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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】結合能力評価装置及び結合能力評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/82 20060101AFI20240705BHJP
【FI】
G01N21/82
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021150801
(22)【出願日】2021-09-16
(65)【公開番号】P2023043284
(43)【公開日】2023-03-29
【審査請求日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/超高感度センサシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-130511(JP,A)
【文献】特開2011-069839(JP,A)
【文献】特開2010-160167(JP,A)
【文献】特表2010-525334(JP,A)
【文献】特開平03-266997(JP,A)
【文献】特開2011-153964(JP,A)
【文献】国際公開第2021/009090(WO,A1)
【文献】特開2009-150799(JP,A)
【文献】特開2011-237342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 33/48-G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の物質と、前記第1の物質よりも水との親和性が高く、前記第1の物質を捕捉可能な第2の物質とを含む第1の溶液が投入される第1の溶液タンクと、
水を主成分とする第2の溶液が投入される第2の溶液タンクと、
前記第1の溶液タンクから前記第2の溶液タンクへ前記第1の溶液を制御された速度で供給する溶液供給装置と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とが混合された前記第2の溶液タンク内の第3の溶液を撹拌する撹拌装置と、
前記第3の溶液に光を照射する光照射装置と、
前記第3の溶液を透過した光を受光する受光装置と、
前記受光装置が受光した光の強度から光透過率を計測する光透過率計測装置と、
前記光透過率が低下し始めたことから、前記第1の物質が一定量の前記第2の溶液中に過飽和量投入されたことを検出する演算装置と、
を備え結合能力評価装置。
【請求項2】
前記第1の溶液の前記第2の溶液中への供給量、及び、前記第1の溶液から前記第2の物質を除去した第4の溶液の前記第2の溶液中への供給量を記録する第1の溶液供給量記録装置をさらに備え、
前記演算装置は、
前記光透過率が低下し始めたときの前記第1の溶液の前記第2の溶液中への供給量から前記第1の物質の前記第2の溶液に対する濃度Xを算出
前記光透過率が低下し始めたときの前記第4の溶液の前記第2の溶液中への供給量から前記第1の物質の前記第2の溶液に対する濃度xを算出
前記Xおよびx、並びに前記第1の溶液に混合した前記第2の物質の前記第1の物質に対するモル当量比率αから、式(1)
【数1】

の計算式を用いて、前記第2の溶液中での前記第1の物質と前記第2の物質との解離定数Kdを算出する請求項1に記載の結合能力評価装置。
【請求項3】
前記モル当量比率αが1である請求項2に記載の結合能力評価装置。
【請求項4】
第1の物質と、前記第1の物質よりも水との親和性が高く、前記第1の物質を捕捉可能な第2の物質とを1:αのモル当量比で含む第1の溶液を、制御された速度で、水を主成分とする第2の溶液に供給し、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とが混合された第3の溶液に光を照射し、前記第3の溶液を透過した光の強度から第1の光透過率を計測し、
前記第1の光透過率が低下し始めたことから、前記第1の物質が一定量の前記第2の溶液中に過飽和量投入されたことを検出し、
前記第1の光透過率が低下し始めたときの前記第1の溶液の前記第2の溶液中への供給量から前記第1の物質の前記第2の溶液に対する濃度Xを算出すること、
を含む第1の工程と、
前記第1の溶液から前記第2の物質を除去したの溶液を、制御された速度で、水を主成分とする第2の溶液に供給し、
前記第の溶液と前記第2の溶液とが混合された第の溶液に光を照射し、前記第の溶液を透過した光の強度から第2の光透過率を計測し、
