(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20240705BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01L29/78 618Z
H01L29/78 618A
H01L29/78 618B
(21)【出願番号】P 2021518334
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020017061
(87)【国際公開番号】W WO2020226045
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019089093
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 行治
(72)【発明者】
【氏名】ベルムンド,フアン パオロ ソリア
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一
(72)【発明者】
【氏名】伊左治 忠之
【審査官】田付 徳雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-109315(JP,A)
【文献】特開2010-080490(JP,A)
【文献】特開2009-206505(JP,A)
【文献】特開2015-153909(JP,A)
【文献】特開2014-140005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0018718(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)工程から(E)工程を含む、トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
(A)工程:基板上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(a)を形成し、該層(a)のパターニングとエッチングを行う工程、
(B)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(a)上に、絶縁層(b)を形成し、該層(b)の上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する工程、
(C)工程:金属酸化物半導体層(c)のパターニングとエッチングを行う工程、
(D)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(c)をマスクパターンとして下層の絶縁層(b)をエッチングする工程、
(E)工程:基板の上方からエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程
を含
み、
前記(E)工程が、基板の上方からUV光と、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光をともに照射する(E’)工程である、
トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項2】
下記(A)工程から(E)工程を含む、トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
(A)工程:基板上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(a)を形成し、該層(a)のパターニングとエッチングを行う工程、
(B)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(a)上に、絶縁層(b)を形成し、該層(b)の上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する工程、
(C)工程:金属酸化物半導体層(c)のパターニングとエッチングを行う工程、
(D)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(c)をマスクパターンとして下層の絶縁層(b)をエッチングする工程、
(E)工程:基板の上方からエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程
を含み、
前記(E)工程が、基板の上方からUV光を照射した後、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E”)工程である、
トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項3】
(B)工程で形成する絶縁層(b)がフッ素を含むポリシロキサン膜である、請求項
1又は請求項2に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物半導体層形成用組成物が、金属塩と第一アミド化合物と水を主体とする溶媒とを含む、請求項
1乃至請求項
3のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
前記(A)工程及び(B)工程において、同一又は異なる条件及び手順で、金属酸化物半導体層形成用組成物をスピンコートにて塗布し、110℃~180℃で0.1分間~30分間熱処理する、塗布及び熱処理の操作を1回~10回繰り返し行った後、250℃~350℃で0.1時間~120時間焼成する加熱を行うことにより、前記金属酸化物半導体層(a)及び金属酸化物半導体層(c)をそれぞれ形成する、
請求項
1乃至請求項
4のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記(E)工程において、波長150nm~380nmのエキシマレーザー光を50mJ/cm
2~150mJ/cm
2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射する、
請求項
1乃至請求項
5のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記(E)工程において、波長250nm~400nmのYAGレーザー光を50mJ/cm
2~150mJ/cm
2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射する、
請求項
1乃至請求項
5のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記(E)工程において、波長150nm~350nmのUV光を1分間~120分間照射する、
請求項
1乃至請求項
7のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蒸着法、スパッタ法やCVD法といった成膜技術に代えて、塗布法による金属酸化物半導体層の成膜を行った薄膜トランジスタの製造方法が近年提案されている(例えば特許文献1~特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/014885号
【文献】国際公開第2009/081862号
