(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】書き味向上シート
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20240705BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240705BHJP
【FI】
G06F3/041 460
B32B7/022
(21)【出願番号】P 2020148999
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019173142
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】星野 弘気
(72)【発明者】
【氏名】藤井 結加
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-259256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0237307(US,A1)
【文献】特開2006-119772(JP,A)
【文献】特開平06-309990(JP,A)
【文献】特開2001-243016(JP,A)
【文献】特開2014-228833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F3/03-3/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチペンが接触するタッチペン接触面を有する書き味向上シートであって、
前記タッチペン接触面は、先端曲率半径が100nmでありかつ稜間角が115°の三角錘形状圧子の先端を1mN/sの負荷速度で押し込んだ際の、試験荷重が1961mNに到達したときの押し込み深さが、10μm以上、30μm以下であり、
前記書き味向上シートが、書き味向上層を有し、
前記書き味向上層の片面が、前記タッチペン接触面であり、
前記書き味向上層は、硬化性成分と、微粒子と、表面調整剤と、シリカナノ粒子とを含有するコーティング組成物を硬化してなるものであり、
前記硬化性成分は、多官能性(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマーおよび活性エネルギー線硬化性ポリマーの少なくとも1種であり、
前記微粒子の平均粒径は、3μm以上、20μm以下であ
る
ことを特徴とする書き味向上シート。
【請求項2】
前記タッチペン接触面に対し、直径0.5mmのペン先を有するタッチペンの前記ペン先を接触させた後、前記タッチペンに対して200gの荷重を印加するとともに、前記タッチペンと前記タッチペン接触面とがなす角度を45°に維持しながら、前記タッチペンを速度1.6mm/秒で直線的に摺動させる場合における動摩擦係数が、0.11以上、0.62以下であることを特徴とする請求項1に記載の書き味向上シート。
【請求項3】
前記書き味向上層における一方の面側に設けられた基材と、前記基材における前記書き味向上層とは反対の面側に設けられた粘着剤層とを備え、
前記書き味向上層における前記基材とは反対側の面が、前記タッチペン接触面である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の書き味向上シート。
【請求項4】
前記書き味向上層が、前記基材の一方の面に直接積層されていることを特徴とする請求項3に記載の書き味向上シート。
【請求項5】
前記書き味向上層が、ハードコート層であることを特徴とする請求項3または4に記載の書き味向上シート。
【請求項6】
前記基材が、プラスチックフィルムであることを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の書き味向上シート。
【請求項7】
前記粘着剤層が、アクリル系粘着剤から構成されることを特徴とする請求項3~6のいずれか一項に記載の書き味向上シート。
【請求項8】
前記基材の厚さが、5μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の書き味向上シート。
【請求項9】
前記粘着剤層の厚さが、20μm以上、300μm以下であることを特徴とする請求項3~8のいずれか一項に記載の書き味向上シート。
【請求項10】
前記書き味向上層の厚さが、0.1μm以上、30μm以下であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の書き味向上シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等におけるタッチペンでの書き味を向上させることのできる書き味向上シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器において、表示装置と入力手段とを兼ねた位置検出機能付き画像表示装置(タッチパネル)が多く利用されている。このようなタッチパネルにおいては、指により入力を行うもの以外にも、タッチペンにより入力を行うものがあり、タッチペンによれば、指よりも細かく精度の高い入力作業が可能である。しかしながら、通常、タッチパネルの表示モジュールは硬質である。そのため、タッチペンによる書き味は、筆記具で紙に書くときの書き味と異なり、良好とはいい難い。
【0003】
タッチパネルにおけるタッチペンによる書き味の問題を解決するために、タッチパネルの表面における物性を制御することが検討されている。例えば、特許文献1には、鉛筆硬度、表面エネルギーおよび弾性変形性が所定の範囲に調整された入力操作面を有する抵抗膜式タッチパネルが開示されている。また、特許文献2には、タッチパネルの最表面に設けて、書き味を向上させるためのシート(以下、「書き味向上シート」と称する場合がある。)として、表面処理層、透明剛性層および厚さが0.2~2mmの透明緩和層がこの順に積層された透明積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-243016号公報
【文献】特開2004-259256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された発明では、筆記具(特にボールペン)で紙に筆記した際の書き味を十分に得られるものではなかった。そのため、筆記具で紙に筆記した際の書き味をさらに良好に再現した書き味向上シートの開発が求められていた。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、紙に筆記具で筆記した際の書き味を良好に再現できる書き味向上シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、タッチペンが接触するタッチペン接触面を有する書き味向上シートであって、前記タッチペン接触面は、先端曲率半径が100nmでありかつ稜間角が115°の三角錘形状圧子の先端を1mN/sの負荷速度で押し込んだ際の、試験荷重が1961mNに到達したときの押し込み深さが、10μm以上、30μm以下であることを特徴とする書き味向上シートを提供する(発明1)。
【0008】
上記発明(発明1)に係る書き味向上シートは、上述した押し込み深さを満たすことにより、紙に筆記具(特にボールペン)で筆記した際の紙の凹み感を良好に再現することができ、これにより、紙に筆記具で筆記した際の書き味を良好に再現することが可能となる。
【0009】
上記発明(発明1)において、前記タッチペン接触面に対し、直径0.5mmのペン先を有するタッチペンの前記ペン先を接触させた後、前記タッチペンに対して200gの荷重を印加するとともに、前記タッチペンと前記タッチペン接触面とがなす角度を45°に維持しながら、前記タッチペンを速度1.6mm/秒で直線的に摺動させる場合における動摩擦係数が、0.11以上、0.62以下であることが好ましい(発明2)。
【0010】
上記発明(発明1,2)においては、書き味向上層と、前記書き味向上層における一方の面側に設けられた基材と、前記基材における前記書き味向上層とは反対の面側に設けられた粘着剤層とを備え、前記書き味向上層における前記基材とは反対側の面が、前記タッチペン接触面であることが好ましい(発明3)。
【0011】
上記発明(発明3)において、前記書き味向上層が、前記基材の一方の面に直接積層されていることが好ましい(発明4)。
【0012】
