IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械エンバイロメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-管渠診断装置及び管渠診断方法 図1
  • 特許-管渠診断装置及び管渠診断方法 図2
  • 特許-管渠診断装置及び管渠診断方法 図3
  • 特許-管渠診断装置及び管渠診断方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】管渠診断装置及び管渠診断方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240705BHJP
   E03F 1/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
G06Q50/06
E03F1/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020060105
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021157730
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 俊康
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩太郎
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0177323(US,A1)
【文献】特開2018-080509(JP,A)
【文献】特開2011-106113(JP,A)
【文献】特開2010-048055(JP,A)
【文献】特開2006-183274(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0875131(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E03F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然流下式管渠の診断を行う管渠診断装置であって、
予測状態と実測状態は、任意の地点における予測流量と実測流量であり、
状態情報取得部が取得した管渠に係る前記予測状態と前記実測状態との差異に基づいて前記管渠に不具合があるか否かの診断を行う診断演算部と、
過去の診断データと、前記予測状態及び/又は前記実測状態との比較から、管渠の状態を判定する判定部とを備えることを特徴とする、管渠診断装置。
【請求項2】
前記予測流量は、前記任意の地点及びその周辺地域における雨量を降雨実測情報から予測して算出するものであることを特徴とする、請求項1に記載の管渠診断装置。
【請求項3】
前記任意の地点は、メッシュ状に区分された地域ごとに選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の管渠診断装置。
【請求項4】
自然流下式管渠の診断を行う管渠診断装置であって、
予測状態と実測状態は、任意の地点における予測濃度と実測濃度であり、
状態情報取得部が取得した管渠に係る前記予測状態と前記実測状態との差異に基づいて前記管渠に不具合があるか否かの診断を行う診断演算部を備えることを特徴とする、管渠診断装置。
【請求項5】
過去の診断データと、前記予測状態及び/又は前記実測状態との比較から、管渠の状態を判定する判定部を備えることを特徴とする、請求項に記載の管渠診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管渠診断装置及び管渠診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、家庭や工場などから排出される汚水と雨水を併せたものは、下水と呼ばれている。この下水は、下水道(下水管渠)を介して集められて、下水処理場に導入される。そして、下水処理場に導入された下水は、下水処理場にて処理を行った後、最終的に河川に放流されている。
【0003】
