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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】コアレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 23/58 20060101AFI20240704BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
H02K23/58 Z
H02K3/04 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023551117
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2022048227
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】513262470
【氏名又は名称】シチズンマイクロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 聡
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 昌
(72)【発明者】
【氏名】横地 雅人
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-44403(JP,A)
【文献】特開2005-151782(JP,A)
【文献】特開昭55-131262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 23/58
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
導線が巻かれて円筒状に形成され、前記回転軸と一体に回転するコイルと、
前記コイルの前記円筒状の内側又は外側に配置された円筒状のマグネットと、
前記回転軸、前記コイル及び前記マグネットを内部に収納し、前記回転軸の少なくとも一端を外部に突出させるハウジングと、を備え、
前記コイルは、前記マグネットに対向する中央部を有し、
前記コイルは、前記導線が、前記軸方向に直交する面に対して傾斜した角度の方向に延び、前記中央部における前記導線の一端に繋がる端部と、前記導線が、前記軸方向に直交する面に対して傾斜した角度の方向に延び、前記中央部における前記導線の他端に繋がる端部と、を有し、
2つの前記端部のうち何れか一方は、前記回転軸に固定され、2つの前記端部のうち、前記回転軸に固定された側の端部における導線の、前記軸方向に直交する面に対する傾斜した角度は、前記回転軸に固定された側とは異なる側の端部における導線の、前記軸方向に直交する面に対する傾斜した角度より小さく設定されている、コアレスモータ。
【請求項3】
前記マグネットは、前記コイルの前記円筒状の内側に配置され、
前記中央部における前記導線が前記マグネットの側に寄せられることによって、前記中央部における外周面が凹んだ部分に、前記ハウジングのうち、前記中央部に対向する内周面の部分が進入している、請求項2に記載のコアレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
コアレスモータは、コイルがコアとなる鉄心を有さず、巻き線のみでロータを形成している。コイルを形成する導線の巻き方として、例えば、六角形状(亀甲形状)に形成したものがある。この亀甲形状の巻き方は、例えば、導線を、六角柱の外周面の周方向に巻き付けつつ、六角柱の軸方向に少しずつずらして、六角螺旋状のコイルエレメントを形成し、コイルエレメントから六角柱を軸方向に引き抜くことで、導線だけで六角柱の螺旋状に形成されたコイルエレメントを得る。
【0003】
そして、六角柱の互いに対向する面に相当する辺を、六角柱の軸方向に沿って互いに反対方向に動かすようにして面状に潰し、得られた面状のコイルエレメントを複数連ねて、軸方向の端部同士を繋ぐことで、円筒状のコイルに形成される。
【0004】
ここで、円筒状に形成されたコイルは、外面側も内面側も、導線が円筒の軸に平行な平行部と、平行部に繋がる、導線が円筒の軸に直交する面に対して傾斜した2つの斜辺部と、を有している(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-193069号公報
【文献】特開平10-191608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
円筒状のコイルでは、円筒の軸に直交する断面における導線の占積率は、コイルの中央部(亀甲形状に巻かれたコイルでは平行部に相当)が、コイルの端部(亀甲形状に巻かれたコイルでは斜辺部に相当)よりも小さくなり易い。なお、このことは、亀甲形状に巻かれたコイルに限らず、その他の形状に巻かれたコイルにおいても起こり得る。
【0007】
