(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】着色部を有する動物用コンタクトレンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20240704BHJP
【FI】
G02C7/04
(21)【出願番号】P 2024027289
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】松永 透
(72)【発明者】
【氏名】檜野 栞
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0267334(US,A1)
【文献】国際公開第2014/125742(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/125470(WO,A1)
【文献】特開平01-187527(JP,A)
【文献】特開2016-122188(JP,A)
【文献】特開2020-148799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含み、かつ略円環状である着色部を有する動物用コンタクトレンズであって、
前記第1の層は前記動物用コンタクトレンズの裏面側に位置し、
前記第2の層は前記動物用コンタクトレンズの表面側に位置し、
前記第1の着色成分のJIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数L
*
1と前記第2の着色成分のJIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数L
*
2との差ΔL
(=L
*
1
-L
*
2
)は、+
10以上で
ある、前記動物用コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記着色部は、面積が50mm
2~200mm
2である、請求項1に記載の動物用コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記第1の着色成分の明度指数L
*
1と第1の層の面積S
1との積(S
1(mm
2)×L
*
1)である着色明度T
1と前記第2の着色成分の明度指数L
*
2と第2の層の面積S
2との積(S
2(mm
2)×L
*
2)である着色明度T
2との差ΔT
(=T
1
-T
2
)は、+600以上で
ある、請求項1又は2に記載の動物用コンタクトレンズ。
【請求項4】
前記着色部は、前記動物用コンタクトレンズの表面又は内部に備えられる、請求項1又は2に記載の動物用コンタクトレンズ。
【請求項5】
以下の工程を含む、請求項1又は2に記載の動物用コンタクトレンズの製造方法。
(1)雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、共重合体を得る工程
(2)前記雌型から分離した前記雄型の凸部にある共重合体の表面上に、第1の着色成分を含む略円環状の第1の層を形成し、さらに該第1の層の上に第2の着色成分を含む略円環状の第2の層を形成して、第1の層及びその上にある第2の層を含む略円環状の着色部を有する共重合体を得る工程であって、前記第1の着色成分は第2の着色成分と異なる前記工程
(3)前記略円環状の着色部を有する共重合体が凸部にある雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、略円環状の着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を得る工程
(4)前記略円環状の着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を、水和膨潤処理に供することにより、請求項1又は2に記載の動物用コンタクトレンズを得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト以外の動物に用いられる着色部を有するコンタクトレンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌ、ネコといった動物は、痒みを感じた顔を、どこかに擦り付けること、前足で掻くことなどにより痒みを解消しようとする。しかし、これらの行為により、眼組織、特に角膜が傷つきやすい。また、これらの動物について、散歩中に草や枝に触れること、シャンプーの後に飼い主がタオルで拭くことなどにより、日常生活においても角膜などの眼組織が傷つく場合がある。
【0003】
イヌやネコの角膜が傷ついた場合、飼い主又は獣医師が薬剤を点眼すること、軟膏を塗ることなどにより角膜の治療が試みられる。その際、薬剤の投与と併せて、コンタクトレンズを装用すれば、角膜にできた傷が外部に触れることを防止できる。
【0004】
ところが、イヌやネコなどの動物にとって、コンタクトレンズは異物でしかない。コンタクトレンズを装用した動物は、しばしば目付近を前足で掻いて自らコンタクトレンズを外すことなど、眼内にコンタクトレンズを保持することができず、コンタクトレンズを用いて動物を適切に治療することが難しいという問題がある。このような問題を解消するために、飼い主は、動物の眼内にコンタクトレンズが正しく装用されていることを日常的に目視により確認することが求められる。
【0005】
しかし、コンタクトレンズは透明であることから、外部から動物の眼内にコンタクトレンズが正しく装用されていることを目視により確認することは難しい。そこで、装用時に外部からコンタクトレンズの有無を識別するために、所定の条件を満たす染料や顔料を使用して着色された複数のドットを、コンタクトレンズの表面又は内部に有する動物用コンタクトレンズが知られており(例えば、特許文献1を参照)、実際に市販されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】“メニわんコーニアルバンデージわん”、[online]、株式会社メニワン Meni-one、[令和5年2月2日検索]、インターネット〈URL:https://www.meni-one.com/detail_01A-medical/C1-1_cornealbandage.php
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び非特許文献1に記載の動物用コンタクトレンズは、視認部であるドットが単一の色であることから、コンタクトレンズの表面(フロントカーブ面;FC)側及び裏面(ベースカーブ面;BC)側において色彩的に区別がつきにくく、装用時のコンタクトレンズの表裏の判別が外部からは難しいという問題がある。
【0009】
また、特許文献1及び非特許文献1に記載の動物用コンタクトレンズは、円環領域内に離間して配置された数個のドットを視認部としている。しかし、特許文献1及び非特許文献1に記載の動物用コンタクトレンズを装用しても、瞬目によりコンタクトレンズが光軸を中心に回転し、視認部であるドットが眼瞼下に入り込むと、外部から目視によりコンタクトレンズの有無を確認することは困難である。特に、角膜を負傷したイヌやネコなどの動物は、ヒトと同様に、痛みを和らげるために目を細めることから瞼裂幅は通常に比べると狭くなる。この場合、コンタクトレンズが眼内で回転しなくとも、視認部を確認することが困難である。したがって、特許文献1及び非特許文献1に記載の動物用コンタクトレンズは、その視認部によってさえ、外部から動物の眼内におけるコンタクトレンズの有無を確認することは依然として難しいという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、特許文献1及び非特許文献1に記載の動物用コンタクトレンズと比べて、外部から目視により装用時のコンタクトレンズの有無をより容易に確認することができ、さらにこのときのコンタクトレンズの表裏を判別できる動物用コンタクトレンズ及び該動物用コンタクトレンズの製造方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、動物用コンタクトレンズに配置する着色部について、互いに異なる色の着色成分を積層し、表面側の層の色彩と、裏面側の層の色彩とが異なるようにすることにより、外部から目視により装用時のコンタクトレンズの有無及び表裏を判別できることを見出した。
