(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/052 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
H01G9/052 500
(21)【出願番号】P 2023505638
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2022010668
(87)【国際公開番号】W WO2022191291
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2021040641
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南浦 武史
(72)【発明者】
【氏名】鳳桐 将之
(72)【発明者】
【氏名】大形 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】矢野 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】杉原 之康
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-224091(JP,A)
【文献】特開平07-022291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極基体、および、前記陽極基体の表面に形成された誘電体層を含む多孔質の陽極体と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、
を含むコンデンサ素子を備え、
前記陽極体は、複数の主面を有し、
前記陽極体の表面は、前記複数の主面が交差する角部分を含まない第1領域と、前記第1領域とは異なる第2領域と、を有し、
前記第1領域における表面粗さRa1は、前記第2領域における表面粗さRa2
の1.1倍以上である、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記第1領域は、前記陽極体の一主面内の領域であり、
前記一主面の境界を構成する複数の辺部の前記一主面の中心からの距離のうち最大の距離をDmとしたとき、前記第1領域は、前記一主面の中心からの距離がDm/2以下の領域である、請求項
1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記第2領域は、前記第1領域と同じ前記主面内の別の領域を含む、請求項1
または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記表面粗さRa1は、前記表面粗さRa2の4倍以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記陽極体の一主面から植立する陽極ワイヤをさらに備え、
前記第1領域は、前記陽極ワイヤが植立する植立面内の領域である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記植立面において、前記第1領域の前記陽極ワイヤからの距離の最大値が0.2mm以上である、請求項
5に記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が小さく、周波数特性が優れているため、様々な電子機器に搭載されている。電解コンデンサは、通常、陽極部および陰極部を備えるコンデンサ素子を備える。陽極部は、多孔質の陽極体を含み、陽極体の表面に誘電体層が形成される。誘電体層は、電解質と接触する。電解質として、導電性高分子などの固体電解質を用いた電解コンデンサがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体電解質を用いた電解コンデンサの信頼性を高める。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一局面は、陽極基体、および、前記陽極基体の表面に形成された誘電体層を含む多孔質の陽極体と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含むコンデンサ素子を備え、前記陽極体は、複数の主面を有し、前記陽極体の表面は、前記複数の主面が交差する角部分を含まない第1領域と、前記第1領域とは異なる第2領域と、を有し、前記第1領域における表面粗さRa1は、前記第2領域における表面粗さRa2よりも大きい、電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0006】
電解コンデンサの漏れ電流の増加が抑制され、信頼性が向上する。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係る電解コンデンサに用いられる陽極体の形状を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図3】陽極体における第1領域の陽極ワイヤからの距離の最大値と残留カーボン量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[電解コンデンサ]
本開示の一実施形態に係る電解コンデンサは、陽極基体、および、陽極基体の表面に形成された誘電体層を含む多孔質の陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含むコンデンサ素子を備える。陽極体は、複数の主面を有する。陽極体の表面は、角部分を含まない第1領域と、第1領域とは異なる第2領域と、を有する。第1領域における表面粗さRa1は、第2領域における表面粗さRa2よりも大きい。
【0009】
ここで、表面粗さRa1およびRa2はJIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さRaであり、例えばレーザー照射を用いる非接触式の表面粗さ計を用いて粗さ曲線を測定し、その曲線から算出される。陽極体の表面における表面粗さRaは、製造後の電解コンデンサを分解して取り出したコンデンサ素子(
図2参照)に対して、固体電解質層を発煙硝酸に溶解させて除去した後、乾燥させ、陽極体の表面を露出させることで求める。
【0010】
