(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】導電性シリコーンゴム組成物とこれを用いた複合体
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240705BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20240705BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240705BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240705BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20240705BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C08L83/04
B32B25/20
B32B27/18 J
C08K3/01
C08K3/105
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2020038450
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和弘
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-286977(JP,A)
【文献】特開2004-197030(JP,A)
【文献】特開2005-100884(JP,A)
【文献】特開2004-027087(JP,A)
【文献】特開2014-214209(JP,A)
【文献】特開2004-149707(JP,A)
【文献】ダウ・東レ株式会社,安全データシート 化学品の名称:DOWSILTM BY 16-873
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B32B
H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、縮合硬化型のシリコーンゴムと、を含み、
前記導電性粉末のタップ密度(g/cm
3)を前記導電性粉末の真密度(g/cm
3)で除して100を掛けることによって求められる前記導電性粉末の充填率をX(体積%)とし、前記導電性粉末の体積と前記シリコーンゴムの体積との合計体積に対する、前記導電性粉末の体積の比をY(体積%)としたときに、
次の式:1.84≦(Y/X)≦3.22;を満た
し、
前記導電性粉末の体積の比(Y)が、30体積%以下である、
導電性シリコーンゴム組成物(ただし、残留磁束密度が1.0以上の強磁性を有する粉体を含むものを除く)。
【請求項2】
導電性粉末と、縮合硬化型のシリコーンゴムと、を含み、
前記導電性粉末のタップ密度(g/cm
3)を前記導電性粉末の真密度(g/cm
3)で除して100を掛けることによって求められる前記導電性粉末の充填率をX(体積%)とし、前記導電性粉末の体積と前記シリコーンゴムの体積との合計体積に対する、前記導電性粉末の体積の比をY(体積%)としたときに、
次の式:1.84≦(Y/X)≦3.22;を満た
し、
前記導電性粉末の充填率(X)が、15体積%以下である、
導電性シリコーンゴム組成物(ただし、残留磁束密度が1.0以上の強磁性を有する粉体を含むものを除く)。
【請求項3】
前記導電性粉末の体積の比(Y)が、15体積%以上30体積%以下である、
請求項1
または2に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記導電性粉末のタップ密度が、1.5g/cm
3以下である、
請求項1
から3のいずれか1項に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
前記導電性粉末の充填率(X)が、5体積%以上15体積%以下である、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
前記導電性粉末が、銀粉末を含む、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
有機溶剤を含み、ペースト状に調製されている、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
前記有機溶剤は、溶解度パラメータ(SP値)が6(cal/cm
3)
0.5以上8(cal/cm
3)
0.5以下の化合物を含む、
請求項
7に記載の導電性シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
基板と、前記基板上に設けられ、請求項1から
8のいずれか1項に記載の導電性シリコーンゴム組成物の乾燥体からなる導電膜と、を備えた複合体。
【請求項10】
前記導電膜の体積抵抗率が、1Ω・cm以下である、
請求項
9に記載の複合体。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に設けられ、以下の導電性シリコーンゴム組成物:
導電性粉末と、縮合硬化型のシリコーンゴムと、を含み、
前記導電性粉末のタップ密度(g/cm
3)を前記導電性粉末の真密度(g/cm
3)で除して100を掛けることによって求められる前記導電性粉末の充填率をX(体積%)とし、前記導電性粉末の体積と前記シリコーンゴムの体積との合計体積に対する、前記導電性粉末の体積の比をY(体積%)としたときに、
次の式:1.84≦(Y/X)≦3.22;を満たす、
;の乾燥体からなる導電膜と、
を備えた複合体であって、
前記複合体を2倍の長さに引き伸ばして元の長さに戻したときに、前記導電膜の体積抵抗率の増加率が10%以下である、
複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シリコーンゴム組成物とこれを用いた複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製造業や介護等の分野では、業務の自動化や機械化による効率改善が進められている。これに伴い、ロボットや身体装着型のパワーアシストデバイスの研究が加速している。この種の用途に用いられる人工筋肉やアクチュエータのような生体模倣型駆動材料では、駆動のための電気信号を送るため、導電性の組成物を用いて伸縮性の基板の上に配線や導電回路(導電膜)を形成する必要がある。導電膜には、生体模倣型駆動材料が伸長および収縮を繰り返しても導電性を維持することができる程度の伸縮性が求められる。
