(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】超電導線材保持構造
(51)【国際特許分類】
H10N 60/30 20230101AFI20240705BHJP
H01B 12/06 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
H10N60/30
H01B12/06
(21)【出願番号】P 2021546579
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032809
(87)【国際公開番号】W WO2021054093
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019171839
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】502147465
【氏名又は名称】ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 高史
(72)【発明者】
【氏名】大木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】永石 竜起
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 衞
【審査官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-165435(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181561(WO,A1)
【文献】特開2019-160818(JP,A)
【文献】特開昭51-012790(JP,A)
【文献】特開2017-182956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/30
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材保持構造であって、
第1材料で構成された保持部材と、
前記保持部材の内部に配置された超電導線材と、
前記第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備え、
前記超電導線材は、基材と、前記基材上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された超電導層と、前記超電導層上に形成された第1保護層及び第2保護層とを有し、
前記超電導層は、前記超電導線材の長手方向に沿って、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分との間にある第3部分とを含んでおり、
前記第1保護層は、前記第1部分上に形成されており、
前記第2保護層は、前記第2部分上に形成されており、
前記充填材は、前記第3部分と前記保持部材との間に充填されている、超電導線材保持構造。
【請求項2】
前記第1材料は第1樹脂材料であり、
前記第2材料は第2樹脂材料である、請求項1に記載の超電導線材保持構造。
【請求項3】
前記第2樹脂材料のガラス転移点は、前記第1樹脂材料のガラス転移点よりも低い、請求項2に記載の超電導線材保持構造。
【請求項4】
前記第2樹脂材料の粘度は、前記第1樹脂材料の粘度よりも低い、請求項2に記載の超電導線材保持構造。
【請求項5】
前記第1樹脂材料は熱硬化性樹脂であり、
前記第2樹脂材料は熱可塑性樹脂である、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【請求項6】
前記第2樹脂材料はパラフィンである、請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【請求項7】
前記超電導線材保持構造は、永久電流スイッチを構成している、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【請求項8】
前記第1材料は樹脂材料であり、
前記第2材料は金属材料であり、
前記金属材料の融点は、前記樹脂材料のガラス転移点よりも低い、請求項1に記載の超電導線材保持構造。
【請求項9】
前記樹脂材料は熱硬化性樹脂である、請求項8に記載の超電導線材保持構造。
【請求項10】
前記金属材料の融点は、200℃以下である、請求項8又は請求項9に記載の超電導線材保持構造。
【請求項11】
前記金属材料はビスマス基合金である、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【請求項12】
第1超電導層を有する第1超電導線材と、
第2超電導層を有する第2超電導線材と、
第1材料で構成された保持部材と、
前記第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備え、
前記第1超電導線材は、前記第1超電導線材の長手方向における端に、前記第1超電導層が前記第1超電導線材の表面から露出する第1部分を有し、
前記第2超電導線材は、前記第2超電導線材の長手方向における端に、前記第2超電導層が前記第2超電導線材の表面から露出する第2部分を有し、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記保持部材の内部に配置されており、
前記第1部分にある前記第1超電導層と前記第2部分にある前記第2超電導層とは、互いに接続されており、
前記充填材は前記保持部材と前記第1部分及び前記第2部分との間に充填されて
おり、
前記第1材料は、樹脂材料であり、
前記第2材料は、金属材料であり、
