(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】工具位置測定装置、工具位置測定方法、溝加工装置、および溝加工方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/22 20060101AFI20240705BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20240705BHJP
B23C 3/34 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B23Q17/22 Z
G01B5/00 A
B23C3/34
(21)【出願番号】P 2021000380
(22)【出願日】2021-01-05
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正彦
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 光利
(72)【発明者】
【氏名】関 哲朗
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-8057(JP,U)
【文献】特開平5-180646(JP,A)
【文献】実開平7-40059(JP,U)
【文献】特開2009-243883(JP,A)
【文献】特開2008-87132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/22
G01B 5/00
B23C 3/34
B23Q 15/00 - 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の回転軸に取り付けられる軸部と当該軸部の回転に従って回転する加工部とを備える回転工具に関する位置を測定する工具位置測定装置であって、
被加工物に接触させる接触部を含み、測定対象の回転工具における前記加工部の先端側の位置で当該接触部が測定対象の回転工具における前記軸部に対して同軸で回転するように取付け可能である導電性の測定子と、
前記測定子における前記接触部が前記被加工物に接触したか否かを検出する検出部と、
前記回転工具が回転している間における前記検出部の検出結果に基づいて、前記接触部が前記被加工物に接触した接触時間と、前記接触部が前記被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比を演算する演算部とを備える、工具位置測定装置。
【請求項2】
前記測定子における前記接触部は、球形状であり、耐摩耗性処理が施されている、請求項1に記載の工具位置測定装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記接触部と前記被加工物とが接触した場合の通電を検出することに基づいて前記接触部が前記被加工物に接触したことを検出する、請求項1または請求項2に記載の工具位置測定装置。
【請求項4】
駆動源の回転軸に取付けられる軸部と当該軸部の回転に従って回転する加工部とを備える回転工具を測定対象として、被加工物に接触させる接触部を含み測定対象の回転工具における前記加工部の先端側の位置で当該接触部が測定対象の回転工具における前記軸部に対して同軸で回転するように導電性の測定子を取り付け、前記接触部が前記被加工物に接触したか否かを検出部により検出することに基づき、当該回転工具に関する位置を測定する工具位置測定方法であって、
前記回転工具を回転させるステップと、
第1移動位置における前記回転工具について、前記検出部の検出結果に基づいて、前記接触部が前記被加工物に接触した接触時間と、前記接触部が前記被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比を演算するステップと、
第2移動位置における前記回転工具について、前記検出部の検出結果に基づいて、前記接触部が前記被加工物に接触した接触時間と、前記接触部が前記被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比を演算するステップと、
前記第1移動位置および前記第2移動位置と、前記第1移動位置での前記回転工具について演算された前記接触時間の比、および、前記第2移動位置での前記回転工具について演算された前記接触時間の比とに基づいて、前記回転軸の位置に対する前記軸部の位置の偏位量を演算するステップとを備える、工具位置測定方法。
【請求項5】
前記回転工具における前記軸部に前記測定子を取付けた後、前記回転工具を回転させるステップを実行する、請求項4に記載の工具位置測定方法。
【請求項6】
前記回転軸の軸心に対する前記軸部の軸心の偏位量を演算するステップは、前記第1移動位置X1での前記接触時間の比R1と、前記第2移動位置X2での前記接触時間の比R2とに基づいて、前記軸部の軸心の偏位量Fを以下の演算式により演算する、請求項4または請求項5に記載の工具位置測定方法。
F=(X1-X2)/[COS(π×R1)-COS(π×R2)]
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の工具位置測定装置を備え、前記検出部の検出結果に基づいて得られる前記回転工具に関する位置に基づいて、前記被加工物に形成された溝を加工する、溝加工装置。
【請求項8】
請求項4または5に記載の工具位置測定方法において演算された前記偏位量の演算結果に基づいて得られる前記回転工具に関する位置に基づいて、前記被加工物に形成された溝を加工するステップとを備えた、溝加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具位置測定装置、工具位置測定方法、溝加工装置、および溝加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転工具においては、モータ等の駆動源の回転軸に回転工具の軸部が取り付けられ、当該軸部の回転にしたがって回転する加工部が、被加工物を加工する。回転工具により被加工物を加工する場合には、被加工物の加工精度を高めるために、回転工具に関する位置を正確に測定することが必要とされる。
