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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】絞り加工品の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/12 20060101AFI20240705BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240705BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B29C33/12
B29C43/36
B29C43/34
B29C70/42
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023186474
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514154503
【氏名又は名称】株式会社The MOT Company
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲済▼藤 友明
(72)【発明者】
【氏名】首藤 祥史
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/163873(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0028061(US,A1)
【文献】特開2020-116875(JP,A)
【文献】特開平02-175028(JP,A)
【文献】特開2019-171884(JP,A)
【文献】実開平02-138019(JP,U)
【文献】特開平05-123773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0009018(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0188982(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103752704(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/12
B29C 43/36
B29C 43/34
B29C 70/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを有する第一金型と、コアを有する第二金型からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材を所要の形状の絞り加工品の製造装置であって、
前記コアの前記被加工材の接する面と垂直な面の周囲に配置されるしわ取り板と、
前記しわ取り板の上に配置される少なくとも一つのスペーサーと、を備え、
前記スペーサーは、繊維強化樹脂から構成され、
被加工材が、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化複合樹脂、又は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化複合樹脂とアルミ、ハイテン及びチタンから選ばれる金属との複合材であり、
前記スペーサーは、前記金型を用いる加熱プレスによる変形が極めて少ないスペーサーであり、前記被加工材を前記コアと前記キャビティの間に引き込みやすくする、製造装置。
【請求項2】
キャビティを有する第一金型と、コアを有する第二金型からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材を所要の形状の絞り加工品の製造装置による絞り加工品の製造方法であって、前記製造装置は、
前記コアの前記被加工材に接する面と垂直な面の周囲に配置されるしわ取り板と、
前記しわ取り板の上に配置される少なくとも1つのスペーサーと、を備え、
前記製造方法は、
前記被加工材を前記しわ取り板の上に配置する工程と、
前記しわ取り板とともに前記第二金型を上昇させ、前記コアの前記被加工材に接する面を、前記被加工材に接触させる工程と、
前記被加工材を前記コアと前記キャビティの間に引き込みながら、さらに前記第二金型を上昇させ、前記被加工材を加圧する工程と、
前記第二金型を下降させ、絞り加工品を得る工程とを含み、
前記スペーサーは、繊維強化樹脂から構成され、
被加工材が、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化複合樹脂、又は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化複合樹脂とアルミ、ハイテン及びチタンから選ばれる金属との複合材であり、
