(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】盛土安定化工法、及び盛土構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240705BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02D17/18 Z
(21)【出願番号】P 2024032355
(22)【出願日】2024-03-04
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2023110215
(32)【優先日】2023-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506199396
【氏名又は名称】株式会社地盤リスク研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】太田 英将
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-130793(JP,A)
【文献】特開2008-045352(JP,A)
【文献】特開2007-231629(JP,A)
【文献】特開2018-165445(JP,A)
【文献】特開2011-026861(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0043506(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に多数の開口部が形成された少なくとも一つ以上の長尺の管状部材を盛土の底部に埋め込んで谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土安定化工法であって、
盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、
土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた
三次元安定解析を行い、
前記
三次元安定解析に基づいて前記管状部材を滑動方向に沿って埋め込み、
自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧が消散した消散領域を前記管状部材の周囲に形成すると共に、
高強度の側面抵抗を有する擬似側壁を前記消散領域上に形成し、前記擬似側壁によって前記盛土全体を複数の盛土領域に分割し、
前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止することを特徴とする盛土安定化工法。
【請求項2】
前記消散領域は、前記過剰間隙水圧により前記管状部材に流入した地下水を急速排水して除圧することで形成されることを特徴とする請求項1記載の盛土安定化工法。
【請求項3】
前記消散領域は、前記地すべり的変動の抑止機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の盛土安定化工法。
【請求項4】
前記抵抗力を前記滑動力に抗して前記盛土の地すべり的変動を抑止することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の盛土安定化工法。
【請求項5】
前記盛土を前記滑動方向に削孔して掘削穴を形成した後、前記管状部材を前記掘削穴に挿入し、該管状部材を前記盛土の前記底部に埋め込むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の盛土安定化工法。
【請求項6】
長手方向に多数の開口部が形成された少なくとも一つ以上の長尺の管状部材を盛土の底部に埋め込
み、地盤底面部との境界面上にソイルパイプが形成された谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土構造であって、
盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、
土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた
三次元安定解析を行い、該
三次元安定解析に基づいて前記管状部材が滑動方向に沿って埋め込まれると共に、
自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域が前記管状部材の周囲に形成され、
かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁が前記消散領域上に形成されて前記盛土全体が前記
擬似側壁によって複数の盛土領域に分割され、
前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止することを特徴とする盛土構造。
【請求項7】
前記抵抗力が前記滑動力に抗して前記盛土の地すべり的変動が抑止されることを特徴とする請求項6記載の盛土構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土安定化工法、及び盛土構造に関し、より詳しくは既存の盛土であっても記録的豪雨や地震等の自然災害に対し地すべり的変動(滑動崩落)を抑止することができる盛土安定化工法、及び既存の盛土であっても土塊の地すべり的変動の抑止が可能な盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
記録的豪雨や地震等の自然災害が多発するわが国では、これらの自然災害に起因して盛土造成地に地すべり災害が発生し易いことから、従来より種々の対策工が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
図13に示すように、側面部101a、101bと底面部102とを有する凹形状の谷埋め盛土からなる地すべり土塊に対する地すべり抑止工法であって、少なくとも一つ以上の抵抗体103が、滑動方向xと略平行に底面部102に立設されて擬似側壁を形成し、該擬似側壁によって前記地すべり土塊の側面せん断抵抗を強化し、地すべりを抑止した地すべり抑止工法が提案されている。
【0004】
この特許文献1では、擬似側壁を形成する抵抗体103によって地すべり土塊が複数の領域に分割され、各領域の底面部102a、102bと側面部101a、101b及び抵抗体103によってすべり面が形成されることから、分割された各すべり面における土塊の幅寸法wと深さ寸法dとの比w/dが、抵抗体103を設けていない場合に比べて小さくなり、これにより盛土全体のせん断抵抗が増大することから、土塊全体の単位面積当たりの平均的な抵抗力が大きくなり、地すべり土塊の滑動を抑制しようとしている。
【0005】
また、特許文献2には、
図14に示すように、盛土法面111を有する谷埋め盛土部112において、セメント系固化材や石灰系固化材を盛土に添加して固めた区画壁113を谷部方向yと直交する方向zに所定間隔で複数列形成した耐震補強構造が提案されている。
【0006】
この特許文献2には、谷埋め盛土部112の谷部方向yと直交する方向zの横断面において、谷埋め盛土部112の個々の幅wを小さくすることによって、盛土が接する側面(地山と区画壁)の長さ(深さd)の比率を高め、盛土部全体のせん断抵抗を増大させることにより、谷埋め盛土部112の変形、滑動を防止しようとしている。
【0007】
また、この種の対策工としては、地下水位を低下させて盛土の地すべり的変動を抑止しようとした地下水排除工も知られている。
【0008】
例えば、特許文献3には、
図15に示すような工法が提案されている。すなわち、地盤121上に造成された盛土122に建築物123が建設された既設の盛土造成地に対し、地盤121と盛土122との境界面124より稍上方であって地下水位125より下方に形成された水みち(ソイルパイプ)又はその近傍に沿うような形態で、盛土122の末端法面126から推進機127を用いて削孔しながらケーシング128を挿入する。一方、断面がドーナツ状で骨材が充填された蛇籠構造からなる透水性を有する外円筒管と、該外円筒管に内接して設けられ地下水を排水する内円筒管とからなる2重管構造のドレーンカートリッジを別途用意する。そして、このドレーンカートリッジを必要に応じて連結させながら前記ケーシング128内に押し込み、これにより地下排水路129を形成し、その後ケーシング128を引き抜くようにした地下排水路129の形成方法が提案されている。
