(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】インク及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240705BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240705BHJP
B41M 5/52 20060101ALI20240705BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240705BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240705BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 110
B41M5/52 100
B41J2/01 501
C09D11/326
(21)【出願番号】P 2021175447
(22)【出願日】2021-10-27
(62)【分割の表示】P 2016195355の分割
【原出願日】2016-10-03
【審査請求日】2021-11-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】崔 波
(72)【発明者】
【氏名】岩見 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博俊
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 徹
(72)【発明者】
【氏名】石井 竜
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152580(WO,A1)
【文献】特開2015-124379(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147192(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/115071(WO,A1)
【文献】特開2013-196997(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156267(WO,A1)
【文献】特開2013-107952(JP,A)
【文献】特開2015-091976(JP,A)
【文献】特開2016-044239(JP,A)
【文献】特開2013-216809(JP,A)
【文献】特開2013-142150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00-5/52
B41J 2/00-2/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性着色剤、分散剤、ポリマー、パラフィンワックスを含有しないポリエチレンワックス、及び水を含有するインクであって、前記分散剤がブロック共重合体であり、前記ポリマーを構成するモノマーが2種類のアルキルメタクリレート、メタクリル酸、及びアルキルアクリレートであり、2種類のアルキルメタクリレートが直鎖アルキルメタクリレート、及び不飽和アルキルメタクリレートのそれぞれから選択され、アルキルアクリレートが分岐鎖アルキルアクリレートであり、かつ、インク中に含まれる、前記分散剤質量と前記パラフィンワックスを含有しないポリエチレンワックス質量の関係を、「分散剤/パラフィンワックスを含有しないポリエチレンワックス」で算出した場合の値が、0.75以上
8以下であるインク。
【請求項2】
請求項1に記載のインクの液滴を、インクジェットプリンタから吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1に記載のインクが付着した記録メディア。
【請求項4】
記録メディアがインク受容層を有するメディアである、請求項3に記載の記録メディア。
【請求項5】
記録メディアがインク受容層を有さないメディアである、請求項3に記載の記録メディア。
【請求項6】
請求項1に記載のインクを充填したインクタンク。
【請求項7】
請求項6に記載のインクタンクを装填したインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水不溶性着色剤を含有するインク、及びそのインクを用いるインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いる記録方法(インクジェット記録方法)は、代表的な記録方法の1つである。この方法は、インクの小滴を発生させ、これを種々の記録メディア(紙、フィルム、布帛等)に付着させて記録を行う方法である。インクジェット技術の進歩により、これまで銀塩写真やオフセット印刷によって実現されてきた高精細な印刷の分野においても、インクジェット記録方法が用いられるようになってきた。さらに、近年では産業用途としての需要が高まり、この用途では高速印字に対する性能が求められている。
【0003】
産業用途のインクジェットインクに求められる性能の1つとして、保存安定性が挙げられる。すなわち、家庭やオフィスの環境に対して、産業用インクジェットプリンタが使用される環境は、より過酷な温度変化にさらされていることが多い。このため、温度の変化に対するインクの保存安定性が重要視されている。インクの中でも水不溶性着色剤を含有する分散インクは、温度変化により分散状態が壊れ、インクジェットヘッドやプリンタ内のフィルターを目詰まりさせる現象を生じ易い。このような現象が生じると、生産性が極めて悪化するのと共に、高額なインクジェットヘッドの交換が必要となる。これらの理由から、温度変化に対するインクの保存安定性が大きな問題となっている。このため、温度変化が生じたときでも保存安定性、特にろ過性が良好なインクの開発が強く要望されている。
【0004】
