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特許7515268ホットメルト型粘着剤組成物および粘着シート
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  • 特許-ホットメルト型粘着剤組成物および粘着シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ホットメルト型粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20240705BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240705BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240705BHJP
   C09J 133/08 20060101ALI20240705BHJP
   C09J 133/10 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/06
C09J11/08
C09J133/08
C09J133/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020026123
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021130760
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】根岸 伸和
(72)【発明者】
【氏名】畑中 逸大
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋暁
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189842(JP,A)
【文献】特開平09-302322(JP,A)
【文献】特開2008-031437(JP,A)
【文献】特開2002-146302(JP,A)
【文献】特開2003-119234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤フリーのホットメルト型粘着剤組成物であって、
ベースポリマーと、
イソシアネート系架橋剤と、
下記式(1):
R-[(CH-(CHO)-CH-OH (1)
(前記式(1)中、Rは水素原子または水酸基であり、mは9~16であり、nは0~3である。);
で表される粘着付与剤Aと、
を含み、
前記粘着付与剤Aの含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して1重量部以上10重量部以下である、ホットメルト型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む、請求項1に記載のホットメルト型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数4以上12以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上の割合で重合されている、請求項2に記載のホットメルト型粘着剤組成物。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は3.0以上9.0以下である、請求項2または3に記載のホットメルト型粘着剤組成物。
【請求項5】
前記イソシアネート系架橋剤の含有量は、前記ベースポリマー100重量部に対して、2重量部以上10重量部以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載のホットメルト型粘着剤組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト型粘着剤組成物に関する。本発明は、また、ホットメルト型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を含む粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、作業性がよく接着の信頼性の高い接合手段として、家電製品から自動車、OA機器等の各種産業分野において広く利用されている。
【0003】
粘着剤は、典型的には粘着剤組成物を用いてフィルム状に形成されて、該フィルム状粘着剤(粘着剤層)を含む粘着シートの形態で用いられる。かかる構成の粘着シートの製造では、一般的にトルエン溶液等の溶剤溶液の形態の粘着剤組成物が用いられ、該溶剤溶液が適当な表面に塗工されることにより粘着剤層が形成される。しかしながら、近年、環境保全のために溶剤使用の抑制が求められており、粘着剤層形成においても、溶剤フリーのホットメルト型粘着剤組成物の使用が検討されている。この種のホットメルト型粘着剤組成物に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-147655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粘着剤組成物には、粘着剤層の粘着性能向上等の目的で架橋剤が添加され得る。従来の溶液の形態で用いられる粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成する場合、架橋剤を含む粘着剤組成物は、塗工によりフィルム状に形成された後に加熱されることにより、架橋反応と乾燥とが同時に進行して粘着剤層が形成され得る。
【0006】
一方、溶剤フリーのホットメルト型粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成する場合、該ホットメルト型粘着剤組成物は、加熱溶融した状態でフィルム状に形成される。しかしながら、架橋剤が添加されたホットメルト型粘着剤組成物を、該組成物が十分な流動性を有する溶融状態にまで加熱すると、該組成物に添加された架橋剤の反応が進行してしまい、急速に粘着剤組成物中にゲル化物が発生することがある。このように、粘着剤組成物を加熱溶融する段階でゲル化が進行してしまうと、その後のフィルム状に形成する工程における不良の発生や、粘着剤層ひいては粘着シートの厚みの均一性低下、外観不良等の要因となり得る。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、加熱溶融するときに急激なゲル化が進行せずに粘着剤層を形成可能なホットメルト型粘着剤組成物を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、上記ホットメルト型粘着剤組成物を用いて得られる粘着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書によると、溶剤フリーのホットメルト型粘着剤組成物が提供される。上記ホットメルト型粘着剤組成物は、ベースポリマーと、イソシアネート系架橋剤と、粘着付与剤Aと、を含む。ここで、上記粘着付与剤Aは、下記式(1):R-[(CH-(CHO)-CH-OH (1);(上記式(1)中、Rは水素原子または水酸基であり、mは9~16であり、nは0~3である。);で表される。上記粘着付与剤Aの含有量は、上記ベースポリマー100重量部に対して1重量部以上10重量部以下である。
【0009】
かかるホットメルト型粘着剤組成物は、加熱溶融するときの急激なゲル化の進行が抑制され得る。このようなホットメルト型粘着剤組成物を用いると、該組成物をフィルム状に成形するときの成形不良が抑制され、また、厚みの均一性が向上し、良好な外観を有する粘着剤層が得られる傾向にある。また、かかるホットメルト型粘着剤組成物を用いると、良好な粘着性能を示す粘着剤層が得られやすい。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記ホットメルト型粘着剤組成物は、上記ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む。かかる構成の粘着剤組成物は、ホットメルトの形態で用いられて良好な粘着性能を示す粘着剤層を形成しやすい。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記アクリル系ポリマーは、炭素原子数4以上12以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上の割合で重合されている。かかるアクリル系ポリマーを用いると、ホットメルトの形態で用いられて良好な粘着性能を示す粘着剤層を形成しやすい。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記アクリル系ポリマーの分散度(Mw/Mn)は3.0以上9.0以下である。かかる分散度を有するアクリル系ポリマーを用いると、溶剤フリーのホットメルトの形態で用いられて良好な粘着性能を示す粘着剤層を形成しやすい。
