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特許7515501エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-04
(45)【発行日】2024-07-12
(54)【発明の名称】エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20240705BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/66 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021554955
(86)(22)【出願日】2020-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2020041244
(87)【国際公開番号】W WO2021090848
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2019200738
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 耕平
(72)【発明者】
【氏名】岸 健
(72)【発明者】
【氏名】米村 卓巳
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-010216(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0123422(KR,A)
【文献】特開2013-075815(JP,A)
【文献】特開2012-178413(JP,A)
【文献】国際公開第2013/014713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体層を基板上にエピタキシャル成長させる工程と、
前記基板を成長炉から取り出す工程と、
酸素を含む雰囲気に前記III族窒化物半導体層の表面を晒しつつ、前記表面に紫外光を照射する工程と、
前記III族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定する工程と、
を備え、
前記III族窒化物半導体層はGaを表面に含み、
前記III族窒化物半導体層の前記表面に中心波長320nm以上330nm以下の紫外光を照射した後に、X線光電子分光法により得られる前記表面のGa3dピークをガウス関数によりフィッティングした場合のGaO強度I GaO とGaN強度I GaN との比(I GaO /I GaN )が0.15以上である、エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項2】
III族窒化物半導体層を基板上にエピタキシャル成長させる工程と、
前記基板を成長炉から取り出す工程と、
酸素を含む雰囲気に前記III族窒化物半導体層の表面を晒しつつ、前記表面に紫外光を照射する工程と、
前記III族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定する工程と、
を備え、
前記III族窒化物半導体層はGaを表面に含み、
前記III族窒化物半導体層の前記表面に中心波長320nm以上441.6nm以下の紫外光を照射した後に、X線光電子分光法により得られる前記表面のGa3dピークをガウス関数によりフィッティングした場合のGaO強度I GaO とGaN強度I GaN との比(I GaO /I GaN )が0.15以上である、エピタキシャル基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板を成長炉から取り出してから0.2時間以内に前記III族窒化物半導体層の前記シート抵抗値を測定する、
請求項1又は請求項2に記載のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項4】
前記紫外光はHe-Cdレーザ光である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項5】
前記表面に前記紫外光を照射する工程は、前記紫外光の強度と照射時間の積である照射エネルギー密度が2.4W・s/m以上である、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項6】
前記III族窒化物半導体層のGaの表面に絶縁膜を形成する工程をさらに備える、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエピタキシャル基板の製造方法。
