(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のカソード組成物、その作製方法、カソード及びそれを備えるリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20240705BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240705BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240705BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240705BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240705BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/62 Z
C08L69/00
C08L23/08
(21)【出願番号】P 2020520018
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 FR2018052384
(87)【国際公開番号】W WO2019073140
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-22
(32)【優先日】2017-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591136931
【氏名又は名称】ハッチンソン
【氏名又は名称原語表記】HUTCHINSON
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュフォー ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン マルク
(72)【発明者】
【氏名】アスタフィエヴァ クセニア
(72)【発明者】
【氏名】ルクレール メラニー
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513175(JP,A)
【文献】特開2008-300302(JP,A)
【文献】特開2010-009940(JP,A)
【文献】特開2005-108738(JP,A)
【文献】特開2006-169323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/1399
H01M 4/36- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C08L 69/00
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物を含む活物質と、導電性フィラーと、ポリマーバインダーとを含むリチウムイオン電池に使用可能な組成物であって、
前記ポリマーバインダーは、出発ポリマーの熱的酸化反応の生成物であり、CO基を含む含酸素基を備えた少なくとも1つの変性ポリマー(Id2)を含む組成物の作製方法であって、連続的に、
a)前記活物質と、前記出発ポリマーと、前記導電性フィラーと、犠牲ポリマー相とを含む組成物の成分を無溶剤で溶融配合することで、前記組成物の前駆体混合物を得ることと、
ここで、前記出発ポリマーは:
(i)非水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(NBR)及び/又は水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)であって、それぞれ、40%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量を有するNBR及び/又はHNBRを含む;又は
(ii)非極性脂肪族ポリオレフィンであり、
b)前記前駆体混合物を金属集電体上に被膜形で堆積させることと、次いで、
c)10
4Paを超える酸素分圧に従って酸素を含む雰囲気下で、かつ150℃から300℃の間の酸化温度で前記被膜を前記熱的酸化反応させて、犠牲ポリマー相を全体的又は部分的に除去し、前記少なくとも1つの変性ポリマーを得ることと、
を含み、
前記(i)の場合、前記NBR及び/又はHNBRは前記熱的酸化反応により架橋されており、
前記(ii)の場合、前記非極性脂肪族ポリオレフィンは境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の重量含量を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
工程a)、工程b)及び工程c)は、前記前駆体混合物から単一の前記被膜を得ることによって行われ、前記工程a)は、内部ミキサー又は押出機において行われ、前記被膜は、90μm以上の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記犠牲ポリマー相は、末端基を含み、その50mol%超がヒドロキシル官能基を有する少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記犠牲ポリマー相は、
500から5000の間の重量平均分子量を有する前記ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと、
20000から400000の間の重量平均分子量を有するポリ(アルケンカーボネート)と、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程a)で混合された前記成分は、反応性ポリシロキサン化合物又はポリイソシアネート化合物も含み、前記反応性ポリシロキサン化合物又はポリイソシアネート化合物は、前記配合の間に前記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと反応し、前記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールは、前記反応性化合物に由来するシロキサン基又はイソシアネート基を前記末端基にグラフトさせることにより官能化される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
工程c)は、出発温度から制御して温度上昇させた後に、前記酸化温度で等温にすることで、前記犠牲ポリマー相を熱分解して、前記少なくとも1つの変性ポリマーが前記含酸素基を有するように前記出発ポリマーを変性させることにより行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)で使用される前記出発ポリマーは、非水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(NBR)及び/又は水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)を含み、前記NBR及び/又は前記HNBRはそれぞれ、40%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量を有し、工程c)で前記熱的酸化反応により架橋される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程a)で使用される前記出発ポリマーは、非極性脂肪族ポリオレフィンを含み、前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、工程c)で変性されて、工程a)で得られる前記前駆体混合物において境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の重量含量を有する前記少なくとも1つの変性ポリマーが得られる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記出発ポリマー及び前記犠牲ポリマー相は、2つの分離相を形成する、請求項3~5及び請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記出発ポリマーは、前記水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)を含み、前記HNBRは、