前記金属材料の融点は前記樹脂材料のガラス転移点よりも低い、超電導線材保持構造。
【請求項13】
前記樹脂材料は、熱硬化性樹脂である、請求項
12に記載の超電導線材保持構造。
【請求項14】
前記金属材料の融点は、200℃以下である、請求項
12又は請求項
13に記載の超電導線材保持構造。
【請求項15】
前記金属材料は、ビスマス基合金である、請求項
12から請求項
14のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【請求項16】
第1超電導層を有する第1超電導線材と、
第2超電導層を有する第2超電導線材と、
第1材料で構成された保持部材と、
前記第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備え、
前記第1超電導線材は、前記第1超電導線材の長手方向における端に、前記第1超電導層が前記第1超電導線材の表面から露出する第1部分を有し、
前記第2超電導線材は、前記第2超電導線材の長手方向における端に、前記第2超電導層が前記第2超電導線材の表面から露出する第2部分を有し、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記保持部材の内部に配置されており、
前記第1部分にある前記第1超電導層と前記第2部分にある前記第2超電導層とは、互いに接続されており、
前記充填材は前記保持部材と前記第1部分及び前記第2部分との間に充填されており、
前記第1材料は、第1樹脂材料であり、
前記第2材料は、第2樹脂材料である
、超電導線材保持構造。
【請求項17】
前記第2樹脂材料のガラス転移点は、前記第1樹脂材料のガラス転移点よりも低い、請求項
16に記載の超電導線材保持構造。
【請求項18】
前記第2樹脂材料の粘度は、前記第1樹脂材料の粘度よりも低い、請求項
16に記載の超電導線材保持構造。
【請求項19】
前記第1樹脂材料は熱硬化性樹脂であり、
前記第2樹脂材料は熱可塑性樹脂である、請求項
16に記載の超電導線材保持構造。
【請求項20】
前記第2樹脂材料はパラフィンである、請求項
16から請求項
19のいずれか1項に記載の超電導線材保持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超電導線材保持構造に関する。本出願は、2019年9月20日に出願した日本特許出願である特願2019-171839号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(国際公開第2018/181561号)には、超電導線材保持構造が記載されている。特許文献1に記載の超電導線材保持構造は、保持部材と、保持部材の内部に配置された超電導線材とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る超電導線材保持構造は、第1材料で構成された保持部材と、保持部材の内部に配置された超電導線材と、第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備える。超電導線材は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された超電導層と、超電導層上に形成された第1保護層及び第2保護層とを有している。超電導線材の長手方向に沿って、超電導層は、第1部分と、第2部分と、第1部分と第2部分との間にある第3部分とを含んでいる。第1保護層は、第1部分上に形成されており、第2保護層は、第2部分上に形成されている。充填材は、第3部分と保持部材との間に充填されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の模式図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材2の上面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材2及びヒータ4の分解斜視図である。
【
図8】
図8は、永久電流スイッチ5の構成を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を示す工程図である。
【
図10】
図10は、準備工程S1における第1実施形態に係る超電導線材保持構造の断面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の断面模式図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材8の断面斜視図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材9の断面斜視図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
超電導線材保持構造が極低温(例えば、液体窒素温度、液体ヘリウム温度)に保持された状態から常温に戻されたとき、保持部材と超電導線材との間に隙間がある場合、超電導線材保持構造が極低温から常温に戻される際に、超電導線材の表面に結露が生じる。超電導線材の表面に生じた結露は、超電導線材の超電導特性を劣化させる原因となる。
【0007】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、極低温から常温に戻した際に、超電導線材の表面に結露が生じることを抑制可能な超電導線材保持構造を提供する。
【0008】
[本開示の効果]
上記によれば、超電導線材保持構造を極低温から常温に戻した際に、超電導線材の表面に結露が生じることを抑制できる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0010】
