(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】無機構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20240705BHJP
C03C 10/00 20060101ALI20240705BHJP
B28B 3/00 20060101ALI20240705BHJP
C04B 35/16 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C01G25/00
C03C10/00
B28B3/00 C
C04B35/16
(21)【出願番号】P 2022527646
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2021017828
(87)【国際公開番号】W WO2021241194
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2020092473
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【氏名又は名称】細川 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 夏希
(72)【発明者】
【氏名】澤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達郎
(72)【発明者】
【氏名】栗副 直樹
(72)【発明者】
【氏名】関野 徹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 知代
(72)【発明者】
【氏名】趙 成訓
(72)【発明者】
【氏名】徐 寧浚
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-100905(JP,A)
【文献】特表平09-509392(JP,A)
【文献】特開平11-092242(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017526(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第2010-0021685(KR,A)
【文献】特開2012-230948(JP,A)
【文献】特開昭50-039220(JP,A)
【文献】長滝重義,シリカフュームに関する研究の現況,土木学会論文集,1995年,No.508 V-226,p.1-13
【文献】JANSSENS, W. et al.,Ternary Ag/MgO-SiO2 Catalysts for the conversion of Ethanol into Butadiene,ChemSusChem,2014年11月19日,Vol.8,pp.994-1008,<DOI:10.1002/cssc.201402894>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20
C01F 5/02
C03C 10/00
B28B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無機粒子と、
前記無機粒子の表面を覆い、前記無機粒子の間を結合する結合部と、
を備え、
前記結合部は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物と、平均粒子径が100nm以下の微粒子と、を含有し、
前記無機粒子は単純金属酸化物又は複合金属酸化物からなり、前記単純金属酸化物に含まれる金属元素は一種であり、前記複合金属酸化物に含まれる金属元素は二種以上であり、
前記微粒子は、ケイ素と酸素とを含む化合物を含み、
前記無機粒子と前記結合部とが同じ金属元素を含
み、
前記無機粒子は、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、又はジルコン酸バリウムからなる粒子であり、
前記無機粒子がケイ酸ジルコニウムからなる粒子である場合には前記結合部はケイ素と酸素とジルコニウムとを含み、前記無機粒子が酸化マグネシウムからなる粒子である場合には前記結合部はケイ素と酸素とマグネシウムとを含み、前記無機粒子がジルコン酸バリウムからなる粒子である場合には前記結合部はケイ素と酸素とバリウムとを含み、
気孔率が20%以下である、無機構造体。
【請求項2】
前記無機粒子の体積割合が前記結合部の体積割合よりも大きい、請求項1に記載の無機構造体。
【請求項3】
前記結合部は、前記非晶質化合物を構成する前記金属元素を含む結晶質化合物をさらに含有する、請求項1又は2に記載の無機構造体。
【請求項4】
前記無機粒子は結晶質である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項5】
厚みが500μm以上である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項6】
前記無機粒子は、ケイ酸ジルコニウム、又は酸化マグネシウムからなる粒子である、請求項1から
5のいずれか一項に記載の無機構造体。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の無機構造体の製造方法であって、
複数の無機粒子と、非晶質であり、粒子径が100nm以下である複数の二酸化ケイ素粒子と、金属元素を含む酢酸塩の水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、
前記混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、
を有し、
無機粒子に含まれる金属元素と水溶液に含まれる金属元素が同じである、無機構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスからなる無機構造体の製造方法として、従来より焼結法が知られている。焼結法は、無機物質からなる固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱することにより、焼結体を得る方法である。
【0003】
特許文献1では、WO3、TiO2又はこれらの固溶体からなり、光触媒特性を有する結晶を含有したガラス粉粒体が開示されており、さらに当該ガラス粉粒体を焼結することにより、任意の形状を有する固化成形物が得られることが開示されている。そして、このような固化成形物は、優れた光触媒特性を有する光触媒機能性素材として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、焼結法は、固体粉末を高温で加熱する必要があることから、製造時のエネルギー消費が大きく、コストが掛かるという問題がある。また、低温条件下で固体粉末のみを単に圧粉しただけでは、固体粉末同士が十分に結合しないことから、得られる成形体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、簡易な方法で作製することが可能であり、さらに高い緻密性を有する無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る無機構造体は、複数の無機粒子と、無機粒子の表面を覆い、当該無機粒子の間を結合する結合部と、を備える。結合部は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物と、平均粒子径が100nm以下の微粒子と、を含有する。
