(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/04 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
B63B1/04
(21)【出願番号】P 2019077022
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-03-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】栗林 周平
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094988(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191543(WO,A1)
【文献】特表2016-502961(JP,A)
【文献】特開2014-054878(JP,A)
【文献】特開2016-130077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00 - 85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底及び一対の舷側を有
しフルード数が0.22~0.33、方形係数が0.45~0.55の船体を備え、
前記舷側は、前記船体における船首尾方向の最大断面形状部において、
船首尾方向と垂直な断面視で鉛直方向に延びる直線状に形成されるとともに下端が計画喫水線よりも上方に位置する鉛直舷側部と、
前記鉛直舷側部の下端から下方に向かうに従って船幅方向中央に向かって延びて前記計画喫水線に交差するとともに前記船底に接続される傾斜舷側部と、
を有
し、
前記鉛直舷側部の下端は、前記船底から前記計画喫水線までの喫水高さの2倍以下の高さ且つ前記計画喫水線から船高さ方向の上方に1.2m以上5.5m以下の範囲、及び、前記傾斜舷側部と前記計画喫水線との交点に対し船幅方向外側に20~60°且つ船幅方向外側に1.5m以上3.5m以下の範囲に配置されている
船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、船舶の船体構造として、船側部形状を、船首尾方向中央から船倉の船首側端部及び船尾側端部にかけて、平行に変化させる構成が開示されている。
ところで、船舶の推進性能には、船体の柱形係数Cpが大きな影響を及ぼす。柱形係数Cpは、船舶の排水容積Vを、船舶の船首尾方向中央部における中央断面積Aに船舶の長さSLを掛けた容積で除した係数である(Cp=V/(A×SL))。柱形係数Cpの値が小さいほど、船首尾方向中央部に多くの排水容積が集中していることを意味する。一方で、柱形係数Cpの値は、1に近いほど、船首尾方向における排水容積が一様であることを意味する。
【0003】
柱形係数Cpは、船の剰余抵抗係数が急速な増加傾向に移行する起点速度と密接な関係を有する。柱形係数Cpが大きくなると、剰余抵抗係数が急速増加に遷移する起点速度が、船舶の航行速度の低速域に移行する。柱形係数Cpが小さくなると、剰余抵抗係数が急速な増加傾向に移行する起点速度が、高速側に移行し、高速域まで比較的穏やかな抵抗増加傾向となる。船舶においては、効率良い航行を行うため、主機の出力増加を抑えつつ、低燃費化を図ることが望まれている。この面においては、柱形係数Cpを小さくすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船舶が、フェリー、RORO(Roll-on/Roll-off)船、PCTC(Pure Car & Truck Carrier)船等である場合、特許文献1のような一般的な船首尾方向中央部における断面形状で排水容積Vを小さくすると、柱形係数Cpの値が小さくなりすぎる場合がある。この場合、船首尾方向中央部に多くの排水容積が集中し、船首尾方向両端部の排水容積が小さくなる。すると、船首尾両端部の甲板の面積が減少し、車両等の貨物積載量が減ってしまう。その一方で、柱形係数Cpを小さくしすぎると、船の剰余抵抗係数が急速な増加傾向に移行する起点速度は、船の航海速力域を超えて、更に高速域にまで移行する。