(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】有機物を含むコンクリートスラッジ処理物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20240705BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20240705BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240705BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20240705BHJP
B09B 1/00 20060101ALI20240705BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20240705BHJP
【FI】
B09B3/70
B01J20/02 C
B01J20/30
A61L9/01 B
B09B1/00 A
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2023070506
(22)【出願日】2023-04-21
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】300065604
【氏名又は名称】環境創研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】川辺 雅生
(72)【発明者】
【氏名】岩本 則昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 是太郎
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特許第7117809(JP,B1)
【文献】特開2015-123402(JP,A)
【文献】特開2000-203908(JP,A)
【文献】特開2006-001795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/70
B01J 20/02
B01J 20/30
A61L 9/01
B09B 1/00
B09B 101/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、アンモニアの発生が抑制された、前記有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物を製造する方法であって、
混合物の調製に用いられる二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8であり、かつ調製された混合物のpHが10~12.5である、前記方法。
【請求項2】
有機物中のタンパク質の質量に対するコンクリートスラッジの固形分の質量が3倍以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
混合物が、タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物及びリン酸化合物を溶解した液体とを混合することで調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
二価鉄化合物が、硫酸鉄(II)又は塩化鉄(II)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
リン酸化合物が、オルトリン酸又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質を含有する有機物が、魚介類残渣である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
タンパク質を含有する有機物が、魚介類の内臓、貝殻付着物、又はヒトデである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コンクリートスラッジ処理物からの有害金属の溶出が抑制されている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、タンパク質を含有する有機物からのアンモニアの発生を抑制する方法であって、
混合物の調製に用いられる二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8であり、かつ調製された混合物のpHが10~12.5である、前記方法。
【請求項10】
二価鉄化合物とリン酸化合物とを溶解した液体であって、二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8である前記液体を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
【請求項11】
二価鉄化合物が、硫酸鉄(II)又は塩化鉄(II)である、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
リン酸化合物が、オルトリン酸又はその塩である、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により製造されたコンクリートスラッジ処理物を埋立廃棄物と共に埋め立てる工程を含む、埋立廃棄物からの硫化水素の放出を抑制するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を含有する有機物を含むコンクリートスラッジ処理物の製造方法、タンパク質を含有する有機物からのアンモニアの発生を抑制する方法、これらの方法において使用するためのキット、並びに製造されたコンクリートスラッジ処理物の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
