(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】マシニングセンタ、歯面の研削方法及び研削プログラム
(51)【国際特許分類】
B23F 5/02 20060101AFI20240705BHJP
B24D 5/10 20060101ALI20240705BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240705BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20240705BHJP
B24D 7/18 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B23F5/02
B24D5/10
B24D3/00 320B
B24D3/06 B
B24D7/18 D
(21)【出願番号】P 2020147836
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】593109182
【氏名又は名称】株式会社イワサテック
(73)【特許権者】
【識別番号】303020266
【氏名又は名称】京都ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】辻 勇
(72)【発明者】
【氏名】森田 英嗣
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-294818(JP,A)
【文献】特開2006-334748(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163487(WO,A1)
【文献】特開2014-079847(JP,A)
【文献】特表2002-506739(JP,A)
【文献】特開2016-135538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/02、04
B23F 1/02
B23F 23/12
B24D 5/10
B24D 3/00
B24D 3/06
B24D 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削するマシニングセンタであって、
前記歯車の回転軸方向に相当するZ軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置zを変更するZ軸駆動部と、
前記Z軸方向と直交し、前記歯車の回転軸からの距離を規定するX軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置x(z)を変更するX軸駆動部と、
前記Z軸方向及び前記X軸方向と直交するY軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置y(z)を変更するY軸駆動部と、
前記歯車の回転方向に相当するC方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置C(z)を変更するC方向駆動部と、
前記Z軸駆動部、前記X軸駆動部、前記Y軸駆動部及び前記C方向駆動部の駆動をそれぞれ制御する制御部と、を有し、
前記砥石は、前記歯面に対して接触線で接触する研削部を有しており、前記接触線は、前記研削部の先端から基端に向かって、前記砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線であり、
前記制御部は、前記クラウニング研削を行うとき、前記相対位置zに応じて、下記式(I)~(IV)に基づいて、前記相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定することを特徴とするマシニングセンタ。
【数1】
ここで、aは前記歯車の歯底円半径、zはО-XYZ座標系における前記相対位置zのZ座標値、hは前記歯車の換算ピッチ
(h=L/2π、Lは前記歯車のリード)、δ(z)は前記相対位置zに応じた前記歯車のクラウニング量、D
0は前記歯車のピッチ円径、Δδ
0(z)はピッチ円におけるクラウニング量の変化量、D
kは前記歯車の歯先円の直径、D
fは前記歯車の歯底円の直径、Δδ
k(z)は前記歯車の歯先におけるクラウニング量の変化量、Δδ
f(z)は、前記歯車の歯底におけるクラウニング量の変化量である。
【請求項2】
前記接触線は、下記式(V)で規定される接触条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載のマシニングセンタ。
【数2】
ここで、nは、上記式(VI)で表される歯面の単位面法線ベクトル、wは、上記式(VII)で表され、前記接触線に含まれる接触点における歯車と砥石の相対速度ベクトル、rは、前記歯車の歯面上の位置ベクトルであり、上記式(VIII)で表され、i、j、kはそれぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の単位ベクトル、φは前記歯車の歯形を規定するパラメータ、θは前記歯車の回転角、ω
eは前記砥石の角速度、x
1(φ)及びy
1(φ)は、前記X軸方向及び前記Y軸方向を座標軸とした座標系における各座標軸での歯形の座標値、hは前記換算ピッチである。
【請求項3】
前記相対位置zを前記Z軸方向の一方向に変更するとき、前記変化量Δδ
0(z),Δδ
k(z),Δδ
f(z)は、下記式(XII)~(XIV)でそれぞれ表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマシニングセンタ。
【数3】
ここで、zは前記相対位置zのZ座標値、δ(z)は前記相対位置zに応じたクラウニング量、ρはクラウニングの曲率半径、ε
0は、前記接触線のうち、ピッチ円に相当する位置でのZ座標値、ε
kは、前記接触線のうち、歯先円に相当する位置でのZ座標値、ε
fは、前記接触線のうち、歯底円に相当する位置でのZ座標値である。
【請求項4】
前記相対位置zを前記Z軸方向の他方向に変更するとき、前記変化量Δδ
0(z),Δδ
k(z),Δδ
f(z)は、下記式(XV)~(XVII)でそれぞれ表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマシニングセンタ。
【数4】
ここで、zは前記相対位置zのZ座標値、δ(z)は前記相対位置zに応じたクラウニング量、ρはクラウニングの曲率半径、ε
