(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】農作業車
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240705BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240705BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
G05D1/43
(21)【出願番号】P 2020003697
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-06-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 樹
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-117558(JP,A)
【文献】特開2019-013224(JP,A)
【文献】特開2017-134471(JP,A)
【文献】特開2019-185437(JP,A)
【文献】特開2019-097533(JP,A)
【文献】特開2018-117563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
G05D 1/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の境界線に沿った外周領域と前記外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられた前記圃場を自動走行する農作業車であって、
機体に昇降可能に設けられた作業装置と、
前記圃場での前記機体の位置である機体位置を算出する機体位置算出部と、
圃場マップに基づいて自動走行の目標となる走行経路を生成する走行経路生成部と、
前記走行経路に基づいて前記機体を自動走行させる自動走行制御部と、
前記作業装置を上昇させた状態での非作業走行から前記作業装置を下降させた状態での自動作業走行に移行する前に行われる停車を伴う自動一時停止を検知する運転制御状態検知部と、
前記外周領域
における周回直進経路で前記自動作業走行から次周回直進経路への前記作業装置を上昇させた状態での前記非作業走行による圃場コーナ方向転換走行の後に行われる前記次周回直進経路での前記自動作業走行における前記自動一時停止の検知に基づいて、前記自動一時停止の状態から前記外周領域での前記自動作業走行に移行するための前記自動作業走行の開始条件に運転者による、前記作業装置が下降しても前記圃場に沿った境界物と干渉しないことを確認する自動開始前操作を含める自動作業走行管理部と、を備える農作業車。
【請求項2】
前記自動開始前操作が前記作業装置を下降させる下降操作である請求項1に記載の農作業車。
【請求項3】
前記自動開始前操作が前記作業装置の下降位置を確認したことを示す操作である請求項1または2に記載の農作業車。
【請求項4】
前記自動開始前操作には前記下降位置を変更するための前記走行経路の変更が含まれている請求項3に記載の農作業車。
【請求項5】
前記自動作業走行管理部は前記運転者に前記自動開始前操作を要求する報知を行う請求項1から4のいずれか一項に記載の農作業車。
【請求項6】
圃場を自動走行する農作業車であって、
機体に昇降可能に設けられた作業装置と、
前記圃場での前記機体の位置である機体位置を算出する機体位置算出部と、
圃場マップに基づいて自動走行の目標となる走行経路を生成する走行経路生成部と、
前記走行経路に基づいて前記機体を自動走行させる自動走行制御部と、
前記作業装置を上昇させた状態での非作業走行から前記作業装置を下降させた状態での自動作業走行に移行する前に行われる停車を伴う自動一時停止を検知する運転制御状態検知部と、
前記自動一時停止の検知に基づいて、前記自動一時停止の状態から前記自動作業走行に移行するための前記自動作業走行の開始条件に運転者による前記作業装置の下降安全性確認のための自動開始前操作を含める自動作業走行管理部と、を備え、
前記自動開始前操作が前記開始条件となるのは、前記圃場内に存在する走行障害物を回避するための障害物回避走行経路における前記自動作業走行への移行時である農作業車。
【請求項7】
前記運転者による前記自動開始前操作には、前記自動開始前操作が前記作業装置を下降させる下降操作と、前記作業装置の下降位置を確認したことを示す操作と、前記下降位置を変更するための前記走行経路の変更と、のうちの少なくとも1つが含まれている請求項