(1)一実施形態に係る超電導線材保持構造は、第1材料で構成された保持部材と、保持部材の内部に配置された超電導線材と、第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備える。超電導線材は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された超電導層と、超電導層上に形成された第1保護層及び第2保護層とを有している。超電導線材の長手方向に沿って、超電導層は、第1部分と、第2部分と、第1部分と第2部分との間にある第3部分とを含んでいる。第1保護層は、第1部分上に形成されており、第2保護層は、第2部分上に形成されている。充填材は、第3部分と保持部材との間に充填されている。
【0011】
上記(1)の超電導線材保持構造によると、保持部材と超電導線材との間が充填材で充填されているため、極低温から常温に戻された際に、超電導線材の表面(より具体的には超電導層の第3部分の表面)に結露が生じることを抑制できる。
【0012】
(2)上記(1)の超電導線材保持構造において、第1材料は第1樹脂材料であってもよく、第2材料は第2樹脂材料であってもよい。
【0013】
(3)上記(2)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料のガラス転移点(第2樹脂材料が結晶性である場合には、融点)は、第1樹脂材料のガラス転移点(第1樹脂材料が結晶性である場合には、融点)よりも低くてもよい。この場合、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することができる。
【0014】
(4)上記(2)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料の粘度は、第1樹脂材料の粘度よりも低くてもよい。この場合、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することが可能となる。
【0015】
(5)上記(2)から(4)の超電導線材保持構造において、第1樹脂材料は熱硬化性樹脂であってもよく、第2樹脂材料は熱可塑性樹脂であってもよい。
【0016】
(6)上記(2)から(5)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料は、パラフィンであってもよい。
【0017】
(7)上記(1)から(6)の超電導線材保持構造は、永久電流スイッチを構成していてもよい。
【0018】
(8)上記(1)の超電導線材保持構造において、第1材料は、樹脂材料であってもよく、第2材料は、金属材料であってもよい。金属材料の融点は、樹脂材料のガラス転移点(樹脂材料が結晶性である場合、融点)よりも低くてもよい。この場合、充填材を保持部材と第1部分及び第2部分との間に容易に充填することが可能となる。
【0019】
(9)上記(8)の超電導線材保持構造において、樹脂材料は、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0020】
(10)上記(8)又は(9)の超電導線材保持構造において、金属材料の融点は、200℃以下であってもよい。
【0021】
(11)上記(8)から(10)の超電導線材保持構造において、金属材料は、ビスマス基合金であってもよい。
【0022】
(12)他の実施形態に係る超電導線材保持構造は、第1超電導層を有する第1超電導線材と、第2超電導層を有する第2超電導線材と、第1材料で構成された保持部材と、第1材料とは異なる第2材料で構成された充填材とを備える。第1超電導線材は、第1超電導線材の長手方向における端に、第1超電導層が第1超電導線材の表面から露出する第1部分を有している。第2超電導線材は、第2超電導線材の長手方向における端に、第2超電導層が第2超電導線材の表面から露出する第2部分を有している。第1部分及び第2部分は、保持部材の内部に配置されている。第1部分に位置する第1超電導層と第2部分にある第2超電導層とは、互いに接続されている。充填材は、保持部材と第1部分及び第2部分との間に充填されている。
【0023】
上記(12)の超電導線材保持構造によると、保持部材と第1部分及び第2部分との間が充填材で充填されているため、極低温から常温に戻された際に、超電導層の表面に結露が生じることを抑制できる。
【0024】
(13)上記(12)の超電導線材保持構造において、第1材料は、樹脂材料であってもよく、第2材料は、金属材料であってもよい。金属材料の融点は、樹脂材料のガラス転移点(樹脂材料が結晶性である場合、融点)よりも低くてもよい。この場合、充填材を保持部材と第1部分及び第2部分との間に容易に充填することが可能となる。
【0025】
(14)上記(13)の超電導線材保持構造において、樹脂材料は、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0026】
(15)上記(13)又は(14)の超電導線材保持構造において、金属材料の融点は200℃以下であってもよい。
【0027】
(16)上記(13)から(15)の超電導線材保持構造において、金属材料はビスマス基合金であってもよい。
【0028】
(17)上記(12)の超電導線材保持構造において、第1材料は第1樹脂材料であってもよく、第2材料は第2樹脂材料であってもよい。
【0029】
