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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】発泡樹脂断熱材及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/02 20060101AFI20240704BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20240704BHJP
   B29C 44/12 20060101ALI20240704BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20240704BHJP
   F16L 59/04 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C08J9/02 CFF
B29C44/00 A
B29C44/12
B32B5/24 101
F16L59/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024501774
(86)(22)【出願日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2023035681
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022159082
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000244084
【氏名又は名称】明星工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山城 博隆
(72)【発明者】
【氏名】河野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】森下 祐一
(72)【発明者】
【氏名】長治 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】毛利 健吾
(72)【発明者】
【氏名】長浦 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】深沢 純也
(72)【発明者】
【氏名】畠 透
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-247973(JP,A)
【文献】特開2020-200894(JP,A)
【文献】特開2015-048903(JP,A)
【文献】特開2016-102580(JP,A)
【文献】実開平06-032899(JP,U)
【文献】特開平10-076543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
B29C
B32B
F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温に伴って体積が収縮し、温度が低下すると体積が膨張する負熱膨張材を混入させた未発泡樹脂材を、発泡により成型してある発泡樹脂成型体からなる発泡樹脂断熱材。
【請求項2】
本発明の第2の特徴構成は、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートが前記発泡樹脂成型体との内面および外面に一体化してある請求項1に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項3】
前記発泡樹脂成型体と、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートとが互いに層状に積層した状態で一体化してある請求項1に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項4】
前記繊維シートの複数層が、前記発泡樹脂成型体と一体化してある請求項3に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項5】
前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を混入一体化してある請求項1または2に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項6】
前記負熱膨張材が、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)、リン酸硫酸ジルコニウム(Zr2SP212)、ビスマス・ニッケル・鉄からなるペロブスカイト構造を持つ酸化物セラミックスBiNi1-xFexO3、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)、シリコン酸化物(Li2O-Al23-nSiO2)の中から選択された1種であり、前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂、未発泡ポリスチレン樹脂、未発泡ポリエチレン樹脂、未発泡ポリエステル樹脂、未発泡フェノール樹脂の中から選択された1種であり、前記繊維シートがガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維の中から選択されたクロスである請求項3に記載の発泡樹脂断熱材。

【請求項7】
前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、
前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、
前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、
