(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】乗降扉用戸先ゴム
(51)【国際特許分類】
B61D 19/02 20060101AFI20240705BHJP
E06B 7/22 20060101ALI20240705BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B61D19/02 T
E06B7/22 B
B60J5/00 D
(21)【出願番号】P 2021000320
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134903
【氏名又は名称】株式会社ニシヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】白石 達也
(72)【発明者】
【氏名】松田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大志郎
(72)【発明者】
【氏名】女川 真司
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 信征
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0011004(US,A1)
【文献】特開2020-023237(JP,A)
【文献】独国実用新案第202004006968(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 19/02
E06B 7/22
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降扉の扉構体の戸先に設けられた取付凹部に挿入される取付部と、
上記取付部より幅が狭い連結部を介して上記取付部に連結された、上記取付部より幅が広い
中実の本体部とを有し、
上記本体部が先端から順に
硬さがJIS A80±10の第1ゴム部と
硬さがJIS A40±10の第2ゴム部とからなる二層構造を有する乗降扉用戸先ゴム。
【請求項2】
上記第1ゴム部の硬さがJIS A80±5、上記第2ゴム部の硬さがJIS A40±5である請求項1記載の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項3】
上記第1ゴム部の厚さが3mm以上15mm以下である請求項1または2記載の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項4】
上記第1ゴム部以外の部分が全て上記第2ゴム部と同一のゴムからなる請求項1~3のいずれか一項記載の乗降扉用戸先ゴム。
【請求項5】
上記本体部の上記第1ゴム部以外の部分の両側面の中央部がくびれている請求項1~4のいずれか一項記載の乗降扉用戸先ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は乗降扉用戸先ゴムに関し、特に、鉄道車両の引き戸式の乗降扉に取り付けて好適な乗降扉用戸先ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の引き戸式の乗降扉の扉構体の戸先には、戸先ゴムと通称される細長い棒状のゴムが取り付けられている。戸先ゴムは、乗降扉が閉まったときに乗客の手や足など、あるいは杖や鞄、スマートフォンなどの乗客の持物などの異物が誤って挟まれてしまった場合にその衝撃を和らげたり、その異物を引き抜きやすくしたりするためのものである。
【0003】
戸先ゴムとしては、従来より様々なものが提案され使用されているが、その中の一つに乗降扉が閉まったときに当たる戸先ゴムの先端部の内部に横断面で見たときに円形の空洞が設けられた戸先ゴムが知られており、実際に使用されている。特許文献1には、この戸先ゴムの空洞の延伸方向に沿って線状の感圧部材を配置したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の戸先ゴムは、乗降扉が閉まったときに異物が誤って挟まれてしまった場合、その異物の厚さがある程度大きくないと異物が挟まったことを検知することができないことがあり、検知精度に関し改善の余地があった。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、乗客の腕や手や持物などの異物が誤って挟まれてしまった場合の検知精度の大幅な向上を図ることができる乗降扉用戸先ゴムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は、