水産加工残渣や食品残渣といったタンパク質を含有する有機系廃棄物は、家畜飼料、堆肥化等の資源活用に向けた様々な取り組みがなされているものの、依然として廃棄物として処分されることが多い。特に、イカの内臓、ホタテの中腸腺等の水産加工残渣は、高濃度のカドミウム及びヒ素が含まれていることから、ヒトや家畜に摂取させる形で利用することができず、大半が産業廃棄物として処理されている。
【0003】
有機系廃棄物が産業廃棄物として処理される場合、通常は粉砕、脱水等の中間処理によって減容化した後、他の産業廃棄物と共に埋立処分される。埋立処分の際、問題となるのが、有機物の分解に伴うアンモニア等の悪臭の発生、及び害虫の発生である。さらに、有機物の量によっては、浸出水のBOD(生物化学的酸素要求量)及びCOD(化学的酸素要求量)が上昇し、排水処理の負荷が増大する問題もある。さらに、急速な有機物分解によって埋立物が軟化し、重機がその上に乗ると沈下するという作業上の問題もある。
【0004】
有害金属を含有する有機系廃棄物を埋立処分する場合は、上述の問題に加えて、有機物にトラップされていた有害金属が有機物の分解に伴って浸出水に溶出してしまうという問題もある。このような浸出水は排水基準を満たすレベルまで有害金属の濃度を低下させる排水処理が求められることから、有害金属を含有する有機系廃棄物の受け入れは管理型最終処分場への負担が大きい。このような様々な問題の存在から、有機系廃棄物、特にイカの内臓、ホタテの中腸腺等の水産加工残渣については、最終処分場での埋立処分はほとんど行われていないのが現状である。
【0005】
一方、コンクリートスラッジ(生コンスラッジともいう)は、生コンクリート工場のミキサー、アジテータ、現場で使用されなかった残コンクリート(残コン)や荷卸し検査に不合格となったコンクリート(戻りコン)の洗浄により発生する排水から、骨材を除去した残渣である。
【0006】
コンクリートスラッジは、廃棄物処理法上、産業廃棄物の汚泥に分類され、原則として管理型最終処分場にて埋立処分されている。しかしながら、コンクリート製造会社にとって多量に発生するコンクリートスラッジの処分費用の負担は大きく、また近年は管理型最終処分場の残余容量が減少しており、コンクリートスラッジの有効利用が望まれている。
【0007】
コンクリートスラッジの有効利用にあたっては、有害な六価クロムを含有するという、コンクリートスラッジの性質が課題となっている。例えば、コンクリートスラッジを埋め戻し材として利用する場合には、六価クロムの溶出量を環境基準値以下とするための前処理が必要となり、有効利用の障害となっている。
【0008】
特許文献1は、生コンスラッジに、硫酸第一鉄と高分子凝集剤と無機粉末とを添加して混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を養生する養生工程とを備えたことを特徴とする生コンスラッジの中性化処理方法を開示している。また、特許文献2は、特許文献1の中性化処理方法によって得られる中性化処理土を含むことを特徴とする、硫化水素ガス吸着材を開示している。この中性化処理方法によれば、コンクリートスラッジ中の六価クロムを還元することができるが、多量の硫酸第一鉄を要するという課題がある。
【0009】
さらに、特許文献3には、コンクリートスラッジに二価鉄化合物及びリン酸化合物を添加、混合して、コンクリートスラッジ処理物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-087723号公報
【文献】特開2017-064613号公報
【文献】特許第7117809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、コンクリートスラッジを利用して、タンパク質を含有する有機物を、アンモニアの発生を抑制しながら処理する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、タンパク質を含有する有機物、コンクリートスラッジ、二価鉄化合物及びリン酸化合物を混合することで、アンモニアの発生が抑制されたコンクリートスラッジ処理物を製造することができることを見出した。
【0013】
本発明は、以下の発明を提供する。
項1.タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、アンモニアの発生が抑制された、前記有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物を製造する方法であって、混合物の調製に用いられる二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8であり、かつ調製された混合物のpHが10~12.5である、前記方法。
項2.有機物中のタンパク質の質量に対するコンクリートスラッジの固形分の質量が3倍以上である、項1に記載の方法。
項3.混合物が、タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物及びリン酸化合物を溶解した液体とを混合することで調製される、項1又は2に記載の方法。
項4.二価鉄化合物が、硫酸鉄(II)又は塩化鉄(II)である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5.リン酸化合物が、オルトリン酸又はその塩である、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
項6.タンパク質を含有する有機物が、魚介類残渣である、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
項7.タンパク質を含有する有機物が、魚介類の内臓、貝殻付着物、又はヒトデである、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
