(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】グルコース応答性インスリン送達のためのグルコース輸送体競合阻害剤修飾インスリン
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20240705BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240705BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240705BHJP
A61K 38/28 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
A61K47/54
A61P3/10
A61K9/70 401
A61K38/28
(21)【出願番号】P 2020520448
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(86)【国際出願番号】 US2018055202
(87)【国際公開番号】W WO2019075052
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-08-25
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517366013
【氏名又は名称】ノース カロライナ ステート ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】NORTH CAROLINA STATE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ジェン グ
(72)【発明者】
【氏名】ジンチェン ワン
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/124102(WO,A1)
【文献】Lili Lu et al,D-Glucose, forskolin and cytochalasin B affinities for the glucose transporter Glut1: Study of pH and reconstitution effects by biomembrane affinity chromatography,Journal of Chromatography A,1997年,776,81-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース応答性インスリンシステムであって、
a)フォルスコリン、サイトカラシンB及び阻害剤2(In2)の少なくとも1つに接合し、グルコース輸送体結合構造を形成するインスリン部分を含み、
b)前記グルコース輸送体結合構造は、非共有結合を介してGLUTタンパク質と可逆的に結合し、および
c)前記グルコース輸送体結合構造は、高グルコース条件で前記インスリンの一部を放出し、前記高グルコース条件は200mg/dL以上であるグルコース応答性インスリンシステム。
【請求項2】
前記GLUTタンパク質は、GLUT1タンパク質である請求項1に記載のグルコース応答性インスリンシステム。
【請求項3】
前記グルコース輸送体結合構造は、低グルコース条件で
GLUTタンパク質と結合し、前記低グルコース条件は0~200mg/dLである請求項1又は2に記載のグルコース応答性インスリンシステム。
【請求項4】
前記グルコース輸送体結合構造は、生理学的条件において難溶性である請求項1~3のいずれかに記載のグルコース応答性インスリンシステム。
【請求項5】
インスリン部位がマレイミドリンカーを介してフォルスコリンおよびIn2の少なくとも1つに接合されている請求項1~4のいずれかに記載のグルコース応答性インスリンシステム。
【請求項6】
糖尿病を有する患者に治療有効量の組成物を投与してグルコースレベルを制御する方法に使用するための医薬組成物であって、
a)フォルスコリン、サイトカラシンB及び阻害剤2(In2)の少なくとも1つ
に接合されたインスリン部位を含んでグルコース輸送体結合構造を形成しており、
b)前記グルコース輸送体結合構造は、非共有結合を介してGLUTタンパク質と可逆的に結合し、および
c)前記
グルコース輸送体結合構造は、高グルコース条件でグルコース修飾インスリンの一部を放出するものであり、前記高グルコース条件は200mg/dL以上である組成物。
【請求項7】
前記
GLUTタンパク質は、赤血球上で発現されるものである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記グルコース輸送体結合構造は、低グルコース条件で前記
GLUTタンパク質と結合するものであり、前記低グルコース条件は、0~200mg/dLである請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物を前記患者対象に投与するために、経皮パッチの形態を有する請求項6~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物を、前記対象に投与するために、マイクロニードルアレイパッチの形態を有する請求項6~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
I型糖尿病を有する患者に用いられる請求項6~10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
II型糖尿病を有する患者に用いられる請求項6~10いずれかに記載の組成物。
【請求項13】
インスリン部位がマレイミドリンカーを介してフォルスコリンおよびIn2の少なくとも1つに接合されている請求項6~12のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年10月10日に出願された米国仮出願番号第62/570,501号の利益を主張するものであり、その全体が本明細書に参照として組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
