(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20240705BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240705BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/66 Z
(21)【出願番号】P 2020095383
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019140961
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 泰人
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087924(JP,A)
【文献】特開2012-112446(JP,A)
【文献】特開2006-002818(JP,A)
【文献】特開2014-152899(JP,A)
【文献】特開平02-134413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46
F16C 19/36
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備え、
前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有し、
前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、前記大径側環状部と前記小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、
前記大径側環状部と前記小径側環状部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、
前記大径側環状部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側環状部の内周面と前記大径側ポケット面の間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受において、
前記保油凹部は、軸方向に見て、保油凹部の隣り合う内面同士が交わる隅角部を2つ以上有する多角形状に形成され
、
前記円すいころは、前記大端面の中央に凹部を有し、
前記保油凹部は、前記凹部を挟む両側に配置されていることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記保油凹部は、周方向に直角な断面において前記大径側環状部の内周面から前記大径側環状部の内部に入り込む内壁面を有し、前記内壁面に、軸方向に窪む保油溝が形成されている請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記保油溝は、前記大径側環状部の内周面に開口する部分をもたないように、前記大径側環状部の内周面から径方向外側に離れた領域に形成されている請求項2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
前記保油溝は、周方向の一方の側から他方の側に延びる横溝部と、横溝部の途中から径方向外方に分岐して延びる縦溝部とを有する請求項2または3に記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記隅角部は、軸方向に見て前記隣り合う内面同士が90°以下の角度をもって交わる鋭角の隅角部を2つ以上含む請求項1から4のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記隅角部では、前記隣り合う内面同士が2.0mm以下の曲率半径をもつR面を介して交わっている請求項1から5のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項7】
前記保油凹部は、周方向に隣接する前記柱部の間に周方向に並んで複数設けられている請求項1から6のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項8】
前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口のうち、前記各円すいころの大端面と対向する部分の開口面積が、前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口面積の50%以上である請求項1から
7のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項9】
前記保油凹部は、前記各円すいころの大端面と対向する領域の外側にはみ出さないように前記大端面の周縁よりも内側に位置する請求項1から
8のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項10】
前記内輪は、前記各円すいころの小端面に対向する小鍔を有し、
前記保持器は、樹脂組成物で一体に形成され、前記樹脂組成物は、樹脂材にエラストマーが添加されたものである請求項1から
9のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項11】
