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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】凍結装置
(51)【国際特許分類】
   A61D 19/02 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
A61D19/02 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020186426
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076144
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋人
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-097872(JP,A)
【文献】実開昭62-001609(JP,U)
【文献】実開平06-070708(JP,U)
【文献】米国特許第04799358(US,A)
【文献】特開平11-289916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 19/02
A61D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の採卵ストローを載置できる平板状のストローホルダと、
前記ストローホルダを冷却する冷却器と、
前記冷却器を制御する制御器を有し、
前記ストローホルダは、
上面に前記採卵ストローが載置される支持溝が複数本、隣接して形成され、
前記支持溝と交わって形成された植氷用溝を有することを特徴とする凍結装置。
【請求項2】
前記支持溝は、
前記採卵ストローの全長より長く、
前記植氷用溝でラベル支持溝と、管支持溝に分かれており、
前記ラベル支持溝の深さは、前記管支持溝の深さより深いことを特徴とする請求項1に記載された凍結装置。
【請求項3】
前記ストローホルダは、アルミニウム合金で形成され、表面がシボ加工されていることを特徴とする請求項1または2の何れかの請求項に記載された凍結装置。
【請求項4】
前記ストローホルダが断熱容器で覆われ、前記ストローホルダと前記冷却器の間の冷却端には吸水性の断熱材が巻き付けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された凍結装置。
【請求項5】
前記ストローホルダと、前記冷却器と、前記制御器と、前記冷却器と前記制御器に電力を供給する電源が、蓋つきの筐体に収納されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一の請求項に記載された凍結装置。
【請求項6】
前記制御器は、前記冷却器に
前記ストローホルダを一定温度で保持し、
操作信号により所定レートで前記ストローホルダを冷却させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一の請求項に記載された凍結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛の卵子若しくは受精卵(以後これらを合わせて「卵子等」と呼ぶ。)を採取した現場で、卵子等を凍結する凍結装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
酪農畜産業界では、優秀な雄からの精子と優秀な雌からの卵子を人工授精させ、再びホストとなる雌牛に戻すことで、優秀な子牛を得る品種改良技術が進んでいる。この場合、ドナーとなる雌牛から卵子を採取し、人工授精させても、ホストの雌牛が発情しているとは限らず、一時的に冷凍状態で保存することが必要になる。
【0003】
雌牛から採卵する際は、できるだけ早く凍結する必要がある。卵子等の凍結装置は、アルコールバス等を用いる必要があるので、従来は大掛かりなものであった。そのため、採卵した現場から離れた場所に設置された凍結装置までの運搬の間に卵子等が劣化してしまうことがあった。そこで、雌牛自体を凍結装置のある場所まで搬送し、採卵をする場合もあった。しかし、この搬送は雌牛に大きなストレスをかけ、望ましいことではなかった。したがって、このような問題を解決するために、採卵した現場で凍結したいという要望があった。