(18)上記(17)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料のガラス転移点(第2樹脂材料が結晶性である場合には、融点)は、第1樹脂材料のガラス転移点(第1樹脂材料が結晶性である場合には、融点)よりも低くてもよい。この場合には、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することができる。
【0030】
(19)上記(17)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料の粘度は第1樹脂材料の粘度よりも低くてもよい。この場合、充填材を保持部材と超電導線材との間に容易に充填することが可能となる。
【0031】
(20)上記(17)から(19)の超電導線材保持構造において、第1樹脂材料は、熱硬化性樹脂であってもよく、第2樹脂材料は、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0032】
(21)上記(17)から(20)の超電導線材保持構造において、第2樹脂材料は、パラフィンであってもよい。
【0033】
[本開示の実施形態の詳細]
実施形態の詳細を、図面を参照して説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
【0034】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の構成を説明する。
【0035】
図1は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の模式図である。
図2は、
図1のII-IIにおける断面図である。
図1及び2に示されるように、第1実施形態に係る超電導線材保持構造は、保持部材1と、超電導線材2と、充填材3とを有している。第1実施形態に係る超電導線材保持構造は、さらに、ヒータ4を有していてもよい。
【0036】
保持部材1は、第1材料で構成されている。第1材料は、例えば樹脂材料(第1樹脂材料)であってもよい。第1材料は、熱硬化性樹脂材料であってもよい。第1材料の具体例は、エポキシ樹脂である。第1材料は、例えば、エンジニアリングプラスチック、ガラス繊維強化プラスチック(FRP、Fiber Reinforced Plastic)であってもよい。保持部材1は、超電導線材2に加わる電磁力による応力に起因した超電導線材の変形を抑制するための部材である。
【0037】
超電導線材2は、保持部材1の内部に配置されている。超電導線材2は、保持部材1の内部において、湾曲していてもよい。超電導線材2は、第1端2aと、第2端2bとを有している。第1端2a及び第2端2bは、超電導線材2の長手方向における端である。第2端2bは、第1端2aの反対側の端である。超電導線材2は、第1端2a及び第2端2bにおいて、保持部材1の外部に引き出されていてもよい。
図3は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材2の上面図である。
図4は、
図3のIV-IVにおける断面図である。
図5は、
図3のV-Vにおける断面図である。
図6は、
図3のVI-VIにおける断面図である。なお、
図3中においては、保護層24a及び保護層24bは、点線で示されている。
図3~6に示されるように、超電導線材2は、基材21と、中間層22と、超電導層23と、保護層24a及び保護層24bとを有している。
【0038】
基材21は、例えば第1層21aと、第2層21bと、第3層21cとを有している。第1層21aは、例えばステンレス鋼で構成されている。第2層21bは、第1層21a上に形成されている。第2層21bは、例えば銅(Cu)で構成されている。第3層21cは、第2層21b上に形成されている。第3層21cは、例えばニッケル(Ni)で構成されている。
【0039】
中間層22は、基材21(より具体的には、第3層21c)上に形成されている。中間層22は、絶縁材料により構成されている。中間層22は、例えば安定化ジルコニア(YSZ)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)等により構成されている。中間層22を構成する材料は、これに限られるものではない。
【0040】
超電導層23は、超電導線材2の長手方向に沿って、第1部分23aと、第2部分23bと、第3部分23cとを有している。第3部分23cは、超電導線材2の長手方向において第1部分23a及び第2部分23bの間に位置している。
【0041】
超電導層23は、例えば、酸化物超電導体により構成されている。この酸化物超電導体の例は、REBaCu3Oy(なお、REは希土類元素)である。この希土類元素は、例えばイットリウム(Y)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、イッテルビウム(Yb)等である。
【0042】
保護層24aは、第1部分23a上に形成されている。保護層24bは、第2部分23b上に形成されている。第3部分23c上には、保護層が形成されていない(第3部分23c上において、保護層が部分的に除去されている)。これにより、保護層24aと保護層24bとは、電気的に分離されている。その結果、ヒータ4で加熱することにより超電導層23(第3部分23c)が常電導状態となっても、超電導層23を流れていた電流が保護層24a及び保護層24bにバイパスされることがなく、ヒータ4による加熱で超電導線材2を高抵抗化することができる。保護層の部分的な除去は、例えばエッチングにより行われる。
【0043】
図7は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材2及びヒータ4の分解斜視図である。
図7に示されるように、ヒータ4は、第3部分23cと対向するように超電導線材2に取り付けられている。なお、
