(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】絶縁軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 35/077 20060101AFI20240705BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240705BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F16C35/077
F16C19/06
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2020181355
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-133483(JP,A)
【文献】特開2014-081004(JP,A)
【文献】特開2007-100914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 35/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング穴(1)が形成されたハウジング(2)と、
前記ハウジング穴(1)に嵌め込まれる外輪(3)と、
前記外輪(3)の径方向内側に同軸に配置される内輪(4)と、
前記外輪(3)と前記内輪(4)の間に組み込まれる複数の転動体(5)と、を有し、
前記外輪(3)の表面に、前記ハウジング(2)と前記外輪(3)の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜(20)が設けられ、
前記絶縁皮膜(20)は、前記外輪(3)の外周に沿って設けられた軸方向に一定の外径をもつストレート部(21)と、前記外輪(3)の軸方向両側の端面(15)に沿って設けられた一対の端面部(22)と、前記ストレート部(21)と前記一対の端面部(22)との間を接続する断面円弧状の一対の面取り部(23)とを有し、
前記ハウジング穴(1)の内周には、前記転動体(5)の軸方向中心線(L)と交差する位置に、前記ストレート部(21)が嵌合して接触する内周円筒面(24)が形成され、
前記内周円筒面(24)と前記ストレート部(21)の接触範囲(A)の軸方向長さが、前記ストレート部(21)の軸方向全長よりも短
く、
前記内周円筒面(24)は、軸方向の一端および他端を有し、
前記内周円筒面(24)の前記一端は、前記ストレート部(21)の軸方向の一端に対して、前記転動体(5)の軸方向中心線(L)に近づく側に軸方向にずれた位置にあり、
前記内周円筒面(24)の前記他端は、前記ストレート部(21)の軸方向の他端に対して、前記転動体(5)の軸方向中心線(L)に近づく側に軸方向にずれた位置にあり、
前記ハウジング(2)は、前記内周円筒面(24)の前記一端から径方向外方に延びる第1の非接触面(27)と、前記内周円筒面(24)の前記他端から径方向外方に延びる第2の非接触面(28)とを有す
る絶縁軸受装置。
【請求項2】
前記ハウジング(2)は、前記第1の非接触面(27)から軸方向に離れた位置で前記ストレート部(21)の外周を支持する第1の補助支持部(29)と、前記第2の非接触面(28)から軸方向に離れた位置で前記ストレート部(21)の外周を支持する第2の補助支持部(30)とを更に有する請求項
1に記載の絶縁軸受装置。
【請求項3】
前記内周円筒面(24)と前記ストレート部(21)の接触範囲(A)内に、前記転動体(5)と前記外輪(3)の接触により形成される接触楕円の長径範囲(B)が収まるように前記内周円筒面(24)が形成されている請求項1
または2に記載の絶縁軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電食を防止した絶縁軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(バッテリー式電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)等の電気自動車では、車両走行用の原動機として電動モータが使用される。一方、電気自動車では、電動モータに交流電力を供給するために、バッテリの直流電力を交流電力に変換するインバータが使用され、電動モータの高効率化を図るために、電動モータに供給する交流電力の周波数が高く設定される。
【0003】
ここで、高い周波数の交流電力が電動モータに供給されると、電動モータの主軸を支持する転がり軸受に、電流が流れやすくなる。そして、転がり軸受に電流が流れると、転がり軸受の軌道面と転動体の間にスパークが発生し、そのスパークによって軌道面の損傷が次第に進行する現象(電食)が生じることがある。