0は、前記接触線のうち、ピッチ円に相当する位置でのZ座標値、ε
kは、前記接触線のうち、歯先円に相当する位置でのZ座標値、ε
fは、前記接触線のうち、歯底円に相当する位置でのZ座標値である。
【請求項5】
前記C方向駆動部は、前記歯車が載置され、前記歯車の回転軸の周りで回転するパレットを有し、
前記X軸駆動部は、前記パレットを回転可能に支持するテーブルを前記X軸方向に移動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のマシニングセンタ。
【請求項6】
前記Z軸駆動部は、前記砥石が取り付けられる主軸を前記Z軸方向に移動させ、
前記Y軸駆動部は、前記主軸を支持するコラムを前記Y軸方向に移動させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のマシニングセンタ。
【請求項7】
前記砥石は、
台金の内部に設けられ、クーラントを流動させる流路と、
前記研削部に設けられ、前記流路からの前記クーラントを吐出させる吐出口と、
を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のマシニングセンタ。
【請求項8】
前記クーラントは、アルカリイオン水であることを特徴とする請求項7に記載のマシニングセンタ。
【請求項9】
砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削する研削方法であって、
前記歯車の回転軸方向に相当するZ軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置zを変更し、
前記Z軸方向と直交し、前記歯車の回転軸からの距離を規定するX軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置x(z)を変更し、
前記Z軸方向及び前記X軸方向と直交するY軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置y(z)を変更し、
前記歯車の回転角方向に相当するC方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置C(z)を変更し、
前記砥石は、前記歯面に対して接触線で接触する研削部を有しており、前記接触線は、前記研削部の先端から後端に向かって、前記砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線であり、
前記クラウニング研削を行うとき、前記相対位置zに応じて、下記式(I)~(IV)に基づいて、前記相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定することを特徴とする歯面の研削方法。
【数5】
ここで、aは前記歯車の歯底円半径、zはО-XYZ座標系における前記相対位置zのZ座標値、hは前記歯車の換算ピッチ
(h=L/2π、Lは前記歯車のリード)、δ(z)は前記相対位置zに応じた前記歯車のクラウニング量、D
0は前記歯車のピッチ円径、Δδ
0(z)はピッチ円におけるクラウニング量の変化量、D
kは前記歯車の歯先円の直径、D
fは前記歯車の歯底円の直径、Δδ
k(z)は前記歯車の歯先におけるクラウニング量の変化量、Δδ
f(z)は、前記歯車の歯底におけるクラウニング量の変化量である。
【請求項10】
前記接触線は、下記式(V)で規定される接触条件を満たすことを特徴とする請求項
9に記載の歯面の研削方法。
【数6】
ここで、nは、上記式(VI)で表される歯面の単位面法線ベクトル、wは、上記式(VII)で表され、前記接触線に含まれる接触点における歯車と砥石の相対速度ベクトル、rは、前記歯車の歯面上の位置ベクトルであり、上記式(VIII)で表され、i、j、kはそれぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の単位ベクトル、φは前記歯車の歯形を規定するパラメータ、θは前記歯車の回転角、ω
eは前記砥石の角速度、x
1(φ)及びy
1(φ)は、前記X軸方向及び前記Y軸方向を座標軸とした座標系における各座標軸での歯形の座標値、hは前記換算ピッチである。
【請求項11】
砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削するために、コンピュータに下記工程を実行させる研削プログラムであって、
前記歯車の回転軸方向に相当するZ軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置zを変更する工程と、
前記Z軸方向と直交し、前記歯車の回転軸からの距離を規定するX軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置x(z)を変更する工程と、
前記Z軸方向及び前記X軸方向と直交するY軸方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置y(z)を変更する工程と、
前記歯車の回転角方向に相当するC方向における、前記歯車に対する前記砥石の相対位置C(z)を変更する工程と、を有し、
前記砥石は、前記歯面に対して接触線で接触する研削部を有しており、前記接触線は、前記研削部の先端から後端に向かって、前記砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線であり、
前記クラウニング研削を行うとき、前記相対位置zに応じて、下記式(I)~(IV)に基づいて、前記相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定することを特徴とする歯面の研削プログラム。
【数7】
ここで、aは前記歯車の歯底円半径、zはО-XYZ座標系における前記相対位置zのZ座標値、hは前記歯車の換算ピッチ
(h=L/2π、Lは前記歯車のリード)、δ(z)は前記相対位置zに応じた前記歯車のクラウニング量、D
0は前記歯車のピッチ円径、Δδ
0(z)はピッチ円におけるクラウニング量の変化量、D
kは前記歯車の歯先円の直径、D
fは前記歯車の歯底円の直径、Δδ
k(z)は前記歯車の歯先におけるクラウニング量の変化量、Δδ
f(z)は、前記歯車の歯底におけるクラウニング量の変化量である。
【請求項12】
前記接触線は、下記式(V)で規定される接触条件を満たすことを特徴とする請求項