【0009】
この特許文献3では、ドレーンカートリッジを連結して形成された300mm~500mmの大口径の地下排水路129でもって大量の地下水を短時間で系外に排水できるようにし、これにより地震が発生して間隙水圧が急上昇しても地盤121と盛土122との境界面124における滑り抵抗力(底面せん断抵抗力)を確保して地すべり的変動が生じるのを抑制しようとしている。
【0010】
また、この特許文献3には、新設の盛土造成地についても、上述した既設の盛土造成地と略同様の方法で地下排水路を形成することができ、さらに、地下水量が多い場合は、放射状又は並列状に複数本の地下排水路を設置してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3773098号明細書(請求項1、段落〔0009〕、
図2、4等)
【文献】特開2007-239202号公報(請求項1~4、段落[0015])
【文献】特開2022-130793号公報(請求項1、6、9、段落[0071]-[0080]、[0085]、
図6~10等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
2021年7月の静岡県熱海市で起こった土石流災害を契機に、危険な盛土等を包括的に規制する「宅地造成及び特定盛土等規制法」(以下、「盛土規制法」という。)が2023年5月26日に施行されるに至った。そして、この盛土規制法に従い、盛土等防災マニュアル(案)が既に公表されている。
【0013】
この盛土規制法は、その施行日から2年を経過した日以降、基礎調査を踏まえた規制区域の指定を行った上で適用されることになっている。また、盛土等防災マニュアル(案)によれば、新規の盛土造成地では、盛土内で地下水が溜まり難くなるような対策工を施すことが義務化されることから、安全性の向上が期待される。
【0014】
しかしながら、既存の盛土造成地については、危険な盛土、特に大規模盛土造成地を抽出し、速やかに安全策を講じる必要性に迫られているものの、対象エリアが広く、従来の方法では安価で有効な対策工を施すのが困難な状況にある。
【0015】
すなわち、上記特許文献1は、谷埋め盛土を滑動方向xに沿って複数領域に分割し、幅寸法wと深さ寸法dとの比w/dを小さくして側面せん断抵抗を高め、これにより地震等により生じ得る地すべり的変動を抑止しようとしているが、この特許文献1を既存の盛土造成地に適用しようとした場合、地表から掘り起こして抵抗体103を盛土中に埋め込む必要がある。
【0016】
しかしながら、既存の盛土造成地では、住宅や商業施設等の建築物が既に建設されていることが多く、作業領域を確保するのは容易なことではなく、このため特許文献1の工法を既存の盛土造成地に適用するのは、現実的ではなく実用化は困難である。
【0017】
また、特許文献2は、谷部方向yと直交する方向zに区画壁113を所定間隔で複数列形成することにより、特許文献1と同様、谷埋め盛土部112の個々の幅wと盛土が接する盛土側面の深さdの比w/dを小さくして側面せん断抵抗を高め、これにより盛土造成地の地すべり的変動を抑止しようとしているが、この特許文献2は区画壁113の形成を盛土造成と併行して行っており、既存の盛土造成地の対策工としては不向きである。
【0018】
また、特許文献3は、上述したように300~500mmの大口径の地下排水路129を水みちに沿って設け、地震が発生して間隙水圧が急上昇した場合は、地下水を前記地下排水路129から短時間で排水させ、これにより地盤121と盛土122との境界面124に過剰剰間隙水圧の消散領域を形成して底面せん断抵抗力を確保し、地すべり的変動が生じるのを抑制しようとしている。
【0019】
しかしながら、特許文献3は、地下水位を低下させることにより、過剰間隙水圧を境界面124全域に消散させて盛土の地すべり的変動を抑制しようとしているものの、過剰間隙水圧を消散できる範囲は、実際には部分的であって地下排水路129周囲の狭い限定された領域にしか形成することができない。
【0020】
したがって、特許文献3を大規模盛土造成地に適用しようとした場合、多数の地下排水路129を前記境界面124又はその近傍に沿って並列状又は放射状に埋設しなければならず、しかも、対象となる既設の盛土造成地も多いことから、莫大な施工費が必要となる。また、特許文献3のような地下水排除工は、盛土内の地下水位を低下させれば間隙水圧の上昇を回避できて底面せん断抵抗力を確保できるとの観点から、盛土内の地中侵食した部位に広く過剰間隙水圧が発生しないことを前提とした工法であり、対策工としても限界がある。このため対策工としての効果を向上させるためには抑止杭工等と併用せざるを得ない事態も生じるおそれがあり、更なる施工費の高騰化を招くことから予防工としても現実的なものとはいえない。
【0021】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、既存の盛土であっても記録的豪雨や地震等の自然災害に対し、盛土土塊の地すべり的変動を低コストでもって効果的に抑止することができる盛土安定化工法、及び既存の盛土であっても地すべり的変動の抑止が可能な盛土構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した盛土規制法は、記録的豪雨時等に崩落しやすい盛土に対し、必要な規制を行い、安全性を確保しようとするものであるが、盛土造成地は規模が大きくなればなるほど大量の地下水を含んでおり、地震等の自然災害時には過剰間隙水圧が発生し易くなることから、記録的豪雨のみならず、地震対策としても安全性向上に寄与すると考えられる。
【0023】
そして、本発明者は、過去に地震で地すべり的変動(滑動崩落)が生じた盛土造成地について調査したところ、地すべり的変動の抑止には、地下水位を低下させるよりも過剰間隙水圧を発生させないようにすることが肝要であるという知見を得た。
【0024】
すなわち、本発明者は、1978年の宮城県沖地震で地すべり的変動が生じた特定区域について、2011年の東日本大震災でも再度同様の地すべり的変動が生じたか否か、その挙動を調査した。そしてその結果、前記特定区域のうち、宮城県沖地震後に集水井工が施された一部区域については、東日本大震災では地すべり的変動が生じなかったことが分かった。
【0025】
上記特定区域のうち一部区域については、集水井を所定箇所に設けると共に、集水井を起点に集水ボーリング管を盛土中に放射状に埋設し、記録的豪雨や地震等の自然災害で地下水位が上昇した場合は前記集水ボーリング管により地下水を系外に排水できるように対策工が施されていた。
【0026】
このような状況下で東日本大震災が発生したが、集水ボーリング管が埋設された上記一部区域では地すべり的変動は生じなかった一方で、集水ボーリング管が埋設されていなかった上記一部区域外では地すべり的変動が生じた。
【0027】
集水ボーリング管には、集水ボーリング管が埋設されていない上記一部区域外の地下水をも排水する効果があり、上記一部区域外の地下水位も低下している筈であるが、当該一部区域外では地すべり的変動が生じたのである。これは盛土中に地下水が少しでも残っている場合、地震時に地下水位(静水圧)が低下していても地下水を急速排水して除圧することができないことから、過剰間隙水圧が発生し、このため上記一部区域外で地すべり的変動が生じたものと考えられる。
【0028】
一方、上記一部地域では、地下水が集水ボーリング管に流入して急速排水された結果、地震時に発生した過剰間隙水圧が消散し、少量の地下水が滞留していても過剰間隙水圧が発生しない状態になったものと思われる。過剰間隙水圧は、地下水に圧力が負荷された場合に急速排水できない場合に限り発生する現象だからである。
【0029】
したがって、これらの現地調査から盛土の地すべり的変動は、上述したように「地下水位が低下する範囲」では十分に抑止できず「過剰間隙水圧を消散できる範囲」に限り抑止できることが分かる。