前記第2の光透過率が低下し始めたことから、前記第1の物質が一定量の前記第2の溶液中に過飽和量投入されたことを検出し、
前記第2の光透過率が低下し始めたときの前記第の溶液の前記第2の溶液中への供給量から前記第1の物質の前記第2の溶液に対する濃度xを算出すること、
を含む第2の工程と、
を備え、
前記α、X、xより、式(1)
【数1】

を用いて、前記第2の溶液中での前記第1の物質と前記第2の物質との解離定数Kdを算出する結合能力評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、結合能力評価装置及び結合能力評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、補足分子とリガンドとの結合能力の評価には、SPR(Surface Plasmon Resonance)、QCM(Quartz Crystal Microbalance)、ITC(Isothermal Titration Calorimetry)、ナノDSC(Differential Scanning Calorimetry)などの方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-47037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、水を主成分とする溶液中での疎水性物質と親水性物質との結合能力を評価する新規な結合能力評価装置及び結合能力評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、結合能力評価装置は、第1の物質と、前記第1の物質よりも水との親和性が高く、前記第1の物質を捕捉可能な第2の物質とを含む第1の溶液が投入される第1の溶液タンクと、水を主成分とする第2の溶液が投入される第2の溶液タンクと、前記第1の溶液タンクから前記第2の溶液タンクへ前記第1の溶液を制御された速度で供給する溶液供給装置と、前記第1の溶液と前記第2の溶液とが混合された前記第2の溶液タンク内の第3の溶液を撹拌する撹拌装置と、前記第3の溶液に光を照射する光照射装置と、前記第3の溶液を透過した光を受光する受光装置と、前記受光装置が受光した光の強度から光透過率を計測する光透過率計測装置と、前記光透過率が低下し始めたことから、前記第1の物質が一定量の前記第2の溶液中に過飽和量投入されたことを検出する演算装置と、を備え
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態の結合能力評価装置の概略構成図である。
図2】本発明の他の実施形態の結合能力評価装置の概略構成図である。
図3】本発明の一実施形態による計算結果を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による計算結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。なお、各図面中、同じ構成には同じ符号を付している。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態の結合能力評価装置の概略構成図である。
【0009】
実施形態の結合能力評価装置は、第1の溶液タンク11と第2の溶液タンク12とを有する。第1の溶液タンク11には、疎水性物質と、疎水性物質よりも水との親和性が高い親水性物質とを含む第1の溶液が投入される。疎水性物質として、例えば、リモネンを挙げることができる。親水性物質として、例えば、特定のアミノ酸配列を持ったペプチドを挙げることができる。第2の溶液タンク12には、水を主成分とする第2の溶液が投入される。
【0010】
第1の溶液タンク11と第2の溶液タンク12とは配管13で接続されている。配管13には、バルブ14と、溶液供給装置15が接続されている。バルブ14は、配管13内の流路を開閉する。溶液供給装置15は、第1の溶液タンク11から、第1の溶液を制御された速度(一定流量)で、第2の溶液タンク12へ供給する。溶液供給装置15は、例えば、ポンプを含む。
【0011】
第2の溶液タンク12には、第2の溶液タンク12内で第1の溶液と第2の溶液とが混合された第3の溶液を撹拌する撹拌装置16が設けられている。
【0012】
