(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】害虫防除用エアゾール製品、及び害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20240705BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20240705BHJP
B65D 83/14 20060101ALI20240705BHJP
B65D 83/52 20060101ALI20240705BHJP
B65D 83/30 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A01M7/00 S
A01N25/06
B65D83/14 100
B65D83/52
B65D83/30 100
(21)【出願番号】P 2020137509
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼林 良輔
(72)【発明者】
【氏名】三田 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-93866(JP,A)
【文献】特開2017-100782(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
A01N 1/00 - 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における液密度が0.50~1.18g/cm
3である液化ガスを噴射剤として含有するエアゾール剤を封入してなる噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記噴射バルブに接続される噴射口が設けられたアクチュエータと、
を備えた害虫防除用エアゾール製品であって、
前記エアゾール剤は、実質的に殺虫成分を含有しないものであり、かつ溶剤を含有し、
前記アクチュエータを操作したとき、前記噴射口から50cm離れた位置における前記エアゾール剤の噴射力が4~20g・fとなるように設定されている害虫防除用エアゾール製品。
【請求項2】
前記
溶剤は、20℃における液密度が0.60~1.00g/cm
3である水及び/又は有機溶媒
である請求項1に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項3】
前記噴射剤と前記溶剤との容量比率が、70/30~99/1に設定されている
請求項1又は2に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項4】
前記噴射剤は、ジメチルエーテル(DME)、及び/又は液化石油ガス(LPG)を含む請求項1~3の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項5】
前記溶剤は、炭素数が1~3の低級アルコール、炭素数が5~16の炭化水素、及び炭素数が16~20の高級脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つを含む
請求項1~4の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項6】
前記噴射バルブは、前記エアゾール剤の噴射量が25℃で10秒あたり10~30gとなるように設定された非定量噴射バルブである請求項1~5の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項7】
前記噴射バルブは、前記エアゾール剤の1プッシュあたりの噴射量が0.4~5.0mLとなるように設定された定量噴射バルブである請求項1~5の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項8】
前記噴射口の口径は、0.5~2.0mmである請求項1~7の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項9】
前記害虫として、カメムシ、ヤスデ、ムカデ、ダンゴムシ、ハサミムシ、ワラジムシ、アリ、シロアリ、ケムシ、カツオブシムシ、クモ、ガ、ハダニ、アブラムシ、チョウバエ、ユスリカ、セミ、及びゴミムシからなる群から選択される少なくとも一つを防除対象とする請求項1~8の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項10】
前記耐圧容器及び/又は前記耐圧容器の包装材に、害虫を吹き飛ばして防除する旨の製品表示が付されている請求項1~9の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載の害虫防除用エアゾール製品を害虫に向けて噴射し、当該害虫を吹き飛ばすことにより排除する害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール剤を封入してなる噴射バルブが設けられた耐圧容器と、噴射バルブに接続される噴射口が設けられたアクチュエータと、を備えた害虫防除用エアゾール製品、及びこれを用いた害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、害虫防除用エアゾール製品として、殺虫作用により害虫を致死又はノックダウンさせるもの(例えば、特許文献1を参照)や、冷却作用により害虫の行動を停止させるもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
【0003】
特許文献1のコバエ防除用エアゾール製品は、ピレスロイド系殺虫成分を含むエアゾール原液と、噴射剤としての液化ガスとをエアゾール容器に封入し、その噴射力を2~15g・f/15cm、噴霧粒子の平均粒子径を40μm以下に調整したものである。特許文献1によれば、このエアゾール製品をコバエ類に向けて噴射すると、噴射の勢いでコバエ類を吹き飛ばすことなく、エアゾール原液が効率よくコバエ類の虫体に付着するため、優れた防除効果が奏されるとされている。
