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特許7515137ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体、発光ナノ粒子、細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、及びケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体、発光ナノ粒子、細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、及びケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20240705BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20240705BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20240705BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240705BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240705BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20240705BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20240705BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20240705BHJP
   A61N 5/06 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C09K11/85 ZNM
C01B33/12 A
B82Y20/00
B82Y40/00
G01N21/64 F
G01N23/2055 320
G01N23/207
G01N33/48 M
G01N33/48 P
G01N33/58 Z
A61N5/06 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020046605
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147255
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 直
(72)【発明者】
【氏名】犬井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 基博
(72)【発明者】
【氏名】片岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】本塚 智
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-521208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C09K 11/85
C01B 33/12
B82Y 20/00
B82Y 40/00
G01N 21/64
G01N 23/2055
G01N 23/207
G01N 33/48
G01N 33/58
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するケイ酸塩系基材と、希土類化合物とを含み、
前記希土類化合物は、希土類元素の塩化物及び希土類元素のフッ化物から選択される少なくとも一種を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項2】
前記希土類元素が、ユーロピウム(Eu)及びテルビウム(Tb)の少なくとも一方である、請求項1に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項3】
前記希土類化合物が、下記化学式(1)~(4)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含む、請求項2に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
EuCl ・・・(1)
Eu(OH) ・・・(2)
Eu(OH)Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【請求項4】
前記希土類化合物が、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下である、請求項3に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項5】
前記希土類化合物が、下記化学式(5)又は(6)で表される化合物、並びに前記化学式(5)及び前記化学式(6)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物と非晶質シリカとの混晶から選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
EuOF ・・・(5)
EuF ・・・(6)
【請求項6】
前記希土類化合物が、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲に第4回折ピーク、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲に第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が24.3~26.3°の範囲に第6回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第6回折ピークの半価幅が0.22°以下であるか、及び/又は、前記第4回折ピーク、前記第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲に第7回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である、請求項5に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項7】
前記希土類元素は、前記ケイ酸塩系基材の表面に存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項8】
表面に炭素元素を含有する分子を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項9】
ケイ素元素と希土類元素との合計モル数に対する希土類元素のモル数の割合が、0.1モル%以上7モル%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項10】
前記ケイ酸塩系基材が、シリカ又はケイ酸塩からなる基材である、請求項1~9のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項11】
前記ケイ酸塩系基材が、非晶質体である、請求項1~10のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項12】
前記ケイ酸塩系基材が、平均粒径が50nm以上470nm以下の粉末である、請求項1~11のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【請求項13】
請求項12に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体からなり、前記希土類化合物が発光物質である、発光ナノ粒子。
【請求項14】
バイオイメージングに用いられる、請求項13に記載の発光ナノ粒子。
【請求項15】
請求項13に記載の発光ナノ粒子を細胞内に取り込ませ、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記細胞を観察する工程を有する、細胞の検出方法。
【請求項16】
ヒトを除く動物の治療方法であって
請求項13に記載の発光ナノ粒子を前記動物に投与し、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記動物を治療する工程を有する、治療方法。
【請求項17】
体内細胞の検査を行う検査部、前記体内細胞の診断を行う診断部、及び/又は前記体内細胞の治療を行う治療部を備え、
前記検査、前記診断、及び/又は前記治療を行う際に、請求項13に記載の発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、前記発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法であって、
前記ケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法であって、
塩基性雰囲気中で、前記ケイ酸塩系基材の表面を溶解する工程と、
該表面を溶解したケイ酸塩系基材に、前記希土類化合物の原料を反応させる工程とを含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法。
【請求項20】
下記化学式(5)及び下記化学式(6)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物と、非晶質シリカとの混晶であって、
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲に第4回折ピーク、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲に第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が24.3~26.3°の範囲に第6回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第6回折ピークの半価幅が0.22°以下であるか、及び/又は、前記第4回折ピーク、前記第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲に第7回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である混晶。
EuOF ・・・(5)
EuF ・・・(6)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法、発光ナノ粒子、細胞の検出方法、動物の治療方法、及び、医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん細胞などの腫瘍を、生体親和性の高いマーカー材料によって細胞レベルで高感度に検出する技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、バイオイメージング材料として、二光子吸収性及び蛍光性を有する色素とデンドロンとが結合した水溶性デンドリマーからなる二光子吸収材料が記載されている。
【0004】
