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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】パルスレーザー光源装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/16 20060101AFI20240705BHJP
   H01S 3/067 20060101ALI20240705BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20240705BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20240705BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20240705BHJP
   C03B 37/012 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01S3/16
H01S3/067
H01S3/10 D
H01S3/00 B
H01S3/00 A
A61B18/20
B23K26/36
C03B37/012 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020106620
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022002257
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097548
【弁理士】
【氏名又は名称】保立 浩一
(72)【発明者】
【氏名】影林 由郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐
(72)【発明者】
【氏名】藤本 靖
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535806(JP,A)
【文献】特開2014-036152(JP,A)
【文献】特表2015-519758(JP,A)
【文献】特開2013-201328(JP,A)
【文献】特開2001-353176(JP,A)
【文献】特開2007-230815(JP,A)
【文献】特開2007-230814(JP,A)
【文献】特開2020-072153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0111500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えたパルスレーザー光源装置であって、
シーダーは、第一の希土類材料が添加されたホスト材料より成るシード用レーザー素子を含んでおり、
増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子を含んでおり、
シーダーから出力されるシードレーザー光の発振波長において、前記第一の希土類材料が添加されたホスト材料前記第二の希土類材料が添加されたホスト材料よりも誘導放出断面積が大きい材料であることを特徴とするパルスレーザー光源装置。
【請求項2】
シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えたパルスレーザー光源装置であって、
シーダーは、第一の希土類材料が添加されたホスト材料より成るシード用レーザー素子と、発振波長の光を誘導放出する準位にシード用レーザー素子を励起するシーダー用励起レーザー源とを含んでおり、
増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子と、発振波長の光を誘導放出する準位に増幅素子を励起する増幅用励起レーザー源とを含んでおり、
増幅用励起レーザー源の波長はシーダー用励起レーザー源の波長より長いことを特徴とするパルスレーザー光源装置。
【請求項3】
前記発振波長の光を誘導放出する際の前記第二の希土類材料の量子効率は、前記第一の希土類材料に比べて大きいことを特徴とする請求項1又は2記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項4】
前記第一の希土類材料はネオジムであって前記第二の希土類材料はイッテルビウムであるか、前記第一の希土類材料はツリウムであって前記第二の希土類材料はホルミウムであるか、又は前記第一の希土類材料はエルビウムであって前記第二の希土類材料はホルミウムであることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項5】
前記シード用レーザー素子は、前記第一の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーであり、
前記増幅素子は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項6】
前記シーダーは、前記シード用レーザー素子を内蔵した共振器であって前記発振波長においてモードロックを達成する共振器を含んでいることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項7】
前記シーダーは、前記シード用レーザー素子を内蔵した共振器を含んでおり、
共振器を構成する一方のミラーは可飽和ミラーであって、共振器は前記発振波長においてQスイッチモードロックを達成するものであることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項8】