陽極体は、通常、直方体の形状を有している。この場合、複数の主面とは、直方体の各面を指す。陽極体の表面とは、これらの複数の主面の表面、および、これらの主面同士を連結する辺部分および頂点部分の表面を含む。辺部分とは、陽極体の2つの主面が交差する辺およびその近傍の領域を指す。頂点部分とは、陽極体の3つの主面が交差する頂点およびその近傍の領域を指す。ここで、辺部分および頂点部分を、「角部分」と総称する。より具体的に、陽極体の「角部分」とは、陽極体の2つの主面が交差する辺または3つの主面が交差する頂点からの距離が0.1mm以内の領域を指す。また、後述するように、辺部分および/または頂点部分が曲面形状または面取り形状を有する場合には、曲面形状または面取り形状を有する部分は、角部分に含まれる。
すなわち、第1領域が角部分を含まないとは、第1領域が、陽極体の上記辺および上記頂点から0.1mm超離れており、且つ曲面形状または面取り形状を有しない領域であることを意味する。
【0011】
誘電体層は、通常、陽極基材に化成処理を施し、陽極基材の表面を酸化させることにより形成される。したがって、化成により形成される誘電体層の性状は、化成処理前の陽極基材の表面状態の影響を受ける。
【0012】
化成処理前の陽極基材は、例えば、金属粉末を型に入れて押し固め、焼結することにより製造され得る。この場合、陽極基材の主面には金属の微粒子が露出し、微視的に見ると平坦ではなく、表面粗さが大きく、凹凸を有した形状になり易い。特に、陽極基材の2つの主面同士を連結する辺部分、および、3以上の主面同士を連結する頂点部分では、陽極基材の表面は、微視的に見ると平坦ではなく、表面粗さが大きく、凹凸を有した形状になり易い。この状態で化成処理により誘電体層を成長させると、凹凸部分において、誘電体層に欠陥が生じ易い。誘電体層に欠陥が生じると、欠陥部分を介して固体電解質と弁作用金属との間に電流が流れる経路が生じ、漏れ電流が増加する場合がある。
【0013】
また、化成処理前の陽極基材の外形を反映した外形を有する化成処理後の陽極体は、多孔質であるため脆く、壊れ易い。特に陽極体の角部分は、角部分以外の部分と比べて機械的強度が低く、且つ、熱応力が集中し易い。多孔質部分が損傷することにより、多孔質部分を覆っている誘電体層が損傷する場合がある。誘電体層の損傷により、漏れ電流が増加する場合がある。
【0014】
これに対し、化成処理前の陽極基材の主面の表層を緻密に形成することで、化成処理により誘電体層を形成する際に生じる誘電体層の化成時の欠陥を低減することができる。結果、漏れ電流を低減できる。また、誘電体層の機械的強度を高めることができる。これにより、化成後の誘電体層の損傷が抑制され得る。結果、漏れ電流の増加が抑制される。陽極基材の主面の表層の緻密化は、例えばレーザー照射や、後述するように、焼結前に誘電体層形成前の陽極基材をメディア粒子などの振動部材とともに容器内に載置し、容器を振動させることにより行うことができる。振動により陽極基材の主面が振動部材と衝突し、衝突により主面の表層部が圧縮され内部よりも緻密に形成される。この場合、緻密に形成された主面の表面における表面粗さは、緻密化処理を行う前の表面における表面粗さよりも小さくなる。
【0015】
しかしながら、陽極基材の主面の表層を緻密に形成する場合、緻密に形成された表面の面積が大きくなると、逆に漏れ電流が大きくなる場合、あるいは、期待された漏れ電流の低減効果が得られない場合がある。この理由として、焼結の際に、陽極基材に含まれるバインダ成分が焼却され気体となって外部に排出されるが、焼結前の陽極基材の表面が緻密化されて気孔度が小さくなっていると、バインダ成分の排出が妨げられることが考えられる。排出されなかったバインダ成分は、カーボン残渣となって陽極体中に残留する。カーボン残渣は導電性を有するため、化成処理での陽極酸化皮膜の形成時にカーボン残渣に電流が集中することによって、酸化皮膜が過熱される場合がある。結果、誘電体層の特性が低下し、漏れ電流の増加の一因となっていると考えられる。
【0016】
そこで、本実施形態の電解コンデンサでは、陽極基材の表層を緻密化する領域(第2領域)と、陽極基材の表層の緻密化を意図的に制限する領域(第1領域)と、を陽極基材に設ける。結果、化成後の陽極体には、陽極体の表層が緻密に形成された第2領域と、陽極体の表層が第2領域よりも緻密に形成されていない第1領域と、が現れる。第2領域は、第1領域よりも緻密であり、気孔度が小さい。また、第1領域における表面粗さRa1は、表面が緻密化されている第2領域における表面粗さRa2よりも大きくなる。第1領域は、陽極体(陽極基材)の角部を含まない領域(例えば、陽極体の主面の中央部分)に設けられる。第2領域は、角部分を含み得る。
【0017】
陽極基材の表層に緻密化されていない第1領域が存在することで、焼結の際に、バインダ成分は第1領域を介して気体となって外部に排出され、バインダ成分に由来する残留カーボン量が低減される。一方で、第2領域の表面が緻密に形成されていることで化成により形成される誘電体層の欠陥が低減されるとともに、誘電体層の機械的強度が高まり、誘電体層の損傷が抑制され得る。これらの効果により、漏れ電流を効果的に低減できる。
【0018】
なお、第2領域が第1領域よりも緻密であるとは、第2領域の表層における気孔率P2が、第1領域の表層における気孔率P1よりも小さいことを意味する。気孔率は、陽極体の断面写真を画像解析することにより求められる。陽極体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影し、例えば5μm×10μmの視野において、撮影像の二値化などの画像処理を行い、細孔部分とそれ以外の部分とを区別する。気孔率は、細孔部分とそれ以外の部分との合計面積に占める細孔部分の面積割合として求めることができる。撮影像は任意の10箇所で測定し、10箇所で求められる上記細孔部分の面積割合の平均値として、気孔率を求めることが望ましい。
【0019】
第1領域における表面粗さRa1は、第2領域における表面粗さRa2の1.1倍以上であってもよい。Ra1がRa2の1.1倍以上であると、第2領域が十分に緻密であり、欠陥の少ない誘電体層を形成できる。なお、ここでのRa1およびRa2は、各領域内の任意の10箇所以上における平均値である。
【0020】
第1領域における表面粗さRa1は、第2領域における表面粗さRa2の4倍以下であってもよい。例えば、陽極基材をメディア粒子とともに容器内で振動させることにより、表面粗さがこのような範囲の第1領域および第2領域を有する陽極体が得られる。
【0021】
