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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】水力発電装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F03B 15/04 20060101AFI20240705BHJP
   F03B 7/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
F03B15/04 Z
F03B7/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020218586
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103756
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆志
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048753(JP,A)
【文献】特開2014-034923(JP,A)
【文献】特開2016-176415(JP,A)
【文献】特開2020-029776(JP,A)
【文献】特開2003-106247(JP,A)
【文献】米国特許第04636141(US,A)
【文献】特開2020-084978(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 1/00-11/08
F03B 15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力発電装置であって、
水路を流れる水の力を利用して回転する水車と、
前記水車の回転力を利用して発電する発電機と、
前記水路において前記水車を昇降させる昇降装置と、
前記水路の水位を検知する水位センサおよび前記水路の水の流速を検知する流速センサの少なくとも1つと、
前記昇降装置の駆動トルクを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記水力発電装置が前記水位センサを備える場合に前記水位が高くなるほど大きくなるように前記駆動トルクを設定し、前記水力発電装置が前記流速センサを備える場合に前記流速が速くなるほど大きくなるように前記駆動トルクを設定する、水力発電装置。
【請求項2】
前記水車に水流を集めるための集水板をさらに備え、
前記昇降装置は、前記水路において前記集水板をさらに昇降させる、請求項1に記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記水力発電装置は、前記水位センサおよび前記流速センサを備え、
前記制御装置は、
前記水位が高くなるほど大きくなるように第1係数を決定し、
前記流速が速くなるほど大きくなるように第2係数を決定し、
前記第1係数と前記第2係数との積を用いて前記駆動トルクを演算する、請求項1または2に記載の水力発電装置。
【請求項4】
水路を流れる水の力を利用して回転する水車と、前記水車の回転力を利用して発電する発電機と、前記水路において前記水車を昇降させる昇降装置と、を含む水力発電装置の制御方法であって、
前記水路の水位および流速の少なくとも1つを検知するステップと、
前記昇降装置の駆動トルクを制御するステップと、を備え、
前記制御するステップは、
前記水位が検知された場合に前記水位が高くなるほど大きくなるように前記駆動トルクを決定するステップと、
前記流速が検知された場合に前記流速が速くなるほど大きくなるように前記駆動トルクを決定するステップと、を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水力発電装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電装置は、流水が持つ運動エネルギーを、発電に利用するシステムである。水力発電装置の中で小型のものは、農業用水路、上下水道、工業用水路、小河川等の水路に設置して利用されている。このような水路に設置された水力発電装置は、水車、ギヤ、オイルシール等のメンテナンスの際、水車を水路から引き上げる必要がある。また、増水等の緊急時にも、溢水や水力発電装置の損傷を防止するために、水路から引き上げる必要がある。
【0003】
特開2020-29776号公報(特許文献1)には、水路の両側部に設置された一対の水路固定体に回転自在に支持された回転梁と、回転梁に基端が接合されて片持ち状に延びる回転架台とを備える水力発電装置が開示されている。回転架台は、水力発電モジュールを支持して水車の下端が水路の水面より下に位置する水没姿勢と、水車の全体が水路1の水面より上に位置する待機姿勢とに渡って上下に回転可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-29776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