【文献】特開2010-0983035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗布法による成膜は、スパッタ法等の真空系の成膜装置を用いる従来法と比べて、より簡易な構成(工程、装置)で、また低コストにての成膜を実現でき、高い生産性に加え、大面積にての成膜やより複雑なパターンにての成膜をも可能とする点で有望視されている。そのため、半導体層の成膜のみならず、薄膜トランジスタを構成する各層の成膜においても塗布法の適用が検討されている。
しかし、一般に、塗布法によって成膜・製造された薄膜トランジスタにおいては、半導体層の形成時に使用する前駆体に由来する不純物の存在、不完全な金属酸化物の形成、さらにはチャネル層の活性化が難しい等の種々の要因により、高い移動度を有するチャネル層、ひいては薄膜トランジスタを実現することは難しい。
【0005】
本発明は、12cm2/Vs以上、好ましくは18cm2/Vs以上という高い移動度を有するトップゲート型薄膜トランジスタ、並びに、高移動度を実現するトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物半導体層に対して、エキシマレーザー光照射又はYAGレーザー光照射を実施する、特にUV光照射とエキシマレーザー光照射又はYAGレーザー光照射とを組みわせて実施したところ、金属酸化物半導体層を電極(導体)に変換するとともに、金属酸化物半導体層を移動度の高いチャネル層に変換でき、高移動度のトップゲート型薄膜トランジスタとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、第1観点として、12cm2/Vs以上の移動度を有するトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第2観点として、移動度が18cm2/Vs以上である、第1観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第3観点として、トップゲート型薄膜トランジスタが、トップコンタクト式又はボトムコンタクト式である、第1観点又は第2観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第4観点として、トップゲート型薄膜トランジスタが、フッ素を含むポリシロキサン膜をゲート絶縁膜として有するものである、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第5観点として、ガラス基板、シリコン基板、又はフレキシブル基板上に形成された薄膜トランジスタである、第1観点乃至第4観点のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第6観点として、該薄膜トランジスタが金属酸化物半導体層を含み、該金属酸化物半導体層が、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を含む、第1観点乃至第5観点のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタに関する。
第7観点として、前記金属酸化物半導体層が、酸化インジウムガリウム亜鉛、酸化インジウムガリウム、酸化インジウムスズ亜鉛、酸化ガリウム亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ亜鉛、酸化亜鉛、及び酸化スズからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含む層である、第6観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスに関するタ。
第8観点として、下記(A)工程から(E)工程を含む、トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法。
(A)工程:基板上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(a)を形成し、該層(a)のパターニングとエッチングを行う工程、
(B)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(a)上に、絶縁層(b)を形成し、該層(b)の上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する工程、
(C)工程:金属酸化物半導体層(c)のパターニングとエッチングを行う工程、
(D)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(c)をマスクパターンとして下層の絶縁層(b)をエッチングする工程、
(E)工程:基板の上方からエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程
を含むトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第9観点として、(B)工程で形成する絶縁層(b)がフッ素を含むポリシロキサン膜である、第8観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第10観点として、(E)工程が、基板の上方からUV光と、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光をともに照射する(E’)工程である、第8観点又は第9観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第11観点として、(E)工程が、基板の上方からUV光を照射した後、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E”)工程である、第8観点又は第9観点に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第12観点として、前記金属酸化物半導体層形成用組成物が、金属塩と第一アミド化合物と水を主体とする溶媒とを含む、第8観点乃至第11観点のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第13観点として、前記(A)工程及び(B)工程において、同一又は異なる条件及び手順で、金属酸化物半導体層形成用組成物をスピンコートにて塗布し、110℃~180℃で0.1分間~30分間熱処理する、塗布及び熱処理の操作を1回~10回繰り返し行った後、250℃~350℃で0.1時間~120時間焼成する加熱を行うことにより、前記金属酸化物半導体層(a)及び金属酸化物半導体層(c)をそれぞれ形成する、
第8観点乃至第12観点のうちいずれか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第14観点として、前記(E)工程において、波長150nm~380nmのエキシマレーザー光を50mJ/cm2~150mJ/cm2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射する、
第8観点乃至第13観点のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第15観点として、前記(E)工程において、波長250nm~400nmのYAGレーザー光を50mJ/cm2~150mJ/cm2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射する、