【0003】
伸縮性の導電膜に関連する従来技術文献として、特許文献1~3が挙げられる。例えば特許文献1には、エラストマー組成物と、導電性フィラーと、溶剤と、を含み、伸縮性配線基板を構成する配線を形成するために用いられる、導電性ペーストが開示されている。特許文献1には、伸縮性配線基板を長さ方向に20%繰り返し伸縮させた後にも、配線の導電性を維持しうる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-110093号公報
【文献】国際公開2017/217509号
【文献】国際公開2017/026420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、生体模倣型駆動材料には、さらに高いレベルの伸縮性が要求されることがある。例えば、長さ方向に2倍の長さ(200%)にまで引き伸ばして元の長さ(100%)に戻したときにも導電膜が導電性を維持することができ、好ましくは、引き伸ばした後も抵抗の増加を小さく抑えることが求められる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、伸縮性の向上した導電膜を形成することができる導電性シリコーンゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、導電性粉末と、縮合硬化型のシリコーンゴムと、を含み、上記導電性粉末のタップ密度(g/cm3)を上記導電性粉末の真密度(g/cm3)で除して100を掛けることによって求められる上記導電性粉末の充填率をX(体積%)とし、上記導電性粉末の体積と上記シリコーンゴムの体積との合計体積に対する、上記導電性粉末の体積の比をY(体積%)としたときに、次の式:1.84≦(Y/X)≦3.22;を満たす、導電性シリコーンゴム組成物が提供される。
【0008】
上記導電性シリコーンゴム組成物によれば、導電性と優れた伸縮性とを備えた導電膜を形成することができる。これにより、2倍の長さにまで引き伸ばして元の長さに戻したときにも、導電性を維持することができる。したがって、例えば縮合硬化型のシリコーンゴム以外を結着成分として用いる場合や、上記比(Y/X)の範囲を満たさない場合に比べて、相対的に伸縮性の向上した(ストレッチャブルな)導電膜を実現することができる。
【0009】
ここに開示される好適な一態様では、上記導電性粉末の体積の比(Y)が、15体積%以上30体積%以下である。これにより、導電膜の電気伝導性と伸縮性とを好適にバランスすることができる。
【0010】
ここに開示される好適な一態様では、上記導電性粉末のタップ密度が、1.5g/cm3以下である。これにより、導電性粉末の隙間にシリコーンゴムが入り込みやすくなり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。
【0011】
ここに開示される好適な一態様では、上記導電性粉末の充填率(X)が、5体積%以上15%体積以下である。充填率が所定値以上であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。充填率が所定値以下であると、導電性粉末の空孔部分にシリコーンゴムが入り込みやすくなり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。
【0012】
ここに開示される好適な一態様では、上記導電性粉末が、銀粉末を含む。これにより、導電性とコストとのバランスに優れた導電膜を実現することができる。
【0013】
ここに開示される好適な一態様では、有機溶剤を含み、ペースト状に調製されている。これにより、導電性シリコーンゴム組成物の取扱性や、導電膜形成時の作業性を向上することができる。
【0014】
ここに開示される好適な一態様では、上記有機溶剤は、溶解度パラメータ(SP値)が6(cal/cm3)0.5以上8(cal/cm3)0.5以下の化合物を含む。これにより、シリコーンゴムとの相溶性を高めることができ、均質なペーストを安定して調製することができる。
【0015】
また、本発明により、基板と、上記基板上に設けられ、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性シリコーンゴム組成物の乾燥体からなる導電膜と、を備えた複合体が提供される。
【0016】
ここに開示される好適な一態様では、上記導電膜の体積抵抗率が、1Ω・cm以下である。これにより、電気伝導性に優れた導電膜を実現することができる。
【0017】
ここに開示される好適な一態様では、上記複合体を2倍の長さに引き伸ばして元の長さに戻したときに、上記導電膜の体積抵抗率の増加率が10%以下である。これにより、伸縮性に優れた導電膜を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る配線基板を模式的に表す断面図である。
【
図2】縮合硬化型のシリコーンゴムを用いた試験例の総合評価の一覧を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性シリコーンゴム組成物の構成)以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事柄(例えば、導電性シリコーンゴム組成物の調製方法や、使用方法等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B(A,Bは任意の値)」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0020】
<導電性シリコーンゴム組成物>
導電性シリコーンゴム組成物は、(A)導電性粉末と、(B)縮合硬化型のシリコーンゴムと、を含んでいる。導電性シリコーンゴム組成物は、典型的には(C)有機溶剤を含んで、ペースト状(スラリー状、インク状を包含する。以下同様。)に調製されている。導電性シリコーンゴム組成物は、さらに(D)その他の任意成分を含有し得る。導電性シリコーンゴム組成物は、例えば、(A)導電性粉末と(B)シリコーンゴムと(D)その他の任意成分とを(C)有機溶剤に分散または溶解させることで調製しうる。