【0008】
本発明の第二の態様に係る無機構造体の製造方法は、複数の無機粒子と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子と、金属元素を含む水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る無機構造体の一例を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る無機構造体の他の例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る無機構造体の製造方法を説明するための概略断面図である。
【
図4】
図4は、ICSDに登録されたジルコンのXRDパターン、参考例1-1における試験サンプル1-2及び1-3のXRDパターン、並びにサンプルホルダのXRDパターンを示すグラフである。
【
図5】
図5(a)は、実施例1-1の試験サンプル1-1を2000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図5(b)は、試験サンプル1-1を10000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図5(c)は、2000倍に拡大したジルコン粉末の走査型電子顕微鏡像である。
図5(d)では、10000倍に拡大したジルコン粉末の走査型電子顕微鏡像である。
【
図6】
図6(a)は、実施例1-1の試験サンプル1-1において、位置1の反射電子像を示す図である。
図6(b)は、試験サンプル1-1において、位置2の反射電子像を示す図である。
図6(c)は、試験サンプル1-1において、位置3の反射電子像を示す図である。
【
図7】
図7(a)は、実施例1-1の試験サンプル1-1において、位置1の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
図7(b)は、試験サンプル1-1において、位置2の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
図7(c)は、試験サンプル1-1において、位置3の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【
図8】
図8は、ICSDに登録されたマグネシアのXRDパターン及び実施例2-1の試験サンプル2-1のXRDパターンを示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は、実施例2-1の試験サンプル2-1を300倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図9(b)は、300倍に拡大したマグネシア粉末の走査型電子顕微鏡像である。
【
図10】
図10(a)は、実施例2-1の試験サンプル2-1を500倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図10(b)は、
図10(a)中の符号Bの部分におけるエネルギー分散型X線分析スペクトルを示す図である。
図10(c)は、
図10(a)中の符号Cの部分におけるエネルギー分散型X線分析スペクトルを示す図である。
【
図11】
図11は、実施例2-1の試験サンプル2-1に対して、エネルギー分散型X線分析を行った際の、走査型電子顕微鏡像、並びにケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)のマッピングデータを示す図である。
図11(a)は試験サンプル2-1を500倍に拡大した走査型電子顕微鏡像であり、
図11(b)はケイ素のマッピングデータを示す図であり、
図11(c)はマグネシウムのマッピングデータを示す図である。
【
図12】
図12(a)は、試験サンプル2-1における結合部を3000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
図12(b)は、
図12(a)における符号Dの部分を10000倍に拡大した走査型電子顕微鏡像である。
【
図13】
図13(a)は、実施例2-1の試験サンプル2-1において、位置1の反射電子像を示す図である。
図13(b)は、試験サンプル2-1において、位置2の反射電子像を示す図である。
図13(c)は、試験サンプル2-1において、位置3の反射電子像を示す図である。
【
図14】
図14(a)は、実施例2-1の試験サンプル2-1において、位置1の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
図14(b)は、試験サンプル2-1において、位置2の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
図14(c)は、試験サンプル2-1において、位置3の反射電子像を二値化したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
[無機構造体]
本実施形態の無機構造体1は、
図1に示すように、複数の無機粒子2を含んでいる。そして、隣接する無機粒子2が結合部3を介して互いに結合することにより、無機粒子2が集合してなる無機構造体1を形成している。
【0012】
無機構造体1を構成する無機粒子2は無機物質で構成されており、当該無機物質は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有している。本明細書において、アルカリ土類金属は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウムに加えて、ベリリウム及びマグネシウムを包含する。卑金属は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、カドミウム、インジウム、すず、水銀、タリウム、鉛、ビスマス及びポロニウムを包含する。半金属は、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルを包含する。この中でも、無機物質は、ジルコニウム、ケイ素、マグネシウム及びバリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有することが好ましい。これらの金属元素を含有する無機粒子2は、後述するように、加圧加熱法により、結合部3を介して結合することが可能となる。
【0013】
無機粒子2を構成する無機物質は、上記金属元素の酸化物、窒化物、水酸化物、酸化水酸化物、硫化物、ホウ化物、炭化物及びハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つである。なお、上述の金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物に加え、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩及びホウ酸塩を包含している。また、無機粒子2を構成する無機物質は、上記金属元素を含む複合アニオン化合物であってもよい。複合アニオン化合物は、単一化合物中に複数のアニオンを含む物質であり、酸フッ化物、酸塩化物、酸窒化物を挙げることができる。なお、無機粒子2を構成する無機物質は、上記金属元素の酸化物又は窒化物であることが好ましい。このような無機物質は、大気中の酸素及び水蒸気に対する安定性が高いことから、化学的安定性及び信頼性に優れる無機構造体1を得ることができる。