【0004】
特許文献1には、液体窒素を充填したポット中に、卵子等を液媒体と共に封じ込めた採卵ストローを入れ、卵子等を凍結する携帯可能な凍結装置が開示されている。
【0005】
液媒体を均一に冷却した場合、凝固点を超えたところで、過冷却状態となり、潜熱が放出される。このとき、卵子等中の水分が適切に抜けていないと、水分が卵子等の細胞内で凝固してしまい、鋭い結晶で細胞を痛める現象が起きる。そのため、凝固点よりやや高い温度に採卵ストローを冷却し、一か所からゆっくり凍結させる植氷という処理によって卵子等の劣化を防止する方法が用いられる。
【0006】
この植氷を自動で行う発明が特許文献2に開示されている。ここでは、採卵ストローは液媒体で冷却される。
【0007】
液媒体で冷却するのは、装置として重く、また大掛かりなものとなる。そこで、凍結をペルチェ素子で行う提案が特許文献3(特開2007-097872号公報)で行われている。ここでは、採卵ストローの幅に合わせて溝を切った、採卵ストローの長さより短い上下のケースの間に、採卵ストローを挟み込み、採卵ストローの卵子が保存してある部分を冷やしている。
【0008】
特許文献4には、ペルチェ素子では吸熱部分と排熱部分の距離が短いため冷却が十分でないという点を解決するために、ペルチェ素子とスターリングクーラーを組み合わせた構造を有する凍結装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開昭58-140101号公報
【文献】特開昭60-083652号公報
【文献】特開2007-097872号公報
【文献】特開2012-034667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、卵子等を急冷して凍結するもので、潜熱による影響を受ける可能性が高く、採卵ストロー中の卵子等が傷つく蓋然性が高い。特許文献2は、自動的に植氷するもので、高い成功率で採卵ストロー中の卵子等を凍結させることができると考えられる。しかし、液媒体を高い精度の温度調整で行うため、携帯して採卵の現場に持ち込むことは容易でない。
【0011】
特許文献3は、液媒体をペルチェ素子で行うので、装置全体としては、小型にすることができる。しかし、ペルチェ素子だけでは、排熱が十分ではない。また、特許文献3では、溝付きケースで採卵ストローを挟み込んで冷凍するが、湿度の高い採卵現場でこのような保持の仕方をすると、ケースと採卵ストローが空気中の水分で固着してしまい、ケースから採卵ストローを取り出せなくなり、液体窒素への移行ができなくなる。さらに、特許文献3は、植氷のプロセスを何ら考慮されていない。
【0012】
特許文献4は、ペルチェ素子をスターリングクーラーで冷却しようとするもので、装置の小型化と、自動植氷もできるようにしている。しかし、特許文献4は、プレート上の細胞を凍結するもので、採卵ストロー中の卵子等を凍結しようとするものではない。
【0013】
採卵の現場においては、採卵ストロー内の卵子等を確実に植氷させ、氷点下30℃程度まで冷却し、その後液体窒素中に入れて、運搬させることが望まれる。なお、液体窒素だけを運搬するのであれば、魔法瓶のような携帯容器で運搬することができる。
【0014】
採卵の現場で卵子等を凍結させる際に、複数の採卵ストローを確実に植氷させるには、1本1本行うのが確実である。そのためには、採卵ストローの植氷を1本1本行うことができることが必要である。さらに、1本1本の採卵ストローを植氷させ、凍結させたのち、取り出して、液体窒素の中に保管する必要がある。すなわち、凍結させた際に採卵ストローが凍結装置に固着せず、容易に取り出せなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を可決するために想到されたもので、畜産農家の農場における採卵の現場で、複数本の採卵ストローを確実に植氷させ、その後氷点下30℃程度の温度まで冷却することのできる凍結装置を提供するものである。
【0016】
より具体的に本発明に係る凍結装置は、
複数の採卵ストローを載置できる平板状のストローホルダと、
前記ストローホルダを冷却する冷却器と、
前記冷却器を制御する制御器を有し、
前記ストローホルダは、
上面に前記採卵ストローが載置される支持溝が複数本、隣接して形成され、
