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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】固体電解質材料およびそれを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240705BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240705BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240705BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20240705BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20240705BHJP
   C01G 35/02 20060101ALI20240705BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   C01B 25/10 20060101ALI20240705BHJP
   C01B 25/30 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M6/18 Z
C01G33/00 A
C01G33/00 B
C01G35/02
C01G35/00 C
C01B25/10
C01B25/30 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020562975
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046737
(87)【国際公開番号】W WO2020137355
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2018248585
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018248586
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019125548
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019159080
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019190374
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】上野 航輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 良明
(72)【発明者】
【氏名】市川 和秀
(72)【発明者】
【氏名】浅野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 章裕
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-014445(JP,A)
【文献】国際公開第2013/024537(WO,A1)
【文献】特開2006-156284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 6/18
C01G 33/00
C01G 35/02
C01G 35/00
C01B 25/10
C01B 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格構造およびイオン伝導種を含む結晶構造を有し、
前記骨格構造は、複数の多面体が頂点を共有して直線的に接続されてなる一次元鎖からなり、
各前記複数の多面体は、少なくとも1種のカチオンおよび少なくとも1種のアニオンを含む、
固体電解質材料。
【請求項2】
前記多面体は、八面体である、
請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項3】
前記頂点に配置されている元素は、1種のアニオンである、
請求項1または2に記載の固体電解質材料。
【請求項4】
前記多面体は、2種以上のアニオンを含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項5】
前記多面体は、Nb、Ta、およびPからなる群より選択される少なくとも1種のカチオンと、O、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンとからなる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項6】
前記イオン伝導種は、リチウムイオンである、
請求項1から5のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項7】
前記骨格構造において、前記一次元鎖は、前記複数の多面体が頂点のみを共有して直線的に接続されてなる、
請求項1に記載の固体電解質材料。
【請求項8】
正極、
負極、および
前記正極および前記負極の間に配置されている電解質層、を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、請求項1からのいずれか一項に記載の固体電解質材料を含有する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質材料およびそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、硫化物固体電解質が用いられた全固体電池を開示している。特許文献2は、インジウムを含むハロゲン化物固体電解質が用いられた全固体電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-129312号公報
【文献】特開2006-244734号公報
【文献】Y. Li, C. Wang, H. Xie, J. Cheng and J. B. Goodenough, Electrochem. Commun., 2011, 13, 1289-1292.
