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特許7515407ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体及び少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体を使用する組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)前駆体及び少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体を使用する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/455 20060101AFI20240705BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/121 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
   A23L 33/00 20160101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/455
A61K31/706
A61K31/121
A61P43/00 107
A61P43/00 121
A23L33/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020564863
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019063428
(87)【国際公開番号】W WO2019242983
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】62/688,045
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】クエヌード, バーナード
(72)【発明者】
【氏名】セヴェリン, インディア クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】スタイナー, パスカル
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/109195(WO,A1)
【文献】特表2009-532496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを含む組成物であって、
前記NAD前駆体が、ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシド、還元型ニコチンアミドリボシド、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド、トリゴネリン、ニコチン酸モノヌクレオチド、ニコチン酸リボシド、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体が、β-ヒドロキシブチレート及びその塩、β-ヒドロキシペンタノエート及びその塩、並びにこれらの混合物からなる群から選択され、
星状細胞における酸素消費を増加させるために使用される、組成物。
【請求項2】
食品製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、メディカルフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記星状細胞がヒトiPSC由来星状細胞を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記NAD前駆体の少なくとも一部が、前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部と同じ組成物で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記NAD前駆体の少なくとも一部が、前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部と異なる組成物で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記β-ヒドロキシブチレートがD-β-ヒドロキシブチレートである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記β-ヒドロキシペンタノエートがD-β-ヒドロキシペンタノエートである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ウロリチンを含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、酸化ストレス、酸化ストレスに関連する状態、グルタチオンレベルの低下、グルタチオンレベルの低下に関連する状態、レドックス比NAD/NADHの低下、又は低レドックス比NAD/NADHに関連する状態を処置又は予防することができる組成物及び方法に関する。あるいは、又はそれに加えて、組成物及び方法は、運動能力及び身体機能を改善させることができる。
【0002】
[0002]人口の高齢化は人口動態の面で特筆すべき事象である。寿命の延長により、高齢者人口の増加が総人口の増加を上回るにつれて、高齢者人口の他の人口に対する割合は、出生率の低下もあって大幅に増加している。例えば、1950年代には60歳以上の高齢者は12人に1人であったのが、2000年代の終わりには60歳以上の高齢者は10人に1人となっていた。2050年代の終わりまでには、世界的に5人に1人が60歳以上の高齢者となると予測されている。
【0003】
[0003]中高年では、年齢とともに進行する、認知機能の低下を含むある程度の認知障害になることが多く、脳形態及び脳血管機能の加齢性の変化が一般に観察される。認知機能の低下は、処理速度、注意、エピソード記憶、空間能力及び遂行機能などを含む広範な認知領域の老化と併せて報告されている。脳の画像解析により、これらの通常の加齢性の認知機能低下は、脳の灰白質及び白質の両方の容積の減少と関連しており、老化に伴って最も重く損傷を受けるのは前頭線条体系であることが判明している。このような皮質容積の減少は、例えば、酸化的損傷をもたらすフリーラジカルによる長期にわたる損傷の蓄積、慢性的な軽度の炎症、ホモシステインの蓄積(これが増加した場合は、認知障害及び認知症のリスク因子となる)、及びミトコンドリア機能の低下などの、通常の老化に関与する多くの有害な細胞プロセスに起因する可能性がある。直接的な細胞の損傷に加え、脳は、微小血管構造の傷害からも間接的な損傷を受ける。老化、更には認知症の病理が、互いに関連し合うこれらの因子間の複雑な相互作用を内包することは明らかである。例えば、ミトコンドリアの機能不全は結果として酸化ストレスを増加させ、酸化ストレスは炎症及び血管損傷のトリガーとなり得る。