【請求項7】
基板の主面上に設けられたチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、組成がAlyGa1-yN(0<y<0.4)であるバリア層と、
前記バリア層上に設けられたキャップ層と、を備え、
前記チャネル層、前記バリア層及び前記キャップ層からなるIII族窒化物半導体層のシート抵抗値は、300(Ω/sq.)以上800(Ω/sq.)以下であり、
前記III族窒化物半導体層の表面におけるX線光電子分光法により得られる前記表面のGa3dピークをガウス関数によりフィッティングした場合のGaO強度I GaO とGaN強度I GaN との比(I GaO /I GaN )が0.15以上である、エピタキシャル基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エピタキシャル基板の製造方法、及びエピタキシャル基板に関する。
本出願は、2019年11月5日出願の日本出願第2019-200738号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、窒化ガリウム系化合物半導体装置に含まれるp型層を活性化する方法を開示する。この方法では、紫外光から可視光までの範囲内に含まれる波長を含む光を200℃以上500℃以下の温度の下でp型層に照射する。これにより、p型層に含まれるp型ドーパントに結合した水素が分離除去され、アクセプタとしてのp型ドーパントの活性化が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-306854号公報
【文献】国際公開第2006/013846号
【発明の概要】
【0004】
本開示の一実施形態に係るエピタキシャル基板の製造方法は、III族窒化物半導体層を基板上にエピタキシャル成長させる工程と、基板を成長炉から取り出す工程と、酸素を含む雰囲気にIII族窒化物半導体層の表面を晒しつつ、表面に紫外光を照射する工程と、III族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定する工程と、を備える。
【0005】
本開示の一実施形態に係るエピタキシャル基板は、チャネル層と、バリア層と、キャップ層と、を備える。チャネル層は、基板の主面上に設けられる。バリア層は、チャネル層上に設けられ、組成がAlyGa1-yN(0<y<0.4)である。キャップ層は、バリア層上に設けられる。このエピタキシャル基板では、チャネル層、バリア層及びキャップ層からなるIII族窒化物半導体層のシート抵抗値は、300(Ω/sq.)以上800(Ω/sq.)以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、シート抵抗値の測定に供される窒化物半導体層を含む基板生産物の断面構造を示す図である。
図2図2は、一実施形態による製造方法を示すフローチャートである。
図3A図3Aは、製造方法の一工程を示す図である。
図3B図3Bは、製造方法の一工程を示す図である。
図3C図3Cは、製造方法の一工程を示す図である。
図3D図3Dは、製造方法の一工程を示す図である。
図4A図4Aは、製造方法の一工程を示す図である。
図4B図4Bは、製造方法の一工程を示す図である。
図4C図4Cは、製造方法の一工程を示す図である。
図5図5は、He-Cdレーザの構造例を示す図である。
図6図6は、III族窒化物半導体層を成長したのちに成長炉から基板を取り出してそのまま放置した場合の、III族窒化物半導体層のシート抵抗値の時間変化の一例を示すグラフである。
図7A図7Aは、シミュレーションにより求めたIII族窒化物半導体層のポテンシャル概要図(バンド図)である。
図7B図7Bは、図7Aに示す領域Aの部分拡大図である。
図8A図8Aは、III族窒化物半導体層の表面上に存在する負イオンを分析・カウントした結果である。
図8B図8Bは、III族窒化物半導体層の表面上に存在する負イオンを分析・カウントした結果である。
図8C図8Cは、III族窒化物半導体層の表面上に存在する正イオンを分析・カウントした結果である。
図9A図9Aは、紫外光UVの照射によってIII族窒化物半導体層の表面の酸化が促進される理由を説明する図である。
図9B図9Bは、紫外光UVの照射によってIII族窒化物半導体層の表面の酸化が促進される理由を説明する図である。
図9C図9Cは、紫外光UVの照射によってIII族窒化物半導体層の表面の酸化が促進される理由を説明する図である。
図9D図9Dは、紫外光UVの照射によってIII族窒化物半導体層の表面の酸化が促進される理由を説明する図である。