【0004】
特許文献2の害虫駆除用エアゾールは、害虫に付着した害虫行動阻害剤(噴射剤)の気化熱によって害虫を冷却することにより、当該害虫の行動を停止させるものであり、エアゾールを噴射したときに噴射口から50cm離れた場所において、平均粒子径700μm以上の害虫行動阻害剤粒子が直径2cmの円よりも広範囲に分散するように設定されている。特許文献2によれば、害虫にそれほど接近しなくても、粒子径の大きな害虫行動阻害剤粒子を液体の状態で害虫に付着させることができるので、効力を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-116774号公報
【文献】特開2014-136686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1のコバエ防除用エアゾール製品は、殺虫成分を含むものであるため、例えば、洗濯物やカーテンに係留した害虫に対してエアゾールを噴射すると、害虫だけなく洗濯物やカーテンにも殺虫成分が付着することになる。そのため、安全性や衛生に敏感な消費者は、特許文献1のコバエ防除用エアゾール製品の使用を躊躇する場合がある。
【0007】
一方、特許文献2の害虫駆除用エアゾールは、害虫行動阻害剤(噴射剤)の気化熱を利用するものであるから、エアゾールの噴射によって害虫行動阻害剤が洗濯物やカーテンに付着しても、当該害虫行動阻害剤は直ちに気化するため、洗濯物やカーテンに残留することはない。ところが、冷却によって行動が停止した害虫は、洗濯物やカーテンから落下せずそのまま残ることがあり、そのような場合には、害虫を振り払ったり、摘まんだりする等して、物理的に取り除く必要がある。そうすると、特許文献2の害虫駆除用エアゾールであっても、衛生に敏感な消費者から敬遠される場合がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、洗濯物やカーテン等の殺虫成分の付着が敬遠される対象物に害虫が係留した場合においても、エアゾールの噴射のみで害虫に直接触れずに確実に防除できる害虫防除用エアゾール製品、及びこれを用いた害虫防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫防除用エアゾール製品の特徴構成は、
20℃における液密度が0.50~1.18g/cm3である液化ガスを噴射剤として含有するエアゾール剤を封入してなる噴射バルブが設けられた耐圧容器と、
前記噴射バルブに接続される噴射口が設けられたアクチュエータと、
を備えた害虫防除用エアゾール製品であって、
前記アクチュエータを操作したとき、前記噴射口から50cm離れた位置における前記エアゾール剤の噴射力が4~20g・fとなるように設定されていることにある。
【0010】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、エアゾール剤が、適切な液密度を有する液化ガスを噴射剤として含有しており、アクチュエータを操作したとき、噴射口から50cm離れた位置におけるエアゾール剤の噴射力が4~20g・fとなるように設定されているため、対象物に係留している害虫に目掛けて本構成の害虫防除用エアゾール製品を噴射するだけで、当該害虫を吹き飛ばして防除効果を奏することができる。また、このような噴射剤は、噴射後又は対象物に付着後に直ちに気化するため、対象物が汚染される心配もない。
【0011】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記エアゾール剤は、20℃における液密度が0.60~1.00g/cm3である水及び/又は有機溶媒を溶剤としてさらに含有することが好ましい。
【0012】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、エアゾール剤が、上記の噴射剤に加えて、適切な液密度を有する溶剤をさらに含有しているため、対象物に係留している害虫にエアゾール剤を吹き付けるだけで、当該害虫を確実に吹き飛ばし、より高い防除効果を奏することができる。
【0013】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記噴射剤と前記溶剤との容量比率が、70/30~99/1に設定されていることが好ましい。
【0014】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、エアゾール剤に含まれる噴射剤と溶剤との容量比率が適切な範囲に設定されているため、さらに高い防除効果を奏することができる。
【0015】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記噴射剤は、ジメチルエーテル(DME)、及び/又は液化石油ガス(LPG)を含むことが好ましい。
【0016】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、噴射剤が、ジメチルエーテル(DME)、及び/又は液化石油ガス(LPG)を含むため、害虫を吹き飛ばす効果が特に優れたものでありながら、本構成の害虫防除用エアゾール製品を低コストで構成することができる。
【0017】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記溶剤は、炭素数が1~3の低級アルコール、炭素数が5~16の炭化水素、及び炭素数が16~20の高級脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0018】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、溶剤が、炭素数が1~3の低級アルコール、炭素数が5~16の炭化水素、及び炭素数が16~20の高級脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも一つを含むため、噴射剤との相乗効果が期待できるとともに、本構成の害虫防除用エアゾール製品を低コストで構成することができる。
