(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240705BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240705BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C33/66 Z
F16C19/36
(21)【出願番号】P 2020095380
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019105147
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴則
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 泰人
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087924(JP,A)
【文献】特開2014-152899(JP,A)
【文献】特開平02-134413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 33/66
F16C 19/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備え、
前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有し、
前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、前記大径側環状部と前記小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、
前記大径側環状部と前記小径側環状部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、
前記大径側環状部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側環状部の内周面と前記大径側ポケット面の間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受において、
前記保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面は、前記円すいころに近づくにつれて径方向内側に近づく傾斜面であ
り、
前記円すいころは、前記大端面の中央に凹部を有し、
前記保油凹部は、前記凹部を挟む両側に配置されてい
ることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記保油凹部は、周方向に隣接する前記柱部の間に周方向に並んで複数設けられている請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記保持器の軸心と平行な方向に対する前記傾斜面の傾斜角は、10度以下である請求項1
または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記保油凹部は、前記各円すいころの大端面と対向する領域の外側にはみ出さないように前記大端面の周縁よりも内側に位置する請求項1から
3のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記内輪は、前記各円すいころの小端面に対向する小鍔を有し、
前記保持器は、樹脂組成物で一体に形成され、前記樹脂組成物は、樹脂材にエラストマーが添加されたものであ
り、
前記樹脂材に、さらに繊維強化材が添加されている請求項1から
4のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
外輪と、
前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備え、
前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有し、
前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、前記大径側環状部と前記小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、
前記大径側環状部と前記小径側環状部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、
前記大径側環状部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側環状部の内周面と前記大径側ポケット面の間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受において、
前記保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面は、前記円すいころに近づくにつれて径方向内側に近づく傾斜面であ
り、
前記保油凹部は、前記各円すいころの大端面と対向する領域の外側にはみ出さないように前記大端面の周縁よりも内側に位置す
ることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項7】
前記保油凹部は、周方向に隣接する前記柱部の間に周方向に並んで複数設けられている請求項
6に記載の円すいころ軸受。
【請求項8】
前記保持器の軸心と平行な方向に対する前記傾斜面の傾斜角は、10度以下である請求項
6または7に記載の円すいころ軸受。
【請求項9】
前記内輪は、前記各円すいころの小端面に対向する小鍔を有し、
前記保持器は、樹脂組成物で一体に形成され、前記樹脂組成物は、樹脂材にエラストマーが添加されたものであ
り、