豪雨等により水車に加わる水の抵抗が大きくなると、水車を水面より上に引き上げにくくなる。そのため、水車を昇降させるための昇降装置の駆動トルクを予め大きく設定しておく必要がある。これにより、豪雨等により水車に加わる水の抵抗が大きくなっても、水車を引く上げることが可能となる。しかしながら、昇降装置の駆動トルクが予め大きく設定されると、水路の流量が少ないときに、不必要に消費電力量が増大する。
【0006】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、豪雨等でも水車の昇降が可能であり、かつ、消費電力量の増大を抑制可能な水力発電装置およびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の水力発電装置は、水路を流れる水の力を利用して回転する水車と、水車の回転力を利用して発電する発電機と、水路において水車を昇降させる昇降装置と、を備える。さらに、水力発電装置は、水路の水位を検知する水位センサおよび水路の水の流速を検知する流速センサの少なくとも1つと、昇降装置の駆動トルクを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、水力発電装置が水位センサを備える場合に水位が高くなるほど大きくなるように駆動トルクを設定し、水力発電装置が流速センサを備える場合に流速が速くなるほど大きくなるように駆動トルクを設定する。
【0008】
本開示の制御方法は、水力発電装置を制御する。水力発電装置は、水路を流れる水の力を利用して回転する水車と、水車の回転力を利用して発電する発電機と、水路において水車を昇降させる昇降装置と、を含む。制御方法は、水路の水位および流速の少なくとも1つを検知するステップと、昇降装置の駆動トルクを制御するステップと、を備える。制御するステップは、水位が検知された場合に水位が高くなるほど大きくなるように駆動トルクを設定するステップと、流速が検知された場合に流速が速くなるほど大きくなるように駆動トルクを設定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、豪雨等でも水車の昇降が可能であり、かつ、消費電力量の増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る水力発電装置を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係る水力発電装置の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
図3】集水板を上昇させたときの水力発電装置を示す斜視図である。
図4】集水板を下降させたときの伝達機構の一部を示す断面図である。
図5】集水板を上昇させたときの伝達機構の一部を示す断面図である。
図6】水車を上昇させたときの水力発電装置を示す斜視図である。
図7】水車を下降させたときの伝達機構の一部を示す断面図である。
図8】水車を上昇させたときの伝達機構の一部を示す断面図である。
図9】水路の水の流速と、水車および集水板を昇降させるのに必要な電動機の駆動トルクとの関係を示す図である。
図10】水路の水位と、水車および集水板を昇降させるのに必要な電動機の駆動トルクとの関係を示す図である。
図11】駆動トルクと電動機に出力される駆動電流との関係を示す図である。
図12】水力発電装置による引上げ制御を示すフローチャートである。
図13】水力発電装置による引下げ制御を示すフローチャートである。
図14】ステップS13およびステップS23のサブルーチンの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、以下で説明する変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0012】
<水力発電装置全体の概略構成>
図1は、本実施の形態に係る水力発電装置100を示す斜視図である。図2は、本実施の形態に係る水力発電装置100の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。水力発電装置100は、水路1に設置される。水路1は、農業用水路、工業用水路、小河川等である。水路1において、水は、図中の方向Fに沿って流れる。
【0013】
図1および図2に示されるように、水力発電装置100は、水力発電モジュール2と、集水板3と、支持装置4と、昇降装置5と、水位センサ6と、流速センサ7と、制御装置8と、を備える。
【0014】
