(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】冷凍サイクル用作動媒体および冷凍サイクルシステム
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20240705BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 C
C09K5/04 E
C09K5/04 B
F25B1/00 396Z
(21)【出願番号】P 2020065871
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋元 任彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】北川 浩崇
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031370(WO,A1)
【文献】特開2020-038014(JP,A)
【文献】特開2018-177966(JP,A)
【文献】特開2014-237828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F25B 1/00- 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒成分として、不均化反応が生じるフルオロアルケンおよびジフルオロメタンを含有するとともに、
前記フルオロアルケンおよび前記ジフルオロメタンが併用されているときに、これら冷媒成分を圧縮する圧縮機において、60℃以上の温度かつ4.2MPa以上の圧力である高温高圧条件下で、前記フルオロアルケンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタン(CHF
2 I)を含有する
とともに、
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記ジフルオロヨードメタンの含有量は10質量%以下であることを特徴とする、
冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項2】
前記不均化反応が生じるフルオロアルケンが、1,1,2-トリフルオロエチレンであることを特徴とする、
請求項1に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項3】
前記不均化抑制剤として、さらにn-プロパンを含有することを特徴とする、
請求項1または2に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項4】
前記不均化抑制剤として、さらに1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF
3CH
2I)、または、トリフルオロヨードメタン(CF
3 I)を含有することを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項5】
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量における前記ジフルオロメタンの含有量は、30質量%以下であることを特徴とする、
請求項1から4のいずれか1項に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項6】
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記ジフルオロヨードメタンの含有量は
8質量%以下であることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか1項に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項7】
前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記n-プロパンの含有量は10質量%以下であることを特徴とする、
請求項3に記載の冷凍サイクル用作動媒体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,2-トリフルオロエチレン等のフルオロアルケンの不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル用作動媒体(冷媒または熱媒体)としては、以前はHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が用いられていたが、HCFCはオゾン層破壊に大きな影響を及ぼす。そこで、近年では、オゾン層破壊係数(ODP)が0のHFC(ハイドロフルオロカーボン)が用いられている。このようなHFCの中でも、最近では、地球温暖化係数(GWP)のより小さいハイドロフルオロオレフィン(HFO)の使用が提案されている。
【0003】
代表的なHFOとしては、例えば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)が知られている。この1,1,2-トリフルオロエチレンは、従来のHFC等に比べて安定性が低いため大気中に残存しにくく、それゆえODPおよびGWPが小さい。ただし、1,1,2-トリフルオロエチレンの安定性が低いことに起因して、不均化反応と呼ばれる自己重合反応(以下、不均化反応と記載する。)が生じやすいことも知られている。
【0004】
不均化反応は、冷凍サイクル用作動媒体の使用中に生じた発熱等に誘引されて生じやすく、しかも不均化反応の発生には大きな熱放出が伴われるため、不均化反応が連鎖的に生じることも知られている。その結果、大量の煤が発生して、冷凍サイクルシステムまたはこのシステムを構成する圧縮機等の信頼性を低下させる可能性がある。
【0005】
そこで、本出願人は、冷凍サイクル用作動媒体の冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレンを用いた場合に、当該1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制するための成分(不均化抑制剤)として、ハロメタン(特許文献1)、飽和炭化水素(特許文献2)、ハロエタン(特許文献3)、あるいはこれらの併用(特許文献4または特許文献5)を提案している。なお、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに併用可能な冷媒成分としては、ジフルオロメタン(HFC32,R32)の併用も知られている(R32はアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)のStandard 34規格に基づく冷媒番号である)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-145380号公報
【文献】特開2018-048271号公報
【文献】特開2018-104565号公報
【文献】特開2018-104566号公報