乗降扉の扉構体の戸先に設けられた取付凹部に挿入される取付部と、
上記取付部より幅が狭い連結部を介して上記取付部に連結された、上記取付部より幅が広い本体部とを有し、
上記本体部が先端から順に第1ゴム部と当該第1ゴム部より硬さが小さい第2ゴム部とからなる二層構造を有する乗降扉用戸先ゴムである。
【0008】
この乗降扉用戸先ゴムの横断面形状は、一般的には、横断面の所定の中心線(乗降扉用戸先ゴムが乗降扉の扉構体の取付凹部に取り付けられたときにこの取付凹部の長手方向の中心線と一致する)に関して左右対称に構成されるが、必要であれば左右対称から多少ずれた形状に構成されてもよい。この乗降扉用戸先ゴムの第1ゴム部以外の部分を構成するゴムは、一般的に戸先ゴムに必要とされる強度、耐久性、柔軟性などを備えている限り特に限定されず、必要に応じて選ばれる。この乗降扉用戸先ゴムの本体部を構成する第1ゴム部および第2ゴム部の硬さは、乗降扉が閉まったときに乗降扉用戸先ゴムの間に異物が挟まれた場合に加わると想定される衝撃力が先端側から第1ゴム部に対して部分的に加わった場合に第1ゴム部がほとんど変形することなく(あるいは、ほとんど潰れることなく)その衝撃力を第1ゴム部の全体で受けて第2ゴム部に伝達し、それによって第2ゴム部が全体として圧縮されることにより第1ゴム部が全体として第2ゴム部側に沈み込むことができるように選ばれる。例えば、第1ゴム部の硬さはJIS A80±10、第2ゴム部の硬さはJIS A40±10に選ばれ、典型的には、第1ゴム部の硬さはJIS A80±5、第2ゴム部の硬さはJIS A40±5に選ばれる。この乗降扉用戸先ゴムを構成するゴムは、特に限定されず必要に応じて選ばれるが、典型的にはクロロプレンゴムまたはエチレンプロピレンゴムが用いられる。第1ゴム部および第2ゴム部の厚さ(あるいは体積)は、第1ゴム部および第2ゴム部の硬さに応じて、先端側から第1ゴム部に対して部分的に上記の衝撃力が加わった場合に第1ゴム部がほとんど変形することなくその衝撃力を第1ゴム部の全体で受けて第2ゴム部に伝達し、それによって第2ゴム部が全体として圧縮されることにより第1ゴム部が全体として第2ゴム部側に沈み込むことができるように選ばれる。具体的には、第1ゴム部の厚さは例えば3mm以上15mm以下、典型的には4mm以上12mm以下、第2ゴム部の厚さは例えば5mm以上17mm以下、典型的には8mm以上16mm以下である。乗降扉用戸先ゴムは、典型的には、第1ゴム部以外の部分が全て第2ゴム部と同一のゴムからなるが、これに限定されるものではない。例えば、本体部が先端から順に第1ゴム部と第2ゴム部と第2ゴム部と硬さが異なる第3ゴム部とからなる三層構造を有するようにしてもよい。第3ゴム部の硬さは第2ゴム部の硬さより小さくてもよいし、大きくてもよい。典型的には、本体部の第1ゴム部の中央部の表面は平坦、両側面は丸まっている。本体部の第1ゴム部以外の部分の両側面の中央部は、第1ゴム部に先端側から衝撃力が加わった場合に第2ゴム部が容易に圧縮されて変形することができるようにするために、典型的にはくびれているが、これに限定されるものではなく、本体部の第1ゴム部以外の部分の両側面が互いに平行な平面であってもよい。本体部の上面および両側面には、乗降扉用戸先ゴムの間に乗客の手や足、鞄などの乗客の持物などの異物が挟まれた場合にそれを引き抜きやすくするためなどの目的で、典型的には、低摩擦材料からなるコーティング皮膜が形成されるが、これに限定されるものではない。また、取付凹部に挿入される取付部の両側面は、典型的には互いに平行な平面であるが、例えば円弧状の形状にくびれていてもよい。典型的には、取付部の側部の上面に面する本体部の側部の底面は連結部の周囲の空間において取付部の側部の上面に接近するように外部に向かって傾斜しているが、これに限定されるものではなく、本体部の側部の底面が取付部の上面と平行であってもよい。
【0009】
この乗降扉用戸先ゴムは、典型的には、鉄道車両の引き戸式の乗降扉に用いられる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、乗降扉が閉まったときに戸先ゴムによって乗客の腕や手や持物などの異物が挟まれてしまった場合、第1ゴム部に部分的に加わるその衝撃力を第1ゴム部がほとんど変形することなく第1ゴム部の全体で受けて第2ゴム部に伝達し、それによって第2ゴム部が全体として圧縮されることにより第1ゴム部が全体として第2ゴム部側に沈み込むことができることにより、異物の厚さがかなり小さくても乗降扉用戸先ゴムによって異物が挟まったことを容易に検知することができ、検知精度の大幅な向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムの全体構成を示す斜視図である。