下水管渠は、地下に埋設された地下構造物であり、不具合に係る現象を早期に発見することが困難であり、計画的な維持管理が必要な施設であるとされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、下水管渠の維持管理として、下水管渠の資産管理台帳及び設備管理台帳に基づく資産状況反映情報や、地域防災計画に基づく地震防災対策設定情報に基づき対策を講じるべき単位路線の情報を抽出し、この情報に基づき調査を優先すべき調査優先路線情報を抽出することが記載されている。また、特許文献1には、不具合が発生した後に対応を行う発生対応型の取り組みに代えて、不具合の発生前に事前に対処する予防発生型の取り組みにより、維持管理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-15727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような予防発生型の下水管渠の維持管理では、不具合が発生する前に対応すべき下水管渠に係る情報を提示することができるが、実際には整備費用の問題等により、対応が困難な下水管渠も数多く存在する。
【0007】
また、下水管渠では、勾配を利用して流体(下水)の輸送を行う自然流下式管渠が主に採用されている。自然流下式管渠では、輸送用ポンプ等の動力を用いることなく、流体の輸送を行うことができるという利点がある。その一方で、輸送用ポンプ等のような附属機器の運転状態などから管渠の不具合を判断することができない。
そのため、目視やカメラによる外観調査や、下水管渠に対する衝撃弾性波試験やセンサによる診断調査を行い、下水管渠の状態を直接確認することで、不具合が生じていることが認められる箇所への対応を行うことも検討されている。
しかし、下水管渠の規模を鑑みると、調査に係る人件費や、診断調査用の装置の配置に係る設備コストが膨大になるという問題があり、好ましくない。
【0008】
また、現在各地に配設されている下水管渠は、既に施工からの経過年数が50年を超えたものが増加しており、各地で下水管渠の不具合が発生する可能性が高まっている。その一方で、人口減少が進行する現状の社会情勢において、下水管渠の維持管理に係る人手不足が懸念されている。
これらの問題を解決するため、下水管渠のような自然流下式管渠の維持管理に係る診断調査として、管渠の維持管理に係る人的コスト及び設備コストを削減することができるものが求められている。
【0009】
本発明の課題は、下水管渠のような自然流下式管渠の状態を簡便に把握し、対応すべき管渠箇所の早期特定や管渠の維持管理に係るコスト削減ができる管渠診断装置及び管渠診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、自然流下式管渠に係る予測状態と実測状態の差異を求めることで、管渠の状態を間接的な指標で大まかに捉えることができ、管渠の状態を簡便に把握した上で、対応箇所の早期特定や維持管理コストの削減が可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の管渠診断装置及び管渠診断方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の管渠診断装置は、自然流下式管渠の診断を行う管渠診断装置であって、管渠に係る予測状態と実測状態との差異から診断を行うという特徴を有する。
【0012】
自然流下式管渠においては、入ってきた流体が勾配により自然流下し、輸送されるものである。このことから、本発明者らは、自然流下式管渠においては、本来、流体輸送の途中で、管渠に影響を与える要因が存在しないため、管渠内の流体の流量、含有成分などにも変動が生じないものとして取り扱うことができる一方、管渠の一部に穴が開くなどの不具合が生じた場合、この取り扱いに係るモデルが崩れることを見出した。
本発明の管渠診断装置は、この知見に基づくものであり、本来ならば流体の輸送時に状態変動が生じない自然流下式管渠において、その予測状態と実測状態との差異を求めることで、管渠の状態を間接的な指標で大まかに捉えることができる。これにより、管渠の状態を簡便に把握した上で、対応箇所の早期特定や維持管理コストの削減が可能となる。
【0013】
また、本発明の管渠診断装置の一実施態様としては、過去の診断データと、予測状態及び/又は実測状態との関係から、管渠の状態を判定する判定部を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、管渠に係る予測状態と実測状態に加え、過去の診断データも使用することで、管渠の状態に係る診断の精度を高めることが可能となる。
【0014】
また、本発明の管渠診断装置の一実施態様としては、予測状態と実測状態は、それぞれ任意の地点における予測流量と実測流量であるという特徴を有する。
この特徴によれば、管渠内を流れる流体の予測流量と実測流量の差異から管渠の状態を診断することが可能となる。これにより、管渠の状態を診断することに特化した診断装置を設けることなく、比較的簡便な測定装置により管渠の状態を診断することが可能となる。したがって、管渠の維持管理に係る維持管理コストの削減が可能となる。
【0015】