【0012】
また、上記の着色部を、動物用コンタクトレンズと同心になるように略円環状に配置することにより、瞬目によりコンタクトレンズが光軸を中心に回転した場合や瞼裂幅が狭くなった場合においても、着色部の一部は眼瞼下以外に存在し、装用時のコンタクトレンズの有無及び表裏を外部から目視により容易に視認することができることを見出した。
【0013】
以上の知見を基にして、本発明者らは、遂に、本発明の課題を解決するものとして、特定の着色部を有する動物用コンタクトレンズ及びその製造方法を創作することに成功した。本発明はこのような本発明者らによって初めて得られた知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0014】
したがって、本発明によれば、以下の各態様が提供される。
[1]互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する動物用コンタクトレンズ。
[2]互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含み、かつ略円環状である着色部を有する動物用コンタクトレンズ。
[3]前記略円環状は、幅が0.1mm~3mmであり、及び/又は面積が50mm2~200mm2である、[2]に記載の動物用コンタクトレンズ。
[4]前記第1の着色成分の明度指数L*
1と前記第2の着色成分の明度指数L*
2との差ΔLは、+2以上であり、又は-2以下である、[1]又は[2]に記載の動物用コンタクトレズ。
[5]前記第1の着色成分の着色明度T1と前記第2の着色成分の着色明度T2との差ΔTは、+600以上であり、又は-600以下である、[1]又は[2]に記載の動物用コンタクトレンズ。
[6]前記着色部は、前記動物用コンタクトレンズの表面又は内部に備えられる、[1]又は[2]に記載の動物用コンタクトレンズ。
[7]以下の工程を含む、動物用コンタクトレンズの製造方法。
(1)雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、共重合体を得る工程
(2)前記雌型から分離した前記雄型の凸部にある共重合体の表面上に、第1の着色成分を含む第1の層を形成し、さらに該第1の層の上に第2の着色成分を含む第2の層を形成して、第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する共重合体を得る工程であって、前記第1の着色成分は第2の着色成分と異なる前記工程
(3)前記着色部を有する共重合体が凸部にある雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を得る工程
(4)前記着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を、水和膨潤処理に供することにより、着色部を有する動物用コンタクトレンズを得る工程
[8]前記動物用コンタクトレンズは、[1]又は[2]に記載の動物用コンタクトレンズである、[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズによれば、互いに異なる着色成分を積層してなる着色部により、装用したコンタクトレンズの有無及び表裏の判別を外部から目視により容易に視認できる。
【0016】
また、本発明の一態様の製造方法によれば、着色部がコンタクトレンズ基材に内包され、該着色部に用いた着色成分が眼球表面、瞼などに直接触れることを妨げることができることから、より安全な動物用コンタクトレンズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、着色部が連続した円環状である動物用コンタクトレンズの表面を図示した平面図である。
【
図1B】
図1Bは、着色部が断続的な円環状である動物用コンタクトレンズの表面を図示した平面図である。
【
図1C】
図1Cは、着色部が断続的な円環状である動物用コンタクトレンズの表面を図示した平面図である。
【
図1D】
図1Dは、着色部の外縁が波状である動物用コンタクトレンズの表面を図示した平面図である。
【
図1E】
図1Eは、着色部が2個の連続した円環状である動物用コンタクトレンズの表面を図示した平面図である。
【
図2】
図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、実施例1の動物用コンタクトレンズの表面(FC)を撮影した平面(左)及び裏面(BC)を撮影した底面図(右図)である。
【
図3】
図3は、後述する実施例に記載があるとおりの、実施例1の動物用コンタクトレンズの表面(FC)の着色部を拡大して撮影した写真(左図)及び裏面(BC)の着色部を拡大して撮影した写真(右図)である。
【
図4】
図4は、後述する実施例に記載があるとおりの、実施例1の動物用コンタクトレンズを裏面から正面にかけて撮影角度を変えて撮影した写真(上図)及び表面から正面にかけて撮影角度を変えて撮影した写真(下図)である。
【
図5】
図5は、後述する実施例に記載があるとおりの、義眼、並びに義眼上に表面及び裏面を外側に向けて載置したコンタクトレンズを上方から撮影した写真を並べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0019】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、コンタクトレンズといった眼用デバイスを取り扱う当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0020】
「含有量」は、濃度及び使用量(添加量)と同義であり、最終産物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。本明細書では、別段の定めがない限り、含有量の単位は「質量%(wt%)」を意味する。なお、成分の含有量は、市販品を用いる場合は、市販品に含まれる成分の量であることが好ましいが、市販品自体の量であってもよい。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーター等の制限事項等が挙げられる。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、それらの含まれる限界値の一方を除いた範囲もまた含まれる。例えば、「0%~100%」は、0%以上、100%以下、及び0%以上100%以下のいずれであってもよい。「約」は、その用語に続く数量の±10%以内の量を意味する。例えば、「約100」は、100±10%、すなわち、90~110を意味する。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0021】
(動物用コンタクトレンズの概要)
本発明の第1の態様は、互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する動物用コンタクトレンズである。
本発明の第2の態様は、互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含み、かつ略円環状である着色部を有する動物用コンタクトレンズである。
【0022】
一般に、コンタクトレンズを裏返して装用した場合、通常は接することがないコンタクトレンズの部位が眼球表目に接触するために、異物感や違和感が生じる。さらに、コンタクトレンズを裏返して装用し続けた場合には、該部位により眼球表面が傷つき、炎症が引き起こされるおそれがある。そこで、コンタクトレンズは、裏返さずに、正しく装用することが求められる。
【0023】