【文献】H. Chen, L. L. Wong and S. Adams, Acta Crystallogr., Sect. B: Struct. Sci., Cryst. Eng. Mater., 2019, 75, 18-33.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の固体電解質材料は、骨格構造およびイオン伝導種を含む結晶構造を有し、前記骨格構造は、複数の多面体が頂点を共有して直線的に接続されてなる一次元鎖を含み、各前記複数の多面体は、少なくとも1種のカチオンおよび少なくとも1種のアニオンを含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、高いイオン伝導度を有する固体電解質材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
図2図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられる加圧成形ダイス300の模式図を示す。
図3図3は、LiNbOClにより表される組成を有する固体電解質材料の結晶構造を示す。
図4図4は、図3における結晶構造をa軸方向から見た構造を示す。
図5図5は、実施例1による固体電解質材料に対して、図3に示される結晶構造を用いてリートベルト解析を行った結果を示す。
図6図6は、比較例2による固体電解質材料の結晶構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態による固体電解質材料は、骨格構造およびイオン伝導種を含む結晶構造を有する。骨格構造は、複数の多面体が頂点を共有して直線的に接続されてなる一次元鎖を含む。各複数の多面体は、少なくとも1種のカチオンおよび少なくとも1種のアニオンを含む。
【0010】
第1実施形態による固体電解質材料は、高いイオン伝導度を有する。このため、第1実施形態による固体電解質材料は、充放電特性に優れた電池を得るために用いられ得る。当該電池の例は、全固体二次電池である。
【0011】
1つの多面体は、1つのカチオンと、当該カチオンに結合している全てのアニオンから形成される。カチオンは多面体の内部に配置され、アニオンは多面体の頂点に配置されている。カチオンおよびアニオン間の距離が、当該カチオンおよび当該アニオンの原子半径の和の1.2倍より小さければ、当該カチオンは当該アニオンと結合しているとみなせる。
【0012】
本開示における一次元鎖とは、複数の多面体が互いに頂点を共有して、直線的に接続された構造をいう。以下、当該頂点に配置されているアニオンは、共有アニオンとも呼ばれる。
【0013】
固体電解質材料の骨格構造が一次元鎖からなることにより、結晶構造の充填率(すなわち、結晶構造全体に対する構成元素の体積割合)が低くなる。これは、一次元鎖からなる骨格構造においては、二次元鎖または三次元鎖からなる骨格構造と比較して、ある多面体を構成する原子と別の多面体を構成する原子との距離が大きくなるためである。低い充填率を有する結晶構造においては、イオン伝導種のイオン伝導を阻害する原子が少ない。すなわち、イオン伝導種のイオン伝導パスが大きい。さらに、イオン伝導種と骨格構造を構成するアニオンとの距離が大きいため、イオン伝導種およびアニオン間の静電相互作用が小さい。これらの結果、固体電解質材料のイオン伝導度が高くなる。
【0014】
複数の多面体が頂点を共有している場合、面または辺を共有している場合よりも、多面体間の空隙が大きくなる。すなわち、結晶構造の充填率が低くなる。これにより、イオン伝導種の伝導パスが広くなり、固体電解質材料のイオン伝導度がより高くなる。
【0015】
共有アニオンは、1種であってもよく、あるいは2種以上であってもよい。共有アニオンが1種であれば、カチオンと各共有アニオンとの結合距離が同程度になる。その結果、多面体の歪みが小さくなり、多面体が正多面体に近い形状となる。これにより、多面体がより安定に存在しうる。
【0016】
第1実施形態による固体電解質材料には、硫黄が含まれないことが望ましい。硫黄を含有しない固体電解質材料は、大気に曝露されても、硫化水素が発生しないので、安全性に優れる。特許文献1に開示された硫化物固体電解質は、大気に曝露されると、硫化水素が発生し得ることに留意せよ。
【0017】
多面体は、四面体であってもよく、あるいは八面体であってもよい。このような多面体は、一次元鎖を形成しやすい。
【0018】
歪みの少ない一次元鎖を形成するために、多面体は、八面体であってもよい。
【0019】
多面体を構成するアニオンは1種であってもよく、あるいは2種以上であってもよい。多面体が2種以上のアニオンを含む場合、多面体が多様な形状を実現できる。その結果、固体電解質材料の安定性およびイオン伝導度が向上し得る。共有アニオンが1種であり、かつ共有アニオン以外のアニオンが共有アニオンとは異なるアニオンである場合、多面体は正多面体に近い形状となり、固体電解質材料の安定性が向上する。共有アニオンが2種以上である場合、 多面体は正多面体が歪んだような形状となる。その結果、固体電解質材料の安定性は低下し得るが、上記歪みにより、結晶構造の充填率が低くなり得る。これらにより、固体電解質材料が高いイオン伝導度を有する。
【0020】
多面体は、Nb、Ta、およびPからなる群より選択される少なくとも1種のカチオンと、O、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンとからなっていてもよい。このような多面体からなる固体電解質材料は、高いイオン伝導度を有する。
【0021】
イオン伝導種は、リチウムイオンであってもよい。リチウムイオンは、イオン半径が小さいため、結晶中を伝導しやすい。
【0022】
第1実施形態による固体電解質材料の形状は、限定されない。当該形状の例は、針状、球状、または楕円球状である。第1実施形態による固体電解質材料は、粒子であってもよい。第1実施形態による固体電解質材料は、ペレットまたは板の形状を有するように形成されてもよい。
【0023】
例えば、第1実施形態による固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)である場合、当該固体電解質材料は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよく、望ましくは、0.5μm以上10μm以下のメジアン径を有していてもよい。これにより、第1実施形態による固体電解質材料は、より高いイオン伝導性を有する。さらに、第1実施形態による固体電解質材料および他の材料が良好に分散し得る。
