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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】信号処理
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/44 20060101AFI20240705BHJP
   G01N 29/30 20060101ALI20240705BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240705BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240705BHJP
   G01N 29/04 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
G01N29/44
G01N29/30
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
G01N29/04
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2021515204
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 GB2019051717
(87)【国際公開番号】W WO2020058663
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】1815256.1
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519046650
【氏名又は名称】ガイディド・ウルトラソニックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・マリアーニ
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/099852(WO,A1)
【文献】特開2016-114570(JP,A)
【文献】特開2018-119799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0053009(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0255771(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104181237(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01M 99/00
G01H 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モニタリング動作フェーズにおいて、
所与の環境条件および/または動作条件の集合の下にある構造体を測定することから取得された信号を受信するステップであって、前記信号が振幅値の集合を含み、前記振幅値のそれぞれが、前記信号中でのそれぞれの位置に応じて変わる、ステップと、
前記振幅値のうちの少なくとも2つのそれぞれの振幅値を、環境条件および/または動作条件の集合に対する異なる振幅の関数を用いて、独立に調整するステップと、を含み、
それぞれの関数が、前記信号のそれぞれの位置に対応し、
前記少なくとも2つの振幅値のそれぞれの振幅値が、その振幅値から補償値を減算することによって調整され、前記補償値が、前記振幅値が従う同じ位置に対応する関数によって前記所与の環境および/または動作条件の集合について予測された値であり、
前記信号を受信する前に、較正フェーズにおいて、
前記構造体を異なる環境条件および/または動作条件において測定することから取得された複数の信号を受信するステップと、
複数の異なる位置のうちの各位置について、環境条件および/または動作条件の集合に対する振幅の関数を生成するステップであって、各関数が、所与の位置における振幅値を調整するために使用可能である、ステップと
をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記環境条件の集合が温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記信号が1次元信号である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記信号が2次元信号である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記信号中での位置が、前記構造体中での位置に一意に対応する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも2つの振幅値のそれぞれを、前記信号中での位置に従って独立に調整することが、前記信号中での振幅値のうちの大多数、実質的に全て、または全てを調整することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記信号が前記構造体の弾性波の測定から取得される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記弾性波が超音波である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記信号が前記構造体のガイド波測定から取得される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記信号が前記構造体のバルク波測定から取得される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの振幅値のそれぞれを調整する前に、前記信号を前処理するステップ
をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記信号を前処理するステップが、タイムストレッチ補償を実行するステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記信号が測定されたときの前記環境条件および/または動作条件のうちの少なくとも1つを、前記信号から判定するステップ
を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記信号が測定されたときの前記環境条件および/または動作条件のうちの前記少なくとも1つを、前記信号から判定するステップが、
前記信号が測定されたときの温度を、前記信号から判定するステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
タイムストレッチ補償を、スケーリングファクタを使用して実行するステップと、
前記スケーリングファクタに基づいて温度を判定するステップと
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
タイムストレッチ温度補償を実行するステップと、
前記タイムストレッチ温度補償による周波数シフトを補償するステップと
をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記信号が、測定された信号の1つの成分または1つより多くの成分を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記1つの成分または前記1つより多くの成分が、前記測定された信号を信号分解法を使用して処理することによって取得される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記信号分解法が独立成分分析を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記信号が、独立成分分析を実行した後に取得される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
異なる時間に取得された複数の信号について、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法を実行するステップ
を含む、方法。
【請求項22】
前記信号中での所与の位置についての調整された値における経時的な変化があるかどうかを判定するステップ
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
第1の時間と第2の時間との間の調整された値における変化が、所定の値を超えるかどうかを判定するステップ
を含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
所与の位置についての調整された値が経時的に単調に変化するかどうかを判定するステップと、
肯定的な判定に基づいて、ユーザに通知するための信号を生成するステップと
を含む、請求項21、22、または23に記載の方法。
【請求項25】
測定を引き起こすステップと、
測定を引き起こしたことに応答して前記信号を受信するステップと
をさらに含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記構造体がパイプである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記構造体がプレート、バー、またはレールである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
測定値の受信に応答して実行される、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
トリガに応答して少なくとも1つの測定値を受信した後に実行される、請求項1から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
少なくとも1つのプロセッサによって実行されるとき、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1から29のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項31】
請求項30に記載のコンピュータプログラムを記憶した機械可読媒体を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項32】
少なくとも1つのプロセッサと、
メモリと
を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサが、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された、装置。
【請求項33】
構造体を測定し、測定信号を提供するためのセンサと、
前記測定信号を受信し、前記測定信号から前記信号を取得するかまたは前記測定信号を前記信号として使用するように構成された、請求項32に記載の装置と
を備える、検査システム。
【請求項34】
前記センサが前記構造体上に永続的に取り付けられた、請求項33に記載の検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理に関し、詳細には、限定されないが、パイプ、レール、またはプレートなどの構造体の、弾性ガイド波(guided elastic wave)測定やバルク弾性波測定などの測定から取得された信号の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイド波検知に基づくシステムは、航空宇宙、エネルギー、石油およびガスなど、多数の分野に見られる構造体中の損傷を検出するために広く使用されている。従来の超音波検査に勝るこれらのシステムの主要な利点は、単一のセンサロケーションから構造体の広いエリアを検査することのできるその能力である。ガイド波システムの典型的な使用、いわゆる「1回限りの検査(one-off inspection)」では、センサは、構造体上に配備され、次いで、1回(または数回)の測定を行った後に取り外される。この設定では、潜在的欠陥が構造破壊にまで十分に成長し得る前に検出されることを可能にする、適切な試験間隔を特定することが重要である。そのような間隔は、応用特有のものであり、確立することは一般に簡単ではない。上記の理由、およびアクセスするためのコストが高いケース(例えば地下に埋設されたパイプ)に対処するといった他の理由から、近年、ガイド波センサを永続的に取り付ける方向に向かう動きがある。永続的に取り付けられたシステムにより、頻繁なモニタリング(例えば毎日の)が可能になり、したがって、場合によっては初期ステージでの損傷の検出が可能になる。さらに、検出後は、損傷の進行をモニタリングすることができ、したがって、構造体の残存寿命に対する予測を試みることができる。
【0003】
理論的には、そのような構造ヘルスモニタリング(SHM)手法を実行することによって、1回限りの検査を使用したときよりも小さな欠陥を、特にそれが構造的特徴の近傍に発生したときに、発見することができる。これは通常、新たな測定値をベースライン記録と比較することによって達成され、その際、信号の変化があればそれが、欠陥の識別特性を表している可能性がある。残念なことに、この手順はしばしば、主として温度であるが、やはり信号の変化を招くパイプの負荷および内容物もそうである、変化する環境条件および動作条件(environmental and operational condition)(EOC)の影響によって妨げられ、その結果、損傷検出性能が低下する。
【0004】
広く研究されている温度の1つの影響は、温度がガイド波モードの速度を、主として材料のヤング率に影響を及ぼすことによって変更する、というものである。したがって、超音波信号測定値x(t)が与えられると、温度Tの変化の影響は、測定された時間領域信号をスケーリングするというものであり、すなわち
T{x(t)}=x(αt) (1)
であり、ただしスケーリングファクタαは未知であり、推定される。
【0005】
式(1)は単純なモデルであり、というのも、(おそらくは分散性の)複数のモードの干渉により、不正確なスケーリングがもたらされる傾向にあるためである。しかし、モデルを使用することにより、実際面では満足のゆく結果が得られることが、実験によって示されている。この問題に対処すべく、2つの技法、すなわち最適信号ストレッチ(optimal signal stretch)技法とローカルピークコヒーレンス(local peak coherence)技法が提案されている。
【0006】