項8.コンクリートスラッジ処理物からの有害金属の溶出が抑制されている、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
項9.タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、タンパク質を含有する有機物からのアンモニアの発生を抑制する方法であって、混合物の調製に用いられる二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8であり、かつ調製された混合物のpHが10~12.5である、前記方法。
項10.二価鉄化合物とリン酸化合物とを溶解した液体であって、二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8である前記液体を含む、項1~9のいずれか一項に記載の方法に使用するためのキット。
項11.二価鉄化合物が、硫酸鉄(II)又は塩化鉄(II)である、項10に記載のキット。
項12.リン酸化合物が、オルトリン酸又はその塩である、項10又は11に記載のキット。
項13.項1~8のいずれか一項に記載の方法により製造されたコンクリートスラッジ処理物を埋立廃棄物と共に埋め立てる工程を含む、埋立廃棄物からの硫化水素の放出を抑制するための方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タンパク質を含有する有機物の処理を、アンモニアの発生を抑制しながら行うことができる。さらに、得られるコンクリートスラッジ処理物は、六価クロムの溶出が抑制されており、さらに有機物がカドミウムやヒ素等の有害金属を含む場合でもこれらの有害金属の溶出が抑制されることから、最終処分場での埋立処分が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0017】
本発明は、タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、アンモニアの発生が抑制された、前記有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物を製造する方法であって、混合物の調製に用いられる二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8であり、かつ調製された混合物のpHが10~12.5である、前記方法を提供する。
【0018】
本発明のコンクリートスラッジ処理物の製造方法は、タンパク質を含有する有機物と、コンクリートスラッジと、二価鉄化合物と、リン酸化合物との混合物を調製する工程(以下、混合物調製工程という)を含む。
【0019】
本発明において、タンパク質を含有する有機物は、廃棄物としての処理が望まれるものであれば制限はなく、例えば、獣畜、食鳥等の動物由来の廃棄物(例として肉、皮、内臓等)、植物由来の廃棄物(例として野菜くず、大豆かす)、水産系残渣(例として魚介類の内臓、貝殻付着物、ヒトデ等の水生有害生物、海藻)、飲食店等で生じる食品残渣等を挙げることができる。
【0020】
なお、これらの廃棄物は、産業廃棄物では動物系固形不要物、動植物性残渣、動物の死体等に該当し、また一般廃棄物では魚介類残渣、農業残渣、食品残渣等に該当するものであるが、本発明においては、タンパク質を含有する有機物であれば、産業廃棄物、一般廃棄物の区別なく利用することができる。
【0021】
タンパク質を含有する有機物は、有害金属を含有してもよい。このような有機物としては、魚介類の内臓、例えばホタテガイの中腸腺(いわゆるウロ)、イカの内臓(いわゆるゴロ)等を挙げることができる。ホタテガイの中腸腺やイカの内臓にはカドミウム及びヒ素が蓄積しており、廃棄物処理の過程でこれらの有害金属が溶出するおそれがあるが、本発明によると、これらの有害金属の溶出を抑制することができる。
【0022】
本発明において、有機物中のタンパク質の含有量や構成アミノ酸の組成に制限はない。本発明によると、例えばホタテガイの中腸腺のようにタンパク質を多く含む有機物であっても、アンモニアの発生を抑制しながら処理することができる。
【0023】
タンパク質を含有する有機物は、廃棄されたそのままの形態で、あるいは破砕、粉砕、加熱、脱水等の処理を施した形態で、混合物の調製に用いることができる。
【0024】
本発明において、コンクリートスラッジは、スラッジ、スラッジ固形分のいずれであってもよい。生コン工場では、運搬車、プラントのミキサー、ホッパなどに付着したフレッシュモルタル及び残留したフレッシュコンクリート、並びに戻りコンクリートのそれぞれの洗浄によってコンクリート成分を含む排水(コンクリート洗浄排水)が発生する。このコンクリート洗浄排水から粗骨材及び細骨材を取り除いて回収した懸濁水はスラッジ水と呼ばれ、またスラッジ水が濃縮されて流動性を失った状態のものはスラッジ、スラッジを105~110℃で乾燥して得られたものはスラッジ固形分と呼ばれる。
【0025】
例えば、コンクリートスラッジは、沈殿濃縮装置(シックナー)等を用いてスラッジ水を濃縮して得られるスラッジ、これらを乾燥させたスラッジ固形分又はスラッジやスラッジ水から脱水させて圧縮成形されるスラッジケーキ(固形物)を包含する。なお、本発明において、コンクリートスラッジは、粗骨材及び細骨材骨材が完全に除去されたものに限定されることはなく、後に説明する混合に対して、又はコンクリートスラッジ処理物の利用に対して支障とならない程度の量の骨材を含むものであってもよい。
【0026】
