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特許7515113誘電性薄膜、誘電性薄膜素子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】誘電性薄膜、誘電性薄膜素子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240705BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20240705BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20240705BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240705BHJP
   H02N 2/00 20060101ALI20240705BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/079
H10N30/20
H10N30/30
H02N2/00
B41J2/14 613
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020546060
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035761
(87)【国際公開番号】W WO2020054779
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018170608
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐介
(72)【発明者】
【氏名】石田 未来
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和希子
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光勇
(72)【発明者】
【氏名】石濱 圭佑
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-016011(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111090(WO,A1)
【文献】特開2006-327863(JP,A)
【文献】特開2015-195343(JP,A)
【文献】特開2018-083752(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194452(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01253122(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0239774(US,A1)
【文献】長谷川 光勇 他,PLD法を用いた(Bi,Na)TiO3-BaTiO3系薄膜の作製と評価,2018年 第65回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],日本,公益社団法人応用物理学会,2018年03月05日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/079
H10N 30/20
H10N 30/30
H02N 2/00
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む誘電性薄膜であって、
前記金属酸化物が、ビスマス、ナトリウム、バリウム及びチタンを含み、
前記金属酸化物の少なくとも一部が、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、
少なくとも一部の前記正方晶の(100)面が、前記誘電性薄膜の表面の法線方向において配向しており、
前記金属酸化物が下記化学式1で表される、
誘電性薄膜。
(1-x)(Bi0.5Na0.5)TiO‐xBaTiO (1)
[前記化学式1中、xは0.15≦x≦0.40を満たす。]
【請求項2】
前記誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、前記誘電性薄膜へ印加される時、前記正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積が増加しない、
請求項1に記載の誘電性薄膜。
【請求項3】
前記誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、前記誘電性薄膜へ印加される時、前記正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積が増加する、
請求項1に記載の誘電性薄膜。
【請求項4】
前記誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、前記誘電性薄膜へ印加されている状態において、
一部の前記正方晶の(100)面が、前記誘電性薄膜の表面の法線方向において配向しており、
別の一部の前記正方晶の(001)面が、前記誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している、
請求項1に記載の誘電性薄膜。
【請求項5】
前記化学式1中、前記xは0.30≦x≦0.40を満たす、
請求項1~4のいずれか一項に記載の誘電性薄膜。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の誘電性薄膜を備える、
誘電性薄膜素子。
【請求項7】
単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる前記誘電性薄膜と、
を備え、
少なくとも一部の前記正方晶の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向している、
請求項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項8】
前記単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる第一電極層と、
前記第一電極層を介して前記単結晶基板に重なる前記誘電性薄膜と、
前記誘電性薄膜に重なる第二電極層と、
を備える、
請求項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項9】
少なくとも一つの中間層を更に備え、
前記中間層が、前記単結晶基板と前記第一電極層との間、前記第一電極層と前記誘電性薄膜との間、又は前記誘電性薄膜と前記第二電極層との間に配置されている、
請求項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項10】
前記単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる第一電極層と、
前記第一電極層に重なる第一結晶質層と、
前記第一結晶質層に重なる第二結晶質層と、
前記第二結晶質層に重なる前記誘電性薄膜と、
前記誘電性薄膜に重なる第二電極層と、
を備え、
前記第一結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含み、
前記第二結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するSrRuOの結晶を含み、
前記第一結晶質層の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向しており、
前記第二結晶質層の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向している、
請求項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項11】
前記単結晶基板と、
前記単結晶基板に重なる第一電極層と、
前記第一電極層に重なる第一結晶質層と、
前記第一結晶質層に重なる第二結晶質層と、
前記第二結晶質層に重なる前記誘電性薄膜と、
前記誘電性薄膜に重なる第二電極層と、
を備え、
前記第一結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含み、
前記第二結晶質層が、ペロブスカイト構造を有する(La,Sr)CoOの結晶を含み、
前記第一結晶質層の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向しており、
前記第二結晶質層の(100)面が、前記単結晶基板の表面の法線方向において配向している、
請求項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項12】
圧電素子である、
請求項6~11のいずれか一項に記載の誘電性薄膜素子。
【請求項13】
請求項12に記載の誘電性薄膜素子を備える、
圧電アクチュエータ。
【請求項14】
請求項12に記載の誘電性薄膜素子を備える、
圧電センサ。
【請求項15】
請求項13に記載の圧電アクチュエータを備える、
ヘッドアセンブリ。
【請求項16】
請求項15に記載のヘッドアセンブリを備える、
ヘッドスタックアセンブリ。
【請求項17】
請求項16に記載のヘッドスタックアセンブリを備える、
ハードディスクドライブ。
【請求項18】
請求項13に記載の圧電アクチュエータを備える、
プリンタヘッド。
【請求項19】
請求項18に記載のプリンタヘッドを備える、
インクジェットプリンタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電性薄膜、誘電性薄膜素子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体の一種である圧電体は、種々の目的に応じて様々な圧電素子に加工される。例えば、圧電アクチュエータは、圧電体に電圧を加えて圧電体を変形させる逆圧電効果により、電圧を力に変換する。また圧電センサは、圧電体に圧力を加えて圧電体を変形させる圧電効果により、力を電圧に変換する。これらの圧電素子は、様々な電子機器に搭載される。
【0003】
従来、圧電体として、ペロブスカイト型の強誘電体であるジルコン酸チタン酸鉛(PbTiO-PbZrO;PZT)が多用されてきた。しかしながら、PZTは人体や環境を害する鉛を含むため、PZTの代替として、非鉛(lead‐free)の圧電体の研究開発が行われてきた。非鉛の圧電体の一例として、強誘電性を有する[(Na,Bi)1-xBa]TiOが知られている。例えば、下記の特許文献1に記載の圧電体は、(001)面のみの配向性を有する[(Na,Bi)1-xBa]TiOの結晶から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-179803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されているように、[(Na,Bi)1-xBa]TiOの(001)面のみが配向している場合、[(Na,Bi)1-xBa]TiOの結晶からなる薄膜は十分な誘電性を有していない。