前記支持溝と交わって形成された植氷用溝を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る凍結装置は、採卵ストローを載置できる支持溝を有するストローホルダを冷却器で冷やすため、複数の採卵ストローの1本1本を視認しながら操作することができる。
【0018】
また、採卵ストローは、全長をストローホルダの支持溝中で保持される構造であるが、ストローホルダには、支持溝に交わる植氷用溝が形成されているので、冷却したピンセット等で、採卵ストローを掴むことができ、確実に採卵ストローを植氷することができる。
【0019】
また、ストローホルダの支持溝は、上方は開放状態であるが、採卵ストローがちょうど収まる程度の幅の溝なので、採卵ストローは支持溝の底面および2方向の側面から冷却されるため、十分な冷却が可能となる。
【0020】
また、支持溝の内面はサンドブラスト処理が施してあるので、採卵ストローは多数の点接触で支持されていることになる。したがって、十分な冷却ができると共に、ストローホルダに採卵ストローが固着し、採卵ストローが取れなくなるという問題を回避することができる。
【0021】
また、冷却器は制御器で制御されるため、1℃以下の精度で温度調節をすることができるので、植氷操作の際に必要な凍結直前の温度制御が容易にできる。
【0022】
また、装置自体は、液媒体を使わないので、30cm立方程度の大きさにまとめることができ、携帯するのに好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る凍結装置の構成を示す図である。
図2】本発明に係る凍結装置の分解図である。
図3】本発明に係る凍結装置の一部断面図である。
図4】本発明に係る凍結装置のストローホルダを示す図である。
図5】植氷作業を示す図である。
図6】本発明に係る凍結装置の制御器の処理フロー図である。
図7】ストローホルダの温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明に係る凍結装置について図面を示しながら説明する。なお、以下の説明は本発明を限定するものではない。本発明は発明の主旨を逸脱しない範囲で以下の説明を改変することができる。
【0025】
凍結装置1は、雌牛から採取した卵子が保持されている採卵ストロー30(図4参照)を冷却し、卵子等にダメージを与えることなく植氷させた後、凍結する装置である。
【0026】
図1に本発明に係る凍結装置1の構成を示す。図1(a)は正面向かって右上から見た斜視図であり、図1(b)は背面から見た斜視図である。凍結装置1は、蓋52付の筐体50に収納されており、ストラップをつけることで、人が肩に担いで運搬することができる。また、蓋52は取外しが可能に構成されているのが好ましい。
【0027】
蓋52を開けると、筐体50の上部がパネル54で塞がれており、パネル54に制御器16の操作パネル16pが露出している。また、断熱容器18が中央部に設けられている。断熱容器18は本体18aと蓋18bで構成されている。蓋18bを開けると、ストローホルダ10が配されている。また、筐体50の背面にはファン20の送出口が設けられている。
【0028】
図2は、筐体50の前面部分を省略し、内容が見えるように示した。また、図3は、図2の正面図である。図2および図3を参照して、筐体50内には、冷却器12と、電源14と、制御器16が配置されている。パネル54の上部には、貫通孔54aが形成されている。冷却器12の冷却端12aが貫通孔54aからパネル54上に露出させられている。筐体50には、電源14のスイッチ14sと、端部にプラグが取り付けられた電線を連結できるレセプタクル14rが設けられている。
【0029】
ストローホルダ10は、断熱容器18で囲われている。より詳細には、断熱容器18の下面は丸い孔が開いており、冷却器12の冷却端12aとストローホルダ10の接続部分が貫通している。また、冷却器12の本体と、断熱容器18の間は吸水性のある断熱材18cが巻き付けてある。したがって、ストローホルダ10は、断熱容器18に収められているといってよい。なお、断熱材18cが吸水性を有することで、凍結した結露水が溶けた際に、冷却器12の本体12内に流れ込むことを防止することができる。
【0030】
この断熱容器18の蓋18bを閉じることでストローホルダ10を断熱容器18中に密閉することができる。逆に蓋18bを開けることで、ストローホルダ10を露出させることができる。採卵ストロー30を載置若しくは取り上げ等の操作を行うためである。
