(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ガラス糸、ガラスクロスの製造方法及びガラスクロス
(51)【国際特許分類】
C03B 37/07 20060101AFI20240705BHJP
C03B 37/14 20060101ALI20240705BHJP
C03C 13/00 20060101ALI20240705BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240705BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20240705BHJP
【FI】
C03B37/07
C03B37/14 Z
C03C13/00
D03D1/00 A
D03D15/267
(21)【出願番号】P 2020085888
(22)【出願日】2020-05-15
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 優介
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-66827(JP,A)
【文献】特開2019-31750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D15/267
D02G1/00-3/48
C03B37/00-37/16
C03C13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において、平均糸幅が95μm以上130μm以下、98.0%以上が220μm以下の範囲外であるとき、前記ガラス糸の糸幅分布を平均糸幅が95μm以上130μm以下、98.0%以上が220μm以下の範囲内に調整する糸幅調整工程;及び
前記ガラス糸は、
平均直径が4.5μm以上5.5μm以下のガラスフィラメントが92本以上108本以下束ねられ
、
密度が2.2g/cm
3以上2.5g/cm
3未満であり、
破断強度が0.50N/tex以上0.80N/tex以下であり、
50m測定時における糸幅の平均値が、95μm以上125μm以下であり、
50m測定時において、長さ方向の98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成されてい
て、前記ガラス糸を緯糸として製織する工程
;
を含む、ガラスクロスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス糸の50m測定時において、長さ方向の95.0%以上が190μm以下の糸幅で構成されている、請求項
1に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス糸は、
ケイ素(Si)含量が、SiO
2
換算で40~60質量%であり、かつ
ホウ素(B)含量が、B
2
O
3
換算で15~40質量%である、
請求項1又は2に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項4】
前記B含量が、B
2
O
3
換算で20~40質量%である、請求項3に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス糸は、弾性係数が50GPa以上70Pa以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項6】
前記弾性係数が50GPa以上63GPa以下である、請求項5に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス糸は、1GHzの周波数において5.0以下の誘電率を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラスクロスは、1GHzの周波数において5.0以下の誘電率を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項9】
前記糸幅調整工程において、ガラス糸自体を交換するか、又はガラス糸の巻き直しを行う、請求項1~8のいずれか一項に記載のガラスクロスの製造方法。
【請求項10】
平均直径が4.5μm以上5.5μm以下のガラスフィラメントが92本以上108本以下束ねられたガラス糸
の製造方法であって、
ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において、平均糸幅が95μm以上130μm以下、98.0%以上が220μm以下の範囲外であるとき、前記ガラス糸の糸幅分布を平均糸幅が95μm以上130μm以下、98.0%以上が220μm以下の範囲内に調整する糸幅調整工程を含み、
前記ガラス糸は:
密度が2.2g/cm
3以上2.5g/cm
3未満であり、
破断強度が0.50N/tex以上0.80N/tex以下であり、
50m測定時における糸幅の平均値が、95μm以上125μm以下であり、かつ
50m測定時において、長さ方向の98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成されている、
ガラス糸
の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス糸の50m測定時において、長さ方向の95.0%以上が190μm以下の糸幅で構成されている、請求項1
0に記載のガラス糸
の製造方法。
【請求項12】
前記ガラス糸は、
ケイ素(Si)含量が、SiO
2
換算で40~60質量%であり、かつ
ホウ素(B)含量が、B
2
O
3
換算で15~40質量%である、
