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特許7515287吸収性物品用表面シート及びこれを備える吸収性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】吸収性物品用表面シート及びこれを備える吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/511 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
A61F13/511 100
A61F13/511 300
A61F13/511 400
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020067414
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021159672
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 華
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-38838(JP,A)
【文献】特開2015-110846(JP,A)
【文献】特開2005-145020(JP,A)
【文献】特開2004-166832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、第1面の反対側に位置する第2面とを有する吸収性物品用表面シートであって、
第1面を含み、且つコットンと第1熱可塑性繊維とを含む第1繊維層と、
第1繊維層と隣接し且つ第2面を含み、第2熱可塑性繊維を含む第2繊維層とを有し、
第1繊維層と第2繊維層とを互いに接合するエンボス部が形成されており、
前記エンボス部が形成されていない部位において、第1繊維層を構成する繊維の繊維間距離が、第2繊維層を構成する繊維の繊維間距離よりも小さく、
第1繊維層における前記コットンの含有割合が30質量%以上80質量%以下であり、
第1繊維層における第1熱可塑性繊維の含有割合が20質量%以上70質量%以下であり、
第2繊維層における第2熱可塑性繊維の含有割合が60質量%以上であり、
第2繊維層の厚みが第1繊維層の厚みよりも大きく、
前記吸収性物品用表面シートを平面視したとき、連続直線で形成されている多数の第1エンボス部線と、連続直線で形成されている多数の第2エンボス部線とが、一方向に対して互いに逆向きに傾斜して形成されており、それによって前記エンボス部からなる複数の凹部と、該凹部の間に形成された凸部とを有する凹凸形状が第1面側に形成されているか、
又は、
前記吸収性物品用表面シートを平面視したとき、円形状の前記エンボス部が散点状に複数形成されており、それによって該エンボス部からなる複数の凹部と、該凹部の間に散点状に形成された凸部とを有する凹凸形状が第1面側に形成されている、吸収性物品用表面シート。
【請求項2】
第1繊維層と第2繊維層との間に接着剤を有しない、請求項1に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項3】
第1繊維層を構成する繊維の繊維間距離D1に対する第2繊維層を構成する繊維の繊維間距離D2の比(D2/D1)が、1以上15以下である、請求項1又は2に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項4】
第1繊維層の厚みH1に対する第2繊維層の厚みH2の比(H2/H1)が、2以上11以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項5】
第2繊維層における前記熱可塑性繊維が捲縮している、請求項1~4のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項6】
前記凸部は、第1繊維層と第2繊維層とで画成された中空の構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シート。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の吸収性物品用表面シートを備え、
前記吸収性物品用表面シートは、その第1面側が着用者の身体に対向するように配されている、吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性物品用表面シート及びこれを備える吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
生理用ナプキン、失禁パット、パンティライナー等の、身体から排出される液の吸収に用いられる吸収性物品は、その肌対向面を構成する表面シートとして、不織布等の液透過性のシートが一般的に用いられる。
【0003】
特許文献1には、表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在された吸収性物品が開示されている。この吸収性物品に用いられる表面シートは、コットンの柔らかい肌触り感を低下させずに、表面シートに吸収された体液が非肌側に移行できるようにすることを目的として、肌側に配設されたセルロース系繊維からなる非熱融着層と、非肌側に配設された熱融着性繊維からなる熱融着層とを含み、表面シートの非肌側に、熱融着性繊維からなるセカンドシートが配設され、セカンドシートの非肌側面に、セカンドシート及び表面シートを一体的に肌側に向けて窪ませた多数の圧搾部が形成されていることが同文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-162218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸収性物品に用いられる表面シートは、吸収体に吸収された液が表面シート側に戻ることを低減するために、凹凸賦形が施されることがある。特許文献1に記載の吸収性物品に配される表面シートは、親水性繊維からなる繊維層と、合成繊維からなる繊維層とを含む積層構造のシートとして構成され得るところ、このようなシートにエンボス加工等による凹凸賦形を施すと、繊維層どうしの接合が不十分となり、十分に凹凸賦形されない可能性がある。その結果、液戻りの低減に関して改善の余地があった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、シート表面への液戻りが低減された吸収性物品用表面シート及びこれを備える吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1面と、第1面の反対側に位置する第2面とを有する吸収性物品用表面シートであって、
