(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】乳酸菌含有組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20240705BHJP
A23K 10/12 20160101ALI20240705BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20240705BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20240705BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20240705BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240705BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240705BHJP
A61Q 11/00 20060101ALN20240705BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
A23L33/135
A23K10/12
A23K10/16
A23K10/18
A61K8/9728
A61K35/747
A61P37/08
A61Q11/00
C12N1/20 E
(21)【出願番号】P 2020038610
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-27
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03137
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03138
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03139
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03140
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100178571
【氏名又は名称】関本 澄人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】内山 淳平
(72)【発明者】
【氏名】福山 朋季
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545428(JP,A)
【文献】特表2003-534003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0341872(US,A1)
【文献】国際公開第2009/116382(WO,A1)
【文献】特開2017-226635(JP,A)
【文献】GRZESKOWIAK L. et al.,Microbiota and probiotics in canine and feline welfare,Anaerobe, 2015, vol.34, p.14-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
A23L 2/00 - 35/00
A61K 6/00 -135/00
A61P 1/00 - 43/00
A61Q 1/00 - 90/00
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・アニマリスに属する乳酸菌またはその菌体処理物を含む組成物で
あって、当該乳酸菌が、受託番号NITE BP-03137、受託番号NITE BP-03138、受託番号NITE BP-03139および/または受託番号NITE BP-03140で寄託されたラクトバチルス・アニマリス株である、前記組成物。
【請求項2】
抗アレルギー活性を有する請求項
1に記載の
組成物
【請求項3】
前記組成物が飲食品組成物である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が医薬組成物である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が飼料組成物である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が衛生用組成物である、請求項1
または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー作用を有する乳酸菌含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー疾患は様々な要因、例えば、遺伝的要因や環境要因(例えば、乳幼児期の生育環境、腸内細菌叢など)の相互作用によってその発症がコントロールされている。
腸内細菌は、宿主の免疫系の発達に影響を与えると考えられており(非特許文献1)、アレルギー疾患と何らかの関連を有する腸内細菌として乳酸菌が挙げられる。また、乳幼児期におけるペットと生活する環境がアレルギー疾患の環境要因として重要であり、例えば、乳幼児期にペット(イヌやネコなど)と接触することで生じるヒトとペットの微生物クロストークが、アレルギーの発症を抑制することを示唆する報告もある(非特許文献2および3)。Fujimuraらは、イヌが飼われている環境におけるハウスダストに暴露されたマウスの腸内細菌叢において、乳酸菌のLactobacillus Johnsoniiの比率が顕著に上がっており、Lactobacillus Johsoniiがアレルギー性の気道疾患の抑制に重要な役割を果たしていることを報告した(非特許文献4)。
【0003】
他方、Taylorらは、アレルギー疾患を有する母親から生まれた乳児に生後6ヶ月までの間、Lactobacillus acidophilusを投与し、アレルギーの発症に与える乳酸菌の影響を調べたところ、生後1歳の時点では、投与群とプラセボ投与群のアトピー性皮膚炎の発症率に有意差が認められず、IgE抗体の陽性頻度は、Lactobacillus acidophilus投与群の方がむしろ高いことを示した(非特許文献5)。
【0004】
以上のように、乳酸菌がアレルギー疾患に何らかの影響を与えることは示唆されているが、相反する結果(非特許文献5はネガティブな結果、非特許文献4はポジティブな結果)が示されており、どの菌種がアレルギー抑制に対して、より効果的で実用性があるかは、さらに解明していく必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】MacphersおよびHarris, Nat Rev Immunol. 4:478-485 2004.
【文献】Hesselmarら, Clin Exp Allergy. 29:611-617 1999.
【文献】Fallら, JAMA Pediatr. 169 e153219 2015
【文献】Fujimuraら, Proc Natl Aca Sci USA 14:805-810 2014.
