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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】包装用紙
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20240705BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20240705BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20240705BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B65D65/40 F ZAB
D21H27/10
D21H19/20 A
B32B29/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019171155
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021046233
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】沓名 稔
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154322(JP,A)
【文献】特開昭63-126994(JP,A)
【文献】特開2001-254293(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107025(WO,A1)
【文献】特開2002-013095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0054117(US,A1)
【文献】特開2018-053400(JP,A)
【文献】特開2018-053374(JP,A)
【文献】特開2006-298414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00-65/46
D21H 11/00-27/42
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m2であり、前記包装用紙の坪量が10~100g/m2であり、前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%~9.6%であり、紙基材に少なくともサイズ剤が含まれることを特徴とする前記包装用紙。
【請求項2】
サイズ剤が中性ロジンサイズ剤、強化ロジンサイズ剤、酸性ロジンサイズ剤、弱酸性ロジンサイズ剤、AKD(アルキルケテンダイマー)又はASA(アルケニル無水コハク酸)ことを特徴とする請求項1に記載の包装用紙。
【請求項3】
前記紙基材のCD方向への引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であり、かつ前記包装用紙の引張破断伸び率よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の包装用紙。
【請求項4】
前記紙基材に含まれるパルプ成分の内、針葉樹パルプが5質量部以上含まれることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の包装用紙。
【請求項5】
紙基材に水溶性高分子が含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の包装用紙。
【請求項6】
紙基材が、水溶性高分子として、澱粉類および/またはポリアクリルアミドを含むことを特徴とする請求項5に記載の包装用紙。
【請求項7】
紙基材中にフッ素系の撥水撥油剤を含まないことを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載の包装用紙。
【請求項8】
紙基材にパルプ100質量部に対して0.05~1.0質量部の中性ロジンサイズ剤が含まれることを特徴とする請求項1~7のいずれか一つに記載の包装用紙。
【請求項9】
紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも1層のヒートシール層を有する包装用紙の製造方法であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の乾燥塗工量が全層で2~10g/m 2 であり、前記包装用紙の坪量が10~100g/m 2 であり、前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%~9.6%であり、
サイズ剤を含有するパルプを主成分とする紙料から紙基材を製造することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項10】
サイズ剤が中性ロジンサイズ剤、強化ロジンサイズ剤、酸性ロジンサイズ剤、弱酸性ロジンサイズ剤、AKD(アルキルケテンダイマー)又はASA(アルケニル無水コハク酸)ことを特徴とする請求項に記載の包装用紙の製造方法。
【請求項11】
紙基材中にフッ素系の撥水撥油剤を含まないことを特徴とする請求項9または10に記載の包装用紙の製造方法。
【請求項12】