前記樹脂材に、さらに繊維強化材が添加されている請求項
10に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構には、ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に支持することが可能な軸受である円すいころ軸受が多く用いられる。
【0003】
そのような円すいころ軸受は、外輪と、その外輪の内側に同軸に配置された内輪と、外輪と内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、その複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備える。内輪は、各円すいころの大端面に接触する大鍔を有する。軸受回転時、円すいころの大端面と内輪の大鍔は、滑りを伴う接触によりアキシアル荷重の一部を支持する。
【0004】
上記円すいころ軸受の潤滑は、ギヤの回転により跳ね上げられる潤滑油の飛沫や、オイルポンプから圧送される潤滑油によって行なわれる。ここで、軸受が回転しているときは、外部から円すいころ軸受に潤滑油が継続して供給されるが、軸受が停止しているときは、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止する。このため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止すると、円すいころ軸受に付着していた潤滑油の多くが流れ落ち、その後、円すいころ軸受が始動するときに、潤滑不足が生じやすい。
【0005】
特に、近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。このため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止したときに、円すいころ軸受に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間に急昇温が生じるおそれがあった。
【0006】
そこで、そのような急昇温を防止すべく、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止したときにも、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を潤滑可能とした円すいころ軸受として、特許文献1の
図11~
図14に記載のものが知られている。特許文献1の
図11~
図14の円すいころ軸受の保持器は、円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、各円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、大径側環状部には、周方向に間隔をおいて複数の保油凹部が形成されている。保油凹部は、大径側環状部の内周面と大径側ポケット面の間にまたがって開口している。保油凹部は、軸方向に見て、単一の凹円弧面を内面とする弓形状に形成されている。大径側ポケット面は、円すいころの大端面に対向する面である。
【0007】
この特許文献1の円すいころ軸受は、外部から円すいころ軸受に潤滑油が継続して供給されているときは、その潤滑油の一部を、保持器の大径側環状部の内周の保油凹部に溜め、その後、何らかの原因で、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止したときは、保持器の大径側環状部の内周の保油凹部から流出する潤滑油で、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を潤滑する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1の円すいころ軸受においては、長時間にわたって停止すると、保油凹部内の潤滑油が、自重によって保油凹部から流出することがある。その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を十分に潤滑することができないことがある。これにより、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じるおそれがあった。
【0010】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じるのを防止することが可能な円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の円すいころ軸受を提供する。外輪と、前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器と、を備え、前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有し、前記保持器は、前記複数の円すいころの大端面に沿って周方向に延びる大径側環状部と、前記複数の円すいころの小端面に沿って周方向に延びる小径側環状部と、前記大径側環状部と前記小径側環状部を連結する複数の柱部とを有し、前記大径側環状部と前記小径側環状部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、前記大径側環状部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側環状部の内周面と前記大径側ポケット面の間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受において、前記保油凹部は、軸方向に見て、保油凹部の隣り合う内面同士が交わる隅角部を2つ以上有する多角形状に形成されていることを特徴とする円すいころ軸受。