11に記載の歯面の研削プログラム。
【数8】
ここで、nは、上記式(VI)で表される歯面の単位面法線ベクトル、wは、上記式(VII)で表され、前記接触線に含まれる接触点における歯車と砥石の相対速度ベクトル、rは、前記歯車の歯面上の位置ベクトルであり、上記式(VIII)で表され、i、j、kはそれぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の単位ベクトル、φは前記歯車の歯形を規定するパラメータ、θは前記歯車の回転角、ω
eは前記砥石の角速度、x
1(φ)及びy
1(φ)は、前記X軸方向及び前記Y軸方向を座標軸とした座標系における各座標軸での歯形の座標値、hは前記換算ピッチである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石を用いて歯車の歯面を研削するマシニングセンタと、このマシニングセンタで用いられる砥石と、歯面を研削する研削方法及び研削プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車の歯面を研削する場合には、皿型やペンシル型の砥石(軸付き砥石、棒状の砥石とも言う)が用いられる。ここで、ペンシル型の砥石は、皿型の砥石と比べて、歯面との干渉を避けやすいため、溝幅が狭い歯車の歯面を研削する場合には、ペンシル型の砥石を用いることが好ましい。ペンシル型の砥石としては、特許文献1に記載されているように、円柱状に形成された砥石が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
砥石を用いて歯車の歯面を研削する場合には、歯車をワークに載置した後、ワークと共に歯車を回転させながら、この回転軸方向に砥石を移動させる。このような研削において、本発明者等は、歯車の歯元から歯先までの領域において、砥石を歯面に線接触させることを検討した。
【0005】
砥石を歯面に線接触させた状態で研削するとき、歯面にクラウニングを行わない場合には、ワークの回転角度に応じて、ワークの回転軸方向に砥石を歯車のリード分だけ移動させることにより、歯面を研削することができる。一方、歯面にクラウニングを行う場合には、ワークの回転軸方向における砥石の移動量に対して、ワークの回転角度を適正に変化させる必要がある。
【0006】
砥石を歯面に線接触させる場合、この接触線は、歯車の歯元から歯先までの間で曲線になるため、クラウニング時の砥石の位置制御によっては、研削後の歯面にねじれ(バイアス)が生じてしまうことがある。
図14には、ワークの回転角度と、ワークの回転軸方向における砥石の移動量とを制御パラメータとして、クラウニングを行ったときの歯面形状の解析結果を示す。
図14において、実線は実際の歯面形状を示し、点線は基準となる歯面形状を示す。
図14に示す矢印は、基準となる歯面形状に対して、実際の歯面形状がずれている方向を示す。
【0007】
歯面にねじれ(バイアス)が発生した歯車を用いると、歯当たりが正常ではなくなり、振動、騒音や歯面損傷の原因になるかみあい伝達誤差が発生してしまう。そこで、本発明の目的は、砥石を歯面に線接触させながら研削する場合において、研削後の歯面にねじれ(バイアス)が発生することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明は、砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削するマシニングセンタであって、Z軸駆動部、X軸駆動部、Y軸駆動部、C方向駆動部及び制御部を有する。Z軸駆動部は、記歯車の回転軸方向に相当するZ軸方向における、歯車に対する砥石の相対位置zを変更する。X軸駆動部は、Z軸方向と直交し、歯車の回転軸からの距離を規定するX軸方向における、歯車に対する砥石の相対位置x(z)を変更する。Y軸駆動部は、Z軸方向及びX軸方向と直交するY軸方向における、歯車に対する砥石の相対位置y(z)を変更する。方向駆動部は、歯車の回転方向に相当するC方向における、歯車に対する砥石の相対位置C(z)を変更する。制御部は、Z軸駆動部、X軸駆動部、Y軸駆動部及びC方向駆動部の駆動をそれぞれ制御する。
【0009】
砥石は、歯面に対して接触線で接触する研削部を有している。接触線は、研削部の先端から基端に向かって、砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線である。制御部は、クラウニング研削を行うとき、相対位置zに応じて、下記式(I)~(IV)に基づいて、相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定する。
【0010】
【0011】
ここで、aは歯車の歯底円半径、zはО-XYZ座標系における相対位置zのZ座標値、hは歯車の換算ピッチ、δ(z)は相対位置zに応じた歯車のクラウニング量、D0は歯車のピッチ円径、Δδ0(z)はピッチ円におけるクラウニング量の変化量、Dkは歯車の歯先円の直径、Dfは歯車の歯底円の直径、Δδk(z)は歯車の歯先におけるクラウニング量の変化量、Δδf(z)は、歯車の歯底におけるクラウニング量の変化量である。
【0012】
下記式(V)で規定される接触条件を満たすように、接触線を決定することができる。
【0013】
【0014】
ここで、nは、上記式(VI)で表される歯面の単位面法線ベクトル、wは、上記式(VII)で表され、接触線に含まれる接触点における歯車と砥石の相対速度ベクトル、rは、歯面上の位置ベクトルであり、上記式(VIII)で表され、i,j及びkはそれぞれX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の単位ベクトルであり、φは軸直角歯形{x1(φ),y1(φ)}を規定するパラメータ、θは歯車の回転角、ωeは砥石の角速度、x1(φ)及びy1(φ)は、X軸方向及びY軸方向を座標軸とした座標系における各座標軸での歯形の座標値、hは換算ピッチである。
【0015】
相対位置zをZ軸方向の一方向に変更するとき、変化量Δδ0(z),Δδk(z),Δδf(z)は、下記式(XII)~(XIV)でそれぞれ表すことができる。
【0016】
【0017】
ここで、zは相対位置zのZ座標値、δ(z)は相対位置zに応じたクラウニング量、ρはクラウニングの曲率半径、ε0は、接触線のうち、ピッチ円に相当する位置でのZ座標値、εkは、接触線のうち、歯先円に相当する位置でのZ座標値、εfは、接触線のうち、歯底円に相当する位置でのZ座標値である。