6に記載の農作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場を自動走行して圃場作業を行う農作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圃場の境界線を最外周とする外周領域での自動走行作業が外周領域での圃場境界線に沿った周回走行によって行われ、外周領域の内側に位置する内部領域での自動走行作業が、内部領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行との繰り返しによって行われ田植機が開示されている。この田植機による自動作業走行は、予め生成された走行経路を目標として行われる。走行経路は、植付装置が上昇状態となる非作業走行のための非作業走行経路と、植付装置が下降状態となる作業走行のための作業走行経路とに分けられる。非作業走行から作業走行に移行する際に、植付装置は上昇状態から下降状態に自動的に姿勢変更する。植付装置が上昇したこと、及び植付装置が下降したことは、音声出力装置によって報知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-000039号公報(段落番号0092-段落番号0122)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1による田植機では、非作業走行経路に基づく非作業走行から作業走行経路に基づく作業走行へ移行するタイミングで植付装置が下降する。このため、設定されている作業走行経路と、圃場を境界付けている畔などの境界物との距離が正確でない場合、下降した植付装置が畔などの境界物と干渉して、植付装置が損傷するという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、作業走行を行う際に作業装置を下降させる自動走行可能な圃場作業において、作業装置と境界物等との干渉ができるだけ回避される農作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
圃場の境界線に沿った外周領域と前記外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられた前記圃場を自動走行する本発明による農作業車は、機体に昇降可能に設けられた作業装置と、前記圃場での前記機体の位置である機体位置を算出する機体位置算出部と、圃場マップに基づいて自動走行の目標となる走行経路を生成する走行経路生成部と、前記走行経路に基づいて前記機体を自動走行させる自動走行制御部と、前記作業装置を上昇させた状態での非作業走行から前記作業装置を下降させた状態での自動作業走行に移行する前に行われる停車を伴う自動一時停止を検知する運転制御状態検知部と、前記外周領域での前記自動作業走行における前記自動一時停止の検知に基づいて、前記自動一時停止の状態から前記外周領域における周回直進経路で前記自動作業走行から次周回直進経路への前記作業装置を上昇させた状態での前記非作業走行による圃場コーナ方向転換走行の後に行われる前記次周回直進経路でのでの前記自動作業走行に移行するための前記自動作業走行の開始条件に運転者による、前記作業装置が下降しても前記圃場に沿った境界物と干渉しないことを確認する自動開始前操作を含める自動作業走行管理部とを備える。
【0007】
この構成によれば、自動作業走行に移行する前に行われる停車を伴う自動一時停止の状態では、自動作業走行を開始するには、運転者によって自動開始前操作が行わなければならない。この運転者による自動開始前操作とは、作業装置が下降しても境界物等と干渉しないことが確認されたことを示す操作である。この確認を示す操作が自動作業走行の開始条件に含まれることで、他の開始条件が満たされていても、この確認を示す操作がなければ自動作業走行は開始されず、結果的に作業装置は下降しない。この自動一時停止の間に、運転者が、作業装置が下降しても境界物等と干渉しないかどうか確認することができる。もし、干渉しないことが確認されると、運転者は作業装置の下降を許可する操作を行う。これにより、農作業車は、自動一時停止の状態から自動作業走行に移行する。運転者が、作業装置と境界物等とが干渉すると判断すれば、運転者は、この干渉を回避する干渉回避行動を行う。
【0008】
作業装置が下降しても境界物等と干渉しないことを運転者が確認すると、自動一時停止の状態から自動作業走行に移行でき、作業装置は下降してもよいことになる。このことから、自動開始前操作として、運転者による作業装置の下降操作を採用することは好都合である。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動開始前操作が前記作業装置を下降させる下降操作である。
【0009】
もちろん、運転者が作業装置の下降操作を行わなくても、作業装置が下降しても境界物等と干渉しないことを運転者が確認したことを示す操作さえ行えば、自動的に作業装置が下降して、自動作業走行が開始されるように構成することも可能である。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動開始前操作が前記作業装置の下降位置を確認したことを示す操作である。