【0004】
そこで、この電食を防止するために、一般に、絶縁軸受が使用される(例えば、特許文献1)。絶縁軸受は、ハウジングに形成されたハウジング穴に嵌め込まれる外輪と、外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、外輪と内輪の間に組み込まれる複数の転動体とを有し、外輪の表面に、ハウジングと外輪の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハウジングと外輪の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜を設けた場合でも、ハウジングと外輪の間に交流電圧が作用すると、絶縁皮膜で隔てられたハウジングと外輪とがコンデンサとして蓄電と放電を繰り返すことで、転がり軸受の内部に交流電流が流れる。この交流電流の大きさは、ハウジングと外輪の間のインピーダンスが低いほど(すなわちハウジングと外輪の間の静電容量が大きいほど)大きくなる。つまり、交流電流の大きさは、絶縁皮膜を介して対向するハウジングと外輪の金属面の対向面積が広いほど大きくなり、また、絶縁皮膜を介して対向するハウジングと外輪の金属面間の距離が近いほど大きくなる。
【0007】
そこで、この交流電流の大きさを抑えるため、特許文献1では、同文献の
図1(a)のように、外輪の外周面の軸方向中央に窪みを設け、その窪みを含む外輪の表面に一定の厚みの絶縁皮膜を設けた絶縁軸受が提案されている。ここで、絶縁皮膜は、外輪の外周に沿って設けられた外周面部と、外輪の軸方向両側の端面に沿って設けられた一対の端面部と、外周面部と一対の端面部との間を接続する断面円弧状の一対の面取り部とを有する。そして、その絶縁皮膜の外周面部は、外輪の外周の窪み部に合わせて窪んだ形状となっている。
【0008】
この特許文献1の
図1(a)の絶縁軸受を採用すると、外輪の外周面の軸方向中央に設けられた窪みの部分で、絶縁皮膜を介して対向するハウジングと外輪の金属面間の距離が遠くなっているので、その窪みの深さに相当する分、ハウジングと外輪の間のインピーダンスが高くなり、ハウジングと外輪の間に交流電圧が作用したときに転がり軸受の内部に流れる交流電流の大きさを低く抑えることができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1の
図1(a)のように、外輪の外周面の軸方向中央に窪みを設け、その窪みを含む外輪の表面に絶縁皮膜を設けたのでは、絶縁皮膜の成形性が悪い。そのため、絶縁軸受の量産性が低いという問題がある。
【0010】
すなわち、外輪の外周面の軸方向中央に窪みを設け、その窪みを含む外輪の表面に絶縁皮膜を形成しようとすると、窪みの内部と外部とで均一で安定した皮膜成形をすることが難しく、量産性が低いという問題がある。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、ハウジングと外輪の間のインピーダンスが高く、絶縁皮膜の成形性が高い絶縁軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の絶縁軸受装置を提供する。
ハウジング穴が形成されたハウジングと、
前記ハウジング穴に嵌め込まれる外輪と、
前記外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に組み込まれる複数の転動体と、を有し、
前記外輪の表面に、前記ハウジングと前記外輪の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜が設けられ、
前記絶縁皮膜は、前記外輪の外周に沿って設けられた軸方向に一定の外径をもつストレート部と、前記外輪の軸方向両側の端面に沿って設けられた一対の端面部と、前記ストレート部と前記一対の端面部との間を接続する断面円弧状の一対の面取り部とを有し、
前記ハウジング穴の内周には、前記転動体の軸方向中心線と交差する位置に、前記ストレート部が嵌合して接触する内周円筒面が形成され、
前記内周円筒面と前記ストレート部の接触範囲の軸方向長さが、前記ストレート部の軸方向全長よりも短い絶縁軸受装置。
【0013】
