IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20240705BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/13
H01M4/36 A
H01M4/36 D
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M10/052
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021511481
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012765
(87)【国際公開番号】W WO2020203420
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019067637
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 祐児
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純一
(72)【発明者】
【氏名】北條 伸彦
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-056066(JP,A)
【文献】特開2018-063920(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/13
H01M 4/36
H01M 10/052
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記負極は、負極活物質を含む厚みTを有する負極合剤層と、前記負極合剤層を担持する負極集電体と、を備え、
前記負極活物質は、炭素材料と、Si含有材料と、を含み、
前記Si含有材料は、第1複合材料と、前記第1複合材料とは異なる第2複合材料とを含み、
前記第1複合材料は、ケイ素酸化物相と、前記ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子と、を含み、
前記負極合剤層を、前記負極の表面側のT/2の厚みを有する第1領域と、前記負極集電体側のT/2の厚みを有する第2領域とに2分割するとき、
前記第1領域は少なくとも前記第1複合材料を含み、
前記第2領域は少なくとも前記第2複合材料を含み、
前記第1領域中に含まれる前記第2複合材料の質量w12に対する、前記第1領域中に含まれる前記第1複合材料の質量w11の比:w11/w12が1より大きく、
前記第2領域中に含まれる前記第2複合材料の質量w22に対する、前記第2領域中に含まれる前記第1複合材料の質量w21の比:w21/w22が1未満であり、
満充電時における、前記負極の開回路電位が、リチウム金属に対して、0V以上、70mV以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極合剤層に含まれる前記第1複合材料の質量W1と、前記負極合剤層に含まれる前記第2複合材料の質量W2との比:W1/W2が、1.0/19.0から19.0/1.0である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記第2複合材料は、リチウムイオン導電相と、前記リチウムイオン導電相に分散している第2Si粒子と、を含み、
前記リチウムイオン導電相は、シリケート相および/または炭素相であり、
前記シリケート相は、長周期型周期表の第1族元素および第2族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記第1複合材料の不可逆容量が、前記第2複合材料の不可逆容量よりも大きい、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記第2Si粒子の平均粒径が、100nm以上、500nm以下である、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極の容量Cnの前記正極の容量Cpに対する比:Cn/Cpが、0より大きく、1未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記負極合剤層に含まれる前記Si含有材料の質量Wsに対する、前記負極合剤層に含まれる前記炭素材料の質量Wcの比:Wc/Wsが、70/30から99/1である、請求項1~6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記第1複合材料に含まれる前記第1Si粒子の含有量は、20質量%以上、60質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項9】
前記第2複合材料に含まれる前記第2Si粒子の含有量は、40質量%以上、80質量%以下である、請求項3または5に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有材料を含む負極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有するため、小型民生用途、電力貯蔵装置および電気自動車の電源として期待されている。電池の高エネルギー密度化が求められる中、理論容量密度の高い負極活物質として、リチウムと合金化するケイ素(シリコン)含有材料の利用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、珪素原子を含む材料から成る基材粒子を準備し、基材粒子の表面に炭素被膜を形成して被覆粒子とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、基材粒子として、珪素粒子、珪素の微粒子が珪素系化合物に分散した複合構造を有する粒子、一般式SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化珪素粒子、又はこれらの混合物を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-91649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池を高容量化するには、負極の利用率を高めることが有効である。