上記発明(発明3,4)において、前記書き味向上層が、ハードコート層であることが好ましい(発明5)。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る書き味向上シートは、紙に筆記具で筆記した際の書き味を良好に再現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る書き味向上シートは、タッチペンが接触するタッチペン接触面を有する。本実施形態に係る書き味向上シートは、その両面がタッチペン接触面であってもよいが、通常は、書き味向上シートの一方の面のみがタッチペン接触面となり、他方の面は、タッチパネル等に貼合されるための面となる。
【0015】
1.書き味向上シートの物性
(1)押し込み深さ
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面について、先端曲率半径が100nmでありかつ稜間角が115°の三角錘形状圧子の先端を1mN/sの負荷速度で押し込んだ際の、試験荷重が1961mNに到達したときの押し込み深さが、10μm以上、30μm以下である。押し込み深さが当該範囲であることで、タッチペン接触面にタッチペンで筆記した際の凹み感が、紙に筆記具で筆記した際の凹み感に非常に近いものとなり、優れた書き味を実現することができる。
【0016】
上述したような凹み感の再現性をより向上させる観点から、上述した押し込み深さは、12μm以上であることが好ましく、特に16.5μm以上であることが好ましい。また、同様の観点から、上述した押し込み深さは、25μm以下であることが好ましく、特に20μm以下であることが好ましい。なお、上述した押し込み深さの測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0017】
(2)摩擦係数
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面に対し、直径0.5mmのペン先を有するタッチペンの当該ペン先を接触させた後、タッチペンに対して200gの荷重を印加するとともに、タッチペンとタッチペン接触面とがなす角度を45°に維持しながら、タッチペンを速度1.6mm/秒で直線的に摺動させる場合における動摩擦係数が、0.11以上であることが好ましく、特に0.18以上であることが好ましく、さらには0.23以上であることが好ましい。また、上述した動摩擦係数は、0.62以下であることが好ましく、0.52以下であることがより好ましく、特に0.42以下であることが好ましく、さらには0.32以下であることが好ましい。
【0018】
動摩擦係数が上述した範囲であることで、書き味向上シートが貼合されたタッチパネルにタッチペンを使用した際に、タッチペンを握る手に伝わる振動感が、紙に筆記具(特にボールペン)で筆記した際に得られる振動感と非常に近いものとなる。これにより、上述した凹み感と併せて、より優れた書き味を実現し易いものとなる。
【0019】
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面に対し、直径0.5mmのペン先を有するタッチペンの当該ペン先を接触させた後、タッチペンに対して200gの荷重を印加するとともに、タッチペンとタッチペン接触面とがなす角度を45°に維持しながら、タッチペンを速度1.6mm/秒で直線的に摺動させる場合における静摩擦係数が、0.12以上であることが好ましく、特に0.20以上であることが好ましく、さらには0.25以上であることが好ましい。また、上述した静摩擦係数は、0.65以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましく、特に0.45以下であることが好ましく、さらには0.35以下であることが好ましい。
【0020】
静摩擦係数が上述した範囲であることで、書き味向上シートが貼合されたタッチパネルにタッチペンを使用した際に、特に書き始めにおける振動感が、紙に筆記具(特にボールペン)で筆記した際に得られる振動感と非常に近いものとなる。これにより、上述した凹み感と併せて、より優れた書き味を実現し易いものとなる。
【0021】
(3)摩擦力の標準偏差
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面に対し、直径0.5mmのペン先を有するタッチペンの当該ペン先を接触させた後、当該タッチペンに対して200gの荷重を印加するとともに、タッチペンと上記面とのなす角度を45°に維持しながら、タッチペンを速度1.6mm/秒で直線的に摺動させたときに、摺動距離が10mmの地点から20mmの地点の間において測定される、当該ペン先と上記面との間に生じる摩擦力の標準偏差が、5mN以上であることが好ましく、8mN以上であることがより好ましく、11mN以上であることが特に好ましい。また、当該標準偏差は、60mN以下であることが好ましく、40mN以下であることがより好ましく、30mN以下であることが特に好ましい。当該標準偏差を上記範囲内にすることにより、書き味向上シートが貼合されたタッチパネルにタッチペンを使用した際の振動感が、紙に筆記具(特に、ボールペン)で筆記する際の振動感と非常に近いものとなる。
【0022】
なお、上述した動摩擦係数、静摩擦係数、および摩擦力の標準偏差の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0023】
(4)光学物性
本実施形態に係る書き味向上シートのヘイズ値は、特に限定されず、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましいが、十分な防眩性を得る観点から、特に15%以上であることが好ましく、さらには22%以上であることが好ましい。一方、上記ヘイズ値は、95%以下であることが好ましく、特に65%以下であることが好ましく、さらには40%以下であることが好ましい。上記ヘイズ値が95%以下であることで、本実施形態に係る書き味向上シートの透明性がより高いものとなる。なお、上記ヘイズ値は、JIS K7136:2000に準じて測定されたものであり、その詳細な測定方法は、後述する試験例に記載の通りである。
【0024】
本実施形態に係る書き味向上シートは、全光線透過率が70%以上であることが好ましく、特に80%以上であることが好ましく、さらには88%以上であることが好ましい。上記全光線透過率が70%以上であることで、本実施形態に係る書き味向上シートの透明性がより高いものとなる。一方、上記全光線透過率の上限値については、特に制限はなく、例えば100%以下であることが好ましく、特に96%以下であることが好ましく、さらには92%以下であることが好ましい。なお、上記全光線透過率は、JIS K7361-1:1997に準じて測定されたものであり、その詳細な測定方法は、後述する試験例に記載の通りである。
【0025】
本実施形態に係る書き味向上シートは、タッチペン接触面における測定角度60°の光沢度が、1%以上であることが好ましく、特に10%以上であることが好ましく、さらには20%以上であることが好ましい。また、上記光沢度は、130%以下であることが好ましく、特に90%以下であることが好ましく、さらには60%以下であることが好ましい。光沢度が上記範囲であることで、書き味向上シートが使用されるタッチパネルの用途に適した防眩性を実現し易いものとなる。なお、上記光沢度は、JIS Z 8741:1997に準じて測定されたものであり、その詳細な測定方法は、後述する試験例に記載の通りである。
【0026】
(5)耐擦傷性
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面を、#0000のスチールウールを用いて、250g/cm2の荷重で10cm、10往復擦った際に生じる傷の数が、10本以下であることが好ましく、特に5本以下であることが好ましく、さらには0本であることが好ましい。これにより、本実施形態に係る書き味向上シートのタッチペン接触面は、良好なハードコート性を発揮することができ、耐擦傷性に優れたものとなる。なお、このようなスチールウール硬度の評価による耐擦傷性は、本実施形態に係る書き味向上シートが、後述するように、書き味向上層としてハードコート層を備える場合に達成し易いものとなる。また、上記耐擦傷性の詳細な測定方法は、後述する試験例に記載の通りである。
【0027】
(6)鉛筆硬度