【0012】
このようにすると、保油凹部の隅角部では、潤滑油が保油凹部の隣り合う内面同士のそれぞれに接触するので、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部に保持されやすくなる。そのため、軸受停止中に、保油凹部内の潤滑油がその自重によって流出するのを抑制し、軸受が長期にわたって停止したときにも、保油凹部内に潤滑油を保つことができる。その後、円すいころ軸受が回転すると、保油凹部内の潤滑油は、遠心力により円すいころ側に移動し、ころ大端面を潤滑可能となっている。従って、円すいころ軸受が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【0013】
前記保油凹部は、周方向に直角な断面において前記大径側環状部の内周面から前記大径側環状部の内部に入り込む内壁面を有し、前記内壁面に、軸方向に窪む保油溝が形成されていることが好ましい。
【0014】
このようにすると、内壁面の全面を平らとした場合に比べて、内壁面に保油溝が存在する分、保油凹部の内面の凹凸が増える。そのため、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部内に保持されやすくなる。従って、保油凹部内の潤滑油は、円すいころ軸受の回転中にはころ大端面を好適に潤滑し、円すいころ軸受の停止時には保油凹部内に好適に保持されるものとすることができる。
【0015】
前記保油溝は、前記大径側環状部の内周面に開口する部分をもたないように、前記大径側環状部の内周面から径方向外側に離れた領域に形成されていることが好ましい。
【0016】
このようにすると、円すいころ軸受の回転軸の軸心よりも上方側に位置する保油凹部において、その内部の潤滑油が保油溝によって好適に保持される。すなわち、その軸心よりも上方側の保油凹部において、その内部の潤滑油に、下方(大径側環状部の内周面側の方向)を向く重力が作用するが、保油凹部内の保油溝は、大径側環状部の内周面に開口する部分をもたない。このため、保油溝内の潤滑油が自重によって保油溝から流出しにくくなる。従って、保油凹部内の潤滑油が、保油溝によって好適に保油凹部内に保持されるものとすることができる。
【0017】
前記保油溝は、周方向の一方の側から他方の側に延びる横溝部と、横溝部の途中から径方向外方に分岐して延びる縦溝部とを有することが好ましい。
【0018】
このようにすると、保油溝の内面の表面積が増加し、保油凹部内の潤滑油と保油溝の内面との接触面積が増加する。このため、保油溝内でその内面と潤滑油との間に生じる表面張力が、より大きくなる。従って、保油凹部内の潤滑油が、より好適に保油凹部内に保持されるものとすることができる。
【0019】
前記隅角部は、軸方向に見て前記隣り合う内面同士が90°以下の角度をもって交わる鋭角の隅角部を2つ以上含むことが好ましい。
【0020】
このようにすると、保油凹部の内面同士が90°以下の角度をもって交わる隅角部において、前記隣り合う面のそれぞれに潤滑油が接触しやすくなる。このため、このような隅角部では、保油凹部内の潤滑油と保油凹部の内面との接触面積がより大きくなる。ひいては、潤滑油と保油凹部の内面との間で生じる表面張力が大きなものとなり、保油凹部内の潤滑油を、より好適に保油凹部内に保持することができる。
【0021】
前記隅角部では、前記隣り合う内面同士が好ましくは1.0mm以下、少なくとも2.0mm以下の曲率半径をもつR面を介して交わっていることが好ましい。
【0022】
このようにすると、隅角部の隣り合う内面同士の交わりがR面を介したものとなっているので、軸受の回転時の隅角部への応力集中を抑制することが可能になり、また、保油凹部の成型性が向上する。また、R面の曲率半径が1.0mm以下、少なくとも2.0mm以下なので、軸受の回転時の隅角部への応力集中を抑制することが可能になる。
【0023】
前記保油凹部は、周方向に隣接する前記柱部の間に周方向に並んで複数設けられていることが好ましい。
【0024】
このようにすることで、周方向に隣接する前記柱部の間に一つの保油凹部が設けられているものに比べ、保油凹部の内面の面積を増やすことが可能になる。このため、保油凹部内にある潤滑油と保油凹部の内面との接触面積が増加し、その内面と潤滑油との間に作用する表面張力が大きなものとなる。これにより、保油凹部内に潤滑油を保持しやすくなる。
【0025】
前記円すいころが、前記大端面の中央に凹部を有する場合、前記保油凹部は、前記凹部を挟む両側に配置されていることが好ましい。
【0026】
このようにすると、円すいころ軸受が停止しているときに、保油凹部内に保持された潤滑油が、円すいころの大端面の凹部に流出するのを防止することができ、円すいころと内輪の大鍔との摩擦を低減しつつ、円すいころの大端面を潤滑することが可能になる。
【0027】
前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口のうち、前記各円すいころの大端面と対向する部分の開口面積が、前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口面積の50%以上であることが好ましい。
【0028】
このようにすると、保油凹部の大径側ポケット面側の開口の50%以上が、円すいころの大端面と対向しているので、保油凹部の大径側ポケット面側の開口を通じて保油凹部の外へと流出する潤滑油の大部分を、効率よく円すいころの大端面に付着させることができ、円すいころの大端面を効果的に潤滑することができる。
【0029】
前記保油凹部は、好ましくは前記各円すいころの大端面と対向する領域の外側にはみ出さないように前記大端面の周縁よりも内側に位置すると良い。
【0030】
保油凹部を上述のような態様にすることにより、保油凹部内に保持されている潤滑油が、ころ大端面に効率的に供給することができ、ころ大端面と内輪大鍔面間の潤滑に寄与する効果が得られる。
【0031】
前記内輪が、前記各円すいころの小端面に対向する小鍔を有し、前記保持器が、樹脂組成物で一体に形成されている場合、前記樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用すると好ましい。
【0032】
すなわち、円すいころ軸受の組み立ては、次のようにして行なうことができる。まず、保持器の各ポケットに円すいころを挿入する。次に、その各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に、内輪を挿入する。このとき、円すいころが、内輪の小鍔を乗り越える必要があるが、円すいころは、保持器によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小鍔を乗り越えることができない。そこで、円すいころに小鍔を乗り越えさせるために、保持器が樹脂組成物で一体に形成されている場合は、円すいころが小鍔に乗り上げたときに円すいころが小鍔から受ける拡径方向の力により保持器を弾性変形させることとなる。ここで、保持器を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用すると、保持器の伸縮性が上がるので、各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に内輪を挿入する作業が容易となり、円すいころ軸受の組立性を向上させることが可能となる。
【0033】
前記樹脂材に、さらに繊維強化材を添加すると好ましい。
【0034】
このようにすると、樹脂材にエラストマーを添加することによる保持器の靭性・強度低下を、繊維強化材で補うことができる。そのため、保持器の靭性・強度と円すいころ軸受の組立性とを両立することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
この発明の円すいころ軸受は、保油凹部の隅角部において、潤滑油が保油凹部の隣り合う内面同士のそれぞれに接触するので、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部に保持されやすい。そのため、軸受停止中に、保油凹部内の潤滑油がその自重によって流出するのを抑制し、軸受が長期にわたって停止したときにも、保油凹部内に潤滑油を保つことができる。その後、円すいころ軸受が回転すると、保油凹部内の潤滑油は、遠心力により円すいころ側に移動し、ころ大端面を潤滑可能となっている。従って、円すいころ軸受が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】この発明の実施形態の円すいころ軸受のアキシアル平面に沿った断面図
【
図3】
図1に示す保持器をその内径側からみた斜視図
【
図4】
図1に示す保持器の大径側環状部を円すいころの大端面側から見た部分断面図
【
図5】(a)は、
図1に示す円すいころ軸受が長時間にわたって停止した後の保油凹部の近傍の拡大図、(b)は、(a)に示す保油凹部を、保持器の周方向に直交する面に沿って破断した状態を示す断面図
【
図6】(a)は、比較例の円すいころ軸受が長時間にわたって停止した後の保油凹部の近傍の拡大図、(b)は、(a)に示す保油凹部を、保持器の周方向に直交する面に沿って破断した状態を示す断面図
【
図11】
図1に示す円すいころ軸受を用いたトランスミッションの一例を示す図
【
図12】
図1に示す円すいころ軸受を用いたデファレンシャル機構の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施形態について説明する。
【0038】
図1に、この発明の実施形態の円すいころ軸受1を示す。この円すいころ軸受1は、外輪2と、外輪2の内側に同軸に配置された内輪3と、外輪2と内輪3の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ4と、複数の円すいころ4の周方向の間隔を保持する環状の保持器5とを有する。円すいころ軸受1は、自動車に使用するサイズのものであり、具体例としては、内輪3の内径が50mm以下(35mm以下でも良い)のサイズのものである。