しかし、負極の利用率を高めると、ケイ素含有材料中のSiの利用率が高くなり、満充電時における負極の開回路電位は、リチウム金属に対して70mV以下まで低下する。Siに対してこのような深い充電を行うと、ケイ素含有材料の劣化が進行しやすく、十分なサイクル特性を得ることが困難になる。ケイ素含有材料の劣化は、Siの結晶領域がリチウムと反応することで促進されるものと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上に鑑み、本発明の一側面は、正極と、負極と、電解質と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記負極は、負極活物質を含む厚みTを有する負極合剤層と、前記負極合剤層を担持する負極集電体と、を備え、前記負極活物質は、炭素材料と、Si含有材料と、を含み、前記Si含有材料は、第1複合材料と、前記第1複合材料とは異なる第2複合材料とを含み、前記第1複合材料は、ケイ素酸化物相と、ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子と、を含み、前記負極合剤層を、前記負極の表面側のT/2の厚みを有する第1領域と、前記負極集電体側のT/2の厚みを有する第2領域とに2分割するとき、前記第1領域中に含まれる前記第2複合材料の質量w12に対する、前記第1領域中に含まれる前記第1複合材料の質量w11の比:w11/w12が1より大きく、前記第2領域中に含まれる前記第2複合材料の質量w22に対する、前記第2領域中に含まれる前記第1複合材料の質量w21の比:w21/w22が1未満であり、満充電時における、前記負極の開回路電位が、リチウム金属に対して、0V以上、70mV以下である、非水電解質二次電池に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Si含有材料を含む負極を用いた非水電解質二次電池のサイクル特性が向上する。
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
図2図1の非水電解質二次電池に用いられる負極の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備える。負極は、負極活物質を含み、かつ厚みTを有する負極合剤層と、負極合剤層を担持する負極集電体とを備える。負極合剤層の厚みTは、例えば、負極合剤層の任意の10箇所において厚みを測定し、その平均値として求めればよい。負極集電体の両面に負極合剤層が担持されている場合、厚みTは、片面あたりの負極合剤層の厚みである。
【0010】
負極活物質は、炭素材料と、Si含有材料とを含み、Si含有材料は、第1複合材料と、第1複合材料とは異なる第2複合材料とを含む。ここで、炭素材料とは、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な炭素材料をいう。
【0011】
第1複合材料は、ケイ素酸化物相と、ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子とを含む。第1複合材料は、Si含有材料の中では安定性が高く、体積変化も小さい点で優れている。高い安定性は、ケイ素酸化物相に分散した第1Si粒子の粒子径が小さく、深い充電が進行しにくいためと考えられる。また、ケイ素酸化物相は、リチウムイオンを不可逆的にトラップするサイトが比較的多く、Si含有材料の中では不可逆容量が大きくなる傾向がある。換言すれば、第1複合材料は、第2複合材料よりも大きな不可逆容量を有し得る。ケイ素酸化物相によるリチウムイオンのトラップは、第1複合材料の構造の安定性を高めるとともに、体積変化の抑制にも寄与していると考えられる。
【0012】
第1複合材料は、例えば、ケイ素酸化物を、アルゴン等の不活性ガスを有する非酸化性雰囲気中で加熱し、不均化反応を行うことで得ることができる。不均化反応では、Si微結晶がケイ素酸化物相中に均一に生成し得る。不均化反応により生成するSi粒子のサイズは小さく、例えば、平均粒径を100nm未満とすることができ、5nm~50nmの範囲とすることもできる。ケイ素酸化物相の主成分(例えば95~100質量%)は二酸化ケイ素であり得る。すなわち、第1複合材料は、SiO相と、SiO相内に分散している第1Si粒子とを含み得る。この場合、第1複合材料は、全体として、一般式SiO(0<x<2)で表すことができる。
【0013】
第1複合材料に含まれる第1Si粒子の含有量は、例えば、20質量%以上、60質量%以下であればよい。これにより、電池の高容量化とサイクル特性の向上を両立しやすくなる。
【0014】
負極は、満充電時において、開回路電位がリチウム金属に対して0V以上、70mV以下となるように設計されている。満充電時における開回路電位は、リチウム金属に対して60mV以下としてもよく、50mV以下としてもよい。満充電時における開回路電位が低いほど、負極の利用率が高く、Siの充電深度も深いといえる。
【0015】
満充電時とは、電池の定格容量をCとするとき、例えば、0.98×C以上の充電状態(SOC:State of Charge)となるまで電池を充電した状態である。満充電時における負極の開回路電位は、満充電状態の電池をアルゴン雰囲気下で分解して負極を取り出し、リチウム金属を対極としてセルを組み立てて測定すればよい。セルの非水電解質は、分解した電池中の非水電解質と同じ組成でもよく、例えば、後述する実施例1で用いる電解液をモデル電解液として用いてもよい。
【0016】
ここで、負極合剤層を、負極の表面側のT/2の厚みを有する第1領域と、負極集電体側のT/2の厚みを有する第2領域とに2分割するとき、第1領域中に含まれる第2複合材料の質量w12に対する、第1領域中に含まれる第1複合材料の質量w11の比:w11/w12は、1より大きい。一方、第2領域中に含まれる第2複合材料の質量w22に対する、第2領域中に含まれる第1複合材料の質量w21の比:w21/w22は、1未満である。
【0017】
