(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】新規のサイトカインプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240705BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240705BHJP
C07K 14/55 20060101ALI20240705BHJP
C07K 14/54 20060101ALI20240705BHJP
C07K 14/715 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/26 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240705BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240705BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240705BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240705BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240705BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240705BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240705BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240705BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240705BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20240705BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C07K14/55
C07K14/54
C07K14/715
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/26
C12N15/24
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 K
C12P21/02 Z
A61K38/20
A61P35/00
A61P31/00
A61P37/04
A61K47/68
A61K47/65
A61K47/62
A61K39/395 D
A61K39/395 N
(21)【出願番号】P 2020571344
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 US2019021654
(87)【国際公開番号】W WO2019173832
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520347328
【氏名又は名称】アスクジーン・ファーマ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AskGene Pharma, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ユィ・チュンシャオ
(72)【発明者】
【氏名】ユエフォン・ルゥ
(72)【発明者】
【氏名】ルゥ・ジエン-フォン
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-508828(JP,A)
【文献】国際公開第2004/021861(WO,A2)
【文献】特表2014-506793(JP,A)
【文献】特表2014-500868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0306752(US,A1)
【文献】PLOS ONE,2017年,12 (7), e0179431,<https://doi.org/10.1371/journal.pone.0179431>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカイン部分、マスキング部分、および担体部分を含むプロドラッグであって、
前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分に結合し、前記サイトカイン部分の生物学的活性を阻害し、
前記サイトカイン部分が、前記担体部分に融合され、
前記マスキング部分が、前記担体部分に切断可能なペプチドリンカーを介して融合され、ならびに
前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分の受容体の細胞外ドメイン(ECD)を含むものであり、
前記担体部分が、ノブ-イントゥ-ホール変異を含む抗体Fcドメインまたは抗体であり、前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記抗体Fcドメインの異なるポリペプチド鎖に、または前記抗体の異なる重鎖に融合されている、
前記プロドラッグ。
【請求項2】
前記サイトカイン部分が、野生型ヒトサイトカインまたはその変異タンパク質である、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項3】
前記サイトカイン部分が、ヒトIL-2アゴニストポリペプチドである、請求項2に記載のプロドラッグ。
【請求項4】
前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号1または配列番号1に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のプロドラッグ。
【請求項5】
前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、T3、K35、R38、F42、Y45、E62、E68、L72、A73、N88、C125、およびQ126(配列番号1によるナンバリング)から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異を含む、請求項4に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項5に記載のプロドラッグ。
【請求項7】
前記マスキング部分が、配列番号3、4または5を含むヒトIL-2RβのECDか、あるいは配列番号3、4または5に対して少なくとも90%であるアミノ酸配列を含む前記ヒトIL-2RβのECDの機能的類似体を含む、請求項3~6のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項8】
前記マスキング部分が、(i)ペプチドリンカーを介して一緒に融合されたヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体の2コピー、あるいは(ii)ヒトIL-2RγのECDまたはその機能的類似体にペプチドリンカーを介して融合されたヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体を含み、前記ヒトIL-2RγのECDが配列番号6を含み
、前記ヒトIL-2RγのECDの機能的類似体が配列番号6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、請求項7に記載のプロドラッグ。
【請求項9】
前記ヒトIL-2RγのECDが、配列番号6を含む、請求項8に記載のプロドラッグ。
【請求項10】
前記サイトカイン部分が、ヒトIL-15アゴニストポリペプチドである、請求項2に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
前記ヒトIL-15アゴニストポリペプチドが、配列番号2または配列番号2に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のプロドラッグ。
【請求項12】
前記IL-15アゴニストポリペプチドが、(i)配列番号7を含むIL-15Rαスシドメイン、または(ii)配列番号7に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、請求項10に記載のプロドラッグ。
【請求項13】
前記マスキング部分が、ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体、あるいはIL-2Rγまたはその機能的類似体を含み、前記IL-2Rβが配列番号3、4または5を含み、前記IL-2Rγが配列番号6を含み
、前記機能的類似体が配列番号3、4、5または6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項14】
第2のエフェクターポリペプチドをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項15】
前記第2のエフェクターポリペプチドが、(i)126位(配列番号1によるナンバリング)における変異を含むヒトIL-2アゴニストポリペプチド、または(ii)配列番号123に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含むCCL19ポリペプチドである、請求項14に記載のプロドラッグ。
【請求項16】
前記サイトカイン部分が、非切断性ペプチドリンカーを介して前記担体部分に融合されている、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項17】
前記非切断性ペプチドリンカーが、配列番号47~51から選択される、請求項16に記載のプロドラッグ。
【請求項18】
前記切断可能なペプチドリンカーが、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、マトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)2、またはMMP9の基質配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項19】
前記切断可能なペプチドリンカーが、(i)uPAおよびMMP2の両方、(ii)uPAおよびMMP9の両方、または(iii)uPA、MMP2およびMMP9の基質配列を含む、請求項18に記載のプロドラッグ。
【請求項20】
前記切断可能なペプチドリンカーが、配列番号18、34、35、38、52~121、および217から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項18に記載のプロドラッグ。
【請求項21】
前記切断可能なペプチドリンカーが、腫瘍部位またはその周辺環境に局在する1つまたはそれ以上のプロテアーゼによって切断可能であり、前記切断が、前記腫瘍部位またはその周辺環境における前記プロドラッグの活性化を生じるものである、請求項1~20のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項22】
前記担体部分が、変異L234AおよびL235A(「LALA」)(Euナンバリング)を含む抗体Fcドメインまたは抗体である、請求項1~21のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項23】
前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のC末端に、または前記抗体の2つの重鎖のC末端に融合されている、請求項1~22のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項24】
前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のN末端に、または前記抗体の2つの異なる重鎖のN末端に融合されている、請求項1~22のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項25】
前記ノブ-イントゥ-ホール変異が、前記Fcドメインのポリペプチド鎖または前記抗体の重鎖におけるT366Y「ノブ」変異、ならびに前記Fcドメインのもう一方のポリペプチドまたは前記抗体のもう一方の重鎖におけるY407T「ホール」変異(Euナンバリング)を含む、請求項1~24のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項26】
前記ノブ-イントゥ-ホール変異が、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるY349Cおよび/またはT366W変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるE356C、T366S、L368A、および/またはY407V変異(Euナンバリング)を含む、請求項1~24のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項27】
前記担体部分が、配列番号195~198から選択されるアミノ酸配列、ならびに配列番号132~137および139から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含む、2つのポリペプチド鎖を含む、抗体Fcドメインである、請求項1~26のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項28】
前記担体部分が、グアニルシクラーゼC(GCC)、糖鎖抗原19-9(CA19-9)、糖タンパク質A33(gpA33)、ムチン1(MUC1)、癌胎児抗原(CEA)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1-R)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3)、デルタ様タンパク質3(DLL3)、デルタ様タンパク質4(DLL4)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、グリピカン-3(GPC3)、c-MET、血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ネクチン-4、Liv-1、糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Trop-2、炭酸脱水酵素IX(CA9)、エンドセリンB受容体(ETBR)、前立腺6回膜貫通型上皮抗原1(six transmembrane epithelial antigen of the prostate 1)(STEAP1)、葉酸受容体アルファ(FR-α)、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、炭酸脱水酵素VI(CA6)、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3(ENPP3)、メソテリン、栄養膜(trophoblast)糖タンパク質(TPBG)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD40、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD352、CD47、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)、PD1、クローディン18.2、クローディン6、5T4、BCMA、PD-L1、PD-1、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPアルファ)、メラノーマ結合コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、およびEPCAMから選択される1つまたはそれ以上の抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である、請求項1~26のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
【請求項29】
前記担体部分が、配列番号209および配列番号210~215のうちの1つをそれぞれ含むアミノ酸配列の2つの重鎖、ならびに配列番号216を含むアミノ酸配列の2つの軽鎖を含む抗体である、請求項28に記載のプロドラッグ。
【請求項30】
前記担体部分が、配列番号191ならびに配列番号192、193および206~208のうちの1つをそれぞれ含むアミノ酸配列の2つの重鎖、ならびに配列番号189を含むアミノ酸配列の2つの軽鎖を含む抗体である、請求項28に記載のプロドラッグ。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか1項に記載のプロドラッグおよび医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項32】
請求項1~30のいずれか1項に記載のプロドラッグをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項33】
請求項32に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項34】
請求項33に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項35】
サイトカインプロドラッグの製造方法であって、
請求項34に記載の宿主細胞を、前記プロドラッグの発現を可能にする条件下で培養することであって、前記宿主細胞が哺乳類細胞であり、次いで
前記プロドラッグを単離すること
を含む方法。
【請求項36】
治療または活性化を必要とする患者において癌または感染症を治療するか、または免疫系を活性化するための、請求項31に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月9日提出の米国仮出願第62/640,969号;2018年3月14日提出の米国仮出願第62/643,104号;2018年3月17日提出の米国仮出願第62/644,384号;2018年3月18日提出の米国仮出願第62/644、577号;2018年6月5日提出の米国仮出願第62/680,707号;および2019年2月6日提出の米国仮出願第62/801,649号からの優先権を主張する。前記先の出願の内容は、出典明示によりそれらの全体が本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
インターロイキン-2(IL-2)は、リンパ球の産生、生存およびホメオスタシスにおいて中心的な役割を果たしている。これは、133個のアミノ酸を有し、その機能に必要な四次構造を形成する4つの逆平行の両親媒性アルファヘリックスからなる(Smith, Science 240:1169-76 (1988); Bazan, Science 257:410-13 (1992))。
【0003】
IL-2は、最大3つの各サブユニットからなるIL-2受容体(IL-2R)に結合することによってその活性を生じる。α(CD25またはTac抗原)、β(CD122)、およびγ(γc、共通のγ鎖、またはCD132)サブユニットの結合は、三量体のIL-2への高親和性受容体を生じる(KD~0.01nM)。βおよびγサブユニットからなる二量体IL-2受容体は、中間親和性IL-2Rが付与される(KD~1nM)。αサブユニット単独では、単量体の低親和性IL-2受容体が形成される(KD~10nM)。例えば、Kim et al., Cytokine Growth Factor Rev. 17:349-66 (2006)を参照のこと。二量体の中間親和性IL-2受容体は、三量体の高親和性受容体より約100倍低い親和性でIL-2に結合するが、二量体および三量体IL-2受容体の両方とも、IL-2結合によるシグナルを伝達することができる(Minami et al., Annu Rev Immunol. 11:245-68 (1993))。よって、αサブユニットは、IL-2に対する受容体の高親和性結合を有しているが、IL-2シグナル伝達に必要ではないかもしれない。しかしながら、βおよびγサブユニットは、IL-2シグナル伝達に必須である(Krieg et al., Proc Natl Acad Sci. 107:11906-11 (2010))。この三量体IL-2受容体は、CD4+FoxP3+制御性T(Treg)細胞で発現される。Treg細胞は、最も高いレベルのIL-2Rα(CD25)をインビボで一貫して発現する(Fontenot et al., Nature Immunol 6:1142-51 (2005))。前記三量体IL-2受容体はまた、従来の活性化T細胞で一時的に誘導される一方、静止期において、これらの細胞は二量体IL-2受容体のみを発現する。