コンクリートスラッジは、通常、数ppm~10ppm程度の六価クロムを含む。六価クロムは、スラッジ水の一部を循環スラッジ水としてミキサーやアジテータの洗浄用に再利用することで、その後のコンクリートスラッジにおいて数十ppm程度にまで濃縮されることがある。本発明においては、通常のコンクリートスラッジに加えて、六価クロムが濃縮されたコンクリートスラッジも利用可能である。コンクリートスラッジの六価クロム含有量は、排水検査等の業務用として市販されている水質検査キット(例えばパックテスト(登録商標))、環境庁告示第46号 土壌環境基準に記載された日本産業規格K0102の65.2に定める方法(ジフェニルカルバジド吸光光度法、フレーム原子吸光法、ICP発光分析法等)によって測定することができる。
【0027】
本発明において、コンクリートスラッジは、生コン工場で発生したスラッジ又はスラッジ固形分そのものであってもよく、スラッジ又はスラッジ固形分に水や回収水等を加えたものであってもよい。本発明において用いられるコンクリートスラッジの含水率は、0~90%程度であればよく、例えば0%以上、5%以上、10%以上、15%以上、又は20%以上であり得て、また90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下であり得る。ある実施形態において、コンクリートスラッジの含水率は、40~50%である。
【0028】
コンクリートスラッジは、セメントが水と混和されることで形成されるセメント水和物を含む。セメント水和物の例は、珪酸カルシウム水和物(トベルモライト3CaO・2SiO2・3H2O、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、アルミン酸カルシウム水和物、アルミン酸三硫酸カルシウム水和物(エトリンガイト、3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)などを挙げることができる。
【0029】
混合物の調製に用いられるコンクリートスラッジの量は、有機物中のタンパク質の質量に対するスラッジ固形分の質量が3倍以上、好ましくは3.5倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、特に好ましくは5倍以上となる量であり得る。
【0030】
二価鉄化合物(第一鉄)は、二価鉄(Fe2+イオン)を供給することができる化合物であればよく、無機鉄塩である硫酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、特に硫酸鉄(II)又は塩化鉄(II)が好ましい。無機鉄塩の二価鉄化合物は、無水物であっても、また水和物であってもよい。混合物の調製において、二価鉄化合物は、好ましくは液体の形態で、例えば水溶液の形態で用いることができる。
【0031】
リン酸化合物は、リン酸イオン(PO4
3-イオン)を供給することができる化合物であればよい。リン酸化合物の例は、オルトリン酸(H3PO4)又はその塩、例えばリン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム等を挙げることができる。混合物の調製において、リン酸化合物は、好ましくは液体の形態で、例えば水溶液の形態で用いることができる。
【0032】
混合物の調製において、二価鉄化合物及びリン酸化合物は、二価鉄化合物中の鉄とリン酸化合物中のリン酸との質量比が1:2~1:8となるように、好ましくは1:3~1:6となるように、より好ましくは1:3~1:5となるように用いられる。
【0033】
混合物調製工程において用いられる二価鉄化合物及びリン酸化合物の量は、調製される混合物のpHを12.5以下にする量であればよい。また、混合物調製工程において調製される混合物のpHは、有機物の腐敗を防止する目的で10以上であり、好ましくは10.5以上、より好ましくは11以上、さらに好ましくは11.5以上であり得る。混合物のpHは、調製直後~調製後1日程度静置した後に、必要に応じて同量程度の水を加えて測定することができる。
【0034】
ある実施形態において、混合物の調製に用いられる二価鉄化合物及びリン酸化合物の量は、コンクリートスラッジに添加したときにそのpHを12.5以下にする量であればよい。二価鉄化合物及びリン酸化合物の量は、コンクリートスラッジへの添加試験を予備的に行うことで、混合物の調製前に予め決定してもよく、あるいは、混合物調製の際にpHを測定しながらコンクリートスラッジに対して二価鉄化合物及びリン酸化合物を少量ずつ添加し、添加量を調整してもよい。コンクリートスラッジのpHは、生コン工場で発生したスラッジ又はスラッジ固形分、あるいはそれらに水や回収水等を加えたものを用いて、必要に応じて同量程度の水を加えて測定することができる。
【0035】
ある実施形態において、混合物調製工程において用いられる二価鉄化合物の量は、鉄に換算した濃度が0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上である二価鉄化合物の溶液を、含水率40~50%のコンクリートスラッジに対して2質量%以上添加したときの量に相当する。また、ある実施形態において、混合物調製工程において用いられるリン酸化合物の量は、リン酸に換算した濃度が0.4質量%以上、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.2質量%以上であるリン酸化合物の溶液を、含水率40~50%のコンクリートスラッジに対して2質量%以上添加したときの量に相当する。
【0036】
混合物を調製する際、タンパク質を含有する有機物、コンクリートスラッジ、二価鉄化合物及びリン酸化合物の4つの成分の混合の順番に制限はなく、全てを同時に混合しても、いずれか2つの成分を先に混合し、その後に残りの2つの成分を同時に又は逐次的に添加して混合してもよく、あるいは残りの2つの成分の混合物を添加して混合してもよい。またいずれか3つの成分を先に混合し、その後に残りの成分を添加して混合してもよい。
【0037】
