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特許7515458固定弁及び可動弁を備える物質移動カラム用の多パス接触トレイ、及び多パス接触トレイを含む方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】固定弁及び可動弁を備える物質移動カラム用の多パス接触トレイ、及び多パス接触トレイを含む方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/20 20060101AFI20240705BHJP
   B01D 3/32 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
B01D3/20
B01D3/32 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021506310
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 IB2019056664
(87)【国際公開番号】W WO2020031077
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】62/714,960
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503195045
【氏名又は名称】コーク-グリッシュ,リミティド パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニーウァウト アイザック
(72)【発明者】
【氏名】グリーセル チャールズ
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-519159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122662(US,A1)
【文献】特表2014-516781(JP,A)
【文献】特表2015-513468(JP,A)
【文献】特表2018-500161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0040289(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0118399(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00-1/08
B01D 1/00-8/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質移動カラムで使用するための多パス接触トレイであって、前記多パス接触トレイが、
液体流を受け入れるための上面を有するトレイデッキと、
前記トレイデッキのダウンカマー入口であって、前記トレイデッキを、前記ダウンカマー入口の両側に配置されるデッキセグメントに分割するダウンカマー入口と、
ダウンカマーであって、液体が前記デッキセグメントを横切って流れ、前記ダウンカマー入口を通って前記ダウンカマーに入った後、前記液体を下方に導くために、前記トレイデッキの前記ダウンカマー入口から下方に延びるダウンカマーと、
前記デッキセグメントのそれぞれにわたって分布される複数の固定弁及び複数の可動弁であって、前記固定弁及び前記可動弁のそれぞれが、前記デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に支持構造によって配置される弁カバーであって、前記弁開口部により、蒸気が前記デッキセグメントを通って上昇し、前記デッキセグメントを横切って流れるときに前記液体と相互作用する弁カバーと、前記蒸気が前記弁カバーと前記デッキセグメントとの間を出る開放カーテン領域と、を含み、前記可動弁の前記弁カバーが、前記デッキセグメントを通って上昇するときに前記蒸気の体積流量の変化に応じて開放位置と閉鎖位置との間で移動可能である、固定弁と可動弁と、
を備え、
前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積が、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と前記複数の可動弁の前記弁開口部の総面積との合計の70%~90%である、多パス接触トレイ。
【請求項2】
前記デッキセグメントが、ほぼ等しい表面積を有し、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と前記可動弁の全弁開口部の総面積の割合が同一である、請求項1に記載の多パス接触トレイ。