【0006】
本発明は、誘電性に優れた誘電性薄膜、当該誘電性薄膜を備える誘電性薄膜素子、並びに当該誘電性薄膜素子を用いた圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜は、金属酸化物を含む誘電性薄膜であって、金属酸化物が、ビスマス、ナトリウム、バリウム及びチタンを含み、金属酸化物の少なくとも一部が、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、少なくとも一部の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している。
【0008】
上記の金属酸化物が下記化学式1で表されてよい。
(1-x)(Bi0.5Na0.5)TiO‐xBaTiO (1)
[上記化学式1中、xは0.15≦x≦0.40を満たす。]
【0009】
誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、誘電性薄膜へ印加される時、正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積が増加しなくてよい。
【0010】
誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、誘電性薄膜へ印加される時、正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積が増加してもよい。
【0011】
誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、誘電性薄膜へ印加されている状態において、一部の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向してよく、別の一部の正方晶の(001)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していてよい。
【0012】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、上記の誘電性薄膜を備える。
【0013】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる誘電性薄膜と、を備えてよく、少なくとも一部の正方晶の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよい。
【0014】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層を介して単結晶基板に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えてよい。
【0015】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、少なくとも一つの中間層を更に備えてよく、中間層が、単結晶基板と第一電極層との間、第一電極層と誘電性薄膜との間、又は誘電性薄膜と第二電極層との間に配置されていてよい。
【0016】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一結晶質層と、第一結晶質層に重なる第二結晶質層と、第二結晶質層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えてよく、第一結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含んでよく、第二結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するSrRuOの結晶を含んでよく、第一結晶質層の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよく、第二結晶質層の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよい。
【0017】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一結晶質層と、第一結晶質層に重なる第二結晶質層と、第二結晶質層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えてよく、第一結晶質層が、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含んでよく、第二結晶質層が、ペロブスカイト構造を有する(La,Sr)CoOの結晶を含んでよく、第一結晶質層の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよく、第二結晶質層の(100)面が、単結晶基板の表面の法線方向において配向していてよい。
【0018】
本発明の一側面に係る誘電性薄膜素子は、圧電素子であってよい。
【0019】
本発明の一側面に係る圧電アクチュエータは、上記の誘電性薄膜素子(圧電素子)を備える。
【0020】
本発明の一側面に係る圧電センサは、上記の誘電性薄膜素子(圧電素子)を備える。
【0021】
本発明の一側面に係るヘッドアセンブリは、上記の圧電アクチュエータを備える。
【0022】
本発明の一側面に係るヘッドスタックアセンブリは、上記のヘッドアセンブリを備える。
【0023】
本発明の一側面に係るハードディスクドライブは、上記のヘッドスタックアセンブリを備える。
【0024】
本発明の一側面に係るプリンタヘッドは、上記の圧電アクチュエータを備える。
【0025】
本発明の一側面に係るインクジェットプリンタ装置は、上記のプリンタヘッドを備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、誘電性に優れた誘電性薄膜、当該誘電性薄膜を備える誘電性薄膜素子、並びに当該誘電性薄膜素子を用いた圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る誘電性薄膜素子の模式な断面図であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に示す圧電薄膜素子の斜視分解図と、ペロブスカイト構造の単位格子(第一単位格子tc1及び第二単位格子tc2)の斜視図と、を含む。(図1中の(b)では、第一電極層及び第二電極層は省略される。)
図2図2は、本発明の一実施形態に係るヘッドアセンブリの模式図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータの模式図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るジャイロセンサの模式図(平面図)である。
図5図5は、図4に示されるジャイロセンサのA-A線に沿った矢視断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る圧力センサの模式図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る脈波センサの模式図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係るハードディスクドライブの模式図である。
図9図9は、本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタ装置の模式図である。
図10図10は、実験1によって測定された本発明の実施例1のX線回折パターンである。
図11図11は、実験2によって測定された本発明の実施例1のX線回折パターンである。
図12図12は、実験3によって測定された本発明の実施例1のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。図面において、同一又は同等の要素には同一の符号が付される。図1中の(a)及び図1中の(b)に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。本発明は下記実施形態に限定されない。
【0029】
(誘電性薄膜、及び誘電性薄膜素子)
図1中の(a)に示されるように、本実施形態に係る誘電性薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる第一電極層2(下部電極層)と、第一電極層2を介して単結晶基板1に間接的に重なる誘電性薄膜3と、誘電性薄膜3に重なる第二電極層4(上部電極層)と、を備える。すなわち、誘電性薄膜素子10では、一対の電極層の間に誘電性薄膜3が挟まれている。誘電性薄膜素子10の変形例は、第二電極層4を備えなくてよい。例えば、第二電極層を備えない誘電性薄膜素子が、製品として、電子機器の製造業者に供給された後、電子機器の組立て・製造の過程において、第二電極層が誘電性薄膜素子に付加されてよい。誘電性薄膜素子10は、例えば、薄膜コンデンサであってよい。
【0030】
誘電性薄膜3は、金属酸化物を含む。金属酸化物は、ビスマス、ナトリウム、バリウム及びチタンを含む。誘電性薄膜3は、主成分として、金属酸化物を含んでよい。主成分とは、誘電性薄膜3を構成する全成分に対する割合が99%モル以上100モル%以下である成分を意味する。金属酸化物の一部又は全部は、結晶質であり、ペロブスカイト構造を有している。常温下において、金属酸化物の少なくとも一部は、ペロブスカイト構造を有する正方晶である。常温下において、金属酸化物の全部が、ペロブスカイト構造を有する正方晶であってよい。
【0031】
誘電性薄膜3に含まれる上記の金属酸化物は、下記化学式1で表されてよい。以下では、場合により、下記化学式1で表される酸化物が、「BNT‐BT」と表記される。
【0032】
(1-x)(Bi0.5Na0.5)TiO‐xBaTiO (1)
上記化学式1中、xは、0<x<1、0.15≦x≦0.70、0.15≦x≦0.600、0.15≦x<0.50、又は0.15≦x≦0.40を満たしてよい。
【0033】
上記化学式1は、下記化学式1aと等価であってよい。
(Bi0.5Na0.51-xBaTiO (1a)
上記化学式1a中、xは、0<x<1、0.15≦x≦0.70、0.15≦x≦0.600、0.15≦x<0.50、又は0.15≦x≦0.40を満たしてよい。
【0034】
誘電性薄膜3が、上記化学式1で表される酸化物を含む場合、誘電性薄膜3の誘電性及び圧電特性が向上し易い。xが0.15≦x≦0.70の範囲内である場合、誘電性薄膜3の誘電性及び圧電特性が更に向上し易い。特にxが0.15≦x≦0.40の範囲内である場合、上記の金属酸化物の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向において配向し易く、誘電性薄膜3の誘電性及び圧電特性が更に向上し易い。誘電性薄膜3は、上記化学式1で表される酸化物のみからなっていてもよい。誘電性薄膜3は、上記化学式1で表される酸化物の単結晶のみからなっていてもよい。誘電性薄膜3は、上記化学式1で表される酸化物の多結晶のみからなっていてもよい。上記化学式1で表される酸化物の正方晶のペロブスカイト構造が損なわれない限りにおいて、誘電性薄膜3は、上記化学式1で表される酸化物以外の成分を含んでもよい。つまり誘電性薄膜3は、Bi、Na、Ba、Ti及びOに加えて他の元素を含んでよい。ただし、誘電性薄膜3は、人体や環境を害する鉛を含まないほうがよい。