水力発電モジュール2は、水路1を流れる水の力を利用して発電する。水力発電モジュール2は、水車10と、発電機11と、ギヤボックス12と、架台13と、支柱14と、を含む。
【0015】
水車10は、水路1を流れる水の力を利用して回転する。典型的には、水車10は、複数の翼(たとえば、5つの翼)を含む。複数の翼の各々は、水平軸型のプロペラ式回転翼であり、水路1を流れる水の力で回転する。
【0016】
発電機11は、水車10の回転力を利用して発電するように構成される。発電機11は、たとえば三相同期発電機である。ただしこれに限定されず、発電機11は、種々の公知の発電機から任意の発電機を選んで採用され得る。発電機11には、図示しないDC/DCコンバータおよびDC/ACインバータが接続され、水力発電装置100から出力される電力が調整される。
【0017】
ギヤボックス12は、水車10の回転シャフトと接続される。架台13は、発電機11が載置される台である。架台13には水平軸15が固定されている。支柱14は、ギヤボックス12と架台13とを互いに接続する。支柱14は、円筒状である。支柱14の内部には、発電機11の回転シャフトが挿入される。発電機11の回転シャフトの一端は、ギヤボックス12を介して、水車10の回転シャフトと接続される。これにより、水車10の回転力が発電機11に伝達される。架台13および支柱14によって、水車10、発電機11およびギヤボックス12が一体化される。
【0018】
集水板3は、発電機11の発電量を増大させるために、水路1において水流を水車10に集める。典型的には、集水板3は、水路1において水車10よりも上流側において、水流方向に沿って水車10と重なり合わないように配置される。これにより、集水板3にぶつかった水の一部が水車10の方向に流れ、水車10を通過する水流が増大する。その結果、発電機11の発電量が増大する。
【0019】
集水板3は、たとえば矩形状である。しかしながら、集水板3の形状は、矩形状に限定されず、他の形状を取りうる。たとえば、集水板3は、水車10と重なり合う部分に穴が形成された形状であってもよい。
【0020】
支持装置4は、水力発電モジュール2および集水板3を支持する。図1に示されるように、支持装置4は、一対のフレーム20,20と固定梁21とを含む。一対のフレーム20,20は、水路1の両肩にそれぞれ設置される。固定梁21は、一対のフレーム20,20を互いに接続するように、水路1の幅方向に沿って設置される。
【0021】
昇降装置5は、水路1において水車10を昇降させる。さらに、昇降装置5は、水路1において集水板3を昇降させる。なお、図1には、昇降装置5によって水車10および集水板3が下降されたときの状態が示される。昇降装置5は、電動機30と、回転軸31と、駆動装置32(図1,2参照)と、伝達機構33(図2参照)と、を有する。
【0022】
電動機30は、たとえば三相の交流電動機である。回転軸31は、電動機30の動作に応じて回転する出力軸である。
【0023】
駆動装置32は、電動機30に三相の交流電流を出力し、電動機30を駆動する。駆動装置32は、インバータ回路を有する。インバータ回路を構成するスイッチング素子がオン/オフ制御されることにより、駆動装置32から電動機30へ三相の交流電流が供給される。
【0024】
伝達機構33は、回転軸31の回転力を水車10および集水板3の昇降運動に変換する機構である。伝達機構33の詳細については後述する。
【0025】
水位センサ6および流速センサ7は、水路1に設置される。水位センサ6は、水路1の水位を検知する。流速センサ7は、水路1の水の流速を検知する。水位センサ6および流速センサ7は、検知結果を制御装置8に出力する。
【0026】
水位センサ6は、たとえば、水面の上下に伴ってフロートが上下することにより水面の変化を検知するフロート式のセンサである。しかしながら、水位センサ6は、フロート式に限定されず、その他の方式で水位を検知するセンサであってもよい。たとえば、水位センサ6は、水面で反射した超音波を受信して水位を検知する超音波式、静電容量式、圧力式等の種々の形式のセンサであってもよい。流速センサ7は、たとえば、プロペラ式流速計、電磁式流速計である。水位センサ6および流速センサ7は、水路1において、水車10の下流側および上流側のいずれに設置されてもよい。
【0027】
制御装置8は、演算装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、記憶装置と、各種信号を入出力するための入出力ポートと(いずれも図示せず)を含んで構成される。記憶装置は、作業用メモリとしてのRAM(Random Access Memory)と、保存用ストレージ(ROM(Read Only Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ等)とを含む。記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種制御が実行される。ただし、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0028】