前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を混入一体化してあって、前記負熱膨張材を発泡樹脂成型体の体積に対して0.75vol%以上混入させてある請求項3に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項8】
前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、
前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、
前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、
前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を充填する未発泡樹脂量に対して3wt%以上混入させて一体化してある請求項3に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項9】
前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、
前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、
前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、
前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を充填する未発泡樹脂量に対して1wt%以上混入させて一体化してあって、更に、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートの複数層を互いに一体化してあり、前記負熱膨張材を発泡樹脂成型体の体積に対して0.75vol%以上混入させてある請求項3に記載の発泡樹脂断熱材。
【請求項10】
リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)から成る負熱膨張材を、未発泡ポリウレタン樹脂に混入させた状態の未発泡樹脂材を、互いに交差する縦糸と横糸とからなるガラスクロスの繊維シートと積層するように型内に充填して、その型内で発泡硬化させて成型する発泡樹脂断熱材の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂断熱材及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡樹脂断熱材により流体配管や流体貯留容器等を断熱する場合、特に低温流体の保冷においては、一般的に例えば発泡硬質ポリウレタン樹脂のような独立気泡の発泡樹脂断熱材を、配管や流体貯留容器の周囲に、囲繞する形状に成型して設置することが行われている。
しかし、流体が通流し温度変化する場合に、配管や貯留容器のみならず配管や貯留容器と接触している断熱材部分も、流体の温度変化の影響を受けて膨張または収縮する。
そして、配管や貯留容器は一般的には金属が使用され、これに対し、発泡樹脂断熱材は、金属に比べて線膨張係数が大きい。
また、配管を流通する流体や貯留容器に貯留する流体が極低温流体の場合、例えば極低温流体が液体窒素(LN2)では-196℃並びに液体水素(LH2)では-253℃になり、配管や貯留容器と発泡樹脂断熱材との界面の隙間に空気が入ると、空気中の酸素(液化温度-183℃)が液化して液体酸素が溜まることがあり、溜まった液体酸素が可燃物の着火に基づく爆発や火災の原因になる虞が生じる(例えば、特許文献1参照)。
そこで、配管や貯留容器と発泡樹脂断熱材との間に隙間を作らないように接着剤により双方を接着することが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-176511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、配管や貯留容器に一般的に使用される金属としてのSUS316Lの線膨張係数は、α=10~16ppm/K(ただしppm=1×10-6)で、これに対し発泡ポリウレタン樹脂の線膨張係数は、α=50~60ppm/Kで、前記極低温流体が流通すると、金属と発泡樹脂断熱材との大きな線膨張係数の違いにより、断熱材には熱応力が作用して割れが発生しやすくなり、その割れ部から空気が侵入する虞が生じ、更に、極低温流体が液体水素であれば、液体水素の液化温度が-253℃であるために上記問題が尚更増す。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、金属と発泡樹脂断熱材の線膨張係数の差を少なくできるようにして、発泡樹脂断熱材に発生する熱応力を極力低減し、割れが発生するのを防止できるようにするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、昇温に伴って体積が収縮し、温度が低下すると体積が膨張する負熱膨張材を混入させた未発泡樹脂材を、発泡により成型してある発泡樹脂成型体からなるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、発泡樹脂成型体には、負熱膨張材が混入されているために、負熱膨張材は温度上昇に伴って収縮すると共に、温度低下に基づいて膨張し、流体の温度変化に基づく膨張収縮の変化を負熱膨張材が引き起こし、発泡樹脂断熱材全体として伸縮変化が抑えられ、金属と発泡樹脂成型体の線膨張係数の差を少なくできるようになる。