【0021】
導電性シリコーンゴム組成物は、導電膜の形成に用いることができる。なお、本明細書において「導電膜」とは、導電性シリコーンゴム組成物を、(B)シリコーンゴムの沸点よりも低い温度、典型的には200℃以下、例えば150℃以下、さらには120℃以下、好ましくは100℃以下で乾燥させた膜状体(乾燥物)をいう。以下、各構成成分について順に説明する。
【0022】
<(A)導電性粉末>
導電性粉末は、導電膜に電気伝導性を付与する必須成分である。導電性粉末の種類は特に限定されず、従来公知のもののなかから、例えば導電性シリコーンゴム組成物の用途等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。導電性粉末の種類としては、例えば、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属の単体、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)等の卑金属の単体、カーボンブラック等の炭素質材料、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。合金としては、例えば、銀-パラジウム(Ag-Pd)、銀-白金(Ag-Pt)、銀-銅(Ag-Cu)等の銀合金が挙げられる。導電性粉末は、導電性金属粉末であってもよい。
【0023】
導電性粉末は、例えば、コア(例えば上記金属種や無機材料)の表面を上記金属種の少なくとも1つでコートしたコア-金属シェル粉末や、上記金属種の少なくとも1つをコアとし、それ以外の材料でコアの表面をコートした金属コア-シェル粉末であってもよい。コア-金属シェル粉末としては、例えば、銀コート銅、銀コートシリカ、銀コートガラス、銀コートセラミック等が挙げられる。
【0024】
好適な一態様では、導電性粉末が銀系粉末を含んでいる。銀系粉末を含むことで、導電性とコストとのバランスに優れた導電膜を実現することができる。なお、本明細書において、「銀系粒子」とは、銀成分を含む粉末全般を包含する。銀系粉末の一例として、銀の単体、銀合金、銀系粉末をシェルとしたコア-銀シェル粉末、銀系粉末をコアとした銀コア-シェル粉末等が挙げられる。なかでも、銀または銀合金が好ましい。導電性粉末の全体を100体積%としたときに、銀成分の割合は、概ね50体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上、例えば95体積%以上、98体積%以上、99体積%以上、実質的に100体積%であるとよい。
【0025】
導電性粉末を構成する粒子の性状、例えば粒子のサイズや形状等は、後述する比(Y/X)を満たす限りにおいて、特に限定されない。粒子のサイズは、例えば導電性シリコーンゴム組成物の用途や形成する導電膜の寸法等に応じて適宜選択することができる。粒子のサイズは、導電膜の最小寸法、例えば厚みおよび/または幅に収まるように選択するとよい。特に限定されるものではないが、導電性粉末の平均粒径(D50)は、概ね0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、例えば1μm以上、2μm以上、3μm以上、5μm以上であってもよい。平均粒径が所定値以上であると、導電性粉末の隙間に(B)シリコーンゴムが入り込みやすくなる。これにより、導電性粉末とシリコーンゴムとの密着性が高まり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。導電性粉末の平均粒径(D50)は、概ね50μm以下、例えば30μm以下、20μm以下、10μm以下であってもよい。平均粒径が所定値以下であると、導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。
【0026】
なお、本明細書において「平均粒径(D50)」とは、レーザー回折・光散乱法で測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側から累積50%に相当する粒子径(50%体積平均粒径)をいう。
【0027】
特に限定されるものではないが、導電性粉末のタップ密度は、概ね3g/cm3以下、好ましくは2g/cm3以下、1.5g/cm3以下、例えば1.1g/cm3以下、1g/cm3以下、0.8g/cm3以下であってもよい。タップ密度が所定値以下であると、導電性粉末の隙間に(B)シリコーンゴムが入り込みやすくなる。これにより、導電性粉末とシリコーンゴムとの密着性が高まり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。導電性粉末のタップ密度は、概ね0.1g/cm3以上、好ましくは0.2g/cm3以上、0.5g/cm3以上、例えば0.7g/cm3以上であってもよい。タップ密度が所定値以上であると、導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。導電性粉末のタップ密度は、例えば導電性粉末の粉砕や分級等によって調整することができる。
【0028】
なお、本明細書において「タップ密度」とは、所定の容器に導電性粉末を投入して1000回タップし、慣性による圧縮力をかけた後の見掛け密度(嵩密度)をいう。タップ密度は、JIS Z2512:2012年に規定される「金属粉-タップ密度測定方法」に準じて測定することができる。
【0029】
導電性粉末を構成する粒子の形状は、例えば、樹枝状(デンドライト状)、針状(紡錘状、円柱状を包含する。)、麟片状(フレーク状)、略球状、不定形状等であってもよい。特に限定されるものではないが、導電性粉末を構成する粒子は、平均アスペクト比(長径/短径比)が2以上、さらには3以上となるような形状、例えば、樹枝状、針状であってもよい。これにより、導電膜の伸縮方向に導電性ネートワークを好適に形成して、電気伝導性を向上することができる。なかでも、樹枝状が好ましい。
【0030】