【0004】
[0004]更に、認知機能の低下は、アルツハイマー病の早期予測因子であり、認知症の発症前に始まる。この場合、認知機能についての総合得点が、認知症より前に起こる認知機能の低下を評価するにあたって信頼性の高い手段となる。多くのエビデンスから、脳の健康を維持し、加齢による認知機能の低下を予防することで、アルツハイマー病及び他の加齢性の神経病理による認知症の進行を予防する又は遅らせることができることが示唆されている。
【0005】
[0005]近年、栄養摂取、教育、運動及び認知エクササイズは、加齢による認知機能の低下を予防し得る介入方法として実証されている。豊富な臨床的、疫学的及び個別的なエビデンスにより、個々の栄養因子が、認知症リスク及び加齢性の神経変性を低減することが裏付けられている。しかしながら、栄養学的介入についての公式な試験で得られた結果は錯綜している(Schmitt et al.,Nutrition Reviews 68:S2-S5(2010)。
【0006】
[発明の概要]
[0006]一実施形態では、本開示は、酸化ストレス、酸化ストレスに関連する状態、グルタチオンレベルの低下、グルタチオンレベルの低下に関連する状態、低レドックス比NAD/NADH、又は低レドックス比NAD/NADHに関連する状態からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態を処置又は予防する方法を提供する。本方法は、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、これらを必要とする個体に投与することを含む。
【0007】
[0007]少なくとも1つの身体的状態は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患の有害な影響、うつ病、不安、意欲低下及び認知機能障害、軽度認知障害、双極性障害、統合失調症、自閉症、てんかん、片頭痛、ハンチントン病、脳性麻痺、脳卒中及び脳虚血からなる群から選択される。
【0008】
[0008]一実施形態では、NAD前駆体は、トリプトファン、ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシド(NR)、還元型ニコチンアミドリボシド(NRH)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、トリゴネリン、ニコチン酸モノヌクレオチド、ニコチン酸リボシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0009】
[0009]一実施形態では、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体は、中鎖トリグリセリド(MCTs)、MCT誘導体、モノエステル(例えば、R-3-ヒドロキシブチルR-3-ヒドロキシブチレート)及びアセトアセテートジエステル(例えば、1,3-ブタンジオールアセトアセテートジエステル)などのケトンエステル、ケトン塩、BHB(β-ヒドロキシブチレート)、D-BHB塩、β-ヒドロキシペンタノエート、β-ケトペンタノエート、アセトアセテート(AcA)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0010】
[0010]一実施形態では、組み合わせは、経鼻胃管を介して、経口的又は経腸的に投与される。
【0011】
[0011]一実施形態では、組み合わせは、食品製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、メディカルフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物として投与される。
【0012】
[0012]一実施形態では、NAD前駆体の少なくとも一部は、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部と同じ組成物で投与される。
【0013】
[0013]一実施形態では、NAD前駆体の少なくとも一部は、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部とは異なる組成物で投与される。
【0014】
[0014]別の実施形態では、本開示は、健康な中高年者において認知機能を維持する方法を提供する。本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、健康な中高年者に投与することを含む。健康な中高年者は高齢者(elderly)であってもよい。
【0015】
[0015]別の実施形態では、本開示は、脳のケトン取り込みを増加させる、及び/又は脳のエネルギー状態を高める必要がある個体において、脳のケトン取り込みを増加させる、及び/又は脳のエネルギー状態を高める方法を提供する。
【0016】
[0016]別の実施形態では、本開示は、特にADの発症に関連する、脳の構造及び機能の劣化を予防又は軽減する方法を提供する。
【0017】
[0017]本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、個体に投与することを含む。
【0018】
[0018]別の実施形態では、本開示は、記憶、認知、認知パフォーマンスのうちの1つ以上を改善する方法を提供する。本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、個体に投与することを含む。個体は、認知機能障害又は認知障害のうちの少なくとも1つを有してもよく、組成物は、認知を改善するのに有効な量の前記組み合わせを含むことができる。個体は、認知機能障害又は認知障害を有さなくてもよく、組成物は、認知を改善するのに有効な量の前記組み合わせを含むことができる。
【0019】