【0039】
外輪2の内周には、テーパ状の外輪軌道面6が形成されている。内輪3の外周には、外輪軌道面6と径方向に対向するテーパ状の内輪軌道面7と、内輪軌道面7の小径側に位置する小鍔8と、内輪軌道面7の大径側に位置する大鍔9とが形成されている。円すいころ4は、外輪軌道面6と内輪軌道面7に転がり接触している。
【0040】
小鍔8は、円すいころ4の小端面10に対向するように内輪軌道面7から外径側に突出して形成されている。小鍔8は、円すいころ4が内輪軌道面7の小径側に移動するのを規制し、円すいころ4が内輪軌道面7から脱落するのを防止する。大鍔9は、円すいころ4の大端面11に対向するように内輪軌道面7から外径側に突出して形成されている。軸受回転時、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9は、滑りを伴う接触により、アキシアル荷重の一部を支持する。
【0041】
図1~
図3に示すように、保持器5は、各円すいころ4の大端面11に沿って周方向に延びる大径側環状部12と、各円すいころ4の小端面10に沿って周方向に延びる小径側環状部13と、周方向に隣り合う円すいころ4の間を通って大径側環状部12と小径側環状部13を連結する複数の柱部14とを有する。
【0042】
大径側環状部12と小径側環状部13と複数の柱部14は、複数の円すいころ4をそれぞれ収容する複数のポケット15を区画している。ここで、大径側環状部12と小径側環状部13はポケット15の保持器軸方向の両端を区画し、柱部14はポケット15の保持器周方向の両端を区画している。大径側環状部12には、円すいころ4の大端面11に対向する大径側ポケット面16が形成され、小径側環状部13には、円すいころ4の小端面10に対向する小径側ポケット面17が形成されている。大径側ポケット面16は、円すいころ4の大端面11と面接触可能なように保持器5の軸直角方向(図の上下方向)に対して傾斜して形成されている。柱部14は、円すいころ4の外周と対向する位置に、円すいころ4の外周に接触するころ案内面を有する。
【0043】
大径側環状部12の内周には、保持器周方向に間隔をおいて複数の保油凹部20が形成されている。保油凹部20は、大径側環状部12の内周と大径側ポケット面16との間にまたがって形成されている。すなわち、保油凹部20は、大径側環状部12の内周に開口するとともに大径側ポケット面16に開口して形成されている。
【0044】
図4に示すように、保油凹部20は、ころ大端面11の側から軸方向に見て、保油凹部20の隣り合う内面同士が交わる隅角部21を2つ有する方形状に形成されている。
【0045】
図1~
図4に示すように、保油凹部20の内面は、保持器径方向内側を臨む底面22と、底面22の周方向の両端から径方向内側に立ち上がった起立面である一対の対向面23と、円すいころ軸受1のアキシアル平面に沿った断面(すなわち、
図1、
図2に示す断面)において大径側環状部12の内周面から大径側環状部の内部に入り込んでいる内壁面24と、を有する。内壁面24は、対向面23、及び底面22とそれぞれ隣り合っている。底面22と内壁面24との間、底面22と対向面23との間、及び対向面23と内壁面24との間には、隅角部21が形成されている。隅角部21は、2.0mm以下(好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.3mm以下、さらにより好ましくは0.2mm以下)の曲率半径をもつR面状をなしている。
【0046】
保油凹部20の深さ(すなわち、保油凹部20の底面22から大径側環状部12の内径面までの幅)は、1.4mm以下である。
【0047】
図1~
図2、及び
図4に示すように、円すいころ4は、大端面11の中央に凹部11aを有する。大端面11は、凹部11aと、凹部11aの周囲を囲む環状面11bとで構成されている。環状面11bは、大鍔9に押し付けられる面である。環状面11bは、十分に大きい曲率半径(少なくとも内輪3の半径よりも大きい曲率半径)をもつ球面である。保油凹部20は、この凹部11aを挟む両側に配置されている。凹部11aは、大端面11上に円形に開口し、その開口から円すいころの軸方向の小端面10側に入り込むように形成されている。
【0048】
保油凹部20内の潤滑油には、潤滑油の表面張力によって保油凹部20内に保持される力(以下保持力F1と称する)が作用する。その保持力F1が、潤滑油に作用する重力F2よりも大きい場合に、保油凹部20内に潤滑油が保持される。保持力F1、及び重力F2は、以下の計算式により計算可能である。
保持力F1=潤滑油の表面張力γ×ぬれ縁長さL(潤滑油に接している保油凹部の内面の長さの合計値)×cosθ(θは潤滑油の接触角)
潤滑油に作用する重力F2=重力加速度g×潤滑油密度ρ×潤滑油の体積V
【0049】
ここで、ぬれ縁長さLは、対向面23のうちの潤滑油と接する領域の軸方向の長さと、内壁面24のうちの潤滑油と接する領域の周方向の長さとの合計値である。
【0050】
例えば、潤滑油の表面張力γ=30(mN/m)、接触角θ=18.5(°)、ぬれ縁