44%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量、及び/又は、
規格ASTM D5902-05に従って測定された10%超のヨウ素価、
を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、脂肪族オレフィンのホモポリマー、少なくとも2つの脂肪族オレフィンのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に使用可能なカソード組成物、この組成物の作製方法、そのようなカソード及びセル又は各セルがこのカソードを備えるリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池には、負極が金属リチウム(この材料は液体電解質の存在下で安全性の問題がある)から構成されるリチウム金属電池と、リチウムがイオン状態に留まるリチウムイオン電池との主要な2種類が存在する。
【0003】
リチウムイオン電池は、極性の異なる少なくとも2つの伝導性ファラデー電極、すなわち負極又はアノード及び正極又はカソードから構成され、それらの電極の間には、イオン伝導性を保証するLi+カチオンに基づく非プロトン性電解質で含浸された電気絶縁体からなるセパレーターが存在する。これらのリチウムイオン電池に使用される電解質は、通常、例えば、式LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3又はLiClO4のリチウム塩からなり、そのリチウム塩は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、又は殆どの場合は炭酸エステル、例えばエチレンカーボネート若しくはプロピレンカーボネート等の非水性溶剤の混合物中に溶解されている。
【0004】
リチウムイオン電池は、電池の充放電の間にアノードとカソードとの間でリチウムイオンが可逆的に交換されることに基づき、リチウムの物理的特性により、非常に低い重量に対して高いエネルギー密度を有している。
【0005】
リチウムイオン電池のアノードの活物質は、リチウムの可逆的な挿入/脱離の部位となるように設計されており、典型的には黒鉛(370mAh/gの理論容量及びLi+/Li対に対する0.05Vの酸化還元電位)又は代替的には、例えば中でも式Li4Ti5O12のリチウムチタン酸化物が含まれる混合金属酸化物から構成される。カソードの活物質に関しては、それは通常、
少なくとも1つの遷移金属の酸化物、例えば特にリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物の「NMC合金」若しくはリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物の「NCA」合金、又は、
リチウム鉄リン酸塩、
から構成される。
【0006】
したがって、これらの活物質は、アノード及びカソードへのリチウムの可逆的な挿入/脱離を可能にし、アノード及びカソード中の活物質の重量割合が大きいほど、電極の容量は大きくなる。
【0007】
これらの電極はまた、カーボンブラック等の導電性化合物と、そこに十分な機械的凝集力を付与するためにポリマーバインダーとを含有する必要がある。
【0008】
リチウムイオン電池の電極は、殆どの場合、電極の成分を溶剤中に溶解又は分散させる工程と、得られた溶液又は分散液を金属集電体上に塗布する工程と、次いで最後に溶剤を蒸発させる工程とを連続的に含む液体ルートの方法によって製造される。有機溶剤を使用する方法(例えば、特許文献1の文献に示される方法)は、特に、毒性又は可燃性のこれらの多量の溶剤を蒸発させる必要があるため、環境及び安全性の分野において不利点を表す。水性溶剤を使用する方法に関しては、それらの主な不利点は、使用可能となる前に電極を非常に徹底的に乾燥させる必要があることであり、その際、微量の水によりリチウム電池の耐用年数が限定される。例えば、特許文献2の文献によって、活物質として、リチウムNCA酸化物の合金と組み合わせてリチウムコバルト酸化物(LCO)の別の合金及びバインダーとしてのポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)を使用することを教示する、リチウムイオン電池のカソードの液体ルートの製造方法の記載について言及され得る。
【0009】
したがって、過去には、溶剤を使用せずに、特に溶融加工技術(例えば、押出による)によって、リチウムイオン電池の電極を製造することが試みられてきた。残念ながら、これらの溶融方法は、電池内で電極が十分な容量を有するのに電極のポリマー混合物中に85%を超える活物質の重量割合を必要とするこれらの電池の場合には大きな問題を引き起こす。実際は、そのような活物質の含量では、混合物の粘度が非常に高くなることから、混合物の過熱及びその加工後の機械的凝集力の損失のリスクにつながる。特許文献3の文献は、電極活物質と導電体並びにポリアクリロニトリル(PAN)、PVDF又はポリビニルピロリドン(PVP)等のポリマーバインダー、リチウム塩及びこのポリマーに対して大過剰のプロピレンカーボネート/エチレンカーボネート混合物を含む固体電解質組成物とを配合することを含む、リチウムポリマー電池の電極の押出による連続的作製方法を表す。この文献では、得られたアノードポリマー組成物に存在する活物質の重量割合は70%未満であり、それはリチウムイオン電池には明らかに不十分である。
【0010】
特許文献4の文献は、その実施例において、リチウムイオン電池のカソード組成物の実質的に無溶剤の作製方法においてバインダーとしてPVDFを使用することを教示しており、その活物質はリチウムNMC酸化物の合金であり、カソード組成物は集電体上にバフ仕上げにより堆積される。この文献は、かかるフッ素化ポリオレフィン、例えばPVDF又はテトラフルオロエチレンポリマーに加えて、エチレン、プロピレン又はブチレンから作製されたポリオレフィン等の非変性ポリオレフィンの使用が可能であることについて言及している。
【0011】
特許文献5の文献は、多軸スクリュー押出機中で溶剤を用いずに作製されるリチウムイオン電池の電極組成物において、バインダーとして、エチレンオキシド/プロピレンオキシド/アリルグリシジルエーテルコポリマー等のアルケンオキシドの極性ポリマーを、任意にPVDF、PAN、PVP、エチレン/プロピレン/ジエンターポリマー(EPDM)又はエマルジョン中で作製されたスチレン/ブタジエンコポリマー(SBR)等の非イオン伝導性ポリマーと組み合わせて含むイオン伝導性ポリエーテルを使用することを教示している。この文献の唯一の実施例では、電極組成物中に存在する活物質(リチウムバナジウム酸化物)の重量割合はたったの64.5%であり、それはリチウムイオン電池には明らかに不十分である。