糖尿病は、現在では世界中で4億1500万人が発症しており、この数は2040年までに6億4200万人に増加すると予想されている。インスリンは、1型糖尿病の生存に不可欠であり、また血糖を制御して合併症を予防するために、2型糖尿病の治療で多くの場合に必要である。しかしながら、従来の外因性インスリン投与は、ランゲルハンス島の膵島内のβ細胞によって達成される血糖の鋭敏な調節に対応できず、この場合、内因性インスリン分泌は代謝を通じてグルコース輸送体にリンクされる。不十分なグルコース制御は、四肢切断、失明、腎不全などの糖尿病合併症のリスクが高くなる。その上、低血糖は、行動および認知障害、発作、昏睡、脳損傷、または死につながり得る。したがって、インスリンの「分泌」を調節するβ細胞の機能を模倣することができる「洗練された(smart)」グルコース応答性インスリン送達デバイスまたは製剤は、糖尿病患者の血糖制御および生活の質を改善する目的で非常に望ましい。
【0003】
そのような「洗練された」治療は、一般に、グルコース感知または変換モジュールおよび感知/変換活性化インスリン放出モジュールを統合する。例えば、ウェアラブル閉ループ電子的/機械的ポンプは、連続的なグルコースモニタリング電気化学的センサーおよび外部インスリン注入ポンプを組み合わせている。これらのシステムは、歴史的には、間質による血糖平衡の遅れ、循環へのインスリン吸収、および生物付着によって制限されてきた。合成材料ベースのグルコース応答性製剤もまた、1970年代から広く研究されてきた。3つの古典的な方策がよく利用され、通常、様々なグルコース感知部分が含まれる:グルコースオキシダーゼ、グルコース結合タンパク質(glucose binding proteins:GPB)(例えば、ConA)(14)およびグルコーストリガーを果たすためのフェニルボロン酸(phenylboronic acid:PBA)。様々な製剤、例えば、バルクヒドロゲル、ミクロゲル、エマルジョンベースのナノ粒子、自己組織化小胞が、インスリンの放出を促進するために、膨潤、収縮、分解、または解離する高血糖状態に対応するよう開発されている。これらの有望な方策にもかかわらず、健康な膵臓の動態を厳密に反映して、上昇した血糖値(blood glucose levels:BGL)に迅速に応答するシステムを実証することは依然として困難である。その上、これらの合成システムの免疫応答、生理学的環境の安定性、および長期毒性については、さらなる調査が必要である。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書に開示されるのは、対象におけるグルコースレベルを制御するために使用され得るグルコース応答性インスリン送達組成物である。特に、グルコース輸送体の少なくとも1つの競合阻害剤に接合したインスリン部分を含むグルコース輸送体結合構造を含む組成物が開示される。これらの実施形態では、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体と可逆的に結合し、またインスリンがグルコース輸送体の競合阻害剤に可逆的に結合して、グルコース修飾インスリンが高グルコース条件で内因性グルコースによって置換されるように、構成される。これにより、グルコース代謝を促進し得るグルコース修飾インスリン分子の生物学的利用能をもたらす。放出速度はグルコース濃度に依存するため、グルコースレベルを厳密に制御し得る。
【0005】
インスリン部分は、インスリン、例えば、ヒトインスリンまたはインスリンホモログの任意の生理活性型のインスリンであり得る。インスリンは、好ましくは組換えタンパク質である。インスリンは、速効型(例えば、リスプロ、アスパルト、グルリジン)、短時間作用型(通常のインスリン、ヴェロスリン、ノボリン)、中等度型(neutral protamine hagedorn:NPH)、または長時間作用型(インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク)であり得る。いくつかの実施形態では、開示される組成物は、異なる形態のインスリン部分を有するグルコース修飾インスリン分子の混合物を含む。
【0006】
競合阻害剤またはグルコース輸送体は、D-グルコースよりも高い親和性および/または結合活性でグルコース輸送体に結合し、また生体内でグルコース輸送体に可逆的に結合することができる任意の競合阻害剤であり得ることが理解され、本明細書において企図される。例えば、グルコース輸送体の競合阻害剤は、フォルスコリンまたはIn2であり得る。
【0007】
場合によっては、使用者は、グルコース修飾インスリン分子がグルコース結合構造に可逆的に結合するのに好適な条件下で対象に投与する前に、インスリン分子を含む組成物をグルコース輸送体の競合阻害剤と混合する。他の実施形態では、組成物は、グルコース輸送体の競合阻害剤にすでに結合しているインスリン分子を含む。
【0008】
グルコース輸送体の競合阻害剤は、生体内でグルコース輸送体に可逆的に結合することができる任意の生体適合性の分子または基質であり得る。グルコース輸送体は、任意のグルコース輸送体(GLUT)タンパク質ファミリーメンバー(GLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT5、GLUT6、GLUT7、GLUT8、GLUT9、GLUT10、GLUT11、GLUT12、GLUT13、およびGLUT14)を含むがこれらに限定されない)を含み得ることが理解され、本明細書において企図され、そしてこれらは、原形質膜上でのグルコースの輸送を促進する膜タンパク質である。GLUT1は、赤血球において最高レベルで発現するグルコース輸送体である。したがって、特定の実施形態では、グルコース結合構造は、ヒト赤血球などの赤血球である。しかしながら、他の実施形態では、グルコース結合構造は、赤血球の原形質膜、またはGLUTタンパク質を含む他の細胞のみを含む。例えば、原形質膜は、生体適合性ナノ粒子に付着させ得る。好適なナノ粒子は、いくつかの実施形態では、約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、および150ナノメートルを含む、約50から約150ナノメートルの平均直径を有し得る。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、ポリグラクチン(Poly(Lactide-co-Glycolide):PLGA)コポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ナノ粒子はデキストランから形成される。いくつかの実施形態では、ナノ粒子はヒアルロン酸から形成される。いくつかの実施形態では、ナノ粒子はリポソームである。