第1領域は、陽極体の複数の主面のうち少なくとも1つの主面の表面に設けられる。第1領域は、陽極体の一主面内の領域であり、陽極体の角部分からある程度離れた領域であり得る。陽極体の一主面における中心の位置をOとする。中心位置Oは、陽極体の一主面の境界を構成する輪郭線の形状から求められる重心の位置である。中心位置Oから、陽極体の一主面の境界(輪郭線)を構成する複数の辺部のそれぞれまでの距離のうち、最大の距離をDmとする。第1領域は、中心位置Oからの距離がDm/2以下の領域であってもよい。例えば、陽極体の一主面が長方形の輪郭を有する場合、第1領域は、中心位置Oからの距離が長方形の長辺の4分の1以下となる領域であり、且つ、角部分を含まない領域であり得る。
【0022】
第2領域は、第1領域と同じ主面内の別の領域Xを含んでもよい。その場合、第1領域と同じ主面内の第2領域Xにおける表面粗さRa2は、第1領域における表面粗さRa1よりも小さい。すなわち、同一の陽極体の主面内に、緻密に形成された表層を有し且つ表面粗さの小さな第2領域Xと、第2領域Xよりも表面粗さの大きな第1領域を有してもよい。第2領域Xは、第1領域が配される主面内の領域であって、第1領域以外の領域の一部(角部分を除く)であってもよい。
【0023】
第1領域の面積A1は、例えば、陽極体の複数の主面の面積の合計の0.1%~20%である。第1領域の面積A1が複数の主面の合計面積の0.1%以上であれば、焼結の際にバインダ成分を第1領域を介して外部に排出でき、残留カーボン量を低減できる。一方で、第1領域の面積A1を大きくするほど、第1領域以外の主面の面積が減少し、陽極体の表層が緻密に形成される第2領域の面積A2が減少する。第1領域の面積A1が複数の主面の合計面積の20%以下であれば、残りの領域において十分に面積の大きな第2領域を配置することができ、化成により形成される誘電体層の欠陥を低減し、誘電体層の損傷が抑制する効果が十分に得られる。
【0024】
第2領域は、角部分を含んでいても含まなくてもよいが、角部分を含むことがより好ましい。すなわち、陽極体の角部分は緻密化されていることが好ましい。角部分は機械的強度が低く、誘電体層の損傷を受け易い。しかしながら、角部分が緻密化されていることで、誘電体層の機械的強度を高めることができ、誘電体層の損傷を抑制できる。
【0025】
陽極体の角部分の少なくとも一部は、曲面形状または面取り形状を有していてもよい。角部分の少なくとも一部に曲面を有しているか、もしくは面取りされていることで、角部分における誘電体層の損傷が抑制され、漏れ電流の小さな電解コンデンサを実現できる。よって、電解コンデンサの信頼性を高めることができる。曲面形状または面取り形状を有する陽極体の角部分は、緻密化されていると一層好ましい。
【0026】
角部分の少なくとも一部が曲面形状を有するとは、角部分の断面形状が曲線である場合に限られない。例えば、角部分の断面形状は、複数の鈍角を有する折れ線であってもよい。断面形状が凸形状であり、且つ、断面形状において、一方の主面に対応する直線と、隣接する別の主面に対応する直線とが、少なくとも1つの直線および/または曲線を介して連結されている場合には、角部が曲面形状もしくは面取り形状を有しているといえる。換言すると、角部分が曲面形状もしくは面取り形状を有するとは、隣接する2つの主面に垂直な断面における角部分の断面形状において、90°以下に尖った領域を有さないことも意味する。
【0027】
誘電体層を覆うように、固体電解質層が形成される。陽極体の角部分に曲面を有しない場合、角部分における固体電解質層の厚みが薄く形成され易い。特に、固体電解質層が導電性高分子を含み、導電性高分子を化学重合により形成する場合に、角部分において固体電解質層の厚みが薄くなり易い。しかしながら、角部分の少なくとも一部を曲面に形成しておくことで、角部分における固体電解質層の薄膜化を抑制でき、固体電解質層を均一な厚みで形成できる。これにより、電解コンデンサは、外部からの応力に対して強くなり、漏れ電流の増加およびショート不良の発生を抑えることができる。また、耐電圧が向上する。
【0028】
陽極体の表層の緻密化は、例えば、後述するように、焼結前、または、焼結後で誘電体層形成前の陽極基材をメディア粒子などの振動部材とともに容器内に載置し、容器を振動させることにより、行うことができる。振動により陽極基材の主面が振動部材と衝突し、衝突により主面の表層部が圧縮により内部よりも緻密に形成される。
【0029】
このとき、振動部材は、陽極基材の主面のほか、角部分にも衝突する。角部分は機械的強度が低いため、衝突により圧縮され易い。よって、衝突により角部分が圧縮されるとともに、角部分が曲面形状に形成され得る。結果として、角部分の表層における緻密度は、主面の表層および内部よりも高く(気孔率が低く)なる。
【0030】
陽極基材の主面の一部に緻密化を制限する領域(第1領域)を設けるには、例えば、陽極基材の主面の一部領域に衝撃を吸収する部材を貼付などの方法で取り付けてから、衝撃吸収部材が取り付けられた陽極基材を振動部材とともに振動させればよい。衝撃吸収部材が取り付けられた領域の陽極基材の表層は振動部材の衝突による圧縮を受け難く、衝撃吸収部材が取り付けられていない領域と比べて緻密化の度合いが小さく、且つ、表面粗さが大きくなる。
【0031】
電解コンデンサは、陽極体の一主面から植立する陽極ワイヤをさらに備えてもよい。陽極ワイヤは電解コンデンサの陽極端子と電気的に接続し、陽極ワイヤを介して、陽極体は陽極端子と電気的に接続される。その場合、第1領域は、陽極ワイヤが植立する陽極体の一主面(植立面)内の領域であってもよい。
【0032】
陽極ワイヤが植立する植立面には、焼結の際に、陽極ワイヤ周辺に空間があり、植立面が他の素子や焼結皿と密着して封止されることが防止される。このため、陽極体内部のガスが陽極ワイヤ周辺部から陽極体外部にガスが抜け易い。また、ワイヤは平坦な曲面のため、ワイヤ表面と粒子との隙間によって形成されたガス排出経路は、粒子間の隙間により形成される多孔質部分のガス排出経路よりも排出経路が短くなる箇所もあり、陽極ワイヤに沿って排出されるガスが多くなり易い。したがって、ガスの通り道が塞がれないように、植立面内の陽極ワイヤの周辺に緻密化されない第1領域を設けることによって、焼結時においてバインダ成分に由来するガスを効率よく排出することができ、カーボン残渣を低減できる。これにより、漏れ電流の増加が抑制され、信頼性の高い電解コンデンサが得られる。
【0033】