【請求項3】
前記デッキセグメントが、ほぼ異なる表面積を有し、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と前記可動弁の全弁開口部の総面積の割合が同一ではない、請求項1に記載の多パス接触トレイ。
【請求項4】
前記固定弁の一部又は全部において、前記蒸気が前記弁開口部を通って上昇し、前記弁カバーによって方向を変えられた後、相互に反対方向に向けられる蒸気用の流開口部が存在する、請求項1に記載の多パス接触トレイ。
【請求項5】
前記可動弁の前記弁カバーが、前記デッキセグメントのスロットを通って延びる脚部によって支持される、請求項1に記載の多パス接触トレイ。
【請求項6】
前記固定弁及び前記可動弁が列内で混在している、請求項1に記載の多パス接触トレイ。
【請求項7】
物質移動カラムで使用するための多パス接触トレイであって、前記多パス接触トレイが、
液体流を受け入れるための上面を有するトレイデッキと、
前記トレイデッキの弦状開口部であって、前記トレイデッキを、前記弦状開口部の両側に配置されるデッキセグメントに分割する弦状開口部と、
ダウンカマーであって、液体が前記デッキセグメントを横切って流れ、前記弦状開口部を通って前記ダウンカマーに入った後、前記液体を下方に導くために、前記トレイデッキの前記弦状開口部から下方に延びるダウンカマーと、
前記デッキセグメントのそれぞれにわたって分布される複数の固定弁及び複数の可動弁であって、前記固定弁及び前記可動弁のそれぞれが、前記デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に支持構造によって配置される弁カバーであって、前記弁開口部により、蒸気が前記デッキセグメントを通って上昇し、前記デッキセグメントを横切って流れるときに前記液体と相互作用する弁カバーを含み、前記可動弁の前記弁カバーが、前記デッキセグメントを通って上昇するときに前記蒸気の体積流量の変化に応じて開放位置と閉鎖位置との間で移動可能である、固定弁と可動弁と、
を備え、
前記複数の固定弁の総数が、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の総数と前記複数の可動弁の総数との合計の70%~90%である、多パス接触トレイ。
【請求項8】
前記デッキセグメントが、ほぼ等しい表面積を有し、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と前記可動弁の全弁開口部の総面積の割合が同一である、請求項7に記載の多パス接触トレイ。
【請求項9】
前記デッキセグメントが、ほぼ異なる表面積を有し、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と前記可動弁の全弁開口部の総面積の割合が同一ではない、請求項7に記載の多パス接触トレイ。
【請求項10】
前記固定弁の一部又は全部において、前記蒸気が前記弁開口部を通って上昇し、前記弁カバーによって方向を変えられた後、相互に反対方向に向けられる蒸気用の流開口部が存在する、請求項7に記載の多パス接触トレイ。
【請求項11】
前記可動弁の前記弁カバーが、前記デッキセグメントのスロットを通って延びる脚部によって支持される、請求項7に記載の多パス接触トレイ。
【請求項12】
前記固定弁及び前記可動弁が列内で混在している、請求項7に記載の多パス接触トレイ。
【請求項13】
多パストレイが質量移動カラム内に配置されたとき、低蒸気流量の間、前記多パストレイのトレイデッキを通る蒸気流のバランスをとる方法であって、
ダウンカマーが下方に延びる弦状開口部の両側に配置されたデッキセグメントを、前記トレイデッキに設ける工程と、
前記デッキセグメントのそれぞれにわたって分布される複数の固定弁及び複数の可動弁であって、前記固定弁及び前記可動弁のそれぞれが、前記デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に配置される弁カバーであって、前記弁開口部により、蒸気が前記デッキセグメントを通って上昇し、前記デッキセグメントを横切って流れるときに液体と相互作用する弁カバーを含み、前記可動弁の前記弁カバーが、前記デッキセグメントを通って上昇するときに前記蒸気の体積流量の変化に応じて開放位置と閉鎖位置との間で移動可能である、固定弁と可動弁とを設ける工程と、