【0018】
一方、相対位置zをZ軸方向の他方向に変更するとき、変化量Δδ0(z),Δδk(z),Δδf(z)は、下記式(XV)~(XVII)でそれぞれ表すことができる。
【0019】
【0020】
ここで、zは相対位置zのZ座標値、δ(z)は相対位置zに応じたクラウニング量、ρはクラウニングの曲率半径、ε0は、接触線のうち、ピッチ円に相当する位置でのZ座標値、εkは、接触線のうち、歯先円に相当する位置でのZ座標値、εfは、接触線のうち、歯底円に相当する位置でのZ座標値である。
【0021】
C方向駆動部には、歯車が載置され、歯車の回転軸の周りで回転するパレットを設けることができる。ここで、X軸駆動部は、パレットを回転可能に支持するテーブルをX軸方向に移動させることができる。
【0022】
Z軸駆動部は、砥石が取り付けられる主軸をZ軸方向に移動させることができる。Y軸駆動部は、主軸を支持するコラムをY軸方向に移動させることができる。
【0023】
砥石には、流路及び吐出口を設けることができる。流路は、砥石の台金の内部に設けられ、クーラントを流動させる。吐出口は、研削部に設けられ、流路からのクーラントを吐出させる。クーラントとしては、アルカリイオン水を用いることができる。
【0024】
本願第2の発明は、本願第1の発明であるマシニングセンタで用いられる砥石であって、研削部と、台金の内部に設けられ、クーラントを流動させる流路と、研削部に設けられ、流路からのクーラントを吐出させる吐出口とを有する。
【0025】
研削部を構成する砥層は、メッキ層と、メッキ層に一部が埋め込まれ、立方晶窒化ホウ素で形成された砥粒とで構成することができる。また、台金は、超硬合金で形成することができる。
【0026】
本願第3の発明は、砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削する研削方法であって、本願第1の発明で説明した相対位置z,x(z),y(z),C(z)を変更する。ここで、砥石は、歯面に対して接触線で接触する研削部を有しており、接触線は、研削部の先端から後端に向かって、砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線である。クラウニング研削を行うとき、相対位置zに応じて、上記式(I)~(IV)に基づいて、相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定する。
【0027】
本願第4の発明は、砥石を回転させて歯車の歯面をクラウニング研削するために、コンピュータに、本願第1の発明で説明した相対位置z,x(z),y(z),C(z)を変更する工程を実行させる研削プログラムである。ここで、砥石は、歯面に対して接触線で接触する研削部を有しており、接触線は、研削部の先端から後端に向かって、砥石の回転軸からの距離が長くなる曲線である。クラウニング研削を行うとき、相対位置zに応じて、上記式(I)~(IV)に基づいて、相対位置x(z),y(z),C(z)をそれぞれ決定する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、歯面に対して接触線(曲線)で接触する研削部を用いて、歯面をクラウニング研削したとき、ねじれ(バイアス)を抑制した歯面を成形研削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】砥石の先端に位置する研削部の正面図である。
【
図4】マシニングセンタの構造を示す概略図である。
【
図5】マシニングセンタの動作を制御する構成を示すブロック図である。
【
図6】歯車の歯面形状を説明するためのО-XYZ座標系である。
【
図7】砥石の研削部において、歯車の歯面と接触する接触線を説明する図である。
【
図8】研削部において、接触線を構成する接触点を説明する図である。
【
図9】砥石の先端(X座標値)を0としたときの接触点の位置座標(XY座標値)を説明する図である。
【
図10】YZ断面において、クラウニングを行わないときの歯車の歯面を示す図である。
【
図11】YZ断面において、クラウニングを行った歯車の歯面を示す図である。
【
図12】ZX断面において、接触線のうち、歯先、ピッチ円及び歯底に対応する位置の座標値を説明する図である。
【
図13】本実施形態である研削方法によって研削した後の歯面形状の解析結果を示す図である。
【
図14】ワークの回転角度と、ワークの回転軸方向における砥石の移動量とを制御パラメータとした研削方法によって研削した後の歯面形状の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本実施形態では、砥石が取り付けられたマシニングセンタを用いて歯車の歯面を研削する。この歯車としては、例えば、やまば歯車が挙げられる。研削される歯車は、ホブなどの歯切工具によって歯切が行われた後の歯車である。
【0031】
(砥石)
図1~
図3を用いて、本実施形態の砥石10について説明する。
図1は、砥石10の構造を示す概略図であり、
図2は、
図1に示す矢印Dの方向から砥石10の研削部10aを見たときの正面図であり、
図3は、
図1に示す領域Aを拡大した断面図である。
【0032】
砥石10は、いわゆるペンシル型の砥石(軸付き砥石、棒状の砥石とも言う)であり、砥石10の先端に形成された研削部10aを用いて歯面の研削が行われる。研削部10aは、歯車等の3次元曲面を成形研削できるように、後述する計算された形状を有している。砥石10の基端は、後述するマシニングセンタの主軸に固定され、砥石10は主軸とともに回転する。
【0033】
砥石10は、台金11及び砥層12を有しており、砥層12は、台金11の表面のうち、研削部10aに相当する領域に形成されている。台金11の材料としては、例えば、超硬合金や鋼(SCrやS45Cなど)を用いることができる。超硬合金を用いることにより、砥石10のねじれ剛性を高めることができる。
【0034】
砥層12は、
図3に示すように、メッキ層12a及び砥粒12bによって構成されている。砥層12では、砥粒12bの一部がメッキ層12aに埋め込まれており、複数の砥粒12bは、台金11の表面に沿って並んでいる。
【0035】