特許文献2には、量子ドットの表面が、疎水性基と極性基とを含む界面活性剤型重合開始剤により被覆されてなる水分散性量子ドットを、生体内バイオイメージング用粒子として用いることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、界面活性剤により保護されたコア又はコア/シェル構造の疎水性無機物ナノ粒子に、炭素数8~20個の炭化水素鎖によりチオール基と親水基とが結合された有機配位子を1~30当量添加して界面活性剤を部分的に置換し、ナノ粒子の表面に金属チオラート(M-S)結合を形成することによって、一部分だけが親水性に表面改質され、無極性有機溶媒で個別分散性を維持する疎水性ナノ粒子を製造する段階等を含む、バイオイメージングナノ粒子の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、赤外光等のエネルギーが低い光を励起光として用い、可視光の蛍光を得る現象であるアップコンバージョン特性を有する蛍光粒子であって、蛍光粒子の材質が、Y:Er3+,Yb3+、Y:Er3+、NaYF:Er3+,Yb3+のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである、バイオイメージングに用いられる蛍光粒子が記載されている。
【0007】
特許文献5には、平均粒子径が1~20nmである半導体ナノ粒子であって、それを構成する主要成分原子と等価の価電子配置をもつ異種原子もしくは当該異種原子の原子対をドーパントとして含有し、かつ当該ドーパントが半導体ナノ粒子表面又はその近傍に分布している、分子・細胞イメージングに用いる半導体ナノ粒子が記載されている。
【0008】
特許文献6には、第1の蛍光物質と、該第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子を含む病理診断用蛍光標識剤が記載されている。
【0009】
特許文献7には、希土類蛍光錯体を含有してなる希土類蛍光錯体含有シリカ粒子からなる蛍光標識剤、標的分子測定用キットが記載されている。
【0010】
また、非特許文献1~4にも、量子ドットや蛍光色素などをバイオイメージングに用いることが記載されている。
【0011】
上述のとおり、近年、がん細胞などの腫瘍を、生体親和性の高いマーカー材料によって細胞レベルで高感度に検出する技術が求められている。例えば、細胞のがん化においては、形態変化が起こる前に、分子レベルの活動変化が起こる。例えば、がん細胞は、正常細胞に比べ、ブドウ糖を多量に消費する傾向にある。同時に、細胞膜上に葉酸受容体が過剰発現するため、葉酸分子を特異的に結合・取込する傾向にある。このような細胞の分子レベル変化を、高精度に画像化することができれば、がん細胞などの超早期診断を実現することが可能となる。
【0012】
しかし、画像化のためのイメージング材料として、有機分子を用いた場合、劣化・退色速度が速く、例えば、蛍光観察下における数十分間の光照射によって、発光粒子が消光するなどの問題があった。また、バイオイメージング材料として、量子ドットなどの無機材料を用いた場合には、カドミウムのような毒性の高い元素が含まれる場合があり、生体適合性などの問題があった。
【0013】
そこで、本発明者らは、発光性の分子又はイオンを無機材料で包接した複合粒子を創製し、発光安定性及び耐光性を備え、生体毒性の低い、発光ナノ粒子を開発した(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2010-133887号公報
【文献】特開2009-190976号公報
【文献】特開2009-107106号公報
【文献】特開2013-14651号公報
【文献】国際公開第2009/066548号
【文献】特開2013-57037号公報
【文献】国際公開第2005/023961号
【文献】国際公開第2017/170531号
【非特許文献】
【0015】
【文献】“Selective molecular imaging of viable cancer cells with pH-activatable fluorescence probes ” Nature Medicine 15, 104 (2009)
【文献】“Quantum Dot Bioconjugates for Ultrasensitive Nonisotopic Detection.” Science 281, 2016 (1998)
【文献】“Nucleic Acid-Passivated Semiconductor Nanocrystals: Biomolecular Templating of Form and Function. ” Accounts of Chemicl Research, 43, 173 (2010)
【文献】“Multimodal-Luminescence Core-Shell Nanocomposites for Targeted Imaging of Tumor Cells.” Chem. Eur. J., 15, 3577 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
感度の良いバイオイメージングのためには、発光粒子の発光強度が高いことが望ましいが、特許文献8では、発光性分子・イオンの凝集や発光性分子の量が少ないことにより発光強度が低下してしまう場合がある。
なお、発光強度が高いことはバイオイメージング以外の用途においても同様に求められ、発光性分子・イオンの凝集や発光物質の量が少ないことにより発光強度が低下するという問題は、バイオイメージング以外の用途においても同様に存在する。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、発光強度が高く発光粒子として使用できるケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体、これを用いた発光ナノ粒子、細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、及びケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するケイ酸塩系基材と、希土類化合物とを含み、希土類化合物は、希土類元素の塩化物及び希土類元素のフッ化物から選択される少なくとも一種を含み、ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体とすることで、Eu等の発光性の希土類元素の量が十分になり、且つ、発光性の希土類のイオンの凝集が抑制され、蛍光強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0019】
[1] ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するケイ酸塩系基材と、希土類化合物とを含み、
前記希土類化合物は、希土類元素の塩化物及び希土類元素のフッ化物から選択される少なくとも一種を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0020】
[2] 前記希土類元素が、ユーロピウム(Eu)及びテルビウム(Tb)の少なくとも一方である、上記[1]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0021】
[3] 前記希土類化合物が、下記化学式(1)~(4)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含む、上記[2]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
EuCl ・・・(1)
Eu(OH) ・・・(2)
Eu(OH)Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【0022】
[4] 前記希土類化合物が、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下である、上記[3]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0023】
[5] 前記希土類化合物が、下記化学式(5)又は(6)で表される化合物並びに前記化学式(5)及び前記化学式(6)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物と非晶質シリカとの混晶から選択される少なくとも一種を含む、上記[2]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
EuOF ・・・(5)
EuF ・・・(6)
【0024】
[6] 前記希土類化合物が、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲に第4回折ピーク、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲に第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が24.3~26.3の範囲に第6回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第6回折ピークの半価幅が0.22°以下であるか、及び/又は、前記第4回折ピーク、前記第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲に第7回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である、上記[5]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0025】
[7] 前記希土類元素は、前記ケイ酸塩系基材の表面に存在する、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0026】
[8] 表面に炭素元素を含有する分子を含む、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0027】
[9] ケイ素元素と希土類元素との合計モル数に対する希土類元素のモル数の割合が、0.1モル%以上7モル%以下である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0028】
[10] 前記ケイ酸塩系基材が、シリカ又はケイ酸塩からなる基材である、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0029】
[11] 前記ケイ酸塩系基材が、非晶質体である、上記[1]~[10]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0030】
[12] 前記ケイ酸塩系基材が、平均粒径が50nm以上470nm以下の粉末である、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体。
【0031】
[13] 上記[12]に記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体からなり、前記希土類化合物が発光物質である、発光ナノ粒子。
【0032】
[14] バイオイメージングに用いられる、上記[13]に記載の発光ナノ粒子。
【0033】
[15] 上記[13]に記載の発光ナノ粒子を細胞内に取り込ませ、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記細胞を観察する工程を有する、細胞の検出方法。
【0034】
[16] ヒトを除く動物の治療方法であって、上記[13]に記載の発光ナノ粒子を前記動物に投与し、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記動物を治療する工程を有する、治療方法。
【0035】