【0003】
従来の工具位置測定装置としては、特許第6574487号公報(特許文献1)に開示されたように、回転工具と被加工物との接触により電圧の変化が発生した瞬間に、回転工具の機械軸の位置が検出され、これによって工作台の上の被加工物の位置が決定されるものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6574487号公報(段落0055、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、回転工具においては、モータのような駆動源の回転軸と回転工具の軸部との取り付け面が摩耗したり、当該取り付け面に加工粉が噛み込まれたりすること等の原因により、駆動源の回転軸に対して、回転工具の軸部の取り付け位置に偏位が生じる場合がある。特許文献1に記載されたような従来の工具位置測定装置では、モータ等の駆動源の回転軸に対する回転工具の軸部の偏位を測定できなかったので、被加工物に対する回転工具に関する位置の測定精度が低下するという問題があった。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するものであり、回転工具に関する位置の測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、駆動源の回転軸に取付けられる軸部と当該軸部の回転に従って回転する加工部とを備える回転工具に関する位置を測定する工具位置測定装置に関する。工具位置測定装置は、被加工物に接触させる接触部を含み、測定対象の回転工具における加工部の先端側の位置で当該接触部が測定対象の回転工具における軸部に対して同軸で回転するように取り付け可能である導電性の測定子と、測定子における接触部が被加工物に接触したか否かを検出する検出部と、回転工具が回転している間における検出部の検出結果に基づいて、接触部が被加工物に接触した接触時間と、接触部が被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比を演算する演算部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、導電性の測定子における接触部が被加工物に接触したか否かを検出部によって検出し、回転工具が回転している間における検出部の検出結果に基づいて、接触部が被加工物に接触した接触時間と、接触部が被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比を演算部によって演算することにより、駆動源における回転軸に対する回転工具における軸部の偏位量を演算することができる。これにより、回転工具の位置に関する測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】エレベータのロープの溝を加工するロープ溝加工装置7を取り付けた状態を示すエレベータ装置の概略構成図である。
【
図2】ロープ溝加工装置7を、駆動綱車4およびそらせ車6のような被加工物20に対して取り付けた状態を示す図である。
【
図3】測定子101を取り付けたロープ溝加工装置7の側面図である。
【
図5】ロープ溝20hの再生加工時における回転工具10、ロープ溝20h、および、回転軸16の位置関係を表す正面図である。
【
図6】測定子101を取り付けたロープ溝加工装置7、および、工具位置測定装置100の構成を示す模式図である。
【
図7】偏位量Fがあるときにおける接触球部101aの回転動作を示す図である。
【
図8】測定子101の接触球部101aが被加工物20に接触した場合における接触球部101aと被加工物20との間の電気的な導通状態を示すタイミングチャートである。
【
図9】接触時間比、偏位量、および、加工開始位置を説明するための図である。
【
図10】工具位置測定装置100により工具位置を測定する処理およびロープ溝加工装置7により被加工物20を加工する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、実施の形態について複数の変形例を含めて説明するが、以下に説明する構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0011】
[ロープ溝加工装置7の構成]
図1は、エレベータのロープの溝を加工するロープ溝加工装置7を取り付けた状態を示すエレベータ装置の概略構成図である。
【0012】
図1を参照して、エレベータのかご1は、主ロープ2により懸架される。主ロープ2は、一端がかご1に固定され、他端が釣合い重り3に固定される。機械室等に設置された巻上機(図示省略)の駆動綱車4には、主ロープ2が巻き掛けられる。固定体5は、駆動綱車4および巻上機の駆動機を固定するものであり、機械室等に設けられている。そらせ車6は、主ロープ2が巻き掛けられ、かご1と釣合い重り3との懸架位置を合わせるために用いられる。そらせ車6は、エレベータの固定体5に固定される。駆動綱車4およびそらせ車6は、どちらも導電性を有する金属製の車よりなる。
【0013】
駆動綱車4には、複数のロープ溝が形成されている。複数のロープ溝には、主ロープ2が巻き掛けられる。そらせ車6には、駆動綱車4と同様に、複数のロープ溝が形成されている。駆動綱車4における複数のロープ溝は、主ロープ2を案内するために用いられる。このような複数のロープ溝は、ロープ溝加工装置7により再生加工される。
【0014】
ロープ溝加工装置7は、第1ロープ溝加工装置7aと第2ロープ溝加工装置7bとを含む。第1ロープ溝加工装置7aと第2ロープ溝加工装置7bとは、同様に構成されている。第1ロープ溝加工装置7aは、固定体5の上面において、被加工物20の1つである駆動綱車4のロープ溝を再生加工可能な状態で取り付けられている。第2ロープ溝加工装置7bは、固定体5の下面において、被加工物20の1つであるそらせ車6のロープ溝を再生加工可能な状態で取り付けられている。ロープ溝加工装置7は、第1ロープ溝加工装置7aのみで構成されてもよく、または、第2ロープ溝加工装置7bのみで構成されてもよい。
【0015】
[ロープ溝加工装置7および工具位置測定装置100の構成]