複数の砥粒12bについて、粒径のばらつきが大きすぎると、歯面に対する砥粒12bの接触状態にばらつきが生じ、研削能力が低下しやすくなる。また、砥粒12bの粒径を均一にしすぎると、歯面との接触部分における摩擦抵抗が低下してしまい、研削能力が低下しやすくなる。これらの点を考慮して、砥粒12bの粒度分布を決めることができる。なお、台金11の表面に砥層12を形成した後、ツルーイングによって砥層12の表面の凹凸を整えるようにしてもよい。
【0036】
メッキ層12aを形成するメッキとしては、例えば、ニッケルメッキを用いることができる。砥粒12bの材料としては、例えば、CBN(Cubic Boron Nitride;立方晶窒化ホウ素)、WA(白色アルミナ系)、ダイヤモンドを用いることができる。
【0037】
台金11の内部には、クーラントを流すための流路13が形成されており、流路13は、主流路13a及び2つの分岐流路13bを有する。主流路13aは、砥石10の基端部から先端部に向かって砥石10の回転軸方向に延びているとともに、砥石10の基端部において、クーラントを砥石10に供給する供給タンク(不図示)に接続されている。ここで、供給タンク(不図示)から主流路13aには、クーラントを高圧状態で供給することができる。
【0038】
各分岐流路13bの一端部は、主流路13aに接続されているとともに、各分岐流路13bの他端部は、研削部10aに接続されている。砥石10の研削部10aには吐出口13cが形成されており、吐出口13cは、各分岐流路13bの他端部に位置する。
【0039】
供給タンク(不図示)から主流路13aに供給されたクーラントは、主流路13aを通過した後、各分岐流路13bに流入し、吐出口13cから砥石10の外部に吐出される。ここで、吐出口13cは、砥石10の研削部10aに形成されているため、吐出口13cから吐出されたクーラントは、研削部10a及び歯面の接触部分に供給される。
【0040】
なお、吐出口13cは研削部10aに設けられていればよく、研削部10aにおける吐出口13cの位置は、適宜決めることができる。ここで、研削部10a及び歯面の接触部分の全体にクーラントを行き渡らせる上では、
図1に示すように、砥石10の回転軸方向における研削部10aの中央位置に吐出口13cを設けることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、2つの吐出口13cを設けているが、吐出口13cの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。ここで、吐出口13cの数だけ、分岐流路13bを設ければよい。また、本実施形態では、1つの主流路13aを設けているが、複数の主流路13aを設けてもよい。ここで、各主流路13aには、少なくとも1つの分岐流路13bを接続すればよい。
【0042】
クーラントとしては、水、アルカリイオン水または油性のクーラントを用いることができる。アルカリイオン水ついては、pH9~pH11が好ましく、pH10がより好ましい。アルカリイオン水を用いることにより、クーラント(アルカリイオン水)の表面張力を低下させて、砥石10の研削部10aと歯面との間の隙間にクーラント(アルカリイオン水)が入りやすくなり、研削部10a及び歯面の接触部分で発生する熱を取り除きやすくなる。
【0043】
台金11の材料として超硬合金を用いれば、鋼(SCrやS45Cなど)を用いた場合と比べて、研削時の負荷によって砥石10が回転軸方向で弾性変形することを抑制したり、砥粒12bが台金11に食い込むことを抑制したりすることができる。一方、台金11の材料を超硬合金とした場合、台金11及びメッキ層12aには熱膨張率の差があるため、研削時に発生する熱によってメッキ層12aが割れて台金11から剥離してしまうことがある。
【0044】
本実施形態によれば、流路13にクーラントを流すことによって砥石10(台金11)を冷却したり、吐出口13cからクーラントを吐出させることによって、砥層12を冷却したりすることができる。これにより、台金11及びメッキ層12aにおける熱膨張率の差に起因したメッキ層12aの割れを抑制することができる。また、研削時に歯車から発生した切り屑が砥層12に付着することがあるが、吐出口13cからクーラントを吐出させることにより、砥層12に付着した切り屑を除去することができる。
【0045】
砥粒12bの材料としてCBNを用いれば、WA(白色アルミナ系)の材料を用いた場合と比較して、砥粒12bの熱伝導率を高くすることができ、研削部10a及び歯面の接触部分で発生した熱を、砥粒12bを介して放出させやすくなる。また、WAよりも硬度が高いCBNの砥粒12bを用いることで、研削部10a(砥層12)の表面の形状が崩れにくくなるため、長期間、良好な成形研削を継続することができる。
【0046】
(マシニングセンタ)
マシニングセンタ100の構成について、
図4を用いて説明する。
図4において、X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する軸である。本実施形態において、Z軸は、鉛直方向に延びる軸である。
【0047】
コラム101は、Y軸方向に延びる一対のレール102によって支持されており、Y軸方向に移動することができる。コラム101は、Z軸方向に延びる一対のガイドバー103を有しており、ガイドバー103には、スライダ104が取り付けられている。スライダ104は、ガイドバー103に沿って移動し、Z軸方向に移動することができる。スライダ104には主軸105が設けられており、主軸105の先端に設けられた取付穴105aには、上述した砥石10が取り付けられる。砥石10を取付穴105aに取り付けたとき、主軸105の回転によって砥石10が回転する。
【0048】
テーブル106は、X軸方向に延びる一対のレール107によって支持されており、X軸方向に移動することができる。また、テーブル106にはパレット108が連結されており、パレット108は、回転軸Rの周り(C方向)で回転可能である。パレット108の上面には、研削される歯車が載置され、回転軸Rは、歯車の回転軸と一致する。
【0049】
マシニングセンタ100によれば、主軸105に取り付けられた砥石10をY軸方向及びZ軸方向に移動させることができる。具体的には、コラム101がY軸方向に移動することにより、砥石10をY軸方向に移動させることができる。また、スライダ104がコラム101に対してZ軸方向に移動することにより、砥石10をZ軸方向に移動させることができる。
【0050】