第8観点乃至第13観点のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
第16観点として、前記(E)工程において、波長150nm~350nmのUV光を1分間~120分間照射する、
第10観点至第15観点のうち何れか一項に記載のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、12cm2/Vs以上、18cm2/Vs以上、20cm2/Vs以上、30cm2/Vs以上であり、例えば12cm2/Vs~80cm2/Vs、12cm2/Vs~70cm2/Vs、12cm2/Vs~60cm2/Vs、18cm2/Vs~80cm2/Vs、18cm2/Vs~70cm2/Vs、18cm2/Vs~60cm2/Vs、18cm2/Vs~50cm2/Vs、18cm2/Vs~50cm2/Vs、20cm2/Vs~80cm2/Vs、20cm2/Vs~70cm2/Vs、20cm2/Vs~60cm2/Vs、30cm2/Vs~80cm2/Vs、30cm2/Vs~70cm2/Vs、30cm2/Vs~60cm2/Vs、30cm2/Vs~50cm2/Vs、30cm2/Vs~50cm2/Vsの範囲の高移動度を有するトップゲート型薄膜トランジスタを提供することができる。
また本発明の製造方法によれば、エキシマレーザー光照射又はYAGレーザー光照射により金属酸化物半導体層を活性化して、移動度の高いチャネル層に変換することにより、さらには金属酸化物半導体層をUV光照射することで導体(電極)に変換することによって、高移動度のトップゲート型薄膜トランジスタを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例で製造した構造体Aを示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例で製造したトップゲート型薄膜トランジスタを示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの伝達特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例7で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの伝達特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法における(A)工程~(E)工程を示す図である。
【
図6】
図6は、一般的なトップゲート型薄膜トランジスタを示す図であり、
図6(a)はトップコンタクト式の構造の断面を示し、
図6(b)はボトムコンタクト式の構造の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[トップゲート型薄膜トランジスタ]
本発明が対象とする薄膜トランジスタ(TFT)は、12cm2/Vs以上、好ましくは18cm2/Vs以上の移動度を有するトップゲート型薄膜トランジスタである。例えば、本発明が対象とするトップゲート型薄膜トランジスタは、12cm2/Vs~60cm2/Vs、18cm2/Vs~50cm2/Vs、又は18cm2/Vs~40cm2/Vsの範囲といった高い移動度を得られる。
薄膜トランジスタ(TFT)は半導体と電極(導体)の位置関係によって構造分類され、本発明が対象とする、ゲート電極が半導体層の上側に配置されるトップゲート型薄膜トランジスタには、ソース電極とドレイン電極が半導体層の上側に配置される構造のトップコンタクト式と、これら電極が半導体層の下側に配置される構造のボトムコンタクト式がある。本発明のトップゲート型薄膜トランジスタは、トップコンタクト式及びボトムコンタク式の双方の態様を包含する。
【0011】
図6に、一般的なトップゲート型薄膜トランジスタの一例を示す模式図として、トップコンタクト式(
図6(a))の構造の断面図と、ボトムコンタクト式(
図6(b))の構造の断面図をそれぞれ示す。
図6(a)の例では、基板1上に半導体層2(チャネル2a)が形成され、半導体層2上にドレイン電極3とソース電極4が形成されている。そしてゲート絶縁膜5は、半導体層2とドレイン電極3とソース電極4の上に形成され、その上にゲート電極6が設置された構成となっている。
また
図6(b)の例では、基板1上に、ドレイン電極3とソース電極4が形成され、これら電極を覆うように半導体層2(チャネル2a)が形成されている。そして半導体層2上にゲート絶縁膜5が形成され、その上にゲート電極6が設置された構成となっている。
【0012】
薄膜トランジスタが形成される基板としては特に限定されず、例えばシリコン基板、金属基板、ガリウム基板、透明電極基板、有機薄膜基板、プラスチック基板、ガラス基板等が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのプラスチックフィルム、ステンレス箔、ガラス等が挙げられる。また、配線層やトランジスタ等の回路素子が形成された半導体基板等であってもよい。さらに屈曲可能な基板(例えばフレキシブル基板)等であってもよい。中でも、ガラス基板、シリコン基板、フレキシブル基板等を好適に用いることができる。
【0013】
本発明の薄膜トランジスタでは、半導体層として金属酸化物半導体層を含み、該半導体層は、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を含む。好ましくは、上記金属酸化物半導体層は、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びアルミニウム(Al)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を含む。
好ましい態様において、上記金属酸化物半導体層は、例えば酸化インジウムガリウム亜鉛、酸化インジウムガリウム、酸化インジウムスズ亜鉛、酸化ガリウム亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ亜鉛、酸化亜鉛、酸化スズ、すなわち例えば、InGaZnOx、InGaOx、InSnZnOx、GaZnOx、InSnOx、InZnOx、SnZnOx(いずれもx>0)、ZnO、SnO2等を含む。
上記金属酸化物半導体層は、CVD法、スパッタリング法、パルスレーザー堆積法、真空蒸着法などの真空法のほか、後述する塗布法を用いて形成可能である。
なお金属酸化物半導体層は、層形成後にエキシマレーザー光又はYAGレーザー光による照射処理が施されていてもよい。
【0014】
薄膜トランジスタに用いられる電極材料(ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の材料)としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、モリブデン、チタンなどの金属や、Mg/Cu、Mg/Ag、Mg/Al、Mg/In等の合金、SnO2、InO2、ZnO、InO2・SnO2(ITO)、InO2・ZnO(IZO)、Sb2O5・SnO2(ATO)等の金属酸化物、カーボンブラック、フラーレン類、カーボンナノチューブなどの無機材料、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフルオレンおよびこれらの誘導体などの有機π共役ポリマーなどが挙げられる。これらの電極材料は1種類で用いてもよいが、薄膜トランジスタの電界効果移動度の向上、オン/オフ比の向上を目的として、もしくは閾値電圧の制御を目的として、複数の材料を組み合わせて用いてもよい。又、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極のそれぞれにおいて異なる電極材料を用いてもよい。