このようにすると、外輪の外周に沿って設けられた絶縁皮膜のストレート部が、絶縁皮膜のストレート部の軸方向全長でハウジング穴の内周円筒面に接触せずに、絶縁皮膜のストレート部の軸方向全長よりも短い範囲でハウジング穴の内周円筒面に接触するので、その接触範囲が短くなっている分、ハウジングと外輪の間のインピーダンスが高くなる。そのため、ハウジングと外輪の間に交流電圧が作用したときに流れる交流電流の大きさを効果的に低く抑えることができる。また、絶縁皮膜の外輪の外周に沿って設けられる部分が、軸方向に一定の外径をもつストレート部とされており、絶縁皮膜に窪みがないので、絶縁皮膜の成形が容易であり、量産性に優れる。
【0014】
前記内周円筒面と前記ストレート部の接触範囲の軸方向長さが、前記ストレート部の軸方向全長よりも短い構成として、例えば、以下のものを採用することができる。
前記内周円筒面は、軸方向の一端および他端を有し、
前記内周円筒面の前記一端は、前記ストレート部の軸方向の一端に対して、前記転動体の軸方向中心線から遠ざかる側に軸方向にずれた位置にあり、
前記内周円筒面の前記他端は、前記ストレート部の軸方向の他端に対して、前記転動体の軸方向中心線に近づく側に軸方向にずれた位置にあり、
前記ハウジングは、前記内周円筒面の前記一端から径方向内方に延び、前記一対の端面部のうちの一方の端面部に接触する軸方向内端面と、前記内周円筒面の前記他端から径方向外方に延びる非接触面とを有する。
【0015】
このようにすると、ハウジングの軸方向内端面で外輪を軸方向に位置決めしつつ、ハウジングと外輪の間のインピーダンスを高めることが可能である。
【0016】
また、前記内周円筒面と前記ストレート部の接触範囲の軸方向長さが、前記ストレート部の軸方向全長よりも短い構成として、例えば、以下のものを採用することができる。
前記内周円筒面は、軸方向の一端および他端を有し、
前記内周円筒面の前記一端は、前記ストレート部の軸方向の一端に対して、前記転動体の軸方向中心線に近づく側に軸方向にずれた位置にあり、
前記内周円筒面の前記他端は、前記ストレート部の軸方向の他端に対して、前記転動体の軸方向中心線に近づく側に軸方向にずれた位置にあり、
前記ハウジングは、前記内周円筒面の前記一端から径方向外方に延びる第1の非接触面と、前記内周円筒面の前記他端から径方向外方に延びる第2の非接触面とを有する。
【0017】
このようにすると、絶縁皮膜を介して対向するハウジングと外輪の対向面積を特に効果的に小さくし、ハウジングと外輪の間のインピーダンスを効果的に高めることが可能である。
【0018】
この場合、前記ハウジングは、前記第1の非接触面から軸方向に離れた位置で前記ストレート部の外周を支持する第1の補助支持部と、前記第2の非接触面から軸方向に離れた位置で前記ストレート部の外周を支持する第2の補助支持部とを更に有するものとすることができる。
【0019】
このようにすると、ハウジング穴の中心と回転軸の中心の間にミスアライメントが存在するときにも、外輪の支持が安定したものとなる。
【0020】
前記内周円筒面と前記ストレート部の接触範囲内に、前記転動体と前記外輪の接触により形成される接触楕円の長径範囲が収まるように前記内周円筒面を形成すると好ましい。
【0021】
このようにすると、回転軸とハウジングの間に大きい荷重が負荷されたときにも、ハウジング穴による外輪の支持が安定したものとなる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の絶縁軸受装置は、外輪の外周に沿って設けられた絶縁皮膜のストレート部が、絶縁皮膜のストレート部の軸方向全長でハウジング穴の内周円筒面に接触せずに、絶縁皮膜のストレート部の軸方向全長よりも短い範囲でハウジング穴の内周円筒面に接触するので、その接触範囲が短くなっている分、ハウジングと外輪の間のインピーダンスが高い。そのため、ハウジングと外輪の間に交流電圧が作用したときに流れる交流電流の大きさを効果的に低く抑えることができる。また、絶縁皮膜の外輪の外周に沿って設けられる部分が、軸方向に一定の外径をもつストレート部とされており、絶縁皮膜に窪みがないので、絶縁皮膜の成形が容易であり、量産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の第1実施形態にかかる絶縁軸受装置を示す断面図
【
図3】この発明の第2実施形態にかかる絶縁軸受装置を
図2に対応して示す図
【
図6】比較例の絶縁軸受装置を
図2に対応して示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる絶縁軸受装置を示す。この絶縁軸受装置は、ハウジング穴1が形成されたハウジング2と、ハウジング穴1に嵌め込まれる外輪3と、外輪3の径方向内側に同軸に配置される内輪4と、外輪3と内輪4の間に組み込まれる複数の転動体5と、その複数の転動体5の周方向間隔を保持する保持器6と、内輪4に嵌合する回転軸7とを有する。外輪3、内輪4、転動体5はいずれも金属で形成されている。転動体5は、ここでは玉である。