特許文献1及び2には、界面活性剤及び浸透剤によって紙への浸透性を制御することにより、擦過性がよく、かつ高画質な画像が得られるとされるインクが開示されている。
特許文献3及び4には、インク中に樹脂を添加する事により、記録メディアとの密着性を付与し、耐摩擦性を向上させる手法が開示されている。
特許文献5にはポリマーを、また、特許文献6にはワックスを、それぞれ含有するインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/105289号
【文献】特開2003-253167号公報
【文献】特開2013-166844号公報
【文献】特開2013-199605号公報
【文献】国際公開第2015/152291号
【文献】国際公開第2015/147192号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水不溶性着色剤を含有し、温度変化に対する保存安定性、特にろ過性が良好な水性インクの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水不溶性着色剤、ポリマー、ポリアルキレンワックス、及び水を含有するインクにより前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、以下の1)~10)に関する。
1)
水不溶性着色剤、ポリマー、ポリアルキレンワックス、及び水を含有するインクであって、前記ポリマーを構成するモノマーが、メタクリル酸誘導体、及びアクリル酸誘導体のそれぞれから少なくとも1種類ずつ選択されるモノマーを含有するインク。
2)
ポリアルキレンワックスが、ポリエチレンワックス、及びポリプロピレンワックスから選択されるワックスである、前記1)に記載のインク。
3)
前記ポリマーを構成するモノマーが、メタクリル酸誘導体から選択される3種類のモノマーと、アクリル酸誘導体から選択される1種類のモノマーである前記1)に記載のインク。
4)
前記ポリマーを構成するモノマーが、2種類のアルキルメタクリレート、メタクリル酸、及びアルキルアクリレートである、前記1)又は3)に記載のインク。
5)
前記1)~4)のいずれか一項に記載のインクの液滴を、インクジェットプリンタから吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
6)
前記1)~4)のいずれか一項に記載のインクが付着した記録メディア。
7)
記録メディアがインク受容層を有するメディアである、前記6)に記載の記録メディア。
8)
記録メディアがインク受容層を有さないメディアである、前記6)に記載の記録メディア。
9)
前記1)~4)のいずれか一項に記載のインクを充填したインクタンク。
10)
前記9)に記載のインクタンクを装填したインクジェットプリンタ。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、水不溶性着色剤を含有し、温度変化に対する保存安定性、特にろ過性が
良好な水性インクを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のインクについて詳細に説明する。
本明細書において、「C.I.」とは、カラーインデックスの略語である。
また、本明細書中、「%」及び「部」については、特に断りのない限り、実施例等も含めていずれも質量基準で記載する。
【0010】
[水不溶性着色剤]
前記の水不溶性着色剤としては、例えば、公知の顔料、分散染料、及び溶剤染料等が使用できる。本明細書において水不溶性の着色剤とは、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下の着色剤を意味する。溶解度の下限は0gを含む。
なお、特に断りのない限り「水不溶性着色剤」を、以下「着色剤」という。
着色剤は併用することができる。前記インクが含有する着色剤の種類は、黒インクのときは3~5種類が好ましく、黒インク以外のカラーインクのときは通常3種類、好ましくは2種類、又は1種類である。但し、黒インクが着色剤としてカーボンブラックを含有するときは、着色剤の種類は2種類、又は1種類が好ましい。本明細書において、カラーインクとは黒インク以外の有色インク(例えばイエロー、マゼンタ、シアン、レッド、オレンジ、ブラウン、バイオレット、ブルー、グリーン等の各色のインク)を意味する。
また、顔料、分散染料、及び溶剤染料の中では顔料が好ましい。顔料としては、無機顔料、有機顔料、及び体質顔料等が挙げられる。
【0011】
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、金属酸化物、水酸化物、硫化物、フェロシアン化物、及び金属塩化物等が挙げられる。
【0012】
カーボンブラックとしてはサーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラック等が挙げられる。その具体例としては、例えば、コロンビア・カーボン社製のRavenシリーズ;キャボット社製のMonarchシリーズ、Regalシリーズ、及びMogulシリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のColorBlackシリーズ、Printexシリーズ、SpecIalBlackシリーズ、及びNeroxシリーズ;三菱化学社製のMAシリーズ、MCFシリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300等が挙げられる。
【0013】
有機顔料としては、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、及びキノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。
【0014】