【0013】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記イソシアネート系架橋剤の含有量は、上記ベースポリマー100重量部に対して、2重量部以上10重量部以下である。かかる構成によると、加熱溶融するときのゲル化抑制効果がより向上し得る。
【0014】
この明細書によると、ここに開示されるいずれかの粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートが提供される。かかる構成によると、改善された厚みの均一性および外観を有しながら良好な粘着力を有する粘着シートが得られやすい。また、かかる構成の粘着シートは、環境負担が軽減されたものとなり易い。
【0015】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
図2】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0018】
<粘着剤組成物>
ここに開示される粘着剤組成物は、溶剤フリーのホットメルト型粘着剤組成物である。ここで、本明細書において「ホットメルト型粘着剤組成物」とは、粘着剤層を形成するときにホットメルト(熱溶融)の態様で用いられる粘着剤組成物のことである。また、本明細書において「溶剤フリー」とは、溶剤を実質的に含まないことである。本明細書において粘着剤組成物が「溶剤フリー」または「溶剤を実質的に含まない」とは、粘着剤組成物全体における溶剤の含有量が1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以下であることをいい、溶剤の含有量が0重量%である場合を包含する。本明細書においてはホットメルト型粘着剤組成物のことを、単に「粘着剤組成物」と記載することがある。
【0019】
(ベースポリマー)
ここに開示される粘着剤組成物は、ベースポリマーを含む。ベースポリマーの種類は、特に限定されない。ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー(天然ゴム系、合成ゴム系、これらの混合系等)、ポリエステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、フッ素系ポリマー等の、室温域においてゴム弾性を示す各種のポリマーから選択される一種または二種以上をベースポリマー(すなわち、ポリマー成分の50重量%以上を占める成分)として含む粘着剤組成物であり得る。
【0020】
(ガラス転移温度(Tg))
ここに開示される粘着剤組成物に含まれるベースポリマーは、例えば、該ベースポリマーを構成するモノマー成分の組成に基づいて算出されるガラス転移温度(Tg)が0℃未満となるように設定することができる。ここで、モノマー成分の組成に基づいて算出されるTgとは、上記モノマー成分の組成に基づいてFoxの式により求められるTgをいう。Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。
【0021】
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。具体的には、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に数値が挙げられている。上記Polymer Handbookに複数種類の値が記載されているモノマーについては、最も高い値を採用する。上記Polymer Handbookに記載のないモノマーのホモポリマーのガラス転移温度としては、特開2007-51271号公報に記載の測定方法により得られる値を用いることができる。
【0022】
上記モノマー成分の組成に基づいて算出されるTgは、該モノマー成分の重合物(典型的には、ここに開示される粘着剤組成物におけるベースポリマー)のTgとして把握され得る。上記重合物のTgは、-10℃以下であることが好ましく、-20℃以下でもよく、-30℃以下でもよく、-40℃以下でもよい。上記Tgが低くなると、被着体に対する密着性が向上する傾向にある。いくつかの態様において、上記重合物のTgは、-50℃以下であってもよく、-55℃以下でもよく、-60℃以下でもよい。上記重合物のTgの下限は特に制限されないが、材料の入手容易性や粘着剤層の凝集性向上の観点から、通常は-80℃以上であることが適当であり、-70℃以上であることが好ましい。
【0023】
(アクリル系ポリマー)
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分の50重量%超が(メタ)アクリル系モノマーである態様で好ましく実施することができる。ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分の重合物であるアクリル系ポリマーをベースポリマーとして含む粘着剤組成物、すなわちアクリル系粘着剤組成物であることが好ましい。いくつかの好ましい態様に係る粘着剤組成物は、該組成物に含まれるポリマー成分のうち、70重量%超、80重量%超または90重量%超がアクリル系ポリマーであり得る。上記ポリマー成分の95重量%以上または98重量%以上がアクリル系ポリマーであってもよい。
【0024】
なお、この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位をポリマー構造中に含む重合物をいい、典型的には(メタ)アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を50重量%を超える割合で含む重合物をいう。また、この明細書において、(メタ)アクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。ここで、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基を包括的に指す意味である。したがって、ここでいう(メタ)アクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。同様に、この明細書において「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸およびメタクリル酸を、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0025】
上記アクリル系ポリマーは、例えば、アルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマー単位を50重量%以上含有するポリマー、すなわちアクリル系ポリマーを調製するためのモノマー成分全量のうち50重量%以上がアルキル(メタ)アクリレートであるポリマーであり得る。アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素原子数1以上20以下の(すなわち、C1-20の)直鎖または分岐鎖状のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられ得る。特性のバランスをとりやすいことから、モノマー成分全量のうちC1-20アルキル(メタ)アクリレートの割合は、例えば50重量%以上であってよく、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。同様の理由から、モノマー成分全量のうちC1-20アルキル(メタ)アクリレートの割合は、例えば99.9重量%以下であってよく、好ましくは98重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。いくつかの態様において、モノマー成分全量のうちC1-20アルキル(メタ)アクリレートの割合は、例えば80重量%以上でもよく、85重量%以上でもよい。
【0026】