本実施形態に係る書き味向上シートでは、そのタッチペン接触面について、JIS K5600-5-4:1999に準じて測定される、鉛筆法による引っかき硬度(鉛筆硬度)が、3B以上であることが好ましく、特にHB以上であることが好ましい。本実施形態に係る書き味向上シートにおけるタッチペン接触面が、このような鉛筆硬度を有することで、所望の硬度・耐擦傷性を発揮し易いものとなる。なお、上記鉛筆硬度の詳細な測定方法は、後述する試験例に記載の通りである。
【0028】
2.書き味向上シートの層構成
本実施形態に係る書き味向上シートの層構成は、タッチペン接触面について前述した押し込み深さを満たすとともに、タッチペンが使用されるタッチパネルに適用可能なものである限り、特に限定されない。
【0029】
前述した押し込み深さを達成し易く、またその他の物性についても調整し易いという観点から、本実施形態に係る書き味向上シートは、書き味向上層と、当該書き味向上層における一方の面側に設けられた基材と、当該基材における書き味向上層とは反対の面側に設けられた粘着剤層とを備えるものであることが好ましい。この層構成を有する場合、書き味向上層における基材とは反対側の面が、タッチペン接触面であることが好ましい。
【0030】
(1)基材
上記基材としては、タッチペンが使用されるタッチパネル用として適したものから適宜選択することができる。例えば、上記基材としては、プラスチックフィルム、ガラス板等を使用することができるが、書き味向上層との親和性が良好であるという観点からプラスチックフィルムを使用することが好ましい。
【0031】
かかるプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルフォンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ポリウレタン樹脂フィルム、ノルボルネン系重合体フィルム、環状オレフィン系重合体フィルム、環状共役ジエン系重合体フィルム、ビニル脂環式炭化水素重合体フィルム等のプラスチックフィルムまたはそれらの積層フィルムが挙げられる。中でも、前述した押し込み深さを達成し易いという観点から、ポリエステルフィルムを使用することが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。
【0032】
また、上記基材は、その表面に設けられる層(書き味向上層、粘着剤層、後述する中間層等)との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、プライマー処理等により形成された易接着層や、酸化法、凹凸化法等による表面処理層を備えていてもよい。上記酸化法の例としては、コロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等が挙げられる。また、上記凹凸化法の例としては、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0033】
なお、本明細書においては、上述した易接着層や表面処理層は、基材を構成する一部であるものとして定義されるものとする。そのため、例えば、基材上に書き味向上層が直接積層してなる書き味向上シートを想定した場合であっても、そのような書き味向上シートにおける基材には、上述した易接着層や表面処理層が存在する可能性は排除されない。
【0034】
基材の厚さは、5μm以上であることが好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには15μm以上であることが好ましい。基材の厚さの下限値が上記範囲であることで、本実施形態に係る書き味向上シートが、十分な強度を有し易いものとなる。また、基材の厚さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、特に150μm以下であることが好ましく、さらには100μm以下であることが好ましい。基材の厚さの上限値が上記範囲であることで、本実施形態に係る書き味向上シートが、前述した押し込み深さを達成し易いものとなる。
【0035】
(2)書き味向上層
上記書き味向上層を形成するための材料は、前述した押し込み深さを達成できるものであれば特に限定されない。書き味向上層は、ハードコート性を有するハードコート層であってもよい。この場合、タッチペン接触面が良好な耐擦傷性を有し易いものとなる。
【0036】
書き味向上層は、好ましくは、以下に説明するコーティング組成物を硬化させることにより形成される。特に、当該コーティング組成物は、硬化性成分と、微粒子と、表面調整剤と、シリカナノ粒子とを含有することが好ましい。このようなコーティング組成物によれば、上述したハードコート性を良好に有するハードコート層を形成し易いものとなる。
【0037】
(2-1)硬化性成分
硬化性成分は、活性エネルギー線や熱等のトリガーによって硬化する成分であり、例えば、活性エネルギー線硬化性成分、熱硬化性成分等が挙げられる。本実施形態では、形成される書き味向上層の硬度や、基材(プラスチックフィルム)の耐熱性等の観点から、活性エネルギー線硬化性成分を使用することが好ましい。
【0038】
活性エネルギー線硬化性成分としては、活性エネルギー線の照射により硬化して所定の硬度を発揮し、前述した物性を達成できるものが好ましい。
【0039】
具体的な活性エネルギー線硬化性成分としては、多官能性(メタ)アクリレート系モノマー、(メタ)アクリレート系プレポリマー、活性エネルギー線硬化性ポリマー等が挙げられるが、中でも多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび/または(メタ)アクリレート系プレポリマーであることが好ましい。多官能性(メタ)アクリレート系モノマーおよび(メタ)アクリレート系プレポリマーは、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用してもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0040】
多官能性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
一方、(メタ)アクリレート系プレポリマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリオールアクリレート系等のプレポリマーが挙げられる。これらの中でも、前述した押し込み深さを達成し易いという観点から、ウレタンアクリレート系プレポリマーを使用することが好ましい。
【0042】
ウレタンアクリレート系プレポリマーとしては、例えば、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとから得られるポリウレタンプレオリゴマーの水酸基に対して、(メタ)アクリル酸によりエステル化させてなる反応物;ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートの反応によって得られる末端イソシアネートポリウレタンオリゴマーに、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸を反応させてなる反応物等が挙げられる。
【0043】
(2-2)微粒子
コーティング組成物が微粒子を含有することにより、形成される書き味向上層の表面が適度に粗面となり、ヘイズ値や60°光沢度を前述の値に調整し易くなると共に、前述した摩擦係数や摩擦力の標準偏差も達成し易いものとなる。
【0044】
なお、上記微粒子は、後述するシリカナノ粒子よりも平均粒径が大きいものを指すものとする。例えば、上記微粒子の平均粒径は、1μm以上であることが好ましく、特に2μm以上であることが好ましく、さらには3μm以上であることが好ましい。また、上記微粒子の平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、16μm以下であることがより好ましく、特に12μm以下であることが好ましく、さらには6μm以下であることが好ましい。上記微粒子の平均粒径が上記の範囲にあることで、前述したヘイズ値、60°光沢度、摩擦係数、および摩擦力の標準偏差を達成し易いものとなる。
【0045】
また、上記微粒子の、下記式で示される粒径の変動係数(CV値)は、3%以上であることが好ましく、特に8%以上であることが好ましく、さらには13%以上であることが好ましい。一方、当該粒径の変動係数(CV値)は、70%以下であることが好ましく、特に45%以下であることが好ましく、さらには25%以下であることが好ましい。上記微粒子のCV値が上記の範囲にあることで、表面の凹凸形状を調節し易くなり、前述した摩擦力の標準偏差を達成し易いものとなる。