前記樹脂材に、さらに繊維強化材が添加されている請求項
6から8のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構には、ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に支持することが可能な軸受である円すいころ軸受が多く用いられる。
【0003】
そのような円すいころ軸受は、外輪と、その外輪の内側に同軸に配置された内輪と、外輪と内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、その複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備える。内輪は、各円すいころの大端面に接触する大鍔を有する。軸受回転時、円すいころの大端面と内輪の大鍔は、滑りを伴う接触によりアキシアル荷重の一部を支持する。
【0004】
上記円すいころ軸受の潤滑は、ギヤの回転により跳ね上げられる潤滑油の飛沫や、オイルポンプから圧送される潤滑油によって行なわれる。ここで、軸受が回転しているときは、外部から円すいころ軸受に潤滑油が継続して供給されるが、軸受が停止しているときは、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止する。そのため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止すると、円すいころ軸受に付着していた潤滑油の多くが流れ落ち、その後、円すいころ軸受が始動するときに、潤滑不足が生じやすい。
【0005】
特に、近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。そのため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止したときに、円すいころ軸受に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間の潤滑油量に不足が生じやすい。
【0006】
そこで、そのような潤滑油量不足を防ぐべく、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止したときにも、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を潤滑可能とした円すいころ軸受として、特許文献1の
図11~
図14に記載のものが知られている。特許文献1の
図11~
図14の円すいころ軸受の保持器は、円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、大径側環状部には、周方向に間隔をおいて複数の保油凹部が形成されている。保油凹部は、大径側環状部の内周面と大径側ポケット面の間にまたがって開口している。大径側ポケット面は、円すいころの大端面に対向する面である。
【0007】
この特許文献1の円すいころ軸受は、外部から円すいころ軸受に潤滑油が継続して供給されているときは、その潤滑油の一部を、保持器の大径側環状部の内周の保油凹部に溜め、その後、何らかの原因で、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止したときは、保持器の大径側環状部の内周の保油凹部から流出する潤滑油で、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を潤滑する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1の円すいころ軸受においては、保持器の大径側環状部に形成された保油凹部の底面(すなわち保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面)を、円すいころに近づくにつれて径方向外側に近づくように傾斜させている。すなわち、軸受の回転に伴って保油凹部内の潤滑油が遠心力を受けたときに、保油凹部内の潤滑油に円すいころの大端面に向かう方向の分力が生じるように、保油凹部の底面には、円すいころに近づくにつれて径方向外側に近づく方向の傾斜が設けられている。
【0010】
しかしながら、円すいころ軸受が長時間にわたって停止すると、保油凹部内の潤滑油が、保油凹部の底面の傾斜によって円すいころの側に移動し、円すいころの大端面と保持器の大径側環状部との間の隙間を通って次第に流出する。その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を十分に潤滑することができないことがある。これにより、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じるおそれがあった。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、円すいころ軸受が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間の急昇温を抑えることのできる円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の円すいころ軸受を提供する。