第1面を含み、且つコットンと熱可塑性繊維とを含む第1繊維層と、
第1繊維層と隣接し且つ第2面を含み、熱可塑性繊維を含む第2繊維層とを有し、
第1繊維層と第2繊維層とを互いに接合するエンボス部が形成されている、吸収性物品用表面シートを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記吸収性物品用表面シートを備え、前記表面シートは、その第1面側が着用者の身体に対向するように配されている、吸収性物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シート表面への液戻りが低減された吸収性物品用表面シート及びこれを備える吸収性物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)及び(b)は、本発明の吸収性物品用表面シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図2(a)及び(b)は、本発明の吸収性物品用表面シートのエンボス部の形成状態を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、本発明の吸収性物品用表面シートを製造するための製造装置の一実施形態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1に示す吸収性物品用表面シート1(以下、単に「表面シート1」ともいう。)は、第1面Fと、第1面Fの反対側に位置する第2面Rとを有する液透過性のシートである。
【0012】
表面シート1は、尿や経血等の体液を吸収する吸収性物品の構成部材として好適に用いられる。表面シート1が吸収性物品に組み込まれる場合、第1面Fが着用者の肌と当接する面である肌当接面側に配され、第2面Rが肌当接面とは反対側の面である非肌当接面側に配される。典型的には、第1面Fは、表面シート1と排泄された液とが最初に接触する面である受液面として用いられ、第2面Rは、液保持性の吸収体と当接して配される。
【0013】
表面シート1は、第1面Fを含んで構成される第1繊維層11と、第2面Rを含んで構成される第2繊維層12とを有する。表面シート1は、第1繊維層11と第2繊維層12とが互いに隣接して配されている二層構造のシートである。これとともに、表面シート1には、第1繊維層11と第2繊維層12とを互いに接合するエンボス部15が複数形成されている。エンボス部15は、表面シート1の構成繊維の一部又は全部が融着しているか、又は融着せずに圧密化された部位であり、好ましくは融着している部位である。
【0014】
第1繊維層11は、コットン1aの繊維と、熱可塑性樹脂を含む繊維2a(以下、これを「第1熱可塑性繊維2a」ともいう。)とを有し、各構成繊維が交絡又は融着して形成されている。典型的には、本発明の第1繊維層11は、スパンレース不織布である。
一方、第2繊維層12は、熱可塑性樹脂を含む繊維2b(以下、これを「第2熱可塑性繊維2b」ともいう。)を有する。本発明の第2繊維層12は、スパンレース不織布又はエアスルー不織布であり、好ましくはエアスルー不織布である。
なお、図1(a)及び(b)に示すコットン1aの繊維並びに各熱可塑性繊維2a,2bは、その繊維径が異なるように図示されているが、繊維及びその配置に関する説明の便宜上そのように示しただけであり、両繊維の繊維径は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0015】
第1繊維層11に含まれる第1熱可塑性繊維2aと、第2繊維層12に含まれる第2熱可塑性繊維2bとは、繊維の種類が同一であってもよく、異なっていてもよい。「繊維の種類が異なる」とは、繊維を構成する樹脂の種類が異なる場合だけではなく、樹脂の種類は同じであるが、繊維の太さが異なる場合も包含する。熱可塑性樹脂の詳細は後述する。
一般的に、同一の直径を有する紡糸ノズルから溶融吐出され且つ同種の樹脂を用いた繊維は、製造された繊維の太さが繊維長さ方向において同一となるので、繊維の太さが異なる場合には、直径が異なる紡糸ノズルを用いて繊維を製造したと考えられる。したがって、上述した製造方法を考慮すると、樹脂の種類を同一のものとし、且つ繊維の太さが異なる繊維は、本発明においては熱可塑性繊維において「繊維の種類が異なる」とする。
一方、繊維長さについては、溶融吐出後の工程にて任意の繊維長で切断されて以後の工程に供されることがあるため、同じ樹脂の種類を用い、且つ同一直径を有する紡糸ノズルを用いた場合であっても、シートに含まれる繊維の長さがそれぞれ異なる場合がある。したがって、樹脂の種類は同じであり且つ繊維長さが異なる繊維は、本発明においては、熱可塑性繊維の種類が同じであるとする。
【0016】
上述のとおり、表面シート1はエンボス部15が形成されている。表面シート1は、図1(a)及び(b)に示すように、エンボス部15が形成されている部位に凹部17が複数形成され、また凹部17どうしの間に凸部18が形成されていることが好ましい。また、凹部17及び凸部18の形成によって第1面Fは凹凸形状となっていることが更に好ましい。詳細には、本実施形態における凹部17はエンボス部15が形成されている部位であり、凸部18はエンボス部15が形成されていない部位であることが好ましい。凸部18が存在する場合、凸部18における各繊維層11,12の境界面は明瞭となっている。エンボス部15は、各繊維層11,12の境界面が存在しないか、又は境界面が不明瞭となっている。第1面Fが凹凸形状となっていることによって、エンボス部15を介して引き込まれた液が、シート表面に液戻りすることを更に抑制することができる。
【0017】
第2面Rは、平坦であってもよく、凹凸形状であってもよい。第2面Rが凹凸形状を有する場合、表面シート1にエンボス部15が形成されることに起因して、第1面Fにおける凹部17及び凸部18の位置と一致するように、第2面Rにおいてもそれぞれ凹部17及び凸部18が形成された凹凸形状となる傾向にある。第2面Rが凹凸形状である場合、第2面Rにおける凸部18は、その高さが、第1面Fにおける凸部18の高さよりも低いことも好ましい。本実施形態における凹部17は、シート厚みが最も小さい部位となっている。
【0018】