粒径の変動係数(CV値)=(標準偏差粒径/平均粒径)×100
【0046】
なお、上述した微粒子の平均粒径および粒径の変動係数(CV値)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用い、分散媒であるメチルエチルケトンにより調製した5質量%濃度の分散液をサンプルとして数滴使用し、測定した値とする。
【0047】
上記微粒子は、有機微粒子であってもよいし、無機微粒子であってもよいし、無機および有機の性質を兼ね備える樹脂微粒子であってもよいが、前述した摩擦力の標準偏差を達成し易いという観点から、有機微粒子、または、無機および有機の性質を兼ね備える樹脂微粒子が好ましい。
【0048】
有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂微粒子(例えば、ポリメタクリル酸メチル微粒子等)、シリコーン系微粒子、メラミン系樹脂微粒子、アクリル-スチレン系共重合体微粒子、ポリカーボネート系微粒子、ポリエチレン系微粒子、ポリスチレン系微粒子、ベンゾグアナミン系樹脂微粒子などが挙げられる。それらの樹脂は、架橋されていてもよい。上記の中でも、前述した摩擦力の標準偏差を達成し易いという観点から、アクリル系樹脂微粒子およびシリコーン系微粒子が好ましい。特に、アクリル系樹脂微粒としては、ポリメタクリル酸メチル微粒子が好ましく、さらには架橋ポリメタクリル酸メチル微粒子が好ましい。
【0049】
無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる微粒子が挙げられる。
【0050】
無機および有機の性質を兼ね備える樹脂微粒子としては、シリコーン微粒子(例えばモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製のトスパールシリーズ)が特に好ましい。
【0051】
なお、以上の微粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
上記微粒子は、所望の表面修飾を受けたものであってもよい。また、微粒子の形状は、球状等の定形であってもよく、形状が特定されない不定形であってもよいが、前述した摩擦力の標準偏差を達成し易いという観点から、定形であることが好ましく、特に球状であることが好ましい。
【0053】
コーティング組成物中における微粒子の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、特に1質量部以上であることが好ましく、さらには7質量部以上であることが好ましい。また、コーティング組成物中における微粒子の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、特に30質量部以下であることが好ましく、さらには15質量部以下であることが好ましい。微粒子の含有量が上記範囲であることで、前述した摩擦係数および摩擦力の標準偏差を達成し易いものとなる。
【0054】
(2-3)表面調整剤
コーティング組成物が表面調整剤を含有することにより、形成される書き味向上層において、スジ状の欠点やムラ等の発生が抑制される。これにより、膜厚が均一なものとなり、書き味向上シートがより優れた外観を呈するものとなる上、所望の光学特性(ヘイズ値および全光線透過率等)を備えるものとなり易い。また、書き味向上シートの書き味向上層の表面が良好な面状態となり易いため、書き味向上層は、前述した摩擦係数および摩擦力の標準偏差を達成し易いものとなる。
【0055】
表面調整剤としては、例えば、フッ素系、シリコーン系、アクリル系、ビニル系等の表面調整剤が挙げられ、中でも、表面調整の性能や他の成分との相溶性の観点から、フッ素系の表面調整剤が好ましい。なお、表面調整剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
フッ素系の表面調整剤としては、パーフルオロアルキル基またはフッ素化アルケニル基を主鎖または側鎖に有する化合物を好ましく挙げることができる。市販品としては、ビックケミージャパン社製のBYK-340、ネオス社製のフタージェント650A、DIC社製のメガファックRS-75、大阪有機化学工業社製のV-8FM等を好ましく挙げることができるが、これらに限定されるものではない。シリコーン系の表面調整剤としては、ポリジメチルシロキサンまたは変性ポリジメチルシロキサンであることが好ましく、ポリジメチルシロキサンであることが特に好ましい。
【0057】
コーティング組成物中における表面調整剤の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましく、さらには0.2質量部以上であることが好ましい。また、コーティング組成物中における表面調整剤の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、特に3質量部以下であることが好ましく、さらには1質量部以下であることが好ましい。表面調整剤の含有量が上記範囲であることで、書き味向上シートの外観を効果的に向上させることができる。また、光学特性(ヘイズ値および全光線透過率等)が前述した範囲に調整されたものとなり易い。さらには、書き味向上層は、前述した摩擦係数を達成し易いものとなる。
【0058】
(2-4)シリカナノ粒子
コーティング組成物がシリカナノ粒子を含有することにより、形成される書き味向上層の硬度を効果的に向上させることができる。
【0059】
シリカナノ粒子の平均粒径は、1nm以上であることが好ましく、特に5nm以上であることが好ましく、さらには10nm以上であることが好ましい。また、シリカナノ粒子の平均粒径は、300nm以下であることが好ましく、特に100nm以下であることが好ましく、さらには50nm以下であることが好ましい。なお、シリカナノ粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定したものとする。
【0060】
シリカナノ粒子は、分散性向上等を目的として、有機物によって修飾されてもよい。また、シリカナノ粒子は、オルガノゾル(コロイド状)の形態であることも好ましい。オルガノゾルの形態であることにより、シリカナノ粒子の分散性が良好になり、形成される書き味向上層の均質性および光透過性が向上する。
【0061】
上記シリカナノ粒子としては、市販されているものを使用することができ、例えば、日産化学社製のオルガノシリカゾルMEK-ST、MIBK-ST等が挙げられる。
【0062】
コーティング組成物中におけるシリカナノ粒子の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、特に10質量部以上であることが好ましく、さらには15質量部以上であることが好ましい。また、コーティング組成物中におけるシリカナノ粒子の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、特に35質量部以下であることが好ましく、さらには25質量部以下であることが好ましい。シリカナノ粒子の含有量が5質量部以上であることで、形成される書き味向上層の硬度がより効果的に向上するとともに、ギラツキの発生をより効果的に抑制することが可能となる。一方、シリカナノ粒子の配合割合が50質量部以下であることで、シリカナノ粒子の凝集を抑制し、形成される書き味向上層の均質性および光透過性を良好に維持することができる。
【0063】
(2-5)その他の成分
本実施形態におけるコーティング組成物は、上記の成分以外に、各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、光重合開始剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、老化防止剤、熱重合禁止剤、着色剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、消泡剤、有機系充填材、濡れ性改良剤、塗面改良剤等が挙げられる。
【0064】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2(ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリ-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミノ安息香酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