そして、コイルの中央部の占積率が小さくなることによって、中央部における磁束密度が低下し、結果的にモータの出力トルクが低下する可能性がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、円筒状のコイルの中央部における磁束密度を高めることができるコアレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転軸と、導線が巻かれて円筒状に形成され、前記回転軸と一体に回転するコイルと、前記コイルの前記円筒状の内側又は外側に配置された円筒状のマグネットと、前記回転軸、前記コイル及び前記マグネットを内部に収納し、前記回転軸の少なくとも一端を外部へ突出させるハウジングと、を備え、前記コイルは、前記マグネットに対向する中央部を有し、前記中央部における前記導線は、前記マグネットの側に寄せられている、コアレスモータである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るコアレスモータによれば、円筒状のコイルの中央部における磁束密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1のコアレスモータの、回転軸の中心Cを含む縦断面を示す断面図である。
図2図1に示したコアレスモータのコイルを示す斜視図である。
図3A図2に示したコイルを製造する工程1を示す模式図である。
図3B図2に示したコイルを製造する工程2を示す模式図である。
図4図1に示したコアレスモータの変形例であり、コアレスモータの、回転軸の中心Cを含む縦断面を示す断面図である。
図5】実施形態2のコアレスモータの、回転軸の中心Cを含む縦断面を示す断面図である。
図6図5に示したコアレスモータのコイルの、図3B相当の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るコアレスモータの実施形態は、図面を用いて以下のように説明される。
【0013】
<実施形態1>
図1はコアレスモータ100の、回転軸20の中心Cを含む縦断面を示す断面図、図2図1に示したコアレスモータ100のコイル60を示す斜視図、図3A,3Bは、コイル60を製造する工程を示す模式図である。コアレスモータ100は、本発明に係るコアレスモータの一実施形態(実施形態1)である。
【0014】
コアレスモータ100は、図1に示すように、回転軸20と、コイル60と、コンミテータ50と、マグネット30と、ブラシ40と、ハウジング10と、を備えている。
【0015】
ハウジング10は、両端が閉じられた中空の円筒状に形成されている。ハウジング10は、中空の内部に、回転軸20と、コイル60と、コンミテータ50と、マグネット30と、ブラシ40と、を収納し、回転軸20の両端をハウジングの10の外部に突出させている。ハウジング10は、ケース11とブラシ台12とを備えている。
【0016】
ケース11は、一端が閉じられた円筒状に形成されている。ケース11は、例えば金属等の軟質磁性材料で形成されている。なお、ケース11は、複数の部材により形成されていてもよい。ブラシ台12は、ケース11の開放された側の端部を閉じるように略円板状に形成されている。ブラシ台12は、例えば樹脂で形成されている。ブラシ台12には、外部の電源に接続される導体の接続部材(図示省略)と、この接続部材と電気的に接続されたブラシ40と、が設けられている。
【0017】
ハウジング10の円筒の軸である中心Cには、ハウジング10を貫通して中心C回りに回転自在に、回転軸20が配置されている。回転軸20には、コンミテータ50が固定されている。コンミテータ50には、コイル60が固定されている。つまり、回転軸20とコイル60とコンミテータ50とで、ロータが構成されている。
【0018】
コイル60は、図2に示すように、導線61が巻かれて円筒状に形成されている。コイル60は、回転軸20と一体に、回転軸20の中心Cを軸として回転する。コイル60は、導線が巻かれたコイルエレメントを複数、集合して形成されている。コイル60は、円筒の外周面60Aが、ケース11の内周面11Bに接しないように形成されている。コイル60の詳細は、後述する。
【0019】
コンミテータ50は、回転軸20が通されたボスを中心部に有する円板状に形成されている。コンミテータ50の円板の外周部は、円筒状のコイル60の、ブラシ台12に近い側の一端の内周部に、接着剤により接合されて、コイル60と一体化されている。コンミテータ50は、ボスを貫通した回転軸20と一体に結合し、これにより、コンミテータ50は、回転軸20とともに中心C回りに回転する。
【0020】
コンミテータ50は、コイル60を構成する複数のコイルエレメントの各導線61の端末61a,61b(図2,3A,3B参照)に電気的に接続される導電部材を有し、この導電部材が、ボスの外周面まで延びて、ブラシ台12に設けられたブラシ40と接する。
【0021】
コイル60の円筒の内側には、マグネット30が、コイル60の内周面60Bに接しないように配置されている。マグネット30は、中心Cを軸とする円筒状に形成されている。マグネット30は、外周面30Aが、コイル60の内周面60Bに接しないように形成されている。マグネット30は、内周面30Bが、ケース11に固定された円筒状の支持部材28の外周面に固定されている。