【0004】
目的に応じて、IL-2の変異タンパク質は、CD25に対して亢進し、または低下した結合親和性を有するように作成された。IL-2/IL-2R複合体の公開された結晶構造に基づくと、前記変異は、CD25に近接することが知られているIL-2またはその近辺の領域に入れられることが多い(Wang et al., Science 310:1159-63 (2005))。IL-2残基K35、R38、F42、K43、F44、Y45、E61、E62、K64、P65、E68、V69、L72、およびY107は、CD25に接触していると考えられている(米国特許第9,732,134号)。
【0005】
IL-2治療の副作用を軽減するために、研究者らは、変異体IL-2をCD25に対するその結合親和性を減少させた。例えば、WO2008/0034473は、変異R38WおよびF42Kを記載し、WO2012/107417は、72位における変異を記載する。米国特許公開第2003/0124678号は、IL-2の血管透過活性を取り除くためにR38W変異を導入することを記載する。Heatonら(Cancer Res. 53:2597-602 (1993);米国特許第5,229,109号)は、2つの変異R38AおよびF42Kを導入して、ナチュラルキラー(NK)細胞から炎症促進性サイトカインの分泌を有する能力を減少させたIL-2変異タンパク質を得ることを記載する。EP2639241B1は、Treg細胞の活性化において内在性IL-2より少なくとも1000倍以下の有用性であるIL-2変異タンパク質を記載し、1)R38K、F42I、Y45N、E62L、およびE68V;2)R38A、F42I、Y45N、E62L、およびE68V;3)R38K、F42K、Y45R、E62L、およびE68V;または4)R38A、F42A、Y45A、およびE62Aから選択される変異を有するIL-2変異タンパク質を記載する。米国特許公開第2014/0328791号は、CD25に対して親和性が低下したペグ化IL-2を記載する。あるIL-2変異タンパク質は、腫瘍抗原を標的とする抗体(例えば、CEA、FAP、およびPD-L1など)に抱合されている。例えば、Klein et al., Oncoimmunology 6(3):e1277306 (2017);Soerensen et al., J Clin Onc. 36:15_suppl (2018);WO2017/220989;および米国特許第9,206,260号を参照のこと。
【0006】
インターロイキン-15(IL-15)は、IL-2に構造類似性を有するサイトカインである。IL-15は、IL-2Rβγ受容体に結合し、これによりシグナル伝達し、ウイルス感染後に単核食細胞系および他の免疫細胞によって分泌される。IL-15は、NKおよび自然免疫系の他の細胞の増殖を誘導し、ウイルス感染細胞および癌細胞の死滅に関連する。
【0007】
残念なことに、現在のIL-2およびIL-15薬物候補の副作用は著しく、前記サイトカインの投薬量が制限される。さらに、T細胞および他の免疫細胞の活性化は部位特異的ではない。また、CD25に対する親和性は顕著に減少しているが、IL-2変異タンパク質のPKシンカーが存在しうる。よって、免疫細胞を活性化し、有効性を有するが、減少した副作用を示す際に部位特異的である改善されたサイトカイン治療を開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、サイトカイン部分、マスキング部分、および担体部分を含むプロドラッグであって、前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分に結合し、前記サイトカイン部分の生物学的活性を阻害し(例えば、サイトカイン部分が標的細胞におけるその受容体に結合することを阻害し、または前記サイトカイン部分の1つまたはそれ以上の生物学的活性を減少させる)、前記サイトカイン部分が、前記担体部分に融合され、前記マスキング部分が、切断可能なペプチドリンカーを介して前記サイトカイン部分または前記担体部分に融合されているプロドラッグを提供する。ある実施態様において、前記マスキング部分は、前記サイトカイン部分の受容体の細胞外ドメイン(ECD)を含む。
【0009】
ある実施態様において、前記サイトカイン部分は、野生型ヒトサイトカインまたはその変異タンパク質、例えば、ヒトIL-2アゴニストポリペプチド、例えば、配列番号1または配列番号1に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含むものである。ある実施態様において、前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドには、T3、K35、R38、F42、Y45、E62、E68、L72、A73、N88、C125、およびQ126(配列番号1によるナンバリング)から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異が含まれる。特定の実施態様において、前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドには、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列が含まれる。
【0010】
ある実施態様において、本発明のプロドラッグのマスキング部分は、ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体を含む。さらなる実施態様において、前記マスキング部分には、(i)ペプチドリンカーを介して一緒に融合されたヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体の2コピー、または(ii)ペプチドリンカーを介してヒトIL-2RγのECDまたはその機能的類似体に融合されたECDヒトIL-2Rβまたはその機能的類似体が含まれる。ある実施態様において、前記ヒトIL-2RγのECDまたはその機能的類似体は、配列番号6または配列番号6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む。特定の実施態様において、前記ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体は、配列番号3、4、または5、あるいは配列番号3、4、または5に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む。
【0011】
ある実施態様において、本発明のプロドラッグのサイトカイン部分は、ヒトIL-15アゴニストポリペプチドである。前記ヒトIL-15アゴニストポリペプチドには、配列番号2または配列番号2に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列が含まれる。ある実施態様において、前記IL-15アゴニストポリペプチドには、(i)配列番号7を含むIL-15Rαスシドメインまたは(ii)配列番号7に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列が含まれるか、またはさらに含まれる。特定の実施態様において、前記IL-15マスキングドメインには、ヒトIL-2Rβまたはその機能的類似体、あるいはヒトIL-2RγのECDまたは機能的類似体が含まれる。ある実施態様において、前記IL-15マスキングドメインには、配列番号3、4、5、または6、あるいは配列番号3、4、5、または6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列が含まれる
【0012】
ある実施態様において、前記プロドラッグには、第2のエフェクターポリペプチド、例えば、(i)126位(配列番号1によるナンバリング)における変異を含むヒトIL-2アゴニストポリペプチド、または(ii)配列番号123に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含むCCL19ポリペプチドがさらに含まれる。
【0013】
本発明のプロドラッグのある実施態様において、前記サイトカイン部分は、非切断性ペプチドリンカー(例えば、配列番号47~51から選択されるもの)を介して前記担体部分に融合されている。
【0014】
本発明のプロドラッグのある実施態様において、前記マスキング部分を直接または間接に(例えば、前記サイトカイン部分を介して)前記担体部分に結合している切断可能なペプチドリンカーには、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、マトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)2、またはMMP9の基質配列が含まれる。さらなる実施態様において、前記切断可能なペプチドリンカーには、(i)uPAおよびMMP2の両方、(ii)uPAおよびMMP9の両方、または(iii)uPA、MMP2、およびMMP9の配列が含まれる。特定の実施態様において、前記切断可能なペプチドリンカーには、配列番号18、34、35、38、52~121、および217から選択されるアミノ酸配列が含まれる。ある実施態様において、前記切断可能なペプチドリンカーは、腫瘍部位またはその周辺環境に局在する1つまたはそれ以上のプロテアーゼによって切断可能であり、前記切断は、腫瘍部位またはその周辺環境における前記プロドラッグの活性化を生じる。
【0015】
本発明のプロドラッグのある実施態様において、前記担体部分は、PEG分子、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)またはその断片、抗体Fcドメイン、あるいは抗体またはその抗原結合断片である。特定の実施態様において、前記担体部分は、変異L234AおよびL235A(「LALA」)(EUナンバリング)を含む抗体Fcドメインまたは抗体である。特定の実施態様において、前記担体部分は、ノブ-イントゥ-ホール変異を含む抗体Fcドメインまたは抗体であり、前記サイトカイン部分およびマスキング部分は、前記抗体Fcドメイン異なるポリペプチド鎖または前記抗体の異なる重鎖に融合されている。ある実施態様において、前記サイトカイン部分およびマスキング部分は、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のC末端または前記抗体の2つの異なる重鎖のC末端に融合されている。他の実施態様において、前記サイトカイン部分およびマスキング部分は、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のN末端または前記抗体の2つの異なる重鎖のN末端に融合されている。ある実施態様において、前記ノブ-イントゥ-ホール変異は、前記Fcドメインのポリペプチド鎖または前記抗体の重鎖においてT366Y「ノブ」変異、ならびに前記Fcドメインの他のポリペプチドまたは前記抗体(EUナンバリング)の他の重鎖においてY407T「ホール」変異を含む。ある実施態様において、前記ノブ-イントゥ-ホール変異は、前記「ノブ鎖」のCH3ドメインにおいてY349Cおよび/またはT366W変異、ならびに前記「ホール鎖」のCH3ドメインにおいてE356C、T366S、L368A、および/またはY407V変異(EUナンバリング)を含む。
【0016】
特定の実施態様において、前記担体部分は、配列番号195~198から選択されるアミノ酸配列および配列番号132~137および139から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含む2つのポリペプチド鎖を含む抗体Fcドメインである。
【0017】
ある実施態様において、前記担体部分は、グアニルシクラーゼC(GCC)、糖鎖抗原19-9(CA19-9)、糖タンパク質A33(gpA33)、ムチン1(MUC1)、癌胎児抗原(CEA)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1-R)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3)、デルタ様タンパク質3(DLL3)、デルタ様タンパク質4(DLL4)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、グリピカン-3(GPC3)、c-MET、血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ネクチン-4、Liv-1、糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Trop-2、炭酸脱水酵素IX(CA9)、エンドセリンB受容体(ETBR)、前立腺6回膜貫通型上皮抗原1(six transmembrane epithelial antigen of the prostate 1)(STEAP1)、葉酸受容体アルファ(FR-α)、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、炭酸脱水酵素VI(CA6)、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3(ENPP3)、メソテリン、栄養膜(trophoblast)糖タンパク質(TPBG)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD40、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD352、CD47、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)、PD1、クローディン18.2、クローディン6、5T4、BCMA、PD-L1、PD-1、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPアルファ)、(メラノーマ結合コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)(MCSP)、およびEPCAMから選択される1つまたはそれ以上の抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。
【0018】
特定の実施態様において、前記担体部分は、アミノ酸配列が、配列番号209、および配列番号210~215のうちの1つをそれぞれ含む2つの重鎖、ならびにアミノ酸配列が、配列番号216を含む2つの軽鎖を含む、抗体である。ある実施態様において、前記担体部分は、アミノ酸配列が、配列番号191、ならびに配列番号192、193、および206~208のうちの1つを含む2つの重鎖、ならびにアミノ酸配列が、配列番号189を含む2つの軽鎖を含む、抗体である。
【0019】
別の態様において、本開示は、A73位における変異を含むIL-2変異タンパク質、K35N変異を含むIL-2変異タンパク質、ならびに配列番号23~33、36、37、および39~41から選択されるアミノ酸配列を含むIL-2変異タンパク質を提供する。新規のIL-2変異タンパク質は、三量体IL-2受容体への結合の著しい減少を示しうる。
【0020】
他の態様において、本開示は、本開示のプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物;前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド;前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター;ならびに前記ベクターを含む宿主細胞(前記宿主細胞は、原核細胞または真核細胞(例えば、哺乳類細胞など)であってもよい)を提供する。ある実施態様において、前記哺乳類宿主細胞は、uPA、MMP2、および/またはMMP9の遺伝子をノックアウトされている(例えば、これらの遺伝子のうちの1つまたはそれ以上のヌル変異を含む)。よって、本開示はまた、前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の製造方法であって、前記宿主細胞を、前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の発現を可能にする条件下で培養し(前記宿主細胞は、哺乳類細胞である)、次いで前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質を単離することを含む方法を提供する。
【0021】
本開示はまた、癌または感染症を治療するか、または活性化を必要とする患者(例えば、ヒト患者)における免疫系を活性化する方法であって、本開示のプロドラッグ、IL-2変異タンパク質、または医薬組成物の治療上有効な量を前記患者に投与することを特徴とする方法を提供する。前記患者は、例えば、ウイルス感染(例えば、HIV感染)、あるいは乳癌、肺癌、膵癌、食道癌、甲状腺髄様癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、大腸癌、および胃癌からなる群から選択される癌に罹っていてもよい。本発明の方法における癌または感染症の治療、あるいは免疫系の活性化において使用するためのサイトカインプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質;本発明の方法における癌または感染症を治療するための薬剤または免疫系を活性化するための薬剤の製造のためのプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の使用;ならびに本発明のプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の1回またはそれ以上の投薬単位を含む製品(例えば、キット)もまた、本明細書で提供される。
【0022】
本発明の他の特徴、対象、および利点は、下記の詳細な説明において明白である。しかしながら、詳細な説明は、本発明の実施態様および態様を示しているが、一例に過ぎず、限定するものではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変更と改良が詳細な説明から当業者によって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、担体タンパク質に融合された変異体IL-2ポリペプチドのSDS-PAGE分析を示す。
【
図2】
図2A~Cは、担体タンパク質に融合されたIL-2変異タンパク質のCTLL2に基づく生物学的活性アッセイの結果を示す。
図2Aは、融合タンパク質を記載した表である。
図2Bは、IL-2変異タンパク質/Fc融合タンパク質の結果を示す。
図2Cは、IL-2変異タンパク質/ヒト血清アルブミン(HSA)融合タンパク質の結果を示す。
【
図3】
図3は、抗体に基づくIL-2またはIL-15プロドラッグを示す模式図。IL-2またはIL-15アゴニストポリペプチドは、前記担体抗体の重鎖の1つのC末端に、適宜、非切断性ペプチドリンカーを介して融合されている。IL-2またはIL-15アンタゴニストポリペプチド(マスキング部分、例えば、IL-2Rβ細胞外ドメイン)は、前記担体抗体のもう一方の重鎖のC末端に、切断可能なペプチドリンカーを介して融合されている。
【
図4】
図4は、HEK293細胞で発現された589A-IL-2プロドラッグのSDS-PAGE分析を示す。589Aは、ウサギB細胞クローニングに由来するクローディン18.2に対するヒト化抗体である。プロドラッグ試料は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。「活性化」試料は、プロテアーゼで処理されたものであった。前記SDS-PAGEは、非還元条件下で流動した。
【
図5】
図5は、抗体589Aおよびプロドラッグ589A-IL-2EのSEC-HPLC分析を示す。
【
図6】
図6は、CTLL2に基づく活性化アッセイを用いた589A-IL-2プロドラッグの活性化を示す。JR1.55.1:589A-IL-2E。JR1.55.2:589-IL-2F。MT:マトリプターゼ(プロテアーゼ)。
【
図7】
図7AおよびBは、589A-IL-2E(JR1.74.1)プロドラッグの活性化を示す。
図7Aは、FACS分析によって測定されるように、589A-IL-2Eおよびその活性化型(+MT)のHEK293細胞(IL-2RαβγまたはIL-2Rβγを発現する)への結合を示す。MFI:平均蛍光強度。
図7Bは、11μg/mlのプロドラッグでの全体の結合レベルを示す。
【
図8】
図8は、CTLL2に基づく活性化アッセイを用いたαPD-L1-IL-2Bプロドラッグの活性化を示す。MT:マトリプターゼ。