【0010】
運転者が、作業装置と境界物等とが干渉すると判断した場合の干渉回避行動の1つは、運転者が、次の自動作業走行のために設定されている走行経路を、作業装置と境界物等との干渉を避けるように、変更することである。このような走行経路の変更が行われると、下降する作業装置が境界物等と干渉することは避けられる。つまり、運転者が、作業装置と境界物等とが干渉すると判断した場合での、自動作業走行を開始させるための好適な自動開始前操作の1つは、走行経路の変更操作である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動開始前操作には前記下降位置を変更するための前記走行経路の変更が含まれている。その際、作業装置と境界物等とが干渉しない場合、走行経路の変更が不要となるので、運転者は走行経路の変更を不要とする操作を行う。
【0011】
この発明では、自動一時停止状態から自動作業走行移行するためには運転者による自動開始前操作が必要となるので、運転者がこの操作を認識していなければならない。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動作業走行管理部は前記運転者に自動開始前操作を要求する報知を行う。
【0012】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記圃場は、前記圃場の境界線に沿った外周領域と前記外周領域の内側に位置する内部領域とに分けられ、前記内部領域での自動走行作業が、前記内部領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行との繰り返しによって行われ、前記外周領域での自動走行作業が前記外周領域での前記境界線に沿った周回走行によって行われ、前記自動開始前操作が前記開始条件となるのは、前記外周領域での前記自動作業走行への移行時である。圃場で作業を行う農作業車において、下降する作業装置が損傷するような事象は、外周領域での畔などによって規定される境界線に沿った周回走行を始める際に最も多く生じる。このことから、自動開始前操作が、自動一時停止状態から自動作業走行移行するための開始条件となるのを、外周領域での自動作業走行への移行時とすることは、合理的である。
【0013】
下降により作業装置が損傷するような事象は、圃場に作業走行に支障を与える走行障害物が存在する場合でも、生じる。つまり、走行障害物を回避するための走行経路の精度が不十分であれば、下降する作業装置と走行障害物が干渉して、作業装置が損傷する。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記自動開始前操作が前記開始条件となるのは、前記圃場内に存在する走行障害物を回避するための障害物回避走行経路における前記自動作業走行への移行時である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】農作業車の一例である田植機の側面図である。
【
図2】自動走行による苗植付作業の流れを示すフローチャートである。
【
図4】走行経路が設定される圃場の領域分割を示す説明図である。
【
図5】外周領域に設定される周回走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
【
図6】内部領域に設定される往復走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
【
図7】往復走行経路における直進経路の空走行を説明する説明図である。
【
図8】下降安全確認制御の一例を説明する説明図である。
【
図9】下降安全確認制御の他の例を説明する説明図である。
【
図10】田植機の制御系の機能部を説明する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による農作業車の実施形態として、乗用型の田植機を取り上げて、以下に説明される。この田植機は、境界物によって境界付けられた圃場面を自動走行することができる。なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さにおける関係を示す。
【0016】
図1は、田植機の側面図である。田植機は、乗用型で四輪駆動形式の走行機体(以下、機体1と称する)を備えている。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構11、リンク機構11を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ11a、リンク機構11の後端部にローリング可能に連結される作業装置の一例である苗植付装置3(農用資材投与装置の一例)、及び、機体1の後端部から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4などを備えている。