請求項10又は11に記載のガラス糸の製造方法。
【請求項13】
前記B含量が、B
2
O
3
換算で20~40質量%である、請求項12に記載のガラス糸の製造方法。
【請求項14】
前記ガラス糸は、弾性係数が50GPa以上70Pa以下である、請求項10~13のいずれか一項に記載のガラス糸の製造方法。
【請求項15】
前記弾性係数が50GPa以上63GPa以下である、請求項14に記載のガラス糸の製造方法。
【請求項16】
前記ガラス糸は、1GHzの周波数において5.0以下の誘電率を有する、請求項10~15のいずれか一項に記載のガラス糸の製造方法。
【請求項17】
前記糸幅調整工程において、ガラス糸自体を交換するか、又はガラス糸の巻き直しを行う、請求項10~16のいずれか一項に記載のガラス糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス糸、ガラスクロスの製造方法及びガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信社会の発達とともに、データ通信及び/又は信号処理が大容量で高速に行われるようになり、電子機器に用いられるプリント配線板の低誘電率化が著しく進行している。そのため、プリント配線板を構成するガラスクロスにおいても、低誘電ガラスクロスが多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている低誘電ガラスクロスは、従来から一般に使用されているEガラスクロスに対して、ガラス組成中にB2O3を多く配合し、同時にSiO2等の他の成分の配合量を調整することで、低誘電率を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが検討をしたところ、特許文献1に記載されるような低誘電化したガラス糸を用いて作製した低誘電ガラスクロスは、従来から用いられているEガラスクロスと比較し、その性能又は品質に大きなばらつきがあることが分かってきた。このようなガラスクロスの性能又は品質のばらつきは、それを用いて得られるプリプレグ、プリント配線板用の積層板等の品質にも影響を与える。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、均一な良品質を有する低誘電ガラスクロスの製造方法、及び低誘電ガラスクロスの製造に適するガラス糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定範囲内の密度、破断強度、及び糸幅分布を有するガラス糸を用いてガラスクロスを製造することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の一態様を以下に列記する。
[1]
平均直径が4.5μm以上5.5μm以下のガラスフィラメントが92本以上108本以下束ねられたガラス糸であって、
密度が2.2g/cm3以上2.5g/cm3未満であり、
破断強度が0.50N/tex以上0.80N/tex以下であり、
50m測定時における糸幅の平均値が、95μm以上125μm以下であり、
50m測定時において、長さ方向の98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成されている、
ガラス糸。
[2]
50m測定時において、長さ方向の95.0%以上が190μm以下の糸幅で構成されている、項目1に記載のガラス糸。
[3]
ケイ素(Si)含量が、SiO2換算で40~60質量%であり、かつ
ホウ素(B)含量が、B2O3換算で15~40質量%である、
項目1又は2に記載のガラス糸。
[4]
前記B含量が、B2O3換算で20~40質量%である、項目3に記載のガラス糸。
[5]
弾性係数が50GPa以上70Pa以下である、項目1~4のいずれか一項に記載のガラス糸。
[6]
弾性係数が50GPa以上63GPa以下である、項目5に記載のガラス糸。
[7]
1GHzの周波数において5.0以下の誘電率を有する、項目1~6のいずれか一項に記載のガラス糸。
[8]
項目1~7のいずれか一項に記載のガラス糸を緯糸として製織する工程を含む、ガラスクロスの製造方法。
[9]
項目1~7のいずれか一項に記載のガラス糸を緯糸として含む、ガラスクロス。
[10]
1GHzの周波数において5.0以下の誘電率を有する、項目9に記載のガラスクロス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、均一で良品質を有する低誘電ガラスクロスの製造方法、及び均一で良品質を有する低誘電ガラスクロス、並びに均一で良品質を有する低誘電ガラスクロスの製造に適するガラス糸を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
〔ガラス糸〕
本実施形態のガラス糸は、平均直径が4.5μm以上5.5μm以下のガラスフィラメントが92本以上108本以下束ねられたガラス糸であり、前記ガラス糸の密度が2.2g/cm3以上2.5g/cm3未満であり、前記ガラス糸の破断強度が0.50N/tex以上0.80N/tex以下であり、ガラス糸の50m測定時における前記ガラス糸の糸幅の平均値が、95μm以上125μm以下であり、ガラス糸の50m測定時において、前記ガラス糸の長さ方向の98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成されている。
【0011】