[0019]別の実施形態では、本開示は、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物を提供する。組成物は、記憶、認知、及び/又は認知パフォーマンスを改善するのに有効な量の組み合わせを含む。
【0020】
[0020]一実施形態では、前記組み合わせの量は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患、うつ病、不安、意欲低下、低意欲、認知機能障害、軽度認知障害、双極性障害、統合失調症、自閉症、てんかん、片頭痛、ハンチントン病、脳性麻痺、脳卒中及び脳虚血からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態を処置又は予防するために有効である。
【0021】
[0021]一実施形態では、組成物は、食品製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、メディカルフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0022】
[0022]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、酸化的代謝に関する効果を増強すること、及びDNA損傷を防ぐことである。
【0023】
[0023]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、年齢とともに減少するNADプールを補充することである。
【0024】
[0024]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
[0025]
図1】本明細書に開示される組成物及び方法に好適なケトン前駆体の非限定的な例についての化学式を示す図である。
図2】本明細書に開示される組成物及び方法に好適なケトン前駆体の非限定的な例についての化学式を示す図である。
図3】本明細書に開示される組成物及び方法に好適なケトン前駆体の非限定的な例についての化学式を示す図である。
図4】本明細書に開示される組成物及び方法に好適なケトン前駆体の非限定的な例についての化学式を示す図である。
図5】本明細書に開示される組成物及び方法に好適なケトン前駆体の非限定的な例についての化学式を示す図である。
図6】Seahorse XF96装置で測定された、ヒトiPSC由来星状細胞(ホモ接合型ApoE3遺伝子型を有する)における酸素消費を、NRと組み合わせた又は組み合わせていないBHB(0.5mM又は2mM)及びBHPに関して示すグラフである。
図7】Seahorse XF96装置で測定された、ヒトiPSC由来星状細胞(ホモ接合性ApoE4遺伝子型を有する)における酸素消費を、2mMのBHB及びBHP単独、又はNRとの組み合わせに関して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[0028]定義
[0029]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0027】
[0030]本明細書に記載する全ての百分率は、別途記載のない限り、組成物の総重量によるものである。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0028】
[0031]本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項を支持すると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲を支持するものと解釈されたい。
【0029】
[0032]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形「1つの」、すなわち「a」、「an」及び「the」には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「1つの構成成分(a component)」又は「その構成成分(the component)」についての言及は、2つ以上の構成成分を含む。
【0030】
[0033]用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「含む/備える(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「から本質的になる(consisting essentially of)」実施形態、及び「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。「から本質的になる」組成物とは、参照された構成成分を少なくとも50重量%、好ましくは参照された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは参照された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは参照された構成成分を少なくとも95重量%含むことをいう。本明細書で開示の任意の実施形態は、本明細書で開示の任意の他の実施形態と組み合わせることができる。
【0031】
[0034]「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。例えば、「少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体」は、「ケトン」又は「ケトン前駆体」又は「ケトン及びケトン前駆体の両方」と解釈されるべきである。
【0032】
[0035]本明細書において使用する場合、用語「例」及び「例えば~など」は、その後に用語の列挙が続くときは特に、単に例示的かつ説明的なものにすぎず、排他的又は網羅的なものとみなされるべきではない。本明細書で使用される場合、別の状態「に関連する」又は「と関連付けられる」状態は、これらの状態が同時に起こることを意味し、好ましくは、これらの状態が同じ基礎的な状態によって引き起こされることを意味し、最も好ましくは、特定されている状態のうちの一方が他方の特定されている状態によって引き起こされることを意味する。
【0033】