【0035】
図1中の(b)に示される第一単位格子tc1は、上記の金属酸化物の正方晶を構成する単位格子である。第一単位格子tc1は直方体である。第一単位格子tc1が有する8個の頂点其々には、Bi、Na及びBaからなる群より選ばれる一種の元素が位置する。説明の便宜上、図1中の(b)では、第一単位格子tc1の体心のTiは省略され、第一単位格子tc1の6つの面心のOも省略されている。第一単位格子tc1から構成されるペロブスカイト構造の(100)面の面間隔は、aと表される。aは、第一単位格子tc1のa軸方向における格子定数と言い換えられてよい。第一単位格子tc1から構成されるペロブスカイト構造の(001)面の面間隔は、cと表される。cは、第一単位格子tc1のc軸方向における格子定数と言い換えられてよい。c/aは、ペロブスカイト構造の歪み(異方性)の程度を意味する。ペロブスカイト構造を有する正方晶のc/aは1よりも大きい。c/aが大きいほど、誘電性薄膜3は誘電性に優れる傾向がある。またc/aが大きいほど、誘電性薄膜3が圧電性に優れる傾向があり、誘電性薄膜3の圧電定数d33が増加し易い。
【0036】
第一単位格子tc1が示すように、少なくとも一部の正方晶の(100)面は、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向している。換言すれば、少なくとも一部の正方晶の[100](結晶方位)が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であってよい。全部の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。誘電性薄膜3の表面とは、誘電性薄膜3の表面全体のうち、誘電性薄膜3の端面を除く面である。例えば、誘電性薄膜3の表面とは、誘電性薄膜3の表面全体のうち、図1の(b)中のXY面に平行な面である。誘電性薄膜3の表面は、単結晶基板1の表面に面する面であってよい。誘電性薄膜3の表面の法線方向dnは、誘電性薄膜3の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。第一単位格子tc1の[100]は、誘電性薄膜3の自発分極方向と言い換えられてよい。
【0037】
少なくとも一部の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していることにより、誘電性薄膜3は優れた誘電性を有することができる。換言すれば、少なくとも一部の正方晶の[100]が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnと略平行であることにより、誘電性薄膜3は高い比誘電率を有することができる。本実施形態に係る誘電性薄膜3の誘電損失(tanδ)は、BNT‐BTを含む従来の誘電性薄膜の誘電損失よりも小さい傾向がある。本実施形態に係る誘電性薄膜3の抵抗率は、BNT‐BTを含む従来の誘電性薄膜の抵抗率よりも高い傾向がある。
【0038】
少なくとも一部の正方晶の(100)面は、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。換言すれば、少なくとも一部の正方晶の[100](結晶方位)が、単結晶基板1の表面の法線方向Dと略平行であってよい。全部の正方晶の(100)面が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の表面とは、単結晶基板1の表面全体のうち、単結晶基板1の端面を除く面である。例えば、単結晶基板1の表面とは、単結晶基板1の表面全体のうち、図1の(b)中のXY面に平行な面である。単結晶基板1の表面とは、誘電性薄膜3の表面に面する面であってよい。単結晶基板1の表面の法線方向Dは、単結晶基板1の厚み方向(Z軸方向)と言い換えられてよい。
【0039】
以下では、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向する(100)面に由来する回折X線のピーク面積は、「A(100)」と表記される。一方、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向する(001)面に由来する回折X線のピーク面積は、「A(001)」と表記される。
【0040】
誘電性薄膜3の表面の法線方向dnに平行な電界が、誘電性薄膜3へ印加される時、A(001)が増加してもよい。換言すれば、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnに平行な電界が、誘電性薄膜3へ印加されている状態において、一部の正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向してよく、別の一部の正方晶の(001)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向していてよい。誘電性薄膜3へ印加される電界強度の増加に伴って、A(100)が減少してよく、且つA(001)が増加してもよい。誘電性薄膜3へ印加される電界強度の減少に伴って、A(100)が増加してよく、且つA(001)は減少してよい。電圧が誘電性薄膜3へ印加される時、誘電性薄膜3の表面と裏面との間の電界強度は、例えば、5~50kV/mmであってよい。
【0041】
誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて(100)面が配向する正方晶は、図1中の(b)に示される第一単位格子tc1から構成される。以下では、第一単位格子tc1から構成される正方晶が、「aドメイン」(a‐domain)と表記される。つまり、aドメインは、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて(100)面が配向する正方晶である。一方、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて(001)面が配向する正方晶は、図1中の(b)に示される第二単位格子tc2から構成される。第二単位格子tc2結晶方位は、第一単位格子tc1から構成される結晶方位と異なる。第二単位格子tc2の[001](結晶方位)は、第一単位格子tc1の[100]と略平行である。結晶方位の違いを除いて、第二単位格子tc2は第一単位格子tc1と同じであってよい。以下では、第二単位格子tc2から構成される正方晶が、「cドメイン」(c‐domain)と表記される。cドメインは、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて(001)面が配向する正方晶である。cドメインの[001](結晶方位)は、aドメインの[100]と略平行である。
【0042】
電界の印加に伴うピーク面積A(001)の増加は、aドメインの少なくとも一部がcドメインに変化することを意味する。つまり、上記の電界が誘電性薄膜3へ印加された状態において、誘電性薄膜3は、結晶方位が異なるaドメイン及びcドメインの両方を含んでよい。以下では、電界の印加に伴うaドメインからcドメインへの変化が、「ドメインスイッチング効果」(domain switching effect)と表記される。以下では、aドメイン及びcドメインの両方を含む誘電性薄膜3の構造は、「マルチドメイン構造」(multi domain structure)と表記される。電界中においてマルチドメイン構造を有することができる誘電性薄膜3は、「マルチドメイン膜」と表記される。電界の印加によって誘電性薄膜3がマルチドメイン膜になった後、電界の消失によってマルチドメイン膜は誘電性薄膜3に戻ってよい。つまり、誘電性薄膜3は可逆的にマルチドメイン膜へ変化してよい。
【0043】
誘電性薄膜3の表面の法線方向dnに平行な電界が、誘電性薄膜3へ印加される時、正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積が増加しなくてよい。つまり、誘電性薄膜3はマルチドメイン薄膜でなくてよい。マルチドメイン薄膜でない誘電性薄膜3は、「非マルチドメイン膜」と表記される。
【0044】
マルチドメイン膜は、非マルチドメイン膜よりも、圧電性において優れる場合がある。換言すれば、マルチドメイン膜の圧電定数d33は、非マルチドメイン膜の圧電定数d33よりも大きい場合がある。マルチドメイン膜の-e31,f(別の圧電定数)が、非マルチドメイン膜の-e31,fよりも大きい場合もある。またマルチドメイン膜の誘電損失(tanδ)は、非マルチドメイン膜の誘電損失よりも小さい傾向がある。一方、非マルチドメイン膜の比誘電率は、マルチドメイン膜の比誘電率よりも高い。非マルチドメイン膜は、圧電性を有していなくてよい。
【0045】
誘電性薄膜3の表面の法線方向dnに平行な電界が、誘電性薄膜3へ印加される時、下記数式Aで定義されるVcは、10~70%であってよい。Vcは、aドメイン及びcドメインの体積の合計に対する、cドメインの体積の割合とみなされてよい。Vcが上記範囲であることにより、マルチドメイン膜の圧電定数d33が増加し易く、マルチドメイン膜の誘電損失が減少し易い。
Vc=100×A(001)/(A(100)+A(001)) (A)
【0046】
誘電性薄膜3の一部分の組成は、上記化学式1で表されるBNT‐BTの組成からずれていてもよい。ペロブスカイト構造を有する酸化物の組成が、ABOで表される場合、誘電性薄膜3の一部分においては、Bサイトを占めるTiの一部が、Bi、Na及びBaのうちいずれかの元素で置換されていてよい。誘電性薄膜3の一部分においては、酸素欠陥が生じていてもよい。例えば、誘電性薄膜3の一部分の組成は、ペロブスカイト構造が損なわれない限りにおいて、下記化学式2で表されてよい。
(Bi0.5±δ1Na0.5±δ21-xBaTiO3±δ3 (2)
上記化学式2中、xは、0<x<1、0.15≦x≦0.70、0.15≦x≦0.600、0.15≦x<0.50又は0.15≦x≦0.40を満たしてよい。δ1は0.5±δ1≧0を満たしてよい。δ2は0.5±δ2≧0を満たしてよい。δ3は3±δ3≧0を満たしてよい。δ1、δ2及びδ3は其々、0より大きく1.0以下である。δ1、δ2及びδ3は、例えば、放射光X線回折により測定されるAサイトイオン及びBサイトイオン其々の電子状態から算出されてよい。
【0047】
誘電性薄膜3の厚さは、例えば、10nm~10μm程度であってよい。誘電性薄膜3の面積は、例えば、1μm~500mmであってよい。単結晶基板1、第一電極層2、第二電極層4其々の面積は、誘電性薄膜3の面積と同じであってよい。
【0048】
単結晶基板1は、例えば、Siの単結晶からなる基板、又はGaAs等の化合物半導体の単結晶からなる基板であってよい。単結晶基板1は、MgO等の酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。単結晶基板1は、KTaO3等のペロブスカイト型酸化物の単結晶からなる基板であってもよい。単結晶基板1の厚さは、例えば、10~1000μmであってよい。単結晶基板1が導電性を有する場合、単結晶基板1が電極として機能するので、第一電極層2はなくてもよい。つまり、単結晶基板1が導電性を有する場合、誘電性薄膜3が単結晶基板1に直接重なっていてもよい。