【0014】
無機粒子2を構成する無機物質は、酸化物であることが特に好ましい。無機物質が上記金属元素の酸化物からなることにより、フッ化物及び窒化物と比べて、より耐久性の高い無機構造体1を得ることができる。なお、金属元素の酸化物は、金属元素に酸素のみが結合した化合物であることが好ましい。
【0015】
無機粒子2は単純金属酸化物又は複合金属酸化物からなり、単純金属酸化物に含まれる金属元素は一種であり、複合金属酸化物に含まれる金属元素は二種以上であることが好ましい。無機粒子2が、上記金属元素の単純金属酸化物又は複合金属酸化物からなることにより、得られる無機構造体1は、安定かつ各種特性に優れたセラミックスとなる。なお、無機粒子2は、単純金属酸化物又は複合金属酸化物を主成分として含有することが好ましい。具体的には、無機粒子2は、単純金属酸化物又は複合金属酸化物を80mol%以上含有することが好ましく、90mol%以上含有することがより好ましく、95mol%以上含有することがさらに好ましい。
【0016】
無機粒子2は、結晶質であることが好ましい。つまり、無機粒子2は、上述の無機物質からなり、さらに結晶質の粒子であることが好ましい。無機粒子2が結晶質の粒子であることにより、アモルファスからなる粒子の場合と比べて、耐久性の高い無機構造体1を得ることができる。なお、無機粒子2は単結晶の粒子であってもよく、多結晶の粒子であってもよい。
【0017】
無機構造体1を構成する無機粒子2の平均粒子径は、特に限定されない。ただ、無機粒子2の平均粒子径は、300nm以上50μm以下であることが好ましく、300nm以上30μm以下であることがさらに好ましく、300nm以上20μm以下であることが特に好ましい。無機粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、無機粒子2同士が強固に結合し、無機構造体1の強度を高めることができる。また、無機粒子2の平均粒子径がこの範囲内であることにより、後述するように、無機構造体1の内部に存在する気孔の割合が20%以下となることから、無機構造体1の強度を高めることが可能となる。なお、本明細書において、「平均粒子径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用する。
【0018】
無機粒子2の形状は特に限定されないが、例えば球状とすることができる。また、無機粒子2は、ウィスカー状(針状)の粒子、又は鱗片状の粒子であってもよい。ウィスカー状粒子又は鱗片状粒子は、球状粒子と比べて他の粒子との接触性及び結合部3との接触性が高まるため、無機構造体1全体の強度を高めることが可能となる。
【0019】
本実施形態の無機構造体1は、複数の無機粒子2の間を結合する結合部3を備えている。隣接する無機粒子2が結合部3を介して結合することにより、無機粒子2同士が三次元的に結合するため、機械的強度の高いバルク体を得ることができる。
【0020】
そして、結合部3は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物を含有している。結合部3に含まれる金属元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つである。後述するように、無機構造体1は、無機粒子と、非晶質である二酸化ケイ素粒子と、金属元素を含む水溶液とを混合してなる混合物を、加熱及び加圧することにより、得ることができる。この際、二酸化ケイ素粒子と金属元素を含む水溶液とが反応することにより、ケイ素と酸素と金属元素とを含む非晶質化合物が形成される。そのため、結合部3は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物を含有している。なお、結合部3は、非晶質化合物を主成分として含有することが好ましい。具体的には、結合部3は、非晶質化合物を50mol%以上含有することが好ましく、70mol%以上含有することがより好ましく、90mol%以上含有することがさらに好ましい。
【0021】
結合部3は、無機粒子2と直接接触していることが好ましい。また、結合部3は、無機粒子2の表面の少なくとも一部を覆っていることが好ましく、無機粒子2の表面全体を覆っていることがより好ましい。これにより、無機粒子2と結合部3が強固に結合することから、緻密性及び機械的強度に優れた無機構造体1を得ることができる。
【0022】
図2に示すように、無機構造体1Aにおいて、結合部3は、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。結合部3が複数の微粒子4を含んでいることにより、結合部3がより緻密な構造となるため、無機構造体1Aの強度を高めることが可能となる。
【0023】
上述のように、結合部3は、非晶質の二酸化ケイ素粒子と金属元素を含む水溶液とが加熱及び加圧されて反応することにより形成される。そのため、結合部3の内部には、二酸化ケイ素粒子に由来する粒子状物質が含まれている場合がある。また、後述するように、非晶質の二酸化ケイ素粒子の粒子径は、100nm以下であることが好ましい。そのため、結合部3は、二酸化ケイ素粒子に由来し、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。なお、結合部3に含まれる微粒子4の粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0024】
結合部3に含まれる微粒子4は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む結晶質化合物からなる粒子であってもよい。なお、微粒子4は、金属元素を含む水溶液と反応しなかった二酸化ケイ素を含んでいてもよい。
【0025】
なお、結合部3は、アルカリ金属元素、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まないことが好ましい。また、結合部3は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「結合部は、アルカリ金属元素、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない」とは、結合部3に故意にアルカリ金属元素、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを含有させたものではないことを意味する。そのため、結合部3にアルカリ金属元素、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnが不可避不純物として混入した場合は、「結合部は、アルカリ金属元素、B、V、Te、P、Bi、Pb及びZnを実質的に含まない」という条件を満たす。同様に、本明細書において、「結合部は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まない」とは、結合部3に故意にCa、Sr及びBaを含有させたものではないことを意味する。そのため、結合部3にCa、Sr及びBaが不可避不純物として混入した場合は、「結合部は、Ca、Sr及びBaを実質的に含まない」という条件を満たす。