有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、180、185、193、199、202、213;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73;C.I.Pigment Green7、36、54;C.I.Pigment Black 1等の各色の顔料が挙げられる。
【0015】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、及びホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用するのが好ましい。
【0016】
分散染料としては、公知の分散染料が挙げられる。それらの中ではC.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等の各色の分散染料が挙げられる。
また、溶剤染料としてはC.I.Solventから選択される染料が好ましい。
【0017】
前記インクが含有する着色剤の総含有量は通常0.5%~10%、好ましくは0.5%~8%、より好ましくは1%~8%、さらに好ましくは2%~7%である。含有量が0.5%以上で十分な記録画像の発色性が得られ、10%以下で吐出性が良好となる。
【0018】
[ポリマー]
前記ポリマーを構成するモノマーは、メタクリル酸誘導体、及びアクリル酸誘導体のそれぞれから少なくとも1種類ずつ選択されるモノマーが好ましく;
メタクリル酸誘導体から選択される3種類のモノマーと、アクリル酸誘導体から選択される1種類のモノマーがより好ましく;
2種類のアルキルメタクリレート、メタクリル酸、及びアルキルアクリレートであるのがさらに好ましい。
前記2種類のアルキルメタクリレートとしては、直鎖アルキルメタクリレート、及び不飽和アルキルメタクリレートのそれぞれから選択されるのが好ましい。
直鎖アルキルメタクリレートとしては、直鎖C1-C3アルキルメタクリレートが好ましく、メチルメタクリレートがより好ましい。
不飽和アルキルメタクリレートとしては、不飽和C2-C4アルキルメタクリレートが好ましく、アリルメタクリレートがより好ましい。
また、前記アルキルアクリレートとしては、分岐鎖アルキルアクリレートが好ましく、分岐鎖C3-C8アルキルアクリレートがより好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートがさらに好ましい。
ポリマーは、例えば国際公開2015/147192号ガゼットが開示する合成方法により得ることができる。
【0019】
前記ポリマーの平均粒径は通常10nm~1μm、好ましくは30nm~500nmである。このような平均粒径のとき、インクジェットヘッドの詰りを生じ難くなる。
ポリマーのガラス転移点(Tg)は通常-10℃~20℃、好ましくは-5℃~15℃である。
ポリマーの酸価は通常0~25mgKOH/g、好ましくは5~15mgKOH/gである。
ポリマーのテトラヒドロフランに対する不溶解度は通常80~100%、好ましくは100%、すなわち不溶であることが好ましい。それにより、樹脂の平均分子量を制御し、遊離のモノマー等を含有しない樹脂を得ることができる。
インクの総質量に対するポリマーの含有量は、通常0.1%~10%、好ましくは0.2%~8%、より好ましくは0.3%~8%である。このような含有量のとき、擦過性、再分散性、及び吐出性が良好となる。
【0020】
前記ポリマーのモノマー構成を「通常」、「好ましい」、「より好ましい」構成として、下記表1にまとめた。下記表1の部数の範囲で、モノマーの総量が100部となるように調製することができる。下記表1中の略号は、以下の意味を有する。
MA:メタクリル酸。
ScMA:直鎖アルキルメタクリレート。
BcAA:分岐鎖アルキルアクリレート。
UsMA:不飽和アルキルメタクリレート。
【0021】
【0022】
[ポリアルキレンワックス]
ポリアルキレンワックスとしては、ポリエチレンワックス、及びポリプロピレンワックスから選択されるワックスが好ましい。ポリアルキレンワックスとしては変性ポリアルキレンワックス(例えば酸化ポリアルキレンワックス等)を含むことができるが、パラフィンワックスを含有しないものが好ましい。これらのワックスは、水性媒体中のエマルションとして使用することができる。
ポリエチレンワックスの具体例としては、例えば、ビックケミー社製のCERAFLOUR 925、929、950、991;ビックケミー社製のAQUACER 507、513、515、552、1547;ビックケミー社製のAQUAMAT 208、263、272;ビックケミー社製のMINERPOL 221;三井化学株式会社製の三井ハイワックス NL100、NL200、NL500;東邦化学株式会社製のHYTEC-6400、6500等が挙げられる。
また、ポリプロピレンワックスとしてはビックケミー社製のAQUACER 593;三井化学社製の三井ハイワックス NP055、NP505等が挙げられる。
ワックスエマルションの粒径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止するために5μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0023】
前記インクの総質量に対するワックスの含有量は、0.1%~5%が好ましく、0.1%~2%がより好ましい。このような含有量のとき、擦過性、再分散性、及び吐出性が良好になる。
【0024】
[分散剤]
前記インクは、分散剤を含有することができる。また、着色剤の一部又は全てを分散剤で被覆することもできる。
分散剤としては、ノニオン分散剤、アニオン分散剤、及び高分子分散剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。
前記分散剤の使用量は、着色剤の総質量に対して通常1%~100%、好ましくは、5%~90%、より好ましくは、10%~80%である。このような使用量とすることにより着色剤を十分に微細化することができる。また、この分散液を含有するインクで記録された画像の滲みを抑制し、良好な耐水性、及び擦過性を得ることができる。