前記スペーサーは、前記金型を用いる加熱プレスによる変形が極めて少ないスペーサーであり、前記被加工材を前記コアと前記キャビティの間に引き込みやすくする、製造方法。
【請求項3】
前記被加工材が積層体である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記しわ取り板は、前記コアの外側に配置された複数のしわ取り板片で構成され、前記しわ取り板片の各々は、一方が他方に対し直角に延びる一対のアームを有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記スペーサーの厚さは、前記被加工材と同じ厚さ又はそれ以上の厚さを有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記スペーサーの繊維強化樹脂は、繊維は炭素で構成され、樹脂はエポキシ樹脂で構成される、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形により被加工材を所要の形状に絞り加工品に成形する製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機を用いる絞り加工は、キャビティを有する第一金型(凹状金型、ダイとも称する)とコア(あるいはパンチ)を有する第二金型(凸状金型)からなる上下一対の金型を用いるのが一般的である。
絞り加工は、従来から行われている金属板を被加工材(ブランク、又はワーク)とするプレス成型の他、繊維強化複合樹脂(所謂、FRP)を被加工材とするプレス成型でも広く用いられている。
被加工材が繊維強化複合樹脂又はその繊維強化複合樹脂と金属との複合体の場合、ガラス繊維や炭素繊維などの強化繊維材にエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化樹脂や熱可塑性樹脂を含浸させて半硬化状態とした中間材(プリプレグ)を用いるのが一般的である。このプリプレグをプレス機で加熱・加圧して所要に加工品を製造する。
【0003】
繊維強化複合樹脂のプレス機を用いた絞り加工では、キャビティへのコアの進入に伴って、絞りスペース(キャビティとコアの間の隙間)への強化繊維材の引き込みが生じる。
この引き込みは加工品のコーナー部分で顕著であり、当該強化繊維材への局部的な不定形引っ張り歪や間隔の伸縮が生じ、強化繊維材密度が変化し、樹脂の偏在が起こって加工品の側壁等にしわを生じさせ、場合によっては繊維の破断が発生する。これは、加工品の強度に部分的なバラツキが生じ、全体強度の低下等の不具合をもたらし、成型品の品質劣化、不良品発生の原因となる。
【0004】
このような不具合の発生を回避するために、従来から“しわ取り板”と称する被加工材保持治具が用いられている。しわ取り板は、被加工材(以下、プリプレグを想定)の外縁を周回する枠状板体(額縁状の板体)であり、金型の所定位置に被加工材を保持するブランクホルダーとしての機能も有する。
【0005】
図7は、既知の絞り加工機の一例を説明する模式図で、(a)はキャビティ1を有する第一金型とコア2を有する第二金型からなる絞り加工機の側面図、(b)は(a)の第一金型と被加工材を取り除いて第二金型を上面から見た要部平面図である。
【0006】
この絞り加工機は上記したような一対の金型からなり、第一金型100に設けられたキャビティ1に、第二金型200に設けられたコア2が入り込むように上昇して、被加工材4としてのプリプレグを絞り加工する。
そして、前記第二金型200のコア2の外周に沿って周回するようにしわ取り板3が設置されている。
図7に示す形式の絞り加工機は、機台(プレス機のベース)7に固定され、第一金型100に対して第二金型200が上昇し、第一金型100のキャビティ1に第二金型200のコア2が圧入するようになっている。なお、一対の金型を上下逆とした形式もある。
【0007】
図7(b)に平面視形状を示したように、しわ取り板3は一枚の額縁状の板体で構成されており、第二金型200に設けられたコア2の外縁に沿って周回して上昇・下降可能に設置されている。しわ取り板3は、通常は金型と同系統の金属板で構成されている。
絞り加工の際には、被加工材(例えば、プリプレグ)4をしわ取り板3の上に載置する(図7の(a)に示した状態)。このしわ取り板3は伸縮部材5により昇降可能になっており、第二金型200の上昇開始の前又は第二金型の上昇開始と同時に上昇させ、被加工材4を第一金型100の下面と第二金型200の上面(対向面)との間に挟持する。
【0008】
次いで、第二金型200を加圧機構6により大矢印方向にさらに上昇させ、コア2をキャビティ1に圧入させることで被加工材4を所定の形状に絞り加工する。
