(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】圧着接続構造及び圧着接続方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20240705BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
(21)【出願番号】P 2020094104
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】505186706
【氏名又は名称】白山商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】土屋 一郎
(72)【発明者】
【氏名】西澤 滋
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋平
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/115004(WO,A1)
【文献】特開2014-056753(JP,A)
【文献】特開2017-022110(JP,A)
【文献】実開平03-124566(JP,U)
【文献】特開2002-010469(JP,A)
【文献】特開2005-339850(JP,A)
【文献】特表2018-514935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 3/00 - 4/22
H01R 43/027-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状のバレル部を有する圧着端子と、該圧着端子とは独立して形成され該圧着端子の
前記バレル部
の内側に配置され圧着方向に突出する複数の突起を有する
円筒形状のセレーション部材と、前記圧着端子の
前記バレル部
の内側の前記セレーション部材内に挿入されて圧着される導体
を有するアルミニウム又はアルミニウム合金製の電線とを備えており、前記圧着端子の
前記バレル部は
、圧着された前記電線に沿った端部に
端縁に向かって離軸方向に拡がるベルマウス部を有しており、前記セレーション部材の一部が前記ベルマウス部の端面より外部に突出して
おり、前記セレーション部材の前記外部に突出した一部の内側に配置された前記複数の突起が、前記バレル部の圧着によって前記電線に食い込んでいることを特徴とする圧着接続構造。
【請求項2】
前記セレーション部材が、前記ベルマウス部の端面より少なくとも2mm外部に突出していることを特徴とする請求項1に記載の圧着接続構造。
【請求項3】
前記圧着端子が、銅又は銅合金製の基材と、該基材の表面に形成された錫メッキ層とを有するクローズドバレル型の圧着端子であることを特徴とする請求項
1に記載の圧着接続構造。
【請求項4】
前記セレーション部材が、銅又は銅合金製の基材と、該基材の表面に形成された錫メッキ層とを有していることを特徴とする請求項
1に記載の圧着接続構造。
【請求項5】
前記電線が平角形状又は丸形状の軸断面を有していることを特徴とする請求項
1に記載の圧着接続構造。
【請求項6】
圧着端子の
円筒形状のバレル部
の内側に独立して配置され圧着方向に突出する複数の突起を有する
円筒形状のセレーション部材内に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の導体を有する電線を挿入し、前記圧着端子の
前記バレル部の前記導体が挿入された端部に
端縁に向かって離軸方向に拡がるベルマウス部が形成され、かつ前記セレーション部材の一部が前記ベルマウス部より外部に突出
し、前記セレーション部材の外部に突出した前記一部の内側に配置された前記複数の突起が前記電線に食い込むように、前記圧着端子の前記バレル部を圧着することを特徴とする圧着接続方法。
【請求項7】
前記セレーション部材が前記ベルマウス部の端面より少なくとも2mm外部に突出するように圧着することを特徴とする請求項6に記載の圧着接続方法。
【請求項8】
前記圧着端子として、銅又は銅合金製の基材の表面に錫メッキ層を形成したクローズドバレル型の圧着端子を用いることを特徴とする請求項
6に記載の圧着接続方法。
【請求項9】
前記セレーション部材として、銅又は銅合金製の基材の表面に錫メッキ層を形成したセレーション部材を用いることを特徴とする請求項
6に記載の圧着接続方法。
【請求項10】
前記電線として、平角形状又は丸形状の軸断面を有する電線を用いることを特徴とする請求項