【文献】Tylorら, J Allergy Clin Immuno. 119:184-191 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、アレルギーの発症の抑制に有効な乳酸菌含有組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、イヌにおいて腸内細菌は宿主の免疫系に何らかの影響を与えていると考え、健常犬とアトピー犬の腸内細菌叢の比較を行い、健常犬で優位であった細菌を選択した。具体的には、健常犬糞便から分離した240株のうち、184株が上記選択した細菌に該当し、これらの細菌について、16sRNA遺伝子による系統分類解析を行った。その結果、Bacteroides属、Enterococcus属、Lactobacillus属およびStreptococcus属の4属13種を同定し、その中から、これまでにアレルギー発症との関連性が報告されていなかったLactobacillus属のLactobacillus animalis(L. animalis)を解析対象とした。
発明者らは、L. animalisをマウスのアトピー性皮膚炎モデルおよびアレルギー性喘息モデルに経口投与したところ、アレルギーによって発症する諸症状を抑制する効果が認められた。さらに、L. animalisは、これまでにアレルギー抑制効果が報告されているLactobacillus johnsonii(L. johnsonii)よりも高いアレルギー抑制効果を示すことが分かった。
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(7)である。
(1)ラクトバチルス・アニマリスに属する乳酸菌、またはその菌体処理物を含む組成物。
(2)前記乳酸菌が、受託番号NITE BP-03137、受託番号NITE BP-03138、受託番号NITE BP-03139および/または受託番号NITE BP-03140で寄託されたラクトバチルス・アニマリス株である上記(1)に記載の組成物。
(3)抗アレルギー活性を有する上記(1)または(2)に記載の乳酸菌または組成物
(4)前記組成物が飲食品組成物である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)前記組成物が医薬組成物である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(6)前記組成物が飼料組成物である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(7)前記組成物が衛生用組成物である、上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来報告されている乳酸菌種よりも高いアレルギー抑制効果を発揮する乳酸菌種が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(1)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から4週間後(A)および7週間後(B)において、1時間あたりのモデルマウスの引っ掻き行動の回数を測定した(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01。
【
図2】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(2)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から1週間毎に10週まで皮膚症状をスコアリングした結果である(左のグラフ)(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。また、モデルマウスのダニ抗原投与後の皮膚症状の写真を示す(右図)。
【
図3】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(3)を示す。ダニ抗原の経皮投与開始から1週間毎に10週まで背部皮膚の厚さを測定した結果である(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【
図4】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(4)を示す。ダニ抗原の最終投与の翌日、モデルマウスから採取した耳介リンパ節中に存在する、CD3
+CD4
+T細胞(A)、CD19
+IgE
+B細胞(B)およびCD11c
+CD40
+樹状細胞(C)の数をカウントした結果である(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。Intactはダニ未処置のマウスを使用した結果で、Controlは乳酸菌非投与のモデルマウスを使用した結果である(以下の図において同じ)。
【
