(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】認知障害の治療に使用するための3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/57 20060101AFI20240705BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240705BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240705BHJP
C07J 7/00 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
A61K31/57
A61P25/28
A61P25/00
C07J7/00
(21)【出願番号】P 2021534632
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2019085927
(87)【国際公開番号】W WO2020127468
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-12
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521259677
【氏名又は名称】アエリス ファルマ
【氏名又は名称原語表記】AELIS FARMA
【住所又は居所原語表記】Institut Francois Magendie, 146, rue Leo Saignat, 33077 Bordeaux, France
(73)【特許権者】
【識別番号】515010235
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ボルドー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BORDEAUX
【住所又は居所原語表記】35, Place Pey Berland, F-33000 Bordeaux, France
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ピアッツァ,ピア-ヴィンチェンツォ
(72)【発明者】
【氏名】ファブレ,サンディ
(72)【発明者】
【氏名】モンルジュン,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】メトナ,マチルド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレー,モニーク
(72)【発明者】
【氏名】ルヴェスト,ジャンーミッシェル
(72)【発明者】
【氏名】コタ,ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】マルシカーノ,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】マリゲット,アリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】オザイタ,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】マルドナド,ラファエル
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-515361(JP,A)
【文献】特表2006-525298(JP,A)
【文献】特表2010-531874(JP,A)
【文献】特表2016-501871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
C07J 1/00-75/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知障害の治療における使用のための、式(I):
【化1】
式(I)
の化合物を含
み、
前記認知障害が、加齢に伴う認知機能低下と関係する認知障害、又はダウン症候群又は脆弱X症候群より選択される神経発達障害である医薬組成物。
【請求項2】
前記認知障害が加齢に伴う認知機能低下と関係する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記認知障害が
ダウン症候群又は脆弱X症候群より選択される神経発達障害である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記神経発達障害
がダウン症候群
である、請求項
1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記神経発達障害
が脆弱X症候群
である、請求項
1又は3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記化合物が経口経路、非経口経路、静脈内経路、皮下経路、鼻内経路又は筋肉内経路から選択される経路で対象者に投与される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記化合物が1μg~1000mgの範囲内の用量で対象者に投与される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は精神障害の分野に関し、特に認知障害の分野に関する。本発明は、活性プレグネノロン代謝産物に代謝されることのない特定のプレグネノロン誘導体「3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン」(3Bn17MeP)に関し、認知障害の治療のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
認知障害は、個体の認知機能の損傷をもたらし、治療しなければ、独立した社会生活が困難又は不可能になる疾患と定義される。
認知障害は、学習と記憶(例えば、短期及び長期記憶、記憶の獲得、統合、想起及び認識)、遂行機能(例えば、作業記憶、認知柔軟性、意思決定)、複雑性注意、言語、知覚-運動能力又は社会的認知を含む認知機能領域の損傷に関する。認知機能は、個体の全体的機能に必要である。このことから、認知障害は、個人的、学問的又は専門的な社会的達成に影響を及ぼし、究極的帰結として自律性を喪失する。
認知障害は重い異質性疾患により起こりえて、生涯のあらゆる段階で発現する可能性がある。例えば認知障害は遺伝的出生欠陥、物理的な脳損傷、加齢に伴う神経変性疾患又は認知低下の結果でありうる。
【0003】
精神疾患の診断・統計マニュアル5版(DSM-5TM)を基にして、認知障害は発達と一生を考慮して区別された2つの疾患カテゴリーである神経発達障害と神経認知障害から成る。
神経発達障害は初期発生期(つまり、小学校入学前)に発現する精神障害の一群である。典型的には神経発達障害は遺伝的出生欠陥(例えばダウン症候群、脆弱X症候群)、発達異常(例えば脳奇形)、母体の疾患(例えば胎盤疾患)、又は周産期環境因子(アルコールへの胎児暴露)により起こりえる。
神経発達障害は知的障害(intellectual disabilities)、適応及びコミュニケーション障害により特徴付けられる。神経発達障害のヒトへの影響は認識機能障害の重症度で変わるが、常に個人的、社会的及び学術的活動を阻害する。例えば知的障害の最も一般的な遺伝的原因であるダウン症候群の場合では、認識機能障害は低下した記憶と遂行機能により明らかになる(Griecoら,2015)。言語と文字の習得が遅れ、また成人における精神年齢は知能指数70未満の8歳児を超えない。結果としてダウン症候群のヒトは依存度が高いので、例えば特定で個別化した教育サポートを必要として、高い割合で(例えば米国では50%)失業状態となる。半数以上のダウン症候群のヒトは社会的関係の形成において非適応行動及び/又は困難を経験する(Griecoら,2015;Kumin and Schoenbrodt,2016)。
神経発達障害の多くの例がみられる。その中で知的障害はダウン症候群を有する全集団の1%が罹患しており、これは1‰の症例である(DSM-5TM)。しかし、今のところ神経発達障害により誘発された認識機能障害を治療する承認された薬剤は存在しない。
【0004】
・神経認知障害は以前に達成した認知レベルからの低下を示して、コア認知欠損により特徴付けられる精神障害の一群である。神経認知障害の病因には神経変性疾患(例えばアルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、パーキンソン病)、血管疾患、外傷性脳損傷、物質/医薬品の使用、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染又はプリオン病が挙げられる。
神経認知障害は患者の神経認知障害の影響重症度を基にして軽度(軽度の認識機能障害とも呼ばれる)又は重度(認知症とも呼ばれる)と見なせる。
重度の神経認知障害は介助者なしには勘定の支払い、又は、服薬の継続などの日常活動が困難である。軽度の神経認識機能障害の患者は大変な苦労と、代償戦略(DSM-5TM)の採用で独立性を確保している。
神経認知障害は多くの疾患により起こりえるので、世界人口における有病率の推定が困難である。しかし高齢者集団において重度の神経認知障害は最大で2%までの65歳の集団に、85歳では30%に影響を与える。軽度の神経認知障害の有病率は65歳では10%に、70歳以上では25%に達する(DSM-5TM)。神経認知障害の頻度は世界人口が高齢化する中で増加している。従って認知機能を改善する治療は非常に待ち望まれている。
【0005】
現在、薬理学的介入がアルツハイマー病及びパーキンソン病に伴う認知低下を限定又は遅延するために承認される。これらはアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えばドネペジル、リバスティグミン、ガランタミン)、及びグルタミン酸作動性N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体(メマンチン)の阻害剤である。患者の有効性と耐性に関する最新の試験は異なる国で実施されている(Haute Autorite de Sante,2016;National Institute for Health and Care Excellence,2011;Bretonら,2015)。これらの薬剤は下に記載の理由で治療効果が無い、又は弱いと複数の研究により示されている:
- 認知損失の限定又は遅延における長期効力の欠如
- 認知損失の限定又は遅延におけるゼロから若干の短期効力
- 認知能力改善において効力なし
- 有害作用を無視できないリスク;消化性合併症、心血管合併症、及び神経精神学的合併症が報告されている。このような有害作用は高頻度であり、最高で30%の治療中断になる(Haute Autorite de Sante,2016)。
【0006】
加えて両方の薬理学的クラスからの化合物は神経発達障害患者で試験されているが、例えばダウン症候群及び脆弱X症候群では正の治療効果は認められない(Hanneyら,2012;Kishnaniら,2010;NCT01120626;NCT00584948,https://clinicaltrials.gov/)。
このことから有効かつ安全な薬理学的選択肢が認知障害治療に必要である。
エンドカンナビノイドが受容体を活性化するために結合する部位である、オルソステリック結合部位の阻害を介したCB1受容体の活性を遮断する化合物(オルソステリックアンタゴニスト)を使用すれば、脆弱X症候群での認知欠損を改善することが示されている(Busquets-Garciaら,2013)。このような化合物の1つであるリモナバント(rimonabant)は商品名Acomplia(商標登録)として販売されている。遺憾ながらリモナバントなどの利用可能なオルソステリックアンタゴニストは受容体の活動全体を阻害し、また、CB1受容体の逆アゴニストとしても作用可能であり、具体的にはCB1の活性化を阻害するだけでなく受容体の逆シグナル伝達応答を誘導する。この逆アゴニスト作用と受容体活性の全阻害の結果として、オルソステリックCB1アンタゴニスト投与を基にした利用可能な方法には深刻な一連の有害作用が存在する。これらの有害作用が原因でAcomplia(商標登録)の商品化は中断され、CB1のオルソステリック部位を阻害する別の方法の開発は停止している。
【0007】
オルソステリックCB1アンタゴニスト、特にAcomplia(商標登録)は、認知障害の治療ツールとして非実用的とする下記の既知の有害作用を有する:
1.報酬系の全範的混乱を示す食物摂取を低下させる
2.動物において不安関連行動を、ヒトにおいて不安を誘発する
3.動物において鬱関連行動を、ヒトにおいて鬱を誘発する
4.安全性薬理学及び毒性研究における痙攣と全般的行動及び臨床損傷を誘発する
5.肝毒性効果を有する
6.非特異的効果、例えばオピオイド受容体との直接相互作用を通じてモルヒネ誘発鎮痛を抑制する効果を有する(Seelyら,2012)。
【0008】
これらの作用は脆弱及び/又は弱い集団である認知障害が若年及び老年集団には影響を及ぼすので、認知障害治療としてのCB1アンタゴニストの使用と明らかに矛盾する。
最近、CB1受容体が過剰活性化である時には脳内でステロイドホルモンプレグネノロン濃度が上昇(3000%)することが発見された。その結果、プレグネノロンはCB1アゴニストにより結合された部位とは異なるCB1受容体の特異的部位に結合して、CB1受容体の内因性シグナル伝達特異的阻害剤として作用する。結果としてプレグネノロンはアデニルシクラーゼのCB1誘発阻害ではなく、MAPK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ)経路のCB1誘発活性化を選択的に阻害する。限定された分子作用であっても、プレグネノロンは、げっ歯類におけるCB1受容体過剰活性化により誘発された行動に対する効果の多くを阻害する((Haute Autorite de Sante,2016)。
遺憾ながらプレグネノロンは十分に利用可能ではないので薬理学的治療として使用できず、半減期が非常に短く、また下流活性ステロイドで転換される。
国際公開第WO2012/160006号は下流ステロイドへと代謝されないプレグネノロンの誘導体としての3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンと、CB1受容体を阻害する使用を開示している。
【0009】
ヒトに使用可能である、CB1受容体のシグナル伝達特異的阻害に基づく認知障害治療法の開発は、複数の課題を提示する。よって、このような化合物は下記の特徴の全てを同時に示すべきである:
1.認知障害の患者における認知症状の変動性を考慮して、認知機能の種々の領域での能力を改善すべきである
2.より良い転換を達成するために、ヒトの認知プロセスに近似したモデルにおいて効力を示すべきである
3.認知障害の病因の異質性を考慮して、複数の疾患/状態での認知能力を向上させるべきである
4.CB1阻害剤の既知の有害作用を有するべきでない。特に、a.食物摂取の低下、b.不安及び鬱関連行動の増加、c.痙攣及び中枢神経系関連臨床徴候の損傷を誘導すべきでない。
5.リモナバントの場合のようなオフターゲット効果又は他の治療薬の活性の改変を回避するために、他の受容体の結合を改変すべきでない
6.治療効果と干渉し得る非特異的な行動効果(鎮静、興奮性、自発的行動の変化を含むがこれらに限定されない)を有するべきでない
7.許容可能な安全マージンを有するべきである。有害効果を誘発しない最高用量は治療用量より少なくとも10倍高くあるべきと一般に認められている。
【0010】