【0009】
グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体の競合阻害剤がグルコース輸送体から置き換えられ、また高グルコース条件でインスリンがグルコース輸送体の競合阻害剤から置き換えられるように構成される。いくつかの実施形態では、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体の競合阻害剤がグルコース輸送体から置き換えられ、グルコースレベルが約200mg/dLに達するまたは超えるときに、インスリンを放出するように構成される。グルコース輸送体の競合阻害剤は、低いグルコースレベルでもまだグルコース輸送体から置き換えられる可能性があると考えられているが、それははるかに低い速度で置き換えられるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、生理学的な、低グルコース環境、例えば、0~200mg/dLのグルコース濃度で、グルコース輸送体に優先的に結合する。好ましい実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、これらの低グルコース条件で、少なくとも10、20、30、40、または50日間、グルコース輸送体に安定して結合するように構成される。いくつかの実施形態では、これらの動態は、ホルモンとグルコース誘導体との間のリンカー特性によって調整し得る。
【0010】
また、開示されているのは、対象のグルコースレベルを制御する方法であって、前記方法は以下を含むものである;糖尿病を有する対象に治療有効量の組成物を投与すること、組成物はグルコース輸送体の少なくとも1つの競合阻害剤に接合したインスリン部分を含むグルコース輸送体結合構造を含み、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体と可逆的に結合するように構成され、およびグルコース結合構造は、高グルコース条件でグルコース修飾インスリンの一部を放出する。
【0011】
開示された組成物は、循環におけるグルコースへの曝露に好適な任意の方法で投与され得る。いくつかの実施形態では、組成物は経皮パッチによって送達される。例えば、組成物は、マイクロニードルアレイパッチによって送達され得る。他の態様では、組成物は経口投与され得る。
【0012】
本発明における1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的、および利点は、明細書および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、生細胞上のGLUTに基づくグルコース応答性インスリン送達システムの概略図を示す。
【
図2】
図2は、フォルスコリン-NH
2の合成経路を示す。
【
図3】
図3は、In2-NH
2の合成ルートを示す。
【
図4】
図4は、遊離インスリン、インスリン-フォルスコリンまたはインスリン-In2で処置された1型糖尿病マウスの血糖値を示す。リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)を対照として使用した。重度の低血糖を回避するために、用量をインスリン接合体では300IU/kg、遊離インスリンでは150IU/kgに設定した。エラーバーは、3つの独立した実験の(n=3)の標準偏差(standard deviation:S.D.)を表す。
【
図5】
図5は、グルコースまたはサイトカラシンBが、赤血球ゴースト上のインスリン-Fのグルコース結合を阻害したことを示す。
【
図6】
図6は、インスリンまたはインスリン-Fを皮下注射した糖尿病マウスの生体画像を示す。インスリンまたはインスリン-Fはシアニン色素(cyanine dye 5:Cy5)でラベルした。
【
図7】
図7は、複数のグルコース負荷試験を示す。インスリン-Fを皮下注射した。インスリン接合体の容量を400IU/kgに設定した。エラーバーは、3つの独立した実験の(n=5)のS.D.を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
定義
本出願を通して使用される用語は、当業者にとって通常かつ典型的な意味であると解釈されるべきである。しかしながら、出願人は、次の用語が下記に明示する特定の定義を与えられることを望む。
【0015】
本明細書および本願の特許請求の範囲で使用されている単数形「a」、「an」および「the」は、そうでないことが文脈から明確に示されていない限り、複数への言及を含む。例えば、「細胞(a cell)」という用語は、複数の細胞を含み、それらの混合物を含む。
【0016】
「約(about)」および「およそ(approximately)」という用語は、当業者によって理解されるように「近い(close to)」と定義される。非限定的な一実施形態では、これらの用語は、10%以内であると定義される。別の非限定的な実施形態では、これらの用語は、5%以内であると定義される。さらに別の非限定的な実施形態では、これらの用語は、1%以内であると定義される。
【0017】
「生物活性」に関連するものを含むタンパク質の「活性」は、例えば、転写、翻訳、細胞内転座、分泌、キナーゼによるリン酸化、プロテアーゼによる切断、および/または他のタンパク質への同種親和性および異種親和性の結合が含む。
【0018】
「投与する」という用語は、経口、局所、静脈内、皮下、経皮、皮膚の浸透、筋肉内、関節内、非経口、細動脈内、皮内、脳室内、頭蓋内、腹腔内、病巣内、鼻腔内、直腸内、膣内であるような、吸入によるか、または埋め込まれた貯蔵物を介した投与を意味する。投与は、経皮マイクロニードルアレイパッチを使用して実施し得る。「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下腔内、肝内、病巣内、および頭蓋内の、注射または注入技術を含む。