【0026】
無機構造体1,1Aにおいて、無機粒子2と結合部3とが同じ金属元素を含むことが好ましい。上述のように、無機構造体1,1Aは、無機粒子2と、非晶質の二酸化ケイ素粒子と、金属元素を含む水溶液とを混合してなる混合物を、加熱及び加圧することにより、得ることができる。そして、二酸化ケイ素粒子と金属元素を含む水溶液とが反応することにより、ケイ素と酸素と金属元素とを含む化合物を含有する結合部3が形成される。ここで、無機粒子2に含まれる金属元素と水溶液に含まれる金属元素が同じである場合、加熱加圧時に、金属元素同士の相互拡散が起こりやすくなる。その結果、無機粒子2と結合部3とが接触して結合しやすくなることから、強固な無機構造体1,1Aを得ることが可能となる。
【0027】
無機構造体1,1Aにおいて、無機粒子2の体積割合が結合部3の体積割合よりも大きいことが好ましい。この場合、得られる無機構造体1,1Aは、無機粒子2の特性を活用しやすい構造体となる。具体的には、無機粒子2が熱伝導率の低い無機化合物からなる場合、無機粒子2の体積割合を結合部3の体積割合よりも大きくすることにより、無機構造体1,1A全体の断熱性を向上させることができる。逆に、無機粒子2が熱伝導率の高い無機化合物からなる場合、無機粒子2の体積割合を結合部3の体積割合よりも大きくすることにより、無機構造体1,1A全体の熱伝導性を向上させることができる。
【0028】
結合部3は、非晶質化合物を構成する金属元素を含む結晶質化合物をさらに含有することが好ましい。上述のように、結合部3は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物を含有している。そのため、結合部3の結晶構造は、少なくとも一部がアモルファスである。ただ、結合部3は、非晶質化合物に加えて結晶質化合物を含有することが好ましく、さらに当該結晶質化合物に含まれる金属元素は、非晶質化合物に含まれる金属元素と同じであることが好ましい。結合部3が結晶質化合物をさらに含有することにより、結合部3が非晶質化合物のみからなる場合と比べて、無機構造体1,1Aの化学的安定性を高めることが可能となる。
【0029】
上述のように、無機構造体1,1Aにおいて、無機粒子2は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素の酸化物からなることが好ましい。具体的には、無機粒子2は、ケイ酸ジルコニウム(ジルコン、ZrSiO4)、酸化マグネシウム(マグネシア、MgO)、又はジルコン酸バリウム(BaZrO3)からなる粒子を挙げることができる。
【0030】
ここで、無機粒子2がケイ酸ジルコニウムからなる場合、結合部3はケイ素と酸素とジルコニウムとを含む非晶質化合物を含有することが好ましい。なお、当該非晶質化合物において、ケイ素とジルコニウムの比率は特に限定されない。さらに、結合部3が微粒子4を含む場合、微粒子4は、ケイ素と酸素とジルコニウムとを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよく、結晶質のケイ酸ジルコニウムからなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、原料である二酸化ケイ素粒子に由来したシリカが含まれていてもよい。さらに、結合部3は、結晶質化合物として、ケイ酸ジルコニウムを含んでいてもよい。
【0031】
無機粒子2が酸化マグネシウムからなる場合、結合部3はケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物を含有することが好ましい。なお、当該非晶質化合物において、ケイ素とマグネシウムの比率は特に限定されない。結合部3が微粒子4を含む場合、微粒子4は、ケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよく、結晶質のケイ酸マグネシウムからなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、原料である二酸化ケイ素粒子に由来したシリカが含まれていてもよい。さらに、結合部3は、結晶質化合物として、ケイ酸マグネシウムを含んでいてもよい。
【0032】
無機粒子2がジルコン酸バリウムからなる場合、結合部3はケイ素と酸素とバリウムとを含む非晶質化合物を含有することが好ましい。なお、当該非晶質化合物において、ケイ素とバリウムの比率は特に限定されない。結合部3が微粒子4を含む場合、微粒子4は、ケイ素と酸素とバリウムとを含む非晶質化合物からなる粒子であってもよく、結晶質のジルコン酸バリウムからなる粒子であってもよい。また、微粒子4は、原料である二酸化ケイ素粒子に由来したシリカが含まれていてもよい。さらに、結合部3は、結晶質化合物として、ジルコン酸バリウムを含んでいてもよい。
【0033】
なお、ケイ酸ジルコニウムは熱伝導率が1.3W/m・K程度であり、セラミックス材料の中では熱伝導性が低いことが知られている。そのため、無機粒子2をケイ酸ジルコニウムからなる粒子とし、結合部3をケイ素と酸素とジルコニウムとを含む非晶質化合物とすることにより、機械的強度に加えて断熱性に優れた無機構造体1,1Aを得ることができる。また、酸化マグネシウムは熱伝導率が60W/m・K程度であり、熱伝導性が高いことが知られている。そのため、無機粒子2を酸化マグネシウムからなる粒子とし、結合部3をケイ素と酸素とマグネシウムとを含む非晶質化合物とすることにより、機械的強度に加えて熱伝導性に優れた無機構造体1,1Aを得ることができる。
【0034】
上述のように、結合部3は、非晶質の二酸化ケイ素粒子と金属元素を含む水溶液とが加熱及び加圧されて反応することにより形成されるため、緻密な相となる。ただ、結合部3の内部及び結合部3と無機粒子2との間の少なくとも一箇所には、気孔が存在していてもよい。
【0035】
そして、無機構造体1,1Aの断面における気孔率は20%以下であることが好ましい。つまり、無機構造体1,1Aの断面を観察した場合、単位面積あたりの気孔の割合の平均値が20%以下であることが好ましい。気孔率が20%以下の場合、無機粒子2同士が結合部3によって結合する割合が増加するため、無機構造体1,1Aが緻密になり、強度が高まる。そのため、無機構造体1,1Aの機械加工性を向上させることが可能となる。また、気孔率が20%以下の場合には、気孔を起点として、無機構造体1,1Aにひび割れが発生することが抑制されるため、無機構造体1,1Aの曲げ強さを高めることが可能となる。なお、無機構造体1,1Aの断面における気孔率は10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。無機構造体1,1Aの断面における気孔率が小さいほど、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、無機構造体1,1Aの強度を高めることが可能となる。
【0036】