なお、本明細書において「アスペクト比」とは、導電性粉末を構成する粒子を電子顕微鏡で観察し、得られた観察画像に外接する矩形を描いたときの、粒子短辺の長さ(a)に対する長辺の長さ(b)の比(b/a)をいう。平均アスペクト比は、複数の粒子(例えば100個の粒子)のアスペクト比の算術平均値を意味する。また、本明細書において「樹枝状」とは、導電性粉末を構成する粒子を電子顕微鏡で観察した際に、最も長い主軸から、複数の分岐枝が2次元的または3次元的に延在する形状をいう。
【0031】
導電性粉末を構成する粒子は、複数の導電性粒子(1次粒子)が3次元的に凝集してなる凝集粉状であってもよい。1次粒子は、略球状ないし不定形状であってもよい。凝集粉状では、1次粒子同士が物理的に接触していることから、導電膜の伸縮方向に好適に導電性ネートワークを形成して、電気伝導性を向上することができる。また、凝集粉状や樹枝状の導電性粒子は、例えば略球状の導電性粒子に比べて相対的に嵩高く、タップ密度が小さいことから、導電性粉末の隙間に(B)シリコーンゴムが入り込みやすくなる。これにより、導電性粉末とシリコーンゴムとの密着性が高まり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。
【0032】
導電性粉末の真密度は、概ね5~20g/cm3、好ましくは10±2.5g/cm3、例えば10±1.0g/cm3であってもよい。これにより、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで奏することができる。なお、導電性粉末の真密度は、物質に固有の値である。例えば金属等の単体であれば、従来公知の各種文献や辞典、メーカーの製品カタログ等に記載された値を用いることができる。例えば、導電性粉末が銀の単体であれば、真密度は10.5g/cm3である。また、上記文献等に記載が無い場合や、導電性粉末の種類が2種類以上である場合等には、JIS K0061:2001年に規定される「化学製品の密度及び比重測定方法」に準じて、例えば液相置換法(ピクノメーター法)で実測することもできる。
【0033】
特に限定されるものではないが、次の式:(タップ密度/真密度)×100;で表される導電性粉末の充填率Xは、概ね3体積%以上、好ましくは4体積%以上、5体積%以上、例えば6体積%以上であってもよい。真密度は、導電性粒子の内部や導電性粒子間の空孔部分を除いた導電性粉末そのものの体積で、導電性粉末の質量を割った値を意味する。また上記の通り、タップ密度は、慣性による圧縮力をかけた後の嵩密度をいう。そのため、充填率Xの値が大きいほど、空孔部分が少ないことを意味する。充填率Xが所定値以上であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。充填率Xは、概ね30体積%以下、好ましくは20体積%以下、15体積%以下、例えば10体積%以下であってもよい。充填率Xが所定値以下であると、導電性粉末の空孔部分に(B)シリコーンゴムが入り込みやすくなる。これにより、導電性粉末とシリコーンゴムとの密着性が高まり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。充填率Xは、7体積%以上であってもよく、9体積%以下、8体積%以下であってもよい。
【0034】
特に限定されるものではないが、(A)導電性粉末の体積と(B)シリコーンゴムの体積との合計を100体積%としたときに、導電性粉末の体積比Yは、概ね5体積%以上、好ましくは10体積%以上、例えば15体積%以上であってもよい。体積比が所定値以上であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。体積比Yは、典型的には(B)シリコーンゴムよりも小さく、概ね50体積%未満、好ましくは40体積%以下、30体積%以下、例えば28体積%以下であってもよい。体積比が所定値以下であると、導電性粉末の隙間に(B)シリコーンゴムが入り込みやすくなる。これにより、導電性粉末とシリコーンゴムとの密着性が高まり、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。体積比Yは、20体積%以上であってもよく、25体積%以下であってもよい。なお、導電性粉末の体積は、導電性粉末の質量を真密度で割った値により求めることができ、シリコーンゴムの体積は、シリコーンゴムの質量を密度で割った値により求めることができる。
【0035】
本実施形態において、導電性粉末の上記充填率Xと上記体積比Yとは、次の式:1.84≦(Y/X)≦3.22;を満たしている。上記比(Y/X)を所定値以下とすることで、導電膜に優れた伸縮性を付与することができる。また、上記比(Y/X)を所定値以上とすることで、導電膜に電気伝導性を付与することができる。導電膜の電気伝導性を向上する観点からは、上記比(Y/X)が、例えば1.85以上、1.9以上、2.0以上、好ましくは2.4以上、2.5以上、2.7以上、3.0以上であってもよい。また、上記比(Y/X)は、概ね3.1以下、3.0以下、2.8以下、2.5以下、2.3以下、2.0以下であってもよい。
【0036】
特に限定されるものではないが、導電性シリコーンゴム組成物の全体を100質量%としたときに、導電性粉末の質量比は、典型的には(B)シリコーンゴムよりも多く、概ね20質量%以上、典型的には30質量%以上、例えば40質量%以上、45質量%以上、49質量%以上であってもよい。質量比が所定値以上であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。導電性粉末の質量比は、概ね90質量%以下、典型的には80質量%以下、例えば75質量%以下、72質量%以下であってもよい。質量比が所定値以下であると、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。
【0037】
<(B)縮合硬化型のシリコーンゴム>
シリコーンゴムは、導電膜に柔軟性や伸縮性を付与する必須成分である。シリコーンゴムは、ケイ素(Si)を含む有機化合物である。本実施形態では、大気中の水分を取り込んで硬化反応が進行する縮合硬化型のシリコーンゴムを用いることが必須である。縮合硬化型のシリコーンゴムは、例えば常温(20±5℃)の温度条件で硬化反応が進行する常温縮合硬化型のシリコーンゴムであってもよい。縮合硬化型のシリコーンゴムは、常温(20±5℃)、常圧の環境下で流動性を有する液状シリコーンゴムであってもよい。なお、後述する試験例にも示す通り、付加反応型のシリコーンゴムを用いる場合は、導電膜の伸縮性が不足する。また、付加反応型のシリコーンゴムを用いる場合、典型的には付加反応触媒が必要となる。これにより、様々な基板で硬化阻害を起こす虞があるため、好ましくない。