[17] 体内細胞の検査を行う検査部、前記体内細胞の診断を行う診断部、及び/又は前記体内細胞の治療を行う治療部を備え、
前記検査、前記診断、及び/又は前記治療を行う際に、上記[13]に記載の発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、前記発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置。
【0036】
[18] 上記[1]~[12]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法であって、
前記ケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法。
【0037】
[19] 上記[1]~[12]のいずれか1つに記載のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法であって、
塩基性雰囲気中で、前記ケイ酸塩系基材の表面を溶解する工程と、
該表面を溶解したケイ酸塩系基材に、前記希土類化合物の原料を反応させる工程とを含み、
前記ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法。
【0038】
[20] 下記化学式(5)及び下記化学式(6)で表される化合物から選択される少なくとも一種と、非晶質シリカとの混晶であって、
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲に第4回折ピーク、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲に第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が24.3~26.3の範囲に第6回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第6回折ピークの半価幅が0.22°以下であるか、及び/又は、前記第4回折ピーク、前記第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲に第7回折ピークを有し、前記第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、前記第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、前記第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である混晶。
EuOF ・・・(5)
EuF ・・・(6)
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、発光強度が高く発光粒子として使用できるケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体、これを用いた発光ナノ粒子、細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、及びケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の一例を示す模式的断面図である。
図2】ケイ酸塩系基材の固体29Si-NMRスペクトルである。
図3】ケイ酸塩系基材の粉末X線回折パターンである。
図4】ケイ酸塩系基材の電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)による平均粒子径の測定結果である。
図5】メカノケミカル法による製造方法に用いた製造装置を説明する模式的側面図である。
図6】実施例及び比較例の粒子の粉末X線回折パターンである。
図7】実施例の粒子の励起スペクトル及び蛍光スペクトルである。
図8】実施例の粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像である。
図9】実施例の粒子の電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)観察による平均粒子径の算出結果である。
図10】実施例の粒子の粉末X線回折パターンである。
図11】実施例及び比較例の細胞密度の測定結果を示す図である。
図12】実施例及び比較例の蛍光強度(PL)の測定結果を示す図である。
図13】実施例及び比較例の蛍光強度(PL)の測定結果を示す図である。
図14】気相法による製造方法を説明する模式的側面図である。
図15】実施例の粒子の粉末X線回折パターンである。
図16】実施例及び比較例の粒子の粉末X線回折パターンである。
図17】実施例の粒子の蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明について、詳細に説明する。
<ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体>
本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するケイ酸塩系基材と、希土類化合物とを含む。そして、希土類化合物は、希土類元素の塩化物及び希土類元素のフッ化物から選択される少なくとも一種を含む。また、ケイ酸塩系基材は、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である。
【0042】
このように、特定のケイ酸塩系基材と、希土類元素の塩化物や希土類元素のフッ化物を含む希土類化合物との複合体とすることにより、後述する実施例に示すように、発光物質である希土類元素イオンの凝集が抑制され且つ希土類元素のケイ酸塩系基材への担持量が適度なため、蛍光強度(発光強度)が高い。一方、Q/Qが1.6未満の場合、希土類元素の担持量が多いため凝集し蛍光強度が低下する。また、Q/Qが3.9より大きい場合、希土類元素の化合物の担持量が少ないため蛍光強度が低下する。
【0043】
「ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体」とは、ケイ酸塩系基材と希土類化合物とを混合した単なる混合物ではなく、例えば、ケイ酸塩系基材の表面に希土類化合物が存在する構造体であって、ケイ酸塩系基材のシラノール基やシロキサン結合の酸素原子と、希土類化合物を構成する希土類イオンとが、配位結合等、何らかの化学結合をしている構造体である。
【0044】
希土類化合物を構成する希土類イオンは、特に限定されないが、三価のCe、四価のCe、三価のPr、三価のNd、三価のPm、三価のSm、二価のEu、三価のEu、三価のGd、三価のTb、三価のDy、三価のHo、三価のEr、三価のTm、三価のYb、三価のLu、及び、三価のTbからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。これらはいずれも発光物質である。中でも、三価のEuであるEu3+が好ましい。Eu3+は可視光領域で励起及び発光するためである。例えば、ユーロピウム化合物の結晶体は、可視光領域で励起及び発光し、励起波長λexは例えば395nmや464nmであり、蛍光波長λemは例えば615nmである。
【0045】
希土類化合物は、非晶質体でもよいが、結晶体であることが好ましい。結晶体であると、非晶質体と比べて塩化物イオンやフッ化物イオン等のイオンが溶出し難いため、イオンの溶出により生じる悪影響が抑制される。このため、細胞毒性が低く、バイオイメージングに好ましく用いることができる。
【0046】
ケイ酸塩系基材は、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するものである。ケイ酸塩系基材のSiに対するOのモル比(O/Si)は、2.0~2.2が好ましい。ケイ酸塩系基材は、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の骨格となる材料である。ケイ酸塩系基材としては、シリカ等の酸化ケイ素や、ケイ酸塩からなる基材が挙げられ、これらは結晶体でもよいが、生体毒性の観点からは非晶質体が好ましい。
【0047】
また、ケイ酸塩系基材は、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である。Q/Qは、好ましくは2.0~3.9であり、より好ましくは2.2~2.6である。
【0048】
このようなケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、Q/Qが1.6~3.9であるケイ酸塩系基材は、従来公知のスート法によるシリカガラスの製造法(例えばVAD(Vapor phase Axial Deposition)によるシリカガラスの製造法)において生じる粒子状物質(スート体や副生成物)として、得ることができる。
例えば、四塩化珪素を原料とし、酸素・水素火炎中にて加水分解反応させ、多孔質合成石英ガラス(スート体)としてシリカガラスを製造する際、酸素・水素火炎中にて加水分解反応した後、火炎より脱離し多孔質合成石英ガラスとならなかった粒子が、上記ケイ酸塩系基材になり得る。
上記製造の条件を調整することにより、上記ケイ酸塩系基材が得られる。例えば、原料である四塩化珪素を酸素・水素火炎バーナーの中心部へ導入し、火炎温度帯長さと、酸素・水素ガスのガスバランスを調整する。具体的には、例えば、1000℃以上の火炎温度帯長さ:100mm以上800mm以下、水素と酸素の体積比(H/O):1.0以上2.5以下の範囲内で、核生成や粒成長を調整する。火炎温度帯長さを長くするとQ/Qが大きくなる傾向があり、H/Oを大きくするとQ/Qが小さくなる傾向がある。
【0049】
ケイ酸塩系基材の形状は特に限定されず、例えば、球状(粉末状)でも板状でもよいが、細胞毒性が低いため球状であることが好ましい。また、ケイ酸塩系基材の大きさも特に限定されない。
ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体をバイオイメージングに用いる場合は、細胞毒性の観点から、ケイ酸塩系基材は、球状で、平均粒子径が50nm以上470nm以下であり、非晶質体であることが好ましい。
【0050】
ケイ酸塩系基材が球状の場合は、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の一例を示す模式的断面図である図1に示すように、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体(以下「複合体」とも記載する)は、ケイ酸塩系基材1の表面に希土類化合物2が被覆された構造体である。また、板状のケイ酸塩系基材を用いた場合は、板状のケイ酸塩系基材の表面の少なくとも一部に、希土類化合物2が被覆した複合体となる。
ケイ酸塩系基材1上に被覆された希土類化合物2からなる層の厚さは特に限定されないが、例えば、5nm以上25nm以下であり、10nm以上20nm以下が好ましい。
なお、図1においては、球状のケイ酸塩系基材1の表面全体に、希土類化合物2が被覆した複合体を記載したが、希土類化合物2は、ケイ酸塩系基材1の表面の少なくとも一部に存在すればよい。
【0051】
複合体中において、ケイ素元素と希土類元素との合計モル数に対する希土類元素のモル数の割合(希土類元素のモル数/(希土類元素のモル数+Siのモル数))が、0.1モル%以上7モル%以下であることが好ましく、4モル%以上7モル%以下であることがより好ましい。
【0052】
希土類化合物が、希土類元素の塩化物を含む場合は、希土類化合物は、例えば、下記化学式(1)~(4)で表される化合物を含む。
EuCl ・・・(1)