従って、極低温流体を通流する配管や貯留容器の収縮にともなう発泡樹脂断熱材の割れが防止できるようになる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、本発明の第2の特徴構成は、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートが前記発泡樹脂成型体との内面および外面に一体化したところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、温度変化に基づく発泡樹脂成型体の伸縮変化が、繊維シートによる抵抗力が加わってより一層抑えられ、金属と発泡樹脂成型体の線膨張係数の差を一層少なくすることが可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記発泡樹脂成型体と、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートとが互いに層状に積層した状態で一体化したところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートとが互いに層状に積層した状態で一体化することにより、繊維による補強が2次元方向に大きくなり、金属と発泡樹脂成型体の線膨張係数の差を一層少なくすることが可能となる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記繊維シートの複数層が、前記発泡樹脂成型体と一体化したところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、複数層の繊維シートにより厚み方向にも、温度変化に伴う伸縮の抑制効果が強化される。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を混入一体化したところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を混入一体化することにより、より発泡樹脂成型体の線膨張係数が減少し、金属の線膨張係数に近づけやすくなる。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、前記負熱膨張材が、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)、リン酸硫酸ジルコニウム(Zr2SP212)、ビスマス・ニッケル・鉄からなるペロブスカイト構造を持つ酸化物セラミックスBiNi1-xFexO3、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)、シリコン酸化物(Li2O-Al23-nSiO2)の中から選択された1種であり、前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂、未発泡ポリスチレン樹脂、未発泡ポリエチレン樹脂、未発泡ポリエステル樹脂、未発泡フェノール樹脂の中から選択された1種であり、前記繊維シートがガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維の中から選択されたクロスである。
【0017】
本発明の第7の特徴構成は、前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を混入一体化してあって、前記負熱膨張材を発泡樹脂成型体の体積に対して0.75vol%以上混入させてある。
【0018】
本発明の第8の特徴構成は、前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を充填する未発泡樹脂量に対して3wt%以上混入させて一体化してある。
【0019】
本発明の第9の特徴構成は、前記負熱膨張材がリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)であり、前記未発泡樹脂材が、未発泡ポリウレタン樹脂であり、前記繊維シートがガラス繊維から成るクロスであり、前記発泡樹脂成型体には、セルロースナノファイバーの粉体を充填する未発泡樹脂量に対して1wt%以上混入させて一体化してあって、更に、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートの複数層を互いに一体化してあり、前記負熱膨張材を発泡樹脂成型体の体積に対して0.75vol%以上混入させたところにある。
【0020】
本発明の第9の特徴構成によれば、互いに一体化した繊維シートの複数層を発泡樹脂成型体と一体化することにより、セルロースナノファイバー及び負熱膨張材の混入量が少なくとも、線膨張係数を簡単に金属に近づけることができる。
【0021】
本発明の第10の製法の特徴構成は、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)から成る負熱膨張材を、未発泡ポリウレタン樹脂に混入させた状態の未発泡樹脂材を、互いに交差する縦糸と横糸とからなるガラスクロスの繊維シートと積層するように型内に充填して、その型内で発泡硬化させて成型するところにある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】流体移送配管の断面図である。
図2】負熱膨張材の添加量の変化による線膨張係数の変化グラフである。
図3】発泡樹脂断熱材の縦断面図である。
図4】線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図5】線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図6】各線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図7】各線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図8】各線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図9】各線膨張係数の変化線を示すグラフである。
図10】液体窒素浸漬試験における発泡樹脂断熱材aを使用した試験体の斜視概念図である。