【0038】
縮合硬化型のシリコーンゴムとしては特に限定されず、従来公知のもののなかから、例えば導電性シリコーンゴム組成物の用途等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。縮合硬化型のシリコーンゴムは、シロキサン結合(Si-O-Si)を主鎖とし、側鎖および/または末端に硬化の架橋点となる有機基を有する、直鎖型あるいは直鎖変性型のポリマーであってもよい。有機基は、例えば、炭素数が1~20、さらには1~10の炭化水素基であってもよい。有機基は、例えば直鎖又は分岐のアルキル基、アルケニル基、アリール基、ポリエーテル基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基、水酸基等であってもよい。有機基が複数の場合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
縮合硬化型のシリコーンゴムは、ケイ素原子に結合した水酸基(すなわち、シラノール基)または加水分解性基を、1分子中に少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサンであってもよい。縮合硬化型のシリコーンゴムは、例えば、分子鎖の両末端のケイ素原子が水酸基で封鎖された両末端シラノール基封鎖オルガノポリシロキサンであってもよい。具体例として、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン等のポリジアルキルシロキサンや、ポリアルキルアリールシロキサン等が挙げられる。
【0040】
縮合硬化型のシリコーンゴムの密度は、概ね0.5~2g/cm3、好ましくは1.0±0.3g/cm3、例えば1.0±0.2g/cm3であってもよい。これにより、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで奏することができる。なお、シリコーンゴムの密度は、物質に固有の値であり、例えば従来公知の各種文献や辞典、メーカーの製品カタログ等に記載された値を用いることができる。また、JIS K0061:2001年に規定される「化学製品の密度及び比重測定方法」に準じて、例えば液相置換法(ピクノメーター法)で実測することもできる。
【0041】
特に限定されるものではないが、縮合硬化型のシリコーンゴムの硬度は、概ね35度以下、好ましくは30度以下、例えば25度以下であるとよい。硬度を所定値以下とすることにより、導電膜の柔軟性を高めて、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。なお、本明細書において「シリコーンゴムの硬度」とは、タイプAのデュロメータ(ゴム硬度計)を用いて測定した硬さをいう。シリコーンゴムの硬度は、JIS K6253-3:2012年に規定される「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方- 第3部:デュロメータ硬さ」に準じて測定することができる。
【0042】
特に限定されるものではないが、縮合硬化型のシリコーンゴムの切断時伸びは、概ね200%以上、好ましくは250%以上、例えば300%以上であるとよい。切断時伸びを所定値以上とすることにより、導電膜の柔軟性を高めて、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。なお、本明細書において「シリコーンゴムの切断時伸び」とは、所定の試験片を用意し、引張試験機によって試験片を引っ張り、試験片が切断したときの伸びをいう。切断時伸びは、試験片の初期の長さに対する比率(%)で表される。すなわち、次の式:{(試験片の切断時の長さL1-試験片の初期の長さL0)/試験片の初期の長さL0}×100(%);で表される。シリコーンゴムの切断時伸びは、JIS K6251:2010年に規定される「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて測定することができる。
【0043】
導電性シリコーンゴム組成物は、体積基準で、シリコーンゴムを主体(50体積%以上を占める成分。)として構成されているとよい。特に限定されるものではないが、(A)導電性粉末の体積と(B)シリコーンゴムの体積との合計を100体積%としたときに、シリコーンゴムの体積比は、典型的には(A)導電性粉末よりも大きく、概ね50体積%以上、好ましくは60体積%以上、65体積%以上、例えば70体積%以上であってもよい。体積比が所定値以上であると、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。シリコーンゴムの体積比は、概ね95体積%以下、好ましくは90体積%以下、例えば85体積%以下であってもよい。体積比が所定値以下であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。
【0044】
特に限定されるものではないが、導電性シリコーンゴム組成物の全体を100質量%としたときに、シリコーンゴムの質量比は、概ね5質量%以上、典型的には7質量%以上、例えば10質量%以上、15質量%以上であってもよい。質量比が所定値以上であると、導電膜の伸縮性をより好適に向上することができる。シリコーンゴムの質量比は、概ね50質量%以下、典型的には40質量%以下、35質量%以下、例えば30質量%以下であってもよい。質量比が所定値以下であると、導電膜において導電性粒子同士が接触しやすくなり、導電膜の電気伝導性をより好適に向上することができる。
【0045】
<(C)有機溶剤>
有機溶剤は、導電性シリコーンゴム組成物の固形分、主には(A)導電性粉末と(B)シリコーンゴムとを溶解または分散させて、導電性シリコーンゴム組成物の流動性を調整する任意成分である。導電性シリコーンゴム組成物の流動性を調整することで、導電性シリコーンゴム組成物の取扱性や、導電膜形成時の作業性を向上することができる。