図5】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(5)を示す。ダニ抗原の最終投与の翌日、モデルマウスから採取した耳介リンパ節で産生される各種サイトカインの量を測定した(A:IL-4、B:IL-9、C:IL-13、D:IL-17、E:TNFα)(n=8)。NDは検出限界以下。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【
図6】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(6)を示す。ダニ抗原の最終投与の翌日、モデルマウスから採取した耳介皮膚組織で産生される各種サイトカインの量を測定した(A:IL-1α、B:IL-4、C:IL-5、D:IL-9、E:IL-13、F:IL-17)(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【
図7】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(7)を示す。ダニ抗原の最終投与の翌日、モデルマウスから採取した耳介皮膚組織で産生される各種サイトカインの量を測定した(A:IL-33、B:TNFα、C:TSLP)(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。*P < 0.05。
【
図8】アトピー性皮膚炎モデルを用いた解析結果(8)を示す。ダニ抗原の最終投与の翌日、モデルマウスから採取した血液から血清を調製し、その血清中の総IgE量を測定した(n=8)。エラーバーは、標準誤差を示す。
【
図9】アレルギー性喘息モデルを用いた解析結果(1)を示す。ダニ抗原の最終惹起の翌日、モデルマウスから採取した肺門リンパ節中に存在する、CD3
+CD4
+T細胞(A)、CD19
+IgE
+B細胞(B)およびCD11c
+CD40
+樹状細胞(C)の数をカウントした結果である(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【
図10】アレルギー性喘息モデルを用いた解析結果(2)を示す。ダニ抗原の最終惹起の翌日、モデルマウスから採取した肺門リンパ節で産生される各種サイトカインの量を測定した(A:IL-4、B:IL-5、C:IL-9、D:IL-13、E:IL-17)(n=8)。NDは検出限界以下。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【
図11】アレルギー性喘息モデルを用いた解析結果(3)を示す。ダニ抗原の最終惹起の翌日、モデルマウスから採取した肺胞洗浄液中の好酸球(A)と好中球(B)を計数した結果である(n=8)。データは、平均値を示し、エラーバーは、標準誤差を示す。**P < 0.01、*P < 0.05。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態は、ラクトバチルス・アニマリス(Lactobacillus animalis)に属する乳酸菌、またはその菌体処理物を含む組成物(以下「本発明の組成物」とも記載する)である。本発明の実施形態で用いられるラクトバチルス・アニマリスとしては、例えば、NCBIアクセッション番号NZ_AYYW00000000.1としてその遺伝子配列が登録されている菌種の他、2020年2月21日(原寄託日)付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託された、受託番号NITE BP-03137(識別名:L11-2)、受託番号NITE BP-03138(識別名:L13-1)、受託番号NITE BP-03139(識別名:L41-1)および受託番号NITE BP-03140(識別名:M08-1)で特定される菌株などが好ましい。上記寄託菌株は、上記保存機関より入手可能である。
【0012】
ラクトバチルス・アニマリスの培養方法は、特に限定されるものではなく、乳酸菌の培養方法として、当業者が通常選択する方法であればいかなる方法であってもよい。例えば、培養温度は20~50℃、好ましくは25~40℃とし、嫌気条件にて培養することができる。
ラクトバチルス・アニマリスを増殖するための培地は、特に限定されるものではなく、当業者が通常選択する培地を用いることができる。そのような培地として、例えば、炭素源(グルコース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、トレハロースなど)、窒素源(アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなど)、無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウムなど)、有機成分(ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆粉など)を菌種に適する組成で含む培地であればよく、MRS培地やLBS培地などを好適に使用することができる。