[0036]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養素を提供する、製品又は組成物を意味する。食品製品は、典型的には、タンパク質、脂質、炭水化物のうちの少なくとも1つを含み、任意に1種以上のビタミン及びミネラルを含む。本明細書に記載されている多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に開示されている要素、並びに本明細書に記載されている又は記載されていなくとも食生活において有用である任意の追加の又は場合により存在する成分、構成成分又は要素を含む、それらからなる、又はそれらから本質的になることができる。
【0034】
[0037]本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、単離されていない場合に、例えば自然界において、その化合物と一緒に見られ得る、1種以上の別の化合物又は構成成分から取り出されていることを意味する。好ましくは、例えば「単離された」は、特定されている化合物が、自然界で典型的に一緒に見られる細胞材料の少なくとも一部から分離されることを意味する。一実施形態では、単離された化合物は純粋なものであり、すなわち、他の化合物を含まない。
【0035】
[0038]「予防」は、状態又は障害のリスク、発生率及び/又は重症度の低減を含む。「処置/治療(treatment)」、「処置する/治療する(treat)」及び「緩和すること(to alleviate)」という用語は、(標的とする病態又は障害の発症を予防する及び/又は遅らせる)予防用の(prophylactic)処置又は予防的な(preventive)処置と、診断された病態又は疾患を治癒させる、遅らせる、その症状を減弱する、かつ/又はその進行を止める治療的手段を含む、治癒的、治療的又は疾患修飾処置との両方;並びに疾患にかかるリスクを有する、又は疾患にかかったと推測される患者の処置に加えて、病気である、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の処置を含む。この用語は、必ずしも完治するまで対象が処置/治療されることを意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を発症しやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。「処置/治療」、「処置/治療する」及び「緩和すること」という用語はまた、1つ以上の主たる予防的又は治療的手段の相乗作用、又は別の増強作用を含むことも意図している。「処置/治療」、「処置/治療する」及び「緩和すること」という用語は更に、疾患若しくは状態の食事療法(dietary management)、又は疾患若しくは状態の予防(prophylaxis若しくはprevention)のための食事療法を含むことも意図している。治療/処置は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0036】
[0039]本明細書で使用される場合、「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び動物対象のための投与量単位として好適な物理的に小分けされた単位を指し、各単位は、薬学的に許容可能な希釈剤、担体、又はビヒクルとともに、所望の効果をもたらすのに十分な量の、所定量の本明細書に開示される組成物を含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。
【0037】
[0040]「対象」又は「個体」は、哺乳動物、好ましくはヒトである。動物、特に愛玩動物であってもよい。ヒトの文脈での「高齢(elderly)」という用語は、60歳以上、好ましくは63歳より上、より好ましくは65歳より上、最も好ましくは70歳より上の出生後年齢を意味する。ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢の個体を含む。
【0038】
[0041]本明細書で使用される場合、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又はより一般的には、症状を軽減させる、疾患の進行を管理する、又は個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益をもたらす、量である。「改善された」、「増加した」、及び「増強された」などの相対的な用語は、本明細書に開示される組成物、すなわち、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物の、この組み合わせを含まない組成物と比較した場合の効果を指す。本明細書で使用される場合、「促進すること」とは、本明細書に開示される組成物の投与前のレベルと比較して増強又は誘導することを指す。
【0039】
[0042]本明細書で使用される場合、「神経変性疾患」又は「神経変性障害」は、中枢神経系において機能性ニューロンが徐々に減少する任意の状態を指す。一実施形態では、神経変性疾患は、加齢性の細胞死に関連する。神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病(より好ましくは軽度から中等度ADを含む)、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS及びルーゲーリック病としても知られる)、AIDS認知症、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナバン病、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、レヴィ小体型認知症、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ケネディー病、クラッベ病、ライム病、マシャド・ジョセフ病、多発性硬化症、多系統萎縮症、神経有棘赤血球症、ニーマン・ピック病、ピック病、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、びまん性髄鞘破壊性硬化症、脊髄小脳失調症、亜急性連合性脊髄変性症、脊髄癆(せきずいろう)、テイ・サックス病、中毒性脳症、伝染性海綿状脳症、及びハリネズミふらつき症候群が挙げられる。本開示は、神経変性疾患の特定の実施形態に限定されず、神経変性疾患は、当業者に既知の任意の神経学的に関連する状態であり得る。
【0040】