しかし、動物用コンタクトレンズの場合、コンタクトレンズを装用した動物自身により、コンタクトレンズが正しく装用されているかを確認することはできない。そこで、飼い主、獣医師などのヒトにより、外部から目視で、動物がコンタクトレンズを正しく装用していることを確認することが求められる。
【0024】
本発明の第1の態様の動物用コンタクトレンズは、異なる2色の着色成分を積層してなる着色部を有することにより、ヒトにより、外部から目視により、動物がコンタクトレンズを正しく装用していることを確認することができる。すなわち、本発明の第1の態様の動物用コンタクトレンズは、異なる2色の着色成分の積層により着色部を形成し、コンタクトレンズの表面(フロント面)側(上層)及び裏面(ベース面)側(下層)の色彩を異なるようにすることで、ヒトが、外部から目視で、動物がコンタクトレンズを正しく装用していることを確認することができる。
【0025】
一方、動物は外傷により目に痛みを感じると目を細めるので、瞼裂幅が狭くなる。したがって、コンタクトレンズを装用している動物が目に痛みを感じると、コンタクトレンズの外周縁部は、光軸(コンタクトレンズの中心)に対して上下方向の上眼瞼下及び下眼瞼下に入り込む。この際に、コンタクトレンズが周縁付近の円環領域内に離間して数個のドットとして視認部を有していても、コンタクトレンズは装用時の瞬目により円周方向に回転することから、視認部であるドットが眼瞼下に入り込み、外部から視認できない状態になる場合がある。
【0026】
本発明の第2の態様の動物用コンタクトレンズは、異なる2色の着色成分を積層してなる着色部を略円環状に有することにより、動物の眼内でコンタクトレンズが光軸を中心に回転した場合においても、着色部の光軸に対して左右方向は常に眼瞼下外に存在することから、動物がコンタクトレンズを装用していることを外部から目視により容易に確認することができる。
【0027】
(動物用コンタクトレンズ)
本発明の第1の態様及び第2の態様の動物用コンタクトレンズは、共通して、第1の着色成分を含む第1の層と、第1の着色成分とは異なる第2の着色成分を含み、かつ第1の層の上に位置する第2の層とを含む着色部を有する。なお、着色部において、第1の層はコンタクトレンズの裏面側に位置し、第2の層はコンタクトレンズの表面側に位置する。
【0028】
第1の着色成分及び第2の着色成分は、それぞれ異なる色彩を有し、着色部として動物用コンタクトレンズの表裏の判別をすることが可能であるものであれば特に限定されない。第1の着色成分及び第2の着色成分は、それぞれ異なる色彩を有することにより、それぞれ異なる明度指数を有することが好ましい。
【0029】
明度指数は日本工業規格JIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数L*を意味し、JIS Z 8722:2009に規定される分光測色方法によって求められた値を用いて算出される。具体的には、明度指数は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0030】
第1の着色成分の明度指数L*
1と第2の着色成分の明度指数L*
2との差ΔL(=L*
1-L*
2)が、絶対値として大きければ、着色部の表裏が容易に判別可能になる。ΔLは、着色部の表裏が容易に判別できるようになる程度の値であれば特に限定されないが、例えば、着色部の表裏の判別をより容易に行うためには、+2以上であり、又は-2以下であることが好ましく、+5以上であり、又は-5以下であることがより好ましく、+10以上であり、又は-10以下であることがさらに好ましく、+13以上であり、又は-13以下であることがなおさらに好ましい。
【0031】
第1の着色成分及び第2の着色成分のいずれの明度指数が大きい場合であっても、着色部の表裏の判別を行うことは可能である。しかし、第2の着色成分の明度指数が高すぎる場合は、目視により、着色部がギラついて見難いなどの問題が生じるおそれがあることから、第1の着色成分の明度指数L*
1が、第2の着色成分の明度指数L*
2よりも大きい値であること、すなわち、ΔLが正の値であることが好ましい。例えば、第1の着色成分が白色成分であり、かつ第2の着色成分が橙、青、赤などの有色成分であることが好ましい。
【0032】
着色部とコンタクトレンズを装用する動物の虹彩色とを区別するために、第1の着色成分及び第2の着色成分は、該動物の虹彩色よりも明るいこと、すなわち、L*
1及びL*
2は、該動物の虹彩色の明度指数L*
0より大きいことが好ましい。L*
1及びL*
2は特に限定されないが、例えば、動物がイヌなどの虹彩が茶色を呈している場合は、それぞれ30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましい。L*
1及びL*
2の上限は特に限定されないが、典型的には90以下である。
【0033】
着色部により、外部から目視で、コンタクトレンズが正しく装用されていることをより容易に確認できるように、すなわち、着色部の視認性をより高めるためには、第1の層及び第2の層はそれぞれ一定の面積を有することが好ましい。第1の層の面積S1及び第2の層の面積S2は、外部から目視で着色部が認識し得る程度の値であれば特に限定されないが、例えば、10mm2~500mm2であることが好ましく、50mm2~200mm2であることがより好ましく、75mm2~150mm2であることがさらに好ましい。S1及びS2は互いに異なっていてもよく、同じでもよいが、表裏の判別をより容易にするために同じであることが好ましい。
【0034】
着色部の視認性は、第1の着色成分の明度指数L*
1と第1の層の面積S1との積である着色明度T1(=S1(mm2)×L*
1)及び第2の着色成分の明度指数L*
2と第2の層の面積S2との積である着色明度T2(=S2(mm2)×L*
2)により表すこともできる。T1及びT2の値が大きいほど、それぞれの層の面積は大きく、明るく着色されていることになり、外部からの着色部の視認性がより高くなる。また、第1の着色明度T1と第2の層の着色明度T2との差によって表されるΔT(=T1-T2)が絶対値として大きければ、コンタクトレンズの表裏を容易に判別可能になる。この観点から、ΔTは、例えば、+600以上であり、又は-600以下であることが好ましく、+800以上であり、又は-800以下であることがより好ましく、+1,000以上であり、又は-1,000以下であることがさらに好ましく、+1,500以上であり、又は-1,500以下であることがなおさらに好ましい。
【0035】
T1及びT2は特に限定されないが、例えば、着色部の視認性を高めるために、それぞれ1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、4,000以上であることがさらに好ましく、6,000以上であることがなおさらに好ましい。T1及びT2の上限は特に限定されないが、典型的には15,000以下である。
【0036】
第1の層及び第2の層のいずれの着色明度が大きい場合であっても、外部からのコンタクトレンズの装用の有無を確認及び表裏の判別を行うことは可能であるが、第1の層に明度指数が大きい着色成分を用いることにより、虹彩色を隠蔽する効果が得られる。これにより、第2の層は虹彩色の影響を受けずに、第2の着色成分の本来の色彩を発現することができることから、第1の層の着色明度T1が、第2の層の着色明度T2よりも大きいこと、すなわち、ΔTが正の値であることが好ましい。
【0037】
着色部は、第1の着色成分を含む第1の層及び第2の着色成分を含む第2の層を含めばよく、さらに第1の層の下に第3の着色成分を含む第3の層を含んでもよい。第1の層と第2の層との間には、別の層が無いことが好ましく、着色部は第1の層及び第2の層からなることがより好ましい。着色成分は、それぞれ単一の着色剤であっても、複数の着色剤を組み合わせたものであってもいずれでもよい。
【0038】
本発明の第2の態様の動物用コンタクトレンズでは、着色部は、コンタクトレンズの円周方向に略円環状に配置される。略円環状の着色部は、連続した円環状(例えば、
図1A)を呈してもよいし、断続的な円環状(例えば、