前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積を、前記デッキセグメントのそれぞれにおける前記複数の固定弁の前記弁開口部の総面積と、前記複数の可動弁の前記弁開口部の総面積との合計の70%~90%になるように選択する工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
前記デッキセグメントのそれぞれに分布された複数の固定弁及び複数の可動弁を設ける前記工程が、前記固定弁と前記可動弁を列内に混在させることを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年8月6日に出願された米国仮出願第62/714960号の優先権を主張し、参照によりこの出願の全体を本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、概して、物質移動及び熱交換が行われるカラム、特に、カラム内を流れる流体流間の相互作用を容易にするために上記カラムで使用される多パス接触トレイ、及びそのような多パス接触トレイを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
物質移動カラムは、特定の組成及び/又は温度の生成物流を提供するために、少なくとも2つの流体流に接触するように構成される。本明細書で使用される「物質移動カラム」という用語は、物質及び/又は熱伝達が主な目的であるカラムを包含することを意図している。多成分系蒸留及び吸収用途で利用されるような物質移動カラムが、気相流を液相流と接触させる一方、抽出カラムなどの他のカラムは、異なる密度の2つの液相間の接触を容易にするように設計され得る。多くの場合、物質移動カラムは、通常、2つの流体相間の密接な接触を容易にするために、カラムの内部領域に配置される物質移動構造の表面に沿って又は表面の上方で、上昇蒸気又は液体流と下降液体流とを接触させるように構成されている。2相間で伝達される物質及び熱の速度及び/又は程度は、これらの物質移動構造によって高められ、これらの構造は、様々なタイプの接触トレイ、構造化パッキング、ランダムパッキング、又はグリッドパッキングの形態であり得る。
【0004】
物質移動カラムで使用される接触トレイは、通常、カラムの水平断面の略全体にわたって水平に延在し、円形のカラム壁又はシェルの内面に溶接されたリングによって周囲を支持される。いくつかの接触トレイが、垂直方向に間隔を置いて配置される。接触トレイは、カラムの一部にのみ配置されて、カラムで行われる多段階プロセスの一部を実行し得る。あるいは、接触トレイは、カラム内の開放領域の略全体を満たし得る。
【0005】
上記のタイプの接触トレイは、トレイデッキの開口部に配置される1つ又はそれ以上のダウンカマーを含み、これらの開口部は、液体が1つのトレイから下方の隣接トレイへ下降するための通路を提供する。単パス接触トレイでは、各接触トレイは、トレイデッキの一端に配置される単一のダウンカマーを有し、隣接する接触トレイ同士は、ダウンカマーがトレイデッキの両端に配置されるように配向される。この単パス構成では、次に、液体はトレイデッキの一端の受容領域からトレイデッキの他端のダウンカマーまで流れ、次いで、ダウンカマーを経由して下の接触トレイのトレイデッキへ下降し、そこで反対方向に流れる。
【0006】
多パス接触トレイでは、2つ以上のダウンカマーが、トレイデッキの一部又は全部に設けられ、液体は、各トレイデッキのセグメント又は流路で相互に反対方向に流れるため、複数の流に分割される。たとえば、2パス構成では、接触トレイの各対の上側の接触トレイは中央ダウンカマーを有し、下側の接触トレイはトレイデッキの両端に配置されたダウンカマーを有する。上側の接触トレイのトレイデッキ上の液体は、トレイデッキの両受容端から中央ダウンカマーに流れ、次に、下側のトレイデッキの中央受容領域に送達されて、そこで端部ダウンカマーに向けて相互に反対方向に流れる2つの流に分割される。
【0007】
液体がダウンカマーに入る前にトレイデッキ又はデッキセグメントを横切って流れるとき、液体は、トレイデッキの選択部分に設けられた蒸気開口部を通過する上昇蒸気と相互作用する。蒸気開口部を含むトレイデッキのこれらの領域は、トレイのこれらの領域の上方で発生する蒸気と液体の混合及び気泡のために、一般に「アクティブ」領域と呼ばれる。
【0008】
トレイデッキの蒸気開口部は、単純なふるい穴にすることも、固定弁又は可動弁の一部として形成することもできる。従来の弁は、脚部又は他の支持構造によってトレイデッキの開口部に支持された弁カバーを有する。固定弁では、弁カバーは垂直方向の動きを防止するように固定される。可動弁では、弁カバーは、開口部を通って上昇する蒸気又は流体の圧力の変化に応じて上下に移動することができる。弁カバーの垂直方向の動きを可能にするために、脚部はトレイデッキのスロット、蒸気開口部、又は他の開口部を通って延び、トレイデッキの下側に接触するように曲げられて、弁カバーの垂直方向の動きの範囲を制限する。
