(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/04 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
E04H1/04 Z
(21)【出願番号】P 2020017141
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】大平 滋彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直幹
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊司
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 資貴
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-227242(JP,A)
【文献】特開2009-228224(JP,A)
【文献】特開2009-263975(JP,A)
【文献】本間裕二,鉄筋コンクリート造異形柱の構造特性把握・設計法構築のための曲げ応力に対する構造耐力・破壊特性に関する研究,調査研究報告,No.377,日本,独立行政法人北海道立総合研究機構 建築研究本部 北方建築総合研究所,2017年03月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/00- 1/14
E04H 3/00- 4/16
E04B 1/00- 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウトフレームを構成し、一列に並ぶ
5本以上の柱を台形柱とし、
前記台形柱は横断面台形となるように矩形柱の外側面を斜めに切断した形状を呈し、
左右に隣接する前記台形柱で前記外側面の傾斜方向が逆となってい
て、
前記台形柱は、建物の外周方向の柱幅W1がその直交方向の柱幅に比べて小さい扁平の矩形柱の外側面を斜めに切断したものであり、矩形柱から切断する三角部分の奥行きDは、D/W1が1/3~1/2となる範囲にある建物。
【請求項2】
上下に隣接する前記台形柱で前記外側面の傾斜方向が逆となっている請求項1に記載の建物。
【請求項3】
アウトフレームで建物全体の90%以上の地震力を負担する請求項1又は2に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アウトフレーム構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
バルコニーや開放廊下を有する集合住宅等の建物には、柱をバルコニー等の室外に設けるアウトフレーム構造(架構)を採用したものがある。斯かる建物では、室内に配する柱の削減により、室内空間をより広く、より活用し易くすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の建物では、室外に設けた柱によって、室内から外部への視線が遮られたり、室内への風の取り込みが妨げられたりするという問題がある。
【0004】
また、通常、アウトフレーム構造は角柱(矩形柱)によって構成されており、室外に位置する角柱により、建物外観が均質で無表情な印象を与えがちになることも懸念される。
【0005】
本発明は、アウトフレーム構造を採用しながら、室内からの視野、室内への通風及び外観についての向上を図ることを可能とする建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る建物は、アウトフレームを構成し、一列に並ぶ5本以上の柱を台形柱とし、前記台形柱は横断面台形となるように矩形柱の外側面を斜めに切断した形状を呈し、左右に隣接する前記台形柱で前記外側面の傾斜方向が逆となっていて、前記台形柱は、建物の外周方向の柱幅W1がその直交方向の柱幅に比べて小さい扁平の矩形柱の外側面を斜めに切断したものであり、矩形柱から切断する三角部分の奥行きDは、D/W1が1/3~1/2となる範囲にある(請求項1)。
【0007】
上記建物において、上下に隣接する前記台形柱で前記外側面の傾斜方向が逆となっていてもよく(請求項2)、アウトフレームで建物全体の90%以上の地震力を負担するようにしてもよい(請求項3)。
【発明の効果】
【0008】
本願発明では、アウトフレーム構造を採用しながら、室内からの視野、室内への通風及び外観についての向上を図ることを可能とする建物が得られる。
【0009】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の建物では、アウトフレームを台形柱で構成することにより、室内からの視線の通り抜ける範囲を拡大して開放感を高めることができるとともに、通風性の向上を図ることも可能となる。