凸部18は、図1(a)に示すように、第1繊維層11と第2繊維層12とが接触するように構成された中実の構造となっていてもよく、図1(b)に示すように、第1繊維層11と第2繊維層12とが離間し、第1繊維層11の下面と第2繊維層12の上面とで画成された空間Sを有する中空の構造となっていてもよい。図1(a)に示すように、凸部18が中実の構造となっている場合、第1繊維層11と第2繊維層12との間は、接着剤等によって接着されていてもよく、接着剤が不存在となって、接着されていない構成となっていてもよい。
【0019】
表面シート1に形成されているエンボス部15の態様としては、例えば図2(a)に示すように、表面シート1を平面視したときに、X方向に対して互いに逆向きに傾斜した連続直線によって構成されている。
【0020】
図2(a)に示すエンボス部15の形成態様では、表面シート1を平面視したときに、連続直線で形成されている第1エンボス部線15Aと、連続直線で形成されている第2エンボス部線15Bとが、X方向に対して互いに逆向きに傾斜して形成されている。同図に示す第1エンボス部線15A及び第2エンボス部線15Bはそれぞれ、互いに平行に多数本形成されている。また、隣り合う第1エンボス部線15Aの間隔、及び隣り合う第2エンボス部線15Bの間隔はそれぞれ略同一となっている。第1エンボス部線15A及び第2エンボス部線15Bが形成されている位置は、表面シート1の断面視における凹部17の位置となる。また、2本の第1エンボス部線15Aと、2本の第2エンボス部線15Bとで画成される領域は、表面シート1の断面視における凸部18の位置となる。
【0021】
表面シート1に形成されているエンボス部15の別の態様として、例えば図2(b)に示すように、表面シート1を平面視したときに、エンボス部15は、シート面方向に散点状に形成されていてもよい。
【0022】
図2(b)に示すエンボス部15の形成態様では、表面シート1を平面視したときに、円形状のエンボス部15が所定の間隔を置いて複数形成されている。同図に示すエンボス部15は、X方向に直交する方向に延びる複数のエンボス部列15Cを構成しており、隣り合うエンボス部列15Cにおいて、ピッチが同一で、且つ位相が半ピッチずれて形成された形態となっている。これに代えて、隣り合うエンボス部列15Cにおいて、ピッチは異なっていてもよい。また、隣り合う各エンボス部列15Cの位相のずれは、周期的であってもよく、それぞれ非周期的であってもよい。
【0023】
散点状に形成されたエンボス部15の形状は、同図に示すように円形状であってもよく、矩形状、六角形状等の多角形状、X形及びY形等のアルファベット様形状、格子形状、若しくはこれらの組み合わせとなっていてもよい。エンボス部15が形成されている位置は、表面シート1の断面視における凹部17の位置となる。また、4つのエンボス部15に囲まれている領域は、表面シート1の断面視における凸部18の位置となる。上述したエンボス部15の形成態様のうち、エンボス部15は、シート面方向に散点状に形成されていることが好ましい。
【0024】
各熱可塑性繊維2a,2bに含まれる熱可塑性樹脂としては、それぞれ独立して、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニルやポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリパーフルオロエチレン等のフッ素樹脂などが挙げられる。これらの繊維は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
また、各熱可塑性繊維2a,2bは、それぞれ独立して、熱収縮性を有していてもよく、熱収縮性を有していなくてもよい。熱収縮性を有する熱可塑性繊維(以下、これを熱収縮性繊維ともいう。)の例としては、例えば潜在捲縮性繊維が挙げられる。潜在捲縮性繊維は、加熱される前において、JIS L1015に記載の方法で測定される繊維の捲縮数が20以下の繊維であり、通常の不織布用の繊維と同様に取り扱うことができるが、熱収縮温度以上の熱を付与することによって繊維が収縮し、該繊維の前記捲縮数が20超、好ましくは捲縮数40~100の捲縮を発現する繊維である。潜在捲縮性繊維は、例えば、収縮率の異なる2種類の熱可塑性樹脂を成分とする偏心芯鞘型又はサイド・バイ・サイド型の複合繊維からなる。その例としては、特開平9-296325号公報や特開平2-191720号公報に記載のものが挙げられる。
【0026】
上述の構成を有する表面シート1は、第1面Fを構成する第1繊維層11にコットンを含むので、コットンが有する柔軟性や、着用者がコットンに対して想起する「やさしさ」や「安心感」等の良いイメージを、表面シート1を備える吸収性物品の着用者に与えやすくすることができる。また、第1繊維層11と第2繊維層12との双方に熱可塑性繊維を含み、且つ各繊維層11,12を接合するエンボス部15が形成されているので、熱可塑性繊維どうしの融着等に起因してエンボス部15の形成を効率良く行えるとともに、エンボス部15が形成されていない場合と比較して、吸収された液がシート表面に戻ることが抑制され、液戻り量が低減され、シート表面の肌触りが良好なものとなる。
本発明の好適な態様によれば、散点状のエンボス部15によって形成された複数の凹部17と、その間に位置する凸部18とを有する凹凸形状をより明瞭に形成することができるので、第1面Fを受液面として用いたときに、シート表面、すなわち第1面F側への液戻り量が更に低減され、シート表面の肌触りが良好なものとなる。
【0027】
上述した効果を顕著なものとする観点から、表面シート1は、第1繊維層11と第2繊維層12との間に、接着剤を有していないことが好ましい。詳細には、エンボス部15が形成されていない部位である凸部18において、第1繊維層11と第2繊維層12との境界面に接着剤を有しておらず、両繊維層11,12は接着されていないことが好ましい。また、エンボス部15が形成されている部位である凹部17においても同様に、表面シート1は、第1繊維層11と第2繊維層12との間に接着剤を有しておらず、接着以外の態様でエンボス部15が形成されていることが好ましい。このような構成となっていることによって、表面シート1が吸収性物品に組み込まれる場合、表面シート1を透過する液を、接着剤等の材料を介さずに第2面R側に効率的に移行させて吸収体に液を吸収保持させやすくすることができるので、表面シート1側への液戻り量が更に低減される。
【0028】
表面シート1は、エンボス部15が形成されていない部位において、第1繊維層11を構成する繊維の繊維間距離D1が、第2繊維層12を構成する繊維の繊維間距離D2よりも小さいことが好ましい。つまり、図1(a)及び(b)に示す実施形態では、凸部18において、上述の繊維間距離の関係を満たしていることが好ましい。このような構成になっていることによって、繊維間距離が小さい第1繊維層11では毛管力を高めて、液の引き込み性を高めるとともに、繊維間距離が大きい第2繊維層12では繊維どうしの間に液を透過しやすくすることができるので、表面シート1を吸収性物品に組み込んだときに、吸収体に液を吸収保持させやすくすることができる。その結果、シート表面への液戻りを更に低減することができる。