【
図2】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムの全体構成を示す正面図である。
【
図3】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムの横断面形状を示す断面図である。
【
図4】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムを車両の乗降扉の扉構体の戸先に取り付けた状態を示す正面図である。
【
図5】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムを車両の乗降扉の扉構体の戸先に取り付けた状態を示す断面図である。
【
図6】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムを戸先に取り付けた乗降扉に棒状の異物が挟まれた瞬間の状態を示す正面図および断面図である。
【
図7】この発明の一実施の形態による乗降扉用戸先ゴムを戸先に取り付けた乗降扉に棒状の異物が挟まれてからさらに乗降扉が閉まった状態を示す正面図および断面図である。
【
図8】比較例による乗降扉用戸先ゴムを示す断面図である。
【
図9】実施例による乗降扉用戸先ゴムおよび比較例による乗降扉用戸先ゴムのそれぞれについて乗降扉用戸先ゴムの間に平板または丸棒が挟まれた場合の検知精度試験および官能試験を行った乗降扉用戸先ゴムの部位を示す略線図である。
【
図10】実施例による乗降扉用戸先ゴムおよび比較例による乗降扉用戸先ゴムのそれぞれについて乗降扉用戸先ゴムの間に平板が挟まれた場合の検知精度試験の結果を示す略線図である。
【
図11】実施例による乗降扉用戸先ゴムおよび比較例による乗降扉用戸先ゴムのそれぞれについて乗降扉用戸先ゴムの間に丸棒が挟まれた場合の検知精度試験の結果を示す略線図である。
【
図12】実施例による乗降扉用戸先ゴムおよび比較例による乗降扉用戸先ゴムのそれぞれについて乗降扉が閉まったときの官能試験の結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という)について説明する。
【0013】
〈一実施の形態〉
[乗降扉用戸先ゴム]
図1~
図3は一実施の形態による乗降扉用戸先ゴム(以下、単に「戸先ゴム」という)10を示し、
図1および
図2は戸先ゴム10の全体構成を示す斜視図および正面図、
図3は戸先ゴム10の横断面形状(
図2の3-3線に沿っての断面図)を示す。
図4に、この戸先ゴム10を車両の引き戸式の乗降扉20の扉構体21の戸先21aに取り付けた状態を示す。乗降扉20には窓22が設けられている。
図4は左右一対の乗降扉20が閉まった状態を示す。
図5は左右一対の乗降扉20が閉まった状態における乗降扉20の水平断面を拡大して示したものである。
【0014】
図1~
図3に示すように、戸先ゴム10は全体として細長い棒状の形状を有し、
図4に示す乗降扉20の扉構体21の戸先21aの上下方向の長さとほぼ同じ長さを有する。戸先ゴム10はその長手方向に横断面形状が同一であり、かつ横断面形状は中心線Cに関して左右対称である。戸先ゴム10は、取付部11、連結部12および本体部13からなる。連結部12は取付部11および本体部13より幅が狭く構成され、本体部13は取付部11より幅が広く構成されている。戸先ゴム10の本体部13の上面および両側面には、戸先ゴム10の間に手や足あるいは持物などの異物が挟まれた場合にその異物を容易に引き抜くことができるようにするためなどの目的で、典型的には低摩擦材料からなるコーティング皮膜(図示せず)が形成される。
【0015】
取付部11は、乗降扉20の扉構体21の戸先21aに設けられた取付凹部22に挿入される部分である。取付部11の両側面は中心線Cに平行な平面からなる。
【0016】
連結部12は、
図5に示すように、乗降扉20の扉構体21の戸先21aに設けられた上下方向に長く延びるスリット21bを通して取付部11が取付凹部22に挿入されたときにスリット21bに嵌まる部分であり、スリット21bとほぼ同じ幅を有する。
【0017】