1-20アルキル(メタ)アクリレートの非限定的な具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、少なくともC1-18アルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましく、少なくともC1-14アルキル(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。いくつかの態様において、アクリル系ポリマーは、C4-12アルキル(メタ)アクリレート(好ましくはC4-10アルキル(メタ)アクリレート)から選択される少なくとも一種を、モノマー単位として含有し得る。例えば、n-ブチルアクリレート(BA)および2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)の一方または両方を含むアクリル系ポリマーが好ましい。好ましく用いられ得る他のC1-18アルキル(メタ)アクリレートの例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルメタクリレート(BMA)、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)、イソステアリルアクリレート(ISTA)等が挙げられる。上記アクリル系ポリマーの好適例として、C4-8アルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、C4-6アルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、C6-10アルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一種をモノマー単位として含むアクリル系ポリマー、等が挙げられる。
【0028】
アクリル系ポリマーを構成するモノマー単位は、主成分としてのアルキル(メタ)アクリレートとともに、必要に応じて、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他の副モノマー(共重合性モノマー)を含んでいてもよい。副モノマーとしては、官能基(例えば、カルボキシ基、水酸基、アミド基等)を有するモノマーを好適に使用することができる。官能基含有モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。
【0029】
副モノマーとしては、例えば以下のような官能基含有モノマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
水酸基含有モノマー:例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のエーテル系化合物。
カルボキシ基含有モノマー:例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸、イソクロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸。
酸無水物基含有モノマー:例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えばN-ビニル-2-ピロリドン、メチル-N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピラジン、ビニルピリミジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等。
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;水酸基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;アルコキシ基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
スクシンイミド骨格を有するモノマー:例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド等。
マレイミド類:例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等。
イタコンイミド類:例えば、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等。
エポキシ基含有モノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えばジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートや、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有ビニル化合物等。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
エポキシ基を有するモノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
スルホン酸基またはリン酸基を含有するモノマー:例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等。
イソシアネート基含有モノマー:例えば2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート。
【0030】
上述のような官能基含有モノマーを使用する場合、その使用量は特に限定されないが、通常はモノマー成分全量の0.01重量%以上とすることが適当である。官能基含有モノマーの使用による効果をよりよく発揮する観点から、官能基含有モノマーの使用量をモノマー成分全量の0.1重量%以上としてもよく、1重量%以上としてもよい。また、官能基含有モノマーの使用量は、モノマー成分全量の50重量%以下とすることができ、40重量%以下とすることが好ましい。これにより、粘着剤の凝集力が高くなり過ぎることを防ぎ、被着体に対する密着性を向上させ得る。
【0031】
ここに開示される粘着剤組成物は、上記モノマー成分が、C4-10アルキル(メタ)アクリレートを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの一方または両方を含む態様で好ましく実施することができる。水酸基含有モノマーとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを好ましく採用することができる。2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)や4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)等のヒドロキシC1-4アルキルアクリレートが特に好ましい。
【0032】
モノマー成分がC4-10アルキル(メタ)アクリレートを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの一方または両方を含む態様において、上記モノマー成分におけるC4-10アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、例えば80重量%以上であってよく、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下、例えば94重量%以下であり得る。また、上記モノマー成分がアクリル酸を含む場合におけるその含有量は、例えば0.1重量%以上であってよく、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上であり、また、例えば25重量%以下、好ましくは20重量%以下であり、10重量%以下であってもよい。上記モノマー成分が水酸基含有モノマーを含む場合におけるその含有量は、例えば0.01重量%以上であってよく、好ましくは0.05重量%以上であり、また、例えば15重量%以下であってよく、好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。上記モノマー成分が、C4-10アルキル(メタ)アクリレートを含み、さらにアクリル酸および水酸基含有モノマーの両方を含む態様がより好ましい。
【0033】
アクリル系ポリマーの調製に用いられるモノマー原料は、該アクリル系ポリマーの凝集力を高める等の目的で、上述した官能基含有モノマー以外の副モノマーを含んでいてもよい。
上記副モノマーの非限定的な具体例としては、以下のものが挙げられる。