【0030】
このように盛土の地すべり的変動は、過剰間隙水圧を消散できる範囲、すなわち過剰間隙水圧の消散領域に限り抑止できることから、斯かる消散領域を滑動方向に沿って設けることにより、消散領域上には高強度のせん断抵抗を有する擬似側壁が形成され、斯かる擬似側壁が新たな側面せん断抵抗して作用する。したがって、盛土土塊の抵抗力が滑動力よりも大きくなるように、側面抵抗を踏まえた三次元的な安定解析を行って擬似側壁を構築し、抵抗力を滑動力に対抗させることにより、地すべり的変動を効果的に抑止することができると考えられる。
【0031】
すなわち、盛土全体を擬似側壁によって複数の盛土領域に分割して盛土底部に部分的に擬似側壁を形成することにより、地盤と盛土との境界面全域に消散領域を形成しなくとも、低コストで盛土の地すべり的変動を効果的に抑止することができる。
【0032】
そして、長手方向に多数の開口部が形成された長尺の管状部材(以下、「有孔管」という。)を滑動方向に沿って盛土底部の所定位置に埋め込むことにより、該有孔管は集水ボーリング管と同様の機能を発揮することができる。しかも、この有孔管は、盛土の法面等、盛土末端から直接横ボーリング工を施すことにより容易に形成することができ、これにより住宅や商業施設等が既に建築されている既存の盛土に対しても作業領域の確保に煩わされることもなく、地すべり対策を講じることができる。
【0033】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る盛土安定化工法は、少なくとも一つ以上の長尺の有孔管を盛土の底部に埋め込んで谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土構造であって、盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた三次元安定解析を行い、該三次元安定解析に基づいて前記有孔管が滑動方向に沿って埋め込まれると共に、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域が前記有孔管の周囲に形成され、かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁が前記消散領域上に形成されて前記盛土全体が前記擬似側壁によって複数の盛土領域に分割され、前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止することを特徴としている。
【0034】
ここで、消散領域とは、過剰間隙水圧が発生しなくなった領域のみならず、過剰間隙水圧が極端に低減された領域も含む。
【0035】
また、本発明の盛土安定化工法では、前記消散領域は、前記過剰間隙水圧により前記有孔管に流入した地下水を急速排水して除圧することで形成されることを特徴としている。
【0036】
これにより地下水が急速排水された有孔管の周囲に消散領域が形成されることとなり、盛土底部と地盤との境界面全域に消散領域を設けなくても、盛土底部に部分的に消散領域を形成することで盛土の地すべり的変動を効率良く抑止することが可能となる。
【0037】
また、過剰間隙水圧の消散領域は、地下水を急速排水させて形成されることから、地下水が残留していても過剰間隙水圧が発生せず、地すべり的変動の抑止に寄与する。
【0038】
すなわち、本発明の盛土安定化工法は、前記消散領域が、前記地すべり的変動の抑止機能を有することを特徴としている。
【0039】
さらに、本発明の盛土安定化工法は、前記抵抗力を前記滑動力に抗して前記盛土の地すべり的変動を抑止することを特徴としている。
【0040】
このように抵抗力を滑動力に対抗させることにより、地盤の側面部と擬似側壁との間、又は擬似側壁間に介在する盛土底面のせん断抵抗が喪失した場合であっても、盛土の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【0041】
また、本発明の盛土安定化工法は、前記盛土を前記滑動方向に削孔して掘削穴を形成した後、前記有孔管を前記掘削穴に挿入し、該有孔管を前記盛土の前記底部に埋め込むことを特徴としている。
【0042】
これにより既存の盛土造成地であっても盛土法面等の盛土末端から横ボーリング工を施すことにより、盛土上に住宅や商業施設等の建築物が存在していても既存の盛土易に施工することができ、比較的安価に地すべりを抑止する工法を実現することが可能となる。
【0043】
このように本発明の盛土安定化工法によれば、盛土土塊の抵抗力を滑動力に抗させているので、大規模盛土造成地に対しても消散領域が形成されていない非消散領域(以下、単に「非消散領域」という。)と消散領域とが交互に列設されるように消散領域を盛土中に部分的に形成することにより、地盤と盛土底面との境界面全域に消散領域を形成することもなく、低コストで地すべり的変動を効果的に抑止することができる対策工を実現することができる。
【0044】
また、本発明に係る盛土構造は、少なくとも一つ以上の長尺の有孔管を盛土の底部に埋め込み、地盤底面部との境界面上にソイルパイプが形成された谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土構造であって、盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた三次元安定解析を行い、該三次元安定解析に基づいて前記有孔管が滑動方向に沿って埋め込まれると共に、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域が前記有孔管の周囲に形成され、かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁が前記消散領域上に形成されて前記盛土全体が前記擬似側壁によって複数の盛土領域に分割され、前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止することを特徴としている。
【0045】
また、本発明の盛土構造は、前記抵抗力が前記滑動力に抗して前記盛土の地すべり的変動が抑止されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0046】
本発明の盛土安定化工法によれば、少なくとも一つ以上の長尺の有孔管を盛土の底部に埋め込んで谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土構造であって、盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた三次元安定解析を行い、該三次元安定解析に基づいて前記有孔管が滑動方向に沿って埋め込まれると共に、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域が前記有孔管の周囲に形成され、かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁が前記消散領域上に形成されて前記盛土全体が前記擬似側壁によって複数の盛土領域に分割され、前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止するので、消散領域は過剰間隙水圧が消散されていることから地すべり的変動は生じず、かつ消散領域上に形成された擬似側壁は盛土側面と同様、土塊と同等の抵抗力を有することから、擬似側壁は新たな側面せん断抵抗面として作用し、自然災害が生じても盛土土塊の抵抗力が盛土土塊の滑動力に対抗させることができる。すなわち、自然災害時に発生する過剰間隙水圧に起因して盛土底面の抵抗力がほぼ喪失しても、盛土内に形成された擬似側壁が有する側面抵抗により、盛土の地すべり的変動を低コストで効果的に抑止することができる。
【0047】
また、前記消散領域は、前記過剰間隙水圧により前記有孔管に流入した地下水を急速排水して除圧することで形成されるので、盛土底部と地盤との境界面全域に消散領域を設けなくても、盛土底部に部分的に消散領域を形成することで盛土の地すべり的変動を効率良く抑止することが可能となる。