コーティング組成物中における光重合開始剤の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、特に2質量部以上であることが好ましい。また、コーティング組成物中における光重合開始剤の含有量は、硬化性成分100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0066】
(2-6)厚さ
書き味向上層の厚さは、0.1μm以上であることが好ましく、特に1μm以上であることが好ましく、さらには2μm以上であることが好ましい。また、書き味向上層の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、特に10μm以下であることが好ましく、さらには4μm以下であることが好ましい。書き味向上層の厚さが上記範囲であることで、本実施形態に係る書き味向上シートが、前述した押し込み深さを達成し易いものとなる。
【0067】
(3)粘着剤層
上記粘着剤層を形成するための粘着剤は、前述した押し込み深さを達成できるものであれば特に限定されない。当該粘着剤としては、光学用途として通常使用されるものを使用することが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、所望の粘着性を発現し、光学特性や耐久性に優れたアクリル系粘着剤が好ましい。
【0068】
上述したアクリル系粘着剤の例としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体および架橋剤を含有する粘着剤組成物を架橋してなる粘着剤が挙げられる。なお、本明細書において「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0069】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、当該重合体を構成するモノマー単位として、架橋剤と反応する反応性基を分子内に有する反応性基含有モノマーを含むことが好ましい。当該反応性基が後述の架橋剤と反応することにより、得られる粘着剤の凝集力を所望の範囲に制御し易くなり、その結果、前述した押し込み深さを達成し易くなる。当該官能基含有モノマーとしては、重合性の二重結合と、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基等の官能基とを分子内に有するモノマーが好ましく、これらの中でも、官能基としてカルボキシ基を含有するモノマー(カルボキシ基含有モノマー)およびヒドロキシ基を含有するモノマー(ヒドロキシ基含有モノマー)の少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0070】
上記カルボキシ基含有モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられ、これらの中でも、アクリル酸が好ましい。また、上記ヒドロキシ基含有モノマーの好ましい例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を1質量%以上含有することが好ましく、特に3質量%以上含有することが好ましい。また、上記重合体は、上記構成単位を40質量%以下で含有することが好ましく、特に20質量%以下で含有することが好ましい。
【0072】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、所望の粘着力を発現させる観点から、当該重合体を構成するモノマー単位として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル含有することも好ましく、特に、アルキル基の炭素数が1~18であるアクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましい。その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられ、これらの中でも(メタ)アクリル酸n-ブチルを使用することが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルから導かれる構成単位を、50質量%以上含有することが好ましく、特に80質量%以上含有することが好ましい。また、上記重合体は、上記構成単位を、99質量%以下で含有することが好ましく、特に97質量%以下で含有することが好ましい。
【0074】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上述した官能基含有モノマーおよび(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに、その他のモノマーを共重合したものであってもよい。また、当該重合体の重合態様については、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、当該重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量は、30万以上であることが好ましく、特に100万以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、250万以下であることが好ましく、特に200万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量が上記範囲であることで、後述の貯蔵弾性率を満たし易く、前述した押し込み深さを達成し易いものとなる。
【0076】
上記架橋剤としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤等を使用することが好ましい。なお、架橋剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0077】
粘着剤組成物中における架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましい。
【0078】
粘着剤組成物には、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、活性エネルギー線硬化性成分、光重合開始剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤、光拡散剤などを添加することができる。
【0079】
粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体と、架橋剤と、所望により添加剤とを混合することで製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体は、重合体を構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法により行うことが好ましい。粘着剤組成物は、希釈溶剤を添加して、十分に混合することにより、粘着剤組成物の塗布溶液としてもよい。
【0080】
粘着剤層を構成する粘着剤のゲル分率は、下限値として40%以上であることが好ましく、特に60%以上であることが好ましく、さらには70%以上であることが特に好ましい。また、上記粘着剤のゲル分率は、上限値として99%以下であることが好ましく、特に90%以下であることが好ましく、さらには85%以下であることが特に好ましい。粘着剤のゲル分率が上記範囲であることで、前述した押し込み深さを達成し易いものとなる。
【0081】
なお、上述した粘着剤のゲル分率は、一般的な手法により測定することができ、例えば、粘着剤を室温下(23℃)で酢酸エチルに72時間浸漬させた場合における、当該浸漬前後の粘着剤の質量に基づいて算出することができる。すなわち、浸漬前の粘着剤の質量をM1とし、浸漬後、十分に乾燥させた後の粘着剤の質量をM2とした場合に、(M2/M1)×100という計算式からゲル分率を得ることができる。
【0082】
粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率は、0.02MPa以上であることが好ましく、特に0.06MPa以上であることが好ましく、さらには0.09MPa以上であることが好ましい。また、当該貯蔵弾性率は、0.50MPa以下であることが好ましく、特に0.20MPa以下であることが好ましく、さらには0.14MPa以下であることが好ましい。粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率が上記範囲であることで、前述した押し込み深さを達成し易いものとなる。