紙基材にパルプ100質量部に対して0.05~1.0質量部の中性ロジンサイズ剤が含まれることを特徴とする請求項9~11のいずれか一つに記載の包装用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックの使用量を低減した包装用紙に関する。また、袋として使用するのに適した、特に折り曲げ加工などの加工適性に優れた包装用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックゴミ問題が深刻化している。世界のプラスチックの生産量は4億トン/年を超えると言われ、その中でも包装容器セクターでのプラスチック生産量が多く、プラスチックゴミの原因になっている。プラスチックは半永久的に分解せず、そのゴミは自然環境下でマイクロプラスチック化し、生態系に深刻な悪影響を与えている。包装容器に使用されるプラスチックとしては、飲料のボトル等に使用されるポリエチレンテレフタレート(PET)、レジ袋、容器のラミネートに使用されるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)が最も多く使用されている。特に海洋の汚染は著しく、そのプラスチックゴミは回収不可能と言われている。今後、プラスチックの使用を低減することが地球環境にとって必要である。
【0003】
一方で、プラスチックゴミ対策として微生物によって完全に分解され得る生分解性プラスチックの応用が世界中で提案されている。生分解プラスチックは自然界で一定期間の内に分解されるが、分解されるまではやはりゴミであり、それらの使用量及び廃棄量が低減されない限りにおいては、即効性のある対策とは言えない(特許文献1、2参照)。
【0004】
即効性のある対策手段として、プラスチックを紙に代替することが提案されているが、紙を袋や容器に加工する際には、ヒートシール剤として、ポリエチレンやポリプロピレンが多量にラミネートされて使用される。これらプラスチックのラミネート量は、商品コンセプトによって様々だが、概ね20~50g/mであり、300g/mと多量になる場合もある。従って、プラスチックを紙に代替した包装容器においても、依然としてプラスチックの使用量は十分に低減されないという問題があり、早急に、直接的にプラスチックの使用を低減する手段が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-148444号公報
【文献】特開2013-141763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、プラスチックの使用量を低減することができる包装用紙を提供することにある。特に、袋として使用するのに適した、特に折り曲げ加工などの加工適性に優れた包装用紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、従来のプラスチックラミネート紙(以降、ポリラミ紙と略称する場合がある)のポリエチレンやポリプロピレンの使用量を低減するために、アイオノマーを使用する。すなわち、本発明による包装用紙は、紙基材の少なくとも一方の面に少なくとも一層のヒートシール層を有する包装用紙であって、前記ヒートシール層がアイオノマーを含み、前記ヒートシール層の塗工量が2~10g/mであることを特徴とする。従来のポリラミ紙のヒートシール層に使用されているポリエチレンやポリプロピレンのラミネート量が20g/mを超えることと比較すると、ヒートシール層用のプラスチックの使用量を従来の約10~50%にまで削減することができる。ここでアイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた合成樹脂である。例えば、アクリル系高分子とエチレンを、ナトリウムや亜鉛などの金属カチオンを加え分子間結合させて製造される。
【0008】
本発明においては、前記包装用紙の坪量が10~100g/mであり、前記包装用紙のCD方向(Cross Direction;抄紙機の幅方向(横方向))の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であることが必要である。この範囲内にない場合には折り曲げ時に、ヒートシール層が破壊されて耐水性と耐油性が損なわれる。これはポリエチレン層に比べて、アイオノマーを含むヒートシール層が、薄いことに加えて、柔軟性や伸びが小さく割れやすいためである。引張破断伸び率が低い場合には、折り曲げ加工時に折り部の歪曲した頂点に力が集中して繊維間が引き伸ばされ、随伴してヒートシール層も引き伸ばされることで割れが発生する。引張破断伸び率が高い場合には、折り曲げ加工時に折り部の歪曲した部位に繊維間の伸びが平均化されるため、ヒートシール部の割れが発生せず、耐水性と耐油性に優れた包装用紙が得られるからである。
【0009】
また坪量が10g/m~100g/mであることにより、柔軟性のある袋になり、実用的な包装用紙が得られるからである。
【0010】
本発明においては紙基材にサイズ剤を含んでもよい。耐水性と耐油性に優れた包装用紙が得られるからである。
【0011】
本発明においては紙基材のCD方向への引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であり、かつ前記包装用紙の引張破断伸び率よりも小さいが好ましい。耐水性と耐油性に優れた包装用紙が得られるからである。
【0012】
本発明においては紙基材に含まれるパルプ成分の内、針葉樹パルプが5質量部以上含まれることが好ましい。耐水性と耐油性に優れた包装用紙が得られるからである。