【0019】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記噴射バルブは、前記エアゾール剤の噴射量が25℃で10秒あたり10~30gとなるように設定された非定量噴射バルブであることが好ましい。
【0020】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、噴射バルブとして、エアゾール剤の噴射量が25℃で10秒あたり10~30gとなるように設定された非定量噴射バルブを採用することで、対象物に係留している害虫に目掛けて本構成の害虫防除用エアゾール製品を噴射するだけで、当該害虫を確実に吹き飛ばし、より高い防除効果を奏することができる。
【0021】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記噴射バルブは、前記エアゾール剤の1プッシュあたりの噴射量が0.4~5.0mLとなるように設定された定量噴射バルブであることとが好ましい。
【0022】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、噴射バルブとして、エアゾール剤の1プッシュあたりの噴射量が0.4~5.0mLとなるように設定された定量噴射バルブを採用することで、対象物に係留している害虫に目掛けて本構成の害虫防除用エアゾール製品を噴射するだけで、当該害虫を確実に吹き飛ばし、より高い防除効果を奏することができる。
【0023】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記噴射口の口径は、0.5~2.0mmであることが好ましい。
【0024】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、噴射口の口径が適切な範囲に設定されているため、害虫を吹き飛ばすことができる適切な噴射量を得ることができる。
【0025】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記害虫として、カメムシ、ヤスデ、ムカデ、ダンゴムシ、ハサミムシ、ワラジムシ、アリ、シロアリ、ケムシ、カツオブシムシ、クモ、ガ、ハダニ、アブラムシ、チョウバエ、ユスリカ、セミ、及びゴミムシからなる群から選択される少なくとも一つを防除対象とすることが好ましい。
【0026】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、防除対象の害虫として上記種類の害虫が含まれるため、様々な場面で使用することができ、汎用性の高い製品となり得る。
【0027】
本発明に係る害虫防除用エアゾール製品において、
前記エアゾール剤は、実質的に殺虫成分を含有しないものであり、
前記耐圧容器及び/又は前記耐圧容器の包装材に、害虫を吹き飛ばして防除する旨の製品表示が付されていることが好ましい。
【0028】
本構成の害虫防除用エアゾール製品によれば、エアゾール剤が実質的に殺虫成分を含有しないものであるため、洗濯物やカーテン等の殺虫成分の付着が敬遠される対象物に係留した害虫に向けて噴射しても、対象物を汚染する心配がなく、広い用途に使用することができる。また、本構成の害虫防除用エアゾール製品の耐圧容器及び/又は耐圧容器の包装材には、害虫を吹き飛ばして防除する旨の製品表示が付されているため、消費者は本構成の害虫防除用エアゾール製品を識別できるとともに、その使い方を容易に認識することができる。
【0029】
上記課題を解決するための本発明に係る害虫防除方法の特徴構成は、
上記の何れか一つに記載の害虫防除用エアゾール製品を害虫に向けて噴射し、当該害虫を吹き飛ばすことにより排除することにある。
【0030】
本構成の害虫防除方法によれば、上記した本発明の害虫防除用エアゾール製品と同様の優れた作用効果を奏することができる。すなわち、対象物を汚染する心配がなく、広い用途に使用することができ、また、対象物に係留している害虫に目掛けて噴射するだけで、当該害虫を吹き飛ばして防除効果を奏することができ、さらには、消費者が害虫防除用エアゾール製品の使い方を容易に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、害虫防除用エアゾール製品の斜視図であり、ノズルの長さを実質的にゼロとした状態を示す。
【
図2】
図2は、害虫防除用エアゾール製品の斜視図であり、ノズルの長さを延長した状態を示す。
【
図3】
図3は、害虫防除用エアゾール製品が備えるアクチュエータの縦断面図であり、ノズルの長さを実質的にゼロとした状態を示す。
【
図4】
図4は、害虫防除用エアゾール製品が備えるアクチュエータの縦断面図であり、ノズルの長さを延長した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の害虫防除用エアゾール製品、及び害虫防除方法について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0033】
<エアゾール剤>
本発明の害虫防除用エアゾール製品は、エアゾール剤を害虫に向けて噴射し、当該害虫を吹き飛ばすことにより排除するものであり、従来の殺虫用エアゾールとは使い方が全く異なるものである。従って、本発明の害虫防除用エアゾール製品で使用しているエアゾール剤は、その主成分として噴射剤、又は噴射剤と溶剤とを含有するが、従来の殺虫用エアゾールとは異なり、殺虫成分については実質的に含有しないことが好ましい。ただし、「実質的に含有しない」とは、どのような場合においても殺虫成分の含有量が厳密に0%であることを意味するものではない。例えば、意図せずして極微量の殺虫成分が含まれることになった場合や、意図的に極微量の殺虫成分を含有させたとしても当該殺虫成分としての作用を奏しない場合は、実質的に殺虫成分を含有しないエアゾール剤と見なす。意図せずして極微量の殺虫成分が含まれることとなった場合の例としては、エアゾール剤の製造設備において、以前に殺虫成分を含有する別の製品を製造していた場合、容器や配管に付着していた極微量の殺虫成分がコンタミとしてエアゾール剤に混入するケースや、製造室内の空気中に浮遊又は揮散していた殺虫成分が製造中のエアゾール剤に吸収されて混入するケース等が挙げられる。このような場合は、殺虫成分を極微量含むものであっても、実質的に殺虫成分を含有しないエアゾール剤として取り扱う。