【0009】
しわ取り板3は、被加工材4の保持と位置合わせを行う手段でもあるが、絞り加工では、被加工材の絞り工程で生じる被加工材の周辺部分の組織をキャビティとコアの間に適正移動させ、主として側壁に生じるしわの発生や肉厚の減少による破断を回避させることを主たる役割としている。
【0010】
この種のしわ取り板に関する従来技術を開示したものとして、例えば特許文献1、特許文献2などの特許文献の他に多数の一般文献もある。
特許文献1は、凹状部(キャビティ)を持つ上金型と、凸状部(コア)を有する下金型を用い、下金型の外周に配置したしわ取り板を備えた繊維強化複合材料成型品のプレス成型装置と方法を開示している。
【0011】
また、特許文献2は、凹状金型(ダイと称する上記上金型に相当)と凸状金型(パンチと称する上記下金型に相当)、及びしわ取り板を有する汎用のプレス機であり、上記の金型に高圧液体を注入することで板材の絞り加における成型品のしわの発生と破断を回避する方法と装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6587771号公報
【文献】特開平07-144234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
絞り加工では、特にコーナー部における凹形状部(キャビティ)と凸形状部(コア)とが組み合わされる絞り部分で強化繊維の引き込み、それによる繊維間の偏りや切断、樹脂層の膜厚減少等の不具合が生じ易い。絞り加工機において用いられるしわ取り板(しわ抑え板とも称する)のみでは、しわ取り板と上金型とで、挟み込んでしまう場合があり、これにより、被加工材の引き込みを阻害して、精度の高い加工品が得られなくなってしまう恐れがある。
【0014】
しわ取り板の主たる機能は、このような被加工材の構成部材の過大な引き込みを回避し、適正な引き込みがなされるようにする目的で用いられる。
【0015】
本発明では、上記従来のしわ取り板を備える製造装置において、被加工材の引き込みをより容易にさせる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明における絞り加工品の製造装置及び製造方法において、しわ取り板の上に配置される少なく1つのスペーサーを用いる点に特徴を有する。
本発明の代表的な構成を記述すれば以下のとおりである。
【0017】
本発明は、キャビティ1を有する第一金型100と、コア2を有する第二金型200からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材4を所要の形状に絞り加工品に成形するプレス加工機に用いるしわ取り板3であって、下記の構成とした。
【0018】
[1] キャビティを有する第一金型と、コアを有する第二金型からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材を所要の形状の絞り加工品の製造装置であって、
前記コアの前記被加工材の接する面と垂直な面の周囲に配置されるしわ取り板と、
前記しわ取り板の上に配置される少なくとも一つのスペーサーと、を備え、
前記スペーサーは、繊維強化樹脂から構成される、製造装置。
[2] キャビティを有する第一金型と、コアを有する第二金型からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材を所要の形状の絞り加工品の製造装置による絞り加工品の製造方法であって、前記製造装置は、
前記コアの前記被加工材に接する面と垂直な面の周囲に配置されるしわ取り板と、
前記しわ取り板の上に配置される少なくとも1つのスペーサーと、を備え、
前記製造方法は、
前記被加工材を前記しわ取り板の上に配置する工程と、
前記しわ取り板とともに前記第二金型を上昇させ、前記コアの前記被加工材に接する面を、前記被加工材に接触させる工程と、
前記被加工材を前記コアと前記キャビティの間に引き込みながら、さらに前記第二金型を上昇させ、前記被加工材を加圧する工程と、
前記第二金型を下降させ、絞り加工品を得る工程とを含み、
前記スペーサーは、繊維強化樹脂から構成される、製造方法。
[3] 前記被加工材が、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化複合樹脂、又は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂を含む繊維強化樹脂とアルミ、ハイテン及びチタンから選ばれる金属との複合材である、[2]に記載の製造方法。
[4] 前記被加工材が積層体である、[3]に記載の製造方法。