【
図9】
図9は、抗体589A、高まったADCC機能性を有する589A、およびIL-2に融合された高まったADCC機能を有する589Aの抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能の分析を示す。
【
図10】
図10は、各マウスにおける腫瘍体積により測定されるように、プロドラッグ589A-IL-2Eのインビボ抗癌効果を示す。テセントリク(登録商標):抗PD-L1抗体のアテゾリズマブ。
【
図11】
図11は、各マウスにおける腫瘍体積により測定されるように、プロドラッグ589A-IL-2Eのインビボ抗癌効果を示す。これは、
図10に示される実験と同一であった。
【
図12】
図12は、生存率により測定されるように、プロドラッグ589A-IL-2Eのインビボ抗癌効果を示す。これは、
図10に示される実験と同一であった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
本明細書および特許請求の範囲で用いられるように、単数形「a」、「or」、および「the」には、特に文脈から明らかでない限り、複数の対象が含まれる。本明細書の「約」値またはパラメータの対象は、値またはパラメータ自体に対する変動の度合いを含む(および記載する)。例えば、「約X」についての記載は、「X」の記載を含む。さらに、一連の数字の前の「約」の使用は、これらの一連の記載された数字の各々の「約」を含む。例えば、「約X、Y、またはZ」を示す記載は、「約X、約Y、または約Z」を記載することが意図される。
【0025】
用語「抗原結合部分」は、抗原に特異的に結合するポリペプチドまたは相互作用するポリペプチドの一組を意味し、下記に限定されないが、抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体、二重特異性もしくは二特異性抗体、抗イディオタイプ抗体、または二機能性ハイブリッド抗体)またはその抗原結合断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィドで結合したFv、scFv、シングルドメイン抗体(dAb)、または二特異性抗体)、単鎖抗体、およびFc含有ポリペプチド(例えば、イムノアドヘシン)が含まれる。ある実施態様において、前記抗体には、重鎖アイソタイプ(例えば、IgG、IgA、IgM、IgE、またはIgD)またはサブタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)のいずれのものも含まれる。ある実施態様において、前記抗体は、軽鎖アイソタイプ(例えば、カッパまたはラムダ)のいずれであってもよい。前記抗体は、ヒト、非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、または別の非ヒト動物に由来)、キメラ(例えば、非ヒト可変領域およびヒト定常領域を有する)、またはヒト化(例えば、非ヒトCDRおよびヒトフレームワークおよび定常領域を有する)であってもよい。ある実施態様において、前記抗体は、誘導体化された抗体である。
【0026】
用語「サイトカインアゴニストポリペプチド」は、野生型サイトカインまたはその類似体を意味する。野生型サイトカインの類似体は、野生型サイトカインと同一の生物学的特異性(例えば、同一の受容体に結合し、同一の標的細胞を活性化する)を有するが、類似体の活性レベルは、野生型サイトカインのものと異なっていてもよい。前記類似体は、例えば、野生型サイトカインの変異タンパク質(すなわち、変異が入ったポリペプチド)であってもよく、野生型サイトカインに対して少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個の変異を含んでいてもよい。
【0027】
用語「サイトカインアンタゴニスト」または「サイトカインマスク」は、サイトカインに結合し、それにより前記サイトカインが標的細胞の表面上のその受容体に結合し、および/またはそのアンタゴニストまたはマスクに結合しつつその生物学的機能を生じることを阻害する部分(例えば、ポリペプチド)を意味する。サイトカインアンタゴニストまたはマスクの例として、以下に限定されないが、そのサイトカインに接触するサイトカインの天然の受容体の細胞外ドメインに由来するポリペプチドが含まれる。
【0028】
用語「有効な量」または「治療上有効な量」は、特定の障害、病気、または疾患を治療するために、例えば、1つまたはそれ以上のその症状を軽減し、緩和し、減少させ、および/または遅延させるために十分な化合物または組成物の量を意味する。癌などの疾患に関して、有効な量は、癌の発症または進行を遅延させ(例えば、腫瘍増殖速度を減少させ、および/または癌細胞の末梢器官への腫瘍血管形成、転移、または浸潤を遅延させ、または予防し)、類上皮細胞数を減少し、癌の退縮を引き起こし(例えば、腫瘍を収縮し、または根絶させ)、ならびに/あるいは癌の発症または再発を予防し、または遅延させるために十分な量でありうる。有効な量は、1回またはそれ以上の投与で投与することができる。
【0029】
用語「機能的類似体」は、対象の分子と同一の生物学的特異性(例えば、同一リガンドへの結合)および/または活性(例えば、標的細胞の活性化または阻害)を有する分子を意味する。
【0030】
2つのポリペプチド配列に関する用語「融合される」または「融合」は、骨格ペプチド結合による2つのポリペプチド配列の結合を意味する。2つのポリペプチドは、直接、あるいは1個またはそれ以上のアミノ酸の長さであるペプチドリンカーを介して融合されていてもよい。融合ポリペプチドは、2つの融合パートナーの各コーディング配列を、その間にペプチドリンカーのコーディング配列を有するか、または有さずに含むコーディング配列から組み換え技術によって作成されうる。ある実施態様において、融合には、化学的抱合が含まれる。
【0031】
用語「医薬的に許容される賦形剤」は、組成物中の成分を意味するために用いられる場合、賦形剤が、その対象に過剰で有害な副作用なく、有効活性成分(API)の生物学的活性に影響を及ぼすことなく、治療対象(ヒト対象を含む)への投与に適することを意味する。
【0032】
用語「対象」は、哺乳類を意味し、以下に限定されないが、ヒト、ペット(例えば、イヌまたはネコ)、家畜(例えば、ウシまたはウマ)、齧歯類、または霊長類が含まれる。
【0033】
本明細書で用いられるように、「治療」または「治療する」は、利益的または所望の臨床結果を得るための方法である。利益的または所望の臨床結果には、以下に限定されないが、下記のうちの1つまたはそれ以上が含まれる:疾患から生じる1つまたはそれ以上の症状を軽減し、疾患の程度を減少させ、疾患状態を改善し、疾患を安定にし(例えば、疾患の悪化または進行を抑制し、または遅延させ)、疾患の広がり(例えば、転移)を抑制し、または遅延させ、疾患の再発を抑制し、または遅延させ、疾患の部分的または全体の寛解を供し、疾患を治療するために必要とされる1つまたはそれ以上の他の医薬の用量を減少させ、患者の生活の質を向上させ、ならびに/あるいは生存率を高めること。本開示の方法には、これらの治療態様のうちのいずれか1つまたはそれ以上が含まれる。
【0034】
本明細書に記載の様々な実施態様の特徴の1つ、いくつか、または全ては、本発明の他の実施態様を形成するために組み合わされてもよいことが理解されるべきである。本明細書で用いられる表題は、構成上のためのもののみであって、下記に記載される事項を限定するものと解釈されるべきではない。
【0035】
サイトカインプロドラッグ
本開示は、インビボで代謝されて活性なサイトカイン治療薬になるサイトカインプロドラッグを提供する。前記サイトカインプロドラッグは、少ない副作用、優れたインビボPKプロファイル(例えば、長期間の半減期)および優れた標的特異性、ならびに以前のサイトカイン治療薬と比較してより高い有効性を有する。本発明のプロドラッグには、担体部分に結合され、サイトカインアンタゴニスト(マスキング部分)によってマスクされた(結合された)サイトカインアゴニストポリペプチド(サイトカイン部分)が含まれる。前記サイトカインアンタゴニストは、例えば、サイトカインの受容体の細胞外ドメインであってもよく、切断可能なリンカー(例えば、切断可能なペプチドリンカー)を介してサイトカイン部分または担体部分に結合されている。前記マスクは、サイトカイン部分に結合しつつその生物学的機能を阻害する。前記プロドラッグは、リンカーが切断し、その結果、サイトカインのマスクがプロドラッグから放出され、それまでマスクされていたサイトカイン部分が曝露され、そのサイトカイン部分を標的細胞上のその受容体への結合を可能にし、標的細胞におけるその生物学的機能を生じることによって患者における標的部位(例えば、腫瘍部位またはその周辺環境)で活性化されうる。ある実施態様において、プロドラッグの担体は、標的部位における抗原に結合する抗体などの抗原結合部分である。
【0036】
ある実施態様において、本発明のプロドラッグは、担体による標的である体内における標的部位で代謝されて炎症促進性サイトカインとなる炎症促進性サイトカインプロドラッグである。さらなる実施態様において、前記プロドラッグにおける担体は、プロドラッグが患者の腫瘍部位に送達され、サイトカインマスクを担体またはサイトカイン部分に結合させているリンカーの切断により局所(例えば、腫瘍微小環境の内部または近辺)で代謝され、炎症促進性サイトカイン部分を、標的細胞上のその受容体との相互作用に利用できるようにし、標的の免疫細胞を局所的に活性化するような、腫瘍抗原を標的とする抗体である。
【0037】
下記の記載は、IL-2およびIL-15プロドラッグを例示するが、他のサイトカイン(特に、強力な免疫調節因子であり、強い副作用を有するサイトカイン)のためのプロドラッグもまた、本開示に包含される。これらの他のサイトカインプロドラッグは、IL-2およびIL-15プロドラッグについて下記に例示されるものと同一の原理により作成されうる。
【0038】
A.プロドラッグのサイトカイン部分
ある実施態様において、本発明のプロドラッグには、炎症促進性サイトカインアゴニストポリペプチド、例えば、IL-2アゴニストポリペプチドまたはIL-15アゴニストポリペプチドが含まれる。
【0039】
1.IL-2アゴニストポリペプチド
IL-2プロドラッグには、IL-2アゴニストポリペプチド(サイトカイン部分)、担体(担体部分)、およびIL-2アンタゴニスト(マスキング部分)が含まれうるものであって、前記IL-2アゴニストポリペプチドは、前記担体に、直接またはリンカー(例えば、切断可能なまたは非切断性ペプチドリンカー)を介して融合され、前記IL-2アンタゴニストは、前記IL-2アゴニストポリペプチドまたは前記担体に、切断可能なペプチドリンカーを介して結合されている。本発明のIL-2プロドラッグにおいて、前記IL-2アゴニストポリペプチドは、野生型IL-2ポリペプチド、例えば、野生型ヒトIL-2ポリペプチド(配列番号1)、またはIL-2変異タンパク質、例えば、ヒトIL-2に由来するIL-2変異タンパク質であってもよい。前記IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、CD25または三量体高親和性IL-2Rに対して顕著に減少した親和性を有しうる。ある実施態様において、IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して100倍、300倍、500倍、1,000倍、または10,000倍低い、高親和性IL-2Rに対する結合親和性を有する。特に示されていない限り、本明細書に記載のIL-2およびIL-2変異タンパク質における全ての残基番号は、配列番号1のナンバリングに従うものである。
【0040】
1の態様において、本開示は、IL-2プロドラッグにおけるIL-2アゴニストポリペプチドとして用いることができる新規のIL-2変異タンパク質を提供する。新規のIL-2変異タンパク質は、A73における変異(例えば、Tまたは別のアミノ酸残基に対する変異)および/またはK35N変異を含む。A73は、CD25と相互作用するアミノ酸残基の1つとしてこれまで同定されていない。それゆえ、本発明者らは、この位置における変異の導入(例えば、A73T)が、変異R38S/F42A/Y45A/E62Aを有するIL-2変異タンパク質または変異F42A/Y45A/L72Gを有するIL-2変異タンパク質の結合親和性と同様に、三量体IL-2受容体に対するIL-2変異タンパク質の顕著に減少した結合親和性を生じうることに驚いた(下記実施例1を参照のこと)。理論に拘束されることなく、本発明者らは、A73およびK35がIL-2において可能性のある糖鎖付加部位があり、これらの糖鎖付加部位の変異がIL-2Rに対するIL-2変異タンパク質の親和性を調節するものと考える。前記新規の変異タンパク質は、より安全性の高い臨床プロファイルを有し、IL-2活性を必要とする患者、例えば、活性化された免疫系を必要とする患者(例えば、癌患者およびAIDS患者)で用いることができる。新規のIL-2変異タンパク質は、独立した存在として、または(例えば、本発明のプロドラッグにおいて、例えば、担体に融合された)抱合体において用いることができる。
【0041】
ある実施態様において、本開示の新規のIL-2変異タンパク質は、A73における変異(例えば、A73T)、ならびにT3、D20、K35、R38、F42、F44、Y45、E62、E68、L72、N88、N90、C125、およびQ126から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異を含みうる。ある実施態様において、新規のIL-2変異タンパク質は、R38、F42、Y45、およびA73における変異を含む。
【0042】
ある実施態様において、本発明の新規のIL-2変異タンパク質は、K35N変異、ならびにT3、D20、R38、F42、F44、Y45、E62、E68、L72、A73、N88、N90、C125、およびQ126から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異を含みうる。ある実施態様において、新規のIL-2変異タンパク質は、A73における変異を伴い、または伴わず、変異K35N、ならびにR38、F42、およびY45におけるさらなる変異を含む。
【0043】
ある実施態様において、IL-2プロドラッグのIL-2アゴニストポリペプチドは、K35、R38、F42、F44、Y45、E62、E68、L72、およびA73における1つまたはそれ以上の変異を含みうる。ある実施態様において、前記IL-2アゴニストポリペプチドは、D20、N88、N90、およびQ126における1つまたはそれ以上の変異をさらに含む。T3および/またはC125におけるさらなる変異もまた含まれてもよい。特定の実施態様において、前記IL-2アゴニストポリペプチドは、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0044】
ある実施態様において、IL-2アゴニスト活性の基準レベルを確実にするために、本発明のIL-2プロドラッグは、野生型IL-2と比較して、二量体中間親和性IL-2受容体に対して顕著に減少した親和性を生じる変異を含む、第2のIL-2アゴニストポリペプチドをさらに含みうる。例えば、変異T3A/R38S/F42A/Y45A/E62A/C125S/Q126W(配列番号30)を、リンカー(配列番号130)またはリンカーなし(配列番号129)で有するIL-2変異タンパク質は、IL-2活性の低いが検出可能なレベルを示す(下記実施例1を参照のこと)。
【0045】
2.IL-15アゴニストポリペプチド
本開示のIL-15プロドラッグにおいて、前記IL-15アゴニストポリペプチドは、野生型IL-15ポリペプチド、例えば、野生型ヒトIL-15ポリペプチド(配列番号2)、あるいは野生型IL-15と比較してIL-15RαまたはIL-2Rβ(CD122)に対して減少した親和性を有するIL-15変異タンパク質、例えば、ヒト野生型IL-15に由来するIL-15変異タンパク質であってもよい。
【0046】
B.プロドラッグのマスキング部分
前記サイトカインアンタゴニスト、すなわち、本発明のプロドラッグのマスキング部分は、前記プロドラッグにおけるサイトカイン部分に結合し、前記サイトカイン部分をマスクし、その生物学的機能を阻害するペプチドまたは抗体もしくは抗体断片を含みうる。
【0047】
一例として、IL-2およびIL-15アンタゴニストは、IL-2またはIL-15に結合し、IL-2またはIL-15部分のその受容体への結合を妨害し、マスクされているが、IL-2またはIL-15部分の生物学的活性の減少を生じるペプチドおよび抗体を含みうる。ある実施態様において、前記IL-2アンタゴニストは、IL-2RβまたはIL-2Rγ細胞外ドメインあるいはその機能的類似体(例えば、ヒトIL-2RβまたはIL-2Rγに由来するもの(例えば、配列番号3~6のうちの1つ))を含む。ある実施態様において、前記IL-2アンタゴニストは、ペプチドライブラリーのスクリーニングから同定されたペプチドを含む。ある実施態様において、前記IL-2アンタゴニストは、IL-2またはIL-2変異タンパク質のIL-2受容体への結合を阻害する抗体またはその断片を含む。特定の実施態様において、前記IL-2アンタゴニストは、米国特許第4,411,993号に開示されるハイブリドーマクローン4E12B2D10、4E12B2、および4E12から選択される抗体と同一のCDR配列を有するscFv、Fab、または単鎖Fabを含む。
【0048】
ヒトIL-2は、IL-2Rβ(CD122)に比較的低い親和性(KD~3μM)で結合し、これは、中間親和性受容体IL-2Rβγに対するIL-2の結合親和性より1,000倍以上弱い(Johnson et al., Eur Cytokine Netw. 5(1):23-34 (1994))。よって、本発明者らは、IL-2Rβの細胞外ドメイン(ECD)がIL-2変異タンパク質アゴニストポリペプチドと同一の担体分子に融合された場合、IL-2変異タンパク質アゴニストポリペプチドの細胞に基づく活性が顕著に阻害されることに驚いた(下記実施例4を参照)。
【0049】
IL-15プロドラッグについて、前記マスキング部分は、IL-2RβまたはIL-2Rγの細胞外ドメインあるいはその機能的類似体(例えば、配列番号3~6のうちの1つ)であってもよい。
【0050】
C.プロドラッグの担体部分
本発明のプロドラッグの担体部分は、抗原結合部分、または抗原結合部分ではない部分であってもよい。前記担体部分は、サイトカインアゴニストポリペプチドの血清半減期などのPKプロファイルを改善させ、体内の標的部位(例えば、腫瘍部位)に対してサイトカインアゴニストポリペプチドの標的としうる。
【0051】
1.抗原結合担体部位
前記担体部分は、抗体またはその抗原結合断片、またはイムノアドヘシンであってもよい。ある実施態様において、前記抗原結合部位は、2つの重鎖および2つの軽鎖を有する全長抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ジスルフィド結合Fv断片、単一ドメイン抗体、ナノボディ、または単鎖可変断片(scFv)である。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、二特異性抗原結合部分であり、2つの異なる抗原または同一抗原上の2つの異なるエピトープに結合することができる。前記抗原結合部分は、さらに強力な相乗的な治療効果を前記サイトカインアゴニストポリペプチドに供しうる。
【0052】
前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドおよびそのマスクは、抗原結合部分の軽鎖および/または重鎖のN末端またはC末端に融合されうる。一例として、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドおよびそのマスクは、抗体重鎖またはその抗原結合断片あるいは抗体軽鎖またはその抗原結合断片に融合されうる。ある実施態様において、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドは、抗体の重鎖の1つまたは両方のC末端に融合され、前記サイトカインのマスクは、サイトカインアゴニストポリペプチドのもう一方の末端に切断可能なペプチドリンカーを介して融合される。ある実施態様において、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドは、抗体の重鎖の1つのC末端に融合され、前記サイトカインのマスクは、前記抗体のもう一方の重鎖のC末端に切断可能なペプチドリンカーを介して融合され、前記2つの重鎖は、2つの異なる重鎖の特異的な対を形成可能にする変異を含む。
【0053】