アルコキシ基含有モノマー:例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート)類;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート類。
ビニルエステル類:例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
ビニルエーテル類:例えば、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテル等のビニルアルキルエーテル。
芳香族ビニル化合物:例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等。
オレフィン類:例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等。
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート。
芳香環含有(メタ)アクリレート:例えば、フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリールアルキル(メタ)アクリレート。
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有(メタ)アクリレート、塩化ビニルやフッ素原子含有(メタ)アクリレート等のハロゲン原子含有モノマー、シリコーン(メタ)アクリレート等のオルガノシロキサン鎖含有モノマー、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステル等。
このような副モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる他の副モノマーの量は、目的および用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマーの全モノマー原料中の20重量%以下(例えば2~20重量%、典型的には3~10重量%)とすることが好ましい。
【0034】
モノマー原料を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法等の、アクリル系ポリマーの合成手法として知られている各種の重合方法を適宜採用することができる。例えば、溶液重合法を好ましく採用することができる。溶液重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)は、従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン等の芳香族化合物類(典型的には芳香族炭化水素類);酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;イソプロピルアルコール等の低級アルコール類(例えば、炭素原子数1~4の一価アルコール類);tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~120℃(典型的には40℃~80℃)程度とすることができる。溶液重合によると、モノマー原料の重合物が重合溶媒に溶解した形態の重合反応液が得られる。粘着剤層の形成に用いられる粘着剤組成物は、上記重合反応液を用いて好ましく製造され得る。
【0035】
重合にあたっては、重合方法や重合態様等に応じて、公知または慣用の熱重合開始剤や光重合開始剤を使用し得る。熱重合開始剤の例としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤、置換エタン系開始剤等を使用することができる。光重合開始剤の例としては、α-ケトール系光開始剤、アセトフェノン系光開始剤、ベンゾインエーテル系光開始剤、ケタール系光開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光開始剤、光活性オキシム系光開始剤、ベンゾフェノン系光開始剤、チオキサントン系光開始剤、アシルホスフィノキシド系光開始剤等が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0036】
重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー原料100重量部に対して0.005~1重量部(典型的には0.01~1重量部)程度の範囲から選択することができる。
【0037】
ここに開示される粘着剤組成物は、必要に応じてアクリル系ポリマー以外のポリマーを、副ポリマーとしてさらに含んでもよい。上記副ポリマーとしては、粘着剤層に含まれ得るポリマーとして例示した各種ポリマーのうちアクリル系ポリマー以外のものが好適例として挙げられる。ここに開示される粘着剤組成物が、アクリル系ポリマーに加えて副ポリマーを含む場合、該副ポリマーの含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して100重量部未満とすることが適当であり、50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。副ポリマーの含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以下であってもよく、1重量部以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、粘着剤組成物に含まれるポリマーの99.5~100重量%がアクリル系ポリマーである態様で好ましく実施され得る。
【0038】
ベースポリマー(典型的には、アクリル系ポリマー)の分子量は、特に制限されず、要求性能に合わせて適当な範囲に設定され得る。ベースポリマー(典型的には、アクリル系ポリマー)の重量平均分子量(Mw)は、5×10以上であることが適当であり、好ましくは凡そ15×10以上、より好ましくは凡そ30×10以上、さらに好ましくは凡そ45×10以上(例えば凡そ50×10以上)のものを適宜選択して使用することができる。上記Mwの上限は特に限定されず、凡そ150×10以下(好ましくは凡そ100×10以下、例えば凡そ80×10以下)であり得る。Mwが上記範囲内であることにより、粘着剤の弾性率を好ましい範囲に調節しやすく、また良好な凝集力を発揮しやすい。
【0039】
特に限定するものではないが、ベースポリマー(典型的には、アクリル系ポリマー)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比として表される分散度(Mw/Mn)は、原理的に1以上であり、合成容易性や生産性の観点から2.0以上であってもよく、より好ましくは3.0以上である。いくつかの好ましい態様において、ベースポリマーの分散度は、例えば4.0以上であってよく、4.5以上であってもよく、さらに4.8以上であってもよい。ベースポリマーの分散度(Mw/Mn)を所定以上とすることにより、溶剤フリーで塗工しやすい溶融粘度において、良好な粘着性(粘着力やタック等)を発揮する粘着剤層が得られやすい。ベースポリマーの分散度の上限は特に限定されない。いくつかの態様において、ベースポリマーの分散度は、10以下(例えば9.0以下)であることが適当であり、8.0以下であることが好ましく、より好ましくは7.0以下であり、6.0以下であってもよく、5.5以下であってもよい。ベースポリマーの分散度(Mw/Mn)を所定以下とすることで、高分子量物の存在による溶融粘度の上昇を抑制しつつ、良好な凝集性を示す粘着剤層を形成し得る。
【0040】
なお、ここでベースポリマー(典型的には、アクリル系ポリマー)のMwおよびMnとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定に基づいて求められるポリスチレン換算の値をいう。GPC測定装置としては、例えば、東ソー(TOSOH)社製、型式「HLC-8120GPC」を使用することができる。
【0041】
(粘着付与剤)
ここに開示される粘着剤組成物は、下記式(1)で表される粘着付与剤(以下、「粘着付与剤A」ともいう。)を含むことを特徴とする。
R-[(CH-(CHO)-CH-OH (1)
(上記式(1)中、Rは水素原子または水酸基であり、mは9~16であり、nは0~3である。)
【0042】