【文献】特開2019-034983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した不均化抑制剤は、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制または緩和することができる。また、冷媒成分としてジフルオロメタンを併用した場合であっても、前述した不均化抑制剤は、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制または緩和することができる。
【0008】
ここで、本発明者らが1,1,2-トリフルオロエチレンを含有する冷凍サイクル用作動媒体の具体的な使用条件に基づいて鋭意検討したところ、実際の冷凍サイクルシステムでは、1,1,2-トリフルオロエチレンが想定していたよりも高温高圧の条件に曝される可能性があることが明らかとなった。
【0009】
例えば特許文献5に記載しているように、前述した不均化抑制剤は、150℃以上の温度条件下であっても、炭素数1~4のハロアルカンの含有量を所定範囲内に設定することで、有効な不均化反応の抑制または緩和の効果を実現することができる。しかしながら、高温条件下だけでなく高圧条件下でも、不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体については明らかではなかった。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレン等の不均化反応が生じるフルオロアルケンにジフルオロメタンを併用する場合に、高温高圧条件下であってもフルオロアルケンの不均化反応をより一層有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体と、これを用いた冷凍サイクルシステムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る冷凍サイクル用作動媒体は、前記の課題を解決するために、冷媒成分として、不均化反応が生じるフルオロアルケンおよびジフルオロメタンを含有するとともに、前記フルオロアルケンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタン(CHF2 I)を含有する構成である。
【0012】
前記構成によれば、不均化反応が生じるフルオロアルケンを主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタンを添加している。フルオロアルケンの不均化反応では、フッ素ラジカル、フルオロメチルラジカル、およびフルオロメチレンラジカル等のラジカルにより連鎖分岐反応を引き起こすが、ジフルオロヨードメタンは、これらラジカルを良好に捕捉することができる。そのため、高温高圧条件下であってもフルオロアルケンの不均化反応を有効に抑制したり、不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、以上の構成により、冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレン等の不均化反応が生じるフルオロアルケンにジフルオロメタンを併用する場合に、高温高圧条件下であってもフルオロアルケンの不均化反応をより一層有効に抑制または緩和することが可能な冷凍サイクル用作動媒体と、これを用いた冷凍サイクルシステムとを提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A)・(B)は、本開示の実施の一形態に係る冷凍サイクルシステムの一例を示す模式的ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、不均化反応が生じるフルオロアルケンおよびジフルオロメタンを含有するとともに、前記フルオロアルケンの不均化反応を抑制する不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタン(CHF2 I)を含有する構成である。
【0016】
前記構成によれば、不均化反応が生じるフルオロアルケンを主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタンを添加している。フルオロアルケンの不均化反応では、フッ素ラジカル、フルオロメチルラジカル、およびフルオロメチレンラジカル等のラジカルにより連鎖分岐反応を引き起こすが、ジフルオロヨードメタンは、これらラジカルを良好に捕捉することができる。そのため、高温高圧条件下であってもフルオロアルケンの不均化反応を有効に抑制したり、不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0017】
前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記不均化反応が生じるフルオロアルケンが、1,1,2-トリフルオロエチレンである構成であってもよい。
【0018】
前記構成によれば、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)を主成分とする冷媒成分に対して、不均化抑制剤として、少なくともジフルオロヨードメタンを添加している。1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応では、フッ素ラジカル、フルオロメチルラジカル、およびフルオロメチレンラジカル等のラジカルにより連鎖分岐反応を引き起こすが、ジフルオロヨードメタンは、これらラジカルを良好に捕捉することができる。そのため、高温高圧条件下であっても1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制したり、不均化反応の急激な進行を緩和したりすることができる。その結果、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【0019】
前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記不均化抑制剤として、さらにn-プロパンを含有する構成であってもよい。
【0020】
前記構成によれば、不均化抑制剤として、ジフルオロヨードメタンとともにn-プロパンを併用している。そのため、高温高圧条件下であっても不均化反応の抑制または進行の緩和をより良好に実現することができる。
【0021】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記不均化抑制剤として、さらに1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)、または、トリフルオロヨードメタン(CF3 I)を含有する構成であってもよい。
【0022】
前記構成によれば、不均化抑制剤として、ジフルオロヨードメタンとともに1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンまたはトリフルオロヨードメタンを併用している。そのため、高温高圧条件下であっても不均化反応の抑制または進行の緩和をより良好に実現することができる。