以下においては、第1ロープ溝加工装置7aと第2ロープ溝加工装置7bとの代表例として、1つのロープ溝加工装置7および工具位置測定装置100を説明する。
【0016】
図2は、ロープ溝加工装置7を、駆動綱車4、および、そらせ車6のような被加工物20に対して取り付けた状態を示す図である。
図3は、測定子101を取り付けたロープ溝加工装置7の側面図である。
図4は、ロープ溝加工装置7の背面図である。
図2~
図4を参照して、ロープ溝加工装置7は、取付部8、加工機器部9、および、可動支持部13を含む。
【0017】
取付部8は、ロープ溝加工装置7の基部をなす。取付部8は、エレベータの固定体5にロープ溝加工装置7を着脱自在に固定する。可動支持部13は、一端が取付部8に取り付けられ、他端に加工機器部9を取り付ける。加工機器部9は、被加工物20におけるロープ溝のような加工対象を加工する。加工機器部9は、回転工具10、モータ11、および、モータ取付板12を含む。
【0018】
回転工具10は、刃部10aおよび柄部10bを含む。刃部10aは、ロープ溝に当接してロープ溝を除去加工する加工部であり、柄部10bの軸長方向の先端部に取り付けられている。柄部10bは、回転工具10の回転軸となる軸部であり、軸長方向の末端部がモータ11の駆動軸(図示省略)に対して同軸的に取り付けられる。刃部10aは、表面に加工用の凹凸が形成された略球形の加工部であり、柄部10bの回転に従って回転することにより、接触した被加工物20を削る加工をする。
【0019】
モータ11は、ロープ溝加工装置7の駆動源であり、駆動軸の回転に従って回転工具10の柄部10bを回転させることにより刃部10aが回転する態様で回転工具10を回転させる。モータ取付板12は、モータ11を把持する。回転工具10は、コレットチャックまたはテーパシャンク方法等の予め定められた取り付け態様で、柄部10bの基部がモータ11の回転軸に取り付けられる。
【0020】
ロープ溝加工装置7において、工具位置測定装置100を用いて回転工具10の位置を測定する場合には、導電性を有する測定子101が回転工具10の柄部10bに取り付けられる。測定子101は、ロープ溝加工装置7における回転工具10の位置を測定する場合に用いられる。測定子101は、加工中は取り外す。
【0021】
可動支持部13は、ロープ溝加工装置7の取付部8と加工機器部9との間に設けられる。可動支持部13は、ソレノイドやサーボモータ等の駆動源により駆動される。可動支持部13は、加工機器部9を被加工物20の回転軸方向(x方向=
図2の紙面に垂直の方向)、および、被加工物20の半径方向(z方向=
図2の紙面の上下方向)に移動自在に支持する。可動支持部13は、x方向可動器14と、z方向可動器15とから構成されている。
図3および
図4においては、可動支持部13が、被加工物20の回転軸方向(x方向)および半径方向(z方向)に伸びた状態が示されている。
【0022】
x方向可動器14は、固定端と可動端とを有し、加工機器部9を被加工物20の回転軸方向(x方向)に移動させることが可能である。x方向可動器14は、ソレノイド等の駆動源により駆動される。x方向可動器14は、取付部8に固定端が固定されており、x方向可動器15が可動端に固定されている。
【0023】
z方向可動器15は、固定端と可動端とを有し、加工機器部9を被加工物20の半径方向(z方向=
図2の紙面の上下方向)に移動させることが可能である。z方向可動器15は、ソレノイド等の駆動源により駆動される。z方向可動器15の可動端にはモータ取付板12が固定されている。x方向可動器14は、伸縮することによって、ロープ溝のような加工対象の選択と加工位置の微調整とを行う。
【0024】
例えば被加工物20に形成されたロープ溝の再生加工は、測定子101を取り外した状態で行われる。ロープ溝の再生加工は、主に回転工具10をz方向へ一定の送り速度で送ることによって実施する。つまり、ロープ溝の再生加工は、z方向可動器15を定速で伸ばすことによって実行する。まず、巻上機における駆動機の回転によって主ロープ2が巻き掛けられた状態のまま被加工物20が回転し、ロープ溝が移動する。そして、モータ11により回転工具10を回転させる。次に、z方向可動器15を一定速度で伸ばし、回転工具10の刃部10aをロープ溝20hに接触させる。これにより、回転工具10において、回転する刃部10aがロープ溝20hを削ることにより、刃部10aによってロープ溝が再生加工される。
【0025】
[回転工具10の柄部10bの回転軸17の偏位量F]
図5は、ロープ溝20hの再生加工時における回転工具10、ロープ溝20h、および、回転軸16の位置関係を表す正面図である。
【0026】
回転工具の製作時に、回転工具10において、刃部10aと柄部10bとは、高精度に同軸に製作される。しかし、この柄部10bをモータ11に取り付ける際に、回転工具10の柄部10bとモータ11との取り付け面が摩耗したり、加工粉を噛み込んだりすることにより、モータの回転軸16の軸心の位置に対して、回転工具10における柄部10bの回転軸17の軸心の位置が偏位するおそれがある。このような偏位の偏位量Fは、回転工具10を図中の矢印の方向に回転させるときに、モータ11の回転軸16の位置に対して柄部10bの径方向に柄部10bおよび刃部10aが振れる量であり、振れ量ともいうことができる。
【0027】
回転工具10の半径(以下、工具径という)をrとする。その工具径rは、具体的に、刃部10aの半径が柄部10bの半径よりも大きいので、刃部10aの半径に相当する。モータの回転によって回転工具10が回転する最外部は、r+Fの半径の回転円周上にある。つまり、回転工具10によって加工される被加工物20のロープ溝20hの半径は、工具径のrではなく、偏位量Fを含む半径(r+F)となるように加工される。また、このような偏位量Fにより、ロープ溝20hが加工された場合の溝の深さは、工具径rよりも偏位量F分だけ深くなるおそれがある。さらに、溝の幅も、工具径rよりも偏位量F分だけずれるおそれがある。
【0028】
そこで、このような偏位量Fを測定することにより、回転工具10に関する位置の測定精度を向上させる必要がある。このような偏位量Fは、測定子101を回転工具10の先端に取り付けて、測定子101を被加工物20のロープ溝20hに接触させ、測定子101により測定された測定子101の接触状態のデータに基づき、予め設定された演算式により算出される。