【0029】
各繊維層11,12の繊維間距離は、例えば、以下に示すWrotnowskiの仮定に基づく式(1)により求めることができる。下記式(1)は一般に、繊維集合体の繊維間距離を求める際に用いられる。Wrotnowskiの仮定の下では、繊維は円柱状であり、それぞれの繊維は交わることなく規則正しく並んでいる。
【0030】
まず、下記式(1)により、多層構造を構成する各繊維層11,12の繊維間距離を算出する。その際、下記式(1)で用いる厚みt、坪量W、繊維の密度ρ及び繊維径Dは、それぞれ、測定対象の繊維層についてのものを用いる。厚みt、坪量W及び繊維径Dは、それぞれ、複数の測定点における測定値の算術平均値である。
厚みt(mm)は以下の方法にて測定する。まず、測定対象のシートを長手方向50mm×幅方向50mmに切断し該シートの切断片を作製する。ただし、小さな吸収性物品からシートを採取する場合など、測定対象のシートとしてこの大きさの切断片を作製できない場合は、可能な限り大きな切断片を作製する。次に、この切断片を平板上に載せ、その上に平板上のガラス板を載せ、ガラス板を含めた荷重が49Paになるようにガラス板上に重りを均等に載せた上で、該切断片の厚みを測定する。測定環境は温度20±2℃、相対湿度65±5%、測定機器にはマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-1000)を用いる。切断片の厚みの測定は、まず、該切断片の切断面の拡大写真を得る。この拡大写真には、既知の寸法の物体を同時に写しこむ。次に、前記切断片の切断面の拡大写真にスケールを合わせ、該切断片の厚みすなわち測定対象のシートの厚みを測定する。以上の操作を3回行い、3回の算術平均値を、測定対象のシートの厚みtとする。
なお、各繊維層11,12の境界面は、繊維径及び/又は繊維密度の違いからその境界を判別して厚みを算出するか、又は繊維の種類によって色が変わる繊維識別用試薬(例えば一般財団法人ボーケン品質評価機構製、BOKENSTAIN II、以下の説明ではこれを用いる。)を用いて表面シート1を染色し、染色された繊維の色から厚み方向Zで繊維の構成比が異なる領域を目視にて判定して、当該領域の境目を境界とし、厚みを算出することができる。
【0031】
坪量W(g/m)は、測定対象のシートを所定の大きさ(例えば12cm×6cmなど)にカットし、質量測定後に、その質量測定値を、該所定の大きさから求まる面積で除することで求められる(「坪量W(g/m)=質量/所定の大きさから求められる面積」)。4回測定し、その算術平均値を坪量とする。
繊維の密度ρ(g/cm)は、密度勾配管を使用して、JIS L1015における密度勾配管法の測定方法に準じて測定する。
繊維径D(μm)は、日立製作所株式会社製S-4000型電界放射型走査電子顕微鏡を用いて、繊維の伸びる方向に直交する方向にカットした繊維の繊維断面を10本測定し、その算術平均値を繊維径とする。
【0032】
【数1】
【0033】
第1繊維層11を構成する繊維の繊維間距離D1は、好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは150μm以下、更に好ましくは90μm以下である。
また、第2繊維層12を構成する繊維の繊維間距離D2は、繊維間距離D1よりも大きいことを条件として、好ましくは50μm以上、更に好ましくは70μm以上であり、好ましくは250μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
また、繊維間距離D1に対する繊維間距離D2の比(D2/D1)は、好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、好ましくは50以下、更に好ましくは15以下である。
各繊維間距離D1,D2並びにD2/D1比がこのような範囲にあることによって、シート表面の液戻りがより一層低減される。上述した各繊維間距離D1,D2並びにD2/D1比を満たすためには、例えば第1繊維層11においては、例えば第1繊維層11の構成繊維として第2繊維層12の構成繊維よりも繊維径の細い繊維を用いたり、第1繊維層11として水流吹き付け圧力を高めて製造したスパンレース不織布を用いたり、第1繊維層11として不織布を用い、該不織布をプレスロール等によって厚み方向に圧縮する処理を施したりして達成することができる。また、第2繊維層12においては、第2繊維層12の構成繊維として第1繊維層11の構成繊維よりも繊維径の太い繊維を用いたり、潜在捲縮性繊維を用い、該繊維に熱を付与して捲縮を発現させるといった処理を施したりすることによって達成することができる。
【0034】
また図1(b)に示すように、凸部18は、第1繊維層11と第2繊維層12とが離間し、第1繊維層11と第2繊維層12とで画成された空間Sを有する中空の構造となっていることが好ましい。このような構成となっていることで、第2繊維層12側に存在する液と、第1面F側に位置する第1繊維層11との接触面積が少なくなるので、第2繊維層12側に存在する液が第1繊維層11側に戻りにくくなり、その結果、シート表面への液戻り量が一層低減される。凸部18に中空構造を有する構成は、例えば、第2繊維層12の構成繊維として熱収縮性繊維を用い、熱による繊維の収縮を発現させることで形成することができる。
【0035】
表面シート1の各実施形態に適用可能な事項に関する説明に戻ると、第2繊維層12における厚みH2(図1(a)及び(b)参照)が、第1繊維層の厚みH1(図1(a)及び(b)参照)よりも大きく構成されていることが好ましい。このような構成となっていることによって、吸収した液を第2繊維層12内に保持させやすくしつつ、第2繊維層12側に位置する吸収体等の他の部材に液を移行させやすくすることができ、シート表面である第1面F側への液戻りを更に低減することができる。
【0036】