図1B及び
図1C)、楕円的な円環状などを呈してもよい。略円環状の着色部は、断続的な円環状である場合は、連続した円環状を100%の円環状とすると、好ましくは80%以上の円環状であり、より好ましくは85%以上の円環状であり、さらに好ましくは90%以上の円環状である。また、略円環状の着色部は、全体としてコンタクトレンズの円周方向に配置されるのであれば、その外縁は波状(例えば、
図1D)、ジグザグ状などであってもよい。
【0039】
略円環状の着色部の外径及び幅は、上記した面積になる値であれば特に限定されないが、例えば、外径(最大径)は5mm~12mmであることが好ましく、7mm~11mmであることがより好ましく、又はコンタクトレンズの直径に対して35%~80%であることが好ましく、50%~75%であることがより好ましく;及び/又は、幅は0.1mm~3mmであることが好ましく、0.5mm~2mmであることがより好ましい。
【0040】
動物用コンタクトレンズにおける着色部の配置部位は、視界を妨げることがないように中心光学部に掛かることを避ければ特に限定されないが、例えば、中心から外縁にかける方向で、装用時の着色部による外見の違和感を低減するという観点では、中間~外縁付近であることが好ましく、外部からの視認性を高めるという観点では、中間付近であることがより好ましい。
【0041】
着色部の数は特に限定されず、1個又は2個以上であってもよい。例えば、略円環状の着色部を、コンタクトレンズの円周方向に、隙間を空けて2個以上並べて配置することができる。
図1Eは、略円環状の着色部を、コンタクトレンズの円周方向に、隙間を空けて2個並べて配置したものである。着色部の数が2個以上の場合は、第1の層の色はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよく、第2の層の色はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
着色部は、動物用コンタクトレンズの表面、内部及びその両方に配置することができ、特に限定されない。ただし、着色部は、眼球に接しないようにするために、動物用コンタクトレンズの裏面には配置されない。着色部が瞼などの眼組織に接することを忌避する場合は、着色部を動物用コンタクトレンズの内部に配置することが好ましい。
【0043】
着色部における第2の層の色彩が動物の虹彩の色彩と近似する場合でさえ、本発明一態様の動物用コンタクトレンズは、その装用の有無及び表裏の判別を外部から視認することができる。コンタクトレンズの装用の有無及び表裏の判別は、後述する実施例に記載の表裏判別性及び外部視認性により「○」と評価される程度であることが好ましい。
【0044】
(動物用コンタクトレンズの構成成分)
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズは、少なくとも着色成分及びコンタクトレンズ基材を構成成分とする。
【0045】
着色成分を構成する着色剤は特に限定されず、例えば、染料及び顔料などが挙げられる。
【0046】
染料は、化学構造や反応性により、直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料、反応染料などに分類される。直接染料は特に限定されないが、例えば、ダイレクト S イエロー RL、ダイレクト S レッド BWS、ダイレクト オレンジ S、ダイレクト ボルドー GS、ダイレクト ブルー BB、ダイレクト S ブルー 4BL H/C、ダイレクト S ブルー BRL 200、ダイレクト スカイブルー 5B、ダイレクトライト スカーレット F2G、ダイレクトライト ローズ FR、ダイレクト F ブラック B160、スミライト S ブルー FBGL、スミライト S ブルー FGL、カヤラス L イエロー F8G、カヤラス S イエロー GLS、カヤラス イエロー PG、カヤラス S オレンジ 2GL 125%、カヤラス S ブロン B2R、カヤラス S ブロン GL 125、カヤラス S ブロン GTL、カヤラス L レッド F5B、カヤラス S ルビン BL、カヤラス S ブルー RCL、カヤラス S ブルー 4G、カヤラス S ブルー BWL 143、カヤラス T ブルー GL、カヤラス S グリーン F4G、カヤラス C グリーン G、カヤラス S グレー L3R、カヤラス S グレー CGL、カヤラス S スカーレッド BNL 200、カヤラス ライトスカーレット F2G、カヤラス S レッド 6BL 170%、カヤラス S バイオレット 5BL コンク、カヤラス C ネイビーブルー CLWなどが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0047】
酸性染料は特に限定されないが、例えば、カヤノール イエロー NFG、カヤノール イエロー N3R、カヤノール M イエロー 5GW、カヤノール M イエロー O、カヤノール M イエロー 3GW、カヤノール M スカーレット FGW、カヤノール M レッド 6BW 、カヤノール M バイオレット FBW、カヤノール M ターキスブルー 3G、カヤノール M ブラック VLG、カヤノール M グリーン 5GW、カヤノール M グリーン GW、カヤノール ミーリング ブルー GW、カヤノール ミーリング ブルー BW、カヤノール M バイオレット FBW、カヤノール ミーリング ブラック TLB、アミニール イエロー E-3RL、アミニール イエロー E-3GL、アミニール レッド E-3BL、アミニール ブルー E-2GL、カヤカラン スカーレット GL、カヤカラン ボルドー BL、スミノール F イエロー R コンク、スミノール F イエロー 2GP、スミノール F ブラック BR コンク、スミノール F イエロー G、スミノール M ボルドー B、スミノール M ブリリアント レッド B(N) コンク、スミノール M ブリリアント レッド 3BN コンク、スミノール M レッドブラウン V コンク、ラニール ブラック BG ex/co、ラニール ブロン GR(N)、ラニール イエロー R ex/co、アシド M レッド PG、アシド M レッド GRA、アシド M レッド RS 125、アシド M レッド 3BW、アシド グリーン SS 200、アシド M グリーン B、アシド バイオレット 4BNS、アシド M サイアニン 5R、イノラ M イエロー NRG-N、イノラ スカーレット BA、イノラ F サイアニン 6B H/C、イノラ F バイオレット 5Bなどが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0048】
塩基性染料は特に限定されないが、例えば、アストラ フロキシン FF コンク、プリモ フラビン 8G、メチールバイオレット BB、メチールバイオレット ピュア SP、カチロン イエロー 7GLH、カチロン B イエロー 5GLH200%、カチロン イエロー3GLH200%、カチロン イエロー K-3RLH、カチロン イエロー SGLH、カチロン イエロー T-RLH、カチロン オレンジ GLH200%、カチロン B レッド 4GH200%、カチロン レッド 6BH、カチロン レッド 7BNH200%、カチロン B レッド 3BPH、カチロン レッド CD-FBLH、カチロン ブルー BRLH200%、カチロン ブルー T-BLH、カチロン ブルー CD-FBLH、カチロン ブルー 3GLH、カチロン ブラック CD-BLH、カチロン ブラック MH、カチロン ブラック NH200%、アストラゾン イエロー 7GLL200%、アストラゾン イエロー 8GSL200%、アストラゾン イエロー GRL200%、アストラゾン レッド BBL200%、アストラゾン レッド 6B、アストラゾン レッド CS-N、アストラゾン レッド GTLN200% 01、アストラゾン ブルー BG200%、アストラゾン ブルー 5GL200%、アストラゾン ブルー AU-N02、アストラゾン ブラック FDL200%01、アストラゾン ブラック SW200%などが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0049】