【0022】
これにより、マグネット30は、ケース11に間接的に固定され、ケース11に対して変位しない。支持部材28の内側には、支持部材28の長手方向の両端に軸受け25がそれぞれ配置されていて、回転軸20は、これら2つの軸受け25に、回転自在に支持されている。
【0023】
次に、コイル60の詳細について説明する。コイル60は、基本的に導線61同士が接着剤により互いに接合されたものであり、鉄心等のコアを備えていない。このため、コイル60は、コアを有するコイルに比べて軽量である。
【0024】
コイル60は、図3Aに示すように、導線61を、断面が六角形となる、例えば六角柱状の巻き線用の治具500の外周面に巻き付けるが、このとき、巻き付けの1周(六角柱の外周面の1周)ごとに、導線61を巻く位置を六角柱の軸方向に少しずつずらすことで、六角形状(亀甲形状)で螺旋状のコイル60を形成する。
【0025】
なお、図3A,3Bにおいては、導線61で形成された六角形が別々に独立しているように記載されているが、これは、図の記載を簡単にするための便宜のためであり、実際には、これら複数の六角形は、両端末61a,61bを有する、螺旋状に繋がった1本の導線61で形成されている。
【0026】
このように形成された六角螺旋状のコイル60から巻き線用の治具500を軸方向に引き抜くことで、導線61だけで六角螺旋状に形成されたコイル60を得る。そして、巻き線用の治具500の六角柱の互いに対向する面に相当するコイル60の辺部を、六角柱の軸方向に沿って互いに反対方向(図3Aにおいて、表示”→”で示す)に動かして、図3Bに示す面状に潰されたコイル60を形成する。
【0027】
図3Bに示したコイル60を1つのコイルエレメントとし、このコイルエレメントを複数、前述した六角柱の軸方向に連ね、面状に形成されたコイルエレメントの一方の面60Aを外向きの面(外周面)、他方の面60Bを内向きの面(内周面)とするように、図3Bに示した中心C回りに、軸方向の端部同士を繋ぐことで、図2に示した円筒状のコイル60を形成する。なお、コイル60の形成方法は、上述した方法に限定されるものではない。
【0028】
このようにして形成されたコイル60は、亀甲形状(六角形状)のコイル60であり、このコイル60は、図2に示すように、外周面60A側も内周面60B側も、導線61(例えば、銅線)が、回転軸20の軸(中心C)方向に平行に延びた平行部62と、平行部62の一端に繋がる斜辺部63と、平行部62の他端に繋がる斜辺部64とを有している。
【0029】
斜辺部63,64の導線61は、中心C方向に直交する面(図3Bにおいて一点鎖線で示す)に対して、所定の角度θだけ傾斜した方向に延びている。斜辺部63の傾斜した角度θと斜辺部64の傾斜した角度θとは、図3Bに示すように、向きが異なるが絶対値は同じである。なお、平行部62は、コイル60における軸方向の中央部に相当し、斜辺部63,64は、コイル60における軸方向の端部に相当する。
【0030】
ここで、コイル60は、図2に示した円筒状に形成したときに、斜辺部63,64における導線61同士は密に接するが、平行部62においては、斜辺部63,64での導線61同士の接触の影響を受けて導線61同士が密に接しない。つまり、コイル60は、平行部62での占積率が斜辺部63,64での占積率よりも小さくなる。このため、本発明が適用されない従来のコアレスモータにおいては、平行部62における磁束密度が相対的に低いものとなっていた。
【0031】
これに対して、本実施形態のコアレスモータ100は、図1に示すように、コイル60のうち、斜辺部63,64よりも導線61の占積率が低い平行部62における導線61を、内周面60Bの側に寄せて配置されている。言い換えると、平行部62における導線61は、マグネット30の外周面の側に寄せて配置されている。
【0032】
つまり、従来のコアレスモータにおけるコイル60は、平行部62における導線61の占積率が斜辺部63,64における導線の占積率よりも低いため、斜辺部63,64よりも平行部62における導線61の間に空隙が多く存在している。
【0033】
これに対して、本実施形態のコアレスモータ100におけるコイル60は、平行部62における導線61を、平行部62に存在する空隙を埋めるように、内周面60Bを基準として内周面60B側に移動し、内周面60B側に寄せられる。これにより、図1に示すように、平行部62におけるコイル60の外周面60Aは、斜辺部63,64におけるコイル60の外周面60Aよりも、半径方向Rの中心C側に向かって凹んで形成される。なお、この状態において、半径方向Rにおける平行部62の幅(厚さ)の中心は、半径方向Rにおける斜辺部63,64の幅(厚さ)の中心よりも内周面60Bの側に位置する。
【0034】
また、平行部62において導線61を内周面60B側に寄せる程度は、平行部62における導線61が互いに密に接する程度が好ましく、例えば、平行部62における導線61の占積率が斜辺部63,64における導線61の占積率と同程度となるような範囲で設定されている。ただし、コアレスモータ100は、平行部62において導線61を内周面60B側に寄せる程度は、平行部62における導線61が互いに密に接しない程度であってもよく、また、平行部62における導線61の占積率が斜辺部63,64における導線61の占積率よりも低い程度であってもよいし、高い程度であってもよい。