Eu(OH) ・・・(2)
Eu(OH)Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【0053】
また、上記化学式(1)~(4)で表される化合物は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であることが好ましい。
化学式(1)~(4)で表される化合物は、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であってもよいし、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピーク(2θ)を有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であってもよいし、また、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であり且つ回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピーク(2θ)を有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり第3回折ピークの半価幅が1.6°以下あってもよい。
第1回折ピークの半価幅は1.1°以下であることが好ましい。第2回折ピークの半価幅は0.6°以下であることが好ましい。第3回折ピークの半価幅は、1.0°以下であることが好ましい。
第1回折ピークは、化学式(1)又は(2)で表される化合物の結晶体に由来する。また、第2回折ピーク及び第3回折ピークは、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体に由来する。
化学式(1)中、xは、0.2以上0.6以下が好ましい。
【0054】
「回折角度(2θ)がa~b°の範囲に回折ピークを有する」とは、その回折ピークのピークトップ位置(回折ピークトップ位置)が、a°~b°の範囲内に含まれていることを意味する。したがって、例えばブロードなピークにおいてピークの端部から端部までの全てがa°~b°の範囲内に含まれている必要はない。
【0055】
また、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、上記特定の回折ピーク以外の、他のピークを有していてもよい。
例えば、化学式(1)又は(2)で表される化合物の場合は、回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲にも回折ピークを有していてもよい。回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲の回折ピーク及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°範囲の回折ピークは、それぞれ半価幅が0.6°以下であることが好ましく、0.4°以下であることがさらに好ましい。
また、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体の場合は、回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲にも回折ピークを有していてもよい。回折角度(2θ)が39.0~40.2の範囲の回折ピークの半価幅は、1.2°以下であることが好ましく、0.8°以下であることがさらに好ましい。
【0056】
従来、上記化学式(1)~(4)で表される化合物の結晶体は知られていなかった。しかしながら、詳しくは後述するが、特定のケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを用い、特定条件で固相メカノケミカル反応させることにより、上記特定の回折ピークを有する上記化学式(1)~(4)で表される化合物の結晶が得られた。
なお、「結晶体」とは、非晶質体ではないものであり、下記式(7)で表される結晶化度が0より大きいものである。結晶化度は、0.10より大きいものであることが好ましい。
結晶化度={結晶回折ピーク面積/アモルファスハロー回折ピーク面積}・・・(7)
(式(7)中、「結晶回折ピーク面積」とは、2θ=20~55°における結晶由来の回折ピークの面積の和であり、「アモルファスハロー回折ピーク面積」とは、2θ=20~55°において、観測されたすべての回折ピークの面積の和から結晶回折ピーク面積を引いた値である。)
【0057】
希土類化合物は、希土類元素のフッ化物を含む場合は、希土類化合物は、例えば、下記化学式(5)又は(6)で表される化合物を含む。また、下記化学式(5)及び(6)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物と、ケイ酸塩系基材に由来するシリカとの混晶でもよい。
EuOF ・・・(5)
EuF ・・・(6)
【0058】
また、上記化学式(5)又は(6)で表される化合物は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲に第4回折ピーク、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲に第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が24.3~26.3の範囲に第6回折ピークを有し、第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、第6回折ピークの半価幅が0.22°以下であるか、及び/又は、第4回折ピーク、第5回折ピーク及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲に第7回折ピークを有し、第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、第7回折ピークの半価幅が0.38°以下であることが好ましい。
第4回折ピーク、第5回折ピーク及び第7回折ピークは、式(5)で表される化合物の結晶体に由来する。また、第4回折ピーク、第5回折ピーク及び第6回折ピークは、式(6)で表される化合物の結晶体に由来する。
【0059】
希土類化合物は、例えば、塩化テルビウム(TbCl)、フッ化テルビウム(TbF)でもよい。
【0060】
なお、本発明において、希土類化合物は、上記特定の回折ピーク以外の、他のピークを有していてもよい。
【0061】
本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、表面に炭素元素を含有する分子を含むことが好ましい。炭素元素を含有する分子の量は特に限定されないが、例えば、ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体に含まれる、ケイ素原子のモル数に対する炭素原子のモル数の割合(Cのモル数/Siのモル数)が、0.05~160モル%が好ましく、6~9モル%がより好ましい。
【0062】
<ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体の製造方法>
上記本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、ケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である製造方法によって、製造することができる。
【0063】
ケイ酸塩系基材については、上記<ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体>で述べたとおりである。
【0064】
希土類化合物の原料としては、希土類化合物が希土類元素の塩化物の場合は、例えば、塩化ユーロピウム(III)六水和物や、塩化ユーロピウム(III)無水物が挙げられ、希土類化合物が希土類元素のフッ化物の場合は、フッ化ユーロピウム(III)六水和物やフッ化ユーロピウム(III)無水物が挙げられる。
【0065】
このようなケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料とを混合し、荷重下(例えば2N以上24N以下の荷重下、好ましくは2N以上12N以下の荷重下)で、固相メカノケミカル反応させる。
ケイ酸塩系基材を希土類化合物の原料と固相メカノケミカル反応させる方法は特に限定されない。例えば、粉末状のケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料を乳鉢に入れ、乳棒に2N以上24N以下の荷重をかけながら乳棒を回転させることにより、粉砕すればよい。乳鉢を電子天秤に載せた状態で上記操作を行うことにより、電子天秤の計量表示計で、荷重値を読み取ることができる。負荷する荷重を大きくすることにより、微細な粒子状の複合体が製造される。荷重2N以上でケイ酸塩系基材と希土類化合物が複合化(結合)し、荷重4N以上で希土類化合物が結晶化し始める。荷重を大きくすることにより、結晶性を高めることができる。なお、荷重が12Nを超えると、粉砕に伴う希土類化合物(発光層)の剥離が進行して相分離や微細化(50nm未満)が生じる傾向があるため、荷重は12N以下であることが好ましい。
また、板状のケイ酸塩系基材表面に塩化ユーロピウム(III)を載せ、2N以上24N以下、好ましくは2N以上12N以下の荷重をかけながら乳棒を動かすことにより、粉砕してもよい。この場合、板状のケイ酸塩系基材を電子天秤に載せた状態で上記操作を行うことにより、電子天秤の計量表示計で、荷重値を読み取ることができる。
【0066】
ケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料との割合は特に限定されないが、Siと希土類元素の合計モル数に対する希土類元素モル数の割合(希土類元素のモル数/(希土類元素のモル数+Siのモル数))が0.1モル%以上7.0モル%以下とすることが好ましい。
希土類化合物の原料として塩化ユーロピウム(III)六水和物を用いた場合、Siに対するEuの量を増加させると、化学式(4)で表される化合物を経て、化学式(3)で表される化合物が生成する傾向がある。
また、希土類化合物の原料としてフッ化ユーロピウム(III)六水和物を用いた場合、Siに対するEuの量が少ない場合は化学式(5)で表される化合物が生成し、Siに対するEuの量を増加させると、化学式(5)で表される化合物が生成するとともに化学式(6)で表される化合物が残存する傾向がある。
【0067】
/Qが2.0~3.9であるケイ酸塩系基材を用い、固相メカノケミカル反応において、塩化ユーロピウム(III)六水和物を、ケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合が1.0モル%以上となるように添加し、且つ、4N以上24N以下の荷重下で行うことにより、ユーロピウム化合物の結晶体とケイ酸塩系基材との複合体を製造することができる。該ケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合は、1.0モル%以上7.0モル%以下とすることが好ましい。
【0068】
ユーロピウム化合物は、従来作り分けが難しかったが、上記製造方法によれば、固相メカノケミカル反応におけるEuの量により、化学式(1)~(4)で表される化合物の作り分けをすることができる。