【0019】
「生体適合性」とは、一般に、レシピエントに対して一般的に無毒であり、対象に対して任意の重大な悪影響を引き起こさない、材料およびその任意の代謝生成物または分解生成物を一般的に意味する。
【0020】
「組成物」は、有効成分と、不活性(例えば、検出可能な薬剤またはラベル)または活性な、例えば補助剤などの、他の化合物または組成物の組み合わせ、を含むことを意図している。
【0021】
本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」という用語は、組成物および方法は、列挙された要素を含むが、他を除外しないことを意味することを意図している。「から本質的になる(Consisting essentially of)」は、組成物および方法を定義するために使用される場合、組み合わせに対して、任意の本質的に重要な他の要素を除外することを意味するものとする。したがって、本明細書で定義される要素から本質的になる組成物は、単離および精製方法からの微量汚染物質、ならびに薬学的に許容される担体、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、保存剤などを除外しない。「からなる(Consisting of)」とは、その他の成分の微量元素および本発明の組成物を投与するための実質的な方法の工程を超えるものを除外することを意味するものとする。これらの各トランジションターム(Transition term)によって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0022】
「対照」は、比較目的のため実験で使用される代替の対象またはサンプルである。対照は、「陽性」または「陰性」であり得る。
【0023】
本明細書で使用する場合、「接合した(conjugated)」は、不可逆的な結合相互作用を意味する。
【0024】
本明細書で使用する場合、「置き換える(displace)」は、例えば、タンパク質ドメインとペプチド、タンパク質ドメインと化学物質、タンパク質ドメインと核酸配列の間の分子的または化学的相互作用を、置き換えられるペプチド、化学物質、または核酸よりも、その特定のタンパク質ドメインに対して親和性を有する化学物質、ペプチド、または核酸によって妨害することを意味する。
【0025】
「有効量」は、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。有効量は、1回以上の投与、適用または投薬で投与され得る。
【0026】
本明細書で使用する場合、「高グルコース条件」という用語は、200mg/dL以上のグルコース濃度を有する環境を意味する。例えば、「高血糖値」は、血流中のグルコースレベルが200mg/dL以上を意味する。いくつかの実施形態では、高グルコース条件は、200~400mg/dLである。他の実施形態では、高グルコース条件は、300~400mg/dLである。
【0027】
本明細書で使用される「リンカー」は、隣接する分子と結合する分子を意味する。一般に、リンカーは、隣接分子と結合すること、またはそれらの間の最小距離もしくはその他の空間的関係を維持すること以外は、特定の生物活性を有さない。場合によっては、リンカーは、隣接する分子のいくつかの特性、例えば、分子の折り畳み構造、正味電荷、または疎水性に影響を与えるか、または安定させるように選択し得る。
【0028】
本明細書で使用する場合、「低グルコース条件」という用語は、0~200mg/dLのグルコース濃度を有する環境を意味する。例えば、「低血糖値」は、血流中のグルコースレベルが200mg/dL未満を意味する。
【0029】
「ペプチド」、「タンパク質」、および「ポリペプチド」という用語は、互換的に使用され、1つのアミノ酸のカルボキシル基によって別のアミノ酸のアルファアミノ基に連結された2種以上のアミノ酸を含む天然または合成分子を意味する。
【0030】
「担体」または「医薬的に許容される担体」という用語は、一般に、安全で無毒である医薬的または治療的組成物の調製に有用な担体または賦形剤を意味し、また、獣医および/またはヒトの医薬または治療的使用のために許容される担体を含む。本明細書で使用する場合、「担体」または「薬学的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝食塩水、水、エマルジョン(例えば、油/水または水/油エマルジョン)および/または様々な種類の湿潤剤を包含し得る。本明細書で使用されるとき、「担体」という用語は、あらゆる賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、脂質、安定剤またはその他の材料であって医薬製剤に使用するために当技術分野で周知であり、かつ、以下でさらに説明するものを包含する。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ポリマー」という用語は、天然または合成の比較的高分子量の有機化合物を意味し、その構造は、反復する小さな単位であるモノマー(例えば、ポリエチレン、ゴム、セルロース)によって表し得る。合成ポリマーは、通常、モノマーの付加重合または縮合重合によって形成される。本明細書で使用する場合、「コポリマー」という用語は、2種以上の異なる繰り返し単位(モノマー残基)から形成されたポリマーを意味する。限定としてではなく例として、コポリマーは、交互コポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーであり得る。特定の態様ではまた、ブロックコポリマーの様々なブロックセグメントは、それ自体がコポリマーを含み得ることも企図される。
【0032】