表面シート1における第1繊維層の厚みH1及び第2繊維層12における厚みH2は、エンボス部15が形成されていない部位を対象として測定することができる。詳細には、凸部18の最頂部(すなわち表面シート1の厚みが最も大きい部位)を通過するように厚み方向Zに沿って表面シート1を無荷重状態で切断し、表面シート1の断面を得る。次いで、表面シート1に49Paの荷重を付与した状態で、上述したマイクロスコープを用いて、該切断面の拡大写真を得る。この拡大写真には、既知の寸法の物体を同時に写しこむ。次に、前記断面の拡大写真にスケールを合わせ、前記断面における第1繊維層11の厚み及び第2繊維層12の厚みをそれぞれ測定する。各繊維層11,12の厚みは、上述の方法で判定した各繊維層11,12の境界を基準として測定する。以上の操作を、同一シートにおける異なる3つの凸部18を対象として行い、3回の測定における第1繊維層11の厚みの算術平均値を厚みH1(mm)とし、3回の測定における第2繊維層12の厚みの算術平均値を厚みH2(mm)とする。測定環境は、温度20±2℃、相対湿度65±5%とする。
【0037】
第1繊維層11の厚みH1(図1(a)及び(b)参照)は、好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.3mm以上であり、好ましくは1mm以下、更に好ましくは0.7mm以下である。
また、第2繊維層12の厚みH2(図1(a)及び(b)参照)は、厚みH1よりも大きいことを条件として、好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.7mm以上であり、好ましくは2.2mm以下、更に好ましくは2mm以下である。
また、第1繊維層11の厚みH1に対する第2繊維層12の厚みH2の比(H2/H1)は、好ましくは1超、更に好ましくは2以上であり、好ましくは11以下、更に好ましくは6.7以下である。
各厚みH1,H2並びにH2/H1比がこのような範囲にあることによって、シート表面の液戻りが更に低減される。
【0038】
特に、第2繊維層12においては、第2繊維層12に含まれる第2熱可塑性繊維2bが捲縮していることが好ましい。このような構成になっていることによって、上述した繊維間距離D1,D2の関係、並びに厚みH1と厚みH2との差を容易に達成することができ、その結果、シート表面への液戻りが更に低減される。第2繊維層12に含まれる第2熱可塑性繊維2bを捲縮させるためには、例えば、第2熱可塑性繊維2bとして、上述した潜在捲縮性繊維などの熱収縮性を有する繊維を用いて、熱を付与すればよい。
【0039】
熱可塑性繊維が熱収縮している場合、その繊維は、その捲縮形態として、コイル状、ジグザグ状、U字状又はこれらの組み合わせの形態を有していることが好ましい。
【0040】
熱可塑性繊維が熱収縮している場合、JIS L1015に準じて測定及び算出された捲縮数は、好ましくは30以上、更に好ましくは40以上であり、好ましくは150以下、更に好ましくは100以下である。
【0041】
第1繊維層11は、コットン1aの繊維と第1熱可塑性繊維2aとを含むところ、コットン1aの繊維と第1熱可塑性繊維2aとのみから構成されていてもよく、これらの繊維に加えて、コットン1aの繊維及び第1熱可塑性繊維2a以外の他の繊維が含まれていてもよい。
同様に、第2繊維層12は、第2熱可塑性繊維2bのみから構成されていてもよく、第2熱可塑性繊維2bに加えて、第2熱可塑性繊維2b以外の他の繊維が含まれていてもよい。
【0042】
第1繊維層11に含まれ得る他の繊維としては、コットン1a以外のセルロース系繊維や、第1熱可塑性繊維2aとは異なる熱可塑性繊維が挙げられる。
コットン以外のセルロース系繊維としては、例えば、コットン以外の天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、精製セルロース繊維及び半合成セルロース繊維が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
天然セルロース繊維としては、例えば、麻等のじん皮繊維、マニラ麻等の葉脈繊維、やし等の果実繊維が挙げられる。
再生セルロース繊維としては、例えば、ビスコースレーヨン、ポリノジック及びモダール、セルロースの銅アンモニア塩溶液から得られる銅アンモニアレーヨン等のレーヨン繊維が挙げられる。
精製セルロース繊維としては、テンセル(商標)、ヴェオセル(商標)として市販されているリヨセルが挙げられる。
半合成セルロース繊維としては、例えば、トリアセテート及びジアセテート等のアセテート繊維が挙げられる。
第1熱可塑性繊維2aとは異なる熱可塑性繊維としては、例えば上述した熱可塑性樹脂を含む繊維が挙げられる。
これらのうち、着用者が想起する「やさしさ」や「安心感」等の良いイメージを与えるとともに、シートの肌触りを高める観点から、コットン以外の天然セルロース繊維を用いることが好ましい。
【0043】
第2繊維層12に含まれ得る他の繊維としては、例えば上述したセルロース系繊維や、第2熱可塑性繊維2bとは異なる繊維であり且つ上述した熱可塑性繊維が挙げられる。第2繊維層12に含まれ得る他の繊維として用いられるセルロース系繊維は、天然セルロース繊維としてコットンを用いてもよい。
【0044】
第1繊維層11におけるコットン1aの含有割合は、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
第1繊維層11における第1熱可塑性繊維2aの含有割合は、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0045】
第1繊維層11におけるコットン1aの質量及びその割合は、以下の方法で測定することができる。まず、表面シート1から第1繊維層11を取り出してサンプルとし、このサンプルをアスコルビン酸1000ppm/リボフラビン10ppm水溶液に浸漬した後、日光に暴露し、繊維成分のみを抽出する。これらの繊維成分の質量を測定し、第1繊維層11における全繊維の質量Wtとする。次いで、第1繊維層11構成する繊維を繊維識別用試薬にて染色し、灰色がかった青緑色に変色した繊維のみをそれぞれ取り出す。変色した繊維を一本ごとに分離して乾燥させて、変色した繊維の総質量を測定し、これを第1繊維層11でのコットン1aの質量W1とする。第1繊維層11におけるコットンの含有割合は、全繊維の質量Wtに対する質量W1の百分率として算出する。
【0046】
また、第1繊維層11における第1熱可塑性繊維2aの質量W2は、上記と同様の方法で、第1繊維層11を構成する繊維を繊維識別用試薬にて染色し、染色後の色によって繊維を鑑別することによって測定することができる。例えば、第1熱可塑性繊維2aとしてポリエステル繊維を用いた場合、該繊維は薄く緑がかった黄色に染色される。また、第1熱可塑性繊維2aとしてポリプロピレン繊維を用いた場合、該繊維は染色されず繊維の地色のままとなる。染色後の繊維の色に基づいて熱可塑性繊維と判定された繊維を取り出して、該繊維の総質量を測定し、これを第1繊維層11での第1熱可塑性繊維2aの質量W2とし、全繊維の質量Wtに対する質量W2の百分率を第1繊維層11における第1熱可塑性繊維2aの含有割合とする。