最適ストレッチ技法の例は、G. Konstantinidisら、「An Investigation into the Temperature Stability of a Guided Wave Structural Health Monitoring System Using Permanently Attached Sensors」、IEEE Sensors Journal、第7巻、905~912頁(2007)、A. J. Croxfordら、「Efficient temperature compensation strategies for guided wave structural health monitoring」、Ultrasonics、第50巻、517~528頁(2010)、T. Clarkeら、「Guided wave health monitoring of complex structures by sparse array systems: Influence of temperature changes on performance」、Journal of Sound and Vibration、第329巻、2306~2322頁(2010)、ならびにJ. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control、第59巻、2226~2236頁(2012)に見ることができる。
【0007】
ローカルピークコヒーレンス技法の例は、J. E. MichaelsおよびT. E. Michaels、「Detection of structural damage from the local temporal coherence of diffuse ultrasonic signals」、IEEE Transactions on Ultrasonics、Ferroelectrics and Frequency Control、第52巻、1769~1782頁(2005)、ならびにYinghui LuおよびJ. E. Michaels、「Feature Extraction and Sensor Fusion for Ultrasonic Structural Health Monitoring Under Changing Environmental Conditions」、IEEE Sensors Journal、第9巻、1462~1471頁(2009)に見ることができる。
【0008】
検査システムに及ぶ可能性のある、変化するEOC(特に温度)のもう1つの有害な影響として、システム自体によって発生し感知される波モードのばらつきが誘発されることがある。これは、(アクチュエータによって所望の信号とともに励起される望ましくない信号なので、ランダムノイズとは対照的に、複数の測定値を平均化することによってなくすことのできない)コヒーレントノイズの変化をもたらし、信号全体にわたって測定値にさまざまに影響を及ぼす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、信号処理の方法が提供される。方法は、所与の環境条件および/または動作条件の集合の下にある構造体を測定することから取得された信号を受信するステップであって、信号が、信号中での(例えば1つの変数を有する信号に沿った)位置に応じて変わる振幅値の集合を含む、ステップと、それらの振幅値のうちの少なくとも2つについて、振幅値を、信号中での振幅値の位置に従って、かつ所与の環境条件および/または動作条件に従って独立に調整するステップとを含む。したがって、(それらの振幅値のうちの少なくとも2つの)各振幅値が、信号中でのそのそれぞれの位置に従って、かつ所与の環境条件および/または動作条件に従って独立に調整される。
【0010】
これが、温度、負荷、内容物、被覆、および/または信号に影響を及ぼす可能性のある他の任意の因子の変化など、環境条件および/または動作条件の変化により生じることのあるコヒーレントノイズのばらつきの影響を低減させるかまたは抑制さえする助けとなることができる。
【0011】
信号は、1次元信号(すなわちただ1つの変数を有する)であってもよく、2次元信号(すなわち2つの変数を有する)であってもよい。信号中での位置は、(構造体に沿った距離などの1次元位置でもよく、構造体中でのx-y位置などの2次元位置でもよい)構造体中での位置に一意に対応してよい。
【0012】
方法は、信号中の振幅値のうちのいくつか、大多数、実質的に全て、または全ての、それぞれの振幅値を独立に調整するステップを含んでよい。振幅値は、振幅値の位置に応じて極性および/または大きさを調整することによって調整されてよい。
【0013】
信号は、構造体の弾性波測定から取得されてよい。弾性波は、好ましくは超音波である。弾性波は、音響波とすることもできる。信号は、好ましくは構造体のガイド波測定から取得され、より好ましくは構造体の超音波ガイド波(guided ultrasonic wave)測定から取得される。信号は、構造体のバルク波測定から取得されてもよい。信号は、構造体の電磁波測定から取得されてもよい。
【0014】
方法は、少なくとも2つの振幅値のそれぞれの振幅値を調整する前に、信号を前処理するステップをさらに含んでよい。信号を前処理するステップは、タイムストレッチ補償を実行するステップを含んでよい。
【0015】
方法は、信号が測定されたときの温度など、信号が測定されたときの環境条件および/または動作条件のうちの少なくとも1つを、信号から特定するステップをさらに含んでよい。方法は、タイムストレッチ補償を、スケーリングファクタを使用して実行するステップと、スケーリングファクタに基づいて温度を特定するステップとを含んでよい。温度は、ベースライン温度に対する温度とすることができる。
【0016】
上記は、トランスデューサ周波数応答の変化および/または温度依存の波減衰を補償するために使用することができる。
【0017】
方法は、タイムストレッチ温度補償を実行するステップと、タイムストレッチ温度補償をしたことによる周波数シフトを補償するステップとをさらに含んでよい。
【0018】
信号は、測定された信号の1つの成分または1つより多くの成分を含んでよい。1つの成分または1つより多くの成分は、測定された信号を独立成分分析などの信号分解法を使用して処理することによって取得されてよい。信号は、独立成分分析を実行した後に取得されてよい。
【0019】
方法は、異なる時間に取得された複数の信号について、本発明による方法を実行することを含んでよい。
【0020】
方法は、信号中での所与の位置についての調整された値の経時的な変化があるかどうかを判定するステップをさらに含んでよい。方法は、第1の時間と第2の時間との間の調整された値の変化が、所定の値を超えるかどうかを判定するステップを含んでよい。方法は、所与の位置についての調整された値が経時的に単調に変化するかどうかを判定するステップと、肯定的な判定に基づいて、ユーザに通知するための信号を生成するステップとを含んでよい。
【0021】
方法は、信号を受信する前に、較正フェーズにおいて、構造体を異なる環境条件および/または動作条件において測定することから取得された複数の信号を受信するステップと、複数の異なる位置のうちの各位置について、環境条件および/または動作条件の集合に対する振幅の関数を生成するステップであって、各関数が、所与の位置における振幅値を調整するために使用可能である、ステップとを含んでよい。
【0022】