外輪と、前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備え、前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有し、前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、前記大径側環状部と前記小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、前記大径側環状部と前記小径側環状部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、前記大径側環状部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側環状部の内周面と前記大径側ポケット面の間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受において、前記保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面は、前記円すいころに近づくにつれて径方向内側に近づく傾斜面であることを特徴とする円すいころ軸受。
【0013】
このようにすると、軸心より下側に位置する保油凹部の底面(すなわち保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面)が、円すいころに近づくにつれて上方に傾斜することになる。そのため、円すいころ軸受が運転を停止したときに、円すいころ軸受の回転軸の軸心より下側に位置する保油凹部内の潤滑油は、保油凹部から流出しにくくなる。また、円すいころ軸受が回転すると、保油凹部内の潤滑油は、遠心力によりその傾斜に沿って円すいころ側に移動し、円すいころの大端面を潤滑可能となっている。従って、円すいころ軸受が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【0014】
前記保油凹部は、周方向に隣接する前記柱部の間に周方向に並んで複数設けられていることが好ましい。
【0015】
このようにすることで、周方向に隣接する前記柱部の間に一つの保油凹部が設けられているものに比べ、保油凹部の内面の面積を増やすことが可能になる。そのため、保油凹部内にある潤滑油と保油凹部の内面との接触面積が増加し、その内面と潤滑油との間に作用する表面張力が大きなものとなる。これにより、保油凹部内に潤滑油を保持しやすくなる。
【0016】
前記円すいころが、前記大端面の中央に凹部を有する場合、前記保油凹部は、前記凹部を挟む両側に配置されていることが好ましい。
【0017】
このようにすると、円すいころ軸受が停止しているときに、保油凹部内に保持された潤滑油が、円すいころの大端面の凹部に流出するのを防止することができ、円すいころと内輪の大鍔との摩擦を低減しつつ、円すいころの大端面を潤滑することが可能になる。
【0018】
前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口のうち、前記大端面と対向する部分の開口面積が、前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口面積の50%以上であることが好ましい。
【0019】
このようにすると、保油凹部の大径側ポケット面側の開口の50%以上が、円すいころの大端面と対向しているので、保油凹部の大径側ポケット面側の開口を通じて保油凹部の外へと流出する潤滑油の大部分を、効率よく円すいころの大端面に付着させることができ、円すいころの大端面を効果的に潤滑することができる。
【0020】
前記保持器の軸心と平行な方向に対する前記傾斜面の傾斜角は、10度以下であることが好ましい。
【0021】
このようにすることで、保油凹部内の潤滑油は、円すいころ軸受の回転中には大端面を好適に潤滑し、円すいころ軸受の停止時には保油凹部内に好適に保持されるものとすることができる。また、樹脂成形時の離型むり抜きで対応できる範囲となる。
【0022】
前記保油凹部の保持器の軸心に直交する断面形状が、方形であることが好ましい。
【0023】
このようにすることで、潤滑油の表面張力で保油凹部の断面方形の隅の部分に潤滑油が保持されるので、潤滑油が保油凹部内に保持されやすくなる。
【0024】
前記保油凹部は、好ましくは前記各円すいころの大端面と対向する領域の外側にはみ出さないように前記大端面の周縁よりも内側に位置すると良い。
【0025】
保油凹部を上述のような態様にすることにより、保油凹部内に保持されている潤滑油が、ころ大端面に効果的に供給することができ、ころ大端面と内輪大鍔面間の潤滑に寄与する効果が得られる。
【0026】
前記内輪が、前記各円すいころの小端面に対向する小鍔を有し、前記保持器が、樹脂組成物で一体に形成されている場合、前記樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用すると好ましい。
【0027】
すなわち、円すいころ軸受の組み立ては、次のようにして行なうことができる。まず、保持器の各ポケットに円すいころを挿入する。次に、その各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に、内輪を挿入する。このとき、円すいころが、内輪の小鍔を乗り越える必要があるが、円すいころは、保持器によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小鍔を乗り越えることができない。そこで、円すいころに小鍔を乗り越えさせるために、保持器が樹脂組成物で一体に形成されている場合は、円すいころが小鍔に乗り上げたときに円すいころが小鍔から受ける拡径方向の力により保持器を弾性変形させることとなる。ここで、保持器を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用すると、保持器の伸縮性が上がるので、各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に内輪を挿入する作業が容易となり、円すいころ軸受の組立性を向上させることが可能となる。
【0028】
前記樹脂材に、さらに繊維強化材を添加すると好ましい。
【0029】
このようにすると、樹脂材にエラストマーを添加することによる保持器の靭性・強度低下を、繊維強化材で補うことができる。そのため、保持器の靭性・強度と円すいころ軸受の組立性とを両立することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