【0034】
エアゾール剤は、噴射剤を含有する。従来の殺虫用エアゾールでは、噴射剤はエアゾール剤に含まれる殺虫成分を防除対象の害虫に当てることを目的として配合されるものであったが、本発明においては、噴射剤は防除対象の害虫を吹き飛ばす手段として使用される。噴射剤としては、20℃における液密度が0.50~1.18g/cm3である液化ガスが用いられ、中でも、20℃における液密度が0.50~0.70g/cm3である液化ガスがより好適に用いられる。そのような液化ガスの例としては、ジメチルエーテル(DME)(液密度:0.66g/cm3)、液化石油ガス(LPG)(液密度:0.50~0.58g/cm3)、プロパン(液密度:0.50g/cm3)、ノルマルブタン(液密度:0.58g/cm3)、イソブタン(液密度:0.56g/cm3)、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン(HFO1234ze)(液密度:1.18g/cm3)、トランス-2,3,3,3-テトラフルオロプロパ-1-エン等のハイドロフルオロオレフィン(HFO1234yf)(液密度:1.09g/cm3)、及びこれらの混合物が挙げられる。これらのうち、好ましい液化ガスとして、ジメチルエーテル(DME)(液密度:0.66g/cm3)、液化石油ガス(LPG)(液密度:0.50~0.58g/cm3)、ノルマルブタン(液密度:0.58g/cm3)、イソブタン(液密度:0.56g/cm3)が挙げられる。また、液密度が上記範囲内に入るように調製された混合物、例えば、重量比でHFO1234ze/DME=7/3とした混合物(液密度1.03g/cm3)なども好適に使用可能である。液化石油ガス(LPG)については、20℃におけるゲージ圧を0.1~0.7MPaに調整したものが好ましい。これらの液化ガスは、単独又は混合状態で使用することができる。これらの液化ガスを使用することで、害虫を吹き飛ばす効果が特に優れたものでありながら、害虫防除用エアゾール製品を低コストで構成することができる。なお、噴射剤は、耐圧容器に封入した状態で上記の液化ガスを10容量%以上含む噴射剤であれば、その他の種類のガス(例えば、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、フロンガス、代替フロンガス、ノンフロンガス、空気等)を含むものであっても構わない。
【0035】
エアゾール剤は、さらに溶剤を含有してもよい。従来の殺虫用エアゾールでは、溶剤はエアゾール剤に含まれる殺虫成分を溶解して防除対象の害虫に確実に付着させることを目的として配合されるものであったが、本発明においては、溶剤は噴射後の微粒子の形成を促進して噴射流、及び噴射パターンを含む噴射状態を安定させるために使用される。溶剤としては、20℃における液密度が0.60~1.00g/cm3である水及び/又は有機溶媒が好適に用いられ、20℃における液密度が0.60~0.90g/cm3である有機溶媒がより好適に用いられる。溶剤に使用される有機溶媒の例としては、炭素数が1~3の低級アルコール、炭素数が5~16の炭化水素、炭素数が16~20の高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの有機溶媒を使用することで、噴射剤との相乗効果が期待できるとともに、害虫防除用エアゾール製品を低コストで構成することができる。炭素数が1~3の低級アルコールとしては、メタノール(液密度:0.79g/cm3)、エタノール(液密度:0.79g/cm3)、n-プロパノール(液密度:0.80g/cm3)、イソプロパノール(液密度:0.78g/cm3)等が挙げられる。これらのうち、エタノールが好適に用いられる。炭素数が5~16の炭化水素としては、イソペンタン(液密度:0.60g/cm3)、ヘキサン(液密度:0.66g/cm3)、ノルマルパラフィン(液密度:0.76g/cm3)、イソパラフィン(液密度:0.76g/cm3)が好適に用いられる。炭素数が16~20の高級脂肪酸エステルとしては、ミリスチン酸イソプロピル(液密度:0.85g/cm3)、ミリスチン酸ブチル(液密度:0.86g/cm3)、パルミチン酸イソプロピル(液密度:0.85g/cm3)等が挙げられる。これらのうち、ミリスチン酸イソプロピルが好適に用いられる。なお、溶剤は、耐圧容器に封入した状態で上記の有機溶媒を10容量%以上含む溶剤であれば、水やその他の種類の有機溶媒(例えば、グリコールエーテル類、ケトン系溶剤等)を含むものであっても構わない。
【0036】
エアゾール剤には、その他の成分として、忌避剤、防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。忌避剤としては、ディート、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸1-メチルプロピルエステル等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。