また、本発明の管渠診断装置の一実施態様としては、予測流量は、任意の地点及びその周辺地域の雨量を降雨実測情報から予測して算出するものであるという特徴を有する。
この特徴によれば、降雨実測情報を用いた雨量の予測を行い、この予測雨量を管渠に流入する増加分として予測流量の算出に用いることで、予測流量の算出に係る精度を高めることが可能となる。これにより、診断の精度を高めることが可能となる。
【0016】
また、本発明の管渠診断装置の一実施態様としては、任意の地点は、メッシュ状に区分された地域ごとに選択されるという特徴を有する。
この特徴によれば、メッシュ状に区分された地域ごとに診断を行うことで、管渠に不具合が生じた範囲をより精度を高めて捉えることができ、対応箇所の早期特定が可能となる。
【0017】
また、本発明の管渠診断装置の一実施態様としては、予測状態と実測状態は、それぞれ任意の地点における予測濃度と実測濃度であるという特徴を有する。
この特徴によれば、管渠内を流れる流体の予測濃度と実測濃度の差異から管渠の状態を診断することが可能となる。これにより、管渠の状態を診断することに特化した診断装置を設けることなく、比較的簡便な測定装置により管渠の状態を診断することが可能となる。したがって、管渠の維持管理に係る維持管理コストの削減が可能となる。
【0018】
また、上記課題を解決するための本発明の管渠診断方法は、自然流下式管渠の診断を行う管渠診断方法であって、管渠に係る予測状態と実測状態との差異から診断を行う診断工程を備えるという特徴を有する。
本発明の管渠診断方法は、本来ならば流体の輸送時に状態変動が生じない自然流下式管渠において、その予測状態と実測状態との差異を求めることで、管渠の状態を間接的な指標で大まかに捉えることができ、管渠の状態を簡便に把握した上で、対応箇所の早期特定や維持管理コストの削減が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、下水管渠のような自然流下式管渠の状態を簡便に把握し、対応すべき管渠箇所の早期特定や管渠の維持管理に係るコスト削減ができる管渠診断装置及び管渠診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施態様における管渠診断装置の概略説明図である。
図2】本発明の第2の実施態様における管渠診断装置の概略説明図である。
図3】本発明の第3の実施態様における管渠診断装置の概略説明図である。
図4】本発明の第3の実施態様の管渠診断装置において用いられる予測状態及び実測状態の情報の一例に係るグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る管渠診断装置及び管渠診断方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における管渠診断方法は、本発明における管渠診断装置の構成及び作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する管渠診断装置及び管渠診断方法については、本発明に係る管渠診断装置及び管渠診断方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明の管渠診断装置による診断対象である自然流下式管渠は、勾配を利用して流体を自然に輸送する構造を有するものであればよい。このような自然流下式管渠としては、例えば、下水道施設における下水管渠が挙げられる。なお、下水管渠は、一般家庭から排出される生活排水や、農林漁業や工場等の産業活動に伴って排出される産業排水のような汚水のほか、雨水など、下水と呼ばれるものを下水処理場まで輸送する施設であり、一般的に地下に埋設されている。また、一般的な下水管渠の構造としては、複数の配管が合流し、網目状に埋設される管路網と呼ばれる構造が形成されているものが挙げられる。なお、以下の実施態様においては、自然流下式管渠としては、下水管渠について説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
〔第1の実施態様〕
図1は、本発明の第1の実施態様における管渠診断装置を示す概略説明図である。
本実施態様に係る管渠診断装置1Aは、図1に示すように、複数の配管10が合流することで形成される管路網を備える下水管渠100に対して設けられるものである。なお、図1における下水管渠100は管路網の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0024】