前記シーダーから出力されるパルスの繰り返し周波数は1GHz以上であることを特徴とする請求項6又は7記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項9】
前記シーダーと前記増幅器との間の光路上には、パルス列からパルスを間引く間引きユニットが設けられていることを特徴とする請求項1乃至いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項10】
アブレーション用であることを特徴とする請求項8又は9記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項11】
前記ホスト材料は、シリカガラスであることを特徴とする請求項1乃至10いずれかに記載のパルスレーザー光源装置。
【請求項12】
シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えたパルスレーザー光源装置であって、
シーダーは、第一の希土類材料が添付されたホスト材料より成るシード用レーザー素子を含んでおり、
増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子を含んでおり、
第一の希土類材料はツリウムであって第二の希土類材料はホルミウムであることを特徴とするパルスレーザー光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、パルスレーザー光を出射するパルスレーザー光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルスレーザー光を出射するパルスレーザー光源装置は、種々の用途で使用されている。例えば、レーザー切断やレーザー孔開けといった各種加工用に、パルスレーザー光源装置が使用されている。パルスレーザーの場合、パルスの繰り返し周波数を調整することで適宜のエネルギーを与えることができ、対象物の損傷を避けつつ所望の加工を行うことが容易だからである。
【0003】
このようなパルスレーザーの代表的なものは、希土類材料や遷移金属をレーザー媒質として添加した固体レーザーである。レーザー媒質は、透光性の材料(以下、ホスト材料という。)に添加される。レーザー媒質が添加されたホスト材料はファイバー状やロッド状に形成されてレーザー素子とされ、共振器が設けられてレーザー発振器が構成される。通常、レーザー素子は、励起レーザー源からのレーザービームにより励起されてレーザー発振する。
【0004】
このような固体発光のパルスレーザーでは、出力エネルギーを高めるため、レーザー増幅の構成が採用されることが多い。レーザー増幅を行う場合、レーザー発振におけるレーザー媒質と同じ材料の増幅素子が使用される。増幅素子に別の励起レーザー源からのレーザービームを導入して励起しておき、レーザー共振器から出力されたレーザービームを入射させ、誘導放出により増幅する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4919463号公報
【文献】特許4979960号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】"Ablation-cooled material removal with ultrafast bursts of pulses", Can Kerse et al, Nature, Vol. 537, p84-89
【文献】"3.5-GHz intra-burst repetition rate ultrafast Yb-doped fiber laser", Can Kerse et al, Optics Communications 366(2016), p404-409
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した固体発光レーザーにおいて、レーザー媒質としては、ネオジム(Nd)やイッテルビウム(Yb)がしばしば使用される。このうち、NdはYbに比べて大きな誘導放出断面積を持っているものの、幾つかの欠点がある。一つは、高濃度化した場合の問題である。エネルギー効率を高くして出力を大きくするため、NdやYbの添加量を多くすることが行われるが、Ndの場合、濃度消光と呼ばれる現象が顕著となる。Ndの添加量を多くすると、均一に散在させることが難しいことから、Nd原子同士が接近して濃度消光が生じ易い。
【0008】
もう一つは、量子欠損の問題である。誘導放出準位の励起の際の量子効率は、Ybの場合は90%以上であるものの、Ndは量子欠損が大きいため、76.1%程度である。このため、NdはYbに比べてエネルギー効率が悪い。このような事情から、レーザー媒質としてはYbが選ばれることが多く、Yb添加のシーダーから出力されるレーザービームをYb添加の増幅媒体を励起して増幅する構成が採用されることが多い。
【0009】
しかしながら、その反面、Ybの場合、増幅器のところで吸収が大きく、大きな損失が生じる。このため、吸収が少ない波長に発振波長をずらす工夫がされるが、この結果、シーダーにおいて誘導放出断面積が相対的に小さい波長で発振させることになり、光源としての機能性を高めることができない。
本願発明は、増幅器を備えたパルスレーザー光源装置のこのような技術課題を考慮して為されたものであり、光源としての機能性を高くしつつも全体のエネルギー効率が十分に確保されたパルスレーザー光源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えている。