【0017】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン13、及び油圧式の無段変速装置14を備えている。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン13及び無段変速装置14は、機体1の前部に搭載されている。エンジン13からの動力は、無段変速装置14などを介して前輪12A、後輪12Bなどに供給される。
【0018】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成されている。苗植付装置3は、苗載せ台31、8条分の植付機構32などを備えている。なお、この苗植付装置3は、図示されていない各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植えなどの形式に変更可能である。
【0019】
苗載せ台31は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台31は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、縦送り機構33は、苗載せ台31が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台31上の各マット状苗を苗載せ台31の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構32は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置されている。そして、各植付機構32は、機体1からの動力により、苗載せ台31に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。
【0020】
苗植付装置3には、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機能が備えられている。植付機構32は、苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールに形成された苗取り出し口を通過して一株分の苗を取り出して植え付ける。苗載せ台31及び苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールを上下に位置変更することにより苗取り量を調節する。
【0021】
図1に示すように、施肥装置4は、横長のホッパ41、繰出機構42、電動式のブロワ43、複数の施肥ホース44、及び、条毎に備えられた作溝器45を備えている。ホッパ41は、粒状または粉状の肥料を貯留する。繰出機構42は、エンジン13から伝達される動力で作動し、ホッパ41から2条分の肥料を所定量ずつ繰り出す。この施肥装置4は、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機能を有する。
【0022】
ブロワ43は、機体1に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電力で作動し、各繰出機構42により繰り出された肥料を圃場の泥面に向けて搬送する搬送風を発生させる。施肥装置4は、ブロワ43などの断続操作により、ホッパ41に貯留した肥料を所定量ずつ圃場に供給する作動状態と、供給を停止する非作動状態とに切り換えることができる。
【0023】
各施肥ホース44は、搬送風で搬送される肥料を各作溝器45に案内する。各作溝器45は、各整地フロート15に配備されている。そして、各作溝器45は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0024】
機体1は、その後部側に運転部20を備えている。運転部20には、手動走行操作具として、前輪操舵用のステアリングホイール21、無段変速装置14の変速操作を行うことで車速を調整する主変速レバー22、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー23、苗植付装置3の昇降操作や作動状態の切り換えなどを可能にする手動操作具からなる作業操作器25などが備えられている。さらに運転席16の前方には、汎用端末9が設けられている。汎用端末9は、各種の情報を表示してオペレータに報知する報知デバイスや各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを備えている。さらに、運転部20の前方に、予備苗を収容する予備苗フレーム17が設けられている。
【0025】