方法は、測定を引き起こすステップと、測定を引き起こしたことに応答して信号を受信するステップとをさらに含んでよい。
【0023】
構造体はパイプとすることができる。構造体は、バー、レール、またはパイプなど、細長い構造体であってもよく、プレートや壁など、広がったプレート状構造体であってもよい。
【0024】
方法は、測定値の受信に応答して、すなわち新たな測定値が受信されるたびに、実行されてよい。あるいは、方法は、トリガに応答して少なくとも1つの測定値を受信した後に、例えば測定値のバッチが受信されるたびに、実行されてもよい。
【0025】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサに第1の態様の方法を実行させる、コンピュータプログラムが提供される。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様のコンピュータプログラムを記憶した非一時的とすることのできる機械可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品が提供される。
【0027】
本発明の第4の態様によれば、少なくとも1つのプロセッサと、メモリとを備え、少なくとも1つのプロセッサが、第1の態様の方法を実行するように構成された、装置が提供される。
【0028】
本発明の第5の態様によれば、構造体を測定し、測定信号を提供するためのセンサと、測定信号を受信するように、かつ測定信号から信号を取得するかまたは測定信号を信号として使用するように構成された、第4の態様による装置とを備える、検査システムが提供される。
【0029】
センサは、好ましくは、構造体上に永続的に取り付けられる。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態は、温度により誘発されるコヒーレントノイズのばらつきの影響を低減させるかまたは抑制さえしようとするものである。同時に、これらのいくつかの実施形態は、変化するEOCの1つまたは複数の他の直接的または間接的な結果を解決することもできる。本明細書において開示する方法は、(超音波ガイド波や音響ガイド波などの)弾性ガイド波に、(超音波バルク波や音響バルク波などの)バルク弾性波に、電磁ガイド波(guided electromagnetic wave)に、また多様な分野における、異なるモードを使用する他の形態のモニタリングシステムに適用できる可能性があるが、本方法については、基本ねじりモードT(0,1)に基づくパイプモニタリングシステムに適用されるものとして、本明細書において説明する。
【0031】
典型的には、パイプモニタリングシステムは、リングを通じて結合され、パイプの外面と接触する、トランスデューサアレイを用いる。市販のシステムのうちの圧倒的多数は、パイプ内に基本ねじり波モードT(0,1)を励起させるように設計されている。しかし、どんなエネルギー変換システム(transduction system)でも、そのエネルギーの大部分がセンサロケーションの周りで円周方向に伝播する円周方向モードや、主としてパイプに沿って移動する他のモードなど、他の望ましくないモードの同時励起が発生することがある。後者は、縦モードとたわみモードの両方があり得る。同じ欠陥部(imperfection)が、発生したそれらの望ましくないモードをトランスデューサがピックアップし得る原因にもなる。変化するEOCは、そのような欠陥部においてシフトを引き起こすことがあり、シフトは、発生し検出される望ましくないモードの(すなわちコヒーレントノイズの)相違を引き起こすが、それこそが、本明細書において開示する方法が低減し、さらにはなくしさえしようとするものである。
【0032】
本発明の第6の態様によれば、環境および他の変化の試験下にある構造体上の2つ以上の位置における構造ヘルスモニタリング測定値を、最初にさまざまな環境条件(EOC)にわたって信号を測定することと、試験構造体上の異なるロケーションに対応する信号の変化を評価することと、環境影響の補償関数を生成することと、補償関数を新たに取得された信号に適用して、関心ロケーションのいずれかにおいて構造変化が発生したかどうかについてより信頼性のある評価を行うこととによって、補償する方法が提供される。
【0033】
EOCとしては、温度、負荷および/または内容物、被覆、ならびに信号に影響を及ぼす他の因子があり得る。方法は、超音波ガイド波モニタリング、または信号が時間および/もしくは空間の関数である他の方法に使用されてよい。方法は、直接的信号測定値、または例えばICAを用いて処理した後の信号を処理することを含んでよい。方法は、トランスデューサ周波数応答、減衰、および/または周波数シフトなど、異なる影響を補償してよい。
【0034】
本発明の第7の態様によれば、処理デバイスによって実行される方法であって、いくつかの異なるEOCにわたって取られた測定値の取得後に、EOCにより誘発されるコヒーレントノイズのばらつきを、構造体全体に対して(すなわち信号全体に対して一度に)ではなく構造体上の異なる位置において(異なる信号サンプルにおいて)独立に補償することによって抑制する方法が提供される。
【0035】
方法は、信号を構造体から取得された少なくとも1つの以前の信号と比較することによって取得された変化に基づく、構造体中の1つまたは複数の構造変化エリアの検出をさらに含んでよい。構造変化エリアの検出は、複数の信号にわたって残差の進展を解析することによってより明らかになり得、この進展は例えば単調傾向を示すことがある。構造変化には、構造体の劣化が含まれてよい。
【0036】
温度-振幅曲線および他のEOC-振幅曲線を生成するために、タイムストレッチ温度補償アルゴリズムまたはタイムストレッチEOC補償アルゴリズムを適用した結果として得られるスケーリングファクタなど、温度またはEOCの間接的指標が使用されてよい。
【0037】
本手順は、独立成分分析、特異値分解、また場合によっては他のものなど、波形に適用される特殊信号処理技法から導出される識別特性に適用されてよい。
【0038】
方法は、温度の変動および/または他のEOCの変動による(信号ピーク振幅、信号テール(tail)、および信号位相シフトなどの)トランスデューサ周波数応答変化の影響も補償されることをさらに含んでよい。
【0039】
方法は、温度依存の波減衰および/または他のEOC依存の波ばらつきの影響も補償されることをさらに含んでよい。
【0040】
方法は、タイムストレッチ温度補償アルゴリズムおよび/または別のタイムストレッチEOC補償アルゴリズムを適用したことによる周波数シフトの影響も補償されることをさらに含んでよい。
【0041】
次に、本発明のいくつかの実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】パイプ、ならびにトランスデューサアセンブリ、ガイド波計測器、およびコンピュータシステムを含むガイド波試験システムの概略図である。
図2図1に示すコンピュータシステムの概略ブロック図である。
図3】構造体の完全性を評価するプロセスのフローチャートである。
図4】パイプモニタリングシステムによって記録された信号を示す図である。
図5】センサ付近のパイプ上で測定された温度のプロットである。
図6】2つの別個の温度におけるコヒーレントノイズを比較した様子を示す図である。
図7】振幅補償を、パイプの欠陥のないエリア内のサンプリング点に適用した様子を示す図である。