【0013】
本発明の菌体処理物としては、例えば、菌体の培養物及び発酵物をあげることができ、含まれる乳酸菌の状態としては、生菌体又は死菌体のいずれの状態でもよい。更に菌体処理物としては、乳酸菌が、例えば、加熱、ペースト化、乾燥、凍結、溶菌、破砕、抽出等されたものや、菌体破砕物、菌体培養物及び発酵物の固形分を除去した上清などをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明の組成物には、ラクトバチルス・アニマリスまたはその菌体処理物以外に他の物質が含まれていてもよい。他の物質として、特に制限はないが、例えば、乳糖、ブドウ糖、マンニトール、蔗糖、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、セルロース、コラーゲン、クエン酸、酢酸、食塩、ビタミン類などを含有させてもよい。
本発明の組成物は、アレルギーの発症を抑制する効果を有しており、使用目的に応じて、例えば、飲食品組成物、医薬組成物、飼料組成物および衛生用組成物などとして提供され得るが、これらの組成物に限定されるものではない。
【0014】
本発明の組成物が医薬組成物である場合、その剤形は特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、液体製剤、座剤または注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の抗体またはその機能的断片を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0015】
本発明の組成物が飲食品組成物として提供される場合、その形態は特に制限されず、例えば、清涼飲料、栄養飲料等の飲料、キャンディー、ガム、ゼリー、クリーム、アイスクリームなどの菓子類、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、バター等の乳製品、その他サプリメントなどであってもよい。
【0016】
本発明の組成物が衛生用組成物として提供される場合、その形態は特に制限されず、例えば、ハミガキ、皮膚クリーム、石鹸、シャンプー、化粧品、エアロゾル、ミスト、コーティング剤などであってもよく、非ヒト動物用の衛生用組成物であってもよい。
【0017】
また、本発明の組成物は、非ヒト動物に摂取可能な飼料組成物および動物用の医薬組成物であってもよい。ここでいう動物飼料には、いわゆる、動物に必要な栄養源として摂取させるもの以外にも、動物の嗜好品として与える動物用のサプリメントなども含まれる。
【0018】
本発明の第2の実施形態は、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む、アレルギーの発症の予防方法(以下「本発明の予防方法」とも記載する)である。
ここで「予防」とは、アレルギーの発症を予め阻止することを目的とする処置のことである。
本発明の予防方法の対象は、特に限定はされないが、哺乳類に分類される任意の動物であればよく、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトおよびイヌである。
【0019】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0020】
1.実験方法
1-1.糞便からの乳酸菌の分離および系統分類
健常犬(16頭)の糞便から分離した細菌240株のうち、アトピー犬の腸内細菌叢より健常犬の腸内細菌叢において優位であった184株を選択し、系統分類解析を行った。具体的には、犬から採取した糞便をMRS液体培地またはLBS液体培地を使用し、嫌気条件下で、37℃にて一晩静置培養を行った。培養後、MRSまたはLBS平板培地で細菌の分離を行った。純化は最低3回行った。細菌の系統分類は、16S rRNAシークエンスに基づき行った。その結果、Bacteroides属、Enterococcus属、Lactobacillus属およびStreptococcus属の4属13種を同定し、その中から、これまでにアレルギー発症との関連性が報告されていなかったLactobacillus属のLactobacillus animalis(L. animalis)を選択し、解析対象とした。なお、本実施例にけるポジティブコントロールとして、アレルギー発症との関連が示唆されているLactobacillus johnsonii(L. johnsonii)を使用した。本実施例で使用したL. animalisは、受託番号NITE BP-03137、受託番号NITE BP-03138、受託番号NITE BP-03139および受託番号NITE BP-03140で寄託された菌株を、菌数で1:1:1:1の比率で混合したものである。
【0021】
1-2.疾患モデルマウスによる解析
本実施例で用いた全ての動物実験は麻布大学動物実験専門委員会に承認を得て実施した。
1-2-1.アトピー性皮膚炎モデル