また、マシニングセンタ100によれば、パレット108に載置された歯車をX軸方向及びC方向に移動させることができる。具体的には、テーブル106がX軸方向に移動することにより、歯車をX軸方向に移動させることができる。また、パレット108がC方向に回転することにより、歯車をC方向に回転させることができる。
【0051】
砥石10及び歯車の位置関係を調整した上で、砥石10をY軸方向及びZ軸方向に移動させたり、歯車をX軸方向に移動させたり、歯車をC方向に回転させたりすることにより、砥石10の研削部10aによって歯車の歯面を研削することができる。このように、マシニングセンタ100によれば、砥石10及び歯車の相対位置を4つの方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向及びC方向)で変更しながら、歯面を研削することができる。
【0052】
次に、マシニングセンタ100の動作を制御する構成について、
図5を用いて説明する。
図5は、マシニングセンタ100の動作を制御する構成を示すブロック図である。
【0053】
X軸駆動部201は、テーブル106をX軸方向に移動させるための駆動機構であり、モータなどの動力源(不図示)からの駆動力をテーブル106に伝達する。Y軸駆動部202は、コラム101をY軸方向に移動させるための駆動機構であり、モータなどの駆動源(不図示)からの駆動力をコラム101に伝達する。
【0054】
Z軸駆動部203は、スライダ104をコラム101に対してZ軸方向に移動させるための駆動機構であり、モータなどの動力源(不図示)からの駆動力をスライダ104に伝達する。C方向駆動部204は、パレット108をC方向に回転させるための駆動機構であり、モータなどの動力源(不図示)からの駆動力をパレット108に伝達する。
【0055】
制御部205は、X軸方向における相対位置x(z)の情報に基づいて、X軸駆動部201の駆動を制御する。相対位置x(z)は、歯車に対する砥石10の位置(X軸方向の相対位置)を示し、Z軸方向における相対位置zに依存する。制御部205は、歯車及び砥石10の位置関係が相対位置x(z)となるように、X軸駆動部201を駆動する。
【0056】
制御部205は、Y軸方向における相対位置y(z)の情報に基づいて、Y軸駆動部202の駆動を制御する。相対位置y(z)は、歯車に対する砥石10の位置(Y軸方向の相対位置)を示し、相対位置zに依存する。制御部205は、歯車及び砥石10の位置関係が相対位置y(z)となるように、Y軸駆動部202を駆動する。
【0057】
制御部205は、Z軸方向における相対位置zの情報に基づいて、Z軸駆動部203の駆動を制御する。制御部205は、C方向における相対位置C(z)の情報に基づいて、C方向駆動部204の駆動を制御する。相対位置C(z)は、歯車に対する砥石10の位置(C方向の相対位置)を示し、相対位置zに依存する。制御部205は、歯車及び砥石10の位置関係が相対位置C(z)となるように、C方向駆動部204を駆動する。
【0058】
なお、上述した制御部205の処理(いわゆる機能)は、プログラムによって実現可能である。具体的には、各機能を実現するために予め用意されたコンピュータプログラムを補助記憶装置に格納しておき、CPU等の制御部が補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置に読み出し、主記憶装置に読み出されたプログラムを制御部が実行することにより、各機能を動作させることができる。各機能は、1つの制御装置で動作させることもできるし、互いに接続された複数の制御装置によって動作させることもできる。
【0059】
上記プログラムは、コンピュータで読取可能な記録媒体に記録された状態において、コンピュータに提供することも可能である。記録媒体としては、CD-ROM等の光ディスク、DVD-ROM等の相変化型光ディスク、MO(Magnet Optical)やMD(Mini Disk)などの光磁気ディスク、フロッピー(登録商標)ディスクやリムーバブルハードディスクなどの磁気ディスク、コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア、SDメモリカード、メモリスティック等のメモリカードが挙げられる。また、本発明の目的のために特別に設計されて構成された集積回路(ICチップ等)等のハードウェア装置も記録媒体として含まれる。
【0060】
以下、相対位置x(z),y(z),C(z)を決定する方法について説明する。
【0061】
(歯車の歯面形状)
まず、歯車の歯面形状について説明する。
図6(О-XYZ座標系)に示すように、歯車の軸直角歯形{x
1(φ),y
1(φ)}は、一般的にパラメータφにより規定することができる。
図6に示すZ軸は、歯車の回転軸に相当する。パラメータφを変化させることにより、歯元から歯先までの軸直角歯形{x
1(φ),y
1(φ)}を得ることができる。この軸直角歯形{x
1(φ),y
1(φ)}をZ軸まわりに回転角θだけ回転させ、かつZ軸方向にhθ(下記式(3)参照)だけ移動させることにより、歯幅を考慮した3次元の座標(О-XYZ座標)として、歯面を表すことができる。歯面の座標は、下記式(1)~(3)で表される。
【0062】
【0063】
上記式(1)~(3)において、φは上述した歯形を規定するパラメータであり、θは歯車の回転角であり、hは換算ピッチである。換算ピッチhは、下記式(4)から求められる。下記式(4)に示すLは、歯車のリードである。
【0064】
【0065】
(砥石10の研削部10aの形状)
砥石10を回転させないとき、研削部10aには、
図7に示すように、歯車の歯面に同時に接触する接触線CLが形成される。ここで、接触線CLの一端E1(研削部10aの先端に相当する)は、歯車の歯底と接触する部分であり、接触線CLの他端E2は、歯車の歯先と接触する部分である。接触線CLは、一端E1から他端E2に向かって、砥石10の回転軸AXLからの距離が長くなる曲線となっている。
【0066】
本実施形態では、
図7に示すように、接触線CLの他端E2が、研削部10aの基端よりも研削部10aの先端側に位置しているが、研削部10aの基端上に位置していてもよい。この場合には、接触線CLは、砥石10の回転軸方向(
図7の左右方向)における研削部10aの全体の領域に形成されることになる。
【0067】
本実施形態では、接触線CLに基づいて、研削部10aの形状を決定している。すなわち、接触線CLを砥石10の回転軸回りで回転させたときに形成される三次元形状が研削部10aの形状となる。以下、接触線CLを決定する方法について説明する。