[0043]本明細書で使用される場合、「認知機能」とは、象徴的活動、例えば、知覚、記憶(自由再生)、注意、言語理解、言語表出、読解力、イメージ想起、学習、及び推理、好ましくは少なくとも記憶を伴う、任意の精神的プロセスを指す。
【0041】
[0044]認知機能を測定するための方法は周知であり、例えば、認知機能の任意の特徴に関する個別テスト又はバッテリーテストを含むことができる。そのような試験の1つには、Margallo-LanaらによるPrudhoe認知機能検査(Prudhoe Cognitive Function Test)がある(2003)J.Intellect.Disability Res.47:488-492。別のそのような試験には、ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Exam)(MMSE)があり、これは、時間及び場所に対する見当識、記銘、注意及び計算、再生、言語使用及び理解、復唱、並びに複雑な命令を評価するように設計されている。Folsteinら(1975)J.Psych.Res.12:189-198。このような試験を使用して、認知機能を客観的に評価することができ、その結果、例えば、本明細書に開示されている方法による処置に応じた、認知機能の変化を測定及び比較することができる。
【0042】
[0045]本明細書で使用される場合、「認知障害」は、認知機能を低下させる任意の状態を指す。認知障害の非限定的な例としては、せん妄、認知症、学習障害、注意欠陥障害(ADD)、及び注意欠陥多動障害(ADHD)が挙げられる。
【0043】
[0046]トリグリセリド(トリアシルグリセロール又はトリアシルグリセリドとしても知られている)は、グリセロール及び3つの脂肪酸から得られるエステルである。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0044】
[0047]中鎖トリグリセリド(MCT)は、中の3つの脂肪酸部分全てが中鎖脂肪酸部分であるトリグリセリドである。本明細書で定義される場合、中鎖脂肪酸(MCFA)は、6~12個の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0045】
[0048]実施形態
[0049]本開示は、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物を提供する。一実施形態では、NAD前駆体は、トリプトファン、ニコチン酸(ナイアシン)、ニコチンアミド(ナイアシンアミド)、ニコチンアミドリボシド(NR)、還元型ニコチンアミドリボシド(NRH)、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、トリゴネリン(N-メチルニコチネート)、ニコチン酸モノヌクレオチド、ニコチン酸リボシド、これらの化合物のうちの少なくとも1つを濃縮した食品抽出物、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)を濃縮した食品抽出物、及びこれらの混合物からなる群から選択される。本明細書で使用される場合、「ニコチンアミドリボシド」は、ニコチンアミドリボシドのL-バリン及びL-フェニルアラニンエステルを含む。
【0046】
[0050]一実施形態では、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体は、R1、R2及びR3残基が独立に7個、8個、9個、又は10個の炭素を含有する脂肪族直鎖である、中鎖トリグリセリドを含む(図1)。一実施形態では、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体は、R1、R2、R3がメチル残基であり、A1及びA2が独立にCH、CHOH又はC=Oのいずれかであり、*がR又はS鏡像異性体のいずれか、又は両方である、ケトンエステルを含む(図2~4)。
【0047】
[0051]一実施形態では、少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体は、以下からなる群から選択される:中鎖トリグリセリド(MCTs);MCT誘導体;ケトンエステル、例えばモノエステル(例えば、(R)-3-ヒドロキシブチル-(R)-3-ヒドロキシブチレート(図5))及びアセトアセテートジエステル(例えば、R,S-1,3-ブタンジオールアセトアセテートジエステルなど;ケトン塩;BHB(β-ヒドロキシブチレート)及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;D-BHB及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;β-ヒドロキシペンタノエート及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;D-β-ヒドロキシペンタノエート及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;β-ケトペンタノエート及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;ヘキサノイルエチルβ-ヒドロキシブチレート;オクタノイルエチルβ-ヒドロキシブチレート;ヘキサノイルヘキシルβ-ヒドロキシブチレート;アセトアセテート(AcA)及びその塩、例えばナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びこれらの組み合わせ;並びにこれらの混合物。MCTは3つの脂肪酸部分を含み、各脂肪酸部分は独立して6~12個、6~11個、6~10個、7~12個、7~11個、7~10個、8~12個、8~11個、8~10個の炭素原子を有する。
【0048】
[0052]それぞれの化合物を、他の化合物と同時に投与することができ(すなわち、単一の単位とする)、又は間隔をおいて別個に投与することもできる(すなわち、別個の単位とする)。本開示は、混合して本明細書に開示されている組成物のうちの1つ以上を形成するための、及び/又は本明細書に開示されている方法のうちの1つ以上で使用するための、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)とを、例えば2種以上の溶液又は乾燥粉末として別個の容器中に含む、キットを更に提供する。いくつかの実施形態では、これらの化合物のうちの1つ以上は、単離された化合物であり得る。