また、第1繊維層11にコットン及び熱可塑性繊維以外の他の繊維を含む場合も同様に、上記の方法で繊維識別用試薬にて染色し、染色後の繊維の色に基づいて他の繊維と判定された他の繊維を取り出して、該繊維の質量を測定し、第1繊維層11における他の繊維の含有割合を質量百分率として算出する。
【0047】
第2繊維層12における第2熱可塑性繊維2bの含有割合は、好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
第2繊維層12が第2熱可塑性繊維2bに加えて、他の繊維を含む場合、第2繊維層12における他の繊維の含有割合は、好ましくは60質量%未満、更に好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
【0048】
第1繊維層11がコットン及び熱可塑性繊維に加えて、他の繊維を含み、且つ他の繊維としてコットン以外のセルロース系繊維を用いる場合、第2繊維層12との接合性を高めて、シート強度を十分に高める観点から、第1繊維層11における他の繊維の含有割合は、好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。この場合、他の繊維は、第1繊維層11に含まれるコットン1aの一部を置き換えて含有させることが好ましい。
【0049】
第1繊維層11がコットン及び熱可塑性繊維に加えて、他の繊維を含み、且つ他の繊維として繊維の種類が異なる熱可塑性繊維を更に用いる場合、着用者がコットンに対して想起する「やさしさ」や「安心感」等の良いイメージを与えるとともに、第2繊維層12との接合性を高めて、シート強度を十分に高める観点から、第1繊維層11における他の繊維の含有割合は、好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。この場合、他の繊維は、第1繊維層11に含まれる第1熱可塑性繊維2aの一部を置き換えて含有させることが好ましい。
【0050】
本発明の表面シート1は、吸収性物品の構成部材として好適に用いることができる。吸収性物品は、典型的には、表面シート1と、裏面シートとを備え、表面シート1と裏面シートとの間に吸収体を配した状態で用いることができる。吸収性物品としては、例えば尿漏れパッド、生理用ナプキン、使い捨ておむつ等が包含されるが、これらに限定されるものではなく、人体から排出される液の吸収に用いられる物品を広く包含する。
【0051】
表面シート1を吸収性物品の構成部材として用いる場合、表面シート1は、その第1面Fが、吸収性物品を適正な位置で着用した場合において、吸収性物品を着用する着用者の肌に対向する面(以下、これを「肌対向面」ともいう。)側を構成するように配されていることが好ましい。また、表面シート1は、第1面Fを肌対向面として、吸収性物品と着用者との肌とが直接当接する部位に配されることも好ましい。
【0052】
裏面シートは、吸収性物品を着用する着用者の肌とは反対側に向けられる面側を構成するシートである。吸収性物品として用いられる裏面シートは、吸収性物品に従来用いられているものを特に制限なく用いることができる。裏面シートとしては、表面シートと同じものを用いるか、又は、液難透過性若しくは撥水性の樹脂フィルムや、樹脂フィルムと不織布等とのラミネート等を用いることができる。
【0053】
吸収性物品に用いられる吸収体は、吸収性コアを備えている。吸収性コアは例えばパルプをはじめとするセルロース等の親水性繊維の積繊体、該親水性繊維と吸水性ポリマーとの混合積繊体、吸水性ポリマーの堆積体などから構成される。吸収性コアは、少なくともその肌対向面が液透過性のコアラップシートで覆われていてもよく、肌対向面及び非肌対向面を含む表面の全域がコアラップシートで覆われていてもよい。コアラップシートとしては、例えば親水性繊維からなる薄葉紙や、液透過性を有する不織布などを用いることができる。
【0054】
表面シート1の第1繊維層11に含まれるコットン1aの繊維の繊維径は、本技術分野に通常用いられるものであれば特に制限されず、好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、好ましくは50μm以下、更に好ましくは45μm以下である。
表面シート1に用いられるコットン1aの繊維長は、繊維層における交絡度合を高めて、シート強度を十分に発現させる観点から、好ましくは10mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、好ましくは50mm以下、更に好ましくは45mm以下である。
【0055】
また、第1熱可塑性繊維2a及び第2熱可塑性繊維2bの繊維径は、本技術分野に通常用いられるものであれば特に制限されないが、繊度で表して、それぞれ独立して、好ましくは0.5dtex以上であり、好ましくは5dtex以下である。
【0056】
コットン1aの繊維の繊維径は、走査型電子顕微鏡(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて、10本の繊維を対象として、繊維長さ方向に直交して切断した繊維の断面の最大差し渡し長さを測定し、その算術平均値として算出することができる。
また、第1熱可塑性繊維2a及び第2熱可塑性繊維2bの繊維径は、それぞれ独立して、所定繊維長さ当たりの質量で表される繊度として算出することができる。
【0057】
表面シート1の坪量は、用いられる吸収性物品の種類や用途に応じて適宜変更可能であるが、好ましくは25g/m以上、更に好ましくは40g/m以上であり、好ましくは100g/m以下、更に好ましくは80g/m以下である。
また、第1繊維層11の坪量は、好ましくは10g/m以上、更に好ましくは15g/m以上であり、好ましくは60g/m以下、更に好ましくは40g/m以下である。
また、第2繊維層12の坪量は、好ましくは15g/m以上、更に好ましくは20g/m以上であり、好ましくは60g/m以下、更に好ましくは40g/m以下である。
【0058】
以上は本発明の吸収性物品用表面シート及び該シートを備える吸収性物品に関する説明であったところ、以下に本発明の吸収性物品用表面シートの好適な製造方法を説明する。本製造方法は、例えば図3に示す製造装置50を用いて製造してもよい。この製造装置50は、特開2007-182662号公報や特開2002-187228号公報に記載の装置の構成と同様のものである。
【0059】