制御装置8は、入力ポートに接続された水位センサ6および流速センサ7から信号を受信し、受信した信号に基づいて出力ポートに接続された昇降装置5を制御する。具体的には、制御装置8は、水位センサ6および流速センサ7から信号に応じた駆動電流を決定する。制御装置8は、決定した駆動電流が電動機30に供給されるように、駆動装置32のインバータ回路を構成するスイッチング素子のパルス幅を制御(PWM(Pulse Width Modulation)制御)する。すなわち、制御装置8は、決定した駆動電流を電動機30に供給するためのデューティー比を演算し、演算されたデューティー比に従って、スイッチング素子のオン/オフを制御する。
【0029】
さらに、制御装置8は、水力発電装置100の状況に応じて、水車10および集水板3の昇降のタイミングを制御する。
【0030】
さらに、制御装置8は、発電機11による発電によって水力発電装置100から所望の電力が出力されるように、図示しないDC/DCコンバータおよびDC/ACインバータを制御する。
【0031】
<伝達機構>
上述したように、昇降装置5は、水路1において集水板3を昇降させる。図3は、集水板3を上昇させたときの水力発電装置100を示す斜視図である。図1,3に示されるように、集水板3は、上下方向に直線運動することにより、昇降する。
【0032】
図4は、集水板3を下降させたときの伝達機構33の一部を示す断面図である。図5は、集水板3を上昇させたときの伝達機構33の一部を示す断面図である。図4,5に示されるように、伝達機構33は、回転軸31の回転力を集水板3の昇降運動に変換する機構として、回転軸31に取り付けられたギヤ41と、ピンギヤ42と、ピンラック43と、を有する。さらに、伝達機構33は、ギヤ41とピンギヤ42との切断と接続を切り替えるクラッチ(図示せず)を有する。図4,5には、ギヤ41とピンギヤ42とが接続されたときの状態が示される。なお、ギヤ41とピンギヤ42との間に別のギヤが設けられてもよい。また、ギヤ41はウォームギヤであってもよい。
【0033】
ピンギヤ42は、ピンラック43を噛み合っている。ピンラック43は、鉛直方向から僅かに傾斜して配置される。集水板3は、ピンラック43に固定されている。これにより、回転軸31が回転することにより、ピンギヤ42が回転し、ピンラック43が上下方向に直線運動する。その結果、集水板3は、少なくとも一部が水路1の水中に存在する水没状態(図4参照)と、全体が水路1の水面より上に位置する待機状態(図5参照)とのいずれかを取り得る。
【0034】
上述したように、昇降装置5は、水路1において水車10を昇降させる。図6は、水車10を上昇させたときの水力発電装置100を示す斜視図である。図1,6に示されるように、水力発電モジュール2が架台13の水平軸15を中心に回動することにより、水車10が昇降する。
【0035】
図7は、水車10を下降させたときの伝達機構33の一部を示す断面図である。図8は、水車10を上昇させたときの伝達機構33の一部を示す断面図である。図7,8に示されるように、伝達機構33は、回転軸31の回転力を水車10の昇降運動に変換する機構として、回転軸31に取り付けられたギヤ44と、架台13の水平軸15に取り付けられたギヤ45とを有する。さらに、伝達機構33は、ギヤ44,45の切断と接続を切り替えるクラッチ(図示せず)を有する。図7,8には、ギヤ44,45が接続されたときの状態が示される。なお、ギヤ44,45との間に別のギヤが設けられてもよい。また、ギヤ44はウォームギヤであってもよい。
【0036】
回転軸31が回転することにより、ギヤ44,45が回転し、架台13は、水平軸15を中心に回転する。水車10は、ギヤボックス12および支柱14を介して、架台13に接続されている。そのため、架台13の回転に伴い、水車10は、水平軸15を中心に回動する。その結果、水車10は、少なくとも一部が水路1の水中に存在する水没状態(図7参照)と、全体が水路1の水面より上に位置する待機状態(図8参照)とのいずれかを取り得る。
【0037】
<駆動トルクの制御>
図9図11を参照して、制御装置8による電動機30の駆動トルクの制御方法について説明する。
【0038】
図9は、水路1の水の流速と、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な電動機30の駆動トルクT1との関係を示す図である。図9には、水路1の水位が基準水位H0であるときの流速と駆動トルクT1との関係が示される。図9に示す関係は、実験またはシミュレーションによって得られる。駆動トルクT1は、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクの最小値であってもよいし、当該最小値に所定のマージンを加えた値であってもよい。