【0012】
特許文献6の文献は、エチルセルロース、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール又はポリアルケンカーボネート等の犠牲ポリマーの熱分解による湿式経路又は乾式経路によって作製されるリチウムイオン電池の電極組成物におけるバインダーとしての熱可塑性ポリマーの使用を教示している。この分解は、アノード組成物の場合は不活性な雰囲気下(すなわち、非酸化的雰囲気、例えばアルゴン下)で、カソード組成物の場合は不活性又は酸化性のいずれかの雰囲気下(例えば、空気下)で行われる。この文献は、特定の活物質及び特定のバインダーを用いてアノード組成物又はカソード組成物を作製する例を含まないことから、こうして変性されておらず、ポリエチレン、ポリプロピレン及びフッ化ポリオレフィン、例えばPVDF又はPTFEから選択され得るバインダー等の該組成物の他の成分を分解しないように、不活性又は酸化性の雰囲気下で犠牲ポリマーの分解条件を慎重に制御することを指摘しているにすぎない。カソードの活物質に関しては、リチウムニッケル酸化物及び/又はリチウムコバルト酸化物が含まれ得る。
【0013】
本出願企業が代理する特許文献7の文献は、重量基準で少なくとも90%の活物質(例えば、式C-LiFePO4の炭素被覆されたリチウム鉄リン酸塩からなる)と、水素化ニトリルゴム(HNBR)等の架橋ジエンエラストマーからなるポリマーバインダーと、電池の電解質溶剤に使用可能な不揮発性有機化合物とを含むリチウムイオン電池のカソード組成物の、溶剤の蒸発によらない溶融による作製を教示している。
【0014】
これまた本出願企業が代理する特許文献8の文献は、犠牲ポリマー相を使用して、溶融ルートを介して溶剤の蒸発によらずに作製されたリチウムイオン電池のカソード組成物を表し、犠牲ポリマー相を活物質(コバルト若しくはマンガン等の金属のリチウム酸化物又はリチウムNMC酸化物の合金であり得る)及びこの相と相溶性である選択されたポリマーバインダーと混合して前駆体混合物を得て、後に犠牲ポリマー相を除去することで、上記組成物中の活物質の重量割合が80%を超えるにもかかわらず、溶融混合物の加工の間に可塑性及び流動性の改善が得られる。この文献では、その実施例において、成分の配合後に相のマクロ分離(macroseparation)を避け、前駆体混合物の炉内、空気下での熱処理による犠牲相の分解により得られる組成物の加工、集結性及び多孔性を制御するために、極性エラストマー(HNBR又はエチレン/エチルアクリレートコポリマー)から得られるバインダーを、それ自体も極性でありポリアルケンカーボネートである犠牲相との相溶性のために使用することが推奨される。この文献は、代替形態として、その他のバインダー形成ポリマーが使用可能であることについて言及しているが、それらのポリマーは選択された犠牲相と相溶性であり、こうして犠牲相が前駆体混合物中で連続的であり、その中でバインダーは分散相又は連続相であることを条件としており、その際、これらのその他のポリマーは、広義のポリオレフィン及びポリイソプレン等のエラストマーから選択することが可能である。したがって、この相溶性の制約により、前駆体混合物中に2つの分離相を有することを避けるために、犠牲相と同様の極性を有するバインダーを使用することが必要となる。この文献の実施例で得られるカソード被膜の測定された厚さに関して、それは50μmである。
【0015】
これらの最後の2つの文献に示されている電極組成物は、全体としてリチウムイオン電池に十分であるが、本出願企業は、その最近の研究の間に、溶融ルートにより高い含有量の活物質で得られたカソード組成物の電気化学的特性を更に改善することを探求した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許出願公開第2010/0112441号
【文献】中国公開特許第106450201号
【文献】米国特許第5749927号
【文献】国際公開第2013/090487号
【文献】米国特許第6939383号
【文献】米国特許第7820328号
【文献】欧州特許第2618409号
【文献】国際公開第2015/124835号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、85重量%を超えて活物質を含有するリチウムイオン電池の新規のカソード組成物であって、溶剤を用いずに溶融加工することができるが、上述の従来技術で得られるカソードと比較して、改善された表面エネルギー密度をカソードに与え、初回充放電サイクルでの可逆性並びに容量及びサイクル性(すなわち、複数サイクル後の容量の維持)が増加した又は少なくとも損なわれない、リチウムイオン電池のカソード組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、驚くべきことに、無溶剤の溶融方法により得られ、具体的にはリチウムニッケルコバルトアルミニウム(NCA)酸化物の合金を基礎とする活物質と、導電性フィラーと、バインダーの形成を目的とする出発ポリマーと、犠牲ポリマー相とを含む前駆体混合物を、制御された条件下で熱的酸化させると、この出発ポリマーは、有利には含酸素CO基により変性され得ることから、こうして得られたバインダーが、NCA合金との相乗効果により従来技術よりもずっと大きい厚さ、したがって坪量を有するカソード被膜を形成するが、該被膜のサイクル化に対する耐性を損なわず、カソードに改善された表面エネルギー密度及びリチウムイオン電池での動作における改善された頑強性を与える組成物を得ることを可能にするということを、本出願企業が見出したことで達成される。
【0019】
すなわち、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物の合金を含む活物質と、導電性フィラーと、ポリマーバインダーとを含む本発明によるカソード組成物は、リチウムイオン電池に使用可能であり、この組成物は、前記ポリマーバインダーが、出発ポリマーの熱的酸化反応の生成物であり、CO基を含む含酸素基を備えた少なくとも1つの変性ポリマーを含み、前記組成物は、溶融ルートによって溶剤の蒸発によらずに、前記活物質と、前記導電性フィラーと、前記出発ポリマーと、犠牲ポリマー相とを含む前駆体混合物に適用される前記熱的酸化反応の生成により得ることができるようなものである。
【0020】
バインダーのこの官能化とNCA型の合金を含む又は該合金からなるこのカソード活物質との組み合わせは、有利には、集電体上に堆積されたカソード被膜について非常に大きな厚さ、したがって坪量(以下で説明されるように150μm超で250μmまでであり得る厚さ)を得ることを可能にし、その結果として、高い表面エネルギー密度を得ることを可能にするが、リチウムイオン電池での動作におけるこれらの被膜の頑強性は損なわれないことに留意すべきである。
【0021】
また、こうして変性されたバインダー形成ポリマーとNCA活物質との間のこの相乗効果は、特にこれらの電気化学的特性の改善が得られる一因となるカソードの濡れ性の改善により反映されることに留意すべきである。
【0022】
また、本発明は、本出願企業に知られたリチウムイオン電池のカソードの従来技術とは、今日まで最も普及している液体ルートによる方法ではなく溶剤の蒸発を伴わない溶融方法において、具体的にNCA型の活物質が使用される点で区別されることに留意すべきである。