長さL=2.8(mm)、潤滑油密度ρ=0.85(g/mm3)、潤滑油体積V=0.49(mm3)である場合、F1=8.0×10-5Nとなる。このとき、潤滑油に作用する重力F2は、F2=4.0×10-9Nとなる。このため、F1≧F2となり、保油凹部内の潤滑油は、表面張力によって保油凹部内に保持される。
【0051】
保油凹部20は、周方向に隣接する柱部14の間に周方向に並んで複数設けられている。すなわち、各大径側ポケット面16ごとに複数の保油凹部20が設けられている。そのような保油凹部20の一例として、
図4には、大径側ポケット面16ごとに2箇所ずつ設けた態様を示している。その2箇所の保油凹部20は、大径側ポケット面16の中央に対して保持器5の周方向の両側に離れて配置されている。すなわち、保油凹部20は、ころ大端面11の凹部11aの図示左右方向に一箇所ずつ設けられている。保油凹部20は、ころ大端面11のうち凹部11aとは対向せず、環状面11bの部分のみと対向するように、凹部11aよりも外側に配置されている。
【0052】
保油凹部20は、円すいころ4の大端面11と対向する領域の外側にはみ出さないように大端面11の周縁よりも内側に位置する。すなわち、
図4に示すようにころ大端面11側からの平面視において、保油凹部20の開口縁の内側の全ての領域が、ころ大端面11の周縁の内側に位置する。また、保油凹部20は、ころ大端面11の凹部11aの開口縁の内側にはみ出さないように設けられる。すなわち、ころ大端面11側からの平面視において、保油凹部20の開口縁の内側の全ての領域が、ころ大端面11の凹部11aの開口縁よりも外側に位置する。
【0053】
ここで、大径側環状部12は、ウエルドライン(保持器5を樹脂成形するときに樹脂が合流する部分)を有する。具体的には、ウエルドラインが隣り合う保油凹部20の間に設けられることで、ウエルドラインが保油凹部20と重なる位置に設けられる構成と比べて、大径側環状部12の十分な肉厚を確保でき、大きな強度低下を招くことなく保油凹部20を設けることが可能となる。
【0054】
保持器5は、合成樹脂で継ぎ目のない一体に形成されている。すなわち、保持器5を構成する大径側環状部12と小径側環状部13と複数の柱部14は、樹脂組成物で継ぎ目のない一体に形成されている。保持器5を構成する樹脂組成物は、樹脂材のみからなるものを使用することも可能であるが、ここでは、樹脂材にエラストマーと繊維強化材とを添加したものが使用されている。
【0055】
樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド(PA)を採用することができる。ポリアミドとしては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等を使用することができる。ポリアミドを採用すると、ポリアミドは親油性が比較的高いことから、保油凹部20の内面に潤滑油が馴染みやすく、潤滑油の表面張力によって潤滑油を保油凹部20に効果的に保持することが可能となる。ポリアミドに代えて、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を採用することも可能である。樹脂材に添加するエラストマーは、例えば、熱可塑性エラストマーである。
【0056】
樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。繊維強化材としてガラス繊維を採用する場合、繊維強化材に占めるガラス繊維の含有率は、10~50重量%(好ましくは20~40重量%、より好ましくは25~35重量%)とすることができる。なお、樹脂材、エラストマー、繊維強化材の種類の組み合わせは適宜自由に選択可能である。
【0057】
図11に、上記の円すいころ軸受1を、自動車のトランスミッション30に配置した場合の一部分の構造図を示す。
【0058】
特に、近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやデファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。また、
図6(a)に比較例として示す保持器50の保油凹部51は、軸方向に見て、単一の凹円弧面を内面とする弓形状に形成されており、隅角部がないため、保油凹部51内に潤滑油が保持されにくい。従って、円すいころ軸受1が長時間にわたって停止したときに、
図6(b)に示すように保油凹部51内から潤滑油が流出してしまい、円すいころ軸受1に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受1が始動するときに、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9との間に急昇温が生じる可能性がある。
【0059】
この問題に対し、この実施形態の円すいころ軸受1においては、円すいころ軸受1が回転しているときに、保油凹部20に潤滑油が導入される。ここで、
図5(a)に示すように、保油凹部20は、軸方向に見て、保油凹部20の隣り合う内面同士が交わる隅角部21を2つ有する方形状に形成されている。保油凹部20の隅角部21では、潤滑油が保油凹部20の隣り合う内面同士のそれぞれに接触するので、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部20に保持されやすくなる。そのため、軸受停止中に、保油凹部20内の潤滑油がその自重によって流出するのを抑制し、円すいころ軸受1が長期にわたって停止したときにも、保油凹部20内に潤滑油を保つことができる。その後、円すいころ軸受1が回転すると、保油凹部20内の潤滑油は、