【0025】
回転軸7は、電気自動車の車両走行用の電動モータの主軸である。回転軸7は、内輪4の内周に嵌合する小径軸部8と、内輪4の軸方向端面に接触する大径軸部9とを有する。大径軸部9の外径は、小径軸部8の外径よりも大きい。回転軸7は、金属で形成されている。ハウジング2も、金属で形成されている。
【0026】
内輪4の外周には、転動体5が転がり接触する内輪軌道溝10と、内輪軌道溝10の軸方向の両側に位置する内輪肩部11とが形成されている。外輪3の内周にも、転動体5が転がり接触する外輪軌道溝12と、外輪軌道溝12の軸方向の両側に位置する外輪肩部13とが形成されている。内輪軌道溝10と外輪軌道溝12は、いずれも断面円弧状の溝である。
【0027】
図2に示すように、外輪3の外周には、軸方向に一定の外径をもつ円筒面14と、円筒面14と外輪3の軸方向両側の端面15との間を接続する断面円弧状の面取り部16とが形成されている。円筒面14は、窪みが存在せず、完全な円筒面である。
【0028】
外輪3の表面には、ハウジング2と外輪3の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜20が設けられている。絶縁皮膜20は、セラミックで形成された皮膜を採用することができる。セラミックとしては、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化クロム(Cr2O3)等の金属酸化物等を用いることができる。また、セラミックにかえて、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの樹脂で形成された絶縁皮膜20を採用することも可能である。エポキシ樹脂またはポリアミドイミド樹脂などの樹脂の皮膜は、樹脂に硬化剤を添加したものを焼成して形成することができる。絶縁皮膜20の厚さは、0.15mm~0.45mmの範囲で設定することができる。
【0029】
絶縁皮膜20は、外輪3の外周に沿って設けられた軸方向に一定の外径をもつストレート部21と、外輪3の軸方向両側の端面15に沿って設けられた一対の端面部22と、ストレート部21と一対の端面部22との間を接続する断面円弧状の一対の面取り部23とを有する。ストレート部21の外周は、窪みが存在せず、完全な円筒面である。
【0030】
ハウジング2は、内周円筒面24と軸方向内端面25と非接触面26とを有する。内周円筒面24は、ハウジング穴1の内周に形成された軸方向に一定の内径をもつ円筒状の内面である。内周円筒面24は、転動体5の軸方向中心線Lと交差する位置に形成されている。内周円筒面24に、絶縁皮膜20のストレート部21が嵌合して接触している。
【0031】
内周円筒面24の軸方向の一端(図では左端)は、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向の一端(図では左端)に対して、転動体5の軸方向中心線Lから遠ざかる側(図では左側)に軸方向にずれた位置にある。内周円筒面24の軸方向の他端(図では右端)は、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向の他端(図では右端)に対して、転動体5の軸方向中心線Lに近づく側(図では左側)に軸方向にずれた位置にある。
【0032】
ハウジング2の軸方向内端面25は、内周円筒面24の一端(図では左端)から径方向内方に延びて形成されている。軸方向内端面25は、絶縁皮膜20の一対の端面部22のうちの一方の端面部22(左側の端面部22)に接触している。ハウジング2の非接触面26は、内周円筒面24の他端(図では右端)から径方向外方に延びて形成されている。
【0033】
内周円筒面24とストレート部21の接触範囲Aの軸方向長さは、ストレート部21の軸方向全長よりも短い。ここで、内周円筒面24とストレート部21の接触範囲A内に、転動体5と外輪3の接触により形成される接触楕円の長径範囲Bが収まるように内周円筒面24は形成されている。接触楕円は、転動体5と外輪3の間に荷重が負荷されたときに両者の間に形成される楕円形の面接触部であり、その寸法は、外輪3の縦弾性係数およびポアソン比、転動体5の縦弾性係数およびポアソン比、外輪軌道溝12の表面の曲率、転動体5の表面の曲率、転動体5と外輪3の間に作用する荷重の大きさに基づいて、ヘルツの理論による式から求められる。接触楕円の寸法を求めるにあたり、転動体5と外輪3の間に作用する荷重の大きさは、基本静ラジアル定格荷重を使用することができる。
【0034】