換言すれば、負極合剤層を厚み方向の中心において2分割するとき、負極の表面側の第1領域には、第1複合材料が、第2複合材料より多く含まれ、負極集電体側の第2領域には、第1複合材料が第2複合材料より少なく含まれている。この場合、安定性の高い第1複合材料が第2複合材料よりも優先的に充電反応に利用される。よって、第2複合有材料の劣化が抑制され、Si含有材料の全体的な劣化も抑制される。
【0018】
上記の質量比w11/w12は、例えば、以下の手順により求めることができる。
まず、初期の放電状態の電池を解体し、負極を取り出す。放電状態では、Si含有材料中のSi粒子はリチウムイオンを吸蔵していない状態となっている。負極を、電解液もしくはエチレンカーボネート(EC)等の非水溶媒で洗浄し、乾燥する。乾燥後の負極について、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、第1領域の断面を撮影し、第1画像(200μm×200μm)を得る。炭素材料とSi含有材料とを区別すべく、第1画像を二値化処理する。第1画像観察により断面が確認可能なSi含有材料において、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた元素分析を行い、SiO2相を主成分として含むものを第1複合材料とする。その他のSi含有材料を、第2複合材料とする。上記で選別された第1複合材料の総面積A1を求める。上記で選別された第2複合材料の総面積A2を求める。
【0019】
第1領域中の第1複合材料の含有量w11を総面積A11と見なし、第2複合材料の含有量w12を総面積A12と見なして、w11/w12としてA11/A12を求める。
【0020】
同様の方法により、第2領域中の第1複合材料および第2複合材料の含有量を求め、w21/w22を求める。すなわちFE-SEMを用いて、第2領域の断面の第2画像(200μm×200μm)を得、二値化処理し、断面が確認可能なSi含有材料において、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いた元素分析を行い、SiO相を主成分として含むものを第1複合材料としてその総面積A21を求め、その他のSi含有材料を第2複合材料としてその総面積A22を求め、w21/w22としてA21/A22を求める。
【0021】
なお、Si含有材料の表面が導電層で被覆されている場合があるが、導電層は非常に薄く、微量であるため、その質量は無視する。また、第1複合材料のSiO相は、初回充電によりリチウムイオンを吸蔵し、LiSiO相を含む場合がある。
【0022】
質量比w11/w12は、1より大きければよいが、5.0以上でもよく、10.0以上でもよい。一方、w21/w22は、1未満であればよいが、0.5以下でもよく、0.01以下でもよい。
【0023】
負極合剤層に含まれる第1複合材料の質量W1と、負極合剤層に含まれる第2複合材料の質量W2との比:W1/W2は、例えば、1.0/19.0から19.0/1.0であればよく、1.0/14.0から14.0/1.0であってもよい。このように安定な第1複合材料の使用量を十分に多くすることで、Si含有材料の全体的な劣化が更に抑制され、電池のサイクル特性を向上させやすくなる。
【0024】
上記の質量比W1/W2は、上記のように求めた第1領域中の第1複合材料の含有量w11(総面積A11)と第2複合材料の含有量w12(総面積A12)、および、第2領域中の第1複合材料の含有量w21(総面積A21)と第2複合材料の含有量w22(総面積A22)を用いて、下記のように求めることができる。
W1=w11+w21=A11+A21
W2=w12+w22=A12+A22
W1/W2=(A11+A21)/(A12+A22)
なお、w11+w12およびw21+w22は、以下の手順で求めることができる。すなわち、初期の放電状態の電池を解体し、負極を取り出す。放電状態では、Si含有材料中のSi粒子はリチウムイオンを吸蔵していない状態となっている。負極を、電解液もしくはエチレンカーボネート(EC)等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、負極合剤層の第1領域を削り取り、粉末状の負極合剤のサンプルを得る。そして、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて、サンプル(第1領域)中のSi含有材料の総含有量を求める。次に、残りの負極合剤層の第2領域を削り取り、粉末状の負極合剤のサンプルを得る。そして、同様にXPSを用いて、サンプル(第2領域)中のSi含有材料の総含有量を求める。
【0025】
第2複合材料は、例えば、リチウムイオン導電相と、リチウムイオン導電相に分散している第2Si粒子とを含む。リチウムイオン導電相は、例えば、シリケート相および/または炭素相であればよい。すなわち、第2複合材料は、例えば、シリケート相と、シリケート相内に分散している第2Si粒子とを含む複合材料(以下、LSX材料とも称する。)、および、炭素相と、炭素相内に分散している第2Si粒子とを含む複合材料(以下、Si-C材料とも称する。)の少なくとも一方を含んでもよい。
【0026】
第2複合材料に含まれる第2Si粒子の含有量は、例えば、40質量%以上、80質量%以下であればよい。これにより、電池の高容量化とサイクル特性の向上を両立しやすくなる。製造方法が限定される第1複合材料と異なり、第2複合材料では、第2Si粒子の含有量を任意に変化させ得るため、高容量負極の設計が容易である。第1複合材料と第2複合材料とを併用するとともに、これらの負極合剤層における分布を制御することで、Siの利用率が高められる場合でも、良好なサイクル特性と高容量とを両立し得るようになる。
【0027】
第2複合材料は、不可逆容量が小さい点で優れている。シリケート相および炭素相は、リチウムイオンを不可逆的にトラップするサイトが少ないためである。第2複合材料を用いることで、優れた充放電効率が得られるようになる。特に充放電の初期にその効果が顕著である。一方、シリケート相もしくは炭素相に分散している第2Si粒子は、深い充電を進行させ得るため、第2複合材料は劣化を生じやすい。第1複合材料の不可逆容量C1の第2複合材料の不可逆容量C2に対する比:C1/C2は、1より大きく、1.1より大きくてもよい。