図1に示されるように、超電導線材2は、ヒータ4が取り付けられた状態において、保持部材1の内部に保持されている。ヒータ4は、例えばニクロム線等の電熱線で構成されている。
【0044】
超電導線材2及びヒータ4は、永久電流スイッチ5を構成している。
図8は、永久電流スイッチ5の構成を示す模式図である。
図8に示されるように、超電導線材2及び超電導コイル6は、電源PWに並列に接続されている。
【0045】
ヒータ4がオフ状態にある場合(ヒータ4に電流が流れていない場合)、超電導コイル6はコイルインピーダンスを有しているため、電流は、もっぱら超電導状態となっている超電導線材2中の超電導層23を流れる。そのため、超電導コイル6は、励磁されない(この状態を、第1状態という)。
【0046】
ヒータ4がオン状態にされると(ヒータ4に電流が流されると)、超電導線材2中の超電導層23(第3部分23c)が常電導状態となる。この状態で徐々に電流を流すと、超電導コイル6にも、電流が流れ始める(この状態を、第2状態という)。そして、所望の電流が流れるようになってから所定の時間が経過すると、超電導線材2には電流が流れなくなり、電流はもっぱら超電導コイル6に流れるようになる(この状態を、第3状態という)。
【0047】
第3状態となった後にヒータ4を再びオフ状態にすると、超電導線材2中の超電導層23(第3部分23c)は、超電導状態に戻る。この状態で電源PWからの電流供給を徐々に減少させると、超電導コイル6に流れている電流の一部が、超電導線材2に流れるようになる(この状態を、第4状態という)。
【0048】
電源PWからの電流供給が徐々に減少して0アンペアになると、電流は、超電導線材2及び超電導コイル6のみを流れるようになる(この状態を、第5状態という)。第5状態に達すると、電源PWを遮断しても、電流は、超電導線材2及び超電導コイル6を流れ続ける(永久電流モード)。このように、永久電流スイッチ5は、超電導コイル6を永久電流モードで動作させることができる。
【0049】
図2に示されるように、充填材3は、保持部材1と超電導線材2(及びヒータ4)との間に充填されている。充填材3は、第2材料で構成されている。第2材料は、第1材料とは異なる材料である。
【0050】
第2材料は、例えば、樹脂材料(第2樹脂材料)である。第1材料が熱硬化性樹脂材料である場合、第2材料は、熱可塑性樹脂材料であってもよい。第1材料及び第2材料が樹脂材料である場合には、第2材料のガラス転移点(結晶性の樹脂材料である場合は、第2材料の融点。以下も同様。)は、第1材料のガラス転移点未満である。第2樹脂材料の粘度は、第1樹脂材料の粘度よりも低いことが好ましい。第1樹脂材料の粘度及び第2樹脂材料の粘度は、JIS Z 8803:2011に規定された方法により測定される。第1樹脂材料の粘度及び第2樹脂材料の粘度を同一温度で比較し、後者が前者よりも低い場合に、「第2樹脂材料の粘度が、第1樹脂材料の粘度よりも低い」ことになる。
【0051】
第2材料の具体例は、例えばパラフィンである。第2材料は、発泡樹脂材料であってもよい。第2材料は、金属材料であってもよい。金属材料の融点は、第1材料(樹脂材料)のガラス転移点よりも低くなっている。金属材料の融点は、好ましくは、200℃以下である。金属材料の具体例は、ビスマス基合金である。なお、「ビスマス基合金」とは、ビスマス(Bi)を主成分(合金中における含有率が最も多い成分)とする合金である。ビスマス基合金には、例えば、ローズ合金、ニュートン合金等が含まれる。第2材料は、永久電流スイッチに求められる条件に応じて、その種類、成分、量等が適宜選択される。
【0052】
図1に示されるように、ケース7の内部に配置されて冷却されることにより、超電導線材2は、超電導転移温度以下の温度に保持されている。この冷却は、例えば液体窒素、液体ヘリウム等で行われる。
【0053】
以下に、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を説明する。
図9は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を示す工程図である。
図9に示されるように、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法は、準備工程S1と、充填工程S2とを有している。
【0054】
準備工程S1においては、内部に超電導線材2が保持された状態の保持部材1が準備される。
図10は、準備工程S1における第1実施形態に係る超電導線材保持構造の断面図である。
図10に示されるように、準備工程S1においては、保持部材1と超電導線材2との間には、空隙SPが残存している。
【0055】
充填工程S2においては、超電導線材2と保持部材1との間に(空隙SPに)充填材3が充填される。第1材料及び第2材料が樹脂材料である場合に関し、充填工程S2を具体的に説明する。
【0056】
充填工程S2においては、第1に、保持部材1及び充填材3が加熱される。この際の加熱温度は、第2材料のガラス転移点以上の温度であって、第1材料のガラス転移点未満の温度である。この加熱により、充填材3が容易に流動しうる状態となる。充填工程S2においては、この加熱が行われた後に、充填材3が保持部材1と超電導線材2との間に流し込まれる。
【0057】
なお、充填材3は、流動状態になるように加熱された充填材3に、内部に超電導線材2が保持された保持部材1を浸漬することにより、保持部材1と超電導線材2との間を充填材3で充填してもよい。
【0058】
流し込まれた充填材3が冷却されて固まることにより、保持部材1と超電導線材2との間が、充填材3により充填される。以上により、
図1及び2に示される第1実施形態に係る超電導線材保持構造が形成される。