芳香剤としては、ハッカ油、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、ネロリ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモングラス油、シナモン油、レモンユーカリ油、タイム油、ペリラ油、パイン油、ローズ油、ローズマリー油、樟脳油、芳油、クラリーセージ油、サンダルウッド油、スペアミント油、スターアニス油、ラバンジン油、オークモス油、オコチア油、パチュリ油、トンカ豆チンキ、テレピン油、ワニラ豆チンキ、バジル油、ナツメグ油、クローブ油、ボアドローズ油、カナンガ油、カルダモン油、カシア油、シダーウッド油、マンダリン油、タンジェリン油、アニス油、ベイ油、コリアンダー油、エレミ油、フェンネル油、ガルバナム油、ヒバ油、ベチバー油、ベルガモット油、イランイラン油、グレープフルーツ油、炭素数6~12のアルデヒド(例えば、ヘキシルアルデヒド、オクタナール、ノナナール、ウンデシルアルデヒド、ウンデカナール、デシルアルデヒド等)、アニスアルデヒド、クミンアルデヒド、アセトアルデヒドフェニルエチルプロピルアセタール、アセトフェノン、アセチルセドレン、アドキサール、アリルアミルグリコレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、ダマスコン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、アンブレットリッド、アンブロキサン、アミルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒドジメチルアセタール、アミルバレリアネート、アミルサリシレート、イソアミルアセテート、ブチルアセテート、エチルブチレート、アセチルオイゲノール、イソアミルサリシレート、インドール、アリルカプロエート、エチルカプロエート、エチルプロピオネート、エチルアセトアセテート、テサロン、α-イオノン、β-イオノン、α-メチルイオノン、α-イソメチルイオノン、β-メチルイオノン、β-イソメチルイオノン、γ-メチルイオノン、γ-イソメチルイオノン、インデン、オウランチオール、オークモスNo.1、オリボン、オキシフェニロン、カリオフィレン、カシュメラン、カルボン、キャロン、クマリン、p-クレジールメチルエーテル、ゲラニオール、ゲラニルアセテート、ゲラニルフォーメート、ゲラニルニトリル、テトラヒドロゲラニオール、テトラヒドロゲラニールアセテート、コアボン、サンダロア、サンデラ、サンタレックス、サンタリノール、メチルサリシレート、シンナミックアルコール、シンナミックアルデヒド、シスジャスモン、シトラール、シトラールジメチルアセタール、シトラサール、シトロネラール、シトロネロール、シトロネリルアセテート、シトロネリルフォーメート、シトロネリルニトリル、シクラメンアルデヒド、シンナミルアセテート、ジヒドロジャスモン、ジメトール、イソシクロシトラール、ジャスマール、ジャスモラクトン、ジャスモフィラン、スチラリルアセテート、スチラリールプロピオネート、セドロアンバー、セドリルアセテート、セドロール、セレストリッド、テルピネオール、α-テルピネオール、γ-テルピネオール、ターピニルアセテート、チモール、デルタダマスコン、デルタC6~C13ラクトン、トナリッド、トラセオライド、トリプラール、イソノニルアセテート、ネロール、ネリールアセテート、ネオベルガメート、ノピールアセテート、ノピールアルコール、バクダノール、レボサンドール、ヒヤシンスジメチルアセタール、ヒドロトロピックアルコール、ヒドロキシシトロネロール、ヒドロキシシトロネラール、α―ピネン、β-ピネン、ブチルブチレート、p-tert-ブチルシクロヘキサノール、p-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート、o-tert-ブチルシクロヘキサノール、o-tert-ブチルシクロヘキシルアセテート,p-tert-ペンチルシクロヘキシルアセテート、ジフェニルオキサイド、フルイテート、フェンチールアルコール、フェニルエチルフェニルアセテート、イソブチルキノリン、フェニルエチルアルコール、フェニルエチルアセテート、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ベンジルサリシレート、ベンズアルデヒド、ベンジルフォーメート、ジメチルベンジルカルビノール、ヘリオナール、ヘリオトロピン、シス-3-ヘキセノール、シス-3-ヘキセニールアセテート、シス-3-ヘキセニールサリシレート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘキシルサリシレート、ペンタリッド、ベルドックス、オルトボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、イソボルネオール、ボルネオール、マンザネート、マイヨール、ミューゲアルデヒド、ミラックアルデヒド、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、ジミルセトール、ムゴール、ムスクTM-II、ムスク781、ムスクC14、ムスクT、ムスクケトン、ムスクチベチン、ムスクモスケン、メンサニールアセテート、メンソネート、メチルアンスラニレート、メチルオイゲノール、メントール、メチルフェニルアセテート、オイゲノール、イソオイゲノール、メチルイソオイゲノール、γ-C6~13ラクトン(例えば、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン等)、ライムオキサイド、メチルラベンダーケトン、ジヒドロリナロール、リグストラール、リモネン、リナロール、リナロールオキサイド、テトラヒドロリナロール、エチルリナロール、テトラヒドロリナリールアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、リラール、ルバフラン、ローズフェノン、ローズオキサイド、ベンゾイン、ペルーバルサム、トルーバルサム、チュベローズ油、ムスクチンキ、カストリウムチンキ、シベットチンキ、アンバーグリスチンキ、ジヒドロターピニルアセテート、1,8-シネオール、7-アセチ-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタハイドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、4-アセトキシ-3-アミルテトラハイドロピラン、トリシクロデセニルアセテート、β-ナフチルメチルエステル、ベンゾフェノン、ベンジルベンゾエート、ジメチルヘプタノール、マイラックアルデヒド、クミンアルコール、メントン、チオメントン、シクロヘキシサリシレート、サンタリナアルコール、バニリン、エチルバニリン、イソロンギフォラノン、バグダノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール、2,4,6-トリメチル-2-フェニル-1,3-ジオキサン、4,6,6,7,8,8-ヘキサメチル-1,3,4,6,7,8-ヘキサハイドロシクロペンタベンゾピラン、ジメチルベンジルアセテート、メチルジヒドロジャスモネート、ウンデカラクトンガンマ、シクロガルバナム、テルペニルアセテート、1-ヘキサノール、シス-3-ヘキシルアセテート、1,4-シネオール、αターピネン、p-サイメン、シス-オシメン、シス-β-オシメン、リメトール、トランス-β-オシメン、ターピノレン、2-ペンチロキシグリコール酸アリル、2-n-ペンチルシクロペンタノン、ベンジルブチレート、エチルアセテート、カプロン酸エチル、イソアミルブチレート、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキサアセテート、アリル-n-アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、アリルフェノキシアセテート、アニシルアセテート、p-メンタン-3,8-ジオール、メチルジヒドロジャスモン酸、6-アセチル-1,1,2,4,4,7-ヘキサメチルテトラリン、シンナミルフォーメート、プレゴン、ガラクソリド、カンファー、ネラール、ペリラアルデヒド、インドールアロマ、ジヒドロテルピニルアセテート、γ-テルピネン、フェニル酢酸エチル、メチルヘプテノン、酢酸プレニル、p-シメン、β-ナフチルメチルエーテル、酢酸ヘキシル、2-メチルペンタン酸エチル、1-ヘキサノール、マルトール、シクロヘキサンプロピオン酸アリル、α,3,3-トリメチルシクロヘキサンメタノールホルマート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。
【0037】
エアゾール剤が噴射剤及び溶剤を含有するものである場合、本発明の害虫防除用エアゾール製品は、当該エアゾール剤を耐圧容器に封入した状態で、噴射剤(a)と溶剤(b)との容量比率(a/b)が70/30~99/1に設定され、好ましくは80/20~99/1に設定される。このような配合比率とすれば、後述する実施例で説明するように、害虫に対する優れた防除効果(吹き飛ばし効果)を奏することができる。容量比率(a/b)を70/30より小さくする、つまり、耐圧容器に封入する噴射剤の割合を過少とすると、エアゾール剤の噴射力が不足し、害虫に対する吹き飛ばし効果が不十分となる虞がある。一方、容量比率(a/b)を99/1より大きくする、つまり、耐圧容器に封入する噴射剤の割合を過大にしても、害虫に対する一定以上の防除効果(吹き飛ばし効果)は得られるが、溶剤が不足することで噴射されたエアゾール剤の微粒子が必要以上に微細化されるか、或いは適切な微粒子が形成されなくなるため、噴射流、及び噴射パターンを含む噴射状態が不安定となる虞がある。
【0038】
<害虫防除用エアゾール製品>
上記のように、噴射剤、溶剤、その他必要に応じて配合される成分を選択し、これらをエアゾール剤として、噴射バルブが設けられた耐圧容器(エアゾール容器)に封入し、噴射バルブに噴射口が設けられたアクチュエータを接続することで、本発明の害虫防除用エアゾール製品が完成する。エアゾール製品の噴射バルブとしては、非定量噴射バルブ又は定量噴射バルブの何れも使用可能である。噴射バルブとして非定量噴射バルブを使用する場合、エアゾール剤の封入量は、後述する噴射量との関係から50~500gとすることが好ましく、エアゾール剤の連続噴射可能時間(累積噴射時間)は、15~600秒とすることが好ましい。噴射バルブとして定量噴射バルブを使用する場合、1プッシュあたりの噴射量が0.4~5.0mLとなるように、定量噴射バルブの噴射容量は、0.4~5.0mLとすることが好ましい。本発明の害虫防除用エアゾール製品が防除対象とする害虫としては、カメムシ、ヤスデ、ムカデ、ダンゴムシ、ハサミムシ、ワラジムシ、アリ、シロアリ、ケムシ、カツオブシムシ、クモ、ガ、ハダニ、アブラムシ、ゴミムシ、ゲジ、シバンムシ、キクイムシ等の匍匐害虫、ガ、チョウバエ、ユスリカ、カツオブシムシ、セミ等の飛翔害虫、イガ、コイガ等の衣料害虫等が挙げられる。対象物にこれらの害虫が係留した場合において、エアゾールの噴射のみでこれらの害虫に直接触れずに確実に防除できる。また、害虫が飛翔害虫である場合、例えば、ユスリカなどの蚊類は物体に係留せずに蚊柱と呼ばれる集合体を空中に形成することがあるが、このような蚊柱に対しても本発明の害虫防除用エアゾール製品を処理することで、飛翔害虫に直接触れずに防除することができる。
【0039】
本発明の害虫防除用エアゾール製品が備えるアクチュエータとしては、噴射ボタンの押下により作動する作動機構を有するものや、トリガーが引かれることで作動する作動機構を有するもの等が挙げられるが、本発明の効果を奏する限りにおいて何れのアクチュエータを採用することも可能である。
【0040】
以下、本発明の害虫防除用エアゾール製品の構成例について説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る害虫防除用エアゾール製品100の斜視図である。
図3及び
図4は、
図1及び
図2に示した害虫防除用エアゾール製品100が備えるアクチュエータ10の縦断面図である。耐圧容器20には噴射バルブ21が設けられており、この噴射バルブ21にエアゾール剤を噴射するための作動部として機能するアクチュエータ10が接続される。本実施形態において採用するアクチュエータ10は、
図1~
図4に示すように、ノズル長を切替可能な、いわゆるツーウェイノズル11として構成されている。ただし、ノズル長が一定である通常のノズルを備えるアクチュエータ(図示せず)やノズルを備えないアクチュエータ(図示せず)を採用することも勿論可能である。ノズル長が一定である通常のノズルを採用する場合、ノズルの長さは5mm~150mmが好ましい。
【0041】
本実施形態におけるツーウェイノズル11は、基端側が枢動可能なストロー部12を備えており、当該ストロー部12の向きを変えることによってノズルの長さを切替えることができる。
図1及び