従来から利用可能な知識で説明されたシグナル伝達特異的阻害剤及びCB1受容体の別のアンタゴニストのどれでもない場合には、上記の特徴の全てが説明される。出願人の知る限り、認知障害治療の使用される化合物は存在せず、また、より一般的には、行動障害には上記の全ての特徴がある。結果として向精神薬、抗不安薬、抗うつ剤及び抗精神病薬の3つの主要クラスと、アルツハイマー病に伴う認知欠損用の承認薬は治療量の範囲内で行動的有害作用を誘発する。例えばa)抗不安薬は眠気を誘発、注意力を劣化、記憶を損なう、b)抗うつ剤は興奮性、不眠症、リビドーの低下を誘発する、c)抗精神病薬はホルモンの崩壊、鎮静状態、運動障害(dyskinesia)、不随意運動を誘発する、d)アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びメマンチンは消化性合併症、心血管合併症、及び神経精神学的有害作用を誘発する。
結果として上記の1~7のポイントで説明した全ての特徴を有する化合物は、認知障害を治療するために設計された薬剤に向けた大きなイノベーションであるだけでなく、精神科の全領域においても大きなイノベーションである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、概して、認知障害の治療における使用のための特定のプレグネノロン誘導体に関する。
より詳しくは、本発明は、認知障害の治療における使用のための式(I):
【化1】
式(I)
の化合物に関する。
本発明によれば、式(I)の化合物による認知障害の治療は:
-認知機能の改善を含む、認知障害により引き起こされる機能損傷の完全又は部分的な逆転
- 更なる認知低下の防止
- 認知低下又は認知能力の更なる低下の延期又は減速
を含む。
【0012】
本発明は下記の特徴を有する:
1.異なる認知領域(例えば、陳述/関連記憶、認識、遂行機能)の認知能力を改善する。したがって、認知欠損の実質的に全てのプロフィールついて効力基準を満たすことが可能である。
2.非常に類似する手順を用いてヒト(仮想放射状迷路にて)及びマウス(放射状迷路にて)の両方で認識機能障害を検出するために成功裏に用いられてきた認知試験での能力を改善する。
3.疾患/病的状態(例えば、ダウン症候群、脆弱X症候群、加齢に伴う認知欠損)の種々のモデルにおける認知能力を改善する。したがって、病因が何であれ、認知欠損に関する効力基準を満たすことが可能である。
4.CB1阻害剤の既知の有害効果を有していない。a.食物摂取及び体重の低下、b.健常状態及び病的状態の両状態で不安及び鬱関連行動の増加、c.神経毒性、痙攣及び中枢神経系関連臨床徴候の損傷、d.肝毒性及び遺伝毒性を誘導しない。
5.オピオイド受容体を含む受容体パネル(85)の結合を改変しない。
6.治療効果と干渉し得る非特異的な行動効果(鎮静、興奮性、自発行動の変化を含むがこれらに限定されない)を有さない。
7.非常に大きい安全マージンを有する(>3500)。
【0013】
本明細書で説明するように、本開示はまた、必要とする対象者に、有効量の式(I)の化合物を投与することによる認知障害の治療方法に関する。幾つかの例で、治療を必要とする対象者は脆弱X症候群、ダウン症候群又は加齢関連認知低下を有する。
本明細書で説明するように、本開示はまた、活性成分として式(I)の化合物を含む、認知障害の治療用医薬組成物に関する。幾つかの例で、医薬組成物は脆弱X症候群、ダウン症候群又は加齢関連認知低下を有する対象者の治療用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】経路Aに従う式(I)の化合物(3Bn17MeP)の合成フローチャート
【
図2】経路Bに従う式(I)の化合物(3Bn17MeP)の合成フローチャート
【
図3】経路Bに従う式(I)の化合物(3Bn17MeP)の合成フローチャート
【
図4】経路Dに従う式(I)の化合物(3Bn17MeP)の合成フローチャート
【
図5】細胞呼吸の阻害、マイトジェン活性化キナーゼ(p-MAPK)のリン酸化の増加及びΔ
9-テトラヒドロカンナビノール(THC)でのCB1受容体の刺激により誘発された環状アデノシン一リン酸(cAMP)の減少に対する3Bn17MePのインビトロ効果。
図5A:野生型ヒトCB1受容体でトランスフェクトしたHEK293における細胞呼吸のTHC(1μM)誘発阻害に対する3Bn17MeP(1、2.5、5、50及び100nM)の効果。データは、THC効果のパーセンテージとして表す(0%の点線はTHCビヒクルの効果を表す;100%の点線は3Bn17MePが無いときのTHCの効果を表す)。3Bn17MePは、THCにより誘発された細胞呼吸の阻害を用量依存的に遮断する。2.5nMから有意な効果を示し、3Bn17MePの不在下でTHCビヒクルと比較したTHC、p<0.001、Tukey検定。THCの存在下でビヒクルと比較した3Bn17MeP(2.5、5、50及び100nM)、p<0.001、Tukey検定。
図5B:野生型ヒトCB1受容体又はプレグネノロン結合部位が無効化された変異ヒトCB1受容体(hCB1
p.E1.49G;Valleeら,2014)でトランスフェクトしたHEK293(それぞれHEK293-hCB1-WT又はHEK293-hCB1-Mut)における細胞呼吸のTHC(1μM)誘発阻害に対する3Bn17MeP(100nM)の効果。3Bn17MePは、hCB1-WTでトランスフェクトしたHEK293における細胞呼吸のTHC(1μM)誘発減少を阻害する(白塗りバー)一方、3Bn17MePは、hCB1-MutでトランスフェクトしたHEK293におけるTHCの効果を阻害しない。3Bn17MeP及びTHCの存在下で、hCB1-Mutと比較したhCB1-WT、p<0.001、対応のないt検定。
図5C:MAPKリン酸化(p-Erk1/2
MAPK)のTHC(10μM)誘発増加に対する3Bn17MeP(0.1、0.3、1、3、9μM)の効果。3Bn17MePはMAPKリン酸化のTHC誘発増加を阻害する。
図5D:hCB1で安定的にトランスフェクトしたCHO細胞におけるcAMPレベルのTHC誘発減少に対する3Bn17MePの効果。3Bn17MePはcAMPレベルのTHC誘発減少を改変しなかった。NT、THC未処理。
【
図6】ダウン症候群の前臨床モデルにおける物体認知障害に対する3Bn17MePの効果。
図6A:3Bn17MePは、飲用水中への慢性経口投与後、Ts65Dnマウスの短期逐次物体認知を回復する。同じ物体の1回目の提示対(5分間の遅延後の)2回目の提示 ** p<0.011;*** p<0.0011、及び2回目の提示が35分間の遅延後の場合 ## p<0.011;### p<0.0011、(Fisher検定)。
図6B:3Bn17MePは、コーン油中での反復経口投与(15μg/kg;1日2回)後にTs65Dnマウスの長期物体認知を回復する。*** p<0.001)、3Bn17MePビヒクル(0μg/kg)を投与したWT対Ts65Dnの比較、### p<0.001、Ts65DにおけるBn17MePビヒクル(0μg/kg)対3Bn17MeP(15μg/kg)の比較(Tukey検定)。3Bn17MeP(15μg/kg)を投与したWTとTs65Dとの間に有意差なし(Tukey検定)。
【
図7】ダウン症候群の前臨床モデルにおける陳述/関連記憶障害に対する3Bn17MePの効果。Ts65Dnマウスにおける飲用水中での3Bn17MeP(0.6μg/ml)の慢性経口投与は、(正反応率で測定される)記憶能力をWTマウスのレベルに回復する。点線は偶然レベルを表す。* p<0.05、WT対3Bn17MePビヒクル(0μg/ml)を投与したTs65Dnの比較(対応のないt検定)。# p<0.05、Ts65Dnにおける3Bn17MePビヒクル(0μg/ml)対3Bn17MeP(0.6μg/ml)の比較(対応のないt検定)。WT対3Bn17MeP(0.6μgml)を投与したTs65Dとの間に有意な効果はない(対応のないt検定)。
【
図8】ダウン症候群の前臨床モデルにおける作業記憶障害に対する3Bn17MePの効果。Ts65Dnマウスにおける飲用水中での3Bn17MeP(0.06μg/ml)の慢性経口投与は、(正反応率で測定される)記憶機能をWTマウスのレベルに回復する。*** p<0.001、WT対3Bn17MePビヒクル(VEH)を投与しTs65Dnとの比較(Tukey検定)。## p<0.01、Ts65DにおけるVEH対3Bn17MeP(0.06μg/ml)の比較(Tukey検定)。WTと3Bn17MeP(0.06μg/ml)を投与したTs65Dとの間に有意な効果はないTukey検定)。
【
図9】脆弱X症候群の前臨床モデルにおける物体認知障害に対する3Bn17MePの効果。コーン油中での3Bn17MePの反復経口投与(15μg/kg;1日2回)は、WTから低下したfmr1-KOマウスの弁別指数を修正する。** p<0.01、WT対3Bn17MePビヒクル(0μg/ml)を投与したFmr1-KOとの比較(Tukey検定)。# p<0.05、Fmr1-KOにおける3Bn17MePビヒクル(0μg/ml)対3Bn17MeP(15μg/ml)の比較(Tukey検定)。WT対3Bn17MeP(15μg/ml)を投与したFmr1-KOとの間に有意な効果はない(Tukey検定)。
【
図10】加齢関連認識障害の前臨床モデルにおける陳述/関連記憶障害に対する3Bn17MePの効果。飲用水中での3Bn17MePの慢性経口投与(0.6μg/ml)は、老齢マウスにおいて(正反応率で測定される)記憶機能を改善する。点線は偶然レベルを表す。* p<0.05、3Bn17MePビヒクル(0μg/ml)対3Bn17MeP(0.6μg/ml)の比較(対応のないt検定)。
【
図11】野生型マウスにおける食物摂取と体重に対する3Bn17MeP及びリモナバントの反復投与の効果。
図11A:消灯の3時間後及び13時間後に測定した、標準餌の累積食物摂取に対する3Bn17MeP(0、0.05、5、15及び30mg/kg、コーン油中の経口)の急性投与の効果。3Bn17MePは食物摂取に影響を及ぼさない。
図11B:消灯の3時間後及び13時間後に測定した、標準餌の累積食物摂取に対するリモナバント(0び10mg/kg;ip)の急性投与の効果。リモナバントは食物摂取を低下させる。** p<0.01)、リモナバント対ビヒクル(0mg/kg、二元配置ANOVA、主処理効果)。
図11C:標準飼料を与えたマウスの体重に対する3Bn17MeP(0、0.05、5、15及び30mg/kg、コーン油中の経口)の反復投与(39日間、1日1回)の効果。3Bn17MePは体重に影響を及ぼさない。
図11D:標準飼料を与えたマウスの体重に対するリモナバント(0及び10mg/kg;ip)の反復投与(39日間、1日1回)の効果。リモナバントは体重を低下させる。
【
図12】野生型マウスにおける不安及び鬱関連行動に対する3Bn17MeP及びリモナバントの効果。
図12A:高架式十字迷路の開放アームに居た時間及び訪問回数のパーセンテージで測定した、不安様行動に対するコーン油中の3Bn17MeP(30mg/kg)又はビヒクル(0mg/kg)の急性経口投与の効果。3Bn17MePは不安関連行動に対して効果を及ぼさない。
図12B:高架式十字迷路の開放アームに居た時間及び訪問回数のパーセンテージで測定した、不安様行動に対するリモナバント(10mg/kg)又はビヒクル(0mg/kg)の急性腹腔内投与の効果。リモナバントは開放アームに居た時間及び訪問回数を低下させる。*** p<0.001;** p<0.01、リモナバント対ビヒクル(0mg/kg)(対応のないt検定)。
図12C:ショ糖嗜好試験にて測定された鬱関連行動に対する3Bn17MeP(0、0.05、5、15、30mg/kg、コーン油中の経口)の反復投与(28日間、1日1回)の効果。3Bn17MePはショ糖摂取に影響を及ぼさない。
図12D:ショ糖嗜好試験で測定した鬱関連行動に対するリモナバント(0及び10mg/kg;ip)の反復投与(28日間、1日1回)の効果。リモナバントはショ糖摂取を低下させる。* p<0.05、リモナバント対ビヒクル(0mg/kg)の比較(対応のないt検定)。
【
図13】インビトロでの3Bn17MePとリモナバントの神経毒性及び遺伝毒性の評価。
図13A:ラット皮質ニューロンの初代培養物の毒性に対する3Bn17MeP、リモナバント(0、10、30及び100μM)及び参照ポジティブコントロール スタウロスポリン(100nM)の効果。この条件下で3Bn17MePは毒性効果を有しない一方、リモナバントは同条件下で用量依存性の毒性効果を示す。*** p<0.001;* p<0.05、リモナバント対ビヒクル(0μM)(Holm-Sidak検定)。
図13B:HeLa細胞におけるヒストンH2AXリン酸化に対する3Bn17MeP(0、0.1、0.3、1、3、10、30及び100μM)、リモナバント(0、0.1、0.3、1及び100μM)及び参照ポジティブコントロール エトポシド(3μM)の効果。3Bn17MePは、リン酸化H2AX細胞に対して影響を及ぼさない一方、リモナバントは、100μMでリン酸化H2AX細胞の数を増加させた。*** p<0.001、リモナバント対ビヒクル(0μM)(Holm-Sidak検定)。
【
図14】インビトロでの3Bn17MeP及びリモナバントの肝毒性の評価。
図14A:ラット肝細胞の初代培養物の生存に対する3Bn17MeP、リモナバント(0、0.1、0.3、1、3、10、30、100μM)及び参照ポジティブコントロール アセトアミノフェン(APAP、50mM)の効果。3Bn17MePは肝毒性効果を有しない一方、リモナバントは3μMから肝細胞死を増加させた。*** p<0.001、リモナバント対ビヒクル(0μM)(Holm-Sidak検定)。
図14B:ラット肝細胞の初代培養物における毛細胆管の阻害に対する3Bn17MeP、リモナバント(0、0.1、0.3、1、3、10、30及び100μM)及び参照ポジティブコントロール シクロスポリンA(10μM)の効果。3Bn17MePは毛細胆管に対する影響を有さない一方、リモナバントは1μMから毛細胆管の数を低下させた。*** p<0.001;** p<0.01、リモナバント対ビヒクル(0μM)(一元配置ANOVAの後Bonferroniポストホック検定)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、概して、認知障害の治療における使用のための式(I):
【化2】
式(I)
の化合物に関する。
【0016】
式(I)の化合物は認識障害にみられる認知機能障害を修正する。評価された全ての認知機能と疾病モデルにおいて3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン(3Bn17MeP)の投与は健常対照レベルでの認知能力を回復させる。
3Bn17MePは長期記憶、認識、遂行機能を含む複数の認知領域において効力を示す。本発明は、認知機能に対する幅広い作用からの恩恵を得る。このことから3Bn17MePは包括的な向知性薬と期待される。
本発明の化合物である3Bn17MePは標的受容体の全体活性を遮断せず、その活性の一部のみを遮断する。本発明の化合物の特異的標的受容体はCB1受容体である。
式(I)の化合物は、CB1受容体の過剰活性化を調節する内因性ネガティブフィードバックを提供する新たに発見された脳機序の効果を再現すると考えられている(Valleeら,2014)。この調節機序は、(認知障害において該当する可能性が高い)CB1が過剰に活性化されたときのみ駆動が誘引され、受容体の活性化がより生理学的な範囲内にあるときには誘引されないことに留意することが重要である。
【0017】
このことは、本発明の化合物が認知欠損の修正に非常に強力であり、よって認知障害の治療に有効である理由を説明し得る。更に、シグナル伝達特異的作用機序により、本発明の化合物は、CB1シグナル伝達が生理学的範囲内にある健常対象者の行動自体には影響を及ぼさない。