実施形態の結合能力評価装置は、さらに、光照射装置17と、受光装置18と、光透過率計測装置19とを有する。光照射装置17は、第2の溶液タンク12内の第3の溶液に光を照射する。受光装置18は、第3の溶液を透過した光を受光する。光透過率計測装置19は、受光装置18が受光した光の強度から光透過率(吸光率)を計測する。光透過率は、光照射装置17からの光が第3の溶液を透過する割合である。吸光率は、光照射装置17からの光が第3の溶液で吸収される割合である。
【0013】
実施形態の結合能力評価装置は、さらに、第1の溶液供給量記録装置21と、演算装置22と、条件入力装置23とを有する。
【0014】
第1の溶液供給量記録装置21は、透過率計測装置19によって計測される光透過率が、予め設定された閾値になったときにおける、第2の溶液タンク12への第1の溶液の供給量を記録する。
【0015】
条件入力装置23は、第2の溶液タンク12内への第2の溶液の投入量、第1の溶液における疎水性物質と親水性物質との混合比率などの情報を演算装置22に入力する。
【0016】
演算装置22は、第1の溶液供給量記録装置21及び条件入力装置23からの情報に基づいて、第1の溶液中での疎水性物質と親水性物質との解離定数を算出する。
【0017】
第2の溶液タンク12内にある第3の溶液に光を照射する構成に限らず、図2に示すように、フローセル26内の第3の溶液に光を照射する構成とすることもできる。
【0018】
第2の溶液タンク12とフローセル26とは、配管24、27により接続されている。フローセル26の容量は、第2の溶液タンク12の容量よりも小さい。例えば、配管24にはポンプ25が接続されている。ポンプ25の駆動により、第2の溶液タンク12内の第3の溶液は配管24を通じてフローセル26に供給され、さらにフローセル26から配管27を通じて第2の溶液タンク12内に戻される。すなわち、第3の溶液は、第2の溶液タンク12とフローセル26との間を循環する。
【0019】
水を主成分とする水溶液中に溶解しにくい疎水性物質(リガンド)を水溶液中において親水性物質(プローブ分子)で捕捉すると、疎水性物質は水溶液中に溶解しやすくなる。プローブ分子のリガンドに対する結合能力の評価には、SPR、QCM、ITC、ナノDSCなどの方法が用いられることが一般的であるが、リガンドが疎水性物質の場合には、水溶液中に高濃度に溶解できないため、測定が困難であり、精度にも疑問が残ってしまう。具体的には、疎水性物質を溶解するために、有機溶媒を混合した水溶液が用いられるが、有機溶媒が介在すると疎水性相互作用が弱まってしまうため、多くの疎水性リガンドがプローブ分子との結合の駆動力としている疎水性相互作用の影響を過小評価してしまうことになる。そこで、有機溶媒の混合比率を出来るだけ低減することになるが、その結果リガンドの濃度が低くなってしまい、測定感度が低くなってしまう問題がある。さらに上記従来技術は、リガンドの捕捉に伴う誘電率の変化、質量の変化、熱量の変化などを読み取る方式であるため、リガンドとプローブ分子との結合力が低い場合には、それらの変化が小さく測定が難しかった。
【0020】
本発明の実施形態によれば、水溶液中で溶解できずに分離析出した疎水性物質が光散乱を起こす現象を、光透過率が低下(吸光率が上昇)として検出することにより、疎水性物質が水溶液中で過飽和となったことを検出する。なお、ここでは一般的な呼称に合わせて吸光度という用語を用いているが、正確には上記説明の通り、吸光しているわけではなくて散乱しているだけである。
【0021】
ここで疎水性物質(リガンド)を捕捉する親水性のプローブ分子が混在していると、一定量の疎水性リガンドは親水性プローブ分子に捕捉されるため、水溶液中には親水性プローブ分子が捕捉しきれなかった疎水性リガンドだけが遊離した状態となっており、疎水性物質の溶解度が見掛け上高くなる。この際の溶解度の上昇は、元々の疎水性物質の水中への溶解度と、疎水性物質と親水性プローブ分子との解離定数と、疎水性物質と親水性プローブ分子の配合比率によって決定される。
【0022】
ここで、元々の疎水性物質の水中への溶解度は、光透過率(吸光度)の検出から計測することが可能であり、疎水性物質と親水性プローブ分子の配合比率は設定事項であるため、疎水性物質と親水性プローブ分子の解離定数を計算することが出来る。
【0023】
解離定数の算出方法の詳細は、後述において詳細に説明するが、以下の式(1)を用いればよい。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、Kdは疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数、xは疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度、αは第1の溶液の疎水性リガンドと親水性プローブ分子の混合比を1:αとした際のα値、Xは第1の溶液中の疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度、である。