つまり、柱形係数Cpを小さくすることは推進性能面では好ましいが、船首尾両端部の排水容積の減少を伴うため、船首部及び船尾部の機器及び貨物の配置ができない。これに対し、船の剰余抵抗係数が急速な増加傾向に移行する起点速度が船の航海速度域を含みつつ、貨物積載量の減少を出来るだけ少なくし、且つ、機器の配置ができるように、船首部及び船尾部の排水容積を適度に保つような柱形係数Cpを選定することが必要となる。しかし、単に柱形係数Cpを選定するだけでは、貨物積載量を確保しつつ更なる低燃費化を図ることが難しいという課題がある。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、貨物積載量を確保しつつ、主機の出力増加を抑え、低燃費化を図ることができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の第一態様によれば、船舶は、船底及び一対の舷側を有しフルード数が0.22~0.33、方形係数が0.45~0.55の船体を備える。前記舷側は、前記船体における船首尾方向の最大断面形状部において、鉛直舷側部と、傾斜舷側部と、を有する。前記鉛直舷側部は、船首尾方向と垂直な断面視で鉛直方向に延びる直線状に形成される。前記鉛直舷側部は、下端が計画喫水線よりも上方に位置する。前記傾斜舷側部は、前記鉛直舷側部の下端から下方に向かうに従って船幅方向中央に向かって延びて前記計画喫水線に交差するとともに前記船底に接続される。前記鉛直舷側部の下端は、前記船底から前記計画喫水線までの喫水高さの2倍以下の高さ且つ前記計画喫水線から船高さ方向の上方に1.2m以上5.5m以下の範囲、及び、前記傾斜舷側部と前記計画喫水線との交点に対し船幅方向外側に20~60°且つ船幅方向外側に1.5m以上3.5m以下の範囲に配置されている。
【0012】
この第一態様では、計画喫水線よりも下方で、傾斜舷側部が下方に向かうに従って船幅方向中央に向かって延びている。これにより、船体における船首尾方向両端部の排水容積の減少を抑える。さらに、船首尾方向の最大断面形状部において、計画喫水線の下方における断面積を小さくすることができる。これにより、船体の柱形係数を、貨物積載量の減少を抑えつつ、推進性能面で剰余抵抗係数が急速な増加傾向に移行する起点速度を、航海速度域を含む適切な値にすることができる。そのため、貨物積載量の減少、並びに主機の出力増加を抑えつつ、低燃費化を図り、効率良く航行を行うことが可能となる。
また、船体は、傾斜舷側部が接続される船底を有している。これにより、傾斜部によって計画喫水線の下方における断面積を小さくしつつ、船底上に、主機や補機等を設置するスペースを確保しやすい。
さらに、計画喫水線よりも上方の舷側は、計画喫水線よりも上方において、傾斜舷側部と接続している。傾斜舷側部は、計画喫水線よりも上方において、上方に向かって船幅方向外側に向かって延びている。つまり、鉛直舷側部は、傾斜舷側部と計画喫水線との交点よりも、船幅方向外側に張り出して位置している。これにより、計画喫水線よりも上方において、船幅方向における貨物積載スペースを増大させることができる。
したがって、貨物積載量を確保しつつ、主機の出力増加を抑え、低燃費化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上記船舶によれば、貨物積載量を確保しつつ、主機の出力増加を抑え、低燃費化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の実施形態における船舶の全体構成を示す側面図である。
【
図2】この発明の第一実施形態における船舶の構成を示す図であり,
図1のA-A線に沿う断面図である。
【
図3】この発明の第一実施形態における船体の舷側を構成する鉛直部と湾曲部とを示す拡大断面図である。
【
図4】この発明の第二実施形態における船舶の構成を示す図であり,
図1のA-A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態における船舶を図面に基づき説明する。
(第一実施形態)
図1は、この実施形態における船舶の全体構成を示す側面図である。