【0028】
シリケート相は、例えば、長周期型周期表の第1族元素および第2族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含めばよい。長周期型周期表の第1族元素および長周期型周期表の第2族元素としては、例えば、リチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用い得る。その他の元素としてアルミニウム(Al)、ホウ素(B)、ランタン(La)、リン(P)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)などを含んでも良い。中でも、不可逆容量が小さく、初期の充放電効率が高いことから、リチウムを含むシリケート相(以下、リチウムシリケート相とも称する。)が好ましい。すなわち、第2複合材料は、リチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散している第2Si粒子とを含んでもよい。
【0029】
リチウムシリケート相は、リチウム(Li)と、ケイ素(Si)と、酸素(O)とを含む酸化物相であればよく、他の元素を含んでもよい。リチウムシリケート相におけるSiに対するOの原子比:O/Siは、例えば、2より大きく、4未満である。この場合、安定性およびリチウムイオン伝導性の面で有利である。好ましくは、O/Siは、2より大きく、3未満である。リチウムシリケート相におけるSiに対するLiの原子比:Li/Siは、例えば、0より大きく、4未満である。リチウムシリケート相に含まれ得るLi、SiおよびO以外の元素としては、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。
【0030】
リチウムシリケート相は、式:Li2zSiO2+z(0<z<2)で表される組成を有し得る。安定性、作製容易性、リチウムイオン伝導性等の観点から、zは、0<z<1の関係を満たすことが好ましく、z=1/2がより好ましい。
【0031】
炭素相は、例えば、結晶性の低い無定形炭素(すなわちアモルファス炭素)で構成され得る。無定形炭素は、例えばハードカーボンでもよく、ソフトカーボンでもよく、それ以外でもよい。無定形炭素は、例えば、炭素源を不活性雰囲気下で焼結し、得られた焼結体を粉砕すれば得ることができる。Si-C材料は、例えば、炭素源とSi粒子とを混合し、ボールミル等の攪拌機で混合物を破砕しながら攪拌し、その後、混合物を不活性雰囲気中で焼成すれば得ることができる。炭素源としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルピロリドン、セルロース、スクロースなどの糖類や水溶性樹脂等を用いてもよい。炭素源とSi粒子とを混合する際には、例えば、炭素源とSi粒子をアルコールなどの分散媒中に分散させてもよい。
【0032】
第2Si粒子の平均粒径は、例えば、100nm以上、500nm以下であり、400nm以下であってもよく、200nm以下であってもよい。第2Si粒子が、このように大きな平均粒径を有することで、第2複合材料の容量を高めることができるようになる。また、充放電時の第2Si粒子の体積変化が小さくなり、第2複合材料の構造安定性が向上する。ここで、第2Si粒子の平均粒径は、少なくとも初回の充電を経過後の値である。
【0033】
リチウムイオン導電相内に分散しているSi粒子は、通常は、複数の結晶子で構成される。Si粒子の結晶子サイズは、例えば30nm以下が好ましい。この場合、充放電に伴うSi粒子の膨張収縮による体積変化を極力小さくできるため、サイクル特性が更に高められる。例えば、Si粒子の収縮時にSi粒子の周囲に空隙が形成され、Si粒子とその周囲との接点が減少することによるSi粒子の孤立が抑制され、充放電効率の低下が抑制される。Si粒子の結晶子サイズの下限値は、特に限定されないが、例えば5μm以上である。結晶子サイズは、10nm以上、30nm以下でもよく、15nm以上、25nm以下でもよい。
【0034】
第1複合材料の平均粒径は、2~10μmであればよく、4~7μmであってもよい。また、第2複合材料の平均粒径は、6~15μmであればよく、8~12μmであってもよい。上記粒径範囲では、充放電に伴うSi含有材料の体積変化による応力を緩和しやすく、良好なサイクル特性を得やすくなる。
【0035】
Si含有材料(各複合材料)に含まれるSi粒子の含有量は、Si-NMRにより測定することができる。以下、Si-NMRの望ましい測定条件を示す。
【0036】
測定装置:バリアン社製、固体核磁気共鳴スペクトル測定装置(INOVA‐400)
プローブ:Varian 7mm CPMAS-2
MAS:4.2kHz
MAS速度:4kHz
パルス:DD(45°パルス+シグナル取込時間1Hデカップル)
繰り返し時間:1200sec
観測幅:100kHz
観測中心:-100ppm付近
シグナル取込時間:0.05sec
積算回数:560
試料量:207.6mg
【0037】
Si含有材料(各複合材料)に含まれるSi粒子の平均粒径は、Si含有材料の断面SEM(走査型電子顕微鏡)写真から測定し得る。具体的には、Si粒子の平均粒径は、任意の100個の各Si粒子の最大径を平均して求められる。
【0038】
Si粒子の結晶子サイズは、Si粒子のX線回折(XRD)パターンのSi(111)面に帰属される回析ピークの半値幅からシェラーの式により算出される。
【0039】
Si含有材料(各複合材料)の平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法で測定される粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(体積平均粒径)を意味する。測定装置には、例えば、株式会社堀場製作所(HORIBA)製「LA-750」を用いることができる。
【0040】
第2複合材料の組成は、例えば、以下の方法により分析することができる。