図8】振幅補償を、欠陥に対応するサンプリング点に適用した様子を示す図である。
図9】振幅補償を、独立成分分析を使用することによって計算された、パイプの欠陥のないエリア内にそのエネルギーがある成分の重み関数に適用した様子を示す図である。
図10】振幅補償を、独立成分分析を使用することによって計算された、欠陥の識別特性である成分の重み関数に適用した様子を示す図である。
図11】模擬減衰の導入に関連するステップを示す図であり、図11aおよび図11bは、2つの信号およびそれらのそれぞれに対応する減衰曲線を示し、図11cおよび図11dは、図11aおよび図11bに示したのと同じ2つの信号の、模擬減衰を適用した後の様子を示し、図11eおよび図11fは、同じ2つの信号の、端部パイプ反射にそれらを正規化した後の様子を示す、図である。
図12】振幅補償を、模擬減衰によって改変されたデータセットに対して独立成分分析を使用することによって計算された、パイプの欠陥のないエリア内にそのエネルギーがある成分の重み関数に適用した様子を示す図である。
図13】信号ストレッチによる周波数シフトの影響を分離するように作成された、端部パイプ反射を含む模擬データセットを示す図である。
図14】振幅補償を、模擬端部パイプ反射に対応するサンプリング点に適用した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
システム
図1を参照すると、パイプ2または構造体の形態をとる構造体2を、超音波ガイド波を使用して検査するためのシステム1が示されている。検査システム1は、好ましくはパイプ2上に永続的に取り付けられるトランスデューサアセンブリ3(または「センサ」)、ガイド波計測器4、および信号処理システム5を含む。構造体は、プレート、パネル、またはレールなど、広がった構造体の形態をとってよい。トランスデューサアセンブリ3は、検査リングの形態をとってよいが、他の形態のトランスデューサアセンブリ3が使用されてもよい。
【0044】
トランスデューサアセンブリ3は、バンド10(もしくは「カラー(collar)」)または他の適切な構造体を備え、これは、パイプ2内に超音波13を発生させ、かつ欠陥15から反射された波14を検出するための、トランスデューサ12からなる第1および第2のアレイ111、112を支持する。トランスデューサアレイがただ1つしかなくてもよい。トランスデューサ12は、好ましくは圧電トランスデューサの形態をとり、適切なトランスデューサの一例は、参照により本明細書に組み込まれているGB2479744Aに見ることができる。各アレイ111、112は、例えば16個または32個のトランスデューサ12を備えてよいが、16個より少ない、16個から32個の間の、または32個よりも多くのトランスデューサ12があってもよい。トランスデューサ12が、セクタまたはチャネル(図示せず)、例えば8つのチャネル(図示せず)にグループ化され、各チャネル(図示せず)が2個から9個の間の、またはより多くのトランスデューサ12から構成されてよい。
【0045】
この例では、各アレイ111、112は、検査リング3が取り付けられるとトランスデューサ12がパイプ2の周縁部に配設されるように配列されている。第1および第2のアレイ111、112は、検査リング3が取り付けられると2つのアレイ111、112がパイプ2の長手方向軸17に沿ってオフセットされるように、バンド10の幅にわたってオフセットされている。適切な検査リングの例としては、Guided Ultrasonics Ltd.(London、UK)から入手可能なCompact(商標)リング、High Definition(HD)ソリッドリング、gPIMS(登録商標)リング、および他のリングがある。それぞれにトランスデューサアレイがただ1つしかない2つの別々のリング3を使用することができる。パイプの場合であっても、検査リング3が必ずしも使用されるとは限らない。プレートの場合には、適切な平坦なトランスデューサアレイを使用することができ、すなわちリングは使用されない。
【0046】
ガイド波計測器4は、rf信号18を発生させることの可能な信号発生器(図示せず)を含み、このrf信号18は適切な周波数を有し、それは通常数十キロヘルツ(kHz)程度であり、このrf信号18はまた、例えば適切にウィンドウ生成されたkサイクルトーンバーストなど、適切な形状を有し、ただしkは1以上の正の数であり、好ましくは範囲3≦k≦10内の値をとる整数または半整数であることが好ましく、ここで、適切なウィンドウ関数はガウス関数とすることができる。信号発生器(図示せず)は、rf信号18を送信器トランスデューサ12に供給し、送信器トランスデューサ12は、信号18をパイプ壁2内のガイド波に変換する。
【0047】
受信器トランスデューサ12は、受信したガイド波を電気信号19に変換する。受信器トランスデューサ12は、電気信号19を信号受信器(図示せず)に供給する。信号受信器(図示せず)は、増幅器(図示せず)、および電気信号19のデジタル化信号を生成するアナログ-デジタル変換器(図示せず)を含んでよい。
【0048】
ガイド波計測器4と信号処理システム5は、単一のユニットに統合されてよい。信号処理システム5は、ラップトップ、タブレット、または他の形態のポータブルコンピュータの形態をとってよい。信号処理システム5は、遠隔に、例えばサーバファーム内に位置付けられ、システムの残りに、例えばインターネットを含んでよい通信ネットワーク6を介して、接続されてよい。適切なガイド波計測器の例としては、Guided Ultrasonics Ltd.(London、UK)から入手可能なG4 Mini (Full)、Wavemaker G4、gPIMS Mini Collector、および他の計器がある。
【0049】
図2も参照すると、信号処理システム5は、バスシステム24によって相互接続された少なくとも1つのプロセッサ21、メモリ22、および入力/出力モジュール23を備えるコンピュータシステム20によって実現される。システム20は、グラフィック処理ユニット25およびディスプレイ26を含んでよい。システム20は、キーボード(図示せず)やポインティングデバイス(図示せず)などのユーザ入力デバイス27、ネットワークインターフェース28、ならびに例えばハードディスクドライブおよび/またはソリッドステートドライブの形態をとる記憶装置29を含んでよい。記憶装置29は、ガイド波試験ソフトウェア30、測定データ31およびベースラインデータ32、ならびに補償曲線33を記憶する。ガイド波計測器4と信号処理システム5が、同じ場所に位置付けられる(例えば信号処理システム5がラップトップコンピュータの形態をとり、それが計測器4に直接接続される)場合、または単一のユニットに統合される場合、コンピュータシステム20は、ガイド波計測器4を制御するために使用されてよく、したがって、記憶装置29は、ガイド波試験ソフトウェア(図示せず)を含んでよい。
【0050】
構造体モニタリングシステムの一例については、参照により本明細書に組み込まれている、D. N. Alleyneら、「Rapid, long range inspection of chemical plant pipework using guided waves」、AIP Conference Proceedings、第557巻、180から187頁(2001)にも記載されている。
【0051】