詳細には、まず、コットン1a及び第1熱可塑性繊維2aを含む繊維ウエブ又は不織布を、例えばカード機を用いた方法で形成して、第1繊維層11とする。これとともに、第2熱可塑性繊維2bを含む繊維ウエブ又は不織布を例えばカード機を用いた方法で形成して、第2繊維層12とする。
【0060】
両繊維層11,12のうち少なくとも一方に不織布を用いる場合、不織布としては、例えばエアスルー不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布等の各種不織布を用いることができる。両繊維層11,12のうち少なくとも一方に不織布を用いる場合、第1繊維層11としてスパンレース不織布を用いることが好ましく、第2繊維層12として、エアスルー不織布を用いることが好ましい。
【0061】
次いで、第1繊維層11と、第2繊維層12とを積層して積層体41とし、これを搬送方向MDに沿って搬送して、積層体41に対してエンボス加工を施し、エンボス部15を連続直線状又は散点状に形成する。エンボス加工は、例えば、搬送方向MDに沿って搬送された積層体41を、ヒートエンボス装置51に導入して行うことができる。ヒートエンボス装置51は、周面が平滑となっている平滑ロール52と、目的とするエンボス部15の形状に相補的な多数の凸部が周面に形成されている彫刻ロール53との間に積層体41を導入することで行われる。平滑ロール52及び彫刻ロール53はともに所定温度に加熱されており、熱及び圧力の付与によって、第1繊維層11と、第2繊維層12とを圧着又は融着させて接合し、エンボス部15を形成する。
【0062】
このとき、エンボス部15の形成効率と表面シート1の風合いを両立する観点から、平滑ロール52及び彫刻ロール53の加熱温度は、各繊維層11,12に含まれる熱可塑性繊維を構成する融点以上の温度であることが好ましい。各繊維層11,12に含まれる熱可塑性繊維が二種以上の成分を含む場合、各ロールの加熱温度は、低融点成分の融点以上で且つ高融点成分の融点未満の温度であればよい。また、彫刻ロール53と、積層体における第1繊維層11とが対向するように、積層体が両ロール52,53間に導入されることも好ましい。
【0063】
第1繊維層11と、第2繊維層12との間に接着剤を配して接合する場合には、第1繊維層11と第2繊維層12とを積層して積層体41とする際に、第1繊維層11と第2繊維層12との対向面に接着剤を塗布して、その後、各繊維層11,12を積層すればよい。
【0064】
目的とする表面シート1に凹凸形状を形成する場合、エンボス部15が形成された第2積層体42を熱風吹き付け装置55に導入して、第2積層体42に対して熱風を吹き付けて、嵩高加工を施すことが好ましい。目的とする表面シート1に凹凸形状を効率よく且つ明瞭に形成させる観点から、第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bとして潜在捲縮性繊維を用いることが更に好ましい。これによって、エンボス部15に囲まれている凸部18の形成予定位置に存在する潜在捲縮性繊維がシート面方向に熱収縮するとともに、該位置に存在する第1繊維層11が一方の面側に突出するように移動して、凸部18を形成することができる。これとともに、第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bが熱収縮して、繊維にコイル状の捲縮が発現する。
【0065】
目的とする表面シート1に凹凸形状を形成する場合において、図1(a)に示すように、中実の凸部18を形成するためには、例えば第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bとして、芯がPETであり、鞘がPEであり、芯と鞘との質量比を1:1とし、且つ繊維長が51mm、繊度2.4dtexの同心芯鞘型の複合熱融着性繊維を用いたときに、吹き付ける熱風の温度を好ましくは125℃以上145℃以下とし、且つ熱風の吹き付け時間を好ましくは5秒以上10秒以下とすることができる。
【0066】
また、目的とする表面シート1に凹凸形状を形成する場合において、図1(b)に示すように、中空の凸部18を形成するためには、例えば第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bとして、PE及びPPを2成分とするサイド・バイ・サイド型の潜在捲縮性繊維とし、繊維長が51mm、PPの融点+10℃における熱収縮率が9.5%である繊維を用いたときに、吹き付ける熱風の温度を好ましくは100℃以上120℃以下とし、且つ熱風の吹き付け時間を好ましくは5秒以上10秒以下とすることができる。これとともに、第2繊維層を構成する第2熱可塑性繊維2bが熱収縮して、繊維にコイル状の捲縮が発現する。
【0067】
その後、エンボス部15及び凸部18が形成された第3積層体43を所望の寸法となるように切断等によって成形して(図示せず)、表面シート1を得る。
【0068】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、本発明の表面シートは、第1面F及び第2面Rがともに平坦であってもよく、あるいは、エンボス部15を形成する以外の方法で凹凸賦形されていてもよい。凹凸賦形の方法としては、例えば、噛み合い状態で配置された一対の凹凸ロールの間に表面シート1を導入する方法等が挙げられる。
【0069】
また、エンボス部15として連続直線状のエンボス部線15A,15Bを形成する場合、隣り合う第1エンボス部線15Aの間隔W1(図2(a)参照)は、好ましくは4mm以上、更に好ましくは6mmであり、好ましくは16mm以下、更に好ましくは14mm以下とすることができる。また、隣り合う第2エンボス部線15Bの間隔W2(図2(a)参照)は、上述した間隔W1と同様の範囲とすることができる。
【0070】
また、散点状のエンボス部15を形成する場合、該エンボス部15から構成されるエンボス部列15Cの延在方向に沿うエンボス部15の熱収縮後の間隔W5(図2(b)参照)は、好ましくは1mm以上、更に好ましくは5mmであり、好ましくは10mm以下、更に好ましくは7mm以下とすることができる。隣り合うエンボス部列15Cどうしの間隔W6(図2(b)参照)は、上述した間隔W5と同様の範囲とすることができる。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0072】
〔実施例1〕
コットン繊維(三産業株式会社製、型番:UDX-MS)60質量%と、第1熱可塑性繊維(ダイワボウポリテック株式会社製、型番:SHW-15、原料:芯がPET・鞘がPEの非熱収縮性である同心型芯鞘繊維、繊度:2.4dtex)40質量%とを混合した繊維ウエブ(坪量25g/m)を水流交絡させ、スパンレース不織布を得た。