このパルスレーザー光源装置において、シーダーは、第一の希土類材料が添加されたホスト材料より成るシード用レーザー素子を含んでおり、増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子を含んでいる。
また、シーダーから出力されるシードレーザー光の発振波長において、第一の希土類材料が添加されたホスト材料は第二の希土類材料が添加されたホスト材料よりも誘導放出断面積が大きい材料である。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えている。
このパルスレーザー光源装置において、シーダーは、第一の希土類材料が添加されたホスト材料より成るシード用レーザー素子と、発振波長の光を誘導放出する準位にシード用レーザー素子を励起するシーダー用励起レーザー源とを含んでおり、増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子と、発振波長の光を誘導放出する準位に増幅素子を励起する増幅用励起レーザー源とを含んでおり、増幅用励起レーザー源の波長は、シーダー用励起レーザー源の波長より長い。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、発振波長の光を誘導放出する際の第二の希土類材料の量子効率が、第一の希土類材料に比べて大きいという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、第一の希土類材料がネオジムであって第二の希土類材料がイッテルビウムであるか、第一の希土類材料がツリウムであって第二の希土類材料はホルミウムであるか、又は第一の希土類材料がエルビウムであって第二の希土類材料はホルミウムであるという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シード用レーザー素子が、第一の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーであり、増幅素子が、第二の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーであるという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シーダーが、シード用レーザー素子を内蔵した共振器であって発振波長においてモードロックを達成する共振器を含んでいるという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シーダーが、シード用レーザー素子を内蔵した共振器を含んでおり、共振器を構成する一方のミラーは可飽和ミラーであって、共振器は発振波長においてQスイッチモードロックを達成するものであるという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シーダーから出力されるパルスの繰り返し周波数は1GHz以上であるという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、シーダーと増幅器との間の光路上に、パルス列からパルスを間引く間引きユニットが設けられているという構成を持ち得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置は、アブレーション用であり得る。
上記課題を解決するため、本願発明のパルスレーザー光源装置において、ホスト材料はシリカガラスであり得る。
上記課題を解決するため、本願の別の発明に係るパルスレーザー光源装置は、シードレーザー光を出力するシーダーと、シーダーから出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器とを備えており、シーダーは、第一の希土類材料が添付されたホスト材料より成るシード用レーザー素子を含んでおり、増幅器は、第二の希土類材料が添加されたホスト材料より成る増幅素子を含んでおり、第一の希土類材料はツリウムであって第二の希土類材料はホルミウムであるという構成を有する。
【発明の効果】
【0011】
以下に説明する通り、本願発明のパルスレーザー光源装置によれば、シード用レーザー素子と増幅素子とにおいて異なる希土類材料を選定しており、シード用レーザー素子は増幅素子よりも大きな誘導放出断面積を有しているので、光源の機能が高められる。また、増幅素子について発振波長における吸収が少ない希土類材料を選定することができるので、光源全体としての効率低下を抑制することができる。
また、本願発明のパルスレーザー光源装置によれば、増幅用励起レーザー源の波長は、シーダー用励起レーザー源の波長より長いので、安定した性能を安価に達成できる。
また、シード用レーザー素子における希土類材料に比べて量子効率が大きい希土類材料を増幅素子について採用すると、増幅の際の効率が高くなるので、上記効果がより高くなる。
また、シード用レーザー素子が、第一の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーであり、増幅素子が、第二の希土類材料が添加されたホスト材料をコアとしたファイバーである構成では、環境によらず品質の良いパルスレーザー光を安定して照射することができ、且つ微小スポットの集光した状態で対象物に照射するのが容易となる。
また、シーダーが、シード用レーザー素子を内蔵した共振器を含んでおり、共振器を構成する一方のミラーは可飽和ミラーであって、共振器は発振波長においてQスイッチモードロックを達成するものである構成では、分波と合波を繰り返す際のような損失はなく、パルス間の強度変動による加工精度低下等の問題もない状態で高繰り返し周波数のパルス列を出力することができる。