「プライマー」は、短いポリヌクレオチドであり、一般に、標的とハイブリダイズすることによって所望のサンプル中に潜在的に存在する標的または「鋳型」に結合し、その後に標的へ相補的にポリヌクレオチドの重合を促進する、遊離の3´-OH基を有する。「ポリメラーゼ連鎖反応」(「polymerase chain reaction:PCR」)は、「上流」および「下流」プライマーからなる「プライマーのペア」または「プライマーのセット」、重合の触媒、および例えば、DNAポリメラーゼ、および典型的には熱安定性ポリメラーゼ酵素を使用して、標的ポリヌクレオチドの複製コピーが作成される反応である。PCRの方法は当技術分野で周知であり、例えば「PCR:A PRACTICAL APPROACH」(M.MacPhersonら、IRL Press at Oxford University Press(1991))で教示されている。PCRまたは遺伝子クローニングなどのポリヌクレオチドの複製コピーを作製するすべてのプロセスは、本明細書では総じて「複製」と称する。「プライマーはまた、ハイブリダイゼーション反応、例えば、サザンまたはノーザンブロット解析におけるプローブとしても使用し得る。Sambrookら、上記を参照のこと。
【0033】
本明細書において、範囲は、「約」を用いたある特定値からおよび/または「約」を用いた別の特定値までとして表現することができる。このような範囲が表現される場合、別の実施形態は、ある特定値からおよび/または他の特定値までを含む。同様に、先行詞「約(about)」を使用することによって、値が近似値として表される場合、特定値により別の実施形態が生じることが理解されるであろう。さらに、各範囲の端点は、他の端点に関連する場合も、他の端点とは独立している場合でも、重要であることは理解されよう。本明細書に開示したいくつかの値があり、各値はまた、本明細書において、その値自体に加えて、「約」を用いたその特定値、としても開示されていると理解される。例えば、値「10」が開示される場合、その結果「約10」もまた開示される。
【0034】
「治療有効量」または「治療有効用量」という用語は、組成物、例えば、一般化された期間にわたって研究者、獣医、医師または他の臨床医によって求められている、組織、システム、動物、またはヒトの生物学的または医学的応答を引き出すであろう、グルコース結合構造に結合したグルコース修飾インスリン、の量、を意味する。いくつかの実施形態では、所望の応答は、I型糖尿病の制御である。いくつかの実施形態では、所望の応答は、II型糖尿病の制御である。いくつかの例において、所望の生物学的または医学的応答は、数日、数週間、または数年の期間にわたって対象に、組成物の複数の投薬量を投与した後に達成される。
【0035】
「対象」という用語は、霊長類(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどを含むがこれらに限定されない哺乳動物などの動物を含むと本明細書で定義される。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。
【0036】
DNAを持つ細胞生物の「形質転換」とは、DNAを生物に導入することを意味し、これは、DNAの少なくとも一部を、染色体外要素として、または染色体組込みによって複製可能とするためである。DNAを持つ細胞生物の「トランスフェクション」は、任意のコード配列が実際に発現されているかどうかにかかわらず、細胞または生物によるDNA、例えば発現ベクターの取り込みを意味する。「トランスフェクトされた宿主細胞」および「形質転換された」という用語は、DNAが導入された細胞を意味する。細胞は、「宿主細胞」と呼ばれ、また原核生物でも真核生物でもよい。典型的な原核生物の宿主細胞は、大腸菌の様々な株を含む。典型的な真核生物の宿主細胞は、哺乳類の、例えば、チャイニーズハムスターの卵巣、またはヒト起源の細胞である。導入されたDNA配列は、宿主細胞とは異なる種の宿主細胞と同じ種からあってもよく、または、一部の外来性DNAおよび一部の相同性DNAを含むハイブリッドDNA配列でもよい。
【0037】
本明細書で使用する「処置する(treat)」、「処置すること(treating)」、「処置(treatment)」の用語、およびこれらの文法的変化は、障害もしくは状態の1つ以上の付随する症状の強度を、部分的もしくは完全に遅延、緩和、軽減もしくは低減すること、および/または障害もしくは状態の1つ以上の原因を軽減し、緩和し、もしくは妨げることを含む。本発明による治療は、予防的に(preventively)、予防的に(prophylactically)、緩和的に、または治療的に適用されてもよい。予防的治療は、発症前(例えば、癌の明らかな徴候の前)、発症初期(例えば、癌の最初の兆候および症状)、または確立された癌の発症後に対象に適用される。予防的投与は、感染症の症状が現れる前の数日間から数年間にわたって実施され得る。
【0038】
場合によっては、「処置する」、「処置すること」、「処置」の用語、およびこれらの文法的変化は、血糖値を制御し、対象の治療前と比較して、または一般または研究集団におけるそのような症状の発生率と比較して、糖尿病症状の重症度を軽減することを含む。
【0039】
「特異的に結合する」という用語は、本発明で使用する場合、ポリペプチド(抗体を含む)または受容体を意味する場合、タンパク質または他の生物学の異種集団におけるタンパク質またはポリペプチドまたは受容体の存在を決定する結合反応を意味する。したがって、指定された条件下(例えば、抗体の場合の免疫学的検定条件)では、特定の配位子または抗体は、サンプル中に存在する他のタンパク質に、または生体内で配位子または抗体が接触してもよい他のタンパク質に、かなりの量で結合しない場合、特定の「標的」に「特異的に結合」する(例えば、抗体は内皮抗原に特異的に結合する)。一般に、第2分子と「特異的に結合する」第1分子は、約105M-1より大きい親和性定数(Ka)(例えば、106M-1、107M-1、108M-1、109M-1、1010M-1、1011M-1、および1012M-1以上)を有する。
【0040】
組成物および方法
本明細書に開示されるのは、糖尿病を処置するための組成物および方法である。組成物は、グルコース輸送体の少なくとも1つの競合阻害剤に結合したインスリン部分を含むグルコース輸送体結合構造を含む。
【0041】
インスリン部分は、インスリン、例えば、ヒトインスリンまたはインスリンホモログの任意の生理活性型のインスリンであり得る。インスリンは、好ましくは組換えタンパク質である。インスリンは、速効型(例えば、リスプロ、アスパルト、グルリジン)、短時間作用型(通常のインスリン、ヴェロスリン、ノボリン)、中等度型(NPH)、または長時間作用型(インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリンデグルデク)であり得る。いくつかの実施形態では、開示される組成物は、異なる形態のインスリン部分を有するグルコース修飾インスリン分子の混合物を含む。