【0046】
有機溶剤としては特に限定されず、従来公知のもののなかから、例えば導電性シリコーンゴム組成物の用途や導電膜を形成する基板の種類等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。有機溶剤の種類としては、例えば、炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、グリコールエステル系溶剤、アルコール系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、N-ペンタン、N-ヘキサン、シクロヘキサン、N-ヘプタン、N-ノナン、N-オクタン、N-デカン、N-ウンデカン、N-ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ケロシン、石油系炭化水素、ナフサ、ジペンテン、テレピン油等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素が挙げられる。有機溶剤は、非極性溶剤であってもよい。なかでも、導電性シリコーンゴム組成物の保存安定性や導電膜形成時の取扱性を向上する観点からは、揮発しにくく、かつ引火性が低い(例えば引火点が40℃以上)ものが好ましい。
【0047】
特に限定されるものではないが、有機溶剤の溶解度パラメータ(SP値)は、概ね4(cal/cm3)0.5以上、典型的には5(cal/cm3)0.5以上、好ましくは6(cal/cm3)0.5以上、例えば6.5(cal/cm3)0.5以上であってもよい。有機溶剤の溶解度パラメータは、概ね10(cal/cm3)0.5以下、典型的には9(cal/cm3)0.5以下、好ましくは8(cal/cm3)0.5以下であってもよい。SP値は、導電性シリコーンゴム組成物の固形分と有機溶剤との「混ざり易さ」の尺度となる値である。本発明者の検討によれば、有機溶剤の溶解度パラメータを上記範囲とすることにより、(B)シリコーンゴムとの相溶性を高めることができ、均質なペーストを安定して調製することができる。また、適用可能な基板の幅(バリエーション)を広げることができる。
【0048】
なお、本明細書において「溶解度パラメータ(Solubility Parameter:SP)」とは、R.F.Fedors, Polymer Engineering Science, 14, p147 (1974) に記載される、所謂、Fedors法で計算された溶解度パラメータをいう。溶解度パラメータは、各化合物に固有の値である。なお、SP値のSI単位は、(J/cm3)0.5または(MPa)0.5であるが、本明細書では従来慣用的に使用される(cal/cm3)0.5を用いる。SP値の単位は、次の式:1(cal/cm3)0.5≒2.05(J/cm3)0.5≒2.05(MPa)0.5;で換算することができる。
【0049】
導電性シリコーンゴム組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤の量は、固形分を均質に溶解または分散可能な量であって、導電膜の形成に適した粘度となるように適宜調整すればよい。一例として、導電性シリコーンゴム組成物の全体を100質量%としたときに、有機溶剤の質量比は、概ね5質量%以上、典型的には7質量%以上、例えば10質量%以上、15質量%以上であってもよい。有機溶剤の質量比は、概ね50質量%以下、典型的には40質量%以下、35質量%以下、例えば30質量%以下であってもよい。溶媒の量を必要最小限に抑えることで、緻密な導電膜を形成することができ、導電膜の電気伝導性および伸縮性のうちの少なくとも一方をより好適に向上することができる。
【0050】
<(D)その他の任意成分>
導電性シリコーンゴム組成物は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した成分に加えて、さらに必要に応じて種々の任意成分を含有することができる。任意成分としては、一般的な導電性組成物等に用いられている従来公知のもののなかから、必要に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。任意成分の一例としては、例えば、分散剤、増粘剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、pH調整剤、防腐剤、硬化促進剤(縮合反応触媒)、硬化遅延剤、有機バインダ、(B)縮合硬化型のシリコーンゴム以外の結着成分(例えば各種エラストマー)等が挙げられる。なかでも、分散剤を含むことが好ましい。また、導電性粉末の種類や適用可能な基板の幅(バリエーション)を広げる観点等からは、付加反応触媒等として用いられる白金や白金含有化合物を含まないことが好ましい。
【0051】
分散剤は、(A)導電性粉末の凝集を抑制し、導電性シリコーンゴム組成物の分散安定性を高める成分である。なお、本明細書において「分散剤」とは、親水性部位と親油性部位とを有する両親媒性を有する化合物全般をいい、界面活性剤、湿潤分散剤、乳化剤をも包含する用語である。分散剤としては、従来公知のもののなかから、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。一例として、カルボキシル基を有するカルボン酸系分散剤、ホスホン酸基を有するリン酸系分散剤、スルホン酸基を有するスルホン酸系の分散剤、アミノ基を有するアミン系の分散剤等が挙げられる。(B)シリコーンゴムおよび/または(C)有機溶剤との親和性を高める観点からは、酸価を有する有酸価分散剤が好ましい。
【0052】
導電性シリコーンゴム組成物が任意成分を含む場合、(A)導電性粉末を100質量部としたときに、分散剤は、概ね0.01~1質量部、例えば0.1~0.5質量部であってもよい。これにより、上記比(Y/X)を満たす導電性粉末の凝集を好適に抑制することができる。
【0053】