【0023】
本発明の別の好ましい特徴によれば、溶融ルートによって溶剤の蒸発によらずに得られる組成物は、前記前駆体混合物に適用される前記熱的酸化反応の生成物であり、前記犠牲ポリマー相は、104Paを超える酸素分圧に従って酸素を含む雰囲気下及び150℃から300℃の間(好ましくは190℃から280℃の間)の酸化温度で分解され、前記雰囲気の酸素が前記出発ポリマーと反応して、前記少なくとも1つの変性ポリマーが生成される。
【0024】
本発明の第1の態様によれば、前記組成物は、金属集電体上に堆積された被膜を形成して、90μm以上、好ましくは150μmから250μmの間の厚さを有する前記被膜を備えたカソードを形成することができる。
【0025】
本発明によるカソードと関連して、以下で説明されるように、150μm超で250μmに至り得るこの非常に大きな厚さは、単一経路(すなわち、単一の前駆体混合物から出発する配合工程及び堆積工程の単一の順序)で得ることができ、有利には、得られたカソード被膜は、リチウムイオン電池のサイクル化における亀裂又は裂け目の出現に対して優れた耐性を伴う。
【0026】
一般的に、上記犠牲相は、好ましくは、バインダー、より有利にはアルケンカーボネートの少なくとも1つのポリマーの熱分解温度より少なくとも20℃だけ低い熱分解温度を示すあらゆるポリマーを含み得る。
【0027】
本発明の有利な形態によれば、前記犠牲ポリマー相は、末端基を含み、その50mol%超(実際には更に80mol%超)がヒドロキシル官能基を含む少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールを含み得る。
【0028】
有利には、この有利な形態によれば、前記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールは、500g/molから5000g/molの間、好ましくは700g/molから2000g/molの間の重量平均分子量Mwを有するポリ(エチレンカーボネート)ジオール及びポリ(プロピレンカーボネート)ジオールから選択される線状脂肪族ジオールであり得る。
【0029】
例としては、以下の式:
【化1】
のポリ(プロピレンカーボネート)ジオールが、有利には使用され得る。
【0030】
上記の有利な形態の例によれば、前記犠牲ポリマー相は、
好ましくは50%未満(例えば、25%から45%の間の)の前記相中の重量割合に従って、500g/molから5000g/molの間の重量平均分子量Mwを有する前記ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと、
好ましくは50%超の(例えば、55%から75%の間の)前記相中の重量割合に従って、20000g/molから400000g/molの間の分子量Mwを有するポリ(アルケンカーボネート)と、
を含む。
【0031】
犠牲相中に500g/molから5000g/molの間のMwを有するポリ(アルケンカーボネート)ポリオールが重量基準で少量存在することにより、予想外にも、このポリ(アルケンカーボネート)ポリオールが上記相中に重量基準で優勢的に存在する場合と比較して、溶融加工の間の前駆体混合物の可塑化及び流動性並びに得られた組成物の機械的強度が改善され得ることに留意すべきである。
【0032】
より更に有利には本発明の上記の有利な形態によれば、上記組成物は、反応性ポリシロキサン化合物又はポリイソシアネート化合物を更に含み得ることから、その際、上記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールを、上記末端基に上記反応性化合物に由来するシロキサン基又はイソシアネート基をグラフトさせることにより官能化することが可能であり、それにより、これらの末端基は封鎖される。
【0033】
この反応性化合物と上記化合物のグラフトにより変性されるこのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールを含む犠牲ポリマー相との相互作用により、前駆体混合物が周囲温度(例えば、20℃から25℃の間)で貯蔵される場合に、NCAが前駆体混合物(すなわち、犠牲相の熱分解前)内のこの犠牲相の不所望な分解を触媒することに基づくNCA合金の使用に特有の技術的課題を解決することが可能となることに留意すべきである。NCAにより触媒されるポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの解重合の開始の結果として軟化してその凝集力の一部を失う前駆体混合物のこの安定性の問題は、一般的に、周囲温度で数時間貯蔵した後に、典型的には一部のNCAの場合には約6時間後に起こる。
【0034】
すなわち、本発明の上記反応性化合物により、犠牲相を除去してバインダーの出発ポリマーを変性させるために直ちに(すなわち、前駆体混合物の作製後数時間以内に)前駆体混合物を上記熱的酸化反応に供することを必要とせずに本発明の方法を実施することが可能となり、こうして、この化合物によりポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの鎖末端が封鎖されるため、ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの解重合が妨げられることにより、前駆体混合物の安定化機能が発揮されるおかげで、延長された耐用年数にわたり、例えば2日間以上にわたり前駆体混合物を貯蔵することが可能となる。
【0035】
本出願企業により、この反応性化合物の使用は、ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの後続の高温分解を妨害しないことが確認された。
【0036】
好ましくは、上記反応性化合物は、オルガノジシロキサン及びオルガノジイソシアネート、より更に有利には、例えばヘキサメチレンジシロキサン(HMDS)等の脂肪族ジシロキサン又は、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族ジイソシアネートから選択される。
【0037】
しかしながら、ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの鎖末端を封鎖する能力を条件として、他の脂肪族又は更には芳香族ジシロキサン及びジイソシアネートを使用可能であることに留意すべきである。
【0038】
概して、本発明による組成物は、有利には前記犠牲ポリマー相の分解により得られる30%超の、好ましくは35%から60%の間の体積基準の多孔度を示し得る。
【0039】
上記の有利な形態を含み得る本発明の第1の形態によれば、前記ポリマーバインダーのための前記出発ポリマーは、非水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(NBR)及び/又は水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)を含み、前記NBR及び/又は前記HNBRはそれぞれ、40%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量を有し得て、前記熱的酸化反応により架橋されて、前記少なくとも1つの変性ポリマーが得られる。
【0040】
この第1の形態によれば、上記ポリマーバインダーは、有利にはこうして変性されたNBR及び/又はこうして変性されたHNBRからなり得る。