また、パルス列からパルスを間引く間引きユニットが設けられている構成では、対象物に対して最適なエネルギーとなるようにパルス列を照射することが容易であり、アブレーション用である場合に特に好適となる
また、ホスト材料がシリカガラスである構成では、安価で且つ性能が安定し、温度や湿度等の環境によらず品質の良いパルスレーザー光が安定して得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るパルスレーザー光源装置の概略図である。
図2】Yb添加のシリカガラスファイバーの誘導放出断面積と吸収断面積とを示した概略図である。
図3】Nd添加シリカガラスファイバーの誘導放出断面積と吸収断面積とを示した概略図である。
図4】実施形態の構成におけるレーザー励起について模式的に示した図である。
図5】実施形態のパルスレーザー光源装置が備えるシード用レーザー素子の製造方法について示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
図1は、実施形態に係るパルスレーザー光源装置の概略図である。実施形態のパルスレーザー光源装置は、シードレーザー光を出力するシーダー1と、シーダー1から出力されたシードレーザー光を増幅する増幅器2とを備えている。シーダー1は、誘導放出が行われる際の準位(レーザー準位)に励起されるシード用レーザー素子11を含んでいる。
【0014】
この実施形態では、シード用レーザー素子11は、レーザー光で励起される構成が採用されており、シーダー用励起レーザー源3が設けられている。シーダー用励起レーザー源3としては、連続発振の半導体レーザーが使用されている。
図1に示すように、シーダー1に対してはレンズ群41を介してシーダー用カップリングファイバー42が設けられている。シーダー用カップリングファイバー42にはWDM(Wavelength Division Multiplexing)カプラのようなシーダー用結合素子4が設けられており、シーダー用励起レーザー源3からのレーザー光はシーダー用結合素子4及び出力ミラー12を通してシーダー1内のシード用レーザー素子11に入射し、シード用レーザー素子11を励起するよう構成されている。
【0015】
シード用レーザー素子11は、図1中に拡大して示すように、コア111とクラッド112から成るファイバー状であり、保護及び補強用のフェルール113で覆われた構造となっている。長さは10~100mm程度であるので、短いファイバー状部材ということができる。シード用レーザー素子11のコア111は、レーザー媒体として希土類材料を含んでおり、実質的なレーザー素子である。この実施形態では、シード用レーザー素子11における希土類材料はネオジム(Nd)であり、ホスト材料にはシリカガラスが選定されている。即ち、コア111はNd添加シリカガラスとなっている。また、クラッド112はNd添加無しのシリカガラスである。シード用レーザー素子11におけるコア111の直径は1~20μm程度、クラッド112を含む全体の直径は80~1000μm程度である。ファイバーであるシード用レーザー素子11の伝搬モードは、シングルモード(シングルモードファイバー)である。
【0016】
このようなシード用レーザー素子11を内蔵するシーダー1は、共振器10を含んでおいる。共振器10は、共振とパルス発振との両方を達成するものとなっており、この実施形態では、Qスイッチモードロックを行うものとなっている。より具体的に説明すると、シーダー1の共振器10において、可飽和ミラー(SAM)が使用されている。この実施形態では、SAMの中でも、特に半導体可飽和ミラー(SESAM)13が使用されている。
SESAM13は、共振器10を構成する一方のミラーである。共振器10を構成する他方のミラーは、出力ミラー12である。出力ミラー12は、例えば30~99%反射のミラーであり、残りを透過させて出力するミラーである。
【0017】
図1中に拡大して示すように、SESAM13は、DBR(Distributed Bragg Reflector,分布ブラッグ反射鏡)131の入射側に可飽和吸収体132を積層した構造のミラーであり、SESAM13は、可飽和吸収体132がInGaAsのような半導体で形成されている。SESAM13において、可飽和吸収体132は量子井戸構造を有しており、光がある強度になると吸収が飽和し、それ以上の光は透過してDBR131に達する。DBR131は、1/4波長の厚みを持ち且つ屈折率の異なる層が積層された構造(例えばGaAs/AlAs)を有し、ブラッグ反射と光の干渉を利用して特定の波長の光のみを特に強く反射する。
【0018】
シーダー用励起レーザー源3からのレーザー光(CW)がシード用レーザー素子11に導入されると、シード用レーザー素子11中の希土類材料(レーザー媒質)が励起され、反転分布が生じて光が誘導放出される。この際、周知のように、共振器10内では複数の縦モードの定在波が生じ得るが、位相が揃っていない状態でSESAM13に達すると、干渉により光が弱いために可飽和吸収体132で吸収される。位相が揃った状態では干渉により強くなっているため、吸収の飽和により可飽和吸収体132を透過してDBR131に達して反射する。即ち、位相が揃ったところで特に強い共振が生じ、誘導放出が一気に生じてQスイッチモードロックでのレーザー発振が達成される。尚、DBR131は、設定された発振波長の光を選択的に反射するよう設計、製作される。
【0019】