なおこれら電極の形成方法としては、真空蒸着、スパッタ法などの従来慣用の技術を用いることができ、また製造方法の簡略化のため、スプレーコート法、印刷法、インクジェット法などの塗布法を採用してもよい。また後述するように、本発明では、紫外線照射により金属酸化物半導体層を導体に変換し、電極とすることができる。
【0015】
また、ゲート絶縁膜としては、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどの無機絶縁膜、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルフェノール、ベンゾシクロブテン、シリコーン(例えばポリシロキサン等)などの有機絶縁膜が挙げられ、これらはハロゲン元素を含んでいてもよい。例えば、フッ素を含むポリシロキサン膜(フッ素変性されたポリシロキサンを含む膜など)をゲート絶縁膜にする事ができる。
ゲート絶縁膜は1種類の膜を単独で用いてもよいが、薄膜トランジスタの電界効果移動度の向上、オン/オフ比の向上を目的として、もしくは閾値電圧の制御を目的として、複数の膜を組み合わせて用いてもよい。
上記ゲート絶縁膜は、真空蒸着、スパッタ法などの従来慣用の技術により形成可能であるが、製造方法の簡略化のため、スプレーコート法、印刷法、インクジェット法などの塗布法も採用でき、また基板としてシリコン基板を用いる場合、ゲート絶縁膜は熱による酸化によっても形成することができる。塗布法の場合は、絶縁膜形成塗布液の基板上への成膜性を改善するために絶縁膜形成塗布液に界面活性剤を含有していてもよい。
【0016】
[トップゲート型薄膜トランジスタの製造方法]
本発明のトップゲート型薄膜トランジスタの製造方法は、下記(A)工程から(E)工程を含む製造方法である。
(A)工程:基板上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(a)を形成し、該層(a)のパターニングとエッチングを行う工程、
(B)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(a)上に、絶縁層(b)を形成し、該層(b)の上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する工程、
(C)工程:金属酸化物半導体層(c)のパターニングとエッチングを行う工程、
(D)工程:パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(c)をマスクパターンとして下層の絶縁層(b)をエッチングする工程、
(E)工程:基板の上方からエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程。
また、(E)工程がUV光と、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E’)工程とすることができる。
そして、(E)工程がUV光を照射した後、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E”)工程とすることができる。
これら各工程の模式図を
図5にそれぞれ示す。
以下、各工程について詳述する。
【0017】
<(A)工程>
本工程は、基板上に金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(a)を形成した後、該金属酸化物半導体層(a)のパターニングとエッチング行う工程である(
図5(A)工程参照)。
金属酸化物半導体層(a)を形成する基板としては特に限定されず、例えば薄膜トランジスタが形成される基板として上述した各種基板を挙げることができる。
【0018】
本工程で使用する金属酸化物半導体層形成用組成物として、例えば、金属塩と第一アミド化合物と水を主体とする溶媒とを含む組成物を挙げることができる。
【0019】
上記第一アミド化合物としては、例えば下記一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。
【化1】
式(I)中、R
1は水素原子;炭素原子数1~6の直鎖状又は分枝状のアルキル基;水素原子、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基が結合した酸素原子;又は、水素原子、酸素原子、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基が結合した窒素原子を表す。
上記R
1において、水素原子、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基が結合した酸素原子とは、-OH又は-OR
2(R
2は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基)である。
また、水素原子、酸素原子、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基が結合した窒素原子とは、例えば、-NH
2、-NHR
3や、-NR
4R
5(R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基である)である。
【0020】
また上記一般式(I)で表される化合物に限定されない、第一アミド化合物の具体例としては、アセトアミド、アセチル尿素、アクリルアミド、アジポアミド、アセトアルデヒド セミカルバゾン、アゾジカルボンアミド、4-アミノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンズアミド、β-アラニンアミド塩酸塩、L-アラニンアミド塩酸塩、ベンズアミド、ベンジル尿素、ビ尿素、ビュウレット、ブチルアミド、3-ブロモプロピオンアミド、ブチル尿素、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンズアミド、カルバミン酸tert-ブチル、ヘキサンアミド、カルバミン酸アンモニウム、カルバミン酸エチル、2-クロロアセトアミド、2-クロロエチル尿素、クロトンアミド、2-シアノアセトアミド、カルバミン酸ブチル、カルバミン酸イソプロピル、カルバミン酸メチル、シアノアセチル尿素、シクロプロパンカルボキサミド、シクロヘキシル尿素、2,2-ジクロロアセトアミド、リン酸ジシアンジアミジン、グアニル尿素硫酸塩、1,1-ジメチル尿素、2,2-ジメトキシプロピオンアミド、エチル尿素、フルオロアセトアミド、ホルムアミド、フマルアミド、グリシンアミド塩酸塩、ヒドロキシ尿素、ヒダントイン酸、2-ヒドロキシエチル尿素、ヘプタフルオロブチルアミド、2-ヒドロキシイソブチルアミド、イソ酪酸アミド、乳酸アミド、マレアミド、マロンアミド、1-メチル尿素、ニトロ尿素、オキサミン酸、オキサミン酸エチル、オキサミド、オキサミン酸ヒドラジド、オキサミン酸ブチル、フェニル尿素、フタルアミド、プロピオン酸アミド、ピバル酸アミド、ペンタフルオロベンズアミド、ペンタフルオロプロピオンアミド、セミカルバジド塩酸塩、コハク酸アミド、トリクロロアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、硝酸尿素、尿素、バレルアミド等が挙げられる。これらの中でもホルムアミド、尿素、カルバミン酸アンモニウムが好ましい。