低誘電化したガラス糸を用いて製造されるガラスクロスは、従来のEガラスクロスに比べてガラスクロスの品質にばらつきがあり、安定して高品質のガラスクロスを得るのが困難なことが分かってきた。このうち、比較的品質の劣るガラスクロスを詳細に調べると、長さ方向の糸幅分布において糸幅の広い部位を多く含むガラス糸から製造されるガラスクロスでは、ガラス糸を構成するフィラメントが1~10本単位で切れて絡まったような粗大毛羽欠点が多く認められた。
【0012】
本実施形態は、糸幅の分布が比較的小さく、糸幅の広い部位が比較的少ない等の特徴を持つガラス糸を用いることで、当該欠点を少なくできるとの知見に基づく。この理由は、理論に拘束されるものではないが、糸幅の広い部位を局所的に含むガラス糸(緯糸)は、空気への抵抗又は織機部材との干渉による抵抗が大きくなるため、緯糸を、ボビンから解舒してから、噴出させるまでの間に、搬送方向と垂直方向への振れ又はバルーニング運動が大きくなる傾向にあり、緯糸がループガイド等の織機部材を通過する際の擦れによりガラス糸にせん断応力が作用してフィラメント切れを生じさせ易いと考えられる。また、糸幅の広い部位を局所的に含む緯糸は、ボビンから解舒する際の解舒張力の変動、又は緯糸を噴出するエアージェット圧のオン/オフの影響を大きく受け、緯糸の搬送過程での張力変動が大きくなる傾向にあるため、上記の緯糸搬送過程での振れ又はバルーニング運動も大きくなり易いものと考えられる。
【0013】
さらに、これまで用いられていたEガラスのガラス糸は、低誘電化したガラス糸より単位長さ当たりの質量が大きく、強度も強いため、緯糸の搬送も安定しており、織機部材との干渉度合も小さく、干渉した際に受けるダメージも限定的であった。他方、より軽くて強度の弱い低誘電化ガラス糸では、緯糸を搬送させる際にも張力変動等により振れが大きくなる傾向にあり、織機部材との干渉が起こり易く、織機部材と干渉した際にもより大きなダメージを受け易いために、フィラメント切れの発生が助長され易いものと考えられる。これらの影響が、製織されたガラスクロスの品質として現れたものと考えられる。
【0014】
これに対して、本実施形態においては、緯糸に、密度が、2.2g/cm3以上2.5g/cm3未満であり、糸幅の平均値が95μm以上125μm以下であり、長さ方向の糸幅分布において98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成されているガラス糸を用いることにより、低誘電化した比較的軽くて強度の弱いガラス糸を用いた場合であっても、織機部材との干渉度合い、又は干渉時に受けるダメージを小さくする。これにより、糸道でのフィラメント切れに起因した粗大毛羽の発生を抑制し、良品質の均一なガラスクロスを得ることができる。経糸に上記ガラス糸を用いる場合、クリールでボビン原糸から解舒されて、経糸を引き揃える過程において、糸道ガイド等で擦れた際、毛羽の発生等の不良を防止でき、品質良く、安定に生産できる傾向にあり、好ましい。また、経糸に上記ガラス糸を用いることで、製経速度を上げられる傾向にあり、好ましい。
【0015】
(ガラス糸の密度)
ガラス糸の密度は、2.2g/cm3以上2.5g/cm3未満であり、好ましくは2.2g/cm3以上2.45g/cm3未満であり、より好ましくは2.2g/cm3以上2.40g/cm3以下であり、さらに好ましくは2.25g/cm3以上2.4g/cm3以下である。
【0016】
通常のガラス糸の密度が2.5g/cm3未満であると、緯糸として用いる際、ボビンから解舒して噴出させるまでの搬送過程で、搬送方向と垂直方向への振れ又はバルーニング運動が大きくなり易く、織機部材との干渉により毛羽不良が発生し易いが、糸幅分布を本発明の特定範囲内とすることで、緯糸の搬送軌道を安定させることができ、高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。
【0017】
ガラス糸の密度が2.2g/cm3以上であることにより、緯糸として用いる際、糸幅分布が本発明の特定範囲内であるとき、緯糸の搬送軌道を安定させることができる。ガラス糸の密度は、1cm3の塊状のガラスの密度として求めることができる。
【0018】
(ガラス糸の糸幅)
ガラス糸の糸幅の平均値は、ガラス糸の長さ50mの測定時において、95μm以上125μm以下である。糸幅の平均値は、好ましくは96μm以上であり、より好ましくは97μm以上であり、さらに好ましくは98μm以上である。また、糸幅の平均値は、好ましくは125μm未満であり、より好ましくは122μm以下であり、さらに好ましくは120μm以下である。
【0019】
また、ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において、98.0%以上が220μm以下の糸幅で構成される。糸幅分布の好ましい範囲は長さ方向の98.0%以上が210μm以下であり、より好ましい範囲は長さ方向の97.0%以上が200μm以下であり、さらに好ましい範囲は長さ方向の97.0%以上が190μm以下であり、最も好ましい範囲は長さ方向の95.0%以上が190μm以下である。
【0020】
ガラス糸の糸幅の平均値が上記の下限値以上であることにより、該ガラス糸を緯糸に用いる際、緯糸打込みにおける射出エアーを適切に受けるため、ショートピックなどを発生させることなく、生産性良く製織することができる。また、ガラス糸の糸幅の平均値が上記の下限値以上であることにより、比較的穏やかな射出圧力で緯糸を飛ばすことができるため、得られるガラスクロスにおいて毛羽又は織欠点の発生が抑制される傾向にある。
【0021】