一方、増幅器2は、図1に示すように、増幅素子21と、増幅用励起レーザー源22と、増幅用カップリングファイバー23等を備えている。増幅用カップリングファイバー23には、WDMカプラのような増幅用結合素子24が設けられている、増幅用励起レーザー源22からのレーザー光は増幅用結合素子24を経由して増幅素子21に導入し、増幅素子21を励起するよう構成されている。
【0020】
増幅素子21は、増幅用励起レーザー源22からの増幅用励起レーザー光により励起されて誘導放出を行うことで、シーダー1から出力されたシードレーザー光を増幅する素子である。この実施形態では、増幅素子21は、シード用レーザー素子11と同様に希土類材料が添加された透光性材料で形成されている。
より具体的には、増幅素子21は、イッテルビウム(Yb)が添加されたシリカガラスで形成されている。形状はファイバー状である。即ち、Yb添加シリカガラスファイバーが増幅素子21として使用されている。
【0021】
実施形態のようにシーダーの後段に増幅器を設ける場合、通常は、同様の誘導放出過程を利用するので、シーダー内のレーザー素子と同様の材料で形成された素子を増幅素子として用いる。しかしながら、この実施形態では、従来の常識に反し、敢えて異なる材料で形成された素子を増幅素子21として用いており、上記のようにYb添加シリカガラスファイバーとなっている。
【0022】
このようにシード用レーザー素子11における希土類材料とは異なる希土類材料を添加した素子を増幅素子21として用いることは、光源としての機能性向上を意図した発明者による鋭意研究の結果である。以下、この点について説明する。
前述したように、希土類材料添加のレーザー素子においては、NdやYbが使用されるが、濃度消光や量子欠損の問題から、Ybが採用されることが多い。図2は、Yb添加のシリカガラスファイバーの誘導放出断面積と吸収断面積とを示した概略図である。図2(1)は誘導放出断面積、図2(2)は吸収断面積を示す。
【0023】
図2(1)に示すように、Ybの場合、1030nm付近で誘導放出断面積がピークを持つので、1030nmが発振波長とされる場合が多い。この場合、シード用レーザー素子11と増幅素子21とで同じ希土類材料を使用する構成では、増幅素子21でもYb添加のシリカガラスが使用されるが、図2(2)に示すように、Yb添加シリカガラスは1030nmにおいてもある程度の吸収が生じる。この吸収のために損失が生じ、この分でエネルギー効率が低下する。その上、吸収による発熱を抑えるために冷却手段が必要になり、さらにエネルギーが必要になって効率が低下する。
【0024】
これらの問題を避けるため、吸収がほぼゼロになる1080nmに発振波長をずらし、1080nmで発振するようにシーダーを設計、製作することが考えられる。しかしながら、この構成では、誘導放出断面積が小さいところでレーザー発振をさせようとすることになるので、レーザー発振閾値が高くなり、シーダーとしての本来の機能が低下する。
このため、発明者らは、常識に反してシード用レーザー素子11の材料と増幅素子21の材料とを敢えて異なる材料とすることを想到するに至った。この実施形態では、シード用レーザー素子11については誘導放出断面積を優先させてNdを使用し、増幅素子21については量子効率の点で優れたYbを使用している。
【0025】
図3は、Nd添加シリカガラスファイバーの誘導放出断面積と吸収断面積とを示した概略図である。同様に、図3(1)が誘導放出断面積、図3(2)が吸収断面積を示す。
この実施形態では、1064nmを発振波長として選定している。即ち、SESAM13を含むシーダー1は1064nmで発振するよう構成されている。図2(2)に示すように、Yb添加シリカガラスファイバーの吸収は1064nmにおいて小さく、ほぼゼロである。そして、図3(1)に示すように、1064nmにおけるNd添加シリカガラスの誘導放出断面積は1.0×10-20cmを大きく上回っている。一方、図2(1)に示すように、1064nmにおけるYb添加シリカガラスの誘導放出断面積は0.2×10-20cm程度であり、Nd添加シリカガラスファイバーはYb添加シリカガラスファイバーに比べて1064nmにおいて非常に大きな誘導放出断面積を有する。つまり、シード用レーザー素子11においては誘導放出断面積が大きいことを優先してNdを採用している。
【0026】
レーザー発振、増幅の双方で励起レーザーを使用する構成では、ポンピングする量(エネルギー量)を小さくすることも重要である。実施形態の構成は、この点においても優位性を有する。この点について、図4を参照して説明する。図4は、実施形態の構成におけるレーザー励起について模式的に示した図である。
【0027】
実施形態において、Nd添加シリカガラスファイバーであるシード用レーザー素子11では、基底準位Eからシーダー用励起レーザー光によりポンピングが行われ、Ndは励起準位Eに励起される。Ndは、Eより低い準位にEという準位があり、Eに励起されたNdは、非輻射遷移によりEに落ち、さらに1064nmの光が入射してこの準位Eから基底準位Eに近いEに落ちる。この際、1064nmの光を誘導放出する。そして、Ndは、非輻射遷移によりEからEに落ちる。基底準位EからEへの励起を行う励起光は、波長804nmである。
一方、Yb添加シリカガラスファイバーである増幅素子21には、1064nm波長の光を放出するエネルギー準位E’が存在する。同様に、YbはE’に励起された後に非輻射遷移によりE’に落ち、そこから基底準位E’に落ちる際に1064nmの光を誘導放出する。基底準位E’からE’には、励起レーザー光で励起される。
【0028】