本実施態様において、下水管渠100は、複数の配管10により管路網を形成するものであればよく、配管10上あるいは配管10の合流点に、汚水ます、雨水ます、マンホール等の附属設備を備えるものであってもよい。下水管渠100により各家庭や工場から排出された汚水及び降雨による雨水が下水として集められるとともに、下水処理場200に向かって輸送される。
【0025】
ここで、下水管渠100は、自然流下式管渠であり、入ってきた流体(下水)が勾配により自然流下し、輸送されるものである。このことから、下水管渠100においては、本来、下水輸送の途中で、下水管渠100に影響を与える要因が存在しないため、下水管渠100に流入した下水はそのまま下水処理場200に輸送される。すなわち、下水管渠100内の下水の流量、含有成分など、下水管渠100の状態には変動が生じないものとして取り扱うことができる。一方、経年劣化や、下水中に含まれる成分や微生物の影響による腐食発生等により、下水管渠100を形成する配管10に穴が開くような不具合が生じた場合、不明水が配管10内に流入すること等により、下水管渠100の状態に変動が生じることになる。
【0026】
本実施態様における管渠診断装置1Aは、上述した下水管渠100の状態変動について、予測状態と実測状態との差異を求めることで診断するものである。より具体的には、任意の地点Aにおいて、下水管渠100に対する予測状態に関する情報と、実測状態に関する情報とを取得し、得られた情報の差異を求めることで診断を行うものである。
また、管渠診断装置1Aは、下水管渠100に対する予測状態に関する情報の取得あるいは演算を行う予測状態情報取得部2と、下水管渠100に対する実測状態に関する情報の取得を行う実測状態情報取得部3と、予測状態情報取得部2と実測状態情報取得部3で得られた情報の差異から下水管渠100の状態を診断する診断演算部4とを備えている。なお、図1における一点鎖線は、互いに入出力可能となるように接続されていることを示している。
【0027】
以下、本実施態様における管渠診断装置1Aの各構成について説明する。
【0028】
予測状態情報取得部2は、下水管渠100に対する予測状態に関する情報の取得あるいは演算を行うものである。予測状態情報取得部2は、下水管渠100に対する予測状態に関する情報の取得及び/又は演算を行うための手段を備えるものであればよく、例えば、作業者により必要な情報収集及び演算を行うことや、各種データの入出力が可能で、演算に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置を用いること等が挙げられる。
【0029】
本実施態様における予測状態情報取得部2で扱う情報としては、任意の地点Aにおける予測流量が挙げられる。これにより、予測状態に関する情報を比較的簡便に取得あるいは演算することが可能となり、下水管渠100の診断に係るコストを抑制することが可能となる。
【0030】
ここで、予測流量を得るための手段としては、特に限定されない。例えば、下水管渠100による管路網のうち、任意の地点Aにおける流量について、過去の実績(過去の実測流量値等)を基に予測流量を推計することや、任意の地点A及びその周辺地域の雨量を降雨実測情報から予測することで、任意の地点Aにおける流量の増加程度を考慮した予測流量を算出すること等が挙げられる。特に、降雨実測情報を用い、任意の地点A及びその周辺地域の雨量を予測することで、下水管渠100に流入する下水のうち、雨水の変動の影響を略リアルタイムで反映した予測流量を得ることができ、下水管渠100に対する予測状態に関する情報の精度を高めることが可能となる。
【0031】
実測状態情報取得部3は、下水管渠100に対する実測状態に関する情報の取得を行うものである。なお、実測状態情報取得部3で取得する情報は、予測状態情報取得部2で取得あるいは演算した情報と対比可能となるものである。
実測状態情報取得部3は、下水管渠100に対する実測状態に関する情報の取得を行うための手段を備えるものであればよく、例えば、作業者により必要な情報収集を行うことや、必要な情報収集に係る測定を行うことができる各種測定装置を用いること等が挙げられる。
【0032】
本実施態様における実測状態情報取得部3で扱う情報としては、任意の地点Aにおける実測流量が挙げられる。これにより、実測状態に関する情報を比較的簡便に取得することが可能となり、下水管渠100の診断に係るコストを抑制することが可能となる。
【0033】
ここで、実測流量を得るための手段としては、特に限定されない。例えば、下水管渠100による管路網のうち、任意の地点Aにおける流量について、流量計31を用いて実測流量を測定すること等が挙げられる。なお、実測流量の測定手段としては、作業者がその都度任意の地点Aに流量計31を持ち込んで測定することや、実測状態(実測流量)に係る情報を取得する任意の地点を、配管10の合流点など、あらかじめ定めた地点に固定し、ここに流量計31を設置して、常時あるいは任意のタイミングで実測流量を測定することなどが挙げられる。