【0048】
また、前記消散領域が、前記地すべり的変動の抑止機能を有しており、したがって地下水が残留していても消散領域は過剰間隙水圧が発生せず、地すべり的変動の抑止に寄与する。
【0049】
また、前記抵抗力を前記滑動力に抗させて前記盛土の地すべり的変動を抑止するので、地盤の側面部と擬似側壁との間、又は擬似側壁間に介在する盛土の底面せん断抵抗力を喪失した場合であっても、盛土の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【0050】
さらに、本発明の盛土安定化工法は、前記盛土を前記滑動方向に削孔して掘削穴を形成した後、前記有孔管を前記掘削穴に挿入し、該有孔管を前記盛土の前記底部に埋め込むので、既存の盛土に対し盛土法面等の盛土末端から直接横ボーリング工により有孔管を容易に埋め込むことが可能であり、したがって住宅や商業施設等の建築物が存在する既存の盛土に対しても、これら建築物が支障になることもなく作業領域を確保することができ、比較的安価に施工することができる。
【0051】
このように本発明の盛土安定化工法によれば、盛土土塊の抵抗力を滑動力に抗させているので、消散領域と非消散領域とが交互に列設されるように消散領域を盛土中に部分的に形成することにより、地盤と盛土底面との境界面全域に消散領域を形成することもなく地すべり的変動を効果的に抑止することができ、低コストで所望の盛土安定化工法を実現することができる。
【0052】
また、本発明の盛土構造によれば、少なくとも一つ以上の長尺の有孔管を盛土の底部に埋め込み、地盤底面部との境界面上にソイルパイプが形成された谷埋め型盛土の地すべり的変動を抑止する盛土構造であって、盛土土塊の抵抗力が自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力よりも大きくなるように、土質パラメータ及び前記盛土の形状パラメータに基づいて前記盛土の側面抵抗を踏まえた三次元安定解析を行い、該安定解析に基づいて前記有孔管が滑動方向に沿って埋め込まれると共に、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域が前記有孔管の周囲に形成され、かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁が前記消散領域上に形成されて前記盛土全体が前記擬似側壁によって複数の盛土領域に分割され、前記盛土の幅寸法と深さ寸法との比を前記擬似側壁が存在しない場合に比べて小さくすることにより、前記盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する前記側面抵抗の割合を前記擬似側壁によって増加させ、前記盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止するので、盛土構造は上述した盛土安定化工法で施工されることから、新設の盛土造成地のみならず既存の盛土造成地に対しても記録的豪雨や地震等の自然災害が生じても地すべり的変動を効果的に抑止できる盛土構造を得ることができる。
【0053】
また、本発明の盛土構造は、前記抵抗力が前記滑動力に抗して前記盛土の地すべり的変動が抑止されるので、地盤の側面部と擬似側壁との間、又は擬似側壁間に介在する盛土の底面せん断抵抗力を喪失した場合であっても、盛土の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】本発明に係る盛土安定化工法を使用して施工された盛土構造の一実施の形態(第1の実施の形態)の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る盛土構造の要部縦断面図である。
【
図3】第1の実施の形態に係る盛土構造を模式的に示した平面図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る盛土構造を模式的に示した要部横断面図である。
【
図6】消散領域を設けていない従来の盛土構造の要部横断面図である。
【
図7】東日本大震災で宮城県白石市の盛土造成地で発生した盛土土塊の崩落状態を説明するための図である。
【
図8】盛土中に集水井工を施した状態を示す模式的に示す平面図である。
【
図9】本発明に係る盛土安定化工法を使用して施工された盛土構造の第2の実施の形態の内部構造を示す要部断面図である。
【
図10】実施例1の盛土構造モデルの模式平面図である。
【
図11】実施例2の盛土構造モデルの模式平面図である。
【
図12】比較例の盛土構造モデルの模式平面図である。
【
図13】地すべり抑止工法の従来技術(特許文献1)を模式的に示す斜視図である。
【
図14】谷埋め盛土部の耐震補強構造の従来技術(特許文献2)を示す平面図である。
【
図15】地下水排除工の従来技術(特許文献3)の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0056】
図1は、本発明に係る盛土安定化工法を使用して施工された盛土構造の一実施の形態(第1の実施の形態)の内部構造を模式的に示す斜視図である。また、
図2は本盛土構造の要部縦断面図であり、
図3は本盛土構造の要部平面図であり、
図4は本盛土構造の要部横断面図である。
【0057】
すなわち、
図1~
図4において、本盛土構造は、側面傾斜角β
1、β
2を有する側面部1a、1bと、該側面部1a、1bに連なる底面部2とからなる谷部が地盤3上に形成されると共に、該谷部には盛土5が造成され、これにより谷埋め型盛土を形成している。地盤3は底面傾斜角θ(例えば、3°~15°)を有し、盛土5は矢印X方向に滑動可能とされている。この第1の実施の形態では、長年の地中侵食により地盤3と盛土5との境界面には空洞状のソイルパイプ(水みち)7が形成されている。
【0058】
そして、この盛土構造は、長尺の有孔管8が滑動方向Xに沿って盛土5の末端(法面)から奥部に架けて地盤3の底面部2に沿うように埋設されている。尚、本第1の実施の形態では、有孔管8は前記底面部2に沿うように埋設されているが、該有孔管8は地下水位WLの下方であって前記底面部2近傍に埋設されていればよい。
【0059】
この有孔管8は、
図5に示すように、長手方向に多数の開口部8hが形成されており、盛土5内の地下水は、記録的豪雨や地震等の自然災害時に発生する過剰間隙水圧により開口部8hに流入し、有孔管8の内部を通過して、系外に急速排水される。
【0060】
有孔管8の口径は特に限定されるものではなく、通常は50~300mm程度の口径の有孔管8が施工現場に応じて適宜使用される。また、有孔管8の材質も特に限定されるものではなく、鋼製、樹脂製等任意のものを使用することができる。
【0061】
図5では、開口部8hは有孔管8の表面全域に亘って形成されているが、地下水が有孔管8の外方に逆流しないように一方の孔口近傍を閉塞したり、両端近傍を無孔とするのも好ましい。
【0062】
また、この有孔管8は、短尺の有孔管の両端にプレス加工を施して雌ねじ部を刻設し、雄ねじ部がプレス加工により刻設された継手部材を介して連結することにより、長尺化するのが好ましい。このように短尺の有孔管を継手部材で連結して長尺化することにより、施工現場に応じた所望長さの有孔管8を容易に得ることができ、施工性を向上させることができる。
【0063】
このように本第1の実施の形態では、盛土底面には、長尺の有孔管8が埋設されているので、有孔管8周囲の盛土中の地下水は開口部8hを介して有孔管8の管内に流れ、系外に急速排水され、これにより有孔管8の周囲には(地震等の自然災害時に発生し得る)過剰間隙水圧が消散した消散領域9が形成される。この消散領域9上には側面部1a、1bと同様の高強度を有する擬似側壁10が形成され、盛土5は、その全体が擬似側壁10によって2つの盛土領域5a、5bに分割されている。
【0064】
そして、本第1の実施の形態では、盛土土塊の抵抗力が記録的豪雨や地震等の自然災害が生じたときの滑動力よりも大きくなるように、盛土5の側面抵抗を踏まえた三次元的な安定解析を行い、これにより高強度の側面抵抗を有する擬似側壁10を消散領域9上に形成して盛土5の全体を複数の盛土領域5a、5bに分割し、盛土領域5a、5bの幅寸法W1、W2と深さ寸法Dとの比W1/D、W2/Dを擬似側壁10が存在しない場合の幅寸法Wと深さ寸法Dとの比W/Dに比べて小さくし、これにより盛土の地すべり的変動を抑止している。