【0009】
典型的には、トレイ上の全ての弁は固定弁又は可動弁のいずれかであるが、可動弁を有する接触トレイにいくつかの固定弁を配置することが提案されており、固定弁は、トレイを横切る所望の液体流を容易にするように位置決めされ配向される。
【0010】
可動弁を備えた接触トレイは、通常、固定弁トレイよりも製造に費用がかかるが、用途によっては、より広い蒸気流量範囲にわたってカラムをより効率的に操作できるという点で、固定弁トレイを超える利点を有する。特に、可動弁接触トレイを備えたカラムは、弁孔からの液体の垂れが問題になる前に、蒸気流量を低下させるようにターンダウンさせることができる。この「ターンダウン」を増大する結果、蒸気流量が特定の値を下回ると、一部の弁が部分的又は完全に閉鎖されることにより、より多くの蒸気流が、完全に開放された残りの弁に転送されて、全ての開放弁を介した十分な蒸気流を維持し、弁を通る液体の垂れを妨害する。蒸気流量が引き続き低下すると、より多くの可動弁が部分的又は完全に閉鎖し、同様に、より多くの蒸気流が完全に開放した弁に転送されて垂れを防ぐ。
【0011】
ターンダウン中の多パス接触トレイでの可動弁の使用に関連する問題の1つは、ターンダウン中にトレイダウンカマーの両側において、異なるトレイデッキセグメント又は流路を通る蒸気流の所望の均衡を維持しにくいことである。デッキセグメントを経る圧力降下は、ターンダウン中に弁が閉鎖しているときの蒸気流量とはほぼ無関係であるため、1つ又はそれ以上のデッキセグメントで他のデッキセグメントよりも多くの弁が閉鎖し始めると、蒸気流量の不均衡が発生する。
【0012】
これらの蒸気流の不均衡を低減するアプローチの1つは、異なる重量の弁カバー群の使用を含む。最も重い群の弁は特定の流量ターンダウン中に完全に閉鎖し、残りの軽い群の弁は完全に開放したままであり、様々なトレイデッキセグメントへの所望の蒸気流量分布を維持する。蒸気流量の更なる減少中、重い弁よりも軽い次の群の弁は既に閉鎖しているが、更に軽い残りの群の弁は、完全に開放したままである。このようにして、圧力降下は、広い範囲のターンダウン流量にわたって、蒸気流量に反応する状態を保つことによって、トレイデッキセグメント又は流路の水力学的平衡を促進する。にもかかわらず、圧力降下が蒸気流量とは無関係である蒸気流量範囲もターンダウン中に残っているため、性能の非効率が発生する場合がある。その結果、ターンダウン中の多パストレイの性能を一層向上させる必要がある。
【発明の概要】
【0013】
一態様では、本発明は、物質移動カラムで使用するための多パス接触トレイに関する。多パス接触トレイは、液体流を受け入れるための上面を有するトレイデッキと、トレイデッキのダウンカマー入口であって、トレイデッキを、ダウンカマー入口の両側に配置されるデッキセグメントに分割するダウンカマー入口と、ダウンカマーであって、液体がデッキセグメントを横切って流れ、ダウンカマー入口を通ってダウンカマーに入った後、液体を下方に導くために、トレイデッキのダウンカマー入口から下方に延びるダウンカマーと、デッキセグメントのそれぞれにわたって分布された複数の固定弁及び複数の可動弁と、を備える。固定弁及び可動弁のそれぞれは、デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に支持構造によって配置される弁カバーであって、弁開口部により、蒸気がデッキセグメントを通って上昇し、デッキセグメントを横切って流れるときに液体と相互作用する弁カバーと、蒸気が弁カバーとデッキセグメントの間を出る開放カーテン領域と、を含む。可動弁の弁カバーは、デッキセグメントを通って上昇するときの蒸気の体積流量の変化に応じて、開放位置と閉鎖位置の間で移動可能である。デッキセグメントのそれぞれにおける複数の可動弁の弁開口部の総面積の小さい方に対する、弁開口部の総面積又は複数の固定弁の垂直カーテン領域の総面積の小さい方は、可動弁を開放位置に維持するのに不十分な体積流量で蒸気が弁開口部を通って上昇するときに、デッキセグメントを通る蒸気の体積流量のバランスをとるように選択される。
【0014】