【0034】
診断演算部4は、予測状態情報取得部2と実測状態情報取得部3で得られた情報の差異から下水管渠100の状態を診断するものである。
診断演算部4は、予測状態情報取得部2と実測状態情報取得部3で得られた情報を対比して判断を行う手段を備えるものであればよく、例えば、作業者が情報の対比及び判断を行うことや、各種データの入出力が可能で、演算に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置を用いること等が挙げられる。なお、診断演算部4と予測状態情報取得部2について、1つの計算装置で兼用するものとしてもよく、別々の計算装置として設けたものを互いに入出力可能となるように接続するものとしてもよい。
【0035】
診断演算部4における情報の対比及び判断の一例について説明する。
例えば、予測状態情報取得部2による予測状態に係る情報として、任意の地点A及びその周辺地域における雨量を、降雨実測情報を用いて予測するとともに、任意の地点Aにおける予測流量を算出する。一方、実測状態情報取得部3による実測状態に係る情報として、任意の地点Aにおいて流量計31による実測流量の測定を行う。
そして、予測流量と実測流量のデータを診断演算部4に入力し、診断演算部4において予測流量と実測流量の対比を行う。
【0036】
さらに、診断演算部4では、予測流量と実測流量の対比の結果、下水管渠100の状態に関する判断を行う。
仮に、予測流量と実測流量が略一致した場合、下水管渠100の状態には不具合がないと判断する。
一方、予測流量と実測流量の間に有意な差が生じた場合、下水管渠100の配管10に、経年劣化や腐食による穴が開いているなどの不具合が生じていると判断する。
特に、下水管渠100の配管10では、下水が常に流れる断面下方部より、下水中の気化した成分が接触・蓄積する断面上方部のほうが劣化や腐食による影響を受ける。したがって、下水管渠100の状態に不具合が生じた場合には、配管10上部から不明水が流入し、予測流量よりも実測流量のほうが大きくなるという傾向が現れることになる。このとき、配管10内に流入する不明水としては、地中に保持されている水分のほか、下水管渠100の管路網を介さずに流入する雨水などが挙げられる。
したがって、任意の地点Aにおいて、予測流量よりも実測流量のほうが大きいという結果が得られた場合、任意の地点Aの上流側で下水管渠100の状態に不具合が生じているということがわかる。
【0037】
診断演算部4は、上記対比及び判断についての結果を表示する表示部を設けることが好ましい。これにより、作業者に対し、下水管渠100の診断に係る結果を提示することができる。
【0038】
また、本実施態様における管渠診断装置1Aを用いた下水管渠100の診断において、予測状態と実測状態を取得する任意の地点Aの箇所数については特に限定されない。例えば、任意の地点Aについては、メッシュ状に区分された地域ごとに選択するものとすることが好ましい。例えば、地点A1において取得した予測状態と実測状態に有意な差が生じた一方、地点A2及び地点A3において取得した予測状態と実測状態に差が生じなかった場合、地点A1と地点A2との間、あるいは地点A1と地点A3との間に、下水管渠100の不具合が生じている箇所があるという判断を行うことができる。この場合、地点A1と地点A2の間、地点A1と地点A3の間に、予測状態と実測状態を取得する地点をさらに追加することで、下水管渠100の不具合が生じている箇所を特定することが可能となる。また、メッシュ状に区分されていることにより、地点A1と地点A2、あるいは地点A1と地点A3の位置関係に係る情報を容易に取得することができ、対応箇所の早期特定が容易となる。
【0039】
以上のように、本実施態様における管渠診断装置1Aにより、予測流量と実測流量の対比及び対比結果に基づく判断を行うことにより、下水管渠100の状態を間接的な指標で大まかに捉えることができ、下水管渠100の状態を簡便に把握することができる。また、下水管渠100における対応箇所の早期特定や維持管理コストの削減につなげることができる。
【0040】
また、本実施態様における管渠診断装置1Aでは、管渠内を流れる流体の予測流量と実測流量の差異から管渠の状態を診断することが可能となる。これにより、管渠の状態を診断することに特化した診断装置を設けることなく、比較的簡便な測定装置により管渠の状態を診断することが可能となる。したがって、管渠の維持管理に係る維持管理コストの削減が可能となる。
【0041】