【0041】
好ましくは、本発明の上記の第1の形態によれば、前記出発ポリマーは、前記水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)を含み、前記HNBRは、
44%以上の、好ましくは48%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量、及び/又は、
規格ASTM D5902-05に従って測定された10%超のヨウ素価、
を有する。
【0042】
上記の有利な形態を含み得る本発明の第2の形態によれば、前記出発ポリマーは非極性脂肪族ポリオレフィンであり、このポリオレフィンから得られる前記少なくとも1つの変性ポリマーは、境界値を含めて2%から10%の間の、好ましくは境界値を含めて3%から7%の間の酸素原子の重量含量を有する。
【0043】
この第2の形態によれば、上記ポリマーバインダーは、有利にはこうして変性された少なくとも1つの上記非極性脂肪族ポリオレフィンから形成され得る。
【0044】
有利には、前記少なくとも1つの変性ポリマーの前記含酸素基は、幾つかの前記CO基及びOH基を含み、
好ましくはカルボン酸官能基、ケトン官能基及び任意にまたエステル官能基を含むカルボニル基と、
アルデヒド基と、
アルコール基と、
を規定し得るC=O結合、C-O結合及び-OH結合を含むことが好ましい。
【0045】
上記第2の形態に関して、これらの含酸素基と2%~10%のこの酸素の重量含量(例えば、元素分析によって測定された重量/重量含量)との組み合わせは、これらの基により変性された上記少なくとも1つのポリマーが、出発非極性脂肪族ポリオレフィンより極性であるが、この官能化により全体的に非極性に留まり(すなわち、僅かに極性)、変性ポリオレフィンの鎖中のその含量が、得られるべき初回サイクルでの可逆性、例えばC/2レート又はC/5レートでの容量及び電極のサイクル性(すなわち、その容量の維持)を含む目標とする電気化学的特性に十分である(すなわち、少なくとも2%の酸素の重量含量)が、高すぎない(すなわち、最大10%の酸素の重量含量)ように制御されることにより表されることに留意すべきである。
【0046】
なぜならば、本出願企業は、比較試験の間に、非極性脂肪族ポリオレフィンの不十分な官能化(すなわち、上記重量含量が2%未満であり、例えばゼロであり、この場合に非極性ポリオレフィンは変性されていない)又は非極性脂肪族ポリオレフィンの過剰の官能化(すなわち、上記重量含量が10%を超える)により、特に本出願では両者とも不十分である初回充放電サイクル効率及びC/5レートでの容量に関して、リチウムイオン電池の電極に少なくとも部分的に不十分な電気化学的特性がもたらされることを立証したからである。
【0047】
また、非極性脂肪族ポリオレフィンのこの特別な官能化は、それを特徴付ける上記基及びこれらの基による官能化の程度の両方により、予想外にも上述の特許文献8の文献の教示を踏まえて、この非極性脂肪族ポリオレフィンを、極性(例えば、少なくとも1つのアルケンカーボネートポリマーに基づく)であるため、この出発非極性ポリオレフィンと非相溶性である犠牲相と組み合わせることを可能にすることに留意すべきである。また驚くべきことに、本発明によるこの変性された非極性脂肪族ポリオレフィンは、以下で明らかなように、この電池の極性電解質を有するリチウムイオン電池において使用することができる。
【0048】
「ポリオレフィン」は、既知のように、本明細書では、少なくとも1つのアルケンから及び任意にアルケン以外のコモノマーからも得られる脂肪族又は芳香族のホモポリマー又はコポリマー(「コポリマー」は定義によりターポリマーを含む)であるポリマーを意味すると解釈される。
【0049】
「脂肪族ポリオレフィン」は、線状又は分岐状であり得る非芳香族炭化水素ポリオレフィンであって、したがって、特にアルケンオキシド、アルケンカーボネートのポリマー並びにビニル芳香族モノマー、例えばスチレンから得られるホモポリマー及びコポリマーを除く、ポリオレフィンを意味すると解釈される。
【0050】
本発明により使用可能な非極性脂肪族ポリオレフィンは、極性官能基を有するポリオレフィン、例えばハロゲン化ポリオレフィン、例えばポリフッ化ビニリデン又はポリ塩化ビニリデン(PVDF又はPVDC)、ポリヘキサフルオロプロピレン及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を除くことに留意すべきである。
【0051】
より更に有利には、上記非極性脂肪族ポリオレフィンは、好ましくは、
例えば、ポリエチレン(例えば、低密度又は高密度、それぞれLDPE又はHDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブタ-1-エン及びポリメチルペンテンから選択される熱可塑性の種類、若しくは、
例えば、ポリイソブチレンから選択されるエラストマー性の種類、
であり得る、脂肪族モノオレフィンの線状若しくは分岐状の非ハロゲン化ホモポリマー、又は、
例えば、エチレン/オクテンコポリマー(例えば、限定されるものではないが、Elite(商標)5230Gの名称)、エチレン/ブテンコポリマー、プロピレン/ブテンコポリマー及びエチレン/ブテン/ヘキセンコポリマーから選択される熱可塑性の種類、若しくは、
例えば、エチレン及びα-オレフィンのコポリマー、例えばエチレン/プロピレンコポリマー(EPM)及びエチレン/プロピレン/ジエンターポリマー(EPDM、例えばVistalon(商標)8600(Exxon Mobile社)の名称又はNordel IP 5565(Dow社)の名称のEPDM製品)から選択されるエラストマー性の種類、
であり得る、2つの脂肪族モノオレフィンの線状若しくは分岐状の非ハロゲン化コポリマー、
である、脂肪族オレフィンのホモポリマー、少なくとも2つの脂肪族オレフィンのコポリマー及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0052】
上記の第2の形態によれば、前記非極性脂肪族ポリオレフィンは有利には、架橋されておらず、50%を超えるエチレンに由来する単位の重量含量を有し得て、例えば、エチレンと1-オクテンとのコポリマー及び/又はEPDMである。
【0053】
これらの非極性脂肪族ポリオレフィン、例えばEPDM又はポリエチレンは、特に従来技術において溶融状態で使用されるHNBR製品及びエチレン/エチルアクリレートコポリマーと比較して、それほど高価ではないという利点を表すことに留意すべきである。
【0054】
本発明の第2の態様によれば、前記組成物は、
85%超、好ましくは90%以上の重量割合に従って、NCA型のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物の前記合金を含む、有利には前記合金からなる前記活物質と、
5%未満、好ましくは1%から4%の間の重量割合に従って、前記ポリマーバインダーと、
1%から10%の間の、好ましくは6%から9%の間の重量割合に従って、カーボンブラック、セルロース由来の炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン及びそれらの混合物からなる群から選択される前記導電性フィラーと、
を含み得て、前記犠牲ポリマー相は、前記前駆体混合物に適用される前記熱的酸化により少なくとも部分的に除去される。
【0055】