【0039】
水位が基準水位H0であり、かつ、流速が基準流速V0であるときに、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクをT0とすると、T1は、T1=k1×T0で表される。駆動トルクT0は、水位が基準水位H0であり、かつ、流速が基準流速V0であるときに、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクの最小値であってもよいし、当該最小値に所定のマージンを加えた値であってもよい。図9に示されるように、流速が速くなるにつれて、駆動トルクT1は大きくなる。そのため、係数k1も、流速が速くなるにつれて大きくなる。さらに、流速の変化に対する駆動トルクT1および係数k1の変化率も、流速が速くなるにつれて大きくなる。
【0040】
図10は、水路1の水位と、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な電動機30の駆動トルクT2との関係を示す図である。図10には、水路1の流速が基準流速V0であるときの水位と駆動トルクT2との関係が示される。図10に示す関係は、実験またはシミュレーションによって得られる。駆動トルクT2は、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクの最小値であってもよいし、当該最小値に所定のマージンを加えた値であってもよい。
【0041】
水位が基準水位H0であり、かつ、流速が基準流速V0であるときに、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクT0を用いて、T2は、T2=k2×T0で表される。図10に示されるように、水位が高くなるにつれて、駆動トルクT2は大きくなる。そのため、係数k2も、水位が高くなるにつれて大きくなる。さらに、水位の変化に対する駆動トルクT2および係数k2の変化率も、水位が高くなるにつれて大きくなる。
【0042】
制御装置8は、水位が基準水位H0であるときの流速と係数k1との関係を示す第1相関情報を予め記憶しており、第1相関情報に基づいて、流速センサ7から取得した流速に対応する係数k1を決定する。第1相関情報は、図9に示す関係から予め作成される。第1相関情報は、関数であってもよいし、制御マップ、ルックアップテーブルであってもよい。
【0043】
同様に、制御装置8は、流速が基準流速V0であるときの水位と係数k2との関係を示す第2相関情報を予め記憶しており、第2相関情報に基づいて、水位センサ6から取得した水位に対応する係数k2を決定する。第2相関情報は、図10に示す関係から予め作成される。第2相関情報は、関数であってもよいし、制御マップ、ルックアップテーブルであってもよい。
【0044】
制御装置8は、基準水位H0および基準流速V0のときに水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクT0を予め記憶している。制御装置8は、決定した係数k1,k2と駆動トルクT0とを用いて、以下の式(1)に従って、現在の流速および水位に応じた、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクTを演算する。
T=k1×k2×T0 ・・・式(1)。
【0045】
図11は、駆動トルクと電動機30に出力される駆動電流との関係を示す図である。図11に示されるように、駆動電流は、駆動トルクに比例する。制御装置8は、駆動トルクと駆動電流との関係を示す第3相関情報を予め記憶しており、第3相関情報に基づいて、駆動トルクTに対応する駆動電流を決定する。第3相関情報は、図11に示す関係から予め作成される。第3相関情報は、関数であってもよいし、制御マップ、ルックアップテーブルであってもよい。制御装置8は、決定した駆動電流が電動機30に供給されるように駆動装置32を制御する。
【0046】
<処理の流れ>
図12図14を参照して、水車10および集水板3の昇降に関する処理の流れについて説明する。
【0047】
図12は、水力発電装置100による引上げ制御を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、水車10および集水板3が水没状態(図1参照)であるときに所定時間経過毎にメインルーチンから呼び出されて繰り返し実行される。図12に示すステップS11~S13は、制御装置8によって実行される。
【0048】
ステップS11において、制御装置8は、水没状態における所定の制御を実行する。たとえば、制御装置8は、発電機11による発電によって水力発電装置100から所望の電力が出力されるように、図示しないDC/DCコンバータおよびDC/ACインバータ等を制御する。