【0049】
[0053]したがって、本開示の一態様は、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物であって、神経変性疾患(例えば、老化による)、うつ病、不安、意欲低下、低意欲、認知機能障害、軽度認知障害、双極性障害、統合失調症、自閉症、てんかん、片頭痛、ハンチントン、脳性麻痺、脳卒中、及び脳虚血からなる群から選択される少なくとも状態の処置又は予防に有効な量の組み合わせを含む、組成物である。
【0050】
[0054]例えば、老化は、酸化ストレス、グルタチオンレベルの低下、低レドックス比NAD/NADHのうちの1つと関連付けされ得る状態である。本明細書に開示される組成物は、老化によるこれらの有害な影響を処置又は予防することができる。
【0051】
[0055]他の例として、うつ病は低グルタチオンと関連付けられ、不安は酸化ストレスと関連付けられる。本明細書に開示される組成物は、これらの状態を処置又は予防することができる。
【0052】
[0056]本開示の別の態様は、これらの状態のうちの少なくとも1つを処置する方法であって、治療有効量のNAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物を、個体に投与することを含む、方法である。本開示の別の態様は、これらの状態のうちの少なくとも1つを予防する方法であって、予防有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを含む組成物を、少なくとも1つの状態のリスクがある個体に投与することを含む、方法である。
【0053】
[0057]本開示の更に別の態様は、健康な中高年者において認知機能を維持する方法である。本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを、健康な中高年者に投与することを含む。
【0054】
[0058]別の態様では、本開示は、認知機能及び/又は認知パフォーマンスを改善する方法を提供する。本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを、個体に投与することを含む。認知機能は、知覚、記憶、注意、言語理解、言語表出、読解力、イメージ想起、学習、推理、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。一実施形態では、個体は認知障害を有さず、あるいは、個体は認知障害を有する。個体は高齢者であってもよく、及び/又は老化に関連する認知機能の低下を有していてもよい。
【0055】
[0059]本開示の更に別の態様は、記憶、認知及び/又は認知パフォーマンスを改善する方法である。本方法は、有効量の、NAD前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体(例えば、ケトンエステル)との組み合わせを、個体に投与することを含む。
【0056】
[0060]本明細書に開示される組成物及び方法のそれぞれにおいて、組成物は、好ましくは、食品添加物を含む食品製品、食品原材料、機能性食品、サプリメント、メディカルフード、健康補助食品、経口栄養補助食品(ONS)又は栄養補助食品である。
【0057】
[0061]組成物は、1週間に少なくとも1日、好ましくは1週間に少なくとも2日、より好ましくは1週間に少なくとも3日若しくは4日(例えば、1日おき)、最も好ましくは1週間に少なくとも5日、1週間に6日、又は1週間に7日、投与してよい。投与期間は、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも1カ月、より好ましくは少なくとも2カ月、最も好ましくは少なくとも3カ月、例えば、少なくとも4カ月であり得る。一実施形態では、投与は少なくとも毎日であり、例えば、対象は1日に1回以上投与され得る。いくつかの実施形態では、投与は、個体の残りの寿命にわたって継続する。別の実施形態では、投与は、医学的状態について検出可能な症状がなくなるまで行われる。特定の実施形態において、投与は、少なくとも1つの症状の検出可能な改善が見られるまで行われ、更なる場合においては、寛解を維持するために継続される。
【0058】
[0062]本明細書に開示される組成物は、経腸的に、例えば経口的に、又は非経口的に対象に投与されてもよい。非経口投与の非限定的な例としては、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、関節内、滑液嚢内、眼内、髄腔内、局所、及び吸入によるものが挙げられる。したがって、組成物の形態の非限定的な例としては、自然食品、加工食品、天然果汁、濃縮物及び抽出物、注射液、マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、硬膏、吸入形態、点鼻スプレー、点鼻液、点眼液、舌下錠、及び持続放出性製剤が挙げられる。
【0059】
[0063]本明細書に開示される組成物は、治療的投与のための様々な製剤のいずれかを使用することができる。より詳細には、医薬組成物は、適切な薬学的に許容可能な担体又は希釈剤を含むことができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア、及びエアゾール剤などの固体、半固体、液体又は気体形態の製剤として処方され得る。したがって、組成物の投与は、経口、頬側、直腸内、非経口、腹腔内、皮内、経皮、及び気管内投与を含む様々な方法で達成することができる。活性薬剤は、投与後に全身性のものであってもよく、又は局所投与の使用、壁内投与の使用、若しくは埋め込み部位において有効用量を保持するように作用する埋入物の使用によって局在化させてもよい。
【0060】
[0064]医薬剤形では、化合物は、薬学的に許容可能な塩として投与されてもよい。これらはまた、別の薬学的に活性な化合物と適切に関連させて使用してもよい。以下の方法及び賦形剤は、単なる例示であり、決して限定ではない。
【0061】