外輪3と内輪4と転動体5は、深溝玉軸受を構成している。この深溝玉軸受は、ハウジング2の軸方向内端面25で外輪3を軸方向の一方側で位置決めし、かつ、回転軸7の大径軸部9で内輪4を軸方向の他方側で位置決めすることにより、全体として軸方向の位置決めがなされている。ここで、外輪3の軸方向両側の端面15のうち、軸方向他方側(図では右側)の端面15に設けられた絶縁皮膜20の端面部22は、接触する部材が存在せず、露出している。また、内輪4の軸方向両側の端面17のうち、軸方向一方側(図では左側)の端面17も、接触する部材が存在せず、露出している。
【0035】
ところで、ハウジング2と外輪3の間を電気的に絶縁する絶縁皮膜20を設けた場合でも、ハウジング2と外輪3の間に交流電圧が作用すると、絶縁皮膜20で隔てられたハウジング2と外輪3とがコンデンサとして蓄電と放電を繰り返すことで、転がり軸受の内部に交流電流が流れることがある。この交流電流の大きさは、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスが低いほど(すなわちハウジングと外輪の間の静電容量が大きいほど)大きくなる。つまり、交流電流の大きさは、絶縁皮膜20を介して対向するハウジング2と外輪3の金属面の対向面積が広いほど大きくなり、また、絶縁皮膜20を介して対向するハウジング2と外輪3の金属面間の距離が近いほど大きくなる。
【0036】
そこで、この実施形態の絶縁軸受装置では、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスを高める(すなわちハウジング2と外輪3の間の静電容量を小さくする)ため、
図2に示すように、内周円筒面24とストレート部21の接触範囲Aの軸方向長さを、ストレート部21の軸方向全長よりも短くしている。このようにすると、外輪3の外周に沿って設けられた絶縁皮膜20のストレート部21が、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向全長でハウジング穴1の内周円筒面24に接触せずに、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向全長よりも短い範囲でハウジング穴1の内周円筒面24に接触するので、
図6に示すように、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向全長をハウジング穴1の内周円筒面24に接触させた場合に比べて、内周円筒面24とストレート部21の接触範囲Aが短くなり、その接触範囲Aが短くなっている分、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスが高い。そのため、ハウジング2と外輪3の間に交流電圧が作用したときに流れる交流電流の大きさを効果的に低く抑えることが可能となっている。
【0037】
また、この絶縁軸受装置は、絶縁皮膜20の外輪3の外周に沿って設けられる部分が、軸方向に一定の外径をもつストレート部21とされており、絶縁皮膜20に窪みがないので、絶縁皮膜20の成形が容易であり、量産性に優れる。また、低コストである。
【0038】
また、この絶縁軸受装置は、ハウジング2の軸方向内端面25で外輪3を軸方向に位置決めしつつ、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスを高めることが可能となっている。
【0039】
また、この絶縁軸受装置は、外輪3の絶縁皮膜20のうち他の部材と接触せずに露出している部分の面積が広いので、放熱性に優れる。
【0040】
また、この絶縁軸受装置は、内周円筒面24とストレート部21の接触範囲A内に、転動体5と外輪3の接触により形成される接触楕円の長径範囲Bが収まっているので、回転軸7とハウジング2の間に大きい荷重が負荷されたときにも、ハウジング穴1による外輪3の支持が安定している。
【0041】
図3に、この発明の第2実施形態の絶縁軸受装置を示す。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
回転軸7の小径軸部8には、内輪4の軸方向両側の端面17のうち、回転軸7の大径軸部9に接触する側の端面17とは反対側(図では左側)の端面17に接触する位置決めリング18が固定して設けられている。
【0043】
ハウジング2は、内周円筒面24と第1の非接触面27と第2の非接触面28とを有する。内周円筒面24は、ハウジング穴1の内周に形成された軸方向に一定の内径をもつ円筒状の内面である。内周円筒面24は、転動体5の軸方向中心線Lと交差する位置に形成されている。内周円筒面24に、絶縁皮膜20のストレート部21が嵌合して接触している。