電池を分解し、負極を取り出し、エチレンカーボネート等の非水溶媒で洗浄し、乾燥した後、クロスセクションポリッシャー(CP)により負極合剤層の断面加工を行い、試料を得る。電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、試料断面の反射電子像を得、第2複合材料の断面を観察する。オージェ電子分光(AES)分析装置を用いて、観察された第2複合材料について元素の定性定量分析を行えばよい(例えば、加速電圧10kV、ビーム電流10nA)。
【0041】
例えばLi2zSiO2+zで表されるLSX材料であれば、得られたリチウム(Li)含有量と酸素(O)の含有量から、2zと(2+z)の比を求めればよい。なお、第1複合材料と第2複合材料との区別は試料断面において区別が可能である。例えば第1複合材料と第2複合材料に含まれるSi粒子径が異なる場合はSi粒子径により区別可能である。通常、第2Si粒子の平均粒子径は第1Si粒子の平均粒子径(例えば100nm未満)よりも大きく、粒子径の観察により、両者を容易に区別可能である。
【0042】
なお、上記の試料の断面観察や分析では、Liの拡散を防ぐために、試料の固定にはカーボン試料台を用いればよい。試料断面を変質させないためには、試料を大気に曝すことなく保持搬送するトランスファーベッセルを使用すればよい。
【0043】
Si含有材料は、その表面の少なくとも一部を被覆する導電性材料を具備してもよい。中でもリチウムイオン導電相が電子伝導性に乏しいシリケート相であるLSX材料は、導電性材料でLSX材料の表面を被覆して導電性を高めることが望ましい。
【0044】
負極の容量Cnの正極の容量Cpに対する比:Cn/Cpは、0より大きければよいが、1未満としてもよい。容量比Cn/Cpを1よりも小さくすることで、負極の利用率を顕著に高めることが可能になり、高容量化に有利となる。容量比Cn/Cpは、例えば、0.85~0.99としてもよく、0.9~0.97としてもよい。
【0045】
ここで、負極の容量Cnおよび正極の容量Cpは、いずれも設計容量である。例えば、各電極の設計容量は、各電極に含まれる活物質の理論容量および質量から算出できる。理論容量とは、想定される電気化学反応において単位質量の活物質が蓄えることができる最大の電気量(容量密度とも称される。)をいう。
【0046】
負極合剤層に含まれるSi含有材料の質量Wsに対する、負極合剤層に含まれる炭素材料の質量Wcの比:Wc/Wsは、例えば、70/30から99/1であればよく、85/15から97/3であってもよい。なお、第2複合材料がリチウムイオン導電相として炭素相を含む場合、リチウムイオン導電相としての炭素相は、炭素材料の質量Wcに含めない。
【0047】
炭素材料は、第1複合材料および第2複合材料に比べ、充放電時の膨張および収縮の度合いが小さいため、サイクル特性を向上させやすい。負極活物質中の炭素材料(リチウムイオン導電相としての炭素相を除く。)の含有量は、例えば、85質量%以上、99質量%以下であればよい。すなわち、負極活物質中のSi含有材料の含有量は、1質量%以上、15質量%以下であってもよい。これにより、高容量化とサイクル特性の向上を両立しやすくなる。
【0048】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)等が例示できる。中でも、充放電の安定性に優れ、不可逆容量も少ない黒鉛が好ましい。黒鉛とは、黒鉛型結晶構造を有する材料を意味し、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子等が含まれる。炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係る二次電池について詳述する。二次電池は、例えば、以下のような負極と、正極と、電解液とを備える。
【0050】
[負極]
負極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含む。負極は、負極集電体と負極合剤層とを具備する。負極合剤層は、例えば、負極活物質を含む負極合剤を分散媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。負極合剤層は、負極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。
【0051】
負極合剤は、必須成分として、負極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤、増粘剤等を含むことができる。
【0052】
負極集電体としては、無孔の導電性基板(金属箔等)、多孔性の導電性基板(メッシュ体、ネット体、パンチングシート等)が使用される。負極集電体の材質としては、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金等が例示できる。負極集電体の厚さは、特に限定されないが、例えば、1~50μmであり、5~20μmであってもよい。
【0053】
結着剤としては、樹脂材料、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;アラミド樹脂等のポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、エチレン-アクリル酸共重合体等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;ポリビニルピロリドン;ポリエーテルサルフォン;スチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)等のゴム状材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックやカーボンナノチューブ等のカーボン類;炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛やチタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が例示できる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその変性体(Na塩等の塩も含む)、メチルセルロース等のセルロース誘導体(セルロースエーテル等);ポリビニルアルコール等の酢酸ビニルユニットを有するポリマーのケン化物;ポリエーテル(ポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキサイド等)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