図1に示すように、この実施形態の船舶1は、例えば、車両を運搬可能な車両運搬船である。船舶1は、船体2、を備えている。
【0018】
船体2は、舷側3A,3Bと、船底4と、複数層の甲板7と、を有している。舷側3A,3Bは、船幅方向Dw両側の左右舷側をそれぞれ形成する一対の船側外板を備える。船底4は、これら舷側3A,3Bの船側外板同士を接続する船底外板を備える。これら一対の舷側3A,3B及び船底4の船首尾方向と垂直な断面形状は、U字状をなしている。
【0019】
複数層の甲板7は、船体2内に船高さ方向(鉛直方向)Dhに間隔をあけて設けられている。複数層の甲板7は、乾舷甲板7aや底部甲板7b等を含む。底部甲板7bは、乾舷甲板7aの下方に配置され、船底4とともに二重底を構成する。複数層の甲板7のうち、車両を積載する車両甲板として用いられる甲板7には、船高さ方向Dhで隣り合う甲板7の間を車両が移動するために、例えばランプウェイ(図示せず)が設けられている。
【0020】
船体2内には、主機8が設けられている。具体的には、主機8は、船体2内部に設けられた機関室9に設置されている。船体2の船尾2b側の底部には、プロペラ5と、舵6とが設けられている。プロペラ5は、船体2内に設けられた主機8によって駆動され、船舶1を推進させる推進力を発生させる。舵6は、プロペラ5の後方に設けられ、船体2の進行方向を制御する。
【0021】
図2は、この実施形態における船舶の構成を示す図であり,
図1のA-A線に沿う断面図である。
図2に示すように、船体2の舷側3A、3Bは、それぞれ、船体2における船首尾方向Daの最大断面形状部2mにおいて、鉛直部11と、傾斜部12と、を有する。最大断面形状部2mは、船首尾方向Daにおける船首2aと船尾2bとの中間位置において、船体2の船首尾方向Daに直交する断面積(言い換えれば、船首尾方向Daに垂直な断面における船体2の面積)が最大である部分を示す。
【0022】
鉛直部11は、船高さ方向Dhに延びている。鉛直部11は、下端11bが計画喫水線相当高さH1に位置する。ここで、計画喫水線相当高さH1は、計画喫水線Lpが設定される船高さ方向Dhの範囲を意味している。この実施形態における計画喫水線相当高さH1は、船高さ方向Dhにおける船底4から計画喫水線Lpまでの喫水高さSHの90~110%に設定されている。この計画喫水線相当高さH1は、喫水高さSHの95~105%としてもよく、更に喫水高さSHの98~102%の高さとしてもよい。この実施形態における計画喫水線相当高さH1は、計画喫水線Lpの船底4からの喫水高さSHと同一(100%)の場合を例示している。ここで、計画喫水線Lpは、船舶1の設計に際して設定されるものであり、船舶1の製造者の有する設計図等の設計情報、船舶1の製造者と船舶1の発注者とが取り交わす仕様書、契約書等に記載されている。
【0023】
傾斜部12は、鉛直部11の下端11bから下方に向かうに従って船幅方向Dw中央に向かって延びている。傾斜部12は、船底4の船幅方向Dwの端部4aに接続されている。なお、傾斜部12は、平面状であってもよいし、適宜の湾曲面状であってもよい。傾斜部12が平面状である場合、傾斜部12は、
図2の断面において、鉛直部11の下端11bと、船底4の船幅方向Dwの端部4aとを接続する直線となる。この実施形態では、傾斜部12が湾曲面12wである場合を例示している。傾斜部12が湾曲面12wの場合、傾斜部12は、
図2の断面において、船体2の外方に向かって凸の曲線となり、鉛直部11の下端11bと船底4の端部4aとを接続する。この湾曲面12wは、一定の曲率半径で湾曲していてもよいし、鉛直部11の下端11bから船底4の端部4aに向かって曲率半径が変化するようにしてもよい。さらに、船底4は、水平の平面状としてもよいし、船幅方向Dwで舷側3A、3Bに向かって船高さ方向Dhの上方へ傾斜した平面状としてもよい。また、船底4は、一定の曲率半径、または変化する曲率半径の湾曲面状であってもよい。
【0024】
図3は、この実施形態における船体の舷側を構成する鉛直部と湾曲部とを示す拡大断面図である。
図3に示すように、この実施形態において、傾斜部12を形成する湾曲面12wは、計画喫水線Lpから1m(メートル)下方の位置P2における傾斜部12の接線Lkが、水平方向に対し、所定の交差角度θ1で交差するよう形成されている。言い換えれば、