上記式(1)で表される粘着付与剤Aを用いると、加熱溶融するときに急激にゲル化することが抑制された粘着剤組成物が実現しやすい。特に、上記粘着付与剤Aを、後述するイソシアネート系架橋剤と併用することにより、加熱溶融するときのゲル化抑制効果が発揮され易い。粘着付与剤Aは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記式(1)で表される粘着付与剤Aが、粘着剤組成物を加熱したときの急激なゲル化を抑制する理由については、特に限定されるものではないが、例えば次のように説明され得る。架橋剤(典型的にはイソシアネート系架橋剤)を用いた場合における架橋反応ABには、架橋剤がベースポリマーを架橋する反応Aと、架橋剤同士が水の存在下で結合してポリマーネットワークを形成する反応Bとが含まれる。一方、架橋剤は、粘着付与剤Aとも反応し得る(以下、架橋剤と粘着付与剤Aとの反応を反応Xと呼ぶ)。
架橋剤および粘着付与剤Aを含む粘着剤組成物を加熱すると、架橋反応ABと反応Xとが競争状態で進行すると考えられる。ここで、粘着剤組成物が溶融するような比較的高温(典型的には凡そ90~110℃、例えば約100℃)付近の温度条件下においては、反応Xが優勢におこる。一方、より低温(典型的には凡そ30~50℃、例えば約40℃)付近の温度条件下では、架橋反応ABが優勢に進行すると考えられる。このため、粘着剤組成物を比較的高温(典型的には凡そ90~110℃、例えば約100℃)で加熱溶融するときには、反応Xが優勢に進行することにより、架橋反応ABの進行が抑制されてゲル化物の発生が抑制され得る。また、加熱溶融した粘着剤組成物を溶融押出し等でフィルム状に成形した後に、比較的低温(典型的には凡そ30~50℃、例えば約40℃)の条件下で熟成すると、粘着剤組成物の架橋反応ABが進んで、十分な架橋度を有する粘着剤層を形成することができると考えられる。
【0044】
ここに開示される技術の好ましい一態様において、粘着付与剤Aは、上記式(1)中、mが9以上16以下(例えば、10以上15以下)のものであり、より好ましくはmが11以上14以下のものである。また、好ましい一態様において、粘着付与剤Aは、上記式(1)中、nが0以上3以下(例えば、0以上2以下)のものである。また、ここに開示される粘着剤組成物の好ましい一態様において、粘着付与剤Aは、上記式(1)中のRが水素原子である化合物から選ばれる一種または二種以上と、上記式(1)中のRが水酸基である化合物から選ばれる一種または二種以上とを併せて含む混合物である。ここに開示される粘着付与剤Aは、キシレン系粘着付与剤であり得る。キシレン系粘着付与剤の市販品としては、フドー株式会社製の商品名「ニカノール(登録商標)」等が例示される。
【0045】
粘着剤組成物を加熱溶融するときのゲル化抑制の観点から、ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤Aの含有量は、通常、0.1重量部以上であることが適当であり、0.5重量部以上であることが好ましく、より好ましくは1重量部以上とすることができる。いくつかの好ましい態様において、粘着付与剤Aの含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、3重量部以上としてもよく、5重量部以上でもよく、7重量部以上でもよい。粘着剤層の粘着力向上の観点から、粘着付与剤Aの含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、通常、20重量部以下であることが適当であり、15重量部未満であることが好ましく、より好ましくは10重量部以下とすることができる。粘着付与剤Aの含有量が多すぎると、熟成時の架橋反応が阻害されて粘着剤層の粘着特性が低下する虞がある。いくつかの好ましい態様において、粘着付与剤Aの含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、8重量部以下としてもよく、6重量部以下でもよく、2重量部以下でもよい。
【0046】
粘着付与剤Aの水酸基価は特に限定されない。好ましい一態様に係る粘着付与剤Aは、水酸基価が60mgKOH/g以下であり、より好ましくは50mgKOH/g以下、さらに好ましくは35mgKOH/g以下(例えば30mgKOH/g以下)である。粘着付与剤Aの水酸基価の下限は特に限定されないが、通常、10mgKOH/g以上が適当であり、好ましくは15mgKOH/g以上(例えば20mgKOH/g以上)である。
【0047】
ここで、上記水酸基価の値としては、JIS K0070:1992に規定する電位差滴定法により測定される値を採用することができる。具体的な測定方法は以下に示すとおりである。
[水酸基価の測定方法]
1.試薬
(1)アセチル化試薬としては、無水酢酸約12.5g(約11.8mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を50mLにし、充分に攪拌したものを使用する。または、無水酢酸約25g(約23.5mL)を取り、これにピリジンを加えて全量を100mLにし、充分に攪拌したものを使用する。
(2)測定試薬としては、0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を使用する。
(3)その他、トルエン、ピリジン、エタノールおよび蒸留水を準備する。
2.操作
(1)平底フラスコに試料約2gを精秤採取し、アセチル化試薬5mLおよびピリジン10mLを加え、空気冷却管を装着する。
(2)上記フラスコを100℃の浴中で70分間加熱した後、放冷し、冷却管の上部から溶剤としてトルエン35mLを加えて攪拌した後、蒸留水1mLを加えて攪拌することにより無水酢酸を分解する。分解を完全にするため再度浴中で10分間加熱し、放冷する。
(3)エタノール5mLで冷却管を洗い、取り外す。次いで、溶剤としてピリジン50mLを加えて攪拌する。
(4)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を、ホールピペットを用いて25mL加える。
(5)0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で電位差滴定を行う。得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
(6)空試験は、試料を入れないで上記(1)~(5)を行う。
3.計算
以下の式により水酸基価を算出する。
水酸基価(mgKOH/g)=[(B-C)×f×28.05]/S+D
ここで、
B: 空試験に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
C: 試料に用いた0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)、
f: 0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、
S: 試料の重量(g)、
D: 酸価、
28.05: 水酸化カリウムの分子量56.11の1/2、
である。
【0048】
ここに開示される粘着剤組成物は、粘着付与剤として、上記粘着付与剤Aに加えて他の粘着付与剤をさらに含んでもよい。このような他の粘着付与剤としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、フェノール系粘着付与剤、炭化水素系粘着付与剤、ケトン系粘着付与剤、ポリアミド系粘着付与剤、エポキシ系粘着付与剤、エラストマー系粘着付与剤等が挙げられる。粘着付与剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
ロジン系粘着付与剤としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの未変性ロジン(生ロジン)や、これらの未変性ロジンを重合、不均化、水添化などにより変性した変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンや、その他の化学的に修飾されたロジンなど)の他、各種のロジン誘導体などが挙げられる。
上記ロジン誘導体としては、例えば、ロジン類(未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体など)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール系樹脂;