この点に関しては、本発明の化合物の作用機序は、CB1受容体の内因性及び外因性アゴニストの結合の遮断することにより、全てのCB1活性の完全阻害を誘発し、行動自体を混乱させるCB1オルソステリックアンタゴニストの機序とは非常に異なる。加えて、アンタゴニストの作用機序は生理学的に存在せず、すなわち、出願人の知る限り、アンタゴニストのように受容体へのCB1アゴニストの結合を遮断する内因性化合物は存在しない。この作用機序の人工的性質のために、これらのアンタゴニストは、標的受容体の過剰活性化の修正に加えて、一般には、その活性を基礎レベルより低下させ、生理を混乱させ、副作用を生じる。
本発明の化合物とオルソステリックアンタゴニスト(例えばリモナバント)との間の異なる作用機序は、両薬物も認知障害の修正できるが、その他の行動に対する効果を共有しない理由を説明する。
したがって、本発明の化合物は、CB1のオルソステリックアンタゴニストではなく、そのためオルソステリックCB1アンタゴニストであるリモナバントのようにCB1受容体活性化により誘発される細胞効果の全てを遮断するものではない。
より有利には、またより一般的には、本発明の化合物では有害効果は観察されない。
有害効果の欠如と多くの場合での健常対照における本発明の化合物の効果の不在は、おそらく、本発明の化合物の特異的な構造及び作用機序に起因する。
【0018】
本発明者らは、本発明の化合物が認知障害を治療するユニークで理想的なツールとなる特徴を有することを証明する。これらの特徴には下記のものを含むがこれに限定されない:
1.本発明の化合物は、CB1受容体の過剰活性化を克服する内因性の脳機序として誂えられたユニークな作用機序を有するが、受容体の基礎活性に影響を及ぼさないようである。標的系の基礎活性の混乱は、アンタゴニストの幾つかの有害効果が原因であることが多い。加えて、本発明の化合物は非常に選択的であり、試験した85受容体のいずれとも干渉しない。オフターゲット効果は、新たな化学物質の幾つかの有害効果が原因であることが多い。CB1受容体の細胞活性は、選択的でシグナル伝達特異的な様式で阻害される。
2.本発明の化合物は、長期記憶、認識及び遂行機能の損傷を含む幅広い認識機能障害の修正においてインビボで非常に高い能力を示す。
3.本発明の化合物は、ダウン症候群、脆弱X症候群及び加齢関連認知低下を含む種々の認知障害のモデルにおいてインビボ効力を示す。
4.本発明の化合物は、a.食物摂取の低下、b.不安及び鬱関連行動の増加、c.神経毒性、間代性痙攣の誘発及び中枢神経系損傷に関連する臨床徴候、d.肝毒性及び遺伝毒性を含むがこれらに限定されないオルソステリックCB1アンタゴニストの有害効果のいずれも有さない。
5.本発明の化合物は、認知機能を改善させる有効量より数千倍も高い用量でさえ非特異的な行動効果を引き起こさない。これらの効果は自発的行動、鎮静、興奮性を含むがこれらに限定されない。
6.本発明の化合物は、認知機能を改善させる有効量より数千倍も高い用量で、インビトロ及びインビボで有害又は毒性効果を有さない。結果として、本発明の化合物は高い安全指数を示す(>3500)。
【0019】
本発明によれば、「認知障害」は知的異常(intellectual disorders)、認知又は知的損傷(cognitive or intellectual impairments)、認知又は知能無能力(cognitive or intellectual disabilities)、精神遅滞(mental retardation)又は認知低下(cognitive decline)であると理解でき、認知障害と関連付けることができる全ての疾患/病的状態を含む。
認知又は認知機能は情報処理に特化した全ての精神的活動と定義できる。これらには、知覚及び運動技能などの基本的機能並びに注意、学習及び記憶、論理付け又は遂行機能などの高次プロセスが含まれる。認知の欠損は、下記のものを含むいずれかの認知領域における障害に関連する:
- 複雑性注意:持続的注意、分割的注意、選択的注意及び処理速度。例えば、複雑性注意欠陥により、妨害物(distractor)のある環境において情報維持が困難となり、又はルーチンの課題で間違う可能性が出てくる。
- 遂行機能:計画、意思決定、作業記憶、フィードバック/誤り訂正への反応、支配的な習性/阻害及び精神的柔軟性。例えば、遂行機能欠陥により、多段階のプロジェクトの完遂、日常生活活動の計画又は会話継続が困難になり得る。
- 学習及び記憶:自由又は手掛り再生及び再認、長期~超長期記憶、暗黙的学習を含む即時及び近時記憶。例えば、学習及び記憶障害の結果、経費支払い経緯の失念又は会話で同じことを繰り返すことがある。
- 言語:表現的言語及び理解。例えば、言語欠損は特定の用語よりむしろ一般用語の(文法的な誤りをする)用法と関連づけることができる。言語欠損の重症型は反響言語又は無言症に繋がる。
- 知覚-運動能力:描画、プラクスィス(praxis)(運動配列学習)及びグノーゼ(gnosis)(例えば顔と色の認識):知覚-運動欠損では道具の使用、又は運転などの以前は問題にならなかった運動が困難になり得る。
- 社会的認識:自分以外のヒトの感情を認識して特定の状況で自分以外のヒトの考えと、意図を考慮する能力。例えば社会的認識阻害では共感の減少により、社会的に受け入れられる範囲を超えた行動又は話し方、又は語りになり得る。
【0020】
この場合の認知障害は年齢適合の個人(age-matched individuals)における認知障害(cognitive disturbances)が認知レベルよりも大きい病的状態を言う。加えて認知障害は健康な加齢を伴う認知低下(以下、加齢関連認知低下と言う)であると理解できる。
主要な認知障害の実例を示すのに発明者らは、本明細書において神経発達障害と神経認知障害を言及するDSM-5TM基準を使用する。しかし、これは認知障害に関する排他的な記述ではなく、「精神的及び行動的障害に関するICD-10疾患分類」(ICD-10 Classification of Mental and Behavioral Disorders)を含むがこれらに限定されない、別の診断マニュアルに説明された類似疾患を含み、かつ認知能力の障害を主に伴う全ての障害を含む。
この点に関して認知障害は神経発達障害と神経認知障害を含む。
神経発達障害は、しばしば小学校入学前の子供が早期に示す障害を言う。この障害は概念的、実践的、社会的な機能障害を起こす発生異常により特徴付けられる。結果として、この個人は知的発達、学業達成、個人的独立性、及び/又は社会参加に関する年齢適合の基準に合わない。発達障害の範囲は学習又は遂行機能の非常に特異的な制限から社会的スキル(skill)又は知性の包括的な障害まで変化する。
神経発達障害は特定の原因(例えば、遺伝子状態又は環境要因)と関連付けられるか、又は病因が分からない時には特定できない。指定子の例としては例えばダウン症候群、脆弱X症候群、結節硬化症、レット症候群、ウィリアムズ症候群、二分脊椎などだがこれらに限定されない、遺伝性疾患が挙げられる。医学的状態としては癲癇、代謝性疾患、発達異常(例えば脳奇形)、母体の疾患(例えば胎盤疾患)、又は周産期環境因子(例えばアルコール、毒素、あるいは催奇形物質への胎児暴露)などの病理が挙げられる。
【0021】
神経発達障害は下に記載のように指定される障害の7つのカテゴリーを含む:
1.知的障害は推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学業、経験からの学習などの一般的な知能の欠損により特徴付けられる。全般性発達遅延(Global Developmental Delay)は標準化された試験への参加には若すぎる子供を含む、知的機能の系統的評価が可能でない個人に診断される。
2.コミュニケーション障害には言語障害(例えばコミュニケーション用の信号に関する従来のシステムの使用)、スピーチ障害(はっきり発音された思考表現)だけでなく、言語及び非言語コミュニケーションも挙げられる。このカテゴリーには言語障害(language disorder)、会話音声障害(speech sound disorder)、小児期発症の流暢性障害(childhood-onset fluency disorder)(吃音)、社会的(語用論的)コミュニケーション障害、特定できないコミュニケーション障害(unspecified communication disorder)が挙げられる。
3.自閉症スペクトラム障害は社会的コミュニケーション及び対人的相互作用、限定された興味関心、反復的な行動などにおける持続的な欠陥により特徴付けられる。自閉症スペクトラム障害はまた自閉性障害、アスペルガー障害、又は、広汎性発達障害とも言う。
4.注意欠陥/多動性障害(ADHD)は著明な非注意及び/又は多動性、及び、期待された発達レベルと不整合であって、かつ学術/職業活動に直接的に影響を及ぼす衝動性に関連付けられる。この症状は反抗行動、抵抗(defiance)、敵意(hostility)、タスク(task)又は指示の誤解などの発現状況だけではない。
5.特異的学習障害(Specific Learning Disorder)は効果的かつ正確な知覚又は治療能力における特異的欠損により特特徴付けられる。この障害は読み(失読症など)、書き表現(書字障害など)、算数(計算力障害など)の中から1つ以上の領域での学業スキルの学習と使用における持続的困難性に関する。
6.神経発達運動障害(Neurodevelopmental motor disorders)は身体の異常不随又は非制御運動により特徴付けられる。この疾患は意図的運動の欠如か、又は付随運動の過剰を起こす。具体的には運動障害は発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)(協調運動スキルの獲得と遂行の欠損)、常同運動障害(Stereotypic Movement Disorder)(反復的で、外見的には動かされ、見たところ無目的な運動行動)、チック障害(Tic Disorders)(唐突で、急速な、再発性で非律動性の常同(stereotyped)運動運動(motor movements)又は発声)であり得る。期間、推定される病因、臨床症状は診察された特異的な障害(トゥレット障害(Tourette's Disorder)など)を定義する。
7.症状が神経発達障害の特徴であっても、精神発達障害の診断分類の障害に関して全ての基準を満たさない場合には、別の神経発達障害を適用する。
【0022】
注目すべきは、神経発達障害では同時発生が頻繁であって、例えば自閉症スペクトラム障害の患者は知的障害を伴うことが多く、またADHDの子供の多くは特異的学習障害もある。
神経発達障害はDSM-5TM診断基準を基に、又は、精神衛生ツールを基に臨床医により診断されるべきである。障害の性質と程度の評価に使用される試験は、知的機能及び/又は適応行動を評価するものから選択できる。関連する試験は患者の年齢と、疑われる障害の性質及び重症度に応じて選択する。包括的又は特異的機能を評価する尺度の非網羅的(non-exhaustive)例、また小児集団を含めて評価された例は下に記載のように指定される。
・包括的な認知健康を評価する尺度((Hesslら,2016;Esbensenら,2017):
- 一連のCANTAB試験(CANTAB batteries of tests)
- 知的障害に関するNIHツールボックス認知バッテリー(NIH Toolbox Cognitive Battery)
・独立した機能及び適応行動を評価する尺度(Berry-Kravisら,2013;Esbensenら,2017):
- 適応行動評価システム-第3版(ABAS-III)又は最新版
- 異常行動チェックリスト(ABC)
- Vineland適応行動尺度(VABS)
- Connors評価尺度
・患者のクオリティーオブライフを評価する尺度(Varniら,2001;Burckhardt and Anderson,2003):
- 小児クオリティーオブライフインベントリー(PedsQL)
- クオリティーオブライフ尺度(QOLS)
・特異的機能を評価する尺度:
- 遂行機能:遂行機能に関する行動評価尺度(Behavior Rating Inventory of Executive Function)(BRIEF)、ウィスコンシンカード分類試験(Wisconsin Card Sorting Test)(WCST)、バーチャルな放射状迷路(作業記憶手順)(Marighettoら,2)
- 学習と記憶:バーチャルな放射状迷路(陳述/関連記憶手順)(Sellamiら,2017)
・社会的認知:社会的反応性尺度
- 言語:ボストンネーミング試験(BNT)、トークンテスト(Token Test)
- 睡眠の質:ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index)(PSQI)
【0023】
神経認知障害は認知機能における主要な臨床的欠損により特徴付けられる精神障害を言う。この欠損は以前に達成した認知レベルからの低下を示し、発生的(developmental)ではなく後天性である。神経認知障害を伴う認知欠損は患者の毎日の生活活動に影響を及ぼして自律性喪失になり得る。神経認知障害は複雑性注意、遂行機能、学習と記憶、言語、知覚-運動/視空間機能、社会認知の中から1つ以上の認識領域に影響を及ぼす。
神経認知障害は神経変性疾患(例えば、
アルツハイマー病、前頭側頭葉変性症、レビー小体変性症、パーキンソン病又はハンチントン病)、血管性疾患、外傷性脳損傷、物質/医薬品の使用、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染又はプリオン病を含むがこれに限定されない、様々な病理により起こりえる。
神経認知障害は下に記載のように分類される:
1.せん妄:せん妄は短期間(時間)にわたって発症する認知障害を言う。せん妄は別の医学的状態又は薬物中毒若しく退薬(例えば乱用薬物、医薬品、毒)の直接的結果である。せん妄は2、3時間~数か月間持続することがある。
2.重度及び軽度の神経認知障害:重度及び軽度の神経認知障害は日常活動の独立性を妨げる(1つ以上の認識領域での)認知低下を言う。重度の神経認知障害(以下、認知症(dementia)とも言う)は有意な自律性喪失により特徴付けられる。典型的には、患者は薬の管理、又は経費の支払いなどの複雑なタスクをするのには最小限の支援が必要となる。軽度の神経認知障害(以下、軽度の認識機能障害とも言う)は重度の神経認知障害と比べて、より軽度の認知低下により特徴付けられる。軽度の神経認知障害は患者の自律性を妨げないが、日常生活の複雑なタスクをするには大きな努力、又は補償戦略が必要となる。
【0024】
加えて正確な病因に関連づけできない認知欠損の症状を示すときに、特定不能の軽度又は重度の神経認知障害と診断される。
精神認知障害の診断は認知機能の主観的及び/又は客観的評価を用いる臨床医が実施する。主観的認知評価としては日常活動(例えば金銭及び薬の管理)で示された認知機能の変化に関して、患者及び/又は介護士からの情報を得ることを特徴とする。
客観的評価は認知機能の評価用の1つ以上の標準試験を使用して実施する。複数の尺度を利用することができる(Sheehan,2012)。その内の幾つかは機能活動調査票などの日常活動について、又はクオリティーオブライフ尺度(QOLS)なとのクオリティーオブライフについてのインベントリー(inventory)に力を注いでいる。ほかには特異的認知機能又は包括的な認知機能を評価するものもある。包括的な認知試験の非網羅的な例としてはミニメンタルステート試験(Mini-Mental State Examination)、精神状態簡易テスト(Short Test of Mental Status)、モントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment)、ミニCOGテスト(Mini-Cog tests)、一連のCANTAB試験(CANTAB series of tests)、神経心理状態の評価のための再現可能バッテリー(Repeatable Battery for Assessment of Neuropsychological Status)(RBANS)、NIHツールボックス認知バッテリー(NIH Toolbox Cognition Batteries)が挙げられる。