【0024】
第1実施形態による固体電解質材料および活物質を良好に分散させるために、第1実施形態による固体電解質材料は、活物質よりも小さいメジアン径を有していてもよい。
【0025】
第1実施形態による固体電解質材料は、異なる結晶相をさらに含有していてもよい。
【0026】
固体電解質材料の結晶構造は、リートベルト解析によって評価される 。リートベルト解析とは、主に、X線回折法によって得られたX線回折パターンの回折ピーク角度と強度に基づいて、対象試料の結晶構造を決定する方法である。リートベルト法は、例えば、「粉末X線解析の実際、第二版(朝倉書店、中井泉、泉富士夫編集)」の7章、8章、および9章に記載されている方法を用いる。具体的には、解析対象の固体電解質材料について、θ-2θ法により、回折角2θが10°以上80°以下である範囲でX線回折パターンが測定される。得られたX線回折パターンに対して、RIETAN-2000プログラムが使用され、リートベルト解析が行われる。解析結果の信頼性は、例えばRwp値に基づいて評価される。
【0027】
<固体電解質材料の製造方法>
第1実施形態による固体電解質材料は、例えば、下記の方法により、製造される。
【0028】
目的の組成を有するように、原料粉が混合される。原料粉の例は、ハロゲン化物、酸化物、水酸化物、または酸ハロゲン化物である。合成プロセスにおいて生じ得る組成変化を相殺するように、あらかじめ調整されたモル比で原料粉は混合されてもよい。
【0029】
原料粉を遊星型ボールミルのような混合装置内でメカノケミカル的に(すなわち、メカノケミカルミリングの方法を用いて)互いに反応させ、反応物を得る。
【0030】
このようにして、第1実施形態による固体電解質材料が得られる。
【0031】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態が説明される。第1実施形態において説明された事項は、適宜、省略される。
【0032】
第2実施形態による電池は、正極、電解質層、および負極を備える。電解質層は、正極および負極の間に配置されている。
【0033】
正極、電解質層、および負極からなる群より選択される少なくとも1つは、第1実施形態による固体電解質材料を含有する。第2実施形態による電池は、第1実施形態による固体電解質材料を含有するため、高い充放電特性を有する。
【0034】
以下、第2実施形態による電池の具体例が説明される。
【0035】
図1は、第2実施形態による電池1000の断面図を示す。
【0036】
電池1000は、正極201、電解質層202、および負極203を備える。電解質層202は、正極201および負極203の間に配置されている。
【0037】
正極201は、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100を含有する。
【0038】
電解質層202は、電解質材料(例えば、固体電解質材料)を含有する。
【0039】
負極203は、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100を含有する。
【0040】
固体電解質粒子100は、第1実施形態による固体電解質材料からなる粒子、または、第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子である。第1実施形態による固体電解質材料を主たる成分として含有する粒子とは、最も多く含まれる成分が第1実施形態による固体電解質材料である粒子を意味する。
【0041】
正極201は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な材料を含有する。当該材料は、例えば、正極活物質(例えば、正極活物質粒子204)である。
【0042】
正極活物質の例は、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシフッ化物、遷移金属オキシ硫化物、または遷移金属オキシ窒化物である。リチウム含有遷移金属酸化物の例は、Li(NiCoAl)O、LiCoO、またはLi(NiCoMn)Oである。
【0043】
正極活物質粒子204は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。正極活物質粒子204が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、正極において、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。正極活物質粒子204が100μm以下のメジアン径を有する場合、正極活物質粒子204内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0044】
正極活物質粒子204は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、正極活物質粒子204および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0045】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201において、正極活物質粒子204の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する正極活物質粒子204の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0046】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、正極201は、10μm以上500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0047】
電解質層202は、電解質材料を含有する。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。電解質層202は、固体電解質層であってもよい。
【0048】
電解質層202は、第1実施形態による固体電解質材料のみから構成されていてもよい。
【0049】