図10図10は、III族窒化物半導体層を形成した基板を成長炉から取り出してから48時間が経過した後のシート抵抗値を基準(100%)とする、シート抵抗値の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
III族窒化物系の半導体素子の多くは、基板上にエピタキシャル成長した半導体層を備える。半導体層の性能を把握する為には、半導体層のシート抵抗値を測定することが有効である。シート抵抗値は、半導体素子の動作特性(例えば最大順方向ドレイン電流Ifmaxなど)と高い相関を有するからである。シート抵抗値の測定は、例えば渦電流法により行われる。半導体素子の性能を正確に把握するためには、シート抵抗値を精度良く測定することが望ましい。しかしながら、半導体層を成長して成長炉から基板を取り出すと、成長炉外の環境に含まれる種々の物質がIII族原子(例えばGa)と結合する。これらの物質は次第にIII族原子から離れ、代わりに酸素原子がIII族原子に結合する。従って、半導体層の表面の酸化度合いは、最初は低く、時間と共に徐々に増加する。シート抵抗値は半導体層の表面の酸化度合いに依存するので、半導体層のシート抵抗値を精度良く測定するためには、半導体層の成長した基板を成長炉外に取り出した後、半導体層を長時間(経験的には48時間程度)放置し、十分に酸化が進んでシート抵抗値が安定したのちに測定する必要がある。このことは、生産リードタイムの長時間化を招き、生産効率が低下する要因となる。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、エピタキシャル基板のシート抵抗値をより短い時間で安定させることができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。本開示の一実施形態に係るエピタキシャル基板の製造方法は、III族窒化物半導体層を基板上にエピタキシャル成長させる工程と、基板を成長炉から取り出す工程と、酸素を含む雰囲気にIII族窒化物半導体層の表面を晒しつつ、表面に紫外光を照射する工程と、III族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定する工程と、を備える。
【0010】
酸素を含む雰囲気にIII族窒化物半導体層の表面を晒しつつIII族窒化物半導体層の表面に紫外光を照射すると、そのまま放置する場合と比較して、III族窒化物半導体層の表面の酸化が促進される。これは、次の作用に因ると考えられる。III族窒化物半導体層の表面に紫外光を照射すると、III族窒化物半導体層の表面が発熱する。成長炉外の環境に含まれる種々の物質とIII族原子との結合は、この熱によって解消される。或いは、種々の物質が酸化して低密度物質に変化する。これらの作用により、種々の物質がIII族窒化物半導体層から脱離する。その後直ちに、雰囲気中の酸素原子がIII族窒化物半導体層の表面のIII族原子と結合してIII族原子が酸化する。こうして、III族窒化物半導体層の表面の酸化が促進され、より短い時間でシート抵抗値を安定させることができる。故に、生産リードタイムを短縮し、生産効率を向上させることができる。
【0011】
上記の製造方法において、III族窒化物半導体層はGaを表面に含んでもよい。この場合、III族窒化物半導体層の表面に紫外光を照射するとGa原子に酸素原子が結合し、GaOxに変化する。故に、III族窒化物半導体層の表面の酸化が促進され、より短い時間でシート抵抗値を安定させることができる。
【0012】
上記の製造方法において、III族窒化物半導体層の表面に中心波長320nm以上330nm以下の紫外光を照射した後に、X線光電子分光法により得られる表面のGa3dピークをガウス関数によりフィッティングした場合のGaO強度IGaOとGaN強度IGaNとの比(IGaO/IGaN)が0.15以上であってもよい。本発明者らの経験によれば、III族窒化物半導体層を基板上にエピタキシャル成長させたのち、基板を成長炉から取り出して放置すると、48時間程度でシート抵抗値が安定する。その際の酸化度合いを示す上記比(IGaO/IGaN)は0.15程度である。上記の測定方法によれば、III族窒化物半導体層の酸化度合いを短時間で同程度以上に促進させることが可能である。
【0013】
上記の製造方法において、基板を成長炉から取り出してから0.2時間以内にIII族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定してもよい。このように、上記の測定方法によれば、基板を成長炉から取り出してから極めて短い時間内にIII族窒化物半導体層のシート抵抗値を測定することができ、生産効率の向上に寄与できる。