【0049】
単結晶基板1の結晶方位は、単結晶基板1の表面の法線方向Dと等しくてよい。つまり、単結晶基板1の表面は、単結晶基板1の結晶面であってよい。単結晶基板1は一軸配向基板であってよい。例えば、(100)面、(001)面、(110)面、(101)面、及び(111)面からなる群より選ばれる少なくとも一つの単結晶基板1の結晶面が、単結晶基板1の表面であってよい。つまり、[100]、[001]、[110]、[101]、及び[111]からなる群より選ばれる少なくとも一つの単結晶基板1の結晶方位が、単結晶基板1の表面の法線方向Dと平行であってよい。
【0050】
第一電極層2は、例えば、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Au(金)、Ru(ルテニウム)、Ir(イリジウム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、及びNi(ニッケル)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第一電極層2は、例えば、LaNiO、SrRuO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。その結果、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。第一電極層2は、結晶質であってよい。第一電極層2の表面の結晶方位が、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の[100]と略平行であってよい。その結果、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。第一電極層2の[100](結晶方位)が、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の[100]と略平行であってよい。その結果、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の(100)面が、誘電性薄膜3の表面の法線方向dnにおいて配向し易い。第一電極層2の表面の結晶方位が、単結晶基板1の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の表面の結晶方位と、第一電極層2の結晶構造の面方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。法線方向Dにおいて配向する第一電極層2の結晶方位が、法線方向Dにおいて配向する単結晶基板1の結晶方位と同じであってよい。第一電極層2の厚さは、例えば、1nm~1.0μmであってよい。第一電極層2の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法では、第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2の加熱を行ってもよい。
【0051】
誘電性薄膜3は、例えば、以下の方法により形成されてよい。
【0052】
誘電性薄膜3の形成には、BNT‐BTターゲットを用いる。BNT‐BTターゲットとは、上記化学式1で表される酸化物からなるターゲットであってよい。後述される気相成長法において、BNT‐BTターゲット中のビスマス及びナトリウムは、他の元素に比べて揮発し易い。したがって、BNT‐BTターゲット中のビスマスのモル比は、誘電性薄膜3中のビスマスのモル比よりも高い値に設定されてよく、BNT‐BTターゲット中のナトリウムのモル比は、誘電性薄膜3中のナトリウムのモル比よりも高い値に設定されてよい。BNT‐BTターゲットの作製方法は、次の通りである。
【0053】
出発原料として、例えば、酸化ビスマス、炭酸ナトリウム、酸化チタン、および炭酸バリウムの原料粉末を用意する。これらの出発原料を100℃以上で十分に乾燥した後、Biのモル数、Naのモル数、Tiのモル数およびBaのモル数が、成膜後の組成分析において上記化学式1で規定された範囲内になるように、各出発原料を秤量する。出発原料として、上記の酸化物に代えて、炭酸塩又はシュウ酸塩等のように、焼成により酸化物となる物質を用いてもよい。
【0054】
秤量した出発原料を、例えば、ボールミル等を用いて、有機溶媒又は水の中で、5~20時間十分に混合する。混合後の出発原料を、十分乾燥した後、プレス機で成形する。成形された出発原料を、750~900℃で1~3時間程度仮焼する。続いて、この仮焼物を、ボールミル等を用いて、有機溶媒又は水の中で、5~30時間粉砕する。粉砕された仮焼物を、再び乾燥し、バインダー溶液を加えて造粒して、仮焼物の粉を得る。この粉をプレス成形して、ブロック状の成形体を得る。
【0055】
ブロック状の成形体を、400~800℃で、2~4時間程度加熱して、バインダーを揮発させる。続いて、成形体を、800~1100℃で、2時間~4時間程度焼成する。この本焼成時の成形体の昇温速度及び降温速度は、例えば50~300℃/時間程度に調整すればよい。
【0056】
以上の工程により、BNT‐BTターゲットが得られる。BNT‐BTターゲットに含まれるBNT‐BTの結晶粒の平均粒径は、例えば、1~20μm程度であってよい。
【0057】
上記BNT‐BTターゲットを用いた気相成長法によって、誘電性薄膜3を形成すればよい。気相成長法では、真空雰囲気下において、BNT‐BTターゲットを構成する元素を蒸発させる。蒸発した元素を、バッファ層(中間層)、第一電極層2、又は単結晶基板1のいずれかの表面に付着・堆積させることにより、誘電性薄膜3を成長させる。気相成長法は、例えば、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition)法、又はパルスレーザー堆積(Pulsed-laser deposition)法であればよい。以下では、パルスレーザー堆積法を、PLD法と記す。これらの気相成長法を用いることによって、原子レベルでの緻密な膜形成が可能となり、偏析などが生じ難くなる。気相成長法の種類に依って、励起源が異なる。スパッタリング法の励起源は、Arプラズマである。電子ビーム蒸着法の励起源は、電子ビームである。PLD法の励起源は、レーザー光(例えば、エキシマレーザー)である。これらの励起源がBNT‐BTターゲットに照射されると、BNT‐BTターゲットを構成する元素が蒸発する。
【0058】
上記の気相成長法の中でも、以下の点において、PLD法が比較的に優れている。PLD法では、パルスレーザーにより、BNT‐BTターゲットを構成する各元素を、一瞬で斑なくプラズマ化させることができる。したがって、BNT‐BTターゲットとほぼ同じ組成を有する誘電性薄膜3を形成し易い。またPLD法では、レーザーのパルス数(繰り返し周波数)を変えることで、誘電性薄膜3の厚さを制御し易い。
【0059】
誘電性薄膜3は、エピタキシャル成長によって形成されていてよい。エピタキシャル成長により、(100)面の配向性に優れた誘電性薄膜3が形成され易い。誘電性薄膜3がPLD法によって形成される場合、誘電性薄膜3がエピタキシャル成長によって形成され易い。
【0060】
PLD法では、真空チャンバー内における単結晶基板1及び第一電極層2を加熱しながら、誘電性薄膜3を形成する。単結晶基板1及び第一電極層2の温度(成膜温度)は、例えば、300~800℃、500~700℃、又は500~600℃であればよい。成膜温度が高いほど、誘電性薄膜3が形成される表面の清浄度が改善され、誘電性薄膜3の結晶性が高まる。その結果、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の(100)面の配向度が高まり易い。成膜温度が高過ぎる場合、Bi又はNaが誘電性薄膜3から脱離し易く、誘電性薄膜3の組成を制御し難くなる。
【0061】
PLD法では、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、10mTorrより大きく400mTorr未満、15~300mTorr、又は20~200mTorrであってよい。換言すると、真空チャンバー内の酸素分圧は、例えば、1Paより大きく53Pa未満、2~40Pa、又は3~30Paであってよい。酸素分圧が上記範囲内に維持されることにより、バッファ層、第一電極層2又は単結晶基板1のいずれかの表面に堆積したBi,Na及びTiを十分に酸化し易い。酸素分圧が高過ぎる場合、誘電性薄膜3の成長速度及び配向度が低下し易い。
【0062】
PLD法で制御される上記以外のパラメータは、例えば、レーザー発振周波数、及び基板・ターゲット間の距離などである。これらのパラメータの制御によって、誘電性薄膜3の所望の圧電特性を得易い。例えば、レーザー発振周波数が10Hz以下である場合、誘電性薄膜3の面方位の配向度が高まり易い。
【0063】
上記方法で誘電性薄膜3成長させた後、誘電性薄膜3のアニール処理(加熱処理)を行ってよい。アニール処理における誘電性薄膜3の温度(アニール温度)は、例えば、300~1000℃、600~1000℃、又は850~1000℃であってよい。誘電性薄膜3の成長後にアニール処理を行うことにより、誘電性薄膜3の誘電性及び圧電性が更に向上する傾向がある。特に850~1000℃でのアニール処理を行うことにより、誘電性薄膜3の誘電性及び圧電性が向上し易い。ただし、アニール処理は必須でない。
【0064】
第二電極層4は、例えば、例えば、Pt、Pd、Rh、Au、Ru、Ir、Mo、Ti、Ta、及びNiからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属からなっていてよい。第二電極層4は、例えば、LaNiO、SrRuO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性金属酸化物からなっていてよい。第二電極層4は、結晶質であってよい。第二電極層4の表面の結晶方位は、単結晶基板1の表面の結晶方位と略平行であってよい。第二電極層4の表面の結晶方位は、誘電性薄膜3に含まれる正方晶の[100]と略平行であってもよい。第二電極層4の厚さは、例えば、1nm~1.0μmであってよい。第二電極層4の形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法であってよい。印刷法、スピンコート法、又はゾルゲル法では、第一電極層2の結晶性を高めるために、第一電極層2の加熱を行ってもよい。
【0065】
誘電性薄膜素子10は、少なくとも一つの中間層を更に備えてよい。中間層は、バッファ層と言い換えられてよい。以下に説明されるように、中間層は、単結晶基板1と第一電極層2との間、第一電極層2と誘電性薄膜3との間、又は誘電性薄膜3と第二電極層4との間に配置されていてよい。
【0066】