未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したロジンのエステル化合物(未変性ロジンエステル)や、重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなどの変性ロジンをアルコール類によりエステル化した変性ロジンのエステル化合物(重合ロジンエステル、安定化ロジンエステル、不均化ロジンエステル、完全水添ロジンエステル、部分水添ロジンエステルなど)などのロジンエステル系樹脂;
未変性ロジンや変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなど)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン系樹脂;
ロジンエステル系樹脂を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル系樹脂;
未変性ロジン、変性ロジン(重合ロジン、安定化ロジン、不均化ロジン、完全水添ロジン、部分水添ロジンなど)、不飽和脂肪酸変性ロジン系樹脂や不飽和脂肪酸変性ロジンエステル系樹脂におけるカルボキシ基を還元処理したロジンアルコール系樹脂;
未変性ロジン、変性ロジンや、各種ロジン誘導体等のロジン系樹脂(特に、ロジンエステル系樹脂)の金属塩;などが挙げられる。
【0050】
テルペン系粘着付与剤としては、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、ジペンテン重合体などのテルペン系樹脂や、これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性など)した変性テルペン系樹脂(例えば、テルペンフェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂など)などが挙げられる。
【0051】
フェノール系粘着付与剤としては、例えば、各種フェノール類(例えば、フェノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール、p-アルキルフェノール、レゾルシンなど)とホルムアルデヒドとの縮合物(例えば、アルキルフェノール系樹脂、キシレンホルムアルデヒド系樹脂など)、上記フェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒で付加反応させたレゾールや、上記フェノール類とホルムアルデヒドとを酸触媒で縮合反応させて得られるノボラックなどが挙げられる。
【0052】
炭化水素系粘着付与剤の例としては、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン-オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。
【0053】
粘着付与剤Aに加えて他の粘着付与剤を用いる場合における、粘着付与剤全体の使用量は特に限定されず、目的や用途に応じて適切な粘着性能が発揮されるように設定することができる。ベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤全体の含有量は、例えば0.2重量部以上、1重量部以上または2重量部以上とすることができ、また、30重量部以下、20重量部以下または15重量部以下とすることができる。ここに開示される粘着剤組成物は、粘着付与剤A以外の粘着付与剤を含まなくてもよい。
【0054】
(架橋剤)
ここに開示される技術において、粘着剤組成物は、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含有する。イソシアネート系架橋剤は、上述する粘着付与剤Aと併せて使用されることにより、粘着剤組成物を加熱溶融するときの急激なゲル化が抑制され、かつ、より低温条件下における粘着剤層の熟成工程において粘着剤の架橋度を上昇させる傾向がある。
【0055】
イソシアネート系架橋剤としては、2官能以上の多官能イソシアネート化合物を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリス(p-イソシアナトフェニル)チオホスフェート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;等が挙げられる。市販品としては、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等を例示することができる。
【0056】
イソシアネート系架橋剤の含有量は、特に限定されない。ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、通常、15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは12重量部以下、より好ましくは10重量部以下であり、7重量部未満でもよく、5重量部未満でもよい。イソシアネート系架橋剤の含有量の下限は特に制限されない。粘着性能向上の観点からは、ベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、通常、0.01重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.05重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上であり、さらに好ましくは0.2重量部以上であり、0.5重量部以上であってもよく、1重量部以上でもよく、2重量部以上でもよく、3重量部以上でもよく、3.5重量部以上でもよく、4重量部以上であってもよい。
【0057】
ここに開示される粘着剤組成物は、イソシアネート系架橋剤の他に架橋剤をさらに含んでもよい。他の架橋剤として用いられ得る架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アミン系架橋剤等を例示することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものを特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-X」、「TETRAD-C」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、「デナコールEX-411」、「デナコールEX-321」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
【0059】
架橋剤全体の合計使用量は、特に限定されず、所望の使用効果が得られるように適切に設定し得る。被着体との密着性や接合信頼性の観点から、ベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)100重量部に対する架橋剤全体の使用量は、通常、凡そ15重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ12重量部以下、より好ましくは凡そ10重量部以下であり、7重量部未満でもよく、5重量部未満でもよい。架橋剤全体の合計使用量の下限は特に制限されない。粘着性能向上の観点からは、ベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)100重量部に対する架橋剤全体の使用量は、通常、0.01重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.05重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上であり、さらに好ましくは0.2重量部以上であり、0.5重量部以上であってもよく、1重量部以上でもよく、2重量部以上でもよく、3重量部以上でもよい。
【0060】
上述したいずれかの架橋剤の反応をより効果的に進行させるために、架橋触媒を用いてもよい。架橋触媒としては、例えばスズ系触媒(特にジラウリン酸ジオクチルスズ)やアミン系触媒(例えば1-イソブチル-2-メチルイミダゾール)を好ましく用いることができる。架橋触媒の使用量は特に制限されないが、例えば、ベースポリマー100重量部に対して凡そ0.0001重量部~1重量部とすることができる。
【0061】
(多官能モノマー)