分散染料は特に限定されないが、例えば、ダイアニックス Br イエロー 5GE、ダイアニックス Br ブルー GRE、ダイアニックス Br ネイビーブルー BNE、ダイアニックス Br ブラック BNSE、ダイアニックス イエロー 7GL200%、ダイアニックス イエロー G-FS200、ダイアニックス レッドR-E167、ダイアニックス レッドBN-SE、ダイアニックス レッドG-FS、ダイアニックス レッドGR、ダイアニックス ブルー3RLS、ダイアニックス ブルーFBL-E、ダイアニックス ブラックBG-FS200%01、ダイアニックス ブラックHG-FS コンク、スミカロン イエロー SE5G、スミカロン ブロン G、スミカロン カーキ GG、スミカロン オリーブ MW、スミカロン バイオレット S4RL ex/co、ミケトン P オレンジ SF、ミケトン P レッド BSF、ミケトン P レッド BLSF、カヤロン P スカーレット RLSF、カヤロン P ルビン GLSE 200%、カヤロン P ブラック EXSF 200%などが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0050】
反応染料は特に限定されないが、例えば、レマゾール B イエロー 4GL、レマゾール B イエロー GL、レマゾール イエロー FG 150%、レマゾール イエロー GNL、レマゾール イエロー GR、レマゾール G イエロー G、レマゾール G オレンジ4G、レマゾール B オレンジ FR、レマゾール B オレンジ 3R、レマゾール B レッド GG、レマゾール B レッド BB150%、レマゾール B レッド F3B、レマゾール レッド RHG、レマゾール ボールド B、レマゾール B バイオレット 5R90%、レマゾール B ブルー RKN、レマゾール B ブルー BB133%、レマゾール ターキス B、レマゾール ターキス G133%、レマゾール B グリーン 6B175%、レマゾール ネービー RGB150%、レマゾール ブラック B150%、レマゾール ブラック DEN、レマゾール ブラック A、レマゾール ブラック B、スミフィクス イエロー 2GL150%、スミフィクス イエロー GR150%、スミフィクス G イエロー GG150%、スミフィクス オレンジ 3R150%、スミフィクス レッド G150%、スミフィクス レッド BB150%、スミフィクス レッド BS、スミフィクス レッド 7BF25%、スミフィクス ブルー R、スミフィクス ブルー KP、スミフィクス ターキスブルー G、スミフィクス Nブルー EXF、スミフィクス ブラック B150%、スミフィクス ブラック EX、スミフィクス ブラック EA、カヤシオン イエロー P-5G、カヤシオン イエロー PN―3R、ミカシオン イエロー 8GN、カヤシオン オレンジ PG、カヤシオン ブラウン P-4NR、カヤシオン スカーレットP RN、カヤシオン レッド P-2B、カヤシオン レッド P-4BN、カヤシオン レッド A-3B、カヤシオン ブルー P-3R、カヤシオン ブルー A-B、カヤシオン ネイビー P-N2R、カヤシオン ブラック P-N、シバクロン イエロー P―6GS、シバクロン オレンジ P―2R、シバクロン ブラウン P―6R150、シバクロン レッド P―B、シバクロン レッド P―4B、シバクロン レッド P―6B150、シバクロン ブルー P-3R、シバクロン ブラック PGR150%などが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0051】
顔料としては、天然鉱物系、合成無機系の無機顔料、アゾ系、多環式系のアゾ顔料などが挙げられる。無機顔料は特に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ベントナイト、マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化マグネシウム、黄酸化鉄、ベンガラ、グンジョウ、水酸化クロム、酸化クロム、カラミンなどが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。アゾ顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、難溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合系アゾ顔料などが挙げられ、また、多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン系、キノクリドン系、ジオキザジン系、イソインドリノン系、スレン系、イソインドリン系、レーキ系、ペリレン系、金属錯体系などが挙げられ、これらの1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
染料及び顔料は、それぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。無機顔料は、虹彩色の隠蔽効果を有していることから、下層である第1の層に含まれる第1の着色成分に含まれることが好ましい。
【0052】
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズは、動物が目に外傷を負った際に、眼組織を保護するためのバンデージとして用いられることが想定される。この観点から、本発明の一態様の動物用コンタクトレンズは、コンタクトレンズ基材が柔軟性を有するハイドロゲルであることが好ましい。
【0053】
ハイドロゲルは、親水性モノマーを含むモノマー成分の重合体(ポリマー)がベースとなる。ハイドロゲルは、ポリマーマトリックス内で水又は水を含有する溶液などの水性液体によって膨潤し、かつ水性液体を保持するものである。本明細書では、水性液体を除くポリマーそのものをコンタクトレンズ基材とよぶ。なお、モノマー(単量体)が重合してなるものがポリマー(重合体、高分子)であり、ポリマーにおける各モノマーに由来する構成単位を残基及び部分ともよぶ。
【0054】
ハイドロゲルの具体例としては、親水性モノマーを用いて製造されたハイドロゲル、親水性モノマーと疎水性モノマー、架橋性モノマーなどの親水性モノマーと共重合可能なモノマーとを用いて製造されたハイドロゲルなどが挙げられる。
【0055】
親水性モノマーは、分子内に少なくとも1個の親水性基と、(メタ)アクリロイル基、ビニル基といった重合性基とを有する重合可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アクリルアミド、2-ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-ビニルピロリドン(NVP)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、(メタ)アクリル酸、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリル(メタ)アクリレート(グリセロール(メタ)アクリレート)、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルアセトアミド、N-ビニル-N-エチルホルムアミド、N-ビニルホルムアミドなどが挙げられ、これらの1種の単独であってもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。親水性モノマーは、安全性の観点から、コンタクトレンズの原料として一般的に用いられる2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-ビニルピロリドン及びN,N-ジメチルアクリルアミドが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」の記載は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