また、本実施態様における管渠診断装置1Aによる診断に係る結果を基に、真に必要な修繕計画等の作成や、修繕を行うことができる。これにより、下水管渠100の維持管理において、必要以上にコストをかけることなく、真に必要な対応のみを効果的に行うことが可能となる。
【0042】
〔第2の実施態様〕
図2は、本発明の第2の実施態様における管渠診断装置を示す概略説明図である。
第2の実施態様に係る管渠診断装置1Bは、第1の実施態様における管渠診断装置1Aに対し、過去の診断データと、予測状態情報取得部2や実測状態情報取得部3で取得した予測状態及び/又は実測状態の関係から、下水管渠100の状態を判定する判定部5をさらに設けるものである。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0043】
判定部5は、過去の診断データと、予測状態及び/又は実測状態との関係を用い、下水管渠100の状態に係る判定を行うものであり、下水管渠100の状態に係る診断精度を高めるためのものである。
判定部5としては、過去の診断データと、予測状態情報取得部2や実測状態情報取得部3で取得した予測状態及び/又は実測状態との関係から、下水管渠100の状態を判定する演算手段を備えるものであれば特に限定されない。例えば、作業者が各種データを収集し、演算を行うことや、各種データの入出力が可能で、演算に必要なプログラムをCPU等のプロセッサにより実行する計算装置を用いること等が挙げられる。なお、判定部5は、予測状態情報取得部2及び診断演算部4と、1つの計算装置で兼用するものとしてもよく、別々の計算装置として設けたものを互いに入出力可能となるように接続するものとしてもよい。
【0044】
判定部5における判定の一例について説明する。
判定部5では、過去の診断データを基に、予測状態と実測状態の対比における閾値を設定する。この閾値は、予測状態と実測状態の間にどの程度の差異が発生したら、下水管渠100の不具合が生じていると判断することができるかということに係る値である。なお、閾値の設定において、過去の診断データに加え、下水管渠100の施工からの経過年数も加味したものとしてもよい。
そして、予測状態情報取得部2及び実測状態情報取得部3で取得した予測状態と実測状態について診断演算部4における対比を行い、この対比結果を判定部5に入力する。
さらに、判定部5では、入力した対比結果と過去の診断データに基づく閾値との比較を行い、下水管渠100の状態に係る判定を行う。例えば、診断演算部4において予測状態と実測状態の間に有意な差異が生じているという対比結果が得られた場合であっても、この差異が過去の診断データに基づく閾値を超えていないときには、この差異は下水管渠100の不具合が生じていることを指すものではないという判定を行うことができる。これにより、下水管渠100の状態に係る診断の精度を高めることが可能となる。
【0045】
また、判定部5における別の判定の例としては、過去に不具合が生じた際の診断データに係る予測状態及び実測状態と、今回得られた予測状態及び実測状態とを比較することで、下水管渠100の不具合の程度に係る判定を行うことが挙げられる。より具体的には、例えば、今回得られた予測状態と実測状態に係る情報と、過去の診断データに係る予測状態と実測状態に係る情報を比較することで、過去の診断データから不具合が生じていることを診断するとともに、穴の規模などを推測すること等が挙げられる。これにより、下水管渠100の状態に係る診断の精度を高めるとともに、対応に係る優先度の設定につなげることが可能となる。
【0046】
本実施態様における管渠診断装置1Bにより、管渠に係る予測状態と実測状態に加え、過去の診断データも使用することで、管渠の状態に係る診断の精度を高めることが可能となる。
【0047】
〔第3の実施態様〕
図3は、本発明の第3の実施態様における管渠診断装置を示す概略説明図である。
第3の実施態様に係る管渠診断装置1Cは、第1の実施態様における管渠診断装置1Aにおいて、予測状態と実測状態に係る情報として、予測濃度と実測濃度を取得するものである。より具体的には、予測状態情報取得部2において扱う情報として、任意の地点Aにおける予測濃度を用い、実測状態情報取得部3において扱う情報として、任意の地点Aにおける実測濃度を用いるものとする。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0048】
本実施態様の予測状態情報取得部2及び実測状態情報取得部3で扱う情報である任意の地点Aにおける予測濃度及び実測濃度は、下水の成分に係る濃度であればよく、例えば、SS濃度や塩分濃度などが挙げられる。これにより、予測状態及び実測状態に関する情報を比較的簡便に取得あるいは演算することが可能となり、下水管渠100の診断に係るコストを抑制することが可能となる。