【0023】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量における前記ジフルオロメタンの含有量は、30質量%以下である構成であってもよい。
【0024】
前記構成によれば、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに冷媒成分として併用されるジフルオロメタンの含有量が前記の上限値以下であるので、冷凍サイクル用作動媒体における地球温暖化係数(GWP)の上昇を有効に抑制することができる。
【0025】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記ジフルオロヨードメタンの含有量は15質量%以下である構成であってもよい。
【0026】
前記構成によれば、不均化抑制剤であるジフルオロヨードメタンの含有量が前記の上限値以下であるので、高温高圧条件下であっても不均化反応の抑制または進行の緩和をより一層良好に実現することができる。
【0027】
また、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体においては、前記冷媒成分および前記不均化抑制剤の全量を100質量%としたときに、前記n-プロパンの含有量は10質量%以下である構成であってもよい。
【0028】
前記構成によれば、不均化抑制剤としてジフルオロヨードメタンとともに併用されるn-プロパンの含有量が前記の上限値以下であるので、高温高圧条件下であっても不均化反応の抑制または進行の緩和をより一層良好に実現することができる。
【0029】
さらに、本開示には、前記構成の冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムも含まれる。
【0030】
以下、本開示の代表的な実施の形態を具体的に説明する。本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを含有するとともに、(A)フルオロアルケンの不均化反応を抑制する(C)不均化抑制剤として、(C-1)少なくともジフルオロヨードメタン(CHF2 IまたはCF2 HI)を含有する構成である。
【0031】
本開示においては、(C)不均化抑制剤としては、(C-1)ジフルオロヨードメタンに加えて(C-2)n-プロパンを含有してもよいし、さらには、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンに加えて、(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)、または、(C-4)トリフルオロヨードメタン(CF3 I)を含有してもよい。なお、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体には、(A)~(C)成分以外の成分が含有されてもよいことは言うまでもない。
【0032】
また、本開示における高温高圧条件とは、冷媒成分として(A)フルオロアルケンが(B)ジフルオロメタンと併用されている冷凍サイクル用作動媒体が、60℃以上の温度かつ4.2MPa以上の圧力に曝される条件を指すものとする。この高温高圧条件は、後述する空気調和装置等のような冷凍サイクルシステムが備える圧縮機において実際に生じ得る温度および圧力を考慮した条件である。
【0033】
[冷媒成分]
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、少なくとも(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタン(HFC32,R32,化学式:CH2F2)の2成分が用いられる。(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンとしては、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO1132(E))、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2,HFO1114)等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンは、次に示す式(2)の構造を有しており、エチレンの1位の炭素原子(C[元素記号])に結合する2つの水素原子(H)がフッ素(F)に置換されているとともに、2位の炭素原子に結合する2つの水素原子のうち一方がフッ素に置換されている構造を有している。
【0035】
【0036】
(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンは、炭素-炭素二重結合を含む。大気中のオゾンは、光化学反応によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成するが、このヒドロキシルラジカルにより二重結合が分解されやすい。そのため、(1)1,1,2-トリフルオロエチレンは、オゾン層破壊および地球温度化への影響が少ないものとなっている。
【0037】
このような(A)成分を本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体における冷媒成分の「主成分(主冷媒成分)」とすれば、(B)ジフルオロメタンは、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体における冷媒成分の「副成分(副冷媒成分)」と位置づけられる。(B)ジフルオロメタンは、前述したように、これまで用いられてきたHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)に比較して、オゾン層破壊係数(ODP)が0であり、良好な冷媒性能を有している。
【0038】
また、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、冷媒成分として、(A)成分および(B)成分以外の「他の冷媒成分」を含有してもよい。代表的な他の冷媒成分としては、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等のハイドロフルオロカーボン(HFC);モノフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン等のハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0039】
これらHFCまたはHFOは、いずれもオゾン層破壊および地球温暖化への影響が少ないものとして知られているため、(A)成分とともに冷媒成分として併用することができる。前述した他の冷媒成分は、1種類のみ併用してもよいし2種類以上を適宜組み合わせて併用してもよい。
【0040】