【0065】
図6は、消散領域9が形成されていない従来の盛土構造の要部横断面図を示している。
【0066】
すなわち、従来のように地盤3中の谷部に単に盛土5が造成されている場合、盛土5の側面部1a、1bは地震等の自然災害が生じても過剰間隙水圧が発生しないことから、土塊と同様の高強度の側面せん断抵抗を有する。
【0067】
一方、盛土5は、通常、長年の雨水等により地中侵食した地下水と共に、土粒子が流出し、当該盛土5の底面2と地盤3との境界面又はその近傍域には空洞状のいわゆるソイルパイプ7が形成されるか、或いはソイルパイプ7が形成されないまでも土質が軟弱化する。そして、このような状態で地震が発生すると盛土5の構造が崩れ、土塊荷重が負荷される底面部2には該底面部2上の土塊重量と略同程度の過剰間隙水圧が発生し、底面部2上の底面せん断抵抗はほぼ喪失する。また、記録的豪雨時では地下水の供給過剰やソイルパイプ7の閉塞により過剰間隙水圧が発生し、地震時と同様、底面部2上の底面せん断抵抗はほぼ喪失する。このため盛土5にはせん断破壊が生じ、地すべり的変動を招くおそれがある。すなわち、盛土5内にせん断破壊面が生じ、このせん断破壊面によりすべり破壊が生じ、盛土の地すべり的変動が誘発されることになる。
【0068】
したがって、盛土5の地すべり的変動を抑止するためには、盛土5内に高強度の側面せん断抵抗面を人工的に形成してせん断破壊面に抗するようにするのが望ましい。
【0069】
そこで、本第1の実施の形態では、後述する現地調査により地すべり的変動は、「過剰間隙水圧が消散する範囲」に限り抑止できるという知見を得たことから、盛土の側面抵抗を踏まえた三次元的な安定解析を行い、斯かる安定解析に基づいて盛土5の底部に滑動方向Xに沿って有孔管8を埋設させ、自然災害時に発生する過剰間隙水圧を消散させて有孔管周囲に消散領域を形成している。そして、この消散領域は過剰間隙水圧が消散されており、地すべり的変動が抑止されることから、消散領域9上に形成される擬似側壁10も土塊と同様の高強度を有する新たな側面せん断抵抗面を形成することになる。
【0070】
このように盛土5を複数の盛土領域5a、5bに分割することにより、盛土領域5a、5bの各幅寸法W1、W2と深さ寸法Dと比W1/D、W2/Dは、擬似側壁10が存在しない場合の幅寸法Wと深さ寸法Dとの比W/Dに比べて小さくなる。そして、上記側面部1a、1bは、土塊と同様の大きなせん断抵抗を有し、かつ、擬似側壁10も土塊と同様の大きなせん断抵抗を有することから、側面部1a、1bと擬似側壁10とで挟まれた底面部2a、2bに過剰間隙水圧が発生してせん断抵抗をほぼ喪失しすべり易くなっても、盛土全体の側面せん断抵抗を有効に発揮させることができ、これにより地すべり的変動を効果的に抑止することが可能となる。
【0071】
尚、消散領域9における滑動方向Xと直交する方向の全幅Yは、後述する理由から10m程度(片側幅Y1、Y2で5m程度)が好ましいと考えられるが、すべり面における平均強度が滑動力よりも大きくなるように、消散領域9によって盛土5を複数領域に分割できればよく、特に限定されるものではない。
【0072】
次に、本第1の実施の形態における安定解析の手法について、地震が発生した場合を例示的に詳述する。
【0073】
盛土5の地すべり的変動は、数式(1)で示す安全率Fsで評価することができる。
【0074】
Fs=R/T …(1)
ここで、Rは抵抗力、Tは滑動力である。
【0075】
安全率Fsは、数式(2)に示すように、1.0以上であれば盛土の地すべり的変動を抑止することができる。一方、数式(3)に示すように、1.0未満であれば盛土の地すべり的変動を招き、地震時に滑動崩落を惹起するおそれがある。
【0076】
Fs≧1.0 …(2)
Fs<1.0 …(3)
盛土5の地すべり的変動に対し、余裕をもって安全性を確保するためには、数式(4)で示す修正安全率Fs′が数式(5)を満たすように安定解析するのが好ましい。
【0077】
Fs′=R/(f・T) …(4)
Fs′≧1.0 …(5)
ここで、fは、部分安全係数であって、側面抵抗力推定の不確実性の程度に応じて、例えば、1.2~2程度に設定される。そして、数式(5)を満たすことにより、盛土は自然災害に対し余裕をもって安定度を確保することができる。
【0078】
ところで、従来のように地盤3中に単に谷埋め型の盛土5が形成されているに過ぎない場合でも、上述したように盛土5の側面部1a、1bは地震が生じても過剰間隙水圧が発生しないことから、土塊と同様の高強度の側面せん断抵抗を有する。
【0079】
この場合、側面部1a、1bにおけるせん断抵抗力τ1、τ2はそれぞれ数式(6)、(7)で表すことができる。
【0080】
τ1=Z1cosβ1・tanφ1+c1・A1…(6)
τ2=Z2cosβ2・tanφ2+c2・A2…(7)
ここで、Z1、Z2は側面部1a、1bのそれぞれの土塊重量、φ1、φ2は側面部1a、1bにおける土塊の内部摩擦角、β1、β2は側面部1a、1bの各々側面傾斜角、c1、c2は側面部1a、1bにおける各々土塊の粘着力、A1、A2は側面部1a、1bの各々面積である。
【0081】
一方、底面部2は長年の地中侵食によりソイルパイプ7が形成され、土粒子が流出していると考えられることから、底面部2における土塊の粘着力c3′は、「0」と見做すことができる。したがって、底面部2におけるせん断抵抗力τ3′は、平常時では、数式(8)で表わすことができる。
【0082】
τ3′=Z3′cosθ・tanφ3′…(8)
ただし、盛土造成時からの経過時間が短い場合は、土塊の粘着力c3′を考慮した安定解析を行うことができる。
【0083】
ここで、Z3′は底面部2の土塊重量、φ3′は底面部2における土塊の内部摩擦角である。
【0084】
したがって、従来の盛土構造(
図6参照)では、盛土全体の抵抗力Rは数式(9)で表される。
【0085】
R=R1+R2+R3′ …(9)
ここで、R1、R2は数式(10)、(11)で表され、R3′は、A3′を底面部2の面積とすると、数式(12)で表される。
【0086】
R1=τ1・A1 …(10)
R2=τ2・A2 …(11)
R3′=τ3′・A3′…(12)
一方、盛土土塊の滑動力Tは数式(13)で表される。
【0087】
T=Zsinθ …(13)
ここで、Zは数式(14)で表される。
【0088】
Z=Z1+Z2+Z3′ …(14)
したがって、抵抗力R及び滑動力Tが上記数式(2)を満たすように予め盛土の安定解析を行って盛土5を構築することにより、平常時は地すべり的変動を抑止することが可能である。
【0089】
一方、地震発生時には、底面部2のせん断抵抗力τ3′は、地震時に底面部2を含むソイルパイプ7近傍に過剰間隙水圧が発生することから、過剰間隙水圧をUe′とすると、数式(15)で表わすことができる。
【0090】
τ3′=(Z3′cosθ-Ue′)tanφ3 …(15)
そして、底面部2には該底面部2上の土塊重量Z3′と略同程度の過剰間隙水圧Ue′が発生し、また、上述したように土塊の粘着力c3′は0と見做せることから、せん断抵抗τ3′はほぼ喪失し、τ3′≒0となる。
【0091】
したがって、従来の盛土構造では、地震時の抵抗力Rは数式(16)で表されることとなり、底面部2の面積A3は盛土5内の底面全域となることから抵抗力Rが顕著に低下して盛土5は地すべり的変動を招くおそれがある。
【0092】
R=R1+R2 …(16)
そこで、本第1の実施の形態では、擬似側壁10を設け、盛土5を2つの盛土領域5a、5bに分割して盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する側面抵抗の割合を増加させ、これにより盛土全体におけるすべり面の平均強度を強めて地すべり的変動を抑止できるように盛土構造を最適化している。
【0093】
すなわち、本第1の実施の形態のように擬似側壁10を設けた場合(
図4参照)、地震発生時における底面部2aのせん断抵抗力τ
