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特許7515317熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/00 20230101AFI20240705BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20240705BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20240705BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61J1/00 Z
A61M5/31 530
C08L25/00
C08L53/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020111226
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022010573
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-01-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 二朗
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-265019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/00-25/18
C08L 53/00-53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化芳香族ビニル重合体(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有し、
前記スチレン系エラストマー(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、
該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有し、
前記スチレン系エラストマー(B)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である熱可塑性樹脂組成物からなる医療用機器。
【請求項2】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が水素化ポリスチレンである、請求項1に記載の医療用機器。
【請求項3】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有する、請求項1又は2に記載の医療用機器。
【請求項4】
前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が90%以上の水素化レベルをもつ、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用機器。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量が10,000~100,000である、請求項1~のいずれか一項に記載の医療用機器。
【請求項6】
シリンジである請求項1~のいずれか一項に記載の医療用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、靭性、耐熱性の優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
水素化芳香族ビニル重合体は優れた透明性及び耐熱性を有することから、医療用機器、光学部品、電気・電子部品等の材料としての適用が期待される。
例えば、特許文献1では、水素化芳香族ビニル重合体に、芳香族ビニル/共役ジエンブロック共重合体の水素化物を配合した樹脂組成物を光ディスク用途に用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-288360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1で提案されている樹脂組成物は靭性が不十分であり、これを医療用機器、光学部品、電気・電子部品等の材料として適用することは困難であった。これらの用途に適用するには、透明性及び耐熱性を維持したまま、靭性を向上することが必要であることが見出された。また、用途によっては更なる耐熱性の向上が必要であることも見出された。
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、透明性、靭性、耐熱性の優れた熱可塑性樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、水素化芳香族ビニル重合体と特定のスチレン系エラストマーを用いることで、透明性、靭性、耐熱性に優れる熱可塑性樹脂組成物が得られ、これが医療用機器、光学部品、電気・電子部品等の材料として好適に用いることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
【0006】
[1]水素化芳香族ビニル重合体(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
[2]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が水素化ポリスチレンである、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有する、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]前記水素化芳香族ビニル重合体(A)が90%以上の水素化レベルをもつ、[1]~[3]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
[5]前記スチレン系エラストマー(B)が、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含むブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーからなり、該水素化ブロックコポリマーは、前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位を有する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]前記スチレン系エラストマー(B)中の芳香族ビニルポリマーブロック単位の含有率が25~35質量%である、[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
[7]前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量が10,000~100,000である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8][1]~[7]のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体。
[9]医療用機器、光学部品、又は電気・電子部品である、[8]に記載の成形体。
[10]前記医療用機器がシリンジである、[9]に記載の成形体。
[11]前記光学部品がレンズである、[9]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる水素化芳香族ビニル重合体とスチレン系エラストマーを含有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、靭性、耐熱性に優れることから、医療用機器、光学部品、電気・電子部品等の材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0011】