具体的には、固相メカノケミカル反応時のユーロピウムの濃度が低い状態(反応時のOHが少ない状態)では、化学式(1)及び(2)式で表される化合物が共存し、反応時のユーロピウムの濃度増加に伴って多層構造が形成し始めると、化学式(1)で表される化合物と化学式(2)式で表される化合物とが相互作用して、化学式(3)及び(4)式で表される化合物へと変化していく傾向がある。このため、固相メカノケミカル反応におけるEuの量により、化学式(1)~(4)で表される化合物の作り分けをすることができる。
【0069】
また、Q/Qが2.0~3.9であるケイ酸塩系基材を用い、固相メカノケミカル反応において、フッ化ユーロピウムを、ケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合が1.0モル%以上となるように添加し、且つ、4N以上24N以下の荷重下で行うことにより、ユーロピウム化合物の結晶体とケイ酸塩系基材との複合体を製造することができる。
【0070】
固相メカノケミカル反応させた後、焼成し、必要に応じて有機溶媒や水で洗浄する。
【0071】
このような製造方法により、ケイ酸塩系基材の表面に希土類化合物が形成される。例えば、球状のケイ酸塩系基材を用いた場合は、球状のケイ酸塩系基材の表面の少なくとも一部に、希土類化合物が被覆した複合体となる。
ケイ酸塩系基材表面に存在する酸素原子と希土類化合物が含有する希土類原子が配位結合する等の何らかの化学結合することにより、希土類化合物は、ケイ酸塩系基材と強固に結合していると推測される。
【0072】
また、気相法によっても、上記ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体を製造することができる。具体的には、上記ケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、塩基性雰囲気中で、ケイ酸塩系基材の表面を溶解する工程と、該表面を溶解したケイ酸塩系基材に、希土類化合物の原料を反応させる工程とを含み、ケイ酸塩系基材が、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qが1.6~3.9である製造方法によって、製造することができる。
【0073】
まず、塩基性雰囲気中で、ケイ酸塩系基材の表面を溶解する。塩基性雰囲気中で、ケイ酸塩系基材の表面を溶解することにより、希土類化合物の原料との反応性を高めることができる。
塩基性雰囲気としては、例えばアンモニアの蒸気を含む雰囲気が挙げられる。
ケイ酸塩系基材は、固相メカニカル法について説明したものと同様である。
ケイ酸塩系基材が球状(粉末状)の場合は、ケイ酸塩系基材と希土類化合物の原料とを混合、粉砕したものを、塩基性雰囲気中に載置することで、ケイ酸塩系基材の表面を溶解するようにしてもよい。
【0074】
次いで、表面を溶解したケイ酸塩系基材に、希土類化合物の原料を反応させる。これにより、溶解したシリカ等のケイ酸塩系基材が再析出するとともにEu3+が共沈することで、ケイ酸塩系基材の表面に、希土類化合物とNHClの結晶体とが形成される。
希土類化合物の原料は、固相メカニカル法について説明したものと同様である。
気相法により反応させた後、焼成し、必要に応じて有機溶媒や水で洗浄してもよい。
【0075】
なお、上述したとおり、界面活性剤を用いなくても希土類イオンの凝集が抑制された複合体を製造することができる。
【0076】
<発光ナノ粒子及び発光ナノ粒子の用途>
本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、細胞毒性が低く且つケイ酸塩系基材表面に形成された希土類化合物が発光物質としての機能を有するため、バイオイメージング技術に好ましく用いることができる。例えば、本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物との複合体は、発光ナノ粒子として、バイオイメージング技術に用いることができる。
【0077】
発光ナノ粒子の平均粒子径は、50nm~470nmであることが好ましい。平均粒子径が当該範囲であることによって、発光ナノ粒子が標的となる細胞に取り込まれやすくなり、細胞を観察する上で好適となる傾向にある。一方、平均粒子径が小さいと、細胞の活動機能に作用して毒性の問題が生じる傾向にあるため、好ましくない。発光ナノ粒子の平均粒子径は、100nm~400nmがより好ましい。なお、本発光ナノ粒子を例えば細胞イメージングに用いない場合には、平均粒子径は470nmより大きくてもよい。
【0078】
バイオイメージング技術に用いる発光ナノ粒子は、表面に水酸基(OH基)を有することが好ましい。また、発光ナノ粒子の表面をアミノ基が修飾していることも好ましく、例えばアミノ基を含有したシランカップリング剤を用いて形成してもよい。OH基及びアミノ基は、ケイ酸塩系基材が細孔を有する場合は、細孔内表面にあってもよいが、細孔外表面にあることが好ましい。OH基又はアミノ基が細胞結合分子と水素結合又は縮合重合による共有結合で固定化され、発光ナノ粒子の表面が細胞結合分子に修飾されると、細胞結合分子は、がん細胞や正常細胞と特異結合することができる。細胞結合分子が細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞等を検出することが可能となる。
【0079】
細胞結合分子としては、HER2抗体、ヒト上皮成長因子受容体に特異結合する抗体、がん特異的抗体、リン酸化タンパク抗体、葉酸、葉酸受容体βに特異結合する抗体、血管内皮細胞特異的抗体、組織特異的抗体、トランスフェリン、トランスフェリン結合型ペプチド、糖鎖と結合性を有するタンパク質等が挙げられる。この中でも、がん細胞が取り込む傾向にある葉酸を、細胞結合分子として用いることが好ましい。がん細胞は、細胞膜上に葉酸受容体が過剰発現するため、葉酸分子を特異的に結合・取込する傾向にあるためである。
【0080】
また、発光ナノ粒子の表面が抗がん剤分子で修飾されてもよい。抗がん剤分子が、がん細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞を検出することができ、且つ、抗がん剤分子もがん細胞に取り込まれ、抗がん剤が作用し、がん細胞の増殖を抑制することができる。
【0081】
細胞結合分子や抗がん剤分子は、発光ナノ粒子の表面に、化学結合によって修飾、固定されることが好ましい。化学結合としては、ペプチド結合(-CO-NH-)、水素結合等が挙げられる。
【0082】
発光ナノ粒子は、励起波長及び発光波長が可視光領域に存在することが好ましい。励起波長及び発光波長が可視光波長以上であると、光照射による生体組織及び標識材料の劣化を軽減できる。また、試料表面の光散乱を軽減し、観察感度を向上させることもできる。なお、発光ナノ粒子を用いる用途において、生体組織や標識材料へのダメージを考慮する必要がない場合には、励起波長及び発光波長が可視光領域に存在しなくてもよい。
【0083】
発光ナノ粒子を用いて、細胞の検出や、動物の治療をすることができる。
具体的には、本発明の細胞の検出方法は、上記発光ナノ粒子を細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を観察する工程を有する。本検出方法によれば、上記発光ナノ粒子が、蛍光強度が高く高感度であるため、細胞の観察をより容易に行うことが可能となる。
【0084】
また、本発明の動物の治療方法は、ヒトを除く動物の治療方法であって、発光ナノ粒子を、ヒトを除く動物に投与し、発光ナノ粒子に光を照射し、ヒトを除く動物を治療する工程を有する。本治療方法によれば、上記発光ナノ粒子は蛍光強度が高く高感度であり、かつ、生体親和性が高いため、動物の体内疾患の状況を感度よく、かつ安全に検知することができ、動物の疾患を適切に治療することが可能となる。
【0085】
また、本発明の医療装置は、体内細胞の検査を行う検査部と、体内細胞の診断を行う診断部と、及び/又は体内細胞の治療を行う治療部とを備え、検査、診断、及び/又は、治療を行う際に、上記発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置である。ここで、体内細胞の検査を行う検査部としては、例えば精密画像診断を行う蛍光内視鏡が挙げられる。また、体内細胞の診断を行う診断部としては、例えば組織生検を行う装置が挙げられる。さらに、体内細胞の治療を行う治療部としては、内視鏡による腫瘍部摘出装置が挙げられる。また、体内細胞の例としては、口腔癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、小腸癌、肺癌、乳癌、膀胱癌に係るがん細胞を例示することができる。本医療装置によれば、上記発光ナノ粒子は蛍光強度が高く高感度であり、かつ、生体親和性が高いため、体内細胞の検査、診断、治療を感度よく、かつ安全に行うことが可能となる。
【0086】
<その他の用途>
また、本発明のケイ酸塩系基材と希土類化合物は、バイオイメージング用途以外に用いることができ、例えば、発光ダイオード等の発光デバイス用途も期待される。
【実施例
【0087】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(ケイ酸塩系基材1の製造)
四塩化珪素を原料とし、酸素・水素火炎中にて十分に加水分解反応させ、多孔質合成石英ガラス(スート体)としてシリカガラスを製造した。この際に、酸素・水素火炎中にて加水分解反応した後、火炎より脱離し多孔質合成石英ガラスとならなかった粒子を、ケイ酸塩系基材1とした。なお、四塩化珪素は酸素・水素火炎バーナーの中心部より導入し、1000℃以上の火炎温度帯長さは400mm、水素と酸素の体積比(H/O)比は1.5とした。
【0089】
(ケイ酸塩系基材2の製造)
スクリュー管へ超純水(22.8mL)、ヘキサデシルアンモニウム塩化物(0.10g)、2N-水酸化ナトリウム水溶液(0.35mL)を添加し、その後、ケイ酸塩系基材1を50mg添加して、5分間の超音波照射を行って分散処理を施した。次いで、テトラエトキシシラン(0.55mL)を添加して、室温で48時間、1500rpmで攪拌した。次いで、遠心分離(3000rpm,20min)を行い、超純水によって洗浄2回を行い、120℃で2時間乾燥させ、550℃で6時間焼成した。その後、40mLのエタノールで洗浄して遠心分離により固液分離し、固相を120℃で2時間乾燥させることで、ケイ酸塩系基材2を得た。
【0090】
(ケイ酸塩系基材3の製造)
ヘキサデシルアンモニウム塩化物及びケイ酸塩系基材1を添加しなかったこと、及び、焼成温度を750℃としたこと以外は、上記(ケイ酸塩系基材2の製造)と同様にして、ケイ酸塩系基材3を得た。
【0091】
(ケイ酸塩系基材4の製造)
ケイ酸塩系基材1を添加しなかったこと以外は、上記(ケイ酸塩系基材2の製造)と同様にして、ケイ酸塩系基材4を得た。
なお、得られたケイ酸塩系基材1~4は、いずれも球状の粉末であった。
【0092】
(ケイ酸塩系基材の固体29Si-NMRスペクトルにおけるQ/Q
得られたケイ酸塩系基材1~4について、以下の条件で固体29Si-NMRスペクトルを測定した。結果を図2に示す。
<測定条件>
装置名:Bruker Advance 300wbs spectrometer(BRUKER社製)
測定方法:DD(Dipolar Decoupling)法
試料管:7mm
試料回転数:5000rpm
共振周波数:59.62MHz
パルス幅:4.5msec.
待ち時間:60sec
積算回数:1000times
標準試料:ヘキサメチルシクロトリシロキサン(-9.55ppm)
<ピーク分離法>
(ベースラインの作成法)
操作(1):-70~-79ppmの範囲の強度の平均値1と、-131~-140ppmの範囲の強度の平均値2を算出する
操作(2):2点(-70ppm,平均値1)(-140ppm,平均値2)を通る直線をベースラインと定義
操作(3):ベースライン値をスペクトルから削除