本明細書において、気孔率は次のように求めることができる。まず、無機構造体1,1Aの断面を観察し、無機粒子2、結合部3及び気孔を判別する。そして、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積とを測定し、単位面積あたりの気孔の割合を求め、その値を気孔率とする。なお、無機構造体1,1Aの断面に対し、単位面積あたりの気孔の割合を複数箇所で求めた後、単位面積あたりの気孔の割合の平均値を気孔率とすることがより好ましい。無機構造体1,1Aの断面を観察する際には、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。また、単位面積と当該単位面積中の気孔の面積は、顕微鏡で観察した画像を二値化することにより測定してもよい。
【0037】
無機構造体1,1Aの内部に存在する気孔の大きさは特に限定されないが、可能な限り小さい方が好ましい。気孔の大きさが小さいことにより、気孔を起点としたひび割れが抑制されるため、無機構造体1,1Aの強度を高め、無機構造体1,1Aの機械加工性を向上させることが可能となる。なお、無機構造体1,1Aの気孔の大きさは、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。無機構造体1,1Aの内部に存在する気孔の大きさは、上述の気孔率と同様に、無機構造体1,1Aの断面を顕微鏡で観察することにより、求めることができる。
【0038】
無機構造体1,1Aは、無機粒子2同士が結合部3を介して互いに結合する構造を有していればよい。そのため、無機構造体1,1Aはこのような構造を有していれば、その形状は限定されない。無機構造体1,1Aの形状は、例えば板状、膜状、矩形状、塊状、棒状、球状とすることができる。また、無機構造体1,1Aが板状又は膜状の場合、その厚みtは特に限定されないが、例えば50μm以上とすることができる。本実施形態の無機構造体1,1Aは、後述するように、加圧加熱法により形成される。そのため、厚みの大きな無機構造体1,1Aを容易に得ることができる。なお、無機構造体1,1Aの厚みtは500μm以上とすることができ、1mm以上とすることができ、1cm以上とすることもできる。無機構造体1,1Aの厚みtの上限は特に限定されないが、例えば50cmとすることができる。
【0039】
無機構造体1,1Aにおいて、複数の無機粒子2は互いに結合部3で結合しているため、有機化合物からなる有機バインダーで結合しておらず、さらに結合部3以外の無機バインダーでも結合していない。そのため、無機構造体1,1Aは、無機粒子2及び結合部3の特性を保持した構造体となる。例えば、無機粒子2及び結合部3が高い熱伝導性を有する無機材料からなる場合、得られる無機構造体1,1Aも熱伝導性に優れた構造体となる。また、無機粒子2及び結合部3が高い電気絶縁性を有する無機材料からなる場合、得られる無機構造体1,1Aも電気絶縁性に優れた構造体となる。
【0040】
このように、本実施形態の無機構造体1,1Aは、複数の無機粒子2と、無機粒子2の表面を覆い、無機粒子2の間を結合する結合部3と、を備える。結合部3は、ケイ素と酸素と一種以上の金属元素とを含む非晶質化合物と、平均粒子径が100nm以下の微粒子4と、を含有する。無機構造体1,1Aは、複数の無機粒子2が、緻密性の高い結合部3を介して結合している。そのため、緻密性及び機械的強度に優れた無機構造体1,1Aを得ることができる。
【0041】
なお、本実施形態の無機構造体1,1Aは、
図1及び
図2に示すように、無機粒子2のみが結合部3を介して結合してなる構造体とすることができる。しかしながら、後述するように、無機構造体1,1Aは50~300℃に加熱しながら加圧することにより得ることができるため、無機構造体1,1Aに耐熱性の低い部材を添加することができる。具体的には、無機構造体1,1Aは、無機粒子2及び結合部3に加えて、有機物や樹脂粒子が含まれていてもよい。また、有機物等の耐熱性の低い部材に限定されず、無機構造体1,1Aは、金属粒子、又は、無機粒子2及び結合部3以外の無機化合物からなる粒子が含まれていてもよい。
【0042】
[無機構造体の製造方法]
次に、無機構造体1,1Aの製造方法について説明する。無機構造体は、複数の無機粒子と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子と、金属元素を含む水溶液とを混合することにより、混合物を得る工程と、当該混合物を加圧及び加熱する工程と、により製造することができる。なお、以下、「金属元素を含む水溶液」を「金属含有水溶液」ともいう。
【0043】
具体的には、まず、無機粒子の粉末と、二酸化ケイ素粒子と、金属含有水溶液とを混合して混合物を調製する。無機粒子は、上述のように、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を含有し、さらに当該金属元素の酸化物、窒化物、水酸化物、硫化物、ホウ化物、炭化物及びハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一つからなることが好ましい。
【0044】
二酸化ケイ素粒子は、非晶質の二酸化ケイ素からなる粒子である。そして、二酸化ケイ素粒子はフューム状粒子、つまりフュームドシリカであることが好ましい。フュームドシリカは、一次粒子の粒子径が5nm~50nm程度である、非晶質のシリカ粒子である。このフュームドシリカは、四塩化珪素の燃焼加水分解によって製造される粒子であり、一次粒子が凝集及び集塊することにより、嵩高い二次粒子を形成している。そのため、フュームドシリカは、金属含有水溶液との反応性が高く、ケイ素と酸素と金属元素とを含む非晶質化合物を容易に形成することができる。
【0045】
金属元素を含む水溶液(金属含有水溶液)は、結合部3に含まれ得る金属元素をイオンとして含む水溶液である。金属含有水溶液に含まれる金属元素は、無機粒子と同様に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、卑金属及び半金属からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。なお、金属元素を溶解する溶媒は、純水又はイオン交換水であることが好ましい。ただ、溶媒は、水以外に、酸性物質又はアルカリ性物質が含まれていてもよく、有機溶媒(例えばアルコールなど)が含まれていてもよい。
【0046】
具体的には、無機粒子がZrSiO4からなり、結合部がSiとOとZrとを含む非晶質化合物からなる無機構造体を作製する場合、無機粒子はケイ酸ジルコニウム粒子を用い、金属含有水溶液はオキシ酢酸ジルコニウム水溶液を用いることができる。無機粒子がMgOからなり、結合部がSiとOとMgとを含む非晶質化合物からなる無機構造体を作製する場合、無機粒子は酸化マグネシウム粒子を用い、金属含有水溶液は酢酸マグネシウム水溶液を用いることができる。また、無機粒子がBaZrO3からなり、結合部がSiとOとBaとを含む非晶質化合物からなる無機構造体を作製する場合、無機粒子はジルコン酸バリウム粒子を用い、金属含有水溶液は酢酸バリウム水溶液を用いることができる。
【0047】
次いで、
図3に示すように、無機粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13とを混合してなる混合物を、金型14の内部に充填する。当該混合物を金型14に充填した後、必要に応じて金型14を加熱する。そして、金型14の内部の混合物に圧力を加えることにより、金型14の内部が高圧状態となる。この際、二酸化ケイ素粒子12は非晶質であり反応性が高いことから、二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13とが反応し、ケイ素と酸素と金属元素とを含む結合部3を形成される。