【0042】
グルコース輸送体の競合阻害剤は、D-グルコースよりも高い親和性および/または結合活性でグルコース輸送体に結合し、また生体内でグルコース輸送体に可逆的に結合することができる任意の競合阻害剤であり得ることが理解され、また本明細書において企図される。例えば、グルコース輸送体の競合阻害剤は、サイトカラシンB、フロレチン、フォルスコリンまたはIn2であり得る。グルコース輸送体の競合阻害剤は、生体内でグルコース輸送体に可逆的に結合することができる任意の生体適合性の分子または基質であり得る。グルコース輸送体は、任意のグルコース輸送体(GLUT)タンパク質ファミリーメンバー(GLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT5、GLUT6、GLUT7、GLUT8、GLUT9、GLUT10、GLUT11、GLUT12、GLUT13、およびGLUT14)を含むがこれらに限定されない)を含み得ることが理解され、本明細書において企図され、そしてこれらは、原形質膜上でのグルコースの輸送を促進する膜タンパク質である。
【0043】
場合によっては、使用者は、グルコース修飾インスリン分子がグルコース結合構造に可逆的に結合するのに好適な条件下で対象に投与する前に、インスリン分子を含む組成物をグルコース輸送体の競合阻害剤と混合する。他の実施形態では、組成物は、グルコース輸送体の競合阻害剤にすでに結合しているインスリン分子を含む。
【0044】
1種以上のグルコース輸送体の競合阻害剤およびインスリンを含むグルコース輸送体結合構造には、細胞、細胞膜、ナノ粒子およびマイクロ粒子などの構造が含まれるが、これらに限定されない。したがって、いくつかの実施態様では、グルコース結合構造は細胞である。細胞は、任意の細胞型、ヒト、哺乳類であってよい。いくつかの実施例では、グルコース結合構造として使用される細胞は、ヒト赤血球である。有利に、自己由来細胞は、対象から採取され、低グルコース(結合)状態でグルコース修飾インスリンに曝露され、そしてそれから同じ対象に戻して供給されてもよい。しかしながら、細胞は、組成物が高グルコース条件下でグルコース輸送体-インスリンの結合した競合阻害剤を放出する機能を果たすために、自己由来で誘導される必要はない。
【0045】
GLUT1は、赤血球において最高レベルで発現するグルコース輸送体である。したがって、特定の実施形態では、グルコース結合構造は、ヒト赤血球などの赤血球である。しかしながら、他の実施形態では、グルコース結合構造は、赤血球の原形質膜、またはGLUTタンパク質を含む他の細胞のみを含む。例えば、原形質膜は、生体適合性ナノ粒子に付着させ得る。他の実施態様では、グルコース輸送体結合構造は、ナノ粒子またはマイクロ粒子に付着した赤血球膜である。ナノ粒子は、任意の適切な大きさを有し得る。例えば、ナノ粒子径は、直径5~500ナノメートルの範囲で変動し得る。いくつかの実施態様では、ナノ粒子径は、直径50~150ナノメートルの間である。好適なナノ粒子は、いくつかの実施形態では、約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、および150ナノメートルを含む、約50から約150ナノメートルの平均直径を有し得る。ナノ粒子はまた、任意の適切な材料または物質でもあり得るし、またいくつかの実施態様では、ポリグラクチン(poly lactic-co-glycolic acid:PLGA)ナノ粒子である。例えば、PLGAナノ粒子(NP)は、以下に記載した方法と同様の方法を使用して、RBC膜(RM-PLGA)でコーティングされ得る。無処置のmRBCと同様に、グルコース輸送体-インスリンの競合阻害剤も同様に、RM-PLGA NPに特異的に結合して、これらのナノ粒子からインスリンを放出することができ、また、放出はBGを媒介した方法で自己制御され得る。PLGAの代替として、またはPLGAに加えて、他のナノ材料またはナノ粒子を使用してもよい。他の可能なナノ材料またはナノ粒子としては、ポリマー材料(例えば、デキストランまたはヒアルロン酸)、リポソーム、および/または無機ナノ粒子が挙げられる。
【0046】
いくつかの実施態様では、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体の2種以上の競合阻害剤を含み得る。いくつかの実施態様では、各グルコース輸送体競合阻害剤は、別個のリンカー分子によって、インスリン部分に結合される。リンカー分子は、グルコース部分をインスリン部分に付着させる働きをする任意の天然分子または合成分子であり得る。いくつかの実施例では、リンカー分子は、マレイミド基、またはマレイミドチオール付加物を含む。特定の実施例では、マレイミド基がグルコース分子に付加され、チオール基がインスリン分子に付加される。次に、マレイミド-グルコースおよびチオール化インスリンを反応させて、グルコース修飾インスリン分子を形成し、マレイミド-チオール付加物は、リンカー分子として作用する。あるいは、またはさらに、リンカー分子はスペーサーを含み得る。スペーサーは、ポリマー鎖、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)鎖または任意の他の好適なポリマー鎖であり得る。
【0047】
本発明は、グルコース輸送体の競合阻害剤とグルコース輸送体との間の可逆的相互作用に基づくグルコース応答性インスリン送達のための組成物を含む。このような結合は可逆的であり、インスリンは高グルコース条件下でRBCから放出される。したがって、本明細書に開示されるのは、グルコース輸送体の競合阻害剤が、グルコース輸送体に可逆的に結合し、高グルコース条件でグルコース輸送体の競合阻害剤を放出するように構成される、グルコース応答性インスリンシステムである。この放出の潜在的なメカニズムは、遊離グルコースとGLUTの競合的相互作用による、グルコース輸送体-インスリンの競合阻害剤(CIG-Ins)の置換である。ヒト赤血球(RBC)の寿命は、血管内の酸素の天然担体として100~120日である。したがって、これらの本質的な生体適合性天然担体は、血液中の薬の循環を延長させ得る。次の実施例では、CIG-Insと相まってマウスRBC(mRBC)の静脈内(i.v.)注射により、インスリンの治療効果が延長され、化学的に誘発されたI型マウスの遊離インスリンと比較して、血糖値(BGL)が正常範囲内に維持されることが示される。生体内グルコース応答性挙動を、グルコース負荷試験を通じて観察した。投与の代替方策には、1)i.v.注射可能な高分子ナノ粒子(直径約100nm)は、RBC膜でコーティングされ、グルコース修飾インスリンがロードされる、および2)マイクロニードル(MN)パッチプラットフォームは、外因的に発現されたGLUTおよびグルコース輸送体結合構造の複合体がロードされている、が含まれる。