6に記載の圧着接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金製の導体を有する電線を圧着接続するための圧着接続構造及び圧着接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のアルミニウム電線を接続する圧着端子構造として、特許文献1には、アルミニウム電線用の圧着端子として、アルミニウム電線の導体部に圧着されるバレルの端部に、導体部の保持領域を拡げるために徐々に広げた逃げ部(ベルマウス部)を形成することが開示されている。特許文献1では、このようなベルマウス部を設けることにより、アルミニウム電線の導体部に対する剪断力を低減して導体部の芯線切れを防ぐことが可能となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された圧着端子構造によると、アルミニウム電線に対する剪断力はある程度低減されるが、充分ではなく、バレルの端部で剪断の発生するおそれが多分にあった。特に、アルミニウム電線を圧着端子に圧着接続する場合、良好な電気的接触を維持するためには、かなりの圧縮率(例えば、カシメ部の断面積の圧縮率が60~80%)でカシメを行う必要があったが、このような高い圧縮率で圧縮すると、圧着部近傍の断面積が小さくなり、この部分の電線に曲げ等の応力が印加されると、細い部分に応力が集中して、破断やクラック等の強度的な問題が発生していた。
【0005】
従って本発明の目的は、アルミニウムやアルミニウム合金製の導体を有する電線を圧着接続する場合に圧着部近傍の電線の曲げ及び引張応力に対する強度を充分に高めることができる圧着接続構造及び圧着接続方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、圧着接続構造は、圧着端子と、この圧着端子とは独立して形成され圧着端子のバレル部内側に配置され圧着方向に突出する複数の突起を有するセレーション部材と、圧着端子のバレル部内側のセレーション部材内に挿入されて圧着される導体がアルミニウム又はアルミニウム合金製の電線とを備えている。圧着端子のバレル部は圧着された電線に沿った端部にベルマウス部を有しており、セレーション部材の一部がベルマウス部の端面より外部に突出している。
【0007】
圧着端子のバレル部が端部にベルマウス部を有しており、セレーション部材の一部がベルマウス部の端面より外部に突出しているので、バレル部をカシメにより圧着した場合に、セレーション部材のベルマウス端面より外部に突出している部分の内側にある突起がアルミニウム電線に食い込むことにより、圧着部近傍の電線の曲げ応力に対する強度を大幅に高めることができる。
【0008】
セレーション部材が、ベルマウス部の端面より少なくとも2mm外部に突出していることが好ましい。
【0009】
圧着端子が、銅又は銅合金製の基材と、この基材の表面に形成された錫メッキ層とを有するクローズドバレル型の圧着端子であることも好ましい。
【0010】
セレーション部材が、銅又は銅合金製の基材と、この基材の表面に形成された錫メッキ層とを有していることも好ましい。
【0011】
電線が平角形状又は丸形状の軸断面を有していることも好ましい。
【0012】
本発明によれば、さらに、圧着接続方法は、圧着端子のバレル部内側に独立して配置され圧着方向に突出する複数の突起を有するセレーション部材内に、アルミニウム又はアルミニウム合金製の導体を有する電線を挿入し、圧着端子のバレル部の導体が挿入された端部にベルマウス部が形成され、かつセレーション部材の一部がベルマウス部より外部に突出するように圧着端子のバレル部を圧着する。
【0013】
圧着端子のバレル部の端部にベルマウス部を形成し、セレーション部材の一部がベルマウス部の端面より外部に突出するようにバレル部のカシメを行っているので、圧着部近傍の電線の曲げ応力に対する強度を大幅に高めることができる。
【0014】
セレーション部材がベルマウス部の端面より少なくとも2mm外部に突出するように圧着することが好ましい。
【0015】
圧着端子として、銅又は銅合金製の基材の表面に錫メッキ層を形成したクローズドバレル型の圧着端子を用いることも好ましい。
【0016】
セレーション部材として、銅又は銅合金製の基材の表面に錫メッキ層を形成したセレーション部材を用いることも好ましい。
【0017】
電線として、平角形状又は丸形状の軸断面を有する電線を用いることも好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圧着端子のバレル部が端部にベルマウス部を有しており、セレーション部材の一部がベルマウス部の端面より外部に突出しているので、バレル部をカシメによって圧着した場合に、圧着部近傍の電線の曲げ応力に対する強度を大幅に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態における圧着接続構造の圧着後の構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2a】