これらは1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
また上記金属塩として、それを構成する金属としては、例えば、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。上記に挙げた金属の中でも、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、及びアルミニウム(Al)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、特にインジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)のいずれかを含むことが好ましく、更にガリウム(Ga)またはアルミニウム(Al)を含んでもよい。
【0022】
また上記の金属塩は無機酸塩であることが好ましい。無機酸塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、塩酸塩及びフッ化水素酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの塩は水和物の形態であってもよい。金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布後の加熱処理(焼成)をより低温で行うことができる観点からは、無機酸塩として、塩酸塩、硝酸塩を用いることが好ましい。
【0023】
なお、上記金属酸化物半導体層形成用組成物が複数種の金属を含有する場合、各金属の割合(組成比)は所望の金属酸化物半導体層を形成することができれば特に限定されないが、例えば、Inや、Snの金属塩から選ばれる塩に含有される金属(金属A)と、Znの金属塩から選ばれる塩に含有される金属(金属B)と、Gaや、Alの金属塩に含有される金属(金属C)とのモル比率が、金属A:金属B:金属C=1:0.05~1:0~1を満たすことが好ましい。例えば、金属塩として好適な硝酸塩を用いる場合、モル比率が金属A:金属B:金属C=1:0.05~1:0~1を満たすように、各金属の硝酸塩を、詳しくは後述する水を主成分とした溶媒に溶解し、さらに上記一般式(I)等の第一アミドが含まれる水溶液として、金属酸化物半導体層形成用組成物を調製すればよい。
【0024】
上記金属酸化物半導体層形成用組成物の溶媒は、水を主体とするものである。水を主体とする溶媒とは、すなわち主溶媒、つまり溶媒の50質量%以上が水である溶媒を意味する。上記金属酸化物半導体層形成用組成物において使用する溶媒は水を主体としていればよく、水のみを溶媒として用いても、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。水以外に含まれる有機溶媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、メチルエチルケトン、乳酸エチル、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2,2-ジメチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-3-ペンタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、4,4-ジメチル-2-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、2-メチル-2-ヘキサノール、2-メチル-3-ヘキサノール、5-メチル-1-ヘキサノール、5-メチル-2-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、4-メチル-3-ヘプタノール、6-メチル-2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-プロピル-1-ペンタノール、2,4,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、3-エチル-2,2-ジメチル-ペンタノール、1-ノナノール、2-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、2-デカノール、4-デカノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール等が挙げられる。これらの有機溶媒は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記金属酸化物半導体層形成用組成物中の固形分濃度は0.1質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。また上記固形分濃度は30.0質量%以下であり、好ましくは20.0質量%以下であり、より好ましくは15.0質量%以下である。なお、固形分濃度とは、上記金属塩と第一アミド化合物の合計の濃度である。
【0026】
上記金属酸化物半導体層形成用組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、金属塩と第一アミド化合物を、水を主体とする溶媒に混合すればよい。
組成物のpH調整のために、必要に応じて、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、塩酸、フッ化水素酸等の酸を添加してもよい。
【0027】
上記金属酸化物半導体層形成用組成物を基板に塗布して薄膜を形成した後、焼成することにより、緻密なアモルファスの金属酸化物半導体層を形成することができる。なお、焼成工程の前に、残存溶媒を予め除去するために、前処理として、例えば110℃~180℃、0.1分間~30分間の熱処理による乾燥工程を行ってもよい。
【0028】
上記金属酸化物半導体層形成用組成物の基板への塗布方法は、公知の方法を適用することができ、例えばスピンコート、ディップコート、スクリーン印刷法、ロールコート、インクジェットコート、ダイコート法、転写印刷法、スプレー法、スリットコート法等が挙げられる。上記金属酸化物半導体層形成用組成物を各種の塗布方法により塗布して得られる薄膜の厚さは1nm~1μmであり、好ましくは10nm~100nmである。
【0029】
薄膜形成後、必要に応じて乾燥工程を経た後、焼成工程を実施する。薄膜の焼成により、薄膜(金属酸化物半導体層形成用組成物)中の金属塩が酸化反応し、アモルファスな金属酸化物半導体層を製造することができる。すなわち、上記した金属塩を構成する金属の酸化物(例えば、酸化インジウムガリウム亜鉛、酸化インジウムガリウム、酸化インジウムスズ亜鉛、酸化ガリウム亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ亜鉛、酸化亜鉛、酸化スズ、すなわち例えば、InGaZnOx、InGaOx、InSnZnOx、GaZnOx、InSnOx、InZnOx、SnZnOx(いずれもx>0)、ZnO、SnO2等)を含む、半導体層が形成される。