また、ガラス糸の糸幅の平均値が上記の上限値以下であり、且つ、ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において、98.0%以上が220μm以下であることにより、該ガラス糸を緯糸に用いる際、緯糸を、ボビンから解舒してから、噴出するまでの搬送過程で、フィラメント切れを発生させず、毛羽欠点の少ない高品質なガラスクロスを安定して得ることができる。これは、緯糸の搬送過程で、空気への抵抗又は織機部材との干渉による抵抗が小さくなるため、緯糸の搬送方向と直行方向への振れ又はバルーニング運動が小さく抑えられ、その結果、織機部材との干渉によるダメージ、特にループガイド等に擦られながら通過する際に受けるダメージが小さく抑えられるためと推測される。
【0022】
また、ガラス糸の糸幅の平均値が上記の上限値以下であり、且つ、ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において98.0%以上が220μm以下であると、緯糸をボビンから解舒する際の解舒張力も安定に抑えられる傾向にあり、搬送される緯糸の張力変動が小さいことも、緯糸の振れ又はバルーニング運動を小さく抑えられ、緯糸が受けるダメージが小さくなるという良い方向へ作用するものと推測される。
【0023】
また、ガラス糸の糸幅の平均値が上記の上限値以下であることにより、該ガラス糸を経糸に用いる際、クリールでボビン原糸から解舒されて、経糸を引き揃える過程において、糸道ガイド等で擦れた際、毛羽の発生等の不良を防止でき、品質良く、安定に生産できる傾向にあり、好ましい。また、経糸に上記ガラス糸を用いることで、製経速度を上げられる傾向にあり、好ましい。
【0024】
(ガラス糸の破断強度)
ガラス糸の破断強度は、0.50N/tex以上0.80N/tex以下である。破断強度の好ましい範囲は0.55N/tex以上0.78N/tex以下であり、より好ましい範囲は0.60N/tex以上0.76N/tex以下であり、さらに好ましい範囲は0.65N/tex以上0.75N/tex以下である。
【0025】
ガラス糸の破断強度が0.50N/tex以上であれば、緯糸として用いる際、緯糸がボビンから解舒されて噴出されるまでの糸搬送過程でヤーンガイド等の織機部材に接触してせん断応力を受けた際、或いは、噴出した糸が飛走過程で筬等の織機部材と接触してせん断応力を受けた際に、フィラメントが切れ難く、毛羽が発生し難い。
【0026】
ガラス糸の破断強度が0.80N/tex以下であれば、緯糸として用いる際、ガラス糸のしなやかさによるものと推定されるが、緯糸がボビンから解舒されてから噴出されるまでの糸搬送過程での糸の振れ又はバルーン運動が小さく抑えられる傾向にあり、フィラメントの切断による毛羽が発生し難い。
【0027】
(ガラス糸の構成)
ガラス糸は複数本のガラスフィラメントを束ね、必要に応じて撚って得られるものである。この場合、ガラス糸はマルチフィラメント、ガラスフィラメントはモノフィラメントにそれぞれ分類される。
【0028】
経糸及び緯糸を構成するガラス糸は、平均粒径が4.5μm以上5.5μm以下のモノフィラメントを92本以上108本以下束ねたガラス糸である。平均粒径及びフィラメント本数が上記範囲内のガラス糸を用いることにより、従来のEガラスクロスの106、1035、1067スタイル相当の厚さを有するガラスクロスを製造することができる(IPC規格(IPC-4412A):Style106、1035、1067)。
【0029】
ガラス糸の弾性係数は、好ましくは50~70GPaであり、より好ましくは50~63GPaであり、さらに好ましくは53~63GPaである。弾性係数が50GPa以上であることにより、ガラス糸の剛性が向上し、製造工程において、毛羽が生じ難くなる傾向にある。また、弾性係数が70GPa以下であることにより、ガラス糸の耐脆性が向上し、製造工程において、毛羽が生じ難くなる傾向にある。さらに、弾性係数が上記範囲内であることにより、ガラス糸が適度に柔軟性を有し、機械的負荷が加わった際に、フィラメントの断裂等が発生し難く、毛羽、織欠点が発生し難い傾向にある。
【0030】
(ガラス糸の成分の構成)
ガラス糸を構成する元素としては、Si、B、Al、Ca、Mg、P、Na、K、Ti、Zn、Fe、F、などが挙げられる。
【0031】
ガラス糸のケイ素(Si)含量は、SiO2換算で、好ましくは40~60質量%であり、より好ましくは45~55質量%であり、さらに好ましくは47~53質量%であり、よりさらに好ましくは48~52質量%である。Siはガラス糸の骨格構造を形成する成分であり、Si含量が40質量%以上であることにより、ガラス糸の強度がより向上し、ガラスクロスの製造工程及びガラスクロスを用いたプリプレグの製造などの後工程において、ガラスクロスの破断がより抑制される傾向にある。また、Si含量が40質量%以上であることにより、ガラスクロスの誘電率がより低下する傾向にある。一方で、Si含量が60質量%以下であることにより、ガラスフィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。このため、得られるガラスフィラメントに部分的に失透し易い部位、又は部分的に気泡が抜け難い部位が発生し難くなることから、ガラスフィラメントに局所的に強度の弱い部位が生じ難くなり、結果として、これを用いて得られるガラス糸から構成されるガラスクロスは、破断し難いものとなる。Si含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0032】
ガラス糸のホウ素(B)含量は、B2O3換算で、好ましくは15~40質量%であり、より好ましくは17~30質量%、又は20~40質量%であり、さらに好ましくは18~28質量%であり、よりさらに好ましくは19~26質量%であり、さらにより好ましくは20~25質量%であり、最も好ましくは20.5質量%以上24質量%以下である。
【0033】