【0014】
上記の製造方法において、紫外光の中心波長は441.6nm以下であってもよい。この場合、紫外光の強いエネルギーによって種々の物質とIII族原子との結合がより早く解消され、III族窒化物半導体層の表面の酸化をより効果的に促進することができる。また、紫外光は例えばHe-Cdレーザ光であってもよい。この場合、中心波長が、190nm以上441.6nm以下の範囲で紫外光UVの光を照射することができる。
【0015】
上記の製造方法において、表面に紫外光を照射する工程は、紫外線の強度と照射時間との積である照射エネルギー密度が2.4W・s/m以上でああってもよい。この場合、III族窒化物半導体層の表面の酸化をより促進して、より短い時間でシート抵抗値を安定させることができる。
【0016】
上記の製造方法は、III族窒化物半導体層のGaを表面に絶縁膜を形成する工程をさらに備えてもよい。この場合、Ga表面が安定化し、シート抵抗は早期に安定化することができる。
【0017】
本開示の一実施形態に係るエピタキシャル基板は、チャネル層と、バリア層と、キャップ層と、を備える。チャネル層は、基板の主面上に設けられる。バリア層は、チャネル層上に設けられ、組成がAlyGa1-yN(0<y<0.4)である。キャップ層は、バリア層上に設けられる。このエピタキシャル基板では、チャネル層、バリア層及びキャップ層からなるIII族窒化物半導体層のシート抵抗値は、300(Ω/sq.)以上800(Ω/sq.)以下である。
【0018】
上記のエピタキシャル基板において、III族窒化物半導体層の表面におけるX線光電子分光法により得られる表面のGa3dピークをガウス関数によりフィッティングした場合のGaO強度IGaO とGaN強度IGaN との比(IGaO /IGaN )は0.15以上であってもよい。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のエピタキシャル基板の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、シート抵抗値の測定に供されるIII族窒化物半導体層12を含むエピタキシャル基板10の断面構造を示す図である。このエピタキシャル基板10は、例えば高電子移動度トランジスタ(HEMT)の製造に用いられるエピタキシャルウェハである。一例として、エピタキシャル基板10は、平坦な主面11aを有する基板11と、基板11の主面11a上にエピタキシャル成長したIII族窒化物半導体層12とを備える。基板11の材料は、III族窒化物半導体と格子定数が近いものであれば何でもよいが、例えばSiCである。主面11aはc面であるが、多少のオフ角を有してもよい。III族窒化物半導体層12は、主面11a上にエピタキシャル成長したGaNチャネル層13と、GaNチャネル層13上にエピタキシャル成長したAlGaNバリア層14と、AlGaNバリア層14上にエピタキシャル成長したGaNキャップ層15とを含む。なお、GaNチャネル層13は、AlGaNバリア層14の結晶性を高めるためのバッファ層としても機能する。また、AlGaNバリア層14に代えて、InGaNバリア層が設けられてもよい。GaNチャネル層13の厚さは例えば200nm以上1000nm以下である。AlGaNバリア層14の厚さは例えば10nm以上30nm以下である。GaNキャップ層15の厚さは例えば1nm以上10nm以下である。
【0021】
図2は、本実施形態による製造方法を示すフローチャートである。まず、工程S1として、III族窒化物半導体層12を基板11上にエピタキシャル成長させる。具体的には、図3Aに示すように、基板11を成長炉GR内に設置する。そして、成長炉GR内の温度及び圧力を制御したのち、成長炉GR内にトリメチルガリウム(TMG)ガス及びアンモニア(NH3)ガスを供給する。これにより、図3Bに示すように、基板11上にGaNチャネル層13をエピタキシャル成長する。次に、成長炉GR内の温度及び圧力を変更したのち、成長炉GR内にTMGガス、トリメチルアルミニウム(TMA)ガス及びNH3ガスを供給する。これにより、図3Cに示すように、基板11上にAlGaNバリア層14をエピタキシャル成長する。なお、AlGaNバリア層14に代えてInGaNバリア層を形成する場合には、TMAガスに代えてトリメチルインジウム(TMI)ガスを供給するとよい。次に、成長炉GR内の温度及び圧力を再び変更したのち、成長炉GR内にTMGガス及びNH3ガスを供給する。これにより、図3Dに示すように、基板11上にGaNキャップ層15をエピタキシャル成長する。こうして、GaNチャネル層13、AlGaNバリア層14、及びGaNキャップ層15を含むIII族窒化物半導体層12が基板11上に形成される。