【0048】
上記のように、グルコース輸送体の競合阻害剤は、グルコース輸送体結合構造に可逆的に結合するように構成し得る。同様に、インスリン部分は、グルコース輸送体の競合阻害剤と可逆的に結合するように構成し得る。可逆的結合は、グルコースおよび1以上のグルコース結合部分との間の非共有結合によって達成し得る。いくつかの実施態様では、グルコース輸送体タンパク質は、非共有結合、例えば、受容体-配位子結合相互作用を介して、グルコース輸送体の競合阻害剤に結合される。グルコース輸送体の非限定例は、GLUT1、GLUT2、GLUT3、GLUT4、GLUT5、GLUT6、GLUT7、GLUT8、GLUT9、GLUT10、GLUT11、GLUT12、GLUT13、GLUT14、およびSLC2A13を含む、GLUTまたはSLC2Aファミリーのすべてのメンバーである。
【0049】
グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体の競合阻害剤がグルコース輸送体から置き換えられ、また高グルコース条件でインスリンがグルコース輸送体の競合阻害剤から置き換えられるように構成される。いくつかの実施形態では、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体の競合阻害剤がグルコース輸送体から置き換えられ、グルコースレベルが約200mg/dLに達するまたは超えるときに、インスリンを放出するように構成される。グルコース輸送体の競合阻害剤は、低いグルコースレベルでもまだグルコース輸送体から置き換えられる可能性があると考えられているが、それははるかに低い速度で置き換えられるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、生理学的な、低グルコース環境、例えば、0~200mg/dLのグルコース濃度で、グルコース輸送体に優先的に結合する。好ましい実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、これらの低グルコース条件で、少なくとも10、20、30、40、または50日間、グルコース輸送体に安定して結合するように構成される。いくつかの実施形態では、これらの動態は、ホルモンとグルコース誘導体との間のリンカー特性によって調整し得る。
【0050】
グルコース輸送体結合構造は、高グルコース条件で、グルコース輸送体の競合阻害剤を放出するように構成される。これは、例えば、血糖値が上昇して特定の閾値を超えたときに、グルコース輸送体-インスリンの競合阻害剤の一部放出を促進する。例えば、高グルコース条件下では、グルコース修飾インスリンの10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%を含む、グルコース修飾インスリン分子の10%~95%のいずれでも、グルコース結合構造から放出される可能性がある。本明細書で使用する場合、高グルコース条件は、200mg/dL以上であると見なされる。いくつかの実施形態では、高グルコース条件は、200~400mg/dLである。他の実施形態では、高グルコース条件は、300~400mg/dLである。低グルコース条件は、200mg/dL未満である見なされる。グルコース輸送体の競合阻害剤は、低いグルコースレベルでもまだグルコース輸送体から置き換えられる可能性があると考えられているが、それははるかに低い速度で置き換えられるであろう。したがって、いくつかの実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、生理学的な、低グルコース環境、例えば、0~200mg/dLのグルコース濃度で、グルコース輸送体に優先的に結合する。好ましい実施形態では、グルコース輸送体の競合阻害剤は、これらの低グルコース条件で、少なくとも10、20、30、40、または50日間、グルコース輸送体に安定して結合するように構成される。いくつかの実施形態では、これらの動態は、ホルモンとグルコース誘導体との間のリンカー特性によって調整し得る。
【0051】
いくつかの実施態様では、低グルコース条件下で、グルコース輸送体結合構造は、グルコース輸送体を少なくとも50日間結合するように構成される。いくつかの実施態様では、グルコース輸送体結合構造は、グルコース条件が低いままである場合、さらに長い期間、グルコース輸送体を結合し得る。例えば、赤血球の寿命は100~120日である。赤血球によって運ばれるグルコース輸送体インスリンの競合阻害剤は、低グルコース条件で細胞担体の寿命の持続期間中、結合されたままであり得る。
【0052】
本明細書では、糖尿病を処置するためにグルコース輸送体-インスリン組成物の競合阻害剤を使用する方法もまた、開示される。糖尿病を処置する方法は、上記のいずれかのものなどの組成物を最初に投与することを含む、すなわち、糖尿病を処置する方法は、グルコース輸送体結合構造を含む組成物を提供することを含み、グルコース輸送体の競合阻害剤は、インスリンに結合する。いくつかの実施態様では、グルコース結合構造に結合された治療有効量のグルコース修飾インスリン分子が、糖尿病を有するか、または有すると疑われる対象に投与される。いくつかの実施態様では、グルコース輸送体の少なくとも1つの競合阻害剤に接合したインスリン部分を含む、治療有効量のグルコース輸送体結合構造は、マイクロニードルアレイパッチなどの経皮パッチを介して投与され得る。他の態様では、組成物、は経口投与され得る。
【0053】