B含量が15質量%以上であることにより、誘電率がより低下する傾向にある。また、B含量が15質量%以上であることにより、ガラスクロスの耐脆性の向上、適度な柔軟性、しなやかさが付与されるため、ガラス糸が、糸道ガイド、筬などの織機部材に接触した際に毛羽が発生し難くなる傾向にある。
【0034】
一方、ガラス糸の強度を保つにはB含量が40質量%以下であることが好ましい。また、B含量が40質量%以下であることにより、耐吸湿性が向上し、後述するガラス糸表面特性の安定性が適正に保たれる。
【0035】
B含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。なお、ガラスフィラメント作製中に条件、使用量又は含量が変動し得る場合には、それを予め見越して、原料の仕込量を調整することができる。
【0036】
ガラス糸のアルミニウム(Al)含量は、Al2O3換算で、好ましくは11~18質量%であり、より好ましくは11~16質量%であり、さらに好ましくは12~16質量%である。Al含量が上記範囲内であることにより、電気特性、強度がより向上する傾向にある。Al含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0037】
ガラス糸のカルシウム(Ca)含量は、CaO換算で、好ましくは5~10質量%であり、好ましくは5~9質量%であり、より好ましくは5~8.5質量%である。Ca含量が5質量%以上であることにより、ガラスフィラメントの製造過程において、溶融時の粘度がより低下し、より均質なガラス組成のガラス繊維が得られる傾向にある。また、Ca含量が10質量%以下であることにより、誘電率がより向上する傾向にある。Ca含量は、ガラスフィラメント作製に用いる原料使用量に応じて調整することができる。
【0038】
なお、上記各含量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。具体的には、Si含量及びB含量は、秤取したガラスクロスサンプルを炭酸ナトリウムで融解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。また、Fe含量は、秤取したガラスクロスサンプルをアルカリ溶解法により溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。さらに、Al含量、Ca含量、P含量及びMg含量は、秤取したガラスクロスサンプルを過塩素酸、硫酸、硝酸及びフッ化水素により加熱分解した後、希硝酸で溶解して定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して得ることができる。なお、ICP発光分光分析装置としては、日立ハイテクサイエンス社製のPS3520VDD IIを用いることができる。
【0039】
(ガラス糸の誘電率)
ガラス糸の誘電率は、1GHzの周波数において、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは4.9以下であり、さらに好ましくは4.8以下であり、特に好ましくは4.6以下である。誘電率は、例えば、空洞共振法により測定することができる。なお、本実施形態において、誘電率とは、特に断りがない限り、1GHzの周波数におけるものをいう。
【0040】
〔ガラスクロスの製造方法〕
本実施形態のガラスクロスの製造方法は、上記ガラス糸を緯糸として製織する工程を含むものであれば特に限定されない。上記ガラス糸を緯糸及び経糸として製織してもよい。具体的には、ガラス糸の長さ方向の糸幅分布において98.0%以上が220μm以下となるように緯糸を調整する糸幅調整工程と、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る製織工程と、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程とを含む方法が挙げられる。また、ガラスクロスの製造方法は、必要に応じて、ガラスクロスのガラス糸に付着したサイズ剤を除く脱糊工程、シランカップリング剤による表面処理工程を有していてもよい。以下、本実施形態の各工程についてより詳細に説明する。
【0041】
〔ガラス糸調整工程〕
ガラス糸調整工程は、用いる緯糸が長さ方向の糸幅分布において、平均糸幅が95μm以上130μm以下、98.0%以上が220μm以下となるように調整する工程である。より具体的には、糸幅調整工程では、緯糸が長さ方向の糸幅分布において上記範囲内であれば、その糸を、続く製織工程で用い、範囲外であれば、その糸を廃棄してガラス糸自体を交換するか、又はガラス糸の巻き直し等により上記範囲内となるように調整する。代替的には、ガラス糸の製造工程に対して、フィードバックを行い、糸の製造条件を調整することも考えられる。ガラス糸の糸幅の広い部位は、ガラス糸を巻き取る際に局所的に張力が弱く作用する部位又は撚り密度の低い部分で生じ易いため、ガラス糸の巻き直し等により、製織工程に供するガラス糸の糸幅分布を調整できる可能性がある。ガラス糸の巻き直し等により調整が困難な場合、又は生産効率の観点で、ガラス糸自体を交換することもできる。
【0042】
〔製織工程〕
製織工程は、ガラス糸を製織してガラスクロスを得る工程である。製織方法は、所定の織構造となるように緯糸と経糸を織るものであれば、特に制限されない。ガラスクロスの織り構造については、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り、等の織り構造が挙げられる。これらの中でも、平織り構造がより好ましい。
【0043】