【0026】
これにより、水溶液中での疎水性物質と親水性プローブ分子との結合能力を評価することが可能になる。
【0027】
<第1の工程>
図1または図2に示す装置において、第1の溶液タンク11には、混合比率を所定比率に設定された疎水性物質と親水性物質とを含む第1の溶液が投入される。第2の溶液タンク12には、投入量を所定量に設定された、水を主成分として含む第2の溶液が投入される。
【0028】
バルブ14を開いて、溶液供給装置15を駆動することで、第1の溶液タンク11から、第1の溶液が一定流量で第2の溶液タンク12へと供給される。第2の溶液タンク12への第1の溶液の供給を続けている間、第2の溶液タンク12内においては、一定量の第2の溶液に対して、第1の溶液の量(親水性物質の量及び疎水性物質の量)が増えていく。
【0029】
第2の溶液タンク12内またはフローセル26内の第1の溶液と第2の溶液との混合溶液(第3の溶液)に対して光照射装置17から光が照射される。受光装置18は、第3の溶液中を透過した光を受光する。光透過率計測装置19は、受光装置18が受光した光の強度から光透過率(吸光率)を計測する。この光透過率(吸光率)から、疎水性物質が第2の溶液中で過飽和になったことを検出することができる。
【0030】
第2の溶液タンク12内において、一定量の第2の溶液に対して第1の溶液の供給量が増えていくと、親水性物質に結合されない疎水性物質が第2の溶液中で遊離する量が増え、第3の溶液が濁ってくる。すなわち、第2の溶液タンク12内において、一定量の第2の溶液に対して第1の溶液の供給量が増えていくと、光透過率が減衰していく(または、吸光率が上がっていく)。例えば、予め光透過率(吸光率)に閾値を設定しておき、光透過率(吸光率)が閾値に達することで、疎水性物質が第2の溶液中で過飽和になったことを検出することができる。
【0031】
<第2の工程>
次に、第1の溶液タンク11に、前記親水性物質を含まない第1の溶液を投入する。第2の溶液タンク12には、投入量を所定量に設定された、水を主成分として含む第2の溶液が第1の工程と同様に投入されている。
【0032】
次に、第1の工程と同様にバルブ14を開いて、溶液供給装置15を駆動することで、第1の溶液タンク11から、第1の溶液が一定流量で第2の溶液タンク12へと供給し、光透過率(吸光度)の計測により、第1の溶液、すなわち疎水性物質の、第2の溶液中への溶解度を算出する。
【0033】
ここで疎水性物質が固体や高粘度液体であって、溶液としての供給が困難な場合においては、親水性の有機溶媒で希釈したものを第1の溶液として用いることができる。疎水性物質の第2の溶液中への溶解度が小さすぎることにより、添加量が微量でありすぎて、溶液としての供給が困難な場合においても、同様に親水性の有機溶媒で希釈したものを第1の溶液として用いることができる。親水性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどを用いることが出来る。
【0034】
なお、親水性の有機溶媒と疎水性物質との間の結合力は、疎水性物質と親水性プローブ分子との結合力に比べると桁違いに弱いため、親水性有機溶媒の混在による測定誤差は実用上無視可能であるが、より正確な評価を行いたい場合には、予め親水性有機溶媒を用いずに、疎水性物質を直接第2の溶液へ溶解したもので、光透過率(吸光度)の測定によって溶解度を求めて、本実施形態の疎水性リガンドと親水性プローブ分子の解離定数評価と同様の算出方法で解離定数を求めて、実験結果を補正することも可能である。
【0035】
なお、第1の溶液タンク11に投入される第1の溶液における、疎水性リガンドと親水性プローブ分子との混合比率(疎水性リガンド:親水性プローブ分子)は、後述のように、モル分率で1:1が最も好ましい。さらに、混合比率の精度は2%以内の範囲であることが望ましく、0.3%以内であればより好ましい。
【0036】
以下、上記第1の工程及び第2の工程における測定結果から解離定数が算出できる理由と、その算出方法に関して、数式と図3図5を用いて説明する。
【0037】
まず、解離定数とは、結合能力を示す値であり、下記式(2)で定義されるものである。単位は濃度であり、どれだけ低濃度まで結合し続けられるかを示す指標でもある。したがって、解離定数は小さい方がより結合能力が高いことを示している。