ヘテロダイマーを形成するための手法は周知である(例えば、Spies et al., Mol Imm. 67(2)(A):95-106 (2015)を参照のこと)。例えば、プロドラッグにおける2つの重鎖ポリペプチドは、安定なヘテロダイマーを「ノブ-イントゥ-ホール(knobs-into-holes)」変異により形成していてもよい。「ノブ-イントゥ-ホール」変異は、抗体重鎖のヘテロダイマーの形成を容易にするために入れられ、一般に、二特異性抗体を作成するために用いられる(例えば、米国特許第8,642,745号を参照のこと)。例えば、前記抗体のFcドメインは、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるT366W変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるT366S、L368A、および/またはY407V変異を含みうる。さらなるCH3ドメイン間の鎖間ジスルフィド架橋はまた、例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメインにY349C変異および「ホール鎖」のCH3ドメインにE356CまたはS354C変異を導入することによって用いることができる(例えば、Merchant et al., Nature Biotech 16:677-81 (1998)を参照のこと)。他の実施態様において、前記抗体部分は、前記2つのCH3ドメインのうちの1つにおけるY349Cおよび/またはT366W変異、ならびにもう一方のCH3ドメインにおけるE356C、T366S、L368A、および/またはY407V変異を含みうる。ある実施態様において、前記抗体部分は、前記2つのCH3ドメインのうちの1つにおけるY349Cおよび/またはT366W変異、ならびにもう一方のCH3ドメインにおけるS354C(またはE356C)、T366S、L368A、および/またはY407V変異を、1つのCH3ドメインにおけるさらなるY349C変異およびもう一方のCH3ドメインにおけるさらなるE356CまたはS354C変異を含み、鎖間ジスルフィド架橋を形成していてもよい(ナンバリングは常にカバットのEUインデックスに従う;カバット;Kabat et al., "Sequences of Proteins of Immunological Interest," 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。他のノブ-イントゥ-ホール技術(例えば、EP1870459A1に開示のもの)を代わりに、または加えて用いることができる。よって、抗体部分に対するノブ-イントゥ-ホール変異の別の例は、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるR409D/K370E変異および「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるD399K/E357K変異を有することである(EUナンバリング)。
【0054】
ある実施態様において、前記プロドラッグにおける抗体部分は、そのFcドメインにL234AおよびL235A(「LALA」)変異を含む。前記LALA変異は、補体結合および固定ならびにFcγ依存性ADCCを排除する(例えば、Hezareh et al. J. Virol. 75(24):12161-8 (2001)を参照のこと)。さらなる実施態様において、前記LALA変異は、ノブ-イントゥ-ホール変異に加えて抗体部分に存在する。
【0055】
ある実施態様において、前記抗体部分は、FcドメインにおけるM252Y/S254T/T256E(「YTE」)変異を含む。前記YTE変異は、IGG1の血清半減期、組織分布、および活性の同時調節を可能にする(Dall'Acqua et al., J Biol Chem. 281: 23514-24 (2006);およびRobbie et al., Antimicrob Agents Chemother. 57(12):6147-53 (2013)を参照のこと)。さらなる実施態様において、前記YTE変異は、ノブ-イントゥ-ホール変異に加えて抗体部分に存在する。特定の実施態様において、前記抗体部分は、YTE、LALA、およびノブ-イントゥ-ホール変異、またはこれらのいずれかの組み合わせを有する。
【0056】
前記抗原結合部分は、細胞(例えば、免疫細胞、例えば、T細胞、NK細胞、およびマクロファージ)の表面における抗原に結合してもよく、あるいはサイトカインに結合してもよい。例えば、前記抗原結合部分は、PD-1、LAG-3、TIM-3、TIGIT、CTLA-4、またはTGF-ベータに結合してもよく、抗体であってもよい。前記抗体は、免疫細胞を活性化し、その抗癌活性を高める能力を有しうる。
【0057】
前記抗原結合部分は、腫瘍細胞の表面における抗原に結合しうる。例えば、前記抗原結合部分は、FAPアルファ、5T4、Trop-2、PD-L1、HER2、EGFR、クローディン18.2、DLL-3、GCP3、または癌胎児抗原(CEA)に結合してもよく、抗体であってもよい。前記抗体は、ADCC活性を有していてもよく、あるいは有していなくてもよい。前記抗体はまた、細胞毒性薬にさらに抱合されていてもよい。
【0058】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、グアニルシクラーゼC(GCC)、糖鎖抗原19-9(CA19-9)、糖タンパク質A33(gpA33)、ムチン1(MUC1)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1-R)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3)、デルタ様タンパク質3(DLL3)、デルタ様タンパク質4(DLL4)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、グリピカン-3(GPC3)、c-MET、血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ネクチン-4、Liv-1、糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Trop-2、炭酸脱水酵素IX(CA9)、エンドセリンB受容体(ETBR)、前立腺6回膜貫通型上皮抗原1(six transmembrane epithelial antigen of the prostate 1)(STEAP1)、葉酸受容体アルファ(FR-α)、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、炭酸脱水酵素VI(CA6)、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3(ENPP3)、メソテリン、栄養膜(trophoblast)糖タンパク質(TPBG)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD40、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD352、CD47、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)、クローディン18.2、クローディン6、BCMA、またはEPCAMに結合する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、DLL3の上皮成長因子(EGF)様ドメインに結合する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、DLL3のデルタ/セレート/Lag2(DSL)様ドメインに結合する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、GPC3の374番目のアミノ酸の後に位置するエピトープに結合する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、GPCC3のヘパラン硫酸グリカン(heparin sulfate glycan)に結合する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、クローディン18.2に結合し、クローディン18.1に結合しない。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、クローディン18.1に、クローディン18.2より少なくとも10倍弱い結合親和性で結合する。
【0059】
典型的な抗原結合部分には、トラスツズマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、GC33(またはこれらのヒト化型)、抗EGFR抗体mAb806(またはそのヒト化型)、抗dPNAG抗体F598、およびこれらの抗原結合断片が含まれる。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、トラスツズマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、またはパニツムマブ、GC33(またはそのヒト化型)、抗EGFR抗体mAb806(またはそのヒト化型)、抗dPNAG抗体F598、またはこれらの断片に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、トラスツズマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、GC33(またはそのヒト化型)、抗EGFR抗体mAb806(またはそのヒト化型)、抗dPNAG抗体F598、またはこれらの断片の抗体重鎖に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有する抗体重鎖を有する。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、トラスツズマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、GC33(またはそのヒト化型)、抗EGFR抗体mAb806(またはそのヒト化型)、抗dPNAG抗体F598、またはこれららの断片の抗体軽鎖に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有する抗体軽鎖を有する。前記抗原結合部分は、IL-2アゴニストポリペプチドに融合されている。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、トラスツズマブ、リツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、GC33、抗EGFR抗体mAb806、または抗dPNAG抗体F598の6つの相補性決定領域(CDR)を含む。
【0060】
多くのCDR描写は、当該技術分野で公知であり、本明細書に含まれる。当業者は、重鎖または軽鎖可変領域の配列に基づいて所定の描写のためのCDRを容易に決定することができる。「カバット」CDRは、配列可変性に基づくものであり、最も一般的に用いられている(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。「Chothia」CDRは、構造ループの位置を示す(Chothia & Lesk, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins, J. Mol. Biol., vol. 196, pp. 901-917 (1987))。「AbM」CDRは、カバットCDRとChothia構造ループとの間の中間的な方法を示し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって用いられる。「コンタクト」CDRは、利用可能な複雑な結晶構造の解析に基づくものである。これらのCDRの各々に由来する残基を、一般的な抗体ナンバリングスキームを参照にして下記の表1に示す。特に本明細書で特定されていない限り、抗体のアミノ酸番号は、カバット、Chothia、AbM、またはコンタクトスキームに関してなされている場合を含み、上記のカバットらに記載のカバットナンバリングスキームを意味する。このナンバリングシステムを用いて、実際の線状のアミノ酸配列は、可変ドメインのフレームワーク領域(FR)またはCDRの短縮または前記領域またはCDRへの挿入に相当する少ないか、またはさらなるアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、H2の残基52の後の単一のアミノ酸挿入(カバットによる残基52)および重鎖FR残基82の後の挿入された残基(例えば、カバットによる残基82a、82b、および82cなど)が含まれてもよい。残基のカバットナンバリングは、「標準的な」カバットでナンバリングした配列を有する抗体配列の相同性領域のアラインメントによって所定の抗体について調べられうる。
表1.様々なスキームによるCDR描写
【表1】
【0061】
ある実施態様において、前記CDRは「伸長CDR」であり、異なるスキームにより開始し、または終結する領域を包含する。例えば、伸長CDRは、下記のとおりでありうる:L24~L36、L26~L34、またはL26~L36(VL-CDR1);L46~L52、L46~L56、またはL50~L55(VL-CDR2);L91~L97(VL-CDR3);H47~H55、H47~H65、H50~H55、H53~H58、またはH53~H65(VH-CDR2);および/またはH93~H102(VH-CDR3)。
【0062】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、HER2に結合し、配列番号148に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号149に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号148からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号149からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0063】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、CD20に結合し、配列番号150に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号151に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号150からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号151からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0064】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、CD30に結合し、配列番号152に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号153に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号152からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号153からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0065】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、EGFRに結合し、配列番号154に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号155に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号154からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号155からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0066】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、EGFRに結合し、配列番号156に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号157に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号156からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号157からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0067】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、c-METに結合し、配列番号158に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号159に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号158からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号159からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0068】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、GPC3に結合し、配列番号160に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号161に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号160からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号161からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0069】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、クローディン18.2に結合し、配列番号162に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号163に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号162からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号163からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0070】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、FAPアルファに結合し、配列番号180に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号182に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号180または181からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号182からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、FAPアルファに結合し、配列番号183に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号184に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号183からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号184からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。特定の実施態様において、前記ヒト化FAP抗体は、配列番号180または181で示される軽鎖アミノ酸配列および配列番号182で示される重鎖アミノ酸配列を含む。