3は、数式(17)で表され、擬似側壁10のせん断抵抗力τ
4は、数式(18)で表される。
【0094】
τ3=(Z3cosθ-Ue)tanφ3…(17)
τ4=Z4cosβ4・tanφ4+c4・A4…(18)
【0095】
ここで、Z3は底面部2aの土塊重量、Ueは底面部2aに発生する過剰間隙水圧、φ3は底面部2aにおける土塊の内部摩擦角である。また、Z4は側面部1aの対向面側における擬似側壁10aの土塊重量、φ4は前記擬似側壁10aにおける土塊の内部摩擦角、c4は前記擬似側壁10aにおける土塊の粘着力、A4は前記擬似側壁10aの面積である。
【0096】
そして、抵抗力Rと滑動力Tとで規定される安全率Fsが上記数式(2)、より好ましくは上記数式(5)を満たすように消散領域9上に擬似側壁10を設けることにより滑動力Tを抵抗力Rに対抗させることができ、これにより地震が発生しても盛土5の地すべり的変動を効果的に抑止することができる。
【0097】
上記安定解析は、盛土領域5aについて説明したが、側面部1b、底面部2b及び擬似側壁10bで形成される盛土領域5bについても同様であるのはいうまでもない。
【0098】
本第1の実施の形態に係る盛土安定化工法は、本発明者が過去の地震で地すべり的変動が生じた盛土について調査し、原因を解析した結果、完成に至ったものであり、以下、その経緯を詳述する。
【0099】
1978年の宮城県沖地震で、当時、盛土造成中だった宮城県白石市緑が丘1丁目の傾斜地が大きく滑動崩落し、地すべり的変動が生じた。
【0100】
しかしながら、2011年の東日本大震災では、同地区の上部区域は再び大きく地すべり的変動を起こしたものの、下部区域は地すべり的変動を免れた。
【0101】
図7は2011年の東日本大震災後における宮城県白石市の盛土造成地を模式的に示す図である。
【0102】
この盛土11は、1978年の宮城県沖地震後、用途が住宅地から公園に変更されたが、その際、以下のような集水井工が施されていた。
【0103】
すなわち、盛土11の下部区域P、P′には地すべり対策として盛土11内を流れる地下水を排水すべく、吊り部材12a、12bで懸架された2個の集水井13a、13bが所定箇所に配され、各集水井13a、13bからは放射状に滑動面の上流側に向けて多数の集水ボーリング管14a…、14b…が盛土11中に埋設されていた。また、集水井13a、13bの下流側には排水ボーリング15a、15bが盛土11に埋設されると共に、排水ボーリング管15a、15bを通過した地下水は保護擁壁16a、16bを介して集水桝17に集水され、系外に排水されるような構造になっていた。
【0104】
このような状況下で2011年に東日本大震災が発生したが、集水ボーリング管14a…、14b…が埋設された下部領域P、P′は地すべり的変動が生じなかったのに対し、集水ボーリング管が埋設されていない上部区域Qは地すべり的変動が生じた。すなわち、地下水位の低下は、集水ボーリング管14a…、14b…が埋設された下部地域P、P′のみならず、集水ボーリング管14a…、14b…が到達していない上部区域Qにも及ぶ筈であるが、上部区域Qのみが地すべり的変動を生じたことから、地下水位の低下は盛土の地すべり対策に対し、影響は余り大きくなく限定的であることが分かった。
【0105】
このように地下水が少しでも残留していると地震により過剰間隙水圧が発生するが、下部区域P、P′で盛土土塊が動かなかったのは、地下水が集水ボーリング管14a…、14b…に流入して急速排水された結果、集水ボーリング管14a…、14b…の周囲では過剰間隙水圧が発生しなかったか、或いは過剰間隙水圧の発生が抑制されて極端に低減したためであり、したがって集水ボーリング管14a…、14b…の周囲(近傍域)には過剰間隙水圧が消散された過剰間隙水圧消散領域が形成されたためである。
【0106】
すなわち、盛土土塊の地すべり的変動は、「地下水位が低下する範囲」では十分に抑止できず、「過剰間隙水圧を消散できる範囲」に限り抑止することができると考えられる。因みに、2022年3月の福島県沖地震で震度5弱の仙台市において、抑止杭等の抑止工のみで対策した盛土で再び多くの地すべり的変動が生じたが、これは地すべり対策として過剰間隙水圧の挙動が十分に反映されていなかったためと考えられる。
【0107】
上記の下部区域P、P′では集水ボーリング管14a…、14b…の先端間隔Tは、約10mであり、したがって、宮城県白石市の現地調査の結果からは、互いに隣接する集水ボーリング管14a…、14bの先端間隔Tが10m程度であれば過剰間隙水圧が消散されるものと考えられる。
【0108】
そして、このような集水井工としては、
図8に示すように、谷埋め型の盛土15を地表から掘削して多数の集水井16a、16b、16cを所定箇所に設け、該集水井16a、16b、16cの内部から横ボーリング工を施して集水ボーリン管17a…、17b…、17c…を盛土中に放射状に埋設し、さらにこれら各集水井16a、16b、16c間を排水ボーリング管18a、18bで接続する方法が考えられる。
【0109】
しかしながら、深い縦井戸を掘って集水井16a、16b、16cを形成し、集水井16a、16b、16cから集水ボーリング工を施す場合、集水ボーリング工の削孔能力は、50m程度である。したがって、盛土面積に比べて短い集水ボーリング管17a…、17b…、17c…を集水井16a、16b、16cを起点に盛土15の全域に放射状に盛土中に埋設しなければならず、更には集水井16a、16b、16c間を排水ボーリング管18a、18bで連結しなければならず、工事費の高騰化のみならず、住宅や商業施設等の建築物の密集地では作業領域を確保するのも難しく、現実性に欠け実質的に施工困難となる。
【0110】
そこで、本第1の実施の形態では、盛土の地すべり的変動は、過剰間隙水圧を消散できる範囲内であれば抑止することができ、消散領域9上には土塊と同様の強度を有する擬似側壁10を形成することができることから、上述したようい側面抵抗を踏まえた三次元的な盛土の安定解析を行うと共に、集水ボーリング管と同様の機能を発揮する長尺の有孔管8を盛土5の滑動方向Xに沿って盛土下部に埋設させ、消散領域9上に擬似側壁10を形成して盛土5を2つの盛土領域5a、5bに分割し、これにより幅寸法W1、W2と深さ寸法Dとの比W1/D、W2/D擬似側壁10を有さない場合の比をW/Dに比べて小さくし、盛土全体の側面抵抗を高め、地すべり的変動を効果的に抑止している。
【0111】
しかも、この有孔管8は、盛土5の法面等、盛土末端から直接横ボーリング工を施すことにより容易に形成することができ、これにより住宅や商業施設等が既に建築されている既存の盛土に対しても、作業領域の確保が容易であり、比較的安価に施工することが可能となる。
【0112】
尚、消散領域9の滑動方向と直交する全幅Yは、宮城県白石市の盛土造成地(
図7参照)では、上述したように先端間隔Tが約10m程度で過剰間隙水圧の消散がなされていたことから、消散領域9上の一方の擬似側壁10a側(片側)で幅Y1が5m程度、他方の擬似側壁10b側(片側)で幅Y2が5m程度、したがって、消散領域9の全幅Yは10m程度が好ましい。ただし、盛土の地すべり的変動を抑止するためには、すべり面における平均強度が滑動力よりも大きくなるように、盛土5を擬似側壁10によって複数の盛土領域5a、5bに分割できるようにするのが重要であり、そのような全幅Yであれば、特に限定されるものではない。
【0113】
そして、上記盛土構造は、既存の盛土に対し以下のような施工手順を実行して得られる。
【0114】
まず、盛土5の法面等盛土末端であって盛土5底部に相当する位置にボーリングマシンを据え付ける。そして、ボーリングマシンを駆動させて横ボーリングにより滑動方向に沿って盛土を削孔し、掘削穴を形成する。そして、長手方向に多数の開口部8hが形成された長尺の有孔管8を掘削穴に挿入し、ボーリングマシンのケーシングを抜管し、その後、適宜の後処理を行うことにより容易に施工することができる。
【0115】