混合物を調製する際、二価鉄化合物及びリン酸化合物は、均一な混合を容易にするため、好ましくは液体に溶解した形態で、例えば水溶液の形態で、他の成分に添加、混合することができる。本発明においては、液体に溶解した形態の二価鉄化合物及びリン酸化合物を液剤とも呼ぶ。液剤は、二価鉄化合物及びリン酸化合物を別々に溶解したものであっても、二価鉄化合物及びリン酸化合物の両方を溶解したものであってもよい。
【0038】
混合物の調製に用いられる液剤の量、並びに液剤中の二価鉄化合物及びリン酸化合物の濃度は、調製される混合物のpHが10~12.5となる量の二価鉄化合物及びリン酸化合物が、タンパク質を含有する有機物及びコンクリートスラッジに添加されるかぎり、制限はない。液剤は、添加量が非常に少量であっても、例えばコンクリートスラッジ100 gに対して少なくとも1 mL、例えば1~10 mL程度であっても均一に混合される。理論に拘束されるものではないが、液剤の添加量が少なくても、液剤に含まれるリン酸とコンクリートスラッジに含まれるエトリンガイト等のセメント水和物との反応によって遊離水が生じ、結果としてコンクリートスラッジの含水率が向上して均一な混合が達成されるものと考えられる。
【0039】
本発明の製造方法は、混合物を少なくとも1時間保持する工程(以下、保持工程という)を含む。保持時間は、1時間以上であればその長さに制限はなく、例えば1時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、又は24時間以上であり得て、また14日間以下、10日間以下、7日間以下、5日間以下、3日間以下、又は2日間以下であり得る。保持は、典型的には、大気圧下、周囲環境温度で行われる。また、保持工程中、混合物は静置してもよく、連続して又は間欠的に撹拌してもよい。撹拌手段に特に制限はなく、混合物の容量に応じて、手動で、撹拌装置で、又はバックホー等の機械的手段で行えばよい。
【0040】
本発明の製造方法によると、アンモニアの発生が抑制された、前記有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物を製造することができる。本発明にいうコンクリートスラッジ処理物は、タンパク質を含有する有機物、コンクリートスラッジ、二価鉄化合物及びリン酸化合物、並びにこれらから生成する物質を含む組成物である。アンモニア発生の抑制は、タンパク質を含有する有機物をそのまま廃棄物として処理した場合との比較によって、あるいはタンパク質を含有する有機物を、二価鉄化合物及びリン酸化合物を添加せずにコンクリートスラッジと混合して処理した場合との比較によって、確認することができる。
【0041】
本発明の製造方法によって製造されるコンクリートスラッジ処理物は、アンモニア発生の抑制に加えて、硫化水素ガスを吸着することができ、クロム、カドミウム、ヒ素等の有害金属を安定的に保持することができる。
【0042】
理論に拘束されるものではないが、本発明の製造方法において生じる反応は以下のように推察される。混合物は、強アルカリであるコンクリートスラッジを含有するためpHが高く、これにより有機物の腐敗が抑制される。加えて、混合物中のリン酸とコンクリートスラッジに含まれるカルシウムとが反応して、ハイドロキシアパタイトが形成され、これがアンモニアを吸着することで、有機物からのアンモニアの発生が抑制される。
【0043】
コンクリートスラッジに含まれる六価クロムは、二価鉄によって三価クロムに還元された後、ハイドロキシアパタイトに結合することで、結果として溶出が抑制される。また、有機物がカドミウムやヒ素等の有害金属を含む場合も、これらの有害金属は、コンクリートスラッジに起因する強アルカリ性環境によって、あるいはハイドロキシアパタイトへの結合によって、コンクリート処理物内に保持され、結果として溶出が抑制される。さらに、時間の経過に伴ってコンクリートスラッジ処理物のpHが低下し、有害金属の溶出が生じやすい環境になった場合であっても、ハイドロキシアパタイトが有害金属に結合することで、やはり有害金属の溶出は抑制される。
【0044】
本発明の製造方法は、保持工程の後に、混合物を脱水処理又は乾燥処理して固形物とする工程を含んでいてもよい。脱水処理又は乾燥処理は、例えば沈殿濃縮装置(シックナー)、脱水機、又は乾燥機等を用いて行うことができる。
【0045】
本発明の製造方法によって製造されるコンクリートスラッジ処理物は、前述のように硫化水素ガス吸着能を有することから、コンクリートスラッジ処理物で産業廃棄物と共に埋め立てることによって、産業廃棄物から発生し得る硫化水素ガス、例えば石膏ボード等の硫酸化合物から硫酸還元性微生物の作用によって発生する硫化水素ガスを吸着することができる。本発明は、上述の製造方法によって製造されるコンクリートスラッジ処理物を埋立廃棄物と共に埋め立てる工程を含む、埋立廃棄物からの硫化水素の放出を抑制するための方法に関する発明を提供する。
【0046】
また、本発明は、前記混合物調製工程及び前記保持工程を含む、タンパク質を含有する有機物からのアンモニアの発生を抑制する方法を提供する。さらに、本発明は、タンパク質及び有害金属を含有する有機物からの有害金属の溶出を抑制する方法を提供する。
【0047】
加えて、本発明は、二価鉄化合物及びリン酸化合物を含む、上述の方法に使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、好ましくは、二価鉄化合物及びリン酸化合物を液体に溶解した形態で、すなわち液剤として含む。液剤は、二価鉄化合物を溶解した液体と、リン酸化合物を溶解した複数の液体の組み合わせであってもよく、二価鉄化合物及びリン酸化合物の両方を溶解した一の液体であってもよい。
【0048】
例えば、液剤中の二価鉄化合物は、鉄に換算した濃度が0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上である。また、例えば、液剤中のリン酸化合物は、リン酸に換算した濃度が0.4質量%以上であり、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.2質量%以上である。好ましい実施形態において、液剤である本発明のキットは、コンクリートスラッジ100 gに対して少なくとも1 mL、例えば1~10 mLの添加量で用いられる。