ステアリングホイール21は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール21の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調整される。操舵機構には、ステアリングモータM1も連結されており、自動走行時には、操舵信号に基づいてステアリングモータM1が動作することにより、前輪12Aの操舵角が調整される。さらに、主変速レバー22を自動操作するための変速操作用モータM2も備えられており、自動走行時には、変速信号に基づいて変速操作用モータM2が動作することにより、無段変速装置14の変速位置が調整される。
【0026】
予備苗フレーム17の上部には、上方に延びた延長フレーム17aが設けられている。この延長フレーム17aには、外部に田植機の状態を報知する複数のカラーランプが縦方向に並んだ積層灯18と、測位ユニット8が取り付けられている。測位ユニット8は、機体1の位置及び方位(機体方位)を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0027】
この田植機による自動走行と手動走行とを組み合わせた苗植付作業における処理手順の一例が
図2に示されている。この処理手順には、作業前処理#A、マップ作成処理#B、境界線算出処理#C、経路生成処理#D、作業開始点誘導処理#E、内側往復植付処理#F、外周植付処理#Hが含まれている。なお、本発明における直進なる語句は、厳密に直線状に走行ことを意味しているわけではなく、大きな湾曲を描く走行や蛇行走行なども含まれる。
【0028】
作業前処理#Aでは、田植機の制御系の各ユニット間の通信チェックや測位ユニット8の通信チェックなどが行われる。さらに、田植機では、リモコン90(
図1参照)を用いた遠隔制御や障害物検出器80(
図3参照)による障害物検出が行われるので、リモコン90や障害物検出器80の機能チェックも前処理として行われる。
図3に示すように、この実施形態での障害物検出器80はソナータイプであり、機体1の前方を検出範囲とする4つのフロントソナー80f、機体1の左右を検出範囲とする2つのサイドソナー80s、機体1の前方を検出範囲とする2つのリアソナー80rからなる。
【0029】
マップ作成処理#Bは、作業対象となっている圃場のマップ、つまり圃場面の外形を測定する処理である。
図4に示すように、田植機が圃場面を境界付ける畔などの境界物に沿って、つまり圃場面の最外周に沿って、手動走行(マップ作成ティーチング走行)した時に得られる測位ユニット8からの位置信号に基づいて走行軌跡(ティーチング走行軌跡)が算出される。この走行軌跡から、圃場面の地図情報としての圃場輪郭線、つまり圃場マップが生成される。
【0030】
境界線算出処理#Cでは、
図4に示すように、マップ作成処理#Bで算出された走行軌跡から、田植機が圃場の境界物との接触を避けるための限界となる機体1の位置を示す境界線が算出される。田植機の通常の走行において、機体1の位置がこの境界線(越境ラインとも呼ばれる)を越えない限り、田植機が畔などの境界物と接触しない。機体1の位置が境界線に達すると、機体1は強制的に停止する。不測のスリップや操舵のふらつきなどが生じても、田植機が畔などの境界物と接触しないように安全距離を付加して、最終的な境界線の位置が決定される。
【0031】
経路生成処理#Dでは、マップ作成処理#Bで作成された圃場マップに基づいて規定される圃場内に、自動走行の目標となる走行経路が所定のアルゴリズムによって作成される。自動走行での苗植付作業のために生成される走行経路について、以下に説明する。
【0032】
圃場マップによって規定された圃場面は、
図4に示すように、結果的に、外周領域と内部領域とに区分けされる。生成される走行経路は、外周領域に設定される周回走行経路(
図5参照)と、内部領域に設定される往復走行経路(
図6参照)とからなる。さらに、作業開始点誘導経路(
図6参照)も外周領域の一辺に設定される。田植機は、最初に往復走行経路に沿って内部領域に対する苗植付作業を行い(内部作業走行モードと称する)、その後に、周回走行経路に沿って外周領域に対する苗植付作業を行う(周回作業走行モードと称する)。
【0033】
図5で示された周回走行経路は、圃場境界物(畔)に平行に延びる周回直進経路と、周回直進経路どうしをつなぐために前進と後進とを取り入れた方向転換経路とからなる。
図5において、周回直進経路には符号R1が付与され、方向転換経路には符号R2が付与されている。
図6で示された往復走行経路は、多数の互いに略平行な直進経路と、直進経路どうしをつなぐ旋回経路(Uターン経路)からなる。
図6において、直進経路にはR3が付与され、旋回経路には符号R5が付与されている。それぞれの直進経路に沿った植付作業が開始される位置である作業開始点から苗の植え付けが開始され、直進経路に沿った植付作業が終了する位置である作業終了点(旋回開始位置でもある)で苗の植え付けが終了される。