導電性シリコーンゴム組成物が任意成分を含む場合、任意成分の量は、典型的には(A)導電性粉末、(B)シリコーンゴム、および(C)有機溶剤よりも少ない。一例として、導電性シリコーンゴム組成物の全体を100質量%としたときに、任意成分(例えば分散剤)の質量比は、概ね5質量%以下、典型的には3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、例えば0.5質量%以下であってもよい。また、(A)導電性粉末、(B)シリコーンゴム、および(D)その他の任意成分の全体を100質量%としたときに、(A)導電性粉末と(B)シリコーンゴムとの合計が、概ね80質量%以上、典型的には90質量%以上、95質量%以上、例えば98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上であってもよい。任意成分の量を必要最小限に抑えることで、導電膜の電気伝導性および伸縮性のうちの少なくとも一方をより好適に向上することができる。
【0054】
<導電性シリコーンゴム組成物の使用方法>
導電性シリコーンゴム組成物は、配線や導電回路の形成、各種電子部品の接合や実装、回路接続、各種部品同士の接着等に好ましく用いることができる。一使用例では、先ず、伸縮性を有する基板を準備する。ただし、基板は伸縮性を有していなくてもよい。伸縮性の基板としては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンゴム、プロピレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム等のゴムやエラストマーからなる基板が挙げられる。
【0055】
次に、この基板上に、導電性シリコーンゴム組成物を所望の厚み(例えば0.01~10mm、0.1~1μm)となるように付与する。導電性シリコーンゴム組成物の付与(典型的には塗布)は、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、バーコーター、ドクターブレード、スリットコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーター、ディスペンサー等を用いて行うことができる。
【0056】
次に、基板上に付与した導電性シリコーンゴム組成物を乾燥する。基板の損傷を抑える観点からは、乾燥温度を基板の耐熱温度よりも十分低く設定することが好ましい。導電性シリコーンゴム組成物中の(B)シリコーンゴムが常温縮合硬化型のシリコーンゴムである場合、乾燥は常温(20±5℃)で行ってもよい。また、硬化を促進して作業効率を高める観点からは、適宜加熱乾燥を行ってもよい。耐熱性の低い基板を使用する場合には、加熱温度の上限を、概ね200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下とするとよい。また、乾燥時間は、典型的には1時間~数日程度(例えば1~5日程度)とするとよい。縮合硬化型のシリコーンゴムは、基板上に付与した導電性シリコーンゴム組成物を空気中に上記乾燥時間放置することによって、空気中の水分を吸収し、硬化反応を生じる。これによって、基板上に導電膜が形成される。また、上記加熱温度よりも沸点が低い成分、例えば(C)有機溶剤や(D)その他の任意成分は気化して、導電膜から除去されうる。
【0057】
図1は、配線基板10の断面図である。なお、ここでいう配線基板には、回路基板やプリント基板等が包含される。配線基板10は、基板12と、基板12の上(例えば表面)に形成された導電膜14と、を備えている。導電膜14は、ここで開示される導電性シリコーンゴム組成物の乾燥体で構成されている。導電膜14は、予め定められた設計図にしたがって、基板12の上に所定の回路パターンで形成されている。なお、導電膜14は、
図1に示すように基板12の片面のみに備えられていてもよく、あるいは基板12の両面に備えられていてもよい。また、導電膜14は、基板12の一部のみに備えられていてもよいし、あるいは基板12の全面にわたって備えられていてもよい。
【0058】
導電膜14は、(A)導電性粉末と(B)シリコーンゴムとを主体として構成されている。導電膜14の固形分全体を100体積%としたときに、(A)導電性粉末と(B)シリコーンゴムとの合計は、概ね80体積%以上、典型的には90体積%以上、95体積%以上、例えば98体積%以上、99体積%以上、99.5体積%以上、実質的に100体積%であってもよい。
【0059】
導電膜14の初期の体積抵抗率は、実用レベルを考慮すると、概ね5Ω・cm以下、例えば2Ω・cm以下、好ましくは1Ω・cm以下、0.5Ω・cm以下、さらには0.2Ω・cm以下であるとよい。また、配線基板10を長さ方向に2倍の長さ(200%)にまで引き伸ばして元の長さ(100%)に戻したときに、導電膜14の体積抵抗率の増加率は、概ね100%以下、例えば50%以下、好ましくは10%以下、さらには5%以下であるとよい。
【0060】
<導電性シリコーンゴム組成物の用途>
ここで開示される導電性シリコーンゴム組成物は、電気伝導性と伸縮性とに優れる。このため、人工筋肉やアクチュエータのような生体模倣型駆動材料、各種電子機器のアクチュエータやセンサ(例えば、圧力センサ、衝撃センサ、振動センサ等)、身体装着型のウェアラブルデバイス、ロボット用デバイス、パワーアシストデバイス、発電装置、衝撃吸収材料、制振材料等で好ましく利用することができる。
【0061】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0062】
[導電性シリコーンゴム組成物の調製]
まず、表1~4に示す導電性粉末(銀粉末)と、シリコーンゴムと、有機溶剤と、分散剤と、を用意した。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
次に、上記用意した銀粉末とシリコーンゴムと有機溶剤と分散剤とを、各例につき、表5~表7に示す質量で混合して、真空装置付撹拌・脱泡装置(マゼルスターKK-VT300、倉敷紡績株式会社製)を用いて、均一に撹拌した。これにより、導電性シリコーンゴム組成物(例1~9、比較例1~14)を調製した。なお、表5~表7には、質量とあわせて、導電性粉末の体積比Y、充填率X、および比(Y/X)を示している。導電性粉末の体積は、上記質量を真密度(銀は、10.5g/cm3)で割り、算出した。また、シリコーンゴムの体積は、上記質量を表2の密度で割り、算出した。
【0068】
〔試験片の作成〕