【0059】
以下に、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の効果を説明する。超電導線材保持構造は、極低温に保持された状態から常温に戻される。保持部材と超電導線材との間に隙間がある場合、超電導線材保持構造が極低温から常温に戻される際に、超電導線材の表面に結露が生じる。超電導線材の表面に生じた結露は、超電導線材の超電導特性を劣化させる原因となる。
【0060】
第1実施形態に係る超電導線材保持構造においては、保持部材1と超電導線材2との間に、充填材3が充填されている。すなわち、超電導線材2の表面は、充填材3で被覆されている。そのため、第1実施形態に係る超電導線材保持構造が極低温から常温に戻されたとしても、超電導線材2の表面に結露が生じがたい。
【0061】
第1材料及び第2材料がともに樹脂材料であり、第2材料のガラス転移点が第1材料のガラス転移点よりも低い場合には、保持部材1は軟化していないが、充填材3を軟化して流動性がある状態にすることにより、充填材3を保持部材1と超電導線材2との間に充填しやすい。第2材料のガラス転移点が第1材料のガラス転移点よりも低い場合、保持部材1の変形(又は溶解)を抑制することができる。さらに、この場合、充填材3の充填に失敗した場合、充填材3を除去して充填工程S2をやり直すことが可能であるため、歩留まりが向上する。
【0062】
第2材料の粘度が相対的に低い(第2材料の粘度が、第1材料の粘度よりも低い)場合には、この充填がさらに行いやすい。また、この場合、充填材3を充填する際に、保持部材1の変形を抑制することができる。特に、パラフィンは融点が低いために、充填工程S2における取り扱いが容易である。
【0063】
第2材料がパラフィン、発泡樹脂材料である場合、超電導線材2を断熱することができるため、ヒータ4を低出力化することができるとともに、冷媒の蒸発を抑制することができる。第2材料がビスマス基合金等の低融点金属材料である場合、渦電流により超電導線材2にクエンチが発生した際の保護層として充填材3を機能させることができる。
【0064】
超電導線材2において第3部分23c上の保護層が除去されている場合、ヒータ4で第3部分23cを加熱することにより、超電導線材2を効率的に高抵抗化することができるため、永久電流スイッチを構成しやすい。しかしながら、この場合、超電導層23(第3部分23c)が保護層24a及び保護層24bから露出している。超電導層23(第3部分23c)の表面に結露が生じると、超電導線材2の超電導特性の劣化が顕著に生じやすい。第1実施形態に係る超電導線材保持構造によると、超電導線材2において第3部分23c上の保護層が除去されている場合においても、超電導線材2の表面に結露による超電導線材2の超電導特性の劣化を抑制できる。
【0065】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の構成を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の構成と異なる点を主として説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0066】
図11は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の断面模式図である。
図12は、
図11のXII-XIIにおける断面図である。
図11及び12に示されるように、第2実施形態に係る超電導線材保持構造は、超電導線材8と、超電導線材9と、保持部材1と、充填材3とを有している。第2実施形態に係る超電導線材保持構造は、治具10をさらに有していてもよい。
【0067】
図13は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材8の断面斜視図である。
図13に示されるように、超電導線材8は、基材81と、中間層82と、超電導層83と、保護層84とを有している。
【0068】
図14は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造における超電導線材9の断面斜視図である。
図14に示されるように、超電導線材9は、基材91と、中間層92と、超電導層93と、保護層94とを有している。
【0069】
基材81及び基材91は、基材21と同様の構成となっている。中間層82及び中間層92は、中間層22と同様の構成となっている。超電導層83及び超電導層93は、超電導層23と同様の構成を有している。保護層84は、超電導層83上に形成されている。保護層94は、超電導層93上に形成されている。
【0070】
超電導線材8は、超電導線材8の長手方向における端において、第1部分8aを有している。第1部分8aにおいては、保護層84が除去されている。すなわち、第1部分8aにおいては、超電導線材8の表面から超電導層83が露出している。超電導線材9は、超電導線材9の長手方向における端において、第2部分9aを有している。第2部分9aにおいては、保護層94が除去されている。すなわち、第2部分9aにおいては、超電導線材9の表面から超電導層93が露出している。
【0071】
図11に示されるように、第1部分8a及び第2部分9aは、保持部材1の内部に配置されている。第1部分8aに位置する超電導層83及び第2部分9aに位置する超電導層93は、超電導層83及び超電導層93と同一の酸化物超電導体で構成されている接続層(図示せず)を介して、互いに接続されている。充填材3は、保持部材1と第1部分8a及び第2部分9aとの間に充填されている。
【0072】