第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料のみから構成されていてもよい。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料の例は、LiMgX’、LiFeX’、Li(Al,Ga,In)X’、Li(Al,Ga,In)X’、またはLiIである。ここで、X’は、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。
【0050】
以下、第1実施形態による固体電解質材料は、第1固体電解質材料と呼ばれる。第1実施形態による固体電解質材料とは異なる固体電解質材料は、第2固体電解質材料と呼ばれる。
【0051】
電解質層202は、第1固体電解質材料だけでなく、第2固体電解質材料をも含有していてもよい。電解質層202において、第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、均一に分散していてもよい。
【0052】
第1固体電解質材料からなる層および第2固体電解質材料からなる層が、電池1000の積層方向に沿って積層されていてもよい。
【0053】
電解質層202は、1μm以上1000μm以下の厚みを有していてもよい。電解質層202が1μm以上の厚みを有する場合、正極201および負極203が短絡しにくくなる。電解質層202が1000μm以下の厚みを有する場合、電池が高出力で動作し得る。
【0054】
負極203は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵および放出可能な材料を含有する。当該材料は、例えば、負極活物質(例えば、負極活物質粒子205)である。
【0055】
負極活物質の例は、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、または珪素化合物である。金属材料は、単体の金属であってもよく、あるいは合金であってもよい。金属材料の例は、リチウム金属またはリチウム合金である。炭素材料の例は、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、または非晶質炭素である。容量密度の観点から、負極活物質の好適な例は、珪素(すなわち、Si)、錫(すなわち、Sn)、珪素化合物、または錫化合物である。
【0056】
負極活物質粒子205は、0.1μm以上100μm以下のメジアン径を有していてもよい。負極活物質粒子205が0.1μm以上のメジアン径を有する場合、負極203において、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質粒子205が100μm以下のメジアン径を有する場合、負極活物質粒子205内のリチウム拡散速度が向上する。これにより、電池が高出力で動作し得る。
【0057】
負極活物質粒子205は、固体電解質粒子100よりも大きいメジアン径を有していてもよい。これにより、負極活物質粒子205および固体電解質粒子100が良好に分散し得る。
【0058】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203において、負極活物質粒子205の体積および固体電解質粒子100の体積の合計に対する負極活物質粒子205の体積の比は、0.30以上0.95以下であってもよい。
【0059】
電池のエネルギー密度および出力の観点から、負極203は、10μm以上500μm以下の厚みを有していてもよい。
【0060】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、イオン伝導性、化学的安定性、および電気化学的安定性を高める目的で、第2固体電解質材料を含有していてもよい。
【0061】
第2固体電解質材料は、硫化物固体電解質であってもよい。
【0062】
硫化物固体電解質の例は、LiS-P、LiS-SiS、LiS-B、LiS-GeS、Li3.25Ge0.250.75、またはLi10GeP12である。
【0063】
第2固体電解質材料は、酸化物固体電解質であってもよい。
【0064】
酸化物固体電解質の例は、
(i)LiTi(POまたはその元素置換体のようなNASICON型固体電解質、
(ii)(LaLi)TiOのようなペロブスカイト型固体電解質、
(iii)Li14ZnGe16、LiSiO、LiGeOまたはその元素置換体のようなLISICON型固体電解質、
(iv)LiLaZr12またはその元素置換体のようなガーネット型固体電解質、または
(v)LiPOまたはそのN置換体
である。
【0065】
第2固体電解質材料は、有機ポリマー固体電解質であってもよい。
【0066】
有機ポリマー固体電解質の例は、高分子化合物およびリチウム塩の化合物である。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有できるため、イオン導電率をより高めることができる。
【0067】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。
【0068】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、またはイオン液体を含有していていもよい。
【0069】
非水電解液は、非水溶媒および当該非水溶媒に溶けたリチウム塩を含む。非水溶媒の例は、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、またはフッ素溶媒である。環状炭酸エステル溶媒の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、またはブチレンカーボネートである。鎖状炭酸エステル溶媒の例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートである。環状エーテル溶媒の例は、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,3-ジオキソランである。鎖状エーテル溶媒の例は、1,2-ジメトキシエタンまたは1,2-ジエトキシエタンである。環状エステル溶媒の例は、γ-ブチロラクトンである。鎖状エステル溶媒の例は、酢酸メチルである。フッ素溶媒の例は、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、またはフルオロジメチレンカーボネートである。これらから選択される1種の非水溶媒が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0070】