【0010】
また、本発明の建物では、左右に隣接する台形柱で外側面の傾斜方向を反転させてあり、傾斜方向を一様に揃えてある場合に比べて、台形柱が太陽光の照射を受けて形成される陰影、ひいては建物の表情を、より変化に富んだものとすることができる。
【0011】
さらに、本発明の建物では、左右に隣接する台形柱で外側面の傾斜方向を反転させたことにより、外部からは台形柱の幅ないし太さが一つ一つ異なっているように見えるのであり、こうした不統一感に伴い外観品質の向上を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明の建物では、上述した陰影や建物の表情の変化、外観品質向上の確実化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る建物の要部の構成を概略的に示す平面図である。
【
図2】前記建物の台形柱の構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】前記建物と従来例の建物とにつき、外部への開放度を比較して示す説明図である。
【
図4】(A)~(C)は、前記建物と比較例とにおける風の流れ方を示すシミュレーション結果である。
【
図5】従来例の建物における風の流れ方を示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0015】
図1は、本発明の建物(本例では共同住宅)の一例を示す要部の平面図であり、本例の建物は、外周梁2とでアウトフレームを構成する柱(外周柱)を台形柱1とし、
図2に示すように、台形柱1は横断面台形となるように矩形柱1’の外側面3’を斜めに切断した形状を呈する。そして、本例の建物では、
図1に示すように、左右に隣接する台形柱1で外側面3(
図2参照)の傾斜方向が逆となるようにしてある。
【0016】
このようにアウトフレームを台形柱1で構成することにより、室内からの視線の通り抜ける範囲を拡大して開放感を高めることができるとともに、通風性の向上を図ることも可能となる。
【0017】
また、左右に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向を反転させてあり、傾斜方向を一様に揃えてある場合に比べて、台形柱1が太陽光の照射を受けて形成される陰影、ひいては建物の表情を、より変化に富んだものとすることができる。
【0018】
さらに、左右に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向を反転させたことにより、外部からは台形柱1の幅ないし太さが一つ一つ異なっているように見えるのであり、こうした不統一感に伴い外観品質の向上を図ることができる。
【0019】
ここで、
図2に示すように、本例の台形柱1は、建物の外周方向の柱幅W1がその直交方向の柱幅W2に比べて小さい扁平の矩形柱1’の外側面を斜めに切断したものであり、矩形柱1’と同じく柱幅W1が柱幅W2より小さい扁平柱となっている。そして、矩形柱1’から切断する三角部分4の奥行きDは、適宜に定めればよいが、D/W1が1/3~1/2(好ましくは1/2.5~1/2)となる範囲で定めるのが各効果を奏する上で好ましく、例えば、柱幅W1を400mm、柱幅W2を750mmとする場合、奥行きDは150~200mm、好ましくは約170mmとすることが考えられる。
【0020】
以下、必要に応じて、台形柱1につき、外側面3の反対側の面を内側面5、左右側面のうち、奥行き寸法の短い側面を短側面6、長い側面を長側面7という(
図2参照)。
【0021】
図3(A)~(D)は、本例の建物の外部への開放度を示し、
図3(E)~(G)は、アウトフレームを構成する柱を矩形柱1’とした従来例の建物の外部への開放度を示している。すなわち、
図3(A)は、本例の建物において、短側面6どうしを向かい合わせて左右に隣接する二つの台形柱1から等距離にあり、この二つの台形柱1よりも所定距離だけ建物の内側(室内側)に離れた位置aから外側をみたときに視線が通り抜ける角度範囲の左半分のみを示している(左右対称のため、右半分の図示は省略してある。
図3(B)~(G)も同様。)。
【0022】
図3(B)は、本例の建物において、長側面7どうしを向かい合わせて左右に隣接する二つの台形柱1から等距離にあり、この二つの台形柱1よりも所定距離(上記所定距離と同一)だけ建物の内側(室内側)に離れた位置bから外側をみたときに視線が通り抜ける角度範囲の左半分のみを示している。
【0023】
図3(C)及び(D)は、本例の建物において、前記位置aから台形柱1側(外側)に500mm移動させた位置、室内側に800mm移動させた位置から、それぞれ外側をみたときに視線が通り抜ける角度範囲の左半分のみを示している。
【0024】