分散媒としては、特に制限されないが、例えば、水、エタノール等のアルコール、テトラヒドロフラン等のエーテル、ジメチルホルムアミド等のアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またはこれらの混合溶媒等が例示できる。
【0057】
[正極]
正極は、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質を含む。正極は、例えば、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを具備する。正極合剤層は、正極合剤を分散媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることにより形成できる。乾燥後の塗膜を、必要により圧延してもよい。正極合剤層は、正極集電体の一方の表面に形成してもよく、両方の表面に形成してもよい。正極合剤は、必須成分として、正極活物質を含み、任意成分として、結着剤、導電剤等を含むことができる。
【0058】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有複合酸化物を用いることができる。例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiCoNi1-b、LiCo1-b、LiNi1-b、LiMn、LiMn2-b4、LiMPO4、LiMPOF(Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bよりなる群から選択される少なくとも1種である。)が挙げられる。ここで、a=0~1.2、b=0~0.9、c=2.0~2.3である。なお、リチウムのモル比を示すa値は、充放電により増減する。
【0059】
中でも、LiNi1-b(Mは、Mn、CoおよびAlよりなる群から選択された少なくとも1種であり、0<a≦1.2であり、0.3≦b≦1である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物が好ましい。高容量化の観点から、0.85≦b≦1を満たすことがより好ましい。結晶構造の安定性の観点からは、MとしてCoおよびAlを含むLiNiCoAl(0<a≦1.2、0.85≦b<1、0<c<0.15、0<d≦0.1、b+c+d=1)が更に好ましい。
【0060】
結着剤および導電剤としては、負極について例示したものと同様のものが使用できる。導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。
【0061】
正極集電体の形状および厚みは、負極集電体に準じた形状および範囲からそれぞれ選択できる。正極集電体の材質としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等が例示できる。
【0062】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質塩とを含む。溶媒としては、非水溶媒を用いることができ、水を用いてもよい。電解質塩は、少なくともリチウム塩を含む。
【0063】
電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.5mol/L以上、2mol/L以下が好ましい。リチウム塩濃度を上記範囲に制御することで、イオン伝導性に優れ、適度の粘性を有する電解液を得ることができる。ただし、リチウム塩濃度は上記に限定されない。
【0064】
非水溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル(後述の不飽和環状炭酸エステルを除く。)、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル等が用いられる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等が挙げられる。鎖状炭酸エステルとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。環状カルボン酸エステルとしては、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。鎖状カルボン酸エステルとしては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiAlCl、LiSbF、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。ホウ酸塩類としては、ビス(1,2-ベンゼンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,3-ナフタレンジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(2,2’-ビフェニルジオレート(2-)-O,O’)ホウ酸リチウム、ビス(5-フルオロ-2-オレート-1-ベンゼンスルホン酸-O,O’)ほう酸リチウム等が挙げられる。イミド塩類としては、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiN(FSO:以下、LFSIとも称する。)、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホン酸ノナフルオロブタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CFSO)(CSO))、ビスペンタフルオロエタンスルホン酸イミドリチウム(LiN(CSO)等が挙げられる。これらの中でも、LiPFおよびLFSIの少なくとも一方が好ましい。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