【0049】
ステップS12において、制御装置8は、所定の引上げ条件が成立するか否かを判断する。引上げ条件は、予め任意に設定される。たとえば、引上げ条件は、水車10に付着した異物の量が許容範囲を超えるという条件である。制御装置8は、水車10の回転速度を監視し、単位時間あたりの水車10の回転速度の変化量または水車10の回転トルクが閾値を超えた場合に、水車10に付着した異物の量が許容範囲を超えたと判断すればよい。あるいは、引上げ条件は、水車10および集水板3が水没状態になってから所定時間が経過したという条件であってもよい。
【0050】
引上げ条件が成立しない場合(S12でNO)、処理はステップS11に戻る。ステップS12において引上げ条件が成立しないと判断される間は、ステップS11の発電制御が継続的に行なわれる。
【0051】
引上げ条件が成立する場合(S12でYES)、ステップS13において、制御装置8は、駆動装置32を制御して、水車10および集水板3を待機状態(図5および図8参照)まで上昇させる。これにより、水力発電装置100は、図12の引上げ制御を終了する。
【0052】
図13は、水力発電装置100による引下げ制御を示すフローチャートである。このフローチャートに示される処理は、水車10および集水板3が待機状態であるときに所定時間経過毎にメインルーチンから呼び出されて繰り返し実行される。図13に示すステップS21~S23は、制御装置8によって実行される。
【0053】
ステップS21において、制御装置8は、待機状態における所定の制御を実行する。たとえば、制御装置8は、図示しないDC/DCコンバータを制御して、水力発電装置100から取り出される電力を水没状態よりも小さくする。これにより、発電機11の発電負荷が水没状態よりも小さくなる。待機状態では、水面Sよりも上に存在する水車10から異物が離れやすくなる。また、発電機11の発電負荷が小さくなると、水車10が回転しやすくなるため、水車10の回転により異物が水車10から離れやすくなる。このため、待機状態における発電機11の発電負荷を水没状態よりも小さくすることで、より確実に異物を除去することが可能になる。なお、制御装置8は、発電機11を発電負荷が無い状態にし、発電機11による発電を停止させてもよい。これにより、水車10の回転により異物が水車10から離れやすくなる。
【0054】
ステップS22において、制御装置8は、所定の引下げ条件が成立するか否かを判断する。引下げ条件は、任意に設定される。たとえば、引下げ条件は、水車10および集水板3が待機状態になってから所定時間が経過したという条件である。当該所定時間は、水車10から異物を除去するために十分長く、かつ、発電量を過度に低下させない程度に短く設定される。
【0055】
引下げ条件が成立しない場合(S22でNO)、処理はステップS21に戻る。ステップS22において引下げ条件が成立しないと判断される間は、水車10および集水板3が待機状態に維持された状態で、ステップS21の発電制限が継続的に行なわれる。
【0056】
引下げ条件が成立する場合(S22でYES)、ステップS23において、制御装置8は、駆動装置32を制御して、水車10および集水板3を水没状態(図1参照)まで下降させる。これにより、水力発電装置100は、図13の引下げ制御を終了する。
【0057】
図14は、ステップS13およびステップS23のサブルーチンの流れを示すフローチャートである。
【0058】
ステップS31において、制御装置8は、流速センサ7によって検知された流速を取得する。ステップS32において、制御装置8は、水位センサ6によって検知された水位を取得する。
【0059】
ステップS33において、制御装置8は、第1相関情報に基づいて、取得した流速に対応する係数k1を決定する。ステップS34において、制御装置8は、第2相関情報に基づいて、取得した水位に対応する係数k2を決定する。ステップS35において、制御装置8は、決定した係数k1,k2と駆動トルクT0とを上記の式(1)に代入して、現在の流速および水位に応じた、水車10および集水板3を昇降させるのに必要な駆動トルクTを演算する。
【0060】
ステップS36において、制御装置8は、第3相関情報に基づいて、駆動トルクTに対応する駆動電流を決定する。ステップS37において、制御装置8は、決定した駆動電流が電動機30に供給されるように駆動装置32を制御する。具体的には、制御装置8は、決定した駆動電流に応じて、駆動装置32のインバータ回路を構成するスイッチング素子のデューティー比を演算し、演算されたデューティー比に従ってPWM制御を行なう。
【0061】
<変形例>