【0022】
次に、工程S2として、図4Aに示すように、III族窒化物半導体層12が形成された基板11を成長炉GRから取り出す。このとき、III族窒化物半導体層12の表面12aは、酸素を含む大気雰囲気に暴露して晒される。
【0023】
次に、工程S3として、図4Bに示すように、大気中にIII族窒化物半導体層12の表面12aを晒しつつ、室温及び大気圧にて表面12aに紫外光UVを照射する。なお、基板11が十分に薄く紫外光UVを透過しうる場合には、基板11の裏面側からIII族窒化物半導体層12の表面12aに対して紫外光UVを照射してもよい。
【0024】
紫外光UVは例えば単一波長のレーザ光であり、表面12aの全面に対してスポット状の紫外光UVが均一に走査(掃引ともいう)される。紫外光の中心波長は、例えば、200nm以上であり、320nm以上330nm以下であってもよく、一例として325nm以下である。紫外光UVの発生源としては、例えばヘリウムカドミウム(He-Cd)レーザを用いることができる。図5は、He-Cdレーザの構造例を示す図である。同図に示すHe-Cdレーザ50では、ガス管51中にHe及びCdが封入されており、更にガス管51の側壁には陽極55及び陰極56が互いに離間して設けられている。ガス管51の内部は250℃以上に加熱され、He及びCdは蒸気化して原子状となる。その状態で、陽極55と陰極56との間に電源57からの電圧を印加することにより、ガス管51中に放電を発生させる。このとき、原子状のCdはHeに衝突し、励起状態となった後、基底状態に戻る。その際に光Laが発生する。発生した光Laは、ガス管51の両端に設けられた一対の鏡52,53の間においてレーザ発振する。一方の鏡52に形成されたレーザ透過口54からその発振光の一部が取り出され、レーザ光Lbとして出力される。なお、下記は紫外光UVの照射条件の一例であるが、これに限られるものではなく、例えば、紫外線の強度と照射時間との積である照射エネルギー密度は、2.4W・s/m以上であってもよい。
波長:325nm
出力:2.7mW
照射時間:90秒
照射スポット径:1mm
照射エネルギー密度:2.4W・s/m
【0025】
上記の紫外光UVの照射により、III族窒化物半導体層12のシート抵抗値が安定する。続いて、工程S4として、図4Cに示すように、III族窒化物半導体層12のシート抵抗値を非接触式の測定方法(例えば渦電流法)により測定する。例えば、基板11を成長炉GRから取り出してから0.2時間以内にシート抵抗値を測定する。具体的には、電磁石を内蔵するプローブPをIII族窒化物半導体層12の表面12aに近づけ、III族窒化物半導体層12を貫通する交流磁界を発生させる。その結果、III族窒化物半導体層12の内部に渦電流が生じ、反磁界が生じる。その反磁界の影響によりプローブP内のコイルに電流が生じるので、その電流の大きさを測定する。これにより、渦電流の大きさを測定することができ、所定の関係式によりIII族窒化物半導体層12のシート抵抗値を算出することができる。なお、シート抵抗値を測定する方法はこれに限られず、他の方法を用いてもよい。
【0026】
以上に説明した、本実施形態の製造方法によって得られる作用効果について述べる。図6は、III族窒化物半導体層12を成長したのちに成長炉GRから基板11を取り出してそのまま放置した場合の、III族窒化物半導体層12のシート抵抗値の時間変化の一例を示すグラフである。図6において、横軸は経過時間(単位:時間)を示し、縦軸は成長炉GRから取り出した直後を100%としたときのシート抵抗値の割合(単位:%)を示す。図6に示すように、成長炉GRから基板11を取り出したのち、時間の経過とともにIII族窒化物半導体層12のシート抵抗値は徐々に低下する。そして、48時間程度が経過すると、シート抵抗値は安定する。このようなシート抵抗値の変化は、III族窒化物半導体層12の表面12aの酸化の程度と関係している。
【0027】
ここで、III族窒化物半導体層12の表面12aの酸化の程度によりシート抵抗値が変化する理由を説明する。図7Aは、シミュレーションにより求めたIII族窒化物半導体層12のポテンシャル概要図(バンド図)である。図7Aにおいて、範囲B1はGaNチャネル層13に対応し、範囲B2はAlGaNバリア層14に対応し、範囲B3はGaNキャップ層15に対応し、範囲B4は表面酸化層(GaOx)に対応する。また、グラフG11は表面12aが酸化する前のポテンシャルを示し、グラフG12は表面12aが十分に酸化した後のポテンシャルを示す。図7Bは、図7AのA部の部分拡大図である。
【0028】