システム1は、パルスエコーモードのガイド波13、14を使用して、パイプ2内の亀裂、腐食、および他の欠陥(図示せず)の発達を検出および/またはモニタリングするようにパイプ2を検査するために使用されてよい。
【0052】
温度補償方法
コヒーレントノイズの温度依存のばらつきを補償する方法は、好ましくは、例えばJ. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、前掲文献に記載されているプロセスを使用して温度依存の波速を補償した後の測定された信号の形態をとる、測定された信号に、または独立成分分析(ICA)などの信号処理技法の結果として得られる識別特性に、適用することができる。参照により本明細書に組み込まれている、C. Liuら、「Efficient generation of receiver operating characteristics for the evaluation of damage detection in practical structural health monitoring applications」、Proceedings of the Royal Society A Mathematical Physical Engineering Sciences、第473巻(2017)を参照されたい。しかし、特異点分解など、他の形態の信号処理も使用されてよい。
【0053】
次に、図3を参照して、コヒーレントノイズの温度依存のばらつきを補償する方法について説明する。
【0054】
方法は大まかに、2つのフェーズ(または「ステージ」)、すなわち較正フェーズ(ステップS1からS3)とモニタリング動作フェーズ(ステップS4からS7)に分割されている。
【0055】
較正フェーズでは、発生した信号が初期状態にある(パイプなどの)構造体2の中をさまざまな時間および温度範囲TLOW~THIGH内のさまざまな温度において伝播することを示すnセットの波形データを、ガイド波計測器4が取得する(ステップS1)。これが、いわゆる「ベースライン」を形成するために使用される。波形データのセットの数nが大きいほど、ベースラインがより正確になる。好ましくはn≧2であり、より好ましくはn>10である。この初期状態において、構造体は欠陥のないものと見なされる。これらの波形の取得前または取得中に欠陥が既に存在している場合、方法は、事前に存在する欠陥について示唆しないが、それでもなお、ベースライン後に起こるさらなる損傷増大を検出することが可能である。任意選択で、ガイド波計測器4は、選択された信号S1を基準にしてベースライン信号のタイムストレッチ温度補償を適用してもよい(ステップS2)。例えば、これは、J. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、前掲文献に記載されている方法を適用することによって達成されてよく、この方法を使用すると、さまざまな波形にわたって、構造体2中の特定のロケーションにそれぞれが対応する信号サンプル同士をより良好に位置整合させることができる。信号処理システム5が、構造体2に沿った各位置dについての信号振幅-温度曲線33の集合を計算する(ステップS3)。これは、ベースラインデータに、何らかの次数の多項式など、適切なあてはめ曲線をあてはめることによって、達成される。いくつかの例では、ガイド波計測器4が、構造体2に沿った各位置dについての信号振幅-温度曲線33の集合を計算してよい。
【0056】
モニタリング動作フェーズでは、構造体2が何らかの温度Tiにおける未知状態にあるときに、ガイド波計測器4が波形Siを取得する(ステップS4)。温度Tiは、範囲TLOW≦Ti≦THIGH内にあってよい。温度Tiが、ベースライン温度範囲の外側にある場合、精度は、あてはめ曲線の外挿の精度に応じて変わる。未知状態では、1つまたは複数のロケーションにおいて損傷が発生している可能性がある。
【0057】
ガイド波計測器4は、ベースライン信号に適用された場合、以前に選択された信号S1を基準にしてベースライン信号に適用されたタイムストレッチ補償アルゴリズムと同じものをSiに適用してよい(ステップS5)。
【0058】
ガイド波計測器4は、Siの各信号サンプルにおいて、そのサンプルについて計算された曲線によって予測された、Tiに等しい温度にとって有効な値を、減算する(ステップS6)。ガイド波計測器4は、構造体2の著しい変化があったかどうかを、各信号サンプルにおける残差に注目することによって評価する(ステップS7)。例えば、較正フェーズにおいて経時的に見られる残差または成分振幅(すなわちノイズ)のばらつきよりも大きな変化を、しきい値として使用することができる。
【0059】
ガイド波計測器4は、構造的完全性を継続的にモニタリングするために、新たな信号の取得を継続する(ステップS4からS7)。
【0060】
後により詳細に説明するように、取得された波形には、ノイズ低減処理が実行される前に、独立成分分析などの信号分解処理アルゴリズム、および/または温度補償など、他の信号処理が適用され得る。
【0061】
信号振幅温度補償
次に、図1から図4を参照して、コヒーレントノイズの温度依存のばらつきを補償する方法を適用する第1の例について説明する。
【0062】
パイプモニタリングシステム1を、この例では、8インチ、スケジュール40のパイプ2上に取り付け、T(0,1)モードおよび25.5kHzを中心とする周波数を使用するように設定する。送信信号13は、8サイクルトーンバーストである。センサ3のロケーションを基準として使用して、関心方向に、パイプは長さ4.5mであり、1.5mにおいて溶接部(図示せず)を特徴として備えていた。379番目の測定後、2.5mにおいて欠陥を人工的に導入し、欠陥は次第に深まっていった。欠陥が存在することによる%単位の断面積損失が、図8に(鎖線の形で)プロットされている。
【0063】
図4では、信号が、端部パイプ反射に対して正規化され、J. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、前掲文献に記載されているプロセスを使用して温度依存の波速を補償するようにストレッチされている。サンプル番号は、T(0,1)波速を使用することによってセンサ3からの距離に変換されている。
【0064】
図5も参照すると、パイプ2は、加熱および冷却サイクルにかけられる。図5は、測定番号に対するセンサのロケーションにおいて測定された温度を示す。温度は、約14℃から40℃の間を変動する。
【0065】
図6も参照すると、2つの信号、すなわち温度36℃および20℃において記録された、センサ3からの距離dに対する正規化された信号振幅のばらつきの、拡大したプロットが示されている。図6は、この2つのケースにおけるコヒーレントノイズの相違を示す。1.5mにおける溶接部より前では、ノイズは主に円周方向モードによるものであると推論することができる。溶接部より後では、より遅いたわみモードおよび縦モードのコヒーレントノイズへの影響(contribution)も存在する。本明細書において説明する方法は、このノイズを補償することが可能であり、また下に開示する他の現象を、その発生源についてのどんな事前の知識も必要とせずに補償することが可能である。
【0066】