この焼成温度は250℃~500℃、例えば250℃~350℃とすることができる。なお、上記特定の金属酸化物半導体層形成用組成物を用いることにより、従来300℃以上が必要とされていた焼成温度よりも、より低い温度で焼成しても、緻密なアモルファスの金属酸化物半導体層を形成することが可能である。焼成時間は特に限定されないが、例えば、0.1時間~120時間である。
【0030】
薄膜の焼成には、従来使用されている大気圧プラズマ装置やマイクロ波加熱装置、またホットプレート、IR炉、オーブン等の装置を使用できる。上記特定の金属酸化物半導体層形成用組成物は300℃以下の低温での焼成温度も適用できること、また生産性の観点から汎用性が高く、より安価な加熱装置を用いるという観点から、ホットプレート、IR炉、オーブンなどの使用が有利である。
また、前記薄膜の焼成は、空気中、酸素等の酸化雰囲気だけでなく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス中で行うこともできる。
【0031】
こうして得られた金属酸化物半導体層(a)の厚さは特に限定されないが、例えば5nm~100nmである。
なお、一回の塗布・焼成処理により所望の厚さが得られない場合には、塗布・焼成処理の工程を所望の膜厚となるまで繰り返したり、また、塗布・乾燥工程を所望の膜厚となるまで繰り返した後、焼成工程を実施すればよい。
【0032】
続いて、得られた金属酸化物半導体層(a)のパターニングとエッチングを行い、金属酸化物半導体層を所望の形状に加工する。パターニング法としては、例えばフォトレジストをマスクとして塩酸などによりエッチングする方法がある。不要になったフォトレジストは有機溶媒やアッシングなどによって除去することができる。
【0033】
<(B)工程>
本工程は、パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(a)上に、ゲート絶縁膜となる絶縁層(b)を形成した後、該層(b)の上に、金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する工程である(
図5(B)工程参照)。
【0034】
絶縁層(b)(ゲート絶縁膜)の形成方法としては、前述したように、スパッタ法、真空蒸着法、プラズマを用いた化学気相成長(プラズマCVD)法による形成方法がある。CVD法では、SiNxによる成膜や、SiH4の成膜とその酸化が挙げられる。
また、二酸化ケイ素を主成分とする前駆体溶液を各種の塗布法を用いて作成した、塗布型の酸化膜を挙げることができる。前記二酸化ケイ素を主成分とする前駆体溶液として、例えばシリコーンが挙げられ、シリコーン骨格に官能基を導入してアミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、フッ素変性等の変性シリコーンを用いることができる。
【0035】
前記二酸化ケイ素を主成分とする前駆体溶液には、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を用いることができる。
アニオン界面活性剤としては脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩等のカルボン酸型、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファーオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐鎖)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩等のスルホン酸型、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩等の硫酸エステル型、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル型が挙げられる。
カチオン界面活性剤としては、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩等のアルキルアミン塩型、ハロゲン化(フッ化、塩化、臭化、又はヨウ化)アルキルトリメチルアンモニウム、ハロゲン化(フッ化、塩化、臭化、又はヨウ化)ジアルキルジメチルアンモニウム、ハロゲン化(フッ化、塩化、臭化、又はヨウ化)アルキルベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩型が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン等のカルボキシベタイン型、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の2-アルキルイミダゾリンの誘導体型、アルキル(又はジアルキル)ジエチレントリアミノ酢酸等のグリシン型、アルキルアミンオキシド等のアミンオキシド型が挙げられる。
非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のエーテル型、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等のエステルエーテル型、脂肪酸アルカノールアミド等のアルカノールアミド型が挙げられる。
これらの界面活性剤はそれぞれアルキル鎖中の水素原子の一部もしくは全部をハロゲン原子に置換したものでもよい。
【0036】
絶縁層(b)(ゲート絶縁膜)の好適な一例としてフッ素を含むポリシロキサン膜を挙げることができる。フッ素を含むポリシロキサン膜は、フッ素化ポリシロキサン、フッ素変性等の変性シリコーン、又はフッ素含有界面活性剤を含むポリシロキサン等の材料を塗布し焼成することにより得られる。すなわち、フッ素を含むポリシロキサン膜とは、ポリシロキサン構造の一部がフッ素原子で置換された態様だけでなく、膜中にフッ素原子を含有する添加剤(界面活性剤等)を含有する態様の双方を意味する。
フッ素を含むポリシロキサン膜は、固形分として例えばフッ素化ポリシロキサン、フッ素変性等の変性シリコーン、又はフッ素含有界面活性剤を含むポリシロキサン等を、固形分濃度0.1質量%~50質量%、又は0.1質量%~40質量%、又は0.1質量%~30質量%、又は1質量%~20質量%、又は5質量%~20質量%の水溶性組成物を用いて形成できる。
より具体的には、基板上に形成された金属酸化物半導体層(a)上に、前記水溶性組成物をピンコート等により塗布して、110℃~180℃で0.1分間~30分間の乾燥後、250℃~350℃で0.1時間~10時間の焼成を行い、膜厚が例えば10nm~500nm、又は50nm~400nm、100nm~300nmの範囲にて、フッ素を含むポリシロキサン膜を得られる。
【0037】
絶縁層(b)形成後、該層(b)上に、金属酸化物半導体層形成用組成物を塗布し焼成して金属酸化物半導体層(c)を形成する。該(c)層は、前述の<(A)工程>における金属酸化物半導体層(a)の形成と同様の材料・手順・厚さにて形成すればよい。
【0038】
<(C)工程>
本工程は、金属酸化物半導体層(c)のパターニングとエッチングを行う工程であり、前述の<(A)工程>における金属酸化物半導体層(a)のパターニングとエッチングと同様の手順により、実施可能である(
図5(C)工程参照)。
【0039】
<(D)工程>