この発明の円すいころ軸受を使用すると、軸心より下側に位置する保油凹部の底面(すなわち保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面)が、円すいころに近づくにつれて上方に傾斜することになる。そのため、円すいころ軸受が運転を停止したときに、円すいころ軸受の回転軸の軸心より下側に位置する保油凹部内の潤滑油は、保油凹部から流出しにくくなる。また、円すいころ軸受が回転すると、保油凹部内の潤滑油は、遠心力によりその傾斜に沿って円すいころ側に移動し、大端面を潤滑可能となっている。従って、円すいころ軸受が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】この発明の実施形態の円すいころ軸受のアキシアル平面に沿った断面図
【
図4】
図1に示す保持器を円すいころの大端面側から見た部分断面図
【
図5】
図1の保油凹部の近傍の詳細を示す部分拡大図
【
図6】
図1に示す円すいころ軸受を用いたトランスミッションの一例を示す図
【
図7】
図1に示す円すいころ軸受を用いたデファレンシャル機構の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1に、この発明の実施形態の円すいころ軸受1を示す。この円すいころ軸受1は、外輪2と、外輪2の内側に同軸に配置された内輪3と、外輪2と内輪3の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ4と、複数の円すいころ4の周方向の間隔を保持する環状の保持器5とを有する。円すいころ軸受1は、自動車用に使用するサイズのものであり、具体例としては、内輪3の内径は40mm以下(35mm以下でも良い)で以下事例を示す。
【0033】
外輪2の内周には、テーパ状の外輪軌道面6が形成されている。内輪3の外周には、外輪軌道面6と径方向に対向するテーパ状の内輪軌道面7と、内輪軌道面7の小径側に位置する小鍔8と、内輪軌道面7の大径側に位置する大鍔9とが形成されている。円すいころ4は、外輪軌道面6と内輪軌道面7に転がり接触している。
【0034】
小鍔8は、円すいころ4の小端面10に対向するように内輪軌道面7から外径側に突出して形成されている。小鍔8は、円すいころ4が内輪軌道面7の小径側に移動するのを規制し、円すいころ4が内輪軌道面7から脱落するのを防止する。大鍔9は、円すいころ4の大端面11に対向するように内輪軌道面7から外径側に突出して形成されている。軸受回転時、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9は、滑りを伴う接触により、アキシアル荷重の一部を支持する。
【0035】
図1、2に示すように、保持器5は、各円すいころ4の大端面11に沿って周方向に延びる大径側環状部12と、各円すいころ4の小端面10に沿って周方向に延びる小径側環状部13と、周方向に隣り合う円すいころ4の間を通って大径側環状部12と小径側環状部13を連結する複数の柱部14とを有する。
【0036】
大径側環状部12と小径側環状部13と複数の柱部14は、複数の円すいころ4をそれぞれ収容する複数のポケット15を区画している。ここで、大径側環状部12と小径側環状部13はポケット15の保持器軸方向の両端を区画し、柱部14はポケット15の保持器周方向の両端を区画している。大径側環状部12には、円すいころ4の大端面11に対向する大径側ポケット面16が形成され、小径側環状部13には、円すいころ4の小端面10に対向する小径側ポケット面17が形成されている。大径側ポケット面16は、円すいころ4の大端面11と面接触可能なように保持器5の軸直角方向(図の上下方向)に対して傾斜して形成されている。柱部14は、円すいころ4の外周と対向する位置に、円すいころ4の外周に接触するころ案内面を有する。
【0037】
大径側環状部12の内周には、保持器周方向に間隔をおいて複数の保油凹部20が形成されている。保油凹部20は、大径側環状部12の内周と大径側ポケット面16との間にまたがって形成されている。すなわち、保油凹部20は、大径側環状部12の内周に開口するとともに大径側ポケット面16に開口して形成されている。保油凹部20の大径側環状部12の内周への開口部分は、保持器径方向内側から見て矩形状をなす。保油凹部20の大径側ポケット面16への開口部分は、軸方向に見て矩形状をなす。
【0038】
図3に示すように、保油凹部20の内面は、径方向内側を臨む底面21と、底面21の周縁から径方向内側に立ち上がって保油凹部20の開口縁に至る内壁面22とからなる。底面21は、円すいころに近づくにつれて径方向内側に近づく傾斜面である。すなわち、保油凹部20は、大径側ポケット面16の開口から軸方向に遠ざかるにつれて、径方向深さが次第に深くなっている。保持器5の軸心と平行な方向に対する底面21の傾斜角θは、0度よりも大きく10度以下(好ましくは5度以上10度以下)である。
【0039】
図5に示すように、内壁面22は、保持器周方向に対向する一対の対向面24と、対向面24の一端同士を連結する連結面25とからなる。連結面25は、円すいころ4の大端面11を軸方向に臨む起立面である。対向面24と連結面25は、直接交差するか、あるいは小さい曲率半径をもつ隅R(例えば、半径0.5mm以下の曲率半径をもつ隅R)を介して交差している。対向面24と底面21も、直接交差するか、あるいは小さい曲率半径をもつ隅R(例えば、0.5mm以下の曲率半径をもつ隅R)を介して交差している。連結面25と底面21も、直接交差するか、あるいは小さい曲率半径をもつ隅R(例えば、0.5mm以下の曲率半径をもつ隅R)を介して交差している。保油凹部20の保持器5の軸心に直交する断面形状は方形をなし、保油凹部20の径方向に直交する断面形状も方形をなす。そのため、底面21と対向面24の間には凹状の隅部26が形成され、底面21と連結面25の間にも凹状の隅部27が形成され、対向面24と連結面25の間にも凹状の隅部28が形成されている。