ここで、(A)成分は、前述した良好な分解性により急激な不均化反応を引き起こすことも知られている。(A)成分として、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンを代表例に挙げて説明すると、この不均化反応では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの分子が分解する自己分解反応が発生するとともに、この自己分解反応に続いて、分解により生じた炭素が重合して煤となる重合反応等が発生する。高温高圧状態において発熱等により活性ラジカルが発生すると、この活性ラジカルと(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンとが反応して前述した不均化反応が発生する。この不均化反応は発熱を伴うことから、この発熱により活性ラジカルが発生し、さらに、この活性ラジカルにより不均化反応が誘発される。このように、活性ラジカルの発生と不均化反応の発生とが連鎖することで、不均化反応が急激に進行する。
【0041】
本願出願人が以前に鋭意検討したところ、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘発する活性ラジカルは、主としてフッ素ラジカル(Fラジカル)、並びに、トリフルオロメチルラジカル(CF3 ラジカル)、ジフルオロメチレンラジカル(CF2 ラジカル)等のラジカルであることが明らかとなった。
【0042】
そこで、本願出願人らは、冷媒成分として、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンとともに(B)ジフルオロメタンを併用する条件において、Fラジカル、CF3 ラジカル、CF2 ラジカル等を効率よく捕捉することが可能な物質(不均化抑制剤)を冷凍サイクル用作動媒体に添加することで、急激な不均化反応を抑制または緩和することを試みた。その結果、特許文献1~5に開示される不均化抑制剤を添加することにより、好適な不均化抑制剤となり得ることを独自に見出した。
【0043】
さらに本発明者らが鋭意検討したところ、冷凍サイクル用作動媒体がより高温高圧条件下(前記の60℃以上かつ4.2MPa以上の条件下)に曝される可能性があることが明らかとなった。そこで、本発明者らによるさらなる鋭意検討の結果、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンとともに(B)ジフルオロメタンを併用する条件において、(C)不均化抑制剤として、少なくとも(C-1)ジフルオロヨードメタン(CHF2 I)を用いることで、従来想定されていたよりも高温高圧の条件下であっても、(A)フルオロアルケンの不均化反応をより一層良好に抑制できることを独自に見出した。
【0044】
[不均化抑制剤]
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、前述した(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンの不均化反応を抑制する(C)不均化抑制剤として、少なくとも(C-1)ジフルオロヨードメタン(CHF2 I)を用いている。
【0045】
特許文献1~5においては、不均化抑制剤であるハロメタンとして、例えば、(モノ)ヨードメタン(CH3I )、ジヨードメタン(CH2I2)、ジブロモメタン(CH2Br2)、ブロモメタン(CH3Br )、ジクロロメタン(CH2Cl2)、クロロヨードメタン(CH2ClI )、ジブロモクロロメタン(CHBr2Cl )、四ヨウ化メタン(CI4 )、四臭化炭素(CBr4 )、ブロモトリクロロメタン(CBrCl3 )、ジブロモジクロロメタン(CBr2Cl2)、トリブロモフルオロメタン(CBr3F )、フルオロジヨードメタン(CHFI2 )、ジフルオロジヨードメタン(CF2I2)、ジブロモジフルオロメタン(CBr2F2)、トリフルオロヨードメタン(CF3 I)等を挙げているが、ジフルオロヨードメタンは挙げられていない。
【0046】
後述する実施例の結果から明らかなように、ジフルオロヨードメタンは、それ単独で用いられても、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンの不均化反応を有効に抑制または緩和することができる。
【0047】
さらに、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンとともに(C-2)n-プロパンを併用することができる。すなわち、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを併用するとともに、(C)不均化抑制剤として(C-1)ジフルオロヨードメタンのみを用いてもよいし、冷媒成分として(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを併用するとともに、不均化抑制剤として(C-1)ジフルオロヨードメタンおよび(C-2)n-プロパンを併用してもよい。
【0048】
あるいは、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンとともに(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)を併用してもよいし、(C)不均化抑制剤として(C-1)ジフルオロヨードメタンとともに(C-4)トリフルオロヨードメタン(CF3 I)を併用してもよい。
【0049】
さらには、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンとともに、(C-2)n-プロパン、(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン、および(C-4)トリフルオロヨードメタンのいずれか2種以上が併用されてもよい。すなわち、(C-1)ジフルオロヨードメタンを「不均化抑制剤の主成分」としたときに、「不均化抑制剤の副成分」として、(C-2)n-プロパン、(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン、または(C-4)トリフルオロヨードメタンのいずれか1種を用いてもよいし、これら3種の「不均化抑制剤の副成分」のうち2種を適宜組み合わせて用いてもよいし、3種全てを「不均化抑制剤の副成分」として用いてもよい。
【0050】
[冷凍サイクル用作動媒体の組成]
次に、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体の代表的な組成について具体的に説明する。まず、冷凍サイクル用作動媒体における(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンの含有量は特に限定されないが、冷凍サイクル用作動媒体を構成する各成分のうち、冷媒成分および不均化抑制剤の全量(説明の便宜、「冷媒関係成分全量」とする。)を100質量%としたときには、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンの含有量の下限値は、40質量%以上であればよく、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよい。