電解液は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、エチレンサルファイト、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiFOB)アジポニトリル、ピメロニトリル等を用いることができる。また、分子内に炭素-炭素の不飽和結合を少なくとも1つ有する環状炭酸エステル(以下、不飽和環状炭酸エステルと称する。)を含ませてもよい。
【0067】
不飽和環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート、4-メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、4-エチルビニレンカーボネート、4,5-ジエチルビニレンカーボネート、4-プロピルビニレンカーボネート、4,5-ジプロピルビニレンカーボネート、4-フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。不飽和環状炭酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不飽和環状炭酸エステルは、水素原子の一部がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0068】
[セパレータ]
通常、正極と負極との間には、セパレータを介在させることが望ましい。セパレータは、イオン透過度が高く、適度な機械的強度および絶縁性を備えている。セパレータとしては、微多孔薄膜、織布、不織布等を用いることができる。セパレータの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0069】
二次電池の構造の一例としては、正極および負極がセパレータを介して巻回されてなる電極群と電解液とが外装体に収容された構造が挙げられる。正極および負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極群等、他の形態の電極群が適用されてもよい。二次電池は、例えば円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型等、いずれの形態であってもよい。
【0070】
以下、本発明に係る二次電池の一例として角形の非水電解質二次電池の構造を、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池の一部を切欠いた概略斜視図である。
【0071】
電池は、有底角形の電池ケース4と、電池ケース4内に収容された電極群1および電解液(図示せず)とを備えている。電極群1は、長尺帯状の負極と、長尺帯状の正極と、これらの間に介在し、かつ直接接触を防ぐセパレータとを有する。電極群1は、負極、正極、およびセパレータを、平板状の巻芯を中心にして捲回し、巻芯を抜き取ることにより形成される。満充電時における、負極の開回路電位は、リチウム金属に対して、0V以上、70mV以下となるように正極と負極の容量が設計されている。
【0072】
負極の負極集電体には、負極リード3の一端が溶接等により取り付けられている。負極リード3の他端は、樹脂製の絶縁板(図示せず)を介して、封口板5に設けられた負極端子6に電気的に接続されている。負極端子6は、樹脂製のガスケット7により、封口板5から絶縁されている。正極の正極集電体には、正極リード2の一端が溶接等により取り付けられている。正極リード2の他端は、絶縁板を介して、封口板5の裏面に接続されている。すなわち、正極リード2は、正極端子を兼ねる電池ケース4に電気的に接続されている。絶縁板は、電極群1と封口板5とを隔離するとともに負極リード3と電池ケース4とを隔離している。封口板5の周縁は、電池ケース4の開口端部に嵌合しており、嵌合部はレーザー溶接されている。電池ケース4の開口部は、封口板5で封口される。封口板5に設けられている電解液の注入孔は、封栓8により塞がれている。
【0073】
図2は、図1の非水電解質二次電池に用いられる負極の概略断面図である。
負極は、負極集電体11と、負極集電体11の両面に形成された負極合剤層12と、を有する。負極合剤層12は、それぞれ負極合剤層12の厚さTの1/2の厚さ(T/2)を有する、負極の表面側の第1領域12aと、負極集電体11側の第2領域12bと、を有する。第1領域中に含まれる第2複合材料の質量w12に対する第1領域中に含まれる第1複合材料の質量w11の比(w11/w12)は1より大きく、第2領域中に含まれる第2複合材料の質量w22に対する第2領域中に含まれる第1複合材料の質量w21の比(w21/w22)は1未満となるように設計されている。
【0074】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1、2および比較例1~5>
(第1複合材料)
第1複合材料として、平均粒径5μmのSiO(x=1)を準備した。SiOは、SiO相と、SiO相内に分散している第1Si粒子とを含む。第1Si含有材料(SiO)に含まれる第1Si粒子の含有量は30質量%であった。第1Si粒子の平均粒径は20nmであった。
【0076】
(第2複合材料)
第2Si含有材料として、平均粒径10μmのLSX材料を準備した。LSX材料は、LiSi(z=0.5)で表わされるリチウムシリケート相と、リチウムシリケート相内に分散している第2Si粒子とを含む。LSX材料に含まれる第2Si粒子の含有量は55質量%であった。第2Si粒子の平均粒径は100nmであった。第2Si粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0077】
[負極の作製]
第1複合材料(SiO)および第2複合材料(LSX材料)の表面には、いずれも導電層を形成した。導電層の量は、各複合材料と導電層との総質量に対して5質量%とした。具体的には、各複合材料を石炭ピッチと混合し、混合物を不活性雰囲気で、800℃で焼成し、各複合材料の表面を導電性炭素で被覆した。その後、導電層を有する複合材料を粉砕し、篩を用いて、平均粒径10μmに調整した。導電層の厚さは、概ね100nmと推測される。
【0078】