図5(b)に示すように遠心力により円すいころ4側に移動し、大端面11を潤滑可能となっている。従って、円すいころ軸受1が長時間にわたって停止し、その後、円すいころ軸受1が始動するときに、円すいころ4の大端面11と内輪3の大鍔9の間の急昇温を効果的に防止することができる。
【0060】
また、隅角部21は、軸方向に見て隣り合う内面同士が90°以下の角度をもって交わる鋭角の隅角部21を2つ以上含む。保油凹部の内面同士が90°以下の角度をもって交わる隅角部21において、隣り合う面のそれぞれに潤滑油が接触しやすくなる。このため、このような隅角部21では、保油凹部内の潤滑油と保油凹部の内面との接触面積がより大きくなる。ひいては、潤滑油と保油凹部20の内面との間で生じる表面張力が大きなものとなり、保油凹部20内の潤滑油を、より好適に保油凹部20内に保持することができる。
【0061】
また、隅角部21の隣り合う内面同士の交わりがR面を介したものとなっているので、軸受の回転時の隅角部21への応力集中を抑制することが可能になり、また、保油凹部20の成型性が向上する。また、R面の曲率半径が好ましくは1.0mm以下、少なくとも2.0mm以下なので、軸受の回転時の隅角部21への応力集中を抑制することが可能になる。
【0062】
また、保油凹部20は、周方向に隣接する柱部14の間に周方向に並んで複数設けられているので、周方向に隣接する柱部14の間に一つの保油凹部20が設けられているものに比べ、保油凹部20の内面の面積を増やすことが可能になる。このため、保油凹部20内にある潤滑油と保油凹部20の内面との接触面積が増加し、その内面と潤滑油との間に作用する表面張力が大きなものとなる。これにより、保油凹部20内に潤滑油を保持しやすくなる。
【0063】
また、この円すいころ軸受1は、保油凹部20が、円すいころ4の大端面11の凹部11aを挟む両側に配置されているので、円すいころ軸受1が停止しているときに、保油凹部20内に保持された潤滑油が、円すいころ4の大端面11の凹部11aに流出するのを防止することができ、円すいころ4と内輪3の大鍔9との摩擦を低減しつつ、円すいころ4の大端面11(特に環状面11b)を潤滑することが可能となっている。
【0064】
また、この円すいころ軸受1は、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口のうち、円すいころ4の大端面11と対向する部分の開口面積が、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口面積の50%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上)であるので、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口を通じて保油凹部20の外へと流出する潤滑油の大部分を、効率よく円すいころ4の大端面11(特に環状面11b)に付着させることができ、円すいころ4の大端面11を効果的に潤滑することが可能となっている。
【0065】
また、この円すいころ軸受1は、好ましくは各円すいころ4の大端面11と対向する領域の外側にはみ出さないようにころ大端面11の周縁よりも内側に保油凹部20を配置すると、円すいころ軸受1の停止時に、保油凹部20内に保持されている潤滑油が、ころ大端面11に効率的に供給することができ、ころ大端面と内輪大鍔面間の潤滑に寄与する効果が得られる。
【0066】
上記実施形態では、軸方向に見て、保油凹部20の隣り合う内面同士が交わる隅角部21を2つ以上有する多角形状の保油凹部20として、隅角部21を2つ有する方形状のものを例に挙げて説明したが、
図7に示すように、軸方向に見て、保油凹部20の隣り合う内面同士が交わる隅角部21を4つ有する六角形状をなすものとすることもできる。
【0067】
図7において、ころ大端面11側から見た保油凹部20は、六角形状をなしている。保油凹部20内の隣り合う内面同士が交わる4箇所のそれぞれには、隅角部21が形成されている。六角形の保油凹部20は、保持器径方向内側を臨む底面22と、底面22の保持器周方向の両端に交わる第1面26と、第1面の端部に交わり、保油凹部20の大径側ポケット面16側の開口に至る第2面27とを有する。底面22と第1面26との間の隅角部21の内角は、90°以上をなしている。第1面26と第2面27との間の隅角部21の内角は、直角、又は90°未満の鋭角である。このように、軸方向に見て六角形状の保油凹部20を採用することで、軸方向に見て方形状の保油凹部20を採用した場合に比べ、保油凹部20内の隅角部21の数が多くなる。そのため、より効果的に保油凹部20内に潤滑油を保持することができる。
【0068】
また、六角形の保油凹部20は、
図8に示すように、底面22と第1面26との間の隅角部の内角を90°未満の鋭角とし、第1面26と第2面27との間の角部の外角を180°超の鈍角とする六角形状をなすものとすることができる。
【0069】
図9、
図10に示すように、内壁面24には、軸方向(