【0013】
本発明においては紙基材に水溶性高分子が含まれることが好ましく、水溶性高分子として、澱粉類および/またはポリアクリルアミドを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、プラスチック使用量が低減された包装用紙を製造することが可能である。本発明の包装用紙を用いた容器製品であれば、仮に自然界にゴミとして不適切に放出された場合であっても、自然環境に与えるプラスチックゴミとしての悪影響を小さくすることが可能であり、プラスチックゴミ問題の解決の一助となる。なお、本発明における包装用紙は、例えば、袋、アイスクリーム等の食糧カップ、コーヒー等の飲料用コップ、ホットスナック等の食糧容器及びトレイ、箱、ケース、器、封筒等の包装容器全般に加工可能である。特に薄物包装紙として袋への加工適性と、耐水性と耐油性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
本実施形態において、アイオノマーとは、金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂の総称であり、アクリル酸またはメタクリル酸をエチレンなどと組み合わせた樹脂である。すなわち、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、エチレン・アクリル系共重合物の金属塩、エチレン・ウレタン系共重合物の金属塩、エチレン・フッ素系高分子共重合物の金属塩、などは全てアイオノマーと呼ばれる。塩を形成する金属としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の各イオンなどである。本発明においては、前記アイオノマーがエチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩である自己乳化型エマルジョンであることが好ましい。ヒートシール層の塗工量が比較的少なくとも、十分なヒートシール強度を有するヒートシール層を設けることができる。
【0017】
本実施形態においては、紙基材の少なくとも一方の面に、アイオノマーエマルジョンを含有するヒートシール層用塗工液を塗工し、乾燥することでヒートシール層を設けることができる。アイオノマーエマルジョンを用いることにより、塗工量を比較的低くコントロールすることが可能であり、更に水系のアイオノマーエマルジョンを用いることによりVOC排出が無くなり自然環境に対する負荷を小さくすることができる。ヒートシール層の塗工量は、紙基材の片面あたり、固形分換算で2~10g/mであり、好ましくは3~8g/mである。2g/m未満の場合は十分なヒートシール強度を満足できない。逆に10g/mを超える場合は、ヒートシール強度の面からは過剰品質であり、かつプラスチック削減効果に乏しくなる。なお、本発明の包装用紙において、ヒートシール層は、紙基材の表面の一部分のみに設けられているのではなく、全面に設けられていることが通常である。すなわち、ヒートシール層は、例えば網状、島状、線状など、ヒートシールによる接着に必要な部分にのみ設けられているのではなく、紙基材の表面の全面を覆うように設けられていると良い。
【0018】
ヒートシール層用塗工液には、アイオノマーエマルジョンの他に、各種助剤を添加してもよい。例えば、粘度調整剤、消泡剤、界面活性剤やアルコールなどのレベリング剤、着色顔料、着色染料などである。しかしながら、これらの助剤の添加は、ヒートシール強度の低下を招きやすいことから、添加する場合には少量であることが好ましい。本実施形態においては、ヒートシール層用塗工液がアイオノマーエマルジョンのみからなることが好ましい。
【0019】
ヒートシール層用塗工液を塗工する方式としては、特に限定するものではなく、一般に使用されている塗工装置が使用できる。例えばエアーナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、メータリングブレード式のサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、スプレーコーター、ゲートロールコーター、リップコーター等の公知の各種塗工装置を用いることができる。
【0020】
本実施形態においては、前記ヒートシール層が2層以上で形成されている場合もある。2層以上とすることにより、包装用紙の透気度を高くすることができ、さらに、耐水性と耐油性を付与することができ、プラスチックフィルムラミネート紙と同様かそれ近い特性を得ることができるからである。ヒートシール層が2層以上の場合、紙基材に最も近い最下層のヒートシール層の塗工量が、他のヒートシール層の合計塗工量よりも多い方が好ましい。包装用紙の透気度をさらに改善することができ、耐水性と耐油性が更に向上するからである。
【0021】