カソード組成物中の上記活物質の85%を超えるこの重量割合は、該活物質を備えるリチウムイオン電池に高い性能を付与することに寄与することに留意すべきである。
【0056】
また、本発明によるカソード組成物中に、特にその製造方法を改善又は最適化するために1種以上の他の特定の添加剤を導入することが可能であることに留意すべきである。
【0057】
リチウムイオン電池の本発明によるカソードは、金属集電体と、該金属集電体を覆う上記定義の組成物から形成される被膜とを含み、前記被膜は、溶融ルートによって溶剤を用いずに前記前駆体混合物の単一の作製経路において得られる90μm以上の厚さを有し、リチウムイオン電池内のカソードの数回の充放電サイクル後に亀裂又は裂け目の出現に耐性を有し得ることを特徴とする。
【0058】
本発明の上記の第1の態様によれば、前記被膜は、単一経路において、有利には150μmから250μmの間の厚さを有し、前記カソードの、例えばC/2レートでの20回の充放電サイクル、好ましくは40回の充放電サイクル後に前記亀裂又は裂け目の出現に耐性を有し得る。
【0059】
有利には、初回充放電サイクルが、例えばC/5レートで4.3Vから2.5Vの間で行われる場合、前記カソードは、該カソードを備えたリチウムイオン電池に70%を超える初回充放電サイクル効率を付与することができる。
【0060】
また有利には、前記カソードは、該カソードを備えたリチウムイオン電池に、4.3Vから2.5Vの間で行われるサイクルの場合に、
カソード1g当たり140mAhを超えるC/5レートでの容量、及び/又は、
カソード1g当たり100mAhを超える、好ましくはカソード1g当たり130mAhを超えるC/2レートでの容量、及び/又は、
初回サイクルに対する、95%以上である20回のサイクル後、好ましくはまた40回のサイクル後のC/2レートでの容量の維持率、
を付与することができる。
【0061】
本発明によるリチウムイオン電池は、アノードと、カソードと、リチウム塩及び非水性溶剤を基礎とする電解質とを含む少なくとも1つのセルを含み、前記カソードは、上記定義のようなものであることを特徴とする。
【0062】
上記定義のカソード組成物の本発明による作製方法は、連続的に、
a)例えば内部ミキサー又は押出機において、上記活物質と、上記出発ポリマーと、上記導電性フィラーと、上記犠牲ポリマー相とを含む組成物の成分を無溶剤で溶融配合することで、上記組成物の前駆体混合物を得ることと、
b)上記前駆体混合物を金属集電体上に被膜形で堆積させることと、次いで、
c)104Paを超える酸素分圧に従って酸素を含む雰囲気下で、かつ150℃から300℃の間の酸化温度で様々な酸化期間(数分から30分間以上までに及び得る)にわたり上記被膜を熱的酸化反応させて、上記犠牲相を全体的又は部分的に除去し、上記少なくとも1つの変性ポリマーを得ることと、
を含む。
【0063】
したがって、この犠牲相は、得られた組成物に存在しない又は該組成物中に分解された残留形態で存在し得ることに留意すべきである。
【0064】
本発明の上記の第1の態様によれば、工程a)、工程b)及び工程c)は、前記前駆体混合物から得られる単一の被膜によって単一経路で行われ得て、この被膜は、90μm以上の、好ましくは150μmから250μmの間の厚さを有する。
【0065】
本発明の上記の有利な形態によれば、この方法で使用される上記犠牲相は、末端基を有し、その50mol%超(実際は更には80mol%超)がヒドロキシル官能基を有する上記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオール、好ましくは500g/molから5000g/molの間の分子量Mwを有するポリ(エチレンカーボネート)ジオール及びポリ(プロピレンカーボネート)ジオールから選択される線状脂肪族ジオールを含み得る。
【0066】
上記の有利な形態の上記例によれば、本発明のこの方法で使用される上記犠牲ポリマー相は、
好ましくは50%未満の上記相中の重量割合に従って、500g/molから5000g/molの分子量Mwを有する上記ポリ(アルケンカーボネート)ポリオール(周囲温度及び周囲圧力で液体)と、
好ましくは50%超の上記相中の重量割合に従って、20000g/molから400000g/molの分子量Mwを有するポリ(アルケンカーボネート)(周囲温度及び周囲圧力で固体)と、
を含む。
【0067】
上記のように、上記相中に500g/molから5000g/molの間のMwを有するポリ(アルケンカーボネート)ポリオールが重量基準で少量存在することにより、前駆体混合物の可塑化及び流動性並びにそれから得られた組成物の機械的強度が改善され得る。
【0068】
有利には、本発明の上記の有利な形態によれば、工程a)で混合された前記成分は、前記反応性ポリシロキサン化合物又はポリイソシアネート化合物も含み得て、前記反応性ポリシロキサン化合物又はポリイソシアネート化合物は、前記配合の間に前記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールと反応し、前記少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオールは、好ましくは脂肪族ジシロキサン等のオルガノジシロキサン及び脂肪族ジイソシアネート等のオルガノジイソシアネートから選択される前記反応性化合物に由来するシロキサン基又はイソシアネート基を前記末端基にグラフトさせることにより官能化される。
【0069】
前駆体混合物中の上記反応性化合物の重量割合に関して、それは好ましくは0.1%から2%の間である。
【0070】
上記説明のように、この反応性化合物が使用されることで、この化合物によりポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの鎖末端が封鎖されるため、ポリ(アルケンカーボネート)ポリオールの解重合が妨げられ、こうしてこの混合物は周囲温度で安定化され、酸化性熱処理が遅延するおかげで、延長された耐用年数(例えば少なくとも2日間)にわたり前駆体混合物が貯蔵可能となることにより、上記方法の単純化が可能となる。
【0071】
一般的に、有利には、工程c)は、好ましくは40℃から60℃の間の出発温度から上記酸化温度まで制御して温度上昇させた後に、この酸化温度で上記酸化期間の間に等温にすることで、上記犠牲相を熱分解して、上記少なくとも1つの変性ポリマーが幾つかの上記CO基を含む上記含酸素基を有するように上記出発ポリマーを変性させることにより実施することが可能である。
【0072】
本発明の上記第1の形態及び第2の形態に関して、上記熱的酸化反応は、したがって、得られた組成物において、上記出発ポリマーが上記のように(例えば、この第2の形態では、含酸素基CO及びOHにより変性されたポリマー中の酸素原子の重量割合が、境界値を含めて2%から10%の間である)変性されるように制御されることに留意すべきである。これは、本発明のこの方法が、この特定の官能化を得るために上記反応の正確な制御を必要とするためであり、その際、熱的酸化の温度、圧力及び期間の条件は、選択された出発ポリマーに適合される。
【0073】
任意に上記の有利な形態を含む本発明の上記の第1の形態によれば、工程a)で使用される前記出発ポリマーは、非水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(NBR)及び/又は水素化アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー(HNBR)を含み、前記NBR及び/又は前記HNBRはそれぞれ、40%以上のアクリロニトリルに由来する単位の重量含量を有し、工程c)で前記熱的酸化反応により架橋される。