図3の船首尾方向Daと垂直な船体断面において、計画喫水線Lpから船高さ方向Dhで1m(メートル)下方の位置P2における傾斜部12の接線Lkと、計画喫水線Lpを船幅方向Dw外側に延長した直線とのなす角が、所定の交差角度θ1となっている。
【0025】
ここで、上記交差角度θ1が大きいと、鉛直部11の下端11bから下方に向かうにつれて減少する船体2の船幅方向Dwの長さの減少率は、小さくなる。つまり、最大断面形状部2mにおいて、計画喫水線Lpの下方における断面積が小さくなり難い。
【0026】
また、交差角度θ1が小さいと、鉛直部11の下端11bから下方に向かうにつれて減少する船体2の船幅方向Dwの長さの減少率は、大きくなる。すなわち、最大断面形状部2mにおいて、計画喫水線Lpの下方における断面積が小さくなる。その一方で、船幅方向Dwにおける船底4のスペースは、小さくなってしまう。そのため、主機8等の配置自由度は低下する。
したがって、交差角度θ1は、30°以上80°未満とするのが好ましい。交差角度θ1は、40°以上70°未満としてもよい。
【0027】
この実施形態における湾曲面12wの接線Lkと計画喫水線Lp又はその延長線との交差する交差位置P1は、上記断面における鉛直部11の位置を基準として、船体2の船幅寸法SW(
図2参照)の±3%の範囲内に配置されている。
【0028】
車両を積載する船舶1の設計航海速力は、フルード数換算で概ね0.22~0.33である。車両を積載する船舶1の方形係数Cbは、概ね0.45~0.55の範囲に分布する。方形係数Cbは、船体2の排水容積Vを、船体2の船首尾方向Daの長さSL、船幅寸法SW、喫水高さSHを掛けた容積で除した係数である(Cb=V/(SL×SW×SH))。
【0029】
これに対し、上記船舶1の船体2では、鉛直部11の下端11bが計画喫水線相当高さH1に位置している。また、計画喫水線Lpよりも下方では、傾斜部12が鉛直部11の下端11bから下方に向かうに従って船幅方向Dw中央に向かって延びている。これにより、船体2における船首尾方向Da中央部の最大断面形状部2mにおいて、計画喫水線Lpの下方における船体2の断面積が小さくなる。また、計画喫水線Lp付近における船体2の幅寸法の減少を抑えることができる。
また、船体2は、傾斜部12が接続される船底4を有している。これにより、船底4上に、主機8や補機等を設置するスペースを確保しやすい。
さらに、計画喫水線Lpよりも上方の舷側3A、3Bは、鉛直部11により形成されている。つまり、計画喫水線Lpよりも上方において、船幅方向Dwにおける貨物積載スペースが最大限に確保される。
【0030】
したがって、上述した第一実施形態の船舶1によれば、船体2における船首尾方向Daの最大断面形状部2mにおいて、計画喫水線Lpの下方における断面積を小さくすることができる。これにより、船体2の柱形係数Cpを適切な値に設定することができる。したがって、主機8の出力増加を抑えつつ、低燃費化を図り、効率良く航行を行うことが可能となる。
また、計画喫水線Lpよりも上方の舷側3A、3Bは、鉛直部11により形成されているので、計画喫水線Lpよりも上方において、船幅方向Dwにおける貨物積載スペースを最大限に確保し、貨物積載量の減少を抑えることができる。
その結果、貨物積載量を確保しつつ、主機8の出力増加を抑え、低燃費化を図ることが可能となる。
【0031】
また、計画喫水線Lp付近における船体2の幅寸法が小さくなるのを抑えつつ、計画喫水線Lpの下方で船体2の断面積を減少させることができる。これにより、船体2の復原能力を示す基線からの横メタセンタ高さが高くなる。
【0032】
ここで、基線(船高さ方向Dhにおける船体2の最も下方の位置)からの横メタセンタ高さが高いほど船体2の有する復元性能も高くなる。
図2に示すように、基線からの横メタセンタ高さは、「基線Kから排水容積の容積中心Bまでの高さKB」と、「メタセンタ半径BM」との和(KB+BM)により計算される。メタセンタ半径BMは、「喫水高さSH位置で基線Kに平行な平面で船体2を切った水線面の、船首尾方向Daの船体2の中心線まわりの断面2次モーメント」を、「排水容積V」で除して得られる。