別の態様では、本発明は、多パス接触トレイに関し、多パス接触トレイは、液体流を受け入れるための上面を有するトレイデッキと、トレイデッキの弦状開口部であって、トレイデッキを、弦状開口部の両側に配置されるデッキセグメントに分割する弦状開口部と、ダウンカマーであって、液体がデッキセグメントを横切って流れ、弦状開口部を通ってダウンカマーに入った後、液体を下方に導くために、トレイデッキの弦状開口部から下方に延びるダウンカマーと、デッキセグメントのそれぞれにわたって分布された複数の固定弁及び複数の可動弁と、を備える。固定弁及び可動弁のそれぞれは、デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に支持構造によって配置される弁カバーであって、弁開口部により、蒸気がデッキセグメントを通って上昇し、デッキセグメントを横切って流れるときに液体と相互作用する弁カバーを含む。可動弁の弁カバーは、デッキセグメントを通って上昇するときの蒸気の体積流量の変化に応じて、開放位置と閉鎖位置の間で移動可能である。複数の可動弁の総数に対する複数の固定弁の総数は、可動弁を開放位置に維持するのに不十分な体積流量で蒸気が弁開口部を通って上昇するときに、デッキセグメントを通る蒸気の体積流量のバランスをとるように選択される。
【0015】
更なる態様では、本発明は、多パストレイが物質移動カラム内に配置されている場合、低蒸気流量中に多パス接触トレイのトレイデッキのデッキセグメントを通る蒸気流のバランスをとる方法に関する。本方法は、ダウンカマーが下方に延びる弦状開口部の両側に配置されたデッキセグメントを、トレイデッキに設ける工程と、デッキセグメントのそれぞれにわたって分布される複数の固定弁及び複数の可動弁であって、固定弁及び可動弁のそれぞれが、デッキセグメントのうちの1つの弁開口部上に支持構造によって配置される弁カバーであって、弁開口部により、蒸気がデッキセグメントを通って上昇し、デッキセグメントを横切って流れるときに液体と相互作用する弁カバーを含み、可動弁の弁カバーが、デッキセグメントを通って上昇するときに蒸気の体積流量の変化に応じて開放位置と閉鎖位置との間で移動可能である、固定弁及び可動弁とを設ける工程と、可動弁を開放位置に維持するのに不十分な体積流量で蒸気が弁開口部を通って上昇しているときに、デッキセグメントを通る蒸気の体積流量のバランスをとるように、複数の可動弁の総数に対する複数の固定弁の総数を選択する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付図面は、明細書の一部を成し、同様の参照番号は各種図面において同様の構成要素を指すために使用される。
【0017】
図1】本発明の多パス接触トレイの一実施形態を示すために、カラムのシェルの一部が切り取られた物質移動カラムの部分斜視図である。
図2図1に示されるカラム内の多パス接触トレイの部分斜視図であり、図1で使用されるものを拡大して示している。
図3図1及び図2の多パス接触トレイのうちの1つの部分斜視図であり、多パス接触トレイの固定弁及び可動弁が更に拡大して示され、可動弁は開放位置で示されている。
図4図3の線分4-4に沿って矢印の方向に垂直に切断し、さらに拡大して示された多パス接触トレイのうちの1つの部分立面図であり、可動弁は開放位置で示されている。
図5図4に示される多パス接触トレイの立面図であり、可動弁は閉鎖位置で示されている。
図6】カラム内の多パス接触トレイの別の実施形態の部分斜視図であり、図2に示されるものとは異なる固定弁及び可動弁の配置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面をより詳細に、まず図1を参照すると、物質移動及び/又は熱交換プロセスでの使用に適した物質移動カラムは、全体が符号10で表されている。物質移動カラム10は、円筒形構造であってもよい直立外部シェル12を含むが、多角形を含む他の構造も可能であり、本発明の範囲に含まれる。シェル12は、任意の適切な直径及び高さを有することができ、物質移動カラム10の動作中に存在する流体及び条件に対して望ましくは不活性であるか、さもなければ共存し得る1つ又は複数の剛性材料で作製することができる。
【0019】
物質移動カラム10は、流体流、典型的には液体流又は蒸気流を処理して、分留生成物を得るか、又は別の方法で流体流間の物質移動又は熱交換を引き起こすために使用されるタイプのものであり得る。例えば、物質移動カラム10は、原油常圧、潤滑油真空、原油真空、流体又は熱分解分留、コーカー又はビスブレーカ分留、コークススクラビング、反応器オフガススクラビング、ガス急冷、食用油脱臭、汚染制御スクラビング、又はその他のプロセスが行われるものであり得る。
【0020】
物質移動カラム10のシェル12は、流体流間の所望の物質移動又は熱交換が行われる開放内部領域14を画定する。一実施態様では、流体流は、1つ又はそれ以上の上昇蒸気流及び1つ又はそれ以上の下降液体流を含み得る。他の実施態様では、流体流は、上昇若しくは下降液体流、又は上昇若しくは下降蒸気流の実質的に任意の組み合わせを含み得る。