本発明においては、前記包装用紙の坪量が10~100g/mであり、前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であることが必要である。坪量が10g/m未満では、袋としての強度を保てず、実用的に使用することができない。また坪量が100g/mを超える場合は、袋としての柔軟性が低下するため、実用的に使用することができない。CD方向の引張破断伸び率が3%を下回る場合は、折り曲げ加工時に折り部の歪曲した頂点に力が集中して繊維間が引き伸ばされ、随伴してヒートシール層も引き伸ばされることで割れが発生し、耐水性、耐油性が低下する。CD方向の引張破断伸び率が3%以上の場合には、折り曲げ加工時に折り部の歪曲した部位に繊維間の伸びが平均化されるため、ヒートシール層の割れが発生しない。MD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)の引張破断伸び率については特に規定しない。MD方向に繊維が配列しており、繊維間の隙間が広がり難いため、ヒートシール層の割れが発生しないと推測される。
【0022】
本実施形態においては、前記紙基材のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が3%以上であり、かつ前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率よりも小さいことが好ましい。この範囲にない場合は、耐水性と耐油性が低下する恐れがある。紙基材のCD方向の引張破断伸び率は、パルプの種類、パルプのフリーネス、紙力剤などの薬品添加、密度などによって調整することができる。以下、前記紙基材のCD方向の引張破断伸び率が前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率よりも小さい場合の現象と効果について記載する。紙基材へヒートシール層用塗工液を塗布すると、繊維に塗工液中の水分が吸収され、乾燥時に水分が蒸発する際に繊維が収縮し、引張破断伸び率が塗工前に比べて大きくなる傾向にある。特に水分を吸収したヒートシール層近傍の繊維の引張破断伸び率が大きくなると考えられ、折り曲げ加工時に折り部の湾曲した部位の、特にヒートシール層近郷の繊維間の伸びがより平均化されるため、ヒートシール層の割れが発生しにくくなる。前記包装用紙のCD方向の引張破断伸び率(JIS P-8113)が、前記紙基材のCD方向の引張破断伸び率より0.1%以上大きいことが好ましい。一方で、前記紙基材のCD方向の引張破断伸び率が前記包装用紙のCD方向の引張伸び率よりも小さくない場合は、前記効果がないため、折り曲げ加工時にヒートシール層の割れが発生する恐れがある。例えば、ヒートシール層用塗工液を塗工時に、紙基材の繊維が水分を吸収しない状態にあると(非吸収性の樹脂や耐水性の素材に覆われるなど)、紙基材のCD方向の引張破断伸び率が前記包装紙のCD方向の引張破断伸び率よりも小さくならない場合がある。
【0023】
なお、紙基材とヒートシール層の間に、別の塗工層(アンダー層)を設ける場合においては、紙基材のCD方向の引張破断伸び率が包装用紙のCD方向の引張破断伸び率よりも小さいことが好ましい。別の層を設ける際に前記の理由により引張伸び率が大きくなってもよい。
【0024】
本実施形態において用いる紙基材としては特に限定するものではなく、パルプを主成分とする公知の紙基材を用いることができる。紙基材の主成分となるパルプとしては、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)、LUKP(広葉樹未さらしクラフトパルプ)、NUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びケナフ、バガス、竹、コットン、マニラ麻などの非木材パルプを用いることができる。これらは、単独で使用するか、又は任意の割合で混合して使用することが可能である。広葉樹パルプは比較的に短繊維であり、引張破断伸びに対しては不利に働く傾向がある。一方で針葉樹パルプ、非木材パルプは広葉樹パルプに比べ長繊維であり、強度が強く、引張破断伸びを大きくする傾向にある。例えば、パルプとして、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)やNUKP(針葉樹未さらしクラフトパルプ)などの針葉樹パルプをパルプ中5質量部以上使用することが好ましい。袋として使用する場合の強度が実用上十分であり、また耐水性と耐油性に優れる。5質量部を下回ると袋として使用する場合の強度が実用上不足するおそれがあり、また引張破断伸びが低下し耐水性と耐油性が低下するおそれがある。好ましくは、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)を5~20質量%およびLBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)を95~80質量%を含むパルプを使用するとよい。さらに、引張破断伸びをさらに強化する場合は、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)を80~95質量%およびLBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)を5~20質量%を含むパルプを使用することが好ましい。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲において、合成繊維を更に配合することができる。環境保全の観点から、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、未さらしパルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。また、例えば、適切なパルプの叩解度としては、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、200~700mlCSF、例えば、320~6600mlCSFである。パルプを叩解することにより、パルプ繊維に微小な枝分かれや毛羽立ちが発生し、パルプ繊維同士の結合をより強くする効果がある。フリーネスが200mlを下回ると、過度に叩解され、パルプ繊維同士の結合が密になりすぎるため、引張破断伸び率が低下する傾向にある。フリーネスが700mlを超えると、パルプ繊維同士の結合が弱く、引張破断伸び率が低下する傾向にある。フリーネスを適切な範囲に調整することで、引張破断伸び率を調整することが可能である。