[5] 前記しわ取り板は、前記コアの外側に配置された複数のしわ取り板片で構成され、前記しわ取り板片の各々は、一方が他方に対し直角に延びる一対のアームを有する、[2]に記載の製造方法。
[6] 前記スペーサーの厚さは、前記被加工材と同じ厚さ又はそれ以上の厚さを有する、[2]乃至[5]のいずれか一項に記載の製造方法。
【0019】
本発明は、上記の構成及び後述する実施の形態で説明される実施例の構成に限定解釈させるものではなく、本発明の技術思想を逸脱することなく種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0020】
上記[1]及び[2]の構成によれば、しわ取り板を設けることで、それによる繊維間の偏りや切断、樹脂層の膜厚減少を回避することでしわの発生や破断(成形品の裂けや割れ)を抑制することができる。さらに、スペーサーを用いるので、しわ取り板と上金型とで過度な挟み込みを防ぎ、より容易に被加工材を引き込むことができる。
また、従来のように、スペーサーが金属の場合、加熱プレス時にスペーサーが熱膨張してしまい、スペーサーの厚さがコントロールしにくくなる。すなわち、厚さの引き込みやすさを正確に調節することが難しくなる。一方、本発明のようにスペーサーに炭素繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂を用いると、熱膨張係数が低く、厚さの点で極めて高い正確性を有する絞り加工品を製造することが可能となる。
なお、本発明では、加熱下の成形であるため、加熱下で繰り返しの成形であっても、スペーサー自身の変形が極めて少なく、得られる絞り加工品の高い寸法精度を維持するため、歩留まりを上げることができるという特徴もある。
【0021】
上記[1]及び[2]の構成は、上記[3]の被加工材(熱可塑樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む繊維強化複合樹脂、あるいはこれら樹脂とアルミ、ハイテン及びチタンから選ばれる金属との複合材)であれば、特に有用である。これらの材料はプレス加工をすると波を打ちやすくなり、いったん波を打つと、キャビティとコアとの間に材料が引き込まれにくくなるが、本構成であれば波打ちを抑制することができ、材料を容易に引き込ませることができる。
【0022】
上記[1]及び[2]の構成は、上記[4]に記載の積層体に有用である。積層体の場合、例えば、繊維強化複合樹脂のプリプレグを重ねることが想定されるが、積層することにより、被加工材が厚くなり、引き込みにくくなる。しかし、スペーサーを設けることにより、引き込みやすさを向上させることができるため、積層体であっても、精度の高い絞り加工品を製造できる。
【0023】
上記[1]および[2]の構成において、上記[5]のしわ取り板を採用することにより、しわ取り板を低コストで製作でき、被加工材の過大な引き込みを抑制することができる。例えば、非加工材が金属の場合、角の成形はその部分が延展性で薄くなることで形状ができるが、その減少した分の金属が他の部分に移動するので、多くなった金属により、金属板が波うつことになる。波うった材料(凹凸を有する材料)は結果として金型内に引き込まれなくなる。したがって、被加工材が金属の場合は、加工品に凸凹が出ないように周囲にわって(360°)でしわ取り板を置くのが望ましい。一方、繊維強化複合樹脂(CFRP)の場合は、角は繊維が均等に寄ることで成形されるため、角を形作る部分の範囲に限定され、それ以外の部分は、波打つことは少ないため、周囲にわたってしわ取り板を置く必要がない。むしろ角の近傍の4点部分のみしわ抑えを配置した方が、必要以上に被加工物がつぶれることなく、精度の高いもの繊維強化複合成型品が得られやすい。
【0024】
また、上記(6)の構成によれば、しわ取り板に接している部分の被加工材が、第一金型からの圧力を受けることがなくなるため、引き込みが容易な上、厚い被加工材にも対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、しわ取り板3及びスペーサー8を適用した実施例1の製造装置の模式図である。
図2図2は、実施例1の製造装置において、被加工材4をしわ取り板3の上に配置した模式図である。
図3図3は、実施例1の製造装置において、被加工材4に第二金型が接し、変形し始めたことを示す模式図である。
図4図4は、実施例1の製造装置において、被加工材4に第一金型と第二金型が最も接近し、所定の形状の状態で加熱・加圧している状態を示す模式図である。
図5図5は、実施例1の製造装置において、第二金型を降下させ、絞り加工品を得た状態を示す模式図である。
図6図6は、しわ取り板3をコアの4隅の外側にしわ取り板片として備えた実施例2の製造装置の模式図である。