【0056】
親水性モノマーの含有量は、親水性モノマーを含むモノマー成分を共重合して得られる重合体がハイドロゲルを形成することができる量であれば特に限定されないが、例えば、モノマー成分の総量に対して、好ましく50wt%~99.99wt%であり、より好ましくは75wt%~99.90wt%である。
【0057】
ハイドロゲルの網目構造の形成及び機械的強度を調整するために、モノマー成分として架橋性モノマーを含んでもよい。
【0058】
架橋性モノマーは、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基といった重合性基を有する重合可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエリチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系架橋性モノマー;アリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、トリアリルホスフェート、トリアリルトリメリテート、ジアリルエーテル、N、N-ジアリルメラミン、ジビニルベンゼン等のビニル系架橋性モノマーなどが挙げられ、これらの1種の単独であってもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。架橋性モノマーは、これらのうち二官能架橋性モノマーが好ましく、コンタクトレンズの原料として一般的に用いられるエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエリチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0059】
架橋性モノマーの含有量は、ハイドロゲルが備える所望の網目構造の形成性及び機械的強度に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、モノマー成分の総量に対して、好ましくは0.01wt%~3.0wt%であり、含有量が過剰であるとハイドロゲルの柔軟性が損なわれる傾向にあることから、より好ましくは0.05wt%~1.5wt%であり、さらに好ましくは0.1wt%~0.5wt%である。
【0060】
ハイドロゲルに所望の光学特性及び物理化学的特性などの特性を付与するために、モノマー成分として、コンタクトレンズの原料として一般的に用いられるシリコーン系モノマー、疎水性モノマー、紫外線吸収剤などを使用してもよい。
【0061】
ハイドロゲルのサイズは、装用する動物に合わせて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、イヌに装用する場合は、直径は10mm~20mmであることが好ましく、12mm~18mmであることがより好ましく;ベースカーブ(BC)は7mm~12mmであることが好ましく、8mm~10mmであることがさらに好ましい。
【0062】
(動物用コンタクトレンズの製造方法)
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズの製造方法は特に限定されず、着色された部位を有するコンタクトレンズを製造する方法を応用して製造することができる。例えば、常法に従って調製した着色成分を、スピンコーティング法、スプレー法、ディッピング法、パッド印刷法などの一般的に用いられる方法により、コンタクトレンズ基材、好ましくはコンタクトレンズ基材の表面及び/又は内部に塗布することにより、着色部を有するコンタクトレンズが得られる。着色部を表面に有するコンタクトレンズを製造する場合は、着色成分の印刷位置を調整するのに適しているパッド印刷法を利用することが好ましい。
【0063】
一方、着色部が眼組織に接することを忌避して、着色部を動物用コンタクトレンズの内部に配置する場合は、パッド印刷法と雄型及び雌型の成形型を用いるキャストモールド法とを組み合わせて用いることにより動物用コンタクトレンズを製造することが好ましい。本発明の別の一態様は、パッド印刷法及びキャストモールド法を利用した動物用コンタクトレンズの製造方法である。
【0064】
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズの製造方法は、以下の工程を含む:
(1)雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、共重合体を得る工程;
(2)前記雌型から分離した前記雄型の凸部にある共重合体の表面上に、第1の着色成分を含む第1の層を形成し、さらに該第1の層の上に第2の着色成分を含む第2の層を形成して、第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する共重合体を得る工程であって、前記第1の着色成分は第2の着色成分と異なる前記工程;
(3)前記着色部を有する共重合体が凸部にある雄型を、凹部にコンタクトレンズ形成用組成物を含む雌型に嵌入して得られる成形型を、共重合反応に供することにより、着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を得る工程;及び
(4)前記着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を、水和膨潤処理に供することにより、着色部を有する動物用コンタクトレンズを得る工程。
【0065】
工程(1)では、着色剤を塗布する対象になるコンタクトレンズ形状の共重合体を得る。工程(2)では、共重合体の表面(フロントカーブ面;FC)を解放して、該表面上に第1の着色成分を塗布及び乾燥して第1の層を形成する。なお、共重合体の表面の裏側の面が裏面(ベースカーブ面;BC)である。さらに、第1の層の上に第2の着色成分を塗布及び乾燥して第2の層を形成する。これにより、雄型の凸部の先端に付着した共重合体の表面上に第1の層及び該第1の層の上に第2の層が積層された着色部が形成される。工程(3)では、凸部の先端に着色部を有する共重合体が付着した雄型を、凹部にモノマー成分を含む雌型に嵌入して、雄型及び雌型からなる成形型を共重合反応に供することにより、着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を得る。工程(4)では、着色部を有する動物用コンタクトレンズ基材を水和膨潤することにより、異なる二色の着色成分が積層された着色部を内部に備える動物用コンタクトレンズが得られる。
【0066】
本発明の一態様の製造方法は、本発明の課題を解決し得る着色部を有する動物用コンタクトレンズが得られる限り、工程と工程との間、工程途中などに種々の工程や操作を加えることができるが、工程(1)~(4)が連続的に行われることが好ましい。
【0067】
工程(1)では、通常のキャストモールド法によるコンタクトレンズの製造方法と同様にして、雄型及び雌型の間にコンタクトレンズ形成用組成物を入れた成形型を共重合反応に供して、共重合体を得る。コンタクレンズ形成用組成物はモノマー成分、重合開始剤及び任意にその他の添加剤を含む。
【0068】
コンタクトレンズ形成用組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、得られる共重合体が所望の物性になるような量に設定したモノマー成分、重合開始剤といったコンタクトレンズを構成する成分を、マグネットスターラーなどを用いて撹拌して混合することにより調製される。
【0069】
重合開始剤は、使用するモノマーの性質などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などが挙げられる。重合開始剤としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合開始剤の添加量は、モノマーの共重合反応が達成できる量であればよく、特に限定されないが、例えば、モノマー成分の総量に対して、好ましくは10ppm~7,000ppmである。