単結晶基板1と第一電極層2との間に中間層(基板側中間層)が介在していてよい。つまり、基板側中間層が単結晶基板1の表面に直接重なっていてよい。基板側中間層を構成する物質は、例えば、Ti、Cr、TiO、SiO、Y及びZrOからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。単結晶基板1がSiの単結晶である場合、第一電極層2が基板側中間層を介して単結晶基板1に密着し易い。基板側中間層は、結晶質であってよい。基板側中間層の表面の結晶方位が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の表面の結晶方位と、基板側中間層の表面の結晶方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。法線方向Dにおいて配向する基板側中間層の結晶方位が、法線方向Dにおいて配向する単結晶基板1の結晶方位と同じであってよい。
【0067】
図1中の(a)に示されるように、基板側中間層は、単結晶基板1に重なる第一密着層5aと、第一密着層5aに重なる第二密着層5bから構成されていてよい。第一密着層5aは、例えば、SiOの結晶からなっていてよい。第二密着層5bは、例えば、TiOの結晶からなっていてよい。
【0068】
第一電極層2と誘電性薄膜3との間に第一中間層(バッファ層)が介在していてもよい。第一中間層を構成する物質は、例えば、LaNiO、SrRuO及び(La,Sr)CoOからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。第一中間層は、結晶質であってよい。第一中間層の表面の結晶方位が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の表面の結晶方位と、第一中間層の表面の結晶方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。法線方向Dにおいて配向する第一中間層の結晶方位が、法線方向Dにおいて配向する単結晶基板1の結晶方位と同じであってよい。
【0069】
以下の通り、第一中間層が二つ以上の層から構成されていてよい。
【0070】
例えば図1中の(a)に示されるように、第一中間層は、第一結晶質層6a及び第二結晶質層6bから構成されてよい。つまり、誘電性薄膜素子10は、単結晶基板1と、単結晶基板1に重なる第一電極層2と、第一電極層2に重なる第一結晶質層6aと、第一結晶質層6aに重なる第二結晶質層6bと、第二結晶質層6bに重なる誘電性薄膜3と、誘電性薄膜3に重なる第二電極層4と、を備えてよい。
【0071】
第一結晶質層6aが、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含んでよく、且つ第二結晶質層6bが、ペロブスカイト構造を有するSrRuOの結晶を含んでよく、且つ第一結晶質層6aの(100)面が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよく、且つ第二結晶質層6bの(100)面が、単結晶基板1の表面の法線方向において配向していてよい。その結果、第二結晶質層6bに重なる誘電性薄膜3が、非マルチドメイン膜になり易い。
【0072】
第一結晶質層6aが、ペロブスカイト構造を有するLaNiOの結晶を含んでよく、且つ第二結晶質層6bが、ペロブスカイト構造を有する(La,Sr)CoOの結晶を含んでよく、且つ第一結晶質層6aの(100)面が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよく、且つ第二結晶質層6bの(100)面が、単結晶基板1の表面の法線方向において配向していてよい。その結果、第二結晶質層6bに重なる誘電性薄膜3が、マルチドメイン膜になり易い。
【0073】
誘電性薄膜3と第二電極層4との間に第二中間層が介在していてもよい。第二中間層を構成する物質は、第一中間層を構成する物質と同じであってよい。第二中間層は、結晶質であってよい。第二中間層の表面の結晶方位が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向していてよい。単結晶基板1の表面の結晶方位と、第二中間層の表面の結晶方位と、の両方が、単結晶基板1の表面の法線方向Dにおいて配向してよい。法線方向Dにおいて配向する第二中間層の結晶方位が、法線方向Dにおいて配向する単結晶基板1の結晶方位と同じであってよい。
【0074】
誘電性薄膜素子10の表面の少なくとも一部又は全体が、保護膜によって被覆されていてよい。保護膜による被覆により、例えば誘電性薄膜素子10の耐湿性が向上する。
【0075】
本実施形態に係る誘電性薄膜3は、圧電薄膜であってよく、本実施形態に係る誘電性薄膜素子10は、圧電素子であってよい。特にマルチドメイン膜は、圧電薄膜に適しており、マルチドメイン膜を備える誘電性薄膜素子は、圧電素子に適している。圧電素子の用途は、多岐にわたる。圧電素子は、例えば、圧電アクチュエータに用いられてよい。圧電アクチュエータは、例えば、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、又はハードディスクドライブに用いられてもよい。圧電アクチュエータは、例えば、プリンタヘッド、又はインクジェットプリンタ装置に用いられてもよい。圧電素子は、例えば、圧電センサに用いられてもよい。圧電センサは、例えば、ジャイロセンサ、圧力センサ、脈波センサ、又はショックセンサであってよい。圧電薄膜又は圧電素子は、例えば、マイクロフォンへ適用されてもよい。誘電性薄膜又は誘電性薄膜素子は、微小電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems;MEMS)の一部に応用されてよい。
【0076】
以下では、誘電性薄及び誘電性薄膜素子の用途が、具体的に説明される。以下に記載の圧電薄膜は、誘電性薄膜を意味する。以下に記載の圧電素子は、誘電性薄膜素子を意味する。
【0077】
(圧電アクチュエータ)
図2は、ハードディスクドライブ(HDD)に搭載されるヘッドアセンブリ200を示す。ヘッドアセンブリ200は、ベースプレート9、ロードビーム11、フレクシャ17、第1及び第2の圧電素子100、及びヘッドスライダ19を備えている。第1及び第2の圧電素子100は、ヘッドスライダ19用の駆動素子である。ヘッドスライダ19は、ヘッド素子19aを有する。
【0078】
ロードビーム11は、ベースプレート9に固着された基端部11bと、この基端部11bから延在する第1の板バネ部11c及び第2の板バネ部11dと、板バネ部11c及び11dの間に形成された開口部11eと、板バネ部11c及び11dに連続して直線的に延在するビーム主部11fと、を備えている。第1の板バネ部11c及び第2の板バネ部11dは、先細りになっている。ビーム主部11fも、先細りになっている。
【0079】
第1及び第2の圧電素子100は、所定の間隔をもって、フレクシャ17の一部である配線用フレキシブル基板15上に配置されている。ヘッドスライダ19は、フレクシャ17の先端部に固定されており、第1及び第2の圧電素子100の伸縮に伴って回転運動する。
【0080】
図3は、プリンタヘッド用の圧電アクチュエータ300を示す。圧電アクチュエータ300は、基体20と、基体20に重なる絶縁膜23と、絶縁膜23に重なる単結晶基板24と、単結晶基板24に重なる圧電薄膜25と、圧電薄膜25に重なる上部電極層26(第二電極層)と、を備える。単結晶基板24は導電性を有し、下部電極層としての機能も有する。下部電極層とは、上記の第一電極層と言い換えてよい。上部電極層とは、上記の第二電極層と言い換えてよい。
【0081】
所定の吐出信号が供給されず、単結晶基板24(下部電極層)と上部電極層26との間に電界が印加されていない場合、圧電薄膜25は変形しない。吐出信号が供給されていない圧電薄膜25に隣り合う圧力室21内では、圧力変化が生じず、そのノズル27からインク滴は吐出されない。
【0082】
一方、所定の吐出信号が供給され、単結晶基板24(下部電極層)と上部電極層26との間に一定電界が印加された場合、圧電薄膜25が変形する。圧電薄膜25の変形によって絶縁膜23が大きくたわむので、圧力室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル27からインク滴が吐出される。
【0083】
(圧電センサ)
図4及び図5は、圧電センサの一種であるジャイロセンサ400を示す。ジャイロセンサ400は、基部110と、基部110の一面に接続される一対のアーム120及び130と、を備える。一対のアーム120及び130は、音叉振動子である。つまり、ジャイロセンサ400は、音叉振動子型の角速度検出素子である。このジャイロセンサ400は、上述の圧電素子を構成する圧電薄膜30、上部電極層31、及び単結晶基板32を、音叉型振動子の形状に加工して得られたものである。基部110とアーム120及び130は、圧電素子と一体化されている。単結晶基板32は、導電性を有し、下部電極層としての機能も有する。
【0084】
一方のアーム120の第一の主面には、駆動電極層31a及び31bと、検出電極層31dとが、形成されている。同様に、他方のアーム130の第一の主面には、駆動電極層31a及び31bと、検出電極層31cとが形成されている。各電極層31a、31b、31c、31dは、上部電極層31をエッチングにより所定の電極の形状に加工することにより得られる。
【0085】
単結晶基板32(下部電極層)は、基部110、並びにアーム120及び130のそれぞれの第二の主面(第一の主面の裏面)の全体に形成されている。単結晶基板32(下部電極層)は、ジャイロセンサ400のグランド電極として機能する。
【0086】
アーム120及び130其々の長手方向をZ方向と規定し、アーム120及び130の主面を含む平面をXZ平面と規定することにより、XYZ直交座標系が定義される。
【0087】
駆動電極層31a、31bに駆動信号を供給すると、二つのアーム120、130は、面内振動モードで励振する。面内振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に平行な向きに二つのアーム120、130が励振するモードである。例えば、一方のアーム120が-X方向に速度V1で励振しているとき、他方のアーム130は+X方向に速度V2で励振する。
【0088】
この状態で、ジャイロセンサ400にZ軸を回転軸とする角速度ωの回転が加わると、アーム120、130のそれぞれに対して、速度方向に直交する向きにコリオリ力が作用する。その結果、アーム120、130が、面外振動モードで励振し始める。面外振動モードとは、二つのアーム120、130の主面に直交する向きに二つのアーム120、130が励振するモードである。例えば、一方のアーム120に作用するコリオリ力F1が-Y方向であるとき、他方のアーム130に作用するコリオリ力F2は+Y方向である。
【0089】
コリオリ力F1、F2の大きさは、角速度ωに比例するため、コリオリ力F1、F2によるアーム120、130の機械的な歪みを圧電薄膜30によって電気信号(検出信号)に変換し、これを検出電極層31c、31dから取り出すことにより、角速度ωが求められる。
【0090】
図6は、圧電センサの一種である圧力センサ500を示す。圧力センサ500は、圧電素子40と、圧電素子40を支える支持体44と、電流増幅器46と、電圧測定器47とから構成されている。圧電素子40は、共通電極層41と、共通電極層41に重なる圧電薄膜42と、圧電薄膜42に重なる個別電極層43とからなる。共通電極層41は、導電性の単結晶基板である。共通電極層41と支持体44とに囲まれた空洞45は、圧力に対応する。圧力センサ500に外力がかかると圧電素子40がたわみ、電圧測定器47で電圧が検出される。