加えて、植立面以外の陽極体(陽極基材)の主面は、焼結の際に、他の陽極基材または焼結皿により塞がれ易い。このため、植立面以外の陽極体(陽極基材)の主面に第1領域を設けると、第1領域が他の陽極基材または焼結皿により塞がれてしまい、バインダ成分に由来するガスを排出する排出路としての機能を果たさない場合がある。これに対し、植立面に第1領域を設ける場合、陽極ワイヤが空間を確保する役割を有するため、植立面に設けられた第1領域は他の陽極基材または焼結皿により塞がれ難く、バインダ成分に由来するガスを排出する排出路として適している。
【0034】
陽極ワイヤが取り付けられた陽極基材を振動部材とともに容器内に載置し、容器を振動させる場合、植立面内の陽極ワイヤの周辺領域には、陽極ワイヤが立体障害となって振動部材が衝突し難く、植立面内の陽極ワイヤの周辺領域の表層は圧縮により緻密化され難い。よって、衝撃吸収部材を陽極基材の主面に別途取り付けることなく、植立面内の陽極ワイヤの周辺領域には第1領域が形成され得る。この場合、第1領域の大きさは、振動部材(メディア粒子)の大きさにより制御され得る。
【0035】
第1領域は、植立面において、陽極ワイヤからの距離の最大値が0.2mm以上であることが望ましく、0.25mm以上がより望ましい。この場合に、陽極体中に残留するカーボン残渣を低減し易く、電解コンデンサの漏れ電流の増加の抑制効果が高まる。
【0036】
図1は、本実施形態の電解コンデンサに用いられる陽極体(または、陽極基材)の一例を示す模式的な斜視図である。
図1に示すように、陽極体1は、略直方体の形状を有し、6つの主面101A~101Fが露出している。なお、101D~101Fは、紙面から隠れた位置にあるため、図示されていない。
【0037】
主面101A~101Fにおいて、隣接する2つの主面同士が交差する辺の近傍には、辺部分の角を取ることにより、接続面が形成されていてもよい。
図1の例では、主面101Aと101Bとの間に接続面102Cが介在し、主面101Bと101Cとの間に接続面102Aが介在し、主面101Cと101Aとの間に接続面102Bが介在している。また、3つの主面が交わる頂点の近傍には、頂点部分の角を取ることにより、第2の接続面が形成されている。
図1の例では、主面101A~101Cが交わる頂点部分に、第2の接続面103Aを有する。第2の接続面103Aは、接続面102A~102C同士を相互に接続している。接続面102A~102Cおよび第2の接続面103Aは、丸みを帯びた曲面に加工されている。接続面102A~102Cおよび第2の接続面103Aは、曲面であってもよく、一または複数の平面で(例えば、角部分が面取りされて)構成されていてもよい。
【0038】
なお、
図1は陽極体の形状の一例を示すものであるが、化成処理前の陽極基材についても、同様に略直方体の形状を有し、6つの主面101A~101Fが露出し、主面間を接続する辺部分および頂点部分の角が取られ、丸みを帯びた局面に加工されている。
【0039】
陽極体1の主面101Bの中心位置から、陽極ワイヤ2が植立して延びている。陽極体1および陽極ワイヤ2は、電解コンデンサの陽極部6を構成する。
【0040】
主面101Bにおいて、陽極ワイヤ2の植立位置を中心とする円形状の領域に、第1領域111が設けられている。第1領域を除く陽極体1の表面(主面101A、主面101B(第1領域111を除く)、主面101C~101F、接続面102A~102C、および第2の接続面103Aの表面を含む)は、第2領域112であり、第1領域111よりも小さな表面粗さを有する。
【0041】
第2領域112である主面101A、101C~101Fは、その表層が内部よりも緻密に形成されている。また、これらの各主面における表面粗さRa2は第1領域111における表面粗さRa1よりも小さい。すなわち、主面101A、101C~101Fの表面は、主面111Bに設けられた第1領域111の表面よりも凹凸が少なく、陽極基材および陽極体の機械的強度が高められている。これにより、陽極体1の表面に欠陥の少ない誘電体層が形成される。結果、漏れ電流を低減できる。また、誘電体層の損傷が抑制され、誘電体層の損傷による漏れ電流の増加が抑制され、漏れ電流を小さく維持できる。
【0042】
主面101Bは、第1領域111と第2領域112を有する。主面101B内において、第2領域112は、主面101A、101C~101Fと同様、その表層が内部よりも緻密に形成され、凹凸が少なく、陽極基材および陽極体の機械的強度が高められている。これにより、陽極体1の表面に欠陥の少ない誘電体層が形成され、漏れ電流を低減できる。また、誘電体層の損傷による漏れ電流の増加を抑制する効果を奏し、漏れ電流を小さく維持できる。
【0043】
一方、主面101B内に設けられた第1領域111では、その表層における緻密度は陽極体の内部と同程度か若干大きい程度であり、第2領域112の緻密度よりも小さく、微小な凹凸が存在する。第1領域111における表面粗さRa1は、主面101B内の第2領域112における表面粗さRa2よりも大きい。このため、第1領域111に形成される誘電体層については、誘電体層の欠陥の低減効果および誘電体層の損傷による漏れ電流の増加を抑制する効果は奏し難い。しかしながら、第1領域を有することにより、焼結時に発生するバインダ成分に由来するガスは気孔率の大きな第1領域を介して容易に排出される。これにより陽極体に残留するカーボン残渣が減少し、漏れ電流の増加抑制に寄与する。結果、第1領域と第2領域とを適度にバランスして配置することで、電解コンデンサの漏れ電流の増加を効果的に抑制することができる。
【0044】
第1領域111は、陽極ワイヤの植立位置を中心として、中心から一定距離以内にある領域に形成され得る。より具体的には、例えば、第1領域111は、接続面102Aの陽極ワイヤの植立位置からの距離および接続面102Cの陽極ワイヤの植立位置からの距離のうち遠い方の距離(すなわち、長方形の主面101Bの長辺の長さの半分)をDmとして、中心からの距離がDm/2以下の領域であり得る。この場合、長方形の主面101Bの短辺の長さが長辺の長さの1/2以上である場合、第1領域111は円形状またはリング状に形成され得る。
【0045】
接続面102A~102Cおよび/または第2の接続面103Aにより、陽極体(陽極基材)は、角部分が面取りまたは曲面加工された外形を有する。これにより、角部分にも欠陥の少ない誘電体層を形成することができ、漏れ電流の低減効果を高めることができる。また、脆く壊れ易い陽極体の角部分の機械的強度が高められ、熱応力の集中が緩和されることにより、誘電体層の損傷による漏れ電流の増加を抑制する効果が高まり、漏れ電流を一層小さく維持できる。
【0046】