図7図7は、スペーサーを設けない、従来の製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、実施例の図面を参照して詳細に説明する。
【実施例
【0027】
実施例1
図1は、本発明に係るプレス加工機に用いるしわ取り板の実施例1を適用した絞り加工品の製造装置(絞り加工機)の模式図で、(a)はキャビティ1を有する第一金型とコア2を有する第二金型からなる絞り加工機の側面図、(b)は(a)の第一金型と被加工材を取り除いて第二金型を上面から見た要部平面図である。
【0028】
この絞り加工機は図7で説明したものと同様に、一対の金型からなり、第一金型100に設けられたキャビティ1に第二金型200に設けられたコア2が入り込むように上昇して被加工材4としてのプリプレグの積層体を絞り加工する。
【0029】
本実施例では、第二金型200のコア2の外周に、矩形のしわ取り板3が配置するように備えられており、矩形のしわ取り板3の外周の直線部分に沿うように、しわ取り板3の上に直方体のスペーサー8を4つ備えている。
【0030】
(しわ取り板)
しわ取り板3は、第二金型200とともに、昇降可能なように、第二金型200に備えられている。しわ取り板3は、第二金型200と、バネ機構で構成した伸縮部材5により接続されている。
第二金型200の上昇開始前に、しわ取り板3の面の上に被加工材4を載置し、第二金型200を上昇させることにより、絞り加工を実施する。
したがって、しわ取り板3は、被加工材4を配置できる平面を有するとともに、その平面の中央付近に、第二金型200のコア2がせり上がることができる孔を有している。
【0031】
(スペーサー)
実施例1の絞り加工機には、しわ取り板3の被加工材4を配置できる平面上に、スペーサー8を設ける。スペーサー8は、しわ取り板3の外縁に沿うように、しわ取り板3の上に配置しており、各辺に4つの直方体のスペーサー8を設ける。なお、スペーサーの位置は、しわ取り板3の平面上であれば、特に限定されるものではなく、被加工材4の大きさや形状に伴って、変更することができる。成形時に可動させて実施してもよい。
実施例1において、使用されるスペーサーは、エポキシ樹脂の炭素繊維の繊維強化樹脂で構成される。
なお、スペーサーの繊維強化樹脂は、エポキシ樹脂の炭素繊維強化樹脂に限定されるものではなく、樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及びそれらの一種を含む樹脂組成物を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、これらは組み合わせて使用することができる。熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニール樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。
融点が低い熱可塑性樹脂の場合は、高い加熱温度によって溶融してしまう場合があるが、その場合は適切に樹脂を選択すればよい。ただし、このような観点から熱可塑性樹脂よりも、熱硬化性樹脂の方が扱いやすいという特徴を有する。
繊維強化樹脂の繊維は、長繊維、及び短繊維のどちらでもよく、材料としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維のいずれでもよく、組み合わせて使用することもできる。
繊維強化樹脂中の繊維基材としては、0.03mm~0.5mmの厚さの炭素繊維材が好ましいが、それに限定されるものではない。炭素繊維はポリアクリルニトリルを原料とするPAN系炭素繊維とピッチを原料とするピッチ系炭素繊維等を用いることが出来る。プリプレグ1を構成するプリプレグ中の炭素繊維としては、PAN系炭素繊維が好ましいが、それに限定されるものではない。
スペーサーは、市販の繊維強化樹脂のプリプレグを重ねて所定の形状に切断してから、硬化することにより使用することができる。
さらには、スペーサーは、金属又は樹脂などの基材とし、この基材の周りに繊維強化樹脂を配置してから硬化させるような複合材を用いることもできる。
【0032】
(被加工材)
実施例1の絞り加工機により、絞り加工できる材料(被加工材4の材料)は、特に限定されるものではないが、板状の鉄、アルミ、ハイテン、チタン等の金属単体に加え、繊維強化複合樹脂、熱可塑樹脂、熱硬化樹脂、これら樹脂と金属(アルミ、ハイテン、チタン)との複合材が挙げられ、絞り加工は、これらを積層したものにも行うことができる。なお、繊維強化複合樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、複合材の材料として、プリプレグを用いることができる。プリプレグは、取り扱いやすく好ましい。