さらにA. Marighettoと同僚によって開発されたバーチャルな放射状迷路手順は微妙な作業記憶と、正常及び病理学的加齢を伴う陳述/関連記憶欠損を検出できる((Etchamendyら,2012;Marighettoら,2012;Sellamiら,2017)。この放射状迷路手順は、げっ歯類にマッチングエクイヴァレント(matching equivalent)を有しており、動物からヒトの患者への認知障害治療のための治療候補の翻訳改善を可能にする。
【0025】
したがって、本発明は、神経発達障害、精神認知障害及び加齢関連認知低下から選択される認知障害の予防又は治療に使用するための式(I):
【化3】
式(I)
の化合物に関する。式(I)の化合物の有効量の対象者への投与は、認知障害又は損傷を低下させ、消失させ、安定化(すなわち、悪化の防止又は制限)する。よって、有効な治療レジメンで治療された対象者は、自覚臨床検査(subjective clinical examination)又は神経心理学テストの1若しくは幾つかのパラメータ又は対象者の病理、年齢、言語及び文化に関連するクオリティーオブライフスケールに従う改善を示す。或いは、式(I)の化合物の有効レジメンを用いた対象者の治療は、最初に提示又は診断した際の低下を、治療が為されない場合に予想される低下と比べて防止又は減速させるように認知機能を保存する。
【0026】
用語「3β-ベンジルオキシ, 17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン」又は「C
29H
40O
2」又は「3Bn17MeP」又は「1-((3S,8R,9S,10R,13S,14S,17S)-3-(ベンジルオキシ)-10,13,17-トリメチル-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)エタン-1-オン」は、下記の式(I):
【化4】
式(I)
を有する本発明に従うプレグネノロン誘導体を指称する。
【0027】
製造法
本発明はまた、本発明の化合物の製造方法に関する。式(I)の化合物は下記から理解できるように、異なる合成経路により取得できる。
第1に、化合物3β-ベンジルオキシ-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンは、プレグネノロンからの2つの化学的ステップで取得できる(経路A)。
【化5】
プレグネノロン
- C17位でのメチル基の導入は、プレグネノロンと無水酢酸の反応により許容される
エノールアセテート中間体とグリニヤール試薬との反応により行い、式(II)の化合物を得る。
【化6】
式(II)
次いで、C3位のヒドロキシル基を2-ベンジルオキシ-1-メチルピリジニウム トリフラート試薬でベンジル化して、式(I)の3β-ベンジルオキシ-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンを得る。
【化7】
式(I)
【0028】
図1~4から理解でき、下記で説明するように、別の経路を使用して3β-ベンジルオキシ-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンを得ることができる。
例えばC3位のヒドロキシル基の最終段階のアルキル化を塩化ベンジル又は臭化ベンジルの存在下の塩基性条件下(NaH、t-BuOK又はその他の塩基)で行うことができる(経路B)。触媒量の有機酸の存在下でトリクロロアセトイミデートを用いる酸性媒体でのアルキル化も行うことができる。
【0029】
別の方法(経路C)は、アセタールを経由するプレグネノロンのケトン官能基の保護により開始して式(III)の化合物を得る。
【化8】
式(III)
次に、遊離アルコールを、ベンジル基によりアルキル化し(上記で説明したとおり、酸性若しくはアルカリ性条件下で又は2-ベンジルオキシ-1-メチルピリジニウム トリフラート経由で)、式(IV)の化合物を得る。
【化9】
式(IV)
【0030】
アセタールを酸性条件下で加水分解して、式(V)の化合物を得る。
【化10】
式(V)
水素化ナトリウムの存在下でヨウ化メチルを用いる直接メチル化により、式(I)の3β-ベンジルオキシ, 17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンを得る。
【化11】
式(I)
【0031】
別の代替法は、プレグネノロンのケトン基を保護しないで経路Cを行うことである(経路D)。
本発明はまた、式(I):
【化12】
式(I)
の化合物及び少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0032】
本医薬組成物の形態、投与経路、用量及びレジメンは、当然に、治療すべき病的状態、疾患の重症度、患者の年齢、体重及び性別などに依存する。
本発明の化合物は単独で投与することも可能であるが、本化合物を標準的な薬学実務に従って医薬組成物に処方することが好ましい。よって、本発明はまた、式(I)の化合物を、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と混合して含む医薬組成物を提供する。
本発明は更に、式(I)の化合物を、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤と混合することを含む、医薬組成物の製造方法を提供する。
代表的には、本医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む。治療用途に許容される賦形剤は、薬学分野において周知であり、例えばRemington's Pharamaceutical Sciences(第21版 2011)に説明されている。薬学的賦形剤は、意図する投与経路及び標準の薬学実務を考慮して選択することができる。賦形剤は、レシピエントとって有害でないという意味で許容可能なくてはならない。少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤は、例えば、結合剤、希釈剤、キャリア、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤などであり得る。
【0033】
上記の化合物の投与(送達)経路は、経口(例えば、錠剤、カプセル又は摂取可能な溶液として)、局所、粘膜(例えば、鼻スプレー、吸入エアロゾルとして)、鼻、胃腸、髄腔内、腹腔内、筋肉内、静脈内、子宮内、眼内、皮内、頭蓋内、気管内、膣内、脳室内、脳内、皮下、眼(硝子体内又は前房内を含む)、経皮、直腸、頬、硬膜外、舌下を含むがこれらに限定されない。
好ましい投与経路には、経口、粘膜、非経口及び舌下が挙げられる。
例えば、本化合物は、即時-、遅延-、改変-、持続-、パルス-又は制御-放出用途のための錠剤、コーティング錠、ピル、カプセル、軟ゼラチンカプセル、経口粉剤、顆粒、オビュール(ovule)、エリキシル剤、溶液又は懸濁物の形態(フレーバリング又は着色剤を含んでいてもよい)で経口投与できる。
錠剤は、賦形剤(例えば、微結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム及びグリシン)、崩壊剤(例えば、デンプン(好ましくは、トウモロコシ、ジャガイモ又はタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム及び特定の複雑なシリケート)、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン及びアカシア)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル)を含んでいてもよい。類似するタイプの固形組成物はまた、硬質ゼラチンカブセル剤において充填剤として用いられてもよい。この点に関して好ましい賦形剤として、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、アミロペクチン、セルロース誘導体又はゼラチンが挙げられる。硬質ゼラチンカブセルは、本発明の化合物の顆粒を含み得る。
【0034】
軟ゼラチンカプセルは、本発明の化合物、植物油、ワックス、脂肪又は軟ゼラチンカプセルに適切なその他のビヒクルを含むカプセルを用いて製造し得る。一例として、許容されるビヒクルは、長鎖トリグリセリド植物油(例えば、コーン油)などの油性ビヒクルであり得る。
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性粉剤及び顆粒は、活性成分を、分散剤、湿潤剤及び懸濁化剤と混合して含み得、1又は2以上の防腐剤、追加の賦形剤、例えば甘味料、フレーバリング及び着色剤も存在し得る。これら組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加して保存し得る。
経口投与のための液体剤形には、当該分野で通常用いられる不活性希釈剤(例えば、水又は油性ビヒクル)を含む、薬学的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁物、シロップ及びエリキシル剤が挙げられ得る。液体剤形は、使用前に水又はその他の適切なビヒクルを用いて構成される乾燥製品として提供されてもよい。この組成物はまた、アジュバント(例えば、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤)、錯化剤(例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン)及び甘味料、フレーバリング、芳香料、着色剤又は染料を、希釈剤(例えば、水、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン並びにこれらの組合せ)と共に含んでいてもよい。これら組成物は、ブチル化ヒドロキシアニソール又はα-トコフェロールなどの抗酸化剤を添加して保存し得る。
【0035】
本発明の化合物の微細化粉体は、例えば、微粉化又は当該分野で公知のプロセスにより調製され得る。本発明の化合物は、湿式ミリングなどの公知のミリング手順を用いてミリングされて、錠剤形成及びその他の製剤タイプに適切な粒子サイズを得てもよい。
本発明の化合物を非経口投与する場合、投与の例としては、薬剤を静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内若しくは皮下投与すること及び/又は吸入技法を用いることの1又は2以上が挙げられる。
本発明の化合物は、容易に入手可能な製剤又はデポ型製剤を用いて非経口経路経由で投与できる。
容易に入手可能な製剤の非経口投与用の医薬組成物は、非経口で許容可能な非毒性希釈剤又は溶剤中の無菌の注射可能な水性又は油性溶液又は懸濁液の形態であり得、調合剤、例えば懸濁化剤、安定化剤、分散剤、湿潤剤及び/又は錯化剤、例えばシクロデキストリン、例えば2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンを含んでいてもよい。
【0036】
非経口投与用デポ型製剤は、生体適合性及び生分解性ポリマー(例えば、ポリ(β-カプロラクトン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(グリコール酸)、ポリ[(乳酸)-コ-(グリコール酸)...)]、ポリ(乳酸)...など)、非生分解性ポリマー(例えば、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン、ポリエステル(アミド)、ポリ塩化ビニル...など)、水性及び非水性ビヒクル(例えば、水、ゴマ油、綿実油、大豆油、ひまし油、アーモンドオイル、エステル油、エチルアルコール又は分画した植物油、プロピレングリコール、DMSO、THF、2-ピロリドン、N-メチルピロリジノン、N-ビニルピロリジノン...など)を含むがこれらに限定されない薬学的に許容される賦形剤を用いて、従来の方法により調製できる。
或いは、活性成分は、適切なビヒクルを用いて構成するための、粉体、結晶又は凍結乾燥固体などの乾燥形態にあってもよい。無菌条件下での適切な非経口製剤の調製は、当業者に周知の標準的な製剤技術により容易に行われる。
前述のとおり、本発明の化合物は、鼻内に又は吸入により投与することが可能であり、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン(例えば、Ineos Fluor社製)、二酸化炭素又はその他の適切な気体を用いる圧力容器、ポンプ、スプレー又はネブライザーからの乾燥粉体吸入剤又はエアロゾルスプレー剤の形態で簡便に送達される。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量された量を送達するようにバルブを備えることにより決定される。圧力容器、ポンプ、スプレー又はネブライザーは活性化合物の溶液又は懸濁物を含み得る。吸入器又はインサフレーター(insufflator)における使用のためのカプセル及びカートリッジ(例えば、ゼラチンから製造)は、本化合物と適切な粉体基剤、例えばラクトース又はデンプンとの粉体ミックスを含むように製剤化され得る。吸入投与に適切な及び/又は適応した組成物に関しては、式(I)の化合物又はその塩は、粒子サイズが縮小化された形態であることが好ましく、より好ましくはサイズ縮小化形態が微粉化により取得されているか又は取得可能である。サイズ縮小化された(例えば、微小化された)化合物又はその塩若しくは溶媒和物の好ましい粒子サイズは、(例えばレーザ回析を用いて測定されるような)約0.5~約50ミクロンのD50値により定義される。
【0037】
或いは、本発明の化合物は、坐剤若しくは膣坐剤の形態で投与可能であり、又はゲル、ヒドロゲル、ローション、液剤、クリーム、軟膏若しくは散布剤の形態で局所的に適用してもよい。本発明の化合物はまた、例えば皮膚パッチの使用により、皮膚に又は経皮的に投与され得る。本発明の化合物はまた、肺又は直腸経路により投与され得る。本発明の化合物はまた、眼経路により投与され得る。眼科用途には、本化合物は、等張性のpH調整済み無菌生理食塩水中の微粒子化懸濁液として、又は好ましくは、任意に塩化ベンジルコニウムなどの保存剤と併用した等張性のpH調整済み無菌生理食塩水中の溶液として調製できる。或いは、本化合物はワセリンなどの軟膏中に調製され得る。
皮膚への局所適用について、本発明の剤は、例えば、次に記載の1又は2以上との混合物中に懸濁又は溶解された活性化合物を含む適切な軟膏として製剤化することができる:鉱物油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン ポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう及び水。或いは、本発明の剤は、例えば、次に記載の1又は2以上との混合物中に懸濁又は溶解された適切なローション又はクリームとして製剤化することができる:鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水。
【0038】