第2領域である接続面102A~102Cおよび/または第2の接続面103Aの表層は、第2領域である主面101A~101Fの表層よりも緻密に形成されていてもよい。第2領域である接続面102A~102Cおよび/または第2の接続面103Aの表面における表面粗さは、第1領域111の表面における表面粗さよりも大きく、且つ、第2領域である主面101A~101Fの表面における表面粗さよりも大きくてもよい。
【0047】
図1の例では、主面101A、101C~101Fの全面が第2領域112であり、主面101Bに設けられた第1領域111よりも表面粗さが小さく形成されている。しかしながら、主面101A、101C~101Fの表面の少なくとも一部の領域に、表層の緻密化が制限された、表面粗さの大きな第1領域111を配置してもよい。陽極体(陽極基材)の表面における第1領域および第2領域の配置については、
図1に示す構成に限られるものではない。
【0048】
以下、本実施形態に係る電解コンデンサの構成について、適宜図面を参照しながら説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
図2は、本実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
【0049】
電解コンデンサ20は、陽極部6および陰極部7を有するコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する外装体11と、陽極部6と電気的に接続し、かつ、外装体11から一部が露出する陽極リード端子13と、陰極部7と電気的に接続し、かつ、外装体11から一部が露出する陰極リード端子14と、を備えている。陽極部6は、陽極体1と陽極ワイヤ2とを有する。陽極体1は、その表面に形成された誘電体層3を含む。陰極部7は、誘電体層3の少なくとも一部を覆う固体電解質層4と、固体電解質層4の表面を覆う陰極層5とを有する。
【0050】
(コンデンサ素子)
以下、コンデンサ素子10について、電解質として固体電解質層を備える場合を例に挙げて、詳細に説明する。
【0051】
陽極部6は、陽極体1と、陽極体1の一面から延出して陽極リード端子13と電気的に接続する陽極ワイヤ2と、を有する。
陽極体1は、例えば、金属粒子を焼結して得られる直方体の多孔質焼結体である。上記金属粒子として、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用金属の粒子が用いられる。陽極体1には、1種または2種以上の金属粒子が用いられる。金属粒子は、2種以上の金属からなる合金であってもよい。例えば、弁作用金属と、ケイ素、バナジウム、ホウ素等とを含む合金を用いることができる。また、弁作用金属と窒素等の典型元素とを含む化合物を用いてもよい。弁作用金属の合金は、弁作用金属を主成分とし、例えば、弁作用金属を50原子%以上含む。
【0052】
陽極ワイヤ2は、導電性材料から構成されている。陽極ワイヤ2の材料は特に限定されず、例えば、上記弁作用金属の他、銅、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。陽極体1および陽極ワイヤ2を構成する材料は、同種であってもよいし、異種であってもよい。陽極ワイヤ2は、陽極体1の一面から陽極体1の内部へ埋設された第一部分2aと、陽極体1の上記一面から延出した第二部分2bと、を有する。陽極ワイヤ2の断面形状は特に限定されず、円形、トラック形(互いに平行な直線とこれら直線の端部同士を繋ぐ2本の曲線とからなる形状)、楕円形、矩形、多角形等が挙げられる。
【0053】
陽極部6は、例えば、第一部分2aを上記金属粒子の粉体中に埋め込んだ状態で直方体状に加圧成形し、焼結することにより作製される。これにより、陽極体1の一面から、陽極ワイヤ2の第二部分2bが植立するように引き出される。第二部分2bは、溶接等により、陽極リード端子13と接合されて、陽極ワイヤ2と陽極リード端子13とが電気的に接続する。溶接の方法は特に限定されず、抵抗溶接、レーザー溶接等が挙げられる。その後、直方体の角部分に曲面を形成する加工が施され得る。
【0054】
陽極体1の表面には、誘電体層3が形成されている。誘電体層3は、例えば、金属酸化物から構成されている。陽極体1の表面に金属酸化物を含む層を形成する方法として、例えば、化成液中に陽極体1を浸漬して陽極体1の表面を陽極酸化する方法や、陽極体1を、酸素を含む雰囲気下で加熱する方法が挙げられる。誘電体層3は、上記金属酸化物を含む層に限定されず、絶縁性を有していればよい。
【0055】
陽極体1の表面は、異なる表面粗さを有する第1領域および第2領域を有する。第1領域における表面粗さRa1は、第2領域における表面粗さRa2よりも大きい。第2領域では、陽極体1の表層が圧縮され、表層における緻密度が高く(気孔率が小さく)なっている。一方、第1領域では、第2領域ほど陽極体1の表層は圧縮されていない。第1領域の表層における緻密度(気孔率)は、陽極体1の内部における緻密度(気孔率)と略同じか、第1領域の表層における緻密度(気孔率)と内部における緻密度(気孔率)の間にあってもよい。
【0056】
(陰極部)
陰極部7は、固体電解質層4と、固体電解質層4を覆う陰極層5とを有している。固体電解質層4は、誘電体層3の少なくとも一部を覆うように形成されている。
【0057】
固体電解質層4には、例えば、マンガン化合物や導電性高分子が用いられる。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、導電性高分子は、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。導電性に優れる点で、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールであってもよい。特に、撥水性に優れる点で、ポリピロールであってもよい。
【0058】
上記導電性高分子を含む固体電解質層4は、例えば、原料モノマーを誘電体層3上で重合することにより、形成される。あるいは、上記導電性高分子を含んだ液を誘電体層3に塗布することにより形成される。固体電解質層4は、1層または2層以上の固体電解質層から構成されている。固体電解質層4が2層以上から構成されている場合、各層に用いられる導電性高分子の組成や形成方法(重合方法)等は異なっていてもよい。
【0059】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。
【0060】