【0083】
なお、上記貯蔵弾性率の測定方法は、JIS K7244-6:1999に準拠し、粘弾性測定器(例えば、REOMETRIC社製,製品名「DYNAMIC ANALYZER」)を用いて、測定周波数:1Hz、測定温度:23℃の条件にて、ねじりせん断法により測定したものとする。
【0084】
粘着剤層の厚さの下限値は、20μm以上であることが好ましく、特に40μm以上であることが好ましく、さらには70μm以上であることが好ましい。粘着剤層の厚さの下限値が上記の通りであることにより、前述した押し込み深さを達成し易くなるとともに、所望の粘着力を発揮し易いものとなる。また、粘着剤層の厚さの上限値は、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには150μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さの上限値が上記の通りであることにより、書き味向上シートを備えたタッチパネルの薄型化を実現し易くなる。
【0085】
また、基材と書き味向上層との厚さの和に対する、粘着剤層の厚さの比率は、下限値として0.2倍以上であることが好ましく、特に0.5倍以上であることが好ましく、さらには1倍以上であることが好ましい。上記比率の下限値が上記の通りであることにより、前述した押し込み深さを達成し易くなる。また、上記比率の上限値としては、5.0倍以下であることが好ましく、特に3.5倍以下であることが好ましく、さらには2.0倍以下であることが好ましい。上記比率の上限値が上記の通りであることにより、粘着剤層が厚い場合(例えば、粘着剤層の厚さが150μm以上の場合)でも十分な鉛筆硬度を有するものとなる。
【0086】
(4)その他の部材
本実施形態に係る書き味向上シートは、前述した書き味向上層、基材および粘着剤層以外の層をさらに備えていてもよい。例えば、書き味向上層と基材との間に、書き味向上層よりも弾性率の低い中間層を設けてもよい。また、粘着剤層における基材とは反対の面に、剥離シートを積層してもよい。
【0087】
上記中間層は、前述した押し込み深さを達成し易くする観点から設けることができる。中間層の材料としては、書き味向上層と同様の材料を使用することができ、特に前述したコーティング組成物を使用して中間層を形成することが好ましい。
【0088】
中間層を設ける場合、その厚さは、前述した押し込み深さを達成し易いものとする観点から、5μm以上であることが好ましく、特に10μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、中間層の厚さは、同様の観点から、50μm以下であることが好ましく、特に40μm以下であることが好ましく、さらには35μm以下であることが好ましい。
【0089】
なお、書き味向上シートが、上記中間層を備える場合、タッチペンが使用された際における書き味向上層の割れが発生し易い傾向がある。このような傾向は、特に、書き味向上層がハードコート層である場合に高まる。このような観点からは、本実施形態に係る書き味向上シートは中間層を備えていないことが好ましく、すなわち、書き味向上層が、基材の一方の面に直接積層されていることが好ましい。なお、本明細書において、書き味向上層が基材の一方の面に直接積層されているという場合であっても、前述した通り、基材における書き味向上層側には、前述した易接着層や表面処理層が存在してもよい。
【0090】
剥離シートとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、液晶ポリマーフィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0091】
剥離シートの剥離面(粘着剤層と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
【0092】
剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20~150μm程度である。
【0093】
3.書き味向上シートの製造方法
本実施形態に係る書き味向上シートの製造方法は、書き味向上シートが前述した押し込み深さを達成できるものとなる限り、特に限定されない。例えば、書き味向上層と基材とからなる積層体と、粘着剤層と剥離シートとからなる積層体をそれぞれ作製した後、それらの積層体を、基材と粘着剤層とが接触するように貼合することで、書き味向上層と基材と粘着剤層と剥離シートとがこの順に積層してなる書き味向上シートを得ることができる。
【0094】
上述した書き味向上層と基材とからなる積層体は、例えば、基材の片面に対して、前述したコーティング組成物と所望により溶剤とを含有する塗工液を塗布し、得られた塗膜を硬化させて書き味向上層とすることにより、得ることができる。
【0095】
上記溶剤は、塗工性の改良、粘度調整、固形分濃度の調整等のために使用することができ、硬化性成分等が溶解し、微粒子等が分散するものであれば、特に限定なく使用できる。
【0096】
溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソロブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソロブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソロブ)、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類などが挙げられる。
【0097】
コーティング組成物の塗工液の塗布は、常法によって行えばよく、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法によって行えばよい。コーティング組成物の塗工液を塗布したら、塗膜を40~120℃で30秒~5分程度乾燥させることが好ましい。
【0098】
コーティング組成物が活性エネルギー線硬化性を有する場合、コーティング組成物の硬化は、コーティング組成物の塗膜に対して紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射することによって行う。紫外線照射は、高圧水銀ランプ、フュージョンHランプ、キセノンランプ等によって行うことができ、紫外線の照射量は、照度50~1000mW/cm2、光量50~1000mJ/cm2程度が好ましく、照度100~500mW/cm2、光量100~500mJ/cm2程度が特に好ましい。一方、電子線照射は、電子線加速器等によって行うことができ、電子線の照射量は、10~1000krad程度が好ましい。
【0099】
上述した粘着剤層と剥離シートとからなる積層体は、例えば、剥離シートの剥離面に対して、前述した粘着剤組成物と所望により溶剤とを含有する塗工液を塗布し、これにより得られた塗膜を乾燥等させて、粘着剤層とすることにより、得ることができる。当該溶剤としては、特に制限はなく、様々なものを用いることができ、例えば、コーティング組成物の塗工液を調製するための前述した溶剤を使用することができる。また、塗工液の塗布の方法としても、例えば、コーティング組成物の塗工液を塗布と同様の方法を使用することができる。粘着剤組成物の塗膜の乾燥等は、例えば、80℃以上、180℃以下の温度で10秒以上、5分以下、塗膜を加熱することで行うことができる。さらに、このような加熱処理後、常温(例えば、23℃、50%RH)で1~2週間程度の養生期間を設けてもよい。
【0100】
4.書き味向上シートの使用
本実施形態に係る書き味向上シートは、タッチペンが使用されるタッチパネル(位置検出機能付き画像表示装置)の最表層を構成するシートとして使用することができる。具体的には、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等の表示体モジュールやタッチセンサーなどを有するタッチパネルにおけるカバー材上に積層されて使用されることが好ましい。書き味向上シートのカバー材への積層は、前述した粘着剤層を介して貼付することにより行うことが好ましい。
【0101】