図3は、ツーウェイノズル11のストロー部12を下方に向けてノズルの長さを実質的にゼロとした状態を示しており、
図2及び
図4は、ツーウェイノズル11のストロー部12を前方に向けてノズルの長さを延長した状態を示している。ストロー部12を前方に向けた状態では、ストロー部12の長さがノズルの長さとなる。ストロー部12の長さ(
図4中に示すL)は、50~150mmが好ましい。アクチュエータ10には、処理対象物(害虫)に向けて耐圧容器の内部に収容されているエアゾール剤を噴射するための噴射口13が設けられている。本実施形態の場合、ツーウェイノズル11の先端側開口部13a又は基端側開口部13bが噴射口13となる。噴射口13の口径(
図3中に示すD1、及び
図4中に示すD2)は、0.5~2.0mmが好ましい。噴射口13の口径が0.5mm未満の場合、エアゾール剤の噴射流が細くなることで噴射力が弱まり、害虫を吹き飛ばすのに適切な噴射量が得られない虞がある。噴射口13の口径が2.0mmを超える場合、エアゾール剤の噴射流が太くなることで噴射流、及び噴射パターンが拡散し易くなり、害虫に狙いを定めることが難しくなる。
【0042】
本発明の害虫防除用エアゾール製品100は、殺虫成分を含有する従来の殺虫用エアゾール等とは防除メカニズムが全く異なるものであるため、消費者が本発明の害虫防除用エアゾール製品100を識別し、さらにその使用方法を容易に理解できるように、耐圧容器20及び/又は当該耐圧容器20の包装材に害虫を吹き飛ばして防除する旨の製品表示30が付されていることが好ましい。当該製品表示30としては、
図1に示した「害虫吹き飛ばしスプレー」のような商品名31や害虫が吹き飛ばされている様子を示したイラスト32の他、「害虫に目掛けて噴射して吹き飛ばして下さい。」のような説明書き(図示せず)等も含まれる。
【0043】
本発明の害虫防除用エアゾール製品は、害虫に対する防除効果(吹き飛ばし効果)を奏するように、エアゾール剤の噴射条件が設定されたものとなっている。特に、エアゾール剤の噴射力及び噴射量を適切な範囲に設定することで、優れた防除効果(吹き飛ばし効果)が得られる。噴射力としては、害虫防除用エアゾール製品のアクチュエータを操作したとき、噴射口から50cm離れた位置において4~20g・fに設定されることが好ましい。エアゾール剤の噴射力が4g・fより小さい場合、噴射流が害虫に届き難くなり、害虫に対する防除効果(吹き飛ばし効果)が不十分となる虞がある。エアゾール剤の噴射力が20g・fより大きい場合、噴射流及び噴射パターンが大きく乱れ、害虫に向けた噴射流のコントロールが難しくなる。エアゾール剤の噴射量は、噴射バルブの種類によって適切な量に設定される。噴射バルブが非定量噴射バルブである場合は、害虫防除用エアゾール製品のアクチュエータを操作したとき、25℃で10秒あたり10~30gに設定されることが好ましい。エアゾール剤の噴射量が10gより少ない場合、害虫に当たるエアゾール剤が不足し、害虫に対する防除効果(吹き飛ばし効果)が不十分となる虞がある。エアゾール剤の噴射量が30gより多い場合、一部のエアゾール剤が無駄になるため、経済的に望ましくない。噴射バルブが定量噴射バルブである場合は、エアゾール剤の1プッシュあたりの噴射量が0.4~5.0mLに設定されることが好ましい。1プッシュあたりの噴射量が0.4mLより少ない場合、害虫に当たるエアゾール剤が不足し、1プッシュあたりの噴射量が5.0mLより多い場合、一部のエアゾール剤が無駄になるため、経済的に望ましくない。
【0044】
<害虫防除方法>
本発明の害虫防除方法は、上述した本発明の害虫防除用エアゾール製品を用いて実施することができる。
【0045】
例えば、住居の窓からカメムシが侵入し、窓際のカーテンに係留した場合を想定する。このような場合、消費者(使用者)は、本発明の害虫防除用エアゾール製品を手に取り、アクチュエータのノズルをカメムシに向け、エアゾール剤の噴射の準備をする。ここで、カメムシは悪臭を放つ飛翔害虫であることから、できるだけ近づかないようにして対処することが望まれる。そのため、遠距離からでも狙いを定めることができるように、ツーウェイノズルのストロー部は前方に向けておくことが好ましい。
【0046】
アクチュエータのノズルをカメムシに向けて狙いを定めたら、使用者はアクチュエータを操作し、噴射口からエアゾール剤を噴射する。本発明の害虫防除用エアゾール製品は、20℃における液密度が0.50~1.18g/cm3である液化ガスを噴射剤として含有するエアゾール剤が封入されており、噴射口から50cm離れた位置におけるエアゾール剤の噴射力が4~20g・fとなるように設定されているため、カメムシにエアゾール剤の噴射流がヒットすると、カメムシは直ちにカーテンから吹き飛ばされる。このようにして、カーテンがカメムシの放つ悪臭物質で汚染されることなく、効果的にカメムシを防除することができる。
【0047】
なお、エアゾール剤は、実質的に殺虫成分を含有しないものであれば、衣類等の肌に触れるデリケートな素材にも使用することができ、安全性や衛生に敏感な消費者も安心して本発明の害虫防除用エアゾールを使用することができる。
【実施例】
【0048】
本発明の害虫防除用エアゾールについて、その効果を確認するため、本発明の特徴構成を備えた害虫防除用エアゾール製品(実施例1~20)を作製し、害虫としてカメムシ又はアリを対象とした効果確認試験を実施した。また、比較のため、本発明の特徴構成を備えていない害虫防除用エアゾール製品(比較例1~5)を作製し、同様の効果確認試験を実施した。
【0049】
<実施例1~19、比較例1~4>
〔害虫防除用エアゾール製品の作製〕
耐圧容器として噴射バルブ付きの金属製エアゾール容器を使用した。噴射バルブには、非定量噴射バルブを用いた。初めに、金属製エアゾール容器の噴射バルブから溶剤を注入し、次いで、噴射剤を加圧充填した。そして、金属製エアゾール容器の噴射バルブにツーウェイノズルタイプのアクチュエータ(噴射口径:1.0mm、ノズル長:120mm/0mm(切替式))、ツーウェイノズルタイプのアクチュエータ(噴射口径:1.0mm、ノズル長:50mm/0mm(切替式))、又は通常ノズルタイプのアクチュエータ(噴射口径:1.0mm、ノズル長:5mm(固定式))を接続し、実施例1~19、及び比較例1~4のエアゾール製品(容量:100mL)を完成させた。