導電性高分子を形成するための重合液、導電性高分子の溶液または分散液には、導電性高分子の導電性を向上させるために、様々なドーパントを添加してもよい。ドーパントは、特に限定されないが、例えば、ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0061】
導電性高分子が、粒子の状態で分散媒に分散している場合、その粒子の平均粒径D50は、例えば0.01μm以上、0.5μm以下である。粒子の平均粒径D50がこの範囲であれば、陽極体1の内部にまで粒子が侵入し易くなる。
【0062】
陰極層5は、例えば、固体電解質層4を覆うように形成されたカーボン層5aと、カーボン層5aの表面に形成された金属ペースト層5bと、を有している。カーボン層5aは、黒鉛等の導電性炭素材料と樹脂を含む。金属ペースト層5bは、例えば、金属粒子(例えば、銀)と樹脂とを含む。なお、陰極層5の構成は、この構成に限定されない。陰極層5の構成は、集電機能を有する構成であればよい。
【0063】
(陽極リード端子)
陽極リード端子13は、陽極ワイヤ2の第二部分2bを介して、陽極体1と電気的に接続している。陽極リード端子13の材質は、電気化学的および化学的に安定であり、導電性を有するものであれば特に限定されない。陽極リード端子13は、例えば銅等の金属であってもよいし、非金属であってもよい。その形状は平板状であれば、特に限定されない。陽極リード端子13の厚み(陽極リード端子13の主面間の距離)は、低背化の観点から、25μm以上、200μm以下であってよく、25μm以上、100μm以下であってよい。
【0064】
陽極リード端子13の一端は、導電性接着材やはんだにより、陽極ワイヤ2に接合されてもよいし、抵抗溶接やレーザ溶接により、陽極ワイヤ2に接合されてもよい。陽極リード端子13の他方の端部は、外装体11の外部へと導出されて、外装体11から露出している。導電性接着材は、例えば後述する熱硬化性樹脂と炭素粒子や金属粒子との混合物である。
【0065】
(陰極リード端子)
陰極リード端子14は、接合部14aにおいて陰極部7と電気的に接続している。接合部14aは、陰極層5と陰極層5に接合された陰極リード端子14とを、陰極層5の法線方向からみたとき、陰極リード端子14の陰極層5に重複する部分である。
【0066】
陰極リード端子14は、例えば、導電性接着材8を介して、陰極層5に接合される。陰極リード端子14の一方の端部は、例えば接合部14aの一部を構成しており、外装体11の内部に配置される。陰極リード端子14の他方の端部は、外部へと導出されている。そのため、陰極リード端子14の他方の端部を含む一部は、外装体11から露出している。
【0067】
陰極リード端子14の材質も、電気化学的および化学的に安定であり、導電性を有するものであれば、特に限定されない。陰極リード端子14は、例えば銅等の金属であってもよいし、非金属であってもよい。その形状も特に限定されず、例えば、長尺かつ平板状である。陰極リード端子14の厚みは、低背化の観点から、25μm以上200μm以下であってもよく、25μm以上100μm以下であってもよい。
【0068】
(外装体)
外装体11は、陽極リード端子13と陰極リード端子14とを電気的に絶縁するために設けられており、絶縁性の材料(外装体材料)から構成されている。外装体材料は、例えば、熱硬化性樹脂を含む。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0069】
[電解コンデンサの製造方法]
以下に、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法の一例を説明する。
電解コンデンサの製造方法は、陽極基体、および、前記陽極基体の表面に形成された誘電体層を含む多孔質の陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含むコンデンサ素子を備える固体電解コンデンサを製造する方法であって、金属粉末の結着体を含む陽極基材を準備する工程と、陽極基材を焼結する工程と、焼結後の陽極基材に化成処理を施すことにより、陽極基体および誘電体層を含む陽極体を得る工程と、誘電体層の少なくとも一部を固体電解質層で覆う工程と、を含む。陽極基材は、複数の主面を有する。陽極基材は、複数の主面の少なくとも一つの少なくとも一部の領域に、第1領域および第2領域を有する。第1領域が配置される主面と第2領域が配置される主面は同じであってもよいし、異なっていてもよい。製造方法は、陽極基材の複数の主面の少なくとも第2領域の密度を高める緻密化工程をさらに有する。緻密化工程は、第1領域の密度の増加を制限した状態で行われる。
【0070】
(1)陽極基材の準備工程
先ず、陽極体1を製造するための基材となる陽極基材を準備する。陽極基材としては、多孔質体を用いることができる。その場合、弁作用金属粒子と陽極ワイヤ2とを、第一部分2aが弁作用金属粒子に埋め込まれるように型に入れ、加圧成形して、弁作用金属粒子の結着体を含む陽極基材を得る。加圧成形の際の圧力は特に限定されない。弁作用金属粒子には、必要に応じて、ポリアクリルカーボネート等のバインダを混合してもよい。
【0071】
弁作用金属粒子は、通常、直方体の内部空間を有する型を用いて加圧成形され、焼結される。この場合、焼結前の陽極基材は直方体に対応する複数の主面を有する。また、焼結後の陽極基材の形状も直方体であり、複数の主面を有している。この場合、複数の主面同士が直接連結して、辺および頂点が形成されており、通常、複数の主面同士を連結する辺部分および/または頂点部分である角部分は、先端部が尖った状態であり、曲面を有しない形状である。
【0072】
加圧成形後の陽極基材に対して、陽極基材の主面の緻密化(高密度化)が行われ得る。緻密化工程では、例えば、陽極基材の主面にメディア粒子を衝突させることによって、主面の第2領域における緻密化(高密度化)が行われる。好ましくは、緻密化は、陽極基材をメディア粒子とともに振動させることで行ってもよい。より具体的には、陽極基材をメディア粒子とともに容器または台座の上に載せ、容器または台座を上下方向および/または左右方向に振動させることで、緻密化が行われ得る。容器または台座の振動に伴い、陽極基材およびメディア粒子が振動し、陽極基材とメディア粒子との衝突が促される。メディア粒子が陽極基材の主面に衝突することにより、陽極基材の主面の表層が圧縮され、高密度に形成される。
【0073】