負極活物質として、表1に示す割合で第1複合材料(SiO)および第2複合材料(LSX材料)を含むとともに、Si含有粒子(第1複合材料と第2複合材料の合計)と黒鉛とを6:94の質量比(Wc/Ws=94/6)で含む第1スラリーおよび第2スラリーをそれぞれ調製した。各スラリーは、負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)とを、97.5:1:1.5の質量比で混合し、水を添加した後、混合機を用いて攪拌して調製した。
【0079】
次に、第2スラリーを、銅箔の表面に1m当りの負極合剤の質量が85gとなるように塗布し、第2スラリーの塗膜の上に、第1スラリーを負極の表面側に配置されるように塗布した。その後、2層構造の塗膜を乾燥させた後、圧延して、銅箔の両面に、密度1.5g/cmの第1領域と第2領域を有する負極合剤層を形成し、負極を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
[正極の作製]
リチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.18Al0.02)と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、95:2.5:2.5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加した後、混合機を用いて攪拌し、正極スラリーを調製した。次に、アルミニウム箔の表面に正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して、アルミニウム箔の両面に、密度3.6g/cmの正極合剤層が形成された正極を作製した。
【0082】
[電解液の調製]
非水溶媒にリチウム塩を溶解させて電解液を調製した。非水溶媒には、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、30:70の体積比で含む混合溶媒を用いた。リチウム塩には、LiPFを用いた。電解液中のLiPF濃度は、1.1mol/Lとした。
【0083】
[非水電解質二次電池の作製]
各電極にタブをそれぞれ取り付け、タブが最外周部に位置するように、セパレータを介して正極および負極を渦巻き状に巻回することにより電極群を作製した。電極群をアルミニウムラミネートフィルム製の外装体内に挿入し、105℃で2時間真空乾燥した後、電解液を注入し、外装体の開口部を封止して、実施例1、2の電池A1、A2および比較例1~5の電池B1~B5を得た。なお、満充電時における負極の開回路電位が、リチウム金属に対して70mVになるように、Cn/Cp比を0.95に設計した。
【0084】
上記で作製した各電池について、以下の方法で評価を行った。
[評価1:セル容量]
作製後の各電池について、25℃の環境下で、0.3Itの電流で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、その後、4.2Vの定電圧で電流が0.015Itになるまで定電圧充電した。その後、0.3Itの電流で電圧が2.75Vになるまで定電流放電を行った。充電と放電との間の休止期間は10分とした。充放電は25℃の環境下で行った。このときの放電容量を、初期容量として求めた。実施例1の結果を100として、各実施例2および各比較例の相対値(index)を表1に示す。
【0085】
なお、(1/X)Itは、電流を表し、(1/X)It(A)=定格容量(Ah)/X(h)であり、Xは定格容量分の電気を充電または放電するための時間を表す。例えば、0.5Itとは、X=2であり、電流値が定格容量(Ah)/2(h)であることを意味する。
【0086】
[評価2:サイクル容量維持率]
評価1と同じ条件の充放電を繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する300サイクル目の放電容量の割合(百分率)を、サイクル容量維持率として求めた。実施例1の結果を100として、実施例2および各比較例の相対値(index)を表1に示す。
【0087】
<実施例3、4および比較例6~10>
第2複合材料として、平均粒径10μmのSi-C材料を準備した。Si-C材料は、無定形の炭素相と、炭素相内に分散している第2Si粒子とを含む。Si-C材料に含まれる第2Si粒子の含有量は50質量%であった。第2Si粒子の平均粒径は200nmであった。第2Si粒子の結晶子サイズは15nmであった。
【0088】
第2複合材料として、Si-C材料を用いたこと以外、上記実施例および比較例と同様に実施例3、4の電池A3、A4および比較例6~10の電池B6~B10を作製し、評価した。実施例3の結果を100として、実施例4および各比較例の相対値(index)を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
表1、2より、負極合剤層を厚み方向の中心において2分割するとき、負極の表面側の第1領域に第1複合材料が第2複合材料よりも多く含まれ、負極集電体側の第2領域に第1複合材料が第2複合材料より少なく含まれることで、サイクル特性が向上することが理解できる。
【0091】
<参考例1~7>
満充電時における負極の開回路電位が、リチウム金属に対して80mVになるように、Cn/Cp比を1.02に設計した点以外、実施例1、2および比較例1~5と同様に参考例1~7の電池C1~C7を作製し、評価した。参考例1の結果を100として、各参考例の相対値(index)を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3より、サイクル特性の劣化が、満充電時における負極の開回路電位がリチウム金属に対して70mV以下の場合に特有の現象であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る二次電池は、移動体通信機器、携帯電子機器等の主電源に有用である。
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0095】
1:電極群、2:正極リード、3:負極リード、4:電池ケース、5:封口板、6:負極端子、7:ガスケット、8:封栓、11:負極集電体、12:負極合剤層、12a:第1領域、12b:第2領域
図1
図2