【0029】
[偏位量Fを測定可能な工具位置測定装置100]
次に、偏位量Fを測定可能な工具位置測定装置100を説明する。
図6は、測定子101を取り付けたロープ溝加工装置7、および、工具位置測定装置100の構成を示す模式図である。
【0030】
測定子101は、導電性の金属よりなり、接触球部101a、接触球軸部101b、および、ホルダ部101cを含む。ホルダ部101cは、四角形の枠形状の枠部よりなり、枠部内に回転工具10の刃部10aが位置するように、基部が回転工具10の柄部10bに取り付けられる。測定子101におけるホルダ部101cは、回転工具10に関する位置の測定時において、他の部品等との干渉を抑制するために、サイズが小さい方が好ましい。
【0031】
ホルダ部101cにおける基部に対する反対側の端部には、当該基部が回転工具10の柄部10bに取り付けられた状態において、回転工具10の柄部10bと同軸上に位置するような態様で、接触球軸部101bが形成されている。接触球軸部101bの先端部には、接触球部101aが取り付けられている。
【0032】
接触球部101aは、球形状の導電性の金属により形成され、回転工具10に関する位置の測定時において、被加工物20に接触させられる。接触球部101aは、回転工具10の刃部10aのような凹凸が形成されていない球形をなしており、表面に、耐摩耗性皮膜、または、表面の焼き入れ硬質化等の耐摩耗性処理が施されている。これにより、接触球部101aは、回転工具10に関する位置の測定時において、被加工物20との接触による摩耗が少なくなる。よって、接触球部101aは、回転工具10に関する位置の測定を繰り返しても、耐摩耗性処理が施されていない場合と比べて、測定結果の再現性を高くすることができる。
【0033】
測定子101は、偏位量Fを正確に測定するために、被加工物20に接触した場合に、変形することが可能となるように弾性を有している(
図7参照)。具体的には、接触球軸部101bが、被加工物20に接触した場合に変形することが可能となるように弾性を有している。接触球軸部101bは、弾性を有しているため、被加工物20に接触した場合に変形するが、被加工物20に接触しなくなれば、弾性力により元の形状に戻る。
【0034】
測定子101は、例えば中心角度が120度毎の3点支持形式のねじ止め構造により、柄部10bの軸長方向に離れた2箇所で、回転工具10の柄部10bに取り付けられる。測定子101は、このような3点のねじ止め位置での各ねじのねじ込み量の調整により、柄部10bの回転軸と接触球軸部101bとが、高精度で同軸的に取り付けられる。
【0035】
測定子101は、接触球部101a、接触球軸部101b、および、ホルダ部101cが、別々に形成された部品よりなり、これらの部品が取り付けられて構成されたものでもよい。また、測定子101は、接触球部101a、接触球軸部101b、および、ホルダ部101cが一体的に形成されたものであってもよい。接触球部101aと接触球軸部101bとは、別々に形成された部品が取り付けられて構成されたものでもよく、一体的に形成されたものであってもよい。接触球軸部101bとホルダ部101cとは、別々に形成された部品が取り付けられて構成されたものでもよく、一体的に形成されたものであってもよい。
【0036】
工具位置測定装置100は、接触検出部111、接触時間比演算部112、偏位量演算部113、および、接触位置演算部114を含む。
【0037】
接触検出部111は、測定子101と被加工物20とに電位差を与え、測定子101の接触状態、具体的には接触球部101aの接触状態を電流信号に変換することにより、測定子101と被加工物20との接触状態を検出する。接触時間比演算部112は、接触検出部111からの検出信号を受ける。
【0038】
接触時間比演算部112は、接触検出部111からの検出信号に基づいて、測定子101と被加工物である被加工物20とが接触したと判断されたときにタイマーを起動し、接触時間と非接触時間とを計測する。接触時間比演算部112は、下記の(式1)を用いて、接触時間および非接触時間の計測中において、モータ11の回転軸の回転の1周期の時間中に測定子101が被加工物20に接触した時間が、接触時間および非接触時間の合計時間に対する比である接触時間比R1,R2を演算する。
【0039】
制御装置121は、ロープ溝加工装置7が備える制御部であり、ロープ溝加工装置7における可動支持部13、x方向可動器14、および、z方向可動器15のそれぞれの駆動源を制御することにより、x方向可動器14、および、z方向可動器15による回転工具10の位置制御を実行する。制御装置121は、モータ11を制御することにより、回転工具10の動作制御を実行する。
【0040】
偏位量演算部113は、接触時間比演算部112で演算された接触時間比R1,R2のデータを接触時間比演算部112から収集するとともに、ロープ溝加工装置7が備える制御装置121での制御情報に基づく接触位置X1,X2のデータを制御装置121から収集する。偏位量演算部113は、収集した接触時間比R1,R2と接触位置X1,X2とに基づいて、下記の(式6)を用いて偏位量Fを演算する。
【0041】
接触位置演算部114は、偏位量演算部113で演算された偏位量Fと、予め設定された接触球部101aの半径srとに基づき、モータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした被加工物20の位置「sr+F」を算出する。接触位置演算部114は、偏位量演算部113で演算された偏位量Fと、予め設定された刃部10aの半径rとに基づき、回転工具10に関する位置として、モータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした刃部10aの位置、すなわち、刃部10aによる被加工物20の加工開始位置「r+F」を算出する。
【0042】