【0068】
接触線CLは、複数の接触点CPによって構成されている。すなわち、複数の接触点CPの集合体が接触線CLとなる。
図8に示すように、接触点CPを特定するための位置ベクトルrを規定すると、位置ベクトルrは、下記式(5)で表される。下記式(5)に示すi,j,kはそれぞれX軸方向,Y軸方向及びZ軸方向の単位ベクトルである。
【0069】
【0070】
上述した歯車の歯面形状において、歯面の単位面法線ベクトルnは、下記式(6)で表される。下記式(6)において、rは上記式(5)で表される歯面上の位置ベクトルであり、φは歯形を規定するパラメータであり、θは歯車の回転角である。
【0071】
【0072】
一方、研削部10aの接触点CPにおける歯車と砥石の相対速度ベクトルwは、下記式(7)で表される。
【0073】
【0074】
上記式(7)において、ω
eは、
図8に示すように砥石10の角速度であり、iはX軸方向の単位ベクトルであり、rは上記式(5)で表される歯面上の位置ベクトルである。
図8において、Z軸は歯車の回転軸に相当し、aは、歯車の歯底円半径である。
【0075】
研削部10a及び歯面が接触する条件は、下記式(8)に従うため、あるパラメータφで規定される軸直角歯形{x
1(φ),y
1(φ)}において下記式(8)を満たすときの歯車の回転角θを求めて、パラメータφ及び回転角θを上記式(1)~(3)に代入すれば、あるパラメータφにおける接触点CP(
図8に示すО-XYZ座標系の座標値)を特定することができる。
【0076】
【0077】
上記式(8)において、nは、上記式(6)によって求められる歯面上の点の単位面法線ベクトルであり、wは、上記式(7)によって求められる接触点CPにおける歯車と砥石の相対速度ベクトルである。パラメータφを変化させて歯車の歯底に対応した位置から歯車の歯先に対応した位置までの間に存在する複数の軸直角歯形の座標値{x1(φ),y1(φ)}における歯車の各々の回転角θを求めて、各々のパラメータφ及び回転角θを上記式(1)~(3)に代入すれば、特定される接触点CPに基づいて、接触線CLを特定することができる。なお、砥石10の研削部10aの形状の設定はクラウニングなしの状態で行う。
【0078】
なお、
図9に示すように、砥石10の回転軸を含むXY座標系における接触点CPの座標値(x
e,y
e)は、下記式(9),(10)で表される。この座標値(x
e,y
e)に基づいて、砥石10の研削部10aを製造することができる。
図9では、X軸方向における研削部10aの先端の相対位置xを0としている。
【0079】
【0080】
上記式(9)において、xは、
図8に示す座標系における接触点CPのX座標値であり、aは、
図8に示す歯底円半径である。上記式(10)において、y及びzは、
図8に示す座標系における接触点CPのY座標値及びZ座標値をそれぞれ示す。
【0081】
(歯面研削方法)
上述した砥石10及びマシニングセンタ100を用いて歯面を研削する方法について説明する。研削を開始するとき、
図5に示す制御部205は、X軸駆動部201、Y軸駆動部202及びZ軸駆動部203をそれぞれ駆動することにより、砥石10を基準位置に移動させる。この基準位置とは、X軸方向においては研削部10aの先端が歯車の歯底に接触する位置であって、Z軸方向においては歯車の歯幅の中央(クラウニング中心)である。Y軸方向においては(y=0)の位置であり、C軸方向においては(C=0)の位置である。ここで、歯車がやまば歯車である場合には、左ねじれのはすば歯車と、右ねじれのはすば歯車とを別々に研削することになるため、上述した基準位置は、Z軸方向における各はすば歯車の歯幅の中央(クラウニング中心)になる。
【0082】
本実施形態では、砥石10を基準位置(歯車の下端部)から上方(Z軸方向)に移動させながら、歯面を研削するようにしている。なお、砥石10を基準位置(歯車の上端部)から下方(Z軸方向)に移動させながら、歯面を研削することもできる。
【0083】
上述したように砥石10をZ軸方向に移動させることにより、相対位置zが変化する。この相対位置zは、基準位置z0からの距離(Z軸方向の距離)で表される。以下、相対位置zに応じた相対位置x(z),y(z),C(z)の制御について説明する。
【0084】
(X軸方向の位置制御)
任意の相対位置zにおける相対位置x(z)は、下記式(11)で表される。
【0085】
【0086】
上記式(11)において、aは、歯車の歯底円半径であり、x2(z)は、圧力角を修整するためのX軸方向の成分量である。
【0087】
成分量x2(z)は、下記式(12)で表される。下記式(12)におけるaは、上記式(11)に示す歯底円半径aと同じである。下記式(12)に示すΔα(z)については後述する。
【0088】
【0089】
(Y軸方向の位置制御)
任意の相対位置zにおける相対位置y(z)は、下記式(13)で表される。
【0090】
【0091】
y2(z)は、圧力角を修整するためのY軸方向の成分量であり、下記式(14)で表される。下記式(14)において、aは上記式(11)に示す歯底円半径aと同じであり、Δα(z)は上記式(12)に示すΔα(z)と同じである。
【0092】
【0093】
(回転方向Cの位置制御)
C方向における制御量C(z)は、下記式(15)に示すように、4つの成分量C0(z),C1(z),C2(z),C3(z)の総和となる。
【0094】
【0095】
上記式(15)に示す成分量C
0(z)は、クラウニングを行わないときの歯車回転角を規定するものであり、下記式(16)で表される。
図10は、成分量C
0(z)を説明する図であり、
図10には、YZ断面において、クラウニングを行わないときの歯車の歯面を示す。
図10において、Z軸は、歯車の回転軸に相当する。なお、
図10に示すBは、歯車の歯幅である。
【0096】
【0097】
上記式(16)において、zは上記相対位置zを示し、hは、歯車のリードLに応じた換算ピッチである。換算ピッチhは、上記式(4)で表され、リードLは、下記式(17)で表される。上記式(17)において、D0は歯車のピッチ円径であり、βは歯車のねじれ角である。
【0098】
【0099】
上記式(15)に示す成分量C1(z)は、クラウニングに依存した歯車回転角を規定するものであり、下記式(18)で表される。
【0100】
【0101】