【0035】
本実施形態のコアレスモータ100は、平行部62における導線61を内周面60B側に寄せるに際して、内周面60Bの位置を変化させない内周面60B基準としている。したがって、図3Bに示したコイル60を円筒形状に成形する際に、円筒形状の治具の外周面にコイル60を巻き付けて、その巻きつけたコイル60の平行部62の外周面60Aを円筒形の治具側に押圧することで、平行部62における導線61を内周面60B側に寄せた形状を、簡単に形成することができる。
【0036】
このように、本実施形態のコアレスモータ100は、コイル60の平行部62における導線61が、内周面60B側に寄せられていることで、その寄せられた導線61は、寄せられる前に比べて、マグネット30に近づいた状態となり、その導線61を通過するマグネット30による磁束密度を高めることができる。つまり、コイル60は、平行部62における導線61を内周面60B側に寄せていないコイルに比べて、平行部62を通過するマグネット30の磁束密度を高めることができる。また、平行部62における導線61の占積率が高められることで、平行部62が発生する磁力(電磁力)の磁束密度も高めることができる。
【0037】
したがって、本実施形態のコアレスモータ100は、平行部62に対する斜辺部63,64の傾斜角度を変えることなく、平行部62における磁束密度を高めることができ、コアレスモータ100の出力トルクを増大させることができる。
【0038】
なお、コアレスモータ100において、マグネット30の、平行部62に対向する部分だけを半径方向Rの外側に突出させた大径の形状に形成することによっても、平行部62の導線61を通る磁束密度を高めることもできるが、この場合、マグネット30の形状を、既存の円筒形状から変える必要があるため製造コストが高くなる。したがって、本実施形態のコアレスモータ100の方がコスト面で有利である。
【0039】
<変形例>
図4はコアレスモータ200の、回転軸の中心Cを含む縦断面を示す断面図である。コアレスモータ200は、図1に示したコアレスモータ100の変形例であり、本発明に係るコアレスモータの実施形態である。
【0040】
コアレスモータ200は、コアレスモータ100に対して、ハウジング10のケース11が異なる以外は、コアレスモータ100の構成と同じである。コアレスモータ200のケース11は、具体的には、ケース11の内周面11Bのうち、コイル60の平行部62に対向する範囲が、コイル60の平行部62の外周面60Aに向けて突出して形成されている。
【0041】
つまり、図1に示したコアレスモータ100は、コイル60の平行部62における導線61が、コイル60の内周面60Bに寄せられているため、コイル60の外周面60Aは、斜辺部63,64に比べて平行部62において、半径方向Rの内側に向かって凹んで形成されている。そして、コアレスモータ200は、コイル60の外周面60Aのうち、平行部62において半径方向Rの中心C側に凹んだ部分60S(図4参照)に、突出したケース11の内周面11Bが進入した構成となる。
【0042】
このように構成された変形例のコアレスモータ200は、前述したコアレスモータ100と同じ効果を発揮するとともに、平行部62におけるマグネット30とヨーク(軽鉄)として機能するケース11の内周面11Bとの距離が、コアレスモータ100における距離より短いため、平行部62におけるマグネット30の磁束密度を、コアレスモータ100よりもさらに高めることができる。
【0043】
これにより、変形例のコアレスモータ200は、コアレスモータ100に対してさらに出力トルクを増大することができる。
【0044】
<実施形態2>
図5はコアレスモータ300の、回転軸20の中心Cを含む縦断面を示す断面図、図6はコアレスモータ300のコイル60の、図3B相当の模式図である。コアレスモータ300は、本発明に係るコアレスモータの一実施形態(実施形態2)である。
【0045】
図示のコアレスモータ300は、回転軸20と、コイル60と、コンミテータ50と、マグネット30と、ブラシ40と、ハウジング10と、を備え、基本的な構成は、実施形態1のコアレスモータ100及び変形例のコアレスモータ200と同じである。また、コアレスモータ300は、コイル60の平行部62における導線61が、内周面60B側に寄せられている構成についても、コアレスモータ100及びコアレスモータ200と同じであり、さらに、コイル60の外周面60Aのうち平行部62において半径方向Rの中心C側に凹んだ部分60Sに、ケース11の内周面11Bが突出して進入した構成は、コアレスモータ200と同じである。
【0046】
ここで、コアレスモータ100,200は、図3Bに示したように、コイル60の平行部62を挟んだ上側の斜辺部63の導線61と下側の斜辺部64の導線61とで、中心C方向に直交する面に対する傾斜の角度θは同じ(向きは反対)であるが、コアレスモータ300は、コイルの上側の斜辺部63の導線61と下側の斜辺部64の導線61とで、中心C方向に直交する面に対する傾斜の角度が異なるように設定されている。