図11】液体窒素浸漬試験における発泡樹脂断熱材bを使用した試験体の斜視概念図である。
図12】(a)は液体窒素を用いた2B配管冷却実証モデルの縦断側面図で、(b)は(a)におけるA-A縦断面図、(c)は(a)におけるB-B縦断面図である。
図13図12(a)における部分拡大図である。
図14】各種物性値を示す表である。
図15】FEM応力解析結果を示す表である。
図16】実証試験結果を示す温度分布表である。
図17】(a)は、発泡樹脂断熱材aの温度変化表。(b)は、発泡樹脂断熱材bの温度変化表である。
図18】(a)は、発泡樹脂断熱材aのひずみ量の変化グラフ、(b)は、発泡樹脂断熱材bのひずみ量の変化グラフである。
図19】ひずみ量から算出される熱応力を表す表である。
図20】(a)は液体ヘリウムを用いた2B配管冷却実証モデルの縦断面図で、(b)は(a)におけるC-C線縦断面図である。
図21】各種物性値を示す表である。
図22】FEM応力解析結果の表である。
図23】実証試験結果を示す温度分布を示す表である。
図24】温度変化を表すグラフで、(a)は、冷却1回目、(b)は、冷却2回目の温度変化グラフである。
図25】冷却試験時のひずみ量の変化を示すグラフである。
図26】ひずみ量から算出した応力を示す表である。
図27】発泡樹脂成型体の部分拡大図である。
図28】試験結果を示す線膨張係数の変化グラフである。
図29】(A)は、接着剤一体化方式の概念を示す分解斜視図であり、(B)は、複層注入一体化方式の概念を示す分解斜視図である。
図30】別実施形態の発泡樹脂成型体の縦断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
金属製の流体移送配管やその配管が接続される流体貯留容器に対し、移送流体の保温・保冷のために、それらの全周面を、図1に示すように、発泡樹脂断熱材で囲繞して保冷または保温してある一例としての配管断面図構造が示されている。
前記配管や貯留容器を形成する金属としては、液化天然ガス(LNG)や液体窒素(LN2)などの極低温流体の移送用の一例としては、SUS316L等が使用されていることが多く、この金属の線膨張係数αは、10~16ppm/Kである(ただしppm=1×10-6)。
そして、前記発泡樹脂断熱材は、積層する保冷材a、保冷材b、保冷材cで形成され、特に金属の配管Pに接する保冷材aが、一般的に低温用発泡樹脂断熱材として使用される未発泡のポリウレタン樹脂(発泡樹脂成型体の線膨張係数α=50~60ppm/K)に、負熱膨張材としてリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2(WO4)(PO42)の結晶から成る白色の粉体(日本化学工業(株)製(商品名「セラフィット」)を混入させた状態で発泡させて配管Pや貯留容器の外面に沿う形状に成型してある。
【0024】
前記ポリウレタン樹脂は、発泡させるのに、炭酸ガス(水処方-PUF)、HFC-PUF,HFO-PUFなどの発泡剤を使用するが、本願では保冷材aに対しては炭酸ガス発泡を使用してウレタンフォームにて形成しており、発泡剤として水が添加されているポリオールとイソシアネートとが反応して炭酸ガスが発生し、発泡成型する。
尚、保冷材b、保冷材cについては水処方―PUF、HFC―PUF、HFO―PUFのいずれでも良い。
また、発泡の状態により成型製品の密度は、小さいほど熱伝導率は小さくなるが、極端に小さくなると気泡膜が薄くなったり、連続気泡が多くなることから輻射伝熱が大きくなると共に、対流の影響が現れ、熱伝導率が逆に大きくなる。
一般的には密度50kg/m3で熱伝導率が一番小さい。
【0025】
前記リン酸タングステン酸ジルコニウムの結晶の線膨張係数は、-3ppm/Kを示し、金属―酸素原子間結合が強いために、加熱による各ユニット自体の体積膨張が起こりにくく、各ユニット間の結合角が構造内の空間体積を減少させる方向に変形することで結晶全体として、広い温度帯において昇温に伴ってほぼリニアに熱収縮する材料である。
尚、前記負熱膨張材としてのリン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2(WO4)(PO42)の結晶から成る白色の粉体(日本化学工業(株)製(商品名「セラフィット」)は、比表面積0.2m2/g、D50=18.7μm、かさ比重1300kg/m3、-100~800℃の温度範囲において線膨張係数α=-3ppm/Kの物性を示す。
【0026】
[実験例1]
次に、図2のグラフに示すように、上記発泡ポリウレタン樹脂発泡成型体に対する負熱膨張材の添加量の変化による線膨張係数の変化を測定した。
尚、図中のBは各測定点である。
この測定結果によると、配管や貯留容器等の金属材料としてのSUS316Lが16ppm/K(図中のMの線)であるのに対して、負熱膨張材を添加しないときは51.4ppm/Kであり、グラフより負熱膨張材の添加量を増加させると直線的に発泡成型体の線膨張係数は低下し、発泡樹脂成型体の体積に対して14~15vol%にすれば前記金属材料の線膨張係数(図中のMの線上)に近づくことが予測できる。
尚、負熱膨張材の添加量は負熱膨張材のかさ比重を基準として算出した。
【0027】
[実験例2]
次に、図3の発泡樹脂断熱材の縦断面図に示すように、発泡ポリウレタン樹脂(PUF)の外表面(表面及び裏面)に、互いに交差する縦糸と横糸とからなる一層のガラスクロスGCを、夫々一体になるように発泡成型させた発泡樹脂断熱材を造り、この一層のガラスクロス一体化した発泡樹脂断熱材(保冷材)aとガラスクロス無しの発泡樹脂断熱材(保冷材)bとの負熱膨張材添加量の変化に基づく線膨張係数の変化を調べて、図4のグラフに示した。
これによると、一層のガラスクロスGCの一体化により、全体として負熱膨張材の添加無し(各測定点B)でも約36%の減少になり、負熱膨張材の添加量が発泡樹脂成型体の体積に対して10vol%で(各測定点A)、更に約26%の減少になった。