【0049】
ここで、予測状態情報取得部2において予測濃度を得るための手段としては、特に限定されない。例えば、下水管渠100による管路網のうち、任意の地点Aにおける下水の予測濃度について、過去の実績(過去の実測濃度値等)を基に予測濃度を推計すること等が挙げられる。
【0050】
また、実測状態情報取得部3において実測濃度を得るための手段としては、特に限定されない。例えば、下水管渠100による管路網のうち、任意の地点Aにおける濃度について、濃度計32を用いて実測濃度を測定すること等が挙げられる。なお、実測濃度の測定手段としては、作業者がその都度任意の地点Aに濃度計32を持ち込んで測定することや、実測状態(実測濃度)に係る情報を取得する任意の地点Aを、配管10の合流点など、あらかじめ定めた地点に固定し、ここに濃度計32を設置して、常時あるいは任意のタイミングで実測濃度を測定することなどが挙げられる。
【0051】
そして、予測状態情報取得部2と実測状態情報取得部3で得られた濃度に係る情報を用いて、診断演算部4により情報の対比及び判断を行い、下水管渠100の状態を診断する。なお、診断演算部4における情報の対比及び判断については、第1の実施態様に示した内容と同様のものとすることが挙げられる。
【0052】
特に、下水管渠100の埋設箇所が沿岸地域にある場合、実測状態に係る濃度としては塩分濃度を用いることが好ましい。
本発明者らは、種々の検討の結果、沿岸地域における下水管渠100に不具合が生じている場合、潮位の変化に応じて塩分濃度が周期的に変動するという知見を得た。
【0053】
図4は、沿岸地域における下水管渠100の任意の地点Aにおいて、下水管渠100に不具合が生じている場合の塩分濃度の経時変化と、潮位の変化について模式的に示したグラフである。
本来、下水管渠100において不具合が生じていない場合、図4中の破線で示すように、塩分濃度は一定値を示すものである。一方、下水管渠100に不具合が生じている場合、潮位が上がることで海水が配管10内に流入し、図4中の太線で示すように、塩分濃度の変化を生じさせることがわかった。
【0054】
したがって、予測状態情報取得部2において潮位の変動に係る情報を取得し、また、実測状態情報取得部3においては塩分濃度の実測濃度を取得した後、これらの情報を用いて診断演算部4において対比及び判断を行うことで、下水管渠100の状態に係る診断を行うことができる。
【0055】
さらに、図4における潮位の周期と実測濃度の周期の間のずれ(流下時間(単位:min))を求め、配管10内の下水の流速(単位:m/min)を流下時間で除することで、海水の流入が生じた箇所について任意の地点Aからの距離(単位:m)に関する情報を得ることができる。これにより、対応箇所の早期特定が容易となる。
【0056】
本実施態様における管渠診断装置1Cにより、管渠内を流れる流体の予測濃度と実測濃度の差異から管渠の状態を診断することが可能となる。これにより、管渠の状態を診断することに特化した診断装置を設けることなく、比較的簡便な測定装置により管渠の状態を診断することが可能となる。したがって、管渠の維持管理に係る維持管理コストの削減が可能となる。
【0057】
特に、本実施態様における管渠診断装置1Cにより、沿岸地域における下水管渠に対し、潮位の変化と流体の塩分濃度を用いた診断を行うことで、海水の流入箇所を特定することが容易となり、速やかな対応を行うことが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施態様は、管渠診断装置及び管渠診断方法の一例を示すものである。本発明に係る管渠診断装置及び管渠診断方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る管渠診断装置及び管渠診断方法を変形してもよい。
【0059】
例えば、第3の実施態様に示した管渠診断装置1Cに対し、第2の実施態様における判定部を備えるものとしてもよい、これにより、管渠の状態に係る診断の精度をより高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の管渠診断装置及び管渠診断方法は、自然流下式管渠の状態に係る診断に利用されるものである。特に、下水管渠の維持管理に係る診断調査において好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0061】
1A,1B,1C 管渠診断装置、2 予測状態情報取得部、3 実測状態情報取得部、31 流量計、32 濃度計、4 診断演算部、5 判定部、10 配管、100 下水管渠、200 下水処理場、A,A1,A2,A3 任意の地点
図1
図2
図3
図4