このように本盛土安定化工法によれば、盛土土塊の抵抗力Rが自然災害が生じたときの前記盛土土塊の滑動力Tよりも大きくなるように、前記盛土の側面抵抗を踏まえた安定解析を行い、該安定解析に基づいて有孔管8を滑動方向Xに沿って埋め込み、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧が消散した消散領域9を有孔管8の周囲に形成すると共に、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁10を前記消散領域9上に形成し、擬似側壁10によって盛土5全体を複数の盛土領域5a、5bに分割し、盛土5の幅寸法W1、W2と深さ寸法Dとの比W1/D、W2/Dを擬似側壁10が存在しない場合の比W/Dに比べて小さくすることにより、盛土5全体の抵抗力Rのうち、相対的に大きな抵抗力Rを有する側面抵抗の割合を擬似側壁10によって増加させ、盛土5全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止するので、消散領域9は過剰間隙水圧が消散されていることから地すべり的変動は生じず、消散領域9上に形成された擬似側壁10は盛土側面と同様、土塊と同等の抵抗力Rを有することから、擬似側壁10は新たな側面せん断抵抗面として作用し、自然災害が生じても盛土土塊の抵抗力Rが盛土土塊の滑動力Tに対抗させることができる。すなわち、自然災害時に発生する過剰間隙水圧に起因して盛土5の底面部2の抵抗力Rがほぼ喪失しても盛土5内に形成された擬似側壁10が有する側面抵抗により、低コストで盛土5の地すべり的変動を効果的に抑止することができる。
【0116】
また、前記消散領域9は、前記過剰間隙水圧により前記有孔管に流入した地下水を急速排水して除圧することで形成されるので、盛土底部と地盤との境界面全域に消散領域を設けなくても、盛土底部に部分的に消散領域を形成することで盛土の地すべり的変動を効率良く抑止することが可能となる。
【0117】
また、消散領域9が、地すべり的変動の抑止機能を有しており、したがって地下水が残留していても過剰間隙水圧が発生せず、地すべり的変動の抑止に寄与することとなる。
【0118】
そして、抵抗力Rを滑動力Tに抗させて盛土5の地すべり的変動を抑止するので、地盤3の側面部1a、1bと擬似側壁10との間、又は擬似側壁10間に介在する盛土の底面せん断抵抗力を喪失した場合であっても、盛土5の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【0119】
さらに、本盛土安定化工法は、盛土5を滑動方向Xに削孔して掘削穴を形成した後、有孔管8を掘削穴に挿入し、該有孔管8を盛土5の底部に埋め込むので、既存の盛土に対し盛土法面等の盛土末端から直接横ボーリング工により有孔管を容易に埋め込むことが可能であり、したがって住宅や商業施設等の建築物が存在する既存の盛土に対しても、これら建築物が支障になることもなく作業領域を確保することができ、比較的安価に施工することができる。
【0120】
そして、本盛土構造によれば、盛土土塊の抵抗力Rが自然災害が生じたときの盛土土塊の滑動力Tよりも大きくなるように、盛土5の側面抵抗を踏まえた安定解析を行い、該安定解析に基づいて有孔管8が滑動方向Xに沿って埋め込まれると共に、自然災害時に発生し得る過剰間隙水圧を消散させた消散領域9が有孔管8の周囲に形成され、かつ、高強度の側面抵抗を有する擬似側壁10が消散領域9上に形成されて盛土5の全体が疑似側壁10によって複数の盛土領域5a、5bに分割され、盛土5の幅寸法W1、W2と深さ寸法Dとの比W1/D、W2/Dを擬似側壁10が存在しない場合の比W/Dに比べて小さくすることにより、盛土全体の抵抗力Rのうち、相対的に大きな抵抗力Rを有する側面抵抗の割合を擬似側壁10によって増加させ、盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止するので、盛土構造は上述した盛土安定化工法で施工されることから、新設の盛土造成地のみならず既存の盛土造成地に対しても記録的豪雨や地震等の自然災害が生じても地すべり的変動を効果的に抑止できる盛土構造を得ることができる。
【0121】
また、抵抗力Rが滑動力Tに抗して盛土5の地すべり的変動が抑止されるので、地盤3の側面部1a、1bと擬似側壁10との間、又は擬似側壁10間に介在する盛土5の底面せん断抵抗力を喪失した場合であっても、盛土5の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【0122】
さらに、既存の盛土5を末端の盛土法面から滑動方向Xに削孔して掘削穴を形成した後、管状部材5を掘削穴に挿入し、有孔管8を盛土5中に埋め込むので、横ボーリング工により容易に有孔管8を埋め込むことができ、 既存の盛土に対する対策工に好適したものとなる。
【0123】
図9は、本盛土安定化工法を使用して施工された盛土構造の第2の実施の形態を示す内部構造の要部断面図である。
【0124】
すなわち、本第2の実施の形態は、第1の実施の形態と同様の有孔管21…が盛土22の下部に多数埋設され、これら有孔管21…の周囲のそれぞれに消散領域23…が形成されており、消散領域23…と消散領域を有さない非消散領域24…とが交互に形成されている。
【0125】
このように大規模な既存の盛土造成地に対しても、盛土22中に消散領域23…と非消散領域24…とが交互に形成されるように、所定間隔毎に消散領域23…が列設されており、これら消散領域23…によって個々のせん断抵抗が高められることから、盛土全体として側面せん断抵抗が増大し、これにより記録的豪雨や地震等の自然災害が生じても盛土の地すべり的変動を効果的に抑制することができる。
【0126】
すなわち、本第2の実施の形態においても、盛土土塊の抵抗力Rを滑動力Tに抗させているので、消散領域23…と非消散領域24…とが交互に列設するように消散領域23…を盛土22中に部分的に形成することにより、地盤と盛土底面との境界面全域に消散領域を形成することもなく地すべり的変動を効果的に抑止することができ、低コストで所望の盛土安定化工法を実現することができる。
【0127】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。盛土の安定解析手法についても上記実施の形態は一例を示したものであり、各種の安定解析手法を適用できるのはいうまでもない。例えば、記録的豪雨等において、ソイルパイプへの地下水の供給過剰やソイルパイプの閉塞等で過剰間隙水圧が発生し得る場合は、当該事象に適した安定解析手法を使用できるのはいうまでもない。
【0128】
また、上記実施の形態では、盛土法面等の盛土末端から直接横ボーリング工で有孔管8、21を埋め込んでいるが、作業領域が確保できるのであれば、地表から掘削するようにしてもよい。
【0129】
また、本発明は、既存の盛土に好適した盛土安定化工法であるが、新規の盛土造成地にも適用できるのはいうまでもない。
【0130】
次に、本発明の実施例及び比較例を詳述する。
【実施例1】
【0131】
谷埋め型盛土の中央部に擬似側壁を形成した盛土構造モデルを構築し、シミュレーションを行って盛土の安定度を評価した。
【0132】
図10は、実施例1の盛土構造モデルの模式平面図である。
【0133】
この盛土構造モデルは、盛土底部における法面の幅寸法が全長Wは180mの凹窪形状を有し、中央部の深さ寸法D1を6m、奥行寸法L1を100m、両側面部の深さ寸法D2を4m、奥行寸法L2を50mとし、さらに、側面部の傾斜角(側面傾斜角)β(β1、β2)を70°に設定した。この盛土構造モデルでは、底面傾斜角θが15°でもって法面51から盛土の奥行上方に向けて傾斜しており、該盛土は矢印X方向に滑動可能とし、また、盛土の外周縁EAが放物線状に形成されている。図中、CLは盛土底面の等高線であって盛土法面51から間隔5mのピッチで作成している。
【0134】
そして、本実施例1では、盛土底面の中央部に滑動方向Xに沿って盛土の奥行寸法L1の位置まで全長100mの有孔管8(口径50mm)を形成し、消散領域9の全幅Yを10m(片側幅Y1、Y2は各々5m)、擬似側壁の傾斜角β(β3、β4)を70°とし、これにより擬似側壁で2分割された盛土構造モデルを構築した。
【0135】
表1は、本盛土構造モデルの仕様を示している。
【0136】
【0137】