接触位置演算部114において演算されたモータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした被加工物20の位置「sr+F」のデータ、および、接触位置演算部114において演算されたモータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした刃部10aによる被加工物20の加工開始位置「r+F」のデータは、制御装置121に入力される。
【0043】
制御装置121は、接触位置演算部114で演算されたモータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした被加工物20の位置「sr+F」、および、モータ11の回転軸16の軸心の位置を基準とした刃部10aの位置の情報、すなわち、被加工物20の加工開始位置「r+F」の情報で、加工制御に用いるデータを調整し、加工制御を実行する。
【0044】
[偏位量Fを測定する方法]
次に、偏位量Fを測定する方法について具体的に説明する。
図7は、偏位量Fがあるときにおける触球部101aの回転動作を示す図である。
図7においては、偏位量Fの説明を容易化するために、被加工物20が平板のような形状で示されている。
図7においては、接触球部101aの回転動作の方向が矢印で示されている。
図7においては、基準時間ごとの接触球部101aの存在位置が示されている。
【0045】
図7(a)には、接触球部101aが被加工物20に接触しない状態での接触球部101aの回転動作が示されている。
図7(b)には、接触球部101aが接触位置X1で被加工物20に接触している状態での接触球部101aの回転動作が示されている。
図7(c)には、接触球部101aが接触位置X2で被加工物20に接触している状態での接触球部101aの回転動作が示されている。
【0046】
図7(a)のように、接触球部101aが被加工物20に接触しない場合には、回転工具10の柄部10bの回転軸17の軸心を円の中心とし、偏位量Fを半径とした円形の軌道で接触球部101aが回転する。
【0047】
図7(b)のように、
図7(a)よりも回転工具10の柄部10bの回転軸17が被加工物20に近づいて、接触球部101aが被加工物20に対して接触位置X1のような位置で被加工物20に接触した場合には、前述したように接触球軸部101bが変形するので、接触球部101aの回転の軌道が円形とはならない。この場合は、時間経過に従って、接触球部101aが図中の経過時間「A」,「B」,「C」のような軌道で被加工物20に接触する。
【0048】
図7(c)のように、
図7(b)よりも回転工具10の柄部10bの回転軸17が被加工物20に近づいて、接触球部101aが被加工物20に対して接触位置X2のような位置で被加工物20に接触した場合には、前述したように接触球軸部101bが変形するので、接触球部101aの回転の軌道が円形とはならない。この場合は、時間経過に従って、接触球部101aが図中の経過時間「K」,「L」,「M」のような軌道で、
図7(a)の場合よりも長時間に亘り被加工物20に接触する。
【0049】
次に、接触検出部111により、導電性を有する測定子101と、導電性を有する被加工物20とに電位差を与えた状態で接触球部101aが被加工物20に接触した場合に流れる電流について説明する。
【0050】
図8は、測定子101の接触球部101aが被加工物20に接触した場合における接触球部101aと被加工物20との間の電気的な導通状態を示すタイミングチャートである。
【0051】
図8(a)においては、
図7(b)のような接触位置X1で接触球部101aが被加工物20に接触をした場合の導通状態が示されている。
図8(b)においては、
図7(b)のような接触位置X2で接触球部101aが被加工物20に接触をした場合の導通状態が示されている。
図8(a)および
図8(b)においては、接触検出部111により検出される電流値が縦軸に示され、経過時間が横軸に示されている。
【0052】
図8(a)では、
図7(b)の経過時間「A」,「B」,「C」に対応するタイミングが「A」,「B」,「C」で示されている。
図8(b)では、
図7(c)の経過時間「K」,「L」,「M」に対応するタイミングが「K」,「L」,「M」で示されている。
【0053】
図8に示されるように、接触球部101aが被加工物20に接触した瞬間に電流が流れ、接触球部101aが被加工物20から離れた瞬間に電流が流れなくなる。しがって、接触検出部111により検出される電流値に基づいて接触時間を測定する場合には、接触時間の測定の精度を向上させることができる。
【0054】
次に、接触時間比演算部112により演算される接触時間比、偏位量演算部113により演算される偏位量、および、接触位置演算部114により演算される加工開始位置について説明する。
【0055】
図9は、接触時間比、偏位量、および、加工開始位置を説明するための図である。
図9(a)には、接触球部101aが接触位置X1で被加工物20に接触する場合の偏位量Fと、接触位置X1との関係が示される。
図9(b)には、接触球部101aが接触位置X2で被加工物20に接触する場合の偏位量Fと、接触位置X2との関係が示される。
【0056】
接触時間比Rは、モータ11の回転軸の回転の1周期の時間中において接触球部101aが被加工物20に接触した時間の割合である。接触時間比Rは、下記(式1)のように定義される。下記(式1)において「接触時間+非接触時間」は、回転の周期に相当する。下記(式1)において「接触時間+非接触時間」は回転の1周期に相当する。
【0057】
「接触時間比R」=「接触時間」/「接触時間+非接触時間」…(式1)
接触時間比演算部112では、接触位置X1の接触時間比が、前記(式1)により接触時間比R1として演算される。接触時間比演算部112では、接触位置X2の接触時間比は、前記(式1)により接触時間比R2として演算される。
【0058】
図9(a)に示されるように、接触位置X1において、接触球部101aが被加工物20への接触を開始する位置Aから接触球部101aが被加工物20への接触を終了する位置Cに至るまでにモータ11の回転軸が回転する角度Φ1は、下記(式2)の角度Φ(ラジアン角度Φ)のように定義される。
図9(b)に示されるように、接触位置X2において、接触球部101aが被加工物20への接触を開始する位置Kから接触球部101aが被加工物20への接触を終了する位置Mに至るまでにモータ11の回転軸が回転する角度Φ2は、下記(式2)の(ラジアン単位の角度Φ)ように定義される。