図7AのグラフG12に示すように、表面12aの酸化前(III族窒化物半導体層12の形成直後、グラフG11)と比較して、表面12aの酸化が進むほど(表面酸化膜の厚みが増すほど)、III族窒化物半導体層12の伝導帯バンドポテンシャルは全体的に低下する。そのため、図7Bに示すように、AlGaNバリア層14とGaNチャネル層13との境界における伝導帯バンドポテンシャルの谷が深くなる。その結果、GaNチャネル層13のうちAlGaNバリア層14との界面付近に生じる2次元電子ガスのキャリア密度が増加し、シート抵抗値が低下する。このような理由により、表面12aの酸化が進むほどシート抵抗値が低下する。
【0029】
また、表面12aの酸化に時間を要するのは、次の理由によると考えられる。III族窒化物半導体層12を形成したのちに基板11を成長炉GRの外に取り出すと、表面12aが大気雰囲気に晒され、大気中に含まれる様々な物質(例えば炭化水素、ハロゲン、酸化硫黄、炭化窒素など)が表面12aに物理吸着する。このとき、これらの物質は表面12aのIII族原子(Ga)と結合し、III族原子(Ga)と酸素原子との結合を阻害する。なお、図8A及び図8Bは、表面12a上に存在する負イオンを分析・カウントした結果であり、図8Cは、表面12a上に存在する正イオンを分析・カウントした結果である。図8Aから図8Cにおいて、縦軸はイオンの個数を表し、横軸の数字は原子量または分子量である。これらの物質とIII族原子との結合は主に分子間力によるものと考えられ、III族原子と酸素との共有結合よりも不安定である為、これらの物質は酸素原子と徐々に置き換わる。このような過程を経ることから、表面12aの酸化には長時間を要する。
【0030】
従来の測定方法では、基板11を成長炉GRから取り出したのち、そのまま基板11を大気中に放置して、上記の物質が酸素原子と置き換わるのを待ち、表面12aが十分に酸化したのちシート抵抗値を測定していた。しかし、この方法では表面12aが十分に酸化するまでに長時間を要するので(例えば48時間程度)、生産リードタイムの長時間化を招き、生産効率が低下することとなる。また、シート抵抗値が安定化するまでにシート抵抗値を複数回測定する必要があり、製造工数の増加につながる。
【0031】
この問題に対し、本実施形態では、III族窒化物半導体層12を形成した基板11を成長炉GRから取り出したのち、大気中にIII族窒化物半導体層12の表面12aを晒しつつ、表面12aに紫外光UVを照射する。本発明者らの知見によれば、大気中にIII族窒化物半導体層12の表面12aを晒しつつ表面12aに紫外光UVを照射する場合、大気中に表面12aを晒したまま放置する場合と比較して、表面12aの酸化が格段に促進される。
【0032】
図9Aから図9Dは、紫外光UVの照射によって表面12aの酸化が促進される理由を説明する図である。図9Aは、III族窒化物半導体層12が形成された直後を示す。図9Aには、III族窒化物半導体層12の最上層であるGaNキャップ層15と、GaNキャップ層15の表面(すなわちIII族窒化物半導体層12の表面12a)とが示されている。基板11を成長炉GRから取り出すと、図9Bに示すように、炭化水素、ハロゲン、酸化硫黄、炭化窒素などの様々な物質61が表面12aのIII族原子(この例ではGa原子)60に結合し、III族原子60と酸素原子62との結合を阻害する。そこで、図9Cに示すように表面12aに紫外光UVを照射すると、表面12aが発熱する。各物質61とIII族原子60との結合は、この熱によって解消される。或いは、各物質61が酸化して低密度物質に変化する。これらの作用により、各物質61がIII族窒化物半導体層12から脱離する。すると直ちに、大気中の酸素原子62が表面12aのIII族原子60と結合してIII族原子60が酸化する(図9D)。こうして、表面12aの酸化が促進され、より短い時間でシート抵抗値を安定させることができる。故に、本実施形態によれば、生産リードタイムを短縮し、生産効率を向上させることができる。なお、この後、Gaの表面に絶縁膜を成長することで安定したシート抵抗値の変動を抑制することができる。この絶縁膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)で成長することができる。たとえば、この絶縁膜は、P-CVD、ALD―CVD、熱CVD、LP―CVDの成長方法で形成された窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜、窒化酸化ケイ素膜のいずれかであってもよい。
【0033】