(ピーク分離方法)
分離方法:Microsoft Office 2016 Excel(登録商標)のソルバー機能
使用した関数:ガウス関数(式中、Aはピーク高さ、Bはピーク位置、Cは半価幅である。)
【数1】
ピーク帰属:
:-91±2ppm、2つの≡Si-O-Si≡結合と2つの≡Si-OH結合
:-100±2ppm、3つの≡Si-O-Si≡結合と1つの≡Si-OH結合
:-110±2ppm、4つの≡Si-O-Si結合
A,B,Cの初期条件:
:A=100000、B=-91、C=4
:A=400000、B=-100、C=5.5
:A=960000、B=-110、C=5.5
【0093】
図2より、各ケイ酸塩系基材について、得られたスペクトルを生データと定義しそれを上記のようにスペクトル分離した。固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)に由来するピーク面積をQとし、HO-Si(OSi)に由来するピーク面積をQとしたときの、Q/Qを求めたところ、ケイ酸塩系基材1では2.4、ケイ酸塩系基材2では1.6、ケイ酸塩系基材3では4.0、ケイ酸塩系基材4では1.3であった。なお、図2に示すQは、(HO)-Si(OSi)に由来するピークである。
【0094】
<ケイ酸塩系基材の粉末X線回折パターンの測定>
ケイ酸塩系基材1~4について、粉末X線回折(XRD)パターンを測定した。
試料水平型X線回折装置(XRD、(株)リガク製、Smart Lab)を用い、X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:3.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。一例として、ケイ酸塩系基材1の結果を図3に示す。
この結果、ケイ酸塩系基材1~4は、2θ=20°付近にみられるアモルファスハローパターンの半価幅が大きく6.7°~8.3°であり、また、結晶由来のピークは観察されず、非晶質体であった。
【0095】
(ケイ酸塩系基材の平均粒子径の測定)
ケイ酸塩系基材1~4(粒子粉末)をカーボンペーストにて観察用の試料台に固定した後、乾燥させた。次いで、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、SU8230)により、粒子を観察し、粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。具体的には、300個の粒子について、各粒子の長径及び短径をそれぞれ計測し、(長径+短径)/2を各粒子の粒径とした。この各粒子の粒径の平均値(各粒子の粒径の合計値を個数(300)で除した値)を平均粒子径(Ave.)とし、また、変動係数(Cv.)を計算した。一例として、ケイ酸塩系基材1の結果を図4に示す。
この結果、ケイ酸塩系基材1の平均粒子径は151nmであり、変動係数は45%であった。ケイ酸塩系基材2の平均粒子径は124nmであり、変動係数は52%であった。ケイ酸塩系基材3の平均粒子径は143nmであり、変動係数は44%であった。ケイ酸塩系基材4の平均粒子径は129nmであり、変動係数は52%であった。
【0096】
(実施例1)
図5は、実施例1の製造方法に用いた製造装置を説明する模式的側面図である。図5に示すように、半球状凹空間(直径65mm、深さ30mm)を有する瑪瑙乳鉢11内で、半球状凸部(先端直径20mm、高さ5mm)を有する長さ80mmの乳棒12により粉砕することにより、ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを、4Nの荷重下で、固相メカノケミカル反応させた。具体的には、乳鉢11内の、120℃で24時間乾燥させたケイ酸塩系基材1 0.4g(6.66mmol)へ、塩化ユーロピウム六水和物(EuCl・6HO,和光純薬(株)製,試薬特級,純度99.9wt%)を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合(Euのモル数/(Siのモル数+Euのモル数))が5.0モル%となるように添加した。そして、5分間、乳棒12により乳棒12を自転させずに乳鉢11内凹空間内の半径25mmの円周上を公転させた。乳棒12の公転は、120回転/minとし、乳棒12に荷重を4Nかけて行った。なお、乳鉢11を電子天秤13に載せた状態で上記操作を行い、電子天秤13の計量表示計14で、荷重値を読み取った。
得られた粉末を、120℃で2時間乾燥させ、550℃で6時間焼成した。その後、40mLのエタノールで洗浄して遠心分離により固液分離し、固相を120℃で2時間乾燥させることで、実施例1の粒子(球状の粉末)を得た。
【0097】
(実施例2)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が2.5モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2の粒子を得た。
【0098】
(実施例3)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が1.25モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3の粒子を得た。
【0099】
(実施例4)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が0.625モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4の粒子を得た。
【0100】
(実施例5)
ケイ酸塩系基材1の代わりにケイ酸塩系基材2を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5の粒子を得た。
【0101】
(比較例1)
塩化ユーロピウム六水和物を、比較例1の粒子として用いた。
【0102】
(比較例2)
ケイ酸塩系基材1の代わりにケイ酸塩系基材3を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2の粒子を得た。
【0103】
(比較例3)
ケイ酸塩系基材1の代わりにケイ酸塩系基材4を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例3の粒子を得た。
【0104】
<粉末X線回折(XRD)>
実施例1~5及び比較例1~3の粒子ついて、以下の条件で粉末X線回折(XRD)パターンを測定した。
試料水平型X線回折装置(XRD、(株)リガク製、Smart Lab)を用い、X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:3.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。回折ピーク位置、回折角、及び、半価幅は、装置に付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:PDXL)により得た。
回折ピークは、PDXLの自動プロファイル処理により、2次微分法(2次微分が負(上に凸)の領域をピークとして検出する方法)により、バックグラウンドの除去、Kα2線の除去、平滑化を順に行い、Bスプライン関数(分割疑Voigt関数)によりフィッティングすることで検出した。回折ピークを検出する際の閾値(標準偏差のカット値)は3.0とした。この閾値の意味は回折ピークの強度がその誤差の3.0倍以下の場合にその回折ピークを回折ピークとみなさないことを意味する。回折ピーク強度(回折ピークの高さ)が高い順に三点を選定し、結晶体の同定に利用した。
また、上記式(7)により結晶化度を算出した。
結果を表1及び図6に示す。表1において、上段の各回折ピークが位置する回折角度2θを示す「m±n」は、回折ピークのピークトップ位置(回折ピークトップ位置)がm(°)であり、回折ピークの開始点がm-n(°)であり、回折ピークの終了点がm+n(°)であることを示す。具体的に、回折ピークトップは、各回折ピークの開始点から終了点までベースラインを引き、開始点から終了点まで間の最大強度(最大高さ)と定義した。その回折ピークトップの位置(回折角)を回折ピークトップ位置とした。また、表1において、下段の括弧内は、各回折ピークにおける半価幅である。半価幅は、「m-n」°~「m+n」°の範囲内において回折ピークトップの50%の強度(高さ)になっている回折ピーク位置間の幅を示している。
【0105】
表1及び図6に示すように、実施例2~3は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に回折ピーク(第1回折ピーク)を有し該回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲の回折ピークの半価幅が1.8°以下であり、化学式(1)又は(2)で表される化合物の結晶体を含んでいた。なお、化学式(1)におけるxは0.2以上0.6以下であった。
また、実施例2~3は、いずれも回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が25.9~26.5°範囲の回折ピーク及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲の回折ピークの半価幅は、いずれも0.6°以下であった。
【0106】
また、実施例1は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に回折ピーク(第2回折ピーク、第3回折ピーク)を有し、該回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲の回折ピークの半価幅が1.0°以下であり回折角度(2θ)が36.8~38.4°の回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体を含んでいた。
また、実施例1は、回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が39.0~40.2の回折ピークの半価幅が1.2°以下であった。
また、表1及び図6に示すように、実施例1~3で得られた粒子では、結晶化度が0超えであり、表面に、ユーロピウム化合物の結晶が形成された一方、実施例4~5及び比較例1~3の粒子では非晶質であった。
なお、実施例1~5は、いずれもケイ酸塩系基材の表面にユーロピウム化合物が結合していた。
【0107】
【表1】
【0108】
<発光特性>
実施例1~5及び比較例1~3の粒子ついて、以下の条件で、励起スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。一例として、実施例1~3の結果を図7に示す。図7(a)は励起スペクトルであり、図7(b)は蛍光スペクトルである。
・励起スペクトル
分光光度計(PL、JASCO(株)、FP-8500)で、検出波長(615nm)を固定して、励起スペクトルを得た。測定条件は、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:2.5nm/2.5nm、ステップ幅:1.0nm、サンプル重量:20mg、形状:ペレット、とした。
・蛍光スペクトル
分光光度計(PL、JASCO(株)、FP-8500)で、室温下でXeランプから試料へ励起光を照射し(励起波長:395nm)、PLスペクトル(蛍光スペクトル)を得た。測定条件は、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:2.5nm/2.5nm、ステップ幅:1.0nm、サンプル重量:20mg、形状:ペレット、とした。