ここに開示される粘着剤組成物の調製には、必要に応じて多官能性モノマーが用いられ得る。多官能性モノマーは、上述のような架橋剤に代えて、あるいは該架橋剤と組み合わせて用いられることで、凝集力の調整等の目的のために役立ち得る。多官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ブチルジオール(メタ)アクリレート、ヘキシルジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも好ましい多官能性モノマーとして、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。多官能性モノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用することができる。多官能性モノマーの使用量は、その分子量や官能基数等により異なるが、通常は、ベースポリマー100重量部に対して0.01重量部~3.0重量部程度の範囲とすることが適当である。ここに開示される粘着剤組成物は、多官能性モノマーを実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0062】
その他、ここに開示される技術における粘着剤組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、レベリング剤、可塑剤、軟化剤、着色剤(染料、顔料等)、帯電防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、防腐剤等の、粘着剤に使用され得る公知の添加剤を必要に応じて含んでいてもよい。
【0063】
<粘着剤層の形成>
ここに開示される粘着シートの粘着剤層は、ベースポリマー(例えば、アクリル系ポリマー)と、イソシアネート系架橋剤と、粘着付与剤Aとを含み、必要に応じて他の任意成分を含む、ホットメルト型粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。ここに開示される粘着剤組成物は、加熱溶融状態で成形され、その後、熟成工程を経ることで粘着剤層が形成され得る。
【0064】
ここに開示されるホットメルト型粘着剤組成物をフィルム状(またはシート状)に成形する方法は、特に限定されず、公知の適切な方法で行うことができる。ここに開示される粘着剤組成物は、例えば、カレンダー法、キャスティング法、インフレーション押出し法、Tダイ押出し法等の方法により成形し得る。例えば、ここに開示される粘着剤組成物を溶融押出しによりフィルム状に成形する場合において、粘着剤組成物は、比較的高温(典型的には凡そ90~110℃、例えば約100℃)に加熱され、流動性の高い溶融状態とされる。次いで、押出し装置の金型から溶融状態の粘着剤組成物が押出しされることにより、フィルム状に成形される。フィルム状に成形された粘着剤組成物は、その後、より低温な温度条件下(典型的には凡そ30~50℃、例えば約40℃)に一定時間以上(典型的には12時間以上、例えば24時間以上)置かれることにより、熟成されて、好適な粘着特性を有する粘着剤層が形成され得る。
【0065】
ここに開示される粘着シートにおいて、粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、粘着剤層の厚さは5~1000μm程度が適当であり、密着性等の観点から、好ましくは10μm以上(例えば15μm以上、典型的には25μm以上)程度であり、好ましくは750μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは400μm以下(例えば300μm以下、典型的には200μm以下)程度である。
【0066】
<粘着シートの構成例>
ここに開示される技術によると、上記粘着剤層を有する粘着シートが提供される。上記粘着剤層は、典型的には粘着シートの少なくとも一方の表面を構成している。粘着シートは、基材(支持体)の片面または両面に粘着剤層を有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、基材を含まない形態の粘着シート(基材レス粘着シート)であってもよい。
ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。また、本明細書により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0067】
図1および図2は、ここに開示される粘着シートの好適な一態様における構成例を示す図である。図1に示す粘着シート1は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(第一粘着面)21Aおよび他方の表面(第二粘着面)21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図2に示す粘着シート2は、粘着剤層21の一方の表面(第一粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(第二粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
基材レスまたは基材付きの両面粘着シートは、一方の粘着面に非剥離性の基材を貼り合わせることにより、基材付き片面粘着シートとして使用することができる。
【0068】
使用前(被着体への貼付け前)の粘着シートは、例えば図1、2に示すように、粘着面が剥離ライナーで保護された剥離ライナー付き粘着シートの形態であり得る。剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面が剥離処理された剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理には、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系等の剥離処理剤が用いられ得る。いくつかの態様において、剥離処理された樹脂フィルムを剥離ライナーとして好ましく採用し得る。
【0069】
ここに開示される粘着シートが第一粘着面および第二粘着面を有する両面粘着シートの形態である場合、第一粘着面を構成する粘着剤(第一粘着剤)と第二粘着面を構成する粘着剤(第二粘着剤)とは、同じ組成であってもよく異なる組成であっていてもよい。第一粘着面と第二粘着面とで組成の異なる基材レス両面粘着シートは、例えば、組成の異なる二以上の粘着剤層が直接(基材を介することなく)積層した多層構造の粘着剤層により実現することができる。
【0070】
<基材>
片面粘着タイプまたは両面粘着タイプの基材付き粘着シートにおいて、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、例えば樹脂フィルム、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体等の、各種のシート状基材を用いることができる。上記基材は、単層であってもよいし、同種または異種の基材の積層体であってもよい。なお、本明細書において、単層とは、同一の組成からなる層をいい、同一の組成からなる層が複数積層された形態のものを含む。
【0071】
好ましい一態様では、樹脂シートを主構成要素とする基材(樹脂フィルム基材)が用いられ得る。基材を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルイミド;アラミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリフェニルスルフィド;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース樹脂;シリコーン樹脂;等が挙げられる。上記樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて、基材の全体または一部(例えば、二層以上の積層構造の基材におけるいずれかの層)の形成に用いられ得る。
【0072】
基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0073】
上記基材は、任意の適切な方法で製造することができる。例えば、カレンダー法、キャスティング法、インフレーション押出し法、Tダイ押出し法等の公知の方法により製造することができる。また、必要に応じて、延伸処理を行って製造してもよい。
【0074】
基材の粘着剤層側表面には、粘着剤層との密着性や粘着剤層の保持性を高める等の目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等の物理的処理;酸処理、アルカリ処理、クロム酸処理等の化学的処理;コーティング剤(下塗り剤)による易接着処理;等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。また、帯電防止能の付与等の目的で、金属、合金、これらの酸化物等を含む導電性の蒸着層を基材表面に設けてもよい。