図10は、III族窒化物半導体層12を形成した基板11を成長炉GRから取り出してから48時間が経過した後のシート抵抗値を基準(100%)とする、シート抵抗値の割合を示すグラフである。図10において、グラフG21は、成長炉GRから取り出した直後、紫外光UVを照射する前のシート抵抗値を示す。グラフG22は、紫外光UVを照射した後のシート抵抗値を示す。なお、照射条件は、波長:325nm、出力:2.7mW、照射時間:90秒、照射スポット径:1mm、照射エネルギー密度:2.4W・s/mであった。図10を参照すると、成長炉GRから取り出した直後、紫外光UVを照射する前のシート抵抗値は104%を超えている。これに対し、紫外光UVを照射した後のシート抵抗値は100%に極めて近くなり、48時間経過後(すなわち十分に酸化が進んだ状態)のシート抵抗値とほぼ変わらないことがわかる。この実験結果により、上記の効果が確かめられた。なお、より高エネルギーである中心波長325nm未満の紫外光UVを照射した場合にも、同等以上の効果が得られると考えられる。また、He-Cdレーザ光の波長である441.6nm以下であっても同等の効果が得られると考えられる。
【0034】
また、上記の実験後に、シート抵抗値が安定化した(48時間経過後の)III族窒化物半導体層12のサンプルに対しX線光電子分光法(XPS)による分析を行い、それにより得られたGa3dピークをガウス関数によりフィッティングしたところ、GaO強度IGaOとGaN強度IGaNとの比(IGaO/IGaN)は0.15であった。従って、シート抵抗値を安定化させるためには、表面酸化層(GaO)の(IGaO/IGaN)が0.15以上であることが望ましい。本実施形態の測定方法によれば、III族窒化物半導体層12の酸化の程度(IGaO/IGaN)を短時間で同程度(0.15)以上に促進させることが可能である。
【0035】
前述したように、III族窒化物半導体層12はGaを表面12aに含んでもよい。この場合、表面12aに紫外光UVを照射するとGa原子に酸素原子が結合し、GaOxに変化する。故に、表面12aの酸化が促進され、より短い時間でシート抵抗値を安定させることができる。
【0036】
前述したように、基板11を成長炉GRから取り出してから0.2時間以内にIII族窒化物半導体層12のシート抵抗値を測定してもよい。本実施形態によれば、基板11を成長炉GRから取り出してからこのように極めて短い時間内にシート抵抗値を測定することができ、生産効率の向上に寄与できる。
【0037】
前述したように、紫外光UVの中心波長は325nm以下であってもよい。この場合、紫外光UVの強いエネルギーによって種々の物質61とIII族原子60との結合がより早く解消され、III族窒化物半導体層12の表面12aの酸化をより効果的に促進することができる。また、紫外光は例えばHe-Cdレーザ光であってもよい。この場合、中心波長が、190nm以上441.6nm以下の範囲で紫外光UVの光を照射することができる。このように、紫外光UVが、He-Cdレーザ光の波長である441.6nm以下であっても同等の効果が得られると考えられる。
【0038】
また、上記のシート抵抗値が安定したIII族窒化物半導体層12のシート抵抗値は、例えば、300(Ω/sq.)以上800(Ω/sq.)以下であってもよい。
【0039】
本開示によるエピタキシャル基板の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではGaN系のHEMTの製造に用いられる基板生産物に本開示の方法を適用したが、本開示の方法は、これに限らず様々な用途及び構成のIII族窒化物半導体層を有する基板生産物に適用可能である。また、上記実施形態では紫外光を照射する際にIII族窒化物半導体層を大気雰囲気に晒しているが、酸素を含む雰囲気であれば他の雰囲気に晒してもよい。また、上記実施形態では表面がGaNであるIII族窒化物半導体層に対して紫外光を照射しているが、III族窒化物半導体層の表面はAlGaN、InGaNなど他のIII族窒化物半導体からなってもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 エピタキシャル基板
11 基板
11a 主面
12 III族窒化物半導体層
12a 表面
13 GaNチャネル層
14 AlGaNバリア層
15 GaNキャップ層
50 He-Cdレーザ
51 ガス管
52,53 鏡
54 レーザ透過口
55 陽極
56 陰極
57 電源
60 III族原子
61 物質
62 酸素原子
B1、B2、B3、B4 範囲
GR 成長炉
La 光
Lb レーザ光
P プローブ
UV 紫外光
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図10