【0021】
1つ又はそれ以上の流体流は、物質移動カラム10の高さに沿った適切な位置に配置された、下部供給ライン16及び上部供給ライン18などの任意の数の供給ラインを介して物質移動カラム10に方向付けられ得る。一実施態様では、蒸気流は、供給ライン16及び18を介して物質移動カラム10に導入されるのではなく、物質移動カラム10内で生成され得る。1つ又はそれ以上の流体流は、下部放出ライン20及び上部放出ライン22などの任意の数の放出ラインを通って物質移動カラム10から外へ誘導され得る。一実施態様では、液体は、上部供給ライン18を通って導入し、物質移動カラム10を通って下降させ、下部放出ライン20を通って除去することができ、蒸気は、下部供給ライン16を通って導入し、物質移動カラム10を通って上昇させ、上部放出ライン22から除去することができる。
【0022】
還流ライン、リボイラ、凝縮器、蒸気ホーン、液体分配器など、通常存在するであろう他の物質移動カラムの構成要素は、本質的に従来と同じものであるため図示されておらず、これらの構成要素の例示は、本発明を理解するために必要であるとは考えられない。
【0023】
複数の多パス接触トレイ24が、物質移動カラム10の開放内部領域14内に配置されて、開放内部領域14内を流れる流体の相互作用を容易にする。多パス接触トレイ24は、物質移動カラム10の断面全体にわたって略水平に延在し、互いに垂直方向に離間して配置されている。各多パス接触トレイ24の特定の設計は、本発明の範囲内で変更することができる。
【0024】
図1図6の例示の実施形態では、多パス接触トレイ24は、液体流が各多パス接触トレイ24のトレイデッキ26の上面上で反対方向に流れる2つの流に分割される2パス流体流構造を形成するように構築されている。本発明は、この2パス流体流構造で配置された多パス接触トレイ24に関して説明されるが、本発明は、3パス、4パス、5パス、6パス、及びその他の多パス流構造で構築された多パス接触トレイ24を包含する。
【0025】
2パス流体流を達成するために、対を成す多パス接触トレイ24の一方は、相互接続された個々のトレイパネルから形成され得るトレイデッキ26の両端に配置された2つの下方に延びる側方ダウンカマー28を有する。側方ダウンカマー28は、関連する多パス接触トレイ24のトレイデッキ26上の中央受容領域から相互に反対方向に流れる分割液体流を受け入れ、分割液体流を、対を成す多パス接触トレイ24の下側の接触トレイのトレイデッキ26の両端の受容領域まで下方に送達する。次に、そのトレイデッキ26で受け入れられた分割液体流は、トレイデッキ26を横切って下方に延びる中央ダウンカマー30に向かって相互に反対方向に流れ、中央ダウンカマー30で再結合され、次の下にある多パス接触トレイ24のトレイデッキ26上の中央受容領域に送られる。この流パターンは、多パス接触トレイ24の連続する各トレイで繰り返される。
【0026】
側方ダウンカマー28は、弦状ダウンカマー壁32を有するものとして示され、中央ダウンカマー30は、上記弦状ダウンカマー壁32の対を有するものとして示されている。弦状ダウンカマー壁32は、シェル12の両側から物質移動カラム10の開放内部領域14を横切って弦状に延びる。各ダウンカマー壁32の上方延長部、又はダウンカマー壁32に取り付けられた別個のパネルは、出口堰34を形成し、液体が出口堰34からあふれて側方ダウンカマー28及び中央ダウンカマー30に入る前に、液体をトレイデッキ26上の事前に選択された高さまで蓄積させる。入口堰(図示せず)をトレイデッキ26の液体受容領域に隣接して設けて、側方ダウンカマー28及び中央ダウンカマー30から排出される液体を、入口堰からあふれる前にダウンカマー出口の高度より上方の液体受容領域上の事前に選択された高さまで蓄積させることによって、ダウンカマーへの蒸気の侵入を防ぐように封止する。各ダウンカマー壁32の下部は、下側のトレイデッキ26の上方に間隔を置いて配置されるか、又は流開口部(図示せず)を含むことで、流体が側方ダウンカマー28及び中央ダウンカマー30を出て、別の側方ダウンカマー28又は中央ダウンカマー30に入る前に、トレイデッキ26の上面に沿って流れることを可能にする。ダウンカマー壁32は、平面で垂直に延びるものとして示されているが、階段状、傾斜及び/若しくは多弦状の壁などの他のタイプのダウンカマー壁、又は他の構成も、本発明の範囲内である。
【0027】