【0048】
ここで、二酸化ケイ素粒子12としてフュームドシリカを用いた場合、フュームドシリカは粒子径がナノレベルであることから、無機粒子11の間に隙間無く充填される。そのため、得られる結合部3は緻密な構造となり、無機粒子11同士を強固に結合することができる。
【0049】
また、無機粒子11に含まれる金属元素と金属含有水溶液13に含まれる金属元素が同じである場合、上記混合物を加熱及び加圧することにより、金属元素同士が相互に拡散しやすくなる。そのため、
図3に示すように、無機粒子11の表面には、ケイ素と酸素と金属元素とを含む化合物15が形成されやすくなる。具体的には、無機粒子11としてケイ酸ジルコニウム粒子を用い、金属含有水溶液13としてオキシ酢酸ジルコニウム水溶液を用いた場合、無機粒子11の表面にはケイ酸ジルコニウムが形成されやすくなる。そのため、得られる結合部3は、無機粒子11を覆いつつ強固に結合することから、無機構造体1,1Aの機械的強度を高めることが可能となる。
【0050】
そして、金型の内部から成形体を取り出すことにより、複数の無機粒子2同士が、結合部3を介して結合した無機構造体1,1Aを得ることができる。
【0051】
なお、無機粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13とを混合してなる混合物の加熱加圧条件は、二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13との反応が進行するような条件であれば特に限定されない。例えば、上記混合物を50~300℃に加熱しつつ、10~600MPaの圧力で加圧することが好ましい。なお、上記混合物を加熱する際の温度は、80~250℃であることがより好ましく、100~200℃であることがさらに好ましい。また、上記混合物を加圧する際の圧力は、50~600MPaであることがより好ましく、200~600MPaであることがさらに好ましい。
【0052】
上述の加熱加圧工程により、非晶質の二酸化ケイ素粒子12は、金属含有水溶液13と完全に反応して、ケイ素と酸素と金属元素とを含む化合物となってもよい。また、二酸化ケイ素粒子12は、金属含有水溶液13と完全に反応せず、結合部3において二酸化ケイ素として残存してもよい。
【0053】
また、結合部3は、二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13が反応することにより形成されるため、結合部3は、当該二酸化ケイ素粒子に由来し、平均粒子径が100nm以下の微粒子4を含んでいてもよい。なお、微粒子4は、少なくともケイ素と酸素と金属元素とを含んでいるが、金属含有水溶液13と反応しなかった二酸化ケイ素を含んでいてもよい。
【0054】
上述のように、無機構造体1,1Aは、無機粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13とを混合してなる混合物を、10~600MPa、50~300℃で加圧及び加熱することにより、得ることができる。そして、このような加熱加圧工程により、非晶質化合物を含有する結合部3を形成することができる。ただ、上記混合物の加熱加圧時間を長くすることにより、非晶質化合物の一部が結晶化する。そのため、結合部3に、非晶質化合物を構成する金属元素を含む結晶質化合物をさらに含ませる場合には、無機粒子と二酸化ケイ素粒子と金属含有水溶液との混合物の加熱加圧時間を長くすることが好ましい。
【0055】
本実施形態の製造方法において、非晶質である二酸化ケイ素粒子としては、フューム状粒子、つまりフュームドシリカを用いることが好ましい。ただ、フューム状粒子としては、アルミナ(Al2O3)及びチタニア(TiO2)も存在する。そのため、無機粒子11と二酸化ケイ素粒子12と金属含有水溶液13とを混合してなる混合物に、さらにフュームドアルミナ及びフュームドチタニアの少なくとも一方を混合してもよい。これにより、フュームドアルミナ及び/又はフュームドチタニアと金属含有水溶液13とが反応し、反応生成物を結合部3に含ませることが可能となる。
【0056】
ここで、無機粒子の凝集体を形成する方法として、無機粒子の粉末のみをプレスする方法が考えられる。しかし、無機粒子の粉末を金型に投入し、常温で加圧したとしても、無機粒子の粒子同士は互いに反応し難く、当該粒子同士を強固に結合させることは困難である。そのため、得られる圧粉体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。
【0057】
また、無機粒子の凝集体を形成する方法として、無機粒子の粉末のみをプレスして圧粉体を形成した後、高温(例えば1700℃以上)で焼成する方法も考えられる。無機粒子の圧粉体を高温で焼成した場合、無機粒子同士は焼結して構造体を形成する。ただ、無機粒子の圧粉体を高温で焼成しても、無機粒子同士が焼結し難いことから、得られる構造体には多くの気孔が存在し、機械的強度が不十分となる。また、無機粒子を高温で焼成する場合、緻密な温度制御が必要となるため、製造コストが増加してしまう。
【0058】
これに対して、本実施形態の製造方法では、無機粒子11と、非晶質である二酸化ケイ素粒子12と、金属含有水溶液13とを混合してなる混合物を加熱しながら加圧しているため、緻密かつ強度に優れた構造体を得ることができる。さらに、本実施形態の製造方法は、50~300℃で加熱しながら加圧することにより得ることができるため、緻密な温度制御が不要となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0059】
このように、本実施形態の無機構造体1,1Aの製造方法は、複数の無機粒子11と、非晶質である複数の二酸化ケイ素粒子12と、金属元素を含む水溶液13とを混合することにより、混合物を得る工程を有する。当該製造方法は、さらに、当該混合物を、圧力が10~600MPaであり、かつ、温度が50~300℃である条件下で加圧及び加熱する工程を有する。そのため、本実施形態の製造方法は、緻密性が高い無機構造体を、簡易な方法で作製することができる。
【0060】
[無機構造体を備える部材]
次に、無機構造体1を備える部材について説明する。無機構造体1は、上述のように、厚みの大きな板状とすることができ、さらに緻密であるため化学的安定性にも優れている。また、無機構造体1は、機械的強度が高く、一般的なセラミックス部材と同様に切断することができると共に、表面加工することもできる。そのため、無機構造体1は、建築部材として好適に用いることができる。建築部材としては特に限定されないが、例えば、外壁材(サイディング)、屋根材などを挙げることができる。また、建築部材としては、道路用材料、外溝用材料も挙げることができる。
【0061】
無機構造体1は、電子機器向けの部材としても好適に用いることができる。電子機器向けの部材としては、例えば構造材、耐熱部材、絶縁部材、放熱部材、断熱部材、封止材、回路基板、光学部材などを挙げることができる。
【0062】
以下、本実施形態を実施例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
[試験サンプルの調製]
(実施例1-1)