【0075】
いくつかの好ましい態様では、基材の粘着剤層側表面に下塗り層が設けられる。換言すると、基材と粘着剤層との間には下塗り層が配置され得る。下塗り層形成材料としては、特に限定されず、ウレタン(ポリイソシアネート)系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等の1種または2種以上が用いられ得る。樹脂フィルム基材上に下塗り層を介してアクリル系等の粘着剤層を設ける場合は、ポリエステル系やウレタン系、アクリル系の下塗り層が好ましい。PETフィルム等のポリエステル系基材上に下塗り層を介してアクリル系粘着剤層を設ける場合は、ポリエステル系下塗り層が特に好ましい。下塗り層の厚さは特に限定されず、通常、凡そ0.1μm~10μm(例えば0.1μm~3μm、典型的には0.1μm~1μm)の範囲であり得る。下塗り層は、グラビアロールコーター、リバースロールコーター等の公知または慣用のコーターを用いて形成され得る。
【0076】
ここに開示される粘着シートが基材の片面に粘着剤層が設けられた片面接着性の粘着シートの場合、基材の粘着剤層非形成面(背面)には、剥離処理剤(背面処理剤)によって剥離処理が施されていてもよい。背面処理層の形成に用いられ得る背面処理剤としては、特に限定されず、シリコーン系背面処理剤やフッ素系背面処理剤、長鎖アルキル系背面処理剤その他の公知または慣用の処理剤を目的や用途に応じて用いることができる。
【0077】
基材の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できるが、一般的には2μm~800μm程度であり得る。粘着シートの加工性や取扱い性等の観点から、基材の厚さは、5μm以上であることが適当であり、10μm以上または20μm以上であることが好ましく、30μm以上でもよく、40μm以上でもよい。また、柔軟性の観点から、基材の厚さは、通常、300μm以下であることが適当であり、200μm以下であることが好ましく、150μm以下でもよく、125μm以下でもよく、80μm以下でもよく、60μm以下でもよい。
【0078】
ここに開示される粘着シート(粘着剤層と基材とを含み得るが、剥離ライナーは含まない。)の総厚は特に限定されず、凡そ10μm~1200μmの範囲とすることが適当である。粘着シートの総厚は、密着性および取扱い性を考慮して、凡そ15μm~300μmの範囲とすることが好ましく、凡そ20μm~200μmの範囲とすることがより好ましい。
【実施例
【0079】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0080】
<例1>
(粘着剤組成物の調製)
リービッヒ冷却器、窒素導入管、温度計、滴下ロートおよび撹拌装置を備えた反応容器に、モノマー原料としてのn-ブチルアクリレート(BA)100部、アクリル酸(AA)2部、酢酸ビニル8部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)0.1部と、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部とを、重合溶媒としてのトルエンと酢酸エチルの混合溶媒(重量基準でトルエン:酢酸エチル=1:1)172部に添加した。次いで室温で1時間窒素還流を行った後、昇温し、58℃で6時間、溶液重合を行った。その後、さらに昇温し、1回目の熟成反応を65℃で2時間行い、続いてさらに昇温して、2回目の熟成反応を72℃で2時間行った。その後放冷して、アクリル系ポリマーAの溶液を得た。アクリル系ポリマーAの重量平均分子量(Mw)は60万、重量平均分子量/数平均分子量(分散度)は5.0であった。また、アクリル系ポリマーAに含まれる分子量10×10以下の重合体の含有量は、20重量%であった。上記モノマー原料の組成に基づくアクリル系ポリマーAのガラス転移温度(Tg)は-49℃である。
【0081】
上記アクリル系ポリマーAの溶液に、アクリル系ポリマーA100部に対して、キシレン系粘着付与剤(商品名「ニカノールH-80」、フドー社製)1部を添加して混合物溶液を得た。ここで、上記キシレン系粘着付与剤は、上述した式(1)に表される化合物であって、式(1)中のRが水素原子であるものと水酸基であるものの混合物である(後述する例2、3および5においても同じ)。この溶液から溶剤成分を脱溶媒プロセスにより回収して、無溶剤の固形混合物を得た。上記固形混合物に、イソシアネート系架橋剤(トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物、東ソー社製、商品名「コロネートL」、固形分濃度75重量%)4.5部を添加し、二軸押出機を用いて約100℃の温度条件下で溶融混合した。二軸押出機のコーター部から溶融した樹脂を吐出し、シート状の樹脂層を形成した。樹脂層形成直後の外観状態を観察し、ゲル分率を測定した。
【0082】
上記樹脂層を約40℃で72時間熟成させて、厚さが約50μmの粘着剤層を得た。上記粘着剤層を例1に係る粘着シートとした。即ち、例1に係る粘着シートは、粘着剤層からなる基材レスの両面粘着シートである。
【0083】
<例2、3および5>
上記アクリル系ポリマーAの溶液に、アクリル系ポリマーA100部に対して、キシレン系粘着付与剤(商品名「ニカノールH-80」、フドー社製)を表1に示す含有量で添加した他は、例1に係る粘着シートの作製と同様にして、本例に係る粘着シートを得た。
【0084】
<例4>
上記アクリル系ポリマーAの溶液に、粘着付与剤を添加しなかった他は、例1に係る粘着シートの作製と同様にして、本例に係る粘着シートを得た。
【0085】
<評価>
各例の粘着剤組成物を約100℃で加熱し、溶融押出しした直後(即ち、樹脂層形成時)の樹脂層の外観を目視で観察し、ゲル化物の有無を確かめた。また、該樹脂層のゲル分率(初期ゲル分率)を測定した。さらに、上記樹脂層を約40℃で72時間加熱して熟成させた後(即ち、粘着剤層形成時)の粘着剤層のゲル分率(熟成後ゲル分率)を測定した。得られた結果を表1に示す。また、溶融押出しが良好に行えた場合は○、不良であった場合は×を表1の該当欄に示す。なお、ゲル分率の測定は、以下の方法で行った。
【0086】
(ゲル分率の測定)
測定対象の樹脂層または粘着剤層から約0.1g(重量:W1[mg])のサンプルを採取して平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(重量:W2[mg])で巾着状に包み、口を凧糸(重量:W3[mg])で縛り、包みを得た。この包みを容量50mLのスクリュー管に入れ、当該スクリュー管に酢酸エチルを満たした(包み毎に1本のスクリュー管を使用した)。これを室温(典型的には23℃)にて7日間静置した後、包みをスクリュー管から取り出して130℃で2時間乾燥させた。その後に当該包みの重量(W4[mg])を測定した。そして、W1~W4の値を下記式に代入することによって樹脂層または粘着剤層のゲル分率を算出した。
ゲル分率[%]=[(W4-W2-W3)/W1]×100
上記テトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜としては、日東電工株式会社製のテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」)を使用した。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示されるように、例1~3および5に係る粘着剤組成物は、樹脂層形成直後の初期ゲル分率が0%であり、該樹脂層にゲル化物は観察されなかった。これに対し、例4に係る粘着剤組成物は、樹脂層形成直後の初期ゲル分率が22%であり、該樹脂層にゲル化物が観察された。また、例1~3の粘着剤組成物によると、溶融押出しを良好に行うことができた。
【0089】
また、例1~3に係る粘着剤組成物は、例5に係る粘着剤組成物と比較して、熟成後ゲル分率が好適に上昇し、改善された粘着特性を示す粘着剤層が得られた。
【0090】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0091】
1,2 粘着シート
21 粘着剤層
21A 第一粘着面
21B 第二粘着面
31,32 剥離ライナー
図1
図2