中央ダウンカマー30は、トレイデッキ26を2つのデッキセグメント38又はほぼ等しい表面積の流路に分割する、トレイデッキ26の中央弦状開口部36に配置される。中心から外れたダウンカマーが使用される他の多パス構成では、中心から外れたダウンカマーに供給されるデッキセグメント又は流路は、異なる表面積を有してもよい。中央ダウンカマー30は、液体がデッキセグメント38を横切って流れ、弦状開口部36を通って中央ダウンカマー30に入った後、多パス接触トレイ24のうちの下側の接触トレイのトレイデッキ26まで液体を下方に導くように動作する。
【0028】
より具体的に図2を参照すると、複数の固定弁40及び複数の可動弁42が、各多パス接触トレイ24のトレイデッキ26全体に分配されて、蒸気又は別の流体を、トレイデッキ26を通って上昇させ、トレイデッキ26の上面を横切って流れる液体と相互作用させる。これらの固定弁40又は可動弁42を含むトレイデッキ26の領域は、通常、多パス接触トレイ24のアクティブ領域と呼ばれる。固定弁40及び可動弁42は、アクティブ領域上に事前に選択された構成で配置されている。固定弁40は、可動弁42に対する固定弁40の相対数に少なくとも幾分応じて、可動弁42と混在する。図1図5に示す実施形態では、固定弁40と可動弁42が平行な列で配置され、固定弁40と可動弁42が各列内に混在している。平行な列は、隣接する列の固定弁40及び可動弁42が互い違いに置かれて、三角形のピッチを形成するように配置されている。別の構成例では、隣接する列の固定及び可動弁40及び42は、正方形のピッチを形成するように整列されている。図6に示される実施形態では、各列は、固定弁40又は可動弁42のみを含み、固定弁40の列の数は可動弁42の列の数よりも多いため、可動弁42よりも固定弁40の方が多い。
【0029】
側方ダウンカマー28又は中央ダウンカマー30の下にある、各多パス接触トレイ24上のトレイデッキ26の領域は、入口パネル44を備える。入口パネル44は、通常、無孔である、又は側方ダウンカマー28又は中央ダウンカマー30から排出された下降流体が入口パネル44を通過するのを妨害又は防止する遮蔽流路を有する。
【0030】
次に、より具体的に図3図5を参照すると、固定弁40はそれぞれ、支持構造48によってデッキセグメント38の弁開口部50を覆って配置された弁カバー46を備える。弁開口部50により、蒸気はデッキセグメント38を通って上昇し、液体が図1及び図2に示される側方ダウンカマー28又は中央ダウンカマー30に入る前にデッキセグメント38を横切って流れるときに液体と相互作用することができる。弁カバー46は、弁開口部50を通る流体の不都合な下方滴下に対抗して弁開口部50を遮蔽するため、弁開口部50を覆うように配置される。一実施形態の支持構造48は、トレイデッキ26の上面から事前に選択された距離だけ弁カバー46を離間させ、移動を防ぐように弁カバー46を固定する脚部52を備える。各固定弁40に使用される脚部52の数は変更することができる。一実施形態では、2つの脚部が使用され、他の実施形態では、3つ以上の脚部が使用される。通気孔54が、脚部52のうちの下流の1つに設けられて、上昇する蒸気がトレイデッキ26を横切るバルク流の方向に脚部52を通過することを可能にする。一変形例では、固定弁40は、デッキセグメント38の一部を上向きに打ち抜くことによって形成され、支持構造は、弁カバー46をデッキセグメント38に接続する2つの傾斜部を含む。別の変形例では、固定弁40は、トレイデッキ26から上方に打ち抜かれる方向性ルーバとして形成され、支持構造48は、弁カバー46をデッキセグメント38に接続する傾斜部を備える。いくつかの実施形態では、固定弁40のそれぞれは、蒸気がデッキセグメント38内の関連する弁開口部50を通って上昇した後、相互に反対方向に向けられる蒸気用の流開口部を形成する。
【0031】
同様に、可動弁42のそれぞれは、デッキセグメント38の弁開口部60上に支持構造58によって配置された弁カバー56を備え、この開口部により、蒸気はデッキセグメント38上の液体と相互作用するためにデッキセグメント38を通って上昇することができる。弁カバー56は、液体の垂れに対抗して弁開口部60を遮蔽するために、弁開口部60を覆うように配置される。支持構造58は、典型的には、上端が弁カバー56に取り付けられた2つ以上の脚部62を含む。脚部62は、弁カバー56の下側に対して作用する蒸気圧に応答して、弁カバー56が図4に示される開放位置と図5に示される閉鎖位置との間で上下に浮動することができるように、デッキセグメント38を通って下方に延びる。例えば、脚部62はそれぞれ、デッキセグメント38の下に延在する下部を有し、下部は、デッキセグメント38の下側に接触して脚部62の垂直方向の動きを制限する少なくとも1つの止め部64を含む。脚部62は、デッキセグメント38のスロット、弁開口部60、又は弁開口部60の延長部を通って延びることができる。固定弁40及び可動弁42は、図面に示されているものとは異なるが、本発明の範囲内にとどまる構造を有してもよい。