【0074】
この第1の形態による出発ポリマーは、犠牲相が上記の有利な形態(すなわち、少なくとも1つのポリ(アルケンカーボネート)ポリオール)によるものである場合に、バインダーと犠牲相との間に相のマイクロ分離なく、工程a)の前駆体混合物中に存在することに留意すべきである。
【0075】
本発明の上記の第2の形態によれば、工程a)で使用される前記出発ポリマーは、好ましくは脂肪族モノオレフィンの熱可塑性及びエラストマー性のホモポリマー、少なくとも2つの脂肪族モノオレフィンの熱可塑性及びエラストマー性のコポリマー並びにそれらの混合物からなる群から選択される非極性脂肪族ポリオレフィンを含み、前記非極性脂肪族ポリオレフィンは、工程c)で変性されて、工程a)で得られる前記前駆体混合物において境界値を含めて2%から10%の間の酸素原子の重量含量を有する前記少なくとも1つの変性ポリマーが得られる。
【0076】
この第2の形態による出発ポリマーは、犠牲相が上記の有利な形態によるものである場合に、バインダーと犠牲相との間に相のマイクロ分離を伴って、2つの分離相を形成して、工程a)の前駆体混合物中に存在することに留意すべきである。
【0077】
したがって、有利には、上記非極性脂肪族ポリオレフィンと、反対に極性である上記犠牲ポリマー相との間の非相溶性にもかかわらず、本発明の組成物を得るために化合物の相溶化を一切省くことが可能であることに留意すべきである。
【0078】
したがって、バインダーのために上記の有利な形態における極性の犠牲相と非相溶性(また電池のために使用されるこれまた極性である電解質とも非相溶性である)の非極性出発ポリマーが使用され、その出発ポリマーは、非極性脂肪族ポリオレフィン(すなわち、ポリオレフィンのファミリーにおいて芳香族ポリオレフィン及び極性ポリオレフィンを除く)であり、上記少なくとも1つの変性ポリマーがその酸素の重量含量について上述の限定された範囲を満たすようにこれらの含酸素基を加えることにより、犠牲相の除去後に得られる組成物において非常に特異的かつ制御された様式で変性されることから、本発明の上記の第2の形態は、上述の特許文献8の文献の教示に反するものである。
【0079】
本発明の他の特性、利点及び詳細は、添付の図面に関連して、限定するものではなく例示的に示される、本発明の幾つかの実施例の以下の説明を読み取ることで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】非変性HNBRから形成される第1の対照バインダー及び同じHNBRから形成されるが変性されている本発明による第1のバインダーから構成される2つのエラストマー性の被膜の波数に対する吸光度の変化を示す、フーリエ変換赤外分光法(FTIRと略される)により測定された吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図2】非変性EPDMから形成される第2の対照バインダー及び同じEPDMから形成されるが変性されている本発明による第2のバインダーから構成される2つのエラストマー性の被膜の波数に対する吸光度の変化を示す、FTIRにより測定された吸収スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0081】
溶融経路により作製されたリチウムイオン電池のカソードの対照例及び本発明による例
これらの全ての例において、以下の成分を使用した:
a)活性成分として、それぞれのグレードのリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物の2種のNCA合金(Targray社):
a1)SNCA01001、及び、
a2)SNCA04001、
b)伝導性フィラーとして、カーボンブラックSuper C65(Timcal社)及びセルロース由来の炭素系剤CMC(Pyrograph)、
c)犠牲ポリマー相として、一方は、液体であり、ジオール官能基を有するNovomer社製のConverge(商標)Polyol 212-10という名称のポリプロピレンカーボネートと、もう一方は、固体であり、Empower Materials社製のQPAC(商標)40という名称のポリプロピレンカーボネートとの、この犠牲相中に約65%~35%又は35%~65%のそれぞれの重量割合に従って存在する2種のポリプロピレンカーボネート(PPC)のブレンド、
d)バインダーの形成が意図される出発ポリマーとして、
d1)50%のアクリロニトリル含量及び23のヨウ素価を示すZetpol(商標)0020 HNBR(Zeon Chemicals社)、及び、
d2)58.0%のエチレンの重量含量及び8.9%のエチリデンノルボルネン(ENB)の含量を有する本発明によるVistalon(商標)8600 EPDM(Exxon Mobil社)ターポリマー、
e)安定化剤として、ヘキサメチレンジシロキサン(HMDS)(Sigma-Aldrich社)。
【0082】
カソードの溶融加工のためのプロトコル:
成分a1)又はa2)、b)、c)、d1)又はd2)及び任意にe)(唯一の組成物I2のため)を基礎とする本発明による8つのカソード組成物I1~I8を、69cm3の容量を有するHaake Polylab OS型の内部ミキサーによって60℃から75℃の間の温度で溶融加工した。
【0083】
こうして得られた混合物を、周囲温度でScamex外部開放型ミルを使用して、600μmの厚さに至るまでカレンダー加工して、次いで70℃で再びカレンダー加工することで、90μmから250μmの範囲の厚さに至った。シートカレンダーを70℃で使用して、こうして得られた前駆体混合物からなる被膜を炭素で被覆されたアルミニウム集電体上に堆積させた。
【0084】
こうして作製されたカソードの前駆体被膜を通気炉内に入れて、そこから犠牲相(固体及び液体のPPC)を取り出した。それらの被膜を50℃から250℃までの制御された温度勾配にかけ、次いで250℃で30分間等温にすることで、それらを周囲空気下で熱的酸化に供して、この犠牲相を分解し、対応するバインダーd1)又はd2)を官能化させた。
【0085】
I8の前駆体混合物と同じ熱処理に従うが、不活性(すなわち、非酸化的)雰囲気下なので本発明によらずに、窒素下で1l/分の窒素流速で回転炉内にて、組成物I8の前駆体混合物を用いて対照組成物C1の1つの例も製造した。
【0086】
こうして、犠牲相中にI1及びI2の場合は約65%~35%及びI3~I8の場合は約35%~65%の2つの液体及び固体のPPCのそれぞれの重量割合を有する、それぞれ上記変性HNBRからなるバインダーを含む本発明による組成物I1、I2、I3、I4、I6及びI7並びにそれぞれ上記変性EPDMからなるバインダーを含む本発明による組成物I5及びI8が得られた。
【0087】
前駆体混合物及び得られた組成物の特性(重量割合)を、以下の表1に列記する。
【0088】
【0089】
得られた組成物I1~I8はそれぞれ、90%に等しいNCA合金からなる活物質の重量割合と、それぞれ1.8%(組成物I6~I8)から3%(組成物I1~I5)の範囲の上記HNBR又は上記EPDMからなる、本発明による変性バインダーId1)又はId2)の重量割合とを示した。
【0090】
安定化剤(HMDS)を含む組成物I2が得られる前駆体混合物は、有利には周囲温度で48時間を超える時間にわたり貯蔵することができたことから、NCA活物質の作用による液体PPC/固体PPC犠牲相の解重合が効果的に妨げられた。