【0033】
例えば、船体2の幅寸法が小さくなることを抑えつつ計画喫水線Lpの下方で船体2の断面積を減少させ、船首尾中央部の最大断面形状部2m付近の排水容積の減少分を船首部及び船尾部で増加させて船体2の排水容積Vを変えなければ、横メタセンタ半径の減少は抑えられる。
【0034】
船首部及び船尾部の排水容積Vを変えずに、船体2の最大断面形状部2mの断面積をこの実施形態の上述した手法で減少させれば(言い換えれば、船体2の排水容積Vを減じれば)メタセンタ半径BMが増加する。更に、船体2の最大断面形状部2mの断面積を、この実施形態の上述した手法で減じれば、基線Kから排水容積の容積中心Bまでの高さKBも高くすることができる。これにより、基線Kから排水容積の容積中心Bまでの高さKBと、メタセンタ半径BMとの和がより大きくなり、横メタセンタ高さを大きくできる。このようにすることで、船体2の復原能力を示す基線からの横メタセンタ高さが高くなり、船体2の復原力が向上する。したがって、貨物を積載した際の船舶1の安定性を確保するために、船底4付近に積載する海水バラスト量を抑えることができる。その結果、船体重量及び排水容積の減少につながり、主機8の出力増加を抑えることができる。
【0035】
上記第一実施形態では、鉛直部11の下端11bが、計画喫水線Lpの高さの90~110%に位置している。また、傾斜部12は、計画喫水線Lpから1m下方の位置P2における傾斜部12の接線Lkと計画喫水線Lpとの交差位置P1が、鉛直部11に対して船体2の船幅寸法SWの±3%の範囲内に配置されている。また、傾斜部12は、計画喫水線Lpから1m下方の位置P2における傾斜部12の接線Lkが水平方向に対して30°以上80°未満の交差角度θ1となるよう形成されている。
このように構成することで、主機8の出力増加を抑え、低燃費化を図ることと、貨物積載量を確保することとを、バランスよく実現することが可能となる。
【0036】
(第二実施形態)
次に、この発明に係る船舶の第二実施形態について説明する。以下に説明する第二実施形態においては、第一実施形態と舷側の構成のみが異なるので、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0037】
図4は、上記船舶の第二実施形態における船舶の構成を示す図であり,
図1のA-A線に沿う断面図である。
図4に示すように、この第二実施形態の船舶1Bは、第一実施形態と同様、例えば、車両を運搬可能な車両運搬船である。船舶1Bは、船体2B、を備えている。
船体2Bは、舷側3A,3Bと、船底4と、複数層の甲板7と、を有している。
【0038】
図4に示すように、舷側3A、3Bは、それぞれ、船体2Bにおける船首尾方向Daの最大断面形状部2mにおいて、鉛直部(鉛直舷側部)21と、傾斜部(傾斜舷側部)22と、を有している。
【0039】
鉛直部21は、船高さ方向Dhに延びている。鉛直部21の下端21bは、計画喫水線Lpよりも上方に位置している。鉛直部21の下端21bは、船高さ方向Dhにおいて、船底4から計画喫水線Lpまでの喫水高さSHの2倍以下の高さに配置されている。
【0040】
傾斜部22は、鉛直部21の下端21bから下方に向かうに従って船幅方向Dw中央に向かって延びている。傾斜部22は、鉛直部21の下端21bの下方で、計画喫水線Lpに交差している。傾斜部22は、船底4の船幅方向Dwの端部4aに接続されている。傾斜部22は、平面状であってもよいし、適宜の湾曲面であってもよい。この実施形態の傾斜部22は、鉛直部21の下端21bと船底4の端部4aとを、船体2Bの外方に向かって凸となるよう湾曲して接続する湾曲面22wである場合を例示している。この湾曲面22wは、一定の曲率半径で湾曲していてもよいし、鉛直部21の下端21bから船底4の端部4aに向かって曲率半径が変化するようにしてもよい。
【0041】