本願に係る発明は、水素化芳香族ビニル重合体(A)と、スチレン系エラストマー(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物についての発明である。
【0012】
<水素化芳香族ビニル重合体(A)>
本発明の水素化芳香族ビニル重合体(A)は、芳香族ビニル重合体の水素化体である。
本発明の水素化芳香族ビニル重合体は、ポリスチレン、スチレン/α-メチルスチレン共重合体、スチレン/ビニルナフタレン共重合体等の芳香族ビニル重合体の水素化によって製造される。この中でも、ポリスチレンの水素化体である水素化ポリスチレンが好ましい。
【0013】
前記芳香族ビニル重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーは、一般式(1)で示されるモノマーである。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(1)において、Rは水素又はアルキル基である。
前記アルキル基は、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボニル基、及びカルボキシル基のような官能基で単置換若しくは多重置換されたアルキル基であってもよい。また、前記アルキル基の炭素数は1~6がよい。
これらの内、Rは水素が好ましい。
【0016】
一般式(1)において、Arはフェニル基、ハロフェニル基、アルキルフェニル基、アルキルハロフェニル基、ナフチル基、ピリジニル基、又はアントラセニル基である。
これらの内、Arはフェニル基又はアルキルフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0017】
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン(全ての異性体を含み、特にp-ビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン(全ての異性体)、及びこれらの混合物が挙げられ、スチレンが好ましい。
【0018】
水素化芳香族ビニル重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは100,000以上である。また、Mwの上限は、好ましくは400,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下である。
Mwが上記下限値以上であれば機械強度が低下せず、上記上限値以下であれば成形加工性が悪化しない。
【0019】
ここで、水素化芳香族ビニル重合体(A)のMwは、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :東ソー(株)製「GPC HLC-832GPC/HT」
・カラム:昭和電工(株)製「AD806M/S」3本(カラムの較正は東ソー製単分散ポリスチレン(A500,A2500,F1,F2,F4,F10,F20,F40,F288の各0.5mg/mL溶液)の測定を行ない、溶出体積と分子量の対数値を3次式で近似した。)
・検出器:MIRAN社製「1A赤外分光光度計」(測定波長、3.42μm)
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:135℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
【0020】
水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベルは、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上である。
尚、水素化芳香族ビニル重合体の水素化レベルとは、芳香族ビニル重合体が水素化によって飽和される割合を示す。このように高レベルの水素化は、耐熱性及び透明性のために好ましい。
芳香族ビニル重合体の水素化レベルは、プロトンNMRを用いて決定される。
【0021】
本発明の水素化芳香族ビニル重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、成形方法や成形体の外観の観点から0.1g/10分以上が好ましく、0.2g/10分以上がより好ましい。また材料強度の観点から200g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、50g/10分以下が更に好ましい。
MFRは、ISO R1133に従って、測定温度230℃、測定荷重2.16kgの条件で測定した。
水素化芳香族ビニル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよく、モノマー単位の組成や物性等の異なる2種以上を併用してもよい。
【0022】
<スチレン系エラストマー(B)>
本発明のスチレン系エラストマー(B)は、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位を含む共重合体である。そしてこの共重合体の中でも、前記の両単位を含むブロックコポリマーやこのブロックコポリマーの水素化体である水素化ブロックコポリマーが好ましい。
このブロックコポリマーは、少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位、及び少なくとも1種の共役ジエンモノマー単位からなる共役ジエンポリマーブロック単位を有するスチレン系ブロック共重合体である。
【0023】
また、前記水素化ブロックコポリマーは、前記共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体である水素化共役ジエンポリマーブロック単位、及び前記芳香族ビニルモノマー単位からなる芳香族ビニルポリマーブロック単位を有するスチレン系水添ブロック共重合体(以下、単に「スチレン系水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。このスチレン系水添ブロック共重合体における共役ジエンポリマーブロック単位は大半が水素化され、一方、芳香族ビニルポリマーブロック単位は水素化されていない。
【0024】
前記のスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体の2つのブロック単位の関係は、下記式(2)又は式(3)で表すことができる。
S-(D-S)m …(2)
(S-D)n …(3)
(式中、Sは芳香族ビニルモノマー単位からなるポリマーブロックを表し、Dは共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロック及び/又は共役ジエンモノマー単位からなるポリマーブロックの水素化体(水添体)を表し、m及びnは1~5の整数を表す。)
【0025】
前記スチレン系エラストマー(B)としては、前記のスチレン系水添ブロック共重合体がより好ましい。
また、前記スチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体は、直鎖状、分岐状及び/又は放射状のいずれであってもよい。
【0026】
前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。また、前記スチレン系ブロック共重合体の原料となる共役ジエンモノマーとしては、ブタジエン及び/又はイソプレンが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0027】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、スチレン/ブタジエン共重合体ゴムやスチレン/イソプレン共重合体ゴムが特に好ましく、前記スチレン系水添ブロック共重合体としては、スチレン/ブタジエン共重合体ゴムやスチレン/イソプレン共重合体ゴムのうち、ポリブタジエンブロック単位やポリイソプレンブロック単位が水素化(水添)されたものが特に好ましい。