図6において、内部領域における植付作業の開始位置となる作業開始点には符号WSが付与され、内部領域における植付作業の終了位置となる植付終了点には符号WEが付与されている。さらに、
図6には、出入口付近での田植機の待機位置から往復走行経路の走行開始位置である作業開始点までの作業開始点誘導経路(
図6で符号R6が付与されている)が示されている。
【0034】
作業開始点誘導処理#Eでは、マップ作成ティーチング走行を終えて、出入口付近の待機位置に停止している田植機は、苗植付作業の開始点である走行開始位置までの走行経路である作業開始点誘導経路に沿って、自動走行で走行開始位置まで走行する。その際、この作業開始点誘導経路を用いた自動走行(作業開始点誘導走行)は、待機位置における田植機の機体1が、予め定められた特定位置で特定方位であるという条件が満たされた場合に、許可される。
【0035】
内側往復植付処理#Fでは、走行モードは内部作業走行モードとなり、
図6に示された往復走行経路に沿って自動走行され、作業開始点から植付終了点までの内部領域での自動走行作業(苗植付作業)が、直進走行(作業走行)と旋回走行(非作業走行)とを繰り返しながら行われる。なお、圃場が大きい場合、内側往復植付処理において、苗補給処理#Gが含まれる。
【0036】
内側往復植付処理#Fが植付終了点で終了すると、走行モードは周回作業走行モードとなり、
図5で示された周回走行経路に沿った外周領域での自動走行作業(苗植付作業)である外周植付処理#Hが実行される。この実施形態では、周回走行経路は、最初に走行する内側一周分の内周回走行経路と、その後に走行する外側一周分の外周回走行経路とからなる。基本的には、外周回走行経路の終了位置は圃場の出入口となっているので、外周回走行経路に沿った苗植付作業の後、田植機は、出入口を通じて圃場から出る。内周回走行経路に沿った苗植付作業は自動走行で行われる。外周回走行経路に沿った苗植付作業は、精密な走行が必要とされるので、自動走行であっても、監視者としての運転者が搭乗する有人自動走行が好ましい。
【0037】
図5と
図6とに示した走行経路パターンでは、往復走行経路の植付終了点、周回走行経路の開始点、周回走行経路の終了点は、圃場の出入口の近傍に位置している。往復走行経路における直進経路の本数が偶数の場合は良いが、直進経路の本数が奇数の場合、往復走行経路の植付終了点が出入口の反対側になる。この不都合を避けるため、
図7に示すように、最終の直進経路(
図7では符号Lnが付与されている)以外の直進経路、例えば、
図9では符号Ln-1が付与されている直進経路を非作業(非苗植付作業)で空走行し、次の直進経路(
図7では符号Lnが付与されている最終直進経路)を走行した後、空走行した直進経路を苗植付作業しながら走行する。これにより、最終直進経路の植付終了点が出入口側に反転される。
図7の例では、植付終了点の位置が植付幅分だけ移動する。これを避けるには、他の直進経路を空走行直進経路として選択してするとよい。
【0038】
外周回走行経路は、マップ作成ティーチング走行での走行軌跡に一致するように作成されているので、外周回走行経路に正確に倣いながら走行すれば、機体1が畦などに接触することはない。しかしながら、マップ作成ティーチング走行では、機体1は苗植付装置3を上昇させた状態で走行するのに対して、外周回走行経路の走行では苗植付装置3を上昇させた状態で走行する。このため、機体1の位置によっては、外周回走行経路の走行開始時に苗植付装置3を下降させた場合、苗植付装置3が畔に接触する可能性がある。このことを避けるため、外周回走行経路での走行では、作業走行に移行する前に行われる自動一時停止において、苗植付装置3の下降安全性が運転者によって確認される。自動一時停止では、苗植付装置3は上昇となっている。
【0039】
この自動一時停止と、運転者による下降安全性の確認と、確認後の自動作業走行の開始とからなる下降安全確認制御の一例が、
図8を用いて説明する。
図8では、機体1が圃場コーナに入る前に、ポイントP1で、苗植付装置3が上昇され、非作業自動走行である方向転換走行が行われる。方向転換走行は、ポイントP1からポイントP2までの直進走行経路R21と、ポイントP2からポイントP3までの後進旋回走行経路R22とを走行目標として行われる。このポイントP3において、外周回走行経路の次の周回直進経路が捕捉されるので、苗植付装置3を下降させた自動作業走行が開始可能となるが、ポイントP3において、機体1は一時停止する。この自動一時停止の状態において、ここで苗植付装置3を安全に下降させてもよいかどうかを運転者が判断することを要求する報知が行われる。運転者が問題なしと判断した場合、運転者によって苗植付装置3を下降させる操作(自動開始前操作としての作業装置の下降操作)が行われる。この操作により、自動作業走行の開始が許可される。