【0059】
Φ=2πR…(式2)
前記(式2)は、角度Φが、2π(=360度)に接触時間比Rを乗じて得られる角度であることを示している。接触位置X1についての角度Φ1は、「Φ1=2π×R1」で演算される。接触位置X2についての角度Φ2は、「Φ2=2π×R2」で演算される。
【0060】
図9(a)に示すように、接触前の時点での偏位量Fは、接触位置X1での接触球部101aの最大変形状態で最小偏位量H1まで減少する。
図9(b)に示すように、接触前の時点での偏位量Fは、接触位置X2での接触球部101aの最大変形状態で最小偏位量H2まで減少する。よって、
図9(a)の接触位置X1での最小偏位量H1は三角関数に基づいて下記(式3)で定義される。
図9(b)の接触位置X2での最小偏位量H2は三角関数に基づいて下記(式4)で定義される。
【0061】
H1=F×COS(2π×R1/2)…(式3)
H2=F×COS(2π×R2/2)…(式4)
図9(a),(b)に示すように、最小偏位量H1,H2と、接触位置X1,X2との関係は、下記(式5)で定義される。
【0062】
X1-X2=H1-H2…(式5)
前記(式5)を前記(式3)および前記(式4)に代入し、前記(式3)および前記(式4)の関係に基づけば、接触位置X1および接触時間比R1と、接触位置X2および接触時間比R2とから偏位量Fを演算する下記(式6)が導き出せる。
【0063】
F=(X1-X2)/[COS(π×R1)-COS(π×R2)]…(式6)
偏位量演算部113では、前記(式6)を用いて、接触位置X1および接触時間比R1と、接触位置X2および接触時間比R2とから偏位量Fが演算される。
【0064】
[回転工具10に関する位置を測定する処理およびロープ溝を加工する処理]
次に、工具位置測定装置100により回転工具10に関する位置を測定する処理、および、ロープ溝加工装置7により工具位置測定装置100による回転工具10に関する位置の測定結果に基づいて被加工物20を加工する処理を説明する。
【0065】
図10は、工具位置測定装置100により回転工具10に関する位置を測定する処理およびロープ溝加工装置7により被加工物20を加工する処理を示すフローチャートである。
図10のフローチャートに示す処理は、例えば制御装置121により実行される。また、
図10においては、作業者により実行されるステップが破線により記載されている。
【0066】
まず、作業者が回転工具10の柄部10bに測定子101のホルダ部101cを固定することにより、測定子101が回転工具10に取り付けられる(ステップS0)。測定子101は、測定子101における接触球軸部101bの回転軸が、回転工具10における柄部10bの回転軸17と同軸となるように回転工具10に取り付けられる。
【0067】
ステップS1においては、制御装置121により、モータ11を回転させることに応じて、回転工具10に取り付けられた測定子101を回転させる処理を行う。これにより、前述のような偏位量Fが存在する場合には、回転工具10における柄部10bの回転軸17が、モータ11の回転軸16に対して偏位量Fで偏位した状態で回転する。
【0068】
ステップS2においては、制御装置121により、可動支持部13を駆動して、測定子101の接触球部101aを移動させて被加工物20にわずかに接触させる処理を行う。例えば、
図7(b)の接触位置X1のような位置となるように接触球部101aを移動させる。測定子101は、偏位量Fがあると、接触球部101aが1回転の周期中に被加工物20に対して接触と非接触とを繰り返す。
【0069】
ステップS3においては、接触検出部111により、測定子101と被加工物20とに電位差を与え、接触状態を電流信号に変換する処理を行うことにより、被加工物20への測定子101の接触を検出する処理を行う。ステップS4においては、接触時間比演算部112により、接触検出部111からの信号によってタイマーを起動して接触時間と非接触時間とを計測し、前記(式1)を用いて、接触時間比R1を算出する演算をする処理を行う。
【0070】
ステップS5においては、偏位量演算部113により、接触時間比演算部112で演算された接触時間比R1のデータを接触時間比演算部112から収集するとともに、制御装置121での制御情報に基づく接触位置X1のデータを制御装置121から収集する処理を行う。ステップS6においては、制御装置121により、可動支持部13を駆動して測定子101を被加工物20に向けて移動させる。具体的には、測定子101の接触球部101aを被加工物20に対して微少量だけ近づける。この微少量は想定される偏位量Fの半分程度が好ましい。
【0071】
ステップS7においては、接触検出部111により、測定子101と被加工物20とに電位差を与え、接触状態を電流信号に変換する処理を行うことにより、被加工物20への測定子101の接触を検出する処理を行う。ステップS8においては、接触時間比演算部112により、接触検出部111からの信号によってタイマーを起動して接触時間と非接触時間とを計測し、前記(式1)を用いて、接触時間比R2を算出する演算をする処理を行う。
【0072】
ステップS9においては、偏位量演算部113により、接触時間比演算部112で演算された接触時間比R2のデータを接触時間比演算部112から収集するとともに、制御装置121での制御情報に基づく接触位置X2のデータを制御装置121から収集する処理を行う。
【0073】
ステップS10においては、偏位量演算部113により、前記(式6)を用いて、接触位置X1および接触時間比R1と、接触位置X2および接触時間比R2とから偏位量Fを算出する演算をする処理を行う。
【0074】
ステップS11においては、接触位置演算部114により、偏位量演算部113で演算された偏位量Fと、予め設定された接触球部101aの半径srとに基づいて、モータ11の回転軸16の位置を基準とした被加工物20の位置「sr+F」を算出する演算をする処理を行う。ステップS12においては、接触位置演算部114により、偏位量演算部113で演算された偏位量Fと、予め設定された刃部10aの半径rとに基づいて、モータ11の回転軸16の位置を基準とした刃部10aの位置、すなわち、被加工物20の加工開始位置「r+F」を算出する演算をする処理を行う。