代表的には、医師が個々の対象者に最も適切となる実際の投薬量を決定する。特定の個人に関する具体的な用量レベルと投薬回数は異なり得、用いる具体的化合物の活性及び当該化合物の作用の長さ、年齢、体重、全身的健康状態、性別、食事、投与の態様及び時間、排出速度、薬物の組合せ、特定の病的状態の重篤度及びその個体が受けている治療を含む種々の要因に依存する。
上記化合物は、認知障害の治療に用いるために、対象者に、治療効果を得るのに適切な任意の用量で投与され得る。
ヒトに対する経口及び非経口投与について、この薬剤の1日投薬レベルは単回用量又は分割された用量である。
(体重約70kgの)ヒトに対する投与のための本発明に従う化合物の用量の提案範囲は、
遊離酸の重量として表わすと、単位用量当たり、1μg~1000mg、より代表的には1μg~500mg、より代表的には1μg~100mg、より代表的には1μg~50mg、より代表的には1μg~10mg、より代表的には1μg~5mg、より代表的には1μg~1mg、より代表的には1μg~600μg、より代表的には1μg~200μg、より代表的には1μg~100μg、より代表的には1μg~60μg、より代表的には10μg~1000mg、より代表的には10μg~500mg、より代表的には10μg~100mg、より代表的には10μg~50mg、より代表的には10μg~10mg、より代表的には10μg~5mg、より代表的には10μg~1mg、より代表的には10μg~600μg、より代表的には10μg~200μg、より代表的には10μg~100μg、より代表的には20μg~1000mg、より代表的には20μg~600mg、より代表的には20μg~200mg、より代表的には20μg~60mg、より代表的には20μg~20mg、より代表的には20μg~6mg、より代表的には20μg~2mg、より代表的には20μg~600μg、より代表的には20μg~200μgの活性成分を含むが、これらに限定されない。単位用量は、例えば1日当たり1~5回投与され得る。用量は投与経路に依存する。患者の年齢及び体重並びに病的状態の重篤度に依存して、投薬に対する日常的な変更をなす必要があり得ることが理解される。投薬はまた、投与経路に依存する。正確な用量及び投与経路は、最終的には、担当の医師又は獣医師の裁量による。
【0039】
本発明の化合物の「適切な用量」、「有効量」は、認知障害を防止、低下、除去、制御、治療又は抑制するに十分に有効な量を言う。用語「制御」は、本明細書に記載された疾患及び状態の進行を遅延、中断、抑止又は停止させ得る全てのプロセスをいうものとし、必ずしも全ての疾患及び状態症状の完全な除去をさすことを意図していない。投与に用いる用量は、種々のパラメータの関数として、特に用いる投与態様、該当する病態又は望ましい治療期間の関数として適応させることができる。必然的に、医薬組成物の形態、投与経路、投薬量及びレジメンは、治療すべき状態、病気の重篤度、対象者の年齢、体重及び性別などに依存する。下記の有効用量の範囲は、本発明を制限するように意図されるものではなく、好ましい用量範囲を表している。しかし、好ましい用量は、過度の実験を要することなく、当業者が理解して決定するように、個々の対象者に適合させることができる。
【0040】
本発明はまた、式(I):
【化13】
式(I)
の化合物の有効量を、必要とする対象者に投与することを含む、対象者における認知障害を治療する方法に関する。
上に開示された全ての実施形態はこの観点に包含される。
【0041】
別の観点では、本発明は、認知障害の治療の治療のための式(I):
【化14】
式(I)
の化合物の使用に関する。
上に開示された全ての実施形態はこの観点に包含される。
【0042】
1つの更なる実施形態では、本発明は、認知障害の治療用医薬品の製造のための式(I):
【化15】
式(I)
の化合物の使用に関する。
上に開示された全ての実施形態はこの観点に包含される。
【実施例】
【0043】
実施例
実施例1:3Bn17MePの合成
3β-ベンジルオキシ, 17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン(3Bn17MeP)は、式(I)に記載のように、7つのキラル中心3S、8S、9S、10R、13S、14S、17Sを含む化学物質である:
【化16】
式(I)
これら中心の立体化学配置は開始物質プレグネノロンのものと同一である。
この実施例は、
図1の経路Aに従って3β-ベンジルオキシ, 17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン(3Bn17MeP)の製造態様である。
【0044】
エノールアセテート中間体の合成
【化17】
p-トルエンスルホン酸一水和物(1.12g;5.9mmol;0,93eq.)を、無水酢酸(230ml)中のプレグネノロン(2g;6.3mmol;1eq.)溶液に添加した。反応媒体を還流で5時間攪拌し、無水酢酸をゆっくりと留去した。20℃まで冷却した後、反応媒体を破砕した氷中に注ぎ、次いで混合液をジエチルエーテルで抽出した。有機層を飽和Na
2CO
3水溶液で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させた後、減圧下で蒸発させた。残留物をシリカゲルでのクロマトグラフィー(溶離剤:シクロヘキサン/AcOEt、100/0~90/10)により精製して白色固体としてプレグネノロン エノールアセテート(2.2g;85%)を得た。
【0045】
17α-メチル-プレグネノロンの合成
【化18】
下記のとおり、MeMgBr
2(Et
2O中3M;25ml;75mmol;10eq.)を、無水テトラヒドロフラン(65ml)中のプレグネノロン エノールアセテート(3g;7.5mmol;1eq.)の溶液に添加した。反応媒体を還流で1時間攪拌し、次いで20℃まで冷却した。CH
3I(4.6ml;75mmol;10eq.)を添加し、反応媒体を還流で攪拌した。CH
3Iの添加を40当量まで45分ごとに繰り返した。20℃に冷却後、NH
4Clの水溶液を添加し、混合液を酢酸エチルで抽出した。有機層を塩水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥後、減圧下で蒸発させた。残留物をシリカゲルでのクロマトグラフィー(溶離剤:シクロヘキサン/AcOEt、75/25)により精製して白色固体として17α-メチル-プレグネノロン(-600mg;25%)を得た。
【0046】
3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オンの合成
【化19】
MgO(100mg;2.42mmol;2eq.)及び2-ベンジルオキシ-1-メチルピリジニウム トリフラート(850mg;2.42mmol;2.0eq.)をトリフルオロトルエン(10ml)中の17α-メチル-プレグネノロン(400mg;1.21mmol;1eq.)の溶液に添加した。反応媒体を85℃で一晩攪拌した後、セライトでろ過し、減圧下で蒸発させた。残留物をシリカゲルでのクロマトグラフィー(溶離剤:シクロヘキサン/AcOEt、95/5)により精製した後、アセトン中での結晶化により白色固体として3β-(ベンジルオキシ)-17α-メチル-プレグン-5-エン-20-オン(0.28g;36%)を得た。
【0047】
実施例2:3Bn17MePによるCB1受容体の活性の特異的阻害
本発明の化合物3Bn17MePの細胞活性に対する効果は、CB1刺激により誘発される幾つかの効果を阻害する能力を研究することにより理解されている。特に、3Bn17MePの、(i)細胞呼吸の阻害を抑制する能力、(ii)Erk1/2MAPK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼファミリーからの細胞外シグナル調節キナーゼ)のリン酸化(p-Erk1/2MAPK)の増加を阻害する能力、及び(iii)Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)でのCB1受容体の刺激により誘発された環状アデノシン一リン酸(cAMP)の阻害を防止する能力が研究されている。細胞呼吸、p-Erk1/2MAPK及びcAMPについて研究されているのは、これら細胞応答がプレグネノロンによるCB1受容体活性のシグナル伝達特異的阻害を決定するからである(Valleeら,2014)。換言すれば、プレグネノロンは、細胞呼吸のTHC誘発阻害を遮断し、p-Erk1/2MAPKのTHC誘発増加を阻害するが、cAMPのTHC誘発阻害には影響を及ぼさない。逆に、リモナバントなどのオルソステリックCB1アンタゴニストは両方の応答を阻害する。
CB1受容体に対する3Bn17MePの効果の選択性は、85の受容体に対する、本化合物の結合を分析することにより研究された。
【0048】
材料及び方法
THCにより誘発された細胞呼吸の阻害に対する3Bn17MePの効果:
この研究の目的は、ヒトCB1受容体(hCB1)で一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞においてTHC(1μM)により誘発された細胞呼吸の阻害に対する3Bn17MePの効果を評価することであった。HEK293細胞が選択された理由は、この細胞が内因性CB1受容体を発現せず、容易にトランスフェクトすることができ、CB1受容体のインビトロ活性を研究した実験(Shoreら,2014)及びプレグネノロンが細胞呼吸のTHC誘発減少を阻害可能であることを示した実験(Valleeら,2014)でも既に用いられていることである。
第1の研究では(
図5A)、HEK293細胞を野生型hCB1発現プラスミド(HEK293-hCB1-WT)で一過性にトランスフェクトした。細胞を先ず3Bn17MeP(アセトニトリル0.01%中に溶解した0;1;2.5;5;50及び100nM)で処理した。15分間のインキュベーション後、THC(0;1μM、EtOH 0.0034%に溶解)を培養皿に30分間添加した。
【0049】
第2の研究では(
図5B)、HEK293細胞を野生型hCB1発現プラスミド(HEK293-hCB1-WT)で又は変異体hCB1p.E1.49
G発現プラスミド(HEK-293-hCB1-Mut)で一過性にトランスフェクトした。この変異体において、1.49位のグルタメートアミノ酸はグリシンにより置換されていた。この変異は、THCの効果を保存するが、CB1受容体刺激により誘発された細胞活性に対するプレグネノロンの効果を抑制することが証明された(Valleeら,2014)。実際、1.49位のグルタメートは、CB1受容体へのプレグネノロンの結合に不可欠である。細胞を先ず3Bn17MeP(アセトニトリル0.01%中に溶解した100nM)で処理した。15分間のインキュベーション後、THC(0;1μM、EtOH 0.0034%に溶解)を培養皿に30分間添加した。
細胞呼吸は、クラーク型電極を備えた校正済みオキシグラフで測定した。酸素消費(OC)速度を用して細胞呼吸を測定した。3Bn17MePの不在下及び存在下でのOC速度に対するTHCの効果は、同じ実験からの3Bn17MePのビヒクル及びTHCのビヒクルで処理した細胞のベースラインOCのパーセンテージとして表した。
【0050】
THCにより誘発されたp-Erk1/2MAPK増加に対する3Bn17MePの効果:
この研究の目的は、STHdhQ7/Q7細胞株(7つのポリグルタミン反復と共にヒト化エクソン1を有するホモ接合ハンチンチン遺伝子座を含むノックイントランスジェニックマウスからの線条体由来細胞株)においてTHC投与により誘発されたp-Erk1/2MAPKのリン酸化の増加に対する3Bn17MePの効果を評価することであった。高レベルの内因性CB1受容体を安定的に発現することから、STHdhQ7/Q7細胞を選択した。この細胞は、エンドカンナビノイドによる刺激後のCB1受容体のインビトロ活性を研究した実験で用いられており(Laprairieら,2014)、発明者らの条件で、MAPKリン酸化のCB1誘導増加の最も信頼できる分析を可能にするものである。
5用量(0.1;0.3;1;3;9μM;0.9%DMSOに溶解)の3Bn17MePの効果を、MARKのリン酸化に対する10μM(0.05%DMSOに溶解)のTHCの効果に対して試験した。細胞を3Bn17MeP又はビヒクルで30分間予め処理した後、THC又はビヒクルのいずれかで30分間処理した。
MARKリン酸化(p-Erk1/2MAPKタンパク質)を、ローディングコントロールとして非リン酸化Erk1/2MAPKタンパク質を用いて、AlpHaLISA SureFire Ultraキットにより測定した。p-Erk1/2MAPK数を、3Bn17MePの不在下及び存在下のTHC又はビヒクルにより誘発されたp-Erk1/2MAPK数の増加率を産出することにより規格化した。
【0051】
THCにより誘発されたcAMPの阻害に対する3Bn17MePの効果:
この研究の目的は、ヒトCB1受容体を安定的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞CHO-hCB1においてTHC投与により誘発されるcAMPの減少に対する3Bn17MePの効果を評価することであった。
CHO-hCB1細胞は、CB1受容体を内因的に発現せず、cAMP及びP-MAPKに対する(THCを含む)CB1アゴニストの効果を研究した実験(Rinaldi-Carmonaら,1996)及びプレグネノロンはP-MAPKに対してTHC誘発効果を阻害できるがcAMPに対しては阻害できないことを示した実験(Valleeら,2014)で以前に用いられていることから、本実験において選択された。
3Bn17MeP(1nM、10nM、100nM、1μM、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)0.01%に溶解、
図5C)の効果を、THC(0.3、1、3、10、30、100及び300nM、エタノール0.0063%に溶解)の用量応答関数に対して試験した。
CHO-CB1-C2細胞を、THC及び試験化合物を同時に添加して45分間処理した。ホルスコリン(2.5μM)もまた、試験した全ての条件下で同時に添加してcAMP基礎レベルを持続させた。
処理の終時に、細胞を溶解してcAMPの定量化を行った。全ての測定は1つの実験につき3連で行った。cAMPの定量は競合蛍光イムノアッセイにより行った。データは、次のように算出したΔ蛍光(ΔF)の%で表す:ΔF%=(サンプルの蛍光-ネガティブコントロールの蛍光)/ネガティブコントロールの蛍光。
【0052】
インビトロでの3Bn17MePの結合選択性:
CB1受容体に対する3Bn17MePの効果の特異性を、85の他の受容体の結合に対する本化合物の効果を分析することにより調べた。このアッセイシリーズは、プレグネノロンのプロファイルと比較して3Bn17MePの結合特異性を評価することを目的とした。
85の受容体(CEREPハイスループットプロファイル+4つのステロイド受容体+カンナビノイド2型受容体)のリガンドの結合から置き換わる3Bn17MeP及びプレグネノロン(濃度10μM)の能力を試験した。CEREPハイスループットプロファイルは、80の膜貫通及び可溶性受容体、イオンチャネル及びGタンパク質共役受容体の広範なコレクションからなる。このプロファイルは、ヒット-ツー-リード化合物選択プロセスにおける最も有望な化合物を優先化する情報を提供するように特別に設計されている。
このプロファイルには
このアッセイを3Bn17MePに対してより良好に誂えるために、
本アッセイに、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン及びPXR受容体を加え、その後カンナビノイド2型受容体を加えて、CEREPハイスループットプロファイルに既に含まれるステロイド受容体のスペクトルを完全にした。
【0053】