【0091】
図7は、圧電センサの一種である脈波センサ600を示す。脈波センサ600は、圧電素子50と、圧電素子50を支える支持体54と、電圧測定器55とから構成されている。圧電素子50は、共通電極層51と、共通電極層51に重なる圧電薄膜52と、圧電薄膜52に重なる個別電極層53とからなる。共通電極層51は、導電性の単結晶基板である。脈波センサ600の支持体54の裏面(圧電素子50が搭載されていない面)を生体の動脈上に当接させると、生体の脈による圧力で支持体54と圧電素子50がたわみ、電圧測定器55で電圧が検出される。
【0092】
(ハードディスクドライブ)
図8は、図2に示すヘッドアセンブリが搭載されたハードディスクドライブ700を示す。図8のヘッドアセンブリ65は、図2のヘッドアセンブリ200と同じである。
【0093】
ハードディスクドライブ700は、筐体60と、筐体60内に設置されたハードディスク61(記録媒体)と、ヘッドスタックアセンブリ62と、を備えている。ハードディスク61は、モータによって回転させられる。ヘッドスタックアセンブリ62は、ハードディスク61へ磁気情報を記録したり、ハードディスク61に記録された磁気情報を再生したりする。
【0094】
ヘッドスタックアセンブリ62は、ボイスコイルモータ63と、支軸に支持されたアクチュエータアーム64と、アクチュエータアーム64に接続されたヘッドアセンブリ65と、を有する。アクチュエータアーム64は、ボイスコイルモータ63により、支軸周りに回転自在である。アクチュエータアーム64は、複数のアームに分かれており、各アームそれぞれにヘッドアセンブリ65が接続されている。つまり、複数のアーム及びヘッドアセンブリ65が支軸に沿って積層されている。ヘッドアセンブリ65の先端部には、ハードディスク61に対向するようにヘッドスライダ19が取り付けられている。
【0095】
ヘッドアセンブリ65(200)は、ヘッド素子19aを2段階で変動させる。ヘッド素子19aの比較的大きな移動は、ボイスコイルモータ63によるヘッドアセンブリ65及びアクチュエータアーム64の全体の駆動によって、制御される。ヘッド素子19aの微小な移動は、ヘッドアセンブリ65の先端部に位置するヘッドスライダ19の駆動により制御する。
【0096】
(インクジェットプリンタ装置)
図9は、インクジェットプリンタ装置800を示す。インクジェットプリンタ装置800は、プリンタヘッド70と、本体71と、トレイ72と、ヘッド駆動機構73と、を備えている。図9のプリンタヘッド70は、図3の圧電アクチュエータ300を有している。
【0097】
インクジェットプリンタ装置800は、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの計4色のインクカートリッジを備えている。インクジェットプリンタ装置800によるフルカラー印刷が可能である。インクジェットプリンタ装置800の内部には、専用のコントローラボード等が搭載されている。コントローラボード等は、プリンタヘッド70によるインクの吐出のタイミング、及びヘッド駆動機構73の走査を制御する。本体71の背面にはトレイ72が設けられ、トレイ72の一端側にはオートシートフィーダ(自動連続給紙機構)76が設けられている。オートシートフィーダ76が、記録用紙75を自動的に送り出し、正面の排出口74から記録用紙75を排紙する。
【0098】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、本発明の種々の変更が可能であり、これ等の変更例も本発明に含まれる。
【0099】
例えば、誘電性薄膜3を、気相成長法の代わりに、溶液法によって形成してもよい。
【実施例
【0100】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
(実施例1)
Siからなる単結晶基板を準備した。単結晶基板の表面は、Siの(100)面であった。単結晶基板は、10mm×10mmの正方形であった。単結晶基板の厚さは、500μmであった。
【0102】
真空チャンバー内で、SiOの結晶からなる第一密着層を単結晶基板の表面全体に形成した。
【0103】
真空チャンバー内で、TiOの結晶からなる第二密着層を第一密着層の表面全体に形成した。第二密着層は、スパッタリング法により形成した。
【0104】
真空チャンバー内で、Ptの結晶からなる第一電極層を第二密着層の表面全体に形成した。第一電極層は、スパッタリング法により形成した。第一電極層の表面は、Ptの(111)面であった。
【0105】
真空チャンバー内で、LaNiOの結晶からなる第一バッファ層(第一結晶質層)を第一電極層の表面全体に形成した。第一バッファ層は、スパッタリング法により形成した。スパッタリングのターゲットには、LaNiOを用いた。第一バッファ層の形成過程における単結晶基板の温度は、350℃に維持した。真空チャンバー内へ供給される酸素ガス及びアルゴンガスの流量比は、酸素:アルゴン=3:1であり、真空チャンバー内の気圧(全圧)は、10mTоrrに設定された。第一バッファ層の表面は、LaNiOの(100)面であった。第一バッファ層の厚さは、70nmであった。
【0106】
上記の方法で作製された積層体を、真空チャンバー内でアニールした。真空チャンバー内へ供給される酸素ガス及び窒素ガスの流量比は、酸素:窒素=1:4であった。アニーリングでは、積層体を50℃/分の昇温速度で800℃まで加熱し、積層体を800℃で30分間保持し、続いて積層体を自然冷却した。
【0107】
真空チャンバー内で、La0.5Sr0.5CoOの結晶からなる第二バッファ層(第二結晶質層)を第一バッファ層の表面全体に形成した。第二バッファ層は、PLD法を用いたエピタキシャル成長により形成した。PLDのターゲットには、La0.5Sr0.5CoOを用いた。第二バッファ層の形成過程における単結晶基板の温度は、675℃に維持した。真空チャンバー内へ供給されるガスは、酸素ガスであり、真空チャンバー内の気圧(全圧)は、200mTоrrに設定された。第二バッファ層の表面は、La0.5Sr0.5CoOの(100)面であった。第二バッファ層の厚さは、90nmであった。
【0108】
真空チャンバー内で、誘電性薄膜を第二バッファ層の表面全体に形成した。誘電性薄膜は、PLD法を用いたエピタキシャル成長により形成した。誘電性薄膜の形成過程における単結晶基板の温度(成膜温度)は、675℃に維持した。誘電性薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、200mTorrに維持した。誘電性薄膜の形成には、BNT‐BTターゲットを用いた。BNT‐BTターゲットの作製の際には、目的とする誘電性薄膜の組成に応じて、BNT‐BTターゲットの原料粉末(酸化ビスマス、炭酸ナトリウム、酸化チタン及び炭酸バリウム)の配合比を決定し、BNT‐BTターゲットの組成は、下記化学式3で表されるものであった。下記化学式3におけるxの値は、0.3であった。BNT‐BTターゲットに照射したレーザーのパワーは250mJであった。レーザーの周波数は5Hzであった。誘電性薄膜の厚さは、2000nmに調整した。
(1-x)(Bi0.7Na0.7)TiO‐xBaTiO (3)
【0109】
以上の方法で、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層を介して単結晶基板に重なる誘電性薄膜と、を備える積層体を作製した。積層体の表面に位置する誘電性薄膜の組成を、蛍光X線分析法(XRF法)により分析した。分析には、Phillips社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、実施例1の誘電性薄膜の組成は、下記化学式1で表され、下記化学式1におけるxの値は、0.3であることが確認された。
(1-x)(Bi0.5Na0.5)TiO‐xBaTiO (1)
【0110】
真空チャンバー内で、Ptからなるドット状(円状)の第二電極層を、上記積層体が有する誘電性薄膜の表面に形成した。第二電極層の半径は200μmであった。第二電極層は、スパッタリング法により形成した。第二電極層の形成過程における単結晶基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚さは、0.1μmに調整した。
【0111】
以上の方法により、実施例1の誘電性薄膜素子を作製した。誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一密着層と、第一密着層に重なる第二密着層と、第二密着層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一バッファ層と、第一バッファ層に重なる第二バッファ層と、第二バッファ層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。
【0112】
<誘電性薄膜素子の分析>
[結晶構造の特定]
上記の方法で形成された誘電性薄膜のX線回折(XRD)パターンを測定した。測定には、フィリップス社製のX線回折装置(X’Pert MRD)を用いた。回折角2θが10~70°である範囲で2θ‐θ測定を行った。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件を設定した。実施例1のXRDパターンは、誘電性薄膜を構成するBNT‐BTがペロブスカイト構造を有する結晶であることを示していた。
【0113】
Out of plane測定により、誘電性薄膜の表面に垂直な方向におけるBNT-BTの格子定数aを求めた。格子定数aは、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面の面間隔aに相当する。In Plane測定により、誘電性薄膜の表面に平行な方向におけるBNT-BTの格子定数cを求めた。格子定数cは、誘電性薄膜の表面に垂直である結晶面の面間隔cに相当する。格子定数aと格子定数cとの比較により、BNT‐BTの結晶の(100)面及び(001)面其々の面方位を特定した。BNT-BTは、室温においてペロブスカイト構造を有する正方晶であるため、BNT-BTの(100)の面間隔は、BNT-BTの(001)面の面間隔よりも小さい。実施例1の場合、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面の面間隔aが、誘電性薄膜の表面に垂直である結晶面の面間隔cよりも小さかった。したがって、BNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(100)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(001)面であった。つまり、ペロブスカイト構造を有する正方晶の(100)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。正方晶の(100)面の面間隔aは、3.94Åであった。正方晶の(001)面の面間隔cは、3.98Åであった。c/aは、1.01であった。