【0051】
(A)フルオロアルケンの含有量が、冷媒関係成分全量の40質量%未満であれば、冷凍サイクル用作動媒体における(A)フルオロアルケンの含有量が低くなりすぎ、(B)ジフルオロメタン等の他の冷媒成分を多く含有させることになる。そのため、冷凍サイクル用作動媒体において、地球温暖化係数(GWP)の小さい(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンを用いる利点を十分に得られなくなる。
【0052】
一方、(A)フルオロアルケンの含有量の上限値も特に限定されず、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体における他の必須成分(すなわち(B)ジフルオロメタンおよび(C)不均化抑制剤)、並びに、必須成分以外に添加される他の成分の含有量に応じて適宜設定することができる。
【0053】
次に、冷凍サイクル用作動媒体における(B)ジフルオロメタンの含有量も特に限定されない。前記の通り(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンは冷媒成分が「主成分(主冷媒成分)」であり、(B)ジフルオロメタンは冷媒成分の「副成分(副冷媒成分)」である。そのため、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンの含有量が(B)ジフルオロメタンの含有量よりも多くなっていればよい。
【0054】
ただし、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、GWPをなるべく小さくすることが重要となる。具体的には、GWPは200以下であることが望ましい(GWP≦200)。冷媒成分として、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを併用する観点では、(B)ジフルオロメタンの含有量の上限値は、冷媒関係成分全量の30質量%以下であればよく、25質量%以下であってもよい。
【0055】
次に、冷凍サイクル用作動媒体における(C)不均化抑制剤の含有量も特に限定されないが、(C)不均化抑制剤の含有量の上限値としては、冷媒関係成分全量の15質量%以下であればよく、12質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。不均化抑制剤の含有量が冷媒関係成分全量の15質量%を超えると、冷凍サイクル用作動媒体として見たときに、不均化抑制剤の含有量が多くなり過ぎて、「冷媒」として良好な物性を発揮できなくなる可能性があるためである。もちろん、冷凍サイクル用作動媒体の組成によっては、冷媒関係成分全量の15質量%以上を添加してよいことは言うまでもない。
【0056】
したがって、(C)不均化抑制剤として、必須成分である(C-1)ジフルオロヨードメタンのみを用いる場合も、その含有量の上限値は冷媒関係成分全量の15質量%以下であればよく、12質量%以下であってもよく、10質量%以下であればよい。ただし、前述した高温高圧条件下では、(C-1)ジフルオロヨードメタンの含有量は、冷媒関係成分全量の10質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。特に圧力条件が高温高圧条件よりも低い(4.2MPa未満)場合では、(C-1)ジフルオロヨードメタンの含有量が冷媒関係成分全量の2質量%以下であっても、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)フルオロアルケンの不均化反応を有効に抑制または緩和することが可能である。
【0057】
次に、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンに加えて、(C-2)n-プロパン、(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン、および(C-4)トリフルオロヨードメタンの少なくともいずれか1種を併用する場合には、これら「副成分」としての(C)不均化抑制剤の種類に応じて含有量を適宜設定することができる。
【0058】
例えば、(C-2)n-プロパンは、(C)不均化抑制剤として用いることができるとともに、(A)フルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタン以外の他の冷媒成分として用いることができる。そこで、冷凍サイクル用作動媒体の使用条件等に応じて、(C-2)n-プロパンの含有量を適宜調整することができる。代表的には、(C-2)n-プロパンの含有量の上限値は冷媒関係成分全量の10質量%以下であればよく、8質量%以下であってもよい。また、(C-2)n-プロパンの含有量の上限値は冷媒関係成分全量の4質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。
【0059】
(C-2)n-プロパンの含有量が10質量%を超えると、冷凍サイクル用作動媒体の可燃性が上昇するおそれがあるとともに、(C)不均化抑制剤として見たときに、添加量に見合った不均化反応の抑制または緩和の効果が得られない傾向にある。また、(C-2)n-プロパンの含有量が4質量%未満の場合、諸条件にもよるが、(C)不均化抑制剤および冷媒成分を兼ねる(C-2)n-プロパンの添加による調整作用が十分に発揮できない可能性がある。
【0060】
また、(C)不均化抑制剤の含有量の下限値についても特に限定されないが、代表的な下限値として、冷媒関係成分全量の1.2質量%以上を挙げることができる。(C)不均化抑制剤が1.2質量%未満であっても、不均化反応の抑制または緩和の効果を得ることは可能であるが、1.2質量%以上であれば、不均化反応の抑制または緩和の効果をより好適に実現することが期待できる。したがって、本開示においては、不均化抑制剤の含有量の好ましい下限値としては、冷媒関係成分全量の1.2質量%以上を挙げることができる。
【0061】
なお、一般的には、冷凍サイクル用作動媒体において、冷媒成分に含まれる不純物は2~3質量%以下であることが多い。例えば、(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンの代表例である、市販される(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの純度は97質量%程度のものが知られており、不純物としては、合成原料の残部または副生物が3質量%未満で含有されている。本開示において(C)不均化抑制剤の必須成分である(C-1)ジフルオロヨードメタンは、不純物レベル(3質量%以下)で1,1,2-トリフルオロエチレンに添加しても不均化反応を有効に抑制したり進行を緩和したりすることができる。そのため、不均化抑制剤の添加量については、必ずしも特定し得るものではなく、前述した各成分の上限値または下限値等は、飽くまで代表的な好ましい一例を挙げたものである。
【0062】
[併用し得る他の成分]