グルコース応答性インスリン送達製剤において、速い応答、長期持続性、および生体適合性の組み合わせを実証することは困難である。本明細書に記載されるグルコース修飾インスリン方策は、効果的なアプローチを提示する。いくつかの実施例では、これらの方策は、個別化された細胞療法に拡張でき、および/または長期間の持続放出と生理学的信号媒介の制御放出という両方のメリットによって、異なる疾患を処置するために、様々な治療法と統合し得る。
【実施例】
【0054】
理想的なインスリン製剤は、BGLに応じてインスリンを放出し、致命的な低血糖を回避しながら、緊密に調節することができなければならない。したがって、β細胞の機能を模倣するグルコース応答性インスリン製剤は、糖尿病の治療に望ましい。最近、グルコースオキシダーゼ(GOx)、フェニルボロン酸(PBA)、およびグルコース結合タンパク質に基づく、様々なグルコース応答性送達システムが広範に調査および研究されている。しかし、これらの方法は、不十分な生体適合性、インスリン負荷の低い効率と含有量、遅延型の応答速度、複雑な操作プロセスを含む、いくつかの課題に直面した。
【0055】
膜上のGLUTは、細胞外マトリックスから細胞へのグルコース輸送を促進する。したがって、GLUTは2型糖尿病と癌の治療の標的として調査されてきている。グルコース輸送体は、エネルギー供給を維持するために、ほとんどすべての生細胞に分布する。D-グルコースを含む、サイトカラシンB、フォルスコリン、フロレチンなどの他の小分子は、GLUTの基質であることがわかり、また、D-グルコースよりも著しく高い親和性を有し、GLUTおよび細胞代謝の研究において広く使用されている。最も重要で興味深いことに、GLUTに対するいくつかの阻害剤の結合は、競合的挙動により、D-グルコースによって置換可能であることが判明した。
【0056】
ここに、インスリンの担体として、生体内の生細胞を利用する新しい方策を開発した。
図1に図示されているように、インスリンは最初に共有結合を介してGLUT阻害剤(フォルスコリンおよびIn2)に接合された。これにより、生体内およびその場で、GLUTに結合するインスリンの能力を付与し得る。さらに、インスリンの方に向けて非水溶性阻害剤を導入すると、pH7.4で、その水溶性が大きく低下する。皮下注射した後、インスリン接合体は、皮膚の下に貯留物を形成し、インスリン接合体をゆっくりと血中に放出し得る。次に、インスリン接合体は、血液循環中に、脂肪細胞、筋肉細胞、血液細胞を含む生細胞のGLUTに到達し、その結果インスリンプールをつくる。注目すべきことに、生細胞のGLUTプールはまた、注射後の初期において高レベルの血中インスリンを緩衝し、血中のインスリンレベルをならすためのインスリンの貯蔵庫として機能する。細胞膜へのインスリン接合体の吸着は、正常血糖状態下における、間質液および血液中のインスリン接合体と、動的なバランスにある。生細胞膜へのインスリン接合体の結合は、グルコースレベルの上昇による競合的結合のため、高血糖状態下で、グルコーストリガー方法で放出され得る。
【0057】
GLUT阻害剤をGLUTに接合するために、GLUT阻害剤を最初にアミノ基で官能化して、インスリンへの接合を促進した(
図2および
図3)。フォルスコリンの場合、アミノ基とアルキル鎖の導入により、GLUTへの結合親和性を高め得る。阻害剤2(In2)の場合、主要な構造を変更せずに、マイケル付加反応によりアミノ基を導入した。インスリンをフォルスコリンおよび阻害剤2に接合させるために、インスリンは、最初にトラウト試薬と反応させてチオール基を導入し、また阻害剤の接合のため直接使用した。そしてそれはまた、SMCC架橋剤と事前に反応させた。得られた接合体インスリン-フォルスコリンとインスリン-In2はpH7.4で不溶性であり、構造をMALDI-TOF質量スペクトルによって確認した。グルコース輸送体のモデルとして赤血球ゴーストを使用すると、インスリン-Fは膜に結合できることが判明した(
図4)。さらに、この結合は、報告されているグルコース輸送体阻害剤、サイトカラシンB、およびグルコースによって、阻害される可能性があり(
図5)、結合がGLUT特異的であることを示す。
【0058】
インスリン接合体の生体内治療効果は、STZによって誘発された1型糖尿病マウスモデルで評価された。糖尿病マウスは、インスリン接合体または天然インスリンで処置された4つのグループに割り当てられた。リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)を対照として使用した。すべての処置群のBGLは、0.5時間以内に200mg/dL未満に減少した。これは、インスリン接合体の活性の保持を示す(
図4)。さらに、インスリン接合体により処置したマウスの血糖値は、遊離インスリンと関係した3時間よりもはるかに長い、10時間を超えて、正常範囲内(<200mg/dL)に維持された。また、インスリン接合体で処置したマウスには、無視できるほどの低血糖が観察された。インスリン接合体が生細胞のGLUTに結合すると、血中インスリンレベルが低下するのを助け、低血糖がより生じにくくなる。インスリン-Fの長期にわたる挙動を、生体画像を使用して、さらに確認した(
図6)。その上、複数の腹腔内グルコース負荷試験により、インスリン-Fの長期にわたる血糖調節能力を、さらに確認した(
図7)。高血糖から正常血糖への、この血糖値の急速な調節は、グルコース輸送体から高血糖トリガーインスリン-Fの放出に起因してもよい。
【0059】
要約すると、皮下注射可能な、GLUTの阻害剤と一体となったグルコース応答性インスリン接合体を合成した。加えて、それは、pH7.4ではPBSに不溶性であり、通常のグルコースレベルで、基礎インスリンを放出した。インスリン接合体は、一旦皮下注射されると、皮膚の下に貯留物を形成し、そのため、常にインスリンを放出し、血液中と全身を循環する。生細胞のGLUTは、正常血糖下でインスリン接合体を捕捉して結合し、初期の高レベルのインスリンを緩衝し、また、低血糖は無視できるほどにさせ得る。加えて、このインスリンプールは、高血糖状態のインスリンを細胞膜から循環へ放出でき、したがって、血糖値をリアルタイム方法で調節し得る。生体内動物実験により、このインスリン接合体がBGLを効率的に調節できることを示した。
【0060】
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