【0114】
[マルチドメイン構造の特定]
以下の通り、実験1~3を実施した。
【0115】
<<実験1>>
実験1の場合、電圧を第一電極層と第二電極層との間に印加していない状態で、誘電性薄膜素子のX線回折(XRD)パターンを測定した。測定には、Bruker株式会社製のX線回折装置(D8)を用いた。回折角2θが10~70°である範囲で2θ‐θ測定を行った。XRDパターン中の各ピーク強度がバックグラウンド強度に対して少なくとも3桁以上高くなるように、測定条件を設定した。実験1によって測定されたXRDパターンは、図10に示される。
【0116】
XRDパターンは、回折角2θが46.0°である回折X線のピークを有していた。回折角2θが46.0°である回折X線は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している正方晶の(100)面に由来する。つまり、誘電性薄膜を構成する正方晶の(100)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。一方、XRDパターンは、回折角2θが45.6°である回折X線のピークを有していなかった。回折角2θが45.6°である回折X線は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している正方晶の(001)面に由来するはずである。したがって、誘電性薄膜は、誘電性薄膜の表面の法線方向において(001)面が配向している正方晶を含んでいなかった。
【0117】
<<実験2>>
実験1の後、以下の実験2を実施した。
【0118】
実験2の場合、20Vの電圧を第一電極層と第二電極層との間に印加した状態で、誘電性薄膜素子のX線回折(XRD)パターンを測定した。つまり、誘電性薄膜の表面の法線方向に平行な電界が、誘電性薄膜へ印加されている状態において、誘電性薄膜素子のX線回折(XRD)パターンを測定した。実験2によって測定されたXRDパターンは、図11に示される。
【0119】
XRDパターンは、回折角2θが45~47°である範囲にわたって連続するピークを有していた。回折角2θが46.0°である回折X線は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している正方晶の(100)面に由来する。回折角2θが45.6°である回折X線は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向している正方晶の(001)面に由来する。つまり、測定されたピークは、正方晶の(100)面に由来する回折X線のピークと、正方晶の(001)面に由来する回折X線のピークを包含していた。したがって、誘電性薄膜に電界が印加されている状態において、一部の正方晶の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向しており、別の一部の正方晶の(001)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。つまり、実施例1の誘電性薄膜は、マルチドメイン膜であった。
【0120】
正方晶の(100)面に由来する回折X線のピークを、Voigt関数f(100)で近似した。正方晶の(001)面に由来する回折X線のピークを、別のVoigt関数f(001)で近似した。測定されたピークとf(100)及びf(001)とのフィッティングを行った。フィッティング後のf(100)は、測定されたピークを構成する(100)面の回折X線のピークに相当する。フィッティング後のf(100)から、正方晶の(100)面の回折X線のピーク面積A(100)を算出した。フィッティング後のf(001)は、測定されたピークを構成する(001)面の回折X線のピークに相当する。フィッティング後のf(001)から、正方晶の(001)面の回折X線のピーク面積A(001)を算出した。下記数式Aで定義されるVcを算出した。Vcの単位は%である。実施例1のVcは、下記表1に示される。
Vc=100×A(001)/(A(100)+A(001)) (A)
【0121】
実験1のXRDパターンと実験2のXRDパターンを比較した。比較の結果、正方晶の(100)面に由来する回折X線のピークの強度は、誘電性薄膜への電界の印加によって減少することが確認された。
【0122】
以上の実験1及び2は、誘電性薄膜への電界の印加によってaドメインの一部がcドメインへ変化したことを示している。つまり、実施例1の誘電性薄膜ではドメインスイッチング効果が起きた。
【0123】
<<実験3>>
実験2の後、以下の実験3を実施した。
【0124】
実験3では、第一電極層と第二電極層との間に印加された電圧をゼロに戻した。実験2の後に実験3が実施されたことを除いて、実験3の方法は実験1と同じであった。実験3によって測定されたXRDパターンは、図12に示される。実験3で測定されたXRDパターンの形状は、実験1で測定されたXRDパターンの形状と概ね同じであった。つまり、誘電性薄膜へ印加される電界の消失によって、正方晶の(001)面の回折X線のピークが消えて、正方晶の(100)面の回折X線のピークの強度が回復した。したがって、ドメインスイッチング効果は可逆的であることが確認された。換言すれば、誘電性薄膜へ印加される電界の消失によって、cドメインがaドメインへ戻った。
【0125】
[比誘電率の算出]
誘電性薄膜素子の容量Cを測定した。容量Cの測定の詳細は以下の通りであった。
測定装置:Hewlett Packard株式会社製のImpedance Gain-Phase Analyzer 4194A
周波数:10kHz
電界:0.1V/μm
【0126】
下記数式Bに基づき、容量Cの測定値から、比誘電率εを算出した。実施例1のεは、下記表1に示される。
C=ε×ε×(S/d) (B)
数式B中のεは、真空の誘電率(8.854×10-12Fm-1)である。数式B中のSは、誘電性薄膜の表面の面積である。Sは、誘電性薄膜に重なる第一電極層の面積と言い換えられる。数式B中のdは、誘電性薄膜の厚さである。
【0127】
[圧電定数d33の測定]
実施例1の誘電性薄膜素子を用いて、誘電性薄膜の圧電定数d33を測定した。測定には、原子間顕微鏡(AFM)と強誘電体評価システムとを組み合わせた装置を用いた。原子間顕微鏡は、セイコーインスツル株式会社製のSPA-400であり、強誘電体評価システムは、株式会社東陽テクニカ製のFCEであった。圧電定数d33の測定における交流電界(交流電圧)の周波数は5Hzであった。誘電性薄膜に印加される電圧の最大値は20Vであった。d33の単位はpm/Vである。実施例1の圧電定数d33は、下記表1に示される。
【0128】
[圧電定数-e31,fの測定]
誘電性薄膜の圧電定数-e31,fを測定するために、実施例1の誘電性薄膜素子として、長方形状の試料(カンチレバー)を作製した。試料の寸法は、幅3mm×長さ15mmであった。寸法を除いて試料は上記の実施例1の誘電性薄膜素子と同じであった。測定には、自作の評価システムを用いた。試料の一端は固定され、試料の他方の一端は自由端であった。試料中の誘電性薄膜に電圧を印加しながら、試料の自由端の変位量をレーザーで測定した。そして、下記数式Cから圧電定数-e31,fを算出した。なお、数式C中のEは単結晶基板のヤング率である。hは、単結晶基板の厚みである。Lは試料(カンチレバー)の長さである。νは、単結晶基板のポアソン比である。δoutは、測定された変位量に基づく出力変位である。Vinは、誘電性薄膜に印加された電圧である。圧電定数-e31,fの測定における交流電界(交流電圧)の周波数は、500Hzであった。誘電性薄膜に印加された電圧の最大値は、20Vであった。-e31,fの単位はC/mである。実施例1の圧電定数-e31,fは、下記表1に示される。
【数1】
【0129】
(実施例2)
以下の通り、実施例2の誘電性薄膜素子は、第二バッファ層の組成において、実施例1の誘電性薄膜素子と異なる。
【0130】
実施例2の場合、真空チャンバー内で、SrRuOの結晶からなる第二バッファ層(第二結晶質層)を第一バッファ層の表面全体に形成した。第二バッファ層は、PLD法を用いたエピタキシャル成長により形成した。PLDのターゲットには、SrRuOを用いた。第二バッファ層の形成過程における単結晶基板の温度は、500℃に維持した。第二バッファ層の表面は、SrRuOの(100)面であった。第二バッファ層の厚さは、50nmであった。
【0131】
上記の事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2の誘電性薄膜素子を作製した。実施例2の誘電性薄膜素子も、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一密着層と、第一密着層に重なる第二密着層と、第二密着層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一バッファ層と、第一バッファ層に重なる第二バッファ層と、第二バッファ層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。
【0132】
実施例1と同様の方法で、実施例2の誘電性薄膜素子を分析した。
【0133】
実施例2の誘電性薄膜の組成は、上記化学式1で表され、上記化学式1におけるxの値は、0.3であることが確認された。実施例2の誘電性薄膜のXRDパターンは、誘電性薄膜を構成するBNT‐BTがペロブスカイト構造を有する結晶であることを示唆していた。
【0134】
実施例2のBNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(100)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(001)面であった。つまり、実施例2の誘電性薄膜を構成する正方晶の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。正方晶の(100)面の面間隔aは、3.94Åであった。正方晶の(001)面の面間隔cは、3.98Åであった。c/aは、1.01であった。
【0135】
実験1~3において、実施例2のXRDパターンは変化しなかった。したがって、実施例2の誘電性薄膜は、マルチドメイン膜ではなかった。つまり、実施例2の誘電性薄膜ではドメインスイッチング効果が起きなかった。実施例2のXRDパターンは、回折角2θが45.6°である回折X線のピークを有していなかった。つまり、実施例2の誘電性薄膜は、誘電性薄膜の表面の法線方向において(001)面が配向している正方晶を含んでいなかった。
【0136】
実施例2のVc、ε及びd33及び-e31,fは、下記表1に示される。
【0137】
(比較例1)
SrTiOからなる単結晶基板を準備した。単結晶基板の表面は、SrTiOの(001)面であった。単結晶基板は、10mm×10mmの正方形であった。単結晶基板の厚さは、500μmであった。
【0138】