ここで重要なのは、EからEへのエネルギー準位の差ΔEと、E’からE’への差ΔE’とを比べると、NdとYbの組み合わせの場合、ΔE>ΔE’となっている点である。つまり、レーザー発振の際のポンピング量に比べレーザー増幅の場合のポンピング量が小さくできるということである。事実、この実施形態では、増幅用励起レーザー源22としては波長975nmの半導体レーザーを使用しており、シーダー用励起レーザー源3より波長が長いものを使用している。
【0029】
一般的に、レーザー源は波長が長い方が発振が容易で安定しており、価格も安い。したがって、ポンピング量が小さいために長い波長の励起用レーザーを使用する実施形態の構成は、安定した性能を安価に達成できるという意義がある。また、増幅器2では、増幅率を上げるために増幅素子21の光路長を長くする必要があり、したがって増幅用励起レーザー源22も高出力のものが使用される。この意味でも、長波長のものの方が望ましい。
【0030】
一方、シーダー1では、レーザー発振をさせることが優先であり、発振閾値を超えている限り、シーダー用励起レーザー源3の出力はそれほど大きくする必要はない。したがって、ポンピング量が大きくて短波長のレーザー源を使用しても、問題はない。上記実施形態の構成は、これらの事情を勘案して最適化された構成である。
尚、図4から解るように、上記の点は、発振波長に対する差として捉えると、増幅用励起レーザー源22の波長は、発振波長に対する差がシーダー用励起レーザー源3よりも小さいと表現することもできる。
【0031】
実施形態のパルスレーザー光源装置は、Nd添加シリカガラスファイバーであるシード用レーザー素子11の製造方法においても大きな特徴点を有している。以下、この点を説明する。
図5は、実施形態のパルスレーザー光源装置が備えるシード用レーザー素子11の製造方法について示した概略図である。
【0032】
この実施形態において、シード用レーザー素子11はコア111とクラッド112から成るファイバーであり、シーダー1は、ある種のファイバーレーザー発振器である。シード用レーザー素子11は、ゼオライト法により得られた母材を使用した線引きにより好適に製造される。
具体的に説明すると、図5に示すように、Ndイオン交換ゼオライト粉末61とシリカガラス粉末62とを均一に混合し、容器に入れて加熱、加圧して焼成し、焼成体を得る。焼成体をさらに真空中で加熱してガラス成形体とし、Nd添加ガラス成形体63を得る。
【0033】
そして、Nd添加ガラス成形体63を切り出し、研削により直径が1~10mm程度の円柱状(ないしは断面円形の線状)のコア母材64とする。コア母材64を断面円形のシリカ管(クラッド母材)65に挿入してファイバー母材とし、加熱、線引きによりファイバー状とする。得られたファイバー66を所定の長さで切断することで、実施形態におけるシード用レーザー素子11が得られる。尚、コア母材64の断面形状は円形である必要はなく、クラッド母材65は円管以外の環状であっても良い。
【0034】
上記の製造方法は、ゼオライト法により得られたNd添加ガラス成形体63をコア母材64とするものであるが、ゼオライト法によるNd添加ガラス成形体の製造については、特許文献1や特許文献2に開示されているので、参照することができる。
従来、Ndのような希土類材料を添加したシリカガラスファイバーを製造する場合、シリカガラス線材を加熱してNdを含む溶液中に浸し、外面からNdを内部に滲入させる方法が採用される。しかしながら、このような方法では、均一にNdを散在させることが難しく、良好な光学特性のものがえられない。実施形態の方法によれば、良好な光学特性のNd添加シリカガラスファイバーを容易に得ることができる。
【0035】
次に、実施形態のパルスレーザー光源装置の他の部分の特徴点について説明する。
図1に示すように、この実施形態では、シーダー1と増幅器2との間に間引きユニット5が設けられている。間引きユニット5は、シーダー1から発振される短パルス・高繰り返しのレーザー光のパルス列からパルスを周期的に間引いて照射エネルギーを調整するための機構である。
【0036】
具体的には、間引きユニット5は、AO変調器(音響光学変調器)51を用いた機構となっている。AO変調器51には、RFドライバ52が設けられている。RFドライバ52は、音響光学Qスイッチと同様、間欠的にRF信号をAO変調器51に入力して動作させるドライバである。RF信号がオンしている状態では、パルス光は回折により一次回折光が光路を進む。RF信号がオフの場合、0次光のみとなり、パルス光は光路から外れている。したがって、RF信号のオンオフによりパルス列が間引かれる。
【0037】
尚、AO変調器51の入射側及び出射側では、光は空間中を伝搬する状態となるため、入射側レンズ53及び出射側レンズ54が配置されている。シーダー用カップリングファイバー42からの光は、入射側レンズ53で平行なビームとなり(又は集光されて)、AO変調器51を透過した後、出射側レンズ54で集光されて増幅素子21に入射する構成となっている。
【0038】
上記構成に係る実施形態のパルスレーザー光源装置の動作について、以下に説明する。
まず、シーダー用励起レーザー源3が動作してシーダー用励起レーザー光がシーダー用結合器4を介してシード用レーザー素子11に導入される。この結果、シード用レーザー素子11中のNdが励起され、反転分布が生じて1064nm帯の光が誘導放出される。縦モードの波長が僅かに異なる光は、山の位置が揃った部分で干渉により特に強度が高くなり、SESAM13と出力ミラー12との間で共振してQスイッチモードロックによりレーザー発振する。レーザー発振は、共振器長に応じた繰り返し周期のパルス発振である。シーダー1から発振されるパルス列を図1中にP1として示す。
【0039】