一方、
図3(E)は、従来例の建物において、前記位置a、bに相当する位置から外側をみたときに視線が通り抜ける角度範囲の左半分のみを示している。また、
図3(F)及び(G)は、従来例の建物において、
図3(E)に示す位置(元の位置)から台形柱1側(外側)に500mm移動させた位置(
図3(C)に示す位置に相当する位置)、室内側に800mm移動させた位置(
図3(D)に示す位置に相当する位置)から、それぞれ外側をみたときに視線が通り抜ける角度範囲の左半分のみを示している。
【0025】
図3(A)~(D)に示した角度範囲と、
図3(E)~(G)に示した角度範囲とを比較すれば明らかなように、従来例の建物よりも本例の建物の方が開放度の点で優れていることが理解される。
【0026】
図4(A)~(C)及び
図5はそれぞれ、通風性につき、比較例、本例及び従来例の比較に資するシミュレーション結果である。すなわち、
図4(A)は、各台形柱1の外側面3が正面向かって右方ほど外側に突出するように台形柱1の向きを揃えた比較例Aのシミュレーション結果、
図4(B)は、各台形柱1の外側面3が正面向かって左方ほど外側に突出するように台形柱1の向きを揃えた比較例Bのシミュレーション結果、
図4(C)は本例Cのシミュレーション結果、
図5はアウトフレームを構成する柱を矩形柱1’とした従来例Dのシミュレーション結果を示す。そして、各シミュレーションでは、建物の前方を正面右側に向かって0.5m/sの風が流れている条件とし、7点での空気の流入量と流出量とを算出してある。
【0027】
図4(A)~(C)、及び
図5のシミュレーション結果において、通風性に最も関係するのは流入量であり、その流入量平均に着目すると、本例Cは、比較例A及び従来例Dよりも流入量に優れていることが理解される。一方、本例Cは比較例Bよりも流入量で劣っているが、これは上述のように建物の前方を右側に向かって風が流れている条件下でのものであり、この風の向きが逆になった場合には、本例Cは比較例Bに流入量で勝ることになると考えられる。なぜなら、比較例Aと比較例Bとで各台形柱1の外側面3の向きが逆になっていることからすると、風の向きが逆になると、比較例Aと比較例Bの流入量は相互に逆になる一方、本例C(や従来例D)ではこの流入量は変わらないと考えられるからである。そして、本例Cの流入量平均は、比較例A及び比較例Bの二つの流入量平均の平均値((48.2+54.4)÷2=51.3)よりも大きいことから、本例Cは、比較例A,B、そしてもちろん従来例Dよりも流入量ひいては通風性に優れているといえる。
【0028】
そして、本例の建物では、上下に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向が逆となるようにしてある(つまり、左右のみならず、上下階でも、各台形柱1の外側面3を反転させてある)。これにより、上述した陰影や建物の表情の変化、外観品質向上の確実化を図ることができる。また、
図4(A)、(B)に係るシミュレーション結果は、比較例Bが比較例Aよりも流入量平均で優れていることを示し、比較例A,Bの違いは、風上側に各台形柱1の短側面6が向いているか(比較例A)、長側面7が向いているか(比較例B)にあることからすると、本例の建物においても、風上側に台形柱1の短側面6が向いている部分では、風上側に長側面7が向いている部分よりも、建物内への風の流入量が減少すると考えられるが、上下に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向を逆としてあることにより、風上側に台形柱1の短側面6が向いている部分で建物内に流入しきれなかった風がその上下階にある風上側に長側面7が向いている部分から建物内に流入するように回り込むようになること、つまりは通風性の向上を期待することができる。
【0029】
その他、本例の建物では、各台形柱1の外側に三角型に突出する部分も、構造柱として扱えるように配筋配置を工夫してあり、さらに台形柱1をPCa化し施工性の向上を図っている。また、アウトフレームで建物全体の90%以上(実際は95%)の地震力を負担し、内部の耐震要素を大幅に減らしている。
【0030】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、上記実施の形態では、上下に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向が逆となるようにしてあるが、これに限らず、上下に隣接する台形柱1で外側面3の傾斜方向が同一となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 台形柱
1’ 矩形柱
2 外周梁
3 外側面
3’ 外側面
4 三角部分
5 内側面
6 短側面
7 長側面
D 奥行き
W1 柱幅
W2 柱幅