メディア粒子は、陽極基材の主面と衝突するほか、陽極基材の主面同士を連結する角部分(辺部分および頂点部分)にも衝突し得る。この結果、陽極基材の主面に加えて、角部分が圧縮されることにより曲面が形成されるとともに、角部分の少なくとも一部が主面の緻密化された領域よりも高密度に形成され得る。一方で、陽極ワイヤ2が植立する主面内の陽極ワイヤ2の周辺の領域にはメディア粒子は衝突し難いため、陽極ワイヤ2の周辺では陽極基材の表層が圧縮され難く、密度が小さな第1領域が陽極ワイヤ2の周辺に形成される。陽極基材の主面に衝撃吸収部材を取り付けた状態でメディア粒子を衝突させることによって、第2領域よりも密度の小さな第1領域を、衝撃吸収部材を取り付けた領域に形成してもよい。
【0074】
台座(または、容器の底部)は、篩(ふるい)であってもよい。篩は、静摩擦係数が適度に小さく、メディア粒子の運動およびメディア粒子の陽極基材との衝突を誘起させ易い。メディア粒子との衝突により、陽極基材の表層の大半は圧縮された状態となる。台座が篩であると、陽極ワイヤが直接台座に衝突することが少なくなるため陽極ワイヤが折れ曲がるリスクを低減することができる。篩の目開きは、陽極基材が篩の開口を通過して落下しないように陽極基材の外形寸法の最小値未満であればよい。篩の目開きは、1mm以上であってもよく、2mm以上3.4mm以下であってもよい。目開きが1mm以上であると、角部分における曲率のばらつきを一定値以下に低減し易い。
【0075】
陽極基材をメディア粒子の上に置いた状態で、メディア粒子に外力を作用させることで陽極体をメディア粒子とともに振動させてもよい。より具体的には、例えば、陽極基材をメディア粒子と混合し、陽極基材をメディア粒子とともに振とう機に投入し、振とう機を稼働させてもよい。振とう機は、水平方向のほか、垂直方向の振動を加えることができるものが好ましい。
【0076】
メディア粒子の密度は、陽極基材の密度(真密度)の0.15~0.4倍であってもよい。メディア粒子の密度が上記範囲である場合、メディア粒子の衝突によるエネルギーが効率的に陽極基材の圧縮変形に利用され得る。
【0077】
メディア粒子は、アルミナ粒子、ジルコニア粒子などを用いることができる。メディア粒子の粒径(平均粒径)は、陽極体の最大寸法の1/3以下であってもよく、1/5以下であってもよい。この場合、メディア粒子は陽極基材の角部分よりも主面と衝突し易く、衝突により陽極基材の主面が均一に圧縮され易い。なお、陽極体の最大寸法とは、陽極ワイヤを除いた陽極体の最大フェレ径を指し、陽極体が直方体である場合、最も長い辺の長さを指す。メディア粒子の粒径(平均粒径)は、例えば、0.1mm~3mmであり、0.5mm~2mmであってもよい。
【0078】
メディア粒子としてアルミナ粒子を用いる場合に、陽極基材がアルミニウム以外の弁作用金属(例えば、タンタル)で構成されていると、メディア粒子が陽極基材と衝突することにより、メディア粒子に由来するアルミナが微量に陽極基材に付着することがある。アルミナが付着した陽極基材を化成処理することによって、陽極体は、酸化アルミニウムを含む誘電体層を含み得る。誘電体層に含まれる酸化アルミニウムは、微量であれば、誘電体層の絶縁性が向上し、耐圧を向上させるとともに、漏れ電流を低減させる作用を有する。しかしながら、誘電体層に含まれる酸化アルミニウム量が過大であると、誘電率の異なる複数の材料が誘電体層に含まれることにより、容量の低下を招く場合がある。陽極基材に付着するアルミナの量は、振動の周波数、メディア粒子の粒径、容器に投入する陽極基材とメディア粒子との混合割合、メディア粒子を衝突させる時間等により、適量に制御され得る。
【0079】
メディア粒子は、表面の少なくとも一部を、予め陽極基材の金属粉末の構成金属と同じ金属で被覆しておいてもよい。ここで、構成金属とは陽極基材に含まれる不純物ではなく、主要な成分を意味する。これにより、メディア粒子が陽極基材と衝突する際に、陽極体を構成する弁作用金属以外の金属(もしくは金属化合物)が陽極基材に付着することが抑制される。例えば、メディア粒子としてアルミナ粒子を用いる場合、アルミナの陽極基材表面への付着が抑制される。メディア粒子の表面の被覆は、公知の方法で行うことができる。しかしながら、メディア粒子(例えば、アルミナ粒子)と陽極基材とが衝突すると、メディア粒子に由来するアルミナが陽極基材に付着する一方で、陽極基材の構成金属がメディア粒子の表面に付着する。結果、メディア粒子の表面が、陽極基材の構成金属と同じ金属で被覆され得る。このようにして、陽極基材の構成金属と同じ金属で表面が被覆されたメディア粒子を用いてもよい。
【0080】
このように、陽極基材をメディア粒子とともに振動させ、陽極基材をメディア粒子に衝突させる方法では、陽極基材の主面の表層を効率的に圧縮し、主面を効率的に緻密化することが可能である。陽極基材を緻密化する方法としては、これに限られず、例えば、陽極基材同士を直接衝突させる方法、陽極基材およびメディア粒子を回転式のバレルに投入する方法、レーザー加工による方法などが挙げられる。
【0081】
金属粉末を加圧成型して陽極基材を得る場合、焼結の前であるか後であるかに拘らず、陽極基材の主面には金属の微粒子が付着しており、微視的に見ると平坦ではなく、凹凸を有した形状になっていることが多い。しかしながら、主面に付着した金属微粒子は、誘電体層の形成の際、微粒子の表面全面を覆うように誘電体層が形成されることから、容量に寄与しない。緻密化工程において、陽極基材の表層を金属微粒子とともに圧縮することで、微粒子表面に形成された誘電体層も容量に寄与でき、容量が向上する。
【0082】
(2)焼結工程
その後、陽極基材を焼結する。焼結は、減圧下で行なうことが好ましい。陽極ワイヤの第一部分2aは、多孔質焼結体の一面からその内部に埋設されている。
【0083】
(3)陽極体を得る工程(化成処理工程)
次に、焼結後の陽極基材に化成処理を施して、陽極基体、および、陽極基体の表面に形成された誘電体層を含む多孔質の陽極体1を得る。具体的には、電解水溶液(例えば、リン酸水溶液)が満たされた化成槽に、陽極基材を浸漬し、陽極ワイヤ2の第二部分2bを化成槽の陽極体に接続して、陽極酸化を行うことにより、多孔質部分の表面に弁作用金属の酸化被膜からなる誘電体層3を形成することができる。電解水溶液としては、リン酸水溶液に限らず、硝酸、酢酸、硫酸などを用いることができる。陽極体1の陽極酸化されない芯部分は、陽極基体を構成する。
【0084】
(4)固体電解質層の形成工程
続いて、誘電体層3の少なくとも一部を固体電解質層4で覆う。これにより、コンデンサ素子10を得る。