先に述べたように、最初のN回の測定(すなわちベースライン)ではパイプ2内に損傷成長が発生しないと仮定している。そうではなく、ベースラインの取得中にいくらかの損傷が成長する場合、その発生に関連する傾向は取り除かれてよいが、それでもなお、ベースライン後に起こるさらなる損傷増大が検出される。パイプにその初期状態において損傷がないことが必要とされているのではなく、新たな著しい成長が発生していないことが必要とされているにすぎない。ベースライン測定は、モニタリングされているパイプ2の通常動作の際に期待される温度範囲にわたって行われることが好ましい。温度がこの範囲を超えた場合、範囲外の測定値は解析から除外され得る。
【0067】
図4図7a、および図7bを参照すると、パイプに沿った各ロケーション(すなわちd=d0、d1、d2、...、dN)について、利用可能なベースラインデータをあてはめることによって、温度に対する振幅の補償曲線330、331、332、...、33Dが計算される。各曲線33のゴールは、その当初の条件にあるパイプについての、その特定のロケーションおよびベースライン範囲にわたる各温度値における信号の期待される振幅を定量化することである。温度の測定値が利用可能ではない場合、J. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、前掲文献に記載されているプロセスを使用することによって計算されたストレッチファクタなど、温度の他の間接的指標を使用することもできる。
【0068】
あてはめ曲線330、331、332、...、33Dは、計算された後、当該曲線によって定まる当該温度における量を各サンプリング点(すなわちパイプ上のロケーション)における測定された振幅から減算するために使用することができる。この手順を「振幅補償」と呼ぶ。
【0069】
図7bおよび図7c、ならびに図8bおよび図8cは、2つの異なる位置(すなわちd=1.83mおよびd=2.71m)について、補償前と補償後の測定番号に対する振幅のプロットを示す。各ケースにおいて、測定1から145をベースラインとして使用した。
【0070】
図7aから図7cは、1.83mにおけるサンプルのケースを示し、これは溶接部34(図4)からの反射のテールによって依然として支配されており、一方、図8aから図8cは、2.71mにおけるサンプルを示し、これは、欠陥が380番目の測定時に導入された後でそこからの反射を呈することが期待される。
【0071】
図7aおよび図8aのそれぞれの凡例内に記したように、各サンプルから入手可能なデータに対する最良あてはめ(すなわち最小2乗最良あてはめ)として、3次多項式が選択される。さまざまな次数の多項式またはさまざまなタイプのあてはめ曲線を使用することができる。
【0072】
図7b図7c図8b、および図8cは、考慮している2つのサンプリング点(ロケーション)についての経時的な振幅ばらつきを、振幅補償を適用する前に利用可能な傾向を振幅補償を適用した後に取得された傾向と比較して示す。振幅補償を適用する前はいかに振幅が温度と強い相関関係をもって変動するかを示すために、温度プロファイルもこれらの傾向と重ね合わせてある。
【0073】
対照的に、補償を実行した後は、変動は大いに抑制される。結果として得られる図7cの振幅履歴は、パイプの欠陥のないエリア内に期待される平坦な傾向を示し、一方、図8cの振幅履歴は、単調に増加する傾向を示し、それは、既知の欠陥成長(測定380から456の間で概略線形成長であった)を示すグラフとほぼ一致する。もっぱら変化する温度による変動を取り除いた後で、実際の損傷の発生による単調な傾向を検出することがはるかに容易になることは、明らかである。
【0074】
独立成分分析処理への適用
補償は、ICAなどの特殊信号処理技法の結果として得られる識別特性にも適用することができる。ICA結果を扱うとき、振幅補償は、各成分に関連する重み関数に適用される。実際のところ、重み関数は、特定の成分の測定範囲にわたる傾向を呈する。
【0075】
次に、図9aから図9d、および図10aから図10dを参照して、図4に示す信号にICAを適用することから取得された2つの成分を処理する例について説明する。
【0076】
図9aは、パイプの、溶接部直後の欠陥のないエリア内(図7で考慮したサンプリングポイントの付近およびその周辺)にそのエネルギーが位置する、成分を示す。上に説明したように、この場合も測定1から145を含むように選択されたベースライン領域内の、その重み関数から入手可能なデータに対する(最小2乗の意味での)最良あてはめとして、3次多項式が選択される。図9cおよび図9dに示す結果は、図7bおよび図7cに示す結果に似ている。同様に、図10aは、欠陥からの反射をそのエネルギーが呈し、図8を生成するために選択されたサンプリング点と同じエリア内にある、成分を示す。この場合も、図10cおよび図10dに示す結果は、図8bおよび図8cに示す結果と十分に一致している。
【0077】
トランスデューサ周波数応答変化の補償
エネルギー変換システムはしばしば共振付近で動作し、というのもそれにより、より大きな振幅がもたらされるためである。しかし、それらの周波数応答が温度に敏感な場合がある、ということが欠点である。例えば、図4は、圧電システムからの結果を示し、この場合、ウィンドウ生成された8サイクルトーンバーストで励起されたときのトランスデューサによって発生した信号が、明らかに、8を上回るサイクルを有し、テールを呈している。同様の影響は、EMATシステムの場合にも、LCR回路が事実上存在するため見られる。温度依存の共振挙動は、図6にも観察することができ、この場合、20℃において記録された信号中の溶接部からの反射が、36℃において記録された信号中の溶接部からの反射よりも全体的に高いエネルギーを有する。具体的には、そのような温度依存の共振挙動の3つの別個の同時影響、すなわち、異なる信号ピーク振幅、ピーク値後の信号テールの異なる長さ、および信号位相シフトが、通常見られる。これらの3つの影響はそれぞれ、さまざまな温度において取られた測定値にわたる信号振幅ばらつきを生じさせる場合がある。本明細書において説明する方法は、これらの3つの影響も補償することができ、というのも、それらが引き起こす振幅ばらつきは、任意の所与の温度において規則的に繰り返すためである。実際のところ、溶接部反射のテール内のサンプルおよびICA成分の傾向を示す図7図9はどちらも、いかにこれらの影響が首尾よく抑制され得るかを示している。
【0078】
減衰の影響
ガイド波ベースのモニタリングシステムのいくつかの応用例は、通常は温度依存である強い信号減衰による影響を受ける。これは、例えば、ビチューメンなどの粘性層で被覆したパイプ上に取り付けられた、T(0,1)モードを使用するパイプ検査の場合にそうである。典型的には、この現象を補償しようとする取り組みの中で、「距離-振幅補正」(DAC)曲線と呼ばれる減衰曲線(各測定について異なるもの)を計算することが必要となる。各DAC曲線は、距離の指数関数であり、(溶接部などの)既知の特徴物からの反射に関する類似の振幅を与えることによって構築することができる。この手順は正確な結果をもたらさないことがあり、というのも、既知の特徴物が不足している可能性があるため、および/または信号が特徴物を通過するたびに、信号がエネルギーをいくらか損失し、それがDACの降下(drop)として正しく考慮される必要があるためである。これらの降下を定量化することは簡単ではない。しかし、本明細書において説明する補償プロセスは、DAC曲線を計算する必要なく、温度依存の減衰も補償する(が、実際的な観点からは、試験を較正するために少なくとも1つのDAC曲線が計算される傾向にある)。これは、上に説明したのと同じ用いられたデータセットを、温度依存の減衰の影響を模擬するように(人工的に)改変した後で、それを使用して示すことができる(というのも、試験されている被覆なしパイプは、減衰による影響を実質的に受けなかったためである)。具体的には、各信号に次の形態の指数関数