本体部13は先端側の上部ゴム13aと下部ゴム13bとからなる二層構造を有する。下部ゴム13bの硬さは上部ゴム13aの硬さより小さい。上部ゴム13aおよび下部ゴム13bの硬さは、乗降扉20が閉まったときに戸先ゴム10の間に異物が挟まれた場合に発生すると想定される衝撃力が先端側から上部ゴム13aに対して部分的に加わった場合に上部ゴム13aがほとんど変形することなく、あるいはほとんど潰れることなく、その衝撃力を上部ゴム13aの全体で受けて下部ゴム13bに伝達し、それによって下部ゴム13bが全体として圧縮されることにより上部ゴム13aが全体として下部ゴム13b側に沈み込むことができるように選ばれる。具体的には、例えば、上部ゴム13aの硬さはJIS A80±10、下部ゴム13bの硬さはJIS A40±10に選ばれ、典型的には、上部ゴム13aの硬さはJIS A80±5、下部ゴム13bの硬さはJIS
A40±5に選ばれる。上部ゴム13aの中央部の表面は中心線Cに垂直な平面からなり、両側面は円形に丸まっている。下部ゴム13bの両側面の中央部はくびれている。具体的には、下部ゴム13bの両側面は内側に凸となるように円弧状の形状に窪んでいる。取付部11の側部の上面に面する下部ゴム13bの側部の底面は連結部12の周囲の空間において取付部11の側部の上面に接近するように外部に向かって直線的に傾斜している。下部ゴム13bの側面の最下端は取付部11の側部の上面より高い位置にある。このように下部ゴム13bの側部の底面を傾斜させる理由は、乗降扉20の扉構体21のスリット21bに連結部12が嵌まるように戸先ゴム10を取り付けたときに、下部ゴム13bの側部の底面が取付部11の側部の上面と平行になるように変形することにより、本体部13を扉構体21に押し付ける力が働く結果、戸先ゴム10が扉構体21に強固に固定されるようにするためである。
【0018】
戸先ゴム10の各部の寸法は戸先ゴム10を取り付ける乗降扉20に応じて適宜決められるが、例えば次の通りである。戸先ゴム10の高さは例えば34mm以上36mm以下、長さは1800mm以上1870mm以下である。取付部11の厚さは13mm以上15mm以下、幅は13mm以上15mm以下である。連結部12の厚さは1.3mm以上1.9mm以下、幅は7mm以上8mm以下である。本体部13の幅は21mm以上23mm以下、連結部12の幅の位置における本体部13の厚さは19.5mm以上20.5mm以下、下部ゴム13bの側面の最下端から下部ゴム13bの側部の底面と連結部12の側面との交点までの高さは0.9mm以上1.1mm以下である。上部ゴム13aの厚さは4mm以上6mm以下、両側面の丸みの曲率半径は4mm以上6mm以下である。下部ゴム13bの両側面の窪みの曲率半径は13mm以上15mm以下である。
【0019】
[戸先ゴム10の製造方法]
戸先ゴム10は、ゴムの押し出し成形またはコンプレッション成形、その後のコーティングなどにより容易に製造することができる。
【0020】
[乗降扉20への戸先ゴム10の取り付け方法]
乗降扉20の扉構体21のスリット21bに対し戸先ゴム10の取付部11側を対向させ、取付部11をその幅方向に圧縮して幅を狭くしながら戸先ゴム10をスリット21bに向かって移動させ、取付部11をスリット21bに押し込んでスリット21bを通過させる。スリット21bを通過した時点で取付部11は弾性により元の形状を回復して取付凹部22の全体に広がり、取付部11の挿入が完了する。この時点で連結部12がスリット21bに嵌まり込むことで扉構体21に対して戸先ゴム10が固定される。
【0021】
[戸先ゴム10の作用効果]
図6AおよびBは、左右一対の乗降扉20が閉まるときに棒状の異物100が戸先ゴム10の間に挟まれた瞬間の様子を示し、
図6Aは乗降扉20および戸先ゴム10の一部の正面図、
図6Bは乗降扉20および戸先ゴム10の一部の水平断面図である。
図7AおよびBは、乗降扉20の閉動作がさらに進んだ時の様子を示し、
図6AおよびBと同様な正面図および断面図である。
図6AおよびBに示すように、棒状の異物100が戸先ゴム10の間に挟まれた瞬間には、戸先ゴム10の先端の上部ゴム13aに部分的に衝撃力が作用する。このとき、上部ゴム13aおよび下部ゴム13bの硬さが既に述べたように選ばれていることにより、上部ゴム13aは自身はほとんど変形することなくその全体で衝撃力を受けて下部ゴム13bに伝達し、それによって下部ゴム13bが全体として圧縮されることにより上部ゴム13aが全体として下部ゴム13b側に沈み込む。その結果、
図7AおよびBに示すように、下部ゴム13bは最初の厚さtからΔだけ圧縮されて厚さt-Δとなる。
【0022】
実施例について説明する。
【0023】
(実施例)