結果
3Bn17MePは、HEK-293-hCB1-WTにおいてTHCにより誘発された細胞呼吸の減少を阻害する(
図5A)。3Bn17MeP(50nM)のID
100で、THC効果は完全に消失する。対照的に、HEK-293-hCB1-Mutにおいて、細胞呼吸のTHC誘発減少は、3Bn17MeP(100nM)に対して感受性がなく(
図5B)、このことは、3Bn17MePがCB1受容体と相互作用することによりTCH効果を阻害することを示す。
内因性CB1受容体を安定的に発現するSTHdh
Q7/Q7細胞で、3Bn17MePは、THC誘発MAPKリン酸化を用量依存的に減少させ(
図5C)、約1μMのED50を有する。
対照的に、3Bn17MePは、ヒトCB1受容体を安定的に発現するCHO細胞において、試験した用量のいずれでも、THCにより誘発したcAMPの阻害を改変しない(
図5D)。
3Bn17MeP(10μM)は、主要ステロイド受容体であるPXR受容体並びにCB1及びCB2受容体を含むCEREPハイスループットプロファイルを用いてインビトロで試験した85の受容体のいずれの結合も改変しない(表1)。この点に関して、3Bn17MePは、プレグネノロン(10μM)より選択的である。プレグネノロンは、グルココルチコイド、アンドロゲン及びプロゲステロンレセプターの結合から置き換わり(>80%)、より低い程度(>40%)で中枢及び末梢ベンゾジアゼピン受容体の結合から置き換わる。
【0054】
表1:85の受容体に結合する3Bn17MePとプレグネノロンの比較
【表1】
3Bn17MePのインビトロ効果は下記の表に要約される:
【0055】
表2:3Bn17MePの作用機序のインビトロ評価
【表2】
【0056】
結論
したがって、3Bn17MePは、インビトロで、CB1のシグナル伝達特異的阻害剤(CB1-SSi)として作用する。よって、3Bn17MePは、ヒトCB1受容体でトランスフェクトしたHEK293においてTHCにより誘発された細胞呼吸の減少を阻害する。3Bn17MePは、THCの結合部位とは異なる部位への結合によりCB1受容体刺激に対する阻害効果を発揮する。3Bn17MePは、CB1受容体を内因的に発現するSTHdhQ7/Q7細胞においてTHCにより誘発したMAPKリン酸化の増加を阻害するが、ヒトCB1受容体でトランスフェクトしたCHO細胞においてTHCにより誘発したcAMPレベルの減少に影響を及ぼさない。
更に、3Bn17Meは、インビトロで、内因性の対応物であるプレグネノロンより選択性である。実際、プレグネノロン(10μM)は、プロゲステロン、グルココルチコイド及びアンドロゲン受容体の結合から置き換わり(>80%)、ベンゾジアゼピン受容体の結合からも置き換わる(>40%)。Bn17MeP(10μM)は、これらの受容体の結合も、CEREPハイスループットプロファイルを用いて研究したその他の受容体のいずれも結合も改変しない(合計85)。
【0057】
実施例3:認知障害の前臨床モデルにおける3Bn17MePの効力
認知障害における3Bn17Me効力の前臨床評価は、神経発達障害(例えば、ダウン症候群及び脆弱X症候群)、神経認知障害(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病)及び加齢関連認知低下の入手可能な動物モデルを含む、認知障害と関連する前臨床モデルにおいて実施できる。
下記の理由により、ダウン症候群、脆弱X症候群及び加齢関連認知低下のマウスモデルを選択した:
- ダウン症候群は、ヒトにおける最も一般的な出生時遺伝欠陥であり、著明な知的無能力により特徴付けられる(Griecoら,2015)。
- 脆弱X症候群は知的無能力及び自閉症の主要な単一遺伝的原因である(Hunterら,2014)。
- Ts65Dn及びfmr1-KOマウス系統(ダウン症候群及び脆弱X症候群のマウスモデル)はそれぞれ、神経発達障害の最も広く用いられている前臨床モデルである(Changら,2013)。
- 加齢は、神経認知障害、特にアルツハイマー病(DSM-5tm)などの神経変性疾患に関連する最も高いリスク因子である。したがって、加齢関連認識損傷は病理学的認知低下の前提であることが多い。
3Bn17MeP投与の増強効果は、認識記憶、陳述/関連記憶及び作業記憶の3つの認知機能について研究した。
- 認識は以前に経験した出来事が蓄えられた記憶に合致した時に起こる記憶検索(memory retrieval)のタイプを言う。
- 陳述/関連記憶:ヒトの場合において陳述記憶は情報、以前の経験、概念に関する意図的な回想を参照する長期記憶のタイプである。陳述記憶の1つの性質は経験に関する空間的及び/又は時間的に異なる要素間の関係を作る能力である(Sellamiら,2017)。実際、陳述/関連記憶は弾力的であり、別々に得られた2つの情報を呼び戻して操作可能にして言及するか、又は決定を導き出す。
- 作業記憶は情報を一時的に保管及び治療する遂行機能のタイプである。この場合は語り合い、推論、読解などの毎日の生活活動の実施が必要である。
【0058】
このプロセスは正常な認知機能に重要であり、また、その障害はおそらく最も日常生活に支障が有る認知症状である。例えば語学の習得には言語を認識し、記憶し、意味の理解を深めて、自分の考えを人に理解してもらう必要がある。加えて、このプロセスの障害は認知障害を引き起こす疾患で一般的に検出され、Ts65Dnマウス、fmr1-KOマウス、老齢マウスを含めて、この疾患の前臨床モデルで再現される。
よって、下記の研究を行って、認知障害における3Bn17MePの効力を評価した:
a.ダウン症候群に関連する物体認知障害
b.ダウン症候群に関連する陳述/関連記憶障害
c.ダウン症候群に関連する作業記憶障害
d.脆弱X症候群に関連する物体認知障害
e.加齢に関連する長期関係/陳述記憶
下に記載の前臨床研究で3Bn17MePはヒトに対して安全に使用できる2つの異なる製剤で経口経路により投与された。
3Bn17MePは長鎖トリグリセリド植物油の、コーン油中で可溶化できる。この脂質製剤は液体で胃管により(by gavage)経口投与された。
3Bn17MePは3%の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を含む水道水に溶解できる。この溶液はガラス瓶にある1日1回の自由な飲料としてマウスに経口投与された。3%のHP-β-CDを含む水道水はコントロールビヒクルとして使用された。3Bn17MeP投与期間は週3回、瓶の重さを測り3Bn17MePの摂取量をモニターした。マウス1匹の1日の消費量は約4mlであった。例えば飲料水中の0.6μg/mlでの3Bn17MePの濃度は30gの体重のマウスでは約80μg/kgに相当する。
【0059】
3Bn17MePの効力評価に使用された前臨床モデルは下に記載の通り:
- ダウン症候群の前臨床モデル:Ts65Dnマウスはヒト染色体21遺伝子に対してオルソロガス(orthologous)な大部分を含む、染色体16の三重化により特徴付けられる(Gardiner,2015)。Ts65Dnマウスはダウン症候群の前臨床モデルで認められる認識機能障害を十分に反復しており、ダウン症候群の最も研究されている前臨床モデルである(Gardiner,2015)。実験マウスは雌のTs65Dn(B6EiC3Sn.BLiA-Ts(1716)65Dn/DnJ;Jackson Laboratory;Stock No: 5252)と雄のB6EiC3Sn.BLiAF1(Jackson Laboratory;Stock No: 3647)の交配で得られる。遺伝子導入マウス(Ts65Dn)と、その野生型(WT)同腹子は混合のDBA/2J x C57Bl/6J x C3H/HeJバックグラウンドからである。
- 脆弱X症候群の前臨床モデル:fmr1-KOマウスはfmr1遺伝子配列のエキソン5の標的欠失により特徴付けられる(Kazdobaら,2014)。この欠失はfmr1遺伝子のサイレンシングをもたらすことから、コードタンパク質の抑制、脆弱X精神遅滞タンパク質(FMRP)をもたらす。FMRPの主要な役割はmRNA翻訳の制限により、ニューアロンにおける局所タンパク質合成の調節である。FMRPの喪失は感覚運動、行動、認知などの欠陥を伴うニューロン成熟の阻害に繋がる(Kazdobaら,2014)。特にfmr1-KOマウスは物体認知障害を含む長期記憶障害を発現する(Busquets-Garciaら,2013)。実験マウスはfmr1-KOマウス(FVB.129P2-Pde6b+ Tyrc-ch Fmr1tm1Cgr/J line;The Jackson Laboratory,Stock No: 4624)と野生型マウス(WT;FVB.129P2-Pde6b+ Tyrc-ch/AntJ;The Jackson Laboratory,Stock No: 4828)の交配で得られる。遺伝子導入マウスと、その野生型同腹子はFVBバックグラウンドからである。
加齢関連認知低下の前臨床モデル:同じ条件下で交配された3~4か月齢のC57Bl/6Jマウスと比べて、19~22か月齢のC57Bl/6Jマウスは認知欠損を発現することが知られている(Sellamiら,2017)。
【0060】
実施例3a:ダウン症候群を伴う物体認知障害に対する3Bn17MePの効力
複数の変種のあるマウスでの物体認知テストは自発的な新規性選好を基にしている。このことからマウスはより長い新しい物体を探索して(Ennaceur,2010)、小さいサイズは既に探索により遭遇している物体に関する「認識」を示す。1つの特定の物体の記憶は短い遅延(具体的には数分から1時間のの間)の後に、又は長い遅延(具体的には2時間)の後に評価することができる。
この研究の目的はダウン症候群の前臨床モデルであるTs65Dnマウスにおける、物体認知障害に対する3Bn17MeP投与の効果を評価することである。
最初の研究では(
図6A)、短期間の物体認知は一度に1つずつ提示された逐次手順を使用して試験された。結果として以前に遭遇した物体の認識は、この物体の探索行動の減少により明らかになる。ヒトで使用される物体認知タスクに最も近いので(具体的にはCantabパターン認識記憶)、この手順は選択され、またダウン症候群対象者は障害を受けたと示されている。このタスクでは物体/パターンは連続的に提示されて、数分の遅延後に認識が評価された(Edginら,2012)。
第2の研究では(
図6B)長期物体認知が試験された。長期記憶はダウン症候群対象者に認められる主要な障害の1つではないが、この試験は認知能力に対するCB1オルソステリックアンタゴニストの効果を示すのに使用されてきた。この理由から、この特定のタスクに対する3Bn17MePの効果を分析することが重要である。
【0061】
材料及び方法
ダウン症候群の前臨床モデルにおける短期逐次物体認知に対する3Bn17MePの効果
マウスに、2つの可能な順序A-C-C-B-A及びA-B-C-C-Aの1つに従って1つ1つ提示した3つの異なる物体(A、B、C)を探査させた。オープンフィールドにおいて、マウスを物体Aに5分間曝した後、ホームケージに戻した。5分間の遅延後、マウスを物体B又はCに5分間暴した後、ホームケージに戻すといった具合に続けた。結果として、物体Cの2回の提示の間の保留遅延は5分間であり、物体Aの2回の提示の間の保留遅延は35分間であった。初回提示時の物体A又はCの探査に費やした時間を、2回目の提示時に同一物体を探索した時間と比較した。このパラメータを用いて物体認知能力を評価する。
3Bn17MeP(3%HP-β-CD中0.6μg/ml)又はビヒクル(3%HP-β-CD)を、日々の飲用水として自由に経口摂取させた。雄性及び雌性のTs65Dn及びWTマウス(3~5月齢;群当たりn=7~11)を、ビヒクル又は3Bn17MeP溶液に自由にアクセスさせた。物体認知手順の前に、マウスを放射迷路で試験した。物体認知は、2ヶ月間の3Bn17MeP又はビヒクル投与後に実施した。
【0062】
ダウン症候群の前臨床モデルにおける長期物体認知に対する3Bn17MePの効果
マウスにおいて、長期記憶は、1つの特定の物体の記憶を24時間後に評価する物体認知テストを使用して評価することができる。マウスにL字迷路中の2つの同一物体を探索させた。翌日、物体認知を、一方の物体を新奇物体に置き換えて試験した。自発的な新奇嗜好性に従い、マウスは新奇物体をより長く探査する(Ennaceur,2010)。新奇物体の探索に費やした時間と見慣れた物体の探索に費やした時間と比率を、慣れ親しんだものと新奇なものとの弁別指数として用いる。したがって、このパラメータを用いて、物体認知能力を評価する。
コーン油中の3Bn17MeP(15μg/kg)又はビヒクル(コーン油;2ml/kg)の反復経口投
与の効果を、2~4か月齢の雄性Ts65Dn及びWTマウス(群あたりn=7~8)において調べた。3Bn17MePを、1日2回(午前9時及び午後5時)連続7日間投与した。物体認知テストは、7日目に、13回目の3Bn17MeP又はビヒクル投与の3時間後に実施した。
【0063】
結果
短期逐次物体認知プロトコル(
図6A)において、野生型マウスは、同一物体の1回目の提示と2回目の提示との間での探査時間の減少(5分間の遅延及び35分間の遅延の両方とも)が示すように、既に遭遇した物体を認識することができた。対照的に、ビヒクルを投与したTs65Dnマウスは、遅延とは無関係に連続提示の間で探査時間の有意な減少を示さなかった。このことは、Ts65Dnが短期物体認知が損傷していることを示した。3Bn17MeP(0.6μg/ml)を投与したTs65Dnは、5分間後及び35分間後に見慣れた物体に対する探査行動が著しく低下し、野生型マウスのものに類似する能力を獲得した。
長期物体認知プロトコル(
図6B)において、コーン油ビヒクルを投与したTs65Dnは、WTと比較して深刻な物体認知損傷を示す(
図6B)。3Bn17MeP(15μg/kg)投与は、Ts65Dnの弁別指数をWTのレベルに増強した。
よって、3Bn17MePは、ダウン症候群の前臨床モデルにおいて、完全な物体認知能力を回復させた。
【0064】
実施例3b:ダウン症候群を伴う陳述/関連記憶障害に対する3Bn17MePの効力
この研究の目的はダウン症候群のモデルであるTs65Dnマウスにおける、陳述/関連記憶障害に対する3Bn17MeP投与の効果を評価することである。次の陳述/関連記憶テストは非常に類似したプロトコルを使用しながら、ダウン症候群(バーチャルな放射状迷路にて)の患者とTs65Dnマウス(放射状迷路にて)において障害検知に成功裏に用いられる放射状迷路手順で実施された。
【0065】
材料及び方法
関連記憶タスクは8本アーム(8-arm)の放射状迷路を使用して実施された。中央プラットフォームの直径は30cmであり、アームの長さは55cm、幅は10cm、床からの高さは100cm
である。各アームは入口に格納式ドアが、また、端には食物ペレット供給システムが備えられている。それぞれの迷路は空間弁別(spatial discrimination)を可能にする壁に視覚キュー(cues)を有する部屋に置かれた。迷路内(intra-maze)キューは付いていない。各迷路はビデオトラッキングで完全自動化されている(IMETRONIC Pessac、France)。マウスの位置に従ってアームのドア(開閉)と食物供給は自動制御されている。
最初に食物制限マウス(研究中は当初の体重の85%に)は迷路に対する習慣化に関する3つのセッションにかけられた。それぞれの習慣化セッション中のマウスは8本アームのそれぞれを訪問するまで、又は30分が経過するまで迷路を自由に探索する。習慣化セッション開始時点でマウスは、アームを閉めた状態で中央プラットフォームに置かれた。1分後に全てのアームは食物報酬(Panzaniの「Pates Perles」製のドライパスタを玉の形にした)で餌付けされ、同時に開かれた。末端の食物トレイに到達した時点でアームは訪問されたと見なされる。訪問されたアームのドアはマウスが中心に戻った時点で閉じられる。