【0044】
内周円筒面24の軸方向の一端(図では左端)は、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向の一端(図では左端)に対して、転動体5の軸方向中心線Lに近づく側(図では右側)に軸方向にずれた位置にある。内周円筒面24の軸方向の他端(図では右端)は、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向の他端(図では右端)に対して、転動体5の軸方向中心線Lに近づく側(図では左側)に軸方向にずれた位置にある。内周円筒面24の軸方向長さは、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向長さよりも短い。
【0045】
ハウジング2の第1の非接触面27は、内周円筒面24の一端(図では左端)から径方向外方に延びて形成されている。ハウジング2の第2の非接触面28も、内周円筒面24の他端(図では右端)から径方向外方に延びて形成されている。
【0046】
内周円筒面24とストレート部21の接触範囲Aの軸方向長さは、ストレート部21の軸方向全長よりも短い。ここで、内周円筒面24とストレート部21の接触範囲A内に、転動体5と外輪3の接触により形成される接触楕円の長径範囲Bが収まるように内周円筒面24は形成されている。
【0047】
外輪3と内輪4と転動体5は、深溝玉軸受を構成している。この深溝玉軸受は、回転軸7の小径軸部8に固定した位置決めリング18で内輪4を軸方向の一方側で位置決めし、かつ、回転軸7の大径軸部9で内輪4を軸方向の他方側で位置決めすることにより、全体として軸方向の位置決めがなされている。ここで、外輪3の軸方向両側の端面15に設けられた絶縁皮膜20の一対の端面部22は、いずれも接触する部材が存在せず、露出している。
【0048】
第1実施形態と同様、この絶縁軸受装置は、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスが高い。そのため、ハウジング2と外輪3の間に交流電圧が作用したときに流れる交流電流の大きさを効果的に低く抑えることが可能となっている。
【0049】
また、この絶縁軸受装置は、絶縁皮膜20の外輪3の外周に沿って設けられる部分が、軸方向に一定の外径をもつストレート部21とされており、絶縁皮膜20に窪みがないので、絶縁皮膜20の成形が容易であり、量産性に優れる。また、低コストである。
【0050】
また、この絶縁軸受装置は、絶縁皮膜20のストレート部21の軸方向の一方の端部と他方の端部とがいずれもハウジング2と非接触とされているので、絶縁皮膜20を介して対向するハウジング2と外輪3の対向面積を特に効果的に小さくし、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスを効果的に高めることが可能となっている。
【0051】
また、この絶縁軸受装置は、外輪3の絶縁皮膜20のうち、他の部材と接触せずに露出している面積が広いので、放熱性に優れる。
【0052】
図4に第2実施形態の変形例を示す。ハウジング2は、第1の非接触面27から軸方向に離れた位置でストレート部21の外周を支持する第1の補助支持部29と、第2の非接触面28から軸方向に離れた位置でストレート部21の外周を支持する第2の補助支持部30とを更に有する。このようにすると、ハウジング穴1の中心と回転軸7の中心の間にミスアライメントが存在するときにも、外輪3の支持が安定したものとなる。第1の補助支持部29と第2の補助支持部30は、図ではハウジング穴1の内周に設けた突起である。
【0053】
図5に第1実施形態の変形例を示す。ハウジング2は、軸方向内端面25に、軸方向に突出する環状の突起31が設けられ、その突起31の先端が、絶縁皮膜20の一対の端面部22のうちの一方の端面部22(左側の端面部22)に接触している。このようにすると、絶縁皮膜20の端面部22を介して対向するハウジング2と外輪3の対向面積が小さくなるので、ハウジング2と外輪3の間のインピーダンスをさらに高めることが可能となる。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 ハウジング穴
2 ハウジング
3 外輪
4 内輪
5 転動体
20 絶縁皮膜
21 ストレート部
22 端面部
23 面取り部
24 内周円筒面
25 軸方向内端面
26 非接触面
27 第1の非接触面
28 第2の非接触面
29 第1の補助支持部
30 第2の補助支持部
A 接触範囲
B 接触楕円の長径範囲
L 軸方向中心線