図1の圧着接続構造の組込み前及び圧着前の構成を説明する分解斜視図である。
【
図2b】
図2aの圧着接続構造におけるセレーション部材の貫通孔の構造を示す断面図である。
【
図3】
図1の圧着接続構造の組込み後及び圧着前の構成を説明する分解斜視図である。
【
図4】
図1の実施形態の圧着接続構造について圧着後の圧着接続部の状態を示す断面図である。
【
図5】従来技術の圧着接続構造について圧着後の圧着接続部の状態を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施例及び比較例における曲げ試験を説明する図である。
【
図7】本発明の実施例及び比較例における引張試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の一実施形態における圧着接続構造の圧着後の構成を概略的に示している。
【0021】
同図に示すように、圧着接続構造は、圧着端子の圧着部(バレル部)10の内側に配置されて圧着されたセレーション部材11と、このセレーション部材11内に挿入されて圧着された電線の導体12とから構成されている。圧着端子及びそのバレル部10は、銅又は銅合金から形成されており、表面に錫メッキが施されている。セレーション部材11も同様に銅又は銅合金から形成されており、表面に錫メッキが施されている。銅合金としては、黄銅合金、青銅合金、リン青銅合金又はその他の種々の銅合金が用いられる。電線の導体12はアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されており、その周囲に絶縁被覆が形成されていても良い。
【0022】
本実施形態において、圧着端子はクローズドバレル型の圧着端子であり、そのバレル部10には、圧着された電線に沿った端部に、圧着時に未加圧であり、従って、端縁に向かって離軸方向に拡がるベルマウス部10aが形成されている。さらに、セレーション部材11の一部がこのベルマウス部10aの端面より外部に突出している。
【0023】
図2aは本実施形態における圧着接続構造の組込み前及び圧着前の構成を説明する図であり、
図2bはこの圧着接続構造におけるセレーション部材の貫通孔の構造を示す図であり、
図3は本実施形態における圧着接続構造の組込み後及び圧着前の構成を説明する図である。
【0024】
圧着端子のバレル部10は、圧着前は円筒形状に形成されており、その内部にはこのバレル部10とは別個に独立して形成された略円筒形状のセレーション部材11が挿嵌されている。セレーション部材11は銅又は銅合金の平板を丸めて円筒形状(断面が円形状)となるように形成されており、
図2bに示すように、多数の貫通孔11aがもうけられている。各貫通孔11aの開口端部には、円筒形状の内側に向かう多数の突起11bが設けられている。電線の導体12は、本実施形態では、平角形状の軸断面を有しているが、丸形状の軸断面を有するように構成しても良い。
【0025】
図2aに示すように、圧着端子のバレル部10内側に、円筒形状(断面が円形状)に丸められたセレーション部材11を挿嵌し、セレーション部材11の内側に電線の導体12を挿入して組込みを行う。この場合、セレーション部材11の一部がバレル部10の端面より外部に2mm又はそれ以上(少なくとも2mm)突出させる。この状態が
図3に示されている。このように組込み後のバレル部10、セレーション部材11及び導体12に対して、導体12の平面と垂直の方向に加圧してカシメを行うことにより圧着を完了する。ただし、バレル部10の圧着された導体12に沿った端部に、未加圧部であるベルマウス部10aが形成されるようにカシメを行う。この圧着後の状態が
図1に示されている。
【0026】
セレーション部材11は、多数の貫通孔11aを備えており、各貫通孔11aの一方の開口部には、電線の導体12への圧着方向に突出する多数の鋭利な突起11bが形成されている。これにより、例えば絶縁被覆されているアルミニウム又はアルミニウム合金製の導体12に圧着させた際に、電線の絶縁層(例えばエナメル層)がこれら鋭利な突起11bによってせん断され、貫通孔11a内に導体12が食い込み、これによって導体12とセレーション部材11との電気的な接触が確実に行われる。その結果、信頼性の高い確実な圧着接続を行うことができる。
【0027】
図4は本実施形態の圧着接続構造について圧接後の圧着接続部の状態を断面で示しており、
図5は従来技術の圧着接続構造について圧接後の圧着接続部の状態を断面で示している。