【0031】
なお、ストローホルダ10には後述する支持溝10gが設けられるが、この支持溝10gは、凍結装置1の正面に対して左右方向に配置されている。利用者がピンセットで採卵ストロー30を操作しやすくするためである。
【0032】
また、ストローホルダ10には温度センサ22が取り付けられている。温度センサ22は、制御器16と信号線22Lで連通されている。また、制御器16は、電源14と、冷却器12とも連結されている。以下各要素について説明する。
【0033】
<ストローホルダ>
図4にストローホルダ10だけを示す。ストローホルダ10の本体10aは、熱伝導性の高い金属製の平板状部材である。熱導電性が高ければ特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄等が好適に利用できる。ストローホルダ10には、採卵ストロー30を保持するための支持溝10gと、支持溝10gに対して、ほぼ直交して設けられる植氷用溝10tgが設けられている。支持溝10gは、複数本形成される。また、全長10gLは、採卵ストロー30の全長より長い。
【0034】
採卵ストロー30には、採取した牛を特定するためのラベル32が貼り付けられる。そのため採卵ストロー30のラベル32が貼り付けられている部分は直径が太くなる。採卵ストロー30においてラベル32が貼り付けられた部分をラベル部30aといい、ラベル32が貼り付けられていない部分を管部30bと呼ぶ。すなわち、支持溝10gはラベル部30aに対する溝と管部30b部分に対する溝が形成される。管部30bを支持する溝を管支持溝10gbとし、ラベル部30aを支持する溝をラベル支持溝10gaとする。
【0035】
管支持溝10gbの幅10gbwは、採卵ストロー30の直径より0.1mm~0.5mmほど大きく、管支持溝10gbの深さ10gbpは採卵ストロー30の直径の1/4より深く、3/4より浅く形成されている。なお、ここで深さ10gbpとは、ストローホルダ10の上面10fから溝の底までの距離である。
【0036】
採卵ストロー30の直径より深いと、凍結した際にストローホルダ10と固着し、取り出せなくなる可能性が高くなる。逆に浅いと採卵ストロー30を十分に冷却できない。ラベル支持溝10gaは、管支持溝10gbよりラベル32の厚さ分だけ幅10gawが大きく形成される。
【0037】
例えば、採卵ストロー30の直径が2mmの場合、管支持溝10gbの幅10gbwは2.1mmから2.5mm程度に作製される。管支持溝10gbの断面は四角形、V字状若しくは円弧状で形成される。ラベル支持溝10gaは、管支持溝10gbより幅10gawがおよび深さ10gapより0.2mmほど大きく形成される。
【0038】
なお、ラベル支持溝10gaの深さ10gapは、管支持溝10gbの深さ10gbpより深く形成されている。また、支持溝10gの全長10gLは採卵ストロー30より長い。したがって、支持溝10gに採卵ストロー30を載置すると、管部30b全長にわたって管支持溝10gbに収められる。
【0039】
ラベル支持溝10gaと管支持溝10gbの境目部分に、支持溝10gと交差するように植氷用溝10tgが形成されている。植氷用溝10tgは支持溝10gより深く形成されている。支持溝10gより深く形成されていると、凍結が完了した際にストローホルダ10と採卵ストロー30が万一固着した場合であっても、その隙間を基点に採卵ストロー30を取り外しやすい。
【0040】
ストローホルダ10の上面10f(支持溝10g、ラベル支持溝10ga、管支持溝10gb、植氷用溝10tgを含む)はサンドブラスト加工が施されている。サンドブラスト加工が施されているのは、採卵ストロー30に植氷を施した際に、水分で採卵ストロー30がストローホルダ10に固着されてしまうことを回避するためである。なお、サンドブラスト加工だけでなく、採卵ストロー30を点接触で支持すると見なすことのできる凹凸加工であればよい。これらを含めて、ストローホルダ10の上面10fはシボ加工が施されているといってもよい。
【0041】
また、ストローホルダ10は水平に保持され、ストローホルダ10上部に採卵ストロー30を保持する。ストローホルダ10が水平に形成されているので、ストローホルダ10に採卵ストロー30を載置しやすい。
【0042】