導電性高分子を含む固体電解質層4は、例えば、誘電体層3が形成された陽極体1に、モノマーやオリゴマーを含浸させ、その後、化学重合や電解重合によりモノマーやオリゴマーを重合させる方法、あるいは、誘電体層3が形成された陽極体1に、導電性高分子の溶液または分散液を含浸し、乾燥させることにより、誘電体層3の少なくとも一部に形成される。
【0085】
固体電解質層4は、例えば、誘電体層3が形成された陽極体1を、導電性高分子とバインダと分散媒とを含む分散液に含浸し、取り出して、乾燥させることにより形成され得る。分散液には、バインダ、および/または導電性の無機粒子(例えば、カーボンブラックなどの導電性炭素材料)が含まれていてもよい。また、導電性高分子には、ドーパントが含まれていてもよい。導電性高分子およびドーパントとしては、それぞれ、固体電解質層4について例示したものから選択すればよい。バインダは、公知のものを利用できる。分散液は、固体電解質層を形成する際に使用される公知の添加剤を含んでもよい。
【0086】
続いて、固体電解質層4の表面に、カーボンペーストおよび金属ペーストを順次、塗布することにより、カーボン層5aと金属ペースト層5bとで構成される陰極層5を形成する。陰極層5の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0087】
次に、陽極リード端子13と陰極リード端子14とを準備する。陽極体1から植立する陽極ワイヤ2の第二部分2bを、レーザー溶接や抵抗溶接などにより、陽極リード端子13と接合する。また、陰極層5に導電性接着材8を塗布した後、陰極リード端子14を、導電性接着材8を介して陰極部7に接合する。
【0088】
続いて、コンデンサ素子10および外装体11の材料(例えば、未硬化の熱硬化性樹脂およびフィラー)を金型に収容し、トランスファー成型法、圧縮成型法等により、コンデンサ素子10を封止する。このとき、陽極リード端子13および陰極リード端子14の一部を金型から露出させる。成型の条件は特に限定されず、使用される熱硬化性樹脂の硬化温度等を考慮して、適宜、時間および温度条件を設定すればよい。
【0089】
最後に、陽極リード端子13および陰極リード端子14の露出部分を、外装体11に沿って折り曲げ、屈曲部を形成する。これにより、陽極リード端子13および陰極リード端子14の一部が外装体11の搭載面に配置される。
以上の方法により、電解コンデンサ20が製造される。
【0090】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0091】
弁作用金属粒子(Ta)とバインダ粒子との混合物と、陽極ワイヤ2(直径0.3mm)とを、陽極ワイヤ2の第一部分2aが弁作用金属粒子に埋め込まれるように型に入れ、加圧成形して、略直方体の外形を有する焼結前の陽極基材(0.9mm×3.7mm×5.2mm)を得た。
【0092】
陽極基材を平均粒径0.5mmのアルミナ粒子とともに振とう機に投入した。振とう機を所定時間稼働させ、表面が緻密化された陽極基材X1(実施例)を得た。陽極基材X1では、陽極ワイヤの植立面内であり、陽極ワイヤの側面からの距離が0.25mm以下の円形領域(リング状の領域)において、表層の密度が小さく、表面粗さが大きな領域(第1領域)を目視で確認できた。
【0093】
焼結後の陽極基材X1に対して、陽極ワイヤの植立面内における表面粗さ(算術平均表面粗さRa)をレーザー式の表面粗さ計で測定した。第1領域内で10箇所、第1領域外の領域(第2領域)で10箇所の位置を任意に選択し、それぞれの箇所の算術平均表面粗さRaを求めた。第1領域における表面粗さRa1は2.7~3.8μmの範囲であり、第2領域における表面粗さRa2は2.4~2.9μmの範囲であった。
【0094】
同様にして、焼結前の陽極基材をアルミナ粒子とともに振とう機に投入した。振とう機を所定時間稼働させ、表面が緻密化された陽極基材を得た。アルミナ粒子は、平均粒径が1.0mm、1.5mm、および2.0mmのものをそれぞれ用いて、複数の陽極基材X2~X4(実施例)を得た。陽極基材X2~X4では、陽極ワイヤの植立面内であり、陽極ワイヤの側面からの距離がそれぞれ、0.5mm以下、0.75mm以下、1.0mm以下の角部分を除く領域において、表層の密度が小さく、表面粗さが大きな領域(第1領域)を確認できた。
【0095】
また、陽極基材X1の第1領域をセラミック板で叩くことにより第2領域と同等に平坦化し、第1領域を消失させたものを陽極基材Y1(比較例)として準備した。
【0096】
焼結後の陽極基材X1~X4およびY1を電解水溶液に浸漬して陽極ワイヤを介して電圧を印加して、誘電体層を形成した。化成後の陽極基材X1に対して、陽極ワイヤの植立面内における表面粗さ(算術平均表面粗さRa)をレーザー式の表面粗さ計で測定した。第1領域内で10箇所、第1領域外の領域(第2領域)で10箇所の位置を任意に選択し、それぞれの箇所の算術平均表面粗さRaを求めた。第1領域における表面粗さRa1は2.9~4.5μmの範囲であり、第2領域における表面粗さRa2は2.3~2.8μmの範囲であった。
【0097】
陽極基材X1~X4およびY1について、焼結後の素子を炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製)を用いて燃焼させ、焼結工程における残留カーボン量を導出した。結果を、第1領域内における陽極ワイヤからの距離の最大値に対する残留カーボン量の関係として、
図3に示す。
図3では、残留カーボン量は、第1領域のない陽極基材Y1の残留カーボン量を100とした相対値で示されている。
【0098】
図3に示すように、第1領域を設けることにより、残留カーボン量が低減され、これにより電解コンデンサの漏れ電流の増加を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、電解コンデンサに利用可能であり、好適には、多孔体を陽極体に用いる電解コンデンサに利用することができる。
【0100】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0101】
20:電解コンデンサ
10:コンデンサ素子
1:陽極体
2:陽極ワイヤ
2a:第一部分
2b:第二部分
3:誘電体層
4:固体電解質層
5:陰極層
5a:カーボン層
5b:金属ペースト層
6:陽極部
7:陰極部
8:導電性接着材
11:外装体
13:陽極リード端子
14:陰極リード端子
14a:接合部
101A~101C:陽極体の主面
102A~102C:接続面
103A:第2の接続面
111:第1領域
112:第2領域