【0040】
ここで、保油凹部20の深さ(すなわち、保油凹部20の最深部から大径側環状部12の内径面までの距離)は、0.2~2.0mm(好ましくは、0.3~1.0mm)、あるいは、
図3に示したHとhの関係で0.2<h/H<0.7の範囲とする。h/Hの下限では保油効果が少なすぎ、上限では強度不足を懸念する。
【0041】
円すいころ4は、大端面11の中央に凹部11aを有する。大端面11は、凹部11aと、凹部11aの周囲を囲む環状面11bとで構成されている。環状面11bは、大鍔9に押し付けられる面である。環状面11bは、十分に大きい曲率半径(少なくとも内輪3の半径よりも大きい曲率半径)をもつ球面である。保油凹部20は、この凹部11aを挟む両側に配置されている。凹部11aは、大端面11上に開口し、その開口から円すいころの軸方向の小端面側に入り込むように形成されている。
【0042】
保油凹部20は、周方向に隣接する柱部14の間に周方向に並んで複数設けられている。すなわち、各大径側ポケット面16ごとに複数の保油凹部20が設けられている。そのような保油凹部20の一例として、
図4、5には、大径側ポケット面16ごとに2箇所ずつ設けた態様を示している。その2箇所の保油凹部20は、大径側ポケット面16の中央に対して保持器5の周方向の両側に離れて配置されている。すなわち、保油凹部20は、凹部11aの図示左右方向に一箇所ずつ設けられている。保油凹部20は、大端面11のうち凹部11aとは対向せず、環状面11bの部分のみと対向するように、凹部11aよりも外側に配置されている。
【0043】
保油凹部20は、円すいころ4の大端面11と対向する領域の外側にはみ出さないように大端面11の周縁よりも内側に位置する。すなわち、
図4のように大端面11側からの平面視において、保油凹部20の開口縁の内側の全ての領域が、大端面11の周縁の内側に位置する。また、保油凹部20は、凹部11aの開口縁の内側にはみ出さないように設けられる。すなわち、大端面11側からの平面視において、保油凹部20の開口縁の内側の全ての領域が、凹部11aの開口縁よりも外側に位置する。
【0044】
ここで、大径側環状部12は、ウエルドラインL(保持器5を樹脂成形するときに樹脂が合流する部分)を有する。具体的には、ウエルドラインLが隣り合う保油凹部20の間に設けられることで、ウエルドラインLが保油凹部20と重なる位置に設けられる構成と比べて、大径側環状部12の十分な肉厚を確保でき、大きな強度低下を招くことなく保油凹部20を設けることが可能となる。
【0045】
保持器5は、合成樹脂で継ぎ目のない一体に形成されている。すなわち、保持器5を構成する大径側環状部12と小径側環状部13と複数の柱部14は、樹脂組成物で継ぎ目のない一体に形成されている。保持器5を構成する樹脂組成物は、樹脂材のみからなるものを使用することも可能であるが、ここでは、樹脂材にエラストマーと繊維強化材とを添加したものが使用されている。
【0046】
樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド(PA)を採用することができる。ポリアミドとしては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等を使用することができる。ポリアミドを採用すると、ポリアミドは親油性が比較的高いことから、保油凹部20の内面に潤滑油が馴染みやすく、潤滑油の表面張力によって潤滑油を保油凹部20に効果的に保持することが可能となる。ポリアミドに代えて、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を採用することも可能である。樹脂材に添加するエラストマーは、例えば、熱可塑性エラストマーである。
【0047】
樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。繊維強化材としてガラス繊維を採用する場合、繊維強化材に占めるガラス繊維の含有率は、10~50重量%(好ましくは20~40重量%、より好ましくは25~35重量%)とすることができる。なお、樹脂材、エラストマー、繊維強化材の種類の組み合わせは適宜自由に選択可能である。
【0048】
図6に、上記の円すいころ軸受1を、自動車のトランスミッション30に配置した場合の一部分の構造図を示す。
【0049】
特に、近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。そのため、円すいころ軸受1が長時間にわたって停止したときに、円すいころ軸受1に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受1が始動するときに、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9との間に急昇温が生じる可能性がある。
【0050】
この問題に対し、この実施形態の円すいころ軸受1においては、円すいころ軸受1が回転しているときに、保油凹部20に潤滑油が導入される。ここで、上述のように、保油凹部20の底面21は、円すいころ4に近づくにつれて径方向内側に傾斜している。そのため、円すいころ軸受1が停止したときに、保油凹部20内の潤滑油には、重力によってその底面21の傾斜に沿って保油凹部20の奥部へと流れ込む方向の力が作用する。従って、長時間停止した場合でも、潤滑油は、保油凹部20に貯留され、保油凹部20から流出しにくくなる。その後、円すいころ軸受1が始動すると、保油凹部20内の潤滑油に遠心力が作用する。すると、潤滑油は、底面21の傾斜に沿って円すいころ4側に移動し、保油凹部20から流出して円すいころ4の大端面11に供給される。従って、円すいころ軸受1が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受1が始動するときに、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【0051】