【0071】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、癌胎児抗原(CEA)に結合し、抗体PR1A3(米国特許第8,642,742号)に由来していてもよい。抗CEA抗体は、配列番号178に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号179に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号176からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号177からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。ある実施態様において、前記PR1A3抗体は、配列番号178で示される軽鎖可変領域アミノ酸配列および配列番号179で示される重鎖可変領域アミノ酸配列を含むヒト化抗体である。
【0072】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、PDL1に結合し、配列番号189に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号190に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号189からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号190からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0073】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、5T4に結合し、配列番号187または188に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン、あるいはこれらの断片、ならびに配列番号185または186に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン、あるいはこれらの断片を含む。ある実施態様において、前記抗原結合ドメインは、配列番号187または188からのCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびに配列番号185または186からのCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。
【0074】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、Trop-2に結合し、KASQDVSIAVA(配列番号164)のアミノ酸配列を含むCDR1、SASYRYT(配列番号165)のアミノ酸配列を含むCDR2、およびQQHYITPLT(配列番号166)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;ならびにNYGMN(配列番号167)のアミノ酸配列を含むCDR1、WINTYTGEPTYTDDFKG(配列番号168)のアミノ酸配列を含むCDR2、およびGGFGSSYWYFDV(配列番号169)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む。
【0075】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、メソテリンに結合し、SASSSVSYMH(配列番号170)のアミノ酸配列を含むCDR1、DTSKLAS(配列番号171)のアミノ酸配列を含むCDR2、およびQQWSGYPLT(配列番号172)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む軽鎖可変領域;ならびにGYTMN(配列番号173)のアミノ酸配列を含むCDR1、LITPYNGASSYNQKFRG(配列番号174)のアミノ酸配列を含むCDR2、およびGGYDGRGFDY(配列番号175)のアミノ酸配列を含むCDR3を含む重鎖可変領域を含む。
【0076】
ある実施態様において、前記抗原結合部分は、1つ、2つ、または3つの抗原結合ドメインを含む。例えば、前記抗原結合部分は、二特異性であり、HER2、HER3、EGFR、5T4、FAPアルファ、Trop-2、GPC3、VEGFR2、クローディン18.2、およびPD-L1からなる群から選択される2つの異なる抗原に結合する。ある実施態様において、前記二特異性抗原結合部分は、HER2の2つの異なるエピトープに結合する。
【0077】
2.他の担体部分
他の非抗原結合担体部分が本発明のプロドラッグのために用いられてもよい。例えば、抗体Fcドメイン(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fc)、ポリマー(例えば、PEG)、アルブミン(例えば、ヒトアルブミン)、またはこれれらの断片、あるいはナノ粒子が用いられうる。
【0078】
一例として、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドおよびそのアンタゴニストは、抗体Fcドメインに融合されて、Fc融合タンパク質を形成していてもよい。ある実施態様において、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドは、前記Fcドメインポリペプチド鎖の1つのC末端またはN末端に、(直接またはペプチドリンカーを介して)融合され、前記サイトカインマスクは、もう一方のFcドメインポリペプチド鎖のC末端またはN末端に、切断可能なペプチドリンカーを介して融合されており、前記2つのFcドメインポリペプチド鎖は、2つの異なるFc鎖の特異的な対を可能にする変異を含有する。ある実施態様において、前記Fcドメインは、上記に記載のホール-イントゥ-ホール変異を含む。さらなる実施態様において、前記Fcドメインはまた、上記に記載のYTEおよび/またはLALA変異を含んでいてもよい。
【0079】
前記プロドラッグの担体部分は、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)またはその断片を含みうる。アルブミンの典型的な配列が配列番号124に示される。ある実施態様において、前記アルブミンまたはアルブミン断片は、ヒト血清アルブミンまたはその断片に対して約85%またはそれ以上、約90%またはそれ以上、約91%またはそれ以上、約92%またはそれ以上、約93%またはそれ以上、約94%またはそれ以上、約95%またはそれ以上、約96%またはそれ以上、約97%またはそれ以上、約98%またはそれ以上、約99%またはそれ以上、約99.5%またはそれ以上、あるいは約99.8%またはそれ以上の同一性である。
【0080】
ある実施態様において、前記担体部分は、約10またはそれ以上、20またはそれ以上、30またはそれ以上、40またはそれ以上、50またはそれ以上、60またはそれ以上、70またはそれ以上、80またはそれ以上、90またはそれ以上、100またはそれ以上、120またはそれ以上、140またはそれ以上、160またはそれ以上、180またはそれ以上、200またはそれ以上、250またはそれ以上、300またはそれ以上、350またはそれ以上、400またはそれ以上、450またはそれ以上、500またはそれ以上、あるいは550またはそれ以上のアミノ酸長であるアルブミン断片(例えば、ヒト血清アルブミン断片)を含む。ある実施態様において、前記アルブミン断片は、約10アミノ酸~約584アミノ酸長(例えば、約10~約20、約20~約40、約40~約80、約80~約160、約160~約250、約250~約350、約350~約450、または約450~約550アミノ酸長など)である。ある実施態様において、前記アルブミン断片は、Sudlow Iドメインまたはその断片、あるいはSudlow IIドメインまたはその断片を含む。
【0081】
D.プロドラッグのリンカー構成
前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドは、前記担体部分に、ペプチドリンカーとともに、またはペプチドリンカーなしで融合されていてもよい。前記ペプチドリンカーは、切断されなくてもよい。ある実施態様において、前記ペプチドリンカーは、配列番号47~51から選択される。特定の実施態様において、前記ペプチドリンカーは、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号49)を含む。
【0082】
前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)マスクは、前記サイトカイン部分または前記担体に切断可能なリンカーを介して融合されていてもよい。前記切断可能なリンカーは、1つまたはそれ以上(例えば、2つまたは3つ)の切断可能な部分(CM)を含有しうる。各CMは、レグマイン、プラスミン、TMPRSS-3/4、MMP2、MMP9、MT1-MMP、カテプシン、カスパーゼ、ヒト好中球エラスターゼ、βセクレターゼ、uPA、およびPSAから選択される酵素またはプロテアーゼの基質であってもよい。切断可能なリンカーの例として、以下に限定されないが、配列番号18、34、35、38、52~121、および217から選択されるアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0083】
サイトカインアゴニストポリペプチド、サイトカインマスク、担体、ペプチドリンカー、およびプロドラッグの具体的な非限定的な例は、下記の配列項目で示されている。さらに、本開示のプロドラッグおよび新規のIL-2変異タンパク質は、周知の組み換え技術によって作成されうる。例えば、前記プロドラッグのポリペプチド鎖のためのコーディング配列を含む1つ以上の発現ベクターが哺乳類の宿主細胞(例えば、CHO細胞)にトランスフェクトされてもよく、前記細胞は、前記コーディング配列の発現および前記発現されたポリペプチドのプロドラッグ複合体への構築を可能にする条件下で培養される。前記プロドラッグが不活性状態を保つために、uPA、MMP2、および/またはMMP9を発現しないか、またはほとんど発現しない宿主細胞が用いられうる。ある実施態様において、前記宿主細胞は、これらのプロテアーゼの遺伝子のヌル変異(ノックアウト)を含有しうる。
【0084】
医薬組成物
本開示のプロドラッグおよび変異タンパク質(すなわち、有効医薬成分またはAPI)を含む医薬組成物は、望ましい精製度を有するAPIを、1つまたはそれ以上の任意の医薬的に許容される賦形剤(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Edition., Osol, A. Ed. (1980)を参照のこと)と凍結乾燥製剤または水溶液の形態で混合することによって調製されうる。医薬的に許容される賦形剤(または担体)は、一般に、用いられる用量と濃度においてレシピエントに非毒性であり、下記に限定されないが:例えば、リン酸、クエン酸、コハク酸、ヒスチジン、酢酸、あるいは別の無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩を含む緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基以下)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリデン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;単糖、二糖、および他の糖(ショ糖、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0085】
緩衝液は、特に、安定性がpH依存的である場合、pHを、治療有効性を最適にする範囲に調整するために用いられる。緩衝液は、好ましくは、約50mM~約250mMの範囲の濃度で存在する。本発明で用いるのに適当な緩衝剤として、有機酸および無機酸の両方ならびにこれらの塩、例えば、クエン酸、リン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸、シュウ酸、乳酸、および酢酸が挙げられる。さらに、緩衝液は、ヒスチジンおよびトリメチルアミン塩、例えば、Trisを含んでいてもよい。
【0086】
保存剤は、微生物の増殖を防止するために加えられ、典型的に、0.2%~1.0%(w/v)の範囲で存在する。本発明で用いられるのに適する保存剤として、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;ベンザルコニウムハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ベンゼトニウム;チメロサール、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール、3-ペンタノール、およびm-クレゾールが挙げられる。
【0087】
等張化剤(「安定化剤」としても知られる)は、組成物中の液体の浸透圧を調整し、または維持するために存在する。大きな荷電性生体分子(例えば、タンパク質および抗体)とともに用いられる場合、それらは、アミノ酸側鎖の荷電された基と相互作用し、それにより分子内および分子間の相互作用の電位を低下させることができるため、「安定化剤」と呼ばれることもある。等張化剤は、他の成分との相対的な量を考慮して、0.1重量%~25重量%、またはより好ましくは、1重量%~5重量%の量のいずれかで存在することができる。好ましい等張化剤として、多価糖アルコール(polyhydric sugar alcohols)、好ましくは、三価またはそれ以上の糖アルコール、例えば、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、およびマンニトールが挙げられる。
【0088】
非イオン性界面活性剤または洗浄剤(「湿潤剤」としても公知)は、治療剤を可溶化することを補助し、攪拌によって引き起こされる治療タンパク質の凝集を防ぎ、製剤が活性な治療タンパク質または抗体の変性を生じることなくせん断(shear)表面ストレスに曝露されるために存在する。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml~約1.0mg/ml、好ましくは、約0.07mg/ml~約0.2mg/mlの範囲で存在する。
【0089】
適する非イオン性界面活性剤には、ポリソルベート(20、40、60、65、80など)、ポロクサマー(polyoxamers)(184、188など)、PLURONIC(登録商標)ポリオール、TRITON(登録商標)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(TWEEN(登録商標)-20、TWEEN(登録商標)-80など)、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50、および60、グリセロールモノステアレート、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースが含まれる。用いることができる陰イオン洗浄剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、およびスルホン酸ジオクチルナトリウムが含まれる。陽イオン洗浄剤には、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムが含まれる。
【0090】
医薬担体、賦形剤、または希釈剤の選択は、目的とする投与経路および標準的な医療行為について選択されうる。医薬組成物は、いずれかの適当な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、または可溶化剤をさらに含んでいてもよい。
【0091】
異なる送達系に応じて異なる組成物/製剤の要件が存在しうる。一例として、本発明に有用な医薬組成物は、ミニポンプを用いて、または粘膜経路により、例えば、吸入または摂取可能な溶液の鼻腔用スプレーまたはエアロゾルとして、あるいは組成物が、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下経路による送達のための注射可能な形態により製剤化されている非経口で投与されるために製剤化されてもよい。
【0092】
ある実施態様において、本開示の医薬組成物は、凍結乾燥されたタンパク質製剤である。他の実施態様において、前記医薬組成物は、水性液体製剤であってもよい。
【0093】
治療方法
前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)プロドラッグは、前記抗原結合ドメインによって結合している抗原により、疾患を治療するために用いることができる。ある実施態様において、前記IL-2またはIL-15プロドラッグは、癌を治療するために用いられる。ある実施態様において、前記IL-2またはIL-15プロドラッグは、例えば、薬物分子が抗菌薬または抗ウイルス薬である場合、感染症を治療するために用いられる。
【0094】
ある実施態様において、対象における疾患(例えば、癌、ウイルス感染、または細菌感染)を治療するための方法は、IL-2またはIL-15プロドラッグの有効な量を前記対象に投与することを特徴とする。
【0095】
ある実施態様において、前記癌は、固形癌である。ある実施態様において、前記癌は、血液癌または固形腫瘍である。治療されうる典型的な癌としては、以下に限定されないが、白血病、リンパ腫、腎癌、膀胱癌、尿路癌、子宮頚癌、脳癌、頭頸癌、皮膚癌、子宮癌、精巣癌、食道癌、肝癌、大腸癌、胃癌、扁平上皮癌、前立腺癌、膵癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)、胆管細胞癌、乳癌、および卵巣癌が挙げられる。
【0096】
ある実施態様において、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)プロドラッグは、細菌感染(例えば、敗血症)を治療するために用いられる。ある実施態様において、細菌感染を引き起こす細菌は、薬剤耐性細菌である。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、細菌の抗原に結合する。
【0097】
ある実施態様において、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)プロドラッグは、ウイルス感染を治療するために用いられる。ある実施態様において、ウイルス感染を引き起こすウイルスは、C型肝炎ウイルス(HCV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)である。ある実施態様において、前記抗原結合部分は、ウイルスの抗原に結合する。
【0098】
一般に、本発明の医薬組成物の投与用量および投与経路は、標準的な医療行為に従って、対象の大きさおよび状態により決定される。ある実施態様において、医薬組成物は、経口、経皮、吸入、静脈内、動脈内、筋肉内、創傷部位への直接適用、外科手術部位への適用、腹腔内、座薬、皮下、皮内、経皮、噴霧、胸膜内、脳室内、関節内、眼球内、頭蓋内、または脊髄内を含む、いずれかの経路により対象に投与される。ある実施態様において、前記組成物は、静脈内に対象に投与される。
【0099】
ある実施態様において、医薬組成物の用量は、単回の用量または繰り返し用量である。ある実施態様において、前記用量は、1日あたり1回、1日あたり2回、1日あたり3回、または1日あたり4回もしくはそれ以上で対象に与えられる。ある実施態様において、約1回またはそれ以上(例えば、約2、3、4、5、6、または7回もしくはそれ以上)の用量が1週間で与えられる。ある実施態様において、医薬組成物は、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、3週のうち2週間は1週間に1回、または4週のうち3週間は1週間に1回投与される。ある実施態様において、複数回の用量が、複数日、週、月、または年の間にわたり与えられる。ある実施態様において、治療過程は、約1回またはそれ以上の用量(例えば、約2回、3回、4回、5回、7回、10回、15回、または20回もしくはそれ以上の用量)である。
【0100】