習慣化に関する1日1回のセッションにかけられた。第2回目のセッションの終了時にマウスが割り当てられた時間内に全てのアームへ訪問していない場合、又は4つの最後の訪問されたアームの食物報酬に失敗した場合には、マウスは同日に追加のセッションにかけられ、もしもこの基準が達成できない場合には翌日に別のセッションにかけられた。習慣化の第3日の後にマウスが全てのアームの探索に失敗するか、又は4つの最後の訪問されたアームの報酬に失敗した場合には実験から除外される。
【0066】
獲得は最後の習慣化セッションの2時間後に開始した。獲得ステージは迷路内の食物ペレットの位置の学習で構成した。報酬の位置は全手順を通じて変わっていない。8本アームのうちの6本アームが使用された(隣接するアームの3つのペア(A、B、又は、C))。各ペアの1本アームは末端に報酬を含むが、各ペアの別のアームは餌付けされていない。
1日1回の各セッションの開始時点でマウスは、アームにアクセスできない状態で迷路の中心に置かれた。次にアームの第1のペアのドアは開かれ、ペアになった両アームにアクセスする。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると、ドアは閉ざされてマウスは中央プラットフォームに閉じ込められる。直後に2つのドアが開かれてアームのペアにアクセスする(0秒の試行間間隔)。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると次の試行の前にドアは再度閉ざされる。各セクション内でマウスは一度に1つずつ、アームの3つのペアに関する20の反復及び逐次提示にかけられた。
正反応数をセッションごとに計測した。学習基準に到達した時、マウスはテストを取得したと考えられた。この基準は少なくとも(i)2つの連続セッションを通して75%の正反応、及び、(ii)2つの連続セッションを通して3つのペアのそれぞれについての62%の正反応、から成る。
【0067】
学習基準に到達した翌日に柔軟性テストを開始した。実際、マウスの柔軟性テストは別の日に実施できる。
この柔軟性タスクにおいて新しいペアは、取得ステージ中に取得した2つの異なるペアから2本アームを組み合わせて作られる。迷路における食物の位置は変更しないが、アームを提供する方法は変更した。実際、ペアA及びBの代わりに、いわゆるABペアがマウスに提示された。ABペアはペアA及びBの2本の隣接アームの組み合わせである(1つのアームは餌あり、別のアームは餌なし)。このペアは柔軟性テストの試験試行を示す。柔軟性性能を測定している独立変数(陳述/関連記憶)はペアABの提示における正反応の割合である。
3Bn17MeP(3%のHP-β-CD中の0.6μg/ml)又はビヒクル(3%のHP-β-CD)は1日1回の自由な飲料として経口投与された。放射状迷路手順の7日前に、かつ研究終了まで雄及び雌のTs65DnとWTマウス(3~4か月齢、群当たりn=7~11)はビヒクル又は3Bn17MeP溶液(0.6μg/ml)に自由にアクセスした。
行動の研究の終了時点でマウスを犠牲にして血液と脳の試料を採取した。血漿と脳において3Bn17MePをLC/MS-MSクロマトグラフィーで定量した。
【0068】
結果
ビヒクルを投与したTs65Dnマウスは、WTと比較して、柔軟性テストの結果が悪かった。ビヒクル処置Ts65Dnマウスの選択正確性は、偶然レベルを上回らなかった(
図7)。3Bn17MeP(0.6μg/ml)の投与は、Ts65Dnマウスの選択正確性を高め、WTのレベルに達した。よって、ダウン症候群の前臨床モデルにおいて、3Bn17MePは、正確な陳述/関連記憶能力の基礎となす機能である学習柔軟性を完全に回復させる。
3Bn17MePは、Ts65Dnマウスの脳及び血漿の両方へアクセスする。3Bn17MePの平均の血漿及び脳濃度は、それぞれ1.33ng/ml及び5.91ng/gであった。これは脳/血漿比4.4となる。
【0069】
実施例3c:ダウン症候群を伴う作業記憶障害に対する3Bn17MePの効力
この研究の目的はダウン症候群のモデルであるTs65Dnマウスにおける作業記憶障害に対する3Bn17MeP投与の効果を評価することである。次の作業記憶テストは非常に類似したプロトコルを使用しながら、ダウン症候群(バーチャルな放射状迷路にて)の患者とTs65Dnマウス(放射状迷路にて)において障害検知に成功裏に用いられる放射状迷路手順で実施された。
【0070】
材料及び方法
作業記憶タスクは実施例3aに説明された8本アームの放射状迷路を使用して実施された。食物制限及び習慣化手順は実施例3aに記載されたのと同様に実施された。作業記憶手順を最後の習慣化セッションの2時間後に開始した。それぞれのマウスは23回の試行から成る15日間のセッション(3日間の5ブロック)にかけられた。8本アームのうちの6本アームが作業記憶テスト中に使用された(隣接するアームの3つのペア(A、B、又は、C))。1日1回の各セッションの開始時点でマウスは、アームにアクセスできない状態で迷路の中心に置かれた。次にアームの第1のペアの開かれたドアは、ペアになった両アームにアクセスする。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると、ドアは閉ざされてマウスは中央プラットフォームに10秒間(試行間間隔、ITT)閉じ込められ、その後2つのドアが開かれてアームのペアにアクセスする。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると、次の試行の前に10秒間ドアは再度閉ざされる。各セクション内でマウスは一度に1つずつ、アームの3つのペアに関する反復及び逐次提示にかけられた。各アームペアの初回の提示での食物報酬は両アームに存在していた。アームペアの後続の提示での食物報酬は以前の応答とは無関係に、先に訪問されたアームに対して反対のアームにのみ存在していた。作業記憶性能を測定している独立変数は3つのセッションの各ブロックでの正反応の割合である。
3Bn17MeP(3%のHP-β-CD中の0.06μg/ml)又はビヒクル(3%のHP-β-CD)は1日1回の自由な飲料として経口投与された。放射状迷路手順の7日前に、かつ研究終了まで雄及び雌のTs65DnとWTマウス(3~4か月齢、群当たりn=24~26)はビヒクル又は3Bn17MeP溶液(0.06μg/ml)に自由にアクセスした。
【0071】
結果
正反応率は、WTと比べて、ビヒクルを投与したTs65Dnマウスにおいて大きく減少した(
図8)。3Bn17MeP(0.06μg/ml)の投与は、ビヒクルマウスと比べて、Ts65Dnにおいて正反応を増加させ、作業記憶手順の終時にはWTのレベルに達した。よって、3Bn17MePは、ダウン症候群の前臨床モデルにおける作業記憶損傷を修正する。
【0072】
実施例3d:脆弱X症候群を伴う物体認知障害に対するに対する3Bn17MePの効力
この研究の目的は脆弱X症候群の前臨床モデルであるfmr1-KOマウスにおける物体認知障害に対する3Bn17MePの効果を評価することである。
【0073】
材料及び方法
物体認知手順は実施例3aに記載されたのと同様に実施された。
コーン油(15μg/kg)中の3Bn17MeP又はビヒクル(コーン油;2ml/kg)の反復経口投与
の効果は2~4か月齢のfmr1-KOマウスと雄のWTマウス(群あたりn=7~8)で研究された。3Bn17MePは連続的に7日間、(朝9時と夕方5時の)1日2回投与された。物体認知テストは3Bn17MeP又はビヒクルの13回目投与から3時間後の7日目に実施された。
【0074】
結果
コーン油ビヒクルを投与したfmr1-KOマウスは、WTと比べて、物体認知の損傷を示す(
図9)。3Bn17MeP(15μg/kg)の投与は、fmr1-KOマウスの弁別指数を、WTのレベルに高めた。よって、3Bn17MePは、脆弱X症候群の前臨床モデルにおいて、完全な物体認知能力を回復させた。
【0075】
実施例3e:加齢を伴う長期関係/陳述記憶に対する3Bn17MePの効力
次に記載の認知試験は非常に類似した手順を使用して、老齢対象者(バーチャルな放射状迷路にて)と老齢マウス(放射状迷路にて)の両方での陳述/関連記憶の障害検出に成功裏に用いられてきた(Sellamiら,2017)。実際、柔軟性テストが2つの異なる時間的配列内で取得された2個の情報を呼び戻して、操作可能にする必要がある時に、老齢対象者と老齢マウスの両方とも障害を受ける。
【0076】
材料及び方法
関連記憶タスクは8本アームの放射状迷路を使用して実施例3bに記載されたのと同様に実施された。食物制限及び習慣化手順は実施例3bに記載されたのと同様に実施された。取得は最後の習慣化セッションの2時間後に開始した。取得ステージは迷路内の食物ペレットの位置の学習で構成した。報酬の位置は全手順を通じて変わっていない。各ペアの1本アームは末端に報酬を含むが、各ペアの別のアームは餌付けされていない。
取得は決行か中止か(go-no go)の手順である。アームは1つずつ提示される。対象者は報酬の無いアームでなく、報酬のあるアームを先に訪問することが期待されている。1日1回の各セッションの開始時点で、マウスはアームにアクセスできない状態で迷路の中心に置かれた。次に第1のアームのドアは開かれる。マウスがアームを訪問して中央プラットフォームに戻ると(又は、アームを訪問しなかった場合には90秒の遅延後)、ドアは閉ざされてマウスは中央プラットフォームに閉じ込められる。直後にアームのドアが開かれる(0秒の試行間間隔)。マウスがアームを訪問して中央プラットフォームに戻ると(又は、アームを訪問しなかった場合には90秒の遅延後)、ドアは次の試行前に再度閉ざされる。1日1回の各セッションは2つの異なる時間的配列に構成された40の逐次アーム提示(具体的には試行)を含んでいた。第1の配列(20の試行)において迷路の4本のアームは交互に提示された(2つは餌あり、2つは餌なし)。引き続いて第2の配列が開始され(20の試行)、迷路の別の4本のアームは交互に提示された(2つは餌あり、2つは餌なし)。全ての取得フェーズ中にアームは個々の配列において提示される。
各試行においてアームを訪問する時間は測定される。学習基準に到達した時、マウスはテストを取得したと考えられた。この基準は(i)2つの連続セッションを通しての平均で、報酬の無いアームに比べて報酬のあるアームを訪問する時間が少なくとも50%少ない、及び、(ii)最終セッションを通しての平均で、報酬のあるアームを訪問する時間が少なくとも30%少ない、から成る。
【0077】
学習基準に到達した翌日に柔軟性テストを開始した。実際、マウスの柔軟性テストは別の日に実施できる。
学習の柔軟性は次に記載の条件下で評価された。迷路の8本アームは実質的には2本の隣接するアームから成るペアに分割される。ペアは第1の配列で取得された1本のアームと、第2の配列で取得された別のアームから成る。迷路における食物の位置は変更しないが、アームを提供する方法は変更した。柔軟性セッションの開始時点で、マウスはアームにアクセスできない状態で迷路の中心に置かれた。次にアームの第1のペアの開かれたドアは、ペアになった両アームにアクセスする。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると、ドアは閉ざされてマウスは中央プラットフォームに閉じ込められる。直後に2つのドアが開かれてアームのペアにアクセスする(0秒の試行間間隔)。マウスが1本アームを訪問して中央プラットフォームに戻ると、次の試行の前にドアは再度閉ざされる。マウスは一度に1つずつ、ペアに関する20の反復及び逐次提示にかけられた。
各ペアについて正反応の割合が測定された。異なる配列で提示されたアームから成るペアについての選択正確性は関連記憶能力を反映した。
3Bn17MeP(3%のHP-β-CD中の0.6μg/ml)又はビヒクル(3%のHP-β-CD)は1日1回の自由な飲料として経口投与された。放射状迷路手順の7日前に、かつ研究終了まで、19~22か月齢の雄のC57Bl/6Jマウス(群当たりn=9~12)はビヒクル又は3Bn17MeP溶液(0.6μg/ml)に自由にアクセスした。
行動の研究の終了時点でマウスを犠牲にして血液と脳の試料を採取した。血漿と脳において3Bn17MePをLC/MS-MSクロマトグラフィーで定量した。
【0078】
結果
柔軟性テストでは、ビヒクルを処置した老齢マウスの選択正確性は、偶然レベル(50%)を上回らなかった(
図10)。3Bn17MeP(0.6μg/ml)の投与は、老齢マウスの選択正確性を大きく高め、70%を超える正反応率に達した。よって、3Bn17MePは老齢マウスにおいて関連記憶能力を回復する。
3Bn17MePは、老齢マウスの脳及び血漿の両方へアクセスする。3Bn17MePの平均の血漿及び脳内濃度は、それぞれ1.28ng/ml及び6.75ng/gであった。これは脳/血漿比5.3となる。
【0079】
結論
本発明の化合物は、長期陳述/関連記憶、認識及び遂行機能を含む幅広い認識損傷の修正において非常に高い能力をインビボで示す。3Bn17MePは、ダウン症候群、脆弱X症候群及び加齢関連認知低下を含む認知障害の複数のモデルにおいて効力を示す。したがって、3Bn17MePは、認知機能に対する幅広い作用の恩恵を受け、よって包括的な向知性薬である可能性が高い。
【0080】
実施例4:3Bn17MePにはオルソステリックCB1アンタゴニストの行動的副作用が無い
オルソステリックCB1アンタゴニストリモナバントの有害作用に関連する表現型に対する3Bn17MePの薬理学的プロファイル及び効果が評価された。Acomplia(商標登録)などのオルソステリックCB1アンタゴニストは有害作用のために市場から撤退している。結果として、ヒトにとって実際に役立つようにCB1を阻害している治療ツールとしては、オルソステリックCB1アンタゴニストの既知の有害作用があってはならない。
CB1受容体のオルソステリックアンタゴニストの、特にリモナバント関する既知の有害作用としは次のものが有る:(1)報酬経路に対する非特異的効果の徴候である食物摂取と体重の低下;(2)不安及び鬱関連行動の誘発。
このことからマウスにおける食物摂取、体重、不安及び鬱関連行動に対する3Bn17MePの効果はオルソステリックCB1アンタゴニストリモナバントの効果と比較された。
リモナバントは肥満治療のための治療量の6倍の用量で、げっ歯類では引っかきと、鎮静状態や痙攣が後に続く多動性とに自発行動の変化を誘発することが知ら得ている((Zavattiら,2011;EPAR discussion,EMEA 2006)。実際、自発的行動に対する3Bn17MePの効果がマウスで研究されている。
【0081】
実施例4a:野生型マウスにおけるリモナバントと比較した食物摂取及び体重に対する3Bn17MePにより誘発された望ましくない効果の不存在
この実験は標準的な実験用飼料を自由に与えた痩せたマウスにおける、3Bn17MePによる急性治療の能力評価と、オルソステリックCB1アンタゴニストリモナバントによるポテンシャル効果の比較を目的としている。食物摂取と体重の減少はマウスとヒトの両方においてCB1オルソステリックアンタゴニストの典型的な結果であるので、食物摂取と体重について研究された(Caraiら,2006)。
【0082】
材料及び方法
標準的な実験用飼料を自由に与えた痩せたマウスにおける食物摂取に対する3Bn17MePの急性投与の効果
明暗サイクルの暗期の間にマウスに関する標準的な飼料の自発的摂取が評価された。食物摂取量は光消灯で、光が消灯されて3時間後と13時間後に測定された。