繊維強化複合樹脂の繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、有機繊維などが挙げられる。
【0033】
(絞り加工品の製造方法)
実施例1の絞り加工機を用いる絞り加工方法について説明する。なお、本実施例では、被加工材4として、炭素繊維強化複合樹脂(熱硬化性樹脂)のプリプレグの積層体を用いている。まず図1に(a)のように、スペーサー8に接しないように、しわ取り板3の上に被加工材4を載置する。そして、第二金型200の内部又は外部に備えられている加熱ヒーター(図示しない)により、被加工材4を加熱する。
【0034】
被加工材4を所定の温度まで加熱したら、スペーサー8が第一金型100(上金型)に接するまで、第二金型200及びそれに備えているしわ取り板3を上昇させる(図2参照)。このとき、スペーサー8とともに、被加工材4は第一金型100に接することもできるし、被加工材4が第一金型100に接しないように設定することもできる。被加工材4が第一金型100に接しないようにするためには、スペーサー8の高さを、被加工材4の高さよりも高くする。被加工材4がキャビティ1の中に引き込みやすくする観点から、このときの被加工材4は、第一金型100に接しないようにすることが好ましい。
【0035】
第一金型100にスペーサー8が接した後、さらに、コア2を有する第二金型200がさらに上昇する。このとき、伸縮部材5が縮むことにより、しわ取り板3及びスペーサー8はその位置を維持し、第二金型200(コア2)のみがさらに上昇し、被加工材4をキャビティ1とコア2の間に引き込み、被加工材4を変形させながら、さらに上昇する(図3参照)。
【0036】
コア2がキャビティ1の中に入り込み、被加工材4を加圧した状態で、所定の位置で第一金型の上昇を停止する。上昇を停止した位置で、引き続き加熱を行い、所望の形状になるように、加圧、加熱を継続する。第二金型200の停止した状態の時間は、10秒から20分の範囲である。
【0037】
必要な加圧、加熱を実施した後、加熱を停止し、所定の温度まで冷却した後、第二金型200を降下させ、絞り加工品を取り除く。
【0038】
実施例2
図6に示す実施例2は、本発明の別の態様である。実施例1は、コア2を挿入するための孔を中心に有する長方形の1つ面を備えるしわ取り板3に関するものであったが、実施例2では、コア2を上から見たときの(図6(b)参照)の略長方形の4つの角30 の外側に配置したしわ取り板片31、32、33、34から構成されるしわ取り板である。なお、しわ取り板片31、32、33、34の所定の製作精度を得る仕上げ作業も短縮でき、全体としてコストの低減が可能となる。
【0039】
なお、本発明は比較的大きい金型の場合に効果が出やすく、例えば、コアの角から角までの一つ(4つの辺のうちの一つ)が1000mm以上であると好ましく、1500mm以上であれば、より好ましく、2000mm以上であれば、さらに好ましい。
【0040】
しわ取り板を、このような複数のしわ取り板片にする場合であっても、それぞれのしわ取り板片31、32、33、34の上平面の上にスペーサー8を設けることで、実施例1と同様に、被加工材4を引き込みやすくすることができる。図6では、スペーサー8の形状はL字型であるが、スペーサー8の形状は特に限定されるものではなく、直方体や直方体を曲線状に曲げたものなども利用することができる。
【0041】
そして、コア2は上平面が角にRがある略長方形のものを採用しているが、略長方形に限定されず、円形や楕円形などにも本発明は適用でき、その場合は、コアの周囲に複数のしわ取り板片(しわ取り板片の上にはスペーサーを備える)を備えることができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・キャビティ
2・・・コア
3・・・しわ取り板
31,32,33,34・・・しわ取り板片
4・・・被加工材
5・・・伸縮部材
6・・・加圧機構
7・・・機枠
8・・・スペーサー
100・・・第一金型
200・・・第二金型
【要約】
【課題】従来のしわ取り板を備える製造装置において、被加工材の引き込みをより容易にさせ、歩留まりを高める方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 キャビティを有する第一金型と、コアを有する第二金型からなる上下一対の金型を用いたプレス成形により被加工材を所要の形状の絞り加工品の製造装置であって、前記コアの前記被加工材の接する面と垂直な面の周囲に配置されるしわ取り板と、前記しわ取り板の上に配置される少なくとも一つのスペーサーと、を備え、前記スペーサーは、繊維強化樹脂から構成される、製造装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7