【0109】
この結果、図7に示すように、実施例1~5及び比較例1~3全てで、Eu(III)イオンに起因する励起ピーク(遷移、遷移、遷移、遷移、遷移)及び発光ピーク(遷移、遷移、遷移、遷移)が観測された。
また、実施例1~5及び比較例1~3の粒子それぞれについて、図7から、励起波長λex=395nm,発光波長λem=615nmでの内部量子収率を求めたところ、1.0~4.0%であった。
【0110】
<化学組成(蛍光X線分析(XRF))>
実施例1~5及び比較例1~3の粒子ついて、以下の条件で蛍光X線分析(XRF)を行った。
試料粉末約100mgを希釈せずに加圧して得られた試料ペレットを、蛍光X線分析装置(XRF、(株)リガク製、装置名:ZSX PrimusII)及び装置付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:EZ scan program)を用いて、XRF分析を行った。測定の際、1次フィルター、検量線は使用せず、装置付属の測定プログラムを用いて、半定量分析を行った。分析結果及び元素比に換算した結果を、表2~5に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
<透過型電子顕微鏡(TEM)観察>
実施例1~4の粒子ついて、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。まず粒子を0.1質量%の濃度でエタノールに分散させ、超音波処理を15分間施し、カーボンマイクログリッドへ載せて乾燥させた。次いで、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、HT7700)により、粒子膜の中心部を評価・解析した。結果の一例として、実施例1について図8(a)に、実施例2について図8(b)に示す。
この結果、実施例1及び2ではケイ酸塩系基材の表面を被覆する層が観察され、被覆する層の厚さは、実施例1では19~25nm、実施例2では8~12nmであった。なお、実施例3及び4では、明確な層の形成は確認できなかった。
【0116】
<粒子の平均粒子径の測定>
実施例1~4の粒子ついて、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。なお、300個の粒子について、各粒子の長径及び短径をそれぞれ計測し、(長径+短径)/2を各粒子の粒径とした。この各粒子の粒径の平均値(各粒子の粒径の合計値を個数(300)で除した値)を平均粒子径(Ave.)とした。一例として、実施例1について図9(a)に、実施例2について図9(b)に示す。
この結果、実施例1の粒子の平均粒子径は189nmであり、ケイ酸塩系基材1の厚さ151nmから、層の厚さは、(189-151)/2で19nmと算出された。実施例2の粒子の平均粒子径は172nmであり、ケイ酸塩系基材1の厚さ151nmから、層の厚さは、(172-151)/2で10nmと算出された。実施例3の平均粒子径は160nmであった。実施例4の粒子の平均粒子径は155nmであった。
【0117】
(実施例6)
荷重を8.0Nにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例6の粒子を得た。
【0118】
(実施例7)
荷重を12.0Nにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例7の粒子を得た。
【0119】
実施例6~7の粒子について、上記<粉末X線回折(XRD)>と同様にした結果を表6及び図10に示す。
表6及び図10に示すように、実施例6~7は、いずれも回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に回折ピーク(第2回折ピーク、第3回折ピーク)を有し、該回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲の回折ピークの半価幅が1.0°以下であり及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体を含んでいた。
また、実施例6~7は、いずれも回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が39.0~40.2の回折ピークの半価幅が0.8°以下であった。
また、表6及び図10に示すように、実施例6~7で得られた粒子では、いずれも結晶化度が0超えであり、表面に、ユーロピウム化合物の結晶が形成されていた。
また、表6及び図10に示すように、荷重を大きくすることにより、結晶性を高めることができることが分かる。
【0120】
【表6】
【0121】
<毒性評価>
実施例1~4又は比較例1の粒子を用いて、以下の方法で、がん細胞イメージングと蛍光強度測定による、毒性評価を行った。
(粒子へのがん細胞結合分子(葉酸誘導体FA-NHS)の修飾)
実施例1~4又は比較例1の粒子250mgに、HCl水溶液(pH=2)12mLを添加し、超音波処理を行った。次に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)0.78mL(3.3mmol)を5mLのエタノールに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を40℃で20時間攪拌した(pH<6.5)。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、エタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、APTESが表面に修飾した粒子150mgを得た。このAPTESが表面に修飾した粒子150mgに、50mMのリン酸緩衝液(pH=7.0)25mLを添加し、超音波処理を行った。次に、FA-NHS(葉酸誘導体)430mg(0.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)12mLに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を室温で3時間攪拌した。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、水で洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、実施例1~4又は比較例1のFA(葉酸)修飾粒子を得た。
【0122】
(細胞の培養)
Helaがん細胞をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×10cells/37cm)。解凍及び播種を7日間行った。
細胞を剥離、分離した。Helaの濃度は、(0.99±0.07)×10cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×10cellsであった。
ポリスチレンディッシュ(TCPS)(培養面積:9.6cm)へ2.25mL/TCPSの量で播種し、播種濃度は1.8×10cells/cmであった。(顕微鏡観察)。
その後、培養した(温度:37℃、CO濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、実施例1~4又は比較例1のFA(葉酸)修飾粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0123】
生細胞イメージングは、FA(葉酸)修飾粒子を細胞表面へ噴霧した3時間後から、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後において、培地除去した。
【0124】
(細胞密度の測定)
上記細胞を培養後、細胞の入ったポリスチレンディッシュ(TCPS)を1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて2回洗浄し、細胞に取り込まれていないFA(葉酸)修飾粒子を除去し、0.05%Trypsin-EDTA0.1mlを細胞の入ったTCPSに入れ、COインキュベータ内で12分静置し、TCPSから細胞を剥離した。剥離を確認後、細胞を含む懸濁液を50mlコニカルチューブにとり、遠心分離(2000rpm,2min)を行った。遠心分離後、上澄みを捨て、チューブに培地を7ml加え、転倒攪拌を10回程度行った後、遠心分離(2000rpm,2min)を行った。その後、上澄みを捨て、チューブに培地を20ml加え、ピペッティングを20回程度行い1mlを15mlのチューブに分取し、クリーンベンチの外でマイクロピペットを使いディスポーサブル血球計算版に細胞懸濁液を入れ、顕微鏡で細胞数を確認し、平均値(cell/cm)を算出した。
FA(葉酸)修飾粒子を細胞表面へ噴霧した3時間後から、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後において、それぞれ細胞密度の平均値を算出した結果を図11に示す。
【0125】
(蛍光強度(PL)の測定)
積分球(ジャスコ株式会社、ISF834)を用いて分光光度計(PL;ジャスコ株式会社、FP-8500)で、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:10nm/10nm、ステップ幅:1.0nmの条件下で、PLスペクトル測定を行った。
具体的には、細胞培養後の細胞とFA(葉酸)修飾粒子の入ったTCPSを1mlのリン酸緩衝生理食塩水を用いて2回洗浄し、細胞に取り込まれていないFA(葉酸)修飾粒子を除去し、さらに、1mlの超純水を用いて2回洗浄した。洗浄後のTCPS(すなわち、FA(葉酸)修飾粒子を取り込んだ細胞の入ったTCPS)を、凍結乾燥した。乾燥後、TCPS内に存在する細胞層を剥離して粉末状にして粉末セルホルダーに入れ、PLスペクトルを測定した。ここでの励起波長は395nmで、遷移のピークトップを中心とする積分発光強度を計算した。具体的に、600~635nm間の波長領域のPLスペクトル面積積分発光強度を求めた。なお、この波長領域においてTCPSからの発光はないことを確認している。結果を図12に示す。
【0126】
図11に示すように、表面にユーロピウム化合物の結晶体が形成された実施例1~3では、正常な細胞増殖挙動がみられ、細胞毒性がないことが確認された。つまり、結晶体として球状のケイ酸塩系基材へ複合化した場合、細胞毒性は無いと言える。これに対し、比較例1では、正常な細胞増殖挙動がみられず、非晶質体であるEuCl・6HO単体では、不安定な塩化物であるため、細胞培養液へ溶出してEuイオンもしくはEu塩化物イオンとなって直接細胞と反応したと考えられる。同様に非晶質体である比較例4の粒子を用いた場合も、細胞培養液へ溶出してEuイオンもしくはEu塩化物イオンとなって直接細胞と反応したと考えられる。よって、非晶質体の場合は、溶出による細胞毒性があると言える。
【0127】
また、図12に示すように、蛍光特性について、非結晶体である比較例1では、溶出・毒性によって細胞への結合・取込に伴う蛍光強度が培養48時間で低かったが、結晶体である実施例1~3では、溶出がなく毒性がないため、培養48で蛍光強度が、比較例1と比べて高かった。
【0128】
(蛍光積分強度の測定)
実施例1及び5、比較例2及び3の粒子について、PLスペクトルを測定した。
PLスペクトル(蛍光スペクトル)は、分光光度計(PL、JASCO(株)、FP-8500)を用い、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:2.5nm/2.5nm、ステップ幅:1.0nm、サンプル質量:20mg、形状:ペレットの条件で、室温下でXeランプから試料へ励起光(励起波長:394nm)を照射することで、PLスペクトルを得た。