真空チャンバー内で、SrRuOからなる第一電極層を単結晶基板の表面全体に形成した。第一電極層は、スパッタリング法により形成した。スパッタリングのターゲットには、SrRuOを用いた。第一電極層の形成過程における単結晶基板の温度は、500℃に維持した。第一電極層の形成過程における真空チャンバー内のガス分圧比は、酸素:アルゴン=3:7であった。第一電極層の形成過程における真空チャンバー内の気圧を60mTorrに維持した。第一電極層の厚さは、0.1μmに調整した。
【0139】
真空チャンバー内で、誘電性薄膜を第一電極層の表面全体に形成した誘電性薄膜は、PLD法を用いたエピタキシャル成長により形成した。誘電性薄膜の形成過程における単結晶基板の温度(成膜温度)は、675℃に維持した。誘電性薄膜の形成過程における真空チャンバー内の酸素分圧は、200mTorrに維持した。誘電性薄膜の形成には、BNT‐BTターゲットを用いた。比較例1のBNT‐BTターゲットは、実施例1のBNTターゲットと同じであった。BNT‐BTターゲットに照射したレーザーのパワーは250mJであった。レーザーの周波数は5Hzであった。誘電性薄膜の厚さは、2000nmに調整した。
【0140】
以上の方法で、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる誘電性薄膜と、を備える積層体を作製した。積層体の表面に位置する誘電性薄膜の組成を、蛍光X線分析法(XRF法)により分析した。分析には、Phillips社製の装置PW2404を用いた。分析の結果、比較例1の誘電性薄膜の組成は、上記化学式1で表され、上記化学式1におけるxの値は、0.3であることが確認された。
【0141】
真空チャンバー内で、Ptからなるドット状(円状)の第二電極層を、上記積層体が有する誘電性薄膜の表面に形成した。第二電極層の半径は200μmであった。第二電極層は、スパッタリング法により形成した。第二電極層の形成過程における単結晶基板の温度は500℃に維持した。第二電極層の厚さは、0.1μmに調整した。
【0142】
以上の方法により、比較例1の誘電性薄膜素子を作製した。比較例1の誘電性薄膜素子は、単結晶基板と、単結晶基板に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えた。
【0143】
実施例1と同様の方法で、比較例1の誘電性薄膜素子を分析した。
【0144】
比較例1の誘電性薄膜のXRDパターンは、誘電性薄膜を構成するBNT‐BTがペロブスカイト構造を有する結晶であることを示唆していた。
【0145】
比較例1のBNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(001)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(100)面であった。つまり、比較例1の誘電性薄膜を構成する正方晶の(001)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。正方晶の(100)面の面間隔aは、3.91Åであった。正方晶の(001)面の面間隔cは、4.03Åであった。c/aは、1.03であった。
【0146】
実験1~3において、比較例1のXRDパターンは変化しなかった。したがって、比較例1の誘電性薄膜は、マルチドメイン膜ではなかった。つまり、比較例1の誘電性薄膜ではドメインスイッチング効果が起きなかった。比較例1のXRDパターンは、回折角2θが46.0°である回折X線のピークを有していなかった。つまり、比較例1の誘電性薄膜は、誘電性薄膜の表面の法線方向において(100)面が配向している正方晶を含んでいなかった。
【0147】
比較例1のVc、ε及びd33は、下記表1に示される。
【0148】
【表1】
【0149】
(実施例3~6及び比較例2、3)
実施例3~6及び比較例2、3其々の誘電性薄膜の形成に用いたBNT‐BTターゲットの組成は、上記化学式3で表された。実施例3~6及び比較例2、3其々の場合、化学式3におけるxの値は、下記表2に示される値に調整された。
【0150】
BNT‐BTターゲットの組成を除いて実施例2と同様の方法で、実施例3~6及び比較例2、3其々の誘電性薄膜素子を作製した。実施例3~6及び比較例2、3のいずれの場合も、誘電性薄膜素子は、単結晶基板(Si)と、単結晶基板に重なる第一密着層と、第一密着層に重なる第二密着層と、第二密着層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一バッファ層(LaNiO)と、第一バッファ層に重なる第二バッファ層(SrRuO)と、第二バッファ層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。
【0151】
実施例1と同様の方法で、実施例3~6及び比較例2、3其々の誘電性薄膜素子を分析した。
【0152】
実施例3~6及び比較例2、3其々の誘電性薄膜の組成は、上記化学式1で表された。実施例3~6及び比較例2、3のいずれの場合も、上記化学式1におけるxの値は、下記表2に示す値に一致することが確認された。実施例3~6及び比較例2、3のいずれの場合も、誘電性薄膜のXRDパターンは、誘電性薄膜を構成するBNT‐BTがペロブスカイト構造を有する結晶であることを示唆していた。
【0153】
実施例3~6のいずれの場合も、BNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(100)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(001)面であった。つまり実施例3~6のいずれの場合も、誘電性薄膜を構成する正方晶の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。
【0154】
比較例2及び3のいずれの場合も、BNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(001)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(100)面であった。つまり比較例2及び3のいずれの場合も、誘電性薄膜を構成する正方晶の(001)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。
【0155】
実施例3~6及び比較例2、3其々のε及びd33及び-e31,fは、下記表2に示される。
【0156】
【表2】
【0157】
(実施例7~10及び比較例4、5)
実施例7~10及び比較例4、5其々の誘電性薄膜の形成に用いたBNT‐BTターゲットの組成は、上記化学式3で表された。実施例7~10及び比較例4、5其々の場合、化学式3におけるxの値は、下記表3に示される値に調整された。
【0158】
BNT‐BTターゲットの組成を除いて実施例1と同様の方法で、実施例7~10及び比較例4、5其々の誘電性薄膜素子を作製した。実施例7~10及び比較例4、5のいずれの場合も、誘電性薄膜素子は、単結晶基板(Si)と、単結晶基板に重なる第一密着層と、第一密着層に重なる第二密着層と、第二密着層に重なる第一電極層と、第一電極層に重なる第一バッファ層(LaNiO)と、第一バッファ層に重なる第二バッファ層(La0.5Sr0.5CoO)と、第二バッファ層に重なる誘電性薄膜と、誘電性薄膜に重なる第二電極層と、を備えていた。
【0159】
実施例1と同様の方法で、実施例7~10及び比較例4、5其々の誘電性薄膜素子を分析した。
【0160】
実施例7~10及び比較例4、5其々の誘電性薄膜の組成は、上記化学式1で表された。実施例7~10及び比較例4、5のいずれの場合も、上記化学式1におけるxの値は、下記表3に示す値に一致することが確認された。実施例7~10及び比較例4、5のいずれの場合も、誘電性薄膜のXRDパターンは、誘電性薄膜を構成するBNT‐BTがペロブスカイト構造を有する結晶であることを示唆していた。
【0161】
実施例7~10のいずれの場合も、BNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(100)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(001)面であった。つまり実施例5及び6のいずれの場合も、誘電性薄膜を構成する正方晶の(100)面は、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。
【0162】
比較例4及び5のいずれの場合も、BNT‐BTの結晶は、ペロブスカイト構造を有する正方晶であり、誘電性薄膜の表面に平行である結晶面は、正方晶の(001)面であり、単結晶基板の表面に垂直である正方晶の結晶面は、(100)面であった。つまり比較例4及び5のいずれの場合も、誘電性薄膜を構成する正方晶の(001)面が、誘電性薄膜の表面の法線方向において配向していた。
【0163】
実施例7~10及び比較例4、5其々のε及びd33及び-e31,fは、下記表3に示される。
【0164】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明に係る誘電体薄膜は、例えば、薄膜コンデンサ、圧電アクチュエータ、圧電センサ、ヘッドアセンブリ、ヘッドスタックアセンブリ、ハードディスクドライブ、プリンタヘッド、及びインクジェットプリンタ装置に応用される。
【符号の説明】
【0166】
10…誘電性薄膜素子、100…圧電素子、1…単結晶基板、2…第一電極層、3…誘電性薄膜、4…第二電極層、5a…第一密着層(中間層)、5b…第二密着層(中間層)、6a…第一結晶質層(中間層)、6b…第二結晶質層(中間層)、D…単結晶基板の表面の法線方向、dn…誘電性薄膜の表面の法線方向、tc1…ペロブスカイト構造を有する正方晶の第一単位格子、tc2…ペロブスカイト構造を有する正方晶の第二単位格子、a…正方晶の(100)面の面間隔、c…正方晶の(001)面の面間隔、200…ヘッドアセンブリ、9…ベースプレート、11…ロードビーム、11b…基端部、11c…第1板バネ部分、11d…第2板バネ部分、11e…開口部、11f…ビーム主部、15…フレキシブル基板、17…フレクシャ、19…ヘッドスライダ、19a…ヘッド素子、300…圧電アクチュエータ、20…基体、21…圧力室、23…絶縁膜、24…単結晶基板、25…圧電薄膜、26…上部電極層(第一電極層)、27…ノズル、400…ジャイロセンサ、110…基部、120,130…アーム、30…圧電薄膜、31…上部電極層(第一電極層)、31a,31b…駆動電極層、31c,31d…検出電極層、32…単結晶基板、500…圧力センサ、40…圧電素子、41…共通電極層、42…圧電薄膜、43…個別電極層、44…支持体、45…空洞、46…電流増幅器、47…電圧測定器、600…脈波センサ、50…圧電素子、51…共通電極層、52…圧電薄膜、53…個別電極層、54…支持体、55…電圧測定器、700…ハードディスクドライブ、60…筐体、61…ハードディスク、62…ヘッドスタックアセンブリ、63…ボイスコイルモータ、64…アクチュエータアーム、65…ヘッドアセンブリ、800…インクジェットプリンタ装置、70…プリンタヘッド、71…本体、72…トレイ、73…ヘッド駆動機構、74…排出口、75…記録用紙、76…オートシートフィーダ(自動連続給紙機構)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12