【0028】
図4に示すように、本実施形態では、セレーション部材11が圧着端子のバレル部10におけるベルマウス部10aの端面より外部に突出しているので、その突出したセレーション部材11の貫通孔11aの近傍に形成された突起11bが食い込み、導体12とセレーション部材11とが一体化することにより、引張試験(アルミニウム電線の導体12を圧着端子の軸方向に引っ張る試験)を行った際にも、導体12の断面積の細い部分14に応力が集中することはなく、容易に破断するおそれはない。
【0029】
これに対して、
図5に示すように、従来技術では、セレーション部材11′が圧着端子のバレル部10′におけるベルマウス部10a′の端面より外部に突出していないので、同様の引張試験を行うと、導体12′の断面積の細い部分14′に応力が集中し、容易に破断してしまう。
【0030】
以上詳細に説明したように、本実施形態によれば、圧着端子のバレル部10が端部にベルマウス部10aを有しており、セレーション部材11がベルマウス部10aの端面より外部に2mmほど突出しているので、バレル部10をカシメによって圧着した場合に、その突出したセレーション部材11の貫通孔11aの近傍に形成された突起11bが食い込み、導体12とセレーション部材11とが一体化することにより、圧着部近傍の電線の曲げ応力に対する強度を大幅に高めることができる。
【0031】
上述した実施形態では、電線として、エナメル層が表面に被着されたアルミニウム電線を用いているが、エナメル層が表面に被着されたアルミニウム合金線、エナメル層が表面に被着された銅線、エナメル層が表面に被着された銅合金線、又はエナメル層が表面に被着されたその他の金属電線を用いても良い。
【実施例】
【0032】
以上述べた本実施形態の圧着接続構造(実施例1~3)及び従来技術のセレーション部材が存在しない圧着接続構造(比較例1~3)について、実際に曲げ試験を行って強度を確認した。
【0033】
これら実施例1~3及び比較例1~3に用いたアルミニウム電線及び圧着端子は表1の通りである。同表において、使用電線の数値は電線の横幅及び縦幅であり、単位はmmである。電線の長さは200mmであり、実施例におけるセレーションの突出長さは2mmとした。バレル部の端部は、未加圧部であるベルマウス部が形成されるようにカシメが行われている。
【表1】
【0034】
曲げ試験は、
図6(A)に示す圧着端子の下部をバイスに固定し、
図6(B)に示すように電線の端部を筒13内に挿入して把持し、この筒13を電線の縦幅方向である左右に45度まで曲げる動作を行い、線の曲げ強度が大きく下がり破断するまでの曲げ回数を測定した。ここで、曲げ回数のカウントは、右又は左に45度曲げ、中央に戻ったところで1回とした。表2にその曲げ試験結果である曲げ回数(単位は回)を示す。
【0035】
【0036】
同表より、セレーション部材がバレル部の端面より外部に2mm突出している実施例1~3は、セレーション部材が存在しない(セレーション部材がバレル部の端面から外部に突出していない場合に対応する)比較例1~3に比して破断までの曲げ回数が圧倒的に多く、セレーション部材がバレル部の端面より外部に2mm突出することによって曲げ強度が大幅に向上することを示している。
【0037】
一方、本実施形態の圧着接続構造(実施例4~6)及び従来技術の圧着接続構造(比較例4~6)について、実際の引張試験を行って強度を確認した。
【0038】
引張試験は、
図7に示すように、長さ280mmの2本の絶縁被膜付き丸型アルミニウム電線(φ2.5mm)20の両端に、本実施形態の圧着接続構造を有する圧着端子21(実施例4~6)又は従来技術の圧着端子構造を有する圧着端子21(比較例4~6)をそれぞれ圧着接続し、これら圧着端子21を引張試験機のチャック22間に装着し、引張速度25mm/分で引張試験を実施し、両圧着端子21間の最大引張強度を測定した。その測定結果が表3に示されている。
【0039】
【0040】
同表から分かるように、セレーション部材がバレル部端面より外部に2mm突出している実施例4~6は、セレーション部材がバレル部端面から外部に突出していない比較例4~6に比して引張強度が大きい。従って、セレーション部材がバレル部端面より外部に2mm突出することによって、引張強度が大幅に向上することが分かった。
【0041】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0042】
10、10′ バレル部
10a ベルマウス部
11、11′ セレーション部材
11a 貫通孔
11b 突起
12、12′ 導体
13 筒
14、14′ 断面積の細い部分
20 アルミニウム電線
21 圧着端子
22 チャック