これとは別に、第2熱可塑性繊維(JNC株式会社製、型番:ETC255SDLV、原料:芯がPET・鞘がPEの非熱収縮性である同心型芯鞘繊維、繊度:2.2dtex)100質量%のエアスルー不織布(坪量25g/m)を用意した。
第1繊維層11をスパンレース不織布とし、第2繊維層12がエアスルー不織布となるように接着剤を用いずに積層して積層体とし、第1繊維層11側からエンボス加工を施し、図2(a)に示す連続直線状のエンボス部15を有する表面シート1(坪量50g/m)を得た。隣り合う第1エンボス部線15Aの間隔は7.6mmとし、隣り合う第2エンボス部線15Bの間隔は7.6mmとした。
この表面シートは、図1(a)に示すように、中実の凸部18が形成された凹凸形状を有しており、各繊維層11,12の間には接着剤を有していない。各繊維層11,12を構成する繊維の繊維間距離、各繊維層11,12の厚み、並びに、第2繊維層12を構成する熱可塑性繊維のコイル状捲縮の有無を、以下の表1に示す。
【0073】
〔実施例2〕
実施例1と同様の構成を有するスパンレース不織布及びエアスルー不織布を用い、エアスルー不織布の一方の面全域にホットメルト接着剤を坪量6g/mにて塗布し、各不織布を貼り合わせた。それ以外は、実施例1と同様に、図2(a)に示す連続直線状のエンボス部15を有する表面シート1(坪量50g/m)を得た。この表面シートは、図1(a)に示すように、中実の凸部18が形成された凹凸形状を有しており、各繊維層11,12の間に接着剤を有していた。各繊維層11,12を構成する繊維の繊維間距離、各繊維層11,12の厚み、並びに、第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bのコイル状捲縮の有無を、以下の表1に示す。
【0074】
〔実施例3〕
第1繊維層11として、各繊維の含有割合は同一とし、坪量を22g/mとした以外は実施例1と同様のスパンレース不織布を用いた。また、第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bとして、潜在捲縮性繊維(ダイワボウポリテック株式会社製、型番:LV-3、PP・PEの2成分であるサイド・バイ・サイド型複合潜在捲縮性繊維、繊度:2.3dtex)100質量%の繊維ウエブ(坪量25g/m)を用いた。
第1繊維層11をスパンレース不織布とし、第2繊維層12が繊維ウエブとなるように接着剤を用いずに積層して、第1繊維層11側からエンボス加工を施し、図2(b)に示す散点状のエンボス部15を有する積層体とした。その後、この積層体に対して、120℃の熱風を5秒間以上10秒間以下吹き付けて、凹凸形状を有する表面シート1(坪量74g/m)を得た。
エンボス部15の配置パターンは、エンボス部列15Cの延在方向に沿うエンボス部15の間隔が5mmであり、隣り合うエンボス部列15Cどうしの間隔が5mmであった。また、隣り合うエンボス部列15Cにおいて、ピッチが同一で、位相が半ピッチずれた千鳥格子状となっていた。エンボス部15は、直径5mmの円形状であった。
この表面シートは、エンボス部15が散点状に形成され、且つ図1(b)に示すように、中空の凸部18が形成されていた。各繊維層11,12の間には接着剤を有していない。各繊維層11,12を構成する繊維の繊維間距離、各繊維層11,12の厚み、並びに、第2繊維層12を構成する第2熱可塑性繊維2bの捲縮の有無を、以下の表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
コットンのみからなる単層且つ坪量30g/mのスパンレース不織布を表面シート1として用いた。エンボス部15は形成されていない。
【0076】
〔比較例2〕
コットン60質量%と、実施例1で用いた熱可塑性繊維(ダイワボウポリテック株式会社製、型番:SHW-15)40質量%とを混合して形成した繊維ウエブを水流交絡させて、単層且つ坪量30g/mのスパンレース不織布を表面シート1とした。エンボス部15は形成されていない。
【0077】
〔シート表面への液戻り量の測定〕
実施例及び比較例の表面シート1を第1面Fが外方に向くように配して、吸収性物品(生理用ナプキン)を製造した。表面シート1以外の吸収性物品の構成は、花王株式会社製の生理用ナプキン(ロリエ(登録商標) エフ しあわせ素肌 ふんわりタイプ 22.5cm、2018年製)と同一とした。
この生理用ナプキンを、表面シート1が上方を向くように平らな台の上に載置した。表面シート1の上に、直径が10mmで、高さが50mmである円筒が一体成形されたアクリル製注液プレートを、その注液孔が表面シートの中央に位置するように載置した。この状態下に、6gの擬似血液を円筒内に一気に注入した。注入から1分経過後、注液プレートを除去し、生理用ナプキンを2分間静置した。また、これとは別に、ティッシュペーパーを予め秤量しておき、その質量をW8(g)とする。
その後、表面シートにおける馬血注入領域及びその近傍領域の上に予め秤量したティッシュペーパーを載せ、そのティッシュペーパーの上に2.5gf/cmの荷重が付与されるようにおもりを載せ、5秒間静置した。その後、荷重を解除し、ティッシュペーパーの質量W9(g)を測定した。単位面積当たりの液戻り量(g/m)は、質量W9から質量W8を差し引くことによって算出された質量(g)を、表面シート1の面積(m)で除することによって算出した。液戻り量の値が小さいほど、吸収された液が表面シートの第1面F側に戻りにくくなることを意味する。結果を表1に示す。
【0078】
なお、測定に用いた擬似血液は株式会社日本バイオテスト研究所製の馬脱繊維血液から調製した。脱繊維馬血は、これを放置すると、粘度の高い部分(赤血球など)は沈殿し、粘度の低い部分(血漿)は、上澄みとして残る。それらの部分の混合比率を、粘度が8.0cP(25℃)になるように調整し、擬似血液とした。調整には、東機産業株式会社製のTVB10形粘度計を用いた。条件は30rpmとした。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、各実施例の表面シート1は、比較例のものと比較して、液戻り量が少ないことが判る。特に、実施例3に示すように、各繊維層11,12間に接着剤を有さず、且つ凸部18が中空に形成された表面シートは、この効果が顕著となることが判る。
【符号の説明】
【0081】
1 吸収性物品用表面シート
1a コットン
2a,2b 熱可塑性繊維
11 第1繊維層
12 第2繊維層
15 エンボス部
F 第1面
R 第2面
Z 厚み方向
図1
図2
図3