上記の説明では、水力発電装置100は、集水板3を備える。しかしながら、幅の狭い水路1に設置される水力発電装置100の場合、集水板3が省略されてもよい。この場合、駆動トルクT0は、水位が基準水位H0であり、かつ、流速が基準流速V0であるときに、水車10を昇降させるのに必要なトルクを示す。制御装置8によって決定される係数k1は、流速センサ7から取得した流速のときに水車10を昇降させるのに必要な電動機30の駆動トルクを駆動トルクT0で除算した値を示す。制御装置8によって決定される係数k2は、水位センサ6から取得した水位のときに水車10を昇降させるのに必要な電動機30の駆動トルクを駆動トルクT0で除算した値を示す。
【0062】
上記の説明では、水力発電装置100は、水位センサ6および流速センサ7の両者を備える。しかしながら、水力発電装置100は、水位センサ6および流速センサ7のうちの1つのみを備えていてもよい。たとえば、水位と流速との間に相関関係がある場合、制御装置8は、当該相関関係を示す情報を用いて、水位センサ6によって検知された水位から流速を推定できる。あるいは、制御装置8は、当該相関関係を示す情報を用いて、流速センサ7によって検知された流速から水位を推定できる。そのため、制御装置8は、水位および流速のうちの1つから駆動トルクTを演算できる。
【0063】
電動機30は、交流電動機に限定されず、他の方式の電動機であってもよい。たとえば、電動機30は、同期電動機または直流電動機であってもよい。
【0064】
あるいは、昇降装置5は、電動機30の代わりに圧力モータを有していてもよい。圧力モータには、油圧モータ、空気圧モータが含まれる。この場合、制御装置8は、水位センサ6によって検知された水位および流速センサ7によって検知された流速に応じた駆動トルクで圧力モータを駆動させるために、流体制御弁の開度を制御して、圧力(たとえば油圧、空気圧)を調整すればよい。
【0065】
昇降装置5は、水車10および集水板3を同時に昇降させてもよいし、タイミングをずらして昇降させてもよい。水車10および集水板3を昇降させるタイミングをずらすことにより、必要な駆動トルクを低減させることができる。
【0066】
<作用・効果>
以上のように、水力発電装置100は、水路1を流れる水の力を利用して回転する水車10と、水車10の回転力を利用して発電する発電機11と、水路1において水車10を昇降させる昇降装置5と、を備える。さらに、水力発電装置100は、水路1の水位を検知する水位センサ6および水路1の水の流速を検知する流速センサ7の少なくとも1つと、昇降装置5の駆動トルクを制御する制御装置8と、を備える。制御装置8は、水力発電装置100が水位センサ6を備える場合に水位が高くなるほど大きくなるように駆動トルクを決定し、水力発電装置100が流速センサ7を備える場合に流速が速くなるほど大きくなるように駆動トルクを決定する。
【0067】
上記の構成によれば、水位および流速の少なくとも1つに応じた駆動トルクに従って昇降装置5が動作する。駆動トルクは、水位が高くなるほど大きくなるように決定され、流速が高くなるほど大きくなるように決定される。そのため、豪雨等において水位が高くなったり、あるいは、流速が速くなったりして、水車10に加わる抵抗が大きくなったとしても、トルク不足により水車10の昇降が不可能になることを回避できる。さらに、水位が低く、流速の遅い場合には、不必要な消費電力量の増大を抑制できる。
【0068】
水力発電装置100は、水車10に水流を集めるための集水板3をさらに備える。昇降装置5は、水路1において集水板3をさらに昇降させる。
【0069】
上記の構成によれば、豪雨等において水位が高くなったり、あるいは、流速が速くなったりして、集水板3に加わる抵抗が大きくなったとしても、トルク不足により集水板3の昇降が不可能になることを回避できる。さらに、水位が引く、流速の遅い場合には、低い消費電力量で集水板3を昇降できる。
【0070】
水力発電装置100は、水位センサ6および流速センサ7を備える。制御装置8は、水位が高くなるほど大きくなるように係数k1を決定し、流速が速くなるほど大きくなるように係数k2を決定する。制御装置8は、係数k1と係数k2との積を用いて駆動トルクTを演算する。
【0071】
上記の構成によれば、制御装置8は、簡易な演算によって、水位および流速に応じた駆動トルクTを決定できる。
【0072】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 水路、2 水力発電モジュール、3 集水板、4 支持装置、5 昇降装置、6 水位センサ、7 流速センサ、8 制御装置、10 水車、11 発電機、12 ギヤボックス、13 架台、14 支柱、15 水平軸、20 フレーム、21 固定梁、30 電動機、31 回転軸、32 駆動装置、33 伝達機構、41,44,45 ギヤ、42 ピンギヤ、43 ピンラック、100 水力発電装置、S 水面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図14