【0047】
具体的には、コアレスモータ300のコイル60は、図6に示すように、中心C方向に直交する面(図6において横方向に延びた一点鎖線で示す)に対して上側の斜辺部63の導線61が傾斜した角度θ1が、中心C方向に直交する面に対して下側の斜辺部64の導線61が傾斜した角度θ2よりも、小さく設定されている(θ1<θ2)。
【0048】
なお、コアレスモータ300においては、下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2は、一例として、コアレスモータ100,200のコイル60における、上側の斜辺部63の導線61及び下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θと同じ(θ2=θ)に設定されているが、本発明に係るコアレスモータにおいては、上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1が下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2よりも小さく設定されていればよい。
【0049】
以上のように構成された実施形態2のコアレスモータ300は、上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1が下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2より小さいため、上側の斜辺部63の、中心Cに沿った長さが、コアレスモータ100,200のものよりも短くなる。この結果、コアレスモータ300は、平行部62の長さを、コアレスモータ100,200のものよりも、中心Cに沿ってコンミテータ50側へ長く設定することができる。
【0050】
ここで、マグネット30の磁界中においてコイル60の導線61に作用する磁力によるコアレスモータ100の出力トルクTは、以下の式(1)によって与えられる。
【0051】
T=2*B*I*r*L*sinθ (1)
ただし、式(1)において、Bはマグネット30による磁束、Iはコイル60に流れる電流、rはコイル60の半径(半径方向Rに沿った寸法)、Lはコイル60の長さ(中心C方向に沿った寸法)、θは中心C方向に直交する面に対するコイル60における導線61の傾斜した角度(平行部62において90[度]、上側の斜辺部63においてθ1[度]、下側の斜辺部64においてθ2[度])、をそれぞれ表す。
【0052】
したがって、コアレスモータ300は、sinθの値が1(θ=90[度])となる平行部62の長さが、コアレスモータ100,200の平行部62よりも長くなることで、平行部62における磁束密度が高くなり、コアレスモータ100,200に対して出力トルクTを増大することができる。
【0053】
なお、コアレスモータ300は、上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1が下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2より大きいため、上側の斜辺部63の導線61の、中心Cに直交する断面における断面積が、下側の斜辺部64の導線61の、中心Cに直交する断面における断面積よりも大きくなる。この結果、コイル60は、上側の斜辺部63は下側の斜辺部64より、半径方向Rの厚さが厚くなる。
【0054】
このため、コアレスモータ300のコイル60は、その厚さを、内周面60Bを基準とした構成においては、上側の斜辺部63における外周面60Aの位置が、下側の斜辺部64における外周面60Aの位置よりも半径方向Rの外側となり、外側に出っ張る状態となる。
【0055】
そこで、コアレスモータ300は、半径方向Rの外側に向けて出っ張った上側の斜辺部63の外周面60Aに、ケース11の内周面11Bが接触しないように、上側の斜辺部63の外周面60Aに対向するケース11の内周面11Bが、下側の斜辺部64の外周面60Aに対向するケース11の内周面11Bよりも、半径方向Rの外側に向けて凹んだ形状に形成されている。
【0056】
このため、ケース11の内周面11Bのうち、上側の斜辺部63の外周面60Aに対向する部分は、マグネット30との距離が長くなり、以下の式(2)で算出されるマグネットパーミアンス係数Pcが上側の斜辺部63では小さくなって有効磁束が減少し、出力トルクの低下を招く。
【0057】
Pc=(Lm*Ag*Kf)/(Am*Lg*Kr) (2)
ただし、式(2)において、Lmはマグネット30の厚さ(半径方向Rに沿った長さ)、Agはマグネット30の外周面30Aとケース11の内周面11Bとの間の半径方向Rに沿ったギャップの断面積(中心C回りの環状の部分の面積)、Kfは漏洩係数、Amは有効磁石断面積(Agと同じ)、Lgはマグネット30の外周面30Aとケース11の内周面11Bとの間の半径方向Rに沿ったギャップの長さ、Krは起磁力損失係数、をそれぞれ表す。なお、Lm,Lg,Agは、図5に示した通りである。