【0038】
Kd=[L][P]/[LP] ・・・・・(2)
ここで、Kdは解離定数(mol/L)、[L]は遊離リガンドの濃度(mol/L)、[P]は遊離プローブ分子の濃度(mol/L)、[LP]はリガンドとプローブ分子の会合体の濃度(mol/L)を示す。また式(2)はリガンドとプローブが1:1で会合することを前提した式になっており、プローブ分子の複数個所にリガンドが会合するような場合には、もう少し複雑な式となる。今回は、低分子化合物同士の会合において一般的である1:1の会合に関して説明する。
【0039】
第1の溶液タンク11に投入される第1の溶液における、疎水性リガンドと親水性プローブ分子との混合比率を、疎水性リガンド:親水性プローブ分子=1:α(モル当量比)とする。
【0040】
さらに、第2の溶液タンク12内の、水を主成分として含む第2の溶液に対する、疎水性リガンドの溶解度がx(mol/L)であって、前記比率で疎水性リガンドと親水性プローブ分子が混合した第1の溶液が、前記第2の溶液中で光透過率の減少(吸光度の増加)を起こす直前における疎水性リガンドの投入濃度がX(mol/L)と計測された場合、解離定数の式(2)は以下のように変形される。
【0041】
まず、光透過率(吸光度)の変化が始まるということは、第2の溶液中に遊離している疎水性リガンドの濃度は、溶解度限界まで高まっていることを示しており、
[L]=x ・・・・・(3)となっている。
【0042】
実際に第2の溶液中に投入している疎水性リガンドの濃度は、X(mol/L)であり、x(mol/L)より多く投入できた分は、親水性プローブ分子に会合している。従って、この際の疎水性リガンドと親水性プローブ分子との会合体の濃度は、
[LP]=X-x ・・・・・(4)となっている。
【0043】
さらに、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の混合比率が1:αであることから、親水性プローブの投入濃度は、Xα(mol/L)であり、このうちの式(4)分の濃度が会合体となっているため、遊離している親水性プローブ分子の濃度は、
Xα-(X-x) ・・・・・(5)となっている。
【0044】
ここで、式(3)~(5)を、式(2)に代入すれば、上記式(1)となる。
【0045】
疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度x(mol/L)と、第1の溶液における疎水性リガンドと親水性プローブ分子の混合比1:αと、第1の溶液中の疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度X(mol/L)が分かれば、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数Kdが算出できることになる。
【0046】
次に、図3について説明する。
図3は、疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度を仮に2mM(0.002mol/L)と仮定してみて、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数と、第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率と、第1の溶液中の疎水性リガンドが第2の溶液中で過飽和となる濃度の関係を、上記計算式から算出した結果を示す。
【0047】
横軸は、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数である。縦軸は、第1の溶液中の疎水性リガンドが第1の溶液中で過飽和となる濃度である。第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率を変更した際の計算結果を複数の線で図中にプロットしている。
【0048】
第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率が1:1の際には、全ての解離定数において、直線となっており、一定の傾き、すなわち検出感度を持っている。
【0049】
一方、第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率が1:αのα値が1以上の際には、傾きは大きい、すなわち感度は高いものの、解離定数が低くなるに従って急激に立ち上がってしまい、α値の精度に対する誤差が増大してしまうことが分かる。
【0050】