[0065]経口製剤では、化合物は、単独で使用することができ、又は、錠剤、散剤、顆粒剤若しくはカプセル剤を製造するための適切な添加剤と組み合わせて、例えば、乳糖、マンニトール、トウモロコシデンプン、若しくはバレイショデンプンなどの従来の添加剤と;結晶セルロース、セルロース機能性誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどの結合剤と;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、又はカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤と;タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤と;及び所望であれば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤及び香味物質と組み合わせて、使用することができる。
【0062】
[0066]化合物は、水性又は非水性溶剤中に、例えば、植物油若しくは他の類似の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステル又はプロピレングリコールなどに、また所望であれば、可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、及び保存剤などの従来の添加剤と一緒に、溶解、懸濁又は乳化することによって、注射用の製剤として処方することができる。
【0063】
[0067]化合物は、吸入により投与されるエアゾール製剤において利用することができる。例えば、化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、及び窒素などの加圧された許容可能な噴射剤中に配合することができる。
【0064】
[0068]更に、化合物は、乳化基剤又は水溶性基剤などの様々な基剤と混合することによって坐剤として製造することができる。化合物は、坐剤によって直腸内に投与することができる。坐剤は、ココアバター、カーボワックス、及びポリエチレングリコールなどの、体温では融解するが室温では凝固するビヒクルを含むことができる。
【0065】
[0069]シロップ剤、エリキシル剤、及び懸濁剤などの経口又は直腸内投与用の単位剤形が提供されてもよく、各投与量単位、例えば、小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤又は坐剤は、規定量の組成物を含有する。同様に、注射又は静脈内投与用の単位剤形は、滅菌水、生理食塩水又は別の薬学的に許容可能な担体による溶液としての組成物中に化合物を含んでもよく、各投与量単位、例えばmL又はLは、化合物のうちの1つ以上を含有する組成物を規定量含有する。
【0066】
[0070][実施例]
[0071]以下の非限定的な例は、細胞栄養のためのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを含む組成物の概念を展開及び支持する科学的データを提示する。
【0067】
[0072]方法
[0073]ホモ型ApoE3遺伝子型又はホモ型ApoE4遺伝子型(あるいはアイソジェニック)のいずれかを有する分化したヒトiPSC由来星状細胞は、Cellular Dynamics International(CDI,Madison,WI,USA)から入手した。製造元の指示に従って細胞を解凍した。10%ウシ胎仔血清及びN2補体を添加したDMEM中で星状細胞を培養した。
【0068】
[0074]ヒトiPSC由来星状細胞における酸素消費を、Seahorse XF96装置(Seahorse Bioscience、North Billerica、MA、USA)で測定した。星状細胞を、Seahorse96ウェル組織培養プレート(XF96 FluxPaks番号102416-100;Seahorse Bioscience)中に、1ウェル当たり40,000個の密度で直接播種した。実験前に、細胞を0.5mMのニコチンアミドリボシドクロリド(NR)又は新鮮な培地とともに24時間インキュベートした。播種の4日後、1mMグルコースを含有しているKRBHで細胞を2回洗浄し、示されている濃度のケトン体BHB(ラセミ体(D体,L体)BHB)又はBHP(D体BHP)とともに、1時間インキュベートした。実験中、細胞は37℃に維持した。ミトコンドリアの呼吸速度を6分ごとに測定した。以下の最終濃度で呼吸鎖阻害剤を添加した:複合体V阻害剤オリゴマイシン(2.5μg/mL)、複合体I阻害剤ロテノン(Rot;1μM)、複合体III阻害剤アンチマイシンA(1μg/mL)、及びプロトノフォアFCCP(1μM)。
【0069】
[0075][発明の概要]
[0076]Seahorse装置を使用して、ミトコンドリア機能の指標としてhiPSC由来星状細胞における酸素消費速度を測定した。脱共役剤FCCPを添加することにより、脱共役(=最大)呼吸を決定した。
【0070】
[0077]ケトン体単独又はNR処理のいずれも、最大呼吸を有意には増加させない。しかしながら、この2つを組み合わせると、最大呼吸は極めて有意に増加する(図6及び7)。
【0071】
[0078]本明細書に記載されている主題の態様は、以下の番号付けされた各項に記載されている。
1.酸化ストレス、酸化ストレスに関連する状態、グルタチオンレベルの低下、及びグルタチオンレベルの低下に関連する状態からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態を処置又は予防する方法であって、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、このような処置又は予防を必要とする個体に投与することを含む、方法。
2.前記少なくとも1つの身体的状態が、老化の有害な影響、筋減少、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病合併症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、過体重、肥満、コレステロールレベルの上昇、トリグリセリドレベルの上昇、脂肪酸レベルの増加、脂肪性肝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、うつ病、不安、意欲低下、低意欲、認知機能障害、スタチン誘発性ミオパチーなどのミオパチー、非アルコール性脂肪性肝炎、耳鳴、めまい、アルコールによる二日酔い、難聴、骨粗鬆症、高血圧、アテローム性動脈硬化、冠動脈疾患、ストレス後の心筋障害、外傷性脳損傷、嚢胞性線維症、炎症、がん、HIV感染症、脳卒中、片頭痛、及び脳虚血からなる群から選択される、第1項に記載の方法。