【0028】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるブロック共重合体がスチレン系水添ブロック共重合体であり、Dのポリマーブロックがポリブタジエンブロック単位の水素化物(水添物)のみから構成される場合、Dのポリマーブロックのミクロ構造中の1,2-付加構造が20~70質量%であることが、水添後のエラストマーとしての性質を保持する上で好ましい。
【0029】
前記のm及びnは、秩序-無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
スチレン系ブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから式(2)で表されるスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体が好ましく、mが3以下である式(2)で表されるスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(2)で表されるスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0030】
前記の式(2)及び/又は式(3)で表されるスチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、スチレン系エラストマーの剛性の点から多い方が好ましく、また、一方、柔軟性及びブリードアウトのしにくさの点から少ない方が好ましい。
【0031】
前記スチレン系エラストマー(B)、即ち、スチレン系ブロック共重合体やスチレン系水添ブロック共重合体中の「Sのポリマーブロック」の割合は、25質量%以上が好ましく、26質量%以上がより好ましく、27質量%以上が更に好ましい。また、35質量%以下が好ましく、34質量%以下がより好ましく、33質量%以下が更に好ましい。この範囲を満たすことにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物として、透明性に優れたものを得ることができる。
【0032】
前記スチレン系エラストマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、透明性、成形外観及び流動性、成形歪を低くすることによる耐熱収縮の点では小さい方が好ましい。
スチレン系エラストマー(B)のMwは、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。また、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましく、70,000以下が更に好ましく、65,000以下が特に好ましい。
【0033】
ここで、スチレン系エラストマー(B)のMwは、GPCを用いて下記条件で測定したポリスチレン換算の数値である。
・機器 :日本ミリポア(株)製「150CALC/GPC」
・カラム:昭和電工(株)製「AD80M/S」3本
・検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」
・波長:3.42μm
・溶媒:o-ジクロロベンゼン
・温度:140℃
・流速:1.0mL/分
・注入量:200μL
・濃度:20mg/10mL
・酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%を添加
【0034】
前記スチレン系水添ブロック共重合体の市販品としては、TSRC社製「タイポール(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0035】
前記スチレン系エラストマー(B)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<スチレン系エラストマーの製造>
前記スチレン系エラストマー(B)、即ち、スチレン系ブロック共重合体及びスチレン系水添ブロック共重合体は、上述の構造と物性が得られるなら、どのような製造方法を用いてもよい。
まず、スチレン系ブロック共重合体は、公知の方法でブロック共重合を行なうことにより製造することができる。例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行なうことによって得ることができる。
【0037】
次に、スチレン系水添ブロック共重合体は、前記の方法で得られたスチレン系ブロック共重合体を、公知の方法で水添することにより製造することができる。例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報及び特開昭60―79005号公報に記載された方法により、不活性溶媒中、水添触媒の存在下で行なうことができる。
この水添処理では、熱安定性の観点から、共役ジエンポリマーブロック単位の50%以上が水素化されていることが好ましく、80%以上が水素化されていることがより好ましい。
【0038】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記の水素化芳香族ビニル重合体(A)とスチレン系エラストマー(B)とを含有する。
熱可塑性樹脂組成物は、水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、スチレン系エラストマー(B)5~200質量部を含有することが好ましい。
【0039】
スチレン系エラストマー(B)の含有量は、水素化芳香族ビニル重合体(A)100質量部に対して、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましい。また、150質量部以下がより好ましく、125質量部以下が更に好ましい。
前記スチレン系エラストマー(B)の含有量が上記範囲内であれば、透明性、靭性、耐熱性が良好となる。
【0040】
前記熱可塑性樹脂組成物のヘーズは、透明性の指標であり、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。値が小さいほど透明性に優れる。
また、熱可塑性樹脂組成物の曲げ弾性率は、好ましくは100~3000MPa、より好ましくは200~2800MPa、更に好ましくは300~2500MPaある。
上記範囲内であれば、靭性と成形体に必要な剛性が得られる。
【0041】
また、熱可塑性樹脂組成物の121℃×15分のオートクレーブ滅菌での収縮率は、耐熱性の指標であり、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.8%以下である。値が小さいほど耐熱性に優れる。
また、熱可塑性樹脂組成物の121℃×15分のオートクレーブ滅菌でのクラックは、靭性の指標であり、クラックが発生しないことが好ましい。
【0042】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他の成分として、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
このような配合剤としては、例えば、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、無機充填材、発泡剤及び顔料が挙げられる。
この内、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系又はリン系の酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤は、前記熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して0.01~2質量部含有させることが好ましい。
【0043】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、前記スチレン系エラストマー(B)以外の樹脂成分やエラストマー成分を含有させてもよい。