また、採卵ストロー30は、ストローホルダ10によって、側方および下方から冷却され上側から冷却はしない。すなわち、水平に載置された採卵ストロー30は下半分側から冷却され、上側から冷却するための手段を有しない。このような構成であれば、植氷の状態を視認することができる。
【0043】
<冷却器>
冷却器12はストローホルダ10を冷却する。後述するようにストローホルダ10は0.3℃/min程度のレートで冷却する必要があるので、正確な温度制御ができる冷却器12が好適に利用される。特に温度制御の迅速性から液体冷媒を使用しない冷却器が好ましい。たとえば、ペルチェ素子やスターリングクーラーは好適に利用することができる。
【0044】
特にスターリングクーラーは、コストの点と、膨張空間と圧縮空間の物理的距離が離れているので、冷却端12aから奪った熱が冷却端12aに戻りにくいという点から望ましい。冷却器12は液媒体を使わないので、向きを自由にすることができ、携帯する際の揺れなどを気にする必要がない。
【0045】
図1図2図3で示すように、スターリングクーラーは倒置状態で載置され、冷却端12aが上向きになるように配置される。スターリングクーラーを倒置状態で載置すると、ストローホルダ10を水平に設けられるからである。
【0046】
<電源>
電源14は、冷却器12と制御器16および送風用ファン20に電力を供給するためのものである。バッテリが付加されていてもよいが、電源線とプラグおよび変換器で構成されてよい。凍結装置1は、雌牛から採取した卵子をその場で植氷させることが目的であり、植氷させ、さらにマイナス30℃程度まで凍結した後は、液体窒素の容器内に保存して持ち帰ることを想定している。
【0047】
したがって、凍結された採卵ストロー30をそのままの温度で長時間(数週間から数カ月)維持できなくてもよい。もちろん、バッテリが付加されて植氷および凍結した後の凍結保持を外部からの電力供給が切断されても、一定時間保持できる構成にしてもよい。
【0048】
<制御器>
制御器16は、ストローホルダ10の温度によって冷却器12を運転する。制御器16には、表示器および通知装置等を含む操作パネル16pが付随されていてよい。操作パネル16pは利用者が、凍結装置1全体の動作の開始、停止および終了を指示する。また、保持温度や冷却レート等の設定も行う。表示器は凍結装置1の現在の運転状況を示す。温度表示だけであってもよい。通知装置は、指示された温度に達した場合や、一定温度の保持が終了した場合等に利用者に通知する部分である。
【0049】
<凍結装置の動作>
次に凍結装置1の動作について説明する。利用者は、凍結装置1と液体窒素の冷却ポッドをもって、牛舎に向かい、採卵ストロー30内に卵子等を採卵したものとする。また、採卵ストロー30は複数本あるとする。また、制御器16の処理フローを図6に示す。また、処理フローによるストローホルダ10の温度推移を図7に示す。図6は横軸が時刻であり、縦軸はストローホルダ10の温度Tを表す。
【0050】
利用者は、牛舎にあるコンセントからプラグを通じて凍結装置1に電力を供給する。その後、利用者は凍結装置1に冷却方法の条件などを設定する。そして、利用者が凍結プロセスの指示を行うと、制御器16の動作がスタートする。以後制御器16の動作を「処理」と説明する場合がある。なお、処理がスタートするのは、図7の時刻t0である。
【0051】
処理がスタートすると(ステップS100)、冷却設定を読み込み(ステップS102)、冷却条件に従って、冷却器12に冷却を開始させる。この際の冷却プロセスを「冷却1」と呼ぶ。
【0052】
冷却1では、ストローホルダ10の温度Tが保持目標温度Th以下になったか否かを判断し(ステップS106)、ストローホルダ10の温度Tが保持目標温度Th以下でなければ(ステップS106のN分岐)、冷却1を継続する(ステップS104)。この冷却工程を第1次温度降下工程C1と呼ぶ。図7では、保持目標温度Thに到達した時刻をt1として表した。
【0053】
冷却1では、比較的急激な冷却レートを取ることができる。例えば、マイナス5℃/min~マイナス10℃/minであってもよい。また、冷却は一定の冷却レートでなくてもよい。すなわち、複数の冷却レートを組み合わせてもよい。
【0054】
ストローホルダ10の温度Tが保持目標温度Th以下になったら(ステップS106のY分岐)、利用者への通知を行い(ステップS108)、ストローホルダ10の温度を保持目標温度Thに維持する(ステップS110)。ストローホルダ10の温度を保持目標温度Thに維持するのは、利用者による次の冷却指示があるまで続けられる。したがって、制御器16は、利用者による冷却指示の有無を判断し(ステップS112)、冷却指示がなければ(ステップS112)、保持目標温度Thを維持する(ステップS110)。この温度維持工程を温度保持工程C2と呼ぶ。