【0070】
コンタクトレンズ形成用組成物の適量を注入した成形型の雌型に、雄型を嵌入した後に、成形型を共重合反応に供する。共重合反応の条件は、使用する重合開始剤の種類に応じて適宜設定できる。例えば、重合開始剤として光重合開始剤を用いる場合は、コンタクトレンズ形成用組成物を入れた成形型に20℃~40℃で光照射する。また、例えば、重合開始剤として熱重合開始剤を用いる場合は、コンタクトレンズ形成用組成物を入れた成形型を室温~100℃程度までの間で加温する。このような条件下に成形型を共重合反応が完了する時間、好ましくは数時間~120時間おけばよい。
【0071】
共重合反応後は、成形型を用いて行うコンタクトレンズの製造において通常用いられる方法により、雌型と雄型とを分離して、雄型の凸面上に付着したコンタクトレンズ形状の共重合体を得る。この場合、雌型の凹面に接していた面が共重合体の表面(FC面)となる。
【0072】
工程(2)は、例えば、工程(1)で得られた共重合体の表面の所定の位置に、パッド印刷などにより、第1の着色成分を塗布した後に、恒温乾燥機などを用いて十分に乾燥することにより、共重合体の表面上に第1の着色成分を含む第1の層を形成すればよい。また、同様の操作により、第1の層の上に第2の着色成分を含む第2の層を形成することができる。着色成分の塗布量、乾燥条件などは、着色成分として用いる着色剤の種類及び濃度などに応じて適宜設定すればよい。工程(2)を通じて、表面上に第1の着色成分を含む第1の層及びその上に第2の着色成分を含む第2の層からなる多層構造の着色部を有する共重合体が得られる。着色部を有する共重合体は、依然として雄型の凸部に付着している。各着色成分は、着色成分をそのまま用いてもよいし、着色成分を含む溶液を調製して用いてもよい。着色成分を含む溶液は特に限定されないが、例えば、着色成分が1wt%~90wt%、好ましくは10wt%~50wt%になるように、着色成分を、着色成分を溶解可能な溶媒、例えば、ヘキサン、アセトン、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒へ溶解して、調製したものなどが挙げられる。着色成分を含む溶液は、その他の成分、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどの増粘剤、コンタクトレンズ基材の構成成分であるモノマー成分などを含んでもよい。
【0073】
工程(3)は、工程(1)と同様の操作を実施する。すなわち、工程(1)で用いたのと同一又は異なるコンタクトレンズ形成用組成物の適量を注入した、工程(1)で用いたものと凹部のサイズが同一又は異なる雌型成形型に、工程(4)後の凸部に着色部を有する共重合体が付着した雄型を嵌入した後に、成形型を重合開始剤の種類及び量に応じた条件で共重合反応に供することにより、着色部を有するコンタクトレンズ基材を得ればよい。なお、工程(3)で用いる雌型は、工程(1)で用いる雌型と同一の形状であることが好ましい。
【0074】
工程(4)では、工程(3)により形成された着色部を有するコンタクトレンズ基材を成形型から離型し、必要に応じて切削及び/又は研磨した後に、水和膨潤させてハイドロゲルとする。使用する液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液などが挙げられる。水和膨潤処理は、60℃~100℃に加温した膨潤液に着色部を有するコンタクトレンズ基材を一定時間浸漬することにより、着色部を有するコンタクトレンズ基材を膨潤状態とすることが好ましい。また、水和膨潤処理では、着色部を有するコンタクトレンズ基材に含まれる未重合モノマーを除去することが好ましい。
【0075】
水和膨潤後のハイドロゲルは、約10wt%~約80wt%のコンタクトレンズ基材(ポリマー)を含むことができる。すなわち、ハイドロゲルの基材は、ハイドロゲルにおいて約40wt%~約80wt%の割合を占める。ハイドロゲルの残りは、典型的には、ハイドロゲルの基材を水和する液体成分(例えば、水)から形成される。
【0076】
(動物用コンタクトレンズの用途)
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズが装用される動物は特に限定されず、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギといった哺乳動物などが挙げられる。ただし、本発明の一態様の動物用コンタクトレンズが装用される動物にヒトは含まれない。したがって、本発明の一態様の動物用コンタクトレンズは、非ヒト用コンタクトレンズということができる。
【0077】
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズを動物に適用する方法は特に限定されず、ヒトの手によって動物の眼内に適用してもよいし、専用の器具を用いて動物の眼内に適用してもよいし、いずれの方法であってもよい。
【0078】
本発明の一態様の動物用コンタクトレンズの用途は特に限定されないが、例えば、角膜を保護するためのバンテージ用コンタクトレンズとして利用することが好ましい。
【0079】
以下、本発明の実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0080】
[1.着色成分の調製]
第1の着色成分として、酸化チタン 20wt%、ポリエチレングリコール(PEG)20wt%及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) 40%を含有するヘキサン溶液 60wt%を混合して、20wt%酸化チタン溶液を調製した。
第2の着色成分として、ピグメントレッド187及びピグメントイエロー180をそれぞれ10wt%、ポリエチレングリコール(PEG) 20wt%並びに2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) 40%を含有するヘキサン溶液60wt%を混合して、20wt%顔料溶液を調製した。
【0081】
[2.動物用コンタクトレンズ形成用組成物の調製]
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) 95.0wt%、メタクリル酸(MAA) 4.80wt%及びエチレングリコールジメタクリレート(EDMA) 0.20wt%を加えたビーカーに、これらのモノマーの総質量に対して3,500ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加えた。該ビーカーの内容物を撹拌混合することにより、動物用コンタクトレンズ形成用組成物を調製した。
【0082】
[3.実施例1の動物用コンタクトレンズの製造]
直径が14.50mmであり、かつベースカーブ(BC)が8.60mmになるようなコンタクトレンズを形成するための雄型及び雌型の一対からなる成形型を用意した。
【0083】
成形型の雌型内に、コンタクトレンズ形成用組成物を注入した後に、成形型の雄型を嵌入した。得られた一対の成形型を、30℃~100℃の範囲で12時間かけて昇温させる共重合反応に供した。共重合反応後の成形型を室温に戻し、雌型を分離することにより、凸部の先端にコンタクトレンズ基材(1)が付着した雄型を得た。
【0084】
雄型に付着したコンタクトレンズ基材(1)上に、パッド印刷を用いて、第1の着色成分を円環状に印刷した。印刷後の雄型を、50℃に設定した恒温乾燥機内に2時間静置することにより、第1の層からなる着色部を有するコンタクトレンズ基材(2)を付着した雄型を得た。次いで、雄型に付着したコンタクトレンズ基材(2)の第1の層からなる着色部の上に、パッド印刷を用いて、第2の着色成分を円環状に印刷した。印刷後の雄型を、50℃に設定した恒温乾燥機内に2時間静置することにより、第1の層及びその上に第2の層がある着色部を有するコンタクトレンズ基材(3)を付着した雄型を得た。なお、着色部は、外径(最大径)が9.80mmであり、幅が1.05mmであり、かつ面積が116.00mm2である円環状を呈した。