特に本明細書で定義されていない限り、本開示に関して用いられる科学および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。典型的な方法および物質は、下記に記載されているが、本明細書に記載される方法と物質に類似し、または同等のものもまた、本開示の実施または試験で用いることができる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先する。一般に、本明細書に記載の細胞組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、分析化学、合成有機化学、薬および医薬品化学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションに関して用いられる命名法および技術は、当該技術分野で周知であり、一般に用いられている。酵素反応および精製技術は、当該技術分野で一般に実施されるように、または本明細書に記載されるように、製造業者の説明書に従って行われる。さらに、特に文脈により必要とされない限り、単数形の用語には複数形が含まれ、複数形の用語には単数形が含まれるべきである。本明細書および実施態様を通して、用語「有する(have)」および「含む(comprise)」、あるいは「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(comprises)」、または「含む(comprising)」などの変化形は、示される整数または整数群を含んでいるが、いずれか他の整数または整数群を排除するものではないことを示すものと理解される。本明細書に記載される発明の態様および変形には、態様および変形「からなる(consisting)」および/または「から必須としてなる(consisting essentially of)」が含まれることが理解される。本明細書に記載される全ての刊行物および他の参考文献は、出典明示よりそれらの全体が本明細書に取り込まれる。多くの文献が本明細書で引用されているが、この引用は、これらの文献のいずれもが一般的な技術常識の一部を形成するということを認めているわけではない。
【0101】
典型的な実施態様
本開示のさらなる具体的な実施態様が下記に記載される。これらの実施態様は、本開示に記載の組成物および方法を例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものではない。
1.単離された変異体インターロイキン-2(IL-2)ポリペプチドであって、7個以下のアミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記変異の1つが、73位におけるものである、前記変異体IL-2ポリペプチド。
2.単離された変異体インターロイキン-2(IL-2)ポリペプチドであって、7個以下のアミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記変異の1つが、K35Nである、前記変異体IL-2ポリペプチド。
3.単離された変異体インターロイキン-2(IL-2)ポリペプチドであって、7個以下のアミノ酸置換を有する配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記変異の1つが、A73Tである、前記変異体IL-2ポリペプチド。
4.さらなるアミノ酸変異をさらに含み、前記変異が、ヒトIL-2の残基42および45に相当する位置にあるものである、実施態様1~3のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
5.さらなるアミノ酸変異をさらに含み、前記変異が、ヒトIL-2の残基38、42、および45に相当する位置にあるものである、実施態様1~3のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
6.さらなるアミノ酸変異をさらに含み、前記変異が、ヒトIL-2の残基38、42、45、および62に相当する位置にあるものである、実施態様1~3のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
7.42位における変異が、F42A、F42G、F42I、F42S、F42T、F42Q、F42E、F42N、F42D、F42R、およびF42Kの群から選択される、実施態様4~6のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
8.45位における変異が、Y45A、Y45G、Y45S、Y45T、Y45Q、Y45E、Y45N、Y45D、Y45R、およびY45Kの群から選択される、実施態様4~6のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
9.38位における変異が、R38A、R38K、およびR38Sの群から選択される、実施態様5および6のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
10.62位における変異が、E62L、E62A、およびE62Iの群から選択される、実施態様6に記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
11.変異T3AおよびC125Sをさらに含む、実施態様1~10のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチド。
12.実施態様1~11のいずれか1つに記載の変異体インターロイキン-2ポリペプチドおよび担体を含むキメラ分子であって、前記変異体IL-2ポリペプチドが、前記担体に適宜結合していてもよく、前記担体が、PEG分子、アルブミン分子、アルブミン断片、IgG Fc、および抗原結合分子から選択される、前記キメラ分子。
13.前記担体が、抗原結合分子であり、前記抗原結合分子が、抗体または抗体断片である、実施態様12に記載のキメラ分子。
14.前記担体が、抗原結合分子であり、前記抗原結合分子が、二特異性抗体である、実施態様12に記載のキメラ分子。
15.前記抗原が、PD-L1、PD-1、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPアルファ)、CEA、BCMA、CD20、Trop-2、HER2、5T4、メラノーマ結合コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、PSMA、EGFR、およびクローディン18.2の群から選択される、実施態様13および14のいずれかに記載のキメラ分子。
16.サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)変異タンパク質、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)のマスキング部分またはアンタゴニスト、および切断可能なペプチドリンカーを含む、サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)のプロドラッグ(例えば、IL-2のプロドラッグ)であって、IL-2アゴニストポリペプチド(A)、マスキング部分(MM)、および少なくとも1つの切断可能なペプチドリンカーを含み;前記マスキング部分が、IL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメインまたはその機能的類似体を含む、前記プロドラッグ。
17.前記IL-2アンタゴニストまたはマスキング部分(MM)が、配列番号3に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一性のアミノ酸配列を含む、前記IL-2受容体ベータサブユニットの細胞外ドメインを含むものである、実施態様16に記載のプロドラッグ。
18.前記IL-2アンタゴニストまたはマスキング部分が、配列番号3のアミノ酸配列を含む、前記IL-2受容体ベータサブユニットの細胞外ドメインを含むものである、実施態様16に記載のプロドラッグ。
19.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、配列番号1に対して少なくとも90%同一性のアミノ酸配列を含むか、あるいは前記IL-15アゴニストポリペプチド(A)が、配列番号2に対して少なくとも90%同一性のアミノ酸配列を含む、実施態様16~18のいずれかに記載のプロドラッグ。
20.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、T3、K35、R38、F42、Y45、E62、E68、L72、A73、およびC125から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異を含むヒトIL-2の類似体を含み;前記変異が、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIL-2のナンバリングに従って示されるものである、実施態様16~18のいずれかに記載のプロドラッグ。
21.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、実施態様1~11のいずれか1つから選択される変異体IL-2である、実施態様16~18のいずれかに記載のプロドラッグ。
22.前記IL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列を含む、実施態様16~18のいずれかに記載のプロドラッグ。
23.担体(C)をさらに含み、前記担体が、PEG分子、アルブミン、アルブミン断片、Fc、および抗原結合分子から選択される、実施態様16~22のいずれかに記載のプロドラッグ。
24.IL-2(またはIL-15)活性が腫瘍部位またはその周辺領域で活性化するIL-2(またはIL-15)のプロドラッグであって:担体に適宜融合されているか、または抱合されているIL-2(またはIL-15)のアゴニストポリペプチド(IL-2(またはIL-15)のアンタゴニストは、前記IL-2(またはIL-15)アゴニストポリペプチドのその受容体への結合を阻害するか、または影響を与えるものである);ならびにIL-2(またはIL-15)アンタゴニストを前記IL-2(またはIL-15)アゴニストポリペプチドまたはその担体に結合する切断可能なペプチドリンカーを含み;前記切断可能なペプチドリンカーが、腫瘍内部またはその周辺環境で見出される1つまたはそれ以上のプロテアーゼによって切断可能であり;ならびに前記担体が、タンパク質、抗体、またはポリエチレングリコール(PEG)ポリマーから選択されるものである、前記プロドラッグ。
25.前記IL-2またはIL-15アンタゴニストが、IL-2受容体ベータサブユニットの細胞外ドメインまたはその機能的類似体を含む、実施態様24に記載のプロドラッグ。
26.前記IL-2またはIL-15アンタゴニストあるいはマスキング部分(MM)が、配列番号3に対して少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一性のアミノ酸配列を含む前記IL-2受容体ベータサブユニットの細胞外ドメインを含むものである、実施態様24および25のいずれかに記載のプロドラッグ。
27.前記IL-2またはIL-15アンタゴニストあるいはマスキング部分が、配列番号3のアミノ酸配列を含む、前記IL-2受容体ベータサブユニットの細胞外ドメインである、実施態様24および25のいずれかに記載のプロドラッグ。
28.前記IL-2またはIL-15アンタゴニストあるいはマスキング部分が、IL-2受容体ガンマサブユニットまたはその機能的同等物をさらに含む、実施態様24~27のいずれかに記載のプロドラッグ。
29.前記IL-2またはIL-15アンタゴニストあるいはマスキング部分が、第2のIL-2受容体ベータサブユニットまたはその機能的同等物をさらに含む、実施態様24~27のいずれかに記載のプロドラッグ。
30.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、配列番号1に対して少なくとも90%同一性のアミノ酸配列を有する、実施態様24~29のいずれかに記載のプロドラッグ。
31.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、T3、K35、R38、F42、Y45、E62、E68、L72、A73、およびC125から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異(例えば、A73における変異およびK35N変異)を含むヒトIL-2の類似体であり;前記変異が、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIL-2のナンバリングに従って示されるものである、実施態様24~29のいずれかに記載のプロドラッグ。
32.前記IL-2アゴニストポリペプチド(A)が、実施態様1~11のいずれか1つから選択される変異体IL-2である、実施態様24~29のいずれかに記載のプロドラッグ。
33.前記IL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列を含む、実施態様24~29のいずれかに記載のプロドラッグ。
34.IL-15アゴニストポリペプチド(A)、マスキング部分(MM)、担体(C)、および少なくとも1つの切断可能なペプチドリンカーを含む、IL-15のプロドラッグであって;前記IL-15アゴニストポリペプチド(A)が、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、または100%同一性のアミノ酸配列を含み;前記マスキング部分(MM)が、IL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメイン、前記IL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメインの機能的類似体、IL-2受容体ガンマサブユニット細胞外ドメインにペプチドリンカーを介して融合されたIL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメイン、および相互に切断可能なペプチドリンカーを介して結合されたIL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメインの二量体から選択され;ならびに前記担体が、アルブミン、アルブミン断片、Fc、および抗原結合分子から選択されるものである、前記プロドラッグ。
35.前記IL-15のプロドラッグが、IL-15受容体アルファサブユニットのスシドメインを含み;前記スシドメインが、配列番号7に対して少なくとも95%または100%同一性のアミノ酸配列を含む、実施態様34に記載のプロドラッグ。
36.前記IL-2受容体ベータサブユニット細胞外ドメインが、配列番号3に対して少なくとも95%または100%同一性のアミノ酸配列を含む、実施態様34および35のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
37.前記ガンマサブユニット細胞外ドメインが、配列番号6に対して少なくとも95%または100%同一性のアミノ酸配列を含む、実施態様28および34のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
38.前記担体(C)が、抗原結合分子であり;前記抗原結合分子が、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む抗体である、実施態様23~37のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
39.前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドが、前記抗体の重鎖の1つのC末端に、適宜、ペプチドリンカーを介して、融合され、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アンタゴニストまたはマスキング部分(MM)が、第2の重鎖のC末端に切断可能なペプチドリンカーを介して融合され;ならびに前記2つの重鎖融合タンパク質が、「ノブ-イントゥ-ホール」変異によりヘテロダイマーを形成している、実施態様38に記載のプロドラッグ。
40.前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドが、前記抗体の重鎖の1つのN末端に、適宜、ペプチドリンカーを介して、融合され、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アンタゴニストまたはマスキング部分(MM)が、第2の重鎖のN末端に切断可能なペプチドリンカーを介して融合され;ならびに前記2つの重鎖融合タンパク質が、「ノブ-イントゥ-ホール」変異によりヘテロダイマーを形成するものである、実施態様38に記載のプロドラッグ。
41.前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アゴニストポリペプチドが、前記抗体または抗体断片の重鎖の1つまたは両方のN末端に、直接またはペプチドリンカーを介して融合されるか、または抱合され、前記サイトカイン(例えば、IL-2またはIL-15)アンタゴニストまたはマスキング部分(MM)が、前記軽鎖のN末端に切断可能なペプチドリンカーを介して融合されて、重鎖融合ポリペプチドおよび軽鎖融合ポリペプチドを形成している、実施態様38に記載のプロドラッグ。
42.前記担体が、抗原結合分子であり、前記抗原結合分子が、グアニルシクラーゼC(GCC)、糖鎖抗原19-9(CA19-9)、糖タンパク質A33(gpA33)、ムチン1(MUC1)、癌胎児抗原(CEA)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1-R)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3)、デルタ様タンパク質3(DLL3)、デルタ様タンパク質4(DLL4)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、グリピカン-3(GPC3)、c-MET、血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ネクチン-4、Liv-1、糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Trop-2、炭酸脱水酵素IX(CA9)、エンドセリンB受容体(ETBR)、前立腺6回膜貫通型上皮抗原1(six transmembrane epithelial antigen of the prostate 1)(STEAP1)、葉酸受容体アルファ(FR-α)、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、炭酸脱水酵素VI(CA6)、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3(ENPP3)、メソテリン、栄養膜(trophoblast)糖タンパク質(TPBG)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD40、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD352、CD47、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)、PD1、クローディン18.2、クローディン6、FAP-アルファ、5T4、BCMA、PD-L1、PD-1、およびEPCAMから選択される1つまたはそれ以上の抗原に結合する、実施態様23~41のいずれかに記載のプロドラッグ。
43.別のエフェクターポリペプチドをさらに含む、実施態様23~42のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
44.別のエフェクターポリペプチドをさらに含み、前記エフェクターポリペプチドが、126位にアミノ酸変異を含む別のIL-2変異タンパク質である、実施態様23~42のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
45.別のエフェクターポリペプチドをさらに含み、前記エフェクターポリペプチドが、配列番号123に対して少なくとも95%同一性のアミノ酸配列を含むCCL19ポリペプチドである、実施態様23~42のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
46.前記切断可能なペプチドリンカーが、腫瘍部位またはその周辺環境で見出される1つまたはそれ以上のプロテアーゼによって切断可能である、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
47.前記プロドラッグが、腫瘍部位で活性化される、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
48.前記切断可能なペプチドリンカーが、uPAの基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
49.前記切断可能なペプチドリンカーが、MMP2および/またはMMP9の基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
50.前記切断可能なペプチドリンカーが、uPAおよびMMP2の両方、uPAおよびMMP9の両方、あるいはuPA、MMP2およびMMP9の基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