その後、遷移のピークトップを中心とする積分発光強度(図13の左縦軸)を計算した。具体的には、600-635nm間の波長領域のPLスペクトル面積を用いて計算した。さらに、XRFの結果から、各粒子中(各20mg中)に存在するEu3+の量を求め、1モル当たりの積分発光強度(図13の右縦軸)を求めた。1モル当たりの積分発光強度について,最も高かった積分発光強度を1に固定して、他のサンプルの相対強度を計算した。結果を図13に示す。
【0129】
図13に示すように、Q/Qが1.6~3.9である実施例1及び5では、蛍光強度が高かった。詳述すると、Q/Qが2.4である実施例1は、特に蛍光強度が高く、これは、担持量が最適化され、Eu(III)イオンが単分散状にケイ酸塩系基材(シリカ球)表面に存在しているためである。Q/Qが1.6である実施例5では、蛍光強度が高めであるが実施例1よりも低く、これは、ケイ酸塩系基材(シリカ球)のシラノール基量が実施例1よりも多くEu(III)イオンが実施例1より凝集しているためである。
一方、Q/Qが1.6~3.9の範囲外である比較例2及び3では、蛍光強度が低かった。詳述すると、Q/Qが1.3である比較例3では、蛍光強度が低く、これは、ケイ酸塩系基材のシラノール基量が多くEu化合物の担持量が多くなりすぎ、Eu(III)イオンが凝集しためである。Q/Qが4.0である比較例2では、蛍光強度が低く、これは、ケイ酸塩系基材のシラノール基量が少なくEu(III)イオン担持量が少ないためである。
【0130】
(実施例8)
実施例8の製造方法を説明する模式的側面図である図14に示すように、容量30mLのPFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製で密閉可能な円筒状の容器21に、アンモニア水2.5mLを入れ、容器21内に、10mLスクリュー管23がアンモニア水22の液面24より高く載置できるように台25を載置した。
ケイ酸塩系基材(ケイ酸塩系基材1)10mgと、塩化ユーロピウム(III)六水和物を10mgとを混合し粉砕した混合粉砕物30を得た。
得られた混合粉砕物30を10mLのスクリュー管23に入れ、スクリュー管23を、蓋をせず上部が解放された状態で、容器21内の台25上に載せ、容器21を密閉し、60℃で24時間静置した。これにより、容器21内はアンモニア蒸気で飽和し、ケイ酸塩系基材の表面が潮解及びアンモニア蒸気により溶解した。
その後、スクリュー管23を容器21から取り出した。これにより、ケイ酸塩系基材表面に、溶解したケイ酸塩系基材が再析出すると共にEu3+が共沈することで、ケイ酸塩系基材の表面に、希土類化合物及び結晶体としてのNHClが、析出した。
得られた粉末を、120℃で2時間乾燥させ、550℃で6時間焼成した。その後、40mLのエタノールで洗浄して遠心分離により固液分離し、固相を120℃で2時間乾燥させることで、実施例8の粒子(球状の粉末)を得た。
【0131】
(実施例9)
ケイ酸塩系基材(ケイ酸塩系基材1)10mgと、濃度10g/Lの塩化ユーロピウム(III)水溶液1.0mLとを混合し、超音波処理を2分間行って、混合分散液を得た。
得られた混合分散液0.1mLを、混合粉砕物の代わりに用いたこと以外は、実施例8と同様の操作を行って、実施例9の粒子を得た。
【0132】
(実施例10)
混合分散液を1.0mLにしたこと以外は、実施例9と同様の操作を行って、実施例10の粒子を得た。
【0133】
<粉末X線回折(XRD)>
実施例8~10の粒子について、上記<粉末X線回折(XRD)>と同様にした結果を表7及び図15に示す。
【0134】
表7及び図15に示すように、実施例8~10は、NHClの結晶体がケイ酸塩系基材の表面に形成されていた。なお、実施例8~10は、いずれもケイ酸塩系基材の表面にユーロピウム化合物が結合していた。
【0135】
【表7】
【0136】
<化学組成(蛍光X線分析(XRF))>
実施例8~10の粒子ついて、実施例1と同様にして、蛍光X線分析(XRF)を行った。結果を表8及び9に示す。
【0137】
【表8】
【0138】
【表9】
【0139】
(実施例11)
図5の製造装置を用いて実施例11の粒子を製造した。図5に示すように、半球状凹空間(直径65mm、深さ30mm)を有する瑪瑙乳鉢11内で、半球状凸部(先端直径20mm、高さ5mm)を有する長さ80mmの乳棒12により粉砕することにより、ケイ酸塩系基材1とフッ化ユーロピウムとを、4Nの荷重下で、固相メカノケミカル反応させた。具体的には、乳鉢11内の、120℃で24時間乾燥させたケイ酸塩系基材1 0.4g(6.66mmol)へ、フッ化ユーロピウム(EuF,和光純薬(株)製,試薬特級,純度99.9wt%)を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が1.3モル%となるように添加した。そして、5分間、乳棒12により乳棒12を自転させずに乳鉢1内凹空間内の半径25mmの円周上を公転させた。乳棒12の公転は、120回転/minとし、乳棒12に荷重を4Nかけて行った。なお、乳鉢11を電子天秤13に載せた状態で上記操作を行い、電子天秤13の計量表示計14で、荷重値を読み取った。
得られた粉末を、120℃で2時間乾燥させ、550℃で6時間焼成した。その後、40mLのエタノールで洗浄して遠心分離により固液分離し、固相を120℃で2時間乾燥させることで、実施例11の粒子(球状の粉末)を得た。
【0140】
(実施例12)
フッ化ユーロピウムを、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が2.5モル%となるように添加したこと以外は、実施例11と同様の操作を行って、実施例12の粒子を得た。
【0141】
(実施例13)
フッ化ユーロピウムを、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が5.0モル%となるように添加したこと以外は、実施例11と同様の操作を行って、実施例13の粒子を得た。
【0142】
(比較例4)
フッ化ユーロピウムを、比較例4の粒子として用いた。
【0143】
<粉末X線回折(XRD)>
実施例11~13及び比較例4の粒子について、上記<粉末X線回折(XRD)>と同様にした結果を表10及び図16に示す。図16に、ケイ酸塩系基材1のみの粉末X線回折パターンも併記した。
【0144】
表10及び図16に示すように、実施例12及び13は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲(第4回折ピーク)、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲(第5回折ピーク)及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲(第7回折ピーク)にそれぞれ回折ピークを有し、第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である式(5)で表される化合物、及び、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲(第4回折ピーク)、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲(第5回折ピーク)及び回折角度(2θ)が24.3~26.3の範囲(第6回折ピーク)にそれぞれ回折ピークを有し、第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、第6回折ピークの半価幅が0.22°以下である式(6)で表される化合物の結晶体を含んでいた。
実施例11は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が26.6~28.6°の範囲(第4回折ピーク)、回折角度(2θ)が44.8~46.8°の範囲(第5回折ピーク)及び回折角度(2θ)が30.8~32.8°の範囲(第7回折ピーク)にそれぞれ回折ピークを有し、第4回折ピークの半価幅が0.3°以下であり、第5回折ピークの半価幅が0.57°以下であり、第7回折ピークの半価幅が0.38°以下である式(5)で表される化合物の結晶体単相であった。
そして、実施例12~13の粒子は、式(5)で表される化合物や式(6)で表される化合物と、非晶質シリカとの混晶であると言える。
また、実施例11~13は、39.1~39.7°に回折ピーク(2θ)が観察された。図16に△で記載し、表10の結晶化度の計算においても利用した。
【0145】
【表10】
【0146】
<発光特性>
実施例11~13の粒子ついて、実施例1と同様にして、励起スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。結果の一例として、蛍光スペクトルを図17に示す。
【0147】
この結果、実施例11~13全てで、Eu(III)イオンに起因する励起ピーク(395nm)及び発光ピーク(613nm)が観測された。
また、実施例11~13の粒子それぞれについて、励起波長λex=395nm,発光波長λem=613nmでの内部量子収率を求めたところ、実施例11は1.47、実施例12は5.39、実施例13は6.70%であった。
【0148】
<化学組成(蛍光X線分析(XRF))>
実施例11~13及び比較例4の粒子ついて、実施例1と同様にして、蛍光X線分析(XRF)を行った。結果を表11及び12に示す。
【0149】
【表11】
【0150】
【表12】
【0151】
<粒子の平均粒子径の測定>
実施例11~13の粒子ついて、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。なお、300個の粒子について、各粒子の長径及び短径をそれぞれ計測し、(長径+短径)/2を各粒子の粒径とした。この各粒子の粒径の平均値(各粒子の粒径の合計値を個数(300)で除した値)を平均粒子径とした。
この結果、実施例11の粒子の平均粒子径は140nmであり、実施例12の粒子の平均粒子径は149nmであり、実施例13の平均粒子径は151nmであった。
【0152】
<毒性評価>
実施例11~13及び比較例4の粒子を用いて、実施例1と同様の方法で、毒性評価を行った。
この結果、ユーロピウム化合物の結晶体が形成された実施例11~13では、正常な細胞増殖挙動がみられ、細胞毒性がないことが確認された。これに対し、比較例4では、不安定なフッ化物であるため、これが細胞培養液へ溶出しEuイオンもしくはEuフッ化物イオンとなって直接細胞へ反応したと考えられ、比較例1とほぼ同じ程度の毒性を示す結果になった。
なお、細胞に取り込まれた粒子の蛍光特性については、結晶体は細胞培養液への溶出がないため最終的に、培養48時間で、比較例4と比べて、蛍光強度が高い結果となった。
【0153】
以上により、希土類元素の塩化物又は希土類元素のフッ化物を、特定のケイ酸塩系基材の表面に設けた複合体粒子を用いると、細胞は良好に成長し、細胞へ取り込ませて可視化することができることが分かった。そして、発光物質である希土類元素の凝集が抑制され、希土類元素の担持量も適量であるため、蛍光強度が高く、感度良く検出できる。
【符号の説明】
【0154】
1 ケイ酸塩系基材(球状)
2 希土類化合物
11 容器
12 アンモニア水
13 スクリュー管
14 アンモニア水の液面
15 台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17