【0085】
成形型の雌型内に、別のコンタクトレンズ形成用組成物を注入した後に、コンタクトレンズ基材(3)を付着した雄型を嵌入した。得られた一対の成形型を、30℃~100℃の範囲で12時間かけて昇温させる共重合反応に供した。共重合反応後の成形型を室温に戻し、雌型を分離することにより、第1の層及びその上に第2の層がある着色部を内包するコンタクトレンズ基材(4)を付着した雄型を得た。
【0086】
コンタクトレンズ基材(4)を付着した雄型を、70℃のエタノール含有生理食塩水溶液及び70℃の生理食塩水溶液中にそれぞれ1時間浸漬する水和膨潤処理に供し、次いで雄型から離型したハイドロゲルを新たな生理食塩水溶液に浸漬して、121℃にて30分間の高圧蒸気滅菌処理に供することにより、実施例1の動物用コンタクトレンズを得た。実施例1の動物用コンタクトレンズは、第1の層及びその上に第2の層がある着色部を内包した。
【0087】
[4.比較例1の動物用コンタクトレンズの製造]
上記[3]と同様にして凸部の先端にコンタクトレンズ基材(1)が付着した雄型を得た。雄型に付着したコンタクトレンズ基材(1)上に、パッド印刷を用いて、第2の着色成分を円環状に印刷した。印刷後の雄型を、50℃に設定した恒温乾燥機内に2時間静置することにより、第2の層からなる着色部を有するコンタクトレンズ基材(5)を付着した雄型を得た。なお、着色部は、外径(最大径)が9.80mmであり、幅が1.05mmであり、かつ面積が116.00mm2である円環状を呈した。
【0088】
コンタクトレンズ基材(3)を付着した雄型に代えてコンタクトレンズ基材(5)を付着した雄型を用いたこと以外は、上記[3]と同様にして、比較例1の動物用コンタクトレンズを得た。比較例1の動物用コンタクトレンズは、第2の層からなる着色部を内包した。
【0089】
[5.比較例2の動物用コンタクトレンズの製造]
上記[3]と同様にして第1の層からなる着色部を有するコンタクトレンズ基材(2)を付着した雄型を得た。なお、着色部は、外径(最大径)が9.80mmであり、幅が1.05mmであり、かつ面積が116.00mm2である円環状を呈した。
【0090】
コンタクトレンズ基材(3)を付着した雄型に代えてコンタクトレンズ基材(2)を付着した雄型を用いたこと以外は、上記[3]と同様にして、比較例2の動物用コンタクトレンズを得た。比較例2の動物用コンタクトレンズは、第1の層からなる着色部を内包した。
【0091】
[6.評価方法]
(1)明度指数(L*
1)及び着色明度(T1)
コンタクトレンズ基材(2)における第1の層からなる着色部を、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて撮影した後に、ビットマップ画像編集アプリケーションソフトウェアを用いて、撮影画像における着色部のヒストグラムを解析し、得られたRGB値より明度指数(L*
1)を算出した。次いで、得られた明度指数(L*
1)と着色部の面積S(mm2)から、着色明度(T1)を算出した。同様に、コンタクトレンズ基材(3)における第1の層及びその上に第2の層がある着色部、並びにコンタクトレンズ基材(5)における第2の層からなる着色部について、明度指数(L*
1)及び着色明度(T1)を算出した。
【0092】
(2)表裏判別性
コンタクトレンズの表面(成形型の雌型の凹部に接する面;FC)及び裏面(成形型の雄型の凸部に接する面;BC)の判別性を、以下の基準に従って、表面又は裏面を外側にして義眼(1)~(8)に載置したコンタクトレンズを目視で確認することにより評価した。義眼(1)~(8)には、市販されている手芸ぬいぐるみ用の義眼(虹彩がそれぞれ黒色、茶色、緑色、斑な黒色、斑な薄茶色、斑な濃茶色、薄緑色及び青色のもの)を用いた。
○:表面及び/又は裏面の着色部の色彩のみで判別ができた
×:表面及び裏面の着色部の色彩のみでは判別ができず、外観形状により判別できた
【0093】
(3)外部視認性
コンタクトレンズにおける着色部の視認性を、以下の基準に従って、表面を外側にして義眼(1)~(8)に載置したコンタクトレンズの着色部を目視で確認することにより評価した。
○:着色部を容易に視認できた
×:着色部を視認できなかった、又は視認できたとしても見え難かった
【0094】
[7.評価結果]
実施例1の動物用コンタクトレンズを、黒地を背景にして撮影した写真を
図2~
図4に示す。
図2の左図は表面(FC)を撮影した平面図であり、
図2の右図は裏面(BC)を撮影した底面図である。
図3の左図は表面(FC)の着色部を拡大して撮影した平面図であり、
図3の右図は裏面(BC)の着色部を撮影した底面図である。
図4の上図は裏面から正面にかけて撮影角度を変えて撮影した図であり、
図4の下図は表面から正面にかけて撮影角度を変えて撮影した図である。
【0095】
これらの図が示すとおり、実施例1の動物用コンタクトレンズは、第1の着色剤として用いた酸化チタンにより白色を呈した第1の層と、第2の着色剤として用いた橙顔料により橙色を呈した第2の層とにより、表面からは着色部が薄橙色に見え、裏面からは着色部が白色に見えることにより、コンタクトレンズの表裏が着色部の色の見え方により視認可能であることがわかった。
【0096】
明度指数(L
*
1)、着色明度(T
1)、表裏判別性及び外部視認性の評価結果を、レンズ形状及び着色部形状とともに、表1に示す。また、表1には、実施例1の動物用コンタクトレンズについて、着色部の上層及び下層の明度差を合わせて示す。また、実施例1及び比較例1の動物用コンタクトレンズについて、表裏判別性を評価する際に、義眼、並びに義眼上に表面及び裏面を外側に向けて載置したコンタクトレンズを上方から撮影した写真を
図5に示す。
【0097】
表1及び
図5に示すとおり、実施例1の動物用コンタクトレンズはいずれの義眼上でも表裏の判別が可能であったが、比較例1及び比較例2の動物用コンタクトレンズはいずれの義眼上でも表裏の判別ができなかった。
【0098】
実施例1の動物用コンタクトレンズは、表裏の判別ができたことから当然に、いずれの義眼上でも着色部の存在が視認できた。しかし、比較例1及び比較例2の動物用コンタクトレンズは義眼の種類によっては、着色部の視認が困難であった。特に、虹彩が茶色を呈した義眼2及び5~6上に載置した場合には、比較例1及び比較例2の動物用コンタクトレンズの着色部は視認が困難であった。
【0099】
以上の結果から、単一の着色剤を用いて形成された着色部の色彩が虹彩の色彩と近似する場合は、動物の眼に装用したコンタクトレンズについて、着色部による視認は困難であることがわかった。それに対して、互いに異なる色彩を有する第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する動物用コンタクトレンズは、たとえ第2の層の色彩が虹彩の色彩と近似するとしても、動物の眼に装用したコンタクトレンズを着色部により視認できることがわかった。
【0100】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、適用した動物に対して、装用したコンタクトレンズの有無及び表裏の判別を外部から目視により容易に視認できる安全性の高いコンタクトレンズを工業的規模で、大量に製造することができ、もって動物に対する健康及び福祉に資することができる。
【要約】
【課題】
本発明の目的は、外部から目視により装用時のコンタクトレンズの有無をより容易に確認することができ、さらにこのときのコンタクトレンズの表裏を判別できる動物用コンタクトレンズ及び該動物用コンタクトレンズの製造方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含む着色部を有する動物用コンタクトレンズ、互いに異なる第1及び第2の着色成分をそれぞれ含む第1の層及びその上にある第2の層を含み、かつ略円環状である着色部を有する動物用コンタクトレンズなどにより解決される。
【選択図】
図4