本実施形態の製造方法における製織工程の一態様では、エアージェットルーム方式によって、並列に引かれた経糸を上下に開口し、その開口に、緯糸貯留装置から給糸された糸がノズルの噴射流により緯糸を送り出されて通されることにより製織を行うことができる。
【0044】
この製織工程において、緯糸となるガラス糸をボビンから巻き出し、貯蔵装置を介して緯糸を噴出させるガラス糸噴出過程において、ガラス糸はバルーニング運動等の進行方向と異なる方向への運動を伴いながらヤーンガイド等の織機部材との干渉を伴い搬送されるため、或いは、緯糸1本分の長さ単位で緯糸の噴出及び停止が繰り返されるため張力の変動を伴いながらヤーンガイド等の織機部材との干渉を伴い搬送されるため、糸幅の広い部位を有する緯糸は上記干渉を小さく抑えることが困難なため、得られるガラスクロスには毛羽又は織欠点が生じ得る。
【0045】
これに対して、本実施形態では、上記糸幅調整工程を経るなどして長さ方向の糸幅分布において98.0%以上が220μm以下である緯糸を用いることにより、緯糸を織り込む際に毛羽又は織欠点の発生を抑制する。これにより、ガラスクロスの品質の面内均一性及びロット間の均一性を向上することができる。なお、製織方法はエアージェットルーム方式に限定されず、ウォータージェットルーム方式、又はシャトル方式であってもよい。
【0046】
ガラスクロスを構成する経糸及び緯糸の打ち込み密度は、好ましくは30~90本/inchであり、より好ましくは40~80本/inchであり、さらに好ましくは50~75本/inchである。経糸の打ち込み密度は並列に引かれた経糸の間隔を調整することにより制御することができ、緯糸の打ち込み密度はノズルからの緯糸の単位時間当たりの噴射回数及び経糸の流れスピードにより制御することができる。なお、1インチ(inch)は、25.4mmであるため、1インチ当たりの打ち込み密度は、ミリオーダーの打ち込み密度として換算可能である。
【0047】
また、開繊工程等を経て最終的に得られるガラスクロスの厚さは、好ましくは20~40μmであり、より好ましくは22~38μmであり、さらに好ましくは24~34μmである。ガラスクロスの厚さが上記範囲内であることにより、薄くて比較的に強度の高いガラスクロスが得られる傾向にある。
【0048】
ガラスクロスの布重量(目付け)は、好ましくは14~40g/m2であり、より好ましくは16~34g/m2であり、さらに好ましくは18~32g/m2であり、特に好ましくは20~30g/m2である。
【0049】
〔開繊工程〕
開繊工程は、ガラスクロスのガラス糸を開繊する工程である。開繊方法としては、特に制限されないが、例えば、スプレー水(高圧水開繊)、バイブロウォッシャー、超音波水、マングル等で開繊加工する方法が挙げられる。
【0050】
〔脱糊工程〕
脱糊工程は、ガラスクロスのガラス糸に付着したサイズ剤を除く工程である。脱糊方法としては、特に制限されないが、例えば、サイズ剤を加熱除去する方法が挙げられる。
【0051】
〔表面処理工程〕
表面処理工程は、シランカップリング剤によるガラスクロスの表面処理を行う工程である。また、表面処理方法としては、シランカップリング剤を含む表面処理剤をガラスクロスと接触させ、乾燥等する方法が挙げられる。なお、ガラスクロスへの表面処理剤の接触は、表面処理剤中にガラスクロスを浸透させる方法、及びロールコーター、ダイコーター、又はグラビアコーター等を用いてガラスクロスに表面処理剤を塗布する方法等が挙げられる。表面処理剤の乾燥方法としては、特に制限されないが、例えば、熱風乾燥、及び電磁波を用いる乾燥方法が挙げられる。
【0052】
(表面処理)
ガラスクロスは、表面処理剤により表面処理されたものであってもよい。表面処理剤としては、特に制限されないが、例えば、シランカップリング剤が挙げられ、必要に応じて水、有機溶剤、酸、染料、顔料、界面活性剤等を合わせて用いてもよい。
【0053】
シランカップリング剤としては、特に制限されないが、例えば、下記式(1):
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
(式(1)中、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも1つ以上有する有機官能基であり、Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは、1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基及びフェニル基から成る群より選ばれる基である。)
で示される化合物が挙げられる。式(1)において、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも3つ以上を有する有機官能基であることが好ましく、Xは、アミノ基及び不飽和二重結合基のうち少なくとも4つ以上を有する有機官能基であることがより好ましい。
【0054】
上記式(1)中のアルコキシ基としては、いずれの形態も使用できるが、ガラスクロスへの安定処理化の観点から、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましい。
【0055】
シランカップリング剤としては、具体的には、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリ同エトキシシラン及びその塩酸塩、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の公知の単体、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