食物摂取に対する3Bn17MeP(0.05、5、15、30mg/kg、コーン油中の経口、5ml/kg)又はビヒクル(コーン油)の急性投与の効果は、雄のC57BL/6Jマウス(群あたりn=7~8)において、リモナバント(10mg/kg、2%のDMSO及び2%のTween80を含む0.9%のNaCl中のip、10ml/kg)又はビヒクル(0.9%のNaCl中の2%のDMSO及び2%のTween80)と比較された。3Bn17MeP及びリモナバントは暗期開始の3時間と30分前に、それぞれ投与された。
【0083】
標準的な実験用飼料を自由に与えた痩せたマウスにおける体重に対する3Bn17MePの急性投与の効果
体重に対する3Bn17MeP(0.05、5、15、30mg/kg、コーン油中の経口、5ml/kg)又はビヒクル(コーン油)の反復投与の効果は、雄のC57BL/6Jマウス(群あたりn=7~8)において、リモナバント(10mg/kg、2%のDMSO及び2%のTween80を含む0.9%のNaCl中のip、10ml/kg)又はビヒクル(0.9%NaCl中の2%のDMSO及び2%のTween80)と比較された。3Bn17MeP及びリモナバントは40日間、1日1回投与された。マウスの体重は薬剤投与前に治療の最初の週は毎日測定され、その後は1週間中に4日測定された。
【0084】
結果
3Bn17MeP(0.05、5、15及び30mg/kg)は、ビヒクルと比較して食物摂取を改変させなかった一方(
図11A)、リモナバント(10mg/kg)は、消灯後の最初の3時間の間の食物摂取を有意に低下させた(
図11B)。同じ用量で、3Bn17MePは、ビヒクルと比較して、40日間の反復投与の間に、体重進展を改変しなかった(
図11C)。対照的に、リモナバント(10mg/kg)はこの期間中のマウス体重を低下させた(
図11D)。
【0085】
実施例4b:野生型マウスにおけるリモナバントと比較した不安及び抑鬱様行動に対する3Bn17MePにより誘発された望ましくない効果の不存在
げっ歯類とヒトにおける不安及び鬱の増加がCB1オルソステリックアンタゴニストによる反復治療の影響であるので、不安及び鬱関連行動について研究された(Bellocchioら,2013;Moreiraら,2009)。このモデルは薬理学的化合物の推定上の不安発性又は抗不安効果の評価で、げっ歯類で広く使用されているので、不安様行動は高架式十字迷路(EPM)において研究された(Walf and Frye,2007)。鬱関連行動は鬱の主要症状の1つの無快感症のモデルとして幅広く使われるショ糖嗜好試験を使用して研究された。
この研究の目的はマウスにおける鬱及び不安関連行動に対する3Bn17MePによる反復治療の効果を評価することである。この効果はマウス及びヒトでの鬱及び不安様行動の誘発が知られているオルソステリックCB1受容体アンタゴニストリモナバントと比較された。
【0086】
材料及び方法
高架式十字迷路における不安様行動
EPM機器は灰色のポリ塩化ビニル製であり、4本の高架式アームから成る。アーム(それぞれは高さ60cm、長さ37cm、幅6cm)は十字状に配置されているが、2本の反対アーム
は壁で囲まれ、2本の別のアームは開かれている。ビデオカメラが迷路の上部に配置されて追跡システムに接続されているので、迷路内のマウスの歩行運動の自動スコアリングを可能にした。迷路内の光強度は開放アームで45ルクスに設定された。1匹のマウスがEPMの中心部に置かれ、迷路全体を5分間自由に探索させた。開放アームと閉鎖アームでの経過時間とエントリー数は測定された。訪問の比率及び/又は開放アームでの経過時間の低下は不安レベルの上昇を反映する。
コーン油(30mg/kg)中に溶解された3Bn17MeP又はビヒクル(コーン油、5ml/kg)の急性経口投与の効果は、2か月齢の雄のC57Bl/6Jマウス(群当たりn=10)においてEPMテストで研究された。EPMテストは3Bn17MeP投与から3時間後に実施された。リモナバントは注射可能な0.9%のNaCl中のDMSO(2%)とTween80(2%)を含むビヒクルに溶解された。同じ研究においてリモナバント(10mg/kg)又はビヒクル単独(10ml/kg)の腹腔内注射の効果は、2か月齢の雄のC57Bl/6Jマウス(群当たりn=10)においてEPM内で研究された。EPMテストはリモナバント注射から30分後に実施された。
【0087】
ショ糖嗜好試験における抑鬱様行動
ショ糖嗜好性はマウスのホームケージ内で試験された。2%のショ糖(D(+)スクロース)を含むショ糖溶液は、プラスチック製の目盛り付きボトル(各ボトルの容積は45ml)に注入された。同一のボトルは水道水で満たされている。全てのマウスをボトルとショ糖溶液に対して慣れさせた。水を含む1本のボトルとショ糖溶液を含む1本のボトルは各ホームケージのホッパー(hopper)に置かれた。マウスの飲み側選好がないようにするために各溶液を含むボトルの半分はホッパーの左端に、残りの半分は右端に置かれた。マウスは暗期の開始時点から1日の内食物と水の消費が最も大きい時間(夜7時から朝8時半)に溶液にアクセスできる。7日後に、ショ糖嗜好試験が実施された。
マウスが午後12時から午後10時まで当該溶液にアクセスできることを除き、水とショ糖溶液を、習慣化について記載した通りに提示した。各時点で、ボトルを秤量した(1gは1mlに相当)。摂取容量は、当初のボトル重量から最終のボトル重量を減算して算出した。
コーン油(0.05、5、15、30mg/kg)中の3Bn17MeP又はビヒクル(コーン油;5ml/kg)の
反復経口投与の効果はショ糖嗜好試験において2か月齢の雄のC57Bl/6Jマウス(群当たりn=7~8)で研究された。リモナバントは注射可能な0.9%のNaCl中のジメチルスルホキシド(2%のDMSO)とTween80(2%)を含むビヒクルに溶解された。同じ研究においてリモナバント(10mg/kg)又はビヒクル単独(10ml/kg)の反復腹腔内注射の効果は、2か月齢の雄のC57Bl/6Jマウス(群当たりn=8)においてショ糖嗜好試験で研究された。3Bn17MeP及びリモナバントは28日間、1日1回投与された。ショ糖嗜好試験は28日目に実施され、ショ糖溶液と水は3Bn17MeP投与から3時間後に、リモナバント投与から30分後に送達された。
【0088】
結果
30mg/kgにて急性投与した3Bn17MePは、高架式十字迷路の開放アームで費やす時間の割
合及び訪問割合に影響を及ぼさなかった(
図12A)。逆に、30mg/kgのリモナバント注射は
、開放アームで費やす時間の割合及び訪問割合を顕著に低下させた(
図12B)。
30mg/kgまでの3Bn17MePの慢性投与は、試験した用量(0.05、5、15、30mg/kg)のいず
れでもスクロース摂取に影響を及ぼさなかった一方、リモナバント(10mg/kg)は同一条件下でスクロース消費を半減させた(
図12C及びD)。
この結果は、3Bn17MePの反復投与がマウスにおいて抑鬱様行動も不安様行動も誘発しないことを示す。対照的に、CB1受容体オルソステリックアンタゴニストであるリモナバント(10mg/kg)は、スクロース嗜好試験にて、快感喪失を誘発し、高架式十字迷路におい
て不安様行動を増加させる。この結果は、げっ歯類において1mg/kg程度の低用量のリモ
ナバントの類似する効果を報告する以前の研究と一致している(Beyerら,2010;Patel and Hillard,2006)。
【0089】
実施例4c:3Bn17MePはマウスにおいて自発行動に影響を及ぼさない
3Bn17MePは、マウスへの3Bn17MeP(30mg/kg)の経口投与後24時間の間のホームケージ内での自発行動のビデオ分析で示されるように、げっ歯類における行動自体に検出可能な効果が無かった。
【0090】
結論
表3において、リモナバントの有害効果を3Bn17MePの効果と比較する。
表3:3Bn17MePはリモナバントの有害効果をいずれも有しない
【表3】
【0091】
3Bn17MePの効果はCB1オルソステリックアンタゴニストであるリモナバントの効果とは非常に異なる。
3Bn17MePは、食物摂取の低下、不安及び鬱関連行動の増加などのリモナバントその他のCB1オルソステリックアンタゴニストの代表的な有害作用のいずれも有しない。3Bn17MePのこの効果の欠如は、各試験で用いた最高用量の全てで観測された。更に、3Bn17MePは、マウスにおいて自発行動の改変を誘発しない。3Bn17MePのこれら用量は、試験した認知障害の全てのモデルにおいて認識損傷を逆転させる用量より数倍高い。
【0092】
実施例5:3Bn17MePはインビトロで毒性でなく、インビボで有利な安全性プロファイルを示す
実施例5a:3Bn17MePのインビトロ毒性
3Bn17MePの潜在的インビトロ毒性を研究するために4つのモデルを使用した:1.ラット皮質ニューロンの初代培養物における神経毒性。2.サンドイッチ構造におけるラット肝細胞の初代培養物での肝毒性及び胆汁機能。3.ヒーラ細胞におけるヒストンH2AXのリン酸化(γH2AX)を測定する遺伝毒性。このアッセイでは3Bn17MePの効果はリモナバントと比較された。4.心臓毒性、hERG-CHO細胞におけるhERG電流阻害を測定。3Bn17MePは100μM未満で試験された。
【0093】
材料及び方法
神経毒性
この研究は皮質ニューロンの初代培養物における3Bn17MeP及びリモナバントの細胞毒性の分析を目的としている。E19ラット胚からの培養初代皮質ニューロンは3Bn17MeP、リモナバント(いずれに場合も、0.1%NMP中の0、10、30、100μM)又はスタウロスポリン(参照化合物として使用、100nM)、及び水溶性蛍光細胞溶解マーカーで治療された。次に細胞には72時間のタイムラプスイメージング(time-lapse imaging)を続けた。次に細胞は透過治療された。この手順は時間をかけて1ウエル当たりの細胞総数のパーセンテージで溶解を表現できた。
【0094】
遺伝毒性
本研究は二本鎖DNA破断をもたらすDNA損傷に対する細胞応答であるヒストンH2AXリン酸化(γH2AX)の測定を目的とした。本実験は、3Bn17Me(0.1%NMP中0.1、0.3、1、3、10、30及び100μM)又はリモナバント(0.1%NMP中0.1、0.3、1又は100μM)で24時間処理したHeLa細胞について実施した。3μMのエトポシドを、遺伝毒性効果のポジティブコントロールとして添加した。免疫蛍光を、リン酸化ヒストンgH2AXに対する特異抗体で処置した細胞について行った。核は蛍光DNAインターカレーティング剤で染色した。染色細胞はBD Pathway 855 imager(商標登録)で撮像して分析した。
【0095】
肝毒性及び胆汁機能
本研究は、ラット肝細胞の初代培養物での3Bn17MePの細胞毒性効果の分析を目的とした。溶解した肝細胞の割合を、蛍光細胞溶解マーカーを用いるタイムラプスイメージングにより継時的に測定した。48時間の処理後の毛細胆管の数を、蛍光胆汁酸塩アナログを用いて測定した。
10~12週齢ウィスター系ラットから初代ラット肝細胞を、二段階コラゲナーゼ灌流法を使用して単離した。24時間後、細胞をマトリゲル層で覆ってサンドイッチ培養を実施した。24時間後、細胞を3Bn17MeP又はリモナバント(0.1%NMP中0、0.1、0.3、1、3、10、30及び100μM)と蛍光細胞溶解マーカーで処理し、次いで蛍光及び位相差タイムラプスイメージングにより48時間モニタリングした。次に、細胞を染色し、蛍光胆汁酸塩アナログを用いて毛細胆管ネットワーク状態とBsepポンプ活性を測定した。アセトアミノフェン(30mM)とシクロスポリンA(1μM)を、それぞれ肝毒性及び毛細胆管消失のポジティブコントロールとして添加した。
【0096】
心臓毒性
本研究は心筋細胞活動電位の再分極に不可欠な、hERGチャネル電流に対する3Bn17MePの効果の測定を目的とした。この実験は3Bn17Me(1%のDMSO中の0.1、1、10μM)で治療されたhERG-CHO-K1細胞において5分間実施された。0.3μMでのE-4031は心臓毒性効果のポジティブコントロールとして添加された。hERG電流は自動化された全細胞パッチクランプにより記録された。阻害程度(%)はドラッグインキュベーション(drug incubation)の前後の刺激プロトコル(+20mV、2s及び-40mV、1s)で誘発されたテール電流振幅の差の測定により得られた。
【0097】
結果
試験したいずれの用量でも、神経毒性(
図13A)、遺伝毒性(
図13B)、肝毒性(
図14A)、胆汁機能(
図14B)及び心臓毒性について実施したいずれの試験でも、3Bn17MePは毒性効果を示さなかった。
対照的に、リモナバントは10μMから有意な神経毒性を示し、30μMから80%の神経細胞死を誘発した(
図13A)。リモナバントは100μMでDNA損傷を誘発するので遺伝毒性を示した(
図13B)。リモナバントは10μMから肝毒性効果を示し、100%の肝細胞死を誘発し、毛細胆管を抑制した(
図14A及び
図14B)。3Bn17MePに関して、試験した最大用量(100μM)は、ヒトCB1受容体でトランスフェクトしたHEK-293において細胞呼吸のTHC誘発減少を阻害する3Bn17MePのID
100(50nM)(
図5A)の2000倍である。
【0098】
実施例5b:3Bn17MePのインビボでの安全性
この研究は、3Bn17MePを経口経路で1日1回7日間投与した後のSprague-Dawleyラツトにおける3Bn17MePのインビボ効果を評価することを目的とした。
【0099】
材料及び方法
ラット(5匹の雄、5匹の雌)に、固定用量(10ml/kgのコーン油中20mg/kg)の3Bn17M
ePを1日1回7日間経口投与した。
病状/生存確認は1日2回行った。臨床観察は初回投薬前及びその後の毎日行った。機能性及び神経行動テストを初回投薬前及び最終処置日に行った。体重を1日目、3日目、5日目及び7日目に記録した。食物消費を毎週測定した。
血液学パラメータ及び臨床化学分析のための血液試料を剖検当日(8日目)に採集した。
血漿薬物分析のための血液試料を、最終処置後に、投与後5時間及び24時間で採集した。LC/MS-MSクロマトグラフィーにより定量した。
動物を8日目に犠牲にした。剖検で、選択した臓器を秤量し、固定し、保存し、病理組織学的に検査した。
【0100】
結果
血液学及び血液化学で僅かな変化のみが観察された。血液学では、雄及び雌において白血球数が低くなる傾向があり、雄において赤血球数が僅かに低くなる傾向があった。血液化学では、総タンパク質レベルが低くなる傾向があり、トリグリセリドレベルが高くなる傾向があった。雌では、トリグリセリドレベルは低くなる傾向があった。しかし、これら変化は、いずれの組織病理学的変化とも関連づけられなかった。
7日目に、最後の処置の5時間後、3Bn17MePの平均血漿濃度は4652.4ng/mlであった。処置後24時間で、平均血漿濃度は973.8ng/mlに低下した。これら結果から、3Bn17MePが吸収され、最後の投与の24時間後には完全に除去されることが示された。
比較として、加齢(実施例7)及びダウン症候群(実施例4)と関連付けられる長期記憶損傷を逆転させる濃度にて飲用水中での1か月間の3Bn17MeP投与後のマウスにおいて測定した平均血漿濃度は、1.3ng/mlであった。この濃度と、毒性研究において最終投与の5時間後に測定した3Bn17Me血漿濃度(4652.4ng/ml)との比から、>3500である高い安全性窓が明らかになった。
【0101】
結論:
適用した実験条件下で、連続7日間にわたって経口投与した3Bn17MePは、Sprague-Dawleyラツトにおいて、20mg/kg/日の用量で毒性の徴候を何も誘発しなかった。結果として
、単回用量での反復処置後、最大耐性用量(MTD)は、20mg/kg/日より高いと考えられる
。
安全性テストと効力実験の間に測定した血漿濃度の比は、>3500の高い安全窓を示す。
【0102】
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