また、この円すいころ軸受1は、保油凹部20が、円すいころ4の大端面11の凹部11aを挟む両側に配置されているので、円すいころ軸受1が停止しているときに、保油凹部20内に保持された潤滑油が、円すいころ4の大端面11の凹部11aに流出するのを防止することができ、円すいころ4と内輪3の大鍔9との摩擦を低減しつつ、円すいころ4の大端面11(特に環状面11b)を潤滑することが可能となっている。
【0052】
また、この円すいころ軸受1は、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口のうち、大端面11と対向する部分の開口面積が、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口面積の50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上)であるので、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口を通じて保油凹部20の外へと流出する潤滑油の大部分を、効率よく円すいころ4の大端面11(特に環状面11b)に付着させることができ、円すいころ4の大端面11を効果的に潤滑することが可能となっている。
【0053】
また、この円すいころ軸受1は、保油凹部20の底面21の傾斜角θが、10度以下に設定されているので、円すいころ軸受1の回転中に保油凹部20内の潤滑油が円すいころ4の大端面11に向けて円滑に流出し、円すいころ4の大端面11を効果的に潤滑することができる。また、保油凹部20の底面21の傾斜角θが0度よりも大きく、好ましくは5度以上に設定されているので、円すいころ軸受1の停止時に、潤滑油を保油凹部20内に確実に保持することが可能となっている。
【0054】
また、上述の通り、保油凹部20の保持器5の軸心に直交する断面形状は方形をなし、保油凹部20の径方向に直交する断面形状も方形をなし、保油凹部20の内側には複数の隅部26,27,28が形成されている。そのため、これらの断面形状が例えば円形をなし、隅部26,27,28が形成されていない保油凹部に比べ、保油凹部20の内面と潤滑油との間に作用する表面張力が大きなものとなる。従って、保油凹部20内に保持される潤滑油に対して表面張力が効果的に作用し、保油凹部20内に潤滑油が保持されやすくなる。
【0055】
また、この円すいころ軸受1は、各円すいころ4の大端面11と対向する領域の外側にはみ出さないように大端面11の周縁よりも内側に保油凹部20を配置しているので、円すいころ軸受1の停止時に、保油凹部20内に保持されている潤滑油が、大端面11の外側を通って保油凹部20の外へ流出するのを効果的に防ぐことが可能となっている。
【0056】
上記の円すいころ軸受1は、
図7に示すデファレンシャル機構40の入力軸を回転可能に支持する転がり軸受として使用することも可能である。
【0057】
上記の円すいころ軸受1の組み立ては、次のようにして行なうことができる。まず、保持器5の各ポケット15に円すいころ4を挿入する。次に、その各ポケット15に円すいころ4を収容した状態の保持器5に、内輪3を挿入する。このとき、円すいころ4が、内輪3の小鍔8を乗り越える必要があるが、円すいころ4は、保持器5によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小鍔8を乗り越えることができない。そこで、円すいころ4に小鍔8を乗り越えさせるために、円すいころ4が小鍔8に乗り上げたときに円すいころ4が小鍔8から受ける拡径方向の力により保持器5を弾性変形させることとなる。ここで、上記実施形態においては、保持器5を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用しているので、保持器5の伸縮性が高く、各ポケット15に円すいころ4を収容した状態の保持器5に内輪3を挿入する作業が容易であり、円すいころ軸受1の優れた組立性を得ることが可能となっている。
【0058】
また、この円すいころ軸受1は、保持器5を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーを加えてさらに繊維強化材を添加したものを採用しているので、エラストマーを添加することによる保持器5の靭性・強度低下を、繊維強化材で補うことが可能である。そのため、保持器5の靭性・強度と円すいころ軸受1の組立性とを両立することが可能となっている。
【0059】
なお、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形例が適用可能である。
【0060】
上記実施形態では、
図2、4、5のように、大径側ポケット面16ごとに保油凹部20を2箇所ずつ設けたが、保油凹部20は、各大径側ポケット面16ごとに3個所以上ずつ設けられていてもよいし、1個所ずつ設けられていてもよく、さらに、各大径側ポケット面16ごとに異なる数の保油凹部20が設けられていてもよい。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1 円すいころ軸受
2 外輪
3 内輪
4 円すいころ
5 保持器
8 小鍔
9 大鍔
10 小端面
11 大端面
11a 凹部
12 大径側環状部
13 小径側環状部
14 柱部
15 ポケット
16 大径側ポケット面
20 保油凹部
21 底面(保油凹部の内面のうちの径方向内側を臨む面)