51.前記切断可能なペプチドリンカーが、LSGRSDNH(配列番号52)、ISSGLLSS(配列番号53)、およびGPLGVR(配列番号54)から選択されるアミノ酸配列の酵素基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
52.前記切断可能なペプチドリンカーが、アミノ酸配列LSGRSDNH(配列番号52)およびISSGLLSS(配列番号53)の両方の酵素基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
53.前記切断可能なペプチドリンカーが、アミノ酸配列LSGRSDNH(配列番号52)およびGPLGVR(配列番号54)の両方;またはISSGLLSS(配列番号53)およびGPLGVR(配列番号54)の両方の酵素基質を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
54.前記切断可能なペプチドリンカーが、配列番号55~78から選択されるアミノ酸配列を含む、実施態様16~45のいずれか1つに記載のプロドラッグ。
55.実施態様1~11のいずれか1つに記載の変異体IL-2をコードする、ポリヌクレオチド。
56.実施態様12~15のいずれか1つに記載のキメラ分子、または実施態様16~54のいずれか1つに記載のプロドラッグをコードするポリヌクレオチド。
57.実施態様55または56に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
58.実施態様57に記載のベクターでトランスフェクトされた、宿主細胞。
59.前記宿主細胞が、uPA、MMP2、および/またはMMP9をコードする遺伝子をノックアウトされている、実施態様58に記載の宿主細胞。
60.実施態様1~11のいずれか1つに記載の変異体IL-2、実施態様12~15のいずれかに記載のキメラ分子、または実施態様16~54のいずれかに記載のプロドラッグの製造方法であって、実施態様58または59に記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
61.有効成分として、実施態様1~11のいずれか1つに記載の変異体IL-2または実施態様16~54のいずれか1つに記載のプロドラッグを含む、医薬組成物。
62.有効成分として、実施態様12~15のいずれか1つに記載のキメラ分子を含む、医薬組成物。
63.治療を必要とするヒト対象における乳癌、肺癌、膵癌、食道癌、甲状腺髄様癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、大腸癌、直腸癌または胃癌、あるいは感染症の治療方法であって、実施態様61または62に記載の医薬組成物を前記ヒト対象に投与することを特徴とする方法。
【0102】
本発明がより理解されうるために、下記の実施例が示される。これらの実施例は、例示のみを目的とするものであって、いかなる場合にも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0103】
実施例1~6に記載の実験で使用した材料と方法が下記に記載される。
【0104】
HEK293細胞の一過的トランスフェクション
発現プラスミドを、PEI(ポリエチレンイミン)を用いて3x106細胞/mlのFreeStyle HEK293細胞に2.5~3μg/mlでコトランスフェクトさせた。Fcを基にしたIL-2プロドラッグについて、Fc-IL-2変異タンパク質融合ポリペプチドおよびFc-マスキング部分融合ポリペプチドの比率は、1:2の比率であった。抗体を基にしたIL-2プロドラッグについて、ノブ重鎖(IL-2アゴニストポリペプチドを含む)、ホール重鎖(マスキング部分を含む)、および軽鎖DNAの比率は、2:1:2のモル比であった。該細胞培養物を、トランスフェクション6日後に、9,000rpmにおける45分間の遠心分離、続いて0.22μMの濾過により回収した。
【0105】
タンパク質精製
抗体を基にしたIL-2プロドラッグのタンパク質の精製は、1)プロテインAアフィニティークロマトグラフィー;2)Q Sepharose Fast Flow、および3)Capto MMC ImpResを含む、クロマトグラフィーの3ステップを用いることにより行った。Q FFは、25mM Trisおよび100mM NaClを含む緩衝液(pH7.5)により平衡にした。Capto MMC ImpResは、緩衝液A(20MM リン酸,30mM NaCl,pH6.2)を用いて平衡にし、緩衝液B(20MM リン酸,0.5M アルギニン,pH6.2)による10CV直線グラジエントを用いて溶出した。
【0106】
SEC-HPLC分析
SEC-HPLCは、Tosoh Bioscienceから注文されたTSKgel G3000SWXLカラム(7.8mm IDX 30cm,5μmの粒子径)を備えたHPLCシステムのAgilent 1100シリーズを用いて行った。100μl以下の試料を載せた。前記カラムを緩衝液(200mM K3PO4,250mM KCl,pH6.5を含有する)で流動した。流速は0.5ml/分であった。該カラムは室温で流動した。タンパク質溶出物を220nmおよび280nmの両方でモニターした。
【0107】
SDS-PAGE分析
10μlの培養上澄み液または20μgの精製タンパク質試料を、還元剤とともに、または還元剤なしで、Bolt(登録商標)LDSサンプル緩衝液(Novex)と混合した。該試料を70℃で3分間加熱し、次いでNuPAGE(登録商標)4-12%のBisTrisゲル(Invitrogen)に載せた。該ゲルをNuPAGE(登録商標)MOPS SDS泳動用緩衝液(Invitrogen)中で200ボルトにて40分間泳動し、クーマシーで染色した。
【0108】
タンパク質分解処理
前記プロテアーゼ、ヒトu-プラスミノーゲン活性化因子(uPA)/ウロキナーゼ (R&D systems)またはヒトマトリプターゼ/ST14(R&D systems)を、それぞれ、81nMおよび250nMで前記前駆体分子に加え、37℃で終夜インキュベートした。
【0109】
CTLL2アッセイ
CTLL2細胞は、L-グルタミン、10% ウシ胎児血清、10% 非必須アミノ酸、10% ピルビン酸ナトリウム、および55μM ベータメルカプトエタノールを補充したRPMI1640培地中で増殖させた。CTLL2細胞を、培地(100ng/mlのIL-2を含む)中で5x104~1x106細胞/mlにて接着させず、維持した。一般に、細胞を1週間に2回分注した。バイオアッセイのために、継代後48時間以上で細胞を使用することが最良であった。
【0110】
試料は、96ウェルプレート内で50μl/ウェルにて2x濃度に希釈した。前記IL-2標準液を、12ウェルにおいて20ng/ml(2x濃度)から3x連続希釈に滴定した。試料を必要に応じて滴定試験した。CTLL2細胞を、5回洗浄してIL-2を除去し、50μlで5000細胞/ウェルにて撒き、前記試料とともに終夜または少なくとも18時間培養した。続いて、100μl/ウェルのCell Titer Glo試薬(Promega)を加え、発光を測定した。
【0111】
酵素結合免疫アッセイ(ELISA)
PBS中で10μg/mlのIL-2タンパク質を96ウェルプレートに100μl/ウェルで撒種し、4℃で終夜コーティングした。該ウェルを、PBSで3回洗浄し、100μlの2% ミルク/PBSで1時間ブロッキングした。次いで、該ウェルをPBSにより3回洗浄し、3倍連続希釈した100μlのタンパク質試料を、前記ウェルに加え、室温で1時間のインキュベーションを行った。PBSで3回洗浄し、100μlのHRP抱合抗IgG抗体を加え、室温で1時間インキュベートした。次いで、前記ウェルをPBSにより3回洗浄し、検出試薬を加え、OD450nMを測定した。
【0112】
FACS分析
IL-2RαβγまたはIL-2Rβγを発現する安定なHEK293細胞株を培養した。該細胞を非酵素細胞解離溶液で剥離した。細胞をカウントし、細胞密度をFACS洗浄緩衝液(PBS中の3% FBSを含有)で約3,000,000細胞/mlに調整した。50μlの細胞(150,000細胞)を96ウェルプレートの各ウェルに加えた。一次抗体または目的の抗体を発現する上澄み液を、所定の濃度で前記細胞に加えた。該プレートを氷上で1時間インキュベートした。該プレートをFACS洗浄緩衝液で3回洗浄した。蛍光を抱合させた二次抗体を該細胞(製造元の説明書による濃度)に加えた。該プレートを氷上で1時間インキュベートした。該プレートを再度洗浄した。PI染色溶液を0.1μg/mlで加え、該プレートを氷上で10分間インキュベートした。該細胞の蛍光をフローサイトメトリー装置で測定した。
【0113】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)
クローディン18.2抗体、ADCCが高いクローディン18.2抗体、およびクローディン18.2抗体-IL-2の試料を、ヒトCLD18.2またはヒトCLD18.1を安定して発現するHEK293細胞に対してADCCを誘導するそれらの能力について分析した。
【0114】
ヒト末梢血単核球細胞を増やすために、健常なドナーに由来するヒト血液を、リン酸緩衝液(PBS)で2倍に希釈し、血液細胞をFicoll(リンパ球分離培地1077g/ml,PAA Laboratories,カタログ番号J15-004)上で層状にした。末梢血単核球細胞(MNC)を間期のものから収集し、洗浄し、RPMI1640培養培地(10% 熱不活性化ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミンを補充)中で再懸濁した。
【0115】
ADCCアッセイを開始するために、標的細胞を蛍光増感リガンド(BADTA,Perkin Elmer細胞毒性アッセイキットのDELFIA EuTDA細胞毒性試薬,カタログ番号AD0116)で30分間標識した。RPMI-10(10MM プロベネシド(Sigma,カタログ番号P8761)、10~20mM HEPES、および10% 熱不活性化ウシ胎仔血清を補充)中で広げて洗浄し、前記細胞を1×105細胞/mlに調整した。標識した標的細胞、エフェクター細胞(MNC)、および上澄み物(10μg/mlの濃度に調整したモノクローナル抗体を含む)を、丸底マイクロタイタープレートに加えた。単離したエフェクター細胞については、100:1のエフェクター対標的(E:T)比(50:1および25:1についてはデータを示さず)を使用した。37℃で2時間インキュベートし、アッセイを遠心分離により停止し、2回分の蛍光リガンド放出を時間分解蛍光光度計にてユーロピウム数で測定した。細胞毒性活性の割合は、下記式を用いて算出し:特異的融解%(実験上の放出数-自然発生の放出数)/(最大放出数-自然発生の放出数)X100、最大蛍光リガンド放出を、Triton X-100(0.25%の最終濃度)を標的細胞に加えることにより調べ、自然発生の放出を抗体およびエフェクター細胞の非存在下で測定した。
【0116】
同系腫瘍モデルによるインビボ有効性試験
6週齢のBalb/cマウス(Taconic Biosciences)に、1X106個のCT26/18.2細胞を皮下注射した。7日後、腫瘍を、デジタルキャリパーを用いて測定し、腫瘍体積を算出した(V=(ab2)p/6[式中、bは、測定した2つの長さのうちの短い方の値である])。次に、マウスを、全ての群がほぼ同一の平均腫瘍サイズ(127.6mm3)を示すような治療群に無作為化した。次いで、マウスを、腹腔内注射により100μl中の10mg/Kgでのプラセボまたは試験物質で処理した。投薬を7、9、11、13、15、および18日目に行った。腫瘍を2~3日ごとに測定し、腫瘍が2000mm3に達したらマウスを屠殺した。
【0117】
実施例1:変異体IL-2アゴニストポリペプチドの発現および試験
ヒトIL-2(配列番号1)は、133アミノ酸のポリペプチドである。多くの変異体ヒトIL-2アゴニストポリペプチドを融合分子の一部として表し、それらの生物学的活性について試験した(表2)。必要に応じて、対のポリペプチドも示す。
表2.選択された変異体IL-2アゴニストポリペプチド融合体
【表2】
SEQ:配列番号。HSA:ヒト血清アルブミン。N-HSA:担体HSAはIL-2ポリペプチドのN末端に位置する;N-Fc:担体FcはIL-2ポリペプチドのN末端に位置する。C-Fc:担体FcはIL-2ポリペプチドのC末端に位置する。
【0118】
発現させたIL-2ポリペプチドは、SDS-PAGEにより試験した(
図1)。それらの生物学的活性は、上記に記載されるCTLL2細胞に基づく活性化アッセイを用いて試験した。
図2Bに示されるように、IL-2変異タンパク質T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/A73T(配列番号135)およびT3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62A(配列番号132)を有するFc融合タンパク質は、約60nMのEC
50である細胞に基づくアッセイにおける同様の活性を示す一方、IL-2変異タンパク質T3A/C125S/K35N/R38S/F42A/Y45A/A73T(配列番号136)を有するFc融合タンパク質は、約140nMのEC
50である低い活性を示した。IL-2変異タンパク質T3A/C125S/R38S/F42R/Y45K/E62A(配列番号133)は、約87nMのEC
50を示した(データ示さず)。IL-2変異タンパク質T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62Aを有するFc融合タンパク質(配列番号137)は、IL-2変異タンパク質と前記Fcとの間にペプチドリンカーを有していないが、約72nMのEC
50を示した(データ示さず)。
図2Cは、IL-2変異タンパク質T3A/C125S/F42A/Y45A/L72G(配列番号126)およびT3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62A(配列番号127)を有するヒトアルブミン融合タンパク質が、それぞれ、約77nMおよび76nMのEC
50と同様の細胞に基づく活性を有することを示した。
【0119】
これらの結果により、IL-2変異タンパク質へのさらなる変異A73Tの導入がIL-2活性においてE62Aの変異と同様の効果を示したことが示される。一般に、配列番号135、132、126、および127で示されるIL-変異タンパク質は、同様の細胞に基づく活性を示し、これらの活性は、野生型IL-2の活性より顕著に低かった。このことは、前記変異タンパク質のIL-2Rαへの結合の著しい減少または喪失によるものと推定された。変異T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62Aを有するIL-2変異タンパク質(配列番号132)は、
図8(下記も参照のこと)で示されるように、IL-2Rαに対する結合親和性の著しい減少を示した。さらに、A73TおよびK35Nのさらなる2つの変異の導入は、このIL-2変異タンパク質の活性をさらに減少させた。
【0120】
本発明者らは、126位におけるさらなる変異が、IL-2変異タンパク質T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62A/Q126W(配列番号130)およびT3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62A/Q126W(リンカーなし)(配列番号129)で示されるように、いくらかのIL-2活性をまだ有するが、細胞に基づく活性のさらに顕著に減少したレベルを生じることを見出した(
図2C)。
【0121】
実施例2:IL-2アンタゴニストまたはマスキング部分の設計
IL-2のプロドラッグ基盤を構築するために、本発明者らは、ヒトIL-2受容体ベータサブユニットおよびガンマサブユニットを用いて、様々なIL-2アンタゴニスト(マスク)を設計した。典型的なマスクの設計を表3に記載し、これらには:
1)Fc断片のC末端に、1つのプロテアーゼ基質ペプチドを含む切断可能なペプチドリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS
LSGRSDNHGGGGS;配列番号18)を介して融合させた、IL-2Rβサブユニット細胞外ドメインの単一コピー(配列番号195);
2)FcのC末端に、2つのプロテアーゼ切断部位を含む切断可能なペプチドリンカー(GGGGSGGGGSGGGGS
ISSGLLSSGGSGGS
LSGRSDNHGGGGS;配列番号38)を介して融合させ、IL-2Rガンマサブユニット細胞外ドメインの1コピーと融合させたIL-2Rβサブユニット細胞外ドメインの1コピー(配列番号196);
3)FcのC末端に、切断可能なリンカー配列番号38を融合させた、IL-2Rβサブユニット細胞外ドメインの単一コピー(配列番号197);
4)FcのC末端に、切断可能なリンカー配列番号38を介して融合させた、相互に結合させたIL-2Rβサブユニット細胞外ドメインの2コピー(配列番号198)
が含まれ、下線はプロテアーゼ基質配列を示す。
表3.IL-2アンタゴニストまたはマスクの設計
【表3】
SEQ:配列番号。
【0122】
これらのマスクポリペプチドで用いられたFc断片は、「ホール」変異Y407Tを含有した。前記IL-2変異タンパク質は、「ノブ」変異T366Yを含んだFc断片に融合されていた。
【0123】
IL-2プロドラッグの設計を表4に示す。各前記プロドラッグは、FcのC末端に融合されたIL-2アゴニストポリペプチド(配列番号132、133、または136)から構成され、Fc-マスク融合ポリペプチド(配列番号195、196、197、または198)のうちの1つで共発現させた。
表4.IL-2プロドラッグの設計
【表4】
【0124】
前記プロドラッグを、プロテアーゼ、ヒトu-プラスミノーゲン活性化因子(uPA)/ウロキナーゼまたはヒトマトリプターゼ/ST14で処理した。前記データは、プロテアーゼ処理により、CTLL2アッセイにおいてIL-2機能の活性化が0.5~22倍となったことを示す(表4)。これらの結果により、IL-2Rβ細胞外ドメインおよびIL-2Rβ細胞外ドメイン二量体の両方が、IL-2アゴニストポリペプチドのマスクとして機能したことが示された。1つまたは2つの切断可能な部位を有する切断可能なペプチドリンカーは両方とも機能した。本発明者らは、IL-2Rβおよびγサブユニット細胞外ドメインの両方を含むマスクが十分に発現しないことを知見した。
【0125】
実施例3:マスキング部分の最適化
プロテアーゼ切断による活性化が高倍率となるIL-2アンタゴニストまたはマスクの改良型を探索するために、IL-2Rβ細胞外ドメインにおける多くの変異を構築した。これらの構築物は、HEK293細胞においてホモダイマーとして発現され、それらのIL-2との結合親和性を、上記に記載のELISA法によって測定し、表5で示す。単一の変異R15Y(配列番号199)、V75Q(配列番号202)、またはV75F(配列番号203)を有するIL-2Rβ細胞外ドメインは、ELISAアッセイにおいてIL-2に対する結合親和性を完全に喪失した。単一の変異S69H(配列番号201)またはE136Q(配列番号204)を有するIL-2Rβ細胞外ドメインは、pH7.4においてIL-2に対する結合親和性を喪失したが、pH6.4ではIL-2に対して2倍高い結合親和性を示した(表5)。二重変異E136Q/H138Rを有するIL-2Rβ細胞外ドメイン(配列番号205)は、pH7.4においてIL-2に対して野生型のものと同様の結合親和性を示したが、pH6.4でのIL-2に対するその結合親和性は2倍まで高くなった(表5)。変異D68Eを有するIL-2Rβ細胞外ドメイン(配列番号200)は、pH7.4およびpH6.4の両方においてIL-2に対して2倍高い結合親和性を示した(表5)。
表5.IL-2Rβ変異の設計およびそれらのIL-2に対する結合親和性
【表5】
「-」:なしか、最小の結合
【0126】
実施例4:抗体分子を担体として有するIL-2プロドラッグ
サイトカインポリペプチドを抗体に融合することにより、サイトカインの疾患部位への標的とした送達が可能となる。しかしながら、免疫器官に豊富に存在しうる免疫細胞上に高親和性サイトカイン受容体が存在する場合、サイトカイン受容体への結合について顕著に競合する。この実験において、IL-2Rαに対する結合親和性が顕著に減少したIL-2変異タンパク質を抗体担体に融合させた。この種類の抗体IL-2プロドラッグは、抗体の標的となる疾患部位で活性化でき、顕著に改善したPKプロファイルと極めて高い疾患部位特異性を示しうる。
【0127】
クローディン18.2に対する抗体(589A配列)およびPD-L1に対する抗体(アテゾリズマブ)を、新規のIL-2プロドラッグ基盤の実現可能性を示す例として使用した。抗体に基づくプロドラッグの構造を
図3に示す。589A-IL-2-マスク融合分子の異なる組み合わせ設計を表6に記載する。