シランカップリング剤の分子量は、好ましくは100~600であり、より好ましくは150~500であり、さらに好ましくは200~450である。この中でも、分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いることが好ましい。分子量が異なる2種類以上のシランカップリング剤を用いてガラス糸の表面を処理することにより、ガラスクロスの表面における表面処理剤密度が高くなり、マトリックス樹脂との反応性がさらに向上する傾向にある。
【0057】
〔ガラスクロス〕
本実施形態のガラスクロスは、上記ガラス糸を緯糸として含むガラスクロスである。また、別の実施形態では、ガラスクロスは、上記ガラス糸を緯糸及び経糸として含んでいてもよい。ガラスクロスの製造方法は、特に限定されないが、上記の製造方法により得られるものであることができ、少なくとも緯糸として上記ガラス糸を製織する工程を有するものである。
【0058】
(ガラスクロスの誘電率)
得られるガラスクロスの誘電率は、1GHzの周波数において、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは4.9以下であり、さらに好ましくは4.8以下であり、特に好ましくは4.6以下である。誘電率は、例えば、空洞共振法により測定することができる。なお、本実施形態において、誘電率という時は特に断りがない限り、1GHzの周波数におけるものをいう。
【0059】
〔プリプレグ〕
本実施形態のプリプレグは、上記のようにして得られたガラスクロスと、該ガラスクロスに含浸されたマトリックス樹脂組成物とを有する。上記ガラスクロスを有するプリプレグは、品質のばらつきが少なく、最終製品の歩留まりの高いものとなる。また、プリプレグは、誘電特性に優れ、耐吸湿性に優れるために使用環境の影響、特に高湿度環境で誘電率の変動が小さい、プリント配線板を提供することができるという効果も奏することができる。
【0060】
本実施形態のプリプレグは、常法に従って製造することができる。例えば、本実施形態のガラスクロスに、エポキシ樹脂のようなマトリックス樹脂を有機溶剤で希釈したワニスを含浸させた後、乾燥炉にて有機溶剤を揮発させ、熱硬化性樹脂をBステージ状態(半硬化状態)にまで硬化させることにより製造することができる。
【0061】
マトリックス樹脂組成物としては、上述のエポキシ樹脂の他に、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、BT樹脂、官能基化ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、全芳香族ポリエステルの液晶ポリマー(LCP)、ポリブタジエン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;及び、それらの混合樹脂等が挙げられる。誘電特性、耐熱性、耐溶剤性、及びプレス成形性を向上させる観点から、マトリックス樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂で変性した樹脂を用いてもよい。
【0062】
また、マトリックス樹脂組成物は、樹脂中にシリカ及び水酸化アルミニウム等の無機充填剤;臭素系、リン系、金属水酸化物等の難燃剤;その他シランカップリング剤;熱安定剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;顔料;着色剤;滑沢剤等を含んでいてもよい。
【0063】
〔プリント配線板〕
本実施形態のプリント配線板は、上記プリプレグを備える。本実施形態のプリプレグを備えるプリント配線板は、品質のばらつきが少なく、最終製品の歩留まりの高いものとなる。また、誘電特性に優れ、耐吸湿性に優れるために使用環境の影響、特に高湿度環境で誘電率の変動が小さいという効果も奏することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
〔ガラス糸およびガラスクロスの物性〕
ガラス糸およびガラスクロスの物性、具体的には、ガラスクロスの厚さ、ガラス糸を構成するフィラメントの径又は平均直径、フィラメント数、ガラス糸の破断強度(引張強さ)、経糸及び緯糸の打ち込み密度(織密度)は、JIS R3420に準拠して測定した。
【0066】
〔弾性係数〕
ガラス糸の弾性係数は、ガラス糸を溶融、冷却して得られるガラスバルクを試験片に用い、パルスエコーオーバーラップ法により測定した。
【0067】
〔ガラス糸の組成〕
ガラス糸を構成する組成は、ICP発光分光分析法により測定した。具体的には、Si含量及びB含量は、以下のとおりに測定した。
秤取したガラスクロスサンプルを水酸化ナトリウムで加圧分解した後、希硝酸で溶解して、ろ別した。不溶解部は炭酸ナトリウムで融解し、希硝酸で溶解して、ろ液と合わせて定容し、得られたサンプルをICP発光分光分析法により測定して、それぞれSiO2換算及びB2O3換算でSi含量及びB含量を得た。
【0068】
また、Al含量、Ca含量、Mg含量、及びP含量は、以下のとおりに測定した。秤取したガラスクロスサンプルを過塩素酸、硫酸、硝酸及びフッ化水素により加熱分解した後、希王水で加温溶解して、ろ別した。ろ液は定容とした。不溶解物は硫酸、硝酸、塩酸およびフッ化水素で加熱分解した後、希王水で加温溶解して定容した。これらの溶液についてICP発光分光分析法で測定し、試料中の含量を求め、対象金属元素と対応する酸化物値に換算した。なお、ICP発光分光分析装置としては、日立ハイテクサイエンス社製のPS3520VDD IIを用いた。
【0069】
〔糸幅分布の測定〕