【0049】
上述の製造方法により製造されるコンクリートスラッジ処理物は、コンクリートスラッジの代用物として、コンクリートスラッジの再利用法として一般に期待されている埋め戻し材、再生路盤材、酸性土壌の中和剤、ゴミ焼却時に発生する酸性物質の中和剤、覆土材などに利用することができる。特に、上述の製造方法により製造されるコンクリートスラッジ処理物は、産業廃棄物から発生し得る有害物質、例えば石膏ボード等の硫酸化合物から硫酸還元性微生物の作用によって発生する硫化水素ガスを吸着することができ、産業廃棄物を被覆するための覆土材としての利用に適している。上述の製造方法により製造されるコンクリートスラッジ処理物を含む覆土材も、さらなる発明として開示される。
【0050】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
硫酸鉄(II)七水和物(和光純薬)5 g及び85%リン酸水溶液(H3PO4、和光純薬)5 gに水を加えて100 mLにメスアップした溶液を調製し、処理剤として用いた。処理剤は、1.00質量%の鉄と4.12質量%のリン酸を含有する。
【0052】
上記の処理剤と、コンクリートスラッジ(a)(含水率43%、生コンクリート工場で採取後約1年経過したもの)と、水産加工場から廃棄されたボイルホタテガイ中腸腺(a)(タンパク質含量20質量%)を用いて、以下5種類の試料を調製した。ホタテガイ中腸腺(a)は、ボイル後、冷蔵保存下で腐敗が生じており、これをミキサーで破砕して使用した。試料1~5は、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、中腸腺を添加してさらに混合することで調製した。
1:コンクリートスラッジ 1質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
2:コンクリートスラッジ 1.2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
3:コンクリートスラッジ 1.5質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
4:コンクリートスラッジ 1.7質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
5:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
【0053】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表1に示す。
【表1】
【0054】
(2)アンモニア発生及びハエ幼虫発生の評価
試料を各々ビーカーに入れ、アルミホイルで上部を軽く覆った後、室温で静置し、7日後にアンモニア臭の強弱とハエ幼虫の発生状況を観察した。結果を表2に示す。試料3~5は、試料1及び2と比べてアンモニア臭が弱く、タンパク質に対するスラッジ固形分の添加比率が大きくなるほど、アンモニア臭は弱くなる傾向が観察された。また、試料2~5では、ハエ幼虫の発生も抑えられた。
【表2】
【0055】
[実施例2]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
実施例1(1)で調製した処理剤と、実施例1(1)で使用したコンクリートスラッジ(a)及びホタテガイ中腸腺(a)を用いて、以下4種類の試料を調製した。試料CとDは、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、中腸腺を添加してさらに混合することで調製した。
A:コンクリートスラッジ+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
B:コンクリートスラッジ 1質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
C:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
D:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部
【0056】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表3に示す。
【表3】
【0057】
(2)pH測定
処理剤を添加した試料A~Cを室温で静置し、経時的にpHを測定した。pHの測定は、各試料をサンプリングし、サンプリング量と同量の水を加えて、1時間静置後に実施した。試料A~Cのいずれも、静置1日後のpHは10.8~11.6の範囲内に、静置30日後のpHは10.4~11.3の範囲内にあり、時間の経過に伴う大きなpH変動は確認されなかった。
【0058】
(3)アンモニア測定
pH測定用と別に調製した試料Cと試料Dを各々300 ml容の三角フラスコに充填して室温で静置し、経時的にアンモニアガスを計測した。計測は、北川式ガス検知管(測定可能範囲 5~260 ppm)を用いて三角フラスコ上部からガスを採取して行った。結果を表4に示す。処理剤を添加した試料Cでは、処理剤未添加の試料Dと比べて、5日後以降のアンモニアガス濃度が低かった。
【表4】
【0059】
[実施例3]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
実施例1(1)で調製した処理剤と、実施例1(1)で使用したコンクリートスラッジ(a)と、水産加工場から廃棄されたボイルホタテガイ中腸腺(b)(タンパク質含量20質量%)を用いて、以下2種類の試料を調製した。ホタテガイ中腸腺(b)は、ボイル後ただちに冷凍保存されたものを解凍した、腐敗が生じていないものであり、これをミキサーで破砕して使用した。試料bは、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、中腸線を添加してさらに混合することで調製した。
a:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部
b:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
【0060】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表5に示す。
【表5】
【0061】
(2)アンモニア測定
試料を各々300 ml容の三角フラスコに充填して室温で静置し、経時的にアンモニアガスを計測した。計測は、北川式ガス検知管(測定可能範囲 5~260 ppm)を用いて三角フラスコ上部からガスを採取して行った。結果を表6に示す。処理剤を添加した試料bでは、処理剤未添加の試料aと比べて、5日後以降のアンモニアガス濃度が低かった。
【表6】
【0062】
実施例3で使用した中腸腺(b)は、実施例1及び2で使用した中腸腺(a)よりも鮮度が良好で、試験開始時に腐敗は生じていなかった。実施例1~3の結果から、中腸腺にコンクリートスラッジと処理剤とを混合することで、中腸腺に由来する幅広い濃度のアンモニアガスの発生を抑制できることが確認された。
【0063】
[実施例4]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
実施例1(1)で調製した処理剤、実施例1(1)で使用したコンクリートスラッジ(a)、及び有害生物として駆除されたヒトデ(タンパク質含量8質量%)を用いて、以下2種類の試料を調製した。ヒトデは生のものをミキサーで破砕して使用した。試料dは、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、ヒトデを添加してさらに混合することで調製した。
c:コンクリートスラッジ 2質量部+ヒトデ 1質量部
d:コンクリートスラッジ 2質量部+ヒトデ 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
【0064】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表7に示す。
【表7】
【0065】
(2)アンモニア測定
試料を各々300 ml容の三角フラスコに充填して室温で静置し、混合直後から経時的にアンモニアガスを計測した。計測は、北川式ガス検知管(測定可能範囲 5~260 ppm)を用いて三角フラスコ上部からガスを採取して行った。結果を表8に示す。処理剤を添加した試料dでは、処理剤未添加の試料cと比べて、2日後以降のアンモニアガス濃度が低かった。
【表8】
[実施例5]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
実施例1(1)で調製した処理剤と、コンクリートスラッジ(b)(含水率43%、生コンクリート工場で採取直後のもの)と、実施例1(1)で使用したホタテガイ中腸腺(a)を用いて、以下6種類の試料を調製した。試料1’~5’は、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、中腸腺を添加してさらに混合することで調製した。
0’:中腸腺のみ
1’:コンクリートスラッジ 1質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
2’:コンクリートスラッジ 1.2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
3’:コンクリートスラッジ 1.5質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
4’:コンクリートスラッジ 1.7質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
5’:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
【0066】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表9に示す。
【表9】
【0067】
(2)アンモニア測定
試料を各々300 ml容の三角フラスコに充填して25℃の恒温槽内で静置し、15日後及び25日後にアンモニアガスを計測した。計測は、北川式ガス検知管(測定可能範囲 5~260 ppm)を用いてビーカー上部からガスを採取して行った。結果を表10に示す。試料1’~5’は、コンクリートスラッジ及び処理剤を含まない試料0’と比べて、15日後、25日後のいずれにおいてもアンモニアガス濃度が低かった。また、15日後の試料では、タンパク質に対するスラッジ固形分の添加比率が大きくなるほど、アンモニアガス濃度は低くなる傾向が観察された。
【表10】
【0068】
[実施例6]
(1)有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の調製
実施例1(1)で調製した処理剤と、実施例3(1)で使用したコンクリートスラッジ(b)(含水率43%)と、実施例3(1)で使用したホタテガイ中腸腺(b)を用いて、以下6種類の試料を調製した。試料C’及びD’は、最初にコンクリートスラッジと処理剤を混合後、中腸腺を添加してさらに混合することで調製した。
A’:コンクリートスラッジのみ
B’:コンクリートスラッジ+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
C’:コンクリートスラッジ 1質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