【0032】
固定弁40及び可動弁42のそれぞれを通る蒸気流は、それぞれの弁開口部50及び60の開放領域、又は蒸気が弁カバー46及び56とデッキセグメント38との間から出る開放カーテン領域のいずれか小さい方によって制限される。本発明によれば、蒸気の体積流量が可動弁42を開放位置に維持するのに不十分である場合、蒸気流のターンダウン中に、各デッキセグメント38又は流路を通る蒸気流の所望のバランスが維持される。この蒸気流のバランスは、ターンダウン中に、各デッキセグメント38又は流路内の可動弁42に関連して固定弁40の総開放蒸気流面積を適切に選択することによって達成される。
【0033】
一実施形態では、デッキセグメント38のそれぞれにおける複数の可動弁42の弁開口部60の総面積の小さい方に対する、弁開口部50の総面積又は複数の固定弁40の垂直カーテン領域の総面積の小さい方は、可動弁42を開放位置に維持するのに不十分な体積流量で蒸気が弁開口部60を通って上昇するときに、デッキセグメントを通る蒸気の体積流量のバランスをとるように選択される。一例として、複数の固定弁40の弁開口部50の総面積は、デッキセグメント38のそれぞれにおける複数の固定弁40及び複数の可動弁42の弁開口部50及び60の総面積の合計の60%~95%であり得る。別の例として、複数の固定弁40の弁開口部50の総面積は、デッキセグメント38のそれぞれにおける複数の可動弁42及び複数の固定弁40の弁開口部50及び60の総面積の合計の70%~90%であり得る。
【0034】
別の実施形態では、複数の可動弁42の総数に対する複数の固定弁40の総数は、可動弁42を開放位置に維持するのに不十分な体積流量で蒸気が弁開口部60を通って上昇するときに、デッキセグメント38を通る蒸気の体積流量のバランスをとるように選択される。一例として、複数の固定弁40の総数は、デッキセグメント38のそれぞれにおける複数の固定弁40の総数と複数の可動弁42の総数との合計の60%~95%である。別の例として、複数の固定弁40の総数は、デッキセグメント38のそれぞれにおける固定弁40の総数と可動弁42の総数との合計の70%~90%である。
【0035】
多パス接触トレイ24のデッキセグメント38に固定弁40よりも少ない数で可動弁42を追加することにより、ターンダウン中の垂れを低減するという性能上の利点を、通常はより高価な可動弁42を使用することから生じる多パス接触トレイ24のほんのわずかなコスト増だけで実現することができる。FLEXIPRO(商標)固定弁を72%、タイプA可動弁を38%有するデッキセグメントを備えた空気/水システムを使用して実施されたテストでは(どちらの弁タイプもKoch-Glitsch,LPから入手可能であり、図示される固定弁40と可動弁42に対応する)、FLEXIPRO(商標)固定弁のみを有するデッキセグメントと比較して、弁が混在するデッキセグメントは、10%の垂れが観察される前に、固定弁のみを備えたデッキセグメントよりも大幅に低い蒸気流量まで動作させることができた。この性能の改善は、デッキセグメント38の容量又は圧力降下に有意な影響を与えることなく、そして重要なことに、圧力降下が蒸気流量とは無関係である蒸気流領域が観察されることなく得られた。したがって、このテストが実証するように、多パス接触トレイ24のデッキセグメント38を通る蒸気流は、可動弁42を開放位置に維持するのに不十分な流量で蒸気が弁開口部60を通って上昇するとき、ターンダウン中にバランスをとることができる。
【0036】
前述のことから、本発明は、構造に固有の他の利点とともに、上記のすべての目標及び目的を達成するのに十分に適合するものであることが明らかであろう。
【0037】
特定の機能及び部分的組み合わせは有用であり、他の機能及び部分的組み合わせを参照せずに採用できることが理解されるであろう。これは、本発明によって企図され、本発明の範囲内にある。
【0038】
多くの可能な実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく本発明から作製することができるため、本明細書に記載又は添付図面に示されるすべての事項は、限定的な意味ではなく例示として解釈されるべきである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6