3.前記NAD前駆体が、トリプトファン、ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチンアミドリボシド(NR)、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、トリゴネリン、ニコチン酸モノヌクレオチド、ニコチン酸リボシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される、第1項に記載の方法。
4.前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体が、中鎖トリグリセリド(MCTs)、MCT誘導体、モノエステル、アセトアセテートジエステルなどのケトンエステル、ケトン塩、BHB(β-ヒドロキシブチレート)、D-BHB塩、β-ヒドロキシペンタノエート、β-ケトペンタノエート、アセトアセテート(AcA)、及びこれらの混合物からなる群から選択される、第1項に記載の方法。
5.前記組み合わせが経腸的に投与される、第1項に記載の方法。
6.前記組み合わせが、食品製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、メディカルフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される組成物として投与される、第1項に記載の方法。
7.前記NAD前駆体の少なくとも一部が、前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部と同じ組成物で投与される、第1項に記載の方法。
8.前記NAD前駆体の少なくとも一部が、前記少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体の少なくとも一部とは異なる組成物で投与される、第1項に記載の方法。
9.健康な中高年者において、代謝低下の最初を遅らせる、筋肉量を維持する、酸化ストレスを減少させる、免疫機能を維持する及び/又は認知機能を維持する方法であって、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、前記健康な中高年者に投与することを含む、方法。
10.前記健康な中高年者が高齢者である、第9項に記載の方法。
11.肥満又は糖尿病のうちの少なくとも1つを有する個体において、活性酸素種の代謝を増強する、グルコース調節を改善する、及び/又は筋機能を改善する方法であって、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、前記個体に投与することを含む、方法。
12.サルコペニアを有する個体においてミトコンドリア機能を改善する方法であって、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、前記個体に投与することを含む、方法。
13.前記サルコペニアを有する個体が、サルコペニアを有する点以外は健康である、第12項に記載の方法。
14.肥満及び/若しくは糖尿病の将来の発症を予防するための胎児代謝プログラミング、妊娠糖尿病中の母体及び胎児の健康、運動能力及び身体機能、生活の質、長寿、記憶、認知、外傷後の回復及び生存、又は外傷及び手術からの回復のうちの1つ以上を改善する方法であって、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、個体に投与することを含む、方法。
15.前記個体が、認知機能障害又は認知障害のうちの少なくとも1つを有し、前記組成物が、認知を改善するのに有効な量の前記組み合わせを含む、第14項に記載の方法。
16.前記個体が、認知機能障害も認知障害も有さず、前記組成物が、認知を改善するのに有効な量の前記組み合わせを含む、第14項に記載の方法。
17.筋パフォーマンス又は運動後の筋肉回復のうちの少なくとも1つを改善する方法であって、前記運動前、前記運動中、及び前記運動後からなる群から選択される少なくとも1つの期間中に、有効量の、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを、前記運動を行う個体に投与することを含む、方法。
18.ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)前駆体と少なくとも1種のケトン又はケトン前駆体との組み合わせを含む組成物であって、(i)酸化ストレス、酸化ストレスに関連する状態、グルタチオンレベルの低下、グルタチオンレベルの低下に関連する状態からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態の処置又は予防、あるいは(ii)肥満及び/若しくは糖尿病の将来の発症を予防するための胎児代謝プログラミング、妊娠糖尿病中の母体及び胎児の健康、運動能力及び身体機能、生活の質、長寿、記憶、認知、外傷後の回復及び生存、又は外傷及び手術からの回復のうちの1つ以上の改善、のうちの少なくとも1つに有効な量の前記組み合わせを含む、組成物。
19.前記組み合わせの前記量が、老化の有害な影響、筋減少、I型糖尿病、II型糖尿病、糖尿病合併症、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム、脂質異常症、過体重、肥満、コレステロールレベルの上昇、トリグリセリドレベルの上昇、脂肪酸レベルの増加、脂肪性肝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、うつ病、不安、意欲低下、認知機能障害、スタチン誘発性ミオパチーなどのミオパチー、非アルコール性脂肪性肝炎、耳鳴、めまい、アルコールによる二日酔い、難聴、骨粗鬆症、高血圧、アテローム性動脈硬化、冠動脈疾患、ストレス後の心筋障害、外傷性脳損傷、嚢胞性線維症、炎症、がん、及びHIV感染症からなる群から選択される少なくとも1つの身体的状態を処置又は予防するのに有効である、第18項に記載の組成物。
20.食品製品、栄養補助食品、経口栄養補助食品(ONS)、メディカルフード、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、第18項に記載の組成物。
【0072】
[0079]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7