f(d,T)=e-α(T)・d (2)
を乗じ、上式でTは温度であり、dはセンサからの距離であり、α(T)は、任意選択されるが温度の上昇に伴って線形に増加するようなものである減衰率を表す。
【0079】
図11aから図11fはこのプロセスを、それぞれ温度36.7℃および13.6℃において記録された測定1および145にそれが適用された様子を示すことにより、示している。2つの信号のそれぞれに、最初にその減衰曲線を乗じた結果、図11cおよび図11dに示す信号がもたらされ、次いで、2つの信号のそれぞれを、図11eおよび図11fに示す端部パイプ反射に対して正規化している。模擬減衰により、信号振幅の大幅な相違が生じている(例えば1.5mにおける溶接部反射)。
【0080】
図12は、図9を生成するために先に考慮された成分の近傍にそのエネルギーがある、(新たに形成されたデータセットに対してICAが計算された結果として得られる)ICA成分の重み関数に補償プロセスを適用すると、減衰によって誘発された振幅ばらつきが首尾よく抑制されることを示す。
【0081】
信号ストレッチによる周波数シフトの補償
さまざまなEOCにおいて取られた測定値を扱うとき、最初のステップは通常、温度依存の波速を補償するというものである。典型的な手法には、ストレッチファクタ(stretching factor)の計算が関与し、このストレッチファクタは、さまざまな温度において取られた測定値にわたって波速の一律の値を得るように、各信号を伸張または圧縮するために使用される。例えば、J. B. HarleyおよびJ. M. F. Moura、「Scale transform signal processing for optimal ultrasonic temperature compensation」、前掲文献に記載されている方法が、図4にプロットされている信号を取得するために使用される。
【0082】
(かなり異なる波速を引き起こす)大きな範囲の温度ばらつきに対処するときに特に重要な問題は、伸張/圧縮された信号が、さまざまな温度においてより低い周波数/より高い周波数を呈する傾向にあることである。これは、各サンプルの経時的な振幅傾向をプロットすると、変動として現れる。これらの変動は、任意の所与の温度において規則的に繰り返すので、本明細書において説明する補償プロセスはこの影響も補償することができる。しかし、この影響が上に説明した共振の影響と相まった、上に説明したものなどのデータセットに対して、補償を認識することは困難である。
【0083】
したがって、信号ストレッチによる周波数シフトの所望の影響を分離するように、模擬データセットを作成する。そのようなデータセットは、およそ4.4mの長さのパイプを表し、その唯一の特徴は、25.5kHzの8サイクルトーンバーストである端部パイプ反射であり、したがって、共振によるどんな変化も無視されている。さまざまな信号に、実験データセット内のさまざまな温度において測定された波速値を与えることによって、上に説明した実際の実験と同じ温度プロファイルを維持している。
【0084】
図13aは、信号ストレッチ後の模擬測定値を全て重ね合わせたものを示し、一方、図13b図13cは、測定1および145からの端部パイプ反射の拡大したプロットを提示したものであり、信号ストレッチによって引き起こされた周波数シフトを明らかに示している。
【0085】
図14は、このプロセスがこの影響をいかに首尾よくなくすことができるかを、大まかに端部パイプ反射の3つ目のサイクル内にある距離4.49mにおけるサンプリング点のケースを示すことによって実証している。図は、振幅補償を適用する前に、測定された振幅がいかに温度プロファイルと厳密に一致してばらつくかを示しており、一方、補償後の振幅傾向は、基本的には、水平軸上のフラットな線である。
【0086】
修正
上に説明した実施形態にさまざまな修正が行われてよいことが理解されよう。そのような修正には、ガイド波検査システムおよびその構成部品の設計、製造、および使用において既に知られており、本明細書において既に説明した特徴の代わりにまたはそれに加えて使用されてよい、等価な特徴および他の特徴が関与してよい。ある実施形態の特徴は、別の実施形態の特徴によって置き換えられるかまたは補われてよい。
【0087】
上に説明した例では、温度の変化に基づく処理について説明している。しかし、負荷およびパイプ内容物、ならびにそれらの組合せなど、他の環境条件が使用されてよい。
【0088】
構造体は、多くの異なるタイプの変化サイクルにかけられてよいこと、また温度変化の例は、限定するものではないことが、理解されよう。
【0089】
信号中の全ての振幅値が、本明細書において説明したように処理される必要があるとは限らない。例えば、振幅値(または「データポイント」)の部分集合が処理されてよい。これが、必要な計算リソース量を低減させ、かつ/または処理速度を増大させる助けとなることができる。データポイントの部分集合は、構造体の関心領域に対応する、データポイントの部分範囲の形態をとってよい。部分集合は、n個の振幅値ごとに(ただしnは、2、3、または4など、正の整数である)をサンプリングすることによって取得されてよい。
【0090】
請求項は、本出願では、特徴の特定の組合せに対して策定されているが、本発明の本開示の範囲は、それが任意の請求項において現在特許請求されているものと同じ発明に関係するかどうかに関わらず、またそれが本発明が軽減するのと同じ技術的課題のうちのいずれかまたは全てを軽減するかどうかに関わらず、本明細書に明示的もしくは黙示的に開示した任意の新規な特徴もしくは特徴の任意の新規な組合せ、またはそれらのどんな一般化したものも含むことを理解されたい。本出願人らは、本出願の審査または本出願から派生する任意のさらなる出願の審査の間にそのような特徴および/またはそのような特徴の組合せに対して新たな請求項が策定されることがあることをここに通知する。
【符号の説明】
【0091】
1 検査システム、パイプモニタリングシステム
2 パイプ、構造体、パイプ壁
3 トランスデューサアセンブリ、検査リング、センサ
4 ガイド波計測器
5 信号処理システム
6 通信ネットワーク
10 バンド
111 第1のアレイ
112 第2のアレイ
12 送信器トランスデューサ、受信器トランスデューサ
13 超音波、ガイド波、送信信号
14 ガイド波
15 欠陥
17 長手方向軸
18 rf信号
19 電気信号
20 コンピュータシステム
21 プロセッサ
22 メモリ
23 入力/出力モジュール
24 バスシステム
25 グラフィック処理ユニット
26 ディスプレイ
27 ユーザ入力デバイス
28 ネットワークインターフェース
29 記憶装置
30 ガイド波試験ソフトウェア
31 測定データ
32 ベースラインデータ
33 補償曲線、信号振幅-温度曲線
330、331、332、...、33D 補償曲線、あてはめ曲線
34 溶接部
d 位置、センサ3からの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14