ガラス糸を1m/分の速度で搬送させながら、LED投影方式の透過型寸法測定器(HIGH ACCURACY CMOS MICROMETER LS-9006MR /キーエンス社製)を用い、50mのガラス糸の糸幅を測定し、得られた糸幅データから、ガラス糸の糸幅の標準偏差(糸幅標準偏差A)及び糸幅の平均値を算出し得た。
【0070】
LED投影方式の透過型寸法測定器による糸幅測定は、1m当たり1934点の測定値が得られる条件で行い、LEDの焦点が合わないことなどでエラーとなった場合(-9999値が表示される)には、該測定値は削除して、糸幅の平均値及び/又は糸幅分布の算出を行った。
【0071】
ガラス糸が搬送される際にガラス糸に作用する張力は、張力計(SCHMIDT社製Conrol instruments ETPB-100-C0585)で測定される値張力で、0.12~0.18Nであった。
【0072】
〔評価1:製織性(ショートピック)〕
実施例及び比較例のエアージェットルームによる製織工程において、2100mのガラスクロスを製織する過程で、製織が停止した回数をカウントし、下記評価基準により製織性を評価した。
5:停止0回。
4:停止1~2回。
3:停止3~4回。
2:停止5~7回。
1:停止8回以上。
【0073】
〔評価2:クロス品質(粗大毛羽)〕
実施例及び比較例で得られたガラスクロスロールからガラスクロスを2000m巻き出し、毛羽、織欠点の有無を確認し、下記評価基準により品質を評価した。
5:1mm以上に及ぶ粗大毛羽は確認されなかった。
4:1mm以上に及ぶ粗大毛羽が、1~2個確認されたが、
2mm以上に及ぶ粗大毛羽は観察されなかった。
3:2mm以上に及ぶ粗大毛羽が、3~7個確認された。
2:2mm以上に及ぶ粗大毛羽が、8個以上30個未満確認された。
1:2mm以上に及ぶ粗大毛羽が、30個以上確認された。
【0074】
〔評価3:評価基板の電気特性(誘電正接)〕
実施例及び比較例で得られたガラスクロスを用いて、以下の条件で電気特性測定用の評価用試験片を作製し、誘電正接を測定した。
【0075】
実施例及び比較例で得られたガラスクロスを連続で引き出して搬送しながら、ワニスにガラスクロスを浸透し、スリットを通過させてワニスの塗布量を調整した後、120℃の乾燥炉に通して乾燥させ、プリプレグを得た。ワニスには、メタクリル化ポリフェニレンエーテル65質量部、トリアリルイソシアヌレート35質量部、水添スチレン系熱可塑性エラストマー10質量部、臭素系難燃剤25質量部、球形シリカ65質量部、有機過酸化物1質量部、及びトルエン210質量部を含むものを用い、樹脂含量が73質量%となるように調整した。
【0076】
得られたプリプレグを、所定枚数重ね、更にその重ね合わせたプリプレグの両面に銅箔(古川電気工業株式会社製、厚み18μm、GTS-MP箔)を重ね合わせた状態で、真空プレスを行うことにより、銅張積層板を得た。次に、上記銅張積層板から、エッチングにより銅箔を除去することにより積層板を得た。
【0077】
得られた積層板から、ガラスクロスの経糸が長辺となるように、長さ約50mm、幅約1.5mmの試験片を切り出し、105℃±2℃のオーブンに入れ、2時間乾燥させた後、以下に示す条件で10GHzの誘電正接を測定した。
標準条件:23±2℃、相対湿度50±5%の恒温室に試験片を96時間静置後に測定する。
【0078】
なお、測定装置には、ネットワークアナライザー(N5230A、AgilentTechnologies社製)、及び関東電子応用開発社製の空洞共振器(Cavity Resornator CPシリーズ)を用い、23±2℃、相対湿度50±5%の環境下で測定を行った。各測定につき、切り出した5つの試験片で行い、その平均値を誘電正接の値とした。
【0079】
〔実施例1~7、比較例1~3、参考例1~2〕
<製織試験>
表1に示す組成を有するガラス糸(ガラスフィラメントの平均直径:5.0μm、フィラメント数:100本)を経糸及び緯糸に用い、エアージェットルームで製織し、経糸の織り密度65本/25mm、緯糸の織り密度67本/25mm、厚さが30μmであるガラスクロス生機を得た。次いで、加熱により脱糊処理を行い、高圧水スプレーにより開繊工程を実施し、続いて、シランカップリング剤を用いて表面処理を行い、ガラスクロスを作製した。
【0080】
製織試験に供したガラス糸の破断強度、製織時の製織性評価結果、ガラスクロス品質、電気特性は表1~3のとおりであった。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
実施例1~7は、製織性およびクロス品質に優れたガラスクロスが得られた。中でも、緯糸において、糸幅の広い部分の存在が少ない実施例1、2、5、7は、ガラスクロス品質に最も優れていた。
【0085】
実施例6は、糸幅の広い部分の存在は少ないが、実施例1、2、5に比べて弾性係数が大きいためか、粗大毛羽がやや多く発生する傾向にあった。
【0086】
実施例7は、経糸に糸幅の広い部位を多く有するガラス糸を用いているが、緯糸には糸幅の広い部位が少ないガラス糸を用いたため、良好なガラスクロスが得られた。
【0087】
それに対し、糸幅の広い部位の存在割合が若干多い実施例3、4は、製織性は良好だが、粗大毛羽がやや多く発生する傾向にあった。
【0088】
比較例1、2に示したガラスクロスの製造は、ガラス糸が糸幅の広い部位を多く有するため、飛走性は良好だが、粗大毛羽が多く発生し、品質に劣るものであった。
【0089】
比較例3に示したガラスクロスの製造は、ガラス糸の糸幅が全体に小さいため、飛走性が十分に得られず、ショートピックが多く発生して製織性に劣るものであった。
【0090】
参考例1、2に従来のEガラス糸を用いたガラスクロスの製造を示した。製織性及び品質に優れるガラスクロスが得られたが、電気特性は実施例1~7のガラスクロスには及ばなかった。