【0025】
ノニオン分散剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、アミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン-β-ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等が挙げられる。
【0026】
アニオン分散剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルエステル硫酸塩、アルキルアリールエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、アルキルアリール及びアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸塩等が挙げられる。
【0027】
高分子分散剤としては、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等;(メタ)アクリル酸及びその誘導体;マレイン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;フマール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体;等よりなる群の単量体から選択される、少なくとも2つの単量体(好ましくは、このうち少なくとも1つが親水性の単量体)からなる共重合体、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はそれらの塩等が挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸及びアクリル酸の両方を意味する。
分散剤の重量平均分子量としては、おおよそ1000~60000、好ましくは2000~50000、より好ましくは2500~50000程度である。また、酸価としては、おおよそ10~300mgKOH/g、好ましくは10~275mgKOH/g、より好ましくは20~250mgKOH/g程度である。
市販されている分散剤の具体例としては、いずれもBASF社製のジョンクリル 61J、67、68、450、55、555、586、678、680、682、683、690、及びB-36等が挙げられる。
【0028】
着色剤を含有する水性分散液の調製方法としては、公知の全ての方法が使用できる。その一例としては、着色剤と分散剤を混合し、サンドミル(ビーズミルともいう)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて分散処理を行う公知の方法が挙げられる。サンドミルを用いた分散液の調製は、0.01mm~1mm径程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を大きくすること等により、分散効率を高めた条件で分散液を調製することが好ましい。
分散液の調製後に、ろ過及び/又は遠心分離等により、ビーズ等を除去するのと共に、目的とする平均粒径からの乖離が大きい粒子成分を除去することも好ましく行われる。
分散液の調製中に泡立ちが生じるときは、公知のシリコーン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量加えることができる。
その他の方法としては、酸析法、転相乳化法、界面重合法、in-situ重合法、液中硬化被膜法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられる。これらの中では転相乳化法、酸析法、及び界面重合法が好ましい。
【0029】
前記の分散剤を使用する代わりに、着色剤の表面に分散性付与基を化学的に導入した、表面処理顔料(自己分散顔料)を着色剤として用いることもできる。
【0030】
分散液中における着色剤の平均粒径(D50)は通常300nm以下、好ましくは30~280nm、より好ましくは40~270nm、さらに好ましくは50~250nmである。
また、同様にD90は通常300nm以下、好ましくは280nm以下、より好ましくは270nm以下である。下限は100nm以上が好ましい。
同様にD10は通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、上限は100nm以下である。
【0031】
前記の水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等のpH6.5~7.5であり、かつ各種の金属イオン等の遊離イオン含有量が少ない水が好ましい。
【0032】
前記インクは、前記以外の成分として水溶性有機溶剤、バインダー、水溶性高分子化合物、界面活性剤、防黴剤、防腐剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤等のインク調製剤を、必要に応じて含有することができる。
【0033】
[水溶性有機溶剤]
前記インクが含有する水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール又は第三ブタノール等のC1-C6アルコール;N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン又は1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類;アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、エチレンカーボネート等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(好ましくは分子量400、800、1540又はそれ以上のもの)、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のC3-C9ポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル(好ましくはC3-C10のモノ、ジ若しくはトリエチレングリコールエーテル、及びC4-C13のモノ、ジ若しくはトリプロピレングリコールエーテルよりなる群から選択されるグリコールエーテル);1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等のC5-C9アルカンジオール;γ-ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等が挙げられる。