発振されたレーザー光のパルス列P1は、図1の下側に示すように間引きユニット5で間引きされてP2となる。この際のデジタル変調を行うRFドライバ52の出力波形(超音波出力制御波形)をDとして示す。その後、パルス列P2は、増幅器2に達して増幅されてパルス列P3となり、増幅用カップリングファイバー23から出射される。
【0040】
このような動作に係る実施形態のパルスレーザー光源装置によれば、シード用レーザー素子11におけるレーザー媒質としてNdが使用され、増幅素子21における増幅媒質としてYbが使用されているので、光源としての機能性を高めつつ全体の効率の面での遜色のない光源装置となっている。即ち、シード用レーザー素子11において大きな誘導放出断面積により短い長さであっても十分なシードレーザー光を出射させ、増幅素子22において高い量子効率と小さい吸収断面積でシードレーザー光を増幅している。このため、繰り返し周波数の高いパルスレーザー光の出射が可能になり、その際の効率も十分なものとすることができている。
【0041】
シード用レーザー素子11や増幅素子21がファイバーである点は、品質の良いパルスレーザー光を効率良く得られるのに加え、微小スポットに集光した状態で対象物に照射するのが容易であるという優位性がある。即ち、シードレーザー光や各励起レーザー光がコアという狭い空間に導入されて閉じ込められた状態で励起や誘導放出が行われるので、品質の良いパルスレーザー光が効率良く出力される。
加えて、この実施形態ではホスト材料がシリカガラスであるので、安価で且つ性能が安定しており、温度や湿度等の環境によらず品質の良いパルスレーザー光が安定して得られる。
但し、本願発明の実施に際しては、ホスト材料はシリカガラスである必要はなく、YAGやフッ化物ガラス等の他のホスト材料を適宜選択して使用することができる。
尚、シード用レーザー素子11がシングルモードファイバーである点には、モードロック等の空間モード制御が容易になるというメリットがある。
【0042】
また、実施形態のパルスレーザー光源装置では、SESAM13を含む共振器10におけるQスイッチモードロックを利用してパルス発振をしているので、高繰り返し周波数のパルス列を出力させる際においてもエネルギー効率が高くできている。以下、この点について説明する。
【0043】
実施形態のようなパルスレーザー光源装置の重要な用途の一つは、アブレーションである。「アブレーション」の語は、患部の治療のような医療の分野で広く用いられるが、一般的には、材料の表面がレーザー照射によって分解し、この結果、切断、蒸発、剥離ないしは異物除去等が行われるプロセスを意味する。したがって、医療の分野のみならず、レーザー加工等の産業用の分野においてもアブレーション用にパルスレーザー光源装置は用いられる。
【0044】
このようなアブレーション用パルスレーザー光源装置では、パルスの繰り返し周波数を高くすることで対象物に損傷を与えないで加工できる場合があることが知られている。例えば、非特許文献1では、歯の治療のためにレーザー照射する場合において、1パルスあたり100μJのパルスを1kHzの繰り返し周波数で照射する場合に比べ、1パルスあたり4μJのパルスを1.7GHzのパルス繰り返し周波数で照射する照射セットを1kHzのセット繰り返し周波数で照射した方が、炭化やヒビのない治療ができると報告されている。
【0045】
このような高い繰り返し周波数(1GHz以上)を実現する方法として、非特許文献2には、分割と遅延とを利用した高繰り返し周波数化の技術が開示されている。ここでは、108MHzのレーザー光を2つに分割(分波)し、一方のレーザー光を他方のレーザー光に対してパルス周期1/2分だけ遅延させた後に両者を合波させ、これを5回繰り返すことで3.46GHzまで高繰り返し周波数化している。
【0046】
しかしながら、非特許文献2の方法では、分波のたびにパルスのピーク強度が1/2になるので、高繰り返し周波数化された各パルスのピークは、元の1/32まで低下してしまう。さらに、分波と合波のたびに損失が発生するので、ピーク強度はさらに低下するし、全体としても無視できない大きな損失が発生する。例えば、分合波のたびに3dBの損失がある場合、1パルスあたり100μJのエネルギーが元々あったとすると、合計で18dBの損失であるので、0.25μJまで低下してしまう。
【0047】
1GHzを越える高繰り返し周波数化を実現する方法として、10GHz帯の通信用の半導体レーザーを転用することが考えられる。しかしながら、通信用の半導体レーザーは波長が1.55μmと長いので増幅時の効率が悪く、出力が弱いのでノイズも増幅してしまい、パルス間の強度変動が大きくなる問題がある。パルス間の強度変動は、加工精度の低下や対象物の損傷等の問題をもたらす。
【0048】
一方、実施形態のパルスレーザー光源装置では、SESAM13を含むシーダー1におけるQスイッチモードロックを使用しているので、分波と合波を繰り返す際のような損失はなく、パルス間の強度変動による加工精度低下等の問題もない。SESAM13中の可飽和吸収体132での吸収が飽和していない状態では、誘導放出が始まっていない状態であるが、この間にレーザー媒質(希土類材料)はレーザー準位に次々に励起されてエネルギーを蓄積しており、吸収が飽和に達した段階(縦モードの山が重なった部分が通過する段階)で一気に誘導放出が生じてエネルギーを吐き出すので、損失はない。
【0049】
尚、実施形態において、シーダー1における共振器長を可変にして、繰り返し周波数を調整できるようにしても良い。前述したように、縦モードの山と山が重なった部分がシード用レーザー素子11を一回通過する際に1パルスのレーザー発振が生じるので、共振器長を変更すると、一回の通過におけるインターバルの長さが変更される。即ち、パルスの繰り返し周波数が変更される。具体的には、例えばピエゾ素子を用いた機構のような精密位置調整をSESAM13又は出力ミラー12のどちらかに設け、位置を変更可能にする。尚、SESAM13及び又は出力ミラー12は、シード用レーザー素子11に接触している場合もあるが、通常は離間した状態で配置される。