6週齢の雌性NC/Ngaマウス(日本チャールス・リバー株式会社)を用いて実験を実施した。1週間馴化後、L. animalisまたはL. johnsoniiを1匹あたり0.2 ml(109)2週間経口投与した後、ダニ抗原(コナヒョウヒダニ、Dermatophagoides farinae)の感作を開始した。ダニ抗原の感作前に頚背部皮膚の毛刈りを行い、頚背部には10回のテープストリッピングを行った後、ダニ懸濁液30 μl(0.25 mg/ml)を、両耳介には10μlずつピペットを用いて経皮投与した。ダニ抗原の投与は週2回、12週間実施し、毎週、痒み行動のモニタリング、皮膚症状のスコア、背部皮膚の厚さ測定を実施した。
痒み行動のモニタリングは、ビデオカメラで記録したマウスの行動のうち、後肢、前肢もしくは舌でダニ抗原塗布部位(耳介および背部皮膚)を噛むないし引っ掻く行動を1回の痒み行動とし、60分間における痒み行動の回数を記録した。
皮膚所見は、耳介部、背部皮膚のそれぞれについて痂疲・潰瘍形成、発赤をスコア化し(0~4段階に症状の程度をスコア化した)、その累計値を累積スコアとして評価した。
背部皮膚の厚さは、週1回ノギスを使って測定した。
ダニ抗原最終投与の翌日に、イソフルラン吸入麻酔下でマウスから採血を行い、その後、安楽殺し、耳介リンパ節および耳介皮膚の採材を行った。
血液は血清を分離後、血中総IgE量をELISA法にて定量した。
耳介リンパ節は、単細胞分離後、フローサイトメトリー法により、細胞表面抗原に基づいて細胞を分離取得した。得られた細胞のうちヘルパーT細胞(CD3+CD4+T細胞)を抗CD3抗体および抗CD28抗体(株式会社ベリタス)存在下で24~96時間培養後、培養上清中の各種サイトカインの産生量をELISA法で測定した。
採取した耳介皮膚は液体窒素により凍結し、電動ホモジナイザーでPBS 500μl中にホモジナイズして得られた上清中の各種サイトカイン量をELISA法により測定した。
【0022】
1-2-2.アレルギー性喘息モデル
6週齢の雌性BALB/cマウス(日本チャールス・リバー株式会社)を用いて実験を実施した。1週間馴化後、L. animalisまたはL. johnsoniiを1匹あたり0.2 ml(109)2週間経口投与した後、ダニ抗原(コナヒョウヒダニ、Dermatophagoides farinae)の感作を開始した。ダニ抗原の感作は、イソフルラン吸入麻酔下で、ダニ懸濁液30 μl(1 mg/ml)を、ピペットを用いて点鼻投与した。ダニ抗原の投与は、週1回、3週間連続実施した。同様の方法で4週目にイソフルラン吸入麻酔下で、ダニ懸濁液5 μl(0.2 mg/ml)を、ピペットを用いて3日間連続で点鼻惹起した。 ダニ抗原最終惹起の翌日に、イソフルラン吸入麻酔下でマウスから採血を行い、安楽殺し、肺門リンパ節、肺胞洗浄液の採材を行った。
肺胞洗浄液は、洗浄液中の好酸球(eosinophil)および好中球(neutrophil)の数のカウントに使用した。
肺門リンパ節は、単細胞分離後、フローサイトメトリー法により、細胞表面抗原に基づいて細胞を分離取得した。得られた細胞のうちヘルパーT細胞(CD3+CD4+T細胞)を抗CD3抗体および抗CD28抗体存在下で24~96時間培養後、培養上清中の各種サイトカインの産生量をELISA法で測定した。
【0023】
1-3.統計的分析
得られたデータは、各群で平均値および標準誤差を算出し、実験毎に全群で多重比較検定を実施した。多重比較検定ではBartlett 法によるなど分散の検定を行い、分散の場合は、Dunnett's 検定を用いた。各検査項目について,各群間の統計学的有意差の有無を危険率5および1%レベルで解析した。
【0024】
2.結果
2-1.アトピー性皮膚炎モデル
アトピー性皮膚炎は痒みと皮膚の炎症が、交互に発現する事で症状が悪化する病態である。そこで、週1回ダニ抗原の投与直後に1時間あたりのマウスモデルの痒み行動を測定する事で、乳酸菌が痒みに及ぼす影響を検討した。
ダニ抗原を投与してアトピー性皮膚炎を発症させたマウスモデルの解析結果から、コントロールマウス(乳酸菌非投与)に比べ、L.animalis投与マウスおよびL.johnsonii投与マウスでは、引っ掻き行動の回数が有意に減少することが認められた(
図1AおよびB)。
また、
図2は、ダニ抗原投与期間中のアトピー皮膚症状をスコア化した結果である。アトピー症状発現は個体によるばらつきが大きく、統計学的有意差までは認められなかったが、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群では、コントロール群よりも皮膚症状の軽減の程度が高かった。また、L.animalis投与群とL.johnsonii投与群を比較すると、L.animalis投与群の方が症状の軽減の程度が大きかった。
アトピー性皮膚炎では、その症状の悪化に伴い、表皮の肥厚・細胞浸潤が進行し、皮膚の厚さが増大する。そこで、モデルマウスの背部皮膚の厚さを測定した。その結果、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群では、コントロール群よりも皮膚の厚さの減少が顕著であった。なかでも、L.animalis投与群における厚さの減少は統計学的に有意で、L.johnsonii投与群と比較しても明らかな減少が認めらた(