なお、本実施形態に係る書き味向上シートに対して使用されるタッチペンとしては特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。例えば、当該タッチペンとして、ポリアセタール製のペン先を有するもの、ハードフェルト製のペン先を有するもの、エラストマー製のペン先を有するもの等を使用することができる。また、タッチペンのペン先の形状は、特に限定されず、ディスク状のもの、円形状のもの、多角形状のもの等から適宜選択することができるが、ボールペンで筆記した際の振動感を得ることができる観点では、円形状のものが好ましい。タッチペンのペン先の形状が円形状である場合、ペン先の直径は、0.1mm以上であることが好ましく、特に0.2mm以上であることが好ましく、さらに0.3mm以上であることが好ましい。また、上記直径は、5mm以下であることが好ましく、特に2mm以下であることが好ましく、さらに1mm以下であることが好ましい。
【0102】
本実施形態に係る書き味向上シートは、前述した押し込み深さを満たすことにより、紙に筆記具(特にボールペン)で筆記した際の紙の凹み感を良好に再現することができる。それにより、紙に筆記具で筆記した際の書き味が良好に再現される。
【0103】
5.書き味向上シート付きタッチパネル
本実施形態に係る書き味向上シートをタッチパネルに積層することで、書き味向上シート付きタッチパネルを得ることができる。当該書き味向上シート付きタッチパネルは、具体的には、タッチペンが接触するタッチペン接触面を有する書き味向上シートと、タッチパネルとを備えており、当該タッチパネルにおける表示面側に、上記書き味向上シートにおける上記タッチペン接触面とは反対の面側が積層されてなるものである。書き味向上シートは、タッチパネルの表示面上に直接積層されていてもよく、あるいは、その他の部材や層を介してタッチパネルの表示面側に積層されていてもよい。
【0104】
上記タッチパネルの種類や方式は特に限定されず、例えば、静電容量式、電磁誘導式、抵抗膜式、表面弾性波式(超音波式)、赤外線式等のタッチパネルを使用することができる。これらの中でも、優れた書き味を再現し易いという観点から、静電容量式のタッチパネルが好ましく、タッチペンによる文字等の再現性をも加味すると、電磁誘導式を併せ持つ静電容量式のタッチパネルが特に好ましい。静電容量式および電磁誘導式のタッチパネルの具体的構成等は特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0105】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0107】
〔調製例〕
表1に記載の材料を表2に示す組成にて混合し、コーティング組成物C1~C4を得た。なお、表2に示す配合比率は、固形分換算値に基づく比率である。さらに、得られたコーティング組成物をそれぞれプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈し、コーティング組成物C1~C4の塗工液を得た。なお、得られた塗工液の固形分濃度は、それぞれ表2に示す通りである。
【0108】
〔実施例1〕
(1)書き味向上層の形成
基材としての両面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ125μm)の片面に、マイヤーバーを用いて、上述した調製例にて得られたコーティング組成物C1の塗工液を塗工して塗膜を形成した後、オーブンを用いて70℃で1分間加熱することで上記塗膜を乾燥させた。
【0109】
次いで、窒素雰囲気下にて、紫外線照射装置(ジーエスユアサコーポレーション社製,製品名「窒素パージ小形コンベア式UV照射装置CSN2-40」)により下記の条件で紫外線を照射して、上記塗膜を硬化させ、厚さ3μmの書き味向上層を形成した。
[紫外線照射条件]
・光源:高圧水銀灯
・ランプ電力:1.4kW
・コンベアスピード:1.2m/min
・照度:100mW/cm2
・光量:240mJ/cm2
・酸素濃度:1%以下
【0110】
(2)粘着剤層の形成
アクリル酸n-ブチル95質量部およびアクリル酸5質量部を溶液重合法により共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)150万であった。
【0111】
得られた(メタ)アクリル酸エステル共重合体99.8質量部(固形分換算値;以下同じ)と、架橋剤としての1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン0.2質量部とを混合し、十分に撹拌して、トルエンで希釈することにより、粘着剤組成物の塗工液を得た。
【0112】
続いて、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離面に対して、アプリケーターを用いて、上記の通り得られた粘着剤組成物の塗工液を塗工して塗膜を形成した。さらに、オーブンを用いて100℃で3分間加熱することで、上記塗膜を乾燥させ、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、剥離シート上に厚さ50μm、ゲル分率80%、および23℃の貯蔵弾性率0.12MPaの粘着剤層を形成した。
【0113】
ここで、上述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0114】
(3)書き味向上シートの形成
上述した工程(1)にて得られた基材と書き味向上層との積層体における基材側の面と、上述した工程(2)にて得られた剥離シートと粘着剤層との積層体における粘着剤層側の面とを貼合することにより、書き味向上層と基材と粘着剤層と剥離シートとがこの順に積層されてなる書き味向上シートを得た。
【0115】
〔実施例2~15,比較例1〕
使用したコーティング組成物の種類、書き味向上層の厚さ、使用した基材の種類および厚さ、並びに粘着剤層の厚さを表3に示すように変更する以外、実施例1と同様にして書き味向上シートを作製した。
【0116】
〔実施例16〕
基材としての両面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ125μm)の片面に、マイヤーバーを用いて、上述した調製例にて得られたコーティング組成物C4の塗工液を塗工して塗膜を形成した後、オーブンを用いて70℃で1分間加熱することで上記塗膜を乾燥させた。続いて、上記塗膜に対して、前述した紫外線照射条件にて紫外線を照射し、上記塗膜を硬化させた。これにより、厚さ30μmの中間層を形成した。
【0117】
さらに、上記の通り得られた、基材の片面に中間層が形成されてなる積層体における中間層側の面に対し、マイヤーバーを用いて、上述した調製例にて得られたコーティング組成物C1の塗工液を塗工して塗膜を形成した後、オーブンを用いて70℃で1分間加熱することで上記塗膜を乾燥させた。続いて、上記塗膜に対して、前述した紫外線照射条件にて紫外線を照射し、上記塗膜を硬化させた。これにより、厚さ3μmの書き味向上層を形成した。
【0118】
以上のようにして得られた、書き味向上層、中間層および基材が順に積層されてなる積層体における基材側の面に対し、前述の実施例1の工程(2)と同様にして得られた剥離シートと粘着剤層との積層体における粘着剤層側の面とを貼合することにより、書き味向上層と中間層と基材と粘着剤層と剥離シートとがこの順に積層されてなる書き味向上シートを得た。
【0119】
〔試験例1〕(光学物性の測定)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0120】
そして、ガラス板単独でバックグラウンド測定を行った上で、上記測定用サンプルについて、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH-5000」)を用いて、JIS K7136:2000に準じて書き味向上シートのヘイズ値(%)を測定するとともに、JIS Z 8741:1997に準じて書き味向上シートの全光線透過率(%)を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0121】
また、上記と同様に得た測定用サンプルにおける書き味向上層側の面(タッチペン接触面)について、JIS Z8741:1997に準じて、光沢度計(日本電色工業社製,製品名「VG7000」)を用いて、測定角度60°の光沢度を測定した。結果を表3に示す。
【0122】
〔試験例2〕(押し込み深さの測定)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0123】