このような樹脂成分としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン/α-オレフィン共重合樹脂、プロピレン/α-オレフィン共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/アクリル酸エステル共重合樹脂、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、アクリル系樹脂、石油樹脂が挙げられる。
【0044】
またエラストマー成分としては、例えば、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ナイロン系エラストマーが挙げられる。
【0045】
その他の成分の配合は、熱可塑性樹脂の溶融混練に常用されている混練方法にて水素化芳香族ビニル重合体(A)及びスチレン系エラストマー(B)に添加してもよいし、水素化芳香族ビニル重合体(A)と共に有機溶媒へ溶解させて混合してもよい。
その他の樹脂成分やエラストマー成分の含有率は、全成分の50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0046】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記水素化芳香族ビニル重合体(A)、前記スチレン系エラストマー(B)、及び必要に応じて前記のその他の成分を、通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。
これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を押出機等で混練して製造する際には、通常220~320℃、好ましくは250~300℃に加熱した状態で溶融混練する。
【0047】
<成形体及びその製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより、各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、通常の射出成形法、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形して成形体とすることが好ましく、射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は250~320℃であり、好ましくは270~300℃である。
射出圧力は5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は0~100℃であり、好ましくは30~95℃である。更に好ましくは70~95℃である。
【0048】
<用途>
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、前記の特性を有するので、シリンジ、キャップ、ケース等の医療用機器;レンズ等の光学部品;ケース等の電気・電子部品等に好適に使用できる。
【実施例
【0049】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0050】
[物性]
<水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベル>
[プロトンNMRによる測定]
・装置:日本分光社製「400YH分光計」
・溶媒:重クロロホルム
・濃度:0.045g/1.0mL
・測定:H-NMR
・共鳴周波数:400MHz
・積算回数:8
・測定温度:18.5℃
・水素化芳香族ビニル重合体(A)の水素化レベル:6.8~7.5ppmの積分値低減率
【0051】
<メルトフローレート(MFR)>
ISO R1133に従って、下記の条件で測定した。
・装置:(株)東洋精機製作所製「メルトインデクサー」
・温度:230℃
・オリフィス孔径:2mm
・荷重:2.16kg
【0052】
<ヘーズ>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片を成形し、ISO 14782に準拠して透明性の指標であるヘーズを測定した。
【0053】
<曲げ弾性率>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
この試験片を用い、ISO178に準拠してスパン間64mm、曲げ速度2mm/分で、剛性の指標である曲げ弾性率を測定した。
【0054】
<オートクレーブ滅菌 収縮率、クラック有無>
プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片を成形し、高圧蒸気滅菌器(アルプ社製 高圧蒸気滅菌器 形式CLS-32S)を用いて、121℃にて15分間オートクレーブ滅菌処理をし、試験片の長さ方向の寸法変化から収縮率を測定した。また、目視にてクラックの有無を確認した。
【0055】
[原料]
<水素化芳香族ビニル重合体(A-1)>
ポリスチレン(三菱モンサイト化成社製 HH-102)をテトラヒドロフランに溶解し触媒として5%Pd/Cを加え、温度:170℃、水素圧:100kg/cmで6時間水素化反応を行ない、下記物性の水素化ポリスチレンを得た。
水素化ポリスチレン
・密度(ASTM D792):0.94g/cm
・MFR(230℃、2.16kg):0.3g/10分
・水素化芳香族ビニル重合体の水素化レベル:99.9%以上
・Mw:160,000
【0056】
<スチレン系エラストマー(B-1)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) G1652MU
・スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体の水素添加物
・芳香族ビニルポリマーブロック単位:30%
・ブタジエンの水素化レベル:99%以上
・Mw:69,000
【0057】
<スチレン系エラストマー(B-2)>
クレイトンポリマー社製クレイトン(登録商標) MD1653
・スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体の水素添加物
・芳香族ビニルポリマーブロック単位:30%
・ブタジエンの水素化レベル:99%以上
・Mw:60,000
【0058】
<実施例1>
水素化芳香族ビニル重合体(A-1)100部とスチレン系エラストマー(B-1)43部、酸化防止剤としてBASF社製イルガノックス1010 0.05部及びBASF社製イルガフォス168 0.05部を加え、プランジャータイプ射出成形機(Xplore Instruments社製 小型混練機XploreMC15付属射出成形機)を用いて、温度290℃、スクリュー回転数100rpmにて1分間溶融混練し、射出圧力3.5bar、シリンダー温度290℃、金型温度90℃にて、厚さ2mm×幅30mm×長さ80mmの試験片と、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片を成形した。
各種物性の評価結果を表1に示す。
【0059】
<実施例2~4、比較例1>
成分(A)及び成分(B)を表1に示す配合とし、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物の試験片を成形した。各種物性の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1より、本発明に該当する実施例1~4は透明性に優れ、オートクレーブ滅菌での収縮率が小さく耐熱性に優れ、また、オートクレーブ滅菌でクラックが発生せず靭性にも優れていることがわかった。
これに対して、スチレン系エラストマー(B)を含まない比較例1は、透明性は優れるが、オートクレーブ滅菌での収縮が若干大きく耐熱性が劣り、剛性が高く、オートクレーブ滅菌でクラックが発生するため靭性が劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、靭性、耐熱性に優れるものであり、医療用機器、光学部品、電気・電子部品等の材料として非常に有用である。