リチウム塩の例は、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、またはLiC(SOCFである。これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよい。あるいは、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下である。
【0071】
ゲル電解質として、非水電解液を含侵させたポリマー材料が使用され得る。ポリマー材料の例は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、またはエチレンオキシド結合を有するポリマーである。
【0072】
イオン液体に含まれるカチオンの例は、
(i)テトラアルキルアンモニウムまたはテトラアルキルホスホニウムのような脂肪族鎖状4級塩類、
(ii)ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、またはピペリジニウム類のような脂肪族環状アンモニウム、または
(iii)ピリジニウム類またはイミダゾリウム類のような含窒ヘテロ環芳香族カチオン
である。
【0073】
イオン液体に含まれるアニオンの例は、PF 、BF 、SbF6- 、AsF 、SOCF 、N(SOCF 、N(SO 、N(SOCF)(SO、またはC(SOCF である。
【0074】
イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0075】
正極201、電解質層202、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上する目的で、結着剤を含有していていもよい。
【0076】
結着剤の例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、またはカルボキシメチルセルロースである。共重合体もまた、結着剤として使用され得る。このような結着剤の例は、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、およびヘキサジエンから選択される2種以上の材料の共重合体である。これらから選択された2種以上の材料の混合物が、結着剤として使用されてもよい。
【0077】
正極201および負極203のうちの少なくとも一方は、電子伝導性を高める目的で、導電助剤を含有していていもよい。
【0078】
導電助剤の例は、
(i)天然黒鉛または人造黒鉛のようなグラファイト類、
(ii)アセチレンブラックまたはケッチェンブラックのようなカーボンブラック類、
(iii)炭素繊維または金属繊維のような導電性繊維類、
(iv)フッ化カーボン、
(v)アルミニウムのような金属粉末類、
(vi)酸化亜鉛またはチタン酸カリウムのような導電性ウィスカー類、
(vii)酸化チタンのような導電性金属酸化物、または
(viii)ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンのような導電性高分子化合物
である。低コスト化のために、上記(i)または(ii)の導電助剤が使用されてもよい。
【0079】
なお、第2実施形態による電池の形状の例は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、または積層型である。
【0080】
(実施例)
以下、実施例を参照しながら、本開示がより詳細に説明される。
【0081】
(実施例1)
[固体電解質材料の作製]
-30℃以下の露点を有するドライ雰囲気中で、原料粉としてLiClおよびNbOClが、1:1のLiCl:NbOClモル比となるように用意された。これらの材料は乳鉢中で粉砕して混合され、混合粉が得られた。得られた混合粉は、遊星型ボールミルを用い、24時間、600rpmでミリング処理された。このようにして、実施例1による固体電解質材料の粉末が得られた。実施例1による固体電解質材料は、LiNbOClにより表される組成を有していた。
【0082】
[イオン伝導度の評価]
図2は、固体電解質材料のイオン伝導度を評価するために用いられた加圧成形ダイス300の模式図を示す。
【0083】
加圧成形ダイス300は、パンチ上部301、枠型302、およびパンチ下部303を具備していた。枠型302は、絶縁性のポリカーボネートから形成されていた。パンチ上部301およびパンチ下部303は、電子伝導性のステンレスから形成されていた。
【0084】
図2に示される加圧成形ダイス300を用いて、下記の方法により、固体電解質材料のイオン伝導度が測定された。
【0085】
-30℃以下の露点を有するドライ雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料の粉末(すなわち、図2において固体電解質材料の粉末101)が加圧成形ダイス300の内部に充填された。実施例1による固体電解質材料に、パンチ上部301およびパンチ下部303を用いて、400MPaの圧力が印加された。
【0086】
圧力が印加されたまま、パンチ上部301およびパンチ下部303は、周波数応答アナライザが搭載されたポテンショスタット(Princeton Applied Research社、VersaSTAT4)に接続された。パンチ上部301は、作用極および電位測定用端子に接続された。パンチ下部303は、対極及び作用極に接続された。実施例1による固体電解質材料のイオン伝導度は、電気化学的インピーダンス測定法により測定された。
【0087】
その結果、25℃で測定されたイオン伝導度は、5.7mS/cmであった。
【0088】
[X線回折]
実施例1による固体電解質材料に対し、X線回折測定が行われた。測定には、X線回折装置(RIGAKU社、MiniFlex600)が用いられた。-45℃以下の露点を有するドライ雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料のX線回折パターンが測定された。X線源として、Cu-Kα線が用いられた。すなわち、Cu-Kα線(波長1.5405Åおよび1.5444Å)をX線として用いて、θ-2θ法によりX線回折パターンが測定された。測定結果は、「実測パターン」として図5に示される。