【0028】
[実験例3]
次に、図5に示すように、ガラスクロスGCの積層枚数による影響を調べて変化線G(各測定点Gの近似線)を得た。
これによると、発泡樹脂断熱材の表面には、2枚のガラスクロスGCを同時に積層することで、負熱膨張材の添加無しでも、SUS316L金属の線膨張係数(グラフ中のMの線)にかなり近くなり、例えばアルミニウム(線膨張係数α=24ppm/K)(図5中のAlの線)よりも低下(20.5ppm/K)することが分かる。
【0029】
[実験例4]
発泡ポリウレタン樹脂(PUF)と一体化するガラスクロスGCの積層枚数を、1層の時と2層の時とにおいて、負熱膨張材の添加量の変化に基づく線膨張係数αの変化を調べて、1層の時の変化線G1(各測定点G1の変化線)と2層の時の変化線G2(各測定点G2の変化線)を、図6に示した。
変化線G2によれば、負熱膨張材の添加量が発泡樹脂成型体の体積に対して0.75~1vol%の時に急に線膨張係数αが低下することが分かった。
尚、図中MはSUS316Lの線膨張係数、Alはアルミニウムの線膨張係数である。
【0030】
[実験例5]
次に、発泡ポリウレタン樹脂(PUF)に対してセルロースナノファイバー(CNF)を添加することによる線膨張係数αの変化をグラフにして、図7に示した。
図7では、ガラスクロスGCなしの発泡ポリウレタン樹脂に対してセルロースナノファイバー(CNF)の添加量を変化させたときの第1変化線G0と、ガラスクロスGCを1層一体化させた発泡ポリウレタン樹脂に対してセルロースナノファイバー(CNF)の添加量を変化させたときの第2変化線G1と、ガラスクロスGCを2層一体化させた発泡ポリウレタン樹脂に対してセルロースナノファイバー(CNF)の添加量を変化させたときの第3変化線G2をグラフ化させた。
図中に比較のために、アルミニウムの線膨張係数を示す線Al、及び、金属SUS316Lの線膨張係数α=16ppm/K(図中のMの線を示す)。
これによると、ガラスクロスGCが2層一体化したポリウレタン樹脂量に対してセルロースナノファイバー(CNF)を3wt%添加することで、線膨張係数が金属SUS316Lに近づくことが分かる。
尚、セルロースナノファイバー(CNF)は、横河バイオフロンティア製の商品名(S-CNF(水溶性))を使用した。これは、一般的には、鉄の1/5の軽さで、鉄の5倍に強度を示し、線膨張係数α=0.1~0.2ppm/K(0~100℃)を示す。
【0031】
[実験例6]
発泡ポリウレタン樹脂に対してガラスクロスGCを1層一体化させると共に、それに添加するセルロースナノファイバー(CNF)の添加量を変化させるときの線膨張係数αの変化線を、負熱膨張材添加量0vol%の時の変化線C0、負熱膨張材添加量2vol%の時の変化線C1、負熱膨張材添加量4vol%の時の変化線C2を、図8に開示する。
【0032】
[実験例7]
発泡ポリウレタン樹脂に対してガラスクロスGCを2層一体化させると共に、それに添加するセルロースナノファイバー(CNF)の添加量を変化させるときの線膨張係数αの変化線を、負熱膨張材添加量0vol%の時の変化線D0、負熱膨張材添加量0.25vol%の時の変化線D1、負熱膨張材添加量0.5vol%の時の変化線D2、負熱膨張材添加量0.75vol%の時の変化線D3、負熱膨張材添加量1vol%の時の変化線D4、負熱膨張材添加量2vol%の時の変化線D5、負熱膨張材添加量4vol%の時の変化線D6、を、図9に開示する。
これらによると、繊維シートは複数層を樹脂と一体化し、セルロースナノファイバー(CNF)の添加量を1wt%以上にし、負熱膨張材を0.75vol%以上混入させることで、金属SUS316Lの線膨張係数α=16ppm/K(図中のMの線上)に近づけることができることが判明した。
【0033】
〔実験例8〕液体窒素(LN2)浸漬試験
図10に示すように、発泡ポリウレタン樹脂(PUF)の外表面(表面及び裏面)に、互いに交差する縦糸と横糸とからなる二層のガラスクロスGCが一体化になるように発泡成型させた200×25×25mmの発泡樹脂断熱材を作製し、負熱膨張材添加量1vol%を混入した二層のガラスクロスで一体化した発泡樹脂断熱材aと、図11に示すように、負熱膨張材添加無しおよびガラスクロスGC無しの発泡樹脂断熱材bとを、200×25×25mmのSUS316L角柱Mの1面にウレタン系接着剤で発泡樹脂断熱材aまたは発泡樹脂断熱材bを接着・養生したものを試験体とした。
尚、発泡樹脂断熱材aにおいてはガラスクロス面をSUS316L角柱Mに接着した。これらの試験体を液体窒素(-196℃)に8時間完全浸漬し、その後、常温放置を行うサイクル試験を5日間実施し、発泡樹脂断熱材とSUS316Lとの線膨張係数の差によって接着界面や界面近くの発泡樹脂断熱材(PUF)に割れが発生するかどうか確認した。
液体窒素(LN2)浸漬のサイクル試験の結果、発泡樹脂断熱材bには接着面の頂点を起点とした接着界面での剥離E(図11)やPUFの破断が生じ、発泡樹脂断熱材aには接着界面での剥離や発泡ポリウレタン樹脂(PUF)の割れなどの変状は認められなかった。
【0034】
Dassault Systemes SolidWorks Corporation製のSolidWorks Simulationを用いたFEM応力解析では、主応力が接着面の4頂点の部分に最大応力が発生するが、発泡樹脂断熱材bのその部分の安全率は0.4倍で割れが発生し、発泡樹脂断熱材aでは安全率が1.2倍で割れが発生しない結果となり、今回の液体窒素(-196℃)に浸漬した結果と一致していた。
【0035】
〔実験例9〕2B配管(SUS316L)の液体窒素(LN2)-196℃)を用いた配管冷却試験
(2B配管冷却実証モデル製作)
図12(a)、(b)、(c)、図13に示すように、配管はJIS規格による2B(A呼称50Aで管外径60.5mm)×4,000mmのSUS316Lとした。