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷凍サイクルシステムで用いられるため、冷凍サイクルシステムが備える圧縮機を潤滑する潤滑油(冷凍機油)と併用することができる。
【0063】
本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、前述したように、冷媒成分として(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを併用するとともに、(C)不均化抑制剤として少なくとも(C-1)ジフルオロヨードメタンを用いればよいが、さらに、冷凍サイクル用作動媒体を潤滑油と併用する場合には、冷媒成分、不均化抑制剤、および潤滑油成分、並びに他の成分により作動媒体含有組成物が構成されていると見なすことができる。なお、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体においては、(C)不均化抑制剤は、冷媒成分に混合されてもよいし、潤滑油成分に混合されてもよい。
【0064】
作動媒体含有組成物に含まれる(冷凍サイクル用作動媒体とともに併用される)潤滑油成分は、冷凍サイクルシステムで公知の各種潤滑油を好適に用いることができる。具体的な潤滑油としては、エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油、グリコール系潤滑油、アルキルベンゼン系潤滑油、フッ素系潤滑油、鉱物油、炭化水素系合成油等を挙げることができるが、特に限定されない。これら潤滑油は、1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせられて用いられてもよい。
【0065】
また、作動媒体含有組成物には、不均化抑制剤以外の公知の各種添加剤が添加されてもよい。具体的な添加剤としては、酸化防止剤、水分捕捉剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、消泡剤等が挙げられるが、特に限定されない。酸化防止剤は、冷媒成分もしくは潤滑油の熱安定性、耐酸化性、化学的安定性等を改善するために用いられる。水分捕捉剤は、冷凍サイクルシステム内に水分が浸入した場合に当該水分を除去し、特に潤滑油の性質変化を抑制するために用いられる。金属不活性化剤は、金属成分の触媒作用による化学反応を抑制または防止するために用いられる。摩耗防止剤は、圧縮機内の摺動部分における摩耗、特に圧力の高い運転時の摩耗を軽減するために用いられる。消泡剤は、特に潤滑油に気泡が発生することを抑制するために用いられる。
【0066】
これら添加剤の具体的な種類は特に限定されず、諸条件に応じて公知の化合物等を好適に用いることができる。また、これら添加剤としては、1種類の化合物等みが用いられてもよいし2種類以上の化合物等が適宜組み合わせられて用いられてもよい。さらに、これら添加剤の添加量も特に限定されず、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体、もしくは、これを含有する作動媒体含有組成物の性質を損なわない限り、公知の範囲内で添加することができる。
【0067】
なお、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、他の成分を含有しないものであってもよい。例えば、(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンとして、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンを用いた場合には、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン、(B)ジフルオロメタン、および(C-1)ジフルオロヨードメタンの3成分から構成されてもよいし、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン、(B)ジフルオロメタン、(C-1)ジフルオロヨードメタンおよび(C-2)n-プロパンの4成分から構成されてもよいし、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン、(B)ジフルオロメタン、(C-1)ジフルオロヨードメタン、および(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンの4成分から構成されてもよいし、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン、(B)ジフルオロメタン、(C-1)ジフルオロヨードメタン、および(C-4)トリフルオロヨードメタンの4成分から構成されてもよいし、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン、(B)ジフルオロメタン、および(C-1)ジフルオロヨードメタン、並びに(C-2)n-プロパン、(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンおよび(C-4)トリフルオロヨードメタンの少なくともいずれか2種の5成分または6成分から構成されてもよい。(A)フルオロアルケンが、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンとは異なる冷媒成分である場合には、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンを他の冷媒成分に置き換えればよい。
【0068】
[冷凍サイクルシステムの構成例]
次に、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムの一例について、
図1(A)・(B)を参照しながら説明する。
【0069】
本開示に係る冷凍サイクルシステムの具体的な構成は特に限定されず、圧縮機、凝縮器、膨張手段、および蒸発器等の構成要素が配管にて接続された構成であればよい。本開示に係る冷凍サイクルシステムの具体的な適用例も特に限定されず、例えば、空気調和装置(エアーコンディショナー)、冷蔵庫(家庭用、業務用)、除湿器、ショーケース、製氷機、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機等を挙げることができる。
【0070】
本開示に係る冷凍サイクルシステムの代表的な適用例として、空気調和装置を挙げて説明する。具体的には、
図1(A)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態に係る空気調和装置10は、室内機11および室外機12、並びにこれらを接続する配管13を備えており、室内機11は熱交換器14を備え、室外機12は熱交換器15、圧縮機16、および減圧装置17を備えている。
【0071】