前記インクの総質量に対する水溶性有機溶剤の総含有量は通常0%~60%、好ましくは5%~60%、より好ましくは10%~50%である。
【0034】
[バインダー]
バインダーとしては、例えば、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、スチレン-アクリル系、アクリル-シリコーン系、スチレン-ブタジエン系の各樹脂又はそれを含有するエマルションが挙げられる。これらの中ではウレタン系、アクリル系、及びスチレン-ブタジエン系から選択される樹脂が好ましい。
市販品の具体例としては、例えば、スーパーフレックス 126、130、150、170、210、420、470、820、830、890(第一工業製薬株式会社製のウレタン系樹脂エマルション);ハイドラン HW-350、HW-178、HW-163、HW-171、AP-20、AP-30、WLS-201、WLS-210(DIC株式会社製のウレタン系樹脂エマルション);0569、0850Z、2108(JSR株式会社製のスチレン-ブタジエン系樹脂エマルション);AE980、AE981A、AE982、AE986B、AE104(株式会社イーテック製のアクリル系樹脂エマルション)等が挙げられる。
【0035】
[水溶性高分子]
水溶性高分子化合物としては、アニオン性、及びノニオン性の高分子化合物が挙げられる。アニオン性高分子化合物としてはカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸等のアクリル酸誘導体、及びポリスチレンスルホン酸塩等のポリスチレン誘導体が挙げられる。ノニオン性高分子化合物としてはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びゼラチン等があげられる。
【0036】
[界面活性剤]
界面活性剤としては、アニオン、カチオン、ノニオン、両性、シリコーン系、フッ素系等の界面活性剤が挙げられる。これらの中では、アニオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤よりなる群から選択される、少なくとも1種類の界面活性剤が好ましい。
前記インクが界面活性剤を含有するとき、インクの総質量に対する界面活性剤の総含有量は通常0.1%~3%、好ましくは0.2%~2.5%である。0.1%以上で界面活性剤としての効果が得られ、3%以下で顔料の分散安定性が良好となる。
【0037】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、ハイテノール LA-10、LA-12、LA-16、NE-05、NE-15、NF-13、NF-17、ネオハイテノール ECL-30S、ECL-45(第一工業製薬株式会社製)、アデカコール EC-8600(株式会社アデカ製)、ぺレックス OT-P(花王株式会社製)等が挙げられる。
【0038】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0039】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0040】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系(例えば、日本触媒株式会社製のソフタノール EP-5035、7085、9050;株式会社アデカ製のプルロニック L-31、L-34、L-44等);ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;ポリオキシエチレンアセチレングリコールエーテル;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル;ポリオキシエチレントリベンジル化フェニルエーテル;日信化学株式会社製のサーフィノール 104、104PG50、105PG50、82、420、440、465、485;オルフィン STG;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergItol 15-S-7等)等が挙げられる。
【0041】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、ビックケミー社製の、BYK-347(ポリエーテル変性シロキサン);BYK-345、BYK-348、BYK-349(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン);等が挙げられる。
【0042】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300(DuPont社製);Capstone FS-30、FS-31(DuPont社製);PF-151N、PF-154N(オムノバ社製);等が挙げられる。
【0043】
[防黴剤]
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。
【0044】
[防腐剤]
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系又は無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤の具体例として、無水酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、アーチケミカル社製の商品名プロクセル GXL(S)、LV、プXL-2(S)等が挙げられる。