保冷構造を3層構造とし、その保冷厚みは外気温度30℃、相対湿度85%の環境条件で保冷材外表面が結露しなく、かつ保冷材1層目と2層目の界面温度が液化天然ガス(LNG)温度(‐163℃)以上になる条件で保冷厚みを算定した結果から、保冷厚み1層目が10mmとなり、2層目を40mm、3層目を60mmとした。
【0036】
パイプカバーに防湿・防水性能を付与するためにガラスクロス(ユニチカ(株)製品,品番;L55MN104F,クロスタイプ;からみ織り、2.5mmメッシュ)を2層貼付したアルミクラフトシートをパイプカバー製作用凹型鋼製金型の内面に設置し、また鋼製金型凸部にはガラスクロス2層を設置し、注入体積に対して負熱膨張材を1vol%添加した水処方ポリウレタン樹脂を注入発泡・成型させてガラスクロスと一体化させたものを保冷材1層目の発泡樹脂断熱材aとした。
【0037】
比較対象として外面がアルミクラフトシートおよび内面はガラスクロス無しで負熱膨張材を添加していないものを発泡樹脂成型体1の発泡樹脂断熱材bとした。
SUS316Lの2B配管(4,000mm)2本に対して、図13に示すように、配管P の外表面に各々1層目の発泡樹脂成型体1として発泡樹脂断熱材aならびに発泡樹脂断熱材bを、ウレタン樹脂系の接着剤2で全面接着し、ならびに発泡樹脂断熱材a同士または発泡樹脂断熱材b同士の円周方向に沿った目地部も同様にウレタン樹脂系の接着剤2で全面接着した。
また1層の発泡樹脂成型体1の円周方向ならびに長手目地部にはブチル防湿テープ5を貼付した。
【0038】
保冷材2層目、3層目の発泡樹脂成型体1はガラスクロスがなく、また負熱膨張材を添加していない水処方のポリウレタンフォームであり、内面はクラフト紙、外面はアルミクラフトシートで構成される。
2層目の発泡樹脂成型体1は、その内面中央部分の直経30~50mm程度にウレタン系接着剤7を塗布し、1層目の発泡樹脂断熱材aおよび発泡樹脂断熱材bの外表面に部分接着を行った。
尚、2層目の発泡樹脂成型体1同士の円周ならびに長手目地部は接着剤無しの空目地とした。
また1層と同様に2層目の発泡樹脂成型体1の円周方向ならびに長手目地部にはブチル防湿テープ5を貼付した。
次いで2層目の発泡樹脂成型体1の外面に防湿・防水目的のためにポリエチレンシート3を螺旋状に巻き付けを行い、その上に3層目の発泡樹脂成型体1を取り付けた。
3層目の発泡樹脂成型体1同士の円周目地部および長手目地部にもウレタン樹脂系の接着剤4で全面接着を行い、3層目の発泡樹脂成型体1の円周方向および長手方向に沿った目地部にはブチル防湿テープ5を貼付し、円周方向に対してステンレス帯鋼6にて緊縛して配管冷却実証モデルを組んだ。
尚、図12(a)、図12(b)、図12(c)に示すように、冷却による収縮量を測定するために配管外表面や発泡樹脂断熱材aおよび発泡樹脂断熱材bの内面にひずみゲージを貼付し、また各部位の温度を得るために熱電対も配置した。
また冷却時にSUS316L配管を収縮させるために、配管長手方向の片側一端を固定端8とし、他方側の片側他端を自由端9とした。
【0039】
(2B配管モデルでのFEM応力解析)
SUS316L配管内を-196℃(液体窒素)で満たした時に1層目の発泡樹脂成型体(発泡樹脂断熱材a,b)に発生する引張熱応力で1層目の発泡樹脂成型体1に割れが発生するかどうかをFEM応力解析にて確認した。
尚、FEM応力解析はDassault Systemes SolidWorks Corporation製のSolidWorks Simulationを用いて行った。また各種物性値は表(図14)に示す値を使用した。
尚、図14におけるΘは温度を表す。
【0040】
FEM応力解析結果として、配管2Bでは負熱膨張材添加無での発泡樹脂成型体(発泡樹脂断熱材b)に発生する平均発生熱応力(配管軸方向の引張応力)は0.48MPaであり、安全率は1.5である。
最大引張応力に対しては0.85MPaで安全率が1を切る0.8となった。
この最大引張応力から見ると発泡樹脂成型体1に割れが発生する可能性がある(図15)。
一方、負熱膨張材を添加し、ガラスクロス2層で一体化した発泡樹脂成型体(発泡樹脂断熱材a)への発生する平均発生熱応力は0.35MPaであり、安全率は4.5である。
最大引張応力に対しては1.3MPaで安全率が1.2となり、発泡樹脂断熱材aには割れが生じない計算結果となった(図15)。
【0041】
(2B配管実証モデルでの冷却試験概要)
液体窒素(LN2)を配管P内に導入し、各部位の温度が定常になるまで冷却を行った。約30時間経過後、液体窒素(LN2)の供給を停止し自然昇温を行い常温に戻した。
再び液体窒素(LN2)を配管P内に導入し、各部位の温度が定常になるまでの冷却を2回行った。約30時間経過後、自然昇温を行い、常温に戻った後、試験体の解体を行い、発泡樹脂断熱材aまたはbの割れ等の確認を行った。
【0042】
(2B配管冷却実証試験結果)
図16図17(a)、図17(b)に示すように、発泡樹脂断熱材aまたはbにおいて冷却試験時における定常状態での温度分布は、FEM計算値とほぼ同等であった。
図18(a)、18(b)に示すように、冷却時のひずみ量の測定結果から、SUS316Lのひずみ量と発泡樹脂断熱材aのひずみ量は、ほぼ同じ挙動を示しており(図18(a))、すなわち発泡樹脂断熱材aはSUS316Lの動きに追従していることが確認できた。
一方、発泡樹脂断熱材bにおいては、配管Pの温度が-120℃あたりからSUS316Lに対して大きなひずみ量が発生しており、発泡樹脂断熱材bがSUS316Lに追従できていないことが確認できた(図18(b))。
【0043】
尚、図12(b),図12(c)に示す温度センサー(A~H)により、測定した値を基に、グラフ化した図17(a)、図17(b)で示す曲線のように、図中の10は、図12(a)の管面水平位置A、B及び図12(c)の管面上部C、下部Dの測定値、11は、図12(c)のE点の測定値、12は図12(c)のF点、13は、図12(c)のG,H点の測定値を示す。