【0040】
この下降安全確認制御は、外周回走行経路が設定されている領域で、苗植付装置3を上昇させた非作業走行(自動走行でも手動走行でもよい)から苗植付装置3を下降させる自動作業走行に移行する際に、実行される。
【0041】
次に、
図9を用いて、外周回走行経路が設定されている領域以外で実行される下降安全確認制御の一例を説明する。
図9では、内部領域での往復走行経路の直進経路に存在している走行障害物を回避するための障害物回避走行経路での下降安全確認制御が示されている。往復走行経路の直進経路を目標とする自動直進作業走行が走行障害物の手前のポイントQ1まで行われると、苗植付装置3が上昇され、非作業自動走行である後進旋回走行経路R31を用いてポイントQ2まで後進旋回走行が行われ、さらに前進旋回走行経路R32を用いてポイントQ3まで前進旋回走行が行われる。このポイントQ3において、次の直進経路が捕捉されるので、苗植付装置3が下降させた自動作業走行が開始可能となるが、ポイントQ3において、機体1は一時停止する。この自動一時停止の状態において、ここでこのまま自動作業走行させても下降させた苗植付装置3と走行障害物とが干渉しないかどうかを運転者が判断することを要求する報知が行われる。運転者が問題なしと判断した場合、運転者によって苗植付装置3を下降させる操作(自動開始前操作)が行われる。この操作により、自動作業走行の開始が許可される。
【0042】
図10には、この田植機の制御系の制御ブロック図が示されている。田植機の制御系は、田植機の各種動作を制御する制御装置100と、制御装置100とのデータ交換が可能な汎用端末9とリモコン90とからなる。制御装置100には、測位ユニット8、作業操作器25、走行センサ群28、作業センサ群29、障害物検出器80からの信号が入力されている。制御装置100からの制御信号が、走行機器群1Aと作業機器群1Bとに出力される。
【0043】
走行機器群1Aには、例えば、ステアリングモータM1や変速操作用モータM2が含まれており、制御装置100からの制御信号に基づいて、ステアリングモータM1が制御されることで操舵角が調節され、変速操作用モータM2が制御されることで車速が調節される。
【0044】
作業機器群1Bには、例えば、苗植付装置3を昇降調整する昇降シリンダ11a、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機器、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機器などが含まれている。
【0045】
走行センサ群28には、操舵角、車速、エンジン回転数などの状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群29には、リンク機構11、苗植付装置3、施肥装置4の状態を検出する各種センサが含まれている。
【0046】
制御装置100には、走行制御部6、作業制御部51、機体位置算出部52、走行経路管理部53、運転制御状態検知部55、自動作業走行管理部56、入力信号処理部50a、通信部50bが備えられている。
【0047】
制御装置100に車載LANを通じて接続されている汎用端末9には、圃場情報格納部91、圃場マップ作成部92、走行経路生成部93、境界線算出部94、走行軌跡生成部95が備えられている。圃場情報格納部91は、作付け種や圃場の入口(出口)位置や苗補給可能位置など圃場に関する情報が格納されている。圃場マップ作成部92は、
図2を用いて説明されたマップ作成処理を行う。
【0048】
走行経路生成部93は、圃場マップ作成部92によって作成された圃場マップに基づいて圃場を外周領域と内部領域とに区分けし、外周領域を走行するための周回走行経路と、内部領域の往復走行経路を生成する。周回走行経路の外周回走行経路は、マップ作成ティーチング走行の走行軌跡を流用して作成される。さらに、走行経路生成部93は、マップ作成ティーチング走行によって圃場内に走行障害物が検出された場合には、この走行障害物を回避する走行経路も作成する。
【0049】
境界線算出部94は、
図2のステップ#Cを用いて説明された境界線算出処理を行う。圃場マップ作成部92によるマップ作成処理や境界線算出部94による境界線算出処理には、マップ作成ティーチング走行における走行軌跡が必要である。走行軌跡生成部95は、機体位置算出部52によって算出された機体位置に基づいて、機体1の走行軌跡を生成する。
【0050】
入力信号処理部50aは、田植機に設けられている各種センサ、スイッチ、レバーなどからの信号を処理して、制御装置100に構築されている機能部に転送する。通信部50bは、無線通信機能を有し、外部とのデータ通信、例えばリモコン90とのデータ通信を行ない、受信データは入力信号処理部50aに転送される。
【0051】