室内機11の熱交換器14と室外機12の熱交換器15とは、配管13で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが形成されている。具体的には、室内機11の熱交換器14、圧縮機16、室外機12の熱交換器15、減圧装置17の順で配管13により環状に接続されている。また、熱交換器14、圧縮機16、および熱交換器15を接続する配管13には、冷暖房切換用の四方弁18が設けられている。なお、室内機11は、図示しない送風ファン、温度センサ、操作部等を備えており、室外機12は、図示しない送風機、アキュームレータ等を備えている。さらに、配管13には、図示しない各種弁装置(四方弁18も含む)、ストレーナ等が設けられている。
【0072】
室内機11が備える熱交換器14は、送風ファンにより室内機11の内部に吸い込まれた室内空気と、熱交換器14の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。室内機11は、暖房時には熱交換により暖められた空気を室内に送風し、冷房時には熱交換により冷却された空気を室内に送風する。室外機12が備える熱交換器15は、送風機により室外機12の内部に吸い込まれた外気と熱交換器15の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。
【0073】
なお、室内機11および室外機12の具体的な構成、あるいは、熱交換器14または熱交換器15、圧縮機16、減圧装置17、四方弁18、送風ファン、温度センサ、操作部、送風機、アキュームレータ、その他の弁装置、ストレーナ等の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
【0074】
図1(A)に示す空気調和装置10の動作の一例について具体的に説明する。まず、冷房運転または除湿運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気とガス冷媒とを熱交換するので、ガス冷媒は凝縮して液化する。液化した液冷媒は減圧装置17により減圧され、室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換により液冷媒が蒸発してガス冷媒となる。このガス冷媒は、四方弁18を介して室外機12の圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び熱交換器15に吐出する。
【0075】
また、暖房運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換によりガス冷媒が凝縮して液化する。液化した液冷媒は、減圧装置17により減圧されて気液二相冷媒となり、室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気と気液二相冷媒とを熱交換するので、気液二相冷媒は蒸発してガス冷媒となり、圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び室内機11の熱交換器14に吐出する。
【0076】
また、本開示に係る冷凍サイクルシステムの他の代表的な適用例として、冷蔵庫を例に挙げて説明する。具体的には、例えば、
図1(B)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態に係る冷蔵庫20は、
図1に示す圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、および配管25等を備えている。また、冷蔵庫20は、図示しないが、本体となる筐体、送風機、操作部、制御部等も備えている。
【0077】
圧縮機21は、冷媒ガスを圧縮して、高温高圧のガス冷媒にする。凝縮器22は、冷媒を冷却して液化させる。減圧装置23は、例えばキャピラリーチューブで構成され、液化された冷媒(液冷媒)を減圧する。蒸発器24は、冷媒を蒸発させて低温低圧のガス冷媒にする。圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、および蒸発器24は、冷媒ガスを流通させる配管25により、この順で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが構成されている。
【0078】
なお、圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、配管25、本体筐体、送風機、操作部、制御部等の構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、冷蔵庫20は、これら以外の公知の構成を備えていてもよい。
【0079】
図1(B)に示す冷蔵庫20の動作の一例について具体的に説明する。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して凝縮器22に吐出する。凝縮器22はガス冷媒を冷却して液冷媒とする。液冷媒は減圧装置23を通過することにより減圧され、蒸発器24に送られる。蒸発器24では、液冷媒が周囲から熱を奪うことにより気化し、ガス冷媒となって圧縮機21に戻る。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して再び凝縮器22に吐出する。
【0080】
このような空気調和装置10または冷蔵庫20は、前述した冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムとなっている。冷凍サイクル用作動媒体に用いられる1,1,2-トリフルオロエチレンは、冷媒成分として良好な性質を有しているとともに、ODPおよびGWPが小さい。そのため、環境に与える影響を小さくしつつ効率的な冷凍サイクルシステムを実現することができる。
【0081】
しかも、本開示に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン等の(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンおよび(B)ジフルオロメタンを用いるとともに、(C)不均化抑制剤として、少なくとも(C-1)ジフルオロヨードメタンを用いており、好ましくは、不均化抑制剤として(C-1)ジフルオロヨードメタンに(C-2)n-プロパンを併用してもよいし、(C-1)ジフルオロヨードメタンに(C-3)1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンを併用してもよいし、(C-1)ジフルオロヨードメタンに(C-4)トリフルオロヨードメタンを併用してもよい。
【0082】
冷凍サイクル用作動媒体がこのような構成であれば、冷凍サイクルが稼働中に発熱等が生じても、1,1,2-トリフルオロエチレンの連鎖的な不均化反応の発生を回避、抑制または緩和することができる。特に、冷凍サイクル用作動媒体の実際の使用環境を想定した高温高圧条件下(60℃以上かつ4.2MPa以上の条件下)において、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生を良好に回避、抑制または緩和することができる。その結果、連鎖的な不均化反応による煤の発生等を有効に回避することができるので、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