傾斜部22は、計画喫水線Lpよりも上方において、上方に向かって船幅方向Dw外側に向かって延びている。鉛直部21の下端21bは、計画喫水線Lpよりも上方において、傾斜部22と接続している。つまり、鉛直部21は、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4よりも、船幅方向Dw外側に張り出して位置している。鉛直部21は、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4よりも船幅方向Dw外側に、所定寸法Xだけ張り出した位置に配置されている。交点P4よりも船幅方向Dw外側に鉛直部21の張り出している寸法Xは、例えば、1.5m以上3.5m以下とすることができる。
また、鉛直部21の下端21bは、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4に対し、船高さ方向Dh上方で且つ船幅方向Dw外側の所定角度θ2の範囲内に配置されている。ここで、角度θ2は、例えば20°以上60°以下とすることができる。
また、鉛直部21の下端21bは、計画喫水線Lpから船高さ方向Dh上方に、所定の高さH2の範囲内に配置されている。ここで、高さH2は、例えば、1.2m以上5.5m以下とすることができる。
このようにすることで、船体2B内において鉛直部21の船幅方向Dw内側に設けられる甲板7では、乗用車(例えば幅1.5m以上)からトレーラ(例えば幅3.1m以下)等の車両の積載スペースを、船幅方向Dwで片側1列分ずつ拡幅できる。
【0042】
したがって、上述した第二実施形態の船舶1Bによれば、鉛直部21は、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4よりも、船幅方向Dw外側に張り出して位置している。これにより、計画喫水線Lpよりも上方において、船幅方向Dwにおける貨物積載スペースを増大させることができる。
【0043】
また、計画喫水線Lpの上方における鉛直部21による船幅拡幅により、貨物積載スペースが増大すると、船舶1の復原性が低下する。これに対し、計画喫水線Lp付近における船体2Bの幅寸法が小さくなるのを抑えつつ、計画喫水線Lpの下方で船体2Bの断面積を減少させることで復原性が向上するので、復原性の低下を補うことができる。したがって、貨物を積載した際の船舶1Bの安定性を確保するために、船底4付近に積載する海水バラスト量を抑えることができる。その結果、船体重量及び排水容積の減少につながり、主機8の出力増加を抑えることができる。
【0044】
また、上記第一実施形態と同様、計画喫水線Lp付近における船体2Bの幅寸法が小さくなるのを抑えつつ、計画喫水線Lpの下方で船体2Bの断面積を減少させることができる。これにより、貨物積載量を確保しつつ、船体の柱形係数Cpを適正値に設定することにより、主機8の出力増加を抑え、低燃費化を図ることが可能となる。
【0045】
また、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4に対し、鉛直部21の下端21bは、船幅方向Dw外側に角度θ2が20°以上60°以下となる範囲内に配置されている。また、鉛直部21の下端21bは、船底4から計画喫水線Lpまでの喫水高さSHの2倍以下の高さH2に配置されている。
このように構成することで、傾斜部22と計画喫水線Lpとの交点P4よりも船幅方向Dw外側に張り出して位置する鉛直部21により、船幅方向Dwにおける貨物積載スペースを増大させることができる。
【0046】
(その他の変形例)
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、船舶1の船種は特定のものに限られず、例えばフェリー、RORO船、PCTC以外の種々の船種を採用できる。
【符号の説明】
【0047】
1、1B 船舶
2、2B 船体
2m 最大断面形状部
3A、3B 舷側
4 船底
4a 端部
5 プロペラ
6 舵
7 甲板
7a 乾舷甲板
7b 底部甲板
8 主機
9 機関室
11 鉛直部
11b 下端
12 傾斜部
12w 湾曲面
21 鉛直部(鉛直舷側部)
21b 下端
22 傾斜部(傾斜舷側部)
22w 湾曲面
A 中央断面積
Cb 方形係数
Cp 柱形係数
Da 船首尾方向
Dh 船高さ方向
Dw 船幅方向
H1 計画喫水線相当高さ
H2 高さ
Lk 接線
Lp 計画喫水線
P1 交差位置
P2 位置
P4 交点
SH 喫水高さ
SW 船幅寸法
V 排水容積
X 寸法
θ1 交差角度
θ2 角度