【0045】
[pH調整剤]
pH調整剤の具体例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;及び、リン酸二ナトリウム等のリン酸塩等が挙げられる。
【0046】
[キレート試薬]
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0047】
[防錆剤]
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0048】
[水溶性紫外線吸収剤]
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0049】
[酸化防止剤]
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0050】
[消泡剤]
消泡剤としては、例えば、シリコーン系、シリカ鉱物油系、オレフィン系、アセチレン系等が挙げられる。市販品としては、例えば、いずれも信越化学工業株式会社製のサーフィノール DF37、DF58、DF110D、DF220、MD-20、オルフィン SK-14が挙げられる。
消泡剤を使用するとき、その添加量は通常0.01~5%、好ましくは0.03~3%、より好ましくは0.05~1%である。0.01%以上で消泡剤としての効果が得られ、5%以下で分散安定性が良好になる。
【0051】
前記した全ての成分は、各成分の中で1種類を使用することも、2種類以上を併用することもできる。
【0052】
前記インクをインクジェットインクとして使用するときは、インク中における金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム)、硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム)等の無機不純物の含有量の少ないものを用いるのが好ましい。その無機不純物の含有量の目安は、おおよそ着色剤の総質量に対して1%以下程度であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%を含む。
無機不純物は、着色剤中に混在していることも多い。このため、必要に応じて無機不純物を除去することができる。その精製方法としては、例えば、着色剤の固体をメタノール等のC1-C4アルコール及び水の混合溶媒等で懸濁精製する方法;又は、インクを調製した後に、イオン交換樹脂で無機不純物を交換吸着する方法等が挙げられる。
【0053】
前記インクのpHは通常7~11、好ましくは8~10である。
インクの表面張力は通常10~50mN/m、好ましくは20~40mN/mである。
インクの粘度は通常2mPa・s~30mPa・s、好ましくは3mPa・s~20mPa・sである。
前記インクのpH、表面張力、及び粘度はpH調整剤、界面活性剤、水溶性有機溶剤等で適宜調整できる。
【0054】
前記インクは、各種の記録に使用することができる。例えば、筆記具、水性印刷、情報記録、捺染等に好適であり、インクジェット記録に用いることが特に好ましい。
【0055】
前記インクジェット記録方法は、前記インクの液滴を、記録信号に応じて吐出させて記録メディアに付着させることにより記録を行う方法である。インクジェットプリンタのインクノズル、及びインクジェット方式等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記インクジェット記録方法で記録を行うときは、前記インクを含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、前記の記録方法で記録メディアに記録を行う。
【0056】
インクジェット方式としては、公知の方式が使用できる。インクジェット方式の具体例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド(圧力パルス)方式、音響インクジェット方式、サーマルインクジェット方式等が挙げられる。
また、インク中の着色剤の含有量が少ないインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方式;実質的に同じ色相で、インク中の着色剤の濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式;及び、無色透明のインクを用いることにより、着色剤の定着性を向上させる方式;等も含まれる。
【0057】
前記の記録メディアは、前記インクが付着できる物質を意味する。記録メディアの一例としては、例えば、紙、フィルム等のシート状物質;繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等);皮革類;カラーフィルター用基材等が挙げられる。前記インクが付着した記録メディアは、本発明の範囲に含まれる。
記録メディアは、インク受容層を有するものと、有さないものとに大別することができる。
インク受容層は、公知の方法で記録メディアに付与することができる。また、既にインク受容層を有する記録メディアを購入することもできる。インク受容層を有する記録メディアの代表的なものとしては、通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙等と呼ばれるシート状の記録メディアが挙げられる。その代表的な例としては、キヤノン株式会社製のプロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパー、光沢ゴールド及びマットフォトペーパー;セイコーエプソン株式会社製の写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード株式会社製のアドバンスフォト用紙(光沢);富士フィルム株式会社製の画彩写真仕上げPro等が挙げられる。