上記測定用サンプルを、微小表面硬度計(島津製作所社製,製品名「島津ダイナミック超微小表面硬度計W201S」)に設置した後、上記測定用サンプルにおける書き味向上層側の面(タッチペン接触面)に対し、三角錘形状圧子(ベルコビッチタイプ,先端曲率半径:100nm,稜間角:115°)の先端を1mN/sの負荷速度で押し込み、試験荷重が1961mNに到達したときの押し込み深さ(μm)を測定した。結果を表3に示す。
【0124】
また、参考として、紙についての押し込み深さも測定した。具体的には、市販される紙(コクヨ社製,製品名「キャンパスルーズリーフ しっかり書ける」,製品型番「ノ-S836BT」,サイズ:B5,罫幅:B罫)を20枚重ねた状態で、上記微小表面硬度計に備わる支持台上に設置した後、重ねられた紙の最表面に対し、上記と同様の条件で押し込み深さ(μm)を測定した。その結果、17.8μmという測定値が得られた。
【0125】
〔試験例3〕(摩擦測定)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0126】
上記測定用サンプルを、書き味向上層側の面(タッチペン接触面)が上側となるように、静動摩擦測定機(トリニティーラボ社製,製品名「トライボマスターTL201Ts」)の測定専用台車に設置した。なお、上記測定専用台車は、上記静動摩擦測定機の使用に伴って、上記測定用サンプルの設置面の水平を保ったまま、所定の方向に往復移動するものとなっている。
【0127】
続いて、タッチペン接触面に対してペン先が接触するように、タッチペンを上記静動摩擦測定機に固定した。このとき、タッチペンとタッチペン接触面とがなす角度が45°となるように、タッチペンを傾斜させて固定した。また、そのときの傾斜させる方向は、測定専用台車の進行方向側に傾斜させるとともに、進行方向と平行となるようにした。タッチペンとしては、ポリアセタール(POM)製のペン先を有するタッチペン(ワコム社製,製品名「ACK-20001」,ペン先の直径:0.5mm)を使用した。
【0128】
続いて、タッチペンに対して荷重200gの加圧条件で荷重を印加した状態で、上述した測定専用台車を1.6mm/秒の速度で移動させることで、タッチペンをタッチペン接触面上で摺動(摺動距離:100mm)させ、その際に測定される摩擦力に基づいて静摩擦係数および動摩擦係数、ならびに摺動距離が10mmである地点から20mmである地点の間において測定された摩擦力について、摩擦力の標準偏差(mN)を算出した。その結果を表3に示す。
【0129】
また、参考として、紙にボールペンで筆記した場合についての静摩擦係数および動摩擦係数も測定した。具体的には、市販される紙(コクヨ社製,製品名「キャンパスルーズリーフ しっかり書ける」,製品型番「ノ-S836BT」,サイズ:B5,罫幅:B罫)を20枚重ねた状態で、上記静動摩擦測定機の測定専用台車に設置した後、重ねられた紙の最表面に対し、ペン先が接触するように、ボールペン(BIC社製,製品名「オレンジEG 1.0」,油性ボールペン,ペン先の直径:1.0mm)を上記静動摩擦測定機に固定した。そして、上記と同様の条件で、ボールペンを紙の表面で摺動させ、その際に測定される摩擦力に基づいて静摩擦係数および動摩擦係数、ならびに摩擦力の標準偏差を算出した。その結果、静摩擦係数については0.28、動摩擦係数については0.27、摩擦力の標準偏差については30mNという値が得られた。
【0130】
〔試験例4〕(書き味の評価)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0131】
上記測定用サンプルにおける書き味向上層側の面(タッチペン接触面)に対し、評価者が、ポリアセタール(POM)製のペン先を有するタッチペン(ワコム社製,製品名「ACK-20001」,ペン先の直径:0.5mm)を使用し、模擬的に所定の筆記作業をして、以下の書き味を評価した。結果を表3に示す。
【0132】
(1)振動感
紙にボールペンで筆記した際の振動感を再現できているかを、以下の基準に基づいて評価した。
A:非常に良好に振動感を再現できた。
B+:振動感が少し大きいが、良好に再現できた。
B-:振動感が少し小さいが、良好に再現できた。
C+:振動感が大き過ぎ、良好に再現することはできなかった。
C-:振動感が小さ過ぎ、良好に再現することはできなかった。
【0133】
(2)凹み感
紙にボールペンで筆記した際の凹み感を再現できているかを、以下の基準に基づいて評価した。
A:非常に良好に凹み感を再現できた。
B+:凹み感が少し大きいが、良好に再現できた。
B-:凹み感が少し小さいが、良好に再現できた。
C+:凹み感が大きいものの、良好に再現できた。
C-:凹み感が小さいものの、良好に再現できた。
D+:凹み感が大き過ぎ、良好に再現することはできなかった。
D-:凹み感が小さ過ぎ、良好に再現することはできなかった。
【0134】
〔試験例5〕(防眩性の評価)
実施例および比較例で製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、黒色のアクリル板(三菱レイヨン社製,製品名「アクリライトL502」)の片面に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0135】
次いで、書き味向上シートの上方で3波長蛍光灯を点灯させ、その光を書き味向上シートで反射させた。当該反射光を目視して、以下の基準で防眩性を評価した。結果を表3に示す。
A:書き味向上シートでの反射により視認される蛍光灯の輪郭がぼやけ、輪郭を判別できなかった。
B:書き味向上シートでの反射により視認される蛍光灯の輪郭がややぼやけ、輪郭の判別は、一応は可能であったものの非常に困難であった。
C:書き味向上シートでの反射により視認される蛍光灯の輪郭がぼやけず、輪郭を容易に判別できた。
【0136】
〔試験例6〕(耐擦傷性の評価)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0137】
上記測定用サンプルにおける書き味向上層側の面(タッチペン接触面)について、#0000のスチールウールを用いて、250g/cm2の荷重で10cm、10往復擦った。その書き味向上層の表面を、3波長蛍光灯下で目視により確認し、以下の基準で耐擦傷性を評価した。結果を表3に示す。
A:傷が確認されなかった。
B:10本以下の傷が確認された。
C:11本以上の傷が確認された。
【0138】
〔試験例7〕(鉛筆硬度の測定)
実施例および比較例にて製造した書き味向上シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層の露出面(粘着面)を、ガラス板(厚さ:1.2mm)に貼合し、これを測定用サンプルとした。
【0139】
上記測定用サンプルにおける書き味向上層側の面(タッチペン接触面)について、鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(東洋精機製作所社製,製品名「NP」)を用い、JIS K5600-5-4:1999に準じて、荷重750gおよび速度1.0mm/sの条件で、鉛筆法による引っかき硬度を測定した。その測定結果を以下の基準で分類し、表3に示す。
A:鉛筆硬度が、HB以上であった。
B:鉛筆硬度が、HB未満、3B以上であった。
C:鉛筆硬度が、3B未満であった。
【0140】
なお、表3中における略号の詳細は、次の通りである。
ルミラーU48:両面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU48」,厚さ50μm、75μm、100μmまたは125μm)
ルミラーU40:両面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,製品名「ルミラーU40」,厚さ23μm)
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
表3から明らかなように、実施例で製造した書き味向上シートでは、筆記具で紙に記載した際の凹み感を良好に再現することができ、振動感の良好な再現性と併せて、優れた書き味を実現できた。また、実施例で製造した書き味向上シートは、各種光学物性、防眩性、耐擦傷性および鉛筆硬度による評価についても、良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の書き味向上シートは、タッチペンが使用されるタッチパネルの最表層として好適に用いられる。