【0050】
実施例1~19、及び比較例1~4のエアゾール製品の噴射力について、噴射口から50cm離れた位置にテンシロン(測定装置)を設置し、その測定面にエアゾール剤を3秒間噴射し、その間に測定された押圧力の最大値を噴射力とした。また、各エアゾール製品の噴射量については、噴射前のエアゾール製品の重量と、エアゾール剤を10秒間噴射した後のエアゾール製品の重量との差から求めた。
【0051】
〔効果確認試験1〕
実施例1~19、及び比較例1~4のエアゾール製品によるカメムシの吹き飛ばし効果を目視により確認した。50cm離れた位置から布地に係留しているカメムシに目掛けてエアゾール剤を噴射し、以下の評価基準に従って吹き飛ばし効果を評価した。
・++:噴射後3秒未満で布地から吹き飛ばすことができた。
・+ :噴射後3秒以上5秒未満で布地から吹き飛ばすことができた。
・- :布地から吹き飛ばすのに5秒以上の長時間を要したか、あるいは布地から吹き飛ばすことができなかった。
【0052】
実施例1~19、及び比較例1~4のエアゾール製品における噴射剤及び溶剤の種類、噴射剤と溶剤との容量比率、噴射力、並びに噴射量を、下記の表1及び表2に示す。また、害虫(カメムシ)の吹き飛ばし効果についても、表1及び表2中に示す。なお、表2の「噴射剤」の「種類」の項目中において、噴射剤の下部にカッコ書きで併記されている圧力(MPa)は、20℃におけるゲージ圧を表す。
【0053】
【0054】
【0055】
表1及び表2に示す結果より、実施例1~19の害虫防除用エアゾール製品は、何れもエアゾール剤の噴射後5秒未満でカメムシを布地から吹き飛ばすことができた。特に、噴射剤としてDMEを使用し、溶剤としてエタノールを使用し、噴射剤と溶剤との容量比率を80/20以上に設定した実施例1~8の害虫防除用エアゾール製品は、ノズル長に関わらずエアゾール剤の噴射後3秒未満でカメムシを布地から吹き飛ばすことができ、優れた害虫防除効果が確認された。
【0056】
一方、比較例1のエアゾール製品は、噴射剤としてDMEを使用し、溶剤としてエタノールを使用するものであるが、噴射剤と溶剤との容量比率が60/40である場合、噴射剤が不足しているため、エアゾール剤の噴射力が十分ではなく、5秒未満でカメムシを布地から吹き飛ばすことができなかった。比較例2のエアゾール製品は、エアゾール剤の噴射力が強過ぎるために噴射流、及び噴射パターンを含む噴射状態が大きく乱れ、結果として、5秒未満でカメムシを布地から吹き飛ばすことができなかった。比較例3及び4のエアゾール製品は、エアゾール剤の噴射量が不足しているためライン状の噴射流が遠方まで持続せず、結果として、エアゾール剤の噴射後5秒未満でカメムシを布地から吹き飛ばすことができなかった。
【0057】
〔効果確認試験2〕
次に、カメムシ以外の害虫(特に、匍匐害虫)についても防除効果があるかを確認するため、上記の効果確認試験1と同様の効果確認試験2を実施した。防除対象の害虫は、ヤスデ、ムカデ、ダンゴムシ、ハサミムシ、ワラジムシ、アリ、シロアリ、ケムシ、カツオブシムシ、クモ、ガ、ハダニ、アブラムシ、チョウバエ、ユスリカ、セミ、及びゴミムシの17種類である。
【0058】
実施例2及び5に準じて作製した害虫防除用エアゾール製品を使用し、布地に係留している上記17種類の害虫に対して個別にエアゾール剤を噴射することにより、前述の評価基準に従って吹き飛ばし効果を評価した。その結果、何れの害虫についても、エアゾール剤の噴射後5秒未満で布地から吹き飛ばすことができた。従って、本発明の害虫防除用エアゾール製品は、飛翔害虫のみならず、匍匐害虫に対しても有効であり、様々な場面で使用できることが示された。
【0059】
<実施例20、比較例5>
〔害虫防除用エアゾール製品の作製〕
実施例6の非定量噴射バルブを噴射容量1.0mLの定量噴射バルブに置き換え、他は実施例6と同様にして実施例20のエアゾール製品とした。実施例20のエアゾール製品は、噴射口から50cm離れた位置における噴射力は7.0g・fであり、噴射量は1.0mLであった。また、実施例6の非定量噴射バルブを噴射容量0.1mLの定量噴射バルブに置き換え、他は実施例6と同様にして比較例5のエアゾール製品とした。比較例5のエアゾール製品は、噴射口から50cm離れた位置における噴射力は0.2g・fであり、噴射量は0.1mLであった。
【0060】
実施例20、及び比較例5のエアゾール製品の噴射力について、噴射口から50cm離れた位置にテンシロン(測定装置)を設置し、その測定面にエアゾール剤を1プッシュし、その間に測定された押圧力の最大値を噴射力とした。また、各エアゾール製品の噴射量については、定量噴射バルブの噴射容量をそのまま噴射量とした。
【0061】
〔効果確認試験3〕
実施例20、及び比較例5の害虫防除用エアゾール製品によるアリの吹き飛ばし効果を目視により確認した。30cm離れた位置から布地に係留しているアリに目掛けてエアゾール剤を噴射したところ、実施例20の害虫防除用エアゾール製品は1プッシュでアリを布地から吹き飛ばすことができた。これに対し、比較例5の害虫防除用エアゾール製品は1プッシュでアリを布地から吹き飛ばすことができなかった。このように、本発明の害虫防除用エアゾール製品は、定量噴射バルブを用いるものであっても、優れた害虫防除効果を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の害虫防除用エアゾール製品、及び害虫防除方法は、洗濯物やカーテン等に係留した各種害虫を防除するための一般家庭用防除製品、及び防除方法として利用可能であるが、より高い安全性や衛生環境が求められる医療機関、飲食店、食品工場等における業務用防除製品、及び防除方法としても利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 アクチュエータ
13 噴射口
20 耐圧容器
21 噴射バルブ
30 製品表示
100 害虫防除用エアゾール製品