その一方で、第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率が1:αのα値が1以下の際には、解離定数が低くなるに従って、傾きが緩やかになってきており、感度を得るためには、α値をより1に近づけなければならない、すなわち混合比率の精度をより高めなればならないことが分かる。
【0051】
例えば、解離定数が10μmol/Lの場合には、前記混合比率のα値を0.999以上1.002以下の範囲(すなわち混合精度を0.3%の範囲)に収めれば、r1で示す網掛けの範囲(4μmol/L以上17μmol/L以下)の測定誤差で解離定数評価が可能となる。
【0052】
ところが、解離定数が1μmol/Lの場合には、前記混合比率の範囲ではr2で示す網掛けの大きな誤差範囲でしか測定できない。具体的には、解離定数が5~7μmol/L以下であることしか分からない。
【0053】
それに対し、解離定数が100μmol/Lの場合には、前記混合比率のα値の精度を0.99以上1.01以下の範囲(すなわち混合精度を2%の範囲)まで許容したとしても、r3で示す網掛けの範囲(55μmol/L以上150μmol/L以下)の測定誤差で解離定数評価が可能となる。
【0054】
すなわち、本発明の実施形態の結合能力測定技術を用いれば、従来技術が不得手としていた弱い結合能力しか持たない場合の解離定数を評価することが出来る。
【0055】
次に、図4について説明する。
図4は、疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度が図3の場合の10倍の20mM(0.02mol/L)と仮定した場合の、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数と、第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率と、第1の溶液中の疎水性リガンドが第2の溶液中で過飽和となる濃度の関係を、前記計算式から算出した結果を示す。
【0056】
例えば、解離定数が10μmol/Lの場合には、前記混合比率のα値を0.999以上1.002以下の範囲(すなわち混合精度を0.3%の範囲)に収めたとしても、r1で示す網掛けの広い範囲まで測定誤差が広がってしまう。具体的には、解離定数が40~70μmol/L以下であることしか分からない。
【0057】
解離定数が100μmol/Lの場合には、前記混合比率のα値を0.999以上1.002以下の範囲(すなわち混合精度を0.3%の範囲)に収めれば、r3で示す網掛けの範囲(50μmol/L以上170μmol/L以下)の測定誤差で解離定数評価が可能となる。
【0058】
しかしながら、図3の計算結果に比べると、検出感度が略一桁劣化していることが分かる。
【0059】
次に、図5について説明する。
図5は、疎水性リガンドの第2の溶液への溶解度が0.2mM(0.0002mol/L)と仮定した場合の、疎水性リガンドと親水性プローブ分子の第2の溶液中での解離定数と、第1の溶液中の疎水性リガンド:親水性プローブ分子比率と、第1の溶液中の疎水性リガンドが第2の溶液中で過飽和となる濃度の関係を、前記計算式から算出した結果を示す。
【0060】
この溶解度条件においては、解離定数が1μmol/Lであっても、計測が可能である。すなわち、前記混合比率のα値を0.999以上1.002以下の範囲(すなわち混合精度を0.3%の範囲)に収めれば、r2で示す網掛けの範囲(0.4μmol/L以上1.7μmol/L以下)の測定誤差で解離定数評価が可能である。
【0061】
さらに、解離定数が10μmol/Lの場合には、前記混合比率のα値の精度を0.99以上1.01以下の範囲(すなわち混合精度を2%の範囲)まで許容したとしても、r1で示す網掛けの範囲(6μmol/L以上15μmol/L以下)の測定誤差で解離定数評価が可能となる。
【0062】
すなわち、本実施形態の結合能力測定技術は、リガンドの水溶性が低いほど(疎水性であるほど)、計測精度が向上する。
【0063】
すなわち、本実施形態の結合能力測定技術は、従来の結合能力測定技術が不得手としていた、水溶性の低いリガンド、および結合能力の弱いリガンドとプローブ分子の組み合わせにおいて、計測精度が向上する。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
11…第1の溶液タンク、12…第2の溶液タンク、15…溶液供給装置、16…撹拌装置、17…光照射装置、18…受光装置、19…光透過率計測装置、26…フローセル部
図1
図2
図3
図4
図5