【0091】
組成物I1~I3及びI6の体積基準の多孔度は37.7%であり、組成物I4、I5、I7及びI8の多孔度はより高かった(約50%)。
【0092】
本発明による変性バインダーの特性決定
非変性及びこの溶融方法の間に本発明に従って変性されたバインダーd1)及びd2)を、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)技術によって特性決定して、波数に対する吸収スペクトルを得た。このためには、以下の通りである。
【0093】
1)バインダーd1)の場合は、100μmの厚さを有する上記HNBR(Zetpol(商標)0020)からなる被膜を銅上に堆積させ、それを空気下、240℃で30分間処理した。引き続き、この被膜をFTIRにより「ATR」モード(「減衰全反射」)で研究した。
【0094】
図1は、このアニーリングの前と後のそれぞれの、得られたS1及びS2の2つのスペクトルを示す。このアニーリング後のスペクトルS2は、
ニトリル-C≡N基に特徴的な2240cm
-1のバンドにおける僅かな減少、
C=C結合及びC=N結合の出現に起因する1600cm
-1付近のバンドの出現、
C=O結合の出現に起因する1740cm
-1付近のバンドの出現、及び、
C-OH結合に起因するほぼ3200cm
-1から3500
-1の間のバンドの出現、
を示す。
【0095】
これらのバンドは、例えば、Ogawa et al., Carbon, Vol. 33, No. 6, p. 783又はDalton et al., Polymer, 40 (1999), 5531-5543における同様の条件下で記載されるように、ニトリル基の部分的酸化及びこれらのニトリル基の酸化/脱水によるHNBRの架橋に特徴的である(これらは、HNBR中の高レベルのACNのためブタジエンに由来する不飽和よりもかなり多数である)。
【0096】
2)バインダーd2)の場合は、EPDM Vistalon(商標)8600からなるバインダーd2)から形成される100μmの厚さを有する5つのCd2被膜を、ヘプタン中の溶液の蒸発により銅上に堆積させた。次いで、こうして堆積された5つのCd2被膜を、制御された様式にて周囲空気下、250℃で30分間処理することで、それぞれd2)を変性するCO基及びOH基を含む本発明による変性バインダーを有する5つのId2被膜が得られた。引き続き、Cd2被膜及びId2被膜を、FTIRにより「ATR」モードで研究した。
【0097】
図2は、熱処理されていないCd2被膜(Cd2は非変性バインダーd2)を含む)のEPDM Vistalon(商標)8600のスペクトル及びCd2被膜であるが、上記のように250℃で30分間処理された被膜の同じEPDMのスペクトルを示しており、この最後のスペクトルは、EPDMの熱的酸化に特徴的なバンド、例えば1712cm
-1でのC=O結合、1163cm
-1でのCO結合及び3400cm
-1での-OH結合を示すことが分かる。こうして変性されたこのEPDMの5つのId2被膜のそれぞれにおける酸素原子の重量含量は元素分析により測定され、この含量に関して、5つの測定につき0.29%の標準偏差で5.9%の平均値が見られた。
【0098】
本発明によるカソードI1~I8及び溶融経路により作製された対照C1の電気化学的特性決定のためのプロトコル:
穴開けパンチ(直径16mm、表面積2.01cm2)を用いてカソードを切り出し、秤量した。同じ条件(熱処理)に従って作製された裸集電体の重量を差し引くことにより、活物質の重量を決定した。それらを、グローブボックスに直接連結された炉内に入れた。それらを真空下、100℃で12時間乾燥させた後に、グローブボックス(アルゴン雰囲気:0.1ppmのH2O及び0.1ppmのO2)内に移した。
【0099】
引き続き、リチウム金属対向電極と、Cellgard 2500セパレーターと、電池グレードの電解質LiPF6 EC/DMC(50%/50%の重量比)とを使用して、ボタンセル(CR1620形式)をアセンブルした。それらのセルを、Biologic VMP3ポテンシオスタットにおいて、4.3Vから2.5Vの間の一定電流で充放電サイクルにおいて特性決定した。
【0100】
活物質の重量及び170mAh/gの理論容量を考慮して、レートはC/5であった。様々なシステムの性能品質を比較するために、容量(カソード1g当たりのmAhで表現される)を、リチウムの脱離のための初回放電の間(すなわち、初回充放電サイクル後の初期容量)に、2回目の放電時(初回サイクルの効率の測定)に、20回のサイクル後に、そして40回のサイクル後に評価することで、20回のサイクル又は40回のサイクルでの容量の、単一の所与のレート(C/2)での初回サイクルでの容量に対する比率により定義される維持率(%)を計算した。C/5レート及びC/2レートでの容量に加えて、これらのカソードについて、Cレート、2Cレート及び5Cレートでの容量を測定した(全てのこれらの容量は、カソード1g当たりのmAhで表現される)。
【0101】
こうして得られた各セル内のカソードI1~I8についての特性評価結果は、以下の表2に示されており、その際、各組成物I4、I5、I6、I7及びI8について異なる厚さの被膜が得られ、I8と同じ前駆体混合物であるが、窒素(非酸化的)雰囲気下で熱分解された前駆体混合物から得られる組成物C1についても上述の対照試験が行われることが規定される。
【0102】
【0103】
表2は、特にカソード組成物I6~I8について非常に大きな厚さが得られ(150μm超、実際は更に200μmの厚さ)、それにより、本発明によるこれらのカソードについてはこれまた高い表面エネルギー密度が生ずる。本発明によるこれらの組成物I1~I8のカソード被膜はサイクル化の間に亀裂又は裂け目を有しないことが確認された。
【0104】
表2はまた、本発明のこれらの組成物I1~I8により、初回サイクルで高い効率(70%より大きい)を得ることが可能となることを示しており、こうして、可逆性が十分であり、C/5レート、C/2レート、Cレート、2Cレート及び適宜5Cレートでの容量も十分であることが立証された。
【0105】
表2はまた、20回のサイクル後及び更には40回のサイクル後にも70μmの厚さを有する本発明のカソード被膜I7についてサイクル性が非常に十分であることを示す(20回のサイクル及び40回のサイクル後のC/2容量の維持率が95%を超えることを参照)。
【0106】
より具体的には、以下の組成物による試験は以下の通りである:
【0107】
組成物I1及び組成物I2による試験は、I2で安定化剤としてHMDSを使用することで、I1と比較してカソードI2の電気化学的特性が実際に損なわれないことを示す。
【0108】
組成物I1及び組成物I3による試験は、固体PPCに対して相対的に多量の液体PPCを用いて得られたカソードI1の電気化学的特性が、固体PPCに対して相対的に少量の液体PPCを用いて得られたカソードI3と比較して改善されることを示す。
【0109】
組成物I4及び組成物I5による試験は、変性EPDMバインダーを用いて得られたカソードI5の電気化学的特性が、変性HNBRバインダーを用いて得られたカソードI4と比較して改善されることを示す。
【0110】
組成物I6、組成物I7及び組成物I8による試験は、組成物I7及び組成物I8のカソード被膜の厚さ及び体積基準の多孔度の電気化学的特性に対して及ぼす限定的な効果が、組成物I6よりもはるかに高いことを示す。