図1~3に示す戸先ゴム10において、戸先ゴム10の高さを35mm、長さを1865mmとした。取付部11の厚さを13.4mm、幅を14mmとした。連結部12の厚さを1.6mm、幅を14mmとした。本体部13の幅を22mm、連結部12の幅の位置における本体部13の厚さを20mm、下部ゴム13bの側面の最下端から下部ゴム13bの底面と連結部12の側面との交点までの高さを1mmとした。上部ゴム13aの厚さを5mm、両側面の丸みの曲率半径を5mmとした。下部ゴム13bの両側面の窪みの曲率半径を14.1mmとした。戸先ゴム10の材質はクロロプレンゴムとした。戸先ゴム10の上部ゴム13aの硬さはJIS A80±5、下部ゴム13bの硬さはJIS
A40±5である。戸先ゴム10は押し出し成形により作製した。本体部13の上面および両側面に四フッ化エチレン樹脂からなる黒色のコーティング皮膜を形成した。
【0024】
(比較例)
背景技術で説明した従来の戸先ゴムを比較例とした。この戸先ゴムの材質はクロロプレンゴム、硬さはJIS A60±5である。この戸先ゴムを
図8に示す。この
図8に示す戸先ゴムと
図3に示す戸先ゴム10とは同じ縮尺で示されており、従ってこの
図8に示す戸先ゴムの各部のサイズは実施例の戸先ゴム10から容易に分かる。
図8に示すように、この戸先ゴムは、実施例による戸先ゴム10と比較すると、全体が同一のクロロプレンゴムにより形成されていること、本体部に円形の空洞が形成されていることが異なる。
【0025】
(試験結果)
各種サイズの平板または丸棒が挟まれた場合の検知精度試験および官能試験を行った。平板は鞄やスマートフォンなどを想定し、丸棒は人間の指や杖などを想定した。平板または丸棒が挟まれる部位は
図9に示す乗降扉20の戸先ゴム10の中央(乗降扉20の下面から上方に900mmの位置)の1箇所とした。以下、試験結果を説明する。
【0026】
1.検知精度試験
検知精度試験は、各種サイズの丸棒、平板を挟み検知ランプの点灯状態を確認することにより行った。検知ランプは、乗降扉20の扉構体21の戸先21aに取り付けられた接触子により車両の車体側に設置された戸閉まり検知スイッチがオンとなって乗降扉20の閉状態が検知されたときに青色に点灯する。
【0027】
(1)平板が挟まれた場合
平板が挟まれた場合の検知精度試験の結果を
図10に示す。
図10の縦軸は検知可能な平板の厚さである。
図10に示すように、中央の検知精度は、比較例に比べて実施例の方が約44%高い。
図10より、かなり小さい厚さの平板でも検知できていることが分かる。
【0028】
(2)丸棒が挟まれた場合
丸棒が挟まれた場合の検知精度試験の結果を
図11に示す。
図11の縦軸は検知可能な丸棒の直径である。
図11に示すように、中央の検知精度は、比較例に比べて実施例の方が約33%高い。
図11より、かなり小さい直径の丸棒でも検知できていることが分かる。
【0029】
2.官能試験
官能試験は、乗降扉が閉まったときに人間の手の第一関節、肩、胸、足が挟まれたとしてその際に感じる痛みを4段階で評価した。4段階は、痛くない、軽い痛み、痛むが我慢できる、我慢できない痛みであり、それぞれ4点、3点、2点、1点と評価した。被験者は10代男女から50代男性、30代女性まで22名とした。この22名の合計の評価点を求めた。手、肩、胸、足についての評価結果をそれぞれ
図12A~Dに示す。
図12A~Dに示すように、手、肩に関しては実施例および比較例ともあまり差が見られないが、胸、足に関しては比較例に比べて実施例の方が良い。
【0030】
この一実施の形態によれば、次のような種々の利点を得ることができる。すなわち、乗降扉20が閉まったときに戸先ゴム10によって乗客の腕や手や鞄などの異物が挟まれてしまった場合、先端側から上部ゴム部13aに部分的に加わるその衝撃力を上部ゴム部13aがほとんど変形することなく上部ゴム部13aの全体で受けて下部ゴム部13bに伝達し、それによって下部ゴム部13bが全体として圧縮されることにより上部ゴム部13aが全体として下部ゴム部13b側に沈み込むことができることにより、戸先ゴム10によって異物が挟まれた場合の検知精度の大幅な向上を図ることができる。また、戸先ゴム10によって腕や手などが挟まれてしまった場合にも乗客はほとんど痛みを感じないで済む。さらに、戸先ゴム10によって乗客の腕や手や鞄などの異物が挟まれてしまった場合、その異物を容易に引き抜くことができる。
【0031】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0032】
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…戸先ゴム、11…取付部、12…連結部、13…本体部、13a…上部ゴム、13b…下部ゴム、20…乗降扉、21…扉構体、21a…戸先、21b…スリット、22…取付凹部