【0050】
上記実施形態では、シード用レーザー素子11におけるレーザー媒質としてNdが使用され、増幅素子21における増幅媒質としてYbが使用されたが、これらは希土類材料の例である。これ以外にも、本願発明において採用し得る希土類材料の組み合わせは存在する。例えば、ツリウム(Tm)やエルビウム(Er)は、ホルミウム(Ho)に比べて大きな誘導放出断面積を持ち得る。したがって、シード用レーザー素子11についてTm添加のシリカガラスを採用し、増幅素子21についてHo添加のシリカガラスを採用した組み合わせや、シード用レーザー素子11についてEr添加のシリカガラスを採用し、増幅素子21についてHo添加のシリカガラスを採用した組み合わせがあり得る。
【0051】
また、シーダー1及び増幅器2の双方で励起レーザー源を使用する構成において、シーダー用励起レーザー源3がシード用レーザー素子11をレーザー準位に励起する際のエネルギー(準位差)に比べ、増幅用励起レーザー源22が増幅素子21をレーザー準位に励起する際のエネルギーの方が小さくなる組み合わせについても、上記NdとYbの組み合わせ以外にもあり得る。そのような組み合わせを採用することで、増幅率の大きな(従って高出力の)パルスレーザー光源装置が容易に構成できる。
【0052】
尚、上記説明では、アブレーションの用途について医療分野における例を取り上げたが、アブレーションは医療分野のみならず各種加工用(レーザー加工)においても行われる。したがって、アブレーションを伴う種々の加工用において実施形態のパルスレーザー光源装置が使用され得る。
また、上記実施形態では間引きユニット5としてAO変調器51を使用したものが採用されたが、シャッタのようなメカニカルな機構を採用したもの等、他の構成のものに適宜変更することができる。
【0053】
尚、パルス列を間引くことは本願発明において必須ではなく、間引かずに対象物に照射する場合もあり得る。
また、結合素子としてはWDMの他、平面導波路等の各種のカップラを使用することができ、ハーフミラーのような空間系の結合素子が使用される場合もあり得る。
さらに、シーダー1から増幅器2への光路についてファイバーを使用することは必須ではなく、必要に応じてレンズやミラーを配置する等して空間で導光しても良い。
【0054】
また、シーダー1においてSESAM13を使用したが、これについても必須ではなく、他の反射系の光学素子を使用してシーダー1を構成することもあり得る。即ち、半導体以外の可飽和吸収体を使用した他のSAMを使用しても良いし、FBG(Fiber Bragg Grating)のような他の反射素子を使用してシーダー1を構成しても良い。
【0055】
尚、Qスイッチモードロックを実現する構成としては、SAMを使用する場合の他、ポッケルスセルのような電気光学変調器やAO変調器等を使用したアクティブモードロックを行う構成を採用しても良い。但し、上記のようにSAMを使用してパッシブモードロックを行う構成の場合、製作や調整が容易であり、この点で好適である。
また、実施形態の構成において、レンズ群41を使用せずに出力ミラー12を介してシード用レーザー素子11とシーダー用カップリングファイバー42とを融着させる場合もあり得る。間引きユニット5についても同様であり、ファイバー結合タイプのAO変調器が使用される場合、ファイバー同士を融着するため、レンズ53,54は使用されない場合もあり得る。
【実施例
【0056】
以下、上記実施形態に属する実施例について説明する。
まず、ゼオライト法によりNdを1.2重量%添加のシリカガラス成形体を製作し、切り出し及び研削により直径3mmの円柱状とした。これをシリカガラス円管に挿入して母材とし、線引き装置で外径(直径)125μmになるように線引きし、Nd添加シリカガラスファイバーを得た。
【0057】
このファイバーを60mmの長さで切り取り、両端を研磨した後、反射防止膜等のコーティングをしてシード用レーザー素子11とした。このシード用レーザー素子11を、1064nmで共振するように製作したSESAM13使用の共振器10中に配置した。
また、増幅器2としては、米国のNufern社(コネチカット州イーストグランビー,7 Airport Park Road East Granby, CT)製のYb添加シリカガラスファイバーを3mの長さで使用し、増幅用励起レーザー源22としては波長975nmの半導体レーザーを使用した。
【0058】
このように構成したパルスレーザー光源装置を動作させ、その出力を光スペクトラムアナライザで計測したところ、波長1064nmで発振していることが確認された。また、RFスペクトラムアナライザで繰り返し周波数を確認したところ、2.7GHzであった。
また、レーザーパワーメーターで出力を計測したところ、シーダー1の出力の時点では0.15mWであり、増幅器2の出力としては22.3mWであった。したがって、増幅器2による増幅率は150であることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 シーダー
10 共振器
11 レーザー素子
12 出力ミラー
13 SESAM
131 DBR
132 可飽和吸収体
2 増幅器
21 増幅素子
22 増幅用励起レーザー源
3 シーダー用励起レーザー源
4 シーダー用結合素子
5 間引きユニット
51 AO変調器
図1
図2
図3
図4
図5