【0058】
インク受容層を有さない記録メディアとしては、グラビア印刷、オフセット印刷等の用途に用いられるコート紙、アート紙等の各種の用紙;ラベル印刷用途に用いられるキャストコート紙等が挙げられる。
インク受容層を有さない記録メディアを用いるときは、着色剤の定着性を向上させる目的等から、記録メディアに対して表面改質処理をすることも好ましく行われる。
【0059】
前記の表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、及びフレーム処理から選択される、少なくとも1つの処理をすることが好ましい。これらの処理としては、公知の方法を用いることができる。また、これらの処理の効果は経時的に減弱することが、一般に知られている。このため、記録メディアに表面改質処理をしたときは、時間を置かずにインクジェット記録を行うことが好ましい。
表面改質処理は、所望の効果が得られるように処理の回数、時間、及び、印可する電圧等を適宜調整することができる。
【0060】
本発明のインクは、水不溶性着色剤を含有し、保存安定性、特にろ過性が良好である。
また、各種の擦過性、特に、乾燥状態と同様に湿潤状態であっても擦過性に優れ、発色性が良好である。また、本発明のインクは、再分散性、耐マーカー性に優れ、彩度が良好である。
さらに、本発明のインクで記録された画像は、耐水性、耐光性、耐熱性、耐酸化ガス(例えば耐オゾンガス)性等の各種堅牢性に優れる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、分散液中の着色剤の含有量は、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて乾燥重量法により求めた。また、着色剤の平均粒径は、マイクロトラック・ベル社製、Nanotrac Wave-EX150を用いて測定した。
【0062】
[調製例1]:分散液1の調製。
国際公開第2013/115071号の合成例3を追試することにより、合成例3のブロック共重合体Aを得た。得られたブロック共重合体A(6部)を2-ブタノン(30部)に加えて溶液とした。この溶液に、水酸化ナトリウム(0.44g)のイオン交換水(41部)溶液を加え、1時間攪拌して乳化液を調製した。この乳化液にC.I.Pigment Red 122(20部)及び分散ビーズを加え、サンドグラインダー(1500rpm、15時間)で分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水100部を滴下した後、この液から分散用ビーズをろ過分離してろ液を得た。得られたろ液からエバポレータで2-ブタノン、及び水の一部を減圧留去することにより、着色剤の含有量が12.0%の分散液を「分散液1」として得た。
【0063】
[調製例2]:分散液2の調製。
ジョンクリル68(11.3部)、及びトリエタノールアミン(6部)をイオン交換水(95.2部)に加え、1時間攪拌して溶液を得た。得られた溶液にC.I.Pigment Red 122(37.5部)及び分散ビーズを加え、サンドグラインダー(1500rpm、20時間)で分散処理を行って液を得た。得られた液にイオン交換水150部を滴下した後、この液から分散用ビーズをろ過分離することにより、着色剤の含有量が15.8%の分散液を「分散液2」として得た。
【0064】
[調製例3]:分散液3の調製。
C.I.Pigment Red 122(20部)の代わりに、C.I.Pigment Blue 15:4(20部)を使用する以外は前記「調製例1」と同様にして、着色剤の含有量が12.0%の分散液を「分散液3」として得た。
【0065】
[調製例4]:分散液4の調製。
C.I.Pigment Red 122(20部)の代わりに、C.I.Pigment Yellow 74(20部)を使用する以外は前記「調製例1」と同様にして、着色剤の含有量が12.0%の分散液を「分散液4」として得た。
【0066】
[調製例5]:ポリマー1の調製。
特許文献6の「[調製例4]ポリマーエマルション3の調製。」を追試することにより、酸価が6mgKOH/g、Tgが0℃、固形分が24.9%のポリマーエマルションを白色懸濁液として得た。これを「ポリマー1」とする。
【0067】
[実施例1~8、及び比較例1~2]:インクの調製。
下記表2に記載の各成分を混合し、おおよそ1時間撹拌した後、3μmのメンブランフィルターでろ過することにより、実施例及び比較例の各インクを得た。各インクは、その総質量中に含有する着色剤の含有量が5%となるように調製した。「表2中の分散液の分量値は、インク中における着色剤含有設定量を示している。」
下記表2中の略号等は、以下の意味を表す。
TEG:トリエチレングリコール。
SF465:サーフィノール465。
AQ:AQUACER(一例として、「AQ515」は、「AQUACER515」を意味する)。
H6400:HYTEC-6400。
【0068】
【0069】
[保存安定性]
実施例及び比較例の各インクを密封容器に入れて試験用のサンプルとし、60℃の恒温恒湿機で4日間静置した後、-5℃の恒温恒湿機で1日間静置した。サンプルとした密封容器を室温に戻した後、各インク(80g)を1μmのメンブランフィルターでろ過するのに要する時間を測定し、以下の3段階の基準で評価した。評価結果を下記表2に示す。 A:45秒以内でインクの全量がろ過できた。
B:60秒以内でインクの全量がろ過できた。
C:60秒以内ではインクの全量がろ過できなかった。
【0070】
【0071】
表3から明らかなように、各実施例のインクはろ過性が極めて良好だった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のインクは水不溶性着色剤を含有し、温度変化に対する保存安定性、特にろ過性が良好なため、各種の記録用インク、特に産業用インクジェットインクとして極めて有用である。