【0025】
紙基材としては填料を含有するものも使用できる。填料としては、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムを例示できる。紙基材中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、例えば、1~30質量部である。例えば、パルプの乾燥質量100質量部に対して、軽質炭酸カルシウムを1~15質量部、好ましくは2~10質量部含むとよい。
【0026】
また、紙基材に水溶性高分子を含有することで、引張破断伸び率を向上させることができる。水溶性高分子としては、コーン澱粉、じゃがいも澱粉、タピオカ澱粉や、これらを加工した架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどを使用することができる。とくに澱粉類と、ポリアクリルアミドの使用が好ましい。水溶性高分子の添加量としてはパルプ100質量部に対して、0.05質量部以上である。さらに好ましくは0.1質量部以上である。例えば、パルプ100質量部に対して0.1~10質量部、好ましくは、0.1~7.0質量部の水溶性高分子含有させることが好ましい。さらには、パルプ100質量部に対して、0.1~7.0質量部、好ましくは0.1~5.0質量部のポリアクリルアミド、および/または、0.1~3.0質量部、好ましくは0.1~2.0質量部の澱粉、好ましくはカチオン化澱粉を含有させることが好ましい。含有させる方法としては、内添、塗布(サイズプレス、エアーナイフコーターなど)などの既知の方法を使用することができる。
【0027】
また、紙基材にサイズ剤を含有することが好ましい。サイズ剤を含有させることでヒートシール層やアンダー層を塗工する際に、塗工液の基材への浸透が適度に抑えられ、耐水性や耐油性に優れる。また、浸透が適度に抑えられると塗工層近傍の繊維が特に水分を吸収し引張破断伸び率に優位に働くと考えられる。含有量は例えばパルプ100質量部に対して0.05質量部以上である。サイズ剤の種類としては、中性ロジンサイズ剤、強化ロジンサイズ剤、酸性ロジンサイズ剤、弱酸性ロジンサイズ剤、AKD(アルキルケテンダイマー)又はASA(アルケニル無水コハク酸)などが挙げられる。フッ素系の撥水撥油剤は、コストが高く経済性に劣り、環境負荷も高いためサイズ剤としては好ましくない。本発明においては、紙基材にパルプ100質量部に対して0.05~1.0質量部、さらには0.1~0.5質量部の中性ロジンサイズ剤を含有させることが好ましい。
【0028】
また、紙基材には、パルプと填料に加えて、各種公知の製紙用添加剤が含まれていても
よい。製紙用添加剤としては、例えば、サイズ剤、湿潤紙力増強剤などの内添紙力増強剤、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤などがある。また、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子が塗布されていてもよい。
【0029】
紙基材の抄紙方法は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機で製造できる。また、本発明においては、紙基材としては単層抄きでも多層抄きでも、複数層の貼合品であってもよい。
【0030】
紙基材には、ヒートシール層以外の塗工層(アンダー層)が1層以上設けられていてもよく、例えば、顔料と接着剤を含有する顔料塗工層が設けられたものであってもよい。顔料塗工層中の顔料としては、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の顔料を用いることができ、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等)、カオリン(クレーを含む)、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料、又はアクリル、スチレン、塩化ビニル、ナイロンそのものや、これらを共重合して得られる有機顔料(いわゆるプラスチックピグメント)が挙げられる。例えば、顔料としては、20~40質量部のカオリンと60~80質量部の重質炭酸カルシウムの組み合わせを使用することができる。また、接着剤も一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の接着剤を用いることができ、例えば、ブタジエン系共重合ラテックス、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉などの澱粉類、ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、等の合成樹脂類等を例示できる。