走行制御部6には、自動走行制御部6Aと手動走行制御部6Bと制御管理部6Cとが備えられている。自動走行制御部6Aは、自動走行時の速度制御や操舵制御を行う。走行経路管理部53によって設定された目標となる走行経路と機体位置とに基づいて算出される横偏差及び方位偏差が縮小するように、操舵制御が行われる。
【0052】
作業制御部51は、自動走行では、前もって与えられているプログラムに基づいて自動的に作業機器群1Bを制御し、手動走行では、運転者の操作に基づいて、作業機器群1Bを制御する。なお、上述した、下降安全確認制御においては、自動走行モードにおいては、苗植付装置3は、作業操作器25を用いた運転者の操作によって下降される。
【0053】
機体位置算出部52は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データに基づいて、機体1の地図座標(機体位置)を算出する。走行経路管理部53は、走行経路生成部93によって生成された各種走行経路を汎用端末9から受け取って管理し、自動走行モードでの機体操舵の目標となる走行経路を順次設定する。
【0054】
運転制御状態検知部55は、制御装置100で取り扱われている制御情報に基づいて、走行制御状態や作業制御状態を検知する。特に、この運転制御状態検知部55は、作業装置である苗植付装置3を上昇させた状態での非作業走行から苗植付装置3を下降させた状態での自動作業走行に移行する前に行われる停車を伴う自動一時停止を検知する。この自動一時停止は、機体1が走行している走行経路、機体位置、走行センサ群28及び作業センサ群29からの検出信号に基づいて検知される。
【0055】
自動作業走行管理部56は、運転制御状態検知部55によって自動一時停止が検知されると、自動一時停止の状態から自動作業走行に移行するための自動作業走行の開始条件が満たされているかどうかをチェックする。この自動作業走行の開始条件には、自動作業走行を行うために要求される各種信号が制御装置100に入力されていること、自動作業走行のための走行経路が捕捉されていること、さらには、運転者による自動開始前操作としての苗植付装置3を下降させるための作業操作器25に対する操作(自動開始前操作の一例)が含まれている。
【0056】
さらに自動作業走行管理部56は、自動一時停止が検知されると、運転者に安全を確認して苗植付装置3を下降させるための作業操作器25に対する操作を行うことを要求する報知を行う。この報知は、汎用端末9のディスプレイやスピーカなどを通じて行われる。
【0057】
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態では、自動開始前操作として、苗植付装置3を下降させるための作業操作器25に対する操作が利用されたが、この操作以外に、苗植付装置3に対するその他の操作、例えば各条クラッチの操作などを利用してもよい。さらに別な自動開始前操作は、苗植付装置3の下降位置を変更するために走行経路を変更する操作である。苗植付装置3の下降位置を変更する必要がない場合には、走行経路の変更を不要とする操作が自動開始前操作として行われる。作業装置の下降位置に問題がないとする確認操作としての自動開始前操作は、汎用端末9のタッチパネル対する入力操作でもよい。
(2)上記実施形態では、圃場マップ作成部92や走行経路生成部93や境界線算出部94、走行軌跡生成部95が汎用端末9に構築されていたが、そのうちの少なくとも一部は、制御装置100に構築されてもよいし、制御装置100との間でデータ交換可能な外部の管理コンピュータに構築されてもよい。逆に、自動作業走行管理部56や運転制御状態検知部55が汎用端末9に構築されてもよい。
(3)自動走行制御部6Aによる旋回経路での操舵角は、生成された旋回経路に沿うような制御で行ってもよいし、あるいは、所定の旋回経路になるように予め決められた操舵角を用いるような制御で行ってもよい。
(4)上記実施形態では、農作業車として田植機が採用されたが、施肥機やトラクタ、直播機、噴霧(散布)用管理機などの農作業車であってもよい。
【0058】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、自動走行する農作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 :機体
3 :苗植付装置(農用資材投与装置、作業装置)
6 :走行制御部
6A :自動走行制御部
6B :手動走行制御部
6C :制御管理部
8 :測位ユニット
25 :作業操作器
51 :作業制御部
52 :機体位置算出部
53 :走行経路管理部
55 :運転制御状態検知部
56 :自動作業走行管理部
80 :障害物検出器
90 :リモコン
91 :圃場情報格納部
92 :圃場マップ作成部
93 :走行経路生成部
94 :境界線算出部
95 :走行軌跡生成部
100 :制御装置