【0044】
解体検査の結果、発泡樹脂断熱材aにおいては発泡ポリウレタン樹脂(PUF)への割れの発生および配管Pと1層目の発泡樹脂断熱材bの間の接着剤2に剥離等などの変状は認められなかった。一方、発泡樹脂断熱材bにおいては発泡ポリウレタン樹脂(PUF)に割れが発生ならびに配管Pと1層目の発泡樹脂断熱材bの間の接着剤2に膨れや剥離の変状が認められ、SUS316Lと接着性は良好ではなかった。
【0045】
図19に示すように、またひずみ量から算出できる配管Pと発泡樹脂断熱材aの境界近傍での熱応力は解析結果として平均発生熱応力(配管軸方向の引張応力)は、0.40MPa(ひずみ量-2,587μST)であり、先にFEM解析から求められた値(VonMises応力,0.40MPa)と同じ結果が得られ、本配管冷却試験の妥当性ならびに先の結果であるVonMises応力最大値に対して安全率が1.4以上あるものと示唆される。
【0046】
〔実験例10〕2B配管(SUS316L)の液体ヘリウム(LHe)(-269℃)を用いた配管冷却試験
(2B配管冷却実証モデル製作)
図20(a)、(b)、図13に示すように、配管はJIS規格による2B(A呼称50Aで管外径60.5mm)×2,000mmのSUS316Lとした。
保冷構造を3層構造とし、その保冷厚みは外気温度30℃、相対湿度85%の環境条件で保冷材外表面が結露しなく、かつ保冷材1層目と2層目の界面温度が液化天然ガス(LNG)温度(‐163℃)以上になる条件で保冷厚みを算定した結果、保冷厚み1層目が15mmとなり、2層目を50mm、3層目を各々50mmとした。
尚、2B配管冷却実証モデルの製作は実験例9と同様な手順である。
冷却による収縮量を測定するために配管外表面や発泡樹脂断熱材aの内面にひずみゲージを貼付し、また各部位の温度を得るために熱電対も配置した。
但し、配管側には液体ヘリウム(LHe)(-269℃)の温度測定が可能な白金・コバルト測温抵抗体を設置した。
また冷却時にSUS316L配管を収縮させるために、片側端を固定端8、他方側の片側他端を自由端9とした(図20)。
【0047】
(2B配管モデルでのFEM応力解析)
SUS316L配管内を-269℃(液体ヘリウム)で満たした時に1層目の発泡樹脂成型体(発泡樹脂断熱材a)に発生する引張熱応力で1層目の発泡樹脂成型体に発生する熱応力をFEM応力解析にて確認した。
尚、FEM応力解析はDassault Systemes SolidWorks Corporation製のSolidWorks Simulationを用いて行った。
また各種物性値は図21の表に示す値を使用した。
尚、図21中のΘは温度を示す。
【0048】
FEM応力解析結果を図22の表に示す。
配管2Bでは負熱膨張材を添加し、ガラスクロス2層で一体化した発泡樹脂成型体(発泡樹脂断熱材a)への発生する平均発生熱応力(VonMises)は0.52MPaであり、安全率は3.6である。
最大引張応力に対しては1.73MPaで安全率が1.1となり、発泡樹脂断熱材aには割れが生じない計算結果となった。
【0049】
(2B配管実証モデルでの冷却試験概要)
まず配管Pの冷却は予備予冷として液体窒素(LN2)を配管内に導入し、各部位の温度が定常になるまで約48時間の冷却を行った。
その後、液体窒素(LN2)の供給を停止し、配管Pに満たされている液体窒素(LN2)を強制的に抜き取り、次いで液体ヘリウム(LHe)を導入して配管を‐269℃まで冷却し、2時間その温度を維持させた。
その後、自然昇温を行い常温に戻した。再び液体窒素(LN2)を配管P内に導入して予備予冷、液体ヘリウム(LHe)を用いた本予冷を実施する冷却試験を2回行った。
自然昇温を行い、常温に戻った後、試験体の解体を行い、発泡樹脂断熱材aの割れ等の確認を行った。
【0050】
(2B配管冷却実証試験結果)
図23図24(a)、図24(b)に示すように、冷却試験時における定常状態での温度分布は、FEM温度解析値とほぼ同等であった。
図25に示すように、冷却試験時のひずみ量の測定結果から、SUS316Lのひずみ量と発泡樹脂断熱材aのひずみ量は、ほぼ同じ挙動を示しており、すなわち発泡樹脂断熱材aはSUS316Lの動きに追従していることが確認できた。
解体検査の結果、発泡樹脂断熱材aにおいては割れの発生および配管Pと1層目の発泡樹脂断熱材aの間の接着剤2に剥離等などの変状は認められなかった。
【0051】
尚、図24(a)、24(b)に示す測定曲線14~17は、図12(b),図12(c)に示す温度センサー(A~H)により測定した値を基にグラフ化したもので、図24(a)、24(b)における14は、配管面A、C点の測定値、15はPUFカバー1~2層間のE点の測定値、16はPUFカバー2~3層間のF点の測定値、17はPUFカバー3層目外表面及び外気温度のG、H点の測定値を示す。
【0052】
図26に示すように、またひずみ量から算出できる配管Pと発泡樹脂断熱材aの境界近傍での熱応力は解析結果として平均発生熱応力(配管軸方向の引張応力)は、0.50MPa(ひずみ量-3,303μST)であり、先にFEM解析から求められた値(VonMises応力,0.52MPa)とほぼ同等の結果が得られ、本配管冷却試験の妥当性ならびに先の結果であるVonMises応力最大値に対して安全率が1.3以上あるものと示唆される。
【0053】
〔実験例11〕発泡ポリウレタン(PUF)厚みを変化させた時のガラスクロスの補強効果
図27に示すように、極低温時において発泡樹脂断熱材に発生する熱応力を極力低減し、発泡ポリウレタン(PUF)の割れの発生を防止するためには、互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートを発泡樹脂成型体1の厚み方向の端部に一体化させて補強する方法がある。