D’:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の処理剤
E’:コンクリートスラッジ 2質量部+中腸腺 1質量部
F’:コンクリートスラッジ 1質量部+中腸腺 1質量部+スラッジに対して2.0質量%相当量の水
【0069】
各試料について、各成分の量や比率等の情報を表11に示す。
【表11】
【0070】
(2)pH測定
試料A’~D’を室温で静置し、経時的にpHを測定した。pHの測定は、各試料をサンプリングし、サンプリング量と同量の水を加えて、1時間静置後に実施した。結果を表12に示す。いずれの試料においても時間の経過に伴う大きなpH変動は確認されなかった。
【表12】
【0071】
(3)アンモニア測定
pH測定用と別に調製した試料D’と試料E’を各々300 ml容の三角フラスコに充填して室温で静置し、混合直後から経時的にアンモニアガスを計測した。計測は、北川式ガス検知管(測定可能範囲 5~260 ppm)を用いて三角フラスコ上部からガスを採取して行った。結果を表13に示す。処理剤を添加した試料D’では、処理剤未添加の試料E’と比べて、いずれの時点でもアンモニアガス濃度は低かった。
【表13】
【0072】
(4)有害金属溶出濃度測定
pH測定用と別に調製した試料C’と試料F’を室温で静置した。3日後に2倍量の水を添加、混合した後に静置して上澄みを採取した。上澄みをADVANTEC社製ろ紙5種A(保留粒子径7μm)でろ過し、そのろ液をさらにADVANTEC社製DISMICシリンジフィルター(孔径0.8μm,セルロースアセテート)を用いて加圧ろ過した。得られたろ液をそのまま、又はpH 5に調整したものを分析試料として、溶出したカドミウム、ヒ素及び六価クロムの濃度(ppm)を算出した。
【0073】
カドミウムの測定は、フレーム原子吸光法によって、JIS K 0102-55.1に定められたとおりに行った。また、ヒ素の測定はパックテスト(登録商標)ひ素(低濃度)(共立化学研究所)を、六価クロムの測定はパックテスト(登録商標)Cr6+(共立化学研究所)を用いた。
【0074】
結果を表14に示す。カドミウムに関しては、処理剤を添加した試料C’は、処理剤未添加の試料F’と比べて、pH 5に調整した場合、pH未調整の場合のいずれも溶出濃度は低かった。ヒ素に関しては、pH未調整の場合は処理剤添加の有無によって溶出濃度は変わらなかったが、pH 5に調整した場合は、処理剤を添加した試料C’では処理剤未添加の試料F’と比べて溶出濃度が低くなった。六価クロムに関しては、処理剤を添加した試料C’は、処理剤未添加の試料F’と比べて溶出濃度は低かった。
【表14】
【0075】
この結果から、中腸腺にコンクリートスラッジと処理剤とを混合することで、中腸腺に由来する六価クロム及びカドミウムの溶出を抑制できること、また、時間の経過に伴ってコンクリートスラッジ処理物のpHが低下し、有害金属の溶出が生じやすい環境になった場合であっても、カドミウム及びヒ素の溶出を抑制できることが確認された。
【0076】
(5)硫化水素ガス吸着試験
pH測定用及び有害金属溶出濃度測定用とは別に調製した試料C’の粉砕物を用いて、硫化水素ガスの吸着試験を行った。試験に用いた装置の構成を、
図1を参照しながら説明する。1質量%の硫化ナトリウム九水和物(和光純薬)の水溶液200 mLをムエンケ式洗浄瓶11に入れ、チューブを介してマイクロピペット12及びカラム13に接続した。カラム13は、直径65 mm、上部直径100 mm、長さ165 mmの円筒形カラムであり、その下部に綿15を詰め、その上部に穴を設けてガス検知器14(キューレイ2・吸引式/PGM-2400P)を接続した。マイクロピペット12から塩酸を滴下すると、洗浄瓶11内に硫化水素ガスが発生し、カラム13を通してガス検知器14に吸引される。
【0077】
35%塩酸5 mLを硫化ナトリウム水溶液に滴下したところ、ガス検知器14により測定された硫化水素ガス濃度は5秒後に100 ppmを超えた。この時点の硫化水素ガス濃度を北川式ガス検知管で吸引測定したところ、200 ppmの硫化水素ガスが発生していることが確認された。
【0078】
カラム13と洗浄瓶11を接続するチューブを止めた後、カラム13下部の綿15の上に試料C’の粉砕物3 gを充填した。カラム13と洗浄瓶11を接続するチューブを開放し、硫化水素ガスを粉砕物に通気させて吸着試験を行った。ガス検知器14により測定された硫化水素ガス濃度は、粉砕物への硫化水素ガス通気開始12時間後までの間、0 ppmであった。この結果から、中腸腺にコンクリートスラッジと処理剤とを混合することで得られるコンクリートスラッジ処理物は、硫化水素ガス吸着能を有することが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1 ムエンケ式洗浄瓶
2 マイクロピペット
3 ガラス製カラム
4 ガス検知器
5 綿栓
6 試験物
7 ゴム栓
【要約】
【課題】コンクリートスラッジを利用して、タンパク質を含有する有機物を、アンモニアの発生を抑制しながら処理する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、タンパク質を含有する有機物とコンクリートスラッジと二価鉄化合物とリン酸化合物との混合物を調製する工程、及び混合物を少なくとも1時間保持する工程を含む、アンモニアの発生が抑制された前記有機物を含有するコンクリートスラッジ処理物の製造方法;タンパク質を含有する有機物からのアンモニアの発生を抑制する方法;これらの方法において使用するためのキット;コンクリートスラッジ処理物を用いた硫化水素放出抑制方法を提供する。本発明によれば、タンパク質を含有する有機物の処理を、アンモニアの発生を抑制しながら行うことができ、さらに得られるコンクリートスラッジ処理物は有害金属の溶出が抑制されることから、最終処分場での埋立処分が可能となる。
【選択図】なし