本工程は、パターニング及びエッチングされた金属酸化物半導体層(c)をマスクパターンとして、下層の絶縁層(b)をエッチングし、所望の形状の絶縁層(b)を得る工程である(
図5(D)工程参照)。
絶縁層(b)のエッチングは、絶縁層(b)を構成する材料に応じてドライエッチング又はウェットエッチングを適宜選択すればよく、例えば反応性イオンエッチング装置を用いて実施することができる。
【0040】
<(E)工程>
本工程は、基板の上方から、すなわち基板上に形成された積層構造(金属酸化物半導体層(a)-絶縁層(b)-金属酸化物半導体層(c))の上方から、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程である(
図5(E)工程参照)。
本工程は、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光に加えて、UV光を照射する工程[(E’)工程]として実施されることが好ましい。
本工程は、より好ましくはUV光を照射した後、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する工程[(E”)工程]として実施される。
【0041】
エキシマレーザー光、YAGレーザー光、UV光の波長や照射時間、またエネルギー等は、照射する金属酸化物半導体層の構成や厚さ等によって適宜選択すればよい。
例えばエキシマレーザー光の照射は、波長150nm~380nmのエキシマレーザー光を50mJ/cm2~150mJ/cm2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射することによって実施される。
例えば、YAGレーザー光は、波長250nm~400nmのYAGレーザー光を50mJ/cm2~150mJ/cm2にて1ナノ秒間~120ナノ秒間照射することによって実施される。
またUV光の照射は、例えば、波長150nm~350nmのUV光を1分間~120分間照射することによって実施される。
【0042】
上記(E)工程を経ることにより、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光の照射により該半導体層が移動度の高いチャネル層に変換される。また表層に露出した金属酸化物層は、UV光照射によって導体(電極)に変換される。
前述したとおり、上記(E)工程ではエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射することを必須とするものである。そして、上記(E)工程ではUV光とエキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E’)工程を行うことができる。更に(E)工程ではUV光を照射した後、エキシマレーザー光又はYAGレーザー光を照射する(E”)工程を行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。なお、実施例で用いた各測定装置等は以下のとおりである。
【0044】
移動度の測定方法
実施例及び比較例で製造した薄膜トランジスタの移動度の測定には、半導体パラメータ―アナライザー Agilent4156Cを用いた。
ドレイン電圧0.1V、TFTのサイズはチャンネル幅90μm、チェンネル長10μmにて、ゲート電圧-20Vから+20Vにおけるドレイン電流の変化を測定し、移動度(単位:cm2/Vs)を算出した。
【0045】
低圧水銀ランプの照度の測定方法
実施例で用いた低圧水銀ランプの照度は、OAI社製の照度計(MODEL306)に253.7nmに感度ピークを持つプローブを接続し測定した。低圧水銀ランプの主な発光スペクトルは185nmと254nmの2つとなり、照度の比を15:85とし、MODEL306で測定された照度(254nmの照度)を0.85で除する事で低圧水銀ランプの照度とした。
【0046】
金属酸化物半導体層形成用組成物(前駆体溶液)1の調製
硝酸インジウム(III)3水和物0.90g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)と硝酸亜鉛6水和物0.23g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)とホルムアミド0.09g(東京化成工業(株)製、98.5%)とを超純水8.78gに添加し、溶液が完全に透明になるまで撹拌して水溶液としたものを、金属酸化物半導体層形成用組成物1とした。
【0047】
構造体Aの作製
シリコン酸化膜が100nm積層したシリコン基板に、金属酸化物半導体層形成用組成物1をスピンコーターを用いて4,000rpmにて塗工し、150℃で10分間乾燥することで酸化物半導体前駆体層を得た。続いて、スピンコーターによる塗工と150℃での10分間の乾燥を1サイクルとして4回繰り返し、最後にホットプレートを用いて300℃で60分のアニール処理を行い、膜厚50nmのInZnOからなる酸化物半導体層Aを得た。
次に、酸化物半導体層Aの上部にフォトレジストを塗布し露光と現像を行い、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、酸化物半導体層Aを0.01Mの塩酸水溶液に5分間浸漬することでエッチングした。エッチング処理後、剥離液を用いて、酸化物半導体層Aの上部に残されたフォトレジストを除去した。
次に、酸化物半導体層Aの上部にスピンコーターを用いて膜厚200nmのフッ素を含むポリシロキサン膜をゲート絶縁膜として形成した。焼成温度は300℃であった。
次に、ゲート絶縁膜の上部に、金属酸化物半導体層形成用組成物1をスピンコーターを用いて4,000rpmにて塗工し、150℃で10分間乾燥することで酸化物半導体前駆体層を得た。続いて、スピンコーターによる塗工と150℃での10分間の乾燥を1サイクルとして4回繰り返した後、最後にホットプレートを用いて300℃で60分のアニール処理を行い、膜厚50nmのInZnOからなる酸化物半導体層Bを得た。
次に、酸化物半導体層Bの上部にフォトレジストを塗布し露光と現像を行い、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとし、酸化物半導体層Bを0.01Mの塩酸水溶液を用いて上記同様にエッチングした。エッチング処理後、剥離液を用いて、酸化物半導体層Bの上部に残されたフォトレジストを除去した。
【0048】
次に、反応性イオンエッチング装置を用いて、酸化物半導体層Bをマスクにして、ゲート絶縁膜をドライエッチングした。プロセスガスはCF
4とArの混合ガスを用いた。
ドライエッチングの工程において、マスクされていないポリシロキサンと酸化物半導体B上のフォトレジストは完全に除去され、構造体Aを得た。
図1に構造体Aの模式図(断面図)を示す。
【0049】
実施例1 トップゲート型薄膜トランジスタ(1)の作製及び評価
低圧水銀ランプ(サムコ社製UVオゾンクリーナーUV1、照度15mW/cm2、波長185nm~254nm)を用い、構造体Aに、大気雰囲気下で、紫外線を60分間連続照射した(54J/cm2)。紫外線照射時、構造体Aをホットプレートにて115℃に加熱した。
次に、KrFエキシマレーザーアニール装置を用いて、大気雰囲気下で、照射エネルギー量が120mJ/cm2になる条件にて、KrFエキシマレーザー(波長248nm)を9ナノ秒間、構造体Aに照射した。この時のピーク出力は13.3MW/cm2であった。