この時、ガラスクロス間距離をLとするとLが大きい場合、補強された発泡樹脂成型体1の中心部(L/2)においては、ガラスクロスGCの補強効果がとくに薄れることが予想される。
発泡ポリウレタン(PUF)の厚み、すなわち繊維シート間の距離Lをパラメーターとして繊維シート(2層)の一体化発泡ポリウレタン(PUF)を成型して線膨張係数(常温~-170℃)を測定し、成長曲線の代表例であるゴンペルツ曲線を用いて近似式を得た(相関係数0.989)。
尚、繊維シート(ガラスクロス)はユニチカ(株)製品(品番;L55MN104F,クロスタイプ;からみ織り,2.5mmメッシュ)を使用した。
【0054】
図28に示すように、試験の結果、繊維シート間の距離Lが大きくなると線膨張係数αは大きくなり、L=200mm以上になると繊維シートで補強していない発泡ポリウレタン(PUF)の線膨張係数α=51.9ppm/Kに近づくことが確認できた。
極低温時に発泡ポリウレタン(PUF)の割れを防ぐためには、各種金属(SUS316L,α=10~16ppm/K)の線膨張係数を考慮すると、ガラスクロス間距離はL=15mm以下(線膨張係数としてα≒20ppm/K)と想定され、L>15mmのガラスクロス一体化発泡ポリウレタン(PUF)では線膨張係数が大きくなり、液体窒素や液体水素配管・機器の1層目の保冷材として使用した場合、発泡ポリウレタン(PUF)に割れが入る可能性がある。
これを回避するために下記試験を実施した。
図29(B)に示すように、L=15mmピッチで繊維シートを積み重ねて順次注入発泡を行って順次積層し、発泡ポリウレタン(PUF)の厚みがt=30(15/15)、45(15/15/15)、60(15/15/15/15)mmとなるようにガラスクロスを注入一体化した複層試験体を製作し、線膨張係数を測定した。
尚、参考として図29(A)に示すように、発泡ポリウレタン(PUF)の厚みt=30(15/15)においては、接着剤による一体化方式の評価も行った。
【0055】
図28に示すように、複層注入一体化方式における線膨張係数はt=30,45,60mmで各々17.9,19.2,19.1ppm/Kとなり、厚みt=15mmのガラスクロス一体化PUF(単層)の線膨張係数α=17.7ppm/Kとほぼ同等の値が得られた。
一方、接着剤を用いて作製した発泡ポリウレタン(PUF)厚みt=30(15/15)mmは接着剤の影響によって線膨張係数は31.0ppm/Kとなり、複層一体化方式の約1.7倍の値となった。
液体窒素,液体水素の配管・機器の保冷設計においては、1層目の発泡樹脂断熱材と2層目発泡ポリウレタン(PUF)の界面温度を液化天然ガス(LNG)温度(-163℃)以上にする設計思想であるため、配管サイズが大きくなると1層目の発泡断熱材の保冷厚みが増大する。例えば24B配管では37mmの保冷厚となり、ガラスクロス間距離L=37mmでの発泡樹脂断熱材は線膨張係数が大きくなり(α≒27ppm/K)、極低温時には発泡ポリウレタン(PUF)に割れが発生する可能性がある。
一方、複層一体化方式(図29(B))で発泡樹脂断熱材をt=45(15/15/15)mmを適用すると線膨張係数はL=15mmの単層と変わらないため、PUFへの割れを抑制できる。
【0056】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
〈1〉 成型する発泡樹脂の例としては、ポリウレタン樹脂(PUF)を使用したが、これに代えて、ポリイソシアヌレート(PIR)やフェノール樹脂の発泡体であってもよく、他に未発泡樹脂材として、未発泡ポリスチレン樹脂、未発泡ポリエチレン樹脂、未発泡ポリエステル樹脂であってもよい。
〈2〉 前記負熱膨張材としては、リン酸タングステン酸ジルコニウム(Zr2WO4(PO42)(日本化学工業(株)製造)に代えて、リン酸硫酸ジルコニウム(Zr2SP212)(東京工業大学製造)、ビスマス・ニッケル・鉄からなるペロブスカイト構造を持つ酸化物セラミックスBiNi1-xFexO3、タングステン酸ジルコニウム(ZrW28)(JX金属(株)製造)、シリコン酸化物(Li2O-Al23-nSiO2)、リン酸ジルコニウム(Zr(HPO42)(東亜合成(株)製造)、であってもよい。
〈3〉 前記繊維シートは、縦糸と横糸が互いに交差するガラスクロスを複数枚積層するにあたっては、例えば、1枚目のガラスクロスの縦糸と2枚目のガラスクロスの縦糸を斜めにクロスするように積層してもよく、また夫々の繊維シートの材質を、ガラスクロスに代えてカーボン繊維、アラミド繊維等を選択してもよい。
〈4〉 発泡樹脂成型体は、未発泡樹脂を型内に充填して発泡成形して発泡硬化させて成型する以外に、スプレーで吹き付け成形する方法であってもよい。
〈5〉 発泡樹脂成型体と、互いに交差する縦糸と横糸から成る繊維シートを、図29(B)の方式やガラスクロスを型内に層状に設置して未発泡樹脂を型内に充填して発泡成形して発泡硬化させる方式によって図30に示すように、発泡樹脂の厚み内に、層状に埋設させて形成する物でもよい。
【0057】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【要約】
金属と発泡樹脂断熱材の線膨張係数の差を少なくできるようにして、発泡樹脂断熱材に発生する熱応力を極力低減し、割れが発生するのを防止できるようにする発泡樹脂断熱材及びその製法を提供すること。
昇温に伴って体積が収縮し、温度が低下すると体積が膨張する負熱膨張材を混入させた未発泡樹脂材を、発泡により成型してある発泡樹脂成型体からなる。互いに交差する縦糸と横糸とからなる繊維シートが前記発泡樹脂成型体との内面および外面に一体化してある。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
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図15
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