【0075】
ステップS11において演算されたモータ11の回転軸16の位置を基準とした被加工物20の位置「sr+F」のデータ、および、ステップS12において演算されたモータ11の回転軸16の位置を基準とした刃部10aの位置、すなわち、被加工物20の加工開始位置「r+F」のデータは、制御装置121に入力される。
【0076】
その後、作業者が回転工具10の柄部10bから測定子101のホルダ部101cを取り外すことにより、測定子101が回転工具10から取り外される(ステップSA0)。
【0077】
ステップSA1においては、制御装置121により、モータ11を駆動して回転工具10を回転させ、ステップS12において演算されたモータ11の回転軸16の位置を基準とした刃部10aの位置、すなわち、被加工物20の加工開始位置「r+F」のデータに基づいて、加工開始位置「r+F」から被加工物20に対する加工の実行を開始させる処理を行う。
【0078】
以上に説明したような回転工具10に関する位置を測定する処理は、基本的に、制御装置121により実行が管理されてよい。また、以上に説明したような回転工具10に関する位置を測定する処理は、工具位置測定装置100に制御部を設け、当該制御部により実行が管理されてもよい。
【0079】
[実施の形態の変形例]
なお、工具位置測定装置100は、ロープ溝加工装置7と一体的に設けられてもよく、別体で設けられてもよい。工具位置測定装置100は、ロープ溝加工装置7に組み込まれた装置として備えられてもよく、ロープ溝加工装置7とは別の装置として備えられ、回転工具10に関する位置を測定する場合にロープ溝加工装置7に接続されるものであってもよい。
【0080】
また、測定子101の取り付け、および、取り外しは、作業者が手動により行うものではなく、ロープ溝加工装置7において、測定子101の取り付け動作、および、取り外し動作を実行するアクチュエータを備え、制御装置121によって、測定子101を取り付ける動作を実行する制御と、測定子101を取り外す動作を実行する制御とが自動的に実行されるようにしてもよい。
【0081】
また、工具位置測定装置100による回転工具に関する位置の測定対象となる加工装置は、ロープ溝を加工する装置に限らず、その他の加工装置であってもよい。被加工物は、駆動綱車4およびそらせ車6以外の被加工物であってもよい。
【0082】
また、回転工具10が導電性を有する場合は、測定子101を用いなくても、測定子101の代わりに回転工具10の刃部10aを用いて前述のような測定方法により回転工具10に関する位置の測定をすることが可能である。しかし、回転工具10の刃部10aは、表面に加工用の凹凸が形成されており、真の球形とは見なせない。これに対し、球形の接触球部101aを含む測定子101を用いて回転工具10に関する位置の測定をする場合は、接触球部101aが工具として用られないので、接触球部101aを真の球形とすることができる。そのようにした場合は、導電性の回転工具10を用いて回転工具10の位置測定をする場合と比べて、回転工具10に関する位置の測定精度を高くすることができる。接触球部101aは、真球性の精度が高い程、測定精度を高くすることができる。接触球部101aは、面粗度が低い程、測定精度を高くすることができる。
【0083】
また、前述したような測定子101および被加工物への通電は、既存の方法で容易に実現される。例えば、測定子101にスリップリングを使用することにより通電する方法、または、モータ取付板12を絶縁化することによりモータ11を介して測定子101に通電する方法等、種々の方法で通電すればよい。
【0084】
また、この実施の形態では、測定子101は、偏位量Fを正確に測定するために、被加工物20に接触した場合に、変形することが可能となるように弾性を有している。測定子101が弾性により変形する部分は、前述したような接触球軸部101bであってもよく、ホルダ部101cでもよい。また、測定子101が弾性により変形する部分は、前述したような接触球軸部101bおよびホルダ部101cの両方であってもよい。
【0085】
また、測定子101の剛性は、「10gf/偏位量F」程度の大きさが適当である。このような剛性であれば、被加工物20および工具位置測定装置100におけるその他の部品の変形量は0.001mm以下に設計することが可能である。測定子101の剛性をこのような剛性に設定すれば、測定子101の剛性が偏位量F測定に悪影響を及ぼさないようにすることができる。
【0086】
[実施の形態のまとめ]
以上説明した実施の形態について、再び図面を参照して説明する。
【0087】
本開示のある局面に従うと、本開示は、駆動源であるモータ11の回転軸に取り付けられる軸部としての柄部10bと当該柄部10bの回転に従って回転する加工部としての刃部10aとを備える回転工具10に関する位置を測定する工具位置測定装置100に関する。工具位置測定装置100は、被加工物20に接触させる接触部としての接触球部101aを含み、測定対象の回転工具10における刃部10aの先端側の位置で当該接触球部101aが測定対象の回転工具10における柄部10bに対して同軸で回転するように取付け可能である導電性の測定子101と、測定子101における接触球部101aが被加工物20に接触したか否かを検出する検出部としての接触検出部111と、回転工具10が回転している間の接触検出部111の検出結果に基づいて、接触球部101aが被加工物20に接触した接触時間と、接触球部101aが被加工物20に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比である接触時間比R1,R2を演算する演算部である接触時間比演算部112を備える。
【0088】