図10における左右方向)に窪む保油溝25を形成することができる。保油溝25は、大径側環状部12の内周面に開口する部分をもたないように、大径側環状部12の内周面から径方向外側に離れた領域に形成されている。保油溝25の軸方向(
図10における左右方向)の深さは、1.0mm以下(好ましくは0.5mm以下)である。
【0070】
保油溝25は、周方向(
図9における左右方向)の一方の側から他方の側に延びる横溝部25aと、横溝部25aの途中から径方向外方に分岐して延びる縦溝部25bとを有する。横溝部25aの径方向(
図9における上下方向)の幅は、0.1~1.0mm(好ましくは0.2~0.8mm、より好ましくは0.4~0.6mm)である。縦溝部25bの周方向の幅は、0.1~1.0mm(好ましくは0.2~0.8mm、より好ましくは0.4~0.6mm)である。
【0071】
図9、
図10に示すように、内壁面24に、軸方向に窪む保油溝25を形成すると、保油凹部20内の潤滑油が、保油凹部20の内壁面24に形成された保油溝25に入り込んで、保油凹部20内に保持されやすくなる。従って、保油凹部20内の潤滑油は、円すいころ軸受1の回転中にはころ大端面11を好適に潤滑し、円すいころ軸受1の停止時には保油凹部20内に好適に保持されるものとすることができる。
【0072】
また、保油溝25は、大径側環状部12の内周面に開口する部分をもたないように、大径側環状部12の内周面から径方向外側に離れた領域に形成されている。そのため、円すいころ軸受1の回転軸の軸心よりも上方側に位置する保油凹部20において、その内部の潤滑油が保油溝25によって好適に保持される。すなわち、その軸心よりも上方側の保油凹部20において、その内部の潤滑油に、下方(大径側環状部12の内周面側の方向)を向く重力が作用するが、保油凹部20内の保油溝25は、大径側環状部12の内周面に開口する部分をもたない。このため、保油溝25内の潤滑油が自重によって保油溝25から流出しにくくなる。従って、保油凹部20内の潤滑油が、保油溝25によって好適に保油凹部20内に保持されるものとすることができる。
【0073】
また、保油溝25は、周方向の一方の側から他方の側に延びる横溝部25aと、横溝部25aの途中から径方向外方に分岐して延びる縦溝部25bとを有しており、保油溝25の内面の表面積が増加し、保油凹部20内の潤滑油と保油溝25の内面との接触面積が増加している。このため、保油溝25内でその内面と潤滑油との間に生じる表面張力が、より大きくなる。従って、保油凹部20内の潤滑油が、より好適に保油凹部20内に保持されるものとすることができる。
【0074】
上記の円すいころ軸受1は、
図12に示すデファレンシャル機構40の入力軸を回転可能に支持する転がり軸受として使用することも可能である。
【0075】
上記の円すいころ軸受1の組み立ては、次のようにして行なうことができる。まず、保持器5の各ポケット15に円すいころ4を挿入する。次に、その各ポケット15に円すいころ4を収容した状態の保持器5に、内輪3を挿入する。このとき、円すいころ4が、内輪3の小鍔8を乗り越える必要があるが、円すいころ4は、保持器5によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小鍔8を乗り越えることができない。そこで、円すいころ4に小鍔8を乗り越えさせるために、円すいころ4が小鍔8に乗り上げたときに円すいころ4が小鍔8から受ける拡径方向の力により保持器5を弾性変形させることとなる。ここで、上記実施形態においては、保持器5を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーが添加されたものを採用しているので、保持器5の伸縮性が高く、各ポケット15に円すいころ4を収容した状態の保持器5に内輪3を挿入する作業が容易であり、円すいころ軸受1の優れた組立性を得ることが可能となっている。
【0076】
また、この円すいころ軸受1は、保持器5を形成する樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーを加えてさらに繊維強化材を添加したものを採用しているので、エラストマーを添加することによる保持器5の靭性・強度低下を、繊維強化材で補うことが可能である。そのため、保持器5の靭性・強度と円すいころ軸受1の組立性とを両立することが可能となっている。
【0077】
なお、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形例が適用可能である。
【0078】
上記実施形態では、
図3に示すように、大径側ポケット面16ごとに保油凹部20を2箇所ずつ設けたが、保油凹部20は、各大径側ポケット面16ごとに3個所以上ずつ設けられていてもよいし、1個所ずつ設けられていてもよく、さらに、各大径側ポケット面16ごとに異なる数の保油凹部20が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 円すいころ軸受
2 外輪
3 内輪
4 円すいころ
5 保持器
8 小鍔
9 大鍔
10 小端面
11 大端面
11a 凹部
12 大径側環状部
13 小径側環状部
14 柱部
15 ポケット
16 大径側ポケット面
20 保油凹部
21 隅角部
24 内壁面
25 保油溝
25a 横溝部
25b 縦溝部