保持部材1を構成する材料(第1材料)は、例えば樹脂材料である。第1材料は、好ましくは熱硬化性樹脂材料である。充填材3を構成する材料(第2材料)は、好ましくは、金属材料である。金属材料の融点は、第1材料(樹脂材料)のガラス転移点よりも低くなっている。この金属材料の融点は、好ましくは、200℃以下である。第1材料の具体例は、エポキシ樹脂、エンジニアリングプラスチックであり、第2材料の具体例は、ローズ合金、ニュートン合金等のビスマス基合金である。なお、第2材料は、第1材料よりもガラス転移点が低い樹脂材料であってもよい。
【0073】
治具10は、第1部材10aと、第2部材10bと、固定部材10cとを有している。第1部材10a及び第2部材10bは、例えば、平板状の部材である。第1部材10a及び第2部材10bは、超電導線材8及び超電導線材9を挟んで対向配置されている。固定部材10cは、第1部材10a及び第2部材10bが超電導線材8及び超電導線材9を挟持するように、第1部材10a及び第2部材10bに取り付けられている。これにより、超電導線材8及び超電導線材9は、治具10により保持されている。固定部材10cは、例えばボルト及びナットにより構成されている。治具10は、超電導線材8及び超電導線材9とともに、保持部材1の内部に配置されている。
【0074】
以下に、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法と異なる点を主として説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0075】
図15は、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法を示す工程図である。第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法は、準備工程S1と、充填工程S2とを有している。この点に関して、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法と共通している。
【0076】
第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法は、接続工程S3をさらに有している。接続工程S3は、準備工程S1の前に行われる。接続工程S3において、第1部分8aに位置する超電導層83と第2部分9aに位置する超電導層93との接続が行われる。この接続は、治具10を用いて行われる。第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法では、準備工程S1において、第1部分8a及び第2部分9bが保持部材1の内部に配置される。第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法では、充填工程S2において、充填材3が充填材3を構成する第2材料(金属材料)の融点以上であって、保持部材1を構成する第1材料(樹脂材料)のガラス転移点未満の温度に加熱される。これらの点に関して、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法は、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の製造方法と異なっている。
【0077】
以下に、第2実施形態に係る超電導線材保持構造の効果を説明する。以下においては、第1実施形態に係る超電導線材保持構造の効果と異なる点を主として説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0078】
第1部分8aにおいては超電導層83が露出しているとともに、第2部分9aにおいては超電導層93が露出しているため、超電導層83及び超電導層93の表面に結露が生じるおそれがある。このような結露は、超電導層83及び超電導層93の超電導特性を劣化させる原因となる。第2実施形態に係る超電導線材保持構造においては、第1部分8a及び第2部分9aと保持部材1との間に充填材3が充填されているため、上記のような結露の発生が抑制されている。
【0079】
第2実施形態に係る超電導線材保持構造においては、第1材料が樹脂材料(熱硬化性樹脂材料)であるとともに、第2材料が第1材料のガラス転移点よりも低い融点を有する金属材料であるため、保持部材1は軟化していないが、充填材3を溶融して流動性がある状態にすることにより、充填材3を保持部材1と超電導線材2との間に充填しやすい。
【0080】
第2実施形態に係る超電導線材保持構造が保持部材1の内部に配置された治具10を有している場合には、超電導線材8と超電導線材9との間の接続強度を高めることが可能になる。また、この場合、接続工程S3が終了した後に治具10を取り外す必要がなくなるため、製造工程を簡略化することができる。さらに、この場合、治具10を取り外す際の作業ミスの発生による歩留まり低下を抑制することができる。
【0081】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1 保持部材、2 超電導線材、2a 第1端、2b 第2端、3 充填材、4 ヒータ、5 永久電流スイッチ、6 超電導コイル、7 ケース、8 超電導線材、8a 第1部分、81 基材、82 中間層、83 超電導層、84 保護層、9 超電導線材、9a 第2部分、91 基材、92 中間層、93 超電導層、94 保護層、10 治具、10a 第1部材、10b 第2部材、10c 固定部材、21 基材、21a 第1層、21b 第2層、21c 第3層、22 中間層、23 超電導層、23a 第1部分、23b 第2部分、23c 第3部分、24,24a,24b 保護層、PW 電源、S1 準備工程、S2 充填工程、S3 接続工程、SP 空隙。