図3)。
【0025】
最終解剖後、耳介リンパ節を採取し、リンパ節中のアレルギーに関連する免疫細胞(ヘルパーT細胞(CD3
+CD4
+T細胞)、IgE陽性B細胞(CD19
+IgE
+B細胞)および活性化樹状細胞(CD11c
+CD40
+樹状細胞))の数をフローサイトメトリー法でカウントした。その結果、全ての細胞において、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群で細胞数の減少が認められた。特に、ヘルパーT細胞およびIgE陽性B細胞は、コントロール群と比較して有意な減少が認められており、中でも、L.animalis投与群における減少が顕著であった(
図4)。
【0026】
次に、耳介リンパ節から採取したヘルパーT細胞をCD3およびCD28抗体の存在下で培養し、炎症性サイトカイン(IL-4、IL-9、IL-13、IL-17およびTNFα)の産生量を測定した。その結果、いずれの炎症性サイトカインも、コントロール群と比較してL.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、その産生量が有意に減少した(
図5)。特に、L.animalis投与群では、L.johnsonii投与群よりも炎症性サイトカインの産生量の顕著な減少が認められた。
【0027】
耳介皮膚組織中の炎症性サイトカイン(IL-1α、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13およびIL-17)量を測定したところ、耳介リンパ節の結果と同様に、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、有意なサイトカイン量の減少が認めらた(
図6)。また、耳介皮膚組織中の痒みに関連するサイトカイン(IL-33、TNFαおよびTSLP(thymic stromal lymphopoietin))量を定量した結果を
図7に示す。TSLPについては、有意な減少は認められなかったが、IL-33およびTNFαなどのケラチノサイト由来のサイトカインについては、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、コントロールと比較して、産生量の有意な減少が認められた。
次に、モデルマウスから調製した血清中の総IgE量を測定した。その結果、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、血清中総IgE量の顕著な減少が認められた(
図8)。
【0028】
2-2.アレルギー性喘息モデル
アレルギー性喘息モデルマウスを最終解剖した後、肺門リンパ節を採取して、アトピー性皮膚炎モデルと同様に、リンパ節中のアレルギー関連免疫細胞(ヘルパーT細胞、IgE陽性B細胞および活性化樹状細胞)の数をフローサイトメトリー法で解析した。その結果、全てのアレルギー関連免疫細胞に関し、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群の肺門リンパ節における各細胞数の有意な減少が認められた。特に、L.animalis投与群における減少が顕著であった(
図9)。
【0029】
次に、肺門リンパ節から採取したヘルパーT細胞をCD3およびCD28抗体の存在下で培養し、炎症性サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-9、IL-13およびIL-17)の産生量を測定した。その結果、いずれの炎症性サイトカインも、コントロール群と比較してL.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、その産生量が有意に減少した(
図10)。特に、L.animalis投与群では、L.johnsonii投与群よりも炎症性サイトカインの産生量の顕著な減少が認められた。
【0030】
アレルギー性喘息モデルマウスを最終解剖時にPBSを用いて肺を洗浄し、その洗浄液(肺胞洗浄液、BALF)中の好酸球数および好中球数を、フローサイトメトリー法を用いてカウントした(
図11)。いずれの細胞種も、L.animalis投与群およびL.johnsonii投与群において、細胞数の減少が認められ、特にL.animalis投与群において、で顕著な細胞数の減少が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、アレルギーの発症抑制効果を発揮する組成物を提供するもので、医学、獣医学分野の他、飲食品製造分野における利用が期待される。
【受託番号】
【0032】
受託番号NITE BP-03137
受託番号NITE BP-03138
受託番号NITE BP-03139
受託番号NITE BP-03140