まず、ジルコン粉末(ケイ酸ジルコニウム粉末(ZrSiO4)、富士フイルム和光純薬株式会社製)と、非晶質であるシリカ粉末(フュームドシリカ、日本アエロジル株式会社製AEROSIL(登録商標))とを準備した。次いで、ジルコン粉末0.5gとシリカ粉末0.1778gとを、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用い、アセトンを加えて混合することにより、混合粉末を得た。なお、当該混合粉末において、ジルコン粉末とシリカ粉末の体積比率(vol%)は、57:43(ZrSiO4:SiO2)であった。
【0064】
また、オキシ酢酸ジルコニウム粉末(ZrO(CH3COO)2、三津和化学株式会社製)2gをイオン交換水3mlに溶解させることにより、オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を得た。
【0065】
次に、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、混合粉末全量を投入した。さらに、成形用金型の内部にオキシ酢酸ジルコニウム水溶液400μlを添加し、プラスチック製のスパチュラで混合した。なお、オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を含んだ混合粉末において、SiO2はZr(CH3COO)2に対して250mol%であった。
【0066】
そして、当該オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を含んだ混合粉末を、150℃、400MPa、60分の条件で加熱及び加圧した。このようにして、円柱状である本例の試験サンプル1-1を得た。
【0067】
(参考例1-1)
結晶構造を確認するために、ジルコン粉末を含まない試験サンプルを作製した。まず、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、実施例1-1と同じシリカ粉末0.2gを投入した。さらに、成形用金型の内部に、実施例1-1で調製したオキシ酢酸ジルコニウム水溶液300μlを添加し、プラスチック製のスパチュラで混合した。
【0068】
そして、当該オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を含んだシリカ粉末を、150℃、400MPa、60分の条件で加熱及び加圧することにより、ジルコン粉末を含まない試験サンプル1-2を得た。さらに、別途、当該オキシ酢酸ジルコニウム水溶液を含んだシリカ粉末を、150℃、400MPa、240分の条件で加熱及び加圧することにより、ジルコン粉末を含まない試験サンプル1-3を得た。
【0069】
加熱・加圧時間を60分として作製した試験サンプル1-2は、ジルコン粉末を含まないこと以外は、実施例1-1の試験サンプル1-1と同じ条件で作製されている。そのため、参考例1-1の試験サンプル1-2は、実施例1-1の試験サンプル1-1におけるケイ素を含む化合物(ケイ素含有化合物)と同様の結晶構造を有していると考えられる。また、加熱・加圧時間を240分として作製したジルコン粉末を含まない試験サンプル1-3は、実施例1-1の試験サンプル1-1を240分間加熱及び加圧した場合のケイ素含有化合物と同様の結晶構造を有していると考えられる。
【0070】
[試験サンプルの評価]
(結晶構造解析)
粉末X線回折(XRD)装置を用いて、試験サンプル1-2及び1-3を粉砕した粉末のXRDパターンを測定した。
図4では、ICSDに登録されたジルコンのXRDパターン、ジルコン粉末を含まない試験サンプル1-2及び1-3のXRDパターン、並びにサンプルホルダのXRDパターンを示す。
【0071】
図4に示すように、加熱・加圧時間が60分である試験サンプル1-2の場合は結晶質のピークを示さなかったことから、実施例1-1の試験サンプル1-1に含まれるケイ素含有化合物はアモルファスであると考えられる。つまり、試験サンプル1-1における結合部3を構成するケイ素含有化合物は、アモルファスであると考えられる。一方、加熱・加圧時間が240分である試験サンプル1-3の場合は、ジルコンのピークを含んでいることから、ケイ素含有化合物は結晶質のジルコン及びアモルファス化合物からなると考えられる。つまり、試験サンプル1-1の加熱・加圧時間を240分とした場合、結合部3を構成するケイ素含有化合物は、結晶質のジルコン及びアモルファス化合物からなると考えられる。
【0072】
(構造観察)
実施例1-1で作製した円柱状の試験サンプル1-1を割断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。なお、試験サンプル1-1の観察面には、金のスパッタリングを施した。
図5(a)では、試験サンプル1-1を2000倍に拡大したSEM像を示し、
図5(b)では、試験サンプル1-1を10000倍に拡大したSEM像を示した。また、参考までに、
図5(c)では、2000倍に拡大したジルコン粉末のSEM像を示し、
図5(d)では、10000倍に拡大したジルコン粉末のSEM像を示した。
【0073】
図5(a)に示すSEM像から、実施例1-1の試験サンプル1-1は、ジルコン粉末(無機粒子2)同士が結合部3を介して互いに結合していることが確認できる。また、試験サンプル1-1では、緻密な構造が確認できる。さらに、
図5(b)の符号Aで示すように、結合部3の内部には、粒子径が100nm以下の微細な微粒子4が含まれていることが確認できる。
【0074】
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例1-1の試験サンプル1-1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプル1-1の断面について、50000倍の倍率で反射電子像を観察した。試験サンプル1-1の断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた反射電子像を、
図6(a),
図6(b),
図6(c)に示す。観察した反射電子像において、白色部22がジルコン、灰色部23がケイ素含有化合物、黒色部25が気孔である。
【0075】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図6(a),
図6(b),
図6(c)の反射電子像を二値化した画像を、それぞれ
図7(a),
図7(b),
図7(c)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図7(a)より、位置1の気孔部分の面積割合は7.4%であった。
図7(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は5.9%であった。
図7(c)より、位置3の気孔部分の面積割合は7.3%であった。そのため、今回作製した試験サンプル1-1の気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である6.8%であった。
【実施例2】
【0076】
[試験サンプルの調製]
まず、マグネシア粉末(MgO、宇部マテリアルズ株式会社製)と、非晶質であるシリカ粉末(フュームドシリカ、日本アエロジル株式会社製AEROSIL)とを準備した。次いで、表1に示す割合で、マグネシア粉末とシリカ粉末とを、メノウ乳鉢とメノウ乳棒を用い、アセトンを加えて混合することにより、各例の混合粉末を得た。なお、実施例2-1の混合粉末において、マグネシア粉末(MgO)とシリカ粉末(SiO2)の体積比率(vol%)は、62:38(MgO:SiO2)であった。
