定する(ステップS1601)。所定値Rとしては、対応する経路で想定されるサイクル効率の最低値を設定しても良いし、代表経路で想定されるサイクル効率の最低値を設定しても良い。
【0079】
ステップS1601で集計代表値が所定値Rよりも低い(YES)と判定した場合は、メンテ候補の経路を識別するための情報(経路ID)を表示端末装置203に表示させる(ステップS1602)。これにより、路面保守員303が当該経路のメンテナンスを行うことが可能となり、運行計画者301が当該経路の走行を減らすように運行計画を見直すことが可能となる。
【0080】
ステップS1601で集計代表値が所定値R以上である(NO)と判定した場合、または、ステップS1602に続き、前記のサイクル効率をドライバ別に集計し、集計代表値が所定値Dよりも小さいか否かを判定する(ステップS1603)。所定値Dとしては、予め想定したサイクル効率の最小値を設定すれば良い。
【0081】
ステップS1603で集計代表値が所定値Dよりも低い(YES)と判定した場合は、サイクル効率が所定値Dよりも低いドライバを識別するための情報(ドライバID)を表示端末装置203に表示させる(ステップS1604)。これにより、オペレータ指導者302が当該ドライバに運転指導を実施することが可能となる。
【0082】
ステップS1603で集計代表値が所定値D以上である(NO)と判定した場合、または、ステップS1604に続き、前記のサイクル効率を鉱山ダンプ別に集計し、集計代表値が所定値Vよりも低いか否かを判定する(ステップS1605)。所定値Vとしては、予め想定したサイクル効率の最小値を設定すれば良い。ステップS1605でNO(集計代表値が所定値V以上である)と判定した場合は、当該フローを終了する。
【0083】
ステップS1605でYES(集計代表値が所定値Vよりも小さい)と判定した場合は、サイクル効率が所定値Vよりも低い鉱山ダンプを識別するための情報(ダンプID)を表示端末装置203に表示させ(ステップS1606)当該フローを終了する。これにより、機器保守員304が当該鉱山ダンプのメンテナンスを実施することが可能となる。
【0084】
図17は、経路別、ドライバ別、および鉱山ダンプ別に集計したサイクル効率の表示例を示す図である。所定期間(例えば一週間)で算出したサイクル効率の経路別、ドライバ別、または鉱山ダンプ別に集計し、中央値の小さいものから順に並べて表示することで、サイクル効率が低い経路、ドライバ、または鉱山ダンプ101を容易に特定することが可能となる。表示される集計結果は任意に変更しうるものであって、たとえば中央値の小さいもののみを表示することとしてもよい。また、閾値(所定値R,D,V)を合わせて表示することで、路面保守員303、オペレータ指導者302、または機器保守員304に対して適切なタイミングで通知を行うことが可能となる。また、経路ID、ドライバID、ダンプIDはいずれも稼働現場の全体地図を示すデータと対応付けてもよい。経路IDを例にすると、表示対象の経路IDは単一に限られず、複数のこともありうる。たとえば同一地点への経路が複数ある場合、地図上で複数の対象を同時に確認することができるので、表示されている経路IDのうち最適な経路IDを選択するといった対応もできる。ドライバIDを例にすると、任意の時点で所定値Dよりも低いドライバが複数いる場合、ドライバごとに通知するよりも、一括して通知した方が効率がよいこともある。なお経路ID、ドライバID、ダンプIDの地図上への表示は、個別、もしくはすべてを同時のいずれであってもよい。また、表示はユーザの指定に応じてなされるだけでなく、予め設定したタイミングや、問題が発生する都度、あるいはそれらの組み合わせなど任意に変更できる。また、経路別、ドライバ別、および鉱山ダンプ別の表示順序は任意に変更しうるものであって、希望する対象のみを表示したり、一括して表示したりしてもよい。さらに通知の累積が2回以上になるなど複数回の場合は、通知履歴や、その履歴と対比した分析結果(改善点・課題)をあわせて表示することとしてもよい。通知の態様は、スマートフォンへの電子メールや音声など、通知対象者が確認できるのであれば形式は問わない。これにより、生産性低下の要因を速やかに除去することが可能となる。
【0085】
(まとめ)
本実施例における処理装置202は、前記鉱山ダンプが走行する経路毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値Rを下回る前記経路の路面に異常があると判定する。また、本実施例における処理装置202は、鉱山ダンプ101を運転するドライバ毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値Dを下回る前記ドライバの運転に問題があると判定する。また、本実施例における処理装置は、鉱山ダンプ101毎に前記状態別効率を集計し、前記状態別効率の集計代表値が所定値Rを下回る鉱山ダンプ101に異常があると判定する。
【0086】
以上のように構成した本実施例によれば、鉱山の生産性低下の要因が特定されるため、当該要因に対して適切な対策を実施することにより、鉱山の生産性を維持することが可能となる。
【0087】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0088】
100…鉱山エリア、101…鉱山ダンプ、101a…積載量センサ、101b…車速センサ、102…ショベル、103…ドーザ、200…鉱山管理システム、201…記憶装置、202…処理装置、202a…状態判定部、202b…投入エネルギ算出部、202c…消費エネルギ算出部、202d…状態別効率算出部、202e…異常判定部、202f…車両モデル校正部、203…表示端末装置、301…運行計画者、302…オペレータ指導者、303…路面保守員、304…機器保守員、305…採掘責任者、400…インターネット。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17