顔料塗工層中の顔料と接着剤の配合割合は特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し接着剤5~50質量部とすることが好ましい。例えば、接着剤としては、顔料100質量部に対して、1~5質量部のリン酸エステル化澱粉と5~15質量部のスチレンブタジエンラテックスの組み合わせを使用することができる。顔料塗工層には、本発明の目的とする効果を損ねない範囲で各種助剤を含んでもよく、例えば、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、耐水化剤、分散剤、流動変性剤、紫外線吸収剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、pH調節剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤が含まれていてもよい。また、このような顔料塗工層の塗工量としては、例えば、基紙の片面あたり、固形分換算で、2~40g/mである。本発明の包装用紙の実施形態の一つとして、ヒートシール層はこのような顔料塗工層の上に設けられてもよく、また、別の実施形態としては一方の面のみに顔料塗工層が設けられた紙基材の顔料塗工層が設けられていない面にヒートシール層が設けられていてもよい。
【実施例
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0032】
(実施例1)
(紙基材の作製)
針葉樹晒クラフトパルプ90部と広葉樹晒クラフトパルプ10部を混合し、カナディアンスタンダードフリーネス400mlcsfとなるように叩解した。次いで、叩解したパルプに、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123、奥多摩工業社製)3.5部、ポリアクリルアミド(商品名:DS4429、星光PMC社製)3部、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)1部、中性ロジンサイズ剤(商品名:CC1401、星光PMC社製)0.3部に水を加えて紙料を調製し、長網多筒式抄紙機を用いて坪量38g/mの原紙を作製した。この原紙にサイズプレスによって、酸化澱粉(商品名:MS3800、日本食品化工社製)を両面あたりの乾燥塗布量が2g/mとなるように塗布し、乾燥して40g/mの基紙を得た。CD方向の引張破断伸び率が7.0%であった。
【0033】
(包装用紙の作製)
上記で得られた紙基材の片面に、水系アイオノマーエマルジョン(商品名:ケミパールS-300、三井化学社製、組成:エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩、自己乳化型エマルジョン、マイクロトラック法平均粒子径0.5μm)を乾燥塗工量が5g/mになるようにエアーナイフコーターを用いて塗工し、乾燥してヒートシール層を設け、包装用紙を作製した。CD方向の引張破断伸び率が9.5%であった。
【0034】
(実施例2)
パルプを針葉樹晒クラフトパルプ10部と広葉樹晒クラフトパルプ90部に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が4.0%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が5.1%であった。
【0035】
参考例3)
中性ロジンサイズ剤(商品名:CC1401、星光PMC社製)を0部に変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が4.0%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.8%であった。
【0036】
(実施例4)
ポリアクリルアミド(商品名:DS4429、星光PMC社製)を0部に変更し、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)を0部に変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.2%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.0%であった。
【0037】
(実施例5)
パルプを針葉樹晒クラフトパルプ0部と広葉樹晒クラフトパルプ100部に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.3%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.2%であった。
【0038】
(実施例6)
カナディアンスタンダードフリーネス650mlcsfに変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.4%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.3%であった。
【0039】
(実施例7)
パルプを針葉樹未晒クラフトパルプ90部と広葉樹晒クラフトパルプ10部に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が7.2%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が9.6%であった。
【0040】
(実施例8)
軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123、奥多摩工業社製)を10部に変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.1%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が3.9%であった。
【0041】
(実施例9)
カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)を0部に変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.5%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.5%であった。
【0042】
(実施例10)
ポリアクリルアミド(商品名:DS4429、星光PMC社製)を0部に変更した以外は実施例2と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が3.4%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が4.4%であった。
【0043】
(比較例1)
パルプを針葉樹晒クラフトパルプ0部と広葉樹晒クラフトパルプ100部に変更し、カナディアンスタンダードフリーネス650mlcsfに変更し、ポリアクリルアミド(商品名:DS4429、星光PMC社製)を0部に変更し、カチオン化澱粉(商品名:ネオタック30T、日本食品加工社製)を0部に変更し、中性ロジンサイズ(商品名:CC1401、星光PMC社製)を0部に変更し、軽質炭酸カルシウム(商品名:TP-123、奥多摩工業社製)を25部に変更した以外は実施例1と同様にして包装用紙を作製した。紙基材のCD方向の引張破断伸び率が2.5%であった。包装用紙のCD方向の引張破断伸び率が2.8%であった。
【0044】
各実施例及び比較例で得られた包装用紙について、以下に示す方法により評価を行った。得られた結果を表1~3に示す。
【0045】
(1)CD方向の引張破断伸び率
JIS P-8113に準拠して測定した。
【0046】
(2)ヒートシール強度
得られた包装用紙を、幅8mm、長さ15cmのサイズに2枚カットし、包装用紙の表面と裏面とを重ね合わせ、ヒートシール装置(パルメック社製、型番:PTS-100)で、一定条件(接着幅:4mm、温度:180℃、圧力0.4MPa、押し当て時間0.5秒、ピッチ:4mm)にてヒートシールした。次いで、ヒートシールしたサンプルを、剥離強度試験機(島津製作所製、型番:オートグラフAGS-X)にて、一定条件(剥離速度:100mm/分、剥離長さ:10cm)で剥離して、紙基材、ヒートシール層内、ヒートシール層-ヒートシール層界面のいずれの面で剥離しているか評価した。紙基材の内部で破壊が起こり剥離(一般的に材破と呼ばれる)するのが良い。
◎:紙基材から材破しており、実用レベル。
〇:紙基材から材破しているが、一部ヒートシール層から剥離が発生している。実用レベル。
△:ヒートシール層内で破壊され剥離している。実用不可レベル。
×:ヒートシール層-ヒートシール層界面で剥離している。実用不可レベル。
【0047】
(3)折り曲げ部の耐水性
得られた包装用紙を、幅5cm、長さ10cmのサイズにカットし、ヒートシール層側を内側に二つ折りにして、折り目の上を5kgの金属製ロールを1往復通過させた。折り部は抄紙紙のMD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)が折り目となるようにした。折り部を開いて、ヒートシール層側の折り部に、JIS K 6768:1999(プラスチック-フィルム及びシート-濡れ張力試験方法)に準拠した表面張力38mN/mの試験液を滴下する。滴下15秒経過後に試験液を拭き取り、試験液の紙基材への浸透を評価した。
◎:浸透なく、実用レベル。
〇:僅かに浸透しているが、実用レベル。
△:浸透しており、実用不可レベル。
×:裏面へ浸透液が抜けており、実用不可レベル。
【0048】
(4)折り曲げ部の耐油性
得られた包装用紙を、幅5cm、長さ10cmのサイズにカットし、ヒートシール層側を内側に二つ折りにして、折り目の上を5kgの金属製ロールを1往復通過させた。折り部は抄紙紙のMD方向(Machine Direction;抄紙機の進行方向)が折り目となるようにした。折り部を開いて、ヒートシール層側の折り部に、TAPPI T-559cm-02(キット法)に準拠したキット値8の試験液を滴下する。滴下15秒経過後に試験液を拭き取り、試験液の紙基材への浸透を評価した。
◎:浸透なく、実用レベル。
〇:僅かに浸透しているが、実用レベル。
△:浸透しており、実用不可レベル。
×:裏面へ浸透液が抜けており、実用不可レベル。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より明らかなように、実施例1、2、4~10、参考例3による包装用紙は比較例1と比較して、CD方向の引張破断伸び率が3.0%以上であるので、ヒートシール性と、折り曲げ部の耐水性、折り曲げ部の耐油性に優れている。実験結果が示している様に、本発明であれば、従来のポリエチレンラミネート量と比較してヒートシール層の使用量を著しく軽減し、プラスチックゴミ削減に貢献しつつ、バリア性、撥水性及び撥油性に優れた包装用紙を提供することができる。