表6.589A-IL-2プロドラッグの設計
【表6】
HC:重鎖。LC:軽鎖。SEQ:配列番号。
【0128】
589A-IL-2A分子の80%以上は、細胞中のプロテアーゼまたは細胞培養中に細胞から分泌されたプロテアーゼの存在による可能性により、プロテアーゼ処理なしで切断された(
図4)。589A-IL-2B(非切断性リンカー[(GGGGS)
3](配列番号49)を有する)は、前記ヘテロテトラマー抗体の安定な構築を示し、CTLL2アッセイにおいて刺激性活性を示さなかった(
図4、表7)。このデータは、IL-2のアンタゴニストとしてのマスキング部分の有効性を示す。589A-IL-2C分子は、適切に構築され、IL-2変異タンパク質の活性において38倍の阻害を示した(
図4および表7)。589A-IL-2Eおよび589A-IL-2F分子は、より安定に構築され、IL-2変異タンパク質活性において4,000倍以上の阻害を示した(
図4および表7)。マスク変異タンパク質D68Eのより高い親和性による可能性のため、589A-IL-2Eは、作成時に589A-IL2-Fより高いプロドラッグ安定性を示した(
図4)。
表7.589A-IL-2プロドラッグのCTLL2活性
【表7】
【0129】
別の実験において、589A-IL-2Eは、プロテアーゼ処理後のHEK293-IL-2RαβγおよびHEK293-IL-2Rβγ細胞株に対する結合で約10~20倍の増加を示した(
図6)。さらに、589A-IL-2Eは、HEK293-IL-2RαβγおよびHEK293-IL-2Rβγに対して同様の結合を示し、このことは、前記αサブユニットがIL-2変異タンパク質の結合にあまり貢献せず、変異T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62Aを有するIL-2変異タンパク質がIL-2Rαに対する結合親和性を著しく減少させたことを示す(
図7AおよびB)。
【0130】
抗PD-L1-IL-2プロドラッグの設計を表8に記載する。
表8.抗PD-L1-IL-2プロドラッグの設計
【表8】
【0131】
抗PD-L1-IL-2A分子は、その切断可能なペプチドリンカーにおいて2つの切断部位を有し、細胞培養培地または細胞中のプロテアーゼの存在による可能性のため、HEK293における発現中のバンドの切断を示した(データ示さず)。抗PDL1-IL-2Bは、前記ヘテロテトラマー分子の適切な構築を示し、その精製した試料は、プロテアーゼ切断後に著しい活性を示した(
図8)。抗PD-L1-IL-2C、抗PD-L1-IL-2D、および抗PD-L1-IL-2Eは、適切に構築されず、HC-IL-2のホモダイマーを形成し(データ示さず)、CTLL2アッセイにおいてIL-2活性の阻害を示さなかった。これらのデータは、より短い切断リンカーが適切なヘテロテトラマー分子の形成を妨げうることを示す。
【0132】
実施例5:589A-IL-2変異タンパク質融合分子のADCC活性
抗クローディン18.2抗体589A、589Aのフコシル化されていない型(af-589A)、およびIL-2変異タンパク質とaf-589Aとの融合体を、上記に記載されるように、ADCCアッセイにおいてそれらのインビトロ活性を試験した。Af-589Aは、そのN-グリカンにおいてフコースを有しないか、またはほとんど有せず、高まったADCC機能を示した。前記IL-2変異タンパク質には、変異T3A/C125S/R38S/F42A/Y45A/E62Aが含まれていた(配列番号10)。前記データは、前記IL-2変異タンパク質を589A抗体にさらに付加することによりそのADCC活性をさらに高めたことを示す(
図9)。
【0133】
実施例6:589A-IL-2プロドラッグのインビボ有効性
インビボ抗癌効果試験を、589A-IL-2Eを抗PD-L1抗体と組み合わせて行った。前記プロドラッグおよびPD-L1抗体の両方を、10mg/kgで隔日にて皮下投与した。ヒトクローディン18.2をトランスフェクトしたCT26マウス腫瘍細胞を、Balb/cマウスに移植した。腫瘍サイズが約100mm
3に達したら、前記マウスをそれらの腫瘍サイズに基づいて3つの群に無作為化した。各マウスは、緩衝液のプラセボ(群1)(
図10、左上パネル)、10mg/kgの抗PD-L1抗体(群2)(
図10、右上パネル)、または10mg/kgの抗PD-L1抗体と10mg/kgの589A-IL-2Eプロドラッグ(群3)(
図10、下パネル)皮下を受容した。7、9、11、13、15、および18日目に投薬した。腫瘍サイズおよび体重を、実験期間中モニターした。
【0134】
図10に示されるように、前記プロドラッグおよび抗体の両方による治療群は、プラセボおよびPD-L1抗体群と比較して、より均一な腫瘍サイズを示した。
図11に示されるように、前記プロドラッグおよびPD-L1抗体の両方による治療群は、約35日まで最も遅延した腫瘍増殖を示し、その生存曲線は、42日目まで交差しなかった(
図12)。治療を18日目に終了した。理論により拘束されることなく、本発明者らは、PD-L1抗体群によるクロスオーバーの可能性のある要因の1つは、マウスが野生型であり、589A-IL-2Eに対して産生された抗体が存在する可能性がありうると考慮する。589Aは、ウサギB細胞クローニングに由来するヒト化抗体であった。
【0135】
上記の非限定的な実施例は、開示される事項のより十分な理解を容易にするために例示することのみに提供されるものである。これらの実施例は、抗体、医薬組成物、または癌、神経変性症、または感染症を治療するための方法および使用に関するものを含む、本明細書に記載の実施態様のいずれかに限定されるものと解釈されるべきではない。
本発明には、次の態様も含まれる。
1.サイトカイン部分、マスキング部分、および担体部分を含むプロドラッグであって、
前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分に結合し、前記サイトカイン部分の生物学的活性を阻害し、
前記サイトカイン部分が、前記担体部分に融合され、
前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分または前記担体部分に切断可能なペプチドリンカーを介して融合されるものである、前記プロドラッグ。
2.前記マスキング部分が、前記サイトカイン部分の受容体の細胞外ドメイン(ECD)を含む、項1に記載のプロドラッグ。
3.前記サイトカイン部分が、野生型ヒトサイトカインまたはその変異タンパク質である、項1または2に記載のプロドラッグ。
4.前記サイトカイン部分が、ヒトIL-2アゴニストポリペプチドである、項3に記載のプロドラッグ。
5.前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号1または配列番号1に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、項4に記載のプロドラッグ。
6.前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、T3、K35、R38、F42、Y45、E62、E68、L72、A73、N88、C125、およびQ126(配列番号1によるナンバリング)から選択される位置における1つまたはそれ以上の変異を含む、項5に記載のプロドラッグ。
7.前記ヒトIL-2アゴニストポリペプチドが、配列番号8~17、19~33、36、37、および39~46から選択されるアミノ酸配列を含む、項6に記載のプロドラッグ。
8.前記マスキング部分が、ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体を含む、項4~7のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
9.前記マスキング部分が、(i)ペプチドリンカーを介して一緒に融合されたヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体の2コピー、あるいは(ii)ヒトIL-2RγのECDまたはその機能的類似体にペプチドリンカーを介して融合されたヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体を含む、項8に記載のプロドラッグ。
10.前記ヒトIL-2RγのECDまたはその機能的類似体が、配列番号6または配列番号6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、項9に記載のプロドラッグ。
11.前記ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体が、配列番号3、4または5、あるいは配列番号3、4または5に対して少なくとも90%であるアミノ酸配列を含む、項8~10のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
12.前記サイトカイン部分が、ヒトIL-15アゴニストポリペプチドである、項3に記載のプロドラッグ。
13.前記ヒトIL-15アゴニストポリペプチドが、配列番号2または配列番号2に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、項12に記載のプロドラッグ。
14.前記IL-15アゴニストポリペプチドが、(i)配列番号7を含むIL-15Rαスシドメイン、または(ii)配列番号7に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、項12または13に記載のプロドラッグ。
15.前記マスキングドメインが、ヒトIL-2RβのECDまたはその機能的類似体、あるいはIL-2Rγまたはその機能的類似体を含む、項12~14のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
16.前記マスキングドメインが、配列番号3、4、5または6、あるいは配列番号3、4、5または6に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含む、項15に記載のプロドラッグ。
17.第2のエフェクターポリペプチドをさらに含む、項1~16のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
18.前記第2のエフェクターポリペプチドが、(i)126位(配列番号1によるナンバリング)における変異を含むヒトIL-2アゴニストポリペプチド、または(ii)配列番号123に対して少なくとも90%同一性であるアミノ酸配列を含むCCL19ポリペプチドである、項17に記載のプロドラッグ。
19.前記サイトカイン部分が、非切断性ペプチドリンカーを介して前記担体部分に融合されている、項1~18のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
20.前記非切断性ペプチドリンカーが、配列番号47~51から選択される、項19に記載のプロドラッグ。
21.前記切断可能なペプチドリンカーが、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)、マトリックスメタロペプチダーゼ(MMP)2、またはMMP9の基質配列を含む、項1~19のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
22.前記切断可能なペプチドリンカーが、(i)uPAおよびMMP2の両方、(ii)uPAおよびMMP9の両方、または(iii)uPA、MMP2およびMMP9の基質配列を含む、項21に記載のプロドラッグ。
23.前記切断可能なペプチドリンカーが、配列番号18、34、35、38、52~121、および217から選択されるアミノ酸配列を含む、項21に記載のプロドラッグ。
24.前記切断可能なペプチドリンカーが、腫瘍部位またはその周辺環境に局在する1つまたはそれ以上のプロテアーゼによって切断可能であり、前記切断が、前記腫瘍部位またはその周辺環境における前記プロドラッグの活性化を生じるものである、項1~23のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
25.前記担体部分が、PEG分子、アルブミン、アルブミン断片、抗体Fcドメイン、あるいは抗体またはその抗原結合断片である、項1~24のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
26.前記担体部分が、変異L234AおよびL235A(「LALA」)(EUナンバリング)を含む抗体Fcドメインまたは抗体である、項25に記載のプロドラッグ。
27.前記マスキング部分が、切断可能なペプチドリンカーを介して前記サイトカイン部分に融合されている、項25または26に記載のプロドラッグ。
28.前記担体部分が、ノブ-イントゥ-ホール変異を含む抗体Fcドメインまたは抗体であり、前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記抗体Fcドメインの異なるポリペプチド鎖に、または前記抗体の異なる重鎖に融合されている、項25または26に記載のプロドラッグ。
29.前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のC末端に、または前記抗体の2つの重鎖のC末端に融合されている、項28に記載のプロドラッグ。
30.前記サイトカイン部分および前記マスキング部分が、前記Fcドメインの2つの異なるポリペプチド鎖のN末端に、または前記抗体の2つの異なる重鎖のN末端に融合されている、項28に記載のプロドラッグ。
31.前記ノブ-イントゥ-ホール変異が、前記Fcドメインのポリペプチド鎖または前記抗体の重鎖におけるT366Y「ノブ」変異、ならびに前記Fcドメインのもう一方のポリペプチドまたは前記抗体のもう一方の重鎖におけるY407T「ホール」変異(EUナンバリング)を含む、項28~30のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
32.前記ノブ-イントゥ-ホール変異が、「ノブ鎖」のCH3ドメインにおけるY349Cおよび/またはT366W変異、ならびに「ホール鎖」のCH3ドメインにおけるE356C、T366S、L368A、および/またはY407V変異(EUナンバリング)を含む、項28~31のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
33.前記担体部分が、配列番号195~198から選択されるアミノ酸配列、ならびに配列番号132~137および139から選択されるアミノ酸配列をそれぞれ含む、2つのポリペプチド鎖を含む、抗体Fcドメインである、項25に記載のプロドラッグ。
34.前記担体部分が、グアニルシクラーゼC(GCC)、糖鎖抗原19-9(CA19-9)、糖タンパク質A33(gpA33)、ムチン1(MUC1)、癌胎児抗原(CEA)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1-R)、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)、ヒト上皮増殖因子受容体3(HER3)、デルタ様タンパク質3(DLL3)、デルタ様タンパク質4(DLL4)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、グリピカン-3(GPC3)、c-MET、血管内皮増殖因子受容体1(VEGFR1)、血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)、ネクチン-4、Liv-1、糖タンパク質NMB(GPNMB)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、Trop-2、炭酸脱水酵素IX(CA9)、エンドセリンB受容体(ETBR)、前立腺6回膜貫通型上皮抗原1(six transmembrane epithelial antigen of the prostate 1)(STEAP1)、葉酸受容体アルファ(FR-α)、SLITおよびNTRK様タンパク質6(SLITRK6)、炭酸脱水酵素VI(CA6)、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー3(ENPP3)、メソテリン、栄養膜(trophoblast)糖タンパク質(TPBG)、CD19、CD20、CD22、CD33、CD40、CD56、CD66e、CD70、CD74、CD79b、CD98、CD123、CD138、CD352、CD47、シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)、PD1、クローディン18.2、クローディン6、5T4、BCMA、PD-L1、PD-1、線維芽細胞活性化タンパク質アルファ(FAPアルファ)、メラノーマ結合コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、およびEPCAMから選択される1つまたはそれ以上の抗原に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である、項25~33のいずれか1項に記載のプロドラッグ。
35.前記担体部分が、配列番号209および配列番号210~215のうちの1つをそれぞれ含むアミノ酸配列の2つの重鎖、ならびに配列番号216を含むアミノ酸配列の2つの軽鎖を含む抗体である、項25に記載のプロドラッグ。
36.前記担体部分が、配列番号191ならびに配列番号192、193および206~208のうちの1つをそれぞれ含むアミノ酸配列の2つの重鎖、ならびに配列番号189を含むアミノ酸配列の2つの軽鎖を含む抗体である、項25に記載のプロドラッグ。
37.前記担体部分が、ヒト血清アルブミン(HSA)である、項25に記載のプロドラッグ。
38.A73位における変異を含む、IL-2変異タンパク質。
39.K35N変異を含む、IL-2変異タンパク質。
40.配列番号23~33、36、37および39~41のうちの1つを含む、IL-2変異タンパク質。
41.項1~37のいずれか1項に記載のプロドラッグまたは項38~40のいずれか1項に記載のIL-2変異タンパク質および医薬的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
42.項1~37のいずれか1項に記載のプロドラッグまたは項38~40のいずれか1項に記載のIL-2変異タンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
43.項42に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
44.項43に記載のベクターを含む、宿主細胞。
45.uPA、MMP2、および/またはMMP9をコードする前記遺伝子が、前記宿主細胞においてノックアウトされている、項44に記載の宿主細胞。
46.項1~37のいずれか1項に記載のプロドラッグまたは項38~40のいずれか1項に記載のIL-2変異タンパク質の製造方法であって、
項44または45に記載の宿主細胞を、前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の発現を可能にする条件下で培養することであって、前記宿主細胞が哺乳類細胞であり、次いで
前記プロドラッグまたはIL-2変異タンパク質を単離すること
を含む方法。
47.治療または活性化を必要とする患者において癌または感染症を治療するか、または免疫系を活性化するための方法であって、治療上有効な量の項41に記載の医薬組成物を、前記患者に投与することを特徴とする方法。
48.項47に記載の方法における癌または感染症の治療または免疫系の活性化に使用するためのサイトカインプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質。
49.項47に記載の方法における癌または感染症の治療または免疫系の活性化のための薬剤を製造するためのプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質の使用。
50.前記患者が、HIV感染、あるいは乳癌、肺癌、膵癌、食道癌、甲状腺髄様癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌、精巣癌、大腸癌、および胃癌からなる群から選択される癌に罹っている、項47に記載の方法、項48に記載の使用のためのプロドラッグまたはIL-2変異タンパク質、あるいは項49に記載の使用。
【0136】
配列
下記配列において、四角で囲まれた残基は、変異を示す。切断可能なリンカーにおける下線は、プロテアーゼ基質配列を示す。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【表24】
【表25】
【表26】
【表27】
【表28】
【表29】
【表30】
【表31】
【表32】
【表33】
【配列表】