【0055】
利用者は、温度保持工程C2の間に、採卵ストロー30をストローホルダ10にセットし、所定時間放置する。図7では、時刻t1から時刻t2までの時間である。この工程をストロー冷却工程C21と呼ぶ。採卵ストロー30を常温から保持目標温度Thまで冷却する工程だからである。
【0056】
そして、液体窒素などで十分に冷却したピンセットで、採卵ストロー30の植氷用溝10tgの部分を摘まみ、植氷を行っていく(図5参照)。この際、利用者は、採卵ストロー30を1本1本、植氷してゆくので、確実に植氷を行うことができる。この工程を植氷工程C22と呼ぶ。図7では、時刻t2から時刻t3までの時間で植氷工程C22を終えていることを示している。
【0057】
植氷が終了したら、利用者は、操作パネル16pを介して冷却指示を出す。冷却指示を受けた制御器16は、冷却工程を行う。図6のフローでは、制御器16は、冷却指示を受けたので(ステップS112のY分岐)、冷却2を行う(ステップS114)。
【0058】
冷却2の冷却工程は、マイナス0.3℃/min程度のゆっくりした冷却を行う。冷却2の工程を第2次温度降下工程C3と呼ぶ。第2次温度降下工程C3では、到達目標温度TL(マイナス30℃)まで温度を低下させる。図6のフローでは、ストローホルダ10の温度Tが到達目標温度TL以下になったか否かを判断し(ステップS116)、到達目標温度TL以下でなければ(ステップS116のN分岐)、冷却2を継続する。
【0059】
ストローホルダ10の温度Tが到達目標温度TL以下になったら(ステップS116のY分岐)、利用者に通知を行い(ステップS118)、到達目標温度TLを維持する(ステップS120)。到達目標温度TLを維持する工程を到達温度維持工程C4と呼ぶ。そして、制御器16は、終了の指示を待つ(ステップS1112)。
【0060】
到達温度維持工程C4では、利用者は、凍結装置1から採卵ストロー30を取り出し、別途用意した液体窒素のジャー等に採卵ストロー30を入れ、保持する。採卵ストロー30内の卵子等はすでに安全に凍結されているので、一気に液体窒素温度(マイナス196℃程度)まで冷却しても、卵子等が損傷することはない。
【0061】
また、ストローホルダ10の支持溝10gに構造によって、採卵ストロー30がストローホルダ10に固着することはなく、液体窒素ジャーに採卵ストロー30を移行させることができる。
【0062】
以上のようにして、採卵ストロー30中の卵子等を傷つけることなく、凍結状態に移行させることができる。本発明に係る凍結装置1は、持ち運びが可能で、採卵したその場で植氷から凍結状態に卵子等を処理することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る凍結装置は、卵子等だけでなく、精子やその他の細胞の凍結にも利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 凍結装置
10 ストローホルダ
10a 本体
10g 支持溝
10gL (ストローホルダの)全長
10f (ストローホルダの)上面
10ga ラベル支持溝
10gaw (ラベル支持溝の)幅
10gb 管支持溝
10gbw (ラベル支持溝の)幅
10gbp (ラベル支持溝の)深さ
10tg 植氷用溝
12 冷却器
12a 冷却端
14 電源
14s (電源の)スイッチ
14r (電源の)レセプタクル
16 制御器
16p 操作パネル
18 断熱容器
18a (断熱容器の)本体
18b (断熱容器の)蓋
18c 断熱材を巻き付けた部分
20 ファン
22 温度センサ
22L 信号線
30 採卵ストロー
30a (採卵ストローの)ラベル部
30b (採卵ストローの)管部
32 ラベル
50 筐体
52 (筐体の)蓋
54 パネル
54a (パネルの)貫通孔
Th 保持目標温度
TL 到達目標温度
C1 第1次温度降下工程
C2 温度保持工程
C21 ストロー冷却工程
C22 植氷工程
C3 第2次温度降下工程
C4 到達温度維持工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7