この盛土構造モデルについて、表2に示す土質条件下、地下水位を地表面より3m下方に設定し、上記実施の形態に示した各数式を使用して滑動力T及び抵抗力Rを算出し、斯かる滑動力T及び抵抗力Rから安全率Fs、Fs′(部分安全係数f=1.5)を求め、盛土の安定度を評価した。
【0138】
【0139】
尚、土塊重量Z1、Z2、Z3は、地下水面より上を湿潤重量、地下水面より下を水中重量とし、それぞれ盛土単位体積重量及び水中単位体積重量に基づいて算出した。
【0140】
その結果、滑動力Tは151,804kN、側面部1aの抵抗力R1は73,124kN、該側面部1aに対向する擬似側壁の抵抗力R2は168,310kNであった。また、地震発生時は過剰間隙水圧が発生して底面せん断抵抗力を喪失することから、底面部の抵抗力R3はR3=0である。
【0141】
したがって、抵抗力Rは、R=R1+R2=241,434kNとなり、安全率Fsは、Fs=R/T=1.590となり、Fs≧1.0を確保することができ、地すべり的変動を抑止できることが確認された。また、部分安全係数fを1.5に設定した場合であっても、安全率Fs′は、Fs′=R/f・T=1.060となり、十分な余裕をもって地すべり的変動を抑止できることが確認された。
【0142】
尚、この実施例1では側面部1a及び擬似側壁とこれら側面部1a及び擬似側壁間の底面部を対象に盛土の安定度を評価したが、他方の側面部1b及び擬似側壁とこれら側面部1b及び擬似側壁間の底面部を対象とした場合についても同様の結果が得られるのはいうまでもない。
【実施例2】
【0143】
谷埋め型盛土の盛土全体を擬似側壁で3つに分割した盛土構造モデルを構築し、シミュレーションを行って盛土の安定度を評価した。
【0144】
図11は、実施例2の盛土構造モデルの模式平面図であり、盛土形状は実施例1と同様である。
【0145】
本実施例2では、両端を端部ブロック52a、52b、該端部ブロック52a、52b間に挟まれたブロックを中央ブロック53とし、3分割された盛土構造モデルを構築した。
【0146】
ここで、端部ブロック52a、52bは、盛土の深さ寸法Dを4m、幅寸法W3、W4を55mとし、有孔管8a(口径50mm)の全長L3を90mとして滑動方向Xに沿って該有孔管8aを底面部に形成し、消散領域9a、9bは片側幅Y1を5m、擬似側壁の傾斜角β(β3)を70°に設定した。
【0147】
中央ブロック53は、盛土の深さ寸法Dを5m、幅寸法W5を50mとし、有孔管8a(口径50mm)の全長L3を、端部ブロックと同様、90mとして滑動方向Xに沿って該有孔管8aを底面部に形成し、消散領域9a、9bは片側幅Y2を5m、擬似側壁の傾斜角β(β3)を70°に設定した。尚、消散領域9a、9bの全幅Yは、片側幅Y1、Y2が各々5mであるから、実施例1と同様、10mである。
【0148】
表3は、実施例2の盛土構造の仕様を示している。
【0149】
【0150】
この盛土構造モデルについて、実施例1と同様の土質条件下、地下水位を地表面より3m下方に設定し、実施例1と同様の手法で盛土の安定度を評価した。
【0151】
その結果、端部ブロック52aは滑動力Tが83,146kNであり、側面部1aの抵抗力R1が73,124kN、該側面部1aに対向する擬似側壁の抵抗力R2が115,641kNであった。そして、地震発生時は過剰間隙水圧が発生して底面せん断抵抗力を喪失することから、端部ブロック52aにおける底面部の抵抗力R3はR3=0である。
【0152】
したがって、抵抗力Rは、R=R1+R2=188,765kNであるから、安全率Fsは、Fs=R/T=2.270となり、Fs≧1.0を確保することができ、地すべり的変動を抑止できることが確認された。また、実施例1と同様、部分安全係数f(=1.5)を考慮しても安全率Fs′は、Fs′=R/f・T=1.514となり、十分な余裕をもって地すべり的変動を抑止できることが確認された。
【0153】
尚、端部ブロック52bについても、端部ブロック52aと同様の結果が得られるのはいうまでもない。
【0154】
また、中央ブロック53は、滑動力Tは129,601kNであり、互いに対向する擬似側壁の抵抗力R4、R5はいずれも115,641kNであった。そして、擬似側壁間の底面部は、地震発生時は過剰間隙水圧が発生して底面せん断抵抗力を喪失することから、中央ブロック53における底面部の抵抗力R6はR6=0である。
【0155】
したがって、抵抗力Rは、R=R4+R5=115,641+115,641=231,282kNであるから、安全率Fsは、Fs=R/T=1.785となり、Fs≧1.0を確保することができ、地すべり的変動を抑止できることが確認された。また、実施例1と同様、部分安全係数fを1.5に設定した場合であっても、安全率Fs′は、Fs′=R/f・T=1.190となり、十分な余裕をもって地すべり的変動を抑止できることが確認された。
【0156】
すなわち、3分割された本盛土構造モデルにおいても、端部ブロック52a、52b及び中央ブロック部53の全てのブロックで盛土の地すべり的変動を抑止できることが確認された。
【比較例】
【0157】
比較例として、盛土底部に有孔管を埋め込まず、擬似側壁を形成しない場合についても盛土の安定度を評価した。
【0158】
図12は、比較例の盛土構造モデルの模式平面図であり、盛土形状は実施例1と同様である。
【0159】
この盛土構造モデルについて、実施例1と同様の土質条件下、地下水位を地表面より3m下方とし、実施例1と同様を手法で盛土の安定度を評価した。
【0160】
その結果、滑動力Tは379,393kN、側面部1a、1bの抵抗力R1、R2はいずれも73,124kN、地震発生前の平常時の底面部2の抵抗力R3′は348,446kNであった。
【0161】
したがって、平常時の抵抗力Rは、R=R1+R2+R3′=494,694kNであるから、安全率Fsは、Fs=R/T=1.304となり、平常時は比較例の盛土構造モデルでも盛土の地すべり的変動を阻止することができることが分かった。
【0162】
一方、地震発生時は過剰間隙水圧が発生して底面せん断抵抗力を喪失することから、底面部の抵抗力R3′はR3′=0である。したがって、地震時には抵抗力Rは、R=R1+R2=146,248kNとなり、安全率Fsは、Fs=R/T=0.385となって1.0を大きく下回り、地震時には盛土は地すべり的変動を抑止することが困難であることが分かった。
【0163】
以上より盛土の安定解析を行って盛土中に高強度の側面せん断抵抗を有する擬似側壁を設けることにより盛土の地すべり的変動を効果的に抑止できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0164】
盛土土塊の抵抗力が滑動力よりも大きくなるように側面抵抗を踏まえた安定解析を行うと共に、谷埋め型盛土の底部に少なくとも1つ以上の有孔管を埋設して過剰間隙水圧が消散する消散領域を形成し、これにより盛土の個々の幅寸法と深さ寸法の比率を小さくして盛土全体のせん断抵抗のうち相対的に大きなせん断抵抗を有する側面せん断抵抗の割合を増加させ、すべり面の平均強度を高めて盛土の地すべり的変動を抑止する。
【符号の説明】
【0165】
la、1b 側面部
2 底面部
3 地盤
5 盛土
8、21 有孔管(管状部材)
8h 開口部
9、23 消散領域
10 擬似側壁
【要約】
【課題】記録的豪雨や地震等の自然災害に対し、盛土土塊の地すべり的変動を低コストでもって効果的に抑止することができる盛土安定化工法とその盛土構造を実現する。
【解決手段】盛土土塊の抵抗力が滑動力よりも大きくなるように盛土5の側面抵抗を踏まえた安定解析を行うと共に、有孔管8を滑動方向Xに沿って埋め込み、地震時等に発生する過剰間隙水圧が消散した消散領域9を有孔管8の周囲に形成し、かつ高強度の側面抵抗を有する擬似側壁10を消散領域9上に形成し、擬似側壁10によって盛土5を複数の盛土領域5a、5bに分割し、盛土5の幅寸法と深さ寸法との比を擬似側壁10が存在しない場合に比べて小さくすることにより、盛土全体の抵抗力のうち、相対的に大きな抵抗力を有する側面抵抗の割合を擬似側壁10によって増加させ、盛土全体におけるすべり面の平均強度を高めて地すべり的変動を抑止する。
【選択図】
図4