【0050】
上記の紫外線照射とエキシマレーザー照射の処理を施した構造体Aにおいては、酸化物半導体層B及び酸化物半導体層Aの露出部は、電気抵抗が大きく低下して導体となり、電極として機能した。一方、酸化物半導体層Aのゲート絶縁膜に覆われている領域は、半導体(チャネル)として機能した。すなわち、
図2に示すように、表層に露出した酸化物半導体層Bはゲート電極として機能し、また表層に露出した酸化物半導体層A(一部)はソース電極又はドレイン電極(なおソース電極とドレイン電極は特に区別されない)として機能し、結果として、トップゲート型薄膜トランジスタが製造できた。
実施例1で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの伝達特性を
図3に示す。実施例1で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は35.94cm
2/Vsとなった。
【0051】
実施例2 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
構造体Aを用い、KrFエキシマレーザーの照射条件を、140mJ/cm
2(ピーク出力15.6MW/cm
2)とした以外は、実施例1と同一の条件にて、
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタを作製した。実施例2で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は31.59cm
2/Vsとなった。
【0052】
実施例3 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
構造体Aを用い、KrFエキシマレーザーの照射条件を、真空条件下にて100mJ/cm
2(ピーク出力11.1MW/cm
2)とした以外は、実施例1と同一の条件にて、
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタを作製した。実施例3で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は41.75cm
2/Vsとなった。
【0053】
実施例4 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
構造体Aを用い、KrFエキシマレーザーの照射条件を、真空条件下にて120mJ/cm
2(ピーク出力13.3MW/cm
2)とした以外は、実施例1と同一の条件にて、
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタを作製した。実施例4で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は45.56cm
2/Vsとなった。
【0054】
実施例5 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
構造体Aを用い、KrFエキシマレーザーの照射条件を、真空条件下にて140mJ/cm
2(ピーク出力15.6MW/cm
2)とした以外は、実施例1と同一の条件にて、
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタを作製した。実施例5で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は18.38cm
2/Vsとなった。
【0055】
実施例6 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
構造体Aを用い、KrFエキシマレーザーの照射条件を、窒素雰囲気下にて120mJ/cm
2(ピーク出力13.3MW/cm
2)とした以外は、実施例1と同一の条件にて、
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタを作製した。実施例6で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は27.78cm
2/Vsとなった。
【0056】
参考例1 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
低圧水銀ランプ(サムコ社製UVオゾンクリーナーUV1、照度15mW/cm
2)を用い、構造体Aに、大気雰囲気下で、紫外線を60分間連続照射した(54J/cm
2)。紫外線照射時、構造体Aをホットプレートにて115℃に加熱した。
紫外線照射処理のみを施した構造体Aにおいて、酸化物半導体層B及び酸化物半導体層Aの露出部は、電気抵抗が大きく低下し電極として機能した。酸化物半導体層Aのゲート絶縁膜に覆われている領域は、半導体(チャネル)として機能した。すなわち、参考例1においても、先の
図2に示す構造(断面図)を有するトップゲート型薄膜トランジスタが製造できた。ただし、参考例1で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は14.33cm
2/Vsとなり、実施例1~実施例6で得られた移動度が18cm
2/Vsを超える性能の良いトップゲート型薄膜トランジスタは作製できなかった。
【0057】
比較例1
構造体A(紫外線未照射、エキシマレーザー未照射)の酸化物半導体層Bをゲート電極とみなし、酸化物半導体層Aの露出部をそれぞれソース電極、ドレイン電極とみなして、構造体Aをトップゲート型薄膜トランジスタとして扱った場合の性能を評価したが、その移動度は0.01cm2/Vsとなった。
【0058】
実施例7 トップゲート型薄膜トランジスタの作製及び評価
低圧水銀ランプ(サムコ社製UVオゾンクリーナーUV1、照度15mW/cm
2、波長185nm~254nm)を用い、構造体Aに、大気雰囲気下で、紫外線を60分間連続照射した(54J/cm
2)。紫外線照射時、構造体Aをホットプレートにて115℃に加熱した。
次に、YAGレーザー装置(COHERENT社製、MATRIX 355-1-60)を用いて、大気雰囲気下で、照射エネルギー量が120mJ/cm
2になる条件にて、YAGレーザーを構造体Aに照射した。この時のYAGレーザー(波長355nm)のパルス幅は25ナノ秒以下、周波数は60kHz、照射時間は4分、強度は0.5mW/cm
2とした。
上記の紫外線照射とYAGレーザー照射の処理を施した構造体Aにおいては、酸化物半導体層B及び酸化物半導体層Aの露出部は、電気抵抗が大きく低下して導体となり、電極として機能した。一方、酸化物半導体層Aのゲート絶縁膜に覆われている領域は、半導体(チャネル)として機能した。すなわち、
図2に示すように、表層に露出した酸化物半導体層Bはゲート電極として機能し、また表層に露出した酸化物半導体層A(一部)はソース電極又はドレイン電極(なおソース電極とドレイン電極は特に区別されない)として機能し、結果として、トップゲート型薄膜トランジスタが製造できた。
実施例7で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの伝達特性を
図4に示す。実施例7で製造したトップゲート型薄膜トランジスタの移動度は12.18cm
2/Vsとなった。移動度は参考例1と同程度であったが、より安定した伝達特性が得られた。