次に、メタルマスク(開口部のサイズ:10mm×10mm、厚み:0.12mm)を用いたスクリーン印刷によって、上記導電性シリコーンゴム組成物を、窒化ケイ素基板(サイズ:縦35mm×横35mm×厚み0.32mm)の表面に付与した。次に、導電性シリコーンゴム組成物付きの窒化ケイ素基板を、100℃のホットプレート上で1時間、加熱乾燥させた。縮合硬化型のシリコーンゴムを用いた試験例では、100℃・1時間の加熱後、さらに3日間、常温で放置した。これにより、シリコーンゴムを硬化させて、窒化ケイ素基板の上に導電膜を形成し、各例の試験片1を作製した。
また、試験片1と同様にして、シリコーンゴム製の基板(サイズ:縦40mm×横40mm×厚み1mm、硬度:30度)の上に導電膜を形成し、各例の試験片2を作製した。
【0069】
〔試験片の評価〕
上記作製した試験片について、下記(1)~(4)の評価を行った。評価結果を、表5~表7の各欄にそれぞれ示す。
(1)膜硬化
「○」:導電膜が形成でき、導電膜を触っても変形やべたつきがなかった。
「×」:導電膜が形成できない、導電膜を触ると変形やべたつきがあった。
【0070】
(2)体積抵抗率・導電性
試験片1の導電膜の体積抵抗率を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、型式:ロレスタGP MCP-T610)を用いて、4探針法で測定した。なお、「OL」は、測定上限値を越えたことを表し、「-」は未測定であることを表している。また、導電性は、下記符号で表している。
「○」:体積抵抗率が1Ω・cm以下だった。
「×」:体積抵抗率が1Ω・cmを超えた。
【0071】
(3)伸縮性
引張試験機に試験片2を取り付け、横方向に2倍の長さ(200%)に引き伸ばした後、元の長さ(100%)に戻した。そして、引き伸ばし後の導電膜の状態を目視で確認した。また、上記(2)と同様にして引き伸ばし前後の体積抵抗率をそれぞれ測定し、次の式:{(引き伸ばし後の体積抵抗率-引き伸ばし前の体積抵抗率)/引き伸ばし前の体積抵抗率}×100から、体積抵抗率の増加率を算出した。伸縮性は、下記符号で表している。なお、「-」は未測定であることを表している。
「○」:引き伸ばし後の導電膜にひび割れが発生せず、かつ、引き伸ばし後の体積抵抗率の増加率が10%以下だった。
「×」:引き伸ばし後の導電膜にひび割れが発生した、または、引き伸ばし後の体積抵抗率の増加率が10%を超えた。
【0072】
(4)総合評価
「○」:導電性および伸縮性がいずれも「○」だった。
「×」:導電性および/または伸縮性が「×」だった。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
表6に示すように、付加硬化型のシリコーンゴムを用いた比較例6~7,9~13は、いずれも総合評価が「×」だった。詳しくは、固体成分における銀粉末の体積比が36.2%以下の比較例7,11,12では、体積抵抗率がオーバーレンジとなり、導電性を得ることさえできなかった。また、比較例6,9,10では、導電膜の電気伝導性は得られたものの、2倍の長さ(200%)の引き伸ばしには耐えることができず、導電ネットワークが切断されて、伸縮性の基準を満たしていなかった。また、SP値が高い有機溶剤を用いた比較例13では、導電性シリコーンゴム組成物の分散性が悪化し、印刷時に分離を生じたため、導電膜が形成できなかった。
【0077】
図2は、縮合硬化型のシリコーンゴムを用いた試験例(例1~9、比較例1~5,8,14)の総合評価の一覧を表すグラフである。
図2および表5~表7に示すように、上記比(Y/X)が1.84を下回る比較例4,5,8では、導電膜の電気伝導性が基準を満たしていなかった。また、上記比(Y/X)が3.22を上回る比較例1~3,14では、2倍の長さ(200%)の引き伸ばしには耐えることができず、伸縮性の基準を満たしていなかった。
【0078】
なお、追加的な実験として、シリコーンゴム以外の結着成分についても、伸縮性の検討を行った。一例として、ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解したもの(帝国インキ製造株式会社製、HELインキシリーズ)をテフロン(登録商標)製の板材に塗布し、加熱によって有機溶剤を揮発させ、ポリウレタン樹脂の自立膜を成形した。これを2倍の長さ(200%)の引き伸ばした場合、破断することはなかったものの、引張力を解放しても2倍の長さのままであり、元の長さに戻ることはなかった。すなわち、ポリウレタン樹脂の弾性限度(降伏点伸び)を超えた状態であった。このことから、ポリウレタン樹脂のように弾性限度が小さい樹脂を用いた場合、上記伸縮性の基準を満たさないことが明らかである。
【0079】
これら比較例に対して、縮合硬化型のシリコーンゴムを用い、かつ、上記比(Y/X)が1.84~3.22である例1~9は、体積抵抗率が1Ω・cm以下、かつ200%の伸縮性を有し、導電性と伸縮性とがいずれも基準を満たしていた。なかでも、上記比(Y/X)が2.44以上である例1,8,9では、体積抵抗率が0.01Ω・cm未満であり、電気伝導性に一層優れていた。これらの結果は、ここに開示される発明の技術的意義を裏付けるものである。
【0080】
なお、特に限定的に解釈されるものではないが、上記比(Y/X)を満たすことによって導電性と伸縮性とを兼ね備えた導電膜を形成できる一因として、本発明者は次のように考えている。すなわち、上記充填率Xと上記体積比Yとは、いずれも導電性粉末の体積割合である。十分な伸縮性を得るためには、導電膜中の固体成分(導電性粉末とシリコーンゴムとの合計)に占めるシリコーンゴムの体積比を確保する必要がある。そのためには、導電性粉末の充填率Xを抑える必要がある。上記体積比Yが上記充填率Xに対して大きくなると、導電膜中で導電性粉末が過剰にあることになり、導電は可能であるが膜強度が不足して引き伸ばしに耐えないと想定できる。また逆に、上記体積比Yが上記充填率Xに対して小さくなると、導電性粉末の体積比が小さくなることになり、導電自体が難しくなると想定できる。したがって、導電性と伸縮性とを兼ね備えた導電膜を形成するためには、上記比(Y/X)をバランスすることが必要だと考えられる。
【0081】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0082】
10 配線基板
12 基板
14 導電膜