【0058】
しかし、上側の斜辺部63は、マグネット30に対向する部分の長さが、マグネット30の全長(中心Cに沿った長さ)に対して非常に短いため、マグネット30の磁束を通過させるコイル60としての寄与度は小さく、出力トルクに与える影響は少ない。
【0059】
つまり、コイル60は、コンミテータ50の円板部の外周面と接合される領域の長さが必要である。そして、コイル60の上側の斜辺部63における、中心Cに沿った長さ部分の一部は、コンミテータ50の円板部と接合される領域となり、マグネット30に対向する部分の中心Cに沿った長さは、上側の斜辺部63の一部に過ぎない。
【0060】
そして、コアレスモータ300は、上側の斜辺部63の導線61の傾斜の角度θ1が大きく設定されていることにより、上側の斜辺部63の中心Cに沿った長さが短くなり、上側の斜辺部63のうち、マグネット30と対向する部分の長さは、極めて短い。
【0061】
この結果、ケース11の内周面11Bの一部が凹んだ状態となって、その凹んだ部分によって、出力トルクが仮にわずかに低下しても、平行部62の長さが長くなることによる出力トルクの増大の寄与度が大きいため、コアレスモータ300は、コアレスモータ100、200に比べて、出力トルクを増大させることができる。
【0062】
また、コアレスモータ300は、ケース11の厚さを薄くする部分が、ケース11の全長に対してわずかな長さの一部であるため、ケース11の厚さが薄くなることによるケース11の強度に対する影響は実質的に無く、ケース11の強度を確保するためにコアレスモータ300の外径を大きくする必要が無い。
【0063】
また、コイル60は、導線61同士が接着剤によって相互に接合されて上述した円筒状の形状に固められているが、上側の斜辺部63が半径方向Rに厚くなることにより、この厚くなった部分の強度が高められる。そして、この強度が高められた部分が、コンミテータ50の円板部の外周面と接合されることで、コンミテータとの接合強度も高めることができる。
【0064】
なお、コアレスモータ300は、コイル60の斜辺部63,64のうち、回転軸20に固定された側である上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1を、下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2よりも小さくした(θ1<θ2)構成であるが、仮に、下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2を上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1よりも小さくした(θ2<θ1)構成の場合は、下側の斜辺部64が、半径方向Rの外側に出っ張った形状となる。
【0065】
この場合、ロータであるコイル60が回転したとき、下側の斜辺部64に作用する遠心力は、半径方向Rの外側に出っ張った分だけ大きくなる。そして、下側の斜辺部64は、上側の斜辺部63のようにコンミテータ50で支持されていないため、大きくなった遠心力に対する強度が相対的に低下する。したがって、コアレスモータ300は、上側の斜辺部63の導線61の傾斜した角度θ1を下側の斜辺部64の導線61の傾斜した角度θ2よりも小さくした構成であることが好ましい。
【0066】
上述した各実施形態及び変形例のコアレスモータ100,200,300は、コイルがマグネットの外側に配置されたアウターロータ型のコアレスモータであるが、本発明に係るコアレスモータは、アウターロータ型に限定されず、コイルがマグネットの内側に配置されたインナーロータ型のコアレスモータであってもよい。
【0067】
なお、インナーロータ型のコアレスモータの場合、マグネットの外周面は、コアレスモータのケースの内周面に固定され、コイルの中央部の導線は、コイルの外周面の側、言い換えると、マグネットの内周面の側に寄せて配置される。
【0068】
本発明に係るコアレスモータのコイルは、導線が亀甲形状に巻かれたコイルに限定されず、例えば、平行部(62)の導線(61)に相当する部分や斜辺部(63,64)の導線(61)に相当する部分が、直線状の導線ではなく、曲線状の導線であるコイルであってもよい。
【要約】
円筒状のコイルを有するコアレスモータにおいて、コイルの中央部における磁束密度を高めるために、コアレスモータ(100)は、回転軸(20)と、導線(61)が巻かれて円筒状に形成され、回転軸(20)と一体に回転するコイル(60)と、コイル(60)の円筒状の内側又は外側に配置された円筒状のマグネット(30)と、回転軸(20)、コイル(60)及びマグネット(30)を内部に収納し、回転軸(20)の少なくとも一端を突出させるハウジング(10)と、を備え、コイル(60)は、マグネット(30)に対向する中央部(平行部62に相当)を有し、中央部(平行部62に相当)における導線(61)は、マグネット(30)の側に寄せられている。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6