【実施例】
【0083】
本開示について、実施例、比較例および参考例に基づいてより具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。当業者は本開示の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0084】
(不均化反応の実験系)
密閉型の耐圧容器(耐圧硝子工業株式会社製ステンレス密閉容器TVS-N2[商品名]、内部容積50mL)に対して、当該耐圧容器内の内部圧力を測定する圧力センサ(株式会社バルコム製VESVM10-2m[商品名])、当該耐圧容器内の内部温度を測定する熱電対(Conax Technologies製PL熱電対グランドPL-18-K-A 4-T[商品名])、並びに、当該耐圧容器内で放電を発生させるための放電装置(アズワン株式会社製UH-1seriesミニミニウェルダー[商品名])を取り付けた。
【0085】
さらに、冷媒成分の主成分である(A)不均化反応が生じるフルオロアルケンとして、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレン(SynQuest Laboratories製、ヒドラス化学(株)販売、安定剤としてリモネン5%(液相)で含有)のガスボンベと、冷媒成分の副成分である(B)ジフルオロメタン(ダイキン工業株式会社製)のガスボンベとを圧力調整可能となるように接続した。そして、耐圧容器全体を加熱するために2個のマントルヒータ(東京硝子器械株式会社製パイプ型マントルヒータP-31型およびP-51型[いずれも商品名]を設置するとともに、配管部分も加熱できるようにリボンヒータ(株式会社東京技術研究所製フレキシブルリボンヒータ1m、200W)を設置した。これにより、不均化反応の実験系を構築した。
【0086】
(比較例1)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンおよび(B)ジフルオロメタンを導入し、(B)ジフルオロメタンの含有量が22質量%となるように導入量を調整した。
【0087】
したがって、耐圧容器内の冷凍サイクル用作動媒体では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は78質量%となる。
【0088】
(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度150℃かつ内部圧力6MPaの高温高圧条件下で放電装置により300Vの放電電圧で放電を発生させた。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したところ、相当量の煤の発生が確認され、不均化反応が生じていた。
【0089】
(比較例2)
前記実験系において、(C)不均化抑制剤として、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンを7.5質量%の含有量となるように添加した以外は、比較例1と同様にして、耐圧容器内に(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンおよび(B)ジフルオロメタンを導入した。
【0090】
したがって、耐圧容器内の冷凍サイクル用作動媒体では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が71.5質量%、(B)ジフルオロメタンの含有量が22質量%、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタンの含有量が7.5質量%となる。
【0091】
そして、比較例1と同様にして(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生について確認したが、比較例1と同様に相当量の煤の発生が確認され、不均化反応が生じていた。
【0092】
(実施例1)
前記実験系において、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンを7.5質量%の含有量となるように添加した以外は、比較例1と同様にして、耐圧容器内に(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンおよび(B)ジフルオロメタンを導入した。
【0093】
したがって、耐圧容器内の冷凍サイクル用作動媒体では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が71.5質量%、(B)ジフルオロメタンの含有量が22質量%、(C-1)ジフルオロヨードメタンの含有量が7.5質量%となる。
【0094】
そして、比較例1と同様にして(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生について確認したが、不均化反応の発生は確認できなかった。
【0095】
(実施例2)
前記実験系において、(C)不均化抑制剤として、(C-1)ジフルオロヨードメタンを5質量%の含有量となるように添加するとともに、(C-2)n-プロパンのガスボンベを圧力調整可能となるように耐威圧容器に接続し、(C-2)n-プロパンの含有量が7.5質量%となるように導入量を調整した以外は、比較例1と同様にして、耐圧容器内に(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンおよび(B)ジフルオロメタンを導入した。
【0096】
したがって、耐圧容器内の冷凍サイクル用作動媒体では、(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が69.5質量%、(B)ジフルオロメタンの含有量が22質量%、(C-1)ジフルオロヨードメタンの含有量が1.0質量%、(C-2)n-プロパンの含有量が7.5質量%となる。
【0097】
そして、比較例1と同様にして(A-1)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生について確認したが、不均化反応の発生は確認できなかった。
【0098】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、冷凍サイクルに用いられる作動媒体の分野に好適に用いることができるとともに、空気調和装置(エアーコンディショナー)、冷蔵庫(家庭用、業務用)、除湿器、ショーケース、製氷機、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機等といった冷凍サイクルシステムの分野にも広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0100】
10 空気調和装置(冷凍サイクルシステム)
11 室内機
12 室外機
13 配管
14 熱交換器
15 熱交換器
16 圧縮機
17 減圧装置
18 四方弁
20 冷蔵庫(冷凍サイクルシステム)
21 圧縮機
22 凝縮器
23 減圧装置
24 蒸発器
25 配管