このような構成とすることによって、導電性の測定子101における接触球部101aが被加工物20に接触したか否かを接触検出部111によって検出し、回転工具10が回転している間の接触検出部111の検出結果に基づいて、接触球部101aが被加工物20に接触した接触時間と、接触球部101aが被加工物20に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比である接触時間比R1,R2を接触時間比演算部112によって演算することにより、モータ11における回転軸16の軸心に対する回転工具10における柄部10bの偏位量を演算することができる。これにより、回転工具10に関する位置の測定精度を向上させることができる。また、このような構成とすることによって、導電性の測定子101における接触球部101aが被加工物20に接触したか否かを検出することに基づいて、モータ11における回転軸16の軸心に対する回転工具10における柄部10bの軸心の偏位量を演算することができるので、砥石工具のような導電性がない回転工具についても、回転工具に関する位置の測定精度を向上させることができる。
【0089】
好ましくは、測定子101における接触球部101aは、球形状であり、耐摩耗性処理が施されている。このような構成とすることによって、接触球部101aは、回転工具10に関する位置の測定時において、被加工物20との接触による摩耗が少なくなる。これにより、接触球部101aは、回転工具10に関する位置の測定を繰り返しても、耐摩耗性処理が施されていない場合と比べて、測定結果の再現性が高くなるようにすることができる。
【0090】
より好ましくは、接触検出部111は、接触球部101aと被加工物20とが接触した場合の通電を検出することに基づいて接触検出部111が被加工物20に接触したことを検出する。このような構成とすることによって、接触球部101aが被加工物20に接触した瞬間に電流が流れ、接触球部101aが被加工物20から離れた瞬間に電流が流れなくなる。しがって、接触検出部111により検出される電流値に基づいて接触時間を測定する場合には、接触時間の測定の精度を向上させることができる。
【0091】
本開示の他の局面に従うと、本開示は、駆動源であるモータ11の回転軸に取付けられる軸部としての柄部10bと当該軸部の回転に従って回転する加工部としての刃部10aとを備える回転工具10を測定対象として、被加工物20に接触させる接触部としての接触球部101aを含み測定対象の回転工具10における刃部10aの先端側の位置で当該刃部10aが測定対象の回転工具10における柄部10bに対して同軸で回転するように導電性の測定子101を取り付け、接触球部101aが被加工物20に接触したか否かを検出部としての接触検出部111により検出することに基づき、当該回転工具10に関する位置を測定する工具位置測定方法に関する。工具位置測定方法は、回転工具を回転させるステップS1と、第1移動位置である接触位置X1における回転工具10について、接触検出部111の検出結果に基づいて、接触球部101aが被加工物20に接触した接触時間と、接触球部101aが被加工物20に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比である接触時間比R1を演算するステップS4と、第2移動位置である接触位置X2における回転工具10について、接触検出部111の検出結果に基づいて、接触球部101aが被加工物20に接触した接触時間と、接触球部101aが被加工物に接触しなかった非接触時間との合計時間に対する当該接触時間の比である接触時間比R2を演算するステップS8と、接触位置X1および接触位置X2と、接触位置X1での回転工具10について演算された接触時間比R1、および、接触位置X2での回転工具10について演算された接触時間比R2とに基づいて、モータ11の回転軸の軸心に対する柄部10bの軸心の偏位量を演算するステップS10とを備える。
【0092】
このような構成とすることによって、導電性の測定子101における接触球部101aが被加工物20に接触したか否かを検出する接触検出部111の検出結果に基づいて、接触位置X1における接触時間比R1を演算するとともに、接触位置X2における接触時間比R2を演算し、接触位置X1および接触位置X2と、接触時間比R1および接触時間比R2とに基づいて、モータ11の回転軸の軸心に対する柄部10bの軸心の偏位量が演算されるので、回転工具10に関する位置の測定精度を向上させることができる。
【0093】
より好ましくは、回転工具10における柄部10bに測定子101を取付けた後、回転工具10を回転させるステップS1を実行する。このような構成とすることによって、砥石工具のような導電性がない回転工具についても、モータ11における回転軸16の軸心に対する回転工具10における柄部10bの偏位量、および、被加工物20に対する回転工具に関する位置の測定精度を向上させることができる。
【0094】
より好ましくは、モータ11の回転軸の軸心に対する柄部10bの軸心の偏位量を演算するステップS10は、接触位置X1での接触時間比R1と、接触位置X2での接触時間比R2とに基づいて、柄部10bの軸心の偏位量Fを以下の演算式により演算する。
【0095】
F=(X1-X2)/[COS(π×R1)-COS(π×R2)]
このような構成とすることによって、モータ11における回転軸16の軸心に対する回転工具10における柄部10bの偏位量の測定精度を向上させることができる。
【0096】
本開示の他の局面に従うと、本開示は、前述の接触検出部111の検出結果に基づいて得られる回転工具10に関する測定位置に基づいて、ステップSA1により、被加工物20に形成された溝を加工する。このような構成とすることによって被加工物20を加工する溝形状精度を向上させることができる。
【0097】
本開示の他の局面に従うと、本開示は、前述のステップS10において演算された偏位量の演算結果に基づいて得られる回転工具10に関する測定位置に基づいて、被加工物に形成された溝を加工するステップSA1を備えた。このような構成とすることによって被加工物20を加工する溝形状精度を向上させることができる。
【0098】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0099】
100 工具位置測定装置、11 モータ、16 回転軸、10b 柄部、10a 刃部、10 回転工具、20 被加工物、4 駆動綱車、6 そらせ車、20h ロープ溝、101a 接触球部[接触部]、101 測定子、111 接触検出部[検出部]、112 接触時間比演算部[検出部]。