【0089】
[リートベルト解析]
実施例1による固体電解質材料に対して、図3および図4に示される結晶構造を用いてリートベルト解析を行った。解析結果は、「シミュレーションパターン」として実線により図5に示される。図3の結晶構造から計算されたピーク位置と実施例1による固体電解質材料のX線回折パターンはほぼ一致していた。Rwp値は4.76であった。これは、例えば非特許文献1を参照すると、十分に低い値といえる。したがって、実施例1による固体電解質材料は、図3および図4に示される結晶構造を有する。すなわち、実施例1による固体電解質材料は、骨格構造およびイオン伝導種を有し、当該骨格構造は、複数の多面体が頂点を共有して直線的に接続されてなる一次元鎖からなっていた。図5における最も下のラインは、実測値と計算値の回折強度の差を表している。当該回折強度の差が小さいことは、解析結果の信頼性が高いことを裏付けている。
【0090】
(比較例1)
-60℃以下の露点を有するアルゴン雰囲気中で、実施例1による固体電解質材料が、300℃で3時間加熱処理された。このようにして、比較例1による固体電解質材料の粉末が得られた。
【0091】
比較例1による固体電解質材料のイオン伝導度が、実施例1と同様に測定された。その結果、イオン伝導度は、1.6×10-4mS/cmであった。
【0092】
比較例1による固体電解質材料に対して、実施例1による固体電解質材料の結晶構造を用いて、リートベルト解析を行った。その結果、Rwp値は28.4であった。Rwp値が大きいため、同様の結晶構造とみなすことができない。すなわち、比較例1による固体電解質材料は、図3および図4に示されるような一次元鎖構造を有していないと考えられる。
【0093】
[活性化エネルギーの評価]
非特許文献2に記載されている手法を用いて、実施例1による固体電解質材料の活性化エネルギーが算出された。算出された値は、表1に示される。
【0094】
実施例2~6の固体電解質材料の結晶構造は以下のようにして得られた。
【0095】
(実施例2)
実施例1による固体電解質材料の結晶構造において、ClがFに元素置換された。次いで、第一原理計算により結晶構造が最適化された。第一原理計算は、密度汎関数理論に基づき、PAW(Projector Augmented Wave)法により行われた。結晶構造の最適化において、電子間の相互作用である交換相関項を表現する電子密度の記述には、GGA-PBE が用いられた。GGAは、一般化勾配近似(Generalized Gradient Approximation)を表す。PBEは、Perdew-Burke-Ernzerhofを表す。
【0096】
(実施例3)
実施例1による固体電解質材料の結晶構造において、ClがBrに元素置換された。次いで、第一原理計算により結晶構造が最適化された。第一原理計算は、実施例2と同様の条件で実施された。
【0097】
(実施例4)
実施例1による固体電解質材料の結晶構造において、ClがIに元素置換された。次いで、第一原理計算により結晶構造が最適化された。第一原理計算は、実施例2と同様の条件で実施された。
【0098】
(実施例5)
実施例1による固体電解質材料の結晶構造において、NbがTaに元素置換された。次いで、第一原理計算により、結晶構造が最適化された。第一原理計算は、実施例2と同様の条件で実施された。
【0099】
(実施例6)
実施例1による固体電解質材料の結晶構造において、NbがPに元素置換された。次いで、第一原理計算により結晶構造が最適化された。第一原理計算は、実施例2と同様の条件で実施された。
【0100】
実施例2~6による固体電解質材料の活性化エネルギーは、実施例1と同様にして算出された。算出された値は、表1に示される。
【0101】
(比較例2)
第一原理計算データベースMaterials ProjectからLiNbOFの結晶構造(mp-755505)が得られた。当該結晶構造において、FがClに元素置換された後、第一原理計算により結晶構造が最適化された。第一原理計算は、実施例2と同様の条件で実施された。最適化された結晶構造に対し、実施例1と同様にして活性化エネルギーが算出された。最適化された結晶構造は、図6に示される。図6から明らかなように、多面体同士は頂点を共有していなかった。さらに、複数の多面体は、一次元鎖を形成していなかった。比較例2による固体電解質材料の活性化エネルギーの値は、表1に示される。
【0102】
表1において、「一次元の活性化エネルギー」とは、「一次元伝導パスに対する活性化エネルギー」を意味する。「二次元」または「三次元」についても同様である。
【0103】
【表1】
【0104】
(考察)
表1から明らかなように、一次元鎖からなる骨格構造を有する実施例1~6による固体電解質材料においては、特に一次元の活性化エネルギーが低い。このため、実施例1~6による固体電解質材料は高いイオン伝導度を有する。
【0105】
実施例1を比較例2と比較すると明らかなように、同一の構成元素を有していても、一次元鎖を有していなければ、活性化エネルギーが高くなる。
【0106】
実施例1~6による固体電解質材料の二次元伝導パスおよび三次元伝導パスにおいては、イオン伝導種が一次元鎖間を通り抜ける必要があるため、二次元および三次元の活性化エネルギーは一次元の活性化エネルギーよりも高くなる。しかし、一次元鎖を有しない比較例2による固体電解質材料よりも低い二次元および三次元の活性化エネルギーを有する。これは、実施例1~6による固体電解質材料においては、多面体が頂点を共有して直線的に接続されていることにより、結晶構造の充填率が低く、イオン伝導パスが広いためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示の固体電解質材料は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池において利用される。
【符号の説明】
【0108】
100 固体電解質粒子
101 固体電解質材料の粉末
201 正極
202 電解質層
203 負極
204 正極活物質粒子
205 負極活物質粒子
300 加圧成形ダイス
301 パンチ上部
302 枠型
303 パンチ下部
1000 電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6