上記式(18)において、D0は歯車のピッチ円径であり、δ(z)は相対位置zに応じたクラウニング量である。クラウニング量δ(z)は、下記式(19)で表される。
【0102】
【0103】
上記式(19)において、zは相対位置zのZ座標値であり、ρは、クラウニングの曲率半径であり、下記式(20)で表される。
図11には、YZ断面において、クラウニングを行った歯面と、クラウニングを行わない歯面とを示す。
【0104】
【0105】
上記式(20)において、Bは歯車の歯幅であり、δは
図11に示すクラウニング量である。
【0106】
上記式(15)に示す成分量C2(z)は、圧力角の修整に伴ってクラウニング量を調整するための歯車の回転角を規定するものであり、下記式(21)で表される。ここで、下記式(21)に示すΔα(z)は、上記式(12),(14)に示すΔα(z)と同じである。
【0107】
【0108】
上記式(15)に示す成分量C3(z)は、クラウニングの頂点を補正するための歯車回転角を規定するものであり、下記式(22)で表される。
【0109】
【0110】
上記式(22)において、Δδ0(z)は、ピッチ円におけるクラウニング量の変化量であり、D0は歯車のピッチ円径である。変化量Δδ0(z)については、後述する。
【0111】
上記式(12),(14),(21)に示すΔα(z)は、下記式(23)で表される。
【0112】
【0113】
上記式(23)において、Dkは歯車の歯先円の直径であり、Dk/2は歯先円の半径を示す。Dfは歯車の歯底円の直径であり、Df/2は歯底円の半径を示す。Δδk(z)は、歯先におけるクラウニング量の変化量であり、Δδf(z)は、歯底におけるクラウニング量の変化量である。
【0114】
上記式(23)に示す変化量Δδk(z)は、下記式(24),(25)で表される。ここで、変化量Δδk(z)は相対位置zに依存し、相対位置zが0以上である場合には、下記式(24)が適用され、相対位置zが0未満(負の値)である場合には、下記式(25)が適用される。本実施形態において、砥石10を基準位置から上方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0以上の値を示し、砥石10を基準位置から下方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0未満(負の値)を示す。
【0115】
【0116】
上記式(24),(25)において、zは相対位置zのZ座標値であり、δ(z)は、相対位置zに応じたクラウニング量であり、ρは、クラウニングの曲率半径であって、上記式(20)から求められる。ε
kは、
図12に示すように、接触線CLのうち、歯先円に相当する位置であって、Z軸方向における位置(Z座標値)を示す。
図12は、ZX断面において、接触線CLのうち、歯先円半径(D
k/2)、ピッチ円半径(D
0/2)及び歯底円半径(D
f/2)に相当する位置に対応したZ座標値(ε
k,ε
0,ε
f)を示す。ここで、
図12に示すZ軸は、歯車の回転軸に相当する。
【0117】
上記式(23)に示す変化量Δδf(z)は、下記式(26),(27)で表される。ここで、変化量Δδf(z)は相対位置zに依存し、相対位置zが0以上である場合には、下記式(26)が適用され、相対位置zが0未満(負の値)である場合には、下記式(27)が適用される。本実施形態において、砥石10を基準位置から上方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0以上の値を示し、砥石10を基準位置から下方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0未満(負の値)を示す。
【0118】
【0119】
上記式(26),(27)において、zは相対位置zのZ座標値であり、δ(z)は、相対位置zに応じたクラウニング量であり、ρは、クラウニングの曲率半径であって、上記式(20)から求められる。ε
fは、
図12に示すように、接触線CLのうち、歯底円に相当する位置であって、Z軸方向における位置(Z座標値)を示す。
【0120】
上記式(22)に示す変化量Δδ0(z)は、下記式(28),(29)で表される。ここで、変化量Δδ0(z)は相対位置zに依存し、相対位置zが0以上である場合には、下記式(28)が適用され、相対位置zが0未満(負の値)である場合には、下記式(29)が適用される。本実施形態において、砥石10を基準位置から上方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0以上の値を示し、砥石10を基準位置から下方(Z軸方向)に移動させるときには、相対位置zが0未満(負の値)を示す。
【0121】
【0122】
上記式(28),(29)において、zは相対位置zのZ座標値であり、δ(z)は、相対位置zに応じたクラウニング量であり、ρは、クラウニングの曲率半径であって、上記式(20)から求められる。ε
0は、
図12に示すように、接触線CLのうち、ピッチ円に相当する位置であって、Z軸方向における位置(Z座標値)を示す。
【0123】
砥石10を用いて歯車の歯面を研削するとき、
図5に示す制御部205は、相対位置zを変更するたびに、相対位置x(z),y(z),C(z)を求めて、X軸駆動部201、Y軸駆動部202、Z軸駆動部203及びC方向駆動部204をそれぞれ駆動する。これにより、接触線CLを有する研削部10aによって歯面を研削したとき、研削後の歯面にねじれ(バイアス)が発生することを抑制できる。
【0124】
図13には、本実施形態である研削方法に基づいて、クラウニングされた歯面を成形研削したときの歯面形状の解析結果を示す。
図13において、実線は実際の歯面形状を示し、点線は基準となる歯面形状を示す。
図13に示す矢印は、基準となる歯面形状に対して、実際の歯面形状がずれている方向を示す。
図13及び
図14から分かるとおり、本実施形態である研削方法によれば、歯面のねじれ(バイアス)を抑制できる。
【符号の説明】
【0125】
10:砥石、10a:研削部、11:台金、12:砥層、12a:メッキ層、12b:砥粒、13:流路、13a:主流路、13b:分岐流路、13:吐出口、100:マシニングセンタ、101:コラム、102:レール、103:ガイドバー、104:スライダ、105:主軸、106:テーブル、107:レール、108:パレット、201:X軸駆動部、202:Y軸駆動部、203:Z軸駆動部、204:C方向駆動部、205:制御部