【0077】
また、酢酸マグネシウム四水和物粉末(Mg(CH3COO)2・4H2O、富士フイルム和光純薬株式会社製)4gをイオン交換水6mlに溶解させることにより、酢酸マグネシウム水溶液を得た。
【0078】
【0079】
次に、内部空間を有する円筒状の成形用金型(Φ10)の内部に、各例の混合粉末を投入した。さらに、成形用金型の内部に、表1に示す量の酢酸マグネシウム水溶液を添加し、プラスチック製のスパチュラで混合した。なお、実施例2-1の酢酸マグネシウム水溶液を含んだ混合粉末において、SiO2はMg(CH3COO)2に対して250mol%であった。
【0080】
そして、当該酢酸マグネシウム水溶液を含んだ混合粉末を、150℃、400MPa、30分の条件で加熱及び加圧した。これにより、それぞれ円柱状である、実施例2-1の試験サンプル2-1、実施例2-2の試験サンプル2-2、実施例2-3の試験サンプル2-3を得た。
【0081】
[試験サンプルの評価]
(結晶構造解析)
粉末X線回折(XRD)装置を用いて、試験サンプル2-1を粉砕した粉末のXRDパターンを測定した。
図8では、ICSDに登録されたマグネシアのXRDパターン及び実施例2-1の試験サンプル2-1のXRDパターンを示す。
【0082】
図8に示すように、実施例2-1の試験サンプル2-1のXRDパターンは、ICSDに登録されたマグネシアと同じ位置にピークを有しており、マグネシアを主相としていることが分かった。また、他に顕著なピークが認められないことから、シリカ粉末と酢酸マグネシウム水溶液の反応によって生成するケイ酸マグネシウムの結晶構造は、アモルファスであることが分かった。つまり、結合部3を構成するケイ酸マグネシウムの結晶構造は、アモルファスであることが分かった。
【0083】
(構造観察)
実施例2-1で作製した円柱状の試験サンプル2-1を割断した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。なお、試験サンプル2-1の観察面には、金のスパッタリングを施した。
図9(a)では、試験サンプル2-1を300倍に拡大したSEM像を示す。また、参考までに、
図9(b)では、300倍に拡大したマグネシア粉末のSEM像を示す。
【0084】
さらに、実施例2-1で作製した円柱状の試験サンプル2-1を割断した断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて観察した。
図10(a)では、試験サンプル2-1を500倍に拡大したSEM像を示す。
図10(b)では、
図10(a)中の符号Bの部分におけるEDXスペクトルを示し、
図10(c)では、
図10(a)中の符号Cの部分におけるEDXスペクトルを示す。
【0085】
また、
図11は、実施例2-1の試験サンプル2-1に対してエネルギー分散型X線分析を行った際のSEM像、並びにケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)のマッピングデータを示す。
図11(a)は試験サンプル2-1を500倍に拡大したSEM像を示し、
図11(b)はケイ素のマッピングデータを示し、
図11(c)はマグネシウムのマッピングデータを示す。
【0086】
図9(a)及び
図10(a)に示すSEM像から、実施例2-1の試験サンプル2-1は、マグネシア粉末(無機粒子2)同士が結合部3を介して互いに結合していることが確認できる。また、試験サンプル2-1では、緻密な構造が確認できる。さらに、
図10(b)のEDXスペクトル、並びに
図11(b)及び
図11(c)のマッピングデータより、符号Bの部分はMgとOを含むことから、原料のマグネシアであることが分かる。また、
図10(c)のEDXスペクトル、並びに
図11(b)及び
図11(c)のマッピングデータより、符号Cの部分はMgとSiとOを含むことから、原料のシリカと酢酸マグネシウム水溶液が反応して生成したケイ酸マグネシウムであることが分かる。
【0087】
図12(a)では、試験サンプル2-1における結合部3を、3000倍に拡大したSEM像を示し、
図12(b)では、
図12(a)における符号Dの部分を10000倍に拡大したSEM像を示す。
図12(a)より、試験サンプル2-1における結合部3は平滑性が高く、緻密な相を形成していることが分かる。さらに、
図12(b)の符号Eで示すように、結合部3の内部には、粒子径が100nm以下の微細な微粒子4が含まれていることが確認できる。
【0088】
(気孔率測定)
まず、円柱状である実施例2-1の試験サンプル2-1の断面に、クロスセクションポリッシャー加工(CP加工)を施した。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、試験サンプル2-1の断面について、50000倍の倍率で反射電子像を観察した。試験サンプル2-1の断面の3か所(位置1~3)を観察することにより得られた反射電子像を、
図13(a),
図13(b),
図13(c)に示す。観察した反射電子像において、白色部32がマグネシア、灰色部33がケイ素含有化合物、黒色部35が気孔である。
【0089】
次いで、3視野のSEM像についてそれぞれ二値化することにより、気孔部分を明確にした。
図13(a),
図13(b),
図13(c)の反射電子像を二値化した画像を、それぞれ
図14(a),
図14(b),
図14(c)に示す。そして、二値化した画像から気孔部分の面積割合を算出し、平均値を気孔率とした。具体的には、
図14(a)より、位置1の気孔部分の面積割合は3.2%であった。
図14(b)より、位置2の気孔部分の面積割合は4.6%であった。
図14(c)より、位置3の気孔部分の面積割合は3.3%であった。そのため、今回作製した実施例2-1の試験サンプル2-1の気孔率は、位置1~3の気孔部分の面積割合の平均値である3.7%であった。
【0090】
(熱伝導率測定)
実施例2-1の試験サンプル2-1、実施例2-2の試験サンプル2-2、実施例2-3の試験サンプル2-3の熱伝導率を、JIS R1611(ファインセラミックスのフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率の測定方法)に準拠して測定した。各試験サンプルの熱伝導率を表2に示す。表2に示すように、本例の試験サンプル2-1,2-2,2-3は2.0W/m・K以上の高い熱伝導率を示し、実施例2-3の試験サンプル2-3は5.5W/m・Kと特に高い熱伝導率を示した。そのため、表1及び表2より、マグネシアの割合を高めることにより、無機構造体の熱伝導率を高められることが分かる。
【0091】
【0092】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0093】
特願2020-092473号(出願日:2020年5月27日)の全内容は、ここに援用される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示によれば、簡易な方法で作製することが可能であり、さらに高い緻密性を有する無機構造体、及び当該無機構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0095】
1,1A 無機構造体
2 無機粒